記憶を売る本屋 2
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#1 [我輩は匿名である]
こちらは、「記憶を売る本屋さん」の続編です

元の話をお読みになってからの方が、話こんがらがらなくて良いと思います

よろしくお願いします

元の話↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/11448/

感想はこちらへ↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4747/

⏰:10/04/18 12:12 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#2 [我輩は匿名である]
アンカーです
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⏰:10/04/18 12:17 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#3 [我輩は匿名である]
2学期になった。

「はぁ〜…」

ボサボサな頭で欠伸をしながら、直人は学校に向かって歩いていた。

昨日徹夜をしたが、夏休みの宿題は全く終わっていない。

「おはよ」

誰かがポンと、直人の背中を叩く。

横を見ると、飛鳥がいた。

「あぁ…久しぶり」

直人は弱々しく挨拶する。

⏰:10/04/18 20:18 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#4 [我輩は匿名である]
「何?珍しく元気ないじゃん。…宿題終わらなかったんでしょ」

飛鳥は見透かすように笑って直人に言った。

「終わるわけないだろ、あんなもん。お前終わったのかよ?」

「当たり前じゃん。答え見ながらやれば楽勝」

「最悪な奴だな、お前」

誇らしげに笑っている飛鳥に、直人は顔をしかめる。

⏰:10/04/18 20:49 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#5 [我輩は匿名である]
「…あ」

正面を見ていた飛鳥が声を上げる。

「何だよ」

「あの2人、相変わらずラブラブだね」

飛鳥が指差す先には、薫と響子の姿。

⏰:10/04/18 20:50 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#6 [我輩は匿名である]
「眠たいねー…」

響子は大きく欠伸をする。

「夏休みだらけてたからな…」

薫もいつもよりボーッとしている。

「んー…あっ、猫!」

響子は明るく言って、1人電柱に近づいていく。

それにつられて、薫も響子の後ろで立ち止まる。

⏰:10/04/18 20:50 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#7 [我輩は匿名である]
「…響子、犬好きじゃなかったか?」

「それは“昔”の話。今は猫のほうが好きなの」

響子は笑って言いながら、携帯電話のカメラで猫を撮る。

首輪を付けているので、どこかで飼われているのだろう。

勝手に撫でたり顎を触っている響子を見て、薫は穏やかな笑みを浮かべる。

「何朝からニヤけてんだよ、気持ち悪い」

薫に不機嫌そうに言いながら、直人は薫に寄り掛かる。

⏰:10/04/18 20:51 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#8 [我輩は匿名である]
「ニヤけてねぇよ」

「思いっきりニヤけてただろ」

朝から軽く言い合いを始める直人達の隣で、響子と飛鳥が「おはよう」と笑い合う。

「騒がしい」とでも思ったのか、猫は響子の手を離れ、どこかへ行ってしまった。

「あーあ、行っちゃった」

響子は残念そうにため息をついて、飛鳥と一緒に歩きだす。

⏰:10/04/18 20:51 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#9 [我輩は匿名である]
「どーせエロい事でも考えてたんだろ?そんな顔してたぞ」

「してない」

「そうよ!薫は頭の中では考えてても、顔には絶対出さないんだから!」

「それ、結局考えてるって事じゃ…」

4人は騒ぎながら登校する。

⏰:10/04/18 20:52 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#10 [我輩は匿名である]
あれから、あの老人は現れなくなった。「見た」という話も聞かない。

薫はやっと鎖骨骨折の治療が終わり、相変わらず響子と、すでに夫婦のような雰囲気を醸し出している。

飛鳥は奏子に誘われたカフェでアルバイトを始め、もう4ヶ月になる。

奏子と響子を中心に、やっとクラスの女子達とも話せるようになってきた。

奏子も響子も飛鳥を受け入れ、いつも一緒に行動している。

直人も相変わらず、毎日ボーッとして過ごしている。

⏰:10/04/19 10:10 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#11 [我輩は匿名である]
「言っとくけどなぁ、男はみんなそういう事考えてしまう生き物なんだよ!」

「はぁ!?お前だけだろバーカ!」

「でも水無月の方がエロ本とか持ってそうなイメージあるよね」

「読まねぇよエロ本なんか!」

直人は顔を赤くして否定する。

必死になる直人に、3人は大笑いする。

「つーか、さっきのこいつの発言はスルーかよ!?」

⏰:10/04/19 10:10 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#12 [我輩は匿名である]
「いいの。ちょっとやらしい方が男らしいでしょ?」

「え、月城って…」

飛鳥は意外そうに薫を見る。

「…なんか入院してる時にも安斎にそんな目で見られたな…」

薫は鬱陶しそうにため息をつく。

「そうだ、あん時照れて俺たちの事追い出したのに、何で今はそんな余裕なんだよ」

「もうどう思われようが、どうでも良くなってきた。

それに、響子の話だと俺は男らしいって事になるしな」

「何だよそれ…」

直人は呆れながら薫を見る。

⏰:10/04/19 10:11 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#13 [我輩は匿名である]
学校に到着し、4人はそれぞれ靴を履き換える。

「あっ!みんなおはよー!」

今度は明るい奏子の声が聞こえてきた。

「おう、久しぶり!」

直人も同じようなテンションで返事する。

「さっき聞いたんだけどね、響子のクラスの転入生来るらしいよー」

「は?転入生?」

直人達はきょとんとする。

⏰:10/04/19 10:11 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#14 [我輩は匿名である]
「へぇー、男かなぁ?私女がいいなぁ」

響子は期待しながら下履きを靴箱に入れる。

それに対し、奏子は「えー私イケメンがいい!」と反論している。

いつもの5人が揃った所で、直人達は教室に向かって階段を上る。

「ねぇねぇ、みんな宿題終わった?」

奏子が後ろを向きながら話し掛ける。

「終わった」

「え!?飛鳥はやっ!」

⏰:10/04/19 10:12 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#15 [我輩は匿名である]
そう言った瞬間、奏子が階段を踏み外した。

「うわっ……」

「えっ、ちょ…」

奏子のすぐ下にいた直人は、左手でとっさに手摺りを掴み、右手でバランスを崩した奏子の体を受け止めた。

薫も響子も飛鳥も、息を呑んでその状況を見つめる。

「お前…喋るか歩くかどっちかにしろよ…」

直人は「世話が焼ける」と、ホッと息を吐く。

⏰:10/04/19 10:12 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#16 [我輩は匿名である]
「ごっ…ごめん…」

奏子は体勢を立て直して直人から離れる。

「ありがと…」

「ん。気を付けないと、誰かさんみたいに鎖骨折るぞ」

「あー誰の事だろうな」

直人に見られ、薫はさっさと階段を上る。

⏰:10/04/19 10:12 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#17 [我輩は匿名である]
安心して、みんなも足を動かし始める。

しかし、奏子はなかなか足が動かなかった。

少し頬が熱くなっている。

奏子は一歩引いて、直人の背中を見ながら階段を上がった。

⏰:10/04/19 10:13 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#18 [我輩は匿名である]
全校集会で校長の話を聞いて来て、生徒達はぞろぞろ帰ってきて自分の席に座る。

響子もおとなしく、自分の席でボーッとする。

「はーいおはようございまーす」

チャイムが鳴り終わると同時に、響子達の担任が入ってきた。

学級委員の掛け声で、クラスメイト立ちが立ち上がり、礼をして着席する。

⏰:10/04/19 18:30 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#19 [我輩は匿名である]
「そうそう、今日からねぇ、このクラスに転入生が来ます。男の子ですー」

まだ30歳くらいの担任は、いつもの可愛らしい笑顔で言った。

教室内が一斉にざわめく。

「…奏子ちゃんが言ってたの、本当だったんだ…」

机に肘をついて、響子は呟く。

信じていなかったわけではなかったのだが、改めて驚く。

「(女の子が良かったのになぁー…)」

響子が考えていると、担任の「入ってー」の合図で、前のドアが開いた。

⏰:10/04/19 18:31 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#20 [我輩は匿名である]
入ってきたのは、少しロン毛がかった茶髪に細身で長身の、優しそうな顔の男子。

女子が再度ザワザワと声を上げる。

「(…ん…?あの子どっかで…)」

彼を見て、響子は1人首を傾げる。

桐生 良介。

担任が黒板に名前を書いた。

「…キリュウ…リョウスケ…」

名前にも聞き覚えがあるが、響子はどうしても思い出せない。

「桐生良介くんです。じゃあ簡単に自己紹介を」

「はい」

⏰:10/04/19 18:32 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#21 [我輩は匿名である]
転入生は笑顔で返事をして、生徒の方を向く。

「桐生良介です。5歳まで隣町に住んでたんですけど、父の転勤でアメリカにいました」

要するに、帰国子女ってやつだ。

響子の前の女子達が、嬉しそうにはしゃぐ。

「この辺もだいぶ変わってて何にもわからないんですけど、

楽しくやっていきたいと思うので、仲良くして下さい。よろしくお願いします」

桐生良介はそう言って一礼する。

クラスメイトが歓迎の拍手を送る。

⏰:10/04/19 18:32 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#22 [我輩は匿名である]
「(……隣町……アメリカ……)」

響子は手を叩きながら考える。

そして、ふと思い出した。

「(……もしかして…隣の隣に住んでた、あの“良介くん”…?)」

響子が幼稚園の時に、近所の同い年の男の子が引っ越していった気がする。

幼なじみだったのだが、すっかり忘れていた。

⏰:10/04/19 18:32 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#23 [我輩は匿名である]
休み時間になり、良介の周りは女子でいっぱいだ。

響子は暇なので8組にでも行こうと、席を立つ。

それを良介がたまたま見ていた。

「ねぇ、あの子は?」

ちょうど出ていく所だった響子を指差す。

「あぁ、あの子は香月響子ちゃん」

「えっ!?香月響子!?」

良介が驚いて立ち上がる。

そして、響子を追い掛けるようにして教室を出た。

⏰:10/04/20 10:09 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#24 [我輩は匿名である]
「あぁ、響子」

8組では、黒板の前であの4人が喋っていた。

薫に呼ばれて、響子も輪の中に入る。

「どうだった?転入生」

「それが…」

「響子ちゃぁぁぁん!」

廊下で誰かが叫ぶ声がした。

5人がぎょっとして見ていると、良介が走ってやって来た。

⏰:10/04/20 10:10 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#25 [我輩は匿名である]
「…誰?」

鬱陶しそうに奏子が尋ねる。

「てんにゅ…」

「君だね!?君が響子ちゃんだね!?」

良介はそう言って、目を輝かせながら飛鳥の手を握る。

「はぁ?何だよ、あんた」

「えっ?僕の事覚えてないの!?」

「…香月響子は私です…」

響子がしぶしぶ手を挙げる。

⏰:10/04/20 10:10 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#26 [我輩は匿名である]
良介は「へ?」と響子を見る。

「………えっ?君が響子ちゃん?」

「うん…」

「……さっきから『響子ちゃん、響子ちゃん』と馴れ馴れしい…」

歓声を上げる良介に、薫が顔をしかめる。

「ねっ!僕の事覚えてる!?君の隣の隣に住んでた良介だよ!

あーっ、やっと会えた!元気だった!?身長縮んだね!?」

良介は今度は響子の両手を握りなおす。

⏰:10/04/20 10:11 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#27 [我輩は匿名である]
「(…なんだこのテンション…うぜぇ…)」

「(…縮んだって…)」

「(イケメン…♪)」

3人がそれぞれ思っていると、薫が不機嫌そうに良介の手を振り払った。

「いきなり入ってきて何なんだ?馴れ馴れしく手なんか握りやがって…」

「…何って、僕響子ちゃんのフィアンセだよ?」

良介は当然のように言い放つ。

その一言に、直人達だけでなく、教室中が静まり返った。

⏰:10/04/20 10:12 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#28 [我輩は匿名である]
「…お前…ふざけてるのか…?」

薫は哀れみを込めた目で良介を見る。

「ふざけてないよ。約束したもん、響子ちゃんと」

「は!?」

響子がすぐさま「違う違う」と手を振る。

薫と響子が付き合っている事を知っているクラスメイト達が、良介を見て笑っている。

「違わないよ!幼稚園の時に『大人になったら結婚しようね』って言ったら、

響子ちゃんも『うん♪』って言ってくれたじゃないか!」

「お前…これ以上いい加減な事言ったらぶっ飛ばすぞ…!」

薫の怒りが頂点に達しかけている。

⏰:10/04/20 10:12 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#29 [我輩は匿名である]
が、良介は動じずに首を傾げる。

「っていうか、君誰?」

「俺は!香月響子の彼氏だ!!」

薫は思わず声を荒げる。

クラスメイト達が喜んで声を上げ、薫に拍手を送る。

が、薫は今それどころじゃない。

良介の胸倉を掴み、睨み付ける。

「これ以上響子に手ぇ出したら…殺す…!」

本気で殴り殺しそうな薫に、直人達もおろおろする。

⏰:10/04/20 10:13 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#30 [我輩は匿名である]
…が。

「ワーォ!ジャパニーズボーイこわーい☆」

良介はへらっと笑って言った。

薫の顔が引きつる。

「…地獄に落ちろぉぉぉぉーーー!!!!」

「わあぁぁぁっ!薫!!落ち着けー!!」

良介に殴りかかる薫を、直人や周りにいた男子が慌てて止める。

その間に、響子は奏子と飛鳥の後ろに避難する。

薫が押さえられているのを良い事に、良介は笑いながら、「響子ちゃん!また後でねー」と出ていった。

⏰:10/04/20 10:13 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#31 [我輩は匿名である]
「…何だったんだ…?」

飛鳥と奏子は呆れ返る。

「…許さん……絶対後で殺す…!」

薫は息を荒くしてドアの方を睨む。

直人は、「また何かややこしい事になりそうだ」とため息をついた。

⏰:10/04/20 10:14 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#32 [我輩は匿名である]
帰り道。

薫はまたもや顔を引きつらせる。

目の前には、満面の笑みを浮かべた良介の姿。

「……お前…ケンカ売りに来たのか…?」

「まさか♪」

「つーか、お前誰?」

薫の代わりに直人が尋ねる。

横には呆れている飛鳥と、ちょっと楽しんでいる奏子。

響子は薫の後ろに身を隠している。

⏰:10/04/20 21:30 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#33 [我輩は匿名である]
「僕かい?僕は桐生良介。響子ちゃんのフィ」

「響子の婚約者は俺だ」

良介が言い切る前に、薫が言い張る。

「なぁ、お前何か、勘違いしてねぇか?」

「そんな事はないよ!愛する幼なじみの顔を、僕が忘れるはずがない!」

「幼なじみって、5歳までじゃない!」

薫の後ろから、響子が顔を出して言い返す。

「えっ?やっぱり幼なじみなの?」

奏子がぽかんとして尋ねる。

⏰:10/04/20 21:31 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#34 [我輩は匿名である]
「お、幼なじみだったのは覚えてるよ!?

でも、私は結婚の約束なんかしてないし、私の婚約者はこの月城薫ただ1人よ!」

響子が言うと、良介は「オーマイガッ!」と頭を抱えた。

「(効いた…)」

直人、奏子、飛鳥は呆然とそれを見つめる。

「(…何なんだ、こいつのテンション…)」

薫は「はぁ…」とため息をつく。

しかしその直後、薫の鼻先に、良介の人差し指が伸びてきた。

⏰:10/04/20 21:31 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#35 [我輩は匿名である]
「まぁいいよ!今のうちに好きなだけKissでもSexでもやればいい!

しかし!すぐにこの僕が響子ちゃんを取り戻すからなっ!

覚悟してろよ!つ、…つ…つ……?」

「月城薫だよ…」

怒鳴る元気も無くなって、薫は呆れながら言う。

良介はフン!と鼻息荒く、走って帰っていった。

「…お前みたいなわけわかんねぇ奴に言われなくても、キスでも何でもやってるよ…」

薫は頭を抱える。

⏰:10/04/20 21:32 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#36 [我輩は匿名である]
「…薫…」

少し横を向けば、響子が不安そうに薫を見上げている。

「…大丈夫だよ、そんな顔しなくても、あの変人の言う事は信じてないから」

薫は少し笑って、響子の頭を撫でる。

そして、5人は学校を出ようと歩きだす。

「…何か、英語の発音は良かったな」

「うん」

直人達も呆れたように話し合う。

⏰:10/04/21 17:37 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#37 [我輩は匿名である]
「あの子、帰国子女なのよ。アメリカから帰ってきたんだ…」

「帰国子女!?」

薫以外の3人は声を上げて驚く。

「なんか、お父さんの転勤で5歳の時にアメリカに……」

言いながら、響子は足を止める。

『りょーすけくん、いっちゃうの?』

『うん。あめりかだって』

響子はうっすら思い出してきた。

⏰:10/04/21 17:38 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#38 [我輩は匿名である]
『あめりか?がいこくだね!』

幼稚園児の響子は、良介がアメリカに発つ日に、家の前で見送っていた。

『げんきでねっ♪』

『うん!もしまたあえたら、ぼくと…』

良介が何か言ったが、ちょうど近所の犬が大声で吠えたため、響子は聞き取れなかった。

『ねっ!?』

良介が笑って言った。

それに、響子は適当に『うん!』と返事をしたのだたった。

⏰:10/04/21 17:38 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#39 [我輩は匿名である]
「…ああぁぁぁぁぁ〜………」

響子は頭を抱えて、その場に崩れ落ちる。

急に座り込んだ響子に、直人達は驚いて「うわぁ!?」と声を上げる。

「ど、どうした!?」

薫もびっくりして、響子の前にしゃがみこむ。

「…どうしよう…」

響子は頭を抱えたまま小声で言う。

「え?」

⏰:10/04/21 17:39 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#40 [我輩は匿名である]
「あの時、あの子『結婚しようね』って言ったのかなぁ…?

だったら…だったらどうしよう…」

響子は思い詰めて涙目になる。

「響子…?」

「薫…どうしよう…?私…あの時適当に『うん』って言っちゃった…。

何て言ったのか聞こえなかったけど、適当に返事しちゃったの…。

どうしよう…?私…嫌だよぉ……」

響子はしゃがんだまま、今にも泣きだしそうな顔をしている。

⏰:10/04/21 17:40 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#41 [我輩は匿名である]
「響子」

薫が呆れたように笑う。

「そんな小さい時の事なんか、覚えてなくて当たり前だ。

それに、適当に返事したんならなおさら、そんな物約束だとは言えない。

そんな泣かなくても、俺は何とも思ってないよ」

「…本当…?」

響子は顔を上げる。

「……何とも思ってないわけないだろ…」

薫は低い声で言った。

⏰:10/04/21 17:40 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#42 [我輩は匿名である]
「へ?」

「あんなわけのわからないアメリカかぶれに…響子を渡してたまるか…。

『僕がフィアンセだ』ぁ?ふざけんじゃねぇぞ…」

思い出したら機嫌が悪くなってきたのか、薫の周りを黒いオーラが漂い始める。

「ヤべぇ…キレかけてる…」

直人が「どうしよう」と、奏子と飛鳥を交互に見る。

⏰:10/04/21 17:40 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#43 [我輩は匿名である]
しかし、直人の心配をよそに、響子がそっと、薫にキスをした。

奏子が「きゃあーっ♪」と声を上げる。

「……響子…」

薫は少し頬を赤らめる。

「…私が好きなのは、薫だけだから。絶対薫以外変わらないからね」

響子は困った表情をしていたが、それだけははっきりと、迷う事無く言った。

⏰:10/04/21 17:41 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#44 [我輩は匿名である]
「…うん」

薫も安心したようにまた笑い、響子を強く抱き締める。

「………ついていけねぇ……薫、先帰るぞ」

直人はそう言って、早足で歩きだした。

つられて、飛鳥と奏子も直人と一緒に歩き始めた。

⏰:10/04/21 17:41 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#45 [我輩は匿名である]
「いやぁー、純愛ですなぁー」

しばらく歩いて、奏子は腕を組みながら言った。

「どこのおっさんだよ、お前」

「だってさぁ、憧れるじゃない?ね?飛鳥」

奏子は飛鳥にも話を振る。

「…そうだね」

飛鳥も小さく笑って同意した。

その顔が、石川晶が喜んだ時の顔にそっくりで、直人は少しドキッとする。

⏰:10/04/21 22:05 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#46 [我輩は匿名である]
夏休みの前に言われた、響子の『やっぱりあの子が好きなの?』と言う言葉が甦る。

「(…って言われても…)」

直人は横目で、楽しそうに話している飛鳥を見つめる。

「そんな事聞かれてもなぁ…」

「ん、何か言った?」

直人の独り言が聞こえたのか、奏子がこっちを向く。

「へっ!?い、いや、別に…」

「怪しいな」

「怪しくねぇよ!」

怪しむ飛鳥に、直人は声を荒げて否定する。

⏰:10/04/21 22:05 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#47 [我輩は匿名である]
「…お前らにも、好きな奴とかいんの?」

直人は何気なく2人に聞いてみる。

「私は…まだそれどころじゃないしなぁ…」

飛鳥はふうっと一息つく。

「まだ親とも話してないし…4ヶ月経ってもバイトにはまだまだ慣れないし。

生きるのに精一杯って感じ…かな…」

そう言いつつ、飛鳥の表情は、どこか晴れ晴れとしている。

⏰:10/04/21 22:06 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#48 [我輩は匿名である]
直人はそれを見て、少し笑う。

それを、奏子は黙って見つめる。

「お前は?」

直人は奏子に聞き直す。

「えっ!?」

「お前イケメン好きとか言ってたから、あのアメリカかぶれとか、いんじゃねぇの?」

「はぁ!?何で私があんな奴と!」

奏子は全力で否定する。

「いいじゃん、お似合いじゃねーか」

直人は「うんうん」と自分で納得する。

⏰:10/04/21 22:06 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#49 [我輩は匿名である]
横では飛鳥が笑っている。

奏子はしばらくムスッとしていたが、何となく直人を見上げる。

「(…こいつは…好きな人いるのかなぁ…?)」

「あ、そういえば、バイト楽しいか?」

「うん、店長が相変わらず怖いけど、やっと一通り出来るようになったかな」

「へぇ。じゃあそろそろ行ってみねーとな!」

「来なくていいから!」

「何でだよ!いいじゃん別に!」

「来たら紅茶ぶっかけるから!」

「それ損するのお前だろ」

⏰:10/04/21 22:07 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#50 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥が仲良く言い合いをしている。

「(…やっぱり、飛鳥が好きなのかなぁ…?)」

そう思うと、何だか虚しくなってきて、奏子は首を振って考えないようにした。

⏰:10/04/21 22:07 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#51 [我輩は匿名である]
次の日は課題テストだった。

すっかり忘れていた直人は、魂が抜けたように呆然とする。

しかし、もっと大変なのは薫だった。

「おい月島!」

「月城、だ」

今日も懲りずにやってきた良介に、うんざりしたように訂正する。

⏰:10/04/21 22:08 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#52 [我輩は匿名である]
「今日課題試験なんだろう?だったら僕とBattleしろ!」

「面倒だから断る」

「逃げるのか!?」

早くも勝ち誇った顔をする良介に、薫は眉をピクつかせる。

「なんでお前とバトルしないといけないんだ?」

「勝ったら響子ちゃんを返してもらうんだ!」

「やだ」

「何なんだお前は!?月島!お前にはPrideというものはないのか!?」

「だから月城だ。それにプライドどうこういう話じゃないだろ。

響子が聞いたら俺に泣き付いてくるだろうなぁ」

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#53 [我輩は匿名である]
「抱きつくだと!?そんな事させないぞ!」

「(あぁ…もう言い間違いも聞き間違いもどうでも良くなってきた…)」

やけに気負っている良介に、薫は早くも呆れムードになってきた。

「(…でもまぁ、響子の事は抜きで、ちょっと見返してやっても良いな)」

薫はニヤッと小さく笑う。

「なぁ、桐生。今回は響子の話は抜きにして、点数バトルだけやってみないか?」

「何だと!?」

「今回は課題テストだ。宿題やってればそこそこ点数が取れる。

どうせなら期末とかの実力テストで競う方がやりがいあるだろ」

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#54 [我輩は匿名である]
「…ふむ」

良介は腕を組んで考え込む。

そして、少し経って「いいだろう!」と答えを出した。

「月島!絶対に手を抜くなよ!」

「はいはいわかりましたよ」

適当に返事をすると、良介は気合いを入れて8組を出て行った。

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#55 [我輩は匿名である]
「月城、あいつ見返してやれよな!」

クラスの男子たちが、薫に声援を送る。

「あぁ」

「あいつ、入ってきてそうそう、女子にちやほやされやがってさぁ…」

「あぁ…」

「でも、月城くんこの間学年1位だったから、楽勝なんじゃない?」

「いや、どうかわかんないけど…まぁ頑張るよ」

薫は笑ってみせる。

「(学年1位…あぁ…そう言えばあいつ1位だったな…。

俺110位っていう超微妙な順位だったのに…)」

⏰:10/04/21 22:10 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#56 [我輩は匿名である]
この学年は生徒が320人いるため、直人の順位もそこまで悪くないのだが、

親友が1位という事を考えるだけで、何となく欝になってくる。

「やっぱ頭良いんだね、月城」

斜め後ろの席にいる飛鳥が、直人の傍にやって来た。

「よく1位とか取れるよな、脳みそどうなってんだか」

「ははっ、あんた何位だっけ?」

「110位」

「…警察呼べそうな順位だね」

⏰:10/04/21 22:10 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#57 [我輩は匿名である]
「何ちょっと上手いこと言ってんだよ。そういうお前は?」

「あたしは101位」

「俺が警察ならお前は犬じゃねぇかよ」

2人は何だか面白くなって笑いだす。

すると、学校中にチャイムが鳴り響いた。

「ま、お互い月城に近付けるように頑張ろ」

「おうよ」

飛鳥は笑って、自分の席に戻った。

⏰:10/04/21 22:11 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#58 [我輩は匿名である]
「え?あのアメリカンと月城くんが点数バトル?」

バイトに行く途中、飛鳥は今日の薫達の話を奏子に聞かせた。

「まぁ、月城くんなら1学期の期末1位だったから、楽勝だろうけどね」

「そうだよね」

奏子と飛鳥はそろって頷く。

「今回は順位2桁だったらいいなぁ…」

飛鳥は「はぁ…」とため息をつく。

「何で2桁取りたいの?」

「2桁っていうか、出来れば1桁取りたいんだけどね」

⏰:10/04/21 22:12 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#59 [我輩は匿名である]
「えっ!?何で!?」

奏子に聞かれ、飛鳥は少し躊躇いながら答える。

「…私、…親を見返してやりたいの」

「…親?」

「うん。私の親、弟しか見てないから…いい成績とって見せてやりたいんだ」

「へぇ…」

飛鳥の話に、奏子はきょとんとする。

「最初は親なんかどうでも良かったんだけどさ。

でも…水無月に元気付けられてから、自分にも何か出来そうな気がしてきて…」

⏰:10/04/21 22:13 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#60 [我輩は匿名である]
飛鳥は柔らかな笑顔を見せる。

奏子は黙って、その横顔を見つめる。

「…飛鳥はやっぱり、水無月の事好きなの?」

「へ?」

思いもしない質問をされて、飛鳥は素早く奏子を見る。

「ま、まさかー!」

飛鳥は手を振りながら否定する。

「そ…そうだよねー。ごめん、何か変な事聞いた!」

奏子は「へへへ」と笑う。

⏰:10/04/21 22:13 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#61 [我輩は匿名である]
「(…好き…じゃない、よな…」

飛鳥は答えてから、自分の心臓の鼓動が高鳴っているのに気付いた。

「(……そりゃ…晶と要はそうだったけど……、私は…)」

考えれば考えるほど、何だか胸が熱くなる。

「(……水無月は……私の事、どう思ってるんだろ…?)」

「飛鳥!」

⏰:10/04/21 22:14 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#62 [我輩は匿名である]
奏子が飛鳥の腕を掴む。

「へっ?」

振り向くと、アルバイト先のカフェを通りすぎかけていた。

「あれっ?ごめんごめん」

飛鳥は笑いながら店の中に入る。

奏子も何だか少しモヤモヤした気持ちで入っていった。

⏰:10/04/21 22:14 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#63 [我輩は匿名である]
4日後。

廊下に張り出された課題テストの順位を見て、一年生のほぼ全生徒が愕然とした。

直人は100位、飛鳥は98位、響子は121位、奏子は165位だった。

しかし、4人とも自分の順位など、もはやどうでも良かった。

「薫が…」

「2位…?」

「ええーっ!?」

直人、飛鳥、奏子が茫然とする横で、響子と薫が凍り付いている。

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#64 [我輩は匿名である]
『2位:月城 薫(8組) 498点』

の上に1行、

『1位:桐生 良介(4組) 499点』

と書いてあった。

「月城ー!」

クラスの男子たちが薫に詰め寄る。

「何であと2点頑張れなかったんだぁー!?」

「…これでも自己ベストなのに…」

肩を持って揺さ振られながら、薫はブツブツ呟く。

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#65 [我輩は匿名である]
「おい月島!」

その声に、クラスメイトの手が止まる。

見ると、自信有りげな顔をした良介が立っていた。

「(来たーーーっ!!)」

薫以外の4人が縮こまる。

「お前、名前すらないじゃないか」

「お前のすぐ下にあるだろ」

「What's?」

良介は成績表とにらめっこする。

「ん?お前、月島じゃなくて月城(つきじょう)だったのか」

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#66 [我輩は匿名である]
「惜しいな、月城(つきしろ)だ」

何故か反対に、薫が良介を見下した言い方をして威張る。

「おっ、惜しいのはお前の方だろ!

まさかお前、負けるのがわかってたから響子ちゃんを渡さないように…!?」

「さぁな?でも…」

薫はフッと笑う。

「次は負けねぇからな…」

良介の目の前で、薫は宣言する。

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#67 [我輩は匿名である]
「のぞくところだ!」

「あぁー惜しいな、のぞ“む”だな」

「だっ、黙れ!覚えてろよ!次こそは響子ちゃんを返してもらうからな!」

良介はキッと睨み返して、自分の教室に戻っていった。

「…何でテストの順位で響子の婚約者を決めなきゃいけないんだ…」

さっきまで威勢が良かったのに、薫は急に暗くなって壁にもたれかかる。

「…薫…」

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#68 [我輩は匿名である]
「…いや、やっぱりおかしいだろ」

薫はもたれるのを止め、しゃきっと立つ。

そして、響子の方を向いた。

「やっぱ、断ってくる」

「へ?」

「だって、おかしいだろ?お前だって、他人の点数で彼氏決められるなんて…」

そう言われて、響子も「…うーん…」と頭を悩ませる。

「ちょっと、あいつに言って来る。響子はここにいろ」

そう言って、薫は良介の後を追った。

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#69 [我輩は匿名である]
「おい、桐生」

薫に呼び止められ、良介は足を止めて振り向く。

「…俺、やっぱり勝負降りる」

薫はきっぱりと言い張った。

その言葉に、良介はフッと、余裕の笑みをこぼす。

「僕に勝てないから?」

薫は心底イラッとしたが、冷静に「そうじゃない」と言い返す。

⏰:10/04/22 18:38 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#70 [我輩は匿名である]
「同じ事じゃないか。僕に負けて、響子ちゃんを取られるのが怖いんだろう?

そうだよねぇ。あんだけ自信満々で話に乗ったのに、負けたんだからね」

「…お前…!」

「知ってる?響子ちゃんの好きな男のタイプ。

格好よくて、優しくて、頭が良い男だって。

君、そんな事知らないだろ?」

良介はまるで、薫を見下すような言い方で笑う。

「…そんなもん、ガキの時の話だろ」

薫は良介を睨みながら言い返す。

⏰:10/04/22 18:38 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#71 [我輩は匿名である]
しかし、良介の表情は変わらない。

「残念だけど、今君に何言われても、負け犬の遠吠えにしか聞こえないよ?

悪いけど、君に勝ち目は無いと思うけどな。まぁ、頑張ってみれば?」

良介は笑って、教室に入っていった。

廊下に残った薫は1人、黙ってうつむいて、両手を握り締めていた。

⏰:10/04/22 18:39 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#72 [我輩は匿名である]
「そう言えば神崎、お前2桁だったじゃん」

教室に入って、直人は飛鳥に言った。

「ん?あぁ、見てたんだ」

「俺も2点足らずでお前に負けたんだ…。薫の気持ちがよくわかる…」

席についてすぐ、直人は頭を抱えてため息をつく。

「何よ、そっちか…」

「…おっと、そういう話じゃねぇな」

単純な直人は、飛鳥の方を向いて笑いかける。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#73 [我輩は匿名である]
「やるじゃん!そろそろ親もちょっとはお前の事見直すんじゃね?」

「…まだまだ」

飛鳥は苦笑する。

「弟の1番良かった順位は、9位らしい。だから、私は8位以上を目指すって決めてんだ」

「マジで?でもこれから、1位2位はあのアメリカンと薫が占めるだろうから…

3位〜8位…6人しか枠がないぞ?」

「…まぁ、何とかなるっしょ。ダメそうなら月城に勉強でも教えてもらうわ」

「あぁ、それがいいな」

2人は話ながら笑い合う。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#74 [我輩は匿名である]
「……水無月さぁ」

飛鳥は何気なく話を変える。

「あん?」

「…もし私が…」

そこまで言って、飛鳥はハッと言うのをやめた。

「…えっ?何だよ?」

「…ごめん、やっぱ何にもない。忘れて」

「はっ??」

ぽかんとしている直人を見ずに、飛鳥は自分の席に戻った。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#75 [我輩は匿名である]
その夜、直人はベッドに寝転んでボーッと考えていた。

今日、飛鳥は自分に何を言おうとしていたのか。

あの時の飛鳥の顔は、いつものような表情ではなかった。

直人はそれが気になっていたのだ。

「(…別に怒ってるような顔でもなかったし…何だったんだろ?)」

ふと、響子の『鈍感ね』という言葉が頭に浮かぶ。

あの言葉は、こういう事を指しているのだろうか。

「……って事は…やっぱ俺、気に障るような事したのか…?」

直人はしばし、黙って考える。

しかし、答えが出ないまま眠りに落ちてしまった。

⏰:10/04/23 18:59 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#76 [我輩は匿名である]
ある日。

掃除当番だった直人は、同じく当番だった飛鳥と奏子と一緒に帰っていた。

薫と響子は、すでに先に学校を出ている。

「…ん?」

道端で、直人はふと足を止める。

視線の先には、スーパーの重そうな袋を両手に下げて立ち止まっているおばあさんの姿。

「どうかしたの?」

奏子が直人に尋ねる。

「…ちょっとな」

⏰:10/04/23 18:59 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#77 [我輩は匿名である]
直人はそれだけ言って、おばあさんに近づく。

飛鳥と奏子は、その場で様子をうかがう。

「ばあさん、大丈夫か?」

直人はおばあさんに声をかける。

「はぁい?」

おばあさんが顔を上げて、直人を見る。

そして、「あぁ、あんたは…!」と驚きの声を上げた。

「…へ?」

「あんた、あの時の子で……」

おばあさんはそこまで言い掛けて、「ん?」と考え直す。

⏰:10/04/23 19:00 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#78 [我輩は匿名である]
「…あぁ、私ったらすごい勘違いしたわ。もうあれから40年くらい経ってるのに」

おばあさんはそう言って、上品な笑い声を上げる。

直人は「ん?」と首をかしげる。

「…まぁそれより、それ重くないか?俺運んでってやろうか?」

「あら、本当?…でも、悪いし…」

「いいよ、荷物運ぶぐらい。歩きって事は、家もそんな遠くないんだろ?」

「…行ってみよっか」

2人のやり取りが気になって、飛鳥も直人達の所まで歩く。

⏰:10/04/24 12:46 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#79 [我輩は匿名である]
奏子はおばあさんを見て、「もしかして…」と声を漏らす。

「じゃあ…運んでもらえる?」

「おう、いいぜ」

直人は快く言って、おばあさんから荷物を受け取る。

「…私も何か持とうか?」

飛鳥はどういう話なのかすぐに理解して、直人に声をかける。

「え?いいよ、別に」

「でも、重そうだし…」

そう言われて、直人は「まぁ確かに…」と心の中で思う。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#80 [我輩は匿名である]
「あ、じゃあ1個持って」

「あぁ、いいよ」

飛鳥は頷いて、代わりに直人の鞄を持った。

「なんか、悪いわねぇ…」

「いいですよ、私も暇だから」

「私“も”って何だよ?俺が暇みたいだろ」

「だって暇じゃん」

2人が言い合っている間に、奏子も駆け寄ってきて、おばあさんの顔を見る。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#81 [我輩は匿名である]
「あ、やっぱりおばあちゃんじゃん!」

「あらぁ、奏子のお友達だったの」

「………え?」

2人の会話に、直人と飛鳥はきょとんとする。

「この人、うちのおばあちゃんだよ♪」

「マジで!?」

「こ、こんにちは…」

「あらあら、こんにちは」

直人と飛鳥がびっくりしている横で、奏子のおばあさんが笑う。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#82 [我輩は匿名である]
「あ、うちの家こっちだから、ついてきて」

奏子はそう言って歩きだす。

2人もぽかんとしたままついていく。

「あらぁ、しかしまぁ、あなた、私が昔会った男の子にそっくりだわ」

おばあさんが懐かしそうに直人に言った。

「そんなにそっくりなのか?」

「…敬語使いなよ」

「あ?あぁ、そうか」

「あーいいわよ、そんな気を遣わなくても」

おばあさんはまた笑う。

⏰:10/04/24 12:48 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#83 [我輩は匿名である]
「そうねぇ。私がむかーし、姫崎公園に行きたかったのに、迷っちゃってねぇ」

「…え?」

直人は思わずおばあさんの顔を見る。

「その時に、道案内してくれた男の子がいたのよ。

あなたが、その子にあんまりそっくりだったから、つい…」

「道案内…って…」

飛鳥もハッと、直人を見る。

「あの子、元気かしらねぇ…?」

おばあさんは微笑みながら呟いた。

⏰:10/04/24 12:48 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#84 [我輩は匿名である]
直人は少し考える。

「あ、そう言えばあの子、お友達の事気にしてたわねぇ。

なんかねぇ、その道案内してくれた子のお友達が、元気がないか何かでね。

その子、私と同じように養護施設で育ったらしいんだけど。

その子は元気になったのかしら…?」

懐かしくて仕方ないのか、おばあさんは話を進めていく。

『その子』とは、多分晶のことだろう。

直人は何と言えば良いのか、少し困った顔で考える。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#85 [我輩は匿名である]
「(…あの後何日かして2人とも死んだとか…言えねぇしなぁ…)」

無言で、眉間にしわを寄せる。

「…2人とも、今も仲良くやってると思いますよ」

そう言ったのは、飛鳥だった。

直人と奏子が、同時に飛鳥を見る。

飛鳥は小さく笑みを浮かべている。

「…そうだな」

彼女を見て、直人もニッと笑う。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#86 [我輩は匿名である]
「俺も、2人とも元気にやってると思うぜ」

「…そうねぇ、あの男の子なら、元気にやってそうね」

おばあさんは、安心したようににっこり笑う。

「(…水無月…何か一瞬変だった…?)」

奏子は直人を見ながら首を傾げる。

「あなたたちにも言っとくわ。あの男の子にも言ったんだけどね」

おばあさんは3人に言う。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#87 [我輩は匿名である]
「人との間に、壁を作っちゃダメなのよ。

仲良くなりたければ、一歩踏み出さなきゃ。

わかった?」

「あぁ…」

「はい」

「前も聞いたけどな」と思いながら、直人は相づちをうつ。

飛鳥もそれを聞くのは2度目だったが、素直に返事をした。

「…あ、着いたよ。あたしん家」

奏子は目の前の一軒家を指差す。

⏰:10/04/24 12:50 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#88 [我輩は匿名である]
「おぅ。意外と近かったな」

「ありがとうねぇ、2人とも」

おばあさんは直人と飛鳥に笑いかける。

「どういたしまして」

2人はそろって返事をする。

「ありがとう。ここまで来たらもう大丈夫」

家のドアの前まで来て、奏子も2人に言った。

「いいのか?」

「うん」

奏子に言われ、直人と飛鳥は、ドアのそばに買い物袋を置く。

⏰:10/04/24 12:50 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#89 [我輩は匿名である]
「お茶でも飲んでいったら?」

「いえ、私たちはこのまますぐに帰りますから」

おばあさんの申し出を、飛鳥が丁寧断る。

「あら、そう?じゃあまた遊びに来てね」

おばあさんはニッコリ笑った。

「んじゃ、俺たちはこれで」

「さよならー」

2人はおばあさんと奏子に手を振って、並んでその場を後にした。

⏰:10/04/24 12:51 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#90 [我輩は匿名である]
「いい子達だねぇ」

おばあさんは笑って奏子に言う。

奏子は「うん」と返事をしつつ、帰っていく2人の背中を、複雑な気持ちで見つめていた。

⏰:10/04/24 12:52 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#91 [我輩は匿名である]
「優しそうなおばあちゃんだったね」

帰り道、飛鳥が何気なく言った。

「そうだな。元気そうで嬉しかったなぁ」

直人も満足そうに笑う。

「まぁ言われてみれば、面影がないこともないな」

「1日しか会ったことないのに、面影とか覚えてんの?」

「ま、まぁ何となく…」

直人は目を泳がせる。

⏰:10/04/27 08:33 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#92 [我輩は匿名である]
それを呆れて見た後、飛鳥はふと、こんな事を言った。

「…うちにも、あんなおばあちゃんがいたら良いのに」

直人は「へ?」と、飛鳥を見る。

「……お前、相変わらず親とは口きいてないんだっけ?」

「きいてない。バイトしてるのも知らないし」

飛鳥は苦笑して答える。

「そうか…」

「まぁ、ちょっと平気になってきたけどね」

「うーん…」

直人は「何かいい方法はないかな」と首をひねる。

⏰:10/04/27 08:33 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#93 [我輩は匿名である]
「いいよ、そんなに頑張って考えてくれなくても」

飛鳥は小さく息をつく。

「そのうちどうにか出来れば良いかなってぐらいだし」

「そうか?…まぁ、今は香月とか安斎とか、友達いるもんな、お前」

「うん」

飛鳥は笑って頷く。

「…あんたのおかげ、かな」

⏰:10/04/27 08:34 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#94 [我輩は匿名である]
「…は?」

飛鳥に言われて、直人はびっくりして彼女を見る。

飛鳥は少しだけ頬を赤らめて顔を背ける。

「(…あれ、なんか、変な感じする)」

直人は恥ずかしいような照れるような、なんだかわからない感覚に襲われた。

2人はそれぞれ同じような事を考えながら帰っていった。

⏰:10/04/27 08:34 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#95 [我輩は匿名である]
「そりゃお前、あいつに気があるんだろ」

飛鳥と帰った時の事を話すと、薫はあっさり言い切った。

「えぇっ!?」

直人はぎょっとしすぎて、持っていた箸を落としそうになる。

「お、俺が!?あいつを!?」

落とさないように箸を握って、少し声を荒げる。

「まぁ、その逆もありえると思うけど」

薫は言いながらサンドイッチを口に入れる。

⏰:10/04/29 13:13 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#96 [我輩は匿名である]
そういう事に関して全く疎い直人は、話についていけず呆然とする。

「え…えぇ…?」

「本当鈍感だよな、お前。どうすればそこまで鈍感になれるか知りてぇよ」

薫は呆れ返ってため息をつく。

直人は「そんな事言われても…」と頬を膨らませる。

「まぁ、そういう所がいいんじゃないのか?」

「…なんか嬉しくない」

直人は不機嫌そうに言い返す。

「…全く自覚してないのか?」

⏰:10/04/29 13:13 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#97 [我輩は匿名である]
「…うーん…何か、よくわかんねぇんだよなぁ…」

直人は箸を咥えて腕を組む。

「好きとかじゃない気がして…。なんかこう…“見守っててやりたい”…っていうか…。

何か、本気で応援してやりたくなるっていうか…」

「(…似たような事だろ)」

直人の話を聞きながら、薫は思った。

「…いいな、お前は平和そうで」

不意に、薫はそう言ってため息を吐いた。

⏰:10/04/29 13:14 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#98 [我輩は匿名である]
「何だいきなり」と、直人は首をひねる。

「…響子は…あいつの事、どう思ってるんだろ…」

薫は遠い目をして、机に肘をつく。

「あいつ?あのアメリカンの事か?てか、結局どうなったんだよ」

「“負け犬の遠吠え”、“君に勝ち目はない”、…そう言われた」

「はぁ!?何なんだあいつ!!」

短気な直人は、思わず声を荒げる。

⏰:10/04/29 13:14 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#99 [我輩は匿名である]
「…でも、あいつは響子の事を何も知らない。

あんな押し付けがましいやり方で、響子が納得するはずがない」

「当たり前だろ!今までお前らがどんだけしんどい思いしてきたか、あいつ何も知らないんだぞ!?

あんな奴に香月取られてたまるかよ!」

まるで自分の事のように、直人は腹を立てて騒ぐ。

「…でも、あいつは俺の言う事には全く耳を貸さない。

何を言っても、きっとまた“負け犬の遠吠え”って嘲笑うだけだろ。

…だから多分、俺が成績1位を取り戻す以外、あいつは納得しないだろうな」

⏰:10/04/29 13:15 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#100 [我輩は匿名である]
「あいつが納得するとかしないとか、どうでもいいだろ!」

「前みたいな目には遭いたくないんだよ」

薫は少しきつく言い返した。

そう言われて、直人はやっと、少し黙り込む。

確かに、怜奈のような行動に出られてはいろいろと面倒だ。

薫は1人で、そこまで考えていたのだろう。

そう思うと、直人はそれ以上何も言えなかった。

⏰:10/04/29 13:15 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#101 [我輩は匿名である]
「ねぇ、飛鳥」

バイトに行く途中、奏子は飛鳥に尋ねる。

「水無月が、前に変なおっさんから、前世の本もらったって話、知ってる?」

「…知ってるよ」

飛鳥は少しきょとんとした顔で答える。

「…飛鳥って、その、水無月の前世の話に関係あったりする?」

奏子は続けて聞く。

「…なんで?」

今度は飛鳥が聞き返す。

⏰:10/04/30 20:32 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#102 [我輩は匿名である]
「なんか、この間うちのおばあちゃんと会ったじゃない?

その時に、2人とも何か知ってそうだったからさ」

そう言われて、飛鳥は少しの間黙り込む。

「……私さぁ」

飛鳥がなかなか答えようとしないため、奏子が口を開く。

「最近、水無月の事、気になってるんだ」

その言葉に、飛鳥はハッと奏子を見る。

「……好き、って事?」

「……多分」

⏰:10/04/30 20:32 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#103 [我輩は匿名である]
まだはっきりしないのか、奏子は曖昧な言い方をする。

「…それで…何であの本の話…?」

飛鳥は少し動揺しながら、奏子に尋ねる。

「なんか、気になったからさ。水無月の事、いろいろ知ってるのかなぁと思って。

元気づけてもらったとか、前言ってたじゃん?」

奏子は明るく笑ってみせる。

しかし、飛鳥は何故か、ショックを受けたような顔で黙っている。

⏰:10/04/30 20:33 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#104 [我輩は匿名である]
直人の事で、知っている事はいろいろある。

でも、飛鳥は何も教えたくなかった。

直人の過去を知ってるのは、自分だけの特権。

何もない自分にある、たった1つの小さな自慢。

「まぁまた、いろいろ相談乗ってね♪」

奏子は笑って、飛鳥に頼む。

飛鳥はしぶしぶ、「うん…」と頷くしかできなかった。

⏰:10/04/30 20:33 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#105 [我輩は匿名である]
次の日。

飛鳥はじっと、4組の教室を覗く。

幸い、響子と奏子が別々の子と話している。

飛鳥は気付かれないようにササーッと、早足で響子に近づく。

「響子…」

背後から声がして、響子は振り返る。

「うわっ!びっくりした…」

響子は、いつの間にか背後にいた飛鳥に驚いて声を上げる。

「どうしたの?昨日のバイトで、また何かやらかした?」

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#106 [我輩は匿名である]
「違う……事もないけど」

飛鳥はやつれたような表情で答える。

確かに、昨日奏子の突然の告白に動揺していた飛鳥は、

皿は割るわ、カップから紅茶を溢れさせて床をボトボトにするわ、

レジ操作を誤って1000円以上の現金差異を出すわで、

店長にかなりこっぴどく怒られたのだが、響子に相談に来たのはその事ではない。

「…今度、2人っきりで相談があるんだけど」

「2人っきりで?……ははーん、なるほどね」

勘の良い響子は、ニヤリと笑う。

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#107 [我輩は匿名である]
「恋の話ね」

「えっ…!?わかんない。でも、多分そーゆーの」

「じゃあ僕も一緒に♪」

2人の隣に、急に良介が割り込んできた。

「あんたはどうでもいいから、消え失せてくれる?」

「残念ながら、君みたいに背の高いバカそうな女には興味ないよ」

良介は飛鳥に目もくれず、響子と向き合う。

「ねぇ響子ちゃん、僕は絶対、1位を守りぬくからね!」

⏰:10/04/30 20:34 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#108 [我輩は匿名である]
「…え?薫が断りに来たでしょ?」

響子は眉をひそめて確かめる。

「来たけど、女々しい事言うから、追い返したよ」

良介は笑顔で言い張る。

「女々しい?薫が何言ったのよ」

響子もさすがにムッとして言い返す。

「“勝負降りる”って。自信無くしたんじゃない?

あんなに張り切ってのってきたのに、あっさり僕に負けちゃったんだもんね」

良介は呆れたように、「やれやれ」と首を振る。

⏰:10/04/30 20:35 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#109 [我輩は匿名である]
「お前なぁ」

響子の代わりに、飛鳥が良介を睨む。

「調子に乗るのもいい加減にしろよ。お前みたいな新入りに、こいつらの何がわかるんだよ?」

「じゃあ聞くけどさ、君たちに僕の何がわかるわけ?」

良介も負けじと言い返してくる。

「僕は元々勉強なんか好きじゃない。

でも、響子ちゃんが“格好よくて、頭が良い、優しい人”が好きだって言ったから、

僕はそれを目指して今まで頑張ってきたんだ。

邪魔をしてる新入りは、あいつの方だろ?」

響子はそれを聞いて、昔そんな事を言ったのを思い出した。

⏰:10/04/30 20:35 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#110 [我輩は匿名である]
「だから、僕は絶対、あいつから君を取り戻すよ。

あんなクールぶってる奴、君には似合わないからね」

そう吐き捨てて、良介は背中を向けた。

「…マジでムカつく」

飛鳥は苛立ったように、彼の背中をにらみつける。

響子は暗い顔でため息を吐く。

「(……私が…あの時ちゃんと断ってたら…)」

「…響子?」

⏰:10/04/30 20:36 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#111 [我輩は匿名である]
飛鳥に声をかけられ、響子はハッと顔を上げる。

「…ごめん、ボーッとしてた」

「…まぁ気持ちはわかるけどさ」

飛鳥も呆れて息をつく。

「…あ、そうだ。どうせなら、どっかでご飯かお茶かしながら話さない?

ちょうど明日土曜だし。…バイト入ってる?」

「ううん。大丈夫」

⏰:10/04/30 20:36 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#112 [我輩は匿名である]
「じゃあ明日、飛鳥ちゃんがバイトしてるカフェ行こ♪」

「何でそうなるの!?」

「だって、1回行ってみたかったんだもん。じゃあ決まりね」

響子はにっこり笑う。

「(…まぁ、社割あるから、いっか)」

飛鳥は特に深く考えないまま、「しょうがないなぁ」と頷いた。

⏰:10/04/30 20:38 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


#113 [我輩は匿名である]
次の日。

飛鳥は響子と共に、バイト先のカフェにやってきた。

「おう神崎」

入るなり、店長が飛鳥に話しかけてきた。

「売り上げのために、全ケーキ食って帰れよ!」

「無理ですよ。そんな金あったらケータイ契約しに行きます」

飛鳥は顔を引きつらせて言い返しながら、適当な席に座る。

「そっか、飛鳥ちゃん、ケータイ持ってないんだっけ」

「うん、仲悪い親に出してもらうの、嫌だしね。自分で稼いでから買おうかなぁと思って」

飛鳥は苦笑して言った。

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#114 [我輩は匿名である]
そういうところは頑固な飛鳥に、響子も笑い返す。

「とりあえず、何か頼もっか」

「うん」

飛鳥は響子にメニューを開いて渡す。

「飛鳥ちゃん、見なくていいの?」

「いいよ、大体覚えてるから」

「『大体』じゃなくて、『完璧に』覚えてほしいわね」

飛鳥の先輩の女性が、そう言いながらお冷やを持ってきた。

「すいません…」

飛鳥は口を尖らせる。

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#115 [我輩は匿名である]
「メニューはお決まりですか?」

先輩は響子に愛想良く尋ねる。

「えっ、えーっと…」

響子は少し慌ててメニューを見る。

「あっ、私はとりあえずカプチーノで」

「自分で注いで来な」

「えぇっ!?」

嫌味ったらしく笑う先輩に、飛鳥は変な声を上げる。

「あの…私はアイスミルクティー下さい」

⏰:10/05/01 20:21 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#116 [我輩は匿名である]
「はいかしこまりましたー

先輩はにっこり笑って、キッチンの方へと下がっていった。

「意外と、いじられキャラなんだね」

響子は楽しそうに笑って、向かい合っている飛鳥に言う。

「…何かわかんないけど、そうなのかな」

「ははっ、いいじゃない。いじられキャラは、愛されキャラみたいな物よ」

響子はテーブルに両肘をつく。

飛鳥は「そうかなぁ」と首をひねる。

「ところで、私に相談って、何?」

⏰:10/05/01 20:22 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#117 [我輩は匿名である]
響子は話を変え、本題に入る。

すると、急に飛鳥の顔が暗くなった。

「………何から話せばいいんだろ…?」

飛鳥は腕を組んで考える。

『奏子が直人を好きだ』なんて勝手に話すと、余計にこじれるかもしれない。

「…飛鳥ちゃんは、水無月君が好き?」

響子は先に、そう飛鳥に尋ねた。

飛鳥は「えっ!?」と、勝手に下向いていた頭を上げる。

⏰:10/05/01 20:22 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#118 [我輩は匿名である]
「やっぱりそういう事か」

響子はにっこり笑う。

「……んー、…わかんない」

飛鳥ははっきりしない顔で答える。

「でも、…他の子が『水無月が好きかも』とか言ってるの聞いたら…何かモヤモヤしてきて…」

「……じゃあ飛鳥ちゃんは、水無月くんの事どう思う?」

響子は優しい表情で、質問を変える。

⏰:10/05/01 20:23 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#119 [我輩は匿名である]
飛鳥は少し顔を上げる。

「……いい奴だと、思ってる」

何て言えばいいのかわからなくて、飛鳥はとりあえずそこから始めた。

「…私、高校入ってから、誰とも喋った事なくて……高校入る前からだけど。

でもなんか、あいつとは何も考えずに喋れて、なんか楽しくて…。

本を読み終わって、私がまた自殺しそうになったの、怪我してでも止めてくれた」

ちょっとずつ気持ちが整理できてきたのか、飛鳥の口調がスムーズになってきた。

響子も何も言わずに、その話に耳を傾けている。

⏰:10/05/01 20:23 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#120 [我輩は匿名である]
「それから…私が『親を見返してやるんだ』って思えるようになったら、

笑って『頑張れ』って言ってくれるし、

この間も、奏子のおばあちゃんが道で困ってたら、すぐ『手伝ってやるよ』って言って…。

あいつバカで能天気だけど、私は…そういう優しい所が、す…」

飛鳥はそこまで言って、顔を赤くして黙り込んだ。

「…考えまとまったね」

「…なんか、楽しそうな話してるわね♪」

響子だけでなく、たまたま注文の物を持ってきた先輩まで笑っている。

⏰:10/05/01 20:24 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#121 [我輩は匿名である]
飛鳥は余計に恥ずかしくなって下を向く。

「いや、でも、そういう『好き』じゃないかも…」

「どっちにしろ同じよ」

響子と先輩が声をそろえて答える。

「あら、あんたなかなかわかってるじゃない♪」

「ありがとうございます♪」

「(何なんだこの2人…)」

気が合って笑い合う2人を、飛鳥は呆れ気味に見つめる。

「ちょっと神崎、今度私にもその話聞かせてよね」

⏰:10/05/01 20:24 📱:N08A3 🆔:/1yPoZ8g


#122 [我輩は匿名である]
「さぁどうでしょうね」

擦り寄ってくる先輩を、飛鳥はめんどくさそうな顔で押し返す。

先輩はテーブルにカプチーノとミルクティーを置いて、「ごゆっくりどうぞ」と言って立ち去った。

「(…話できるわけないじゃん…。話が広がったら、奏子がどう言うか…)」

飛鳥はまた鬱陶しそうにため息をつく。

「…他には誰も、その話してないの?」

「うん、他にできる人いないし…」

飛鳥はまた、苦笑して答えた。

響子は鋭い目付きで考える。

⏰:10/05/02 17:30 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#123 [我輩は匿名である]
奏子に相談を乗ってもらう事も出来た。先輩にも出来たはずだ。

しかし、「他に出来る人がいない」と言う。

つまり。

「…水無月くんが好きだって言ったの、奏子ちゃんじゃない?」

響子は、他の席にも聞こえない程小さな声で言った。

思わず、飛鳥は目を丸くして響子を見る。

「……何で……」

⏰:10/05/02 17:30 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#124 [我輩は匿名である]
「相談出来る人が私だけって、おかしいなぁと思って。

水無月くんに出来ないのは当たり前だし、薫はそんな相談を受ける柄じゃない。

…まぁあれでも、相談されれば乗るんだけど。

奏子ちゃんもいるのに、あの子には出来ないって事でしょ?

先輩に出来ないのは、誰かが口を滑らせて奏子ちゃんに知られると面倒だから。

……どう?合ってるでしょ?」

響子は自信満々に笑ってみせる。

「…探偵になればいいと思うよ」

全て図星をつかれ、飛鳥はただ茫然とする。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#125 [我輩は匿名である]
「まぁ、あれよね。飛鳥ちゃんと水無月くんには、本の事もあるしね」

「…うん…。最初はそうだったけど…でも、なんか違うっていうか…。

なんかね、要は、もっと穏やかで、おとなしい感じだったんだ。

だから、水無月とはタイプも全然違うし…。

私も結構性格変わってるし、本の事は…そこまで深く考えてないかなぁ…」

「そっか。…私達も同じだよ」

響子は小さく笑う。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#126 [我輩は匿名である]
「やっぱり、みんな本とは変わってくるのかな。

私はもっと背も小さかったし、もっと大人しかった。

薫……は、あんまり変わらないかな?強いて言うなら、もうちょっと穏やかで、煙草吸ってたぐらい?」

「そうなの?」

「だから、あんな癌になったのよ」

響子はふぅっとため息をつく。

「意外でしょ?今なら絶対吸わなそうにしてるのに。

薫……優也は、煙草と関連が深い癌だった。

だからもう2度と吸わないでしょうね」

響子は優しく笑う。

⏰:10/05/02 17:31 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#127 [我輩は匿名である]
「優也はあんなにクールじゃなかったのよ?

薫はにっこり笑う事なんかないけど、優也はいつもニコニコしてた」

「(…また惚気だした…)」

そう思ったが、急に響子の表情が変わった。

「……はぁ…私もどうしたらいいんだろ……」

「……あのアメリカン?」

響子は頷く。

しかし、飛鳥には不思議でならなかった。

「でも、何でそんなに悩むの?響子も月城も、そんなてこずる相手じゃないんじゃ…」

⏰:10/05/02 17:32 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#128 [我輩は匿名である]
「てこずるのよ、ああいうタイプが1番ね」

響子は肩肘をつく。

「まともに話が通じる相手なら、薫もガン飛ばして一言二言言えば終わるのよ。

でも、りょう……桐生くんはそうじゃない。どこであんな性格になったのかわかんないけど……」

響子は大きくため息をつく。

「……そうだね、この間月城がガン飛ばしても、全く効かなかったもんね」

「私があの時ちゃんと聞き直して、断っとけば良かったのよ…」

話しているうちに、どんどん響子の表情が暗くなっていく。

⏰:10/05/02 17:33 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#129 [我輩は匿名である]
「いや…そんなちっこい時の事にすがってる奴に、気を遣う事はないと思うけど…」

飛鳥は自分で出来る精一杯の慰めを言う。

「うん…」

「だって、響子は月城が好きなんでしょ?だったら無視すればいいんだよ。

私だって、テストの順位なんかで彼氏とか決めるの、おかしいと思う」

飛鳥はきっぱりと言い切った。

「…そうなのよね…」

響子はまだ浮かない顔をして頷いた。

⏰:10/05/02 17:33 📱:N08A3 🆔:Xl0SkL1s


#130 [我輩は匿名である]
すると、飛鳥もまた、同じような表情でうつむき、こう切り出した。

「……私さ、本の事、まだ奏子に言えてないんだ」

響子は顔を上げ、また耳を傾ける。

「言おう言おうって思うんだけど、要との事…知られたくないんだ。

何でかわかんないけど…何か、自分の中だけに置いときたい気がして…」

「…そうね、奏子ちゃんが水無月君を好きなら、なおさらね」

響子は小さく笑う。

⏰:10/05/03 17:27 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#131 [我輩は匿名である]
しかし、飛鳥の表情はまだ晴れない。

「……でも、隠しとくのもモヤモヤするっていうか…」

「…友達だから?」

「…うん」

飛鳥は小さく頷く。

「でも…友達でも、話したくない事はいくらでもあるよ」

あっさり言う響子に、飛鳥は思わず顔を上げる。

「…響子も?」

「そりゃあるよ。私だって、いちいち薫とチューしただの寝ただの、みんなに言いたくないし」

響子は当然のように言い放って、ミルクティーを一口飲む。

⏰:10/05/03 17:36 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#132 [我輩は匿名である]
「ま、まぁそうだけど…」

飛鳥はしぶしぶ頷く。

「誰にでもねぇ、自分の中だけに留めておきたい事ってあるのよ。

飛鳥ちゃんが思ってる事、私は普通の事だと思うけどな」

さすが、前世で大人だっただけのことはある。

響子は優しい笑顔で、飛鳥を諭す。

「…そう、かな」

飛鳥もちょっとホッとしたように笑い返す。

⏰:10/05/03 17:44 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#133 [我輩は匿名である]
「じゃあ私はばれないように、奏子ちゃんの前で本の話はしないように気をつけるわ。

薫にも言っとくし。…まぁ、自分からそんな事話はしないだろうけどね」

「え?ごめんね、なんか気遣ってもらっちゃって…」

「いいよ、そんなの」

響子はまた笑う。

「…前の話を知ってるからかもしれないけど」

そう言いながら、響子はテーブルに両肘をつく。

⏰:10/05/03 17:49 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#134 [我輩は匿名である]
「私は、水無月くんには飛鳥ちゃんとくっついてほしいと思ってる。

…確かに見た感じ、奏子ちゃんと水無月くんは息が合ってるようには見えるけど、

飛鳥ちゃんといる時の水無月と奏子ちゃんといる時の水無月くん、明らかに態度が違う。

奏子ちゃんとなら、普通の友達って雰囲気な感じがするの。

…だから、そんなに悩まないで、自信持っていいと思うよ」

「…………うん」

響子の話を聞いて、飛鳥は大きく頷く。

それを見て安心したように、響子はまた笑った。

⏰:10/05/03 17:57 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#135 [我輩は匿名である]
「頑張ってね。また何かあったら、いつでも聞くから」

「うん、ありがとう」

飛鳥は悩みから吹っ切れたように笑い返す。

「(ただ、相手がちょっと手強いけどね)」

明るくなった飛鳥の表情を見ながら、響子は心の中で呟いた。

⏰:10/05/03 17:59 📱:N08A3 🆔:MyOPNZOQ


#136 [我輩は匿名である]
直人は眠そうな顔で、目の前にいる奏子を見つめる。

まだ時計は8時10分。

「早く来過ぎたかな」と思っていると、満面の笑顔の奏子がやってきたのだ。

「……何か用…?」

「あんたにお礼持ってきたの♪」

「お礼…?…俺なんかしたっけ…?」

直人は欠伸をしながら聞き返す。

「この間、おばあちゃんの荷物持ってくれたじゃん」

⏰:10/05/05 18:04 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#137 [我輩は匿名である]
「…………あーぁ!あれか!」

思い出すのに時間がかかったが、直人は「あぁ、そういえば手伝ったなぁ」と頷く。

「はい♪」

奏子は笑って、数枚のクッキーが入った可愛らしい袋を、直人の机に置いた。

「えっ、何これ?わざわざあのお姉…いや、ばあちゃん焼いてくれたのか?」

直人は思いもよらぬプレゼントに目を輝かせる。

「残念ながら、それ私が焼いたの」

奏子はちょっと自慢げに笑う。

「えっ?これお前が焼いたのか!?すげー!」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#138 [我輩は匿名である]
直人は尊敬の眼差しを奏子に送る。

「…今食べても良いかなぁ?」

「いいじゃん、食べちゃいなよ」

「だよな!じゃあ頂きまーす」

直人は袋を開け、丸くて茶色いクッキーを口に放り込む。

ボリボリ言わせて噛んでいる直人を、奏子も少しドキドキして見つめる。

「………どう?」

「…ん!うまい!!」

直人は意外そうに言いながら、右手でOKサインを出す。

「やったー♪私、クッキーだけは得意なんだ〜」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#139 [我輩は匿名である]
奏子も嬉しそうに笑う。

「へぇ!意外と料理とか出来るんだな、お前」

直人は言いながら、なぜかもう袋を閉じる。

「えっ?もう食べないの?」

「もったいないから、昼休みに食う!結構あるし、薫にもちょっとやろうと思って」

直人は満足そうに笑って、袋の口を紐で締め直して、大事そうに鞄に入れる。

「(1人で全部食べてほしかったのになぁ…)」

逆に、奏子は少し残念そうに直人の動作を見る。

「ところでさぁ、何でおばあちゃんの事、『お姉さん』って呼びかけたの?」

⏰:10/05/05 18:05 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#140 [我輩は匿名である]
「え?あぁ…」

言って良いものか、と、直人は目線をそらす。

「もしかして、おばあちゃんの事知ってるの?」

奏子は少し近づく。

「……いや、口が勝手に言っただけ…」

「本当に〜?」


直人は上手く誤魔化せず、しばらく悩んだ末、大きくため息を吐いた。

「…前世の俺が、会ったことがあるんだよ、多分」

そう白状するしかなかった。

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#141 [我輩は匿名である]
「そうなの!?なんかすごい!」

奏子は楽しそうに声を上げる。

「じゃあ、おばあちゃんが言ってた道案内したのって、やっぱあんたなの?」

「…まぁな…」

「そうなんだぁ!あんた、意外と優しいとこあるよね」

「そ、そうかぁ?」

褒められると調子に乗る直人は、照れるように笑う。

「でもなんか、飛鳥も知ってそうだったよね、おばあちゃんの事」

奏子は笑顔で話を続ける。

「…いや、あいつは多分会ったことないぞ。俺があのばあちゃんからの話を聞かせただけで」

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#142 [我輩は匿名である]
「おばあちゃん、あんたに何か言ったの?」

「だから、俺じゃなくて、前世の俺」

直人はそこに念を押す。

「何か言ったって、この間のあれだぞ?友達作りたいなら、壁を作るなって話。

あれを伝えてやろうと思ってたんだけどさ、なかなか…」

「伝えてやるって、飛鳥に?」

「前世のあいつに」

直人はしつこく、『前世の』にアクセントをつける。

奏子は驚きつつ、「やっぱりな」と思った。

「じゃあ、水無月と飛鳥って、前世から知り合いだったんだ?」

⏰:10/05/05 18:06 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#143 [我輩は匿名である]
「…まぁ…そうだな、知り合いだな」

言ってみれば恋人同士か、最低でも友達以上恋人未満ってところだろう。

しかし、そこまで説明するのはめんどくさい。

「…ん?じゃあ、飛鳥も本もらってたりすんの?」

奏子は首をかしげる。

「なんか、もらったって言ってた気がするけど?」

直人はめんどくさくなってきて、言い方が適当になってきた。

「そうなんだ!なんかすごいねー!じゃあ…」

⏰:10/05/05 18:07 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#144 [我輩は匿名である]
「おはよう」

いつの間にか、8時15分を過ぎていて、飛鳥がやってきた。

「よぉ」

「あっ、飛鳥に渡すものがあるの!」

奏子は立ち上がって、さっき直人にあげたクッキーを差し出す。

「クッキーだ」

「この間、おばあちゃん助けてくれたでしょ?そのお礼♪」

「えっ?いいよ、荷物運んだだけだし、お礼なんか…」

飛鳥は両手を左右に振る。

⏰:10/05/05 18:07 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#145 [我輩は匿名である]
「いいのいいの。はい!」

奏子は笑って、飛鳥の手にクッキーを置いた。

「…ありがとう」

飛鳥は小さく笑って、それを受け取る。

「あっ、じゃあ用も済んだし、私教室にかーえろ♪じゃあまた後でねー」

奏子はそのまま、教室を出ていった。

「何だったんだ…?」

「おいしそうなクッキーだね。あのおばあちゃんが焼いてくれたのかな?」

飛鳥は嬉しそうに、クッキーの入った袋を見つめている。

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#146 [我輩は匿名である]
「いや、安斎が焼いたらしいぞ」

「そうなの?へぇ、すごいな」

「お前、料理出来ないんだっけ?」

「やれば出来ると思うよ。施設にいた時は、よくご飯の手伝いしてたから」

「へぇ、意外」

「そう?…まぁ、今は家で作る事ないし、作ろうとも思わないしな…」

飛鳥はふぅっと息をつく。

「じゃあ、なんか作ってきた時は、俺が毒味してやるよ」

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#147 [我輩は匿名である]
「はあ?私の腕前なめないでよね」

飛鳥は腕を組んで言い返す。

そんな2人の会話を、廊下で窓にもたれ掛かって、奏子が聞いていた。

「(やっぱり、あの2人…なんかあるんだ…)」

「安斎?」

すぐ後ろで声がして、奏子は素早く振り返る。

⏰:10/05/05 18:08 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#148 [我輩は匿名である]
そこには、登校してきたばかりの薫が立っていた。

「月城くん…」

「何してるんだ?朝っぱらから」

薫は少し首を傾ける。

「ううん、何にもない。じゃあね」

奏子は無理に笑顔を作って、小走りで4組に戻っていった。

「…隠さなくても、知ってるのにね」

薫の後ろにいた響子が、くすっと笑う。

「…お前の言ってた事、本当だったんだな」

「予想だけどね」

2人は小さく笑い合った。

⏰:10/05/05 18:09 📱:N08A3 🆔:7fNci.3Y


#149 [我輩は匿名である]
直人は、薫が掃除を終えるのを、階段に座って、1人ぼけーっと待っていた。

奏子と飛鳥はバイトが、響子も今日は用事がある為、それぞれ先に帰っている。

「(…そういえば、神崎とここで喋った事もあったなぁ…)」

直人はあの時の事を思い出す。

親と話していないとか、そういう話をしたのがここだった。

「(懐かしいな…もう半年近く経つんだなぁ…)」

そんな事を考えていると、あの時のように、目の前を良介が通りかかった。

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#150 [我輩は匿名である]
「あっ!そこのアメリカかぶれ!」

直人は思わず呼び止める。

“アメリカ”という言葉に足を止め、良介がこっちを見る。

「…誰?君」

ちょっと近寄りながら、良介が首をひねる。

「月城薫の友達だよ!」

「俺そんなに存在感ないか」と思いながら、直人は怒鳴る。

「あぁ、あの負け犬くんの」

「負け犬言うな!」

どこまでもマイペースで、思った事を口にする良介に、直人は何度も声を荒げる。

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#151 [我輩は匿名である]
「お前、あんまり薫の邪魔すんなよな!」

「邪魔してるのはあっちだろ!」

良介もムスッとして言い返す。

直人は腰に右手をあてて、じーっと良介を見る。

「……お前さぁ、香月のどこが好きなわけ?」

直人はそもそも、そこから聞きたかった。

「僕?響子ちゃんの全てに決まってるじゃないか!」

「はぁ!?全てが好きとか、適当に言ってんだろ!」

「適当?失礼な!君は人を好きになった事無いのか?」

「気持ち悪いから『君』っていうな!俺は水無月直人!み・な・づ・き・な・お・と!」

⏰:10/05/06 20:17 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#152 [我輩は匿名である]
直人は鳥肌が立ったのか、上腕をさすりながら名乗る。

「水無月?6月の事か!」

「ま、まぁそうだよ、6月の水無月」

「ふむ。じゃあ水無月、君は人を好きになった事は…」

「だから!『君』ゆーな!気持ち悪いから!」

「はっはっは!水無月は面白いな。天然か」

「天然はお前だろアホぉ!!」

直人は勢いで立ち上がる。

ここまでくれば、日本語の意味がわかっているのか不安になってくる。

⏰:10/05/06 20:18 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#153 [我輩は匿名である]
「俺だってなぁ!好きな奴ぐらいいるんだよ!」

直人はそう言い切った。

「じゃあ水無月は、その子のどこが好きなんだ?」

「俺は…」

勢いで話を進めたため、少し悩む。

しかし、自然と頭に飛鳥が思い浮かんだ。

「…俺は、特に、頑張り屋な所、かな」

「頑張り屋?」

「そう、頑張り屋なんだ。…ある人を見返す為に、今一生懸命頑張ってるんだ。

俺はそこが好きなんだ、多分。だから、心の底から応援してるんだ」

⏰:10/05/06 20:18 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#154 [我輩は匿名である]
言ってしまった。直人は言ってから、とても恥ずかしくなった。

本当なのかわからなくて、何だか飛鳥に申し訳なく思う。

「…………それって…」

良介は何故か、ものすごく気持ち悪そうな顔で直人を見る。

「な、何だよその目は」

「だってぇ…水無月の好きな人って…」

直人は「バレてるのかな」と、少しドキドキする。

「月城だろ…?」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#155 [我輩は匿名である]
「俺にそんな趣味ないわぁー!!」

直人は今日1番の大声を出した。

おまけに、その声に重なって、どこかから薫の声もした。

「だって、見返すって僕の事だろ?」

そう言っている良介の後ろを見てみると、柱の影から薫が出て来ている。

「薫!」

「月城!盗み聞きかっ!けしからん奴だ!」

良介はむすっと腕を組んで薫を睨む。

「あのなぁ!俺が好きなのは女だよ!ちゃんとした女!わかったか!?」

「あぁ、どうでも良くなった」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#156 [我輩は匿名である]
「何だとー!?」

良介はどうでもよさそうに適当にあしらって、薫と向き合う。

「それより月城、お前は響子ちゃんのどこが好きなんだ?」

「はぁ…?」

いつも唐突に物を聞いてくる良介に、薫は首をかしげる。

「俺は…そうだな、笑った顔が好きだな」

薫は小さく笑って答えた。

直人も良介も、黙って薫を見つめる。

「…な、何だよ。俺変な事言ったか?」

「いや、なんか意外な答えだったなぁ…と思って」

⏰:10/05/06 20:19 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#157 [我輩は匿名である]
「……“全部”って答えは、おかしいのか?」

良介は納得できなそうに考える。

「…まぁいいんじゃないか?どこが好きかなんて、人それぞれだろ」

薫は少し面倒くさそうに言ってやる。

「そうか!そうだな!お前もたまには良い事言うな!でも響子ちゃんは俺がもらうからな!」

良介はそう言って、笑いながら帰っていった。

嵐が去って、2人は大きくため息を吐く。

まぁ、直人が呼び止めたのが悪かったのだが。

「…つーか、お前いつからいたんだよ?」

⏰:10/05/06 20:20 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#158 [我輩は匿名である]
「『俺だって好きな女ぐらいいるんだよ!』みたいなのが聞こえてから。

なんか出ていくタイミングが掴めなくて、待ってたんだ」

薫は少し呆れ笑いする。

「何だよ…」

直人はだらんとうなだれる。

「さ、帰るか」

「ん」

2人はそう言って帰りはじめた。

⏰:10/05/06 20:20 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#159 [我輩は匿名である]
「あのアメリカン、…うぜぇけど、なんか憎めない奴だよな。…うぜぇけど」

階段を下りながら、直人は言った。

「何で2回言ったんだ」

「とりあえずうぜぇから」

直人は良介とのやり取りを思い出して、顔を引きつらせて笑う。

そう言われて、薫も「確かに…」と頷く。

「…そうなんだよなぁ…。根本から嫌な奴なら、ぶん殴ってでも黙らせるのに。

…あいつ相手だと、そんな気も失せてくるんだよなぁ…」

薫は不満そうに言う。

「…で、お前どうするんだよ?結局点数バトル続けんの?」

⏰:10/05/06 20:21 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#160 [我輩は匿名である]
「……そう、なりそうだな…。

この間の金曜日に、響子と神崎が釘を刺そうとしたらしいけど、ダメだったらしいし」

「…何で神崎まで?」

直人に言われて、薫は内心「しまった」とドキッとした。

『昨日ね、飛鳥ちゃんとお茶しに行ったの。

それで、一昨日その約束してたら、桐生くんが割り込んできたから、一言言おうと思ったんだけど…。

ダメだった。あの子いつからあんなマイペースになったんだろ…』

昨日の日曜日、家に遊びに来た響子が薫に話してくれた。

その時に、飛鳥と奏子が直人に気があるらしい事も聞いたのだった。

⏰:10/05/06 20:21 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#161 [我輩は匿名である]
「(…危ねぇ…口滑らす所だった…)」

例え「遊びに行った」とだけ言っても、「安斎は?」と聞かれたらアウトだ。

「薫?」

靴箱まで来て、白と黒のスニーカーを持つ手を止めて考え込んでいた薫に、直人が声をかける。

「え?あぁ…何か、たまたま神崎がクラスに遊びに来てたからって言ってたけど」

薫は適当に誤魔化す。

「あぁ、あいつ、いつも4組で弁当食ってるもんな」

単純な直人は、薫の適当な話を鵜呑みにして、赤と黒のスニーカーに履き替える。

「(こいつ…素直というか、単純というか…)」

薫は羨ましそうな、呆れたような眼差しで直人を見る。

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#162 [我輩は匿名である]
「…さっき言ってたの、やっぱり神崎の事なのか?」
薫も靴を履き替えながら、直人に尋ねた。


「…んー、なんか、そういう話してたら、神崎が思い浮かんでさ」

「…そうか」

薫は口元に指をあてながら考える。

「…でもな、本当に好きなのかどうか、わかんねぇんだよ、まだ」

直人は少し不安そうに言う。

「確かに、あいつの頑張り屋な所は好きだし、応援してやりたいっていつも思ってるけど。

だって俺、まだそんな…誰か好きになった事ないしさぁ…」

直人は歩きながら、ガシガシと頭を掻く。

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#163 [我輩は匿名である]
「…まぁ、最初はそんなもんだろ」

「お前もそうだったのか?てか、お前の場合いつの話だよ」

「もう50年近く前のことだな」

薫は笑いながら答える。


「初恋はそうだったな。なーか気になるっていうか…」

「そうそう、そんな感じ!……ん?初恋『は』?じゃあ前の香月には?」

「一目惚れだよ、俺の」

薫はきっぱり断言した。

「そうだったのか!?どこに惚れたんだよ?」

「顔と身長」

⏰:10/05/06 20:22 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#164 [我輩は匿名である]
「身長…?」

直人は「何で?」と首をかしげる。

「何かな、可愛かったんだよ、ちっこくて。

俺175、6pあったけど、今日子は150pなかったぐらい?

よしよししやすい身長だったな」

珍しく、薫の顔が全体的に緩んでいる。

「…お前、惚気だすと止まらなくなるよな」

「たまには惚気させてくれよ」

「まぁいいけどよ…」

⏰:10/05/06 20:23 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#165 [我輩は匿名である]
「彼女が出来たら、直人も絶対惚気ると思うぞ」

そう言われても、自分が惚気る姿なんて全く想像出来ない。

直人は「そうかなぁ…?」と腕を組んだ。

⏰:10/05/06 20:23 📱:N08A3 🆔:6Ieh1kRI


#166 [ま]
>>100-200

⏰:10/05/07 01:45 📱:P04A 🆔:6S1BPj46


#167 [我輩は匿名である]
ホームルームの時間。

「今日は球技大会の競技を決定したいと思いまーす」

体育委員達が前に出て仕切っている。

「こんな時期に球技大会なんかあるのか!」

体育系の直人は、早くもテンションが上がる。

女子と男子が、それぞれ教室の前後に分かれていく。

「こんな時期に球技大会なんかするんだな」

薫も同じように思っていたらしい。

壁にもたれて腕を組んでいる。

「あれか?スポーツの秋だからか?

運動会は何故か1学期だったしな」

⏰:10/05/08 22:43 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#168 [我輩は匿名である]
言いながら、直人は楽しそうに笑っている。

「薫、お前何出る?」

直人は早速薫に尋ねる。

壁にもたれながら、薫は首をひねる。

「…何があるんだっけ?」

「えっとなぁ」

黒板に貼られた紙を見ると、男子は野球とドッヂボールと書かれている。

「野球だな、俺は」

「やっぱそう来るか。うーん…」

⏰:10/05/08 22:44 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#169 [我輩は匿名である]
直人はさらに楽しそうに声を上げ、自分も腕を組んで考える。

「…俺、ドッヂがいい!」

「だろうな、お前野球下手だし」

「うるせぇな!」

直人は声を荒げて反論する。

「…お前、昔から野球好きだったよな。何でか知らねぇけど」

「前世の名残じゃないか?」

「名残?」

⏰:10/05/08 22:44 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#170 [我輩は匿名である]
「霜月優也は小学校から高校まで野球部だった。

だからまぁ、生まれ変わりの俺が受け継いだんじゃないか?」

「へぇ…」

直人は薫を見ながら頷く。

「…要は…何もなかったなぁ…」

「そう…」

薫が返事をし終わる前に、直人が「あ!」と声を上げた。

「何だよ」

「お前、またバトルしようぜ、とか言われるんじゃね?」

⏰:10/05/08 22:45 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#171 [我輩は匿名である]
「………あぁ…」

薫は鬱陶しそうに壁にへばりつく。

「大丈夫だって!俺が手伝ってやるから!」

直人は元気良く笑う。

薫は「あぁ…」と相づちは打ったものの、どこか浮かない表情で考え込み始めた。

⏰:10/05/08 22:45 📱:N08A3 🆔:BuSWAh76


#172 [我輩は匿名である]
一方、女子たちも順調に事を運んでいた。

女子は男子と違い、ハンドボールとドッヂボールとなっている。

「(…何でバスケでもバレーでもなくて、ドッヂボールなんだろ…?痛々しい…)」

飛鳥は紙を見ながら首をひねる。

「神崎さんは、何がいい?」

女子の体育委員が飛鳥に話し掛ける。

「…私は…」

正直どっちも嫌なのだが、決めなければ話が進まない。

ハンドボールはまだ暑い屋外で走り回らないといけない。

ドッヂボールは走り回らなくていいが、当てられると痛い。

⏰:10/05/10 20:01 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#173 [我輩は匿名である]
運動があまり好きではない飛鳥にとっては、究極の選択だった。

「………………ドッ、ヂ、ボール、かな」

しばらく迷った末、飛鳥は無理やりドッヂボールと答えた。

日焼けしないだけマシだと思ったらしい。

「りょーかい♪」

体育委員の女子はにっこり笑って、次々とみんなに聞いていく。

飛鳥は大きくため息を吐く。

「(……あいつは、何出るんだろうな…?)」

飛鳥はそんな事を考えながら、薫と話している直人の背中を見た。

⏰:10/05/10 20:01 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#174 [我輩は匿名である]
帰り道。久しぶりに5人一緒に帰る。

「みんな何に出る事になったー?」

奏子が4人に尋ねる。

「俺ドッヂボール!」

「あー、何かそんな感じするね」

奏子が笑っている横で、飛鳥ははぁっとため息をつく。

「神崎、お前は?」

「…私もドッヂボール」

「いいじゃん、ドッヂボール。何でそんなテンション低いんだよ?」

⏰:10/05/10 20:02 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#175 [我輩は匿名である]
「スポーツあんまり好きじゃないんだよ」

飛鳥は浮かない顔で答えた。

「ま、野球に比べりゃ簡単だし、楽しめって♪」

「お前がボールをバットに当てられないだけだろ」

『面白くない』と胸を張る直人に、薫は呆れて言い返す。

「薫は?やっぱり野球?」

響子が薫に尋ねる。

「あぁ、野球にした」

「薫らしいね」

「俺の将来の夢は、息子に野球教える事だからな」

⏰:10/05/10 21:10 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#176 [我輩は匿名である]
2人が穏やかな表情で笑い合うのを、直人達は黙って見つめる。

「それ息子生まれなかったら終わりじゃね?」

「うるさいな、生むんだよ、息子」

薫は横目で、ニヤニヤ笑っている直人を睨む。

「響子は?」

「私は飛鳥と同じドッヂボール」

「えー、ハンドボール選んだの私だけー!?」

後悔したように奏子が声を上げる。

「暑いのによくやるよ」とでも言いたそうに、飛鳥が奏子を見る。

⏰:10/05/10 21:11 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#177 [我輩は匿名である]
「…ケガするなよ」

「大丈夫よ、外野だから」

心配している薫に、響子は明るく笑い返す。

「ねぇ、私も心配してよ」

2人の様子を見て、何故か奏子は直人の肩をたたく。

飛鳥は少しムッとしながら様子をうかがう。

「はぁ?何で俺がお前の心配しなきゃなんねぇんだよ」

直人は嫌そうに手を振り払う。

「ちぇっ、つまんないの」

奏子はふてくされたようにそっぽを向く。

飛鳥は何故か、ホッと胸を撫で下ろす。

⏰:10/05/10 21:11 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#178 [我輩は匿名である]
「…ん…?」

薫はたまたま、前の曲がり角から良介が出てくるのを見つけた。

「どうかした?」

「…あれ、アメリカかぶれじゃないか?」

薫が指差す先を、響子たちも見てみる。

「本当だ」

「あいつ、球技大会ではバトル申し込んで来ねぇのかな?」

「忘れてんじゃない?」

直人と奏子は、良介の後ろ姿を見ながら話し合う。

⏰:10/05/10 21:12 📱:N08A3 🆔:OlQ7CTBQ


#179 [我輩は匿名である]
「……申し込んで来ないと思うよ」

響子が少し呆れたように言う。

「何で?」

「桐生くん、運動音痴だから」

「…え、マジで?」

響子からの意外な話に、4人ともきょとんとする。

そして、直人がニヤリと含み笑いをした。

「じゃあ、こっちから仕掛けてやればいいんじゃね?」

「…はぁ?」

薫は「何で」と顔をしかめる。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#180 [我輩は匿名である]
「だってよ、これで勝っとけば1勝1敗だろ?あいつもでけぇ顔できなくなるぞ?」

「まぁそうだけど…」

むしろ彼の事はどうでもいい薫は、乗り気じゃなさそうに返事をする。

「よし、じゃあちょっくら言って来るわ!」

「えっ、ちょ…」

薫や響子が止める間もなく、直人は良介の所へ走っていってしまった。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#181 [我輩は匿名である]
「おい!アメリカン!」

直人は良介の背中を叩く。

「……あぁ、君か」

「君って言うなって言っただろ」

直人は嫌そうに言い返す。
「それよりお前、球技大会では『バトルしようぜ』とか言ってこないのかよ?」

直人はニヤニヤしながら尋ねる。

それを聞いて、良介はギョッとする。

⏰:10/05/14 11:48 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#182 [我輩は匿名である]
「い、いや…あんまり僕が勝ちすぎると、月城が可哀想だから…」

「そんな気遣いいらねぇって」

直人は良介と肩を組む。

「それともあれか?勝つ自信ないとか?」

その一言に、良介は顔をこわばらせる。

「まっさかなぁー?あんだけ薫を見下してたんだから、運動とか出来ないわけ、ないよなぁ〜?」

「あっ、ああ当たり前だろう!!」

良介は意地を張ったのか、言い返してきた。

「受けてたってやるさ!」

「直人、やめとけ」

⏰:10/05/14 11:49 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#183 [我輩は匿名である]
2人の様子を見兼ねたのか、薫がやってきた。

「な、何だよ?」

「おい桐生、お前が出るのは野球か?ドッヂボールか?」

薫は直人の問いには答えず、良介に尋ねる。

「ド、ドッヂボールだけど…」

「え…」

良介の答えに、直人はきょとんとする。

「…競技が違うのに、どうやって戦うんだ?」

薫は不機嫌そうに直人を睨む。

⏰:10/05/14 11:49 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#184 [我輩は匿名である]
「い、いいのかよ?僕を見返したいんじゃないのか?」

良介は少し不思議そうに言ってくる。

「見返すも何も、どうやって勝負するんだって言ってるんだ。

それに、別に弱点突いて勝ったって、面白くないだろ」

薫はあっさり答える。

「それに、例えそれで勝っても、お前納得しないだろ。

そうなったら余計にめんどくさいから、別にしなくていい。

だからさっさと帰れ」

薫は良介にそれだけ言い、背を向ける。

良介は何か言いたそうだったが、そのまま帰っていった。

⏰:10/05/14 12:41 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#185 [我輩は匿名である]
それに見向きもせず、薫は直人に向き合う。

「お前もこんな事に頭を働かすな」

「だってよー」

直人は小さい子どものように頬を膨らませる。

「いいじゃん別に、ねぇ?」

奏子も直人の肩を持つ。

「お前には関係ないだろ」

「そんな言い方しなくていいじゃん」

「ちょっと、やめなよ2人とも」

ピリピリした空気になり始めた2人を、響子が間に入って止める。

⏰:10/05/14 12:41 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#186 [我輩は匿名である]
「だって…」

「奏子、確かに私達関係ないし…」

飛鳥も困ったように奏子に声をかける。

しかし、奏子はムッとしたように飛鳥をにらみ、走って帰ってしまった。

「(…なんか、睨まれた…?)」

飛鳥は少し不安になる。

「…そんなに気を遣わなくても、あいつの事は気にしてないから」

薫はだいぶイライラしているのか、少しきつく直人に言う。

⏰:10/05/14 12:42 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#187 [我輩は匿名である]
「…悪かったよ」

直人はうつむいたまま謝る。

「…もういいよ」

薫はそれだけ言って、黙って家に向かって歩きだす。

「…ごめんね、2人とも」

代わりに響子が直人達に謝って、薫と帰っていった。

直人と一緒に残された飛鳥は、気まずくなって、黙って直人を見る。

「…俺、そんな変な事したのかな?」

いまいち納得できていないのか、直人は首を傾げる。

⏰:10/05/14 22:09 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#188 [我輩は匿名である]
「…他の人に突っ込まれたくない事なんじゃない?月城にとっては」

飛鳥は静かに直人に言う。

「自分でどうにかしたいっていうか、しなきゃいけないっていうか…。

あいつ結構頑固なとこありそうだし、この間負けた悔しさもあるだろうし…。

アレも鬱陶しい性格してるから、余計イライラしてるんじゃない?」

まるで薫の気持ちを見透かしているかのような飛鳥を、直人はぽかんとして見つめる。

「…よくわかるな、そこまで」

「予想だけどね。でも…何となくわかる気がして」

飛鳥は少し苦笑する。

⏰:10/05/14 22:10 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#189 [我輩は匿名である]
「私でも、親の事とかで首突っ込まれすぎたら腹立つだろうし…」

「えっ?じゃあ俺…」

「いや、あんたは元気付けたりしてくれるだけだから怒ったりしないよ。

相談乗ってくれたりするから、むしろ感謝してるっていうか」

飛鳥は素直に直人に言う。

直人は少し照れて、顔を背ける。

⏰:10/05/14 22:10 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#190 [我輩は匿名である]
「……難しいね、友達って」

さっきの奏子の顔を思い出して、飛鳥はぼそっと呟く。

「…お前も何かあったのか?」

「ん?…いや…」

飛鳥は首を振って、「帰ろ」と言って歩きだす。

直人は飛鳥の様子を気にしながら、一緒に帰っていった。

⏰:10/05/14 22:11 📱:N08A3 🆔:oVETaYfQ


#191 [我輩は匿名である]
「響子さぁ…」

何日か経った放課後、奏子は響子にこっそりと尋ねた。

「飛鳥と水無月って、どういう関係だったか知ってる?」

「…えっ?」

全く予想外の質問に、響子はドキッとして、鉛筆を回す手を止める。

「ど…どういう事?」

「飛鳥も本持ってる事、響子知ってたでしょ」

奏子は真剣な顔で問いただす。

響子は少しの間黙る。

⏰:10/05/15 13:11 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#192 [我輩は匿名である]
「知ってる」と言っているようなものだが、どう言えば良いのかわからない。

奏子もまだ、響子の言葉を待っている。

「……えぇ知ってたわ」

響子は白状した。

「でも、内容までは知らない」

「…ホントに?」

「本当」

疑ってくる奏子に、響子は断言する。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#193 [我輩は匿名である]
「私たちは、自分の本の中の話しかわからない。

まぁ私は、正確には本をもらった者じゃないけどね。

……何でそんな事聞きたいの?」

響子は小さく含み笑いして聞き返す。

今度は奏子が、目を逸らして口を閉ざす。

「…水無月くんの事、気になってる?」

そう聞かれて、奏子はしぶしぶ頷く。

「…そっか」

響子はそれだけ答えた。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#194 [我輩は匿名である]
「…響子達見てたらさ、私、適わないのかなぁ…とか思っちゃうんだよね」

奏子は暗い顔で言う。

響子は黙って、彼女の話に耳を傾ける。

「本をもらった子は、みんな深いつながりがあるけど、…私には何もない。

多分、飛鳥も水無月の事好きだと思うんだ。

だから、水無月は飛鳥を選ぶんじゃないか…って思ってさ」

奏子の話に、響子は何も言えなかった。

「そんな事ないよ」と言えば、良介の背中を押す事にもなりうる。

今近くに良介はいないが、響子は机に肘をついて考える。

⏰:10/05/15 13:12 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#195 [我輩は匿名である]
「…難しいわね、こういう事を考えだすと」

奏子よりも深刻そうな顔をして、響子はまた鉛筆を回す。

「なーにを考えているんだい?」

響子の背後で声がした。

「誰もあんたの話してないから。どっか行ってくれる?」

響子の後ろにいる良介に、奏子が眉間にしわを寄せて釘を刺す。

しかし、良介は奏子の相手をする気はない。

⏰:10/05/15 18:54 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#196 [我輩は匿名である]
「あのCool Boyの相手をするのが難しいって?

いっその事、そろそろ僕に乗り換えたらどうだい?」

「遠慮しておくわ」

「どうやったらそんな風に聞こえるのか教えてくんない?このクレイジー野郎」

ノリノリな良介に、響子も奏子も冷めた目で言い返す。

「あんたは多分、あのクールボーイには勝てないと思うよ?」

「Why?つーか、君発音下手だね」

「ほっとけよ」

奏子は真顔で言い返す。

⏰:10/05/15 18:54 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#197 [我輩は匿名である]
「あんた、本の都市伝説聞いたことある?」

「都市伝説?あの男、そんなFantasy信じてるのかい?

バカだなぁー。だから僕に勝てな…」

良介が相変わらず自意識過剰な発言を始めた時、

響子の手元から『バキッ』という変な音がした。

見ると、さっきまで彼女の手の中で回っていた鉛筆が、真っ二つに折れている。

「きょ…」

「響子ちゃん…?」

目を疑っている2人をよそに、響子は折れた鉛筆を見下ろす。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#198 [我輩は匿名である]
「……都市伝説、私も信じてるんだけど」

響子は満面の笑みで良介の方を向く。

「えっ?そうなのかい?どんな話?」

良介はコロッと態度を変える。

「(何で今の怖い笑顔を無視できるんだ…?)」

奏子は呆然と良介を見る。

「言わない。話すと長くなるから」

響子はフンと顔を背ける。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#199 [我輩は匿名である]
「えっ!?気になるじゃないか!教えてくれよ!」

良介は顔の前で手を合わせて響子に頼み込む。

「…薫へのライバル心を改めてくれるなら、教えてあげる」

響子は少し挑発するような笑みで答える。

「………じゃあいいや」

良介はあっさり諦めて、何故か早足で教室を出ていった。

「……何なの?あいつ」

奏子は鬱陶しそうにため息をつく。

しかし、響子は黙ったまま、ドアの方を見つめていた。

⏰:10/05/15 18:55 📱:N08A3 🆔:8G0WEuHs


#200 [我輩は匿名である]
「おい、月城」

良介は薫の目の前で仁王立ちをする。

眼鏡を拭いていた薫は、早くも迷惑そうな顔でそれを見上げる。

「なんだ?お前、目悪いのか?僕は裸眼だぞ」

「だから何だ」

威張る良介に、薫は短く言い返す。

「…また来てるな、あいつ」

「懲りないね…」

直人と飛鳥は窓際で、2人の様子を見つめる。

⏰:10/05/16 12:35 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


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