よすが
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#301 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
親子を装った会話・暴行・謝罪と手当て。
この一連の波が、日によってあたしかハナのどちらかに必ず訪れる。
あたしもハナも同じように怯えていた。真っ暗な闇の中で時間もわからないけれど、毎日昼が来るのを恨めしく思っていた。

けれど必ずどちらか一人はひどい目に合うのだと理解してから、ハナはあたしを庇い、食事の後自らドアの前に立ち男を待つようになった。
あたしはそれを止められなかった。
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⏰:08/05/05 00:13 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#302 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
違う。

止めなかった。


あたしは自分が大事だったんだ。

ハナがどんな思いでそこに立っているかなんて考えもせず、あたしはただ彼女の背中を罪悪感のこもった瞳で見つめるだけだった。
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⏰:08/05/05 00:13 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#303 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
正気を取り戻した時の男が言うには、あたしとハナは彼の娘に似ているらしかった。年齢も同じくらいで、髪もちょうど同じ長さだった。
特にハナは、雰囲気や仕草がとてもよく似ていると男は悲しげに笑っていた。

ハナはそれを知った上で、毎回、自ら狂った男の手を握りドアを閉めた。あたしに笑いかけながら。

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⏰:08/05/05 23:27 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#304 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは心のどこかでそれを喜んでいたのだ。ハナがあたしの身代わりになって暴行を受けることを、ラッキーだと思っていたのだ。

――あの時ハナを止めていれば……こんな結果にならなかったのかな……?


そしてこの事件はあたしとハナにとって最悪の終わりを迎える。
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⏰:08/05/05 23:28 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#305 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
男の狂った行動に何度も何度も付き合わされ、あたしたちは憔悴し切っていた。
コンクリートの中の闇と寒さ、男の加減を知らない暴力、そして終わりの見えない不安は、あたしを絶望させるのには充分過ぎるほどだった。

四、五日目までは、いつか解放されるだろうと思っていた。
男が正気を取り戻した時の優しさは、あたしたち二人を両親の元に返してくれるかもしれないと思わせた。
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⏰:08/05/05 23:28 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#306 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし一週間を過ぎた頃から、男は「もう戻れない」、「死ぬしかない」、そんな言葉をぼそっと独り言のように呟くことが多くなっていた。
男は正気と狂気の間を行ったり来たりしているかに見えていたけれど、その頃にはもう完全に、狂気に飲み込まれていたのだろう。
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⏰:08/05/06 22:29 📱:SH903i 🆔:1bdF9NU6


#307 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
だんだんおかしくなっていく男の様子に、あたしはさらに絶望を感じ始める。
男の独り言がじわりじわりと洗脳のようにあたしの意識に染み込んで、「もう戻れない」、「死ぬしかない」、いつの間にかあたしもそればかり呟くようになっていた。
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⏰:08/05/06 22:30 📱:SH903i 🆔:1bdF9NU6


#308 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナはその頃、あたしや男のように絶望するでもなく常に何か考え事をしているようだった。
あたしは自分のことしか考えられない状態でそんなハナの様子など気にも留めていなかったが、ある雨の日、彼女が日々何を考えていたのかが明らかになる。

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⏰:08/05/06 22:30 📱:SH903i 🆔:1bdF9NU6


#309 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
その日はあたしたちが誘拐されてから初めて雨が降った。雨足は強く、コンクリートに打ち付けられる雨粒の音がうるさかった。
箱の中はジメジメとして、寒さと合わさりあたしたちを一層凍えさせた。
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⏰:08/05/08 00:18 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#310 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナは懐中電灯を床に立てて天井を照らしたまま、体育座りした体に毛布を巻き付けて黙り込んでいる。
その頃にはあたしたちの体は傷と痣で埋め尽くされていた。ハナは痛みを口に出さないので解らないけれど、あたしは二日前から右脇腹に激しい痛みを感じていた。
あたしはハナの顔の痣をぼーっと見ながら、毛布に包まって寝転んでいた。
どうしようもないこの状況のせいで、あたしの頭は空っぽだった。何かを考える気力さえ失っていたのだ。
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⏰:08/05/08 00:19 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#311 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
時間は多分朝九時か十時ぐらいだったと思う。
雨音が室内に響く中、ハナが意を決したように口を開いた。

「家に帰りたい?」

こちらを見ることもなく彼女は突然問い掛けた。
あたしは彼女の顔を見つめたまま答えた。

「帰りたいよ」
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⏰:08/05/08 00:19 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#312 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そう言ったものの、それは絶対に不可能なことだと思い込んでいた。
あたしにはもう希望のかけらも無かったのだから。

「ユキ、お母さんとお父さんを安心させてあげてね。あたしは帰れないけど、ユキ一人なら逃げられるから」

――逃げられる? まさか。無理に決まってる。

あたしはユキの言葉を胸中で否定してから耳を疑った。
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⏰:08/05/08 00:20 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#313 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「あたし一人……? それどういう意味? ハナは帰れないってどういう意味!?」

ハナの腕を掴んで問い質(ただ)す。自分の体に巻きつけていた毛布が滑り落ちたのにも気付かなかった。
ハナが自分の腕を掴むあたしの手を優しく外し、毛布をかけてくれる。
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⏰:08/05/08 20:45 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#314 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「あたしが逃げようとしたらあの人多分追いかけて来ると思う。でもユキだけなら大丈夫。あたしが何とかするから」

「何とかって……何とかってなによ!? ハナだけ置いていける訳ないじゃない! っつう……」

大声を出すと右脇腹に刺されたような痛みを感じて床に倒れ込んだ。

「ユキ、わかってるでしょ? あたしよりユキの方が怪我酷いの。あの人、あたしには本気で殴れないんだよ。
……このままだとユキが死んじゃう」
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⏰:08/05/08 20:46 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#315 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナの表情に悲しみと戸惑いが見えた。
薄々は気付いていた。ハナの傷があまり多くないこと。
やっぱりハナの方が亡くなった娘に似ているから……。

あたしは手をついて体を起こした。

「でも……やっぱりハナを置いていけないよ。あたしが逃げたってわかったら、ハナ……何されるかわからないじゃない」
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⏰:08/05/08 20:47 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#316 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「お母さんとお父さんが心配なんだよ。ユキが帰れば二人も少しは安心すると思う」

ハナは頑として譲らなかった。
でも、でも、とあたしは反論したけれどハナの意志は強かった。

結局、あたしだけが逃げると二人で決めた。
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⏰:08/05/08 20:47 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#317 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

――あの時どうにかしてハナを説得出来ていれば……あたしが逃げないと言い張れば……

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⏰:08/05/08 20:48 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#318 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
どうやってあたしを逃がすつもりなのかハナに問うと、ハナはゆっくりと説明を始めた。
懐中電灯を二つ点し、あたしたちは慎重に作戦を練る。
成功するかどうかは賭けだ。男の反応に全てがかかっていた。

ハナは必ず成功すると信じていたから、あたしもハナを信じることにした。

――今日、男が来た時が勝負だ。


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⏰:08/05/10 01:36 📱:SH903i 🆔:c20X8gQs


#319 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
鉄製のドアにガチャガチャと鎖のぶつかる音がして、それが聞こえなくなると暗闇の中に一筋光が射した。

――来た。

ドアに繋がれていた鎖とスーパーの袋を手に持って、男が部屋に入ってくる。いつもの光景だ。
無表情な男は惣菜やパンが詰められた袋を床にドサッと置いてその隣に鎖を投げた。
金属とコンクリートがぶつかり合う嫌な音が響いて、あたしは体を強張らせた。ひどく緊張している。
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⏰:08/05/10 01:37 📱:SH903i 🆔:c20X8gQs


#320 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
男が部屋を出てドアを閉めたのを確認してハナがこちらを向いた。大丈夫か、とその目が問い掛けていた。
あたしはハナの目を見つめたまま頷く。

――大丈夫。


袋の中から昼に食べる分だけを取り出し、残りは夜に取っておく。今日の夜にはあたしはいないけれど。
そう思うとまた少し不安になった。

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⏰:08/05/10 01:37 📱:SH903i 🆔:c20X8gQs


#321 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
食事を終え、あたしはドアの前に立つ。ハナは部屋の隅で毛布に包まっていた。
緊張と不安が増してきて、心臓の音が聞こえる。自分の息遣いが荒いのがわかる。
目線は丸いドアノブに集中していた。

銀色のノブがゆっくりと回った。あたしは瞬時に振り向いてハナを見たけれど、彼女の顔は毛布に埋(うず)められていた。
それだけ確認するとすぐにドアに目線を戻す。向こう側のノブにかけられた男の腕が見えた。
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⏰:08/05/10 23:39 📱:SH903i 🆔:c20X8gQs


#322 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――上手くいきますように……。

そう願いながら、光のある外へと足を踏み出す。雨は止んでいた。
男が優しく微笑んであたしを見下ろしていた。自然とその大きな手を握る。
繋いだ手から緊張が伝わらないだろうか、そう心配になったけれど男はいつも通りだった。
あたしたちはいつものコースに向けて歩き出した。

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⏰:08/05/10 23:40 📱:SH903i 🆔:c20X8gQs


#323 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
はずだった。
けれど何時間か歩いた後、男はあたしの手を放した。いつもなら絶対に逃がさないあたしの手を、その日は何故か自由にさせた。

「パパちょっと疲れたから、向こうで遊んでおいで」

男は体を屈め目線をあたしに合わせてそう言った。その顔は本当に疲れているように見えた。
やつれているし、目の下のクマが濃い。
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⏰:08/05/10 23:41 📱:SH903i 🆔:c20X8gQs


#324 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしとハナの企みがバレているのだろうかと不安になったけれど、男の目に怒りや憎しみは見えなかった。
むしろ寂しそうな、悲しそうな感じがして、あたしは男が可哀相に思えて言葉をかけた。

「パパ? ……大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ。行っておいで……」
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⏰:08/05/10 23:41 📱:SH903i 🆔:c20X8gQs


#325 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
男はとうとう木の根に腰をおろして、頭を抱えてしまった。
あたしはこのまま逃げてしまおうか、そう考えたけれど、ハナに何も言わずここから去るのは嫌だった。

――戻ってこよう。

うずくまる男から視線を外して、あたしは自由になった体で歩き出した。

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⏰:08/05/11 22:15 📱:SH903i 🆔:1rttUfes


#326 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
一人で森を歩けるのが嬉しくて、あたしは随分遠くまで来てしまっていたらしい。
男が来てあたしに声をかけた。

『ユウコ、もう暗くなるよ』


――あぁ、あの夢はこの時だ。最後の日だったんだ。

指輪が光る手をとり、あたしたちはコンクリートの箱に帰ろうと山道を歩く。

木の向こうにコンクリートが見えてもう少しで着く、というところで男が豹変した。
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⏰:08/05/11 22:15 📱:SH903i 🆔:1rttUfes


#327 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
頬を平手打ち――痛い――また頬を――耳がちぎれそう――引っ張らないで!――押し倒され――頭を地面に打った――割れそう――背中に激痛――目に液体が――血!――お腹――肩――腿――頭――痛――止まらない――脇腹――嫌な音――もうやめて!


――意識を失いそうだった。
あたしはやはり謝り続けていたけれど男の手はいつまでたっても止まることなく、あたしは、死を覚悟した。
その時。

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⏰:08/05/11 22:16 📱:SH903i 🆔:1rttUfes


#328 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「パパ!」


ハナの……声だ。


「パパ、やめて!」


あたしの体に降り注いでいた痛みが止み、男が振り向いた気配を感じた。血が目に膜を張ってよく見えない。

⏰:08/05/12 22:14 📱:SH903i 🆔:58D7rq3M


#329 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ユウコ……」

「パパ、やめて。あたしの大事な友達なの」

ハナの声が少し震えている。でもその言葉ははっきりとあたしの耳に届いた。

――やっと……きた。

これがあたしたちの考えた方法だった。
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⏰:08/05/12 22:16 📱:SH903i 🆔:58D7rq3M


#330 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「友達?」

「そう、あたしの、……ユウコの友達。だからやめて」

地面に倒されたまま、あたしは目だけを動かしてハナの姿を探した。
世界が赤い。流れてくる血が眼球にまとわりついて視界が赤くぼやけている。
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⏰:08/05/12 22:17 📱:SH903i 🆔:58D7rq3M


#331 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「友達……ユウコの……」

「そうだよ、もう帰らないといけないの」

涙が血を洗い、少しずつ周りの様子が見えてくる。
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⏰:08/05/13 21:48 📱:SH903i 🆔:ih.RNmQk


#332 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
暮れ始めた薄赤い空の下に男が立っていて、その顔は向こう側に向けられている。
男の視線の先には、ハナが立っていた。拳を握りしめ、強張った表情でじっと男を見つめている。
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⏰:08/05/13 21:48 📱:SH903i 🆔:ih.RNmQk


#333 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは体を支えようと腕に力を入れた。
ズキン、と右肩が痛む。
それでも歯を食いしばり、なんとか上半身を起こした。
まだハナと男は見つめ合っている。
あたしの荒い呼吸だけが、静かな森の中に響いていた。
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⏰:08/05/13 21:49 📱:SH903i 🆔:ih.RNmQk


#334 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……友達?」

男が同じ言葉を繰り返す。今度はあたしの方をチラリと見た。

「そう、友達」

ハナは男から目を離さない。ほとんど睨みつけるようにしながら震える声で呟いた。
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⏰:08/05/13 21:50 📱:SH903i 🆔:ih.RNmQk


#335 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「帰らなきゃいけない……?」

焦点の合わない目で男はあたしを見る。
あたしは祈るような気持ちで男を見上げていた。

――お願い……お願い!

あたしの呼吸が冷たい空気に響く。

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⏰:08/05/14 01:38 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#336 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……そうか。じゃあ近くまで送ってあげなさい、ユウコ」

男の目があたしからハナに移る。
それを追ってあたしもハナの方を見遣ったけれど、何だか視界がぼやけている。でも赤くはない。
安堵からか、痛みからか。意識が遠のく。
体を支えていた腕の力が抜けていく。
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⏰:08/05/14 01:39 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#337 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
倒れる――その瞬間、細い腕があたしの体を抱いた。
ハナだ。

「帰ろう?」

――うん。

あたしは小さく頷いた。
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⏰:08/05/14 01:40 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#338 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナの細く白い腕があたしの体を持ち上げる。
力を入れているのに、入らない。自分の体じゃないように感じる。
ハナの腕の力だけであたしは立ち上がった。

「早く帰ってくるんだよ」

男の声がした。感情を失ってしまったように抑揚の無い声が。
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⏰:08/05/14 01:41 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#339 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「必ず戻るから……待ってて、パパ」

そう言ったハナの声に、男への憐れみを感じた。

ハナの肩に腕を回し体重を乗せ、足を引きずるようにしてあたしは進む。
あの忌ま忌ましいコンクリートの箱から離れられる。男の呪縛から逃れられる。
その想いがあたしの足を動かしていた。
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⏰:08/05/14 01:41 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#340 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
コンクリートの箱に背を向け、あたしたちはゆっくりと土の道を歩む。
はっきりしない意識の中で、木々の向こうから背中に虚しい視線を感じていた。


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⏰:08/05/14 01:42 📱:SH903i 🆔:GAsvctc6


#341 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
途中何度か転びながらも、あたしたちは歩みを止めなかった。
コンクリートの箱から離れるに連れて、後ろから男が追ってくるんじゃないかという恐怖に襲われた。

覚束ない足取りで歩くあたしの意識はかなり前から朦朧とし始めていて、体を密着させているハナの温かみだけが頼りだ。
頭の中は空っぽで、あたしはただ足を動かすことだけに集中していた。
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⏰:08/05/15 00:13 📱:SH903i 🆔:vyDNGB6.


#342 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
気がつけば頭の上に覆いかぶさる木の葉はなく、一面オレンジの空が拡がっていた。
歩みを止めてしまうと立っていることが辛くなってきて、あたしはハナの肩から滑り落ちた。

「ユキ!」
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⏰:08/05/15 00:14 📱:SH903i 🆔:vyDNGB6.


#343 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ユキがあたしの腕を掴んで、そのままゆっくり降ろしてくれる。
ここは、二週間前に連れて来られた駐車場だ。
あたしは黒い地面に体重を預け、空を見上げていた。
休まず歩いてきたせいかあたしの呼吸はさらに早くなり、体中が脈打っている。

「ハナ……ありがと……」
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⏰:08/05/15 00:14 📱:SH903i 🆔:vyDNGB6.


#344 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ハナ……ありがと……」

呼吸の隙間に呟いた。

「ユキ、大丈夫? しっかりして、もう少し下まで行かないと――」

「ちょっとだけ……休憩……させて……」

ハナの言葉を遮ってそう言うと、彼女は「うん」とだけ答えてあたしの左手を握りしめた。

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⏰:08/05/16 03:36 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#345 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
冷たい北風があたしの頬を撫でる。頭から流れていた血は止まったけれど、涙と混じって顔中にこびりついていた。
脇腹と左腕が激しい痛みとともに熱を帯びて痺れている。
けれどそんな体の状態に反してあたしの気持ちは晴々としていた。
たった一つの悲しみを除いては。

「ねぇ……ハナ」
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⏰:08/05/16 03:36 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#346 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「なあに?」

「一緒に……帰れない……かな? ……このまま……逃げられないかな……?」

声を出すのも辛いけれど、どうしてもハナを置き去りにしたくなかった。
あたしの言葉を聞いたハナは悲しげに目を伏せて黙り込んでしまった。
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⏰:08/05/16 03:37 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#347 [蜜月◆oycAM.aIfI]


>>344
コピペミスです
レス頭の

「ハナ……ありがと……」

↑この部分スルーして下さい(;´д`)

⏰:08/05/16 04:35 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#348 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……ハナは……帰りたくない……?」

弾かれたように彼女はブンブンと首を横に振る。

「じゃ……帰ろう? ……一緒に……お父さんと……お母さんのとこに……」

俯いたハナの目に迷いが浮かぶ。けれどすぐには頷いてくれなかった。
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⏰:08/05/16 23:12 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#349 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
下から見上げたハナの頭の向こうに広がる空は、オレンジと紺色が混じり合ってところどころ紫色を滲ませていた。
あたしはどんどん増してくる痛みに耐えながら、ハナの答えを待つ。

沈黙が寒さを募らせる。
あたしが口を開こうとした時、一瞬早くハナが言葉を発した。

「あたし帰らない」
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⏰:08/05/16 23:12 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#350 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナの苦しげな表情があたしにのしかかる。
頭の中に疑問が渦巻いた。
あたしはそれを解くために重い口を開く。

「……どうして……ねぇ? ……今なら……帰れる……のに……ハナ……お父さんと……お母さん……安心……させたいんでしょ……?」

「あの人が……」

――あの人?
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⏰:08/05/16 23:13 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#351 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「あたしを必要としてるから」

ハナのいうあの人、それはあの男のこととしか考えられない。
必要としてる? ただ殴ったり蹴ったりするだけじゃないの?

依然として苦しげな表情をしたハナの向こうの空はオレンジ色を失いつつある。
あたしが険しい顔をしていたからか、ハナは言葉を続けた。

「うちの家族は……幸せだよね? ユキも幸せだったよね?」
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⏰:08/05/16 23:14 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#352 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナが何を言いたいのか解らず、あたしは戸惑いを隠せなかった。何も言えずにハナの顔を見つめる。

すると、ハナはふっと表情を柔らげてあたしに微笑みかけた。

「あたしは……幸せだって思い込んでただけみたい。ユキとかお父さんお母さんを嫌いなんじゃないよ、大好きなんだけど……大好きだから……」
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⏰:08/05/16 23:15 📱:SH903i 🆔:kSaLjsmM


#353 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
微笑んだまま、ハナの目に涙が溢れ出す。一筋流れた涙が、ポツリ、あたしの頬を濡らした。

「……ハナ……?」

「辛かったの。お父さんとお母さんがユキを可愛がるのも。ユキがお父さんとお母さんに甘えるのも。あたしには無かったから」
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⏰:08/05/17 23:05 📱:SH903i 🆔:r2FaV5hA


#354 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナの顔にはさっきまでと同じ微笑みが浮かんでいたけれど、そこには苦しみが混じって見えた。
優しい顔。だけど、恐ろしくもある。

ハナにそんな苦しみがあったなんて、考えもしなかった。
あたしは我が儘な子どもだったと思う。父と母はいつもそれを許してくれた。
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⏰:08/05/17 23:06 📱:SH903i 🆔:r2FaV5hA


#355 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
でもハナはいつもいい子だった。両親の言うことをよく聞く真面目な子どもだった。
おもちゃが欲しくてあたしが駄々をこねても、ハナは何も言わずに下を向いていた。
結局父や母が折れておもちゃを買ってくれることになり、ハナに何がいいかと聞いてもハナは首を横に降って「あたし、いらない」と言うのだった。
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⏰:08/05/17 23:07 📱:SH903i 🆔:r2FaV5hA


#356 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしはそれがハナだと思っていた。普段から真面目で親に迷惑をかけることのない、しっかりした妹だと。そう思っていた。

それにあたしはハナが羨ましかった。あたしより成績もよかったし、親戚が集まった時なんかに褒められるのは決まってハナだったから。
父や母が親戚からハナを褒められて嬉しそうにしているのがすごく羨ましかった。
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⏰:08/05/17 23:08 📱:SH903i 🆔:r2FaV5hA


#357 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
でもハナは、親戚から褒められることよりも父と母の愛情を欲していたのだ。
両親がハナよりもあたしに多くの愛を注いでいたとは思わない。

けれどハナにはそう思えてしまったのか。
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⏰:08/05/18 22:09 📱:SH903i 🆔:eMAjbdcw


#358 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「家族四人でいても、真ん中にはいつもユキがいた。あたしが何か言っても、すぐユキの話になっちゃうでしょ?
お父さんもお母さんもユキの話に夢中だったしあたしの話なんていつも聞いてくれなかった。
あたしがテストで毎回百点とるより、ユキがとった一回の八十点の方がお母さんは喜んでた」

ハナの微笑みは消えない。でもあたしの顔は崩れる一方だった。
呼吸はさらに激しくなり、胸の上下運動は速度を増していく。
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⏰:08/05/18 22:10 📱:SH903i 🆔:eMAjbdcw


#359 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「あの人にここへ連れてこられるまで気付かなかったの……あたしはあの家にいても独りぼっちだった。誰も必要としてくれなかった」

――違う、そんなことない!

そう言おうとしたけどあたしの声は出なかった。寒さと痛みで唇が動かない。
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⏰:08/05/19 23:06 📱:SH903i 🆔:t3uEDHYM


#360 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……でもあの人は、あたしのことだけ考えてくれる。あたしを必要としてくれてる。
あたしがいなくなっちゃうとあの人死んじゃいそうなの」

辺りは真っ暗で、駐車場を照らす街灯が遠くにいくつか見える。
その光はここまで届かず、ハナの表情はよくわからなかった。
でも一定の間隔を置いてあたしの頬に落ちる雫が、ハナが泣いているということを教えてくれる。
.

⏰:08/05/19 23:06 📱:SH903i 🆔:t3uEDHYM


#361 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……ハ……ナ……」

あたしの喉がやっと音を出した。

「……ハナ……お父……さんも……お母さん……も……あたしも……ハナ……の……こと……大好き……だよ……」

「わかってる」

暗闇の中に、今までの微笑みとは違う、ニッコリ笑った顔が見えた気がした。
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⏰:08/05/19 23:07 📱:SH903i 🆔:t3uEDHYM


#362 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「でもね、あたし、あの人のこと心配で仕方ないの……ごめんね、ユキ。……あたしのこと、許してね」

何も、言えなかった。
顔の温度が高まるのを感じ、あたしの目にも涙が溢れ出す。
ハナの涙とあたしの涙が頬の上で同化する。
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⏰:08/05/20 23:34 📱:SH903i 🆔:p18Ru3ZA


#363 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの体は泣くことでさらに体力を失い、息は乱れ、喉が鳴る。目を開くのも億劫になり、耳の中には自分の呼吸の音だけが響く。
体の表面に澱んだ液体で膜を張られたように全ての感覚が鈍る。

「……、……。……」

ハナの声が聞こえる、けれどくぐもって何を言ってるかわからない。あたしの耳は息の音しかとらえない。
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⏰:08/05/20 23:35 📱:SH903i 🆔:p18Ru3ZA


#364 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
急に、あたしの体に力が加わる。
ハナがあたしを起こそうとしているようだ。
あたしは抗うでもなく力を入れるでもなく、されるがままだった。
ハナの肩に手を回され背中を抱えられ、再び歩く体勢に戻る。
ハナが歩き出すと、引きずられるようにしてあたしの足は動く。あたしの意思じゃない、ただ体重を支えようとする反射運動だけで進んでゆく。
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⏰:08/05/20 23:36 📱:SH903i 🆔:p18Ru3ZA


#365 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
駐車場からはふもとに繋がる車道と頂上に続く歩道が下と上に向かって延びていた。
薄く開いた瞼の間からは、歩道らしき景色が入り込んでくる。
どうしてふもとじゃなく頂上に向かうのか疑問に思ったけれど、口に出して尋ねるのも辛いほどあたしの体は弱っていた。
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⏰:08/05/21 18:17 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#366 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
緩やかな登りの細い道。靴の裏に伝わる感触は、コンクリートのそれではなく土の柔らかさがあった。
道の左側は岩肌が剥き出しの崖で、右側は傾斜のついた茂み。
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⏰:08/05/21 18:17 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#367 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナに体を預けてあたしは歩く。が、歩いているという意識は薄かった。ひとりでに動く二本の足が体を運ぶ。
だらんと首を下げて進むあたしの足元は、明るくなり、暗くなり、明るくなる。
頭を少し上げてみると細い道の脇に街灯がひとつあり、三十歩程先にもひとつ、そのまた先にもひとつ。
それが無ければあたしたちは脇の茂みの中に落ちてしまっていただろう。

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⏰:08/05/21 18:18 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#368 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの喉はゼェゼェと音を立て、ハナの方からも微かだけれどハァハァと聞こえてくる。
黙々と歩き続けた。
目的地はどこ? いつまで歩けばいい?
そんなあたしの気持ちに気付かず、ハナは迷いなく進んでゆく。

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⏰:08/05/21 18:19 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#369 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
痛いくらいの寒さが体を震えさせる。すでに指先は感覚を失っていた。
未だ登り坂の終わりは見えず、あたしたちは街灯の明かりを頼りに夜の山道をひたすら進んでいた。
細かった道幅はさらに狭まり、今ではあたしとハナが並んで歩くのがやっとだ。
ハナは茂み側を慎重に、しかし多少焦りながら歩いているようだった。
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⏰:08/05/21 19:57 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#370 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれどある場所で、ハナの歩みが止まった。
ここは道の途中だろうか?
少し先で街灯が白い光を浮かべている。
再び崩れ落ちるあたしの体を、ハナは同じようにゆっくりと寝かせてくれた。
体は限界に近づいていて、今すぐにでも眠ってしまいそうだ。
ダランと転がるあたしの横にハナがしゃがみ込んで、手を握りしめられる。

「……ハナ……」
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⏰:08/05/21 19:58 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#371 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「お別れだね」

あたしの呼吸の間から、小さくくぐもったハナの声が聞き取れた。

「ヤダ……一緒じゃないと……」

「ごめんね、ユキ。あたしは帰れない」

「……嫌だ……!」
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⏰:08/05/21 19:59 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#372 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
胸が苦しくなって涙が溢れてくる。
ハナに伝えたいことはたくさんあるのに、声にならない。

「……ハナ……行かないで……」

「ユキ、よく聞いてね」
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⏰:08/05/21 19:59 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#373 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの手を握るユキの力が強まった気がした。
聞こえてくる音が水中にいるように感じさせる。
少し上にあるハナの顔を見つめて小さく頷いた。

「あたしとユキはここで一旦お別れなの」

その言葉に、また涙が溢れる。
けれどあたしは口をきつく結んでまた頷く。
もうこれで最後かもしれないハナの声を、聞き逃す訳には行かなかった。
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⏰:08/05/21 20:00 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#374 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ユキはきっと助かる。誰か大人の人が見つけてくれて、病院に運んでくれる」

一言も聞き漏らさないように、無心で耳を傾ける。
涙をしゃくり上げる声を押し殺し、ハナの声だけに意識を集中する。

「助かって、目が覚めたら、あたしのことは忘れて。絶対に忘れてね」
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⏰:08/05/21 20:01 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#375 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
催眠にかけられたように、あたしは空っぽの頭で何を考えることもなく、ただハナの言葉に頷く。
彼女の声があたしの脳を直接震わせる。

「お父さんとお母さんのことは忘れないで、二人を心配させちゃダメだよ? あたしのことだけ、全部忘れて」

忘れる。ハナを、忘れる。
.

⏰:08/05/21 20:02 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#376 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「あたしは一緒に帰れないけど、ユキはあの町で、みんなと一緒に生きてね、あたしの分まで生きて……いっぱい生きてね」

生きる。ハナの分も、生きる。

「それでもし、この先あたしのことを思い出すことがあったら、」


……あったら?

.

⏰:08/05/21 20:04 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#377 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……その時は、迎えに来て。あたしはいつまでも待ってるから。何年先でもあたしはあそこで、ユキを待ってるから」


その時、静寂に包まれていた森の中、冬の冷たい空気を震わせて大きな爆発音が響いた。
と同時に真っ黒だった空が一瞬にして真っ白に光る。いや、黄、赤、青、何色もの光が混じり合った明るい空……。
.

⏰:08/05/21 20:04 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#378 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
花火。
それに続いて、いくつもの光の花が空に舞う。体の芯を揺さぶる低い爆発音とともに。
あたしの薄く開いた目に、無限に散らばる光の花びらが舞い込んできた。

花火が弾ける度に、辺りの景色は明るく照らされた。
いきなり現れた花火に驚き目を奪われているハナの横顔も、鮮やかに染められる。
あたしは赤や青の光をうけて輝くハナの顔を見ていた。
.

⏰:08/05/22 00:09 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#379 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「お祭りかな……」

音と光の洪水の中、見つめていた顔がぽつりと呟く。
あたしの頭は体に響く振動と眩しい閃光で朦朧とし始めていた。
ハナの顔がこちらに向けられたような気がする。
.

⏰:08/05/22 00:10 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#380 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「忘れてね、あたしを。でも、あたしはいつでも待ってるから」

再びあたしの体に力が加わる。
けれどあたしはその直後、全ての感覚を断ち切って闇の世界へと旅立った。

.

⏰:08/05/22 00:11 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#381 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナを忘れる。あたしは生きる。


その言葉だけが頭をぐるぐると巡り、あたしの意識は完全に途絶えた。
けれどハナとの最後の会話は、あたしの中にしっかりと刻み込まれていた。

.

⏰:08/05/22 00:12 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#382 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

――ハナ……忘れても……忘れないよ……



.

⏰:08/05/22 00:12 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#383 [蜜月◆oycAM.aIfI]

まとめ(・ω・*)

プロローグ
>>4

―T―
>>5-46

―U―
>>47-118

―V―
>>119-141

―W―
>>142-220

―X―
>>222-267

―Y―
>>272-382

⏰:08/05/22 00:18 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#384 [蜜月◆oycAM.aIfI]
まとめ(・ω・*)

プロローグ
>>4

―T―
>>5-46

―U―
>>47-118

―V―
>>119-141

―W―
>>142-220

―X―
>>222-267

―Y―
>>272-382

⏰:08/05/22 00:18 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#385 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ミスりまくりごめんなさいorz

※まとめ
プロローグ
>>4
―T―
>>5-46
―U―
>>47-118
―V―
>>119-141

⏰:08/05/22 00:21 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#386 [蜜月◆oycAM.aIfI]

※まとめ続き
―W―
>>142-220
―X―
>>222-267
―Y―
>>272-382

⏰:08/05/22 00:23 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#387 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

―Z―


気がつくと、あたしはまた眠ってしまっていた。
ゆっくりと目覚めていく頭に合わせてゆっくりと瞼を開けると、白い光の筋が天井を丸く照らしていた。
それ以外に光は無く、黒い天井に丸く開いた白い穴はさしずめ闇夜に浮かぶ満月のようだ。
.

⏰:08/05/26 01:39 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#388 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
首を動かして光の元へと視線を落とすと、寝かされているあたしの右側に懐中電灯らしきものが立てられていて、そのすぐ横にはサトルが座り込んでいた。
あたしが目覚めたのに気付いて、光に薄く照らされたサトルの横顔が笑顔に変わった。
子犬みたいな、無邪気な笑顔。

「あぁ、よかったぁ! ユキ、大丈夫? 体辛くない? すごい熱だったんだよー! あ、ちょっとみせてね」
.

⏰:08/05/26 01:40 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#389 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
まだ頭がぼーっとしていて、サトルのたたみかけるような問いかけに一つも答えられないままあたしは口をパクパクさせていた。
そんなことはお構いなしにサトルの手の平があたしの額にピタッとくっつく。
冷たくて気持ちいい。
と思ったらすぐに離れていった。

「まだちょっと熱いけど、さっきよりは下がったみたいだね。よかった! あ、お腹空いてる? なんか食べる?」
.

⏰:08/05/26 01:40 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#390 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ん……大丈夫、ありがと」

やっと返事できた、と思いながらあたしは体を起こした。
闇に慣れてきた目で部屋の中をぐるりと見回してみて気付いた。
何か物がたくさん置かれて雰囲気は変わっているけれど、間違いない、ここはあたしとハナが監禁されていたコンクリートの箱の中だ。
辺りに置かれているものはよく見えないけれど生活用品――ティッシュペーパーや小さな鍋、ごみ箱などのようだ。ここで人が生活している気配がする。
それに気付いてしまったあたしは心が大きく揺れた。
.

⏰:08/05/26 01:41 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#391 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――あの犯人の男が今もここで……?


あたしの横にいたサトルが自分のリュックの中をがさごそとかきまわして何かを取り出すと、あたしの手をとって小さな包みを握らせた。

「レモンキャンディ、ユキの好きなやつだよ!」

――サトル……。
.

⏰:08/05/26 01:42 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#392 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
昔から好きだったレモンキャンディ。どれでもいい訳じゃなくて、あたしは袋に特徴のある顔をした大きなレモンが描かれたものが一番好きなのだ。
ほっとした。
サトルがついていてくれるならどんな状況でも大丈夫だと思える。

あたしはサトルに謝らなければいけないことがあったのを思い出した。
.

⏰:08/05/26 01:42 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#393 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「サトル、あたし……忘れててごめんね」

手にレモンキャンディを握りしめたままあたしはサトルの瞳を見つめた。
あたしは物心つく前から同じ時間を過ごした友達を記憶から消していたのだ。
あたしがサトルの立場なら……ショックを受けるに違いない。

「思い出したんだ?」
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⏰:08/05/26 01:44 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#394 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「思い出した。……ずっと近くにいてくれたのに、あたし……本当にごめん」

あたしは頭を下げた。
どうしてサトルは自分のことを忘れてしまったあたしの近くにいてくれたのかはわからない。
でも十年もそばにいてくれたのにちっとも思い出してあげられなかったことが申し訳無かった。

「いいんだ、僕のことは。ユキが笑っててくれたら、それでいいんだ」
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⏰:08/05/26 01:45 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#395 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そう言いながらあたしの顔を上げさせたサトルは、やっぱり笑顔だった。
いつもの笑顔。まぶしく輝く、とびっきりの笑顔。

「飴、食べなよ」
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⏰:08/05/26 01:46 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#396 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
優しく促されて、あたしはコクリと頷くと包みを破ってレモンキャンディを口に含ませた。
舌の上で転がすと、レモンの酸味と飴の甘味が口いっぱいに広がる。
口の奥の方がキュッと縮こまる感じがした。これが大好きなのだ。

サトルが穏やかな表情で見守ってくれていたので、あたしは小さく笑い声を零してしまった。

「おいしいよ」
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⏰:08/05/26 01:47 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#397 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ほんとに好きだねぇ。持ってきてよかった!」

へへ、と笑ったサトルにあたしは心の底から感謝した。口では言い表せないくらいだった。

「ありがと、サトル!」

と、気持ちが抑え切れずにあたしは自然とサトルの体に抱きついていた。
サトルは驚いたような短い声をあげたけれど、嫌がることもなくあたしの肩をポンポンと優しく叩いてくれる。
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⏰:08/05/26 01:47 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#398 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

しばらくそのままの状態であたしたちは抱き合っていた。
あたしはサトルに恋愛感情を持ったことはないし、この先もないと思う。それはサトルの方でも同じだろう。
だからといってサトルに男としての魅力がない訳ではなくて、むしろサトルはモテる方なんだと思うんだけど、今やあたしにとってサトルはほとんど家族みたいなものなのだ。
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⏰:08/05/26 01:48 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#399 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
だからこうやって抱き合っていてもあたしは安心しか感じていなかった。
今の状況はあたしには謎だらけだけど、サトルがいるからパニックにならずにすんでいるのだ。
あたしは気持ちが落ち着くとサトルから体を離してこう切り出した。

「あたしたち、どうしてここにいるの? サトルが勝手に入ったんじゃないよねぇ?」
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⏰:08/05/26 01:49 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#400 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは出来るだけ重くならないようにサラっと聞いたつもりだったけど、少し声が震えてしまったかもしれない。

「うーん……」

サトルは何か考えているように視線を漂わせると、急に立ち上がってこう宣言した。

「自分の目で見た方がいい!」
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⏰:08/05/26 01:49 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


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