記憶を売る本屋さん
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#201 [我輩は匿名である]
「…月城くんって、ちょっと他の子と違うよね」

「…へ??」

直人はぽかんとする。

「いや、変わってるっていう意味じゃないよ?そうじゃないけど…」

「あー、まぁ何となくわかるよ。変に大人びてると言うか、クールすぎるというか」

「ははっ。うん、月城くんってあんまり騒いだりしないみたいだから、何か目を引くっていうか…」

「あぁ、騒がないなぁ、あいつは。喋ってて楽しいか?」

「楽しいよ。月城くん、いろんな話してくれるから」

⏰:10/03/29 20:34 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#202 [我輩は匿名である]
「そっか、あいつが女を気にするのって初めてだから、どーしても気になってさ」

「…そうなんだ」

響子は少し顔を赤くして目をそらす。

「ま、そういう事だからさ、あいつの事可愛がってやって」

「あははっ、何それ」

直人と響子はそんな話をしながら、ぼちぼちと家に帰っていった。

⏰:10/03/29 20:35 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#203 [我輩は匿名である]
直人はベッドに寝転んで、少しめんどくさそうに本を見つめる。

「…そろそろ何か起きてくんねーかなぁー…」

どうせ今日も何もないのだろうが、万が一何か進展があっても困る。

直人ははぁっとため息をつき、起き上がる。

期待はせずに、ゆっくりと本を開いた。

⏰:10/03/29 23:30 📱:N08A3 🆔:P5Rp3vxg


#204 [。゚+ゆきな+゚。]
>>2-200

⏰:10/03/29 23:58 📱:SH904i 🆔:eeM7faXQ


#205 [我輩は匿名である]
>>204さん
ありがとうございます

⏰:10/03/30 12:30 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#206 [我輩は匿名である]
今日もまた、学校だ。

それも下校中。

「絶対何もないな。あーあ…いつまでこうなんだよ…」

直人は早速ぶつぶつ言う。

「あのぅ…」

要の背後で声がした。

振り返ると、見たことのある顔。

「うわぁ…美代だ…」

話し掛けてきたのは、あの美代だった。

⏰:10/03/30 12:30 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#207 [我輩は匿名である]
「…何か用?」

要が尋ねる。

「…晶ちゃんが伝言を、って…」

「晶ちゃんが?」

「うん」

美代の表情は、何だか元気がなさそうだ。

「…伝言って何だよ?」

直人は首を傾げる。

今日はいつもとちょっと違う。

⏰:10/03/30 12:31 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#208 [我輩は匿名である]
「…来週、行けないって」

「え、それだけ?」

要はきょとんとする。

「うん、それだけ。『言ってきて』って言われたから…」

「…何で来れないか聞いてない?」

「わからない。それだけしか言われてないの」

「…そっか、わかった。ありがとう」

要は美代に礼を言う。

⏰:10/03/30 12:31 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#209 [我輩は匿名である]
美代はそのまま帰っていった。

「…来れないのか…、でも、何でまた…?」

要も直人も首を傾げる。

理由がないのは、何だか怪しい。

「あいつの嘘…?ってのも、アリだよなぁ…」

いろいろと引っ掛けられてきたため、さすがの直人も今回は疑ってかかる。

「…まぁ…しかたないかな。今度また様子見に行こう」

要はそう独り言を言ってまた歩きだす。

⏰:10/03/30 12:31 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#210 [我輩は匿名である]
今日はそれだけだった。

次の日曜日、つまり5月5日の約束が無くなった、という事だけ。

「(ゴールデンウィーク中か。あの時代からゴールデンウィークがあったのかわかんねぇけど)」

戻ってきた直人は考える。

施設中で何かあるのか、とも思ったが、それなら美代が知っているはずだ。

何が理由なのか?昨日のデートでは何も問題はなく、仲良く話していたではないか。

「うーん…わかんねぇなぁ…」

直人は頭を悩ませながら本を閉じた。

⏰:10/03/30 12:32 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#211 [我輩は匿名である]
次の朝。

曇り空の下で、薫と響子はいつものように話している。

「…ここまで、夢の方はどうなった?」

「えっと…屋上で洗濯物手伝ってもらって、仲良くなって、ご飯に行って、

もう1回ご飯に行った時に、『私とお付き合いして下さい』って言われて…。

“私”は『はい』って返事して、お付き合いする事になった。

今日は、ドライブに連れていってもらった」

「そうか」

順調だな。薫は少し笑う。

⏰:10/03/30 12:32 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#212 [我輩は匿名である]
「(初めて会ったのは3月、ドライブに行ったのは7月…。

…本よりも進むのが早いのか…?)」

薫は黙って考えていた。

「…でも、まだ顔はわからないんだ」

響子は残念そうに言う。

「そのうち見えるよ」

「…そうだよね」

薫に言われて、響子は笑った。

⏰:10/03/30 12:33 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#213 [我輩は匿名である]
「…変な事言うけど…夢なのに、…好きなんだ、あの人のこと」

恥ずかしいそうに、響子は途切れ途切れに話す。

薫はそれを見て優しく笑う。

「なんかね、夢だと思えなくて。覚めなかったらいいのにって思うくらい」

「覚めないと困るだろ」

「それはそうなんだけどね」

それに、もうすぐそれは現実になるよ。

薫は心の中で呟いた。

⏰:10/03/30 12:33 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#214 [我輩は匿名である]
今日は怜奈は、直人に一言も話し掛けて来なかった。

「お前、昨日何か言ったのか?」

帰り道、直人は薫に聞いた。

「あぁ、『悪いけど諦めてくれ』って釘刺しといた」

「よくやるな」

「付きまとわれると面倒だろ?香月に何かあっても困るしな」

薫は参ったように髪を触る。

「まぁそうだよなぁ」

「あーゆー危なそうなやつは、はっきり言っといた方がいいんだよ」

薫はいつになく、少し苛立っているようだ。

⏰:10/03/30 13:24 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#215 [我輩は匿名である]
怜奈を良く思っていないのだろう。

「そういえば、昨日たまたま香月がいたから、一緒に帰ってきたんだ」

直人は適当に話を変える。

「へぇ、初めて喋ったんじゃないか?」

「あぁ。なんか、女の子らしい奴だな」

「何だよそれ。…まぁ、男っぽくはないけど」

薫は笑う。

「お前の事、『他の子とは違う』って言ってたぞ。多分、雰囲気が」

「そんな事言ってたのか?」

⏰:10/03/30 13:24 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#216 [我輩は匿名である]
「騒がないからな、お前」

「騒ぐのはお前だけで十分だろ」

「何だよそれ!」

嘲笑う薫に、直人はギャーギャー騒ぐ。

「(…ふぅん、香月っていうんだ。あの女)」

2人の会話を、曲がり角の陰から怜奈が聞いていた。

しばらく2人の後ろ姿を見た後、冷たい笑顔を浮かべてその場を離れた。

⏰:10/03/30 13:25 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#217 []
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600

⏰:10/03/30 14:13 📱:SO905iCS 🆔:F62lBiEg


#218 [我輩は匿名である]
結局、日曜になるまでまた何も起こらなかった。

5月5日。

約束はなくなったが、要はとりあえず、あの場所に行ってみることにした。

直人もそれが正しいだろうと、黙って景色を見つめる。

もしかしたら、あの場所にいるかもしれない。

要も直人も、少し緊張気味だ。

あと角を2つ曲がってまっすぐ行けば、あの場所に着く。

「あの…」

1つ目の角を曲がる寸前、誰かが要に話し掛けてきた。

⏰:10/03/30 19:38 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#219 [我輩は匿名である]
振り替えると、細身で綺麗な女性が、困った顔で立っている。

「はい?」

「この辺の方ですか?ちょっと道に迷ってしまって…」

マジかよ。直人も困ったように女性を見返す。

「えっと…どこに行きたいんですか?」

「姫崎公園に…」

「あぁ…結構迷っちゃいましたね」

「遠いんですか?」

「歩いて20分ぐらいかかるんです。…説明しにくいしなぁ…」

要は腕を組んで考える。

⏰:10/03/30 19:38 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#220 [我輩は匿名である]
そして、「ちょっとここで待ってて下さいね」と言って走りだした。

晶が来ていないか確認しておく為だ。

しかし、やっぱり晶は来ていなかった。

「…来てないな。じゃあいいか」

要はそう言って、また来た道を戻る。

「すいません、待たせちゃって。…僕が一緒に行きます」

「えっ?でも、何か予定があったんじゃ…」

「いえ、散歩してただけですから。行きましょう」

「ごめんなさい、ありがとうございます」

⏰:10/03/30 19:39 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#221 [我輩は匿名である]
女性は優しい笑顔を見せる。

「…昔でもこんな綺麗な人いるんだな」

女性の顔に、直人はしばし見とれる。

「…はっ!何考えてんだ俺!俺には晶がいるだろ!」

自分で言って、直人はまた考える。

晶と付き合っているのは、直人ではなく要である。

しかし時々、今のように、自分が付き合っているような錯覚に陥る事がある。

「…うーん…俺もヤバくなってきてるかな…?」

いろいろあったりなかったりで、本の怖さを忘れていた。

⏰:10/03/30 19:40 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#222 [我輩は匿名である]
慣れてきたのかもしれないが。

「この辺、結構ごちゃごちゃしてて、分かりにくいんですよね。よく迷う人いるんですよ」

「そうなんですか?良かった、ちょっと安心です」

要と女性は、ただ黙っていくのもつまらないと、仲良く話しながら歩いている。

「私、ここに来たのは初めてなんです。いい町ですね」

「そう…ですね、いい人ばかりだし。何でこの町に?」

「大学の友達の家に遊びに来たんです。地図もらったんですが、どうしてもわからなくて」

女性は恥ずかしそうに笑う。

「車とかで送ってくれる人がいれば楽なんですけどね」

⏰:10/03/30 19:40 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#223 [我輩は匿名である]
「そうですね。父がいれば、送ってくれたんでしょうけど…」

「お仕事ですか?」

「亡くなったんです、戦争で」

女性は隠しもせずに言った。

直人は呆然とする。

よく考えれば、ここは1977年。戦争が終わって22年しか経っていないのだ。

「…なるほどな…」

「すいません、そんなつもりじゃ…」

「あぁ、いいんです。親がいないのには慣れてますから」

「…え…」

⏰:10/03/30 19:41 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#224 [我輩は匿名である]
「私、父も母も死んだので、養護施設で育ったんです。

母が亡くなったのは戦後ですけど」

「養護施設?」

直人も要も、その言葉に目を丸くする。

「俺の友達にも、施設で育った子がいるんです」

「そうなんですか?偶然ですね、なかなかいないのに」

「はい。びっくりしました…」

要も驚いているようだった。

「…学校、楽しいですか?」

要はふと、そんな事を尋ねた。

⏰:10/03/30 19:41 📱:N08A3 🆔:3m0ZWZ2s


#225 [我輩は匿名である]
すみません。
>>223
の「22年」は「32年」のミスでした

⏰:10/03/31 10:33 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#226 [我輩は匿名である]
「え?えぇ、楽しいですよ。高校も楽しかったけど、私は大学の方が楽しいかな。…どうして?」

「いやぁ…その友達が、学校は楽しくないって言ってたから…」

「…施設で育った負い目で?」

女性に言われて、要は「多分」と答える。

「そんなの、関係ないですよ」

女性は笑う。

「施設で育った子も親の元で育った子も、どっちが良い、なんて事はありません。

私は施設で育った事を友達に言いましたが、今でもその子は友達のままです。

…その子は、自分から壁を作ってるんじゃないかな」

⏰:10/03/31 10:34 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#227 [我輩は匿名である]
「…壁…かぁ…」

女性に言われて、要は繰り返す。

確かに晶の性格なら、あり得なくはない。

「その子に、『思い切って踏み込んでみて』って言っといて下さい。

『受け入れてくれない子は、その程度の子。他にもいい子はたくさんいるから』って」

女性はにっこり笑って、要に伝えた。

要は「はい!」と大きく頷く。

前方に大きな公園が見える。

「あっ、あれですよ。姫崎公園」

⏰:10/03/31 10:35 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#228 [我輩は匿名である]
「え?あっ、着いたー!」

女性は胸に手をあて、大きく息をつく。

公園の前で、2人の女性が、こちらに手を振っている。

「良かった、友達もちゃんと待っててくれたみたい。ありがとう」

「いえ、こちらこそ楽しかったです。また来て下さいね」

要は笑って女性に手を振る。

女性もこちらに手を振って、友達の元へ走っていった。

要もまた、家へと引き返す。

もう一度あの場所に行こうかとも考えたが、

さっきいなかったから今日は来ないだろうと、要はまっすぐ家に帰った。

⏰:10/03/31 10:35 📱:N08A3 🆔:Cnlymdz2


#229 [我輩は匿名である]
直人は本を閉じる。

あの女性に会って、何だか元気が出た気がする。

「直接晶を会わせてやりたかったなぁ…」

自分が伝えるよりも、あの女性が直接話をした方が、晶も勇気が出たかもしれない。

「(…あの女の人、元気かなぁ…?)」

直人はそんな事を考えながら、ボーッと窓の外の夜空を眺めた。

⏰:10/04/01 17:03 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#230 [我輩は匿名である]
直人は大きなあくびをして机に突っ伏せる。

大好きなゴールデンウィークも終わってしまった。

外は雨が降っており、廊下を見れば、屋上に行けない薫と響子が窓の方をむいて話している。

「…この間ね、プロポーズされたんだ」

響子は薫だけに聞こえるような声で言った。

「霜月優也に?」

「うん。寒かったから、冬だったと思う」

「12月13日」

薫は開いた窓の桟に両肘を置く。

⏰:10/04/01 18:04 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#231 [我輩は匿名である]
「そうなの?…よく知ってるね、相変わらず」

「まぁな」

薫は鼻を高くして笑う。

「3月に結婚式しようって。…私も嬉しくて、すぐにうんって返事して…」

響子は少し頬を赤らめて話す。

薫も笑ってそれを見つめる。

「でね、今日はその、結婚式だったの。

真っ白い、綺麗なドレスを着せてもらって、優也に指輪をはめてもらって…。

…すごく幸せだった」

薫はすぐに気付いた。

⏰:10/04/01 18:04 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#232 [我輩は匿名である]
響子が「優也」と、呼び捨てで呼び始めている事に。

ついこの間まで「あの人」と呼ぶ事が多かった。

「(…話の進度は速くても、キョウコの見る夢はあの本とほぼ同じみたいだな…)」

薫は1人、静かに考えを巡らせていた。

⏰:10/04/01 18:05 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#233 [我輩は匿名である]
「うーん…」

直人は本を手に、ベッドの上で頭を悩ませる。

今日は何事も無かったのだが、やはり晶の、来れなかった理由が気になるらしい。

「(…何かある気がするんだよなぁ…)」

今まで素直に要と接していた晶が、理由も無しに来ないのはおかしい。

それも、自分で言いに来ないとなると尚更だ。

めんどくさがり屋の直人ならともかく、晶はそんな性格でもない。

しかも、嫌いだと言っていた美代に、そんな伝言を託すだろうか?

直人は大きくため息をつく。

⏰:10/04/01 18:05 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#234 [我輩は匿名である]
「(…やっぱり、帰りにもう1回あの場所に戻るべきだったのか…?)」

直人の意志で要の身体を動かせないにも関わらず、直人はそんな事を考える。

しかし、2時頃に1度見に行っても、あの場所に晶はいなかった。

「…あー…わかんねぇなぁ…。何か気に障る事したか…?」

あぐらをかいて、直人は長い間頭を抱えていた。

⏰:10/04/01 18:06 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#235 [我輩は匿名である]
次の日、珍しく飛鳥が学校を休んでいた。

「(…今日あいつ休みなのか)」

そこまで仲良くは無いのだが、どこか気になってしまう。

「(…最近気になる事が多いなぁ…。悩みがないのが自慢だったのに…)」

直人はシャーペンをくるくる回しながら、机に肘をついて考える。

晶の事、飛鳥の事…。

おまけに、またある事を思い出す。

薫の「初めて人を殺したいと思った」という言葉。

あれは一体何だったのか?余計な事を思い出してしまった。

⏰:10/04/01 18:06 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#236 [我輩は匿名である]
「水無月」

「へ?」

ボーッとしていた直人は、先生に名前を呼ばれたのに気付かなかった。

顔を上げると、先生も周りの生徒もこっちを見ている。

が、何で呼ばれたのかわからない。

「24ページの2行目から読め!」

幸い、後ろの席の男子が小声で教えてくれた。

「サンキュ!」

直人は小声で礼を言い、慌てて立ち上がって、言われた所を読み始めた。

⏰:10/04/01 18:45 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#237 [我輩は匿名である]
「今日、元気ないじゃん」

昼休み、薫が直人に言った。

「…そうか?」

「ないだろ、どう見ても。授業中はずっとボーッとしてるし」

「…うーん…」

直人は口をモグモグさせながら、鼻からふぅっと息を吐く。

「……なんかさぁ、考え事多すぎて、もう頭がパンクしそうっつーか…」

「考え事?珍しいな」

薫はきょとんとする。

⏰:10/04/01 18:46 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#238 [我輩は匿名である]
「…俺、何か怒らしちまったかなぁー…」

「…誰を?」

「…晶」

直人は言いながら、ボーッと弁当のおかずを口に入れていく。

逆に、薫の箸が止まる。

「…石川晶か」

「んー…」

直人は適当に返事をした後、思い出したように薫を見た。

⏰:10/04/01 18:46 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#239 [我輩は匿名である]
「そういえばお前、晶の事も知ってんのか?」

直人の問いに、薫はしばらく黙る。

そして、考えながら口を開いた。

「あぁ、知ってるよ」

やっぱりな。直人は思った。

「何で?何かお前、何でも知ってるよな」

「俺の本にも出てくるからだよ」

「…へ?じゃあ俺も出てくるからくんの?」

「お前は出ない」

薫はきっぱりと否定する。

⏰:10/04/01 18:47 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#240 [我輩は匿名である]
直人はどういう事かと首をひねる。

「わかった!お前、晶の施設の…」

「残念ながら俺は両親の元で家で育った」

ちっ。直人はブスッとする。

「じゃあ何で晶だけがお前の本に出てくるんだよ?」

そう聞かれて、薫はまた、しばし考える。

「…お前が本を全部読み終わったら教えてやるよ」

「はぁ〜?それ、いつになるんだよ」

薫の言葉に、直人はうなだれる。

薫はそれを見て、笑いながら心の中で呟いた。

「あと1ヶ月もしないうちにわかる」と。

⏰:10/04/01 18:47 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#241 [我輩は匿名である]
次の日曜日も、何故か晶は待ち合わせ場所に来なかった。

要は気になって、晶の住む施設まで行ってみる。

忘れているのだろうか?

それとも、先週会わなかったため、今週は約束していない事になっているのだろうか?

確かにそれはあるかも知れないが、何も言わずに来なくなるのはおかしい。

直人は要の中で、必死に頭を働かせる。

もしかしたら、他に好きな男でも?

しかし、彼女は「私には要くんしかいないから」と言っていた。

まぁ時が流れれば変わる事もあるわけだが。

⏰:10/04/01 19:55 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#242 [我輩は匿名である]
でも、ちょっとひねくれてはいても、普通の純粋な女の子である。

そんなにコロコロと気が変わるような子ではない。

少なくとも直人はそう信じている。

直人がそうだという事は、きっと要も同じであるだろうが。

あれこれ考えている間に、目の前には施設の門が迫っていた。

要はふうっと、息を吐く。

「…あ」

晶はちょうど、門の近くで花壇の花に水をやっていた。

「何だよ、普通にいるじゃねぇか」

直人は少しムッとした。

⏰:10/04/01 19:55 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#243 [我輩は匿名である]
要は少し重い足取りで晶に近づく。

「…晶ちゃん」

要は彼女にギリギリ聞こえるような声で呼ぶ。

晶は少しキョロついてから、要に気が付いた。

「来ないから、何かあったのかと思って」

要はちょっと苦笑する。

しかし、晶は何も言わない。

それどころか、顔を背けてどこかへ走り去ってしまった。

⏰:10/04/01 19:55 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#244 [我輩は匿名である]
要も直人も、わけがわからずきょとんとする。

「…何だよ?今の…」

何だかわからないが、怒っているような態度。

しかし、2人とも心当たりは全くない。

そのため、直人は逆に腹が立ってきた。

「おい、あんな女ほっといて帰ろうぜ」

直人が言うのと同時に、要は踵を返す。

2人とも納得がいかないまま、とぼとぼと家路に着いた。

⏰:10/04/01 19:56 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#245 [我輩は匿名である]
元の世界に戻っても、直人のイライラは収まらない。

すぐに本を閉じて、文を読む気にすらならない。

「何なんだよ…この間来れないって言ったの、あっちだろ…」

直人はぶつぶつ言いながら寝転ぶ。

だからめんどくさい女は嫌なんだ。そう思いながら目を閉じた。

⏰:10/04/01 19:57 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#246 [我輩は匿名である]
1日ボーッとした日が続く。

薫と何を話したのかもあまり覚えていないほど。

飛鳥も今週は出席していたが、直人と同じようにボーッとしては、放課後すぐに学校を出ていた。

直人は何となく、それも気になっていたが、何もしないまま、気付けばもう金曜日だった。

運悪く、今日は直人と怜奈が日直だ。

余計にため息が出る。

しかも今日は体育。教室の鍵締めという面倒な仕事がある。

⏰:10/04/01 20:16 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#247 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

直人は大きくため息を吐く。

「鍵締めめんどくせー、とか思ってんでしょ」

怜奈に言われて、直人はハッと、彼女の方を向く。

「べっ、別にそんな…!」

「いいよ?男子の教室の鍵も閉めてあげても」

「…へ?」

直人はぽかんとする。

「女子の方が着替え長いからね。まとめて閉めてあげてもいいよって言ってんの。

いやなら別にいいけど」

⏰:10/04/01 20:16 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#248 [我輩は匿名である]
「いや!是非閉めてくれ!助かる!」

『意外といい奴かも』と、直人は怜奈に手を合わせる。

その拍子に、薫が珍しく席に着いているのが見えた。

まだ朝礼まで10分あるというのに。

直人は立ち上がり、薫の席に行く。

「おい、どうしたんだよ?今日は晴れてるぞ?」

ボーッとしていた薫は、声をかけられて顔を上げる。

「…あぁ…ちょっとな…」

本を持つ者がみんなボーッとしている。

⏰:10/04/01 20:17 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#249 [我輩は匿名である]
直人は何かおかしいと感じた。

「喧嘩でもしたか?」

「いや…キョウコがちょっと体調悪いみたいでな…」

「…キョウコぉ?」

とうとう呼び捨てになったか。直人はにやつく。

「休んでんのか?」

「いや、来てるけど」

「じゃあ会いに行けばいいじゃん。昨日も普通に会ってただろ?」

「…昨日と今日じゃ状況が違うんだよ」

⏰:10/04/01 20:17 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#250 [我輩は匿名である]
薫は思い詰めたように言った。

直人はますます首をかしげる。

そして、ハッとした。

「手ぇ出しちゃったか!」

「出してない!!」

薫は鬼のような顔で言い返す。

が、すぐに暗い顔に戻ってしまった。

「…出してないけど…」

薫がこんな顔をするのはほとんど見た事がない。

直人は困って頭を掻く。

⏰:10/04/01 20:17 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#251 [我輩は匿名である]
「…俺もさ、今晶ともめてんだよね」

薫は目だけをこっちに向ける。

「もめてるって言うか、勝手にあっちが腹立ててるだけだけど」

直人はムスッとして言う。

「…俺は別にもめてるわけでもないけどさ…」

薫は答えるように話しだす。

「…キョウコも、本を持ってるような感じで」

「持ってる“ような”って何だよ」

直人はすかさず突っ込む。

「持ってはないけど、それと同じ力があるって言うか」

⏰:10/04/01 20:18 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#252 [我輩は匿名である]
「へぇ…なんかすごいな、それ」

「まぁ…な。…お前…」

薫が何か言おうとした時、運悪くもチャイムが鳴った。

「何だよも〜…」

「また後で話すよ」

薫はフッと小さく笑った。

⏰:10/04/01 20:18 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#253 [我輩は匿名である]
3時間目の体育の時間。

さっきまで晴れていた空が曇り、雨が降りだしたため、体育館でバスケットボールだ。

同じチームに配属された2人は、コートの外に座って自分たちの試合の時間を待つ。

「…お前、本で自分が入り込んでしまう人間が誰なのか、知ってるか?」

薫はぼそっと、直人に尋ねる。

直人はボールを片手に黙り込む。

「……“前世”だって、何かで見た事あるけど…」

本当かどうか…。直人は下を向く。

「何だ、知ってたのか」

薫の言葉に、直人は顔を上げる。

⏰:10/04/01 23:29 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#254 [我輩は匿名である]
まだ信じられないような表情で。

「…あれ…本当だったのか…?」

「あぁ、本当だ」

薫は動じずに答える。

直人は呆然とする。

最後まで本を読んだ薫が言っているのだから、間違いない。

そう思っても、やはりまだ信じきれないのだ。

「…昨日」

薫は構わず、話を続ける。

⏰:10/04/01 23:29 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#255 [我輩は匿名である]
「キョウコは全て思い出したらしい。…自分が死ぬ瞬間までな」

「…え…?」

直人はさらに驚く。

「今日子は亡くなる時、妊娠8ヶ月でな。…だから、お腹の子どもも一緒に死んだ」

薫は、どこか遠くを見つめながら話す。

「…お前…」

直人は悟った。と同時に、薫は言った。

「…俺は、その…霜月今日子の夫だった。お腹の子どもも俺の子だったんだ」

直人はもう、何も言えなかった。

⏰:10/04/01 23:30 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#256 [我輩は匿名である]
薫を見ていると、自分の悩みがどれ程小さいか思い知らされる。

「…殺されたんだ」

薫はぽつりとこぼした。

「…殺された…?」

「…巻き込まれて死んだ、と言うのが正しいんだろうけど」

薫が言い終わると同時に、ビーッ!と大きな音が鳴った。

直人は思わず、ビクッとする。

前のチームの試合が終わったらしい。

⏰:10/04/01 23:30 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#257 [我輩は匿名である]
「…まぁ俺は、“殺された”としか思ってないけどな」

薫はそれだけ言い残して、コートの中に入る。

直人は薫の背中を見て、何故か足が竦んだ。

薫の「人を殺してやりたい」という言葉の意味を、知ってしまった。

⏰:10/04/01 23:30 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#258 [我輩は匿名である]
昼休みになっても、直人は気まずくて仕方なかった。

かけてやれる言葉が見当たらず、1人困惑する。

「…そんなに気を遣うなよ」

先に口を開いたのは、薫の方だった。

「別に、恨んでる相手はお前じゃないし」

「…そーゆーんじゃねぇよ。でも、何かなぁ…」

「…言わない方が良かったか?」

薫に聞かれて、直人は黙り込む。

どうなのか、自分でもわからない。

⏰:10/04/01 23:31 📱:N08A3 🆔:IMFDvu/M


#259 [我輩は匿名である]
「ま、あんな話聞いたら、誰でも困るだろうけどな」

薫は平気そうに笑う。

しかし、直人には無理をしているようにしか見えない。

「じゃ、香月が体調悪いのって…」

「悪い、…体調悪いっていうのは、嘘だ」

「嘘かよ」

「…会いたくない。…そう言われた」

薫はため息混じりに言った。

「会いたくないって…何で…」

「…あいつが死ぬ原因を作ったのは、俺だからだ」

⏰:10/04/02 17:07 📱:N08A3 🆔:yJo1HQwc


#260 [我輩は匿名である]
薫は言う。後悔しているような表情で。

直人はもう耐えられなくなって、「あーっ、やめやめ!!」と声を荒げた。

薫は「何事か」ときょとんとする。

「もう暗い話はやめようぜ。俺が疲れるから!」

直人はそう言って、弁当の中身を次々と口へ放り込む。

その直人の様子を見て、薫は「そうだな」と笑い、同じように手を動かした。

⏰:10/04/02 17:08 📱:N08A3 🆔:yJo1HQwc


#261 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300

⏰:10/04/03 00:40 📱:SH706ie 🆔:5IA1kpfY


#262 [ま]
続きが気になりすぎる。(笑)

⏰:10/04/03 23:47 📱:P04A 🆔:0TV.7tcg


#263 [我輩は匿名である]
放課後。

「失礼しましたー」

日直のノートを出し終え、直人は「お待たせ」と薫に声をかける。

薫は職員室の前にも関わらず、堂々とケータイを見ている。

「何見てんの?」

「これ」

薫はケータイ画面を直人に見せる。

響子からのメールだが、本文は「わかった」の一文だけだ。

「短いメール。いつもこうか?」

⏰:10/04/04 09:43 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#264 [我輩は匿名である]
「…俺は今日一通もメールを送ってないし、電話もしてない」

薫は不思議そうに言った。

「へ?」

直人がきょとんとしている間に、薫は自分の送信メールをチェックする。

『今日放課後、話があるから、屋上まで来て』

このメールが、今日の3時間目前の休み時間に送っている事になっている。

「送ってるじゃん」

直人は「大丈夫か」と薫を見る。

が、薫は黙って画面を見つめている。

そして、何かに気付いたのか、突然「先に帰ってろ!」と直人に言って走りだす。

「え!?」

直人はわけがわからず、少し遅れて薫を追った。

⏰:10/04/04 09:44 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#265 [我輩は匿名である]
響子は何も知らずに、屋上に続く階段の踊り場で薫を待っていた。

「お待たせ〜」

そう言ったのは、女の声だった。

響子は長い髪をなびかせて振り返る。

そこにいたのは、怜奈だった。

「…誰ですか?」

「私は大橋怜奈。月城くんのケータイからあんたを呼んだの、私よ」

怜奈は怪しげに笑う。

「あんたさぁ、月城くんと付き合ってんの?」

「…何ですか?いきなり」

⏰:10/04/04 09:44 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#266 [我輩は匿名である]
響子はうっとうしそうに尋ねる。

階段を降りたくても、下りの階段の前に怜奈がいるため、降りれない。

「私、月城くんの事好きになっちゃって」

「…だから?」

怜奈の強気の態度に、響子も反撃に出る。

怜奈はムッとしたように眉間にしわを寄せる。

「彼女じゃないのに、イチャイチャするのやめてくれる?

…目障りなんだよね」

「お願いはそれだけ?」

響子は臆する事無く聞き返す。

⏰:10/04/04 09:45 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#267 [我輩は匿名である]
怜奈は響子の態度に苛立ち、腕を掴んで壁にたたきつける。

「…調子にのんなよ」

怜奈は顔を近づけ、響子を睨み付ける。

「彼女でもないくせに…気取ってんじゃねぇよ」

「バカじゃないの?」

響子もまた、怜奈をにらみ返して言う。

「こんな事して呼び出して、文句言って怖がらせて手を引かせようと思ったんでしょ?

そこまでしないと私に勝てないって分かってるから。違う?」

「何…!?」

⏰:10/04/04 09:45 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#268 [我輩は匿名である]
「月城くんは、あんたみたいな子は相手にしないわよ。

月城くんに手を出す事は、私が許さないから!」

響子はきっぱりと言い放った。


「おいっ!待てよ薫!!」

直人は必死で薫を追う。

いつの間に俺より足が速くなったんだ。

そう思いながら曲がり角を曲がろうとすると、ノートの山を抱えた女子が出てきた。

⏰:10/04/04 09:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#269 [我輩は匿名である]
「うわっ…」

止まり切れず、そのままぶつかってしまった。

直人は思いっきり尻餅をつき、女子もノートをばらまきながら、同様に尻餅をつく。

「いったぁ〜…」

「いててて……あ」

直人はハッと立ち上がり、女子に駆け寄る。

「すいません!大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけないでしょ!?」

肩までしかない短い髪の女子は、直人に怒鳴る。

⏰:10/04/04 09:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#270 [我輩は匿名である]
「廊下は走るなって小学校で習わなかった!?あんた何歳よ!?」

「ご、ごめんなさいっ!」

あまりの剣幕に、直人はひたすら謝り、ノートを拾う。

「…ん?」

女子の顔に、何となく見覚えがある気がする。

直人は思い出そうと、手を止めて女子を見つめる。

「…何か用?」

視線を感じて、女子が尋ねてくる。

「えっ…いや…」

直人はサッと視線を反らし、またノートを拾う。

⏰:10/04/04 09:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#271 [我輩は匿名である]
よく見れば同じ色のリボン。同級生だったようだ。

しかし、今そんな事に構っている場合ではない。

「怪我してない?」

「怪我は大丈夫」

「そっか!ごめんな、ちゃんと気を付けるから!」

掻き集めて整頓したノートを手渡し、直人は急いで階段を駆け上がる。

「気を付けるって今言ったじゃない!」

女子はまた声をあげるが、もう直人には届かない。

⏰:10/04/04 09:47 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#272 [我輩は匿名である]
「…ん?」

女子は曲がり角に何か落ちているのを見つけた。

青い携帯電話だ。

「…あっ!ちょっとー!ケータイ落としてるよー!!」

さっきの男子がぶつかった拍子に落としていったのだろう。

女子は声の限り階段に向かって叫ぶが、返事はない。

が、その代わり、「おーい、うるさいぞー」と女子の担任が降りてきた。

「あっ、先生!もうこれ重くて無理です!」

「はぁん?しょうがねーなぁ。こっからは俺が持って行くわ」

⏰:10/04/04 09:48 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#273 [我輩は匿名である]
「やったぁ!じゃあ私、今から落とし物届けて来ます♪」

女子はノートの山を担任に預けて、直人のケータイを手に階段を上る。

⏰:10/04/04 09:48 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#274 [我輩は匿名である]
一方、薫は息を切らして屋上への階段にたどり着いた。

「でも、あんた『もう会いたくない』ってメールしてたじゃん。

そんな奴が偉そうな口叩けんの?」

怜奈の声が聞こえてくる。

気付かれないように、しゃがんで角から踊り場の様子を伺う。

「(あの女…俺のケータイのメールまで見たのか…)」

響子は壁に押さえ付けられたまま黙る。

出ていくべきか、待つべきか。

周りにはもう他の生徒はいないようで、しんと静まり返っている。

⏰:10/04/04 13:23 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#275 [我輩は匿名である]
「…確かに、そんなメールは送ったわ」

響子は口を開く。

「…でもそれは、月城くんと喧嘩したからでも、嫌いになったからでもない。

…月城くんの優しさが、怖くなったから」

響子は俯きながら言った。

薫は黙って響子の話を聞く。

「私の事をいつも心配してくれて、いつも笑っていてくれて…。

でも私は…きっと月城くんを好きになっちゃいけない。それに気付いてしまった。

だから『会えない』って言ったの。月城くんなら、私なんかよりもっといい人に出会えると思ったから」

⏰:10/04/04 13:24 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#276 [我輩は匿名である]
響子の声が震えている。

『月城くんを好きになっちゃいけない』と言う事は、響子はまだ気付いていないようだ。

夢の中の男性が、今の薫だということに。

「(最後まで知ったんじゃなかったのか…?)」

薫は小さく首をひねる。

響子は“霜月今日子”が死ぬのを夢で見た。

本来ならば、そこで全てを知るはずだ。

だが、響子は薫の正体を知らない。

もしかしたら、彼女だけまだ続きが…?

⏰:10/04/04 13:24 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#277 [我輩は匿名である]
「み…見つけた…」

薫の背後で直人の声がした。

薫は素早く、「静かに」とサインをする。

「も…何だよ…?」

直人は小声で文句を言いながら息を切らす。

「ちょっとー、ケータイー!」

おまけにさっきの女子まで上ってきた。

「しーっ!」

薫と直人は同時に女子を黙らせる。

⏰:10/04/04 13:25 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#278 [我輩は匿名である]
「…何?」

女子は不満そうに、また眉間にしわを寄せる。

「…何かよくわかんないけどさぁ、じゃああんたはもう関係ないんじゃん。

だったら余計偉そうな事言えないね?

なのにごちゃごちゃ文句つけてきやがって…」

「文句つけてるのはそっちでしょ?好きなら好きだって直接言えばいいじゃない」

「言っても無駄なのよ、あんたがいる限りはね…!」

⏰:10/04/04 13:25 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#279 [我輩は匿名である]
「えっ、何、これ修羅場!?」

「うるさいなぁ!俺だって知らねぇよ!つか何で付いて来たんだよ!?」

「だって…」

2人がこそこそ言い合っている間に、痺れを切らして薫が立ち上がる。

「いい加減にしろよ」

その場にいる全員が薫に目を向ける。


「俺この間言ったよなぁ?お前を好きになる事はないって。

それはキョウコがいようがいまいが関係ない。

俺が本気で愛するのは一生でただ1人、長谷部今日子だけだ!」

⏰:10/04/04 13:25 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#280 [我輩は匿名である]
その言葉に響子はハッとする。

「長谷部今日子?あの子香月響子じゃなかった?」

「えっ?お前知ってんの?」

「だって隣のクラスで体育一緒だし」

女子は当たり前のように直人に言った。

「…何なのよ…あんた達…」

怜奈は低い声で言う。

「私よりも劣ってるくせに…調子こいてんじゃねーよ…。

あんたのせいよ…あんたさえいなかったら…!」

⏰:10/04/04 13:26 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#281 [我輩は匿名である]
怜奈はきつく響子を睨み付ける。

そして、いきなり響子の胸ぐらを掴んだ。

とっさに薫は階段を駆け上がる。

直人と女子はどうすればいいかわからず、

戸惑うように顔を見合わせ、とりあえず階段の影から様子を伺う。

2人を引き離そうと、薫は怜奈の腕に手をかける。

「…離してよ!!」

怜奈はまるで錯乱したかのように、振り払おうと両腕を振り回す。

それが、下りの階段ギリギリに立っていた響子と薫に強く当たってしまった。

⏰:10/04/04 18:31 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#282 [我輩は匿名である]
薫は素早く手摺りを掴んで踏みとどまる。

しかし響子はそれが出来ず、足を踏み外した。

落ちる。響子は「もうダメだ」と目をつぶる。

しかし、その響子の手を、とっさに薫が掴んだ。

手摺りを持つ手と引き替えに。

薫は響子を守るようにして彼女を包む。

その直後、2人は一緒に、階段から転げ落ちた。

直人も女子も、何が起こったのかわからず、一瞬動きを止める。

⏰:10/04/04 18:32 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#283 [我輩は匿名である]
が、2人が全く動かないのを見て、女子が先に駆け寄った。

「ちょっと!2人とも大丈夫!?」

彼女の声でスイッチが入ったように、直人もハッとして2人の傍に寄る。

見ると、右向きに倒れている薫の頭部から血が流れ出ている。

どれだけ名前を呼んで軽く身体を揺すっても、2人とも目を覚ます気配がない。

「…私、先生いないか見てくる!」

女子はそう言って廊下に走る。

偶然にも男性教員が廊下からこちらに向かってきていたらしく、

女子が助けを呼ぶとすぐに来てくれた。

直人は急な事態についていけず、救急車が来るまでただ呆然と立ち尽くしていた。

⏰:10/04/04 18:32 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#284 [ま]
うっへーい(*゚Д゚)
ほんますごいなぁ〜♪
薫ー(´・ω・`)

⏰:10/04/04 18:47 📱:P04A 🆔:HTCg2SGA


#285 [我輩は匿名である]
>>284さん

コメントありがとうございます

薫ちゃんどーなるのやら…

これからもぼちぼち読んで下さいな

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#286 [我輩は匿名である]
響子はゆっくりと目を開ける。

目の前で、スーツを着た1人の男性が、脱力したように座り込んでいる。

辺りを見渡せば、墓。

「(ここは…)」

響子がボーッとしていると、誰かが服の胸元を引っ張った。

いつの間にか、響子は生まれたばかり程の赤ちゃんを抱いていた。

「(この子…お腹の中にいた赤ちゃん…?)」

「…今日子…ごめんな…」

目の前の男性が、静かに口を開く。

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#287 [我輩は匿名である]
「俺が…俺があんな事言わなければ…」

下を向いていて顔が見えないが、男性は泣いているように見える。

「(…優也…)」

響子はすぐに気付いた。彼が霜月優也だという事に。

「(そうだ…私は…死んだんだ…)」

響子はあの日の事を思い出す。

⏰:10/04/04 19:28 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#288 [我輩は匿名である]
あの日。

「今日の晩ご飯、俺が作ろうか」

優也は何を思ったのか、急にそんな事を言った。

大きなお腹を気遣って椅子に座っていた今日子は、思わずきょとんとする。

「どうしたの?朝から」

「いや…今日は早く仕事が終わるからさ。お腹も大きくなってきたから、大変かなぁと思って」

優也はこちらに背を向けて、ネクタイを締めながら言う。

「でも、優也料理出来る?」

⏰:10/04/04 19:29 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#289 [我輩は匿名である]
「…ま、まぁ本とか箱とか見ながらやれば出来るだろ。ハヤシライスぐらいなら」

「ふふっ。私が見ながら教えた方が良さそうね」

今日子は困ったように笑い、大きく重くなったお腹をさする。

「今日はパパがご飯作ってくれるんだって。楽しみだね」

「そうだぞー。楽しみにしてろよ」

「あ、じゃあ材料買って来とかなきゃね」

「あぁ…結局働かせてしまうな」

「いいよ、買い物ぐらい。家にいても退屈だし、適度に運動しないと」

今日子はそう言ってにっこり笑った。

⏰:10/04/04 19:29 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#290 [我輩は匿名である]
そしてその日の昼頃、今日子はぼちぼち歩きながら買い物に出かけた。

買い物袋を1つぶら下げて、少しウキウキしながら歩道を歩いていた。

あの人はちゃんと作れるかな。少し笑って、そんな事を考える。

周りの人が、傍の建物の屋上を騒めきながら見上げているのに気付かずに。

突然、「きゃあ」「わぁ」と多くの悲鳴が今日子を包んだ。

今日子はそれに驚き、足を止める。止めてしまった。

みんなと同じように空を見上げる。

その時にはすでに、高校生くらいの少女が目の前に迫っていた。

⏰:10/04/04 19:54 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#291 [我輩は匿名である]
響子は視線を落とす。

「(…ごめんね、守ってあげられなくて…)」

腕の中で、赤ちゃんは響子の服を握ったまま寝息を立てている。

もし“私”が、あの時立ち止まらなかったら。あのまま歩き続けていたら。

そう思うと涙が出そうになる。

響子は顔を上げる。

いつの間にか、背景が見慣れた小さな家の中に変わっていた。

優也は1人、こちらに背を向けて座り込み、写真立ての中の今日子を見つめている。

⏰:10/04/04 21:45 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#292 [我輩は匿名である]
「…お前たちの葬式ぐらいから、ずっと体調が悪くてな。

…2ヶ月経って、やっと一息ついたから、この間病院に行ったんだ」

響子は彼の背中をじっと見つめる。

「そしたら、検査するって言われて…今日結果が出た。

………肺癌だと言われたよ。骨にも転移して…もって半年の、1番予後の悪い癌らしい」

響子は自分の耳を疑った。

そんなはずがない。この間まであんなに元気だったじゃないか。

「…急にあんな事を言ったから、ばちが当たったのかもしれないな」

優也はため息をついた。

⏰:10/04/04 21:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#293 [我輩は匿名である]
「…化学療法とか、いろいろやれって言われたけど、断ってきた。

そんな事にかける金もないし、…そこまでして生きても、俺にはもう何もないから…。

飲み薬だけで抑えてもらえるように、頼んできた」

響子は見ていられなくなって目を逸らす。

几帳面な優也でも、なかなか片付ける暇がないのだろう。

部屋の中は、今日子が生きていた時よりも散らかっているように見える。

響子が部屋を見渡していると、優也は急に激しい咳をし始めた。

「(優也…)」

⏰:10/04/04 21:46 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#294 [我輩は匿名である]
“私”が生きていれば、「一緒に闘おう」と言えるのに。

今の“私”は、ただ背中をさすってあげる事すら出来ない…。

「(私は…何のために優也と一緒になったの…?

これじゃ優也に悲しい思いをさせて、辛い目に合わせただけじゃない…。

…私は…優也に何もしてあげられなかった…)」

優也は、“私”の事をどう思っているのだろう。

響子の視界が、涙で滲んで見えにくくなる。

涙を拭こうにも、両手が塞がっていて出来ない。

響子は何も考えず、ただ泣かないようにと我慢する。

⏰:10/04/04 21:47 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#295 [我輩は匿名である]
まだ続きがあるから、ここで泣くわけにはいかない。そう思った。

その間にもどんどん時間は流れる。

優也は、最初は普通に会社に行っては帰ってきて寝る、という生活を繰り返していたが、

少しずつ痩せてきて、仕事も休みがちになった。

元看護師だった今日子。

その記憶を持つ響子は、優也の余命が、半年も無い事を悟る。

優也はやがて腰を押さえながら歩くようになり、家から出る事も少なくなってきた。

2ヶ月ほど経った頃にはもう、寝室からほとんど出られないようになってしまった。

響子はただ、それをじっと見つめる。しかし、ここまで来てもまだ、彼の顔がよく見えない。

⏰:10/04/04 21:47 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#296 [我輩は匿名である]
『俺が本気で愛するのは一生でただ1人、長谷部今日子だけだ!』

薫の言葉が頭をよぎる。

「(…月城くん…もしかしたら…)」

響子が考えていると、優也がよろよろと立ち上がった。

息苦しそうに胸を押さえながら、壁づたいにどこかに向かう。

響子は「どうしたんだろう?」と、後を付いていく。

赤ちゃんはまだ眠っている。

「(この子、起きるのかな…?)」

そんな事を思っていると、リビングに入ったところで優也がふらっと座り込んだ。

⏰:10/04/04 22:33 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#297 [我輩は匿名である]
だいぶ呼吸が荒くなっている。

それでも優也は、這うようにして前へ進む。

咳をしてふらつきながらも、優也はリビングの窓のところまでたどり着いた。

窓の傍には、最近に見つめていた今日子の写真立てが置いてある。

神経にまで癌が転移し、目が開きにくくなったのか、優也は手探りで写真を探す。

そして、写真を見つけると、それを手に窓にもたれ掛かるように座り込んだ。

「(…!)」

響子は愕然とする。

息を切らして、こちらを向いて座り込んでいる優也。

痩せ細って目にはくまが出来ているが、その顔は間違いなく、薫だった。

⏰:10/04/04 23:11 📱:N08A3 🆔:TU64Ti3w


#298 [ま]
うほ(´・ω・`)

⏰:10/04/04 23:32 📱:P04A 🆔:HTCg2SGA


#299 [我輩は匿名である]
「(やっぱり…)」

今まで、いつも彼は私の傍にいて笑ってくれた。

どうなったかわからないけど、さっき階段から落ちる時も、私をかばってくれた…。

私が“長谷部今日子”だと知っていても、彼は自分から全てを話す事は拒んだ。

言いたくても、自分の事を知ってほしくても、彼はずっと我慢してきた。

一緒にいて、辛くて仕方なかっただろう。

響子の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

それが赤ちゃんの顔に落ちて、赤ちゃんが目を覚ました。

「(あ…ごめんね、起こしちゃったね)」

響子は、顔の辺りで手を動かしている赤ちゃんの背中をトントンとたたいてあやす。

⏰:10/04/05 08:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#300 [我輩は匿名である]
「…今日子…」

目を閉じたまま、優也が今日子の名前を呼ぶ。

もうほとんど声が枯れて出ていないため、響子は息を殺して耳を傾ける。

「……やっと…そっちに…行けるみ…いだ…」

優也は少し笑う。

「ごめ…な…、俺が…あんな事…言わなければ…お前たち2…とも…死ぬ事…なかったのに…」

優也はあの朝、急に「晩ご飯を作る」と言った事をずっと後悔していた。

「……俺…結局…何にも…し…やれなかったな…。

お前を…ただ疲れさせた…だけだった…。

……怒ってる…かな…」

優也は言いながら、大きく咳をする。

⏰:10/04/05 08:50 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


#301 [我輩は匿名である]
口に押しつけていた服の袖が血で汚れる。

「……お前はもう…俺の事…嫌いに…なったかも…しれないな…。

でも…俺は…もし人が…生まれ変わるのなら……もう1度……お前を探すよ……」

響子にはもう、優也の顔がはっきり見えなくなっていた。

「嫌いになるわけないよ、大好きだよ」と言って、今すぐでも抱き締めたい。

そう思うと、もう涙が止まらない。

⏰:10/04/05 09:26 📱:N08A3 🆔:W6VDeUwI


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