あの場所まで
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#1 [ミツバ]
:09/07/02 10:17 :D904i :VF6A2bjE
#2 [ミツバ]
紫陽花に空から滴が落ちてくる頃、私はベッドの上で横になっていた。
窓につく水滴がツーと流れるのを黙って見ていた。
ピピッピピッ。
脇から体温計を取り出すと37度5分まだ熱はあるみたいだ。
:09/07/02 10:50 :D904i :VF6A2bjE
#3 [ミツバ]
今日は彼氏も私も休みだった。
毎日仕事をして疲れているはずの彼が休みの日は必ず私と一緒にいてくれる。
昨夜より熱が下がった事をメールで伝えた。
:09/07/02 12:28 :D904i :VF6A2bjE
#4 [ミツバ]
『紗代里の熱が下がってよかった。今日はおとなしくしてろよ』
そう優介は返事をしたが、紗代里はこのままただ寝てるなんてしたくなかった。
『海に行きたい。気分転換したら元気になる』
さらにそう伝えた。
:09/07/02 12:32 :D904i :VF6A2bjE
#5 [ミツバ]
♪♪♪
すぐに紗代里の着信音が鳴った。
寝っ転がったまま電話に出た。
体調の確認をし、どうやら一緒に行ってくれるみたいだ。
:09/07/02 12:56 :D904i :VF6A2bjE
#6 [ミツバ]
窓を再び見るとまだ、しとしとと雨は降っていた。
紗代里はゆっくりと白いTシャツに袖を通した。
:09/07/02 13:26 :D904i :VF6A2bjE
#7 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
2人並んで立っていると、運良く片瀬江ノ島行きの電車がホームへと流れ込んできた。
お昼を過ぎて、あまり人が乗っていない車両へ足を踏み入れた。
窓ガラスは曇り、水滴が斜めに流れていた。
:09/07/02 13:32 :D904i :VF6A2bjE
#8 [ミツバ]
シュー…
ドアが閉まりゆっくりと電車は海へと走りだした。
建ち並ぶ住宅を通り過ぎ一つ一つの家の間が広がってくる時、優介は口を開いた。
「具合悪くなったら、すぐ帰るからな?」
心配そうに覗き込んできたので、紗代里はゆっくりと微笑んだ。
:09/07/02 13:53 :D904i :VF6A2bjE
#9 [ミツバ]
ガタン、ゴトン
心地良く揺れる。
古くなって、少しザラザラしたシートを紗代里は逆撫でしながら車内に貼ってある無数の広告をぼんやり見つめていた。
シュー…
電車はゆっくり止まり、老夫婦が乗車した。
:09/07/02 17:04 :D904i :VF6A2bjE
#10 [ミツバ]
「よいしょ、ふぅ〜」
手すりに掴まりながら、私達と向かい合わせに老夫婦はゆっくりと腰を下ろした。
「こっちはジドジドしてんなぁ」
「梅雨だば仕方ねぇ」
老夫婦は話し始めた。
老夫婦が話す方言が紗代里にはどこか懐かしく聞こえる。
:09/07/02 17:13 :D904i :VF6A2bjE
#11 [ミツバ]
微笑ましいなぁと思い、紗代里は優介を見ると彼はこくり、こくりと眠っていた。
紗代里は優介の肩に自分の頭をのせ、自分もいつかあぁなりたいと思っていた。
:09/07/02 17:20 :D904i :VF6A2bjE
#12 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
紗代里はおじいちゃんっ子だった。
小学生の頃、夏休みになると田舎へ車か新幹線で毎年行く。
山ばっかりの場所で遊園地なんてないけど、そんな事構わなかった。
:09/07/02 17:28 :D904i :VF6A2bjE
#13 [ミツバ]
庭にある野菜をおばあちゃんと採って、夕飯のおかずにしたり、おやつに食べたりする。
夏休みの宿題なんか目も触れず一緒に来た幼いイトコと一日中走り、遊び回る。
小学生らしく本当に自由気ままな生活だった。
:09/07/02 17:33 :D904i :VF6A2bjE
#14 [ミツバ]
どこか行く時は必ずおじいちゃんが車を運転してくれた。
それに乗って一緒に好きな物を買ってもらっていた。
今思えば、本当におじいちゃんは孫に甘かったなとしみじみ思う。
:09/07/02 17:36 :D904i :VF6A2bjE
#15 [ミツバ]
おもちゃながらにフィルムも入れるとちゃんと撮れる赤いカメラは、もう手元にはないけれど買ってくれた時は嬉しくて夢中で遊んだ。
他にもきっと生まれた時から沢山の物を知らず知らずにもらっていたはずだ。
大人になって使われなくなった勉強机は荷物置き場へと化し、本来の役目を終えながらも今もあるそれは、確か両親とおじいちゃんとおばあちゃんが買ってくれたものだ。
:09/07/02 17:44 :D904i :VF6A2bjE
#16 [ミツバ]
頭の悪い子供だったから、机に向かって勉強をするなんてほとんどなかったような気がする。
今になってもっと使ってあげればよかったなと後悔した。
あんな立派な物を買ってくれたのに、ごめんね。
:09/07/02 17:46 :D904i :VF6A2bjE
#17 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
ツー…
頬に流れる冷たいものにびっくりして紗代里は目が覚めた。
いつの間にか一緒に眠ってしまったようだ。
優介はまだ眠っていた。
:09/07/02 17:49 :D904i :VF6A2bjE
#18 [ミツバ]
紗代里は涙を拭った。
久しぶりにおじいちゃんの夢を見た。
会いたいな、そう思いながら電車は片瀬江ノ島駅へと流れ込んでいく。
:09/07/02 17:51 :D904i :VF6A2bjE
#19 [ミツバ]
久しぶりに来たなぁと紗代里は外に目を向けると改札に白い帽子をかぶるおじいちゃんが見えた。
「…似てる…」
夢を見たせいだろうか、紗代里はいるはずのない自分のおじいちゃんに見えた。
カタンッ、プシュー…
「終点片瀬江ノ島、忘れ物ございませんようお気をつけください」
車内にアナウンスが広がった。
:09/07/02 18:32 :D904i :VF6A2bjE
#20 [ミツバ]
「ん〜…紗代里?」
両手を上げ、ぐぐっと伸びをながら優介は目を覚ました。
あんな風格のおじいちゃんはどこにでもいる。
紗代里は優介に向き直って、にっこりと笑いながら言った。
「着いたよ、行こう」
:09/07/02 18:39 :D904i :VF6A2bjE
#21 [ミツバ]
電車を降りた瞬間から磯の香りがする。
海が近くにある証拠だ。
改札を出ると、優介が持ってきたビニール傘を紗代里の上に差し一緒に傘の中へ入った。
:09/07/03 16:30 :D904i :sF4vWAHo
#22 [ミツバ]
「島まで行こうか」
優介がそう提案したのと同時に紗代里もそう言おうとしていたので、やっぱり気が合うなと思いながら頷いた。
「一番高い所まで行きたいな」
紗代里は島の方を向いて優介の腕を引いた。
賑わうはずの駅前には梅雨のせいか人がいなかった。
:09/07/03 16:38 :D904i :sF4vWAHo
#23 [ミツバ]
降りてからも降るしとしと雨に少し嫌気を差しながらも、ピチョンと静かに聴こえる音は嫌いではない。
紗代里はそのまま腕を絡めて水溜まりを避けながら歩いた。
一緒に優介も同じように歩く。
:09/07/03 16:51 :D904i :sF4vWAHo
#24 [ミツバ]
ひと昔前の商店街のような少し古くなった店達を通り過ぎ、島へと続く橋がある。
すぐ左側には海が見える。
灰色の空と同じように、海もまた綺麗な色ではなかった。
:09/07/03 17:08 :D904i :sF4vWAHo
#25 [ミツバ]
波打つ黒い海を紗代里は歩きながら見つめた。
「また夏に来よう」
優介は前を向きながら言った。
「そうだね、花火大会もあるしまた来よう」
紗代里一度優介の方へ顔だけ向いて再び海の方へ目を向けた。
:09/07/03 17:17 :D904i :sF4vWAHo
#26 [ミツバ]
訂正
>>15『おもちゃながらにフィルムを入れると〜』
>>25『紗代里は一度優介の方へ〜』
所々すみません
:09/07/03 17:28 :D904i :sF4vWAHo
#27 [ミツバ]
見つめた先の海岸に人はいなかった。
脇を通るはずの車道にさえポツリ、ポツリと2台の車しか橋を渡りきるまで走っていなかった。
江の島に着くとすぐに年月を重ね薄く古くなってしまった青銅の鳥居が見えた。
:09/07/04 14:08 :D904i :2xlbwZBE
#28 [ミツバ]
青銅の鳥居は干物屋や魚屋、先へ続く参道を守っているかのように小さきながらも堂々と立っていた。
魚の生臭いような匂いが強まった。
店先に立つおばちゃんは雨に負けじと元気よく声を張っていた。
:09/07/04 14:12 :D904i :2xlbwZBE
#29 [ミツバ]
ここまで来ると観光客もチラホラいた。
紗代里は口を広げ、いっぱいに空気を取り込む。
鼻から吐くと体内にある酸素に塩気を足したような気分になった。
:09/07/04 14:16 :D904i :2xlbwZBE
#30 [ミツバ]
「磯のいい香りがする」
紗代里は言った。
「そうだな」
優介も大きく息を吸い込んだ。
すると、ずっと奥にある朱色の鳥居に先ほどの白い帽子を被る人が微かに見えた。
:09/07/04 14:19 :D904i :2xlbwZBE
#31 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
「おじいちゃんとおばあちゃんはエスカレーターに乗って上がるからね」
薄紫のカーデを羽織り、おばあちゃんはまだ小さい紗代里に言った。
「わかった!さよちゃんはお父さんと歩くから競争ね!」
夏の終わり、紗代里が小学生に上がる頃一度来ていた。
半袖に半ズボン元気よく少女は駆け出した。
:09/07/04 14:30 :D904i :2xlbwZBE
#32 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
うっすらとしか記憶になかった思い出があの朱色の鳥居と白い帽子を見て微かに脳裏をよぎった。
雨は次第に弱くなり、小雨よりも霧に近い雨に移り変わってきた。
傘を差す人、差さない人が半々に見える。
:09/07/04 14:35 :D904i :2xlbwZBE
#33 [ミツバ]
優介はまだしっかりと傘を紗代里の上にかざしていた。
観光客にぶつからないように歩く。
紗代里は朱色の鳥居を目を凝らして見つめていた。
:09/07/04 14:38 :D904i :2xlbwZBE
#34 [ミツバ]
白い帽子に白いポロシャツ、灰色のズボンがしっかり見えた。
おじいちゃんが死んでから、紗代里はスラリとした老人を見るとおじいちゃんに見えてしまう。
今回もそうだった。
:09/07/04 14:43 :D904i :2xlbwZBE
#35 [ミツバ]
どこにでもいるような普通のおじいちゃんだからこそ、街中に似てる姿を何度も見た。
そして、目で追う。
その繰り返し。
:09/07/04 14:45 :D904i :2xlbwZBE
#36 [ミツバ]
「紗代里、紗代里っ」
紗代里はぐいぐいと腕を引っ張られた。
「あれ、テレビでやってたやつだよ」
優介は嬉しそうにメディアに取り上げられた店を見ていた。
「寄ってもいい?」
楽しそうに言うので、紗代里はくすりと笑って頷いた。
:09/07/04 14:49 :D904i :2xlbwZBE
#37 [ミツバ]
潮風が舞う。
━━━━━━━━━━
店から出て、紗代里と優介は有料のエスカレーターには乗らず歩いて登る事にした。
石階段を上がり、左手に『エスカーのりば』が見えた。
:09/07/04 15:01 :D904i :2xlbwZBE
#38 [ミツバ]
歩きよりも、エスカーに乗る人の方が多かった。
その中に白い帽子を見つけた。
「あれ?」
紗代里はドキンと胸が鳴った。
:09/07/04 15:03 :D904i :2xlbwZBE
#39 [ミツバ]
「優介、私もあれに乗りたい!」
紗代里は慌てて優介に言った。
「いいけど、体ツラいのか?」
心配そうに優介が聞いてくる。
「違うよ、元気だよ。私もあれに乗りたいの」
体のだるさなんて全く感じてはいなかった。
:09/07/04 15:08 :D904i :2xlbwZBE
#40 [ミツバ]
一つしかない切符売り場に3人も並んでいた。
顔を見てみたい。
もう一度見渡すと白い帽子はもういなかった。
:09/07/04 15:11 :D904i :2xlbwZBE
#41 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
『おじいちゃん危ないから早く帰ってきて』
母から紗代里あてにメールが届いた。
夕暮れ時。
紗代里が高校3年生の秋だった。
:09/07/05 10:22 :D904i :zokoJNWk
#42 [ミツバ]
まだ半袖のワイシャツを着て部活の帰りの事だった。
脈打つ心臓。
手は震えていた。
:09/07/05 10:27 :D904i :zokoJNWk
#43 [ミツバ]
家に着く前にもう一通母からメールが届いた。
『やっぱりダメだった。病院から連れて帰るね』
紗代里は焦りのあまり自分の足を絡ませホームで崩れ落ちた。
「…もう会えないの?」
握りしめた携帯電話は何も応えない。
:09/07/05 10:34 :D904i :zokoJNWk
#44 [ミツバ]
━━━━━━━━━━
紗代里は中学に上がり、部活が忙しくなった。
高校も中学以上に部活が忙しく、おじいちゃんとおばあちゃんの家にはもうめったに行かなかった。
もっと会いに行けばよかったのに、もっと…。
:09/07/05 10:39 :D904i :zokoJNWk
#45 [ミツバ]
もうどうしようもない事を何度も何度も考えた。
それほどおじいちゃんっ子であったのだ。
エスカーはゆっくりと紗代里を上へと運んでいく。
:09/07/05 10:45 :D904i :zokoJNWk
#46 [ミツバ]
エスカーから降りると、霧がかってはいるものの傘を差す必要はなかった。
茂る新緑は仄かに香る磯の匂いと混ざり合い、不思議な心地を醸し出す。
こぼれ落ちた雫が頭に当たる。
:09/07/05 14:28 :D904i :zokoJNWk
#47 [ミツバ]
「展望台に行っても、これじゃああんま見えねぇな」
「本当にね」
2人は当たりを見渡しながら言った。
社を過ぎ、友好のために作られたあまり似つかわしくはない色鮮やかな中国風の建物を過ぎて目的の展望台の前やってきた。
エレベーターを中心に螺旋階段が巻き付くように聳えていた。
:09/07/05 14:37 :D904i :zokoJNWk
#48 [ミツバ]
「面白い形してるな」
優介は興味津々に展望台を見る。
「思ったより小さいんだね」
紗代里は改めて見る展望台の大きさに驚いた。
「小学生の時はもっと大きく見えたんだよ」
紗代里は優介に話した。
:09/07/05 14:46 :D904i :zokoJNWk
#49 [ミツバ]
「紗代里も成長したってことだな」
笑って優介が言う。
「なに言ってんの、誰だって成長しますぅ」
膨れっ面になる紗代里を優介が笑いながらなだめた。
柔らかな風が吹く。
:09/07/05 14:50 :D904i :zokoJNWk
#50 [ミツバ]
「俺喉渇いたし、なんか買ってくるから紗代里はそこ座って待ってて」
優介は展望台にあるベンチを指差して言った。
心配性な優介のさり気ない配慮だった。
「わかった、待ってるね」
紗代里は微笑んだ。
:09/07/05 14:57 :D904i :zokoJNWk
#51 [ミツバ]
ベンチに腰を下ろす。
空を眺めると、いつ降ってきてもおかしくない厚い雲が広がっていた。
ふぅと一息つく。
:09/07/05 15:01 :D904i :zokoJNWk
#52 [ミツバ]
訂正
>>50『展望台前にある〜』
脱字申し訳ありません
:09/07/05 15:07 :D904i :zokoJNWk
#53 [ミツバ]
「いや〜どんよりしとるのぉ」
ドキンっ。
心臓が跳ね上がった。
ぼんやりしていて、人の気配に気づかなかったのだ。
:09/07/05 15:13 :D904i :zokoJNWk
#54 [ミツバ]
灰色のズボンに白いポロシャツ、白い帽子。
紗代里は目を見開いた。
「…おじい…ちゃん…」
隣に腰掛ける老人は紛れもなく、紗代里の祖父だった。
:09/07/05 15:19 :D904i :zokoJNWk
#55 [ミツバ]
「さよちゃんが捜すから、来てしまったよ」
祖父はしわくちゃの顔に優しい瞳で紗代里の頭を撫でた。
紗代里は目の前にいる祖父が霞んでしまうほど、涙が溢れ出した。
嗚咽が零れる。
:09/07/05 15:29 :D904i :zokoJNWk
#56 [ミツバ]
「おじいちゃん、ごめんね。寂しかったよね、会いに行けなくてごめんね」
手のひらに温もりを感じる。
「私、自分の事ばっかりで全然おじいちゃん所に行けなかった。死んじゃってから何度も何度も後悔したの。遊びにおいでって毎年夏になる度言ってくれたの断った。会えなくなるなんて思ってもなかったんだよ…」
:09/07/05 15:37 :D904i :zokoJNWk
#57 [ミツバ]
紗代里は泣きながら祖父に想いの全てを話した。
「いいんだよ」
祖父は変わらない表情で紗代里に告げた。
「おじいちゃんは紗代里が生まれてきてから、本当に楽しい事ばかりだった。お父さんとお母さんに感謝してるよ」
祖父は撫で続ける。
:09/07/05 15:40 :D904i :zokoJNWk
#58 [ミツバ]
「…ほんと…に?」
なんとか声を振り絞って紗代里は祖父に訊ねた。
「本当だよ。さよちゃんも親になってこの嬉しさをお父さん達にあげるんだよ」
紗代里は泣きながら、何度も頷いた。
「あの優しそうな彼はきっとさよちゃんを幸せにしてくれるね」
:09/07/05 15:48 :D904i :zokoJNWk
#59 [ミツバ]
祖父は優介が歩いて行った方を向いてそう言った。
また紗代里の方へ向き直り、祖父は告げた。
「幸せになりなさい」
最後まで祖父は孫を案じ、そして誰よりも可愛がった。
:09/07/05 15:52 :D904i :zokoJNWk
#60 [ミツバ]
ボタボタと涙が溢れ止まらない。
「あり、が、とう…」
言葉にするのがやっとのことだった。
紗代里にはもう涙で祖父の顔は見えなくなっていた。
:09/07/05 15:56 :D904i :zokoJNWk
#61 [ミツバ]
「さよちゃん、ありがとうね─」
あの独特のイントネェーションを耳に残し、温もりも消えた。
そして雨は止み、満開の紫陽花の葉は水滴を弾き大地へ返っていった。
:09/07/05 16:00 :D904i :zokoJNWk
#62 [ミツバ]
─────完─────
:09/07/05 16:01 :D904i :zokoJNWk
#63 [ミツバ]
:09/07/07 12:18 :D904i :jjdZsMgw
#64 [ミツバ]
:09/07/07 12:20 :D904i :jjdZsMgw
#65 [ミツバ]
The wish of me small is realized.
:09/07/07 12:28 :D904i :jjdZsMgw
#66 [ミツバ]
昨夜の雷雨が嘘のように今朝は良く晴れた。
加奈子は教科書をもう一度見直して、制服に着替えた。
─17歳の加奈子はこの中間テストに賭けていた。
:09/07/07 12:34 :D904i :jjdZsMgw
#67 [ミツバ]
負けられない戦いがそこにはあるのだ。
加奈子は幼なじみとこの中間テストの総合点を争っている。
負けたら、言う事を聞く。
:09/07/07 12:37 :D904i :jjdZsMgw
#68 [ミツバ]
大体同じ位の成績を取る幼なじみとはいい勝負である。
小さい頃から遊び感覚で色々な勝負をしていた。
今回もそんな遊び感覚で始めたつもりだが、負けたら何かすると課せられたのは初めてだった。
:09/07/07 12:44 :D904i :jjdZsMgw
#69 [ミツバ]
そう言った時のあの自信ありげな表情は脳裏に焼き付いている。
嫌な予感がする。
本能で加奈子は悟った。
:09/07/07 12:48 :D904i :jjdZsMgw
#70 [ミツバ]
だから負けられない。
─ぴんぽ〜ん
ドアホンが鳴って、母が何やらしゃべっている。
加奈子はクマを隠すため、薄く化粧をした。
:09/07/07 12:50 :D904i :jjdZsMgw
#71 [ミツバ]
「あー、もうブサイクな顔がもっとブサイクになってるよぉ」
加奈子は鏡の前でわめいた。
薄い水色のワイシャツに白いベスト、紺色のチェック柄のスカートにリボンをするかネクタイをするか迷っていた。
「リボンの方がいいな」
加奈子の部屋のドアの方から声が聞こえた。
:09/07/07 12:58 :D904i :jjdZsMgw
#72 [ミツバ]
「でもあたしリボン似合わないしさぁ」
振り返らずに加奈子は鏡に向かって言った。
首もとにリボンとネクタイを交互に当てる。
「リボンの方が女の子らしいよ♪」
にっこりと幼なじみはネクタイを加奈子から奪った。
:09/07/07 13:09 :D904i :jjdZsMgw
#73 [ミツバ]
「ちょっと、愛莉ぃ」
「今日は可愛くして行こうよ」
薄い水色に白いベスト、紺色のチェック柄のスカートに同じ柄の紺色のリボンをした幼なじみの愛莉が加奈子のリボンをぷらぷらと取って見せた。
愛莉は胸まで伸びた髪をふんわりとしたゆる巻きにして、それが良く似合う可愛らしい女の子だった。
:09/07/07 15:12 :D904i :jjdZsMgw
#74 [ミツバ]
:09/07/07 15:14 :D904i :jjdZsMgw
#75 [ミツバ]
加奈子はサラッとしたショートで爽やかな印象の女の子だった。
「今日は珍しくお化粧もしてるんだしさ」
「これはクマ隠しだよ」
「そんなにやったんだぁ。お疲れさま」
愛莉は笑って言ったが、朝は低血圧の加奈子は淡々と言った。
:09/07/07 15:25 :D904i :jjdZsMgw
#76 [ミツバ]
「よし、加奈子待ってね」
そう言って愛莉は自分のカバンから化粧ポーチを取り出した。
「なにすんの?」
若干後退りしながら加奈子は訊ねた。
「愛莉がもっと可愛くしてあげる」
:09/07/07 15:31 :D904i :jjdZsMgw
#77 [ミツバ]
ビューラーを丁寧に目蓋に当て、そおっと持ち上げた。
仕上げに真っ黒なマスカラを塗っていく。
加奈子はいつものようにリカちゃん人形になった。
:09/07/07 15:33 :D904i :jjdZsMgw
#78 [ミツバ]
「これだけで全然違うね。まぁ元々加奈子は睫毛長いんだけど」
そう言って満足げに化粧ポーチに戻していった。
愛莉は美容系の進路を考えてるだけあって、綺麗にした。
そして2人で家を出て学校へと向かった。
:09/07/07 15:38 :D904i :jjdZsMgw
#79 [ミツバ]
加奈子と愛莉が通う西高は徒歩で15分の所にあり、住宅街から少し外れた所に建っていた。
最寄りの駅からは徒歩10分で行けるため、地元以外からも人気の高い高校だった。
結果が楽しみだね、何してもらおうかなと楽しげに話している横を勢いよく何かが通り過ぎた。
:09/07/07 15:52 :D904i :jjdZsMgw
#80 [ミツバ]
「あ…」
「ケントくんっ」
加奈子の声を打ち消すように愛莉が大きく手を振った。
キキー!!
ケントと呼ばれた夏はこれからだっていうのに、すでに日焼けし始めた黒い肌で自転車のブレーキを止めた。
:09/07/07 15:57 :D904i :jjdZsMgw
#81 [ミツバ]
訂正
>>80『ケントと呼ばれた男は夏はこれから〜』
脱字ばかりすみません
(;ω;)
誰か読んでるのかな
:09/07/07 15:59 :D904i :jjdZsMgw
#82 [ミツバ]
「よお、お前ら勉強したか?ノート見せてくんない??」
ケントは小麦色に近い肌から白い歯をむき出してニカッと笑った。
「加奈子がすごい勉強したみたいだから見せてもらえば?」
「ちょっと、愛莉っ」
「まじかよ、じゃ井上ノート見して」
ケントが2人に近づいてくる。
:09/07/07 16:15 :D904i :jjdZsMgw
#83 [ミツバ]
「俺赤点取っちゃうと部活出れなくなるからさぁ頼むよ」
両手を顔の前で合わせケントは頭を下げた。
「可哀想だよ、加奈子ぉ」
愛莉も加奈子の前でケントをかばった。
「わかったわよ、はい」
加奈子は観念してノートを渡した。
:09/07/07 16:19 :D904i :jjdZsMgw
#84 [ミツバ]
「悪いな、助かるよ」
ケントは加奈子から丁寧にノートを受け取り、深々と頭を下げた。
「早く行って勉強したら?」
加奈子は呆れて言った。
「おう、サンキューな」
そう言ってケントは颯爽と自転車にまたがり、走っていった。
:09/07/07 17:22 :D904i :jjdZsMgw
#85 [ミツバ]
─行っちゃった…。
加奈子はケントが小さくなるまで後ろ姿を見送った。
「ケントくんって格好いいよねぇ」
愛莉が甘い声で加奈子に話しかる。
加奈子は一緒肩を上げびくりとした。
「ん〜でもバカじゃん」
:09/07/07 17:49 :D904i :jjdZsMgw
#86 [ミツバ]
訂正
>>85『愛莉は甘い声で加奈子に話かける。』
(´;ω;`)
:09/07/07 17:50 :D904i :jjdZsMgw
#87 [ミツバ]
一緒にびくついた心を抑えようと加奈子は冷静に言った。
汗が滲む。
夏が始まるからだろうか。
:09/07/07 17:53 :D904i :jjdZsMgw
#88 [ミツバ]
太陽が照らすアスファルトから熱気を感じ体が火照るような感覚に加奈子は襲われた。
これからもっと気温が上がるのかと思うとうんざりする。
時折吹く風は、まだ冷ややかに感じる。
:09/07/07 17:58 :D904i :jjdZsMgw
#89 [ミツバ]
訂正
>>85>>87『一瞬肩を〜』
『一瞬びくついた〜』
何度もすみません
m(_ _)m
:09/07/07 18:02 :D904i :jjdZsMgw
#90 [ミツバ]
それがせめてもの救いだった。
駅から来る人が加わり、一気に人口密度が上がった。
いつの間にか学校は目の前に見えてきた。
:09/07/07 18:08 :D904i :jjdZsMgw
#91 [ミツバ]
「じゃ、中間最後の二科目頑張ろうね。約束忘れるなよん」
愛莉は楽しげに、そして意味ありげな笑みをうっすら浮かべ隣の教室へと入っていった。
「うぅ、わかってるよ」
加奈子はすでに自信を無くしていた。
唸るように応え、手を振った。
:09/07/07 18:12 :D904i :jjdZsMgw
#92 [ミツバ]
「あ…ケント」
教室に入ってすぐ目についた。
ケントがノートに穴が開くのではないかという位凝視していた。
ネクタイを外し、ワイシャツの第二ボタンまで開けていた。
:09/07/07 18:17 :D904i :jjdZsMgw
#93 [ミツバ]
急いで自転車漕いで来たせいだろう、額から汗が顎へと伝わっていく。
ワイシャツの袖で拭う姿が妙に男らしく見えた。
必死に勉強しているケントに話しかけず、加奈子は一つ前の椅子に座った。
:09/07/07 18:22 :D904i :jjdZsMgw
#94 [ミツバ]
教室にはもうほとんどのクラスメイトがいて、皆最後の悪あがきのように机にかじりついている。
「か〜なこっ」
後ろからクラスでも仲の良い由美がぽんっと軽く肩を叩いた。
「おはよっ」
「おはよう」
低血圧は収まり、いつも通りの笑顔に戻った。
:09/07/07 18:28 :D904i :jjdZsMgw
#95 [ミツバ]
「ぼ〜っとしちゃってぇ何考えてたのよっ」
先程よりも強い力で由美は加奈子をバンバンと叩いた。
一瞬加奈子はケントのあの拭う姿が過ぎったが何も言わない。
変わりにじわりと熱くなった。
:09/07/07 18:33 :D904i :jjdZsMgw
#96 [ミツバ]
訂正
>>95『変わりにじわりと体が熱くなった。』
見てる人いないかもですが、訂正します。
:09/07/07 18:34 :D904i :jjdZsMgw
#97 [ミツバ]
キーンコーンカーンコーン
昔ながらの予鈴が鳴った。
そして音と同時に担任が入ってきた。
「15分後には化学のテスト始めるからな。用意しとけよ、ってもうしてるか」
冗談混じりで言うが、生徒達には余裕がなかった。
:09/07/07 18:40 :D904i :jjdZsMgw
#98 [ミツバ]
ツンツン
肩を小突かれた。
振り向くとケントがノートを渡してきた。
「本当に助かったわ、そのノートから更にヤマ張ったから大丈夫。ありがとな」
ケントは笑って言った。
:09/07/07 18:46 :D904i :jjdZsMgw
#99 [ミツバ]
「寝てばっかいないで、ノート位取りなよね」
「はい、はい」
ケントはちゃんとわかったのか、わかってないのか曖昧に笑って答えた。
しょうがないなと思いながらもつられて笑ってしまった。
:09/07/07 18:56 :D904i :jjdZsMgw
#100 [ミツバ]
───────────
テストが終わった。
赤点は免れたろうが、加奈子は良い出来ではなかった。
目にクマまで作ったのに紙が配られてからイマイチ集中できなかった。
:09/07/07 20:21 :D904i :jjdZsMgw
#101 [ミツバ]
愛莉のあの笑みが脳裏を過ぎる。
いったい何を企んでいるのだろう。
加奈子は身震いした。
:09/07/07 20:23 :D904i :jjdZsMgw
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