記憶を売る本屋 2
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#501 [我輩は匿名である]
答えを聞いて、直人はさらにきょとんとする。
「………えっ!?え!?お前っ、…はぁ!?」
いきなり順位を上げた飛鳥に、直人は混乱する。
しかし、落ち着いて考えて、直人はやっと理解した。
「最近さっさと家に帰ってたのって、勉強する為か?
薫と喋ってたのは、勉強教えてもらってたのか!?」
「………うん」
顔を背けて、飛鳥は頷く。
:10/10/31 08:45
:N08A3
:eAY8INGU
#502 [我輩は匿名である]
「…何かに力入れてみろって言ったじゃん?
だから、ちょうどいいかな、と思って…」
「偉いっ!!」
直人は満面の笑みで飛鳥の肩を叩く。
「やったじゃん!今日は胸張って弟に嫌みかましてやれよな!」
「………うん」
飛鳥は嬉しそうに小さく笑って頷いた。
まるで自分の事のように喜びながら、直人は教室に向かって歩きだす。
「(………やっぱり)」
彼の姿を見ながら、飛鳥は心の中で呟く。
:10/10/31 08:46
:N08A3
:eAY8INGU
#503 [我輩は匿名である]
「(あたし、あいつの事好きだな…)」
今まで曖昧に思っていた事。
それが今、改めてはっきりとわかった。
「神崎?どうかしたか?」
直人がこっちを向く。
「…ううん、何にも」
飛鳥は答えて、一緒に教室に向かった。
:10/10/31 08:46
:N08A3
:eAY8INGU
#504 [我輩は匿名である]
放課後。
家の前で、飛鳥は少し緊張していた。
隣に響子はもういない。
自分が頑張って7位をとった事を言うと、彼らは何と言うだろう。
もしも、「そうですか」で終わらされたら…。
そう思うと、なかなか踏み出せずにいるのだ。
「邪魔だよ、そこ」
ドアの前でボーッとしていると、背後から巧の声がした。
:10/11/05 15:44
:N08A3
:IxG8QTDI
#505 [我輩は匿名である]
振り向くと、偉そうに腕を組んで、巧がこっちを睨んでいる。
「何してたの?家に入るの嫌になった?
だよねー。出来損ないは相手にされないもんね」
巧はバカにするような顔で笑う。
飛鳥はムッとして巧に言い返す。
「あんた、バカにするのもいい加減にしなさいよ」
「はっ、何?なんか自慢出来るような事でも出来た?
良かったねー。僕なんか今日テストで1位とったけどね」
巧は含み笑いのまま言った。
:10/11/05 15:45
:N08A3
:IxG8QTDI
#506 [我輩は匿名である]
『1位』という言葉を聞いて、飛鳥は茫然とする。
「はははっ、何?もしかして、成績で僕に勝ったとか思った?
無理に決まってんじゃん、僕に勝とうだなんて。
わかったらさっさとそこどいてくれる?」
巧はため息を吐いて、無理矢理飛鳥をどかせて家に入っていった。
飛鳥は黙ってそこに立ち尽くす。
:10/11/05 15:45
:N08A3
:IxG8QTDI
#507 [我輩は匿名である]
やっと、認めてもらえると思っていた。
この家は学力しか見ていない。
母親も、父親も、弟も。
なら良い成績を取らなきゃいけない。その一心でここまできたのに。
あれだけ頑張って、あの成績を取ったのに、また弟に劣るのか。
飛鳥は拳を握りしめ、しばらく下を向いていた。
:10/11/05 15:49
:N08A3
:IxG8QTDI
#508 [ゆず]
一気に読んでめっちゃ

はまりました

気になる

毎回チェックします

がんばっちくりん

:10/11/06 23:23
:P03A
:DOyPQ5PU
#509 [☆]
:10/11/07 15:14
:SH05B
:☆☆☆
#510 [我輩は匿名である]
>>ゆずサン
>>☆サン
はじめまして

感想ありがとうございます

嬉しいのですが、感想が入ると見辛いというご意見がありましたため、よろしけば小説総合板にある感想板にお願いします


アンカーして下さるのは助かります

:10/11/09 21:55
:N08A3
:elepWMVo
#511 [我輩は匿名である]
次の日。
直人はじーっと、何かを考え込む薫をじっと見つめる。
「……何考えてんだ?」
「来週クリスマスだろ?響子に何やろうかと思って」
薫は腕を組んだまま答える。
そういえばあったな、そんなイベント。
直人もそう思いながら「あー」と声を漏らす。
:10/11/09 21:56
:N08A3
:elepWMVo
#512 [我輩は匿名である]
「………俺も何かやろうかな」
「……神崎にか?」
「んー。テスト頑張ってたしな。何がいいかなー?」
直人も一緒に考え始める。
「(なぁ、お前何かいい考えない?)」
「俺?…うーん…あの子が何好きなのか知らないしなぁ…」
要も困ったように返事する。
「…お前は?香月に何やんの?」
直人は参考程度に、薫にも話を聞いてみる。
:10/11/09 21:56
:N08A3
:elepWMVo
#513 [我輩は匿名である]
「……そうだなぁ…」
薫も直人と同じように、ボーッとしながら考える。
そしてしばらく黙り込んだ後、ふと「あ」と顔を上げた。
「マフラーかな」
「マフラー?何で?」
「この間欲しいって言ってたから」
「あぁ…そりゃ確実に喜ぶだろうな」
直人ははぁっとため息をつく。
:10/11/09 21:56
:N08A3
:elepWMVo
#514 [我輩は匿名である]
「(神崎も欲しいもの言ってくれればいいのにな)」
「お前が何かくれるなんて思ってないと思うよ」
うなだれる直人に、要が冷静に答える。
直人は「そうだよなー」と言いつつ、飛鳥に目をやる。
「何か知らねぇけど、元気無いな、あいつ」
薫もちらっと飛鳥を見る。
「やっぱりそうだよな?昨日はテストの順位見て照れてたのに」
飛鳥は机の上に、だるそうに突っ伏している。
:10/11/09 21:57
:N08A3
:elepWMVo
#515 [我輩は匿名である]
直人は小さく息をついて立ち上がり、飛鳥に歩み寄る。
「神崎」
直人に話し掛けられ、飛鳥は少しだけ顔を上げる。
昨日とは違い、疲れ果てたような、生気がなくなったような、そんな表情。
「…どうしたんだよ」
彼女のその表情に少し驚きながら、直人はまた問いかける。
飛鳥はしばらく、目を逸らして黙る。
「………もうだめだ、あたし」
やっと口を開いたかと思ったら、呆れたような顔でそう呟いた。
:10/11/09 21:57
:N08A3
:elepWMVo
#516 [我輩は匿名である]
「何だよ?昨日はあんなに…」
「1位とったんだよ、あいつが」
「…え…」
直人は言葉を失った。
1位なんて取られると、それ以上上はない。
こちらも1位を取ろうとすると、良介や薫を抜かなければならない。
:10/11/09 21:58
:N08A3
:elepWMVo
#517 [我輩は匿名である]
そんな事、飛鳥の学力では到底無理だ。
「…ごめん、応援してくれてたのに…」
飛鳥は再び俯きながら直人に言った。
「別に…謝る事じゃないだろ」
そう励ましたが、飛鳥はもう顔を上げる事はなかった。
:10/11/09 21:58
:N08A3
:elepWMVo
#518 [我輩は匿名である]
「もうちょっとでクリスマスだねー」
放課後、響子は薫と2人、階段に腰を下ろして話していた。
「そうだな」
「ところで!」
響子は鞄の中から1冊の雑誌を取り出す。
その表紙にはデカデカと『北海道』と書いてある。
「何?それ」
「ほら、来月スキー実習でしょ?どこ行こうかなぁって」
:10/11/09 22:20
:N08A3
:elepWMVo
#519 [我輩は匿名である]
「あぁ、もうそんな時期か」
いろいろあって、スキー実習の事などすっかり忘れていた。
「それでね」
響子は楽しそうに笑いながら、付箋が張ってあるページを開く。
そこには、ガラスで作られた飾り物やアクセサリーがたくさん載せられていた。
「私、ここ行きたいんだ」
「…あぁ、好きそうだな。1日目が観光だったっけ」
「そう♪で、2日目と3日目がスキー!」
今からでも心待ちにしている響子を見て、薫も自然と顔がほころぶ。
:10/11/09 22:20
:N08A3
:elepWMVo
#520 [我輩は匿名である]
「…飛鳥ちゃんも奏子ちゃんも、楽しめるかな?せっかくの旅行なのに…」
ふと飛鳥たちのことを思い出して、響子の表情が曇る。
今日も昼休みに一緒に昼食を摂ったものの、終始暗かった飛鳥。
奏子も相変わらず、まだ仲直りはしていない。
「……まぁそうだけど、クラス違うだろ」
「違っても心配なの!」
世話焼きな響子は、勢い良く本を閉じる。
「…まぁ、今全員問題持ちだもんなぁ…」
:10/11/09 22:21
:N08A3
:elepWMVo
#521 [我輩は匿名である]
薫と響子は良介、飛鳥と奏子は互いの喧嘩、直人はその他いろいろ…。
このままでは、せっかくのスキー実習が楽しめずに終わってしまう。
響子はそれが心配で仕方がないらしい。
「どうにかなるだろ。今までもどうにかなってきたんだし」
薫は小さく笑い、ポンと響子の頭をたたいた。
:10/11/09 22:21
:N08A3
:elepWMVo
#522 [我輩は匿名である]
「はぁ…」
一足先に学校を出た直人は、ぼちぼち歩きながら家に向かう。
「…なぁ、どうすればいいと思う?」
誰もいないのを良いことに、直人は口に出して尋ねる。
「神崎の事?」
直人の問いに、要が聞き返してくる。
「あぁ。他にどうやって見返してやれば良いんだよ…」
弟の巧が学年トップを取った今、追い抜くことが出来なくなった。
同じトップを取ろうとも、上には薫たちがいる。
:10/11/09 22:21
:N08A3
:elepWMVo
#523 [我輩は匿名である]
要も考えているのか、返事が返ってこない。
「…………そんなに成績が大事なのかな?」
しばらくして、要が言った。
「今更そこかよ」
直人も呆れたように言い返す。
「あいつの家族が成績しか見てないんだから、大事なんだろうよ」
「まぁそれはそうだけど…。
でも、成績意外にも見返す方法はないのかなってさ」
まぁ確かに。直人も頷く。
:10/11/09 22:22
:N08A3
:elepWMVo
#524 [我輩は匿名である]
しかし、成績しか見ない彼らを、どうやって見返せるのだろうか。
「………ま、ぼちぼち考えていくかな」
「面倒見るのはほどほどにするんじゃなかったの?」
「……まぁそうだけどさぁ…、今のあいつ見てると…」
「下手すると、俺達みたいになっちゃうよ?」
その言葉に、直人は足を止める。
「でも…」
「ほっとけないんだろ?俺もそうだったよ。だからああなった」
声だけではわからないが、要はきっと、後悔しているのだろう。
:10/11/09 22:22
:N08A3
:elepWMVo
#525 [我輩は匿名である]
直人にはわかった。
「…………考えるだけなら構わねぇだろ」
ちょっと間黙り込んだあと、直人は口を開いた。
「そりゃあ、考えるのは自由だからね」
要は少し笑っているようだ。
考えるだけで終われるなら苦労しないんだけど、と。
:10/11/09 22:23
:N08A3
:elepWMVo
#526 [(o^〜^o)]
:10/11/11 11:18
:F01A
:yy6g86Pg
#527 [我輩は匿名である]
結局、クリスマスに何かをプレゼントできる雰囲気じゃないまま、冬休みに入ってしまった。
「結局、何もプレゼントできなかったね」
寒いから布団にくるまっている直人に、要が言う。
「しゃーねぇだろ…。思い浮かばなかったし、そんな空気でもねぇし」
「まぁね…」
「直人ー!」
階段付近から、直人の母親の声がする。
「んあ〜?」
直人はめんどくさそうに、顔だけ出して返事する。
:10/11/20 21:51
:N08A3
:XcM6i1lA
#528 [我輩は匿名である]
「トイレットペーパー買ってくるの忘れたから、買ってきてー!」
「はぁー!?」
「寒がってないで、たまには外出なさーい、男でしょー!?」
「関係ねぇだろ…」
ブツブツ言いながらも、直人は布団から出てくる。
そして、ふとある事を思い出した。
「…俺前にもこんな事………あぁ!思い出した!
俺が初めてタイムスリップした時も、トイレットペーパーだった!」
「タイムスリップ?あぁ、本の中身?」
:10/11/20 21:52
:N08A3
:XcM6i1lA
#529 [我輩は匿名である]
「そうそう!」
出て行ける格好をして、直人は部屋を出る。
「あっ、行ってくれんのね。はい、お金」
母親はにこやかに、500円玉を直人に手渡した。
「おぅ、ちょっくら行って来るわ」
「薬局が今日安いらしいから、そっちで買ってきてね」
「はいはい」
直人は背中で返事をして、靴を履いて家を出た。
:10/11/20 21:52
:N08A3
:XcM6i1lA
#530 [我輩は匿名である]
ダウンを着てはいるが、顔に冬の寒さが突き刺さる。
「さみー!この寒さヤバくね?」
「俺寒さとか感じないから大丈夫♪」
要は明るい声で言った。
「え、そうなのか?」
「だって俺、幽霊みたいなものだから」
「……そっか…」
そう言われると改めて、自分の置かれている状況が異色すぎることに気付かされる。
直人はしばらく、黙ったまま歩を進める。
:10/11/20 21:52
:N08A3
:XcM6i1lA
#531 [我輩は匿名である]
「直人は俺がトイレットペーパー買いに行かされた時から知ってたんだな」
「まぁそういう事だな……ん?」
直人は返事をしながら、前方に女性が歩いているのに気付いた。
見慣れた茶髪に、見覚えのあるプーマのジャージ。
「神崎!」
直人は白い息を吐き出して、女性に声をかける。
すると、ジャージの女性は振り返った。
「水無月」
「何してんだ?お前」
飛鳥に駆け寄り、尋ねてみる。
:10/11/20 21:53
:N08A3
:XcM6i1lA
#532 [我輩は匿名である]
「暇だから、散歩」
「散歩!?こんな寒いのによく外に出ようと思ったなぁ…」
「家にいるよりマシだし」
そりゃそうか。直人は頷く。
「あんたは?」
「トイレットペーパー買って来いって言われてさ。一緒に来る?」
「…うん、行く」
飛鳥は小さく笑って返事した。
2人は並んで、薬局に向かった。
:10/11/20 21:53
:N08A3
:XcM6i1lA
#533 [我輩は匿名である]
「お前、冬休み暇で仕方ねぇんじゃねーの?」
「そりゃ暇だよ。バイトない日は特にな」
「そういえば、安斎との喧嘩はどうなったんだ?仲直りしたか?」
「してない」
「だろうな…」
直人はめんどくさそうにため息を吐く。
「まぁ…そのうちね」
飛鳥も、そろそろ話し合わないといけない事はわかっているようだ。
だったらいいか、と、直人は小さく笑う。
:10/11/20 21:54
:N08A3
:XcM6i1lA
#534 [我輩は匿名である]
「お前暇なんだったら、一緒に初詣でも行くか?」
「は?何、急に」
「いやぁ、いつもは薫と行くんだけどさ、
あいつ多分香月連れてくるだろうから、お前も来るかなぁと思って」
直人の提案に、飛鳥は少し意外そうな顔をしながらも「行く!」と即答した。
「…あー、お前ケータイ持ってねぇんだったな。
んじゃあ、1月1日10時に学校で待ち合わせな」
「…うん!」
飛鳥は久しぶりに、嬉しそうな笑顔を見せた。
:10/11/20 21:54
:N08A3
:XcM6i1lA
#535 [我輩は匿名である]
1月1日。
飛鳥はジャージではなく私服を来て、玄関で靴を履いていた。
「どこ行くの?」
またいびりに来たのか、巧が後ろに立っている。
「こんな元旦から出歩くなんて、暇人はいいよねぇ。
僕は勉強で大忙しだっていうのに。
どうせつまんない奴らとつるんでるんでしょ」
飛鳥はそれを聞き流しながら、スニーカーの紐を結んでいる。
そういえば、巧がどこかに出かけていくのを見たことが無い。
:10/11/21 13:57
:N08A3
:qrb3T8Wo
#536 [我輩は匿名である]
「まぁ、誰かとつるむの自体時間の無駄だけどね」
その一言で、飛鳥は立ち上がり、巧に向き合った。
「あんた、友達いないんだ」
巧の口元が、微妙に引きつる。
「…はぁ?」
「だってそうだろ?誰かと遊びに行くとこも見た事ないし、
友達いる奴が『つるむのは時間の無駄』なんか言わないし」
「だから?友達がいたから何なの?そんな事、将来に何の関係がある?」
巧はどこか、意地になったように問い詰めてくる。
:10/11/21 13:57
:N08A3
:qrb3T8Wo
#537 [我輩は匿名である]
「僕はお前とは違って、将来を期待されてるんだ。
他の奴らと馴れ合ってる暇なんかないんだよ」
「勉強熱心で毎回試験で1位とってる奴でも、友達はたくさんいるよ。
1位の奴だけじゃない。バカだろうが秀才だろうが、みんな誰かと一緒に生きてる。
……あんたみたいな考え方の奴が、将来まともに生きていけるはず無い」
「何?僕に勝てないからって、とうとう負け惜しみ!?みっとも…」
「何とでも言いなよ。でも私は間違った事を言ってるとは思ってない。
あんたは他人をバカにしすぎてる。
“自分は誰よりも賢い”なんかバカな思い込み、捨てたら?」
:10/11/21 13:58
:N08A3
:qrb3T8Wo
#538 [我輩は匿名である]
「うるさいな!」
巧はついに、ムキになって声を荒げた。
「今そんな事に時間費やしてる暇ないんだよ!
僕は将来、父さんみたいな優秀な弁護士になるって決めてるんだ!
お前みたいな出来損ないに見下される筋合いないね!」
巧はそう言い切って、飛鳥を睨む。
“昔の自分”に似てる。飛鳥はなぜか、そう感じた。
「…そう。じゃあその“出来損ない”は、将来は捨てて今日1日楽しんで来るわ。
将来を考えるより、今を大事にする方がいいし」
「ははっ、じゃあ一生父さんにも母さんにも認められないよ!?」
:10/11/21 13:58
:N08A3
:qrb3T8Wo
#539 [我輩は匿名である]
「学力しか見ない親なんか、こっちから願い下げだよ」
飛鳥はそう吐き捨てて、家を出る。
そして、何歩か歩いて立ち止まった。
全身が震えている。
「(……よくあんだけ言い返せたな、あたし。弟相手に震えるとか、みっともない…)」
それでも、今回は負けた気がしない。
よくやった、と、心の中で自分を褒めた。
:10/11/21 13:59
:N08A3
:qrb3T8Wo
#540 [我輩は匿名である]
「飛鳥ちゃん来ないねー」
校門の前で、直人・薫・響子は飛鳥を待っていた。
10時を回ったが、飛鳥はまだ来ない。
「本当に来るのか?」
「来るって言ってたぞ」
薫はあまり信じていないようだ。
「…あっ、来た来た」
響子は言いながら、こちらに向かって走ってくる飛鳥に手を振る。
「遅い」
薫は腕を組んで飛鳥を睨む。
:10/11/25 20:31
:N08A3
:7I8QaZgA
#541 [我輩は匿名である]
「ごめん……ちょっと…あろいろありまして……」
「また例の弟か?」
「うん…。でも…今日はちゃんと言い負かして来たよ」
飛鳥は息を切らしながらも、吹っ切れたような笑みを見せた。
直人達はきょとんとする。
「マジで!?やるじゃんお前!」
直人はまるで自分の手柄のように喜び、飛鳥の肩を叩く。
2人の様子を、薫と響子も笑って見ている。
どんな言い合いだったのか、直人は飛鳥の話を聞きながら神社に向かって歩きだした。
:10/11/25 20:32
:N08A3
:7I8QaZgA
#542 [我輩は匿名である]
神社に着いた時、1から10まで喋らされた飛鳥はクタクタになっていた。
「……はぁ…疲れた…」
「そりゃあんだけ喋れば疲れるわよねぇ。
ちょっと休んでたら?私トイレ行きたくなっちゃった」
「あ、俺も!」
直人も手を挙げる。
「じゃあ行って来いよ、俺達ここで待ってるから」
薫の言葉に、ドキッとしたように飛鳥が彼の顔を見上げる。
が、鈍感な直人がそれに気付くはずもなく、響子とトイレに歩いていってしまった。
:10/11/25 20:32
:N08A3
:7I8QaZgA
#543 [我輩は匿名である]
「あそこに座って待っとくか」
薫は傍に木で出来た長椅子を見付け、そこに腰を下ろす。
立っていても仕方がないので、飛鳥もしぶしぶ、少し間を空けてそこに座った。
:10/11/25 20:32
:N08A3
:7I8QaZgA
#544 [我輩は匿名である]
「人が多いと思ったら、日本には初詣というものがあったんだなぁ、ポチ」
同じ頃、良介は犬の散歩で近くを歩いていた。
大事に育てているらしく、他の犬や人を見ても全く吠えない。
代わりに口笛を吹きながら歩いていると、
薫と飛鳥が並んで椅子に座っているのを見付け、驚いて足を止めた。
「(……な、なな何だあの組み合わせは!?
響子ちゃんは!?まさかあいつ、浮気か!?)」
良介は勝手に勘違いし、2人の声が聞こえる場所に、見えないようにしゃがみこむ。
:10/11/25 20:33
:N08A3
:7I8QaZgA
#545 [我輩は匿名である]
2人はしばらく黙っていた。
しかし、飛鳥には以前から、薫に聞きたい事があった。
いい機会と言えばいい機会なのだが、なかなか言いだせない。
「…何か言いたそうだな」
飛鳥の様子を見て察したのか、薫が先に話し掛けてきた。
「え!?あ、いや、あるっちゃ…ある…けど…」
「…何だよ、言えよ」
焦っている飛鳥を見て、薫も何だか落ち着かない。
こういう空気になってしまったら、言うしかない。
:10/11/25 20:33
:N08A3
:7I8QaZgA
#546 [我輩は匿名である]
飛鳥は心を決めて口を開く。
「……あたしの事、殺したかったんでしょ?」
単刀直入すぎて、薫も、見ていた良介も目を丸くする。
が、薫はすぐにいつもの涼しげな表情で答えた。
「…あぁ、殺したかったよ」
やっぱり。わかってはいたが、やはりショックは隠せない。
:10/11/25 20:34
:N08A3
:7I8QaZgA
#547 [我輩は匿名である]
「…何やってんの?あんた」
盗み聞きしていた良介に、誰かが話し掛けてきた。
慌てて振り向いてみると、そこには奏子が立っていた。
「……な、何だ…君か…」
「…相変わらず変だねぇ…ん?」
奏子も飛鳥と薫を見つけ、一緒にしゃがみこんだ。
「何してるの?あの2人」
「それが…」
:10/11/25 20:34
:N08A3
:7I8QaZgA
#548 [我輩は匿名である]
「それぐらいあたしの事恨んでたのに、何で許せるようになったんだろうって。
なんか前にちょっと聞いたけど、やっぱ気になっちゃってさ」
飛鳥に正直に問い掛けられて、薫も真面目な顔で答えはじめた。
「…確かに、前世の事を思い出して、お前が石川晶だと知ってから、ずっと恨んでた。
お前さえいなければ、今日子は死なずにすんだんだからな」
見られているとは知らず、薫は飛鳥に言う。
「響子が死んだ?何の話?」
『キョウコ』という名前を香月響子しか知らない2人は、顔を見合わせる。
:10/11/25 20:35
:N08A3
:7I8QaZgA
#549 [我輩は匿名である]
「でも…変な言い方だけど、お前が今日子を巻き添えにしてくれて良かったのかも知れないと思ったんだ」
どういう事なのか。飛鳥は小さく首をひねる。
「今日子が死んでも死ななくても、俺が癌に侵される事は変わらない。
今のように医療が進歩していたら変わったかもしれないが、
少なくともあの時代では、癌は不治の病と言われていた。
だからもし今日子が生きていたら、いつか遺されるのは今日子になる」
「……あぁ…そっか…」
「あの時、俺達はまだ20代だった。俺もただのサラリーマンだったから、貯金も生命保険も少ししかなかった。
精神的に辛い上に、産まれたばかりの子どもを抱えて、今日子は生きていかなければならなくなる。
…そうなるなら、遺されたのが俺で良かったんだと思った」
:10/11/25 20:36
:N08A3
:7I8QaZgA
#550 [我輩は匿名である]
そう言って、薫は小さく笑った。
「それにお前を殺しても、あの日に戻れるわけでもないし、
俺が霜月優也に戻るわけでも、響子が長谷部今日子に戻るわけでも、
直人が長月要に戻るわけでもない。だったら何のメリットもないだろ。
…まぁ、だからといってお前が自殺したのが正しかったとは思わないけどな」
「あぁ…それは…そうだと思う…」
薫にそう付け足されて、飛鳥は少し肩をすぼめる。
:10/11/25 20:36
:N08A3
:7I8QaZgA
#551 [我輩は匿名である]
「そんなに気になってたのか?ほんと小心者だな、お前」
「ほ…ほっといてよ」
飛鳥はむすっとして目を逸らす。
「……今の話…」
良介と奏子は、それぞれ複雑な気持ちで、しばらくそこに留まっていた。
:10/11/25 20:37
:N08A3
:7I8QaZgA
#552 [あんちむ]
:10/11/29 12:09
:SH05A3
:5j8KcYUA
#553 [あんちむ]
:10/11/29 12:10
:SH05A3
:5j8KcYUA
#554 [我輩は匿名である]
3学期。
「あーあ、テスト全然わかんね」
「どうせ冬休みの課題、答え丸写しして終わらせたんだろ」
この日は、冬休みの課題を踏まえた実力テストだった。
「あんな量1個1個やってられるかよ」
「まぁ、俺も半分ぐらい写したけどな」
空になった弁当箱を片付けながら、薫は笑う。
「お前もかよ。…で?今回はちゃんと1位取れそうなのか?」
直人は良介の事を思い出し、薫に聞いてみる。
すると、薫の動きが止まった。
:10/12/15 17:40
:N08A3
:e1TLLFT2
#555 [我輩は匿名である]
「……嫌な事思い出させるなよ…」
「何だ、忘れてたのか」
「…でも今回何も言ってこなかったな。あいつも忘れてるんじゃないか?
っていうか、いい加減忘れてほしい」
「無理だろ」
「月城ー!」
クラスメイトが、教室に入ってくるなり駆け寄ってきた。
「何」
「今廊下で聞いたんだけどさ、スキー実習のグループ、4組と一緒らしいぞ!」
「へぇ、良かったじゃん。嫁と一緒で」
:10/12/15 17:40
:N08A3
:e1TLLFT2
#556 [我輩は匿名である]
「嫁のストーカーも一緒だぞ」
わざわざ急いで言いに来た意味をわかっていない直人に、クラスメイトが補足する。
「うわ、めんどくせぇ」
「…終わった…俺のスキー実習…」
薫は早くもげっそりしてうなだれている。
直人とクラスメイトは、哀れみを込めた目で薫を見る。
「水無月くん!」
いつ来たのか、響子がバン!と机をたたく。
「うわ、びっくりした。いつからいたの」
「今!それよりね!」
:10/12/15 17:41
:N08A3
:e1TLLFT2
#557 [我輩は匿名である]
「聞いたよ…スキー実習が地獄になる事だろ…」
薫は壁にもたれながら響子に言う。
「違う!飛鳥ちゃんと奏子ちゃんが、とうとう1対1で話し合うって」
「え、マジで?」
「うん。さっき奏子ちゃんが来て、2人で行っちゃったのよ」
「やっとかよ。つーか、あの2人何で喧嘩してたの?」
直人は響子に聞き返す。
ここまで来て理由をわかっていない直人に、響子と薫は呆れてため息を吐いた。
:10/12/15 17:41
:N08A3
:e1TLLFT2
#558 [我輩は匿名である]
飛鳥と奏子は、階段の踊り場にいた。
「ごめん、呼び出したりして」
「…ううん、あたしも話したい事あったから」
緊張しつつ、飛鳥ははっきりと受け答えする。
「……1つ、謝らなきゃいけないんだ」
奏子は視線を落として白状する。
「この間、神社のベンチで月城と喋ってるの、……聞いちゃったんだ」
「……“私”が、自殺したって話?」
飛鳥に聞かれ、奏子は申し訳なさそうに頷く。
あれだけ知られたくないと思っていたが、なぜか怒る気にならない。
:10/12/15 22:00
:N08A3
:e1TLLFT2
#559 [我輩は匿名である]
「……いいよ、いつか話さないといけないのかなって思ってたし…」
「…そっか。…………じゃあ、1つ聞いていい?」
「…うん。何?」
「…水無月の前世の事」
覚悟はしていたが、ドキッとした。
飛鳥はしばらく黙り込む。
「…知り合いだったんだよね?」
「………うん」
飛鳥は自分を落ち着かせようと、息を吐く。
「……前世の私が、唯一好きになった人だった」
:10/12/15 22:00
:N08A3
:e1TLLFT2
#560 [我輩は匿名である]
飛鳥はそう白状した。奏子は心の中で、やっぱりな、と呟く。
「…私のせいで死んだんだ」
「どういう意味?」
「……私が、あいつが止めるのも聞かないで道路に飛び出したから…」
そういえば、水無月はトラックにはねられたって言ってたな。
奏子は話を聞きながら思い出した。
「それがショックで、耐えきれなくて、ビルの上から飛び降りたんだ。
ちょうどその下を歩いてた、響子を巻き添えにして」
奏子はそれを聞いて、少しの間黙っていた。
「全部、私の思い違いだったんだ。あいつの話を聞いていれば、あんな事にはならなかった」
:10/12/15 22:01
:N08A3
:e1TLLFT2
#561 [我輩は匿名である]
飛鳥は視線を落とす。
「……それでも、飛鳥はやっぱり水無月が好きなの?」
「……うん。隠しててごめん」
「ううん、私こそごめん。あんな言い方して。
…あと、ありがとう、話してくれて。ずっと気になってたんだ」
奏子はそう言ってにっこり笑う。
「これからは、いいライバルって事で」
「うん」
飛鳥も頷いて笑い返した。
:10/12/16 22:53
:N08A3
:Sg0X.jqw
#562 [我輩は匿名である]
HRの時間、直人は配られたスキー実習のしおりを見て顔を引きつらせる。
男女合わせて6人グループ。女子枠には飛鳥の名前がある。問題は男子枠が薫と良介。
「めんどくさい組み合わせになっちゃったねー」
他人事なのをいい事に、要が呆れたように言う。
「(なんでこうなるわけ…?)」
そう思いながら、薫に目をやると、案の定死んだように壁にもたれ掛かっている。
「でもまぁ、香月響子がいないだけマシじゃない?いたら絶対もめるよ」
「(まぁな…)」
「(………何も起きなきゃいいけど…でもまぁ……そろそろかな…)」
要は直人の中で、声を出さずに考えていた。
:10/12/16 22:54
:N08A3
:Sg0X.jqw
#563 [我輩は匿名である]
楽しみのようなそうでもないような気がしていると、あっという間に日が過ぎていった。
そして、待ちに待ったスキー実習初日。
「すげーっ!!俺飛行機乗るの初めてだ!!」
「俺もー!!」
リムジンバスに乗り、最寄りの空港に到着した直人たち。
今までに飛行機に乗ったことが無い直人と要は、そろって目を輝かせる。
「おい、何で1位なんだよ」
「お前こそ。いい加減諦めろ」
直人が空港の窓ガラスに張りついているのを尻目に、薫と良介は睨み合う。
:10/12/17 23:43
:N08A3
:RRRJrnkw
#564 [我輩は匿名である]
「飽きないねぇ、あの2人」
「うん…」
飛鳥を含めた女子3人が、呆れた目で良介達を見ている。
「次、4組8組ー!静かに搭乗しなさーい!」
引率の教師の支持に従って、直人達は搭乗を始める。
「響子、酔ったの治った?」
クラスメイト達が搭乗を始めたのを見て、グループの友人が響子に声をかける。
「うん、だいぶマシになった。行こ」
空港までのバスで車酔いをした響子は、まだ顔色が悪いまま飛行機に乗った。
:10/12/17 23:44
:N08A3
:RRRJrnkw
#565 [葵]
早く続き読みたい(`・ω・')
:10/12/21 06:36
:SH06A3
:☆☆☆
#566 [我輩は匿名である]
「あー飛行機楽しかった♪」
札幌空港に到着し、直人はすでに満足気な顔で外の雪景色を見つめる。
その隣では、薫はエチケット袋を片手にぐったりしている。
「弱っちいなぁ、やっぱり響子ちゃんには僕がふさわし」
「黙れ」
「酔ってる時ぐらい静かにしてろよ……ん?」
早く降りたそうに立ち上がった直人は、ある席に教師が何人か集まっているのを見つけた。
「何かあったのかな?」
「(みたいだな…)」
:10/12/25 10:00
:N08A3
:xWmSr4uA
#567 [我輩は匿名である]
要と言いながら見ていると、降りる番がきたらしく、薫達が立ち上がった。
少し気になったが、直人は何も言わずにそれに続いて飛行機を降りた。
空港を出ると、そこは本当に、見たこともないような雪景色。
同時に顔に寒さが突き刺さってくるが、興奮しているからか、あまり気にならない。
「おー、マジで北海道だな!早くスキーしてー」
そんな直人の隣では、酔っている薫に加えて、運動音痴の良介も暗い顔をしている。
「ずっと観光でいいのに…」
良介と同じ理由でため息を吐く飛鳥に、クラスメイトが「それスキー実習じゃないじゃん」と笑っている。
それぞれいろんな思いを抱きながら、観光地までのリムジンバスに乗り込んだ。
:10/12/25 10:01
:N08A3
:xWmSr4uA
#568 [我輩は匿名である]
観光地は小樽市周辺。
バスから降りて記念写真を撮った後は、集合時間まで自由行動だ。
「どこ行くのー?」
「とりあえず飯食おうぜ」
「月城くん食べれる?」
「酔い止め飲んだから大丈夫」
6人は地図を見ながら、どこで昼食を食べるか話し合う。
「北海道っつったらラーメンじゃね?」
「えー僕ラーメン昨日食べちゃったよ」
:10/12/25 10:01
:N08A3
:xWmSr4uA
#569 [我輩は匿名である]
「バッカじゃないの!?」
「嫌ならあんただけ違うの食べな」
「……わかったよー、ラーメンでいいよー…」
「んじゃ決定ー」
そう言って、直人達はラーメン屋に向かって歩きだした。
その後、みんなでワイワイしながらラーメンを食べた後、
小樽運河やオルゴール館等を見て回った。
集合時間が迫ってきていたため、直人達は駐車場へと引き替えしはじめる。
:10/12/25 10:01
:N08A3
:xWmSr4uA
#570 [我輩は匿名である]
「えー!」
急に、後ろを歩いていた4組の女子が声を上げた。
「What's!?びっくりするじゃないか!」
「インフルエンザ疑いが出たって!」
女子は携帯電話を見ながら言う。
時期は1月。インフルエンザ感染者が出てきてもおかしくはない。
「あーぁ。まぁ出るだろうとは思ってたけどな」
もしかして、飛行機で教師が集まっていたのは、その話だったのかもしれない。
「しかも響子だって!」
その一言に、薫と良介が驚いたように振り向く。
:10/12/25 10:02
:N08A3
:xWmSr4uA
#571 [我輩は匿名である]
「えっ!?響子ちゃんが!?オーマイガー」
「うるさいんだよ、いちいち…」
良介が女子から非難を浴びている中、薫は暗い顔で黙り込む。
いつだったか、旅行雑誌を見ながら笑っていた響子。
あそこに行きたい、ここにも行きたいと、楽しみにしていたのに…。
薫は無言のまま腕時計に目をやる。集合時間まであと5分。
「……直人」
「ん?」
:10/12/25 10:02
:N08A3
:xWmSr4uA
#572 [我輩は匿名である]
「…俺、後で追い付くから先戻ってて」
「は?えっ、ちょ…」
呼び止める間もなく、薫は駐車場とは反対方向へ走りだした。
「ちょっと、どうすんの!?もう時間ないよ!」
「でもいいじゃーん♪あれ絶対響子に何か買いに行ったよ」
「何!?」
「…まぁ、いいんじゃないの?彼らしくて」
「(いいんだけどさ…時間に間に合わないぞ?)」
「帰って来るよ、そのうち」
:10/12/25 10:03
:N08A3
:xWmSr4uA
#573 [我輩は匿名である]
「(適当だなぁ…)」
直人は思いながら、困ったように頭を掻く。
「ここにいても仕方ないし、駐車場行こうよ。怒られない言い訳考えつつさ」
「え、僕は怒られるのはごめんだぞ!勝手にどっか行った奴の事なんか知るか!」
「さっきからうるせぇなぁ!」
やたらと横槍を入れてくる良介に、直人が声を上げる。
「薫と張り合う割に、ちぃせぇ奴だな!あいつは怒られるの承知で行ったんだろうが!
成績成績って威張りやがって!本当に香月の事好きなのかよお前!」
直人が怒鳴っているのを見て、飛鳥たちもきょとんとしている。
:10/12/25 10:07
:N08A3
:xWmSr4uA
#574 [我輩は匿名である]
「…まぁ今の見たら、月城くんの方が上だよねぇー」
4組の女子たちも、首を縦に振る。
「別に怒られるのぐらい、どうって事ないし」
飛鳥も腕を組んで言う。
「仕方ねぇだろ、もう薫行っちまったし。行くぞ」
不機嫌そうに鼻息を荒くして、直人はドカドカ歩きだす。
「やるじゃん」
飛鳥が直人の隣を歩きながら笑う。
:10/12/25 10:07
:N08A3
:xWmSr4uA
#575 [我輩は匿名である]
「あたしもスッキリした」
「ったりめぇだろ!どっちにしろ怒られんだから、
さっさと行ってバス乗ってた方が温かいしよ」
「そっち…?」
直人達はぶつぶつ言いながら、駐車場へと戻った。
:10/12/25 10:07
:N08A3
:xWmSr4uA
#576 [我輩は匿名である]
「ん?1人足りなくないか?」
バスの前で点呼をとられ、直人達は目を見合う。
「あの…ちょっと月城が…」
「月城がどうした?」
「…ちょっと…」
「ちょっと?」
「…………お、お腹痛いって」
直人が誤魔化せないと思った飛鳥が、適当に嘘を吐いた。
「そ、そう!で、トイレにこもっちゃって!」
:10/12/28 22:48
:N08A3
:CS9vaOp2
#577 [我輩は匿名である]
「先に行っててって言われたんですぅー」
飛鳥に続いて、女子たちが口々に言い訳する。
「えー!?昼飯か何かあたったんじゃないのか!?」
「さ、さぁ…。まぁ、もうくると思いますよ」
「困ったなぁ…。まぁお前達は先にバス乗ってろ」
「はーい」
何とか誤魔化した直人達は、そそくさとバスに乗り込む。
「あんまり怒られなかったねー」
5人はホッと胸を撫で下ろしながら、それぞれ席に座る。
:10/12/28 22:48
:N08A3
:CS9vaOp2
#578 [りか]
いつも読んでます
思ったのですがもしかしたら
魔法のIランドなんかで書かれたら
いいとこまでいくかもしれないですよメ
:10/12/29 12:59
:SH003
:BqXyKb.Y
#579 [我輩は匿名である]
>>りかサン
コメントありがとうございます。
申し訳ありませんが、感想等は感想板の方にお願い致しますm(_ _)m
:10/12/29 13:28
:N08A3
:M/DS/ErQ
#580 [我輩は匿名である]
集合時間を3分遅れて、薫が走って帰ってきた。
担任に頭を下げる薫を、直人は窓越しに見る。
少しやりとりが合った後、薫がバスに乗ってきた。
「おかえりー」
「あぁ…ごめん、怒られなかった…?」
「大丈夫だったよ」
「そう…。なんか…いい感じに嘘ついてありがと…助かった…」
薫は言いながら、直人の隣に座る。
相当ダッシュしてきたらしく、息を吐くたびにゼイゼイいっている。
:10/12/30 17:28
:N08A3
:FW8KT5jQ
#581 [我輩は匿名である]
「大丈夫かよ?」
「あんまり…」
薫は短く答えながら、吸入式の気管支拡張剤を吸い込む。
「…で、どこに何しに行ったんだ?」
「……ガラス館?…に…」
「プレゼントでも買いに?」
:10/12/30 17:28
:N08A3
:FW8KT5jQ
#582 [我輩は匿名である]
「………まぁな……。ガラス館で…買い物したいって言ってたから……」
呼吸を整えながら、薫はちょっと恥ずかしそうに答える。
「香月、大丈夫かなぁ?」
「…響子は割と丈夫なほうだし…大丈夫だろ…」
「そうだな」
全員揃ったのを再確認して、バスはやっと発車した。
:10/12/30 17:29
:N08A3
:FW8KT5jQ
#583 [我輩は匿名である]
ホテルに着いたのは、それから約1時間後の事だった。
部屋に入るなり、直人はベッドにダイブする。
「はぁ〜フカフカ〜♪」
「やめろよ、埃立つだろ」
うっとうしそうに咳払いをしながら、薫もベッドに腰を下ろす。
3人部屋なので少し狭いが、泊まるにはなかなかいいホテルだ。
「今日の晩飯何かなぁー」
直人は寝転がってしおりを広げる。
その横で、薫はふと、さっきから良介が大人しい事に気付いた。
:10/12/30 22:19
:N08A3
:FW8KT5jQ
#584 [我輩は匿名である]
「どうしたんだ?気持ち悪いぐらい大人しいな」
不審そうに尋ねるが、良介はベッドに寝転んで、何も言わない。
「(………変な奴。まぁ元々だけど)」
「飯まで暇だな。テレビでも見るか♪」
直人は2人の空気の悪さに気付く事なく、独り言を言いながら勝手にテレビをつける。
「この時間は何もいい番組ないじゃないか」
「わかんねぇだろ?そんな事。つーか、チャンネルおかしくね?」
:10/12/30 22:20
:N08A3
:FW8KT5jQ
#585 [我輩は匿名である]
「やっぱり君バカだよね。地方が違うんだからチャンネルが変わるのは当たり前じゃないか」
「あぁ!そうか!」
良介に言われて、直人は納得して頷く。
その横で、薫は鞄からルーズリーフを取り出し、テーブルで何か書き始めた。
:10/12/30 22:20
:N08A3
:FW8KT5jQ
#586 [我輩は匿名である]
「…おっ、そろそろ飯の時間じゃね?」
1時間ほどして、直人がふと時計に目をやって言った。
「本当だな。そろそろレストランの前に集まらないとな」
ずっとルーズリーフと睨めっこしていた薫も、それを裏返して立ち上がる。
「さーて、行くか」
テレビを消して、直人もひょいっとベッドから降りる。
「……あ、僕ちょっとトイレ行ってから行くから、先に行ってて」
良介は少し苦笑いして2人に言う。
:10/12/31 10:47
:N08A3
:4teKfjfM
#587 [我輩は匿名である]
「は?待ってるからさっさと行けよ」
「待たれると焦るんだよ。すぐ行くから」
「ふぅん。じゃあ先行くぞ」
直人は何も疑わず、薫を連れて部屋を出た。
部屋に残った良介は、ちょっと間考え込む。
そして、静かにテーブルに近づき、薫のルーズリーフを拾い上げた。
1番上に『響子へ』と書かれたのを見ると、手紙のようだ。
体調を心配している事や、初めての手紙で緊張している事が書かれている。
途中、良介にはすぐに理解できない内容が出てきた。。
:10/12/31 10:47
:N08A3
:4teKfjfM
#588 [我輩は匿名である]
『そういえば、まだカレー作ってませんね。
俺が「飯作る」って言った時の今日子の嬉しそうな顔は、今でもはっきり覚えてます。
思えば、結婚してからあんなに喜ばせた事無かったかも知れませんね。
俺は仕事ばっかりで、家に帰っても今日子に何もしてあげられなかったし…。
だから(って事もないけど)、せめて霜月優也よりはいい男になろうと思います。
……なんか、何を書いてるのかわからなくなってきた。
とりあえず、ゆっくり休んで早く元気になって下さい。 月城薫』
:10/12/31 10:48
:N08A3
:4teKfjfM
#589 [我輩は匿名である]
「(これ…前に言ってた都市伝説の話か…?)」
良介は最後まで目を通し、少しの間立ちすくむ。
そして、またルーズリーフをテーブルに置いて、さっさと部屋を出た。
:10/12/31 10:48
:N08A3
:4teKfjfM
#590 [我輩は匿名である]
夕飯を終えて、薫はある部屋の前に立っていた。
インフルエンザにかかった生徒が隔離されている部屋だ。
ノックをすると、マスクをした養護教諭が出て来た。
「はーい。あら?どうしたの?体調不良?」
「いえ。…4組の香月響子って、いますか?」
「香月さん?いるわよ。今寝てるけど」
「…そうですか。…しんどそうですか?」
:10/12/31 10:50
:N08A3
:4teKfjfM
#591 [我輩は匿名である]
「ううん。予防接種してたらしいから、熱が出てるだけでピンピンしてるわよ。
暇だ暇だってずーっと嘆いてるわ」
養護教諭は笑って話す。
響子らしいな、と思いつつ、薫もホッとしたように笑い返す。
「香月さんに何か用?」
「あぁ、はい。これ…渡してもらえますか?」
薫は今日1人で買いに行ったプレゼントを養護教諭に見せる。
中にはあの手紙も一緒に入っている。
「あら、プレゼント?あら〜♪いいよ、渡しといてあげる。名前は?」
:10/12/31 10:50
:N08A3
:4teKfjfM
#592 [我輩は匿名である]
「8組の月城です」
「月城くん、ね。わかりました。じゃあ起きたら渡しとくわね」
「お願いします」
そう言って、ぺこっと頭を下げる。
「(…何で女って人の恋愛事情で嬉しそうにするんだ…?)」
女が考えることはよくわからないな、と首を傾げながら、薫はその場を後にした。
:10/12/31 10:50
:N08A3
:4teKfjfM
#593 [我輩は匿名である]
その夜。
「……月城、寝た?」
「寝た」
良介に聞かれ、薫は布団の中で寝返りをうちながら答える。
直人はすでに、1人で寝息をたてている。
「……そろそろ教えてくれないか?前言ってた都市伝説の事」
薫は背中を向けたまま、しばらく黙り込む。
「………お前、俺が書いてた手紙読んだだろ」
「えっ!?」
良介は動揺し、声を裏返して聞き返す。
:10/12/31 16:14
:N08A3
:4teKfjfM
#594 [我輩は匿名である]
「な、何の事だ!?」
「あの紙、部屋を出る時に裏返して置いてたのに、帰ってきたら表向いてたし。
あのトイレに行くタイミングも変だったしな」
なんという勘の良さ。良介は白状するしかなかった。
「……悪かったよ」
「悪いにも程があるだろ。これ響子に言ったら確実に嫌われるぞ、お前」
「…………その方がいいかもな」
やけに諦めが良い良介に、薫はちらっと良介に目をやる。
:10/12/31 16:15
:N08A3
:4teKfjfM
#595 [我輩は匿名である]
「……やっぱり無理だと思ったんだ、今日のお前見てて。
僕にはあそこまで出来なかったし、そんな勇気すら無かった。
あんな恥ずかしい手紙も書けないし」
「負け惜しみか?カッコ悪い」
褒めてられているのか貶されているのかわからず、薫は良介に言い返す。
「……あーぁ、負けたよ、僕の負けだ」
良介は吹っ切れたように、仰向けになってため息を吐く。
「あんな手紙読まされたら、割って入る間なんか無いって誰でも思うよな!」
「お前が勝手に読んだだけだろ。俺のせいみたいに言うなよ」
:10/12/31 16:15
:N08A3
:4teKfjfM
#596 [我輩は匿名である]
薫は呆れたように顔を引きつらせる。
「どうせなら今から教えてやろうか?俺と今日子の出会いから新婚生活まで全部」
「聞きたくないね!そんなノロケ話なんか!」
「知りたかったんだろ?俺たちの前世の事」
「いいって言ってるだろ!今さらそんな話聞いてどうしろって言うんだよ!だから嫌いなんだよお前!」
「俺だって嫌いだよ、お前みたいにめんどくさい奴」
2人はいつものように言い合って、しばらく黙る。
:10/12/31 16:16
:N08A3
:4teKfjfM
#597 [我輩は匿名である]
「………おい月城」
「…まだ何かあんのかよ」
いい加減眠そうな顔で、薫は良介に背中を向けたまま聞き返す。
「響子ちゃん泣かせたら、許さないからな」
良介は真面目に薫に言った。
「………お前なんかに言われなくてもわかってるよ」
2人はそれっきり口を開く事はなく、静かに眠りについた。
:10/12/31 16:17
:N08A3
:4teKfjfM
#598 [我輩は匿名である]
2日目。
この日はスキーの予定だが、あいにく外は吹雪。午前中は各自部屋で過ごす事になった。
「暇だなー」
「だったら僕とBattleでもしようじゃないか!」
退屈そうに寝転んでいた直人と薫に、良介が威勢よく声を上げる。
「またかよ…。今度は何だ」
薫が良介に目をやると、彼の手には携帯ゲーム機。
「これぐらい持ってるだろ?」
「上等だ!かかってきやがれ!」
あくまでも上から目線の良介に、直人も薫も言い返す。
:10/12/31 22:26
:N08A3
:4teKfjfM
#599 [我輩は匿名である]
が。
「………無い…」
キャリーバッグの中に手を突っ込んだまま、直人は茫然とする。
「そういえば家のベッドの上にあったよ、あれ」
要がのんきに直人に言う。
「何で家出る前に教えてくんねーんだよ!」
「だって、持ってきていいなんて思わないじゃないか」
「見つからなかったらいいんだよ!」
:10/12/31 22:27
:N08A3
:4teKfjfM
#600 [我輩は匿名である]
「……誰と喋ってるんだ?あいつ」
「…ほっといてやって」
気味が悪そうに直人を見ている良介に、薫はため息を吐く。
「薫…」
直人は泣きそうな顔で振り向く。
「何だよ」
「DS忘れた…」
「知るかよ…」
そんな顔をされても、どうしようもない。薫は苦笑いして答える。
:10/12/31 22:27
:N08A3
:4teKfjfM
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