こいごころ
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#751 [向日葵]
「ーーーーーどうして、動かないんだい」

ドアの向こうから声がした。
瞬間的に黒い渦が心を覆いつくしそうになるが、深呼吸でそれをやりすごす。

憎い………………わけじゃない。
許したい…………わけじゃない。

どちらの感情かもわからないけれど、どうして動かないんだろう。

「……ねえ」

ずっと、聞きたかった。
1つだけ、どうしても。

「浮気したのは……、私たちがどうでもよかったから?」

しん……と、全てが静寂で埋め尽くされた気がした。
なんとなく、足元がゆらゆらする。

⏰:11/05/28 20:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#752 [向日葵]
「違うよ」

ドアの向こうで、静かに、でもはっきりと答えた。

「昔も今も、大好きだよ。あの時は……ただおかしかった、これしか言えない」

おかしかった。
その言葉を聞いた時、茉里は思い出したことがあった。

まだ宗助が、茉里に気持ちを向けていない時、夏祭りで茉里は錯覚を起こしていた。

沢口の告白に身を任せれば、楽になるんじゃないかと。

こんな片思いの苦しみから、逃れることが出来るんじゃないかと。

自分から好きでいると言ったくせに、全てを投げ出して、逃げようとした。

⏰:11/05/28 20:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#753 [向日葵]
この人は……、この人も、なにかから逃げようと苦しんでいたのかしら。

「今は…………なにもしてないの……?」

「してないよ」

「嘘ならもうつかないで」

即答が不安で、そう言ってしまう。

「嘘なんかじゃないよ」

「私が子供だと思って茶化してるなら、もうやめて……。私もう……」

⏰:11/05/28 20:14 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#754 [向日葵]
涙が流れた。

自分の中で、裕之をどうするかなんて答えは決まっていないのに、吐き出したのは、本心だった。

「あの時みたいな思いは、辛いの……っ。だって、帰ってきたら、「ただいま」って……、抱きしめてくれてたのに……っ!それは他の誰かを抱いたかもしれないあとだなんて……っ!!」

ああそうか。
許せなかったのは、許したくなかったのは、駄々をこねてたんだ。

お父さんをとらないで、触らないで。
お父さんは私のお父さんなの。

⏰:11/05/28 20:15 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#755 [向日葵]
駄々をこねて。
拗ねて。
相手が自分に謝るまで、そして自分はそれを許すまで。

この人はぬいぐるみかなにかか。

泣いてるけれど、どこか冷静に自分を分析して、茉里は自身を笑った。

「もう、いいよ……」

そんな馬鹿げた理由でこの人を憎んで、許せないのなら。

終わりにしよう。

もう駄々をこねる歳じゃない。

「もうやめる、恨むの……」

かちゃりと音がしたと思ったら、扉が少し開いていた。
裕之は悲しそうに微笑んでいた。

⏰:11/05/28 20:15 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#756 [向日葵]
こうやって向き合ったのは、何年ぶりだろう。

顔を合わせても、まともに見ようともしなかったから。

あの頃と変わったような変わってないような。
少し痩せた?
シワも少し増えた。
でも顔は、整っている。

お父さんだなんて呼べないのは、まだ拗ねた心が残ってるからだ。

でもこれくらいは大目にみなさいよね。

元凶に文句なんて言わせないんだから。

⏰:11/05/28 20:16 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#757 [向日葵]
「馬鹿……。馬鹿馬鹿大馬鹿。アンタなんて、大嫌いよ……」

あとからあとから涙が流れてくる。

悪口を言われても裕之が傷ついた顔をしないのは、もう茉里の気持ちを知っているからだ。

「大嫌い。なによ、結局皆から許してもらうだなんて、運に恵まれてるわね」

「そうだね……」

「私やお母さんじゃなかったら、絶対にアンタなんか捨ててやるんだから」

「そうだね……」

⏰:11/05/28 20:16 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#758 [向日葵]
口が、波でもうってるかのような形になりそうなのを必死で堪える。

「私がどれだけ悲しかったかなんて、しらないでしょ」

「……」

「大好きだったのに……っ、う、うら……っぎられた気持ち、わかんないでしょ……っ」

家に帰るのが嫌で、もうこの家族は一緒にいられないかもしれない不安が毎日ついてきた。

「ふぇ……っ?んくっ、私……っ、すごく傷ついたんだからぁぁぁ!!」

⏰:11/05/28 20:17 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#759 [向日葵]
なにもかもが爆発した。
5年間、言いたいことはいっぱいあって、でも言いたくなくて、けれど思い知れと思った。

もう恨まなくていい、言いたいことは言った、その達成感とか安心感とか、全部が弾け飛んだ。

子供みたいに「うえぇぇえん!!」なんて言って泣き叫ぶ自分をみっともないと思いながらも、声を出さないようにすることが出来なかった。

「もう疲れたっ!!娘にこんな思いさせ……さ、せな、いでよおっっ!!私はふ……っふつ、うに幸せに、17年間を、しゅ、し、過ごしたかったあぁぁっ!!」

⏰:11/05/28 20:17 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#760 [向日葵]
裕之はなんとも言えない笑顔で、茉里の言葉に頷く。

「昼ドラじゃ、な、いんなだからさぁっ、ドロドロしたよ……ようしょ……、要素、入れないでよおぉっ!!」

「茉里さっきから噛み倒してるよ」

「アンタのせいでしょうがぁ!!必死にっ、話してんの、に、茶化すなあぁっ!!」

裕之はまた笑みを深くする。
その笑顔が胸にしみて、茉里はまた一段と声を上げた。

ふわふわと裕之が頭を撫でれば、撫でるその掌の感触が懐かしいあの頃を思い出してまた泣けた。

⏰:11/05/28 20:17 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#761 [向日葵]
ああみっともない。
馬鹿らしい。

許してしまった。

でもそんな顔で笑うなら、許してあげてよかった。

そう思ったことなんて、当分言わない。

全部いっぺんに許しちゃうのは、なんだか嫌だから。

だからまず、今日は一緒にご飯を食べようか。

⏰:11/05/28 20:18 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#762 [向日葵]
[18]茉里と父

急に泣き声がきこえたので、リビングで椅子に座って待っていた宗助はびくりとはねる。
泣きながら何か言ってるのはわかったが、何を言ってるかはまったくわからなかった。

さっき自分の前で混乱してても泣かなかった茉里が、あんなに大きな声で泣いている。
でもそれはいいことだと思った。

茉里が、甘えている証拠だからだ。
そしてその甘えている相手が、裕之なのだから尚更良い。

どんな形でそうなったかはしらないが、きっと和解出来たんだろう。
結局自分はなにも出来なかったし、したところで役には立たなかったかもしれない。

⏰:11/06/05 22:26 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#763 [向日葵]
最終的には、家族でどうにかしていかなければならないのだから。

何か役に立てればと意気込んだ自分としては、どこか情けないし切ない気もするが、茉里がもう苦しまずにいると思えば、自然と笑みが口元にあらわれる。

「きっとね……」

馨は戸口をみつめながら、そっと微笑み、宗助に話しかける。

「茉里はきっかけが欲しかったんだと思うの。引くに引けなくて、しかもなんで自分が引かなきゃならないんだとか葛藤しながら」

「きっかけもですけど、茉里の……っと、すみません。茉里さんの心に、小さな変化があったから、良い方向へ行ったんだと思います。それに……。……あの、なにか……」

⏰:11/06/05 22:26 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#764 [向日葵]
馨がじっとみつめるものだから、宗助はなにか間違ったことを言ってしまったのではないかと不安になった。

馨の目は、全てを見透かしてしまいそうだ。
悪いことを考えていなくても、なんだかソワソワしてしまう。

居心地が悪いわけではない。
いや……悪いのかもしれないが、特別「もうみないでくれ」と思うほどのものではない。

「ああ、ごめんなさいね。私、人をみつめるのくせで。続けて続けて」

⏰:11/06/05 22:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#765 [向日葵]
人をみつめるのはくせになるものなのか……?
そういえば、茉里もじっとみつめてくる。

「いえ……もうやめときます。偉そうに語るものでもないですし」

「あら、遠慮しなくていいのに。私たちが育てた娘が、どんな風に周りからみられてるか、気になるもの」

「付き合いの短い奴が、17年間手塩にかけた娘をとやかく言われるのは、嫌ではないですか?」

⏰:11/06/05 22:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#766 [向日葵]
馨はきょとんとして宗助をみつめる。

改めてみると、馨の顔は少女のように幼く、そして綺麗だ。
肌だって、まだスベスベしていそうだし。

馨は目尻を下げると、くすくす笑いだした。

「あなたは真面目ね。そこまで考えなくていいのよ。それにね、例えあなたからみた茉里と私たちからみた茉里が違っていてもいいのよ。中と外では人の顔は違うものだから」

「けれど……」

「あなたがもし茉里を馬鹿だと思っていても、愛情があればいいのよ。愛情もなく、本当に馬鹿にしてたら、例え外の茉里が馬鹿でも、それはカチンとくるわ。それこそ、手塩にかけた娘を、少ししか付き合ったことがないあなたになにがわかるの!ーーってね」

⏰:11/06/05 22:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#767 [向日葵]
ふわふわと話しているのに芯がある馨の話し方が、宗助はききやすかった。

その姿、考え方をみながら、ききながら、「この人は、茉里の母だなあ」と思った。

馨の、愛情の深さを感じて、そう思った。

ーーーーーーーーー…………

「泣きやめそう?」

しゃっくりが出て、涙と鼻水でぐしゃぐしゃな茉里に、裕之が優しく問い掛ける。

⏰:11/06/05 22:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#768 [向日葵]
「う……う、ん……っ」

ひどいことを、泣きながらたくさん言ってしまった。

節操なしだとか、大嘘つきだとか、父親失格だとか。
あと馬鹿と大嫌いをとにかく連呼した。

それでも裕之はにこにこしていた。

冷たい態度をとられることと思えば、感情のままにぶつけてきてくれるのが、たまらなく嬉しいとでもいうように。

「許してもらって……いいの……?」

戸惑っているように微笑み、裕之のハンカチで顔を拭っている茉里に問い掛ける。

⏰:11/06/05 22:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#769 [向日葵]
「なによ不満なわけ!?」

せっかく泣き止みそうなのに、またギャンと叫ぶ。

「せっかくせっかく!私がもういいって言ってんのに、罰の役をまだ私にやらせるつもり!?」

「罰の役?」

「宗助からきいたわよ。私が許さないのが唯一の罰だからそれでいいみたいに言ったらしいじゃない。言っておくけど……っ、私は、そんな役はっ、ごめんよ……っ!!」

涙でまた声が詰まりそうになるのを必死で堪えた。

⏰:11/06/05 22:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#770 [向日葵]
「アンタへの罰は、アンタが決めるんじゃない、私が、私やお母さんが決めるの」

「じゃあ、僕の罰はなに?」

「苦しみなさい。一生。お母さんや私の優しさ、恵まれた家族に、自責の念で苦しめばいい」

「うん……」

「でもその代わりに、私がアンタを許す。ちゃんと、ね。それでこの話は終わりよ。ご飯だからリビングに来て!」

「行くけど、茉里はそんな顔で笹部くんの前に行っても大丈夫かい?」

鼻も目も真っ赤だろうし、目にいたっては腫れてるだろうし。
宗助が茉里の顔を見れば、眉間にシワがたくさん増えるだろう。

⏰:11/06/05 22:29 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#771 [向日葵]
油断すればまだ涙が出そうだ。
何年もためてた鬱憤は、そう簡単にはなくならない。

あんな大声をあげて「うえっうえっ」泣いても足りない。

和解しただろうことは宗助も馨もわかっているだろう。
だから余計、2人の笑顔をみれば、泣いてしまいそうだ。
実際、今顔を思い浮かべただけでも泣きそうなのだ。

「と……とりあえず、水で顔を洗うわ……」

「その方がいいね」

⏰:11/06/05 22:30 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#772 [向日葵]
*アンカー*

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800

⏰:11/06/11 16:45 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#773 [向日葵]
普通に会話出来ることが不思議だった。
そして嬉しかった。
なにも気にせず、ほのぼのと過ごせることが幸せだった。

……とはまだ言ってはやらないけれど。

「茉里」

「なに?」

「抱きしめてもいい?」

「恋人かアンタは」

でもまあ……、いっか……。

茉里は自分から裕之の胸にだきつく。
柔らかく香る匂いがした。
おそらく香水だろう。
この匂いを、茉里は知っていた。

あの頃と、何も変わらないのね、お父さん。

⏰:11/06/11 16:46 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#774 [向日葵]
小さい頃、裕之に抱きつくとき、いつもこの匂いがした。
茉里はこの匂いが大好きで、顔を裕之の顔に押し付けてひそかに堪能していた。

裕之の腕が、優しく茉里の体に巻き付く。

あの日以来、初めて茉里は裕之に、心から「おかえりなさい」と思えた。

ーーーーーーーー…………

夕飯をみんなで済ませ、ひと息ついた頃には時計が10時をさしそうになっていたので、宗助は帰ることとなった。

⏰:11/06/11 16:46 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#775 [向日葵]
「ーーーの前に、宗助、渡したいものがあるから部屋に来てくれる?」

と茉里が言ったので、2人は再び部屋に来たのだが。

「茉里、いつまでそうしてるんだ」

部屋に入った途端、茉里は宗助の背中にぎゅっと抱きついたまま離れない。
3分ほどこのままだ。

何回か呼びかけてはみたものの、茉里はじっとしたままなので、宗助は動けずにいた。

⏰:11/06/11 16:46 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#776 [向日葵]
「色々、ありがとうね」

ぽつりと茉里が言った。

「仲直りする前はわからないとか言ってたくせに、……いや実際わからなかったけどさ、仲直り出来てすごく嬉しいの。それは宗助が、わからないままでいいって、許してくれたからだと思う」

許せない思いが、この黒い気持ちがあったままの自分でもいいと言ってくれたから。
それがなんだかほっとした。

宗助はゆっくりと振り返って、茉里を優しく抱きしめる。

「そっか……」

「だから宗助、キスして」

⏰:11/06/11 16:47 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#777 [向日葵]
宗助はまるでマネキンかのようにそのまま固まる。

「あのままの気持ちでキスなんて出来ないもの。今はもう大丈夫。だからキスして」

「“だから”の意味と理由がまったくわからないんだけど……」

「なによ、宗助はしたくないの?」

「したくないって言ったら嘘になるけど、また前みたいに腰が抜けられても困るんだけど」

⏰:11/06/11 16:47 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#778 [向日葵]
「誰がそこまでしろっつってんのよ!!」

ムードのかけらもない宗助に、茉里はふうとため息をついた。

「もういいです……。はい」

ふらりとしながらドアノブに手をかけようとした時、目の前のドアに骨張った手が見えた。
行く手を阻むようにしたその手は宗助のもので、どうしたのかと振り向くと、宗助の顔が近くにあった。

眼鏡越しの目が、射抜くように茉里を見つめているから、茉里は心臓がどくりとはねた。

「そうす……」

「言っただろ。したくないって言ったら嘘になるって」

⏰:11/06/11 16:47 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#779 [向日葵]
そう言って顔を近づけるものだから、茉里は目が回りそうになりながら宗助の顔を両手で止める。

「ごめん!すみません!すみませんでした!また次の時にお願いします」

「ワガママだなアンタは。しろって言ったりすんなって言ったり……」

呆れたように息をはき、宗助は鞄を持つ。


茉里は苦笑いを浮かべながらそろりと宗助の顔を覗く。
前髪が長いその表情はもともとわかりにくいけれど、空気がなんだかピリピリとしていたから、怒っていると思った。


「怒った……?」

⏰:11/06/11 16:48 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#780 [向日葵]
「怒ってるって言ったらキスすんの?」

「ええっと……」

更に苦い苦笑いを浮かべて、頭をポリポリかく。

「アンタ俺のことなんか勘違いしてない?」

「勘違い?」

「草食男子だとか思ってない?」

「宗助と草食って似てるね」

「ダジャレ言ってる場合か」

そりゃそうだ。

⏰:11/06/11 16:48 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#781 [向日葵]
確かに宗助は、スキンシップは控え目だし、甘い言葉は特別はかない。
たまに真っ赤になってしまうようなことは言うけれど、それは普段の宗助が宗助なだけに、破壊力がすごいのであって。

キスも抱きしめるのも、どちらかと言えば今みたいに茉里からだし、そう思えば宗助は草食男子なのだろう。

肉食でないことは確かだ。

腰が抜けるほどのキスは、そんな草食な宗助の少しぐらいしかないんじゃないかという欲望的なものがたまたま発動したわけで、いつも茉里をそんな風にしたいかといえば違うと茉里は思っている。

⏰:11/06/11 16:48 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#782 [向日葵]
宗助は基本的に真面目だし、たまに肉食男子のようなワイルドさは欲しいとは思うが、そんなまっすぐ気持ちを向けてくれる宗助が好きだから、これと言って不満はない。

「中立な感じかな。どちらかと言えばベジタリアンなほうなだけで」

「草食のことをベジタリアンって言ったの初めてきいたぞ……。まぁやっぱりそう思ってたわけだ」

「違うの?」

きょとんとして、本気で訊く。
大体、肉食な宗助なんか思いつかない。

「本当の草食男子は見たことないから、みんながみんなそうだと断定しないけど、大抵好きな人には肉食に変わるもんなんじゃないか?」

⏰:11/06/11 16:49 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#783 [向日葵]
…………ということは?

あと一歩わかったようなわからないようなという表情で宗助の次の言葉を待つ茉里を見て、宗助のほうが苦笑いしたくなった。

変なとこ純粋だよな。

「遠回しに言っても伝わってないみたいだからわかりやすくするけど」

腕をぐっと引っ張られたと思えば、腰を抱えこまれ、唇が重なった。
茉里は目を白黒させて、ただその胸元をギュッと掴むしかなかった。

唇が熱い。
そう感じると、唇が離れる。

⏰:11/06/11 16:49 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#784 [向日葵]
>>772にアンカーがあります


良かったら使ってください
(●´∀`●)

⏰:11/06/11 17:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#785 [向日葵]
腰は抜けなかったけれど、頭がぼんやりしている。

「そ……すけ……?」

「わかった?好きな人に“キスして”なんて言われたら、肉食にだってなるってことだ」

ぎょあああ!!っと変な声で叫びたくなるほどの台詞。
宗助がまぶしいくらいにきらきらして見える。
茉里は林檎かのように真っ赤になった。

「わか……っ、わか、わかりまひた……っ!」

⏰:11/06/18 23:02 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#786 [向日葵]
ああもう……。
キスしてだなんてねだるんじゃなかった。

下に裕之を待たせているし、宗助だって早く帰ったほうがいい。

きっと裕之とのことが解決して、自分は有頂天になってるに違いない。

もっとして欲しいだなんて。

腰なんて抜ければいいぐらいの。

……私のほうが肉食になったんじゃないかしら。

⏰:11/06/18 23:02 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#787 [向日葵]
宗助もそう思っていたのか、優しく額にキスを落とすと、茉里を解放した。

部屋を出て、下に下りると、いたのは馨だけだった。

「お邪魔しました。長々と。あとごちそうさまでした」

「また来てね。今度は私とお話してくれると嬉しいわ」

宗助が微笑むと、馨は小さな包みを出した。
それを宗助の手にぽとりと置く。

⏰:11/06/18 23:03 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#788 [向日葵]
「私、お菓子作り好きだから。お口に合うといいんだけど」

宗助はにこにこ微笑む馨と、お菓子が包まれているその小さな包みとを交互にみる。
そしてふわりと微笑んだ。

「ありがとうございます」

宗助は深々と礼をした後、靴を履いて玄関を出て行った。
茉里もその後を追いかける。
パタンと閉まったドアを見て、頬に指先をあてながら馨は呟く。

「宗助くんなら息子でもいいわねー」

少々気が早い呟きだった。

⏰:11/06/18 23:03 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#789 [向日葵]
「私も行こうか?」

「いいよ今日は。結構疲れたんじゃないのか?」

「ううん。むしろ胸のつっかえが取れたから、体が軽い感じよ」

にっこり微笑むと、宗助も口元にえみを浮かべる。

今日1日はとても濃いくて、まるで何日も費やして今の状況になってるんじやないかと思えた。

やっと動きだせたと思う自分の時間が、茉里はなんだかいとおしくも感じた。

⏰:11/06/18 23:04 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#790 [向日葵]
宗助の本心もきけたし……。

ニヤける口元を気合いで防ぐ。
宗助に見えないように太ももをつねって、気を引き締める。

宗助はもう元通りだから驚く。
むしろ異性なれしてるのは宗助の方じゃないのかと思うくらい。

華名がいるから女の子には基本慣れてはいるだろうけれど。

「じゃあ、また明日な」

ポンと頭を撫でられ、さっきの気合いはどこへやら、相好が崩れる。

⏰:11/06/18 23:04 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#791 [向日葵]
「うんっ」

宗助は車に乗り込む。
車が発進しても、茉里は見えなくなるまでずっと見ていた。

数時間前、そうやって見送った時とは正反対の気持ちで。

ポケットに手を突っ込み、携帯を出す。
リダイヤルでよく知った人物の番号に電話をかけた。

「もしもし、ミュシャ?あのね……」

ーーーーーーー…………

20分くらいして、宗助の家まで帰ってきた。

「またいつでもおいで」

⏰:11/06/18 23:04 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#792 [向日葵]
裕之は柔らかくそう言う。

「ありがとうございます」

「君なら、茉里を預けても大丈夫そうだ」

「それは気が早いと思いますが……。でもありがとうございます」

「お礼を言わなきゃいけないのはこちらさ。今日は僕の中で、3番目くらいにいい日さ」

⏰:11/06/25 16:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#793 [向日葵]
言われなくてもわかる。

きっと1番と2番は、馨や茉里のことに違いない。

「もうきっと2人を泣かせたりしないよ。絶対に幸せにする。君に話をきいてもらえてよかった」

裕之はより笑って車を発進させた。
宗助はその車をずっと見送った。
そして同時に、眠気に襲われた。

ああ……、自分でも気づかないうちに、すごく緊張していたんだな……。

ーーーーーーーーー…………

帰ってきた裕之は、リビングで家族水入らずでゆったり過ごそうと思い、リビングの戸口にやって来た。

⏰:11/06/25 16:33 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#794 [向日葵]
しかし茉里の姿がない。

戸口に立ったままキョロキョロと首を動かすと、帰ってきたことに気づいた馨が、洗い物をしている手をとめて、にこりと笑う。

「おかえりなさい。茉里ならお風呂ですよ。あがってきたらこちらに来るんじゃないかしら。お茶でもいれます?」

考えていたことを見透かされて、裕之は照れたように頬をかく。
馨の問いを頷きでかえし、椅子に座る。

「笹部くんはどうでした?」

お湯を沸かしながら馨が言う。

⏰:11/06/25 16:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#795 [向日葵]
「今時珍しい、誠実な青年だと思うよ」

「あら高評価ですね。未来の息子が決まりまって良かったわ。でも、父親としたら複雑かしら?」

本当ならそうなのかもしれないけれど、不思議とそうは思わない。

余程抵抗がありそうな男なら、自分のしてきたことを棚に上げてでもとめるが、彼はそういう類ではなかったから。

宗助の雰囲気は、どこか落ち着くものがあった。

⏰:11/06/25 16:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#796 [向日葵]
男同士、しかも遥かに裕之のほうが年上にも関わらず、愚痴をこぼしても軽蔑されることはないだろうと思い、いつの間にかするすると言葉を紡いでいた。

「二十歳を過ぎたら、是非酒を酌み交わしたいものだよ」

「それは楽しみね」

ほのぼのと会話しているうちに、お茶が出来た。
それと同時に、茉里がリビングへやって来た。

「帰ってきてたの」

バスタオルで濡れた頭を拭きながら茉里が裕之に言った。

⏰:11/06/25 16:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#797 [向日葵]
「うん。茉里もお茶を飲むかい?」

「もらう」

茉里は裕之の正面に座る。
馨は茉里のぶんのお茶を茉里の前に置き、裕之の隣に座って、皆と同じようにお茶をすする。

茉里は言おうと思っていたことがあった。
もうひとつ、胸にずっとずっと引っ掛かっていたものがあったのだ。

「…………。………………。…………っ!、げほっ!!げほげほっ!!」

「茉里!?大丈夫?よそにでもいった?」

⏰:11/06/25 16:35 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#798 [向日葵]
考え事しながらお茶を飲むものじゃない。
咳をしても咳をしても、誘発されるかのようにとまらない。

「だ……だい、じょ、ぶ……げほ……」

じゃなくて。

「あの……。ずっと言おうと思っていたんだけど」

「うん。なに?」

思い出しても、黒い霧は襲って来なかった。
だから落ち着いて言える。
深呼吸するが、それはもう咳がおさまったかを確認するだけのものだった。

⏰:11/06/25 16:36 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#799 [向日葵]
「いつだったか、事故した時、「死ね」だなんて言ってごめん……」

裕之は全く気にしていないように、「ああ」と言った。

「茉里が謝ることじゃない」

「でも、その……」

茉里は馨をちらりと見る。
浮気相手のことを云々話すのは、馨にとって苦痛ではないだろうか。

けれど馨は薄く笑って、変わらない表情で二人の話に耳を傾けていた。

それは大丈夫だということだと思い、茉里は言葉を続ける。

⏰:11/06/25 16:36 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#800 [向日葵]
「あれは、浮気の途中だったんでしょ……?」

「そういえば茉里は、僕が何人も浮気してたと思っていたんだよね?それは違うってことをとりあえず訂正しとくね。訂正した上で話をすれば、あれは浮気ではなかったんだ」

「じゃ……あ……?だって、付き添いの女の人がそういうニュアンスで話してたけど」

「それはね」

耳を傾けていた馨が口をはさんだ。
その間に茉里はお茶をすする。
今度はむせないように。

⏰:11/06/25 16:37 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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