クソガキジジイと少年」
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#801 [ザセツポンジュ]
『そんなことより、トミオもジョウジロウちゃんも最近帰りが遅いじゃないか。部活か?』
きーさんの問いかけに
2人とも首を横に振った。
『女か?』
再び首を横に振った。
ゲンコツのダメージから、なんとか起き上がったすーさんは
きーさんにもたれかかった。
『ジョウジロウが女なワケないじゃろ。どうせ古本屋でエロ本の立ち読みでもしとるんじゃよ?このいかれぽんち!変態!』
弱ったすーさんを
平気な顔で再びどつき
きーさんは2人の顔を見た。
『おや?隠しごとかい?』
少年2人は顔を見合わせて笑って首を横に振った。
:08/06/03 20:39 :W51CA :zIUGw8LY
#802 [ザセツポンジュ]
『会議だよ。今度学校の参観日に集会があるんだ。それの話し合い。』
そう言ってトミーは
テレビを付けて
ゲームをセットした。
『ほお!ジョウジロウちゃんもその話し合いか!変態ではないんだな!』
ジョウはうなずき
トミーの横に座って
ツーコンを握った。
『きーさん、見に行こう!まだギリギリきれいなお母さんも何人かはいるだろう!』
『それはどうでもいいが、孫の晴れ舞台に家でワイドショーを見ているわけにはいかんからな!』
トミーとジョウは
いったんゲームを止め
くるっと振り返り
お互い、我が祖父を見つめ、声を揃えて言った。
『絶対に来ないでね。』
:08/06/03 20:47 :W51CA :zIUGw8LY
#803 [ザセツポンジュ]
------------------
(あぁ、とんでもないことをボクはしているんじゃないだろうか…今さら逃げられない…)
『。。。。』
校長は黙ったまま
次第に少し焦りだしていた。
トミーは
校長の焦りを見逃さなかった。
『では、これを見てくれたら校長も何か分かると思います。ジョウジロウちゃん!!アレ持って来て!』
(き…来た…。)
トミーの少し大きな声に生徒達も2階の父兄達にも緊張感が漂った。
:08/06/03 20:52 :W51CA :zIUGw8LY
#804 [ザセツポンジュ]
ジョウは
丸まった紙を抱えて
立ち上がった。
そして
近くにいる
エノシタさんを見た。
心臓もバクバク鳴る中
暗いステージ裏で
エノシタさんは
ジョウの肩にふれた。
『いってらっしゃい。』
こくん。と頷いた
14歳の少年。
ジョウの
心臓の高鳴りを
エノシタさんと
半分こできたなら。
(ボクはエノシタさんのことが好きなんだよ。とても好きなんだよ。)
:08/06/03 21:01 :W51CA :zIUGw8LY
#805 [ザセツポンジュ]
ジョウは
エノシタさんの目を
しっかり見つめたあと
歩き出した。
体育館中の視線が
ジョウに向けられている。
ラストボス。
校長とトミーの
目の前に立ち、
生徒達に背を向けた。
(ジョウジロウちゃん、お疲れ様。)
トミーはジョウを
見守った。
そしてゆっくりゆっくり丸めていた紙、大きなポスターを
広げて行った。
:08/06/03 21:09 :W51CA :zIUGw8LY
#806 [ザセツポンジュ]
『え?何?』
『何が書いてあるの?』
『な〜に〜??』
覗こうとしても
見られないポスターに
生徒達はもどかしさを
あらわにした。
皆がザワつくなか
ポスターで顔の隠れた校長。
目をひんむいて
口をガクガクさせていた。
トミーとジョウは
しっかりと見たのだ。
ラスボスを倒す瞬間を。
:08/06/03 21:13 :W51CA :zIUGw8LY
#807 [ザセツポンジュ]
『これを、いじめととらえますか!アートととらえますか!』
ジョウの声が
最後のとどめをさした。
:08/06/03 21:15 :W51CA :zIUGw8LY
#808 [ザセツポンジュ]
-------------------
オレが作ったこの
ポスターは
エノシタさんが
100人いる。
ジョウジロウが、オレの屋根裏部屋を尋ねて来たんだ。
たった1人の弟だ。
いつもと様子が違うのは察しがついた。
その時俺は
アンディーウォーホルの作品集を見て浸っているところだった。
:08/06/03 21:20 :W51CA :zIUGw8LY
#809 [ザセツポンジュ]
『…にーちゃん…ちょっと頼みがあるんだ。』
オレの弟は
優しい奴なんだ。
だけど少し内気で
不器用なだけなんだな。
14歳の少年は
ビニール袋に集めた紙くずを、ひっくり返してきた。
オレはその紙くずを
ひとつひとつ手にとって
見てみたんだ。
クーポン雑誌で
美容室の広告塔になったエノシタさん。
卑猥な言葉を書き殴られたエノシタさんもいれば、ビリビリに破られているエノシタさんもいて、落書きされているエノシタさんもいた。
:08/06/03 21:29 :W51CA :zIUGw8LY
#810 [ザセツポンジュ]
『ボクね、自分でやりたかったんだけど、うまい使い方を思いつかなくって。』
ショボンと肩を落とすジョウジロウだったが
ちょうど見ていた
アンディーウォーホルの作品集のこともあり
必ず素敵な
1枚のポスターにすることをオレは約束した。
『充分だよ。こんだけ回収したんだもの。よくやったよお前。』
毎日毎日
気づかれないように
ゴミ箱を一個一個
見回ったのだろうか。
そして初めて好きな子ができたことも思春期の少年には打ち明けにくかったのではないだろうか。
:08/06/03 21:35 :W51CA :zIUGw8LY
#811 [ザセツポンジュ]
少年は少年なりにいろいろ考えていくにつれ、時間がなくなってしまったのだろうか。
あれこれ憶測を巡らせていくうちに
自分の弟だが
だんだんかわいく思えてきたオレだった。
アンディーウォーホルの
代表的な作品に
同じような
コカ・コーラのビンを
ひたすら描いているものがある。
だけど、よく見れば違う。
その意味を考えさせられるポスターに仕上げようと思ったんだ。
案はモロパクリだけれども。
:08/06/03 21:42 :W51CA :zIUGw8LY
#812 [ザセツポンジュ]
同じ顔のはずの
クーポン雑誌のエノシタさんが
誰かの手が加わって
違う顔に変わっている。
いじめたみんなが
いけないアートをほどこした
エノシタさんが100人。
それをかき集めた
ジョウジロウがいて
それを受け取ったオレがいる。
一枚の厚紙に
エノシタペーパーが100枚並んで問いかける。
『これを、いじめととらえますか?アートととらえますか?』
:08/06/03 21:48 :W51CA :zIUGw8LY
#813 [ザセツポンジュ]
:08/06/03 21:50 :W51CA :zIUGw8LY
#814 [ザセツポンジュ]
=============
年月を重ね、見開いた目で
世界を飲み込む。
知識と言う種ばかりを
埋め込んだ
脳みその使い道は
いかほどなものだろうか。
都合の悪い物事は
焼却炉へと飛び込ませ
蓋を閉めたその先
灰色の煙を見送る
ハゲ散らかした頭よ。
少年の思春期爆弾を
いざ受け止めよ。
:08/06/06 12:05 :PC :GiYNkI5c
#815 [ザセツポンジュ]
唇を震わせ、
体中全ての神経を
困惑させ
自分の愚かさを知るため
今宵、育毛剤と言う名のシャワーよ
奴に魔法をかけて。
目は何の為に
余計な物を見ない為に
鼻は何の為に
近道をかぎわけるために
口は何の為に
嘘をこぼし、自分を弁護する為に、、、。
戻り先はふりだし。
:08/06/06 12:05 :PC :GiYNkI5c
#816 [ザセツポンジュ]
好きな子が泣いていたら。
大切な人が応援してくれていたなら。
たったひとりでも味方でいてくれたなら。
もしかして
救われただろうか。
救えたのだろうか。
向き合うことを忘れた
大きな子供達。
背中ばかりを追いかけて叫んだ
小さな子供達。
思春期爆弾が
手元に届いた時
使い道は、自分次第。
自分の為に
誰かの為に。
決められるのは
自分だけ。
:08/06/06 12:06 :PC :GiYNkI5c
#817 [ザセツポンジュ(仕事中のためPC)]
============
最終章 クリスマスの夜に。
============
:08/06/06 12:08 :PC :GiYNkI5c
#818 [ザセツポンジュ]
鈴木家の床暖房は
とても温かい。
『きーさん寒いよう。わしゃ寂しいよう。』
すーさんはきーさんにまとわりつき
寒さを忍んでいた。
『ええい!老いぼれがベタベタ触るんじゃないよ!酔っ払い!』
昼間からする事もなく
酒を飲んだくれている老人二人。
我が孫に、家から追い出されたと言う
かわいそうなこの老人
木田シゲル62歳。
:08/06/06 12:45 :PC :GiYNkI5c
#819 [ザセツポンジュ]
『きーさん、ワシはな、きーさんの事が、、、、す、、、す、、、、』
ボコン!ゴツン!
お決まりのゲンコツを食らわしたが
何度殴られても、こたえないこの老人
鈴木ひとし62歳。
『その先が何語であってもそれ以上口に出すなよ!通報するぞ!』
すーさん。
娘が設計した
老人にとって心臓やぶりの
階段を、チョボチョボ上がり
ジョウの部屋を開けた。
:08/06/06 12:45 :PC :GiYNkI5c
#820 [ザセツポンジュ]
ボコン!
『い、痛い!なんだよ!ノックしてよ!』
意味不明に殴られた事よりも
ノックをしなかった我が祖父に
腹を立てていた。
『今な!きーさんが来てる。』
『分かるよ。そのたんこぶ見れば。で、何?』
『トミオちゃんが女を連れ込むからと行って追い出されたそうだ。で、もっと遠くへ行って死ねばいいのに、すぐ隣のウチへ来たんじゃよ。その辺どう思うかね?ジョウジロウ。』
すーさんは、思い出したかのように
頭をさすりだした。
『ふーん。女を連れ込む時は追い出されるのか、きーさんは。』
上を向いて思い浮かぶのは
エノシタさんのことばかり。
:08/06/06 12:46 :PC :GiYNkI5c
#821 [ザセツポンジュ]
『お前な、トミオちゃんは立派なのは充分承知の上で言うが、ヤラハタ決定だぞ。お前よ、そこのお前!鈴木さんちのジョウジロウちゃん!ワシは近所の人に言われるようになるんじゃ。あ〜れ〜ヤラずにハタチを迎えたお孫さんをお持ちの鈴木さ〜ん、ごきげんよいかが〜?そう言えばこないだ、、、』
『どうでもいいけど用事は何なの?』
ホロ酔い気分のジジイにかまっていられる気分じゃないのだ。
バコン!
『ただちに、去年のお年玉を崩して、クリスマスケーキを買いに行け!ついでに壁にもたれかかった娼婦に抱かれて来い!分かったな!』
『はいはい。』
ジョウは頭をさすりながら財布を持ち
ジャケットをはおり、マフラーをまいた。
タッタッタッタッタッタ、、、。
『あいつ、、、。階段をタッタタッタおりよって。年寄りの苦労も知らずに。』
:08/06/06 12:46 :PC :GiYNkI5c
#822 [ザセツポンジュ]
すーさんはまた、一段一段チョボチョボと階段を
降りるのであった。
『ジョウジロウちゃん、メリークリスマス!』
きーさんは、さも我が家かのように
堂々とリビングでくつろいでいた。
『やあ!きーさん!メリークリスマス!』
挨拶を済ませたジョウはそそくさと玄関へと向かった。
『ちょちょちょ〜ちょ〜っと待て。どこに行くんじゃ?』
ジョウはスニーカーのつま先を
トントンと2回。
『スペシャルゲストのきーさんとパーティーでもしようかと思ってちょっとケーキ屋までね。』
:08/06/06 19:31 :PC :GiYNkI5c
#823 [ザセツポンジュ]
『そうか。ジョウジロウちゃん、クリスマスじゃ、おこづかいをあげよう。』
きーさんはポケットから出したお札を
ジョウに渡した。
『えええええ!1万円も!ウチのじーちゃんとは大違い!ありがとうきーさん!ケーキ何がいい?』
『モンブランとカルピスな。』
『りょ、了解なまこん!』
冷たい風が吹き、マフラーに顔をうずめた少年。
行って帰る頃には夕日も沈み出すだろう。
肌を刺す寒さもよそに、
うっすらと浮かんだケーキ屋さん。
道は定かではないが
エノシタさんの顔が思い浮かぶ。
ジョウはケーキ屋まで
小走りで向かった。
:08/06/06 19:31 :PC :GiYNkI5c
#824 [ザセツポンジュ]
(エノシタさんなにしてるかな、今日。エノシタさんちサンタさん来たかな。。。なんつって。)
カランカラーン。
『ぎゃっ!うわ!!!!!!』
ケーキ屋の扉を開き、
マフラーから顔を出したジョウは
ベタにも自分のほっぺたを叩いてしまっていた。
『、、、。そんなにびっくりしないでよ。ジョウくんこんにちわ。』
かわいい手袋をした
エノシタさんが、目の前にいる。
『な、な、なななな、なにしてんの?』
『ケーキを、、、買いに来て、、、』
『そっそうだよね、ケーキ屋だもんね。バカだよねボク。頭おかしいよね。ハハ』
ジョウは並べられたケーキをガラスケース越しに覗き込んだ。
エノシタさんもすぐ隣でジョウと同じようにケーキを見ていた。
:08/06/06 19:32 :PC :GiYNkI5c
#825 [ザセツポンジュ]
(近いし!近いし、エノシタさん近いし!頭とかぶつかったらどうすんのさ!)
『あたし何にしよっかな〜。ホールで買ってもな〜。ジョウくん何買うの?』
クルっとジョウの方に顔を向けたエノシタさん。
ジョウは尋常じゃない速さで目が泳いだ。
『え?え、ボクんち今トミーのじーちゃんが来てるから、とりあえずモンブランと、、、』
『トミーのおじいちゃんが来てるの?何で?』
『いや、、、そんの〜、、、居心地がいいからだと思うよ、うん。』
ジョウはさもケーキを探すふりをしたが、
緊張と興奮から、分かっているのに
お目当てのケーキを見つけられない。
『ハッハ〜ン。エノモトさんが来てるからトミーに追い出されたのね、おじいちゃ、、、』
ジョウはビシっと顔を上げて頭をフル回転させ、
オマケにものすごい早口で店員に告げた。
『モンブランひとつと、ストロベリーなんとか。あ、それです。それでチョコレートケーキと、にいちゃん、ウチのにいちゃんは何がいいだろうか?知らない。そうですか。ボクも知らないし、この店のオススメ適当に!はい、以上で。』
:08/06/06 19:34 :PC :GiYNkI5c
#826 [ザセツポンジュ]
ごまかせたとでも思っているのだろうか。
ホっとした表情を浮かべたが
ふくれっ面で横に立っているエノシタさんを
ジョウは2度見してしまった。
(ふくれてる。エノシタさんたら。かわいいな。)
『あたしもストロベリーなんとかひとつください!』
かわいい手袋をはずして、
エノシタさんは、財布を取り出した。
『あれ、エノシタさん家族の分は?』
『ん?いいの、いいの。』
ちょっと寂しそうな顔をしたような気がした。
:08/06/06 19:34 :PC :GiYNkI5c
#827 [ザセツポンジュ]
カランカランー
少しだけ、
また寒さを増した
オレンジ色の空の下を
かたや片思い中の少年と
かたや失恋したばかりの少女は歩き出していた。
『ねぇ、ジョウくん。前にさ、協力してくれてありがとう。』
ジョウは頷いた。
『うん。。。え?なにを?』
全校集会の件は
3年生には漏れていないはず。
と、ジョウは思っているのだろうが、かつてきーさんとすーさんが勝手に実行したエノシタ改造計画をこの少年は知るよしもない。
『でも、もういいの。トミーのことはあきらめたの。』
(分かってはいたけど、やっぱり好きだったんだな。)
ジョウは心にチクっと刺さる少し苦しいこの気持ちが恋をしている証拠なんだなと改めて実感した。
:08/06/06 20:44 :W51CA :H2Pa6if.
#828 [ザセツポンジュ]
『まぁ、またいいことがあるよ、そのうち。いっぱい期待しちゃいけないけど。』
エノシタさんは首を縦に降ってニコっと笑った。
『あれ?エノシタさんちどこだっけ?』
エノシタさんは
立ち止まって
反対方向を指さした。
『え!逆じゃん!お、お…送ろうか!』
トミーだったらサっと出る一言でも、ジョウにとっては心臓破りの5文字だった。
『いいよいいよ!おじいちゃん達がケーキ待ってるでしょ?』
エノシタさんは
いつも笑顔を絶やさない女の子だ。
ジョウはエノシタさんが手に持つ、ひとつだけ買った小さいケーキの箱に目をやった。
『な、なにするの?帰ってから。』
『…え〜と、ケーキ!ケーキ食べるよ!ジョウくんと同じイチゴの!ヘヘ。』
エノシタさんはケーキの箱を高く持ち上げて見せた。
:08/06/06 20:54 :W51CA :H2Pa6if.
#829 [ザセツポンジュ]
『ひとりで?』
『うん。ウチね、パパはパイロットでママはキャビンアテンダントなの。遅い夜には帰って来ると思うんだけどさ。』
“心配しないで”と笑うエノシタさんをほってはいられないジョウジロウちゃん。
(サンタさん…ボクに勇気をくださいぃ…)
ジョウは目をつむって
バクバク鳴る心臓を
確認した。
『あ!あのさ!ウチのじーちゃんもトミーのじーちゃんも変だけどおもしろい人でさ!1人でケーキ食べるんだったら、よかったらウチでみんなで食べようよ!』
恥ずかしさを隠すため、マフラーに顔をうずめた。
『ホ、ホント!!いいの??』
『い、いいよ!みんな大歓迎だよ!』
エノシタさんは
また笑った。
嬉しそうに嬉しそうに笑っていた。
:08/06/06 21:03 :W51CA :H2Pa6if.
#830 [ザセツポンジュ]
『あ!きーさんにカルピス頼まれてたんだった!エノシタさん何飲む?』
夕日が暮れる前に
早くおうちへ帰ろう。
楽しい時間はすぐ過ぎてしまう。
--------------
パパン!パパパパン!パン!
『ハッピバ〜スデイ俺のかわいい彼女のエノモトさ〜んハッピバースデイトゥ〜ユ〜!フ〜〜〜!』
トミーはたった今
このバースデイソングで
無理やり彼女にした
エノモトさんと
クラッカーの音と共に
パーティーを開催していた。
今日はエノモトさんの誕生日でもあるのだ。
『ありがとうトミー!キャ〜かわいい!嬉しい!』
トミーはジョウの兄に作らせた世界でひとつのネックレスを
エノモトさんの首にかけてあげた。
:08/06/06 21:11 :W51CA :H2Pa6if.
#831 [ザセツポンジュ]
『ねぇ、ねぇなんでケーキはいらないの?エノモトさんデブじゃないのに。』
ケーキを買いに行くつもりがかたくなに拒否されてしまった木田トミオ14歳。
『ケーキは一緒に食べたい人がいるの。』
エノモトさんはトミーからもらったネックレスを嬉しそうに手に取って見ていた。
『は!早くも浮気!?だ、誰!!!』
『おねーちゃん。』
トミーはネックレスをずっと眺めているエノモトさんをずっと見ていた。
『かわい〜。かわい〜ね。へへ〜。ってかお前ねぇちゃんいたの?』
彼女になって2分もすればお前呼ばわりする態度のデカさだが、悪い気はしないエノモトさん。
:08/06/06 21:17 :W51CA :H2Pa6if.
#832 [ザセツポンジュ]
『そう、7つ上におねぇちゃんがいるの。めったに帰って来ないけど。』
エノモトさんは
遠い目をした。
『めったに帰って来ないけど、俺にチュウして。』
トミーはエノモトさんのとてつもなく近い距離まで移動した。
チュ。
『うわ!めったに帰って来ないけど、お前!軽々しくチュウとかすんなよ!ヤリマンか!』
そう怒鳴って
トミーはエノモトさんに甘えて抱きついた。
エノモトさんは
照れてそのまま顔を赤らめていた。
:08/06/06 21:57 :W51CA :H2Pa6if.
#833 [ザセツポンジュ]
『めったに帰って来ないけど今日おねーちゃん帰ってくるよきっと。ねー。めったに帰って来ないけどあとでエッチしようねー。』
『やだ。』
『そうだよ!そう!一回は断って欲しいもん俺!』
なにがしたくてなにを理想としているのかは分からない少年だが、15歳になったエノモトさんは自分が思ったよりも速いスピードでトミーに惹かれて行くのであった。
----------------
こないだ
携帯に非通知で
着信があったんだ。
でもどうしようもないから
画面を見つめていたら
また非通知で電話が
鳴り出した。
『はい。』
『…シンイチロウ。元気か?』
『あぁ。なんだ。なんで非通知なの?』
『それが使い方がよく分からなくって。』
:08/06/06 22:05 :W51CA :H2Pa6if.
#834 [ザセツポンジュ]
こういうところ、ジョウジロウとそっくりだなと思った。
『どうしたの?』
『お前さ…クリスマスは何かするのか?』
『特になにもないけど…』
『飯でも食いに行こう。オゴってやるから。』
オレはクリスマスに
会う約束をした。
夕方頃、待ち合わせの
予定。
何を話すのが
いちばんいいだろうか。
あれも言ってやりたい。
これも言ってやりたいけど…
オレ、何かを
作るのは好きだけど
生身の人間と
直接言いたいことを
言い合うのは苦手だな。
だけど今日は
クリスマスだから
今まで言いたかったこと全部、言ってみようか。
もう時間が迫ってる。
:08/06/06 22:16 :W51CA :H2Pa6if.
#835 [ザセツポンジュ]
:08/06/06 22:23 :W51CA :H2Pa6if.
#836 [ザセツポンジュ]
---------------
バイトへ向かう前に
少し早く家を出て
雑貨屋巡りをする女の子。
(なにがいいのかなぁ…もう中学生だもんなぁ)
リンゴ、イチゴ、バナナの小物…
人にプレゼントすることが苦手な人種。
自分が中学生の頃、何を欲しがっていたのかも、思い出せなかった。
(…これにしよう。)
『プレゼント用にしてください。』
可愛らしい写真入れを選んで、リボンのついた小袋を手に持ち、バイト先へ向かった。
懐石料理“廣六”
:08/06/17 22:19 :W51CA :Rv5ry/LU
#837 [ザセツポンジュ]
『悪いねぇ、きららちゃん。クリスマスなのに。昨日から珍しく予約が入って忙しくってな。夕方にはあがっていいからね。』
『いえいえ。かまいませんよ。』
『おや?彼氏と約束があるのかい?』
六さんは、きららちゃんが手に持った小さな紙袋に目をやって微笑んだ。
『違いますよ。今日、妹が誕生日なんです。』
『そうか!きららちゃん妹がいたんだったな!じゃあ今日きららちゃんが帰るまでに、用意しておくから、帰ったらワシの料理をみんなで食べなさい!ね!』
そう言って六さんは嬉しそうに笑った。
(みんなで…食べる…か。)
きららちゃんは
六さんの嬉しそうな笑顔を踏みにじることはできないだろう。
:08/06/17 22:25 :W51CA :Rv5ry/LU
#838 [ザセツポンジュ]
----------------
『ただいまぁ』
『おじゃましまぁす』
きーさんとすーさんは
リビングに入って来た
少年少女を二度見した後
顔を合わせ、目をかっぴらいたまんま
慌てふためいた。
『ど、ど、ど、どどど、どうもどうも!エノ…エノキ…エノキダケ!エノキダケ、ドコモダケ買って来たか!』
すーさんの目は
今だかつてない速さで
泳いでいた。
『え?エノキ岳?』
好きな子を勇気を出して家に呼んだのにも関わらず、オープニングから様子のおかしい老人2人。
鈴木ジョウジロウ14歳、クリスマスの落胆。
:08/06/18 00:01 :W51CA :vSgbzwek
#839 [ザセツポンジュ]
『はじめまして、エノシタと言います。』
エノシタさんがおじぎをしたのも束の間、
きーさんは、ジョウもまだ握った事のないエノシタさんの手を握り
コタツへ案内した。
『はじめまして、エノシタさん。ワシの名前はシゲルです。62歳です。どうぞ、この辺に座って。』
すーさんは慌てて
エノシタさんのために
梅昆布茶を入れてあげようと、不思議な歩き方で台所へ移動。
おもむろに手に取るグラス。
『ちょ、ちょっと!きーさん!目が怖いよ!手も震えてるし!わっ!じーちゃん!じーちゃん、何やってんの!それ洗剤!食器洗うものでしょ!飲めないし!なんで挙動不審なんだよ!なんなの!!?2人してさ!』
:08/06/18 00:13 :W51CA :vSgbzwek
#840 [ザセツポンジュ]
ジョウは粉を入れて
ポットの湯を入れれば
すぐさま完成する梅昆布茶を、少し水でぬるめて
すーさんに飲ませた。
『ジョウジロウちゃん、いや、落ち着け。まぁ、そうアセるな。サンタさんが来なかったからって非行に走るなよ!エ!エ…エノシタさん!ケーキ食べようね〜、ね〜エノシタさん、ね〜。』
理不尽な理屈を並べているのはシゲル。木田シゲル62歳。
孫から注がれた
梅昆布茶と言う活動源で、少しだけ落ち着きを取り戻した、鈴木ヒトシ62歳。
この2人の老人、
『なに?殺人でも犯したの?ついに。』
と、少年に侮辱されてもなんらおかしくない行動をとっている。
:08/06/18 00:22 :W51CA :vSgbzwek
#841 [ザセツポンジュ]
こんな奇妙な家の中にいるのに、エノシタさんは、なんだか楽しそうに笑っていた。
きーさんは
自分の理不尽さは
棚に上げ、キッチンからジョウを追い払った。
首をかしげながら
コタツに入ったジョウは
何気なく座っている自分にハッとした。
エノシタさんの隣。
(あ…足とかあたったら…どうしよう…)
『エ…エノシタさん、なんかオープニングからこんな感じでごめんね。じーちゃん達いつもあんな調子でさ。』
申し訳なさそうな顔のジョウとは打って変わって、建て前ナシの笑顔で首を横に振るエノシタさん。
『いいなぁ。にぎやかで。面白いのね、おじいちゃん達。』
キッチンでなにやら
男の作戦会議を開始している老人2人を、エノシタさんは微笑ましく眺めていた。
:08/06/18 00:31 :W51CA :vSgbzwek
#842 [ザセツポンジュ]
:08/06/18 00:33 :W51CA :vSgbzwek
#843 [ザセツポンジュ]
(エノシタさん、いつもひとりなのかな…)
ジョウは、エノシタさんを見つめながら、少し寂しい気持ちになった。
『すーさん、すーさん、大丈夫。大丈夫。バレてない、バレてないよ。かえってこんな態度の方が怪しいじゃろ!平然とするんじゃ。何事も無かったかの様に!』
『そ、そうじゃな。もう、随分前の話よ。』
完全に殺人を犯してしまった2人組の会話である。
『はいは〜い。みなさ〜ん。今宵クリスマス、未成年飲酒でもしてね、今日は盛り上がりましょうね〜』
きーさんは不自然なほどの笑顔で、しきり直そうとコタツへ潜入してきた。
:08/06/18 00:44 :W51CA :vSgbzwek
#844 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウ!お前、ポケっとしてないで、ワシに、もう一回梅昆布茶を入れて来い!きーさんにはカウパーカルピス!エノシタさんは?何飲むんじゃ?』
きーさんに続いて、コタツに腰を下ろしたすーさん。
『カウパーカルピスって新しいの?』
エノシタさんの質問に、すーさんは、気を良くした。
『最新のカルピスだが、絶対に外部には漏らさないこと。』
きーさんのフォローにもジョウは呆れ返って、みんなの分のジュースを用意しに、キッチンへ移動した。
:08/06/18 00:52 :W51CA :vSgbzwek
#845 [ザセツポンジュ]
(台っっっっ無しだよ。エノシタさん、もう遊んでくれないよ…)
『はい、梅昆布茶!きーさんの最新のカルピス!エノシタさんの100%オレンジジュース!』
(そしてボクも…エノシタさんと同じオレンジジュース…うぅ…)
すーさんは梅昆布茶を
ふぅふぅと冷ましていたが突然ある事に気づいた。
『あっ!おい!ジョウジロウ!シンイチロウも呼んで来い!いいか!?今日はあの屋根裏から何が何でも引きずり出せ!』
ジョウはオレンジジュースをゴクリと飲み、ため息をついた。
『も〜。コキばっかり使わないでよね!』
:08/06/18 01:02 :W51CA :vSgbzwek
#846 [ザセツポンジュ]
ジョウは膨れっ面で階段を上がり、2階の上のそのまた上の、屋根裏部屋のドアを叩いた。
コンコンコン。
『に〜ちゃん!……に、にぃいちゃん!』
ジョウは少し待って、
耳を澄まし、ドアノブに手をかけた。
ガチャー。
相変わらずゴチャゴチャしている部屋。
画材に雑誌に、本にソフト。付けっぱなしのパソコンに…
『…あれ?にーちゃん、いないや。』
:08/06/18 01:09 :W51CA :vSgbzwek
#847 [ザセツポンジュ]
:08/06/18 01:13 :W51CA :vSgbzwek
#848 [ザセツポンジュ]
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『おつかれさまで〜す。』
オレが店の戸を開けたと同時に
バイトの人とおぼしき若い女が店を出て行った。
『六さんの店、久しぶりだな。』
席に案内され、座敷に座るなり
目の前にいる中年男は
おしぼりで顔を拭きだした。
『そうだね。父さんと会うのもだいぶ久しぶりだけども。』
そう。そのだいぶ前に
出て行った父さんの顔を拭く姿を見て
老けたな〜と感じ、メニューを開いた。
『隣のおじいちゃんは元気か?あの説教くさいおじいちゃん。』
父さんはおしぼりを置いた。
『ん?元気に決まってるだろ。トミーも元気だよ。。。あと、ジョウジロウも元気。』
:08/06/18 13:24 :PC :Qvr/oogU
#849 [ザセツポンジュ]
家族の事よりも先に
きーさんの事を聞いて来るあたり、
よほどに目の敵にしているに違いない。
『元気か。ジョウジロウ、中2か。荒れてないか?』
寂しそうな顔でメニューを覗き込む父さん。
“松コース”を指差した。
『いいの?無理してない?』
『無理してるに決まってるだろ。いいから頼みなさい。』
えらそうにメニューを閉じた父さんだが、
無理してるとはっきり言われると、返ってスッキリするもんだ。
『すいませ〜ん。』
:08/06/18 13:25 :PC :Qvr/oogU
#850 [ザセツポンジュ]
ヒョイっと顔を出した六さんは、
オレ達の顔を見て、ニッコリ微笑み
テーブルに手をかけた。
六さんの、なんとも言えない優しい顔に
オレはホっとした。
『シンイチロっちゃん。お父さんと、珍しいな。アンタ、元気だったかい?』
ポンと、父さんの肩を叩いた六さん。
父さんは、笑った。
『あぁ。それなりにな。』
一番高い“松コース”を頼んだ後
料理を来るまでの間、黙っていることは
できなかった。
『ジョウジロウ、荒れたりしてないよ。年頃の割りにはいい子だと思うよ。鈴木の姓にも、もういい加減慣れたみたいだしさ。』
父さんは何度も頷いていた。
“それならよかった”と。
:08/06/18 13:26 :PC :Qvr/oogU
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