こちら満腹堂【BL】
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#287 [サルエルパンツ]
:10/01/02 22:58 :F902iS :hTOvq6c6
#288 [ひとり]
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肉はないからと、近くの精肉店でそれだけ適当に見繕ってから三田さんちへ。
「玉ねぎですか」
「え、お前やったことないの?」
「うん、初めて」
キッチンの狭いスペースで手際よく材料を切っていく三田さん。いつも満腹堂で見る姿とはまた違って新鮮だ。
「マヂでか、チゲ鍋には玉ねぎが鉄板だろ」
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:10/01/02 23:30 :F01B :Kzhnaq.I
#289 [ひとり]
「知りませんて」
「食えばわかるよ」
なんだろ、やたら機嫌がいいように見えるのは、俺の気のせいかな。
「根岸コンロと皿セットしてきて、そこの上に入ってっから」
「はい」
言われるままに皿と箸、コンロをセットする。
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:10/01/02 23:31 :F01B :Kzhnaq.I
#290 [ひとり]
「並べた?」
「はい」
「じゃ鍋持ってくぞ」
「どうぞー」
言うと三田さんが鍋をもって登場した。腰をやや落として、摺り足でこちらに向かってくる。
「ちょ、根岸そこ退いて」
「はいはい」
無事、コンロに鍋を着地させると、コタツに潜り込みテレビをつけた。
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:10/01/02 23:32 :F01B :Kzhnaq.I
#291 [ひとり]
三田さんはバラエティーが好きだ。コンロに着火し野菜が煮込まれるのを待つ間も、フジのなんだか無駄に芸人が出演する番組を選局して観ていた。
俺もそれに付き合う。別にお笑いは好きだけど、どっちか言ったらテレ東とかTBS派だ。
でもそんな事はちっとも重要じゃない。じゃあ何が重要なのかと言われれば、それは三田さんといるこの空間そのものだ。
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:10/01/02 23:32 :F01B :Kzhnaq.I
#292 [ひとり]
番組の合間に交わす何気ない会話とか、ふきこぼれかけた鍋に二人で慌てたりとか、そういうのが。
好きな人と同じ場所に居て、同じものを観て、同じ鍋をつつく。空間を共有してる。それが重要なんだ。
「あ、うまい」
「だから言ったべ」
あと、予想外に玉ねぎがチゲ鍋にあってるんだって事が発覚した。
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:10/01/02 23:33 :F01B :Kzhnaq.I
#293 [ひとり]
食って呑んで、深夜二時。そろそろ宴も闌(タケナワ)。灰皿代わりのビールの空き缶に煙草を落とすと、中から小さくジッと火種の消える音が聞こえた。
「したら俺、そろそろ帰りますね」
「え?」
「ほら、もう二時だし、明日もあるし」
「泊まりゃいいのに」
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:10/01/03 10:09 :F01B :dtBpp/ps
#294 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」
ダウンに袖を通しながら言う俺に、三田さんは少し間を置いて
「・・・・・・そっか」
と短く頷いて玄関まで見送りに来てくれた。
「じゃあ」
「じゃ」
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:10/01/03 10:10 :F01B :dtBpp/ps
#295 [ひとり]
玄関先で向かい合って、軽く手を挙げる。
「「・・・・・・・・」」
何、この沈黙。帰る俺が先に何か言うべきなのか。
「・・おじゃましました」
「うん、また来い」
「はい」
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:10/01/03 10:10 :F01B :dtBpp/ps
#296 [ひとり]
ドアを閉める。背中で三田さんが鍵をかけるガチャっという音を聞き届けてから歩き出した。
近くに適当に止めておいたチャリに跨ると、ハンドルもサドルもキンキンに冷え切っていた。寒い。
ダウンのジップを限界まで上げて風の侵入を防ぎながらチャリを漕ぐ。
漕ぎながら、今日の鍋の美味さを思った。三田さんが自分で選んだというコタツ布団の柄を思った。三田さんの笑った顔と、帰り際の何か言いたげな顔の訳を思った。
胸がざわついた。
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:10/01/03 10:11 :F01B :dtBpp/ps
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