WHITE★CANDY
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#782 [ぎぶそん]
二十分ほど街を歩いてラーメン屋に着き、小さな赤い暖簾をくぐる。

「おう真希ちゃん!あれ、彼氏が二人も出来たんかい!?」
店内に入ると、保おじさんがお得意の冗談で早速声を掛けてきた。
「おっちゃん、違うったい。雨宮の彼氏はこっち」
横山が優平を指し示す。
私は大慌てで否定したけど、保おじさんは「そう恥ずかしがりなさんな」と言い、へらへらと笑っていた。

そのまま三人で横並びにカウンターに座り、それぞれ食べたいラーメンを注文する。
ラーメンが出来るのを待つ間、文化祭での出来事や今日三人で映画を観てきたことを保おじさんに話した。

十分ほどして、三人分のラーメンが運ばれてきた。
湯気が濃霧みたいに私の顔面を立ち込めてくる。私はまずスープを一口飲んだ。濃厚な味噌の味が喉に広がる。

「ばりうまかー!九州の田舎を思い出すたい」
とんこつラーメンを頼んだ横山が、私の右隣で勢いよく麺を啜る。
スープをごくごく飲む音もはっきりとこちらまで聞こえてきた。
「おっ、兄ちゃん。生まれは福岡なのかい?」
保おじさんが横山の言動に反応した。
横山が頷くと、そこから保おじさんが福岡でラーメンの修業をしていた時のことを話し始め、二人は完全に意気投合していた。

二人の会話が店内中に聞こえている中、左隣にいる優平は黙々と自分のラーメンを食べていた。
私も両隣にいる異性を意識してか、一部始終行儀よく食べた。

⏰:12/05/10 22:12 📱:Android 🆔:QBswtVdI


#783 [ぎぶそん]
二人より遅く私が食べ終えたところで、ラーメン屋を出た。
「じゃあ八時から観たいテレビもあるし、俺は今日はこの辺で帰るたい。お二人さん、後はごゆっくり」
横山が疾風の如く帰っていった。

優平も付き人の祥華さんに迎えに来てもらおうと携帯電話を取り出し、彼女に電話を掛けた。
祥華さんが車で来る間、そこで二人で立ち話をした。

「横山君って面白い人だよな。真希が仲良くなってなかったら、今日みたいに遊ぶこともなかったのかも」
「友達になれて良かったよね」
そこで会話が途切れ、彼が何か物言いたげな顔をする。
「後……俺のクラスの女子に何かされた時は迷わず言えよ?」
昼横山から聞いていたことが、気になっていたようだ。
私はF組の女子を思い出す憂鬱さを感じながらも、静かに首を縦に振った。

二十分後、古びた街並みに不似合いの高級感漂う赤いスポーツカーが現れた。
優平が私に「それじゃあ」と別れを告げながら、助手席ドアに手を伸ばす。
「そうだ、祥華さんにDVD一緒に観ようって誘っておいてね」
私は彼に念を押し、手を振った。

⏰:12/05/10 22:42 📱:Android 🆔:QBswtVdI


#784 [ぎぶそん]
そして、翌週の土曜日。「パリの祝日」のイベント当日となった。
父と二人朝六時には目が覚め、九時前にビルに到着した。

第三会議室に入り、他の参加者と共にプロデューサーの森部さんの指示を受ける。
森部さんは昨夜徹夜をしたのか目の下にはクマが出来ていて、今日も相変わらずシャツがよれていた。
今日もアイウエオ順で準備をすることになっていて、「雨宮」の私と「遠藤」の名字である三十代くらいの主婦の方が衣装に着替える為隣の部屋に移動させられた。
父と遠藤さんのお父さんが、私たちのまた隣の部屋に移動する。
「真希、また後でな」と、父が別れ際声を掛けてきた。

部屋に入ると、真新しいドレスが飾られてあるのが目に入った。
水色の生地で腰回りに大きな白いリボンがあるのが特徴的な、とても可愛らしいドレスだ。
それは「パリの祝日」で、エマ王女が最初パリの城にいるシーンで着ていたドレスと全く同じデザインだった。
私は再現率の高さに驚いた。

⏰:12/05/15 22:38 📱:Android 🆔:TQsedy8c


#785 [ぎぶそん]
先週寸法を計ってもらった女性の指示で服を脱ぎ、スタッフの女性の二人がかりでゆっくりとそのドレスを着させてもらう。
一人の女性に背中にあるファスナーを閉めてもらい、難なくドレスが着れた。
ドレスはオーダーメイドにあたるので、腕回りや腰回り、身体じゅうのすべてに心地よいフィット感を覚えた。

「次はメイクをしますので、こちらにどうぞ」
細身の女性スタッフに、部屋の左端にある鏡の前の椅子に座るよう誘導される。
ドレスに気を遣いながら椅子に座ると、鏡に華やかなドレスに不相応な素顔のままのみすぼらしい自分の顔が映る。
私は思わず自分の姿を直視するのを止めた。

「はーい、では、最初にファンデーションを塗っていきますねー」
”今時“な身なりをした若い女性が語尾を伸ばした喋りをしつつ、手の甲でファンデーションを延ばす。

⏰:12/05/15 23:02 📱:Android 🆔:TQsedy8c


#786 [ぎぶそん]
その若い女性スタッフが、私の顔に指先で優しくファンデーションを塗り広げてくる。
それからファンデーションだけでも三種類は着けていて、ファンデーションを塗るだけで十五分は費やしたように思える。
私はファンデーションをパタパタとただ粉をはたくだけの作業だとずっと思っていて、メイクの基盤だけに凄く重要な役割だと知り、女性としてその考えを改めることにした。

次に女性がペンシルで眉毛を丁寧に塗り、左右対称になるよう何度も確認しながら仕上げる。
いつもより濃い眉に可笑しさを感じながらも、顔がはっきり見えることに気がついた。
眉が終わるとビューラーで睫毛を上げ、マスカラを淡々と塗ってくる。
マスカラが乾くと、つけまつげとなるものを睫毛のやや上につけられた。
瞼の上に、違和感のある重みをひたすら感じる。
つけまつげをすることによってより目が大きく見えるのは間違いないが、それに伴う窮屈さに私は慣れそうもなくて、自発的にはつけないだろうなと思えた。

⏰:12/05/15 23:24 📱:Android 🆔:TQsedy8c


#787 [ぎぶそん]
つけまつげが瞼に馴染むと、今度は女性がアイシャドウを塗る作業にかかる。
ドレスの色に合った水色をベースとしたシャドウを、女性が薄い色から順番に黙々と塗っていく。
完成して女性に「どうですかあ?」と聞かれ、鏡に目をやる。
淡いグラデーションに光沢する瞼を見て自信が持てるようになったのか、次第に鏡の中の自分に笑みがこぼれる。

そして頬に軽くチークを塗り、口紅を丁寧に塗ってメイクが完成した。
こんなに大々的に化粧をしたのは生まれて初めてだったので、かなり大人びた気持ちになった。

「じゃあ次は、髪をセットしていきますね!」
メイクをしてもらった女性とは対照的な、今度ははきはきとした喋りの女性がやって来た。
女性が後ろで私の髪をいじり始めたが、どんな仕上がりになるのかも知らぬままただ彼女に身を委ねる。

⏰:12/05/16 23:45 📱:Android 🆔:UM2q/uW6


#788 [我輩は匿名である]
>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800

⏰:12/05/18 14:40 📱:SH02A 🆔:bNnV1E4Q


#789 [ぎぶそん]
その間、私は台の上に置いてある化粧道具に目をやった。
色とりどりにあるアイシャドウの種類を見て、まるで美術の授業の時に使う絵の具みたいだと思った。
こんなに化粧道具が充実していたら、女性として毎日が楽しくなるに違いないだろう。

じっくりと化粧道具を眺めていると、後ろにいる女性が私の髪を一つにまとめ始めた。
その力の強さに思わず頭部ごと後ろに引き寄せられ、「うおっ」と小さく妙な言葉が口から漏れた。
「ごめんね!」と女性が咄嗟に詫びてきたが、また何事もなかったかのように髪をいじり出した。

その後お互い何も口にすることなく、ただ時間が過ぎていった。
「はい、お疲れ様です!」
「パリの祝日」の内容を思い出している途中、女性が終わりを告げてきた。
その言葉に反応して正面の鏡を見るが、全ての髪を後ろでまとめているためいまいちどう完成したのかよく分からない。
女性が後頭部に鏡を当てて、私に後ろの状態を確認させる。

“お団子”になっている、という表現でいいのだろうか。
その団子の中央に三つ編みが出来ていて、一本も髪の毛が乱れることなく芸術的にまとまっていた。
自分一人ではこんな髪型はまず出来ないだろう。
「有難うございます」と、思わず女性に対して感激の言葉が漏れた。
「いえいえ、凄く似合ってますよ」と女性は私に返し、きっと本心から表れたであろう笑顔を見せてくれた。

⏰:12/05/30 05:17 📱:Android 🆔:0M7uB2zA


#790 [ぎぶそん]
「雨宮様、最後にこちらのヒールをどうぞ」
スタッフの女性の一人が低い体勢で私の元にやって来て、箱から白いハイヒールを取り出した。
そう言えば、この間足のサイズも教えていたっけ。

右足から慎重に入れる。
生まれて初めて履くハイヒールは、少し窮屈に感じた。
左足も履くと、女性スタッフがドアを開けて誘導してきた。
そこまで行こうと立ち上がり一歩進もうとした時、右足のヒールが傾き足がよろけた。
スタッフの女性たちが慌てて私の身体を支える。
「大丈夫ですか?」
女性たちは顔が笑っていた。
何て無様な”王女様“なのだろうと思った。

ふと、部屋の隅に移動させられた遠藤さんの様子が気になって後ろに目をやった。
遠藤さんは丁度今髪のセットが終わっていたところで、満足そうな表情で鏡を見ていた。
「お先に失礼します」と、心の中で彼女に一言告げた。

⏰:12/05/30 05:39 📱:Android 🆔:0M7uB2zA


#791 [ぎぶそん]
部屋を出て、二人の女性スタッフにひたすらついていく。
不慣れなハイヒールを履いているお陰で、歩くといういつもなら何でもない動作が、ひどく困難に感じる。
「パリの祝日」の映画の中で、エマ王女がハイヒールで足を痛める場面があったことを思い出した。
今ならその時の彼女の気持ちが痛いほど理解出来る。とにかく足が痛い。

スタジオらしき場所に到着すると、父と遠藤さんの父親が長椅子に座っているのが見えた。
二人は缶コーヒー片手に楽しそうに話し込んでいた。
「遅かったなあ!」
父が私の存在に気づき、立ち上がった。
父は白いタキシードスーツを着て、青い蝶ネクタイをしていた。
その姿をパッと見て、いつもより若く見えると思った。
二十代と言われても違和感ないだろう。

「真希、凄く綺麗じゃないか!あ、これがさっき言ってたうちの娘です」
父が遠藤さんに私を紹介した。
一体私の何の話したんだろうと、一瞬父に睨みをきかせたが、一先ず遠藤さんに会釈した。
「いやあ、べっぴんさんじゃ。若くて羨ましいのう」
六十代くらいの遠藤さんが目尻に沢山の皺を寄せて微笑んでくれた。

⏰:12/05/30 06:24 📱:Android 🆔:0M7uB2zA


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