浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#401 [笹]
「ごるぁぁぁああ!!!」
突然‥
物凄い形相をした男の人が
こちら目掛けて突進してきたのだ
‥いつだって死と隣り合わせ。
「ちょ‥何何なんなのー?!」
あたふたするものの
子供が地蔵のように重く
ぴくりともしない足
:10/02/05 22:20 :D905i :mdMMDFsU
#402 [笹]
し、し‥‥死ぬ。
_
:10/02/05 22:21 :D905i :mdMMDFsU
#403 [笹]
「こっち来るなよぉお!!」
「お前っ!!
米粒を茶碗に残すなって
あれだけ言っただろう!!」
は?
「見えなかったんだぁ!」
「言い訳するなー!!」
明らかに男の人の視線は
この子供に向いている
:10/02/05 22:21 :D905i :mdMMDFsU
#404 [笹]
「あ‥あのぅ」
あたしを盾にして隠れる子供
とっつかまえようと
あたしの前で機敏に動く人
そしてあたしの周りで始まる
いたちごっこ。
「一粒だけだろーっ!」
「お前っ見えてるじゃあないか!!」
「うぅ‥来るなぁあ!!」
‥厄介な物に巻き込まれました
:10/02/05 22:22 :D905i :mdMMDFsU
#405 [笹]
:
:
:
「いやぁーお恥ずかしい所を」
先程の鬼みたいな顔とは
打って変わって
がははと笑うその人は
"茂七"と言うらしい。
とても人がよさそうだ
隣にちょこんと座る
口を尖らせた少年は"正宗"くん
米一粒を残した少年だ
:10/02/05 22:23 :D905i :mdMMDFsU
#406 [笹]
「正宗は姉貴の子供でして」
「お姉さんの‥そうでしたか」
「姉貴は病弱なもんで、
よく俺が世話するんですが‥」
見る限り
あまり懐いてなさそうだ
「茂七‥怒ると怖いんだもん」
正宗くんが拗ねた様子で呟いた
子供らしい理由に
思わずクスリと笑ってしまう程
:10/02/05 22:23 :D905i :mdMMDFsU
#407 [笹]
「迷惑かけちゃいやしたし‥
飯でもおごらせてくださいよ!」
非常に爽やかである
うん‥いい青年ってかんじ
‥なんて品定めするほど
あたしは男を知りません
「本当ですかぁっ?」
食べ物には目がありません
:10/02/05 22:24 :D905i :mdMMDFsU
#408 [笹]
"道草を喰わない、こと"
‥鬼が呼んでいる
"でないと‥お仕置きです、よ"
か‥帰らねば
:10/02/05 22:24 :D905i :mdMMDFsU
#409 [笹]
「お言葉に甘えたい所ですが、
"鬼"に殺されるので‥あは」
「鬼?」
「鬼のような人が、待ってるので」
:10/02/05 22:26 :D905i :mdMMDFsU
#410 [笹]
:
:
:
何だか足取りが軽い
だって明日
男の人とお食事なんて‥
「うふふー」
「ほぉう‥
こりゃあ随分と
遅い帰りで、いらっしゃる」
心臓‥いや
体の全部の臓器がびくりとした
:10/02/05 22:27 :D905i :mdMMDFsU
#411 [笹]
「あぁあ‥ちょっと」
あははなんて笑って見せても
‥もちろん無駄で
布団の上で正座をする壱助さんは
怪しい笑みを浮かべた
「病人をほったらかしにするとは
‥薄情な人です、ねぇ」
:10/02/05 22:28 :D905i :mdMMDFsU
#412 [笹]
額にあてていた濡れた手拭いを
ピンと張って‥戦闘態勢ですね
「いや、そのぉ‥」
「お仕置きがそんなに
‥お好きです、か」
「ひぃっ!!」
「自虐的です、ね」
「‥ッうぅ!!!」
:10/02/05 22:29 :D905i :mdMMDFsU
#413 [笹]
壱助さんの右手が
あたしの首をぐっと掴む
細い指が食い込むのが分かる
「く‥るひぃ」
「風邪を引いてます故‥
少々手に力が入りませんで」
鬼‥鬼鬼鬼!!
「もっと苦しんだ顔が
見たいもの、ですが‥ねぇ」
死ぬ‥窒息死‥馬鹿力‥
:10/02/05 22:29 :D905i :mdMMDFsU
#414 [笹]
にやりと微笑む壱助さん
優しい笑顔なのだ
いや優しすぎる笑顔なのだ
笑顔が怖いと思うのは
壱助さんくらいだよ
「い‥ひふへ」
ぱっと手が離されると
肺が破裂しそうなほど息を吸い
酸素が脳に一気に入って
体が浮きそうになった
:10/02/05 22:30 :D905i :mdMMDFsU
#415 [笹]
「‥んぐっはぁ」
「何を‥してたんですかい?」
手拭いをこっちに差し出し
"早く濡らして絞れ"と言うように
顔に押し付ける
もう治ったんじゃないですか?
壱助さん不死身そうだし
「それが‥」
:10/02/05 22:31 :D905i :mdMMDFsU
#416 [笹]
:
:
冷たい水に手を浸ける
壱助さんの手みたい‥
ぎゅっと絞りながら事情を話すと
乱暴に手拭いを受け取った
「その茂七とやらは‥何者で?」
少し気だるそうに
帯を緩めて白い肌が顔を出す
いつになっても慣れない
この美しさ
:10/02/05 22:31 :D905i :mdMMDFsU
#417 [笹]
「すごくいい人そうでしたよ!
金物屋さんをやってるそうで‥」
「ほぉう‥」
明らかに話し聞いてないし‥
興味ないなら聞かなきゃいいのに
ずずっと茶を啜るのは
いつもと変わらず元気な気がする
:10/02/05 22:32 :D905i :mdMMDFsU
#418 [笹]
「私は香夜さんの
‥"親代わり"です、ぜ?」
親代わり‥うん
まぁそうなのかもしれない
自分で言うのもあれだけど
"飼い主"同然である
「まぁ‥そうですねぇ」
:10/02/05 22:33 :D905i :mdMMDFsU
#419 [笹]
心配してくれてるのかな?
それとも‥"焼き餅"かなぁー
なぁーんて‥
壱助さんは
あたしみたいな子供に
妬くような人じゃないけど
:10/02/05 22:33 :D905i :mdMMDFsU
#420 [笹]
「そやつに会う‥
義務が、あります‥ねぇ」
カタンと湯飲みが音を立てる
あの口角だけ上げた笑みは
この世で一番恐ろしいのだ
:10/02/05 22:35 :D905i :mdMMDFsU
#421 [笹]
:10/02/05 22:40 :D905i :mdMMDFsU
#422 [我輩は匿名である]
:10/02/06 08:59 :W53H :evpZsMz6
#423 [笹]
:
:
:
「‥何で付いてくるんですかぁ」
結局付いてきた壱助さん
改め保護者さま
「"責任"ですから、ね」
下駄が立てる音は
明らかに不機嫌そうである
:10/02/06 21:16 :D905i :uaVNeT2k
#424 [笹]
放たれる威圧感に
周りの人々も寄り付かず
町娘たちは
黙って壱助さんを目で追った
「別にそんな‥
ご飯頂くだけですよー」
「二人で来るなと‥
言われてお出でで?」
痛いところをつくものです
:10/02/06 21:18 :D905i :uaVNeT2k
#425 [笹]
「‥風邪は?
もう治ったんですか?」
「‥ごほごほ
まだ‥です、が」
変な演技しないでくださいよ
棒読みの咳なんて
初めて聞きましたよ、もう
「だったら
寝てなくちゃだめです!!」
立ち止まって後ろを向き
訴えてみても‥無駄
:10/02/06 21:18 :D905i :uaVNeT2k
#426 [笹]
「あんまり茂七さんに
突っかからないでくださいよ?」
せっかくの楽しみが‥
仕方なく溜め息を付き
前を向いた瞬間だった。
「んぎゃっ!!」
後ろからど突かれて
顔面から地面に突っ込み
走る激痛、土の味
:10/02/06 21:19 :D905i :uaVNeT2k
#427 [笹]
言うまでもなく
犯人は壱助さんです
「風邪を引いてます故‥
ちょいと、意識が朦朧と‥ねぇ」
鋭い切れ長の目が見下ろす
行かないでほしいなら
素直に言えばいいのに‥
体がいくつあっても足りない位
それでもって
よく耐えられるなと自讃する
:10/02/06 21:19 :D905i :uaVNeT2k
#428 [笹]
「香夜さん?!大丈夫ですかい?」
心配そうな面持ちで
駆けつけてくれたのは
茂七さんだった
‥ちょっと、間が悪いです
「あぁ‥大丈夫ですよぉーう」
おどけながら立ち上がり
着物の埃をはらった
:10/02/06 21:20 :D905i :uaVNeT2k
#429 [笹]
"やだー恥ずかしいなー"なんて
へらへらしてるのは
どうやら場違いだったみたい
「‥女性に何てことするんだ!!」
‥茂七さんっ命知らずっ!!
「ほぉう‥」
少し笑みを浮かべて目を細める
逆鱗に触れた合図です
:10/02/06 21:21 :D905i :uaVNeT2k
#430 [笹]
壱助さんは絶対に
茂七さんみたいな‥
こういう熱い人が嫌いだと思う
‥の前に、男が嫌いだと思う。
:10/02/06 21:21 :D905i :uaVNeT2k
#431 [笹]
:
:
:
「えっと‥
此方が昨日話した茂七さん」
目の前に座る彼を紹介
茂七さんは間が悪そうに
軽く会釈をした
そして‥
隣に座る威厳ある父(仮)
やはり茶を啜る父(仮)
:10/02/06 21:22 :D905i :uaVNeT2k
#432 [笹]
「それで‥此方が‥」
「‥香夜の兄、です」
あ‥兄と来ましたか?!
まぁ夫とかよりはましだけど
兄‥はぁ、
あたしの兄にしては美しすぎる
「え、ちょっと‥壱助さ‥」
「"お兄様"です、よ」
いつもより張った声が
ずしりと重くのし掛かる
:10/02/06 21:23 :D905i :uaVNeT2k
#433 [笹]
「お兄様でいらっしゃいましたか
これは誠に無礼な事を‥」
深々と頭を下げる茂七さん
‥残念ながら
お兄様じゃないんですぅ
「いえ、いえ」
‥この雰囲気で
一体何を話すのか
:10/02/06 21:23 :D905i :uaVNeT2k
#434 [笹]
:
:
「香夜さんは今お幾つで?」
カチャカチャ
「十八ですよっ」
ズルズル
「いやー一番美しい時だぁ!!」
カツカツ
「やだなぁーっ
そんな事ないですってー」
コツコツ
:10/02/06 21:24 :D905i :uaVNeT2k
#435 [笹]
ねぇわざとでしょう?
ねぇわざとなんでしょう?
その音!!
食事の時なんて
あたしが音立てると
五月蠅いって怒るじゃない‥
「いち‥じゃない、お兄様?」
「何、か」
「もう少し‥」
:10/02/06 21:25 :D905i :uaVNeT2k
#436 [笹]
「あぁ、
香夜は本当に良い妹でして‥
あれやこれやとお声が
良く掛かるんですが、ねぇ」
口角が上がった
しかも饒舌
声掛かってるのは貴方でしょ
「もう心に決めた者が
‥居るそうですぜ?」
"ねぇ"と横目で訴え
足をぐいっと踏みにじられ
強要される同意
:10/02/06 21:26 :D905i :uaVNeT2k
#437 [笹]
「香夜さん‥そうなんですかい?」
茂七さんの見開いた目が
何とも印象的で
「ふぇっ?!
あぁ‥えっと‥まぁ‥うぅん」
語尾を弱めれば
潰され行く足の指
「ゔ‥い、居ますぅ!!!」
もうヤケだ
箸を握りしめて声を張る
折角、いい出会いだと思ったのに
あたし一生嫁に行けないのか‥
:10/02/06 21:27 :D905i :uaVNeT2k
#438 [笹]
:
:
結局威圧感に負け
大したお話も出来ず終い
「ご馳走様でした
何か、空気悪くなってしまって
申し訳なかったです‥」
頭が上がりませんよ
お兄様‥鬼ぃ様。はは
しかし茂七さんの返事は
予想外だった
:10/02/06 21:28 :D905i :uaVNeT2k
#439 [笹]
「いやぁそんなそんな!!
お兄様にも早速ご挨拶出来まして
‥これからが楽しみですね!!」
がははとまた笑い
あたしの肩をバシバシ叩く
これから?
‥あたし一応さっき
心に決めた人がいるって‥
:10/02/06 21:28 :D905i :uaVNeT2k
#440 [笹]
「こんな別嬪さんと
恋仲になれるなんて
俺も運がいいなぁ!!」
ほ?
何を勘違いしてるのか
どこまで前向きなのか
「とんだ勘違い野郎です、ね」
背を向けてぽつり呟いたのは
もちろんお兄(鬼)様。
:10/02/06 21:29 :D905i :uaVNeT2k
#441 [笹]
刀で一突きするように
躊躇なく毒を吐く
その度ひやひやさせられるのは
言うまでもない
「さ、帰りますよ香夜さん」
腕を掴むでなく
ぎゅっとあたしの手を握りしめ
思い切り引き寄せられた
:10/02/06 21:29 :D905i :uaVNeT2k
#442 [笹]
「‥?」
ぽかんと口をだらしなく開けた
茂七さんをよそ目に
壱助さんの唇が
あたしの首筋に触れた
「ちょちょちょいっ!!!
お‥お兄様何を‥?!」
わけわかりません
状況が読めません
:10/02/06 21:30 :D905i :uaVNeT2k
#443 [笹]
「‥"壱助さん"です、よ」
「え‥お兄様じゃあ」
目をぱちくりさせて
珍しい物を見るような茂七さん
こんな変な所見られるなんて‥
恥ずかしすぎる!!
:10/02/06 21:30 :D905i :uaVNeT2k
#444 [笹]
血液が体を
何度も何度も巡るのがわかる
勢いの良い鼓動が帯びる熱
「‥妻です、よ
さぁて、帰ったら直ぐに
此の火照った体を頂こう、か」
首筋を一舐め
生暖かい感覚に支配され
足の力が抜けそうだ
「なな‥なっ」
顔を真っ赤にした茂七さんは
嵐のように目の前から去った
:10/02/06 21:31 :D905i :uaVNeT2k
#445 [笹]
もう‥もう‥もう!!!
「壱助さんのすけべぇえぇえ!!!」
「おや、おや
威勢が良い妹です、ね」
破廉恥なクセに美しいから
結局、憎めない訳ですが‥
:10/02/06 21:32 :D905i :uaVNeT2k
#446 [笹]
:10/02/06 21:35 :D905i :uaVNeT2k
#447 [我輩は匿名である]
:10/02/07 09:32 :W53H :CcPPBOhA
#448 [我輩は匿名である]
:10/02/07 09:33 :W53H :CcPPBOhA
#449 [れぃ]
:10/02/07 11:31 :N04A :eBOH6ab6
#450 [笹]
酒は人を変えますが、
酔った姿が‥本当の姿
とも言うもんで‥。
しかし、酒に飲まれては
だらしなくなるものです、よ
"赤いは酒の咎"なんぞ‥
言い訳は無用です、ぜ
:10/02/07 18:26 :D905i :zJfCkqns
#451 [笹]
:
:
―‥ある日の事である。
宿から聞こえるむせび声
何かと思って襖を開ければ
ぽつり部屋の片隅で
‥うずくまる"雌猫"一匹
「うぅ‥ッグズ」
‥酒臭い
虚しく転がる一升瓶
滴がぽたり
:10/02/07 18:26 :D905i :zJfCkqns
#452 [笹]
足袋が畳に擦れる音に
ぴくりと反応しこちらを向いた
「壱助さぁああぁん」
酷い顔‥ですねぇ
「遅かったじゃ‥ッヒク
遅かったじゃらいれすかぁ」
四つん這いで着物にしがみつく
流石"雌猫"
:10/02/07 18:26 :D905i :zJfCkqns
#453 [笹]
「‥酔ってるんで?」
「酔ってまぁぁあっしゅ!!」
"えへへ"なんて言いながら
右手を挙げて見上げた
‥厄介な者に出くわしやした、ね
:10/02/07 18:27 :D905i :zJfCkqns
#454 [笹]
:
:
先程からひっきりなしに
だらしない笑みを浮かべ
一人騒ぎ立てる
「‥香夜さん」
「なんれすかぁ?ッヒク」
火照った体をよじり
目の前に座った
:10/02/07 18:27 :D905i :zJfCkqns
#455 [笹]
「‥騒がしいのです、が」
そんな事で
黙るとも思わないが
他にかける言葉がないもんで
「壱助さんも‥
飲みましゅかぁあ?」
馬鹿でかい声が鼓膜を突き刺す
:10/02/07 18:28 :D905i :zJfCkqns
#456 [笹]
「結構、です」
すると寂しそうに肩を落とし
"飲みましぇん?"と二度押し
―‥全く、困ったもんです、よ
:10/02/07 18:28 :D905i :zJfCkqns
#457 [笹]
:
:
「まだ‥寝ませんで?」
既に日付が変わり
静まり返った闇に包まれ
照らすは月の光のみ
子供のようにぐずるので
布団を乱暴に投げつけると
ぱたりと声がしなくなる
急に大人しくなられると
ちょいと、不安になるもので‥
:10/02/07 18:29 :D905i :zJfCkqns
#458 [笹]
「風邪‥引きます、よ」
顔にかかった布団を
除けてやれば
―‥ やられたもんだ
「ぶぁぁあっ!!」
‥糞、餓鬼
:10/02/07 18:30 :D905i :zJfCkqns
#459 [笹]
飛び出した両手が首に絡みつき
無理やり布団の中に押し込まれた
「命知らずです、ね」
こちらの気も知らずに
‥貴女と言う人は
:10/02/07 18:30 :D905i :zJfCkqns
#460 [笹]
背を向けて目を瞑る
乱れた鼓動を整えて
深く溜め息を吐く
調子が狂います、ぜ
「寝ちゃう‥んれすかぁ?」
「‥」
背中に問う声が
情けないほどに弱まった
:10/02/07 18:31 :D905i :zJfCkqns
#461 [笹]
「んう‥」
しなびた声が耳にかかる
こちらに現れた小さな白い手
生娘が男を‥襲う気ですかい?
後ろから抱きついた貴女は
何を思ってるのか‥
いつもなら頬を染めて
嫌だと喚くと言うのに
:10/02/07 18:31 :D905i :zJfCkqns
#462 [笹]
全く、酒は人を変えます故‥
そのせいで虚しくなるのも
また‥然り
「‥壱助さん」
背中に響く声が
こんなにも、こんなにも‥
「何、か」
色めいて聞こえるのも
:10/02/07 18:32 :D905i :zJfCkqns
#463 [笹]
「‥寂しかった」
‥酒の力ですか、ね
小さく震える体を
抱き締めてやりたいのに
どうしてこうも、躊躇うか
‥情けないもんです
:10/02/07 18:32 :D905i :zJfCkqns
#464 [笹]
:
:
「‥馬鹿です、ねぇ」
答えるような幼い寝息
月明かりに照らされた肌に
そっと触れる
呆れるほどに無防備で
着物を掴んだ柔らかな手が
ぴくりと呼吸した
:10/02/07 18:33 :D905i :zJfCkqns
#465 [笹]
「‥放って、置けやしない」
他の輩の前で
酒など飲ませてたまるかと
仕様もない独占欲に駆られ
‥小さな体を思い切り抱き寄せた
:10/02/07 18:33 :D905i :zJfCkqns
#466 [笹]
:
:
久しぶりに眠りに付いた
目を覚ますと
長い睫を伏せた"猫"
昨晩の艶やかさは何処へやら
‥何時ものあどけなさを残す姿
はだけた浴衣から
美しい鎖骨が見え
小さく微笑み遠慮がちに触れた
:10/02/07 18:34 :D905i :zJfCkqns
#467 [笹]
「ん‥う」
眩しそうに目を細めた酔っ払い
ちょいと間を置いて目を見開き
どうやら我に返った様子
「あ‥え?そそ‥添い寝?!」
:10/02/07 18:34 :D905i :zJfCkqns
#468 [笹]
色気のない声を出し
あたふたする姿を見て
何故か安堵を覚えたもので‥
「壱助さん‥え?やだぁっ」
頬を紅くして
布団に顔をうずめた
何を考えたんですか、ね
そんな簡単に
手なんか出しやしない‥ですぜ
:10/02/07 18:35 :D905i :zJfCkqns
#469 [笹]
「あたし‥何かしました?」
しかし覚えてないとなると
「昨夜は‥
楽しませていただきました、よ」
ちょいと悔しい物があるもんで
:10/02/07 18:36 :D905i :zJfCkqns
#470 [笹]
「嘘‥うそぉおお!?」
貴女の恥じらい困惑する顔を
見たくなって‥しまう。
意地の悪い男‥です、よ
:10/02/07 18:37 :D905i :zJfCkqns
#471 [笹]
:10/02/07 18:40 :D905i :zJfCkqns
#472 [笹]
時には
究極の選択が迫られることが
誰にでもあるもの、です
自分の無力さに
酷く腹が立つ‥こともある
"断腸の思い"で
時に人は物事を切り捨て
生きていかなければならない
それが‥人生と言うものです、よ
:10/02/08 20:12 :D905i :hMEINdHE
#473 [笹]
:
:
「雨なんて珍しいですよね」
ザァ―‥
今日は珍しく
此の街に雨が降った
濡れた地面の独特の匂いが
鼻の奥をくすぐる
真っ赤な番傘から落ちる
雨滴に睫を濡らした
:10/02/08 20:13 :D905i :hMEINdHE
#474 [笹]
「‥あたしも入れてください」
「何、故」
もちろんあたしは
傘なんて持っていなくて
壱助さんの傘の中に
一緒に入れてもらうつもりで
今日は街に出た
だけどやっぱり
そううまくは行かないもの
:10/02/08 20:13 :D905i :hMEINdHE
#475 [笹]
「濡れちゃうぅ‥」
ぐいぐい無理やり
頭を突っ込んでみても
大きな手で押し出される
「ちょっとくらい
いいじゃないですかぁっ!」
ぷうと頬を膨らませても
「ね?壱助さぁあん、うふん」
ない色気を絞り出しても
:10/02/08 20:14 :D905i :hMEINdHE
#476 [笹]
「濡れたくらいで死ぬほど
‥か弱くないでしょう、貴女」
‥無駄ですか。
横目でぼそり呟かれた
これが図星だから辛い
:10/02/08 20:14 :D905i :hMEINdHE
#477 [笹]
「高い着物ですから‥
汚されては困りやすから、ね」
そう言って
傘を少しこちらに傾けた
「やっぱり壱助さんって
案外優しいですよねっ」
「‥水溜まりにその顔、
突っ込まれたいんですかい?」
「いや‥結構です!!!」
壱助さんは
褒められるのが嫌いだそうです
:10/02/08 20:15 :D905i :hMEINdHE
#478 [笹]
:
:
雨となると
いつもの街もどこか寂しい
賑わいは雨音に変わる
「壱助さん、鯛焼き食べたーい」
「‥」
壱助さんの足が急に止まる
濡れぬように
慌てて傘の中に戻った
「どうしたんですか?」
:10/02/08 20:15 :D905i :hMEINdHE
#479 [笹]
壱助さんの視線の先には
小さな竹薮
薄暗くて気味が悪い
「‥血腥い」
「え?」
壱助さんは顔をしかめて
そこから目を離さない
雨音と竹のきしむ音の向こうに
聞こえたのは生々しく鈍い音
荒れ狂った女の声
:10/02/08 20:16 :D905i :hMEINdHE
#480 [笹]
「どうしてお前はいつもいつも!!」
バシンッバシンッ
「言うことが聞けないんだい!」
ドガッ
「この役立たず!!」
「‥ッゲホッ、かぁさ‥ん」
「お前なんかねぇ‥お前なんか」
:10/02/08 20:16 :D905i :hMEINdHE
#481 [笹]
足が震えた
何とも言えない感情が
わぁっとこみ上げてくる
悔しさに唇を噛み締め
拳を握った
自然とそちらへ足が向かう
「香夜さん‥」
行くなと壱助さんが
あたしの着物の袖を引いた
:10/02/08 20:17 :D905i :hMEINdHE
#482 [笹]
「‥死んじゃうかもしれない」
そう言って振り払い
声のするほうへ足を進めた
:10/02/08 20:17 :D905i :hMEINdHE
#483 [笹]
:
:
そこには物凄い形相をした
母親らしき女の人と
この雨の中
裸でうずくまる少年
少年の体は
いたるところに痣ができ
歪に腫れ上がった跡や
刃物で切られたような
鋭い傷が無数にあった
母親に思い切りぶたれ
蹴飛ばされ‥
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#484 [笹]
昔の自分と少年を重ねた
「‥やめ‥なさいよ」
憤りに得体の知れない
幼い頃の感情が湧き上がる
「お前なんか
生まれてこなければよかった!!」
ドガッ
「ごめ‥なさい、ゲホッ‥んぐ」
少年の口から吐き出された
真っ赤な血が雨に消える
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#485 [笹]
声を張ろうと
大きく息をすると
壱助さんがあたしの腕を掴んだ
「‥帰ります、よ」
「何言ってるんですか‥?
このままじゃあの子‥」
目の奥から今にも
熱いものが溢れそうで
今止めなかったら
この子は死ぬかもしれない
今あたしが助けなきゃ‥
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#486 [笹]
「貴女に‥何ができるんで?」
いつになく真剣な眼差しが
訴えかける
:10/02/08 20:19 :D905i :hMEINdHE
#487 [笹]
「何って‥
助けるんですあの子を!!」
手を振り払おうとしても
壱助さんの手は
掴んで離さなかった
ひどい‥壱助さん
「壱助さんにはわからないんです
親に暴力を振るわれて
黙って耐えて‥」
:10/02/08 20:19 :D905i :hMEINdHE
#488 [笹]
不安定な言葉を
無理に立て直しながら
何度も何度も振り払おうとした
「助けた所で‥
彼は、幸せになれますかい?」
悲しそうな壱助さんの目が
捕らえて離さない
幸せ‥?
幸せに決まってるじゃない
:10/02/08 20:20 :D905i :hMEINdHE
#489 [笹]
「彼を助けて、その後
貴女が養うとでも‥?」
「それは‥」
「見知らぬ土地に放されても
‥彼は死に至るでしょう。
貴女は、彼の家庭の事情を
全てご存知なんですかい?
彼はあんな母親でも、
慕っているかも‥しれない」
何も言い返せない自分に
腹が立った
:10/02/08 20:21 :D905i :hMEINdHE
#490 [笹]
「中途半端に
情に流されて動いては‥
却って苦しめることになる。」
だけど‥だけど
あの子死んじゃうよ‥
「今此処で
あの母親に何か言えば
‥彼は本当に殺されます、よ」
うずくまる少年が
ちらりとこちらを向いた
:10/02/08 20:21 :D905i :hMEINdHE
#491 [笹]
助けを求めるでもない
憎しみも悲しみも
何も訴えてこない
曇った目をしていた。
恐怖をも覚えるほど
一番辛くさせる眼差しだった
:10/02/08 20:22 :D905i :hMEINdHE
#492 [笹]
:
:
‥雨は止まない
さっきの少年の目が
頭に焼き付いて離れない
あたしには
何もできないと言う悔しさ
一方的に押しつけてしまった
自分の感情。
もうわからないよ‥壱助さん
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#493 [笹]
「死んじゃったら‥
死んじゃったら‥どうしよう」
ぶわっと泣き出し
顔を両手でふさいだ
これは不安よりも恐怖で
自分の無力さへの
憤りでもあった
たくさんの思いが
複雑に絡みうめき
涙になって流れてゆく
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#494 [笹]
「香夜さん‥」
畳を擦ってこちらに寄り添い
後ろから優しく
壱助さんが抱きしめた
「‥あたし‥もう」
濡れた体を
優しく撫でるように
手拭いをあてがう
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#495 [笹]
「もう、何も見なくていい‥
何も考えなくていいんです、よ」
いつもより暖かい
壱助さんの手が
あたしの目を覆った。
:10/02/08 20:24 :D905i :hMEINdHE
#496 [笹]
「何も‥。
しかし、あの目を
一生忘れてはいけません、ぜ
あの目を忘れた瞬間‥
貴女は彼を‥
見殺しにした事となる。」
:10/02/08 20:25 :D905i :hMEINdHE
#497 [笹]
人は本当に無力で
結局は願うことしかできない。
そのもどかしさが
絡みついてうめき声を上げる
それでもこの願いが
少しでも、たった一瞬でも
誰かを救えると言うのなら
あたしは一生
願うことをやめないでしょう
:10/02/08 20:25 :D905i :hMEINdHE
#498 [笹]
―‥そして
"生きることを諦めない"と
心に誓うのです。
_
:10/02/08 20:26 :D905i :hMEINdHE
#499 [笹]
:10/02/08 20:29 :D905i :hMEINdHE
#500 [笹]
どんなに気が強い"猫"も
どんなに意地っ張りな"猫"も
本人の気付かぬ内に
心が虚空に蝕まれるもの
心が"綿のよう"になれば
それも一気に
音を立てて崩れ出すものです、よ
:10/02/09 18:49 :D905i :rBP2/YbM
#501 [笹]
「香夜さん‥、」
昨日の雨も
夜中の内に上がり
澄んだ青空が広がった
―‥チュンチュン
「朝です、よ」
:10/02/09 18:50 :D905i :rBP2/YbM
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