消えないレムリア
最新 最初 🆕
#283 [ぎぶそん]
次の日。バイトの休憩中、休憩室にあるイスに座って昨日の真織との出来事をぼんやりと思い返していると、香水のきついにおいが鼻腔を刺激した。
「かなさん、聞いて聞いて。俺、昨日1年の女子に告(コク)られちった。どうしたらいいと思う?」
龍平がにやけ顔で、襟足を弄りながら隣に座ってきた。せっかく楽しいひとときに浸っていたのに、こいつのせいで一気に台無しになった。
「その子のことが好きなら付き合ったらいいんじゃない?」
「それがね、その子なんか重いんよ、気持ちが。それに、純粋だしさあ。俺みたいな下衆が手出していいんかと思う」
結論が出てるなら言うなよ。ううん分かってる、こいつはただ誰かに知らせたかっただけ。“女の子に告白された”って吉報を。

「かなさんって目の前のアパートに住んでるんでしょ?今日バイトが終わったら遊びに行ってもいい?」
「それは出来ない。今一緒に住んでる人がいるから。その人の許可を取らないと」
なんて、真織は寛大だから誰を連れてこようがいちいち咎めない。
もっとも、今まで彼と住んで佐奈と泉しか上げたことがないけど。
「男?女?」
「男」
「えっ、彼氏?同棲してんの?かなさんってなかなかやるね」
「違うよ。知り合いの息子さんで、頼まれたから私の部屋に住まわせてるの」
厳密に言えば知り合いの知り合いの息子になるけど、いうのが面倒なので省いた。
どうせ龍平もその辺については全く興味がないだろう。

⏰:12/08/17 23:59 📱:Android 🆔:t/xoF1WI


#284 [ぎぶそん]
「そいつ見たい。俺に紹介してよ」
「嫌だ」
「何で?俺とかなさんの間柄じゃん」
間柄って。まだ今日で顔を合わせて2回目でしょーが。
なぜか私は龍平に気に入られてる。たぶん私が彼の話を黙って聞くから。
「分かった。じゃあさ、写メとかないの?それで我慢する」
それくらいならと、ロッカーを開けて鞄からケータイを取り出した。
そして真織が写っている画像を見つけると、それを龍平に見せた。夏休みのはじめに真織とヒーローショーを見に行った時、ショーの終わりにステレオマンと写真撮影する時間が設けられて、その時一緒に撮ったものだ。
「左の人?イケメンじゃん!」
龍平の団子鼻が興奮でひくついた。
「なんかいいな、一緒に住んでるとか。楽しそうで」
私は彼の言葉を右から左に流した。17歳の龍平のいう言葉は、その場限りで重みがないから。

8月29日。晩ご飯を食べ終え、真織と一緒にキャンプの準備をはじめた。こないだ買った水着もリュックに入れる。
その途中、夜の8時は過ぎてるというのに呼び鈴が鳴った。
ドアを開けると、龍平が立っていた。
「龍平くん?どうしてここに!?」
「休憩室の棚にあった履歴書に書いてた住所、っていうか部屋の番号を頼りに来ちゃった」
私は彼の言葉に愕然とした。
その行動、まるでストーカーじゃん!
「どうしたの?」
真織もリビングからひょっこり現れた。
「あっ、写メの人だ」
龍平が真織を指差す。
「あ、この子、同じバイト先の大川龍平くん。最近入ってきたの」
私は真織に紹介したくもないのに龍平を紹介するはめになった。

⏰:12/08/18 01:40 📱:Android 🆔:poL8XlM.


#285 [ぎぶそん]
「それで、何か用?」
真織がいる手前、龍平に笑顔を作る。
「かなさん、本当に悪いんだけどしばらくここに泊めてくんない?」
龍平が細い目をぎゅっと閉じ、顔の前で手を合わせる。
「え、それは駄目だよ!」
私は両手を左右にぶんぶんと振った。
だって、明日から真織とキャンプに行くし。
でもそんな私の気持ちをよそに、真織が間に入ってきた。
「いいじゃん、泊めてやれよ。小山内には電話で急用ができたって言っておくから」
ええー!ムンクの「叫び」みたいなポーズで、心の中の私が悲鳴をあげた。
キャンプで里香ちゃんに会わなくて済むのは嬉しいけど、龍平の相手をするのはもっと嫌。だってこいつ面倒くさいんだもん。
龍平は「あざーす」とか軽いお礼を言って、部屋に上がった。
彼は肩にスポーツバッグを提げていた。結構長居される感じで、私の顔が引きつる。

私はいやいや龍平に麦茶を出した。彼は一気に飲み干す。
彼と真織はすぐに打ち解けた。
「高2ってことは、俺の弟と同い年か」
みるからに不良な龍平にも、真織は何事なく接していた。
「龍平くん、なんでここに来たの?お家の人心配しない?」
言うことがおばさんっぽいなあと思いつつ、彼に問う。
「俺ん家、片親なんよ。話すと長くなるから言わないけど、俺ん家ってとにかくすげえ複雑な環境。親父は今新しい彼女連れて楽しそうにしてる。だから俺のことは心配してない」
龍平の複雑そうな環境に、哀れみの気持ちが生まれる。
自分のことをよく話したがるのも、誰かに自分のことを強く理解してほしいから?
でもそれとこれとは別。家庭環境がどうであれ、今の非常識な行動はいただけない。  。

⏰:12/08/18 02:01 📱:Android 🆔:poL8XlM.


#286 [我輩は匿名である]
>>282
なるほど、照れてるんですね。蹴ったりテーブル叩いたりする怒り方だったのでちょっと疑問だったんです。ありがとうございました(。'―'。)また、楽しみに読ませていただきます。

⏰:12/08/18 10:00 📱:SH906i 🆔:OyREmN6Q


#287 [ぎぶそん]
【※286 匿名さん いい足りなかった部分がありました。恥ずかしいのと、本当に怒ってるとの両方です。
>>210
「私は彼とは反対に、彼といる時は全然“素”じゃない。
今まで誰かにこんな荒々しい言葉遣いはしたことないし、もちろん暴力なんて振るったこともない。
彼といると、常に新しい自分が見えてくる。」
と書きました。
「なぜ暴力を振るうのか?」という疑問は、当の本人も分からない、が正しいのかも知れません。
匿名さんのいうヒステリックも正しいと思います(これだとあまり魅力的な主人公ではありませんが…)。
暴力的になる理由、これからうまく書いていきたいと思います。 

また何か疑問やご意見がありましたら、よろしければこちらにお願いします(^^)d
感想版
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4172/

⏰:12/08/18 22:25 📱:Android 🆔:poL8XlM.


#288 [ぎぶそん]
龍平は話を続ける。
「俺、花火大会の時に、友達とナンパしてたんだよ。そこでゲット出来た女とその日にヤったんだけど、その女、中学の時の先輩の彼女だったらしくてさ。最近そのことがバレて、ヤった相手、つまり俺の名前も吐いたらしい。それで先輩、今俺のこと血眼になって探してる。で、ここなら足がつかないだろうと思って」
龍平が眉毛を八の字にし、情けない様子で言う。
私はまたとんでもなく面倒くさいことに巻き込まれたなと思いながら、呆れた様子で言った。
「じゃあその先輩に素直に謝りに行ったら?」
「無理。絶対殺される」
龍平が土下座の体勢に入った。
「お願い。何でもするから、しばらくここにいさせて」
龍平が頭を床にぴたりとつける。
私はため息をついた。ほとほとに困っていた。

真織が龍平の前で腰を下ろし、龍平のなで肩を優しく叩いた。
「龍平くんだっけ?俺も素直に謝った方がいいと思う。1人で行くのが怖かったら俺もついていくから」
「あんたは行っちゃ駄目!」
私は瞬時に止めに入った。先輩とやらのところに行けば、きっと部外者だろうが関係なく殴られる。
真織の白くて美しい顔が、見るも耐えられないくらいぼこぼこに腫れ上がるだろう。
ううん、顔だけじゃない。腕、腹、背中、脚、全身容赦なく滅多うちにされるに違いない。
もしかしたら、殺されるかも。相手が殺す気がなくとも、死んでしまうかも――だから、真織は絶対に行っては駄目。

⏰:12/08/18 23:39 📱:Android 🆔:poL8XlM.


#289 [ぎぶそん]
それに、一緒に謝りに行っては龍平のためにならない。1人、ことをやらかした本人のみで行かせないと。
龍平に同情する面もある。もし彼の話が100パーセント真実なら、先輩の彼女と知らないで近づいたのだから。
犯罪も、故意か過失かで刑罰の重さがだいぶ変わってくる。
「分かった。先輩にはきちんと謝る。でも1週間でいいから、ここにいさせて」
龍平の細い目は涙ぐんでいた。
真織は泊めてやれと言ったが、私は今すぐにでも彼を追い出す気でいた。でもここまでせがまれては、無下に断れない。「分かった」と言うしかなかった。

夜の11時、リビングの床に布団を敷き、龍平を寝かせた。真織と私はベッド。実織くんがちょうど3週間前にここに来た時と同じ形だ。
深夜を過ぎても、龍平のケータイがひっきりなしに鳴る。龍平は決して電話に出ない。出ないから、またケータイが鳴る。
――もう、うるさい。
私は彼を泊めたことを後悔した。

2日後の夕方、私たち3人は駅の中にある回転寿司に入った。
「今日は俺が奢るから、何でも食べていいよ」
真織は龍平にとことん優しかった。龍平もそんな彼に甘え、「真織さん」と慕った。
2人は部屋で一緒に煙草を吸い、ゲームをして遊んだり、真織が龍平にギターを教えたりしていた。
私はというもの、龍平が来てから1日1時間1分1秒がとても長く、陰鬱に感じていた。
自分の部屋なのに安らげない。四六時中彼に気を遣い、いつもの3倍は疲れてる気がする。
1週間なんてすぐに来るかと思ってた。それなのにまだ2日しか経ってない。
久しぶりの寿司を前にしてもあまり箸が進まず、なんの旨味も感じられなかった。

⏰:12/08/19 22:49 📱:Android 🆔:lbbKZsHo


#290 [ぎぶそん]
9月1日。朝、龍平はベランダの窓を開けて壁にしゃがみこみ、煙草を吸っていた。
「今日は始業式なんじゃない?」
私は彼に話しかけた。というより、今から洗濯物を干したいから彼が邪魔なのである。
「行かない、面倒くさいしつまんないし。もう辞めようと思ってる」
龍平がふああと間抜け面であくびをした。
私はその言動すべてに怒りを感じ、いや、これまでの積もりに積もった鬱憤が一気に爆発した。
「ちょっと立ちなさいよ」
私の言葉に、龍平が煙の上がる煙草を片手にひょいと立ち上がる。
私は龍平のニキビ面に向かって渾身の力を込めて平手打ちした。パシン、とハエたたきにも似た軽快な音が響いた。

「ふざけないでよ!あんたのお父さんのことはよく知らないけど、少なくとも男手1つであんたを養って、一生懸命働いて、その働いたお金で学費を払ってあんたを学校に行かせてるんじゃないの?」
親のすねをかじっている私が怒れる立場じゃないけど、この横暴な態度には我慢がならなかった。
龍平の目に涙が浮かんでいた。そして肩を震わせながら、嗚咽まじりにいう。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
大人ぶってた彼の仮面が剥がれ、17歳のありのままの素顔が見えた気がした。
「俺、今から学校に行く。んで、学校が終わってから先輩に謝りに行く。男として、けじめをつける」
龍平が腕でごしごしと涙を拭う。人間、ここまで急激に変われるものかと呆然とした。いや、龍平は心の奥底ではいつも変わりたいと思ってたのかも知れない。

⏰:12/08/19 23:23 📱:Android 🆔:lbbKZsHo


#291 [ぎぶそん]
龍平はすぐに荷物をまとめ、部屋を出た。私と真織も、玄関先で彼を見送る。
「かなさん、真織さん、本当にご迷惑おかけしました」
龍平が私たちに向かって深々と頭を下げる。
「あ、そうだ。これは俺からのプレゼント。2人で使って」
龍平がスポーツバッグの中を何やら探る。
「何これ?」
彼に銀色をした長方形の箱を渡された。深緑色の文字で0・5ミリと記載されてある。
「ゴム」
輪ゴム?輪ゴムの箱って、普通横に長くて縦に短いよね?
ヘアゴム?でも箱売りのなんて、見たこともない。
箱を訝しげに見ていると、龍平が声を上げた。
「かなさんもしかして知らない?コンドームだよ、コ、ン、ド、オ、ム」
龍平の言葉に私は「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、両手で持っていたそれをまるで時限爆弾であるかのように離した。生気を失った。
「まあ2人で楽しんでくださーい」
龍平は無邪気に笑い、手を振りながら去っていった。

――龍平の奴。最後の最後まで余計なことを。
龍平が帰った後、私は彼に貰った箱を足で蹴りながらリビングにあるゴミ箱の前まで移動させた。
「あ、あの、これ、捨てた方が、い、いいよね?つ、使わないし」
私は自分の真下にある箱を指差した。
「え?う、うん」
真織はうなだれ、首に手のひらを当てていた。
経験がない同士、性行為のためのアイテムの登場には困っていた。
「あると使いたくなっちゃうかも知れないしな」
彼の言葉に顔が熱くなり、私は箱を足で何度も踏み潰した。
箱は原型がなくなり、潰れた空き缶のように平たくなった。私はそれを拾い上げると、ゴミ箱にさっと入れた。

⏰:12/08/19 23:59 📱:Android 🆔:lbbKZsHo


#292 [ぎぶそん]
部屋はまだ龍平がつけていた柑橘類の香水の残り香が漂っていた。
私は洗濯物を干すことにした。彼に洗濯カゴから衣類を出してもらいながら、ハンガーにかける。
「あんた、何であの時龍平を泊めようとしたの?」
「何となく」
「何となく、ね。キャンプ行けなくなったけどいいの?」
「そこまで楽しみにしてたわけじゃないから。それに面白いものも見れたし」
「面白いもの?」
「かなめのマジギレ」
彼がいうのは、約20分私がここで龍平を激怒したことだろう。
「ああ、さっきのね。私もそんな出来た人間じゃないのに、偉そうだったと思う」
「――優しいよな」
彼の手が濡れたハンカチを握ったまま止まった。

「かなめは、優しいよな。前、子供の時壊した人形の代わりにって指人形くれて、風邪引いた時はわざわざ学校から戻って看病してくれたし、床で寝てたら必ず布団をかけてくれる。俺がここを出たくないのも分かったら、出て行かなくていいって言ってくれたよな。さっき龍平くんを怒ったのも、彼のためを思ってなんだろ?」
彼が優しく問いかけてくるので、私は動揺した。
「やめて、私はあんたが思ってるような人間じゃない。いつも何も考えてないで行動してるから。だからありがたく思わないでいい。それに、龍平のことは嫌いで、早く帰ってほしいと思ってた。あいつのことひっぱたいたのも、単にむかついたから。奢ったり一緒に遊んであげたり、あんたの方がよっぽど優しいよ」
私は彼の手からハンカチを取った。
「後は1人でやるから、もうあっちに行っていいよ」
ハンカチを持ってない反対の手で、彼を追い払うように手を振った。
彼は従順な態度でその場から離れた。

⏰:12/08/20 01:37 📱:Android 🆔:87iFZhWY


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194