よすが
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#360 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……でもあの人は、あたしのことだけ考えてくれる。あたしを必要としてくれてる。
あたしがいなくなっちゃうとあの人死んじゃいそうなの」

辺りは真っ暗で、駐車場を照らす街灯が遠くにいくつか見える。
その光はここまで届かず、ハナの表情はよくわからなかった。
でも一定の間隔を置いてあたしの頬に落ちる雫が、ハナが泣いているということを教えてくれる。
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⏰:08/05/19 23:06 📱:SH903i 🆔:t3uEDHYM


#361 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……ハ……ナ……」

あたしの喉がやっと音を出した。

「……ハナ……お父……さんも……お母さん……も……あたしも……ハナ……の……こと……大好き……だよ……」

「わかってる」

暗闇の中に、今までの微笑みとは違う、ニッコリ笑った顔が見えた気がした。
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⏰:08/05/19 23:07 📱:SH903i 🆔:t3uEDHYM


#362 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「でもね、あたし、あの人のこと心配で仕方ないの……ごめんね、ユキ。……あたしのこと、許してね」

何も、言えなかった。
顔の温度が高まるのを感じ、あたしの目にも涙が溢れ出す。
ハナの涙とあたしの涙が頬の上で同化する。
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⏰:08/05/20 23:34 📱:SH903i 🆔:p18Ru3ZA


#363 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの体は泣くことでさらに体力を失い、息は乱れ、喉が鳴る。目を開くのも億劫になり、耳の中には自分の呼吸の音だけが響く。
体の表面に澱んだ液体で膜を張られたように全ての感覚が鈍る。

「……、……。……」

ハナの声が聞こえる、けれどくぐもって何を言ってるかわからない。あたしの耳は息の音しかとらえない。
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⏰:08/05/20 23:35 📱:SH903i 🆔:p18Ru3ZA


#364 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
急に、あたしの体に力が加わる。
ハナがあたしを起こそうとしているようだ。
あたしは抗うでもなく力を入れるでもなく、されるがままだった。
ハナの肩に手を回され背中を抱えられ、再び歩く体勢に戻る。
ハナが歩き出すと、引きずられるようにしてあたしの足は動く。あたしの意思じゃない、ただ体重を支えようとする反射運動だけで進んでゆく。
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⏰:08/05/20 23:36 📱:SH903i 🆔:p18Ru3ZA


#365 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
駐車場からはふもとに繋がる車道と頂上に続く歩道が下と上に向かって延びていた。
薄く開いた瞼の間からは、歩道らしき景色が入り込んでくる。
どうしてふもとじゃなく頂上に向かうのか疑問に思ったけれど、口に出して尋ねるのも辛いほどあたしの体は弱っていた。
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⏰:08/05/21 18:17 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#366 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
緩やかな登りの細い道。靴の裏に伝わる感触は、コンクリートのそれではなく土の柔らかさがあった。
道の左側は岩肌が剥き出しの崖で、右側は傾斜のついた茂み。
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⏰:08/05/21 18:17 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#367 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナに体を預けてあたしは歩く。が、歩いているという意識は薄かった。ひとりでに動く二本の足が体を運ぶ。
だらんと首を下げて進むあたしの足元は、明るくなり、暗くなり、明るくなる。
頭を少し上げてみると細い道の脇に街灯がひとつあり、三十歩程先にもひとつ、そのまた先にもひとつ。
それが無ければあたしたちは脇の茂みの中に落ちてしまっていただろう。

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⏰:08/05/21 18:18 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#368 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの喉はゼェゼェと音を立て、ハナの方からも微かだけれどハァハァと聞こえてくる。
黙々と歩き続けた。
目的地はどこ? いつまで歩けばいい?
そんなあたしの気持ちに気付かず、ハナは迷いなく進んでゆく。

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⏰:08/05/21 18:19 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#369 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
痛いくらいの寒さが体を震えさせる。すでに指先は感覚を失っていた。
未だ登り坂の終わりは見えず、あたしたちは街灯の明かりを頼りに夜の山道をひたすら進んでいた。
細かった道幅はさらに狭まり、今ではあたしとハナが並んで歩くのがやっとだ。
ハナは茂み側を慎重に、しかし多少焦りながら歩いているようだった。
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⏰:08/05/21 19:57 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#370 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれどある場所で、ハナの歩みが止まった。
ここは道の途中だろうか?
少し先で街灯が白い光を浮かべている。
再び崩れ落ちるあたしの体を、ハナは同じようにゆっくりと寝かせてくれた。
体は限界に近づいていて、今すぐにでも眠ってしまいそうだ。
ダランと転がるあたしの横にハナがしゃがみ込んで、手を握りしめられる。

「……ハナ……」
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⏰:08/05/21 19:58 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#371 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「お別れだね」

あたしの呼吸の間から、小さくくぐもったハナの声が聞き取れた。

「ヤダ……一緒じゃないと……」

「ごめんね、ユキ。あたしは帰れない」

「……嫌だ……!」
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⏰:08/05/21 19:59 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#372 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
胸が苦しくなって涙が溢れてくる。
ハナに伝えたいことはたくさんあるのに、声にならない。

「……ハナ……行かないで……」

「ユキ、よく聞いてね」
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⏰:08/05/21 19:59 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#373 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの手を握るユキの力が強まった気がした。
聞こえてくる音が水中にいるように感じさせる。
少し上にあるハナの顔を見つめて小さく頷いた。

「あたしとユキはここで一旦お別れなの」

その言葉に、また涙が溢れる。
けれどあたしは口をきつく結んでまた頷く。
もうこれで最後かもしれないハナの声を、聞き逃す訳には行かなかった。
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⏰:08/05/21 20:00 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#374 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ユキはきっと助かる。誰か大人の人が見つけてくれて、病院に運んでくれる」

一言も聞き漏らさないように、無心で耳を傾ける。
涙をしゃくり上げる声を押し殺し、ハナの声だけに意識を集中する。

「助かって、目が覚めたら、あたしのことは忘れて。絶対に忘れてね」
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⏰:08/05/21 20:01 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#375 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
催眠にかけられたように、あたしは空っぽの頭で何を考えることもなく、ただハナの言葉に頷く。
彼女の声があたしの脳を直接震わせる。

「お父さんとお母さんのことは忘れないで、二人を心配させちゃダメだよ? あたしのことだけ、全部忘れて」

忘れる。ハナを、忘れる。
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⏰:08/05/21 20:02 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#376 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「あたしは一緒に帰れないけど、ユキはあの町で、みんなと一緒に生きてね、あたしの分まで生きて……いっぱい生きてね」

生きる。ハナの分も、生きる。

「それでもし、この先あたしのことを思い出すことがあったら、」


……あったら?

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⏰:08/05/21 20:04 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#377 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……その時は、迎えに来て。あたしはいつまでも待ってるから。何年先でもあたしはあそこで、ユキを待ってるから」


その時、静寂に包まれていた森の中、冬の冷たい空気を震わせて大きな爆発音が響いた。
と同時に真っ黒だった空が一瞬にして真っ白に光る。いや、黄、赤、青、何色もの光が混じり合った明るい空……。
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⏰:08/05/21 20:04 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#378 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
花火。
それに続いて、いくつもの光の花が空に舞う。体の芯を揺さぶる低い爆発音とともに。
あたしの薄く開いた目に、無限に散らばる光の花びらが舞い込んできた。

花火が弾ける度に、辺りの景色は明るく照らされた。
いきなり現れた花火に驚き目を奪われているハナの横顔も、鮮やかに染められる。
あたしは赤や青の光をうけて輝くハナの顔を見ていた。
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⏰:08/05/22 00:09 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#379 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「お祭りかな……」

音と光の洪水の中、見つめていた顔がぽつりと呟く。
あたしの頭は体に響く振動と眩しい閃光で朦朧とし始めていた。
ハナの顔がこちらに向けられたような気がする。
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⏰:08/05/22 00:10 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#380 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「忘れてね、あたしを。でも、あたしはいつでも待ってるから」

再びあたしの体に力が加わる。
けれどあたしはその直後、全ての感覚を断ち切って闇の世界へと旅立った。

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⏰:08/05/22 00:11 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#381 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナを忘れる。あたしは生きる。


その言葉だけが頭をぐるぐると巡り、あたしの意識は完全に途絶えた。
けれどハナとの最後の会話は、あたしの中にしっかりと刻み込まれていた。

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⏰:08/05/22 00:12 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#382 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

――ハナ……忘れても……忘れないよ……



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⏰:08/05/22 00:12 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#383 [蜜月◆oycAM.aIfI]

まとめ(・ω・*)

プロローグ
>>4

―T―
>>5-46

―U―
>>47-118

―V―
>>119-141

―W―
>>142-220

―X―
>>222-267

―Y―
>>272-382

⏰:08/05/22 00:18 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#384 [蜜月◆oycAM.aIfI]
まとめ(・ω・*)

プロローグ
>>4

―T―
>>5-46

―U―
>>47-118

―V―
>>119-141

―W―
>>142-220

―X―
>>222-267

―Y―
>>272-382

⏰:08/05/22 00:18 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#385 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ミスりまくりごめんなさいorz

※まとめ
プロローグ
>>4
―T―
>>5-46
―U―
>>47-118
―V―
>>119-141

⏰:08/05/22 00:21 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#386 [蜜月◆oycAM.aIfI]

※まとめ続き
―W―
>>142-220
―X―
>>222-267
―Y―
>>272-382

⏰:08/05/22 00:23 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#387 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

―Z―


気がつくと、あたしはまた眠ってしまっていた。
ゆっくりと目覚めていく頭に合わせてゆっくりと瞼を開けると、白い光の筋が天井を丸く照らしていた。
それ以外に光は無く、黒い天井に丸く開いた白い穴はさしずめ闇夜に浮かぶ満月のようだ。
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⏰:08/05/26 01:39 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#388 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
首を動かして光の元へと視線を落とすと、寝かされているあたしの右側に懐中電灯らしきものが立てられていて、そのすぐ横にはサトルが座り込んでいた。
あたしが目覚めたのに気付いて、光に薄く照らされたサトルの横顔が笑顔に変わった。
子犬みたいな、無邪気な笑顔。

「あぁ、よかったぁ! ユキ、大丈夫? 体辛くない? すごい熱だったんだよー! あ、ちょっとみせてね」
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⏰:08/05/26 01:40 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#389 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
まだ頭がぼーっとしていて、サトルのたたみかけるような問いかけに一つも答えられないままあたしは口をパクパクさせていた。
そんなことはお構いなしにサトルの手の平があたしの額にピタッとくっつく。
冷たくて気持ちいい。
と思ったらすぐに離れていった。

「まだちょっと熱いけど、さっきよりは下がったみたいだね。よかった! あ、お腹空いてる? なんか食べる?」
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⏰:08/05/26 01:40 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


#390 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ん……大丈夫、ありがと」

やっと返事できた、と思いながらあたしは体を起こした。
闇に慣れてきた目で部屋の中をぐるりと見回してみて気付いた。
何か物がたくさん置かれて雰囲気は変わっているけれど、間違いない、ここはあたしとハナが監禁されていたコンクリートの箱の中だ。
辺りに置かれているものはよく見えないけれど生活用品――ティッシュペーパーや小さな鍋、ごみ箱などのようだ。ここで人が生活している気配がする。
それに気付いてしまったあたしは心が大きく揺れた。
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⏰:08/05/26 01:41 📱:SH903i 🆔:190zu.A6


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