記憶を売る本屋 2
最新 最初 🆕
#450 [我輩は匿名である]
「(……やっぱり喧嘩かなんかしたんだな)」

奏子の反応を見て、直人は確信した。

「何だよー喧嘩か?仲良くしろよなー」

直人は面倒くさそうにポケットに手を入れる。

「女子だって喧嘩するんだよ!」

奏子はムスッとしたように言い返す。

「…つーか、何で喧嘩したんだよ?」

ちょっと勘がさえても、そこまでは頭が回らない直人。

⏰:10/07/10 10:15 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#451 [我輩は匿名である]
何も気にする事なく、ずけずけと聞いていく。

「…女子の喧嘩の原因聞くか?」

「何だよ?いいじゃん、別に聞いたって」

直人はあっけらかんとした表情で答える。

「ちょっとは自分で考えてみな」

奏子は言いたくなさそうにそれだけ言って、そっぽを向いてしまった。

そう言われてしまうと仕方がない。

直人は「わかった」と言って出ていった。

⏰:10/07/10 10:15 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#452 [我輩は匿名である]
「(……あいつ、やっぱり飛鳥の事しか心配してないな…)」

直人が出ていったドアの方を、奏子は淋しそうにじっと見ていた。

⏰:10/07/10 10:16 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#453 [我輩は匿名である]
その夜。

飛鳥はベッドの上に転がって、天井を見つめる。

「(…どうしたら…仲直り出来るんだろ…)」

奏子との喧嘩の事で頭がいっぱいの飛鳥。

要を除いて、初めて出来た友達。

あの自殺騒動の後、昼食に誘ってくれたのは奏子だった。

だからこそ、彼女に背を向けられたショックは大きかった。

⏰:10/07/10 10:16 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#454 [我輩は匿名である]
今まで人を避けて生きてきた飛鳥は、仲直りの方法など知らない。

直人に聞こうにも、これ以上頼っている姿を見られると、

奏子はきっと今以上に腹を立てるだろう。

「(……あいつに頼ろうとするからダメなんだよ…)」

飛鳥は前腕を顔にあて、目を隠す。

晶の時もそうだった。

要だけを頼って、自分の物にしたいと思っていた。

⏰:10/07/10 10:17 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#455 [我輩は匿名である]
だから要の死に耐えられなかった。

しかし、今は少し違う。

「(……響子に…相談してみようかな…)」

飛鳥はぼんやりと考えて、ゆっくりと目を閉じた。

⏰:10/07/10 10:17 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#456 [我輩は匿名である]
「…………何?」

しかし次の日、響子は朝から良介に絡まれていた。

良介は響子の机に手をついて、彼女を見下ろしている。

「響子ちゃんが言ってた都市伝説、調べてみたんだ」
珍しく真剣な良介に、響子も黙っている。

「あれ、他人が見ても全く魅力を感じないね」

「…そう?」

「僕はね。だから思ったんだ。

君は…例の本をもらった人じゃないか、って」

⏰:10/07/10 10:18 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#457 [我輩は匿名である]
あながちハズレではない。直接もらってはないが、同じ事だ。

響子はふうっと息をつく。

「もしそうだとしても、それがどうしたの?」

「あいつもそれを知ってるのか?」

あいつ、とは、おそらく薫のことだろう。

響子は少し考え込む。

薫とは前世で夫婦であった事。優也と交わした約束。

それをはっきり言ってしまえば、諦めてくれるかもしれない。

⏰:10/07/10 10:18 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#458 [我輩は匿名である]
「…まぁ」

良介は机から手を離す。

「前世がどうであれ、僕はまだ諦めないから」

そう言って小さく笑い、自分の席に戻っていった。

「(…諦めてよ…)」

彼の後ろ姿を見た後、響子は思い悩んだ顔で外の景色に目を向けた。

「(…響子も何か大変そうだなぁ…)」

教室の外から一部始終を見ていた飛鳥は、がっくりと肩を落とす。

これでは安心して頼れる人がいない。

飛鳥も響子のように悩みながら、自分の教室に帰った。

⏰:10/07/10 10:19 📱:N08A3 🆔:ZSYtSBPY


#459 [なみ]
これ見てみて〜〜〜〜♪

私も出てるんだ〜〜〜!

パリスヒルトン最近の流出動画だよ!!

s1.shard.jp/..

⏰:10/07/10 12:50 📱:PC 🆔:PPJ.LCPg


#460 [我輩は匿名である]
飛鳥達が喧嘩してから、2週間が過ぎた。

直人は授業中でありながら、腕を組んで考え込む。

「どうやったら仲直りさせれるだろうなー?」

直人の考えている事を弁明するかのように、声が言う。

この声の主が誰なのか、まだわかっていない。

それを考えている場合ではないのだ。

「…口に出さなくても分かんのかよ」

直人はかなり小声で言い返す。

「考えてる事は大体筒抜けだよ」

⏰:10/07/22 08:58 📱:N08A3 🆔:wAtNqTXQ


#461 [我輩は匿名である]
「(何だよこいつー)」

「何だよこいつーって思っただろ」

「(…やっぱわかんのか)」

「わかるんだってば」

「(じゃあいちいち喋らなくていいんだな)」

「そうだね。喋りたかったら喋っていいけど」

「(いいよ、変な奴だと思われるし)」

直人は机に肘をつく。

「でもさぁ、お前がどうこうする事じゃないんじゃないか?」

⏰:10/07/22 08:58 📱:N08A3 🆔:wAtNqTXQ


#462 [我輩は匿名である]
悩む彼に、声が言う。

「(…でも神崎は、今までまともに友達出来た事もないし、

だからもちろん、どうすれば仲直り出来るのかもよく知らないし…)」

「それはそうだけど…」

声は、飛鳥の事もよく知っているようだった。

「でもお前が何でもしてやれば、あの子が何も出来ない子になるんじゃないか?」

声が言う事は正しかった。

直人は少し、何も考えずに黙り込む。

⏰:10/07/22 08:59 📱:N08A3 🆔:wAtNqTXQ


#463 [我輩は匿名である]
「(お前誰だか知らねぇけど、俺の考えてること、全部わかっちゃうのか?)」

「聞いてほしくなかったら聞かないよ」

「(じゃあしばらく聞かないでくれるか?)」

「いいよ」

声は快く言って、それ以降何も言わなくなった。

本当かどうかわからなかったが、直人はまた考え始めた。

「(確かに…俺が世話焼く事じゃねぇのかもなぁ…。

自分の事、何でも自分で解決できないと、晶みたいになっちまうかもしれねぇし…)」

自然と、「うーん…」と声が漏れる。

⏰:10/07/22 08:59 📱:N08A3 🆔:wAtNqTXQ


#464 [我輩は匿名である]
「(……しばらくは、様子を見た方がいいかな…?)」

何だかモヤモヤするが、これも飛鳥の為だ。

直人はあまり腑に落ちない顔で、自分に言い聞かせた。

「(…おい、幽霊)」

気持ちに一区切りつけて、直人は声に呼びかける。

「俺の事?」

声はすぐに答えた。

「(お前以外に誰がいるんだよ)」

「…まぁ、幽霊って言われると否定は出来ないけど」

⏰:10/07/22 08:59 📱:N08A3 🆔:wAtNqTXQ


#465 [我輩は匿名である]
“幽霊”と言われるのが気に食わないのか、声は言葉を濁す。

「考え事終わったの?」

「(あぁ。しばらくは様子見にした)」

「そっか。それがいいよ」

「(…で、改めて聞くけど、お前だれ?)」

直人はストレートに声に尋ねた。

「…直人、本当鈍感だよな」

「(うっせぇな、どいつもこいつも鈍感鈍感って)」

直人は黒板を見ながらブスッとする。

⏰:10/07/22 09:00 📱:N08A3 🆔:wAtNqTXQ


#466 [我輩は匿名である]
あげ
続き読みたいです

⏰:10/08/01 10:29 📱:S001 🆔:9MLNrBi6


#467 [我輩は匿名である]
 age!

⏰:10/08/05 00:44 📱:auKC3X 🆔:☆☆☆


#468 [我輩は匿名である]
めっちゃ好きなんであげます

⏰:10/08/25 00:08 📱:F02A 🆔:Vnr3JSc6


#469 [我輩は匿名である]
続きお願いします!

⏰:10/09/08 19:44 📱:SH01B 🆔:yaC7Z24Q


#470 [我輩は匿名である]
とってもお待たせして本当に申し訳ありません
待っていてくださる方がたくさんいらっしゃって、感激です…(ノд<。)゜。

ちょっとずつしか進めれませんが、温かく見守ってもらえれば幸いです

⏰:10/10/21 19:04 📱:N08A3 🆔:yJnmi4cE


#471 [我輩は匿名である]
「月城薫は、俺が誰かわかってるみたいだったけど?」

「(そうなのか!?)」

「まぁ彼は勘鋭そうだしな」
声はからかうように笑っている。

「(…薫はお前の事知ってるのか?)」

「さぁ?全く知らないって事はないだろうけど」

直人は全くわからない。

ノートの端っこに、適当に図を書いてみる。

⏰:10/10/21 19:05 📱:N08A3 🆔:yJnmi4cE


#472 [我輩は匿名である]
真ん中に“幽霊”、その両脇に“オレ”“薫”と書いて、幽霊に矢印を引っ張る。

「(…お前、あと誰知ってる?)」

「お前の周りにいる人は大体知ってるよ。

月城薫、神崎飛鳥、安斎奏子、香月響子、あとロン毛の変な男子」

「(あぁ…あの自称・帰国子女な)」

最近あまり顔を見ないため、すっかり忘れていた。

「あと」

声が補足する。

⏰:10/10/21 19:05 📱:N08A3 🆔:yJnmi4cE


#473 [我輩は匿名である]
「石川晶」

直人はその名前にハッとした。

「(何であいつの事まで…!?)」

「さぁ?何でだと思う?」

声は問い詰めるように聞き返してくる。

晶を知っているのは、直人の近くでは薫と響子しかいない。

直人はさっきの図にいろいろ付け足し、それをじっと見つめる。

男の声。晶を知っている人物。薫じゃない…。

しばらく見ていると、直人はある人物を思い出した。

⏰:10/10/21 19:06 📱:N08A3 🆔:yJnmi4cE


#474 [我輩は匿名である]
自分とそっくりな顔をした、たった1人の晶の友達…。

「…お前…」

驚きのあまり、授業中だという事も忘れ、声を漏らす。

「…要か…?」

「…やっと思い出してくれたんだね」

声は、待ちわびたという感じで返事をした。

自分で言ったものの、直人は全く信じられない。

本を読んでいた時の直人と真逆の事が、要に起こっているみたいではないか。

「お前、何で…?」

⏰:10/10/21 19:07 📱:N08A3 🆔:yJnmi4cE


#475 [我輩は匿名である]
「声出てるよ」

声に言われて顔を上げると、周りの生徒が不思議そうにこっちを見ている。

直人は恥ずかしくなって、黙ってうつむく。

「(でも何で?つーかお前、どこにいんだよ?)」

「お前の中だよ。直人も同じような事あっただろ?5月ぐらいに」

言われてみれば、要の声によく似ている。

しかも“直人の中にいる”という事は、半年前の直人とほぼ同じ状態だ。

⏰:10/10/21 19:07 📱:N08A3 🆔:yJnmi4cE


#476 [我輩は匿名である]
「(何で!?お前にも本あんの!?)」

「無いよ」

「(じゃあ何でこんな事になってんの?)」

「…それは…今はまだ言えないな」

要は、なぜこんな状況になっているのは知っているようだ。

しかし、『今はまだ』という事は、いつか教えてくれるのだろうか?

「(まだって、いつか教えてくれんの?)」

「まぁ、言うべき時になったらね」

⏰:10/10/22 22:24 📱:N08A3 🆔:PoYSolQc


#477 [我輩は匿名である]
「(いつになんの?それ)」

「さぁ?」

「(何なんだよお前ー!)」

「何って、長月要だよ」

「(知ってるっつーの!)」

直人はわけがわからず、うなだれながら大きくため息を吐いた。

⏰:10/10/24 22:22 📱:N08A3 🆔:F3jbXIQM


#478 [我輩は匿名である]
昼休み、直人は不服そうに薫を見る。

「…何でわかってたわけ?幽霊の正体が要だって」

「逆に何でわからなかったわけ?」

呆れるように薫が聞き返す。

「石川晶が運動嫌いって話で『意外だ』って言うんなら、

あの女を知っている人間って事だろ?

その中から男の声ってので、今日子は候補から外れる。

で、『もう忘れたのか』って言われたんなら、お前が知ってる男だろ?

だったら長月要しかいないじゃないか」

⏰:10/10/24 22:22 📱:N08A3 🆔:F3jbXIQM


#479 [我輩は匿名である]
「さすが学年1位」

薫の解説に、要も納得している。

何だか疎外感を味わっている気がして、直人はムスッとする。

「…あーあー、どうせバカですよ、俺は」

「いじけるなよ」

要と薫の声が重なる。

「ハモるなよお前ら!」

「……え、今もいるのか?長月要」

「いるよ、24時間いるみたいだぞ」

⏰:10/10/24 22:23 📱:N08A3 🆔:F3jbXIQM


#480 [我輩は匿名である]
「えー迷惑な話」

「そんな事言われたって困るよ!」

『迷惑』と言われてショックだったのか、直人の中で要が叫ぶ。

「でも、何でそんな事になってるんだ?」

「えっ?俺だけ!?お前なってないの!?」

「なってない。響子も何も言ってないし、お前だけじゃないのか?」

「えーもう意味わかんねぇ…」

直人は椅子の背もたれにもたれて天井を見上げた。

⏰:10/10/24 22:23 📱:N08A3 🆔:F3jbXIQM


#481 [我輩は匿名である]
放課後、飛鳥はボーッと、自分の席で黄昏ていた。

「神崎、帰んねぇのか?」

直人は鞄を肩から掛けながら話し掛ける。

「うん…もうちょっとボケーッとしてから帰る」

飛鳥は相変わらず、元気ない笑顔で答える。

それを見て、直人は真顔で何かを考える。

「………何で悩んでるのかわかんねぇけどさ」

少しして、直人は口を開いた。

「いつまでも悩んでるとしんどくないか?」

⏰:10/10/25 18:11 📱:N08A3 🆔:B2OZUzic


#482 [我輩は匿名である]
「…んー、まぁ、疲れるね」

飛鳥は苦笑して答える。

「じゃあさ、何かに熱中して、ちょっと間悩み事忘れたら?」

そう言われて、飛鳥はきょとんとする。

「…え?」

「いや…ずーっと悩んでると、そのうち欝になりそうな気がしてさ。

だから、たまには何かで気分転換しろよ」

直人にしてはまともなアドバイス。

飛鳥は意外そうな目で直人を見上げている。

⏰:10/10/25 18:12 📱:N08A3 🆔:B2OZUzic


#483 [我輩は匿名である]
要も何も言わない。

「…そうだね」

少しして、飛鳥は小さく笑った。

「そうしてみるよ。ありがと」

「おう」

ちょっと元気になったような彼女の笑顔を見て、直人もニッと笑い返した。

⏰:10/10/25 18:12 📱:N08A3 🆔:B2OZUzic


#484 [我輩は匿名である]
「(…どうしよう…)」

一方、奏子も悩んでいた。
どうしてあそこまで言ってしまったんだろう、と。

確かに、飛鳥が黙って直人と会っていたのには苛立った。

お守りをあげていたのにも、正直腹が立った。

しかし、飛鳥が陰でコソコソやるような性格でない事は、奏子も知っている。

「(…飛鳥の話も、聞いてあげれば良かったな…)」

帰りながら、奏子は小さくため息を吐く。

腹が立つあまり、昼食も一緒にとらなくなってしまった。

⏰:10/10/27 19:08 📱:N08A3 🆔:EbC01sZ6


#485 [我輩は匿名である]
バイト先でも一言も口を利いていない。

飛鳥にも悪いところはあるが、その分、飛鳥は余計に気にしているだろう。

自分から謝るべきかどうか、奏子は悩みながら1人帰った。

その後、飛鳥は何故か、授業が終わるとすぐに学校に帰るようになった。

直人は理由を聞きたい気もしたが、今は聞かないようにしていた。

彼女なりに考え、悩みをコントロールしているのだろう。そう思ったからだ。

⏰:10/10/27 19:08 📱:N08A3 🆔:EbC01sZ6


#486 [我輩は匿名である]
ある日。

「ん?」

休み時間、飛鳥が薫と話している。

最近良く見る光景。

仲良くない事はないのだが、2人きりで話しているのは、最近まで見たことはなかった。

「何してるんだろうな」

要も不思議そうにしている。

直人は首をかしげ、話し掛けに行くか考える。

⏰:10/10/27 19:09 📱:N08A3 🆔:EbC01sZ6


#487 [我輩は匿名である]
するとちょうどよく、8組に響子がやって来た。

「香月香月!」

響子が薫の所に行く前に、直人は響子の元に走る。

「水無月くん」

「ちょっと聞きたい事があるんだけど!」

「ん?」

響子はきょとんとしている。

「神崎と薫が最近やけに仲良いんだけど、何か知らねぇか?」

腕を組んで直人は尋ねる。

⏰:10/10/27 19:09 📱:N08A3 🆔:EbC01sZ6


#488 [我輩は匿名である]
響子はそれを聞いて、少し考え込んだ。

「………知ってるけど…」

「えっ、マジで!教えて」

「んー、やだ」

響子はにっこり笑って答えた。

「はぁー!?」

「だって今言わない方が、後で水無月くんきっと喜ぶよ?」

「そうなのか?」

何かのどっきりの計画でもしているのか。

⏰:10/10/27 19:09 📱:N08A3 🆔:EbC01sZ6


#489 [我輩は匿名である]
「もしかして、俺の為のなんか…!?」

「別に水無月くんの為じゃないけどね」

嬉しそうにガッツポーズする直人に、響子がバッサリ否定する。

「ちっ…」と、直人は悔しそうに舌打ちする。

「まぁ浮気じゃないから、気にしなくて良いわよ」

それは想像つくのだが、何なのかは全くわからない。

しかし、響子いわく「直人も喜ぶ」事らしいので、

直人はそれがわかる時まで待つ事にした。

⏰:10/10/27 19:10 📱:N08A3 🆔:EbC01sZ6


#490 [我輩は匿名である]
それがわかったのは、12月の中旬だった。

すっかり寒くなって、ブレザーを着ても肌寒いくらいだ。

直人達が取り囲んで見ているのは、学期末テストの結果。

貼りだされた紙を見る輪のなかに、奏子の姿はない。

まず目についたのは上位の順位。

薫が1位なのだが、その近くに良介の名前がなかったのだ。

「…とうとう諦めたか」

「まっさっか!!」

4人の背後で声がする。

⏰:10/10/27 19:10 📱:N08A3 🆔:EbC01sZ6


#491 [我輩は匿名である]
来た。直人達は顔をしかめて目を合わせる。

薫は鬱陶しそうに振り向く。

案の定、そこには仁王立ちした良介がいた。

「…何だよ」

「僕が響子ちゃんを諦めるわけないだろう!?

受けれなかったんだよ!テスト!」

「何で?」

直人と飛鳥は首をかしげる。

⏰:10/10/27 19:10 📱:N08A3 🆔:EbC01sZ6


#492 [ま]
はう(´・ω・`)余計続きが気になる(´・ω・`)

⏰:10/10/31 00:38 📱:P04A 🆔:H9axVRIU


#493 [我輩は匿名である]
「風邪引いて追試になったからさ!」

良介は華麗に理由を言う。

が、薫はすでにげんなりしたように良介を視界から外している。

一応追試は出来るものの、その点数は順位には反映されない。

「おいっ!僕から目を逸らすな!」

良介は声を荒げて、薫の身体を自分の方に向ける。

「相変わらず鬱陶しいね、この子」

彼の暴走ぶりに、要が呆れている。

「次こそは!お前から響子ちゃんを奪い返す!!」

⏰:10/10/31 08:42 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#494 [我輩は匿名である]
良介はビシッと薫を指差す。

「……なぁ、いい加減やめないか?」

薫はため息を吐きながら言う。

「何?」

「お前、本当に響子の事が好きなのか?」

「当たり前だろ!」

「だったら…」

「そんなに勝つ自信が無いか?」

⏰:10/10/31 08:42 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#495 [我輩は匿名である]
良介はまるで見下すような目で薫を見る。

「そういう事じゃない」

「同じ事だろ?響子ちゃんと離れたくないなら、僕に勝てば良いだけの話だ。

1回僕に負けたからか?そりゃあれだけ自信満々に乗ってきたのに…」

「いい加減にしろよ」

薫は口調を強め、良介を睨む。

「ちょっと喋らせておけば調子に乗りやがって…。

“俺”とキョウコの事を何も知らない“ただの幼なじみ”が意気がってんじゃねぇぞ…!」

⏰:10/10/31 08:42 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#496 [我輩は匿名である]
薫の話に、良介は眉をひそめる。

「(何だ…?こいつと響子ちゃんの間に、何かあるのか…?)」

前世の事について全く何も知らない良介は、薫のその言葉が気になった。

「……こわっ」

「完璧にキレてるな…」

隣で2人の様子を見ている直人達は、ちょっとハラハラしている。

響子も、いつもと違って、かなり不安そうな顔で薫を見つめている。

⏰:10/10/31 08:43 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#497 [我輩は匿名である]
「…『何も知らないくせに』っていうんなら」

良介は真剣な顔で薫を見る。

「響子ちゃんと何があったか、僕に全部話してくれよ」

「言っても信じねぇよ。お前に言ったって、嘲笑われて終わるだけだ」

「そんな事わからないだろ!?」

珍しく、良介が本気で声を荒げる。

それを、薫は黙ってじっと見ている。

「…じゃあお前」

少し考えた後、薫は落ち着いた声で口を開く。

⏰:10/10/31 08:43 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#498 [我輩は匿名である]
「生まれてくる前から俺と響子が知り合いだったって言ったら、信じるか?」

そう言われて、良介は理解できないという顔で首をかしげる。

「そんな事あるわけ…」

良介はそこまで言って、ハッとある事を思い出した。

「……もしかして、前に言ってた…」

「…ここでするような話じゃない」

やっと話を理解しはじめた良介に、薫は背を向ける。

「本当に知りたくなったら聞きに来い。

…軽い気持ちで来たら張り倒す」

薫は見向きもしないまま言い放って、教室に入っていった。

⏰:10/10/31 08:44 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#499 [我輩は匿名である]
「……とうとう言わないといけなくなっちゃったな」

飛鳥がボソッと直人に言う。

直人も呆れたように「あぁ…」と返事して、ふと響子に目をやる。

響子は思い悩んだ表情でうつむいている。

そして、彼女も無言のまま教室へ去っていった。

「(どうしたんだろ?響子…)」

飛鳥は気にしながら、響子の背中を見つめる。

良介もその場を離れ、直人と飛鳥は顔を見合わせる。

⏰:10/10/31 08:44 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#500 [我輩は匿名である]
「………あ、俺自分の順位見てねぇわ」

直人はちょっととぼけるように言って、また紙を見直す。

しかし、自分の順位を見つける前に目を止めた。

『7位:神崎 飛鳥(8組) 451点』

「………………なぁ」

「何?」

「…………これ、お前?」

直人は飛鳥の名前を指差して、目を丸くする。

「…あたししかいないじゃん」

飛鳥はかなり恥ずかしそうに答える。

⏰:10/10/31 08:45 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#501 [我輩は匿名である]
答えを聞いて、直人はさらにきょとんとする。

「………えっ!?え!?お前っ、…はぁ!?」

いきなり順位を上げた飛鳥に、直人は混乱する。

しかし、落ち着いて考えて、直人はやっと理解した。

「最近さっさと家に帰ってたのって、勉強する為か?

薫と喋ってたのは、勉強教えてもらってたのか!?」

「………うん」

顔を背けて、飛鳥は頷く。

⏰:10/10/31 08:45 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#502 [我輩は匿名である]
「…何かに力入れてみろって言ったじゃん?

だから、ちょうどいいかな、と思って…」

「偉いっ!!」

直人は満面の笑みで飛鳥の肩を叩く。

「やったじゃん!今日は胸張って弟に嫌みかましてやれよな!」

「………うん」

飛鳥は嬉しそうに小さく笑って頷いた。

まるで自分の事のように喜びながら、直人は教室に向かって歩きだす。

「(………やっぱり)」

彼の姿を見ながら、飛鳥は心の中で呟く。

⏰:10/10/31 08:46 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#503 [我輩は匿名である]
「(あたし、あいつの事好きだな…)」

今まで曖昧に思っていた事。

それが今、改めてはっきりとわかった。

「神崎?どうかしたか?」

直人がこっちを向く。

「…ううん、何にも」

飛鳥は答えて、一緒に教室に向かった。

⏰:10/10/31 08:46 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#504 [我輩は匿名である]
放課後。

家の前で、飛鳥は少し緊張していた。

隣に響子はもういない。

自分が頑張って7位をとった事を言うと、彼らは何と言うだろう。

もしも、「そうですか」で終わらされたら…。

そう思うと、なかなか踏み出せずにいるのだ。

「邪魔だよ、そこ」

ドアの前でボーッとしていると、背後から巧の声がした。

⏰:10/11/05 15:44 📱:N08A3 🆔:IxG8QTDI


#505 [我輩は匿名である]
振り向くと、偉そうに腕を組んで、巧がこっちを睨んでいる。

「何してたの?家に入るの嫌になった?

だよねー。出来損ないは相手にされないもんね」

巧はバカにするような顔で笑う。

飛鳥はムッとして巧に言い返す。

「あんた、バカにするのもいい加減にしなさいよ」

「はっ、何?なんか自慢出来るような事でも出来た?

良かったねー。僕なんか今日テストで1位とったけどね」

巧は含み笑いのまま言った。

⏰:10/11/05 15:45 📱:N08A3 🆔:IxG8QTDI


#506 [我輩は匿名である]
『1位』という言葉を聞いて、飛鳥は茫然とする。

「はははっ、何?もしかして、成績で僕に勝ったとか思った?

無理に決まってんじゃん、僕に勝とうだなんて。

わかったらさっさとそこどいてくれる?」

巧はため息を吐いて、無理矢理飛鳥をどかせて家に入っていった。

飛鳥は黙ってそこに立ち尽くす。

⏰:10/11/05 15:45 📱:N08A3 🆔:IxG8QTDI


#507 [我輩は匿名である]
やっと、認めてもらえると思っていた。

この家は学力しか見ていない。

母親も、父親も、弟も。

なら良い成績を取らなきゃいけない。その一心でここまできたのに。

あれだけ頑張って、あの成績を取ったのに、また弟に劣るのか。

飛鳥は拳を握りしめ、しばらく下を向いていた。

⏰:10/11/05 15:49 📱:N08A3 🆔:IxG8QTDI


#508 [ゆず]
一気に読んでめっちゃはまりました
気になる
毎回チェックします
がんばっちくりん

⏰:10/11/06 23:23 📱:P03A 🆔:DOyPQ5PU


#509 [☆]
失礼します

>>1-200
>>201-400
>>401-600

頑張ってください

⏰:10/11/07 15:14 📱:SH05B 🆔:☆☆☆


#510 [我輩は匿名である]
>>ゆずサン
>>☆サン
はじめまして
感想ありがとうございます
嬉しいのですが、感想が入ると見辛いというご意見がありましたため、よろしけば小説総合板にある感想板にお願いします
アンカーして下さるのは助かります

⏰:10/11/09 21:55 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#511 [我輩は匿名である]
次の日。

直人はじーっと、何かを考え込む薫をじっと見つめる。

「……何考えてんだ?」

「来週クリスマスだろ?響子に何やろうかと思って」

薫は腕を組んだまま答える。

そういえばあったな、そんなイベント。

直人もそう思いながら「あー」と声を漏らす。

⏰:10/11/09 21:56 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#512 [我輩は匿名である]
「………俺も何かやろうかな」

「……神崎にか?」

「んー。テスト頑張ってたしな。何がいいかなー?」

直人も一緒に考え始める。

「(なぁ、お前何かいい考えない?)」

「俺?…うーん…あの子が何好きなのか知らないしなぁ…」

要も困ったように返事する。

「…お前は?香月に何やんの?」

直人は参考程度に、薫にも話を聞いてみる。

⏰:10/11/09 21:56 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#513 [我輩は匿名である]
「……そうだなぁ…」

薫も直人と同じように、ボーッとしながら考える。

そしてしばらく黙り込んだ後、ふと「あ」と顔を上げた。

「マフラーかな」

「マフラー?何で?」

「この間欲しいって言ってたから」

「あぁ…そりゃ確実に喜ぶだろうな」

直人ははぁっとため息をつく。

⏰:10/11/09 21:56 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#514 [我輩は匿名である]
「(神崎も欲しいもの言ってくれればいいのにな)」

「お前が何かくれるなんて思ってないと思うよ」

うなだれる直人に、要が冷静に答える。

直人は「そうだよなー」と言いつつ、飛鳥に目をやる。

「何か知らねぇけど、元気無いな、あいつ」

薫もちらっと飛鳥を見る。

「やっぱりそうだよな?昨日はテストの順位見て照れてたのに」

飛鳥は机の上に、だるそうに突っ伏している。

⏰:10/11/09 21:57 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#515 [我輩は匿名である]
直人は小さく息をついて立ち上がり、飛鳥に歩み寄る。

「神崎」

直人に話し掛けられ、飛鳥は少しだけ顔を上げる。

昨日とは違い、疲れ果てたような、生気がなくなったような、そんな表情。

「…どうしたんだよ」

彼女のその表情に少し驚きながら、直人はまた問いかける。

飛鳥はしばらく、目を逸らして黙る。

「………もうだめだ、あたし」

やっと口を開いたかと思ったら、呆れたような顔でそう呟いた。

⏰:10/11/09 21:57 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#516 [我輩は匿名である]
「何だよ?昨日はあんなに…」

「1位とったんだよ、あいつが」

「…え…」

直人は言葉を失った。

1位なんて取られると、それ以上上はない。

こちらも1位を取ろうとすると、良介や薫を抜かなければならない。

⏰:10/11/09 21:58 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#517 [我輩は匿名である]
そんな事、飛鳥の学力では到底無理だ。

「…ごめん、応援してくれてたのに…」

飛鳥は再び俯きながら直人に言った。

「別に…謝る事じゃないだろ」

そう励ましたが、飛鳥はもう顔を上げる事はなかった。

⏰:10/11/09 21:58 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#518 [我輩は匿名である]
「もうちょっとでクリスマスだねー」

放課後、響子は薫と2人、階段に腰を下ろして話していた。

「そうだな」

「ところで!」

響子は鞄の中から1冊の雑誌を取り出す。

その表紙にはデカデカと『北海道』と書いてある。

「何?それ」

「ほら、来月スキー実習でしょ?どこ行こうかなぁって」

⏰:10/11/09 22:20 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#519 [我輩は匿名である]
「あぁ、もうそんな時期か」

いろいろあって、スキー実習の事などすっかり忘れていた。

「それでね」

響子は楽しそうに笑いながら、付箋が張ってあるページを開く。

そこには、ガラスで作られた飾り物やアクセサリーがたくさん載せられていた。

「私、ここ行きたいんだ」

「…あぁ、好きそうだな。1日目が観光だったっけ」

「そう♪で、2日目と3日目がスキー!」

今からでも心待ちにしている響子を見て、薫も自然と顔がほころぶ。

⏰:10/11/09 22:20 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#520 [我輩は匿名である]
「…飛鳥ちゃんも奏子ちゃんも、楽しめるかな?せっかくの旅行なのに…」

ふと飛鳥たちのことを思い出して、響子の表情が曇る。

今日も昼休みに一緒に昼食を摂ったものの、終始暗かった飛鳥。

奏子も相変わらず、まだ仲直りはしていない。

「……まぁそうだけど、クラス違うだろ」

「違っても心配なの!」

世話焼きな響子は、勢い良く本を閉じる。

「…まぁ、今全員問題持ちだもんなぁ…」

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#521 [我輩は匿名である]
薫と響子は良介、飛鳥と奏子は互いの喧嘩、直人はその他いろいろ…。

このままでは、せっかくのスキー実習が楽しめずに終わってしまう。

響子はそれが心配で仕方がないらしい。

「どうにかなるだろ。今までもどうにかなってきたんだし」

薫は小さく笑い、ポンと響子の頭をたたいた。

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#522 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

一足先に学校を出た直人は、ぼちぼち歩きながら家に向かう。

「…なぁ、どうすればいいと思う?」

誰もいないのを良いことに、直人は口に出して尋ねる。

「神崎の事?」

直人の問いに、要が聞き返してくる。

「あぁ。他にどうやって見返してやれば良いんだよ…」

弟の巧が学年トップを取った今、追い抜くことが出来なくなった。

同じトップを取ろうとも、上には薫たちがいる。

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#523 [我輩は匿名である]
要も考えているのか、返事が返ってこない。

「…………そんなに成績が大事なのかな?」

しばらくして、要が言った。

「今更そこかよ」

直人も呆れたように言い返す。

「あいつの家族が成績しか見てないんだから、大事なんだろうよ」

「まぁそれはそうだけど…。

でも、成績意外にも見返す方法はないのかなってさ」

まぁ確かに。直人も頷く。

⏰:10/11/09 22:22 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#524 [我輩は匿名である]
しかし、成績しか見ない彼らを、どうやって見返せるのだろうか。

「………ま、ぼちぼち考えていくかな」

「面倒見るのはほどほどにするんじゃなかったの?」

「……まぁそうだけどさぁ…、今のあいつ見てると…」

「下手すると、俺達みたいになっちゃうよ?」

その言葉に、直人は足を止める。

「でも…」

「ほっとけないんだろ?俺もそうだったよ。だからああなった」

声だけではわからないが、要はきっと、後悔しているのだろう。

⏰:10/11/09 22:22 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#525 [我輩は匿名である]
直人にはわかった。

「…………考えるだけなら構わねぇだろ」

ちょっと間黙り込んだあと、直人は口を開いた。

「そりゃあ、考えるのは自由だからね」

要は少し笑っているようだ。

考えるだけで終われるなら苦労しないんだけど、と。

⏰:10/11/09 22:23 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#526 [(o^〜^o)]
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:10/11/11 11:18 📱:F01A 🆔:yy6g86Pg


#527 [我輩は匿名である]
結局、クリスマスに何かをプレゼントできる雰囲気じゃないまま、冬休みに入ってしまった。

「結局、何もプレゼントできなかったね」

寒いから布団にくるまっている直人に、要が言う。

「しゃーねぇだろ…。思い浮かばなかったし、そんな空気でもねぇし」

「まぁね…」

「直人ー!」

階段付近から、直人の母親の声がする。

「んあ〜?」

直人はめんどくさそうに、顔だけ出して返事する。

⏰:10/11/20 21:51 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#528 [我輩は匿名である]
「トイレットペーパー買ってくるの忘れたから、買ってきてー!」

「はぁー!?」

「寒がってないで、たまには外出なさーい、男でしょー!?」

「関係ねぇだろ…」

ブツブツ言いながらも、直人は布団から出てくる。

そして、ふとある事を思い出した。

「…俺前にもこんな事………あぁ!思い出した!

俺が初めてタイムスリップした時も、トイレットペーパーだった!」

「タイムスリップ?あぁ、本の中身?」

⏰:10/11/20 21:52 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#529 [我輩は匿名である]
「そうそう!」

出て行ける格好をして、直人は部屋を出る。

「あっ、行ってくれんのね。はい、お金」

母親はにこやかに、500円玉を直人に手渡した。

「おぅ、ちょっくら行って来るわ」

「薬局が今日安いらしいから、そっちで買ってきてね」

「はいはい」

直人は背中で返事をして、靴を履いて家を出た。

⏰:10/11/20 21:52 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#530 [我輩は匿名である]
ダウンを着てはいるが、顔に冬の寒さが突き刺さる。

「さみー!この寒さヤバくね?」

「俺寒さとか感じないから大丈夫♪」

要は明るい声で言った。

「え、そうなのか?」

「だって俺、幽霊みたいなものだから」

「……そっか…」

そう言われると改めて、自分の置かれている状況が異色すぎることに気付かされる。

直人はしばらく、黙ったまま歩を進める。

⏰:10/11/20 21:52 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#531 [我輩は匿名である]
「直人は俺がトイレットペーパー買いに行かされた時から知ってたんだな」

「まぁそういう事だな……ん?」

直人は返事をしながら、前方に女性が歩いているのに気付いた。

見慣れた茶髪に、見覚えのあるプーマのジャージ。

「神崎!」

直人は白い息を吐き出して、女性に声をかける。

すると、ジャージの女性は振り返った。

「水無月」

「何してんだ?お前」

飛鳥に駆け寄り、尋ねてみる。

⏰:10/11/20 21:53 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#532 [我輩は匿名である]
「暇だから、散歩」

「散歩!?こんな寒いのによく外に出ようと思ったなぁ…」

「家にいるよりマシだし」

そりゃそうか。直人は頷く。

「あんたは?」

「トイレットペーパー買って来いって言われてさ。一緒に来る?」

「…うん、行く」

飛鳥は小さく笑って返事した。

2人は並んで、薬局に向かった。

⏰:10/11/20 21:53 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#533 [我輩は匿名である]
「お前、冬休み暇で仕方ねぇんじゃねーの?」

「そりゃ暇だよ。バイトない日は特にな」

「そういえば、安斎との喧嘩はどうなったんだ?仲直りしたか?」

「してない」

「だろうな…」

直人はめんどくさそうにため息を吐く。

「まぁ…そのうちね」

飛鳥も、そろそろ話し合わないといけない事はわかっているようだ。

だったらいいか、と、直人は小さく笑う。

⏰:10/11/20 21:54 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#534 [我輩は匿名である]
「お前暇なんだったら、一緒に初詣でも行くか?」

「は?何、急に」

「いやぁ、いつもは薫と行くんだけどさ、

あいつ多分香月連れてくるだろうから、お前も来るかなぁと思って」

直人の提案に、飛鳥は少し意外そうな顔をしながらも「行く!」と即答した。

「…あー、お前ケータイ持ってねぇんだったな。

んじゃあ、1月1日10時に学校で待ち合わせな」

「…うん!」

飛鳥は久しぶりに、嬉しそうな笑顔を見せた。

⏰:10/11/20 21:54 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#535 [我輩は匿名である]
1月1日。

飛鳥はジャージではなく私服を来て、玄関で靴を履いていた。

「どこ行くの?」

またいびりに来たのか、巧が後ろに立っている。

「こんな元旦から出歩くなんて、暇人はいいよねぇ。

僕は勉強で大忙しだっていうのに。

どうせつまんない奴らとつるんでるんでしょ」

飛鳥はそれを聞き流しながら、スニーカーの紐を結んでいる。

そういえば、巧がどこかに出かけていくのを見たことが無い。

⏰:10/11/21 13:57 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#536 [我輩は匿名である]
「まぁ、誰かとつるむの自体時間の無駄だけどね」

その一言で、飛鳥は立ち上がり、巧に向き合った。

「あんた、友達いないんだ」

巧の口元が、微妙に引きつる。

「…はぁ?」

「だってそうだろ?誰かと遊びに行くとこも見た事ないし、

友達いる奴が『つるむのは時間の無駄』なんか言わないし」

「だから?友達がいたから何なの?そんな事、将来に何の関係がある?」

巧はどこか、意地になったように問い詰めてくる。

⏰:10/11/21 13:57 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#537 [我輩は匿名である]
「僕はお前とは違って、将来を期待されてるんだ。

他の奴らと馴れ合ってる暇なんかないんだよ」

「勉強熱心で毎回試験で1位とってる奴でも、友達はたくさんいるよ。

1位の奴だけじゃない。バカだろうが秀才だろうが、みんな誰かと一緒に生きてる。

……あんたみたいな考え方の奴が、将来まともに生きていけるはず無い」

「何?僕に勝てないからって、とうとう負け惜しみ!?みっとも…」

「何とでも言いなよ。でも私は間違った事を言ってるとは思ってない。

あんたは他人をバカにしすぎてる。

“自分は誰よりも賢い”なんかバカな思い込み、捨てたら?」

⏰:10/11/21 13:58 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#538 [我輩は匿名である]
「うるさいな!」

巧はついに、ムキになって声を荒げた。

「今そんな事に時間費やしてる暇ないんだよ!

僕は将来、父さんみたいな優秀な弁護士になるって決めてるんだ!

お前みたいな出来損ないに見下される筋合いないね!」

巧はそう言い切って、飛鳥を睨む。

“昔の自分”に似てる。飛鳥はなぜか、そう感じた。

「…そう。じゃあその“出来損ない”は、将来は捨てて今日1日楽しんで来るわ。

将来を考えるより、今を大事にする方がいいし」

「ははっ、じゃあ一生父さんにも母さんにも認められないよ!?」

⏰:10/11/21 13:58 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#539 [我輩は匿名である]
「学力しか見ない親なんか、こっちから願い下げだよ」

飛鳥はそう吐き捨てて、家を出る。

そして、何歩か歩いて立ち止まった。

全身が震えている。

「(……よくあんだけ言い返せたな、あたし。弟相手に震えるとか、みっともない…)」

それでも、今回は負けた気がしない。

よくやった、と、心の中で自分を褒めた。

⏰:10/11/21 13:59 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#540 [我輩は匿名である]
「飛鳥ちゃん来ないねー」

校門の前で、直人・薫・響子は飛鳥を待っていた。

10時を回ったが、飛鳥はまだ来ない。

「本当に来るのか?」

「来るって言ってたぞ」

薫はあまり信じていないようだ。

「…あっ、来た来た」

響子は言いながら、こちらに向かって走ってくる飛鳥に手を振る。

「遅い」

薫は腕を組んで飛鳥を睨む。

⏰:10/11/25 20:31 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#541 [我輩は匿名である]
「ごめん……ちょっと…あろいろありまして……」

「また例の弟か?」

「うん…。でも…今日はちゃんと言い負かして来たよ」

飛鳥は息を切らしながらも、吹っ切れたような笑みを見せた。

直人達はきょとんとする。

「マジで!?やるじゃんお前!」

直人はまるで自分の手柄のように喜び、飛鳥の肩を叩く。

2人の様子を、薫と響子も笑って見ている。

どんな言い合いだったのか、直人は飛鳥の話を聞きながら神社に向かって歩きだした。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#542 [我輩は匿名である]
神社に着いた時、1から10まで喋らされた飛鳥はクタクタになっていた。

「……はぁ…疲れた…」

「そりゃあんだけ喋れば疲れるわよねぇ。

ちょっと休んでたら?私トイレ行きたくなっちゃった」

「あ、俺も!」

直人も手を挙げる。

「じゃあ行って来いよ、俺達ここで待ってるから」

薫の言葉に、ドキッとしたように飛鳥が彼の顔を見上げる。

が、鈍感な直人がそれに気付くはずもなく、響子とトイレに歩いていってしまった。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#543 [我輩は匿名である]
「あそこに座って待っとくか」

薫は傍に木で出来た長椅子を見付け、そこに腰を下ろす。

立っていても仕方がないので、飛鳥もしぶしぶ、少し間を空けてそこに座った。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#544 [我輩は匿名である]
「人が多いと思ったら、日本には初詣というものがあったんだなぁ、ポチ」

同じ頃、良介は犬の散歩で近くを歩いていた。

大事に育てているらしく、他の犬や人を見ても全く吠えない。

代わりに口笛を吹きながら歩いていると、

薫と飛鳥が並んで椅子に座っているのを見付け、驚いて足を止めた。

「(……な、なな何だあの組み合わせは!?

響子ちゃんは!?まさかあいつ、浮気か!?)」

良介は勝手に勘違いし、2人の声が聞こえる場所に、見えないようにしゃがみこむ。

⏰:10/11/25 20:33 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#545 [我輩は匿名である]
2人はしばらく黙っていた。

しかし、飛鳥には以前から、薫に聞きたい事があった。

いい機会と言えばいい機会なのだが、なかなか言いだせない。

「…何か言いたそうだな」

飛鳥の様子を見て察したのか、薫が先に話し掛けてきた。

「え!?あ、いや、あるっちゃ…ある…けど…」

「…何だよ、言えよ」

焦っている飛鳥を見て、薫も何だか落ち着かない。

こういう空気になってしまったら、言うしかない。

⏰:10/11/25 20:33 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#546 [我輩は匿名である]
飛鳥は心を決めて口を開く。

「……あたしの事、殺したかったんでしょ?」

単刀直入すぎて、薫も、見ていた良介も目を丸くする。

が、薫はすぐにいつもの涼しげな表情で答えた。

「…あぁ、殺したかったよ」

やっぱり。わかってはいたが、やはりショックは隠せない。

⏰:10/11/25 20:34 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#547 [我輩は匿名である]
「…何やってんの?あんた」

盗み聞きしていた良介に、誰かが話し掛けてきた。

慌てて振り向いてみると、そこには奏子が立っていた。

「……な、何だ…君か…」

「…相変わらず変だねぇ…ん?」

奏子も飛鳥と薫を見つけ、一緒にしゃがみこんだ。

「何してるの?あの2人」

「それが…」

⏰:10/11/25 20:34 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#548 [我輩は匿名である]
「それぐらいあたしの事恨んでたのに、何で許せるようになったんだろうって。

なんか前にちょっと聞いたけど、やっぱ気になっちゃってさ」

飛鳥に正直に問い掛けられて、薫も真面目な顔で答えはじめた。

「…確かに、前世の事を思い出して、お前が石川晶だと知ってから、ずっと恨んでた。

お前さえいなければ、今日子は死なずにすんだんだからな」

見られているとは知らず、薫は飛鳥に言う。


「響子が死んだ?何の話?」
『キョウコ』という名前を香月響子しか知らない2人は、顔を見合わせる。

⏰:10/11/25 20:35 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#549 [我輩は匿名である]
「でも…変な言い方だけど、お前が今日子を巻き添えにしてくれて良かったのかも知れないと思ったんだ」

どういう事なのか。飛鳥は小さく首をひねる。

「今日子が死んでも死ななくても、俺が癌に侵される事は変わらない。

今のように医療が進歩していたら変わったかもしれないが、

少なくともあの時代では、癌は不治の病と言われていた。

だからもし今日子が生きていたら、いつか遺されるのは今日子になる」

「……あぁ…そっか…」

「あの時、俺達はまだ20代だった。俺もただのサラリーマンだったから、貯金も生命保険も少ししかなかった。

精神的に辛い上に、産まれたばかりの子どもを抱えて、今日子は生きていかなければならなくなる。

…そうなるなら、遺されたのが俺で良かったんだと思った」

⏰:10/11/25 20:36 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#550 [我輩は匿名である]
そう言って、薫は小さく笑った。

「それにお前を殺しても、あの日に戻れるわけでもないし、

俺が霜月優也に戻るわけでも、響子が長谷部今日子に戻るわけでも、

直人が長月要に戻るわけでもない。だったら何のメリットもないだろ。

…まぁ、だからといってお前が自殺したのが正しかったとは思わないけどな」

「あぁ…それは…そうだと思う…」

薫にそう付け足されて、飛鳥は少し肩をすぼめる。

⏰:10/11/25 20:36 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194