.。改]恋愛成就の洞窟で。.
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#201 [桔妁]
「あ、あぁ…うん。」
繭の空気が明るくなりつつありそうだと、天弥は顔を上げた、が。
「人殺しの、給料?」
それはそれは綺麗な簪であったのだ。
それが、天弥の給料だとしたら…つまり人殺しをした分の給料ということだ。
「受け取れない…」
:08/01/02 22:16 :SH903i :☆☆☆
#202 [桔妁]
「それは平気じゃ!」
そこへ、聞き覚えのある声が響いた。
「「頼仲(くん)!?」」
「そらやの奴ァ、俺んところで働いちょるんよ!その少ない銭集めて買ったんじゃ!
だから繭、貰ってやってくれんか?」
なっ、と頼仲は天弥の肩をたたく。
:08/01/02 22:21 :SH903i :☆☆☆
#203 [桔妁]
「じゃあ、もう…殺してない?…人は、殺さない?」
簪を見つめながら繭が言った。
天弥も頼仲も頷いた。
「そのかわり"此処"は過去なんだ。いつかやむを得ないときがある…。そのときは、許してくれ。」
「繭を守りたいから」
「おい!!!!!誰が守りたいからだ!!」
:08/01/02 22:27 :SH903i :☆☆☆
#204 [桔妁]
頼仲が口を挟んだことにより、なんとなく格好がつかない天弥はぶんむくれていた。
繭は、そんな二人を見て微笑み、簪を髪に刺した。そして天弥のほうへ駆け寄り、
「帰ろう?……なんか、ごめんなさい…でした。」
ばつが悪そうに繭が天弥に言い、手を差し出した。
:08/01/02 22:31 :SH903i :☆☆☆
#205 [桔妁]
天弥は驚きながらも手を取り、頼仲に会釈した。
ぱしゃんと家の扉が閉まり、天弥と繭は帰っていった。
「あ-…繭が取られちったよ…。」
頼仲が繭に本気だったのかは知れないが、空しく響いた声は土壁が吸収した。
その後すぐに二人が雪まみれで戻って来て、明るくなるまで頼仲の家に居たのは、また違う話だ。
:08/01/04 14:58 :SH903i :☆☆☆
#206 [桔妁]
―第6章―
――守るためにと
男は泣いて剣を振る―
.
:08/01/04 15:01 :SH903i :☆☆☆
#207 [桔妁]
「うわ-!こんなにいいんですか??」
冬、村に人が来る事は滅多にないそうで、お茶屋は休業中である。
だからと言う事で、お雪ちゃんに連れられて、お雪ちゃんの家(?)の年始の手伝いに誘われたのだ。(家というか…仕事場?)
そう、今はその手伝いが終わり、一番偉い人からお金を貰った所である。
:08/01/04 15:09 :SH903i :☆☆☆
#208 [桔妁]
「あぁ、こんなに働いてくれたんだ。当たり前さね。」
姐御的なその人は、美人で気の強そうな人だ。
「有り難うございます!」
横ではお雪が腕をつつく。
「やりましたね!これでお着物を買って髪を結ってもらって…天弥様に…キャッ!」
めくるめく妄想を始めそうなお雪に、繭はため息をついた。
:08/01/04 15:16 :SH903i :☆☆☆
#209 [桔妁]
「着物か…。そ-だねっ!あ-でも髪は……」
チラリ、と繭はお雪の髪を見る。
綺麗に時代劇的に結ってある髪がヅラじゃないと思うと、もはやそれは芸術であると見えた。
ただ、やはり抵抗がある。
そのために繭はいつもポニーテールなのだ。
「髪は、……私の国ではこうだから…いいかな、これで。」
苦笑いすると、お雪も頷いた。
:08/01/04 15:20 :SH903i :☆☆☆
#210 [桔妁]
「まぁ、それでいいですよね!貴女らしいです!」
ふふ、と微笑むお雪に繭も微笑み返した。
と、奥からお雪の仕事仲間がやってきた。その人によると、客人らしい。
「繭を呼んでくれ、とお若い殿方が…」
あぁ、天弥が迎えに来たんだ。繭は立ち上がって姐御(違)に挨拶をする。
:08/01/04 15:25 :SH903i :☆☆☆
#211 [桔妁]
「いいねぇ、色男が居るときた!…あたしらも負けてはられないねぇ!!」
「や、別に男って…え??や!!違いますけどっっ!!」
誤解ですよと必死に否定する繭に、姐御はニタッと笑う。
「また、いつでも遊びにきて!!歓迎するからさ!!」
:08/01/04 15:29 :SH903i :☆☆☆
#212 [桔妁]
姐御がそう言うと、すくっとお雪が立ち上がり、
「玄関まで案内します」
と、連れていってくれた。
玄関先には天弥が居て、なんとも言えない平和な笑みで迎えてくれていた。
繭はお雪に礼を言い、天弥に駆け寄った。
すると、天弥は万遍の笑みで、こう言った。
「町に家を貰ったぞ!」
:08/01/04 15:33 :SH903i :☆☆☆
#213 [桔妁]
「は!?」
「だから、一人暮らしのジーサンが死んでな、家が空いたからくれたんだよ!」
今年最後の、神様からのプレゼントみたいだ。
「家…ってことは、部屋が幾つかあるんだよね!?…ドアついてるんだよね!?」
繭は上擦った声で尋ねる。
これで、寒い寒い家とはお別れだと思うと嬉しくてたまらない。
「当たり前だろっ!!さ、荷物は俺が持ってったから、早く行こう!!」
:08/01/04 15:38 :SH903i :☆☆☆
#214 [桔妁]
「うわ-!立派なモンじゃない!!」
居間と寝室と客間の三部屋ある家は、今時のマンションより立派だと思う。
居間にある囲炉裏を焚けば、今時期の冬もあったかいだろう。
「な!すげ-だろ!!」
「これで二人で同じ部屋に寝なくて済むね!!…私の部屋、寝室に決めた!」
「え」
:08/01/04 15:43 :SH903i :☆☆☆
#215 [桔妁]
「や、寝室は寝室じゃネ?」
繭はププッと笑って天弥に言う。
「や、「ネ?」っていうか、年頃の娘としては違う部屋が当たり前じゃネ?…天弥がなんかしてきたら嫌だしー…」
早速、寝室に自分の荷物を運び込む繭。
愕然とする天弥は渋々、自分の荷物を客間に運んだ。
:08/01/04 15:48 :SH903i :☆☆☆
#216 [桔妁]
(そ、そりゃ-頼仲とか、笹原とかに「よく我慢できるのう」とか言われてるけどなァ…別に、まだ平気じゃねーか…)
ぶつくさ言う天弥は、やはり納得が行かないらしい。
「さぁ、部屋に入れるもの入れたし…。頼仲と頼弦さん呼んで…―カウントダウンパーティーしよ!!」
打って変わってハイテンションの繭は、天弥に全力な笑顔を向けた。
「―…はいはい…呼びに行くよ…」
:08/01/04 15:54 :SH903i :☆☆☆
#217 [桔妁]
―――――
―
大晦日パーティーは大成功を納めた。
今は明け方である。
頼仲はおちょこを握りながら眠っていて、天弥は飲み過ぎでハイテンション、頼弦は酔い覚ましにと外に出ていた。
繭は酒に抵抗があるので、玄米茶を飲んで過ごしていた。
「まゆー」
酔った天弥は、餓鬼んちょで可愛いげがある。
:08/01/04 15:58 :SH903i :☆☆☆
#218 [桔妁]
が、ひっつかられると中々嫌なものなので、思わず繭得意の蹴りが飛び出してしまった。
「………ぐへ…っ」
何かが出たような音がしたが、気持ちが良さそうに眠る姿を見て安心した。
と、頼弦さんが戻って来た。
:08/01/04 18:05 :SH903i :☆☆☆
#219 [桔妁]
「あ、外は寒かったんじゃないですか?」
繭は頼弦に柔らかい笑みを向けながら、ぬるくなった玄米茶を一気飲みした。
「や、寝正月だとあんまりだから、みんなを起こしに来たのだが…それ…」
「あひゃれ?」
頼弦が見たときには遅かった。
:08/01/04 18:11 :SH903i :☆☆☆
#220 [桔妁]
「そ、そりゃあ頼仲が飲んでた酒だぞ……」
酒好きの頼仲が持ってきた中でも、自分専用だと言いはっていた強い酒を一気飲みしてしまったのだ。
運の悪い事に、玄米茶の隣にあったので仕方ないといえば仕方ないが…
そうこうしている間に、繭は意識を手放してしまった。
「結局皆……寝正月か…」
頼弦は繭の飲んでいた玄米茶を飲み干し、自分は壁によりかかり、眠りについた。
:08/01/04 19:47 :SH903i :☆☆☆
#221 [桔妁]
次に繭が目覚めたのは、二日の夕方であった。
寝室で寝ているあたり、誰かが運んでくれたのだろう。
「頼弦さんかな…お礼言わなくっちゃ……」
と、半身を起こしたところで、家に人の気配がないことに気がついた。
戸が半分開いていて、居間の様子がわかった。
勿論、正月の後片付けはしてある居間は、誰も居なく、囲炉裏の火が寂しそうに瞬いていた。
:08/01/05 00:16 :SH903i :☆☆☆
#222 [桔妁]
居間に出ると、微かながらに白粉と香袋(多分お雪さんのだろう)の匂いが鼻をくすぐる。
「何か、あったのかな…」
とりあえず、天弥の部屋である客間を覗く。
やはり居ない。
そして、確かに部屋の奥に立て掛けてあった刀がなかった。
念のために部屋を見回したが、やはりない。…余計に、嫌な予感がした。
:08/01/05 00:21 :SH903i :☆☆☆
#223 [桔妁]
「……天弥…」
そのまま表に出て、宛も無く走った。ただ身体が進むままに走った。
気がつくと山に居た。
日はまだ冬で短く、もう西の地へと落ちていた。
東を見ると、暗闇が追い掛けて来ている。…星が、それこそ宝石のように輝いていた。
と、近くから金属が混じり合う、リアルな音が聞こえる。
:08/01/05 00:27 :SH903i :☆☆☆
#224 [桔妁]
少し近くまで歩みよると、カチンと足に何かが当たった。
「…ん?」
拾い上げればそれは、小刀。血も何もついていない、輝く小刀だった。
そして、暗くなりつつあった視界が慣れてきた頃と同時に、目線を金属音の方へ向けた時、繭はその場に固まった。
「……!!」
そこには、生臭い臭いを漂わせて、一人の男を後ろに庇い複数の人と戦う天弥の姿があった。
:08/01/05 01:22 :SH903i :☆☆☆
#225 [桔妁]
白い雪は多分、紅く染まっているんだろう。
庇われている人は動かない。
しばらく見ていると、一人が天弥にやられた。
それに恐れて、あとの人達は逃げて行った。
「………」
:08/01/05 13:39 :SH903i :☆☆☆
#226 [桔妁]
繭はすかさず駆け寄る。
そして、天弥の目の前まで行った。
頬を思いきり叩こうと思った。
けど、天弥は泣いていて叩く気は、何故か失せた。
「…どうしたの?」
天弥の涙は、自分の涙も誘った。
:08/01/05 13:48 :SH903i :☆☆☆
#227 [桔妁]
ふと、さっき庇われていた人の方に目が向いた。
天弥もそちらを向き、冷たい雪の上に、何の躊躇もなくしゃがんだ。
そして、庇われていた人からは息がもうないようで、ピクリとも動かない。
先程より暗いので、繭には誰かも解らない。
そこで、やっと天弥が口を開いた。
「…繭、これ、な…頼、仲…」
:08/01/05 16:07 :SH903i :☆☆☆
#228 [桔妁]
繭は、耳を、天弥を疑った。
「頼仲くん…?え、ま、まさか…」
冗談っぽく笑うと、視界が暗闇に慣れた。
雪の上に、確かに見たのは…
本当に頼仲くんだった。
:08/01/05 16:11 :SH903i :☆☆☆
#229 [桔妁]
「え、な、なんで…」
一日の朝方、確かに気持ちがよさそうに眠る頼仲を見たのに。
「ただ、酔っ払いに絡まれたんだよ…母親の、墓参りの途中だと、思う…。………ごめん、ごめん頼仲…」
天弥が頼仲を抱きかかえて謝るとき、繭は顔を反らさずにはいられなかった。
:08/01/05 17:10 :SH903i :☆☆☆
#230 [桔妁]
――――
―
それから天弥は動かない頼仲を背負い、繭と山を下りた。
時は既に深夜に回っていたので余計に寒く、指はかじかんで、足は霜焼けで酷かった。
でも天弥はそんな事など頭中に無いだろう。
ただ、悔しさだけが腹を巡っていた。
繭は何も、励ましも、ましては話し掛ける事すらも出来なかった。
:08/01/05 22:55 :SH903i :☆☆☆
#231 [桔妁]
天弥の涙は、渇いていた。
繭の涙は、出なかった。出す事さえも出来なかった。
ただ、隣で天弥におぶられている頼仲くんは、本当に眠っているようだった。
天弥の歩くリズムの振動が息遣いによく似ていたからだろうか。
二人は、何の会話も交わさずに町へと着いた。
:08/01/05 23:01 :SH903i :☆☆☆
#232 [桔妁]
――――
―
頼仲の家に戻ったけれど頼弦は寝ていて、繭は起こすのが嫌だった。
それでも天弥が繭に起こせと言うので、泣きそうなのを堪えながら頼弦を起こした。
「――…繭殿??」
寝ていたらいきなり女が目の前に居たとなればびっくりだろう。
いかにも何も知りませんという顔の頼弦を見ると、繭はさらに心が痛んだ。
:08/01/06 10:42 :SH903i :☆☆☆
#233 [桔妁]
「よ、頼弦さ-…ん……」
とうとう繭は泣き出してしまった。
「どうした、?」
繭の涙にただ事ではないと感じたが、また大形、天弥から逃げて来たのだろうというところだった。
「繭、お前……」
繭の泣き声を聞き、天弥が頼弦の部屋に来た。
頼弦はさらに目を丸くして二人を見た。
「二人共、こんな夜にどうした?」
:08/01/06 10:47 :SH903i :☆☆☆
#234 [桔妁]
頼弦は部屋に明かりを燈した。
そこで頼弦の目に浮かび上がるのは、血に服を濡らした天弥と、泣きじゃくる繭だった。
これはやはり、ただ事ではないと感じた頼弦は言った。
「…今、父上が帰ってきているから話しを聞こう。……頼仲も呼ぶか?」
正月休みだから、父親が出稼ぎから帰っているのだ。
「…頼仲の兄上……そ、そのな…頼仲なんだけど、さ…」
:08/01/07 13:04 :SH903i :☆☆☆
#235 [桔妁]
「ん?」
「頼仲…死ん…死んだ…」
頼弦は、天弥の言葉に目を丸める。
その、天弥の服に付く赤が頼仲のものかと言った。
「いや、数人の奴に、喧嘩を売られてたんだと、思う…」
天弥が頼弦の前で土下座をした。
繭も、頼弦もびっくりだ。
:08/01/07 13:09 :SH903i :☆☆☆
#236 [桔妁]
「俺が行った時にはまだ、息があったんです!!…喋って、俺に、
"人は殺しちゃ駄目じゃ、酒に酔ってるだけじゃ、こ奴らは何も悪い事はない"
そうやって、言ってたんです。でも、
頼仲を救うためには、酔っ払いを消す他なかった…
でも、皆居なくなったとき…頼仲の息は、もう……
すいません…!!!すいません、すいません!!」
:08/01/07 13:14 :SH903i :☆☆☆
#237 [桔妁]
天弥の話を聞く繭は、はっと気がついた。
足に当たった、あの小刀を。
あれは確か、頼仲のだ。
いつか一緒に遊んだ時、変な侍に向けていた。
繭がいるから、無駄な殺生はしないよ
そのときの、小刀だ。
そして気がついた。
頼仲は、本当に無駄な殺生はしない人なんだ。
:08/01/07 13:18 :SH903i :☆☆☆
#238 [桔妁]
あのときの侍だって、その場だけの戦いだった。
真剣勝負じゃなくて。
今回も、酔っ払いなら、悪いのはその人自身じゃないって…お酒だったって。
だから剣は振るわなかったんだ。
だから、死にそうな時にも自分の志を、天弥に告げてたんだ……。
それでも、天弥は守る者を優先して、たんだ…
:08/01/07 13:23 :SH903i :☆☆☆
#239 [桔妁]
―――――
―
その後、頼仲を墓に連れて行き、事は済んだ。
頼仲の父親は、泣き顔こそ見せなかったが、瞼の腫れからすると、相当泣いたに違いない。
「頼仲は、心の広い奴だった。――それでも、人を殺めぬ理由を
"わしは、無駄に殺しはせんよ。まァ、ただ自分が臆病なんじゃけどな"
と、臆病だからと申していた…。
そこが、仇になったのか、頼仲は本望だったのか…」
:08/01/07 13:29 :SH903i :☆☆☆
#240 [桔妁]
誰に話しかけたのか、頼弦は空を向いていた。
そのあとは、お線香が空に昇るのを一同眺めていた。
.
:08/01/08 17:49 :SH903i :☆☆☆
#241 [桔妁]
―第7章―
――昔話旅人さんの
鬼道洞窟昔話―
.
:08/01/08 17:58 :SH903i :☆☆☆
#242 [桔妁]
「繭、お前いい加減になァ…」
天弥は髪をかいて、面倒臭そうに欠伸をした。
季節は、雪解けの春。
小春日和でついついうたた寝の今日この頃。
「な、天弥だって薄情じゃない!?友達じゃん!」
私、繭は元気になれません。
頼仲くんにもらったハートのお守りをきゅっと握る。
:08/01/08 18:05 :SH903i :☆☆☆
#243 [桔妁]
「もう、頼仲は居ないんだからさ。……前向け。前。
頼仲だって、望んでないと思う。こんなクヨクヨされるのは。」
分かる。
天弥の気持ちも、頼仲くんの気持ちも。
……うん。そうなんだよね…!!
「うん、分かった。…そーだよね!!頼仲くんも…ってアレ??
話聞けぇぇ!!!!」
.
:08/01/08 20:33 :SH903i :☆☆☆
#244 [桔妁]
天弥は村外れへと歩いていく、旅人のような人にくぎづけだ。
そう!繭と天弥は久しぶりに村に居るわけである。
「ん?変わった人だね…」
村の端には鬼道の洞窟があるために、滅多に人は近づかないと天弥もよく言っていたが。
だが、旅人は奥へ奥へと進む。
いつの間にか無意識に二人も、奥へ奥へと尾行していた。
:08/01/08 20:37 :SH903i :☆☆☆
#245 [桔妁]
「ちょ、なんで後つけてるの!?」
草村に隠れながら洞窟の前にいる旅人を指差し繭は小声で言う。
「馬ー鹿。だったら付いてくんなよ。……でも、なんかさ、珍しいじゃん。人が洞窟に居るのって。」
「確かにそうだけど…あれ?なんか…あの人こっち見てるよ?」
.
:08/01/09 15:16 :SH903i :☆☆☆
#246 [桔妁]
繭が旅人をチラ見した瞬間に、目が合った気がした。
「そんなはずないだろ…って………!!!」
そう言うと天弥は固まった。
しばらくして、しゃがみこんでいる繭の頭上に影がかかった。
それは紛れも無く人の影。
繭が上をむくと、旅人がにっと笑った。
:08/01/09 15:21 :SH903i :☆☆☆
#247 [桔妁]
「え、あ、あれれれ…」
笠を被った旅人の顔は確認出来ず、余計に緊張させられる。
旅人は、透き通る声で二人に言った。
「お前ら、ここの村人か?」
確実にその声に少し酔いしれていた二人だが、しばらくしてからこくこく頷いた。
「そうか!!で…この洞窟の噂を知っているか??…私は、この事を物語にしたく来たのだが。」
:08/01/09 15:26 :SH903i :☆☆☆
#248 [桔妁]
二人はブンブンと首を横に振る。
「二人とも何も喋らないとは、似た者夫婦だな!!」
あはははと笑うその声も、稟としていて美しい。
天弥もつられて笑っている。
「ん?夫婦じゃないですよ!!??」
笑いで掻き消され、繭の必死な声は届かなかった。
:08/01/09 15:44 :SH903i :☆☆☆
#249 [桔妁]
「…―ていうか、そもそも…この洞窟の噂って、なにがあるの?」
しばらく笑っている二人を見ていた繭がそういうと、旅人がまた、にっと笑った。
「なんと、村人なら知っているかと思ったんだがな!!…中々心を引かれる噂があるんだよ!!」
天弥の方をむくと、俺も洞窟については知らないと首を振った。
「それじゃあ私が話してやろうか。」
旅人は繭達としゃがみ込み、洞窟の昔話を始めた。
:08/01/09 15:49 :SH903i :☆☆☆
#250 [桔妁]
「この洞窟はな、名前の通りの"鬼の道"なんだ。恐ろしい鬼の国への通路となっているらしい。
"何らかの事"をすれば、道は開けるらしい―…まあその"何か"は今調べようとしているんだけども…
そしてその道が繋がった瞬間、ふいに暗闇に包まれ……いつの間にか、意識を失っているんだ。
目を覚ますと…すでに鬼の国に着いてしまっているそうだ。
:08/01/09 20:17 :SH903i :☆☆☆
#251 [桔妁]
目が覚めると、沢山のお墓の並ぶ太い道があるそうだ。そして、遠くからは鬼の鳴き声が。
そうして、お墓の並ぶ道を段々と道を進んでいくと……鬼の都を見渡せるという話だ。
家屋がところ狭しと立ち並び、人々が慌ただしく働く。…人々は鬼の配下のようだ。
それに目を向けていれば、お次は巨大な大蛇が鳴きながら高速で駆け抜ける。
だが、鬼の姿は見当たらないというのが不思議なところだ。」
:08/01/11 23:34 :SH903i :☆☆☆
#252 [桔妁]
話が終わると、旅人はよっこらせと立ち上がった。
「私はだな、この洞窟の外に行ってみたいんだよ。」
澄んだ声でそういった。
「え、だって鬼の国行って帰ってこれるの?」
繭がそう言い、ムードは少々崩れたが。
「まぁ、この話があるということは帰ってこれたから伝えているんだろう?」
旅人が話を元に戻せば、口端をあげて微笑んだ。
:08/01/12 14:23 :SH903i :☆☆☆
#253 [桔妁]
「そこでだ!…私と共に洞窟の外へと行ってみたくはないか?」
繭と天弥の二人は顔を見合わせた。そして旅人に顔を向けた。
「いいですよ!!」
「あ、今回は…やめときます。」
繭が断り、天弥は思わずポカンと殴った。
:08/01/13 18:18 :SH903i :☆☆☆
#254 [桔妁]
「何するのよ!!」
「お前、普通そこは参加だろ?」
天弥はキラキラ輝く目をこちらに向けている。
繭は一瞬どもったが…
天弥の誘いはしつこいために、しかたなく。
「う-ん…。あたしは入らないけどね?」
承諾したのだった。
.
:08/01/13 22:12 :SH903i :☆☆☆
#255 [桔妁]
―第8章―
――おばあちゃんの知人の
蔵の奥から―
.
:08/01/13 22:14 :SH903i :☆☆☆
#256 [桔妁]
――――――――
―
「繭が居なくなってからもう半年以上か?」
「…………。」
繭の居た現代では、両親が心配に心配をしていた。
母はやつれていた。
テレビでも、もうとっくに顔を見せる事はなく、その存在は、天弥と同様に世界から薄れていた。
:08/01/13 22:18 :SH903i :☆☆☆
#257 [桔妁]
繭の捜査をする上で、両親は天弥の両親にも会っていた。
だが、全く情報はなかった。
天弥の友達は現在中学三年生である。
彼等の中からも天弥の存在は確実に消えつつあった。
:08/01/13 22:21 :SH903i :☆☆☆
#258 [桔妁]
しかし、立ち上がった人達は僅かながらに居たのだ。
警察にも見放されてきている二人に目を向けた者達……
――――
―
「ねぇ、今回の議題は?」
髪の長いおかっぱの少女が話し掛ける。その先には少年が。
気付けば丸い机を数人の生徒が囲んでいる。
:08/01/14 09:50 :SH903i :☆☆☆
#259 [桔妁]
「今回は―…"神隠し"にしないかい?」
彼等は小さな町のある学校の生徒たち…
心霊非科学研究部のメンバーだった。
「神隠し…って去年の夏のですか?あれは没になったじゃないですか。」
「いや、それが調べてみたんだけど…。ミステリー…。きっと凄いことになる気がするんだよ。」
:08/01/14 09:56 :SH903i :☆☆☆
#260 [桔妁]
彼等は校内で、色々な意味で噂になっている。余り活動的な部活ではない為に、部員は四人。部費は常に赤字であるのは言うまでもない。
その部員達を詳しく説明するとしよう。
面白そうな事を見つければ"ミステリー"と言う部長。
気の強そうなおかっぱ頭の副部長。自称座敷わらし。
座敷わらしに連れられて、ひょんな事から部員になった二年生。元サッカー部員。
全ての雑務をなんなくこなし、違う波動をキャッチできる一年生の女子。
:08/01/23 15:06 :SH903i :☆☆☆
#261 [桔妁]
それぞれの名前は、
吉原 望(ヨシハラ ノゾム)
七塚 舞子(ナナツカ マイコ)
椎名 慶(シイナ ケイ)
柳園 奈緒(リュウエン ナオ)
雪のしんしん降る中で、彼等が動く事を決定する。
「では、一月以内に資料を調べますね。」
柳園が言えば、三人は真っ直ぐな目で見て頷いた。
:08/01/26 20:58 :SH903i :☆☆☆
#262 [桔妁]
―
―――
寒い――…
この言葉が切実に伝わるかは定かではない。が、実際に繭には辛いものであった。
囲炉裏はあるが隙間風は体の部分を冷やして、それがまた辛いものであった。
春始めになったといつか告げていたが、それはつかの間の晴れ続きだったに過ぎないようだった。
「天弥は旅人と村長の所だしな…うう、寒い…」
:08/01/26 21:13 :SH903i :☆☆☆
#263 [桔妁]
―
――――
「村長――…」
「おっさん…」
旅人と天弥は村長を丸い目で見た。
「…ま、昔の話だがな…」
村長はキセルを吹かしながら七輪を突いている。
「兄さん!!凄い話じゃないですか!!!!」
:08/01/27 22:17 :SH903i :☆☆☆
#264 [桔妁]
天弥は異世界への思いを深く馳せていた。
「そうだな…。村長、ありがとう!!」
二人はお辞儀をして家を出た。外に出ると雪が降ってきそうな風が吹いていた。
「風強い…早く帰って暖まりましょう、兄さん!」
天弥は親しみをこめ、旅人を兄さんと呼んでいた。
旅人は頷くと、天弥の手を引き走った。
:08/01/27 22:22 :SH903i :☆☆☆
#265 [桔妁]
手を握られた天弥は驚いた。旅人の手は冷たく華奢だったからだ。
(兄さん、寒いんだ…)
天弥はそんな風に思い、早く囲炉裏に当たらせてあげたくて、走るスピードをあげた。
「!?ちょ、天弥!!」
その早さに戸惑う旅人。
と、ふいに向かい風が吹いた。
:08/01/31 23:55 :SH903i :☆☆☆
#266 [桔妁]
ばさっ…と取れたのは旅人のかぶっていた笠である。
同時に、旅人の頭に束ねられていた長い黒髪が姿を現した。
切れ長の目も光を浴びていた。
そういえば旅人の頭、さらには表情までもを見た事がない天弥であるが、驚いた。
まさか、まさか。
「え…に、兄さん……!」
どこからどこを見ても、旅人は女でしかなかった。
しかも、美人ではないか!
:08/02/01 11:33 :SH903i :☆☆☆
#267 [桔妁]
「!!!」
驚いた天弥は、何やら聞き取れない事を言い、走りさってしまった。
旅人は、ぽかんと天弥を見ていた。
「…いつ私が、男だと申したろうか…。」
笠を拾いかぶると、とぼとぼと天弥の家へ向かうのであった。
:08/02/01 11:39 :SH903i :☆☆☆
#268 [桔妁]
――
がらりと、扉が開き冷たい風とともに天弥が立っていた。
「ああ!天弥!!…本当、寒かったんだから…っ……どしたの?」
ぽかーんと、何か大切なものを抜かれたような顔をしている天弥が気になり、繭は言った。
「旅人兄さんが…美女に……兄さんがァアア」
この狭い空間を走って繭の前へと行き、天弥は叫んだ。
:08/02/01 11:43 :SH903i :☆☆☆
#269 [桔妁]
「…??旅人のお兄さんがどうかしたの?」
多少呆れ顔で見る繭に、天弥は少し気持ちを落ち着けたのか、囲炉裏の火に当たり始めた。
「いや、それが…あの人、兄さんじゃなくて…。」
何故か、もじもじしている天弥。と、そこに旅人が帰ってきた。
:08/02/01 23:25 :SH903i :☆☆☆
#270 [桔妁]
「む、天弥は帰ってたか…」
繭は旅人の方を見る。これと言って異変はない。
「あの…なんかでも天弥が変なんですけど……」
繭は客間を指さして苦笑いをする。
天弥はというと、先程扉が開いた時点で、"嘘だーーーァ"と叫んで自室である客間に隠れてしまっていた。
「いや、なんか私を男だと勘違いしていたらしくてな…」
:08/02/03 07:29 :SH903i :☆☆☆
#271 [桔妁]
旅人は笠を取って、髪を解いた。
そしてニッと笑う。
「改めて、私は東家 暁(トウヤ アキ)と言う者だ。」
切れ長の目、揺れる黒髪、白い肌、華奢な体………ああもう、いうならば美人という他にないということである。
「暁さん…ですか。でも、なんでこんな…洞窟なんか気にしてるんですか?」
:08/02/04 22:24 :SH903i :☆☆☆
#272 [桔妁]
こんなに綺麗な人なのだ。洞窟に恋するよりも、もっといい事があるだろうに。
「いや、私は旅人というか…書物におさめたくて来たのだが…。」
「そうなんですか…」
つまり、今の時代でいえば"駆け出しの作家"みたいな感じなのだろう。
すると旅人…もとい暁は立ち上がり、荷物を纏めた。
「天弥に伝えておいてくれ。…明日は寒いだろうから休んでくれと。」
:08/02/05 11:46 :SH903i :☆☆☆
#273 [桔妁]
返事をする前に旅人は去って行った。
しばらくすれば天弥が出て来た。
「…ああ、暁さんね、うん。」
何かを一人で納得している。その姿はまさに生気が抜けたっていう感じで、見てて笑えた。
「んでも、天弥、急にどうしたの?暁さんが女だから何だっていうの……。」
はぁ、と繭はため息をつく。
:08/02/05 11:51 :SH903i :☆☆☆
#274 [桔妁]
ため息をついたまま天弥の耳に、目を向けた。
赤い。赤いッ!!
そうか。と、繭はそこで全てを確信した。女の勘は鋭いものだ。
ことに、恋愛事となれば尚更である。
「そっかー、暁さんに恋しちゃったか♪」
:08/02/05 11:54 :SH903i :☆☆☆
#275 [桔妁]
天弥は瞬間に目を見開いた。ほんの冗談(でもないけど)だったのに面白い反応。
確かにあの容姿では、女の私でも緊張してしまう。
笠に隠れていて今まで分からなかったが、そうとうな美人だった。
それは天弥が惚れてしまうのも無理は無いな、と繭は胸の内で思ってから、自室にこもった。
少し、苛立って。
:08/02/09 15:34 :PC :1P02R/pA
#276 [桔妁]
―
――――
「部長ー。――吉原部長―!」
三年生の教室に、少し幼い声が響く。
吉原は教室の外から呼びかける柳園の方へ笑顔で向かった。
「部長、調べ終わりましたよ。」
そう言って柳園は資料を吉原に渡した。
:08/02/09 15:40 :PC :1P02R/pA
#277 [桔妁]
「おお!沢山調べたね。」
そう言いながら、束になった資料をパラパラと見る。
と、ある写真の付いているページで手を止めた。
「二人の人間が神隠しに遭った村か…。成程、古い家屋ばっかりだね…。」
:08/02/09 15:44 :PC :1P02R/pA
#278 [桔妁]
柳園はついつい首を傾げた。
部員なってもうすぐ一年が経つが、この男の目の付け所がいまいち分からない。
そんな柳園を見て吉原は微笑んで言った。
「今日の昼休みは部室集合だ。慶を呼んでおいてね。」
:08/02/09 15:48 :PC :1P02R/pA
#279 [桔妁]
「はい、じゃあ七塚先輩は部長が声をかけるんですね。分かりました。」
部長の言いつけに素直に頭を下げて、柳園は教室を後にする。
吉原はそんな柳園を見届けた後、少し興奮気味に教室内の自分の席についた。
:08/02/09 15:52 :PC :1P02R/pA
#280 [桔妁]
「それじゃあ、今日昼休みにまで皆に集まってもらったのは―――」
昼休み。吉原が声高々に皆にそうつげようとしたときだ。
「あの、部長。」
「なんだ?」
慶が口を挟んだことで、少し冷めた吉原。
「七塚センパイ、来てないんですけど。」
:08/02/09 15:57 :PC :1P02R/pA
#281 [桔妁]
「――あ。呼び出し忘れてたよ…」
柳園は、くすくすと微笑む。
あの後結局柳園は七塚の所へ顔を出した。そして昼休みの事を話したのだが。
彼女は今日は用事があるからと言っていた。
だから今此処に来ることはないのだ。
それを吉原に話したときは、すごく安心した顔をしていた。
:08/02/09 16:01 :PC :1P02R/pA
#282 [桔妁]
「と、本題に戻らねばね。……皆、明日からの連休は空いてる??…空いてるな。」
部長は早速話題を元に戻せば強制的に、明日からの連休を空いているものとした。
「や、俺ちょっと用事――…」
そんな慶の言葉は無視で、どんどん話は進められた。
勿論今出席していない七塚も、連休は空いていることになった。
:08/02/11 01:26 :SH903i :☆☆☆
#283 [かな]
あげ〜☆
:08/03/24 22:37 :F703i :Hn3ykPUM
#284 [我輩は匿名である]
>>283かなさん
ありがとうございいます!
長い間放置で申し訳ございませんでした!
更新!!
:08/04/02 18:08 :PC :ybBNixPo
#285 [桔妁]
――――
―
「ったく部長は…明日はサッカーの試合観戦があるってのに!」
慶は家の自室にこもって、明日にあるサッカーの観戦チケットを愛おしそうに眺めていた。
これは数時間後に友達へと手渡される。勿論、部で田舎へ行くためにそうなってしまったのだ。
:08/04/02 18:14 :PC :ybBNixPo
#286 [桔妁]
「小遣いだって残り少ないから前借りだしな…」
本当に何故自分はそんなオカルト部に居るのかが今更ながら不思議でならなかった。
ただ、明日に迫った小旅行のために身体だけは準備をしていた。洋服などがリュックの中に詰め込まれていく。
そしてその後、無事にチケットは友達の手に渡り、夜は更けていくのであった。
:08/04/02 18:21 :PC :ybBNixPo
#287 [桔妁]
―翌日――
「先輩!七塚先輩が来てませんよ!?」
「ん?あれ?」
朝。幸いにも気候は暖かく、絶好(?)の旅行日和であった。
そして慶だは分かった。七塚はズル休みをしたのだと。
:08/04/02 18:24 :PC :ybBNixPo
#288 [桔妁]
というわけで、人数がただでさえ少ないオカルト部は一人欠席という事で三人での課外活動となった。
「さぁ、ミステリー開始だね。」
部長の変な掛け声と共に、僕等は田舎から更に田舎へと行く電車に乗り込んだ。
―
―――――
:08/04/03 01:53 :SH903i :☆☆☆
#289 [桔妁]
―――
―
ここ三日前から俺は何故か繭に苛々をぶつけられている。
「なぁ繭、おかわり。」
「…それ位自分でやりなよ、」
ご飯のおかわりを頼むだけでもそんな事を言われ(いつもなら笑顔でやってくれていた)ため息をつかれる始末。
「…何故!?」
:08/04/03 01:58 :SH903i :☆☆☆
#290 [桔妁]
「お前達の痴話喧嘩のためにあるのではないぞ、此処は。」
此処は見慣れた頼弦の家だ。
そこでため息をつく頼弦の前に、天弥は胡座をかきそっぽを向いていた。
「違う。喧嘩じゃね-よ。一方的だぞ。」
そう言う天弥に気付かれぬように苦笑いをしてから言う。
「きっかけは多分お前だろう?繭は理由無しには怒るまいからな。」
:08/04/03 02:46 :SH903i :☆☆☆
#291 [桔妁]
「そう、だけどなー…」
頼弦がそう言う事は一理ある。繭は滅多に理不尽な理由で怒ることはない。
「けどさ、なんか俺したか?してないぞ?」
「……馬鹿だな。」
「は?」
頼弦が何らかの理由を察知してか呆れて言った。分からず天弥は声をあげるだけだが。
:08/04/03 02:51 :SH903i :☆☆☆
#292 [桔妁]
「頼仲とは全然違う奴だからなお前は。…少し奴に取り憑かれてみればいいだろうに。」
ため息混じりに頼弦が言えば。そこで扉がカラカラと音を立て、開いた。
「天弥、は居るか?…あぁ、そこに居たか。」
美人な物書き、暁の登場だ。笠によって隠れた白い顔はある意味では男も女もどきりとする。
:08/04/03 02:59 :SH903i :☆☆☆
#293 [桔妁]
「天弥殿、もう行くのか。」
この女の事は頼弦も少し知っていた。…というか天弥から聞かされていた。だからこれから洞窟について調べるのだということも分かった。
そして繭が何故怒っているのかも多少。
「あぁ。うん。」
「…………。それでは…今日の夜は一緒に呑まないか?…終わったらこっちに戻ってくれ。」
それに、繭殿には言っておくと付け加えた。
:08/04/03 03:04 :SH903i :☆☆☆
#294 [桔妁]
頼弦が呑みに誘うとは珍しい。というか初めて。
なので何故か断れず頷いて、天弥は家を出た。
残された頼弦も家を出る準備をした。
「いつから世話焼きになったのだかな…。まぁ家で痴話喧嘩の話をされるのも嫌だしな。」
そう呟けば草履を履き、繭の家へと向かった。
:08/04/03 03:08 :SH903i :☆☆☆
#295 [桔妁]
「くそ。天弥のあほんだら!………ひまだ…」
トントン、
「!」
繭が暇にして過ごしていれば、扉を叩く音が聞こえた。
それはよく知る頼弦であったので繭は快く出迎えてお茶を出した。
頼仲に比べ落ち着いた物腰の頼弦はやはり大人、といった感じで毎回少し緊張する。
:08/04/03 03:13 :SH903i :☆☆☆
#296 [桔妁]
「相変わらず美味い茶を有難う。……時に…天弥殿を阿呆んだら、と言っていたようだが、何かあったか?」
「は、…聞こえてたんですか!」
ニコリ、と微笑む頼弦さんは兄貴分のようで隠し事は出来ない雰囲気にさせた。
「いや、ただ暇だったので…」
けれどもこのモヤモヤっとする気分を悟られたくはなくて苦しいけれど笑顔でそう言った。
:08/04/03 03:18 :SH903i :☆☆☆
#297 [桔妁]
「そうかい?何かあるなら仏にでも愚痴をたらせば良い。…あ!」
「は!!」
ふいに頼弦は繭の後ろを指差した。
繭ははっと後ろをむき、その隙に頼弦は繭のお茶に酒を混ぜた。
いつぞやの正月のときの酒よりも酷いのを少し。
これは、頼弦の作戦であった。……青臭い二人の為の。
:08/04/03 03:22 :SH903i :☆☆☆
#298 [桔妁]
――
―
「暁さん、今度は何かあったんですか?」
横から顔を伺うようにして天弥が暁に尋ねた。
暁はそんな天弥に対し、くすくすと笑いながら言った。
「嫌だな、兄さんでもいいぞ??」
悪戯っぽく言う声はやはり透き通っていて美しい。
:08/04/04 00:52 :SH903i :☆☆☆
#299 [桔妁]
「えぇ!?…いや、あのときは失礼しました!」
初めて女だと気付いた日から比べればほとぼりは冷めていたので今では普通の対応は出来た。
それよりも今は素っ気ない繭についての方に思考回路は動いていた。
「……今日はだね、ほれ。物語の名前を考えたんだ。」
少しぽやっとしている天弥に対し、暁は一枚の紙を渡した。
:08/04/04 00:58 :SH903i :☆☆☆
#300 [桔妁]
「…ん?……お伽村、鬼国の書、……?」
そこには綴られた沢山の本の題名たち。
この中から一つに絞るのであろう。余り達筆すぎて天弥には読みにくい。
「…うわー、こりゃ完成が楽しみですね、兄さ…暁さん!」
そう言えば暁は目を細めて微笑んだ。
「完成したら天弥と繭に一番に見せてやろう!」
:08/04/04 01:04 :SH903i :☆☆☆
#301 [桔妁]
―――――――
―
その頃、電車に五月蝿いノイズがかかり、五月蝿い声が響いた。
吉原たちの目指す駅を言う声だった。
そしてそんな声のかかる一時間前、柳園は夢を見ていた。
そう、彼女の特異能力ともいえる異波動を掴んだ事によって見る夢の事…。
:08/04/04 01:08 :SH903i :☆☆☆
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