こいごころ
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#601 [向日葵]
きっと宗助のことだから「気にするな」と返ってくると思いながら、メールを待つ。

すると個人設定をしている着信音が鳴った。
この音は宗助だ。

がばりと起きて、まるでビーチフラッグかのように携帯を掴みとる。
目を動かしているうちに、茉里の口が変な形に曲がり、やがて顔も赤くなると、言葉にならない叫びをあげながら、布団に突っ伏して悶えだした。

携帯は力の抜けた手から落ち、布団の上にぽすりと落ちる。

⏰:11/01/22 23:18 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#602 [向日葵]
―from 宗助―

―本文―

いいよ。一緒に帰るならついでだし。

今日、帰りの時、乱暴なことしてごめん。でも抑えられなかったというか、自分でもわからない気持ちになってた。
正直、茉里が嫌がってなくて良かったってホッとした。
これからもしかしたら、あんなことがあるかもしれない。
嫌だったらちゃんと言ってくれ。

いつも表現がちゃんと出来ない奴で悪い。
あと、いつも最後の茉里の言葉は嬉しい。
だから俺も

⏰:11/01/22 23:19 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#603 [向日葵]
俺も、大好きだよ

―END―

⏰:11/01/22 23:19 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#604 [向日葵]
*アンカー*

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-605

⏰:11/01/22 23:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#605 [向日葵]
[16] 宗助と父

修学旅行も無事に終え、1日の休みの後に部活へやってきた茉里たちは、お土産を配っていた。

「ストラップの人〜!」

「あ、先輩あたしです!」

「クッキー、ちゃんとわけろよ」

「ありがとうございます!」

先輩たちのお土産に群がる後輩たちは、はしゃぎまわる。
そんな中、後輩が「あ」と小さく声をあげ、キャプテンの綾香のもとへいく。

⏰:11/01/30 00:50 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#606 [向日葵]
「そういえば先輩。先輩方が修学旅行に行っている間、3年生の先輩方が何人か来られましたよ」

その言葉に、茉里のお土産を配る手が止まる。

そういえば、先輩ももう卒業だっけ……。

ちらりと宗助を見ると、宗助も耳に入っていたのか、なんだかぼんやりしてるように見える。

茉里たちの中で、千早先輩は色んな意味で心に残る人だ。
その先輩が、今までのように会えなくなるというのは、引退した日の寂しさよりも遥かに大きい。

⏰:11/01/30 00:50 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#607 [向日葵]
宗助は茉里と付き合っているし、先輩に対して特に嫉妬するわけではないが、先輩のことを考えている宗助に、茉里は少し悲しいような気分になった。

「おーいお前らー」

先生が道場の入口で呼び掛ける。

「旅話するのもいいけど、もうすぐ下校時間だぞ。帰れよー」

皆で元気よく返事をし、あとは明日の土曜日にまた、ということになった。

⏰:11/01/30 00:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#608 [向日葵]
「目の前のことばっかりで、なんだか忘れてたね」

校門に向かいながら、茉里は宗助に話しかける。
宗助も何のことを言われているのかがわかったのか、こくりと頷く。

「どんな気持ち?」

訊いてみたかった。

「……わからない。形容しがたい。寂しいというか、切ないというか……、……って、別に好きどうこうってわけじゃないからな。一応言っておくけど」

⏰:11/01/30 00:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#609 [向日葵]
「わかってるよ」

茉里が不安がってるかもしれないと思ってくれてるののが嬉しいと同時に、結構心配されてるんだという自分自身がもうちょっとしっかりしないと、という叱咤がまざり、少し困ったように笑った。

「たださ、私たちにとって、なんというか……、心に残る先輩だったでしょ?宗助も、私と同じ気持ちなのかもな……って思ってさ」

どちらからでもなく、手を繋ぐ。冷えた手が、暖かくなっていくのがわかった。

しかし、その手がまた冷たくなった。
そして、握る手に力が入るので、宗助は茉里を見る。

⏰:11/01/30 00:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#610 [向日葵]
「茉里?」

街灯に照らされた茉里の顔は、驚きと怒りに変わっていった。
まるで、この世で最も見たくないものを見たかのように。

「……んでっ、アンタがここにいるのよ!」

茉里が叫んだ先に、黒いベンツの車が停まっていた。
運転席を出たところに立っていたのは、すらりとした長身の男性。大人のファッション雑誌のモデルでもやってそうな人だった。

柔和な笑顔を見せると、ゆっくり茉里たちのところへ歩み寄ってくる。

⏰:11/01/30 00:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#611 [向日葵]
「近くを通ったから、迎えにきたんだ」

「先輩、こちらは?」

何人かまだいた後輩は、突然現れた紳士的な男性を見て、おろおろする。

紹介したくもないという顔をして、食いしばっていた歯を、無理矢理こじ開けた。

「私の……ち……ちおや……」

「初めまして。部の仲間かな?」

父親がうっとおしくなる年頃とはいえ、茉里の異常な嫌がり様を見た後輩たちは、突然現れた素敵な男性を前にはしゃぐつもりでいたが、それをやめた。

⏰:11/01/30 00:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#612 [向日葵]
触れてはいけない空気に、挨拶もそこそこに後輩たちはそそくさとその場をあとにした。

「……こういうの……迷惑だってわかんないの?紹介したくもないのに……」

「ごめん。部のみんなと一緒だとは思わなくて」

申し訳なさそうに、茉里の父は微笑む。

「ちょっと考えればわかるじゃない!迎えにだって頼んでない!大体アンタの顔なんてみたくないってわかってるでしょ!?」

⏰:11/01/30 00:54 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#613 [向日葵]
茉里は両手でドンッと父の胸を押す。

「お、おい茉里」

さすがに言いすぎじゃないかと、宗助は茉里をとめる。
父はそこで初めて、まだ宗助がいたことに気づいた。

「君は……」

宗助は父とは初対面だ。
初めて見る父は、茉里が話していたほど悪い人だとは思えなかった。

「初めまして、笹部宗助と申します。茉里さんと、お付き合いさせて頂いてます」

「ああ……」と、納得したような返事をした。

⏰:11/01/30 00:55 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#614 [向日葵]
「馨……っと失礼、妻から聞いてるよ。そうか、君が、茉里の……。宗助くんと呼んでも?」

「気安く宗助の名前呼ばないで」

「茉里。はい、構いません」

茉里はずっと父を睨んでいる。
父は苦笑を浮かべながらため息をつき、後部座席のドアを開けた。

「立ち話もなんだから、宗助くんも一緒に乗っていかないか?帰りながらゆっくり話そう」

戸惑う宗助は、茉里を見る。
茉里は宗助の手を掴んで、駅のほうへと歩いていこうとする。

⏰:11/01/30 00:55 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#615 [向日葵]
しかし宗助は、もし茉里の父が今真面目になったんだとすれば、娘と深くなった溝を埋めたいと思っているのではと思った。

溝なんか簡単に埋まるものではない。

それでも、柔和な笑みを浮かべながら、その裏では大きな後悔の念があると感じてしまったら、茉里の手に導かれるわけにはいかなかった。

「俺も一緒なら、茉里も乗る?」

優しくなだめるように茉里に話しかける。
茉里は目を見ようとはしないが、足を止めた。

⏰:11/01/30 00:56 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#616 [向日葵]
茉里は泣きそうな顔で嫌がっていた。
それは父と一緒に帰るのが嫌なのか、嫌いな父の車に宗助が乗るのが嫌なのかはわからないが、宗助が言ってもきいてくれないような気がした。

茉里の闇が大きいのは知ってる。彼女が未だ、その闇に耐え切れず、沈みこむのを知っている。

けれど、いつまでもこの状態がいいわけがない。

どこかで、和解は出来なくても、距離を縮めることは出来るはずだ。

何度、遠くの線路で電車が通過した音をきいただろうか。
茉里がゆっくりと宗助の目をみつめかえす。

⏰:11/02/05 23:50 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#617 [向日葵]
宗助は安心させるように薄く微笑む。

安心……?

その時、宗助は思った。
茉里は、恐がっているのではないかと。

「…………わかった」

ほとんどきこえないくらいだったが、茉里は納得したようだった。
宗助が引っ張るようにして、茉里の父が開けた後部座席へと行く。

茉里は、恐がっているのかもしれない。
茉里は本当はもう、父を許したいと思ってるのではないだろうか。

⏰:11/02/05 23:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#618 [向日葵]
憎しみや、嫌悪が消えたわけじゃない。
でも、それでも少し、歩み寄ってみようと思ってるのかもしれない。
ただ、彼女の中に引っかかるのは、“また裏切られてしまったらどうしよう”という思いだ。

バタンとドアが閉まった瞬間、茉里の手にグッと力が入った。
力のせいか、それとも他のことか、少し震えている。

暗い車内に入る光を頼りに茉里を見れば何かと戦っているのか、眉間にしわを寄せて、口を食いしばって目を瞑っていた。

⏰:11/02/05 23:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#619 [向日葵]
かける言葉がみつからないから、宗助は手を握りかえした。

―――――――………………

「中学校から剣道を……。段は今はどれくらいかな?」

「まだ2段です。もう少ししたらまた昇段試験があるんで、それを受けようかと」

車内では、他愛のない会話をしていた。
茉里の父はゆったりとした話し方をするので、簡単に気を許してしまいそうになるが、そうするのは躊躇った。
茉里は先程よりは顔に険しさはなくなったが、相変わらず眉間にしわをよせて、過ぎ行く街並みを見つめていた。

⏰:11/02/05 23:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#620 [向日葵]
「茉里とは、付き合ってどれくらいに?」

「1ヶ月ほどです。友達からの付き合いを足すと、1年の頃からになります」

「茉里は嫉妬深いだろ。母親似でね」

「……よく言う」

いつもの茉里の声からは考えられないぐらいの低い声がした。
嘲笑のようなものを浮かべて、茉里はまだ街並みを見ている。

この話題はきっとまずい。

「妹がいて、よく遊んでもらってます」

話をさりげなく変えてみる。

⏰:11/02/05 23:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#621 [向日葵]
「妹がいるのかー。茉里も妹がほしかったか?」

「いらない。妹も私みたいにしたいの?」

気まずい空気が、車内を包む。
溝を埋めるつもりが、深さはそのままに距離がどんどん出来てるように思う。

「嫌われてるだろう、私は」

ハハハと父は笑う。

平気なんだろうか。

そうですね、なんて言えないので、宗助は苦笑いを浮かべる。

茉里をちらりと見た。
茉里の目に、涙がたまっているのがうっすらとわかる。
きっと、何か思い出したのだろう。

⏰:11/02/05 23:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#622 [向日葵]
やっぱり、乗るべきではなかったか?

抱きしめてやりたいけれど、それが出来ないから、指と指が組むようにして、手を繋いだ。

いくら繋いでいても、茉里の手が暖かくならなかった。

ごめん、俺の勝手な思いで……。泣かせるつもりなんてなかった。

ただ茉里が、これまでよりも、もっと晴れ晴れ笑えるようになったらって思ったんだ。

⏰:11/02/05 23:53 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#623 [向日葵]
――――――――………………

「私は宗助くんを送っていく。茉里は家に入りなさい」

茉里の家まで帰ってきた宗助は、心配そうに茉里をみる。
茉里は無言で宗助と手を繋いだまま外へ出た。

父親が見てる前でも構わない。

後ろ手にドアを閉めた宗助は、すぐに茉里を引っ張り、力いっぱい抱きしめた。

茉里も、宗助の胸に顔を埋める。

しばらくそうしてたが、茉里の方から離れた。

⏰:11/02/12 23:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#624 [向日葵]
「大丈夫よ宗助。私も、強くならなきゃ。この前だって、元気もらったし、ねっ」

鼻を赤くして、茉里は微笑む。
そんな彼女がいとおしくて、宗助はまたギュッと抱きしめた。

そしてまた車へ乗り込んだ。
車が発進して後ろを見たら、茉里がまた立っていた。

きっと車が見えなくなるまで見送るのだろう。
宗助は前を向く。
ふとルームミラーを見ると、父と目があった。
柔らかく微笑む父に、宗助は複雑な思いを抱く。

⏰:11/02/12 23:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#625 [向日葵]
「お訊き……したいことがあります」

「うん。なんでも言ってくれ」

「茉里さんから、貴方のことを色々ときいたことがあります」

ゆるやかなカーブだが、宗助は油断していたのでよろける。
父は宗助の続きを待っているのか、黙ったままだ。

「浮気…………なさっていたんですか。……本当に」

父は黙ったままだ。
急にハンドルをきられて、また宗助はよろける。
車がしばらくしてとまり、着いたのはどこかのお店だった。

⏰:11/02/12 23:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#626 [向日葵]
「少し、お茶でもしていこう」

柔らかなのに、有無を言わせない雰囲気に、宗助は父のあとを着いていくしかなかった。

そこはファミレスではなく、年季がはいった、けれど落ち着いた温かな雰囲気の喫茶店だった。

ドアを開けると、カランコロンとどこか懐かしい音を奏でる。
数人しかいない喫茶店の店主は、白髪頭とふさふさしたひげをつけた、穏やかそうな人だった。
カウンターのそばに、いくつかのポットがあり、湯気がたっている。

⏰:11/02/12 23:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#627 [向日葵]
父は店主と知り合いのようだ。
父が軽く挨拶をすると、店主は目元にあるしわを深くして笑いながらゆっくりと頷いた。

宗助もとりあえずぺこりと頭を下げると、父と同じように、店主は笑った。

店の雰囲気や店主のゆったりした動作に思わずまどろみそうになるが、そんな場合じゃないと頭をふる。

宗助は父のあとについていく。
父はまるで決まっていたかのように、奥のテーブルについた。
宗助も正面に座る。

⏰:11/02/12 23:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#628 [向日葵]
「さっきコーヒーを頼んだから、もうすぐ来るよ。でもその前にコーヒーは大丈夫かな?」

「平気です」

「なら良かった。ここのはおいしくてね」

お茶を飲みにきたのか?
そんなわけないだろうに。
はぐらかされてるのか?

問い詰めたかったが、さっきの車内とは違いここは公の場。
誰が聞き耳立ててるかわからない状態で、彼女の父親の評判を落とすような発言はしてはいけない。

⏰:11/02/12 23:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#629 [向日葵]
宗助はただ黙って、向こうから話し出すのを待った。

店内は静かにクラシックが流れていた。
宗助は少しそれに耳を傾ける。
しばらくすると、コーヒーの匂いが近づいてきた。

どこにでもあるような真っ白なコーヒーカップとソーサーを店主が持ってきた。
どこにでもあるようだが、逆にそれがこの喫茶店のレトロな雰囲気を引き立てていた。

落ち着く。
落ち着きすぎて、思考回路が鈍くなりそうだったが、それを振り払うように、コーヒーに少しのミルクと砂糖をいれた。

⏰:11/02/12 23:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#630 [向日葵]
「……その話」

「はい?」

急に話をされて、宗助は少し気の抜けた返事をする。
一口コーヒーを口にした父は、静かにカップをソーサーに戻す。

「浮気云々の話は、やっぱり茉里から?」

「はい……。家族のことをお互いに話している時に」

「そうか……」と言って、父はまたコーヒーを一口すする。

少しの沈黙が2人をつつむ。
宗助は父をじっとみつめる。

⏰:11/02/19 22:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#631 [向日葵]
「妻と出会ったのは、大学時代だった」

――――――――…………

当時の茉里の父、裕之(ひろゆき)は、大学内で知らない人はいないほどの、いわゆる王子様のような人だった。

その整った容姿に加え、すらりとのびる手足、細いが触れば男性特有の硬さのある身体。
口説かれれば、ノーという女の子はいなかった。

「裕之、今日はあたしと帰るでしょ?」

「なに言ってんのよ。私に決まってるでしよ!」

⏰:11/02/19 22:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#632 [向日葵]
当然かのように、毎日お決まりのパターンで会話がされていた。
裕之も女性好きだったため、そんな女の子たちが自分を取り合っている様を見て、ただ可愛いと思うだけだった。

特定の女性を大切にしないのは、たくさん愛情を受けていたかったからだ。
1人からの愛情なんて、裕之には足りなかった。

たとえその1人が、どんなに大きな愛情をもっていたとしても。

そうやってたくさんの人が、自分を愛そうとすること自体に快感をすら覚えた。

⏰:11/02/19 22:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#633 [向日葵]
――――――…………

食堂に行けば、そこにいる女の子がほぼ裕之の元へと集まる。
それは、食堂で注文する人だかりよりも遥かに多い数だ。

「裕之、ひとくちちょーだいっ」

「いいよ」

「ずるいーっ!あたしもー」

鼻にかかったような声を出す女の子たちを、けむたがる人もいれば、裕之を羨ましく思う人もいた。

食事を終えて、さすがにこれ以上迷惑をかけてはいけないと思った裕之は、女の子たちに各自教室へ帰るように言った。

⏰:11/02/19 22:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#634 [向日葵]
「えー!」と大合唱の後、1人2人と渋々散らばっていき、食堂を後にした。
だが、まだみんな完璧には帰っていないのを知っている。

このままでは更なる迷惑がかかりそうなので、裕之は席を立った。
皿を水道管のようなところから複数細く出てる水で軽く洗う。

その時、ふわりと甘い香りがした。
香りにまるで導かれるように視線を向けると、そこにいたのは女性だった。

空気をはらんだような髪の毛はまっすぐだが毛先が少し内巻きだ。細く、指通りがゃさそうで、光の具合で茶色い髪がさらに茶色く見える。

⏰:11/02/19 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#635 [向日葵]
まつげが長くて、顔に影がおちている。
控えめについてるかのような唇は、少しだけ微笑んでるようにも見える。

女性はふとこちらを向いた。
それもそのはず。
裕之が、その女性の髪に触れていたから。
裕之もそんな自分の行動を、女性と目があった時に気づいた。

「どうか、されました?」

静かな柔らかい口調が耳にやさしい。
急に髪に触られたというのに女性は怒りもせず、小首を傾げて、やっぱり口は微笑みの形をしていた。

⏰:11/02/19 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#636 [向日葵]
「いや、なんだか甘い香りがしたもので」

「ああ……。お菓子をよく作りますから、それでかしら……?」

女の子たちの視線を感じながらも、裕之は何故だかその人から目が離せなかった。

今までも、誰かに特別な感情を抱いたことはない。
好き勝手に遊んでいたし、たくさんの女の子たちと知り合うのは楽しかった。

でも、この人だけ、なにが違う?

「あなたはたしか……、加賀さんでしたね。1つ学年が上の、有名人さん」

「いや、そんな……」

「初めて見ました。いつも女の子に囲まれて、本人は見たことがありませんでしたから」

⏰:11/02/19 22:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#637 [向日葵]
ふと腕時計を見た女性は、全ての食器を片付け終えると、体ごと裕之の方を向いて、軽く一礼する。

「では、私は用事がありますのでこれで」

「あ、待って!せめて名前を……」

「あれだけたくさんの女の子と一緒にいるんですし、私の名前を名乗ったところで、あなたは忘れてしまうと思いますよ。それでは」

涼やかな声と笑顔で、拒絶された。

ナンパなら他でやれと。

⏰:11/03/06 03:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#638 [向日葵]
彼女が言うことを否定は出来ない。
それに何人もいる女の子たちの中で、彼女を特別扱いする気もない。

けれど、今もまだ、甘い香りが自分を包む。

―――――――…………

「やあ」

何日かしたある日。
裕之はまた甘い香りのする女性をみつけた。
女性は丁度木陰になっているベンチで本を読んでいた。

⏰:11/03/06 03:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#639 [向日葵]
「あら、あなたは……」

「加賀裕之。文学部の2年。そっちは?」

「同じく、文学部の1年です」

「じゃなくて……」

名前を訊きたかったのに、おもいきり省かれた。
これ以上問い詰めても、きっと前みたいにかわされるだろうから、裕之は諦めて女性の隣に座った。

「何読んでるの?」

「志賀直哉の作品集です」

渋い……。

⏰:11/03/06 03:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#640 [向日葵]
「今渋いって思いました?」

「いや、難しい本読んでるんだなーって」

頷きそうなところを、なんとかこらえて別の言葉を出した。

しかし、女性は裕之の考えなどわかっているように、少し困ったように微笑んだ。

再び女性が本に目を落とすと、ふわりと暖かな風がふいた。
それにより、また甘い香りがただよってくる。

気づいたら、裕之は本にそえてあった女性の手を握っていた。
驚いた女性は、たれ目がちの目をかるく見開いて、裕之をみつめる。

⏰:11/03/06 03:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#641 [向日葵]
一体なんなんだこれは……。

裕之も困っていた。
これじゃまるで、自分が彼女のことを好きみたいではないか。

好きなのか?
好きじゃないと言えば嘘になる。今日会うまで、気づかないうちに彼女を探していた自分を知っている。

でも自分は、1人だけを選ぶなんてことはしない。

そう思っているのに、だんだんとその小さな唇に吸い込まれていく。

⏰:11/03/06 03:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#642 [向日葵]
もう触れるだろうという瞬間。
ぱしりと音がして、頬にかるい痛みがはしる。

「やめて……。私をみんなと同じようにしないで……っ!」

怒った目が涙の膜で輝いて、奇麗に見えた。
そしてその目は怒っているのに、どこか悲しそうだった。

「あなたは女の子なら誰でもいいかもしれないけれど、私は違う。誰もかれもが、あなたを好きになるだなんて思わないでください」
そんなこと思っていないと言いたかった。

⏰:11/03/06 03:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#643 [向日葵]
でも、今の自分はそんなこと言えるような奴じゃない。
毎日女の子たちにかこまれていれば、説得力がない。

「あ、いたいた!馨!」

はっとしたように、女性は顔をあげる。
遠くのほうで、誰かが「馨」と呼ばれるその女性を手招きする。

「馨ちゃんっていうんだ」

「……気安く呼ばないで。呼ぶなら名字にしてください。」

「じゃあ名字は?」

「魚住です。では……」

⏰:11/03/06 03:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#644 [向日葵]
急ぐように本をパタンとしめて、馨は立ち去る。
しかし数メートルでピタリと止まると、肩にかけた鞄からごそごそと包まれた小さな何かを出す。

彼女の手にのっていたのは、一口サイズのカップケーキだった。

「自分で食べようと思いましたが、あげます。叩いてしまったお詫びです。でももう2度、あんなことしないでください」

また一礼して、今度はもう振り向かず行ってしまった。

もらったカップケーキを裕之は見つめる。
小さく可愛く主張しているようにも見えるそれは、彼女の分身のような気がして、知らず知らずのうちに口を笑みの形にした。

⏰:11/03/06 03:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#645 [向日葵]
なんて自分らしくない感情だ。
こんなにも彼女がいとおしい……。

魚住馨。
その名前は、裕之にとって特別なものとなった。

ーーーーーーーーー…………

大学にある図書館は、馨にとって一番安らぐ場所。
本のにおいと、建物自体のにおい。遠くに聞こえる生徒の声は、なんだかくすぐったくも感じる。

なにより、次なにを読もうか悩みながら本を選んでいる時が一番幸せな時間。

⏰:11/03/19 21:57 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#646 [向日葵]
本は自分を読んでくれと言っているかのように、窓からさしこむ光で背表紙を光らせる。

心乱れることない、安らぎのとき……。
しかしその安らぎは、ある人の声によって遮られた。

「魚住さん」

ぴくりと肩を震わせて、声のほうへゆっくりと振り向く。

何回会っても、その笑顔は崩れない。
たまに能面でもつけてるのではと感じる。
最近なぜだか、この男が馨につきまとう。

⏰:11/03/19 21:58 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#647 [向日葵]
悪い人ではないのだろうが、いまいち信用ならないこの男を、馨は警戒している。

「加賀さん……。あなたも図書館に用事ですか?」

「うん。探してるものがあると思ったから」

「加賀さんも本を読まれるんですね」

「うん。君の思い出を綴った本があれば、ぼくの探してるものはみつかったも同然だよ」

馨は呆れたようにため息を吐く。
どうしてこの人は私につきまとうのだろう。
からかいなら他でやってほしい。

⏰:11/03/19 21:58 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#648 [向日葵]
「私の思い出なんて、綴ったところでベストセラーになんてならないと思いますが」

口説き文句をさらりとかわす。
いつもなら、彼は困ったように口を閉じるのに、今日はなぜかそうしなかった。

「じゃあ僕がベストセラーになるように大量に買うよ」

「お金の無駄だと思いますよ」

「君に貢ぐならお金も惜しまないよ」

「浪費家は嫌いです」

「ならやめよう」

⏰:11/03/19 21:59 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#649 [向日葵]
付き合ってられない。

逃げようとさりげなく足を動かすと、逃げるほうにある本をとるフリをして、裕之は通せんぼした。

ああ…………、迷惑っ!!

くるりと踵をかえすと、今度はこちらに手をのばしてきた。
もうそれは、フリなんかではなく、明らかに馨を通せないようにするものだった。

苛立って、馨は目をつりあげると、裕之のほうへ背筋をのばして毅然と体をむけた。

⏰:11/03/19 21:59 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#650 [向日葵]
「意地悪しないでください。私を怒らせたいんですか?」

「怒らせたくはないけど、いい加減僕から逃げるのをやめてもらえないかな?」

「前にも言ったはずです。みんなと同じように扱われることを私は望んでいません。遊びたいのなら他でどうぞ」

「違うといったら?」

つりあげていた目が、少し下がる。

違う?

思わずきょとんとした表情になってしまう。

「僕は君に一目惚れしたみたいなんだ。君がいないか、毎日どうしても探してしまう。君から香る甘い香を探してしまう」

⏰:11/03/19 22:00 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#651 [向日葵]
な……なにを……言ってるの……?

「僕のことは嫌いかな?」

「お話してるぐらいなら……別に。こんなことされるのが嫌いなんです」

「そう……。でもこうしなきゃ、いつまでも君が捕まらない気がする」

「私は鳥かなにかですか。鑑賞したいのなら美術品に価値を見出だしてはいかが?私は価値などないの。こんなことされるのは、不愉快だわ!」

裕之の手をたたき落として、馨はその檻から脱走する。
もういつでも逃げられやすいように、棚と棚との間の通路へと出る。

⏰:11/03/26 22:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#652 [向日葵]
周りを注意深く見て、だれもいないかを見る。
じゃないと本を選ぶ場所にいて、棚ではなく通路で突っ立って怒っている自分が、なんだか浮いてて、見られたら変な子だと思われそうだったからだ。

「きっとすぐに気づきますよ。私じゃなくてもいいことに」

「気づくことがないから君がいいと言ってるんだよ」

もうやめて……っ!

馨は、思わず逃げだした。
いてもたってもいられなかった。

⏰:11/03/26 22:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#653 [向日葵]
馨は実は、裕之が好きだった。
馨も一目惚れだった。

入学時、校内で迷った馨を案内してくれたのが裕之だった。

初めてだった、こんなに素敵な人を見るのは。
しかし入学してから知るのだった。

裕之は女の子なら誰でも好きなことに。

そんな人の、特別になりたいだなんて、無理にきまっている。
裕之はああ言ってくれているが、絶対に信じてはいけない。
信じてはこちらが痛い目にあうのだ。

⏰:11/03/26 22:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#654 [向日葵]
そうやって泣いている子を、何人、何十人と、見てきたから。

本当は、もうあのやさしい檻に閉じ込められたままでよかった。
その考えに、このまま委ねてしまおうとして、ハッと気づいた。

傷つくのはこわい、と。

真剣な彼の目が、心臓の音を早めて苦しかった。

どれくらい走ったかは知らないけれど、いつか彼と座った木陰のベンチを見つける。

ゆっくりと近づき、ゆっくりと腰をおろす。

⏰:11/03/26 22:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#655 [向日葵]
傷つきたくないから恋をしないだなんて……。

「私は臆病なのかしら……」

傷ついて、ひとつ成長するのも恋だと思う。
それでも、自分は傷つく勇気なんてない。

「きっとあの人も、そこまで私を好きじゃないでしょうしね」

「そんなことないよ」

頭の上からふってきた声に、馨は驚いて振り向く。

⏰:11/03/26 22:13 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#656 [向日葵]
自分は走ってここまで来たというのに、後ろにいた裕之はまるで最初からいたかのように、先程と変わらない、涼しい顔をしてそこにいた。

そして少し汗ばんだ馨の頬に手を触れる。

「もうずっと、君に夢中なんだ。君しか考えられない。それぐらい、君を想ってる。こう言っても、まだ信じてくれない?」

美貌が近くにあれば、それだけで顔が熱くなるのに、更に強く、情熱的な言葉が出てくるものだから、馨はもう顔を熱くするどころか固まってしまった。

⏰:11/03/26 22:13 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#657 [向日葵]
「もう逃げないで。君を絶対に悲しませたりしない。だから僕を、受け入れてくれ」

真剣な目が、声が、言葉が、全てが馨に突き刺さって、思ってることすら口に出来ない。
わずかに動く目が、彼を避けるように泳ぐ。

「言葉に出来ないっていうなら、態度でしめして。今から君にキスをする。嫌なら今すぐに逃げて」

キ……キス……!?

更に馨は固まる。
しかし固まってる場合じゃない。

今は周りに人影がないといえ、いつ通るかわからない。
こんなとこ見られたら友人にどう言えば……っ。

とほんの数秒のうちに考え、馨はあれ?と思う。

⏰:11/03/26 22:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#658 [向日葵]
私……逃げることを考えてない……。

そう思った瞬間、柔らかなものが、唇におしつけられる。

ああ……、私もう、自分でもわからないうちに、覚悟を決めてたんだわ。

傷ついてもいい。
この人の気持ちに答えたい。
そして自分の気持ちを伝えたい。

どれくらい長い間キスをしていただろう。
離れてはまたしてを繰り返して、馨は息が少し荒くなっていた。

そんなキスをしたのは初めてだったから、恥ずかしくて困った顔になりながら、ちらりと裕之を見ると、今までに見たことがないくらい、眩しく、美しい笑顔で、馨を見つめていた。

⏰:11/03/26 22:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#659 [向日葵]
ーーーーーーー…………

話ながら茉里の父、裕之は、一口二口、コーヒーを飲んでいた。

宗助は手付かずのまま、裕之の話をきいていたので、きっともうコーヒーは冷めてしまっているだろう。

懐かしそうに笑う裕之は、コーヒーにうつる自分に微笑む。

「話をきかせて頂くと……、随分と奥さんに夢中みたいにきこえますが……」

宗助は眉を寄せて、まるで難解をつきつけられたような表情をする。

⏰:11/03/26 22:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#660 [向日葵]
そう言われて、裕之は寂しそうに笑った。

持っていたカップをかたりとソーサーに戻し、足を組みかえ、下を向いて静かに目を閉じる。

そう、夢中だった。
馨さえいれば良かった。
茉里さえいれば良かった。
2人がいり家があれば、それだけで幸せだったんだ。

なのに……。
自分でも許せない。
後悔してもしきれない。
いっそ殺してほしいぐらいに苦しい。

馬鹿だ。
馬鹿だったんだ。

⏰:11/04/02 22:50 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#661 [向日葵]
[17]上げることの出来ない頭

帰ってこない……。

茉里はリビングで全身に力を入れて座っていた。

なにをしてるの?
宗助になにをしてるの?
関わらないでよ。
私の大切な人に、関わらないでよ……っ!

ことりと音がしたかと思い、いつの間にかかたく閉じていた目を開く。
目の前に、白く少し大きめのカップに、ココアが入っていた。
甘い匂いに、体の力が緩む。

⏰:11/04/02 22:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#662 [向日葵]
「色々考えすぎると、可愛い顔に変なシワが入るわよ」

からかうように笑う母、馨は、茉里から見ても美人の類に入る人だと思う。

そんな母なら、他にいい人なんてたくさんいるはずなのに、どうして父にこだわるのだろう。

「今年で結婚何年目になる?」

「3月でー……17?18?それぐらいね。あら?19だったかしら?」

「まあ約20年ね……。」

⏰:11/04/02 22:51 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#663 [向日葵]
少しだけとろみがついたココアに口をつける。
甘い味が口の中をいっぱいにする。

「アイツのなにがよかったの?」

「もう……。いい加減お父さんって呼びなさいよ。お父さん茉里にどう接したらいいかわからなくてオロオロしてるわよ」

「自業自得じゃない。私やお母さんがどんな思いしたかわかってんの?」

馨は苦笑いして、茉里の頭をふわりと撫でた。
茉里をなだめる為に撫でたのだが、茉里はなんだか叱られてる気分になって、肩を落とす。

⏰:11/04/02 22:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#664 [向日葵]
そんな茉里を見ながら、馨は昔を思い出した。

ーーーーーーーー…………

大学を卒業した裕之は、有名ではないが社名を言えばみんなが「ああ……アレね」というぐらいのところへ就職出来た。

馨はまだ1年ある為、大学にまだ通っていたが、裕之は休みなど暇が出来れば馨に連絡するというマメぶりだった。

「馨は就職はどうするの?」

何回かのデートの時に、裕之がきいた。

「デート中の台詞がそれですか?」

⏰:11/04/02 22:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#665 [向日葵]
ぶにっと、裕之の頬を軽くつねる。
そんなことさえ嬉しいのか、裕之はにこにこしている。

「あんまり忙しかったら会えないから、それなりのところがいいな」

「そんなの勝手に決めないでくださいよ。確かにそんな年がら年中バタバタ走り回ってるようなところには行きませんけど」

「じゃあもう働かずくる?」

「どこに?」

「僕のとこ」

⏰:11/04/02 22:52 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#666 [向日葵]
「冗談はやめてください」

もうっ、と馨はそっぽを向く。

裕之は冗談ではないのにと思いながら、そうやって雰囲気に流されない真面目な馨がいとおしくなる。

「まあ、そのうち嫌だって言っても結婚してもらうからね」

「なんですか。その脅迫めいたプロポーズは」

しかしその日もそう遠くはなかった。
大学を卒業し、半年ほどが過ぎた時、待ちきれないかのように裕之がまたプロポーズをした。

⏰:11/04/10 22:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#667 [向日葵]
車で出かけてた2人は、暗くなり、そろそろ帰ろうかという時に、海岸沿いに車をとめて、指輪を出した。

馨は嬉しくて涙を流すことで「はい」と答えた。

色んなことが足早に過ぎていき、気がつけば茉里が生まれて、毎日が本当に幸せだった。

そしてーーーーーーーー

裕之は間違ったのだった。

・・・・・・・・・・・

⏰:11/04/10 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#668 [向日葵]
「加賀」

上司から呼ばれた裕之は、足をとめて振り返る。

「はい?」

「この前のプレゼン良かったって評判だぞ。もしかしたらおれたちので決まるかもしれないって」

「本当ですか!」

もともと、なにをやっても器用にこなす裕之は、上司からの信頼も厚く、若くして色々な重要企画に加わっていた。

嬉しくて笑顔を隠せない裕之は、ふと、上司の後ろにいる影に気づく。

⏰:11/04/10 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#669 [向日葵]
「田辺さん、後ろにどなたかいらっしゃいますか?」

「あ、そうだった。ホラ、挨拶」

出てきた相手に、裕之は息を呑んだ。

「馨……?」

呟くように名前を呼ぶ。

しかし、馨ではない。
それはわかった。

ただその雰囲気、顔立ち、ほとんどが馨にそっくりだった。

控えめに笑う彼女は、裕之に向かって頭を下げる。

⏰:11/04/10 22:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#670 [向日葵]
「はじめまして、加賀さん。私、花形香と申します。部署が変わりまして、加賀さんとお仕事させて頂くことになりました」

名前までそっくりだ。

しかし自分と仕事?

「田辺さん。話がみえないのですが……?」

「ああ、今言ったとおり、コイツ部署が変わってな。仕事は結構優秀だって言われてるんで、おれたちのチームに入ることになったんだ。で、一番新人のコイツを、チームの中で一番新人のお前が、面倒みるってこと」

ああ、なるほど。

⏰:11/04/10 22:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#671 [向日葵]
ちらりと見ると、花形はふわりと微笑む。

そして彼女からは、懐かしくも感じる、あの香りが漂ってきたのだった。

ーーーーーーーーー…………

「そんなに似てたんですか?」

家に帰ってきて、裕之は花形のことを話した。
3歳になった茉里を寝かしつけ、リビングに戻ってきた馨は、台所に立って、食器を洗っている。

「うん。職場に馨がいたらって僕の願いが叶ったのかって一瞬疑ったよ」

⏰:11/04/10 22:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#672 [向日葵]
「それは良かったですね」

「でさー」と続けようとしたが、馨の後ろ姿から、さっきと雰囲気が変わったのがわかった。

気になった裕之は、おずおずと馨の隣に立つ。
馨を見ても、何も変わらないかのように見えるが、馨の機敏を読み取るのは、裕之は得意だった。

「なにか……怒らせた?」

泡だらけの手が、ぴたりととまる。

「ずいぶんと……、彼女が気に入ったんですね」

小さな声だった。

「私を、求めてくれてるのはよくわかりますけど、彼女は別人なんですよ」

⏰:11/04/10 22:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#673 [向日葵]
蛇口をひねると、騒がしい水の音が台所に響く。

シンクに洗った皿を置く。

「片付けの邪魔なので、あっちに行っててください」

その声が震えていたからいけなかった。

裕之は馨の腕をひいて、自分の腕の中に閉じ込めた。
少し抵抗があったが、裕之が抱く力を強くすると、ゆっくりと馨の力が抜けた。

「僕には馨だけだよ」

「わかってますよ。これは……私の勝手でわがままな嫉妬ですから」

「嫉妬なんて、僕を喜ばせたいの?」

⏰:11/04/10 22:36 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#674 [向日葵]
少し屈んで、唇を寄せる。
ちょっと抵抗するように馨は顔をそらそうとするが、顎に指をかけられては、そらしようがない。

熱いくちづけに馨はいつまでも慣れなくて、裕之を引き離そうとするが、裕之はそうすると余計に体を密着させる。

「ひ……ろ、ゆきさ……っ」

「もう少し黙ってて……」

口ごと食べられてしまいそうなキスに、馨もだんだんと酔いしれる。
息苦しい、でもそれが気持ちよくもある。

⏰:11/04/17 00:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#675 [向日葵]
キスの間に、裕之は何度も愛の言葉をささやく。

後に思い出す。

『あまり口にはしないで』

ーーどうして?嬉しくない?

『嬉しいの、とっても。でもね、あまり言ってしまうと、あなたの私への気持ちが、なくなってしまいそうで、とてもこわいわ』

なくなったわけじゃない。
むしろ増していた。
好きで、大好きで、いとおしくて、愛していて……。

⏰:11/04/17 00:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#676 [向日葵]
なのにーーーーーーーー






ドコデ間違エタ…………?

⏰:11/04/17 00:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#677 [向日葵]
ーーーーーー………………

「お前たちって仲良いな」

上司の田辺が言う。

裕之と花形、2人して田辺を見る。

「普通じゃないですか?なあ花形」

「ねえ加賀さん」

「そういうのほほんとした会話が仲良いって言ってんだよ」

実際に仲は良かった。
彼女はやっぱり馨に似ていて、会話から動作まで似ているから、どうしても、馨と接しているようになってしまう。

⏰:11/04/17 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#678 [向日葵]
裕之はそれでも、馨と花形は違うと思っていたから、ただの同僚としてしか思っていない。

「あ、そうだ加賀、この資料まとめといてな」

「え、昨日やりましたよね?」

「訂正の部分が出たんだ。悪いな」

肩を叩いて去っていく上司は、ちっとも悪いと思っていない。
ちぇっと、訂正しなくてはならなくなった書類を苦々しくみつめる。

残業決定か。

最近こんなことが多くなって、茉里と遊べないし、馨ともゆっくり出来ない。

⏰:11/04/17 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#679 [向日葵]
茉里ももう小学3年生になった。
この前も、父の日だからと、少ないお小遣でネクタイを買ってくれた茉里は、裕之にあげるのを楽しみにしていたのに、裕之はその日残業で、結局あげたのは次の日だった。

「気に入った?これを見てたまには茉里のことも思い出してね」

幼く、いじらしいその言葉は、裕之は胸を痛めた。

だから早く帰って、力いっぱい抱きしめてやりたいのに。
少し疲れ気味の裕之は嘆息する。

「あの加賀さん、私も手伝いますよ」

明らかに肩を落としている裕之を気遣ってか、花形は控えめに申し出た。

⏰:11/04/17 00:21 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#680 [向日葵]
「ああ……悪いな……。頼む」

「任せてください!」

にっこりと微笑む。
その笑顔が、馨と重なる。
疲れた心が、癒される。

手を伸ばした裕之は、何か迷って、花形の頭を撫でた。

「ありがとな。ちょっとコーヒーでも飲んでくるわ」

花形の隣を通れば、あの香り。

裕之は頭を撫でるつもりなんてなかった。
そして自分のしようとしてたことを、歩きながら心の底から戒めた。

撫でるつもりなんてなかった。
本当はーーーーーー。

⏰:11/04/17 00:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#681 [向日葵]
ーーーーー抱きしめようとした。

⏰:11/04/17 00:22 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#682 [向日葵]
「なにを……してるんだ……っ」

疲れて頭がおかしくなったか!
いくら馨に似てるといっても彼女は違うではないか。

代わりにしようとするなんて、最低な男のやることだ。

ーーーーーーーー………………

「あーっ!!やっと終わりましたねー!!」

残業してから3時間。
2人共椅子の背もたれにもたれきって背伸びをする。

もう目がチカチカして、しばらくはパソコンの画面とにらめっこしたくはない。

⏰:11/04/17 00:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#683 [向日葵]
「あー……。なんで僕ばっかり……」

「珍しい。加賀さんが愚痴ってる」

おっとっと。
みっともないところを見せるとこだった。
こういうところは、愛する人しか見せたくない。

「帰る前に一息つきましょうか。コーヒーいれますね」

立った花形は、裕之のデスクの左側にある、コーヒーメーカーがある場所へと歩いていった。

しかし、急にめまいが彼女を襲い、ぐらりと体が傾く。
いち早く気づいた裕之は、花形の体を支える。
裕之は椅子から立ち上がって支えたが、バランスを崩して、また椅子に座ることとなった。

⏰:11/04/17 00:23 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#684 [向日葵]
そしてその上に花形が座る形になった。

「だ……大丈夫か……?」

「ご……ごめんなさ……。最近けっこうこんなのがよくあって……」

「ちゃんと休めているのか?」

「はい……。助けて頂いて、ありが……」

花形が顔をあげれば、裕之との距離は、数センチしかなかった。
2人共、離れようとしない。

「…………好きです」

こぼれ落ちるように、花形の口からそうきこえた。

「加賀さんが好きです……。ずっとずっと……好きでした……っ」


やめてくれ。

⏰:11/04/17 00:24 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#685 [向日葵]
「奥さんがいてもいいんです……。私、代わりでもいいんです」

やめてくれ。
彼女と同じような顔で、香りで、声で、僕を求めないでくれ。

彼女ですら、こんなに情熱的に求めたことはない。
いつも裕之が求めて、馨がそのふんわりとした空気で受け止めてくれる。

それはもちろん、馨が嫌がっているのではなく、それが2人の愛し合い方だから、裕之は幸せに満ちあふれていた。

「好き……。加賀さん……。好きなの……。」

頭が、疲れているから、働かない。

馨……。

⏰:11/04/23 20:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#686 [向日葵]
僕は今、君を、こんなにも欲している。

働かない頭のせいにする。
なにもかも。

気づけば、花形に唇を寄せていた。
今すぐ、自分を癒してほしくて、無我夢中で、花形を抱いた。

「加賀さん……」

「……花形。ーーーーーっ!?」


裕之は、ハッとした。

今、誰の名を呼んだ?

わからなくなった。
僕は馨を愛してるのか、花形を愛しているのか。

あんなに馨を欲していたのに、紡いだ名前は、違う名だった。

⏰:11/04/23 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#687 [向日葵]
「加賀さん、私はいいんです。私は、ずっと、あなたのそばにいますから」

その言葉は、甘美な呪縛だった。

月日を重ねる度、裕之の評価は上がり、更に仕事は増え、家に帰れない日が続いたこともあった。

家に帰れば、自分が元の自分に戻った気がして、茉里と馨を力いっぱい抱きしめた。

同時に、懺悔をしたくなった。

僕は、君と似た女性と、肌を重ねた。
君と似た女性と関係をもっている。
許してくれ、君を求めた結果だったんだ。
君が……君が……。

⏰:11/04/23 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#688 [向日葵]
許しを請う言葉は、最早、言い訳にしかきこえなくて、裕之は吐き気がした。

殴りたい。
殴れるなら、もう顔がわからないくらい、自分の顔を殴りたい。

そして、3年の月日が過ぎた。
あの甘美な呪縛に甘えて、疲れた体を、花形で癒していた裕之は、もう、いい加減関係を切らなければと、久々に早く帰りながら考えていた。

早いといっても、もう11時だったが。

「ただいま」

玄関をあけて、そう言っても、馨がこなかった。
いつもなら、たとえ手が泡だらけだろうと、ふんわり笑って「おかえりなさい」というのに。

⏰:11/04/23 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#689 [向日葵]
リビングにはまだ光があった。

「馨……?」

リビングのテーブルに、疲れたような背中があった。

馨は声をかけられると、ゆっくり立ち上がり、同じ動作で裕之を見つめた。
その目が、恐ろしいほど澄んでいて、裕之は息を呑む。

「花形さん」

出てきた言葉は、「おかえりなさい」でも「お疲れ様」でもなかった。

「って方から、今日、電話があったわ」

⏰:11/04/23 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#690 [向日葵]
裕之はもう終わりだと思った。
すべてバレた。

「あなたと別れてほしいんですって」

「…………すまない」

なんとか出た言葉が、そんな陳腐な言葉で、裕之は逃げ出したくなった。

暴れまわるくらい、怒られた方がまだマシだ。
馨はどこまでも静かで、冬の夜みたいに、しん……と冷たい。

「どれくらい付き合ってるの?」

「3年……」

終わった。
なにもかも、失った。

⏰:11/04/23 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#691 [向日葵]
「疲れたあなたに気づいてあげられないのなら、私が彼を癒します、って言われたわ」

裕之は、馨を見れなかった。
顔を伏せ、目をギュッととじる。

「あなたをそうさせたのは、わたしなのね……」

違う。

「別れたい?」

「そんなわけ……っ!!」

そんなわけないと言うため、顔を勢いよくあげる。
裕之は馨をみて、むしろもう別れたくなった。

⏰:11/04/23 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#692 [向日葵]
それでも馨は、裕之を責める気にはなれなかった。
いや、責めたかったのかもしれない。

でも、誰が正しいとか正しくないとか、悪いとか悪くないとか、考えだしたらキリがなくて、もう馨も自分がどうしたいのかわからなくなっていた。

でも裕之が、自分を心の底から愛してくれているのはわかっている。

しかし、3年間も自分しか知らない裕之を、他の誰かが見たのかと思えば、胸が痛むのは仕方がなかった。

⏰:11/04/23 20:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#693 [向日葵]
涙流すくらいは、ちゃんと感情は働いているんだわ……。

裕之をみつめて、頬を流れる涙を感じながら、馨は思った。

「ご飯は、食べる?」

涙を拭いて、口元に少しの笑みをたたえながら、裕之にたずねた。
裕之はしばらく黙って馨を見ていたが、彼女が今何を思っているかわからないので、小さく頷く。

静かに食器がテーブルに並べられる。

その日は、裕之の好物ばかりだった。

⏰:11/04/23 20:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#694 [向日葵]
ーーーーーーーー…………

「お母さん、なにか手伝うことある?」

茉里がひょこりと顔をだす。
昔に意識を飛ばしていた馨は、少しぼんやりと茉里をみる。

「え……。あ、ああ、大丈夫よ。もうあとは煮込むだけだから」

「カッレー!カッレー!」

茉里は馨が作ったカレーが大好きだった。
甘すぎず辛すぎず、でも少しピリッとする。
大きめに切ったジャガ芋はほくほくしてておいしい。

「玉ねぎを飴色になるまでいためるとおいしいらしいけど、お母さんどうしても面倒くさくなるのよね」

⏰:11/04/30 20:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#695 [向日葵]
そんな母の言葉に、茉里はきょとんとする。

「お母さんって、面倒くさがりだっけ?17、18年一緒にいるけど、そんな感じはしないな」

「じゃあ上手くごまかせてるのかしらね」

2人して、アハハと笑う。

笑いながら馨は気づく。

自分でも、知らなかった。
自分は、面倒くさくなることを、きっと避けてたんだわ。

⏰:11/04/30 20:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#696 [向日葵]
あの時も…………。

ーーーーーーーー…………

「馨、どこか出掛けないか?」

裕之はしばらく有休をとった。
有休をとっても、仕事の電話はかかってきたが、ゆっくりするのは久しぶりだった。

あれから、馨に触れていない。
触れさせてくれない。
それは当たり前なのだが、裕之は触れたくて仕方なかった。

「今日は掃除する日なんです。お風呂もカビがはえてたところが気になるし」

⏰:11/04/30 20:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#697 [向日葵]
「昨日もそう言ってたじゃないか……」

「ほこりは毎日たまるんです!」

馨は次の日にはもう何事もなかったかのようにしている。
あの日は、近くにいてほしくなかっただろうと思い、いつも一緒に寝ているが、裕之は客間で寝た。

馨はいつものように茉里を送り出し、買い物に行き、洗濯をし、きびきびと働く。

でも裕之には全部わかっていた。
馨は平気なふりをしているだけだということ。

彼女はこうみえて、感情をあまり顔に出さない。
なにもなかったように演じろと言えばきっと出来るぐらい。
いや、今現にしているのだけど。

⏰:11/04/30 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#698 [向日葵]
「茉里は、今日はミュシャちゃんの家に泊まるんだろ?なら丁度いいじゃないか。遠くまで車を走らせて……」

「裕之さん、そんなこと言ってる暇があるなら、庭の草抜きでもしてきてください!」

言い返す前に、ゴミ袋と軍手、熊手を押し付けるようにして渡される。
何か言おうとする前に、洗濯が終わった音が鳴って、馨は行ってしまう。

裕之はため息を吐く。

こうも避けられては、為す術がない。
しかしそれは自業自得なのであった。

⏰:11/04/30 20:31 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#699 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・

なにかしていないと、足元がおぼつかなくなりそうだった。

裕之はきっと話をしたいはずだ。話合って、一緒に乗り越えてほしいんだと思う。

彼はひたすら謝るだろう。
ただ、繰り返される謝罪の言葉を、どう受ければいいかわからない。
受けたところで、何をすればいいかわからない。

笑顔で許せばいい?
物を壊すぐらい暴れて怒ればいい?
目を腫らして、過呼吸になってしまうほど泣けばいい?

⏰:11/04/30 20:32 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#700 [向日葵]
そうやって考えるうちに、考えているのがもう面倒になってきて、頭がぐらぐらとゆれる。
だから、逃げるように家事をする。

助けて……。

なにに対してそうしてほしいのがわからないまま、馨はそう心の中で呟いた。

茉里も……きっともう知ってる。
きいたんだと思う。
あの会話を。

その証拠に、裕之がリビングにいると、なるべく顔を出さないようになった。

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#701 [向日葵]
馨はギュッと目を閉じて、ゆっくり開ける。

もう、考えても仕方ないなら、終わらせよう。
あやふやなままにせず、綺麗さっぱり、終わらせよう。

馨はゆっくりと裕之の元へ行く。
庭を見ると、まだ少ししか進んでいないが、裕之は真面目に草を抜いていた。

この背中を、ずっと見ていたかったけど……。

「裕之さん」

そっと呼ぶと、ぎこちなく微笑みながら裕之は振り返る。

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