浮き世の諸事情｡

【本編アンカー/1～20】
>>699-700
【21～】
>>631-652
>>654-674
>>676-697
>>703-725

【番外編アンカー】
>>702

　
誰かに対する愛情は
大きければ大きいほど

失った時の悲しみが
憎しみに変わる

人格をも変えてしまう
愛は何よりも暖かく
そして恐ろしくもある

：
：

あたしの母親と
あの遊女さんは
同じ顔をしてた気がする

酷く狂気におかされて
憎しみが溢れ出して‥
だけどその目の奥は
不釣り合いなほどに
孤独の悲しみに濡れ
未来に瞳を曇らせていた

　
愛されたいと思うのも
愛したいと思うのも
‥人間の本質で

愛する人がいて初めて
心の支えができる

母親を許すわけじゃない
妹を殺す事も許されない

だけど‥

　
｢‥壱助さん｣

｢気になります､か｣

あの表情が頭から離れない
ずしりとした感覚が
頭の先から流れ出す

｢あの遊女さん‥､｣

｢妹を‥殺しました｣

｢‥双子の？｣

｢えぇ､｣

　
｢壱助さんは‥恐ろしいですね｣

そう言うと
驚きもせずに
むしろ納得してるみたいに
ほくそ笑んで目を細めた

｢それだけ‥
魅了してしまうんだもの｣

｢私が‥
殺めたような物です､よ｣

　
壱助さんが悪いのかな
誰が悪い‥？

｢誰も‥悪くないと思います｣

｢ほぉう‥｣

壱助さんは
興味深そうにこちらを見つめ
楽に足を崩した

｢愛されたいじゃないですか‥
誰だって｣

　
だって‥
あたしは愛を知らないから
愛されたいって思います

愛しても見捨てられて
それでも無理矢理に追いかけて

あたしに向けられたのは
痛いほどの言葉たちと
たくさんの醜い傷

お父さんに対する母の愛情に
あたしは負けてしまったの

　
これが愛だと言うなら
もう誰も‥愛したくない

｢香夜さん､｣

それはとても優しくて
だけど厳しくて

｢見返りを求めてしまえば
‥それは､ただの欲望だ｣

｢欲‥望？｣

　
｢愛されると言うことは
誰にとっても本望です､よ
しかし‥
此方が得するような愛などない｣

得なんかしなくていい
ただ同じ重さのものが欲しくて

｢初対面の人を愛せと言われて
愛せる人などいないでしょう
‥自然とそんなものは
生まれるもので､香夜さん｣