微妙な10センチ。〜最終〜
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#301 [あき]
愛さん。ありがとう。

そうですよねっ。
でも、この時の私は、そう思ったんですよ。
バカでしょ?笑

ありがとう。

⏰:09/08/15 01:46 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#302 [あき]
朝目覚めて、相変わらず伸ばされた腕が私に絡まりついている。
正直、かなり寝苦しかった。真夜中何度も試みたけれど、離れようと体を動かせば、寝ぼけながらも、彼の腕は私を強く引きつけた。強く引きつけて、絡まりつくのだ。
その絡まった腕を静かに離すと、彼は目覚める。

『…おはよぅ…』

『うん。おはよう。喉乾いたのっ。起きていい?』

『…ん…』

そう言って、彼はやっと私を離してくれる。
ベッドから降りて、冷蔵庫を開けて水を飲んだ。

⏰:09/08/15 01:54 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#303 [あき]
冷えたミネラルウォーターはとても美味しい。
一気に飲み干すと、私は剥ぎ取ったシーツをズルズルと引きずりながらソファーに座った。

パチンとテレビを付ける。朝のワイドショー、コメンテータ達が芸能人の私生活を、面白ろおかしく、はやし立てていた。

ちらりとベッドを見ると、スヤスヤと眠る彼。

シーツを失った布団が私の代わりに彼にまとわりついていた。

⏰:09/08/15 02:04 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#304 [あき]
しばらく一人の時間を過ごすと、彼がようやく目覚める。

『あき…おいで。』

横たわったまま、寝ぼけ眼で、両手を私に伸ばした。
私は微笑み、立ち上がる。
ベッドへと歩み寄り、彼の両手の中へと体を入れると空調で少し冷たい腕が、すぐに絡まり、少し冷たい唇が私の顔を覆った。
それを優しく受け入れると、彼の体がまた熱を帯び始めて、強く私を抱きしめた。

⏰:09/08/15 02:13 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#305 [あき]
『ずっとこうしていたい…』

彼は私を腕の中に入れてそう呟いた。
私は、頷く事も何もせず、ただ微笑み返す。

『…離したくないんだよ。』

まるで赤ん坊が母親の胸の中で無償の愛を欲しがるように。彼は私の胸に顔をうずめて、愛を求めた。私は、彼の髪を撫でながら、うんと囁く。

これでいい。
これでいいんだよね…
なおちゃん…

⏰:09/08/15 02:22 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#306 [あき]
ギリギリまで、そんな時間を過ごした後は、しぶる彼を急かすように、その場を後にして、また車を東に走らせる。

西条さんは、帰りが心配だからと、一番近い駅でいいよと笑って言った。
それひどい、なんて笑いながら、彼の言葉に逆らわず、私は一番違い大きな駅へと車を向かわせる。
一時間程で、車は駐車場へと入った。
彼がこの地を後にするまで残り、二時間。
また二人並んで、手を繋いで歩く。

『あっ…ちょっとここ見ない?』

西条さんが突然に、立ち止まり指を指した場所。
私は、笑顔で頷いた。

⏰:09/08/15 02:31 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#307 [あき]
そこは、女としては、煌びやかな場所で、心踊る場所。

『これ、可愛い…』

飾られた品々を見ながら若干浮かれぎみ。
手に取って、鏡にあててみたりする。

彼自身、私の話はそっちのけで、ショーケースを眺めながら、これがいいと、綺麗なお姉さんになにやら言っている。

『あき、はめてみて?』

振り返ると、西条さんの手には、キラキラと輝くー…指輪。

⏰:09/08/15 02:39 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#308 [あき]
『えっ…うんっ。』

指にはめてみると、それは尚一層輝いて見えた。シルバーのリングに小さな花がモチーフとなり、キラキラと宝石が光っている。
宝石に疎い私でも、それが、何の宝石かわかる。

『似合うじゃん〃』

西条さんが、満足げに頷く姿に、ショーケース越しのお姉さんも、微笑んで、ありきたりの褒め言葉を言った。

『そう〃?』

そう言って私は指から抜くと、お姉さんに渡す。
西条さんは、腕を組み、少し首を傾げて考え込んだ。

⏰:09/08/15 02:48 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#309 [あき]
『私、あっち見たいっ!』

咄嗟に指した方向には、これまた煌びやかなネックレス。

『あきはネックレス好き?』

『うんっ…どちらかと言うと…?〃私指輪なんて持ってないしっ〃』


逃げる様に、その場を動いた。いくら、私でも、今の流れはー…わかる。

咄嗟の言い訳。

⏰:09/08/15 02:59 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#310 [あき]
『そっかっ。〃』

二人並んで、その場所を離れ、ネックレスのケース前へと移動する。

『これなんて可愛いよね?〃』

『うーんっ。俺は、こっちかな?』

『あ…それも可愛いかもっ!』

二人で、品定め。
お姉さんは、ニコニコと私達の背中を眺めていた。

⏰:09/08/15 03:02 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#311 [あき]
《女って、こうゆうの好きだよな。俺、場違いじゃね?》
《これ可愛くないっ?》
《わかんねっ。》
《買ってっ〃》
《いやだっ。》

沖縄の地。私が気に入った、真っ青な石のペンダント。気難しい顔をして、ドカドカと店に入って、文句たらふく言ったそれは、小さな紙袋になって、あの日から私の宝物になった。

《つけとけよ》
《うん。》

街を出て行くその時、そう約束した。なのに、その約束を私は破った。西条さんと初めて会った時は、シャツの下、見えないように首につけていたその宝物は。二度目には、ポケットに忍ばせて。三度目の今は…部屋に置いてきた。
それが全て。

⏰:09/08/15 03:20 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#312 [あき]
真っ青ペンダント。
なおちゃんペンダント。


それ以来、私は数あるコレクションをつけなくなった。

私だって一応、女だし。
それなりに持ってはいるけれど。

つけられない事が寂しくて、悲しくて。
あのペンダントが大切過ぎて。

他の何も
何もつけられなくなった。
(※真っ青ペンダントの詳細は、続編にて。)

⏰:09/08/15 03:31 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#313 [あき]
『気に入ったものあれば買ってやるよっ。』

『いいよっ!そんなのっ。〃行こうっ〃』

スマートに店へと入って、綺麗なお姉さんと談笑しながら、アクセサリーを選び、勝手やると言う西条さん。

緊張しながらドカドカと入って、私が選んだペンダントを、さりげなく買ってくれた、なおちゃん。

両極端な二人に、私の心がついて来ない。
早くこの場から逃げたくなった。

⏰:09/08/15 03:45 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#314 [あき]
『…やっぱ俺が買ってやりたいからっ!よしっ。決まりっ〃』

西条さんは、私の返事を待たずに、最初に私が可愛いと微笑み、手に取った小さな石のついたネックレスを指さして、お姉さんを呼んだ。

慌てる私に、いいからと微笑むと、カードを差し出しだす。

『ちょっとっ!高いからっ!いいってばっ』

必死に止める私の頭をポンポンと撫でて…

あれよあれよと、小さな紙袋が私の手に乗ってしまった。

⏰:09/08/15 03:53 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#315 [あき]
右手には満足げな西条さん。
左手には小さな紙袋。
それを私は、何も言えずただ握るしか出来なかった。

『…ありがとう…〃』

『いいえっ。』

だけど、このお方の、破天荒振りはこれでは収まらなかった。

それは、せめてもの御礼とホームまで見送ると言った私。

…そのホームで起きた。

⏰:09/08/15 04:03 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#316 [あき]
改札を抜け、行き交う人々の中、新幹線ホームへと上がる。小さな街の新幹線ホーム。待合室に座り、二人並んで座る。残りの時間を、静かに過ごしている時に彼が言った。

『あーっ〃やっぱ我慢できないっ!それっ!開けてみて?』

指差すは、さっき買ってくれた、ネックレスが入っている小さな紙袋。
戸惑いながらも、私は、左手に握っていた紙袋を開けた。

ネックレスの箱の下には、見覚えのない箱がもうひとつ。

『なに?これっ…』

⏰:09/08/15 04:10 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#317 [あき]
その小さな四角い箱を開けると、心臓が止まるんじゃないかと思う程、私の胸はどくんと鳴った。

『これ…』

『…それも気に入ったからっ。』

『嘘だっ…』

思わず声を上げた。
そこには、小さな花をモチーフにした、煌びやかな指輪が私を見つめていたのだ。

⏰:09/08/15 04:15 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#318 [あき]
どうしてっ?
いらないって意志表示したのにっ?
いつの間にっ?

頭は混乱に混乱を招く。
彼は、そんな私に気づきもしないで、ネックレスを手に取ると、私の髪をかきあげる。
されるがまま、座っていると、彼の細く長い指が、私のうなじで細やかに動き、それは長い髪と一緒に、首元に舞い降りた。

『似合うよっ〃』

太陽の光にあたりより一層に輝き、それを見て彼はそう微笑んだ。

⏰:09/08/15 04:23 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#319 [あき]
『はいっ。次、手貸して』

私は右手を差し出した。

『…こっちなんだ。』

差し出した右手を見つめ、彼が呟いた。

『あ…ごめんなさい。入るかなぁっ〃』

ドキリとして、直ぐに左手を差し出す。そして咄嗟の言い訳で、その場を取り繕った。
二人が見つめる中、指輪は、スルスルと、呆気なく薬指に入る。

『おっ!入った〃うん。これも似合うね〃』

わかってた。
だから、出さなかったのに。
右手と左手。
薬指のサイズが同じな事をこれほど複雑な心境になった事はなかった。

⏰:09/08/17 00:10 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#320 [あき]
ショーウインドの中、ライトを浴びて光っていたそれは、太陽の光を浴びて、本来の輝きを取り戻したかのように、嬉しそうに光る。
私にはとても眩しくて見れなかった。

『…私には派手じゃないかな?〃』

『そっか?いいじゃんっ。』

『そう?…ありがとっ。』


キラキラと光るそれを私は照れ笑いと称した笑みでかえす。

『大切につけさせて頂きます〃』

『よしっ。』

そして微笑み差し出された西条さんの右手に、キラリと光る指輪がはめられた左手を差し出し微笑んだ。

⏰:09/08/17 00:21 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#321 [あき]
じっとりとした風が私達の間をすり抜けて、また厚い雲が、空を覆いだす頃、鉄の塊が駅へと入ってくる。いつの間にか増えた人が一斉に動き出したと同時に、別れを惜しむ人で、入り口付近が混雑した。スーツ姿のサラリーマンは迷惑そうな顔を向けながら、急ぎ足で次々に乗り込んでいく。私もまた、その迷惑そうな顔を向けられながら、ありきたりの言葉を交わし、いつまでも離れない手を握り、うんうんと返事しながら微笑む。
もう待てないぞと、最後の発車音がホームに鳴り響いて、私達の間に隔てられるドアがプシューと音を立て閉まった。
西条さんは、ドアの向こう側、手を挙げまたねと言って、私は大きく頷き、手を振る。
塊が動き出して、彼は遠く離れた向こう側へと帰って行った。
ある休日の昼下がり。
私達は、二度目の再会を終わらせて。
私は自分自身の何かを終わらせたー…

⏰:09/08/17 00:39 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#322 [あき]
スーツ姿のサラリーマンは迷惑そうな顔を向けながら、急ぎ足で次々に乗り込んでいく。私もまた、その迷惑そうな顔を向けられながら、ありきたりの言葉を交わし、いつまでも離れない手を握り、うんうんと返事しながら微笑む。
もう待てないぞと、最後の発車音がホームに鳴り響いて、私達の間に隔てられるドアがプシューと音を立て閉まった。
西条さんは、ドアの向こう側、手を挙げまたねと言って、私は大きく頷き、手を振る。
塊が動き出して、彼は遠く離れた向こう側へと帰って行った。
ある休日の昼下がり。
私達は、二度目の再会を終わらせて。
私は自分自身の何かを終わらせたー…

⏰:09/08/17 00:40 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#323 [あき]
愛車に乗り込み、ルームミラーで、ついさっき、つけてもらった首にかかったそれを見た。
自分が選んだ?だけあって、シンプルかつキラリと光るそれは可愛い代物。
だけど…正直気分は複雑。
(…今からの時期は苦手なんだよねっ…)
そう。私は突然の雨に降られる季節や、汗ばむ季節になると貴金属は一切しない。
雨に打たれたり、汗をかいた時に、あのアクセサリーがまとわりつく感が、とてもとてもとてもとても!!!気持ちがわるいのだ。(※かなり、しつこく声を大にして言わさせて頂きたい。)だけど、つけてもらった数分後に外すのは、やはりいくら何でも、申し訳ない。
それに…
やっぱり
なおちゃんネックレス。
小さなお土産屋に売っていた、真っ青な石のあのネックレス。
あのネックレスを外して、これをつけてしまった首には。
やっぱり多少の違和感と、言いようのない寂しさがあった。

⏰:09/08/17 01:00 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#324 [あき]
鍵をさし車が唸る。
ハンドルを握る手を見る。
また指輪がきらりと光った。

(…つけちゃった…)

指輪を持っていない。
これは嘘じゃない。
私は、思春期を迎えた頃から自分の手が大嫌いだった。
父親に似てしまったこの手は、女の子らしさのかけらもなく、指は太く短いし、指先なんて丸くて平べったい。爪なんて弱くもろい性質で伸ばせた試しがない。だから、指輪なんて手が強調されるようなものなんて恐れ多い。マニキュアすら塗った事がないのだ。
そりゃ、一応女だし?憧れたりはしたけれど。
過去にも、一度たりともねだった事はなかった。

⏰:09/08/17 01:14 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#325 [あき]
手、そして指は私の最大のコンプレックスだったのだ。
私が一生に一度だけ
唯一つけるとするならば。
それは。結婚指輪。その指輪しかしないと心に決めていた。
自分の左手薬指を見つめても、初めての指輪は、やっぱり女心をくすぐった。仲間入りをしたようで、嬉しかった。
だけど、やっぱり…

《あきが、俺を認めさせたら。よくやったって言わせたら…指輪買ってやるよっ!!》

はるか遥か、遠い昔。
酔っ払ったなおちゃんが
言ったあの言葉。(※一編参照)嬉しかった思い出。
果たせそうにない言葉。
それが胸に響いていた。

⏰:09/08/17 01:26 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#326 [あき]
この指輪は私の決意だ。

私が西条さんのものになったという証。

未来を掴むんだと決めた。
だから、なおちゃんを…諦める。あの日、そう決意した、その証なのだ。

そっと指輪に触れてみる。
そして、私は前を見据えて強くハンドルを握った。
車を静かに発進させて、ゆっくりと前へ動かす。
駐車場を出て、流れゆく景色の中、私はただ車を前へと動かせた。ただ、ただ前進させたのだ。

そう決めたんだ。
自分で決めた…

何度も、そう言い聞かせながら、愛車を前へと進めていた…

⏰:09/08/17 01:42 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#327 [あき]
―ピッ…プルル〜
《おうっ。》

相変わらずの愛想もない返事。
もっと違う言葉ないのかな。

『わたしっ。』

でも、私も私だ。
相変わらず可愛げのない言い方。いつからかな…こうなったの。

《んあ。てか、遅ぇよっ。昨日、かけ直すって言ったのはそっちだろ?俺、かなりご立腹なんだけど?》

怒られた。
なのに、これは昔から悪い気はしなかった。

『帰ったら電話するって言ったじゃんっ〃』

案の定小憎たらしい言い草。
自分でも笑っちゃう。

⏰:09/08/17 19:06 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#328 [あき]
《んだそれっ。はい言い訳っ!!〃》

ああっ。
今日は機嫌良いんだ。
…良かった。

『うっせ!〃だから、電話したのっ。』

可愛くないなぁ…私。
これが。最後なのにっ。
たぶん…最後なのに…

《はぁ?なにっ。帰ってない訳っ?ますますウゼー〃》

冗談じゃないよ?
本気だよ。
…本気なの。

『あの彼と一緒だったっ。さっき帰ったけどっ?〃』

ねぇ。どう思った?
どう感じてくれた?
なんて言う…?

⏰:09/08/17 22:28 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#329 [あき]
《…ふーん。そう。》

で…ですよねぇ〃
アナタは私に何の干渉もないものねっ。
私に幸せになって欲しいんだもんねっ。
そうだよねっ…
うん…やっぱりね…
そう言うと思った…

『………』

あれっ。
自分で言い出したのに。
解ってた答えなのに。
考えた小憎たらしい台詞。
出て来ないやっ…


《まっ、要件は昨日だったからっ、今日じゃ遅ぇしっ。と、いう事で。じゃっ!》

『うん…』

―プチッ。プー…プー…
私の返事を聞いたのか聞いてないのか。なおちゃんの電話は切れた。

⏰:09/08/17 22:51 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#330 [あき]
ハンドルを握りしめて、流れる景色の前を見据える。

これでなおちゃんは、もうかけてこない。
そう感じた。

私もかける事はない。
そう決めた。

これでいい。
そう思った。

私は西条さんを選んだ。
不器用だけど、真っ直ぐな愛を向けてくれる彼を選んだんでしょ?
未来が欲しいんでしょ?
そう言い聞かせた。

なのに涙が溢れた−…

⏰:09/08/17 23:08 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#331 [あき]
ひとしきり高速道を突き進む。

遥か遠くまで続く直進道路。
流れる景色はとても早い。
そんなのお構いなしに、アクセルを踏み込んで、ハンドルを両手で握り目一杯の操作で突き進んだ。
高速道。何故こんなにも涙が出てくるのかは、わからないけれど、とにかくそのままにしておいた。
小一時間程走ると、一般道へ突入。ただ見慣れた景色が淡くぼやけて見える。
もう涙も出なかった。

そこからはただ、淡々と自宅を目指していた。

⏰:09/08/21 20:26 📱:W65T 🆔:LWywvFt.


#332 [あき]
幸せになりたい。
そう決意した、私の選択。
だからそこ、西条さんを選んだ。

だけど……

そもそも[幸せ]なんて私は知らなかった。
どんな事が[幸せ]かなんて、親も先生も教えてはくれなかった。

だから、幸せというものは、自分の理想や、描いたものでしか図れなかった。
だからこそ、その掴みかけた幸せに固執した。

(違う…)

現実の世界の幸せを知らない私が、そう知った時には、もう後戻りができないまでになっていた―…

⏰:09/08/21 20:56 📱:W65T 🆔:LWywvFt.


#333 [あき]
―――

『…うん』

《どうして、俺の気持ちがわからないんだっ!!》

『だからっ…私にも…』

《そうじゃないだろっ!!約束だろっ!?あきが悪いよなっ!》

『うん……』

彼の独占欲は日に日に増していった。出会った頃は優しかった彼は、あれ以降、よく感情を露わにする。怒鳴りつけられる事に恐怖を感じる私は、ただ頷き、謝り、彼の怒りの炎が消炎するのを待つしか出来なかった。

⏰:09/08/21 21:08 📱:W65T 🆔:LWywvFt.


#334 [あき]
露わにする彼の怒りの原因はいつも一緒だった。それは私が[約束]と言われるものを[破る]からだ。いつも、それが原因。彼は、会えないぶん、密なる連絡をして欲しいと言った。
私は、遠距離恋愛たるものそうゆうものなのかと、とまどいながらも、了承したのは事実。
だけど、いざ、やってみると自由奔放に生きてきた私には、過去の恋愛中も求めた事も、求められた事もない。彼が初めてだった。だから、ついつい忘れてしまう。
おまけに、世には携帯依存症という新たな現代病があるらしいが、私には無関係な話。
逆に、携帯電話に縛られた生活をしているのが仇となり、オフモードに入ると、ますます携帯電話というものを、意識から消し去るクセがある。
おかげで、彼からの連絡に気づかない事も多々あった。

連絡もない。
返事もない。

それが、いつも彼を苛立たせる原因だった。

⏰:09/08/21 21:32 📱:W65T 🆔:LWywvFt.


#335 [あき]
そして彼は言う。
《また男だろ!》
《また遊んでんだろ!》
《何か電話に出られない事してんだろ!》
苛立ちの二言目には、私に疑惑を押し付け、それを爆発させる。この言葉を投げつけられる度に、私は小さく溜め息をついて、またかと思うのだ。

『私、何も悪い事してないのに…少しは信用してよっ…』

そして小さく反論をしてみる。

《はぁ?そんな事わかんないだろっ?》

また同じ言葉を返されて、信用されてないんだと。痛感する。だけど、これは彼の愛情の現れなんだからと自分に言い聞かすんだ。

⏰:09/08/22 01:56 📱:W65T 🆔:ups8JnIw


#336 [あき]
これが、俗に言う[束縛]というものならば、私は仕方がないと諦めるしかなかった。

彼は、過去にとても大きな傷を追っている。
積み重なった小さな傷が、彼の心をボロボロに切り刻み。
臆病になっていた。
自分に自信を失っていた。
結果、もう何年も彼を恋愛から遠ざけていたらしい。
それが、数ヶ月前、彼の前に私が舞い降りた事で、彼は消し去った記憶を呼び覚まし、私と過ごす何気ない日々が、彼の心を目覚めさせた。
ただ、彼は、その経験から、異常なまでに何事にも過剰に反応し、不安になり…何よりも愛を確かめたがった。
その術が[束縛]につながってしまったのだ。
私の1日の行動を把握し、少しでも連絡が取れないと、苛立ち、怒りがこみ上げる。
だからこそ
また男か。
この台詞も、仕方のない事だった。

⏰:09/08/22 02:18 📱:W65T 🆔:ups8JnIw


#337 [あき]
『私は、前の彼女達とは違う…』

《あきの周りには男がうじゃうじゃいるだろっ!!違うかっ?》

彼の言い分は悲しいばかりだけれど。仕方がないのだ。
確かに私は、昔から男性に囲まれる事の方が多かった。
それは、決してモテるといった現象な訳でも、男好きだからと言った訳でもない。
自然とそうなっただけ。
昔からだ。学生の頃から
あの妙な一心同体的連帯感があるくせに、裏ではドロドロした女の世界より、バカバカしい一心同体的連帯感はあるけれど、一匹狼的なサッパリしている男の世界。こっちの世界の方が気持ちが楽だった。
あの特有の質が私には合っていたのだ。

⏰:09/08/22 03:02 📱:W65T 🆔:ups8JnIw


#338 [あき]
だから、自慢にもならないけれど?胸を張って言える。
私が心許し心底喜怒哀楽を共にした付き合いをしたのは…今までも、フタリだけ。
勿論、なおちゃん。
あとは、なおちゃんの街を離れ引っ越した先で、残りの幼少期、学生時代を過ごした第2の幼なじみになる彼女だけだ。
いや…最近は、ヒトリ増えた。
めでたく寿退社を果たした、元同期の、さえちゃん。
彼女も、私の中の友達メンバーに仲間入りだと思う。
めでたく三人になった。

友達なんて沢山いらない。
数人でいいんだ。
負け惜しみでも、ヤケクソでも、遠吠えでもない。
私は、心底そう思っている。

後は、大切な友人ではあるけれど。うん。…やっぱり友人だ。
それ以上でも、それ以外でもない。

⏰:09/08/22 03:33 📱:W65T 🆔:ups8JnIw


#339 [我輩は匿名である]
いつも見てます!
最近の展開は見てると苦しくなっちゃいます(;ω;)
あきさん幸せになってほしいです!

⏰:09/08/22 08:37 📱:P904i 🆔:gcGlCnow


#340 [あき]
匿名さん、ありがとう。
この頃の私も、私自身苦しかったですっ。苦笑
―――――――――
到底、私のそんなライフスタイルは周囲には理解し難いものなのかもしれない。
基本お一人様が全く持って平気な私。逆に集団行動は苦手かもしれない。
ただ、その場の空気を読むのが、ピカイチだっただけ。
今思えば、幼少期から泥めかしい人間関係の中で育ち、自然と身に着けた、生きる術がそうさせたのかもしれない。
求められたように、求められたあきでいるのだ。
本当の私という人間を知るのは三人だけだとしても?
その時、その場所、人種、年齢、性別。そんなもの全く関係なかった。私はその場、その場で順応してきたのだ。
お陰様で私は、幼き頃から、いつも人間には恵まれた。

⏰:09/08/23 00:16 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#341 [あき]
逆に集団行動は苦手かもしれない。
ただ、その場の空気を読むのが、ピカイチだっただけ。
今思えば、幼少期から泥めかしい人間関係の中で育ち、自然と身に着けた、生きる術がそうさせたのかもしれない。
求められたように、求められたあきでいるのだ。
本当の私という人間を知るのは三人だけだとしても?
その時、その場所、人種、年齢、性別。そんなもの全く関係なかった。私はその場、その場で順応してきたのだ。
お陰様で私は、幼き頃から、いつも人間には恵まれた。

⏰:09/08/23 00:16 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#342 [あき]
結局、そんな私のスタイルが、彼の中で[友人の多い社交的なあき]になっていた。
そんな私が、彼の不安要素なのだと言った。

私が社交的だって?
ちゃんちゃら可笑しい。

私は、そんな人間じゃない。
お家が大好きで。
一人が大好きで。
いつも、ヒトリでいるんだ。
過去も現在も…
いつでも私はヒトリなのにね。

⏰:09/08/23 00:22 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#343 [あき]
彼は、毎夜毎夜、私という人間に、怒りに満ちていた。
何度話をしても、私を認めようとも理解しようともしてはくれなかった。
ただ、私が居なくなる恐怖に怯え、その反動が怒りとなって現れるのだ。

自分という人間を否定される。
そんな毎夜にウンザリしていた。だけど、手放す事が出来なかった。ただ、このチャンスを逃したら、私はもう駄目かもしれない。幸せになりたい。幸せになるんだ。そればかりが、先に頭をよぎり、ごめんなさいと言うこの言葉で、またその夜を乗り切るのだ。彼が求める私になればいい。彼が、私を必要とするならば。
私は、なれる。今までだってそうしてきたじゃない…

彼に何度も抱かれたあれ以降、彼が、帰ったあの日以降。
そう言い聞かせる日々が続いていたー…

⏰:09/08/23 00:49 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#344 [あき]
自分という人間を否定される。
そんな毎夜にウンザリしていた。
だけど、手放す事が出来なかったのも事実。
彼が私を失う事に恐怖を覚えるように。
私もまた、彼を失う事に恐怖を覚えていた。


このチャンスを逃したら、私はもう駄目かもしれない。
幸せになりたい。
幸せになるんだ。
ごめんなさいと言うこの言葉で、この夜を乗り切れば、私は幸せを掴めるはず。
だから今、彼を失いたくない。


彼に何度も抱かれたあれ以降、彼が、帰ったあの日以降。
そんな日々が続いていたー…

⏰:09/08/23 00:52 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#345 [あき]
どんより空ではあるけれど、そんなの私は気にしない。
ぴょんと飛び起きて、朝から、シャワーを浴びて、メイクもきっちり装備して、時計を確認。
待ち合わせ時間まで、あと一時間。気分が踊る。
今日は久しくぶりに、さえちゃんと会う。
彼女は、今春、長年密かに暖めた恋を実らせて、電撃結婚した。
もちろん電撃というのは表向きで、昨年秋頃より密かに準備を進めていた事を私は知っていた。ただ、今日急遽会う話になったのは、つい先日、彼女の体内に、小さな、まだまだ本当に小さな命が宿っている事がわかったのだ。さすがの私も、これは電撃だった。

⏰:09/08/25 19:46 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#346 [あき]
《ほんとーっ!!〃おめでとーっ!!〃》

《うんっ〃もうっ〃今、彼と病院帰りなんだよっ!!あきに一番に教えたくって!!》

《ほんと嬉しいってっ!!〃おめでとー!!〃》

そして、今日という日が急遽決まったのだ。
彼女達の苦労を間近に見てきた数年だった。
結婚が決まった時、そして今、
とても嬉しかった。


そしてまた、彼女は女の幸せという道を、順調に歩いている。
それが、とても羨ましかった。

⏰:09/08/25 19:52 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#347 [あき]
待ち合わせの時間より数十分早く、約束のカフェへと私は車を滑らせた。
ちらりと周囲を確認しても、まだ彼女は到着していないみたい。この時間はたまらない。
愛しい人に会える待ち時間。
ドキドキワクワクが止められない。
待つこと数分。
また、約束の時間より数十分早く彼女の愛車が駐車場へ入ってくるのが見えた。
ついついニンマリとしてしまう。彼女は私の愛車を直ぐに見つけ、幸せ一杯の笑顔で手を振りながら、すぐ傍に愛車を停めた。私は、その笑顔にニンマリしたまま手を振り、助手席に投げ置いたバックを掴み、車を降りる。

『久しぶりっ!!〃』
『久しぶり〃』

私達は、まるで恋人同士の様に少し照れ笑いをしながら、歩み寄った。

⏰:09/08/25 20:00 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#348 [あき]
カフェに入り、昔は庭に面したオープン席が私達の定位置だったけれど、今日は程よい空調の整った店内の隅に座った。
いつものランチをオーダーすると、一息。
スタッフが席を離れるやいなや、私はニヤニヤしたまま一言。

『…まずは、おめでとうっ!!〃』

『うんっ〃ありがとうっ〃』

照れ臭そうに微笑むさえちゃんは本当に綺麗だった。
妻になり、母になるさえちゃんは輝いていた。
久しぶりに彼女を綺麗だと心底思えた。

『こっちでいいのっ?』

『いいって〃』

⏰:09/08/25 20:07 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#349 [あき]
新人駆け出し時代、一緒にランチをしていた頃は、よくフタリで、いろんな店を発掘しては楽しんだ。
食の好みが似ていた私達は、よく雑誌を見てはめぼしい店をチェックしたもんだ。
だけど、唯一の問題がコレ。

《タバコ吸えないと、休憩した気分になれない〃》

私が、ことある毎に嘆いた愚痴。否喫煙者の彼女は、そんな私に笑っていた。
最終的に、私達が、数々の発掘した場所の中でも、好んでこのカフェに来るには理由があった。
勿論、雰囲気、味共にお気に召したのだけれど、ここは、いまの世間には珍しく、ランチタイムでも、庭に面したオープン席のみ喫煙が出来たのだ。

今日、こを選んだのは彼女だった。なのに、座った席がいつもと違う。
恐らく彼女はそれを言ってるんだろう。

⏰:09/08/25 20:20 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#350 [あき]
『この店、久しぶりだよねっ〃懐かしい!
なのに、なんか気使わせてごめんねっ。』

『なにそれっ。〃』

沢山いた同期の中、たった数年で私達だけが生き残った。
そのまま、数年であれよあれよと、互いに似合った部署へ移動を命じられた。
おまけに、互いに忙しくなり、社内でも顔を合わせる事も減った。
昔は、よく二人で日、時間を合わせてはこうやってランチに出かけたもんだ。

⏰:09/08/25 20:28 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#351 [あき]
『二人の子供は、私の子供同然なんだからっ!!私だって、赤ちゃん大切にしなきゃっ〃』

あははと笑う、私にさえちゃんは、ありがとう。と、また言って微笑んだ。

『おたく様の旦那は元気!!?〃最近、会わないんだけどっ〃』

『元気だよ。彼も会いたがってるよ?〃』

さえちゃんの旦那様は、うちの会社の提携会社の社員さん。
ただ、私が部署移動してしまった為に、なかなか彼とも会わなくなってしまったのだ。
昔は、夜、よく二人のデートに乱入しては、三人で朝まで飲んだくれたけれど、それすらここん所、ご無沙汰だった。

⏰:09/08/25 20:40 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#352 [あき]
お気に入りのパスタに、お気に入りのリゾット。
お気に入りのピッツア。
ちょっとしたサラダにちょっとしたスープ。
それらを久しぶりに堪能しながら、久しぶりの対面は、バカな話に盛り上がるだけ、盛り上がった。
さえちゃんの幸せ全開の話は、心底、私をニヤニヤさせた。
私の仕事の愚痴話は、彼女も一緒になって怒ってくれた。
久しぶりに彼女と食べる
チョコレートケーキは、本当に美味しかった。

私自身、本当に久しぶりに
心底楽しい時間だった―…

⏰:09/08/25 20:53 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#353 [あき]
『あきは?最近どうなのよっ?』

食後の珈琲の湯気に包まれながら、さえちゃんは言った。

『うーん…とくに?何もないっ〃』

なおちゃんの事。
西条さんとの事。
本当は沢山報告しなきゃいけないけれど、幸せ全開の彼女には、どうしても言い出せなかった。

『そう?なんか言いたげじゃんっ。なおちゃんとは、相変わらず?』

⏰:09/08/25 23:23 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#354 [あき]
『…相変わらず…ってか、最近は全くかなっ〃』

はははと視線を外し、またスプーンで、温かいカフェオレをくるりと回しす。

『んー?また喧嘩してんのっ?』

さえちゃんの天使の微笑みは、私の胸のダムを決壊させる。
だけど、この気持ちを、彼女にどう伝えればいいのか言葉が見つからないでいた。

『喧嘩…した方がラクだよっ。喧嘩すらしなくなった。』

『んっ?』

『…ううんっ〃』

出てしまった言葉を、私は、紅茶と一緒に喉に流し込んで、美味しいと微笑んだ。
さえちゃんは、少し不安げな顔で、珈琲を手に取り、そうだねと微笑んでくれた。

⏰:09/08/25 23:36 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#355 [あき]
紅茶ー×
カフェオレー○
――――――――――

そんな時、バックで携帯電話が振るえた。相手は予想がつく。
この電話に出なかったら、大事になってしまう。
とっさに携帯電話を探した。
案の定、ブーンと不愉快な音を立ててる画面が記す名前に、私は、静かに小さくため息をついた。

『ごめんねっ〃ちょっとだけっ。いい?』

さえちゃんに声を掛けて、私は携帯電話を指す。
私が慌てて受話ボタンを押すと同時にさえちゃんは、気にしないでと微笑むと、御手洗を指差し席を立った。

ー西条さんー

画面にはそう記されていたのだった。

⏰:09/08/26 00:08 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#356 [あき]
『はいっ』

《何してる?》

突然に始まるこの言葉。

『今はカフェ!〃友達とランチに行くって昨日言ったじゃんっ〃』

それでも、私は彼の機嫌を損ねないように、細心の注意を払った言葉で答える。

《といいつつ男といるんだろ?あきは、ちょっと放っておくと、すぐに遊びに行くからなっ。》

もう、ウンザリ。
せっかくの楽しかった時間が、一瞬にして泣きたい気分になる。

『女の子だって。元同期で、結婚して辞めた子!〃話た事あるでしょぉ?〃』

⏰:09/08/26 00:16 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#357 [あき]
《どうして、そんな意地になる?まさか、本当に男といるのか?》

しまった…!!
彼は冗談のつもりだったのかっ!ミスった!!

『あははは〃なってないしっ〃』

不機嫌モードに入るっ!!
やばいやばいやばい…

《……ならいいけど。》

ああ。アウトだ…。
完全にスイッチオンだね。
ご不満モードだよね?
ご立腹モードになるんだよね?

でも、さすがに今はやめてよね?あとでまた、きっちり聞くから。
今だけは、私のこの楽しい時間を取り上げないでよね…

⏰:09/08/26 00:24 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#358 [あき]
《何時頃帰るんだ?》

『…わかんないっ。』

《んな訳ないだろっ?》

『だって、久しぶりに会うから。この後も、どこか行くかもっ…』

《で、朝帰りか?》

『そんな訳ないじゃんっ。』

小さく、こそこそと言い合いをしていると、さえちゃんが御手洗から戻ってきた。
私の前に座り、不思議そうな顔をした。

聞かれたくない!

とっさにそう感じた。

⏰:09/08/26 00:29 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#359 [あき]
『ともかくっ!帰ったら、また電話するからっ〃友達いるし、切るね?』

《おいっ。待て!どうして切りたがるんだよっ?何時に帰るのか聞いてないぞ?》

『だからっ…今、遊んでるからっ。また帰ったら電話するから〃』

《…そうかよ。そうやって男と遊んでろよっ!!》

『だからっ!!そんなんじゃないってばっ…』
ーピッ。プープー…

また切られた。
いつもこうなる。
いつも、いつも、いつも、いつも……イライラして、咄嗟に煙草に手を伸ばす。はたと、自分が居る場所、目の前の彼女に、気づいて、私は、またバックにそれをしまう。グビリとカフェオレを飲んで、気分を落ち着かせると、目の前の、彼女に笑いかけた。

⏰:09/08/26 00:38 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#360 [あき]
『何?どしたっ…?』

案の定、さえちゃんは、綺麗なハンカチをバックにしまうと、私の顔を覗き込む。

『何がっ?〃何でもないよっ〃』

私は、笑って答える。
だけど、自分自身、もう、指が、せわしなくトントンとテーブルを叩いている事にも、気分が煙草を吸いたくてソワソワしている事にも気づいていた。

『そろそろ、出ようかっ〃?』

さえちゃんが、そう言ってくれる。私は、何事もないように、そうだねと微笑み、席を立った。
次、どこ行こうかなんて話をしながら、さえちゃんと打ち合わせ。
その間も、ずっとバックの中で振るえ続ける携帯電話を無視し続けていた。

⏰:09/08/26 00:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#361 [あき]
互いの愛車に乗り込んで、さえちゃんの愛車が、カフェの駐車場をスルリと抜け出し、大通りに向かう。数台後ろを、私が追うように車を動した。大通りの信号、スルリとさえちゃんの車は直進して行った。私の前で、信号は赤に変わる。どんどんと前へ進む彼女の愛車を見送りながら、ハンドルを握り溜め息をついた。携帯電話をバックから取り出した。
−不在着信−
ピカピカとランプが点滅していた。見なくても相手が誰かわかる。片手で画面を操作してみて、着信履歴を確認する。今朝、掛かってきたさえちゃんからの着信履歴はすっかり消えていた。
仕方がないので、発信履歴から、さえちゃんの名前を探した。

⏰:09/08/26 14:01 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#362 [あき]
場所はわかるから、気にせず先に向かってと、さえちゃんに伝えると、すぐに電話を切った。
すると、待ってたかのようにまた携帯電話が震える。
しばらく見つめて、諦める様子のない着信に、私が諦める。
−ピッ。
『…はいっ。』

《…どうして電話出ない?》

不機嫌を露わにして彼は言った。

『…ごめんなさい。マナーモードにしてたから。気付かなかった。』

これは、ありきたりな理由で
最近、彼によく使う言い訳。
とっさについた嘘。

⏰:09/08/26 14:28 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#363 [あき]
《どうしてマナーにする必要がある?》

『…カフェだしっ。友達と会ってるから…』

《だったら、まずそう言えよ。こっちは心配するだろ?》

『…ごめんなさい…』

本当は、言いたい事は、山ほどある。だけど、自分の気持ちを押し殺した。彼が、こうなったら私は何も言わさせてもらえない。
ただ [ごめんなさい] この六文字しか受付けてはもらえないのだ。それが、わかるから、この場を終焉にする為には私は全てを飲み込むのだ。
運転中だからと電話を切った。

どんよりとした空から、ポツポツと雨が降り出した。

⏰:09/08/26 14:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#364 [あき]
目的地に着いた時には、しとしと降りしきる雨となっていて、私は、濡れないように、玄関へと走った。

『お邪魔しまーすっ。』

勝手知ったる他人の家。
二人が付き合いだした頃から、この家には、よく遊びに来た。
洋風な建物に真っ白な壁。
外観には似合わず、殺伐とした部屋は、彼女が出入りをするようになって、見る見る変わった。玄関を開けると、エプロン姿のさえちゃんが、降ってきたねぇ!と笑顔で出てきた。

『やだよねーっ。』

『食べてくでしょ?彼も、あきが来るって連絡したら喜んでたよーっ!!早く帰って来るって〃』

『うんっ。〃』

⏰:09/08/26 15:04 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#365 [あき]
エプロン姿のさえちゃんは、とても綺麗だった。
本当に幸せそうだった。
そんな彼女の横に立っていると、私まで幸せな気分になれる。
そしてまた
心底、羨ましいと思えた。

私も幸せになりたい。

より一層、強く思った。
強く強く。自分もこうなりたい。そう願った−…

今思えば、この頃から、私自身が壊れていって。
大切なものを失い始めていて。

もうどうしようもなくなった
未来(今)の私がいる。

⏰:09/08/26 15:36 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#366 [あき]
久しぶりの再会は、時間を忘れて真夜中まで盛り上がる。
時刻は日付も変わり、テーブルの上には、いくつもの缶ビールが転がり、いくつものお菓子の袋が開いて、ウーロン茶の雫がテーブルを濡らしていた。
一人はソファーで地響きを奏でながら、完全に伸びている。

『…寝ちゃたねっ〃』

『うんっ。まっ…楽しかったんでしょっ〃』

さえちゃんは、聖母のような微笑みで、淡い色の大きなブランケットを彼にフワリとかけた。彼の寝顔にクスリと笑うと、ポンポンとお腹を叩いた。

⏰:09/08/26 15:47 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#367 [あき]
二人でテーブルを片付け、静かな時間が流れる。
私は換気扇の下、カチリと火をつけた。フワリと煙が換気扇に吸い込まれていく。
ふと、リビングを見ると、さえちゃんは、彼に寄り添うように、ソファーにもたれて、テレビを見ながら温かい紅茶を飲んでいた。
『さえちゃん……』

『んー?』

彼女は、テレビから私に視線をくれる。

『……今幸せ…?』

私の全てを吸い込んでいく換気扇の下、煙草の火が、灰皿に落ちた。

⏰:09/08/26 15:56 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#368 [あき]
彼女は、照れた様に微笑んだ。

『そだね…〃』

とても静かな時間だった。
じわりと胸が熱くなった。

『そっか…〃いいな…』

そう呟いた私に、彼女は、すっくと立ち上がり、私の傍へと歩み寄る。
慌てて、煙草を消して、換気扇を強にする。
こっち来たらダメだよと笑う私に、じゃここからねと言って、キッチンの入り口に立った。
彼女の目は真剣で、私は、ドキンとした。

⏰:09/08/26 16:03 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#369 [あき]
『…あきは?幸せ?』

そう問う目を、私は直視できない。

『……ま…ね…』

ハハハと笑い、煙草をポケットにしまうと、彼女の横をすり抜けるように、キッチンを出た。
そんな私の背中に彼女は言った。

『ねぇ、その恋は、楽しい?』


どくんと胸が鳴った。
リビングに抜けようとした足が一瞬止まる。止まったけれど、後ろを振り返れなかったー…

⏰:09/08/26 16:09 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#370 [あき]
苦笑いで、彼女を振り返る。
彼女の眼差しは、とても熱かった。

『今日、お昼に電話あった人でしょ?』

『…うん』

『…なおちゃんじゃないね?』

『…うん』

さえちゃんは、そっかと呟くと、二人掛けの小さなダイニングテーブルに座った。
促されるように私も座る。
テレビの音がやけに大きく聞こえた。

⏰:09/08/26 16:21 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#371 [あき]
温かい紅茶を目の前に、私はポツリポツリと語り出しす。

なおちゃんと、いつしか、うまく行かなくなっていた事。
本当は凄く寂しかった事。
だけど素直に言えなかった事。
そんな時、出張先で、西条さんに出会った事。
とても楽しかった事。
とても救われた事。
心が傾いた事。
なおちゃんよりも、彼を選んだ事。
結果うまくいかなくなった仕事の事。
優しい彼の…強い一面。
戸惑いの日々。

言い出すと、何故かまた涙が出てきた。
彼を選んだあの日から、泣くまいと決めていた滴が、次から次へと溢れ出てきた。

⏰:09/08/26 16:33 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#372 [あき]
しばらくの静寂の中。
彼女の視線は、どこか悲しそうだった。

『…その西条さんの事好きなの?』

静かにそう聞かれる。
しばらくの沈黙。

『……好きだよ。』

私は、そう言った。
そんな私に、彼女は小さく細く溜め息をついて言った。

『…自分を抑えてまで一緒にいたい相手なんだ…』

それには答えられなかった。

⏰:09/08/26 16:54 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#373 [あき]
私はふっと笑って、席を立つ。
また換気扇の下、煙草に火をつけた。轟音の下、私の吐き出す煙がそれに吸い込まれていく。
彼女の言葉が胸をかきむしる。それを全て吸い込んで欲しかった。そんな私を彼女は、黙って見つめていた。
私達の間だけ、静かな時間が流れる。
ーブーン…ブーン…
そんな時、まさか、このタイミングでかと驚く程に、テーブルの上、置きっぱなしにしていた携帯電話が震える音が私達の間に響いた。時刻は日付も、もう数時間前に変わっていて、恐らく相手は…彼だ。あれ以降、何の連絡もしていない私への…怒りの電話だろう。煙草を消して、さえちゃんの横、置きっぱなしの携帯画面を見て彼女を見る。
彼女は、少し肩をすくめて頷いた。

⏰:09/08/26 17:12 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#374 [あき]
ーピッ
『はいっ…うん…うん…うん…ごめんなさい…うん…うんっ…わかった…うん…そんなんじゃ…ううん…うん…そだね…うん…ごめんなさい…じゃぁ。はいっ…』

電話が切れる。

私は、大きく溜め息をついて、かなりご立腹だわと苦笑いで答える。
さえちゃんは、怒る意味がわかんないと、苦笑いをしながら、肩をすくめた。

『彼は私の事心配してくれてるのっ…〃』

『それ、心配じゃなくて、信用されてないって事でしょっ?』

『…不安がりなんだよ〃』


そう答えるしか出来ない。
彼女は、小さく首を横に振って、違う。とたった一言呟いた。

⏰:09/08/26 17:22 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#375 [あき]
『さっきの電話で思えた。
あのね?好きな人からの電話って、もっと楽しいはずなのっ。嬉しいもんなの。
だからね、どうしても、表情に出ちゃうもんなのよ。
でも、あきは、お昼も、今も、ちっとも楽しそうじゃないっ。
その彼、あきの好い所、全部消してるじゃん。
電話してる、あきの顔。
怖いよ?鏡見てみ?
どう見ても、恋してる女の顔じゃない。
まだ、なおちゃんと電話してる時の方が喧嘩しながらも、楽しそうだったよ?
幸せそうだったよ?
幸せってそうゆうもんだよ?
作るもんじゃないの。
にじみ出るもんなの。
ねぇ…あき、このままじゃ、壊れちゃうよ?ねぇ?いいの?これでいいのっ?』

さえちゃんは涙ながらに、そう全身で伝えてくれた。
私は、何も言えなかったー…

⏰:09/08/26 17:48 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#376 [あき]
自宅に戻ると、時刻は真夜中。
あと数時間で夜が明ける。
部屋に入り、暗闇の中、携帯電話を握る。
さすがに寝てるだろうと思った。起こしてしまう事もわかった。だけど、今、しない事により事態は悪化する事もわかっている。一息ついて深呼吸をして、私は発信ボタンを押した。
真夜中のコール。耳から全身に緊張が駆け抜ける。
数回のコールで彼は出た。

《もしもし。》

『あ…起こした?今、帰ってきたからっ。』

《……ほら、結局、朝じゃん。お前は、本当に約束を守れない女なんだなっ。》

恐らく、起きていた。
彼は怒りで起きていたんだ。
そして、こう言った。

⏰:09/08/26 23:31 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#377 [あき]
『…ごめんなさい…。楽しくって…つい…』

《…朝帰りはしないって言ったろ?》

『…うん…でもっ…久しぶりに会った友達で…』

《待ってる俺の事考えた事ある?どんな気持ちだったのか、わかってんのかよっ!!》


泣きたくなった。
もう疲れた。
そう言いたくなった。

あなたは、私から何もかもを奪うの…?

⏰:09/08/26 23:36 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#378 [あき]
《なんも連絡してこないでっ!!何考えてんだよっ!!》


やってんじゃん…
毎日、毎日…
起きたよ。
今から仕事行くよ。
今昼休みだよ。
今休憩だよ。
今終わったよ。
今から帰るよ。
今着いたよ。

一生懸命やってんじゃんっ…。

前から言ってたじゃん。
久しぶりに会うんだって。
楽しみなんだって。
大好きなんだって。
そう言ってたじゃん…

どうして?
どうして、わかってくれないの…?

⏰:09/08/26 23:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#379 [あき]
『…もうヤだ…もういい…』

一気に涙が溢れた。
さえちゃんに言われた言葉が、胸を駆け巡る。

『もう、こんなのヤダよ…西条さん、毎日イライラしてるじゃん…』

《もういいって何だよっ!!イライラさせてんのは誰だっ!!》

彼は電話の向こうで怒鳴った。

『…大きな声出さないでよ…もうやだよ…もういい…』

嫌だ。
あんなに優しかった西条さん。そんな彼の、あの姿はもうない。私と一緒にいると、怒りに満ちる。それも悲しかった。

⏰:09/08/26 23:52 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#380 [あき]
電話口で泣き出す私に、彼は更に怒りを増した。

《もういいって何だよ!!何が言いたいっ!!はっきり言えよっ!!》

怖くて言えない。
ただ涙が溢れ出た。

『……もういいって…西条さん、怒るばっかりで私の話聞いてくれない…私を認めてはくれない…私を信じてはくれない…もう、そんなの嫌だ…』

泣きながら必死に伝えた私の意志は、彼には伝わらなかった。


《当たり前だろっ!!約束を破られて、何を信じろって言うんだよっ!!!》

⏰:09/08/26 23:59 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#381 [あき]
『……だから、西条さんと私は合わないと思う…こんなんじゃ、付き合えない…』

必死の思いでそう言った私の言葉に彼は怒りを爆発させた。
爆発と同時に思わぬ所へ矛先が向けられたのだ。
それが、毎夜毎夜傷付け合う原因だったのだ。
彼の言葉に私は初めて言葉を失った。


《結局、未練があんだろっ!!その男に!!!》

⏰:09/08/27 00:08 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#382 [あき]
『未練って…そんな事思ってたの…?』

《…あきは、俺には何も言ってくれないだろ…。俺が何を言おうが、何をしようが、何も言わない。》

『それは、あなたを信じてるからっ!!だから…』


《違うよっ。興味が無いんだよ。…だから、好きも、会いたいも…言ってくれないんだよ。一度も言ってくれてない…。そんな俺の気持ちわかるか?》


西条さんの、怒りの裏に言いようのない淋しさを感じた。
言葉が出なかった。

⏰:09/08/27 00:15 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#383 [あき]
『……』

《頭では、わかってんだよ。
その彼の事忘れられてないって事は。》

『……』

《だけど、あきが、俺を好きでいてくれてるって確信があれば、俺は何も言わない。
なのに、それすらないんだ。
不安になるだろ…
怒りたくもなるだろ…》

『……』

《いつもあきの傍にいるのは俺じゃない。その彼だ。
俺は、会いたい時にすぐには会えないんだ。こうやって声を聞くのが精一杯なんだよ。
それなのに、それすら、あきは、俺にくれない…。そんなんじゃ俺、勝てないじゃん…》

⏰:09/08/27 00:24 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#384 [あき]
『…ごめん…』

やっとの思いで出た言葉は、やっぱりこの三文字だった。

彼の怒りにばかり、不満を抱き、苦痛を覚えた日々。
彼と言い合いをする度に傷付き、怯えた。
だけど
私の数百倍も、彼は傷付き。
私の数百倍も、彼は怯えていたんだ。


『…もう会ってないし、連絡も取ってないから。』


彼には気休めの言葉に過ぎないけれど、それしか今の私には言えなかった。

⏰:09/08/27 00:32 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#385 [あき]
《…でも…今すぐには忘れられないのは仕方ないよ。

だってずっと好きだったんだよ…好きで、好きで、たまらない人だった。
だから、何年もずっと傍にいたし、彼も、いつも傍にいてくれた。
そんな関係だったから…
だから、すぐには忘れられないよ…
でも、私は、貴方を選んだの。
それだけはわかって欲しい…》

自分の想いを初めて口に出来たと思えた。彼に、伝わって欲しいと願いながら、必死に伝えた。
けれど、彼は言った。

《ほらな、俺には言ってくれない言葉を彼には言うんだ!!好きだって。俺に向かって、何度も何度もっ!!俺の気持ちなんて、これっぽっちも考えてない証拠だろっ!!そんなに好きなら、俺は身を引くよっ!!俺はそいつには勝てない!!!》

⏰:09/08/27 00:44 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#386 [あき]
『…勝とうとは思ってくれないんだ…』


悲しくなった。
私は強く引っ張って欲しいだけなのに。
その手を握って、離さないでいて欲しいだけなのに。


《…それを俺に求めるのは、間違ってるとは思わないのか?》

⏰:09/08/27 00:47 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#387 [あき]
《俺はいつでも、手を伸ばしてるよ。なのに、あきは、それに掴まってくれない。なのに、どう勝負しろって言うんだよ…。》

彼の淋しい声に私はまた涙が溢れた。

『届かないよ…。
私は一生懸命伸ばしてるのに、西条さんの手。遠いもん…
なのに、こっちに来いばっかりで…

彼が、背中を引っ張るんだから、西条さんの手に届かないんだよ…。もう少し伸ばしてよ…。
掴みたいの…。』

⏰:09/08/27 00:55 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#388 [あき]
《…俺には無理だ。
 これ以上は、伸ばせない。
 俺はあきが好きだったよ。》

この夜。
私達の付き合いに、終止符が打たれた。
あの二度目の再会から、たった数ヶ月だった。
彼の、最後の言葉だけが胸に響く。
私は、自分の意志の弱さから
なおちゃんも、西条さんも失った。
二兎追う者は一兎も得ず。
昔の人は巧いこと言うもんだ。

自分の馬鹿さ加減にほとほと吐き気がした夜だった。

⏰:09/08/27 01:03 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#389 [あき]
また、面白みのない生活が始まる。毎朝早朝に起きて、深夜まで働く。一時は干された仕事。私達の終演と共に、職場でも人の噂は七十五日。噂が消沈したのか、はたまた、やはり若手には難しかったのか、少しづつ私の手元に仕事が戻ってきた。私は、また言われるように、言われるがまま、夢中で働いた。あれ以来、彼からの連絡は無かった。私は、一時、淡い夢を見ただけだと、そう自分に言い聞かす。仕事をしていると、時々耳にする、彼がいる地方の出張話。ドキンと胸が鳴った。何食わぬ顔をして、資料を盗み見する。そこには、変わらず、提携先として彼の社名が記載されていた。けれど、そんな噂を立ててしまった私には関係のない出張話で。勿論、立候補する勇気も無かった。彼と出会う前の日常に戻っただけの話。

⏰:09/08/27 01:22 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#390 [あき]
さえちゃんには、終わったよ。とただ、それだけを告げた。
彼女は、それで良かったんだよと電話口で微笑んでくれた。

そんな日々が数週間経った。

もう、全てを忘れよう。

そう自分に言い聞かせ、日々の生活を取り戻したその日。

一本の連絡が、また私を荒波へと引きずり込んでいく−…

⏰:09/08/27 01:32 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#391 [る]
失礼します

>>1-100
>>100-150
>>151-200
>>200-300
>>301-400


>>330

⏰:09/08/27 09:31 📱:911SH 🆔:GUni/6H2


#392 [あき]
色々とあって、
またまたまたまた?
機種変更をしました。
(※もう何台目だろ…(^へ^;)ゞ)
最終章完結に向けて、こつこつやります。

〜あき〜

⏰:09/09/03 18:32 📱:W64S 🆔:3fznAjFs


#393 [あき]
今朝の目覚めは最も悪いと書いて、最悪だった。気分の乗らないまま、荷物をまとめて駅に向かう。
今朝の早朝五時。
耳元で、つん裂く携帯電話の着信音で目覚めた。

《…はい》

《悪いっ!緊急っ!すぐ起きて飛ぶ準備して!》

あのインテリ眼鏡をかけた女上司のがなり声で目覚めるなんて。

《……はぁ……なんですか…》

寝ぼけた頭は、やっとの思いで言葉を発した。起きてしまったのが間違い。

⏰:09/09/03 23:45 📱:W64S 🆔:3fznAjFs


#394 [あき]
《田中が、今日からの三日間○×地方が飛べなくなった!変わり探してんのっ!あんた行けるよねっ!?》

飛ぶとは、私達の業界では出張の通称。
田中とは、私の直属、数年下の後輩。
○×地方とは、ここから新幹線で数時間の先で、過去に受け持った地方。

《……はぁ……そりゃ…なんとか……》

寝ぼけた頭は、事態を未だ把握せず、生半可な返事を繰り返す。

《起きろっ!!資料は今からファックス流すっ!いいねっ!!》

インテリ上司は切迫感溢れる声で、私を叩き起こした。そして、返事を待たずして、電話は切れた。

⏰:09/09/03 23:54 📱:W64S 🆔:3fznAjFs


#395 [あき]
そして、直ぐ様、今やファックス専用とも言うべき電話が部屋中に鳴り響き、ジージーと何枚にも及ぶ用紙が送られて来た。
無言で、起き上がり、フラフラと電話の前に立つ。
送られてきた資料を一枚一枚眺めながら、私の脳みそは動き出す。


『…はぁっ!?まじかっ…』

一通り目を通して、私は確実にそう言った。

⏰:09/09/03 23:59 📱:W64S 🆔:3fznAjFs


#396 [あき]
髪を縛り、顔面に特殊メイクを施しながら、エンドレスに流れてくる何枚にも及ぶ資料に目を通して、突然割り振られた仕事を確認する。
自惚れではないが、資料内容は容易に把握できた。
私には慣れた案件。
インテリ上司が、突然に私に割り振った意図がわかる。

ただひとつ。
引っ掛かる項目。
地方名。

(…西条さん……)

彼の会社名がその資料には記載されていた。

⏰:09/09/04 00:10 📱:W64S 🆔:tYpkgbEE


#397 [あき]
ホームに立ち、その時を待つ。

到着したそれに乗り込み、今からの数時間、私に与えられたその窓側の席に座った。

直ぐ様走り出した景色を、ぼんやりと眺めていると。
胸がざわついた。
思わず、胸を掴んで息を整える。

流れる景色を見つめ、今日もまた雨が降り出しそうな1日だなと、そう思った。

⏰:09/09/06 19:17 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#398 [あき]
数ヶ月ぶりに舞い降りた駅は、何も変わっていなくて。相変わらずの景色。あれから数ヶ月。それよりも前、この出で立ちでこの場所に立つのは半年振りの事。スーツの衿を正し、あの時と同じように重すぎる荷物を引きずりながら、私はあの場所へ向かう。
改札を抜けると、すぐに声をかけられた。

『〜〜社の方ですか?』

額の汗をふきながら、小太りの小さなおじさんが、ペコリと頭を下げる。

⏰:09/09/06 20:39 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#399 [あき]
『はい〃宜しくお願いします。この度は、急遽担当者が変わりまして、ご迷惑をおかけしました。』

私は、そのおじさんに頭を下げる。

『いえっ〃こちらこそ、宜しくお願いします。では、車まで案内しましょう。』

『ありがとうございます。』

今回のパートナーは西条さんじゃなかった。

ホッした反面……

少し寂しかった。

⏰:09/09/06 20:44 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#400 [あき]
また、ロータリーにあのボックスタイプの車が停まっていた。
トランクを日除け変わりに使い、タバコを吸っていた彼の姿を思い出す。

『この車ですっ。荷物入れましょう。』

『…はい〃ありがとうございます。』

彼と同じ。

彼と同じイントネーションと、彼と同じ方言で、新しいパートナーは言った。

⏰:09/09/06 20:52 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


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