記憶を売る本屋 2
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#150 [我輩は匿名である]
「あっ!そこのアメリカかぶれ!」

直人は思わず呼び止める。

“アメリカ”という言葉に足を止め、良介がこっちを見る。

「…誰?君」

ちょっと近寄りながら、良介が首をひねる。

「月城薫の友達だよ!」

「俺そんなに存在感ないか」と思いながら、直人は怒鳴る。

「あぁ、あの負け犬くんの」

「負け犬言うな!」

どこまでもマイペースで、思った事を口にする良介に、直人は何度も声を荒げる。

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#151 [我輩は匿名である]
「お前、あんまり薫の邪魔すんなよな!」

「邪魔してるのはあっちだろ!」

良介もムスッとして言い返す。

直人は腰に右手をあてて、じーっと良介を見る。

「……お前さぁ、香月のどこが好きなわけ?」

直人はそもそも、そこから聞きたかった。

「僕?響子ちゃんの全てに決まってるじゃないか!」

「はぁ!?全てが好きとか、適当に言ってんだろ!」

「適当?失礼な!君は人を好きになった事無いのか?」

「気持ち悪いから『君』っていうな!俺は水無月直人!み・な・づ・き・な・お・と!」

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#152 [我輩は匿名である]
直人は鳥肌が立ったのか、上腕をさすりながら名乗る。

「水無月?6月の事か!」

「ま、まぁそうだよ、6月の水無月」

「ふむ。じゃあ水無月、君は人を好きになった事は…」

「だから!『君』ゆーな!気持ち悪いから!」

「はっはっは!水無月は面白いな。天然か」

「天然はお前だろアホぉ!!」

直人は勢いで立ち上がる。

ここまでくれば、日本語の意味がわかっているのか不安になってくる。

⏰:10/05/06 20:18 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#153 [我輩は匿名である]
「俺だってなぁ!好きな奴ぐらいいるんだよ!」

直人はそう言い切った。

「じゃあ水無月は、その子のどこが好きなんだ?」

「俺は…」

勢いで話を進めたため、少し悩む。

しかし、自然と頭に飛鳥が思い浮かんだ。

「…俺は、特に、頑張り屋な所、かな」

「頑張り屋?」

「そう、頑張り屋なんだ。…ある人を見返す為に、今一生懸命頑張ってるんだ。

俺はそこが好きなんだ、多分。だから、心の底から応援してるんだ」

⏰:10/05/06 20:18 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#154 [我輩は匿名である]
言ってしまった。直人は言ってから、とても恥ずかしくなった。

本当なのかわからなくて、何だか飛鳥に申し訳なく思う。

「…………それって…」

良介は何故か、ものすごく気持ち悪そうな顔で直人を見る。

「な、何だよその目は」

「だってぇ…水無月の好きな人って…」

直人は「バレてるのかな」と、少しドキドキする。

「月城だろ…?」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#155 [我輩は匿名である]
「俺にそんな趣味ないわぁー!!」

直人は今日1番の大声を出した。

おまけに、その声に重なって、どこかから薫の声もした。

「だって、見返すって僕の事だろ?」

そう言っている良介の後ろを見てみると、柱の影から薫が出て来ている。

「薫!」

「月城!盗み聞きかっ!けしからん奴だ!」

良介はむすっと腕を組んで薫を睨む。

「あのなぁ!俺が好きなのは女だよ!ちゃんとした女!わかったか!?」

「あぁ、どうでも良くなった」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#156 [我輩は匿名である]
「何だとー!?」

良介はどうでもよさそうに適当にあしらって、薫と向き合う。

「それより月城、お前は響子ちゃんのどこが好きなんだ?」

「はぁ…?」

いつも唐突に物を聞いてくる良介に、薫は首をかしげる。

「俺は…そうだな、笑った顔が好きだな」

薫は小さく笑って答えた。

直人も良介も、黙って薫を見つめる。

「…な、何だよ。俺変な事言ったか?」

「いや、なんか意外な答えだったなぁ…と思って」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#157 [我輩は匿名である]
「……“全部”って答えは、おかしいのか?」

良介は納得できなそうに考える。

「…まぁいいんじゃないか?どこが好きかなんて、人それぞれだろ」

薫は少し面倒くさそうに言ってやる。

「そうか!そうだな!お前もたまには良い事言うな!でも響子ちゃんは俺がもらうからな!」

良介はそう言って、笑いながら帰っていった。

嵐が去って、2人は大きくため息を吐く。

まぁ、直人が呼び止めたのが悪かったのだが。

「…つーか、お前いつからいたんだよ?」

⏰:10/05/06 20:20 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#158 [我輩は匿名である]
「『俺だって好きな女ぐらいいるんだよ!』みたいなのが聞こえてから。

なんか出ていくタイミングが掴めなくて、待ってたんだ」

薫は少し呆れ笑いする。

「何だよ…」

直人はだらんとうなだれる。

「さ、帰るか」

「ん」

2人はそう言って帰りはじめた。

⏰:10/05/06 20:20 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#159 [我輩は匿名である]
「あのアメリカン、…うぜぇけど、なんか憎めない奴だよな。…うぜぇけど」

階段を下りながら、直人は言った。

「何で2回言ったんだ」

「とりあえずうぜぇから」

直人は良介とのやり取りを思い出して、顔を引きつらせて笑う。

そう言われて、薫も「確かに…」と頷く。

「…そうなんだよなぁ…。根本から嫌な奴なら、ぶん殴ってでも黙らせるのに。

…あいつ相手だと、そんな気も失せてくるんだよなぁ…」

薫は不満そうに言う。

「…で、お前どうするんだよ?結局点数バトル続けんの?」

⏰:10/05/06 20:21 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#160 [我輩は匿名である]
「……そう、なりそうだな…。

この間の金曜日に、響子と神崎が釘を刺そうとしたらしいけど、ダメだったらしいし」

「…何で神崎まで?」

直人に言われて、薫は内心「しまった」とドキッとした。

『昨日ね、飛鳥ちゃんとお茶しに行ったの。

それで、一昨日その約束してたら、桐生くんが割り込んできたから、一言言おうと思ったんだけど…。

ダメだった。あの子いつからあんなマイペースになったんだろ…』

昨日の日曜日、家に遊びに来た響子が薫に話してくれた。

その時に、飛鳥と奏子が直人に気があるらしい事も聞いたのだった。

⏰:10/05/06 20:21 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#161 [我輩は匿名である]
「(…危ねぇ…口滑らす所だった…)」

例え「遊びに行った」とだけ言っても、「安斎は?」と聞かれたらアウトだ。

「薫?」

靴箱まで来て、白と黒のスニーカーを持つ手を止めて考え込んでいた薫に、直人が声をかける。

「え?あぁ…何か、たまたま神崎がクラスに遊びに来てたからって言ってたけど」

薫は適当に誤魔化す。

「あぁ、あいつ、いつも4組で弁当食ってるもんな」

単純な直人は、薫の適当な話を鵜呑みにして、赤と黒のスニーカーに履き替える。

「(こいつ…素直というか、単純というか…)」

薫は羨ましそうな、呆れたような眼差しで直人を見る。

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#162 [我輩は匿名である]
「…さっき言ってたの、やっぱり神崎の事なのか?」
薫も靴を履き替えながら、直人に尋ねた。


「…んー、なんか、そういう話してたら、神崎が思い浮かんでさ」

「…そうか」

薫は口元に指をあてながら考える。

「…でもな、本当に好きなのかどうか、わかんねぇんだよ、まだ」

直人は少し不安そうに言う。

「確かに、あいつの頑張り屋な所は好きだし、応援してやりたいっていつも思ってるけど。

だって俺、まだそんな…誰か好きになった事ないしさぁ…」

直人は歩きながら、ガシガシと頭を掻く。

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#163 [我輩は匿名である]
「…まぁ、最初はそんなもんだろ」

「お前もそうだったのか?てか、お前の場合いつの話だよ」

「もう50年近く前のことだな」

薫は笑いながら答える。


「初恋はそうだったな。なーか気になるっていうか…」

「そうそう、そんな感じ!……ん?初恋『は』?じゃあ前の香月には?」

「一目惚れだよ、俺の」

薫はきっぱり断言した。

「そうだったのか!?どこに惚れたんだよ?」

「顔と身長」

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#164 [我輩は匿名である]
「身長…?」

直人は「何で?」と首をかしげる。

「何かな、可愛かったんだよ、ちっこくて。

俺175、6pあったけど、今日子は150pなかったぐらい?

よしよししやすい身長だったな」

珍しく、薫の顔が全体的に緩んでいる。

「…お前、惚気だすと止まらなくなるよな」

「たまには惚気させてくれよ」

「まぁいいけどよ…」

⏰:10/05/06 20:23 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#165 [我輩は匿名である]
「彼女が出来たら、直人も絶対惚気ると思うぞ」

そう言われても、自分が惚気る姿なんて全く想像出来ない。

直人は「そうかなぁ…?」と腕を組んだ。

⏰:10/05/06 20:23 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#166 [ま]
>>100-200

⏰:10/05/07 01:45 📱:P04A 🆔:6S1BPj46


#167 [我輩は匿名である]
ホームルームの時間。

「今日は球技大会の競技を決定したいと思いまーす」

体育委員達が前に出て仕切っている。

「こんな時期に球技大会なんかあるのか!」

体育系の直人は、早くもテンションが上がる。

女子と男子が、それぞれ教室の前後に分かれていく。

「こんな時期に球技大会なんかするんだな」

薫も同じように思っていたらしい。

壁にもたれて腕を組んでいる。

「あれか?スポーツの秋だからか?

運動会は何故か1学期だったしな」

⏰:10/05/08 22:43 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#168 [我輩は匿名である]
言いながら、直人は楽しそうに笑っている。

「薫、お前何出る?」

直人は早速薫に尋ねる。

壁にもたれながら、薫は首をひねる。

「…何があるんだっけ?」

「えっとなぁ」

黒板に貼られた紙を見ると、男子は野球とドッヂボールと書かれている。

「野球だな、俺は」

「やっぱそう来るか。うーん…」

⏰:10/05/08 22:44 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#169 [我輩は匿名である]
直人はさらに楽しそうに声を上げ、自分も腕を組んで考える。

「…俺、ドッヂがいい!」

「だろうな、お前野球下手だし」

「うるせぇな!」

直人は声を荒げて反論する。

「…お前、昔から野球好きだったよな。何でか知らねぇけど」

「前世の名残じゃないか?」

「名残?」

⏰:10/05/08 22:44 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#170 [我輩は匿名である]
「霜月優也は小学校から高校まで野球部だった。

だからまぁ、生まれ変わりの俺が受け継いだんじゃないか?」

「へぇ…」

直人は薫を見ながら頷く。

「…要は…何もなかったなぁ…」

「そう…」

薫が返事をし終わる前に、直人が「あ!」と声を上げた。

「何だよ」

「お前、またバトルしようぜ、とか言われるんじゃね?」

⏰:10/05/08 22:45 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#171 [我輩は匿名である]
「………あぁ…」

薫は鬱陶しそうに壁にへばりつく。

「大丈夫だって!俺が手伝ってやるから!」

直人は元気良く笑う。

薫は「あぁ…」と相づちは打ったものの、どこか浮かない表情で考え込み始めた。

⏰:10/05/08 22:45 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#172 [我輩は匿名である]
一方、女子たちも順調に事を運んでいた。

女子は男子と違い、ハンドボールとドッヂボールとなっている。

「(…何でバスケでもバレーでもなくて、ドッヂボールなんだろ…?痛々しい…)」

飛鳥は紙を見ながら首をひねる。

「神崎さんは、何がいい?」

女子の体育委員が飛鳥に話し掛ける。

「…私は…」

正直どっちも嫌なのだが、決めなければ話が進まない。

ハンドボールはまだ暑い屋外で走り回らないといけない。

ドッヂボールは走り回らなくていいが、当てられると痛い。

⏰:10/05/10 20:01 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#173 [我輩は匿名である]
運動があまり好きではない飛鳥にとっては、究極の選択だった。

「………………ドッ、ヂ、ボール、かな」

しばらく迷った末、飛鳥は無理やりドッヂボールと答えた。

日焼けしないだけマシだと思ったらしい。

「りょーかい♪」

体育委員の女子はにっこり笑って、次々とみんなに聞いていく。

飛鳥は大きくため息を吐く。

「(……あいつは、何出るんだろうな…?)」

飛鳥はそんな事を考えながら、薫と話している直人の背中を見た。

⏰:10/05/10 20:01 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#174 [我輩は匿名である]
帰り道。久しぶりに5人一緒に帰る。

「みんな何に出る事になったー?」

奏子が4人に尋ねる。

「俺ドッヂボール!」

「あー、何かそんな感じするね」

奏子が笑っている横で、飛鳥ははぁっとため息をつく。

「神崎、お前は?」

「…私もドッヂボール」

「いいじゃん、ドッヂボール。何でそんなテンション低いんだよ?」

⏰:10/05/10 20:02 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#175 [我輩は匿名である]
「スポーツあんまり好きじゃないんだよ」

飛鳥は浮かない顔で答えた。

「ま、野球に比べりゃ簡単だし、楽しめって♪」

「お前がボールをバットに当てられないだけだろ」

『面白くない』と胸を張る直人に、薫は呆れて言い返す。

「薫は?やっぱり野球?」

響子が薫に尋ねる。

「あぁ、野球にした」

「薫らしいね」

「俺の将来の夢は、息子に野球教える事だからな」

⏰:10/05/10 21:10 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#176 [我輩は匿名である]
2人が穏やかな表情で笑い合うのを、直人達は黙って見つめる。

「それ息子生まれなかったら終わりじゃね?」

「うるさいな、生むんだよ、息子」

薫は横目で、ニヤニヤ笑っている直人を睨む。

「響子は?」

「私は飛鳥と同じドッヂボール」

「えー、ハンドボール選んだの私だけー!?」

後悔したように奏子が声を上げる。

「暑いのによくやるよ」とでも言いたそうに、飛鳥が奏子を見る。

⏰:10/05/10 21:11 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#177 [我輩は匿名である]
「…ケガするなよ」

「大丈夫よ、外野だから」

心配している薫に、響子は明るく笑い返す。

「ねぇ、私も心配してよ」

2人の様子を見て、何故か奏子は直人の肩をたたく。

飛鳥は少しムッとしながら様子をうかがう。

「はぁ?何で俺がお前の心配しなきゃなんねぇんだよ」

直人は嫌そうに手を振り払う。

「ちぇっ、つまんないの」

奏子はふてくされたようにそっぽを向く。

飛鳥は何故か、ホッと胸を撫で下ろす。

⏰:10/05/10 21:11 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#178 [我輩は匿名である]
「…ん…?」

薫はたまたま、前の曲がり角から良介が出てくるのを見つけた。

「どうかした?」

「…あれ、アメリカかぶれじゃないか?」

薫が指差す先を、響子たちも見てみる。

「本当だ」

「あいつ、球技大会ではバトル申し込んで来ねぇのかな?」

「忘れてんじゃない?」

直人と奏子は、良介の後ろ姿を見ながら話し合う。

⏰:10/05/10 21:12 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#179 [我輩は匿名である]
「……申し込んで来ないと思うよ」

響子が少し呆れたように言う。

「何で?」

「桐生くん、運動音痴だから」

「…え、マジで?」

響子からの意外な話に、4人ともきょとんとする。

そして、直人がニヤリと含み笑いをした。

「じゃあ、こっちから仕掛けてやればいいんじゃね?」

「…はぁ?」

薫は「何で」と顔をしかめる。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#180 [我輩は匿名である]
「だってよ、これで勝っとけば1勝1敗だろ?あいつもでけぇ顔できなくなるぞ?」

「まぁそうだけど…」

むしろ彼の事はどうでもいい薫は、乗り気じゃなさそうに返事をする。

「よし、じゃあちょっくら言って来るわ!」

「えっ、ちょ…」

薫や響子が止める間もなく、直人は良介の所へ走っていってしまった。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#181 [我輩は匿名である]
「おい!アメリカン!」

直人は良介の背中を叩く。

「……あぁ、君か」

「君って言うなって言っただろ」

直人は嫌そうに言い返す。
「それよりお前、球技大会では『バトルしようぜ』とか言ってこないのかよ?」

直人はニヤニヤしながら尋ねる。

それを聞いて、良介はギョッとする。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#182 [我輩は匿名である]
「い、いや…あんまり僕が勝ちすぎると、月城が可哀想だから…」

「そんな気遣いいらねぇって」

直人は良介と肩を組む。

「それともあれか?勝つ自信ないとか?」

その一言に、良介は顔をこわばらせる。

「まっさかなぁー?あんだけ薫を見下してたんだから、運動とか出来ないわけ、ないよなぁ〜?」

「あっ、ああ当たり前だろう!!」

良介は意地を張ったのか、言い返してきた。

「受けてたってやるさ!」

「直人、やめとけ」

⏰:10/05/14 11:49 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#183 [我輩は匿名である]
2人の様子を見兼ねたのか、薫がやってきた。

「な、何だよ?」

「おい桐生、お前が出るのは野球か?ドッヂボールか?」

薫は直人の問いには答えず、良介に尋ねる。

「ド、ドッヂボールだけど…」

「え…」

良介の答えに、直人はきょとんとする。

「…競技が違うのに、どうやって戦うんだ?」

薫は不機嫌そうに直人を睨む。

⏰:10/05/14 11:49 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#184 [我輩は匿名である]
「い、いいのかよ?僕を見返したいんじゃないのか?」

良介は少し不思議そうに言ってくる。

「見返すも何も、どうやって勝負するんだって言ってるんだ。

それに、別に弱点突いて勝ったって、面白くないだろ」

薫はあっさり答える。

「それに、例えそれで勝っても、お前納得しないだろ。

そうなったら余計にめんどくさいから、別にしなくていい。

だからさっさと帰れ」

薫は良介にそれだけ言い、背を向ける。

良介は何か言いたそうだったが、そのまま帰っていった。

⏰:10/05/14 12:41 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#185 [我輩は匿名である]
それに見向きもせず、薫は直人に向き合う。

「お前もこんな事に頭を働かすな」

「だってよー」

直人は小さい子どものように頬を膨らませる。

「いいじゃん別に、ねぇ?」

奏子も直人の肩を持つ。

「お前には関係ないだろ」

「そんな言い方しなくていいじゃん」

「ちょっと、やめなよ2人とも」

ピリピリした空気になり始めた2人を、響子が間に入って止める。

⏰:10/05/14 12:41 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#186 [我輩は匿名である]
「だって…」

「奏子、確かに私達関係ないし…」

飛鳥も困ったように奏子に声をかける。

しかし、奏子はムッとしたように飛鳥をにらみ、走って帰ってしまった。

「(…なんか、睨まれた…?)」

飛鳥は少し不安になる。

「…そんなに気を遣わなくても、あいつの事は気にしてないから」

薫はだいぶイライラしているのか、少しきつく直人に言う。

⏰:10/05/14 12:42 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#187 [我輩は匿名である]
「…悪かったよ」

直人はうつむいたまま謝る。

「…もういいよ」

薫はそれだけ言って、黙って家に向かって歩きだす。

「…ごめんね、2人とも」

代わりに響子が直人達に謝って、薫と帰っていった。

直人と一緒に残された飛鳥は、気まずくなって、黙って直人を見る。

「…俺、そんな変な事したのかな?」

いまいち納得できていないのか、直人は首を傾げる。

⏰:10/05/14 22:09 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#188 [我輩は匿名である]
「…他の人に突っ込まれたくない事なんじゃない?月城にとっては」

飛鳥は静かに直人に言う。

「自分でどうにかしたいっていうか、しなきゃいけないっていうか…。

あいつ結構頑固なとこありそうだし、この間負けた悔しさもあるだろうし…。

アレも鬱陶しい性格してるから、余計イライラしてるんじゃない?」

まるで薫の気持ちを見透かしているかのような飛鳥を、直人はぽかんとして見つめる。

「…よくわかるな、そこまで」

「予想だけどね。でも…何となくわかる気がして」

飛鳥は少し苦笑する。

⏰:10/05/14 22:10 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#189 [我輩は匿名である]
「私でも、親の事とかで首突っ込まれすぎたら腹立つだろうし…」

「えっ?じゃあ俺…」

「いや、あんたは元気付けたりしてくれるだけだから怒ったりしないよ。

相談乗ってくれたりするから、むしろ感謝してるっていうか」

飛鳥は素直に直人に言う。

直人は少し照れて、顔を背ける。

⏰:10/05/14 22:10 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#190 [我輩は匿名である]
「……難しいね、友達って」

さっきの奏子の顔を思い出して、飛鳥はぼそっと呟く。

「…お前も何かあったのか?」

「ん?…いや…」

飛鳥は首を振って、「帰ろ」と言って歩きだす。

直人は飛鳥の様子を気にしながら、一緒に帰っていった。

⏰:10/05/14 22:11 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#191 [我輩は匿名である]
「響子さぁ…」

何日か経った放課後、奏子は響子にこっそりと尋ねた。

「飛鳥と水無月って、どういう関係だったか知ってる?」

「…えっ?」

全く予想外の質問に、響子はドキッとして、鉛筆を回す手を止める。

「ど…どういう事?」

「飛鳥も本持ってる事、響子知ってたでしょ」

奏子は真剣な顔で問いただす。

響子は少しの間黙る。

⏰:10/05/15 13:11 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#192 [我輩は匿名である]
「知ってる」と言っているようなものだが、どう言えば良いのかわからない。

奏子もまだ、響子の言葉を待っている。

「……えぇ知ってたわ」

響子は白状した。

「でも、内容までは知らない」

「…ホントに?」

「本当」

疑ってくる奏子に、響子は断言する。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#193 [我輩は匿名である]
「私たちは、自分の本の中の話しかわからない。

まぁ私は、正確には本をもらった者じゃないけどね。

……何でそんな事聞きたいの?」

響子は小さく含み笑いして聞き返す。

今度は奏子が、目を逸らして口を閉ざす。

「…水無月くんの事、気になってる?」

そう聞かれて、奏子はしぶしぶ頷く。

「…そっか」

響子はそれだけ答えた。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#194 [我輩は匿名である]
「…響子達見てたらさ、私、適わないのかなぁ…とか思っちゃうんだよね」

奏子は暗い顔で言う。

響子は黙って、彼女の話に耳を傾ける。

「本をもらった子は、みんな深いつながりがあるけど、…私には何もない。

多分、飛鳥も水無月の事好きだと思うんだ。

だから、水無月は飛鳥を選ぶんじゃないか…って思ってさ」

奏子の話に、響子は何も言えなかった。

「そんな事ないよ」と言えば、良介の背中を押す事にもなりうる。

今近くに良介はいないが、響子は机に肘をついて考える。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#195 [我輩は匿名である]
「…難しいわね、こういう事を考えだすと」

奏子よりも深刻そうな顔をして、響子はまた鉛筆を回す。

「なーにを考えているんだい?」

響子の背後で声がした。

「誰もあんたの話してないから。どっか行ってくれる?」

響子の後ろにいる良介に、奏子が眉間にしわを寄せて釘を刺す。

しかし、良介は奏子の相手をする気はない。

⏰:10/05/15 18:54 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#196 [我輩は匿名である]
「あのCool Boyの相手をするのが難しいって?

いっその事、そろそろ僕に乗り換えたらどうだい?」

「遠慮しておくわ」

「どうやったらそんな風に聞こえるのか教えてくんない?このクレイジー野郎」

ノリノリな良介に、響子も奏子も冷めた目で言い返す。

「あんたは多分、あのクールボーイには勝てないと思うよ?」

「Why?つーか、君発音下手だね」

「ほっとけよ」

奏子は真顔で言い返す。

⏰:10/05/15 18:54 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#197 [我輩は匿名である]
「あんた、本の都市伝説聞いたことある?」

「都市伝説?あの男、そんなFantasy信じてるのかい?

バカだなぁー。だから僕に勝てな…」

良介が相変わらず自意識過剰な発言を始めた時、

響子の手元から『バキッ』という変な音がした。

見ると、さっきまで彼女の手の中で回っていた鉛筆が、真っ二つに折れている。

「きょ…」

「響子ちゃん…?」

目を疑っている2人をよそに、響子は折れた鉛筆を見下ろす。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#198 [我輩は匿名である]
「……都市伝説、私も信じてるんだけど」

響子は満面の笑みで良介の方を向く。

「えっ?そうなのかい?どんな話?」

良介はコロッと態度を変える。

「(何で今の怖い笑顔を無視できるんだ…?)」

奏子は呆然と良介を見る。

「言わない。話すと長くなるから」

響子はフンと顔を背ける。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#199 [我輩は匿名である]
「えっ!?気になるじゃないか!教えてくれよ!」

良介は顔の前で手を合わせて響子に頼み込む。

「…薫へのライバル心を改めてくれるなら、教えてあげる」

響子は少し挑発するような笑みで答える。

「………じゃあいいや」

良介はあっさり諦めて、何故か早足で教室を出ていった。

「……何なの?あいつ」

奏子は鬱陶しそうにため息をつく。

しかし、響子は黙ったまま、ドアの方を見つめていた。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#200 [我輩は匿名である]
「おい、月城」

良介は薫の目の前で仁王立ちをする。

眼鏡を拭いていた薫は、早くも迷惑そうな顔でそれを見上げる。

「なんだ?お前、目悪いのか?僕は裸眼だぞ」

「だから何だ」

威張る良介に、薫は短く言い返す。

「…また来てるな、あいつ」

「懲りないね…」

直人と飛鳥は窓際で、2人の様子を見つめる。

⏰:10/05/16 12:35 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#201 [我輩は匿名である]
「いや、目の事は今はどうでもいいんだ!」

「(俺はお前の存在がどうでもいい…)」

大きく首を振っている良介に、薫はため息を吐いて目を逸らす。

「今この辺で、どんな都市伝説がBoomなんだ!?」

「…は…?」

良介に迫られ、薫は首をひねる。

「お前と響子ちゃんがハマっているっていう都市伝説だよ!

響子ちゃんは全く教えてくれないんだ!」

良介はショックを受けた素振りを見せる。

目の前に居座られても目障りな為、薫は口を開いた。

⏰:10/05/16 12:36 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#202 [我輩は匿名である]
「…大きなリュックサックを背負った男が、ある本を『読め』と押しつけてくる。

その本を読み終えると、ほとんどの奴は死んだり、行方不明になったりするって話だ」

薫は要点だけを拾って、簡単に説明した。

「…何で本を読んだだけで死ぬんだ?」

「内容に問題があるんだよ」

薫は眼鏡の汚れを見ながら答える。

「本の中身は、前世の自分の世界。

それも、自分の死ぬところまで見届けなければならない。

…過去の自分の記憶を取り戻せば、精神的に大きなショックを受ける。

そして、自分に対して絶望を感じる者は死を選び、恨む相手がいる者は殺しに行く」

⏰:10/05/16 12:36 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#203 [我輩は匿名である]
「…何なんだ…それは…」

良介は珍しく、真剣に話を聞いている。

「…まぁ、たまに過去の自分の悲劇に打ち勝つ者もいるけどな」

薫は最後に、それだけ付け足した。

「…なかなか興味深いな」

良介は腕を組んで言う。

「要するに、前世の本、って事か。…本当なのか?それは」

「それが原因で人を殺した男が、何ヵ月か前に捕まった。まんざら嘘でもないだろ」

眼鏡をかけ、薫は座ったまま良介を見上げる。

「まぁ本をもらったおかげで、物事が良い方に傾く奴もいるけどな。

今まで見えなかった物が、見えてきたりする奴も」

⏰:10/05/16 12:36 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#204 [我輩は匿名である]
「…そうなのか?」

「ほんの一部の話だ」

薫は小さく笑って、汚れのとれた眼鏡を外してケースに入れる。

「……そういえばさ」

薫達の様子を見ていた飛鳥が、ふと直人の方を向いた。

「ん?」

「あの自称・本屋の男、『代金は前世の奴からもらってる』って言ってたけど…

何の事だったんだろうね?」

飛鳥は首をかしげるが、直人はきょとんとしている。

「…そんな事言ってたっけ?」

⏰:10/05/16 12:37 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#205 [我輩は匿名である]
「忘れたの?まぁ気にならないっちゃ気にならないけど…。

私はちょっと気になってたんだ」

「まぁ…代金ってぐらいだし、金なんじゃねーの?」

直人はあまり考えずに返事をする。

「それじゃおかしい気がするんだ。

だって、私や要は高校生で、月城はサラリーマンだったし、響子も大人だった。

でも、私達みんな本をもらって、同じように前世を思い出した。

本当にお金が代金なら、月城と私達、どう考えても差があるはずでしょ?

私なんか、お小遣いとかほとんどもらってなかったんだから、お金なんてなかった。

だから…お金が代償じゃない気が…」

⏰:10/05/16 12:37 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#206 [我輩は匿名である]
「……お前、たまに難しい話するよな」

「意味わかってる?」

「半分ぐらい…」

頭を抱えてうなだれる直人に、飛鳥は後ろの黒板に何かを書き始めた。

「霜月優也というサラリーマンがいました。

彼は愛する妻の為に、汗水流して働いていました」

そんな話をしながら、飛鳥は黒板に、棒人間を2つ書く。

「で、こっちには長月要と石川晶という高校生がいました。

この2人は、ほとんどお金を持っていませんでした」

飛鳥は少し離れたところに、もう2つ棒人間を書く。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#207 [我輩は匿名である]
直人は近寄り、それを見つめる。

「ある時、この4人は死にました」

「…展開早いな」

「そこはまぁ…。ここから仮説だけど…。

4人は『生まれ変わりたかったら、100万出せ』とおっさんに言われました」

「払えるわけねぇだろ!薫はともかく、俺高校生だぞ!?」

直人は思わず声を荒げる。

「そういう事だよ」

飛鳥は若干呆れたようにチョークを置く。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#208 [我輩は匿名である]
「同じ条件なら、同じ程の代償がないといけない。だからきっと、お金じゃない。

お金なら必ず、月城と私たちの間に差が出来るはずだからね。

だとしたら、私達はみんな、何を渡したんだろうって思って」

「…よくそんな事まで考えたな。そんな事サッパリだったぞ」

直人は感心したように頷く。

「俺は覚えてるぞ」

2人の所に、薫がやって来た。

「あいつは?」

「適当に追い返した」

見ると、もう教室内に良介の姿はない。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#209 [我輩は匿名である]
「…それより、結局代金って何だったの?」

飛鳥は薫に尋ねる。

薫はチョークを手に取り、1人の棒人間の所に書き加える。

「“俺”は、ガンになるまでは風邪1つ引いたことがなかった。

大きな怪我をした事もない。言ってみれば、健康そのものだった」

薫は棒人間の口元に棒を1本加え、そこから緩やかな線を2本引っ張る。

煙草を吸っているように見える。

「…死んでから、“俺”は真っ白い世界で、ある女と会った。

長い銀髪をなびかせた、綺麗な女性だった…」

薫はその時の事を思い出しながら、4人の棒人間の上に、1人の女性の絵を描いた。

⏰:10/05/16 12:39 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#210 [我輩は匿名である]
優也が目を覚ました時、目の前には1人の女性がいた。

ドレスのような真っ白い服に身を包み、穏やかにたたずんでいる銀髪の女性。

「…あなたは…?」

優也は静かに尋ねる。

女性はゆっくりと、口を開いた。

「霜月優也…肺がんに伴う呼吸不全により死去…享年27歳」

女性はそれだけ言って、1度口を閉じた。

優也は眉間にしわを寄せ、女性を見つめる。

「…何故僕の事を?」

⏰:10/05/17 09:20 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#211 [我輩は匿名である]
「…あなたは、生まれ変わりたいと思いますか?」

女性は優也の質問には答えず、逆に問い掛けてくる。

「生まれ変わる…?そんな事…」

「出来ますよ。…それなりの代償を払っていただければ」

「代償…」

優也はその言葉を繰り返す。

「………でも…僕には“代償”に出来る程の物はありません」

少し考えて、優也は弱々しい笑みを見せる。

⏰:10/05/17 09:21 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#212 [我輩は匿名である]
「僕は…自分の一言で、僕のたった一言のせいで妻を死に追いやってしまった…。

大事な人も守れないような男に、そんな資格はありませんよ」

優也の言葉に、しばらく女性は口を閉じていた。

「……その奥様は、あなたをずっと待っていますよ」

女性ははっきりとそう言った。

いつの間にか下向いていた頭を、優也はハッと上げる。

「…今日子が…?」

女性は頷く。

「彼女はもう1度、あなたと会う事を強く望んでいます。あなたとの約束を果たすために」

⏰:10/05/17 09:21 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#213 [我輩は匿名である]
優也は何も言わず、うつむく。

「(今日子…こんな俺でも、まだ傍にいてくれるのか…?)」

今日子を思いながらぎゅっと、体の横で両手を握り締める。

「……僕は…何を差し出せば良いんですか?」

しばらく考えて、優也は顔を上げる。

そう言った彼の瞳に、迷いはなかった。

女性はそれを見て、また少し笑みを浮かべる。

「……では、あなたが自慢に思っている事は何ですか?」

そう聞き返されて、優也は1度目を逸らして考え込む。

⏰:10/05/17 09:22 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#214 [我輩は匿名である]
「……ガンになるまで、1度も病気も怪我もしなかった事、かな?」

「ふふ…そのようですね」

女性はまるで、何もかも分かっているかのように答える。

「…あなたはとても真っ直ぐで、人を恨む事も憎む事もほとんどしない。

私は、あなたのその汚れのない心が欲しい」

女性は言いながら、優也の胸部を指差した。

「(だったら最初からそい言えば良いのに)」

優也は真顔で思った。

⏰:10/05/17 09:23 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#215 [我輩は匿名である]
「…いいですよ、何を失っても」

フッと小さく笑って、優也が答える。

「今日子ともう1度会うためなら、僕はどうなろうと構いません。

病気で何度死にかけようが孤独になろうが、今日子さえいてくれればそれでいい。

彼女の為なら…」

優也は話ながら、両手を大きく広げてニヤリと笑う。

「どんな醜い人間にでもなりましょう」

彼の答えに、女性も同じように笑い返した。

⏰:10/05/17 09:24 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#216 [我輩は匿名である]
「……………っていうやり取りがあって」

薫はチョークでいろいろ描き足す。

直人と飛鳥はそれをまじまじと見つめる。

「…だからお前、毎年インフルエンザかかるんだな」

「つーか、あんた絵下手だね」

2人は声をそろえて薫に言う。

「絵なんか上手くなくても生きていけるから良いんだ」

薫はムッとしたように飛鳥に言い返す。

「つまりその“代償”って、人によって違うかもしれないって事か」

飛鳥はまた腕を組む。

⏰:10/05/20 22:46 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#217 [我輩は匿名である]
「多分な。あの人が誰なのかわからなかったけど…。

ただ、響子は看護師としての知識を全て無くしてるから、それが代償だったんだろう」

「ふぅん…」

「じゃあ俺、何取られたんだろ?」

直人もまた考える。

⏰:10/05/20 22:47 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#218 [我輩は匿名である]
「薫ー帰ろー」

考えたり、黒板を消したりしていると、響子と奏子がやって来た。

「あぁ、ちょっと待って」

「俺たちも帰るか」

「うん」

直人と飛鳥も鞄を肩に掛け、薫と共に教室を出る。

「何の話してたの?」

奏子が3人に尋ねる。

「あぁ、本の事でいろいろな」

直人がポケットに手を入れて答える。

⏰:10/05/20 22:47 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#219 [我輩は匿名である]
奏子は不満そうに「いろいろって?」と聞き直す。

「あ?んー…」

どう言えばいいのかわからず、直人は飛鳥に目をやる。

「なぁ、何だっけ?」

「……何で私に聞くの」

本の所持者だった事を奏子に話していない飛鳥は、逃げるように目を逸らす。

「お前から言い出しただろ?“代金”って何だったんだろうって」

そういう事には全く気が利かない直人は、怪訝そうに言い返す。

それを黙って見ていた奏子が口を開いた。

⏰:10/05/20 22:48 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#220 [我輩は匿名である]
「飛鳥、本の事に詳しいの?」

「え…」

ドキッとして、飛鳥は奏子を見る。

意外にも、奏子の表情は真剣そうで、飛鳥は再び目を逸らした。

「この間言っただろ、神崎も本もらったって…」

何も知らない直人は、ますます不思議そうに奏子に話す。

その直後、飛鳥は直人達には見えないように顔を背け、眉間にしわを寄せた。

「やっぱりそうだったんだぁ!」

そうとは知らず、奏子は驚いたように手をパチンとたたいた。

⏰:10/05/20 22:48 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#221 [我輩は匿名である]
響子は困ったように、薫と目を合わせる。

「何だぁ、何で言ってくれなかったの?

まぁ、何となくそうじゃないかなぁとは思ってたんだけどね」

奏子はポンと、飛鳥の肩に手を置く。

しかし、飛鳥は戸惑い、目を合わそうとしない。

「飛鳥の前世って、どんな感じだったの?すごい気になる!」

奏子は目を輝かせて食い付いてくる。

「どうかしたのか?」

直人は、急におとなしくなった飛鳥の様子が気になって、声をかける。

⏰:10/05/20 22:49 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#222 [我輩は匿名である]
「…ごめん、頭痛いから先に帰る」

飛鳥は苦笑しながら言って、そそくさと走って帰っていってしまった。

直人はわけがわからず、「何だ?」と首をかしげる。

「…大丈夫かな?」

響子が心配する振りをしながら、奏子に声をかける。

奏子は何か考えるような顔で、「うん…」とだけ返事をする。

すると、ポケットに入れていた直人の携帯電話が震えだした。

⏰:10/05/20 22:49 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#223 [我輩は匿名である]
『安斎の前で、神崎の本の事には触れるな』

それだけ書かれた、薫からのメールだった。

「…はぁ?」

直人は思わず、斜め後ろにいる薫に目を向ける。

奏子と響子も、どうしたのかと直人を見る。

薫はその状況を真顔で見回した後、「あ」と声を上げた。

「そういえば、ちょっと直人について来てほしい所があるんだった」

「え?何だよいきなり。お前さっきから…」

「じゃあ、私達先に帰るね」

薫が考えている事が何となくわかったのか、響子はにっこり笑う。

⏰:10/05/20 22:50 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#224 [我輩は匿名である]
直人は2人の意図が全くわからず、薫と響子の顔を交互に見る。

「あぁ、悪いな。また明日」

手を振る響子に、薫も手を振り返す。

そして、小声で「ちょっと来い」と言って直人の腕を掴む。

「えっ、ちょっ…」

薫に引っ張られ、足がもつれて転びそうになる。

曲がり角の影まで来て、薫はやっと手を離した。

「何だよ!?」

自分だけ何もわかっていない気がして、直人は苛立ったように薫に詰め寄る。

⏰:10/05/20 22:50 📱:N08A3 🆔:PIPg2LvY


#225 [我輩は匿名である]
薫は呆れたように、髪をかきあげながらため息を吐く。

「…神崎は、安斎に知られたくないんだよ。…自分の前世の事を」

「はぁ?」

直人は少し落ち着いて、薫の顔を見る。

「何でだよ?あいつら友達だろ?」

「友達でも、話したくない事ぐらいある」

「そうだけど…」

薫は困ったように、肩を落としてポケットに手を入れる。

「…お前、安斎と神崎見ていて、何も思わないのか?」

⏰:10/05/24 07:54 📱:N08A3 🆔:W2DVh2T6


#226 [我輩は匿名である]
「何もって…別に何も」

直人は検討もつかず、首をひねる。

鈍感すぎる直人の面倒に疲れて、薫は手を出し、その場にしゃがみこむ。

「もうお前見てると疲れて仕方ねぇよ…」

薫にここまで言われてしまい、直人は何だか恥ずかしくなってきた。

「だから、何だよ!?ハッキリ言えよ!!」

直人はしびれを切らして声を荒げる。

それを聞いて、薫は勢いよく立ち上がった。

「じゃあ言ってやるよ!この鈍感野郎!!」

⏰:10/05/24 07:56 📱:N08A3 🆔:W2DVh2T6


#227 [我輩は匿名である]
いきなり大声を出されて、直人はぎょっとする。

「な、何がだよ!?俺は別に…」

「お前が鈍感じゃないなら、どういう奴が鈍感なんだ!?

お前がちゃんと分かってたら、神崎もあんな変な帰り方せずに済んだのに!」

「あ、あいつが帰ったのは頭痛ぇからだろ!?」

「そこが鈍感だって言ってんだよ!

あんなあからさまに逃げるような帰り方で、頭痛なわけないだろ!!

わからないならもう喋るな!!」

「何だとこの野郎!!」

直人はカッとなって、薫に掴み掛かる。

⏰:10/05/24 07:56 📱:N08A3 🆔:W2DVh2T6


#228 [我輩は匿名である]
「本当の事だろう!?もうちょっと人の顔色とか気にしたらどうなんだ!」

同様に、薫も直人を睨み付けながら、彼の手を振り払う。

「してんだろうが!!」

「お前の『してる』は、やってるうちに入らねぇんだよ!」

「じゃあお前は出来てんのかよ!?

いつも何でも知ってるような、涼しい顔しやがって!!」

「お前よりは出来てるだろうなぁ!お前みたいなバカと一緒にするな!」

薫の一言に、直人はもう我慢できなくなった。

固く握り締めていた拳を、薫めがけて振り下ろした。

⏰:10/05/24 07:56 📱:N08A3 🆔:W2DVh2T6


#229 [ま]
>>150-250

⏰:10/05/27 07:51 📱:P04A 🆔:yEI3oh4M


#230 [我輩は匿名である]
一方、飛鳥は1度も足を緩めないまま、家に飛び込んだ。

大きな音を立てて玄関のドアを閉め、そこにもたれかかる。

かなり息が上がっている。

「(……聞き流せたら良かったのに…)」

うつむきながら、そんな事を考える。

自分にもっと余裕があれば、こんな怪しまれる帰り方をしなくて良かったのに。

「(…響子なら…もっと上手く誤魔化せるんだろうな…)」

自分の不器用さが悔しくなる。

「もうちょっと静かに帰ってきてくれる?」

目の前で声がした。

⏰:10/05/27 22:06 📱:N08A3 🆔:5.N2WMSE


#231 [我輩は匿名である]
顔を上げて見てみると、1歳年下の弟・巧(たくみ)が、

見下すような笑みを浮かべて立っている。

「巧…」

「何?その顔。いじめられた?」

気取ったように笑う弟に、飛鳥はムッとして睨み返す。

「まっ、出来損ないなんだから、いじめられても仕方ないよね。

家でも全く相手にされてないんだから、当然じゃない?

でも、だからってドアに八つ当たりしないでくれる?迷惑だから」

⏰:10/05/27 22:06 📱:N08A3 🆔:5.N2WMSE


#232 [我輩は匿名である]
「何…」

「悪いけど、出来損ないの相手してやる暇ないから」

飛鳥が言い返す前に、巧は意地悪い笑みを浮かべて、自分の部屋に入っていった。

飛鳥は黙ったまま、巧が去っていった方向をじっと見つめる。

あんな生意気な弟に言い返す事すら出来ない。

確かに家の中では、空気のような存在でいる自分。

飛鳥は靴を脱ぎ捨て、自分の部屋に足を動かす。

⏰:10/05/27 22:06 📱:N08A3 🆔:5.N2WMSE


#233 [我輩は匿名である]
部屋に入ってドアを閉め、その場に座り込む。

誰かと話したくても、携帯電話も持っていない。

自分はどこまでダメな人間なんだろう。

そう思うと涙が出てきて、飛鳥は1人、そこで静かに泣いた。

⏰:10/05/27 22:07 📱:N08A3 🆔:5.N2WMSE


#234 [我輩は匿名である]
次の日、直人は頬に湿布や絆創膏を貼って登校した。

多分、薫も同じような顔で来るのだろう。

あの後薫と殴り合いになってしまい、仲直りもせずに帰ってきたのだった。

「(…確かにあいつ程頭良くねぇし、ちょーっと空気読めないかもしれねぇけど)」

まだ納得がいかず、直人はムスッとする。

「おはよっ♪」

たまたま後ろにいた奏子が、直人の背中をたたいた。

「…おう」

「えっ、何その顔!?」

直人の顔を見て、奏子が驚いて声を上げる。

⏰:10/05/28 21:53 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#235 [我輩は匿名である]
事情を話すのがめんどくさくて、直人は「別に」と吐き捨てた。

「何なに!?事件!?警察行った!?」

「っせぇな、朝っぱらから。喧嘩だよ喧嘩!薫とやり合っただけ!」

直人はイライラし、口調を強くして答える。

「あらぁー、ドンマイ♪」

奏子は少しつまらなそうな顔をして、また直人の肩をたたいた。

『神崎と安斎を見ていて、何も思わないのか』

薫のあの一言は、今でもわからない。

考えながら、直人はじっと奏子を見てみる。

⏰:10/05/28 21:54 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#236 [我輩は匿名である]
「まぁー、あの子ちょっと気難しそうだもんね。

たまにはいいんじゃないの?喧嘩ぐらい」

奏子は明るく、そんな事を言って笑っている。

「………何?何か嫌な事言った?」

直人に見られているのがわかったのか、奏子が尋ねてくる。

が、構わず直人は奏子を見つめ続ける。

「………………やっぱ何もねぇよなぁ…」

しばらく見た後、直人はため息をついて目を逸らした。

彼が何をしたいのかわからず、奏子も首をかしげる。

お互いいろいろ考えながら校舎に入る。

⏰:10/05/28 21:54 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#237 [我輩は匿名である]
「…あ」

直人は嫌そうに声を上げる。

靴箱では、一足先に着いていた薫たちが靴を履き替えていた。

直人の声を聞いて、薫と響子がこっちを向く。

薫もやはり、直人のように顔に湿布等を貼っている。

しかし薫は、ちらっと直人を見た後、無言で視線を外した。

「さっさと履き替えて行けよ。俺が靴履けないだろ」

「知るか。一生そこで待ってろ」

「何ぃ!?」

顔を見るなり、直人と薫は睨み合う。

⏰:10/05/28 21:54 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#238 [我輩は匿名である]
「あんまり調子乗んなよ、もやしっ子のくせに」

「誰がもやしだ!どうみても人間だろ!」

「もやしじゃねぇかよ!インフルエンザで死にかけた事あるくせに!」

「いつの話だ!!」

「2人ともやめなさい!こんな所でみっともない!!」

2人のくだらない言い合いを見兼ねて、響子がまるで母親のような言い方で割って入った。

響子に叱られて、直人と薫は肩をすくめて黙り込む。

「…響子、行くぞ」

薫は響子を引きつれて、さっさと階段を上がっていった。

⏰:10/05/28 21:55 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#239 [我輩は匿名である]
「おはよう…」

それと同時に、今度は飛鳥がやってきた。

「あっ飛鳥、おはよ」

「…よぉ」

2人も返事を返す。

飛鳥は奏子と同じように、直人を見るなり目をぱちくりさせた。

「…どうしたの、その顔」

「…ちょっとな」

直人はため息をつきながら、それだけ答える。

その間に、奏子は自分の靴を履き替えに行った。

⏰:10/05/28 21:55 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#240 [我輩は匿名である]
「………今日、時間ある?」

飛鳥がぼそっと、直人に声をかける。

直人はスニーカーを持つ手を止めて、きょとんとする。

「どうしたんだよ?」

「………いろいろあってさ。…あんたに聞いてほしくて」

飛鳥の顔は、何だか疲れているように見える。

直人はそれを見ながら、また昨日の薫の話を思い出す。

「(…俺が本の事バラしたからかな…?…説教か…?)」

「…無理そうならいいよ」

飛鳥は少し笑う。

⏰:10/05/28 21:56 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#241 [我輩は匿名である]
「いや!聞くよ!俺で良ければ!つーか俺のせいだし!」

直人は慌てて返事をする。

その慌てっぷりが理解できないのか、飛鳥は首をかしげる。

「どーせ今日は薫と飯食わないだろうし」

「…何で?」

「喧嘩したから♪」

靴を履き替えてきた奏子が、直人と飛鳥の間に入ってきた。

「……顔の怪我って、それで?」

「まぁな。殴り合いとかしたの、小学校以来かも」

「え、まだやった事あったの!?」

⏰:10/05/28 21:56 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#242 [我輩は匿名である]
「(男って大変だなぁ…)」

傷だらけの直人の顔を見ながら、飛鳥はしみじみ思った。

「じゃあ…」

階段を上りながら、直人は飛鳥に言葉をかけようとする。

しかし、ふとある事を考えて止めた。

「(…こいつら、一緒に飯食ってるんだよな…。

って事は…今神崎を誘えば、何か怪しまれたりするかな?

本の話するなって薫も言ってたしな…)」

「どうかしたー?」

何かを言い掛け止めた直人に、奏子が問い掛ける。

⏰:10/05/28 21:56 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#243 [我輩は匿名である]
飛鳥はじっと、直人の方を見つめる。

「…いや、やっぱいいや」

「そう?何か変なの」

「ほっとけ」

そんな事を言っているうちに、教室のドアの前に着いた。

「じゃあな」

直人と飛鳥は奏子に手を振り、教室に入る。

「今日、一緒に飯食おうぜ」

奏子と別れてすぐ、直人は飛鳥に笑いかけた。

突然の事に、飛鳥は「へ?」と聞き返す。

⏰:10/05/28 21:57 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#244 [我輩は匿名である]
「いろいろあんだろ?飯食いながら、全部聞いてやるよ」

直人はニッと笑って飛鳥を誘う。

飛鳥はちょっと間ぽかんとしていたが、笑って「うん!」と大きく頷いた。

⏰:10/05/28 21:59 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#245 [我輩は匿名である]
4限目終了のチャイムが鳴る。

直人は弁当箱を手に、飛鳥の席に行く。

「ここうるせぇから、屋上にでも行くか」

「ん?うん、行こ」

飛鳥も同意して、買ってきた弁当が入ったコンビニ袋を持って立ち上がる。

そして、直人について教室を出た。

「(……2人でご飯とか…なんか緊張するなぁ…)」

誘ったのは自分だが、改めて考えると恥ずかしい。

飛鳥はちょっと顔を赤らめる。

そんな事には全く気付かず、直人は屋上のドアを開ける。

⏰:10/05/28 21:59 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#246 [我輩は匿名である]
「さーて…」

直人は少し歩く速さを緩めながら、どこがいいか考える。

「……あ」

2人一緒に声を上げる。

屋上のフェンス越しにくっついて昼食を摂っている男女。

視線を感じたのか、男の方が振り向いた。

「やっぱりお前か!」

直人は一瞬で不機嫌そうな顔をして声を上げる。

それを見て、振り向いた薫も眉間にしわを寄せ、隣にいた響子も振り向いた。

⏰:10/05/28 21:59 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#247 [我輩は匿名である]
「ついて来るな!」

「別について来たんじゃねぇよ!黙れもやし!」

直人と薫は、距離を置いてまた睨み合う。

が、それを妨げるように飛鳥の腹が鳴った。

「…ごめん」

飛鳥は恥ずかしくて下を向く。

「…いや。…適当に座って食うか」

直人はそう言って、薫達とは離れたところに腰を下ろした。

「いただきまーす」

2人は声をそろえて手を合わせ、弁当箱を開ける。

⏰:10/05/28 22:00 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#248 [我輩は匿名である]
「そういえば、安斎はどうしたんだ?」

薫はコーヒー牛乳片手に響子に尋ねる。

「飛鳥ちゃんも食べないって聞いてたから、他の子と食べてって言っといた」

「そうか」

薫はそう返事をして、ストローに口をつける。

「でも珍しいね、あの2人がご飯一緒に食べてるのって」

直人達の様子を見ながら、響子が少し笑う。

が、薫は返事せずに黙々と弁当を食べている。

「……もう、無視しないでよ」

響子は小さく笑って、ピタッと薫にくっつく。

⏰:10/05/28 22:00 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#249 [我輩は匿名である]
「……悪い」

薫は箸を咥えて、響子の頭を撫でる。

「嫌味かあいつ…あんなにイチャつきやがって…」

2人の様子を見ながら、直人は怒りを込めて箸を握る。

「……そもそも何でそんな殴り合いになったわけ?」
飛鳥はコンビニ弁当をつつきながら尋ねる。

「…あいつがさ、俺が空気読めてないだの、鈍感だのって言うから……」

「………キレたの?」

飛鳥の問いに、直人は黙って頷く。

⏰:10/05/28 22:01 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


#250 [我輩は匿名である]
「(しょーもなっ!!)」

飛鳥は心の中で叫ぶ。

が、よく考えてみれば、発端は自分かもしれない。

「……その喧嘩って…私のせい…?」

飛鳥は手を止めて呟く。

思いもよらぬ問いに、直人はきょとんとする。

「いや、別に…」

確かに、飛鳥が先に帰った事から喧嘩が始まったとも思えるが、飛鳥のせいではない。

「俺の方こそ、悪かったな。勝手に本の事バラして…。俺そういう事にはかなり鈍感だか…」

直人はそこまで言って、自分で気がついて一瞬黙る。

⏰:10/05/28 22:02 📱:N08A3 🆔:TdbZtgtI


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