消えないレムリア
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#101 [ぎぶそん]
身体も少し拭こうと、彼が着ているポロシャツのボタンを外した。
あらわになった首筋にややどきどきしながらも、目に見える範囲で身体を拭く。
そしてもう1度タオルを洗って、彼の額に置いた。
左手の腕時計に目をやる。
次の講義まで後1時間はあった。
今や大学に戻っても中途半端になるので、私は彼の寝顔をじっと見ていた。
もし、死なれたらどうしよう。
無理に起こしてでも病院に連れて行ったほうがいいのかな。
色んな考えが生まれながらも、私はただ黙って彼の様子を見ることしかできなかった。
最後に、風邪薬と水が入ったコップをテーブルの上に置いて部屋を出た。
:12/06/10 23:37
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#102 [ぎぶそん]
大学に着くと全力で走り、息を切らして次の授業がある講義室に入った。
大人数の中から佐奈の姿を見つけ、その隣に座る。
息を落ち着け、ふきだす汗をハンカチで拭う。
「かなめ、どこに行ってたの?」
「真織が今日熱出したから、家に帰って看てきた」
「何だかんだいって、彼のことが心配なんだね」
「そんなんじゃない。うつされたくないからだよ」
自堕落な生活を送ってた私だけど、小学生の頃から学校を休むのだけは嫌いだった。
大学1年の時は、全ての授業を1回も休むことなく受けた。
2年になっても続けてそうしていくつもりだ。
その大切な記録を、彼のおかげで止められてしまっては困る。
それだけだった。
:12/06/10 23:53
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#103 [ぎぶそん]
夕方帰宅すると、真織は布団に寝たままテレビを観ていた。
私は病気の彼のためにお粥を作ろうと、すぐに台所に立った。
「今日昼家に戻ってたの?」
彼が咳をしながら、私の後ろに立った。
「うん、まあ……」
本当は彼のことを気にかけてると思われたくない。でも嘘はつけそうもないので私は正直に答えた。
「……タオルと薬、ありがとな」
彼が後ろから私の身体を抱きしめてきた。
彼の身体が重くのしかかり、うだるようなその熱さが私の身体に伝わってくる。
「近寄らないでよ。熱がうつるでしょ」
私は彼の腕を払いのけた。
「ごめん」
彼はいつになく弱々しい声を出し、リビングに戻った。
彼が時々優しくしてくるのは嫌じゃない。
でも、それをどう返していいか困る。
だから、こうして何とも思ってない態度を取るのが精一杯だった。
:12/06/11 00:09
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#104 [ぎぶそん]
後日。彼はすっかり元気になっていた。
彼はステレオマンがある木曜以外は、家に帰ってくるのが遅い。
どうやらサークルで一緒にバンドをするメンバーが決まったらしく、部室でバンドの練習をしているらしい。
この日も彼の帰宅は夜の8時を過ぎていた。
「肩揉んでくれる?」
彼がリビングに腰を下ろすと、私に背中を向けてきた。
何で私が。そう思ったが、彼が痛そうに肩を押さえてるのでやってあげることにした。
彼の肩を親指で押すように揉んだ。血行が悪いのか、結構な硬さを感じた。
コリがほぐれるように、彼の肩をまんべんなく揉み続ける。
「もういいよ、ありがとう」
彼がこちらに振り返る。
「そっちも揉んでやるよ」
マッサージをされて損はしないので、私は彼に背中を向けた。
:12/06/11 22:07
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#105 [ぎぶそん]
「あー、ちょっと凝ってるね」
彼が私の肩を揉む。親指の適度な刺激が心地いい。
これはいい。私は初めてこいつに対して存在意義を感じた。
「あ、そういえば今度の日曜バンドのメンバーがここに遊びに来ることになってるから」
「勝手に決めないでよ!」
かっとなった私は振り返り、彼の身体を思いきり突いた。
その拍子で彼は床に倒れる。
私は彼のお腹の上に乗り、自分の両足を広げた。
そのまま彼に殴りかかろうとしたが、自分の股間が彼の身体と触れているのに気づき、恥ずかしさで我に返る。
彼は何も抵抗することなく、下から呆然とこちらを見ていた。
2人の間に気まずい空気が流れる。
――そんな顔しないでよ。
「馬鹿!」
私は彼の胸元辺りを勢いよく拳で叩き、彼の身体から降りた。
:12/06/11 22:21
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#106 [ぎぶそん]
日曜日。昼前彼は出掛けると、その40分後に椎橋くんを含むバンドのメンバーを連れて戻ってきた。
彼がリビングに3人を招き入れる。
4人はそれぞれお菓子やジュースがいっぱいに入った袋を持っていた。
私は椎橋くん以外の、初対面となる他の2人の顔を見た。
黒いシャツを着た子は4人の中で1番背が高く、面長で目が細い。
顔の表情が希薄で、堅物そうな顔をしている。
白いシャツを着た子は丸顔で福福しい顔をしていて、小柄で私より背が低い。
彼の顔を一目見て、どこか“さつま揚げ”に似てるなと思った。
「こっちのでかいのは長田博一。足立さんと同じ文学部。
こっちの小さいのは小柴雄太。皆から“さつま”って呼ばれてる」
真織の説明を受けて、私は“さつま”の部分で声に出して笑ってしまった。
:12/06/11 23:17
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#107 [ぎぶそん]
彼が訝しげな顔をして私を見る。
「何笑ってんの?」
「いや、私も“さつま揚げ”に似てるって思ったから。皆思うことは同じなんだなって」
「“さつま揚げ”じゃねえよ、“さつま”。鹿児島出身だから。失礼だろ。小柴、足立さんのこと殴っていいよ」
しまった。私は早とちりをしてしまった。
でも小柴くんは気にも止めない様子でにこにこと笑っていた。
温厚そうな子だ。小柴くんが同居人だったら良かったのに。
私たちはテーブルを囲んでリビングに座ると、お菓子を食べながら軽音楽部の話で盛り上がった。
5月に定期ライブがあるらしく、4人もミドリムシのコピーバンドとして舞台に立つらしい。
長田くんも小柴くんも、真織の影響でミドリムシを好きになったという。
真織の影響力は凄い。
私を含め、皆の中にどんどんミドリムシが入っていく。
:12/06/11 23:29
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#108 [ぎぶそん]
次第に話はミドリムシの曲についてに変わった。
私もミドリムシの曲は大体聴いていたので、皆の話にすんなりとついていけた。
「ライブではどの曲をやるの?」
私は真織に質問をした。
「『ハナムケ』の中からやるよ」
ハナムケとは、ミドリムシの3枚目のアルバムのことである。
「『星座の居場所』歌ってよ」
「それ違うアルバムのだからやらない」
彼が冷めた表情でそっけなく返す。
その後も彼の私に対する態度はそっけなく、私はしょんぼりと座っていた。
談話の最中真織と椎橋くんが煙草をすぱすぱと吸うので、煙草の煙が部屋中に充満する。
私は“不快”という意思表示を見せようと、口の中に空気を溜め込み、自分の方向に来る煙草の煙を向こうにそらそうと吹きかけた。
:12/06/11 23:44
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#109 [ぎぶそん]
「うわ、足立さんってそういうことするの?嫌味な奴」
真織が嫌そうな顔をするが、私は彼に構うことなく煙を吹き飛ばし続ける。
彼が吸っていた煙草の煙を私に向かって思いきり吐いた。
そのケミカルな臭いで、私はひるんだ。
「楽しそうだな。俺も女の人と一緒に住みたい」
椎橋くんが笑う。
「いやいや、そんないいもんじゃないって。それに足立さん全然色気ないし、女として見てないから」
「うるさいな。だったら早く他の部屋を探しなさいよ」
私は立ち上がり、ベッドにあった枕を彼に投げた。
私と彼のやり取りがおかしいのか、他の3人が笑う。
これまでずっと表情の硬かった長田くんも、気がつけばよく笑っていた。
皆、私のことを乱暴で口うるさい女って思うんだろうな。
本当はしおらしく振る舞って印象をよくしておきたいのに。
:12/06/11 23:56
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#110 [ぎぶそん]
夕方、3人は帰った。
今日ここに来るまでは彼らが来るのを煩わしく思っていたが、予想以上ににぎやかな時間を過ごせた。
真織のことは快く思ってないが、彼を通して知人が出来るのは悪くないし、楽しい。
玄関で3人を見送った途端、真織が抱きついてきた。
「今日一緒に寝よ」
いつもこうだ。
他の人の前では私に冷たくするのに、2人きりになると態度を変えて甘えてくる。
皆にはこいつのことがどう見えているんだろう?
サークルではムードメーカーな存在のようで、客観的に見ても同期生から頼りにされてる感じだ。
私も彼の第一印象は自己がしっかり確立されていて、年齢の割に落ち着いた子なんだと思ってた。
でも実際は少し甘ったれた部分があって、他人の身体にべたべたと触りたがる。
まさかこんな金魚のフンみたいについてくるとは思わなかった。
本当うっとうしい。
:12/06/12 00:36
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