消えないレムリア
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#91 [ぎぶそん]
2日後の土曜日。昼過ぎ、真織と2人でバイクに乗って駅前に向かった。
椎橋くんという子とは、駅前で待ち合わせになっている。
駅のビルの中に広い楽器屋さんがあるらしく、今日はそこに行くらしい。
「伊藤!」
約束の時間に、チェックのシャツを着た男の子が私たちの元にやってきた。彼が椎橋くんのようだ。
染めたての茶髪が印象的な、猿顔で色の黒い子だった。
「初めまして。伊藤から話は聞いてます」
椎橋くんが私にへらついた顔で挨拶してくる。
近寄りがたい雰囲気の真織と違って、親しみやすそうな子だと感じた。
楽器屋に行く前に、未成年の2人が近くの喫煙スペースで煙草を吸う。
2人はなかなか気が合うようで、煙草を片手に楽しそうに話していた。
――2人ともいつまで吸ってんのよ。早くして。
法律違反を堂々としているということで、私の椎橋くんへの好感度は一気に下がった。
:12/06/10 20:56
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#92 [ぎぶそん]
3人で駅に入り、エスカレーターで楽器屋がある5階を目指した。
5階に上がると、一面に様々な種類の楽器が置いてあった。
椎橋くんが突然、無言のまま1人で奥の方へ進んでいった。
私はひとまず真織についていった。
彼はギターのコーナーに立ち入ると、壁に掛けてあるたくさんのエレキギターを眺める。
彼は目についたギターを手にしては、軽く弾いてみたりしていた。
私が隣にいることすら忘れ、夢中でギターを選ぶ。
私は疎外感を感じたので、彼の元を離れ椎橋くんを探した。
うろうろと歩き回ると、椎橋くんは楽器屋の隅で椅子に座ってドラムを叩いていた。
気になって彼に声をかける。
「椎橋くんもミドリムシが好きなの?」
「いえ、伊藤にアルバム借りてこないだ聴いたばっかです。本当は別のバンドのコピーがやりたかったんですけど、サークルではあいつと一緒にミドリムシをやろうかと」
ここにも私と同じように、真織の影響でミドリムシに惹かれた人物がいた。
:12/06/10 21:13
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#93 [ぎぶそん]
椎橋くんは話を続ける。
「ミドリムシって演奏技術が高いバンドなんですけど、中でもドラムがめちゃめちゃうまいんですよ。だからサークルではドラムがしたいなって。
これは俺の主観なんですけど、ボーカルとドラムがいいバンドは生き残りますね」
そう言うと、椎橋くんは軽快にドラムを叩きはじめた。
私は椎橋くんの元を去り、その辺にあるキーボードを弾いたりマラカスを振ったりして楽しんだ。
でもすぐに飽きて、真織の様子を見に行った。
「これにしようかな」
彼は黒いエレキギターを手にしていた。
彼が音を確かめるように、ギターをかき鳴らす。
そのギターはとても彼に似合うなと思った。
彼は黒や灰色や、落ち着いた色が似合うと思ってる。
「これにするわ。ちょっと買ってくる」
彼は私の肩を叩いて、レジにそのギターを持って行った。
その後、椎橋くんもドラムスティックを買っていた。
:12/06/10 21:28
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#94 [ぎぶそん]
その日の夜。私は真織がお風呂に入ってる間彼のギターケースを開け、中からアコースティックギターを取り出した。
あぐらをかき、手にした薄茶色のギターを見つめる。
造りがこだわってる感じがして、素人目から見ても高そうな代物だと分かる。
彼の真似をしようと、右手の指を使って弦を鳴らす。
静かな音色が出た。
「何やってんの」
彼がお風呂から出てきた。
「ギター教えて」
彼が私の目の前に座る。
「これ持って」
彼がプラスチックで出来た小さな板を、私の右手の中に収めた。
今度は私の左手の指を持ち、それぞれ決まった場所に指の腹を押さえさせる。
:12/06/10 21:48
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#95 [ぎぶそん]
「これが『C』。鳴らしてみて」
右手に持つプラスチックを滑らせると、音が出た。
そして彼がまた指の位置を移動させる。
「これが『G』。鳴らして」
またプラスチックを振ると、違う音が出た。
そして彼がまた私の指の位置を変える。
「これが『A』な。鳴らして」
私はだんだんこの作業に慣れてきた。
もしかして、ギターって簡単?
そう思っていると、彼が人差し指の側面を板に力強く押さえてきた。とても痛い。
「鳴らしてみて」
左手を下に動かす。歪な音がした。
「もっと押さえて」
彼が人差し指をもっと押しつける。あまりの痛さで顔も歪む。
すかさず左手を振る。若干綺麗な音が出た。
「これが『F』な」
私は彼にギターを渡し、じんじんと痛む右手を撫でた。
やめた。こんな痛い思いをするくらいならしないほうがいい。
彼が慣れた手つきでギターを弾く。左手の指の位置がころころと変わる。
指の側面を何度押さえても痛がりもしない。
こんなことがいとも簡単に出来る真織はすごいな。
:12/06/10 22:05
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#96 [ぎぶそん]
【※95 右手と左手が逆になってる箇所がいくつかあります。申し訳ありません】
数日後。放課後、図書館に行こうとキャンパス内を歩いた。
図書館の近くにある大理石のテーブルを囲って、軽音楽部の人たちがたむろしているのをいつも見る。
今日はその中に見慣れた男の子の姿があった。
真織だ。
呼ぶなよ。絶対呼ぶなよ。
私は顔を俯き、気配を消して歩いた。
「あっ、足立さんだ。足立さーん!」
……呼ばれてしまった。
無視して通りすぎるわけにもいかないので、彼のいる元へ向かう。
「この人、前言ってた一緒に住んでる足立さん」
彼がその場にいる全員に伝えた。
皆の視線が私に集まり、驚いた表情をする。
私は照れ、下を向いた。
佐奈といいこいつといい、口が軽すぎ。
:12/06/10 22:27
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#97 [ぎぶそん]
鷲鼻が特徴的な男の人の提案で、私は真織の隣に座らされた。
初々しい雰囲気が漂う、童顔の男の子が私に話しかけてくる。
「家でのまおりんって、どんな感じですか?」
私は隣にいる真織を見た。
こいつ、仲間内から“まおりん”なんて呼ばれてるの?
全く可愛らしい愛称じゃないの。
「すごく嫌な奴です」
私の返答に、皆が少し笑う。
その後家賃は半分ずつ払っているのかとか、食事はどうしているのだとか色んな質問を受けた。
「足立さん、まおりんに襲われたりしないんですか?」
少しぽっちゃりした男性が大胆な質問をしてきた。
私が言葉を失っていると、代わりに真織が答えた。
「誰がそんなことするか。仮に遠い昔アダムとイヴが俺と足立さんであったとしても、俺は足立さんには死んでも手を出さない」
「それじゃあ人類が誕生しないな!」
長髪の男性の発言で、一同が大笑いをする。
真織のせいで恥をかいてしまった。
私は怒りでわなわなと肩が震えていた。
:12/06/10 22:42
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#98 [ぎぶそん]
何さ、よく一緒の布団で寝たがるくせに。
そう反論したかったが、間違いなく周りに変な誤解を生みそうなので口をつぐんだ。
「あ、里香ちゃんが来た」
童顔の子が2時の方向を指差す。
髪が長く背の小さい女の子がこっちにやって来た。
至近距離で彼女の顔を見た時、私はその美しさにびっくりした。
目・鼻・口はそれぞれこじんまりとしているが配置のバランスがとてもよく、人形みたいに芸術的な顔立ちをしていた。
「里香ちゃん。この方は、まおりんと一緒に住んでる足立さんだよ」
鷲鼻の男性が彼女に私を紹介する。
私は彼女に軽く会釈をした。
しかし彼女は挨拶を返すことなく、無表情のまま私から目を逸らした。
小さな体からは想像できない、とても威圧的な態度だった。
「じゃあ私、図書館に用事があるんで」
私は立ち上がった。
:12/06/10 22:58
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#99 [ぎぶそん]
過ぎ去ろうとする私の腕を真織が掴む。
「あ、足立さん。俺今日遅くなるから、帰りにトイレットペーパー買っといて。もうなくなりそうだった」
彼の生活感丸出しな発言に、また皆がげらげらと笑う。
真織のせいで、最後まで恥をかかされた。
図書館で資料を探しながら、さきほどの皆とのやり取りを思い返す。
同じサークルの人たちといる真織は、とても楽しそうでよく笑っていた。
軽音楽部の人たちは見た目が怖くて近寄りがたいイメージだったけど、どの人もなかなか親切にしてくれた。
部長の荒井さんという男性は、「いつでもおいで」と最後に言ってくれた。
私は、新しい居場所ができた。
でも、里香ちゃんの冷たい態度が何なのかは理解できなかった。
:12/06/10 23:11
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#100 [ぎぶそん]
その出来事から1週間後。
激しく咳き込む音で朝起きると、敷き布団で寝てる真織が高熱を出していた。
顔は火照っていて、辛そうにぐったりと寝ていた。
「俺、今日大学休むわ」
私は病人の彼を残して1人で学校に行った。
私は大学で講義を受けてる間も、彼の苦しむ姿が脳裏から離れずにいた。
空き時間になると、一目散に自転車に乗ってアパートに向かった。
途中、商店街の薬局で風邪薬を買った。
アパートに着くと、足音を立てずに部屋に入る。
彼がぜえぜえと息を立てて寝ていた。
顔は汗で湿っていて、少し赤い。
私は彼の額に自分の手のひらを当ててみた。
ヒトの体温とは思えないくらい表面は熱かった。
そして流し台に立ち、ハンドタオルを氷水で冷やした。
再び彼の元へ寄り、そっと彼の顔を拭く。
:12/06/10 23:27
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