記憶を売る本屋 2
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#1 [我輩は匿名である]
:10/04/18 12:12
:N08A3
:v3aiuClI
#2 [我輩は匿名である]
:10/04/18 12:17
:N08A3
:v3aiuClI
#3 [我輩は匿名である]
2学期になった。
「はぁ〜…」
ボサボサな頭で欠伸をしながら、直人は学校に向かって歩いていた。
昨日徹夜をしたが、夏休みの宿題は全く終わっていない。
「おはよ」
誰かがポンと、直人の背中を叩く。
横を見ると、飛鳥がいた。
「あぁ…久しぶり」
直人は弱々しく挨拶する。
:10/04/18 20:18
:N08A3
:v3aiuClI
#4 [我輩は匿名である]
「何?珍しく元気ないじゃん。…宿題終わらなかったんでしょ」
飛鳥は見透かすように笑って直人に言った。
「終わるわけないだろ、あんなもん。お前終わったのかよ?」
「当たり前じゃん。答え見ながらやれば楽勝」
「最悪な奴だな、お前」
誇らしげに笑っている飛鳥に、直人は顔をしかめる。
:10/04/18 20:49
:N08A3
:v3aiuClI
#5 [我輩は匿名である]
「…あ」
正面を見ていた飛鳥が声を上げる。
「何だよ」
「あの2人、相変わらずラブラブだね」
飛鳥が指差す先には、薫と響子の姿。
:10/04/18 20:50
:N08A3
:v3aiuClI
#6 [我輩は匿名である]
「眠たいねー…」
響子は大きく欠伸をする。
「夏休みだらけてたからな…」
薫もいつもよりボーッとしている。
「んー…あっ、猫!」
響子は明るく言って、1人電柱に近づいていく。
それにつられて、薫も響子の後ろで立ち止まる。
:10/04/18 20:50
:N08A3
:v3aiuClI
#7 [我輩は匿名である]
「…響子、犬好きじゃなかったか?」
「それは“昔”の話。今は猫のほうが好きなの」
響子は笑って言いながら、携帯電話のカメラで猫を撮る。
首輪を付けているので、どこかで飼われているのだろう。
勝手に撫でたり顎を触っている響子を見て、薫は穏やかな笑みを浮かべる。
「何朝からニヤけてんだよ、気持ち悪い」
薫に不機嫌そうに言いながら、直人は薫に寄り掛かる。
:10/04/18 20:51
:N08A3
:v3aiuClI
#8 [我輩は匿名である]
「ニヤけてねぇよ」
「思いっきりニヤけてただろ」
朝から軽く言い合いを始める直人達の隣で、響子と飛鳥が「おはよう」と笑い合う。
「騒がしい」とでも思ったのか、猫は響子の手を離れ、どこかへ行ってしまった。
「あーあ、行っちゃった」
響子は残念そうにため息をついて、飛鳥と一緒に歩きだす。
:10/04/18 20:51
:N08A3
:v3aiuClI
#9 [我輩は匿名である]
「どーせエロい事でも考えてたんだろ?そんな顔してたぞ」
「してない」
「そうよ!薫は頭の中では考えてても、顔には絶対出さないんだから!」
「それ、結局考えてるって事じゃ…」
4人は騒ぎながら登校する。
:10/04/18 20:52
:N08A3
:v3aiuClI
#10 [我輩は匿名である]
あれから、あの老人は現れなくなった。「見た」という話も聞かない。
薫はやっと鎖骨骨折の治療が終わり、相変わらず響子と、すでに夫婦のような雰囲気を醸し出している。
飛鳥は奏子に誘われたカフェでアルバイトを始め、もう4ヶ月になる。
奏子と響子を中心に、やっとクラスの女子達とも話せるようになってきた。
奏子も響子も飛鳥を受け入れ、いつも一緒に行動している。
直人も相変わらず、毎日ボーッとして過ごしている。
:10/04/19 10:10
:N08A3
:6hENWB/Y
#11 [我輩は匿名である]
「言っとくけどなぁ、男はみんなそういう事考えてしまう生き物なんだよ!」
「はぁ!?お前だけだろバーカ!」
「でも水無月の方がエロ本とか持ってそうなイメージあるよね」
「読まねぇよエロ本なんか!」
直人は顔を赤くして否定する。
必死になる直人に、3人は大笑いする。
「つーか、さっきのこいつの発言はスルーかよ!?」
:10/04/19 10:10
:N08A3
:6hENWB/Y
#12 [我輩は匿名である]
「いいの。ちょっとやらしい方が男らしいでしょ?」
「え、月城って…」
飛鳥は意外そうに薫を見る。
「…なんか入院してる時にも安斎にそんな目で見られたな…」
薫は鬱陶しそうにため息をつく。
「そうだ、あん時照れて俺たちの事追い出したのに、何で今はそんな余裕なんだよ」
「もうどう思われようが、どうでも良くなってきた。
それに、響子の話だと俺は男らしいって事になるしな」
「何だよそれ…」
直人は呆れながら薫を見る。
:10/04/19 10:11
:N08A3
:6hENWB/Y
#13 [我輩は匿名である]
学校に到着し、4人はそれぞれ靴を履き換える。
「あっ!みんなおはよー!」
今度は明るい奏子の声が聞こえてきた。
「おう、久しぶり!」
直人も同じようなテンションで返事する。
「さっき聞いたんだけどね、響子のクラスの転入生来るらしいよー」
「は?転入生?」
直人達はきょとんとする。
:10/04/19 10:11
:N08A3
:6hENWB/Y
#14 [我輩は匿名である]
「へぇー、男かなぁ?私女がいいなぁ」
響子は期待しながら下履きを靴箱に入れる。
それに対し、奏子は「えー私イケメンがいい!」と反論している。
いつもの5人が揃った所で、直人達は教室に向かって階段を上る。
「ねぇねぇ、みんな宿題終わった?」
奏子が後ろを向きながら話し掛ける。
「終わった」
「え!?飛鳥はやっ!」
:10/04/19 10:12
:N08A3
:6hENWB/Y
#15 [我輩は匿名である]
そう言った瞬間、奏子が階段を踏み外した。
「うわっ……」
「えっ、ちょ…」
奏子のすぐ下にいた直人は、左手でとっさに手摺りを掴み、右手でバランスを崩した奏子の体を受け止めた。
薫も響子も飛鳥も、息を呑んでその状況を見つめる。
「お前…喋るか歩くかどっちかにしろよ…」
直人は「世話が焼ける」と、ホッと息を吐く。
:10/04/19 10:12
:N08A3
:6hENWB/Y
#16 [我輩は匿名である]
「ごっ…ごめん…」
奏子は体勢を立て直して直人から離れる。
「ありがと…」
「ん。気を付けないと、誰かさんみたいに鎖骨折るぞ」
「あー誰の事だろうな」
直人に見られ、薫はさっさと階段を上る。
:10/04/19 10:12
:N08A3
:6hENWB/Y
#17 [我輩は匿名である]
安心して、みんなも足を動かし始める。
しかし、奏子はなかなか足が動かなかった。
少し頬が熱くなっている。
奏子は一歩引いて、直人の背中を見ながら階段を上がった。
:10/04/19 10:13
:N08A3
:6hENWB/Y
#18 [我輩は匿名である]
全校集会で校長の話を聞いて来て、生徒達はぞろぞろ帰ってきて自分の席に座る。
響子もおとなしく、自分の席でボーッとする。
「はーいおはようございまーす」
チャイムが鳴り終わると同時に、響子達の担任が入ってきた。
学級委員の掛け声で、クラスメイト立ちが立ち上がり、礼をして着席する。
:10/04/19 18:30
:N08A3
:6hENWB/Y
#19 [我輩は匿名である]
「そうそう、今日からねぇ、このクラスに転入生が来ます。男の子ですー」
まだ30歳くらいの担任は、いつもの可愛らしい笑顔で言った。
教室内が一斉にざわめく。
「…奏子ちゃんが言ってたの、本当だったんだ…」
机に肘をついて、響子は呟く。
信じていなかったわけではなかったのだが、改めて驚く。
「(女の子が良かったのになぁー…)」
響子が考えていると、担任の「入ってー」の合図で、前のドアが開いた。
:10/04/19 18:31
:N08A3
:6hENWB/Y
#20 [我輩は匿名である]
入ってきたのは、少しロン毛がかった茶髪に細身で長身の、優しそうな顔の男子。
女子が再度ザワザワと声を上げる。
「(…ん…?あの子どっかで…)」
彼を見て、響子は1人首を傾げる。
桐生 良介。
担任が黒板に名前を書いた。
「…キリュウ…リョウスケ…」
名前にも聞き覚えがあるが、響子はどうしても思い出せない。
「桐生良介くんです。じゃあ簡単に自己紹介を」
「はい」
:10/04/19 18:32
:N08A3
:6hENWB/Y
#21 [我輩は匿名である]
転入生は笑顔で返事をして、生徒の方を向く。
「桐生良介です。5歳まで隣町に住んでたんですけど、父の転勤でアメリカにいました」
要するに、帰国子女ってやつだ。
響子の前の女子達が、嬉しそうにはしゃぐ。
「この辺もだいぶ変わってて何にもわからないんですけど、
楽しくやっていきたいと思うので、仲良くして下さい。よろしくお願いします」
桐生良介はそう言って一礼する。
クラスメイトが歓迎の拍手を送る。
:10/04/19 18:32
:N08A3
:6hENWB/Y
#22 [我輩は匿名である]
「(……隣町……アメリカ……)」
響子は手を叩きながら考える。
そして、ふと思い出した。
「(……もしかして…隣の隣に住んでた、あの“良介くん”…?)」
響子が幼稚園の時に、近所の同い年の男の子が引っ越していった気がする。
幼なじみだったのだが、すっかり忘れていた。
:10/04/19 18:32
:N08A3
:6hENWB/Y
#23 [我輩は匿名である]
休み時間になり、良介の周りは女子でいっぱいだ。
響子は暇なので8組にでも行こうと、席を立つ。
それを良介がたまたま見ていた。
「ねぇ、あの子は?」
ちょうど出ていく所だった響子を指差す。
「あぁ、あの子は香月響子ちゃん」
「えっ!?香月響子!?」
良介が驚いて立ち上がる。
そして、響子を追い掛けるようにして教室を出た。
:10/04/20 10:09
:N08A3
:DuuM/8z6
#24 [我輩は匿名である]
「あぁ、響子」
8組では、黒板の前であの4人が喋っていた。
薫に呼ばれて、響子も輪の中に入る。
「どうだった?転入生」
「それが…」
「響子ちゃぁぁぁん!」
廊下で誰かが叫ぶ声がした。
5人がぎょっとして見ていると、良介が走ってやって来た。
:10/04/20 10:10
:N08A3
:DuuM/8z6
#25 [我輩は匿名である]
「…誰?」
鬱陶しそうに奏子が尋ねる。
「てんにゅ…」
「君だね!?君が響子ちゃんだね!?」
良介はそう言って、目を輝かせながら飛鳥の手を握る。
「はぁ?何だよ、あんた」
「えっ?僕の事覚えてないの!?」
「…香月響子は私です…」
響子がしぶしぶ手を挙げる。
:10/04/20 10:10
:N08A3
:DuuM/8z6
#26 [我輩は匿名である]
良介は「へ?」と響子を見る。
「………えっ?君が響子ちゃん?」
「うん…」
「……さっきから『響子ちゃん、響子ちゃん』と馴れ馴れしい…」
歓声を上げる良介に、薫が顔をしかめる。
「ねっ!僕の事覚えてる!?君の隣の隣に住んでた良介だよ!
あーっ、やっと会えた!元気だった!?身長縮んだね!?」
良介は今度は響子の両手を握りなおす。
:10/04/20 10:11
:N08A3
:DuuM/8z6
#27 [我輩は匿名である]
「(…なんだこのテンション…うぜぇ…)」
「(…縮んだって…)」
「(イケメン…♪)」
3人がそれぞれ思っていると、薫が不機嫌そうに良介の手を振り払った。
「いきなり入ってきて何なんだ?馴れ馴れしく手なんか握りやがって…」
「…何って、僕響子ちゃんのフィアンセだよ?」
良介は当然のように言い放つ。
その一言に、直人達だけでなく、教室中が静まり返った。
:10/04/20 10:12
:N08A3
:DuuM/8z6
#28 [我輩は匿名である]
「…お前…ふざけてるのか…?」
薫は哀れみを込めた目で良介を見る。
「ふざけてないよ。約束したもん、響子ちゃんと」
「は!?」
響子がすぐさま「違う違う」と手を振る。
薫と響子が付き合っている事を知っているクラスメイト達が、良介を見て笑っている。
「違わないよ!幼稚園の時に『大人になったら結婚しようね』って言ったら、
響子ちゃんも『うん♪』って言ってくれたじゃないか!」
「お前…これ以上いい加減な事言ったらぶっ飛ばすぞ…!」
薫の怒りが頂点に達しかけている。
:10/04/20 10:12
:N08A3
:DuuM/8z6
#29 [我輩は匿名である]
が、良介は動じずに首を傾げる。
「っていうか、君誰?」
「俺は!香月響子の彼氏だ!!」
薫は思わず声を荒げる。
クラスメイト達が喜んで声を上げ、薫に拍手を送る。
が、薫は今それどころじゃない。
良介の胸倉を掴み、睨み付ける。
「これ以上響子に手ぇ出したら…殺す…!」
本気で殴り殺しそうな薫に、直人達もおろおろする。
:10/04/20 10:13
:N08A3
:DuuM/8z6
#30 [我輩は匿名である]
…が。
「ワーォ!ジャパニーズボーイこわーい☆」
良介はへらっと笑って言った。
薫の顔が引きつる。
「…地獄に落ちろぉぉぉぉーーー!!!!」
「わあぁぁぁっ!薫!!落ち着けー!!」
良介に殴りかかる薫を、直人や周りにいた男子が慌てて止める。
その間に、響子は奏子と飛鳥の後ろに避難する。
薫が押さえられているのを良い事に、良介は笑いながら、「響子ちゃん!また後でねー」と出ていった。
:10/04/20 10:13
:N08A3
:DuuM/8z6
#31 [我輩は匿名である]
「…何だったんだ…?」
飛鳥と奏子は呆れ返る。
「…許さん……絶対後で殺す…!」
薫は息を荒くしてドアの方を睨む。
直人は、「また何かややこしい事になりそうだ」とため息をついた。
:10/04/20 10:14
:N08A3
:DuuM/8z6
#32 [我輩は匿名である]
帰り道。
薫はまたもや顔を引きつらせる。
目の前には、満面の笑みを浮かべた良介の姿。
「……お前…ケンカ売りに来たのか…?」
「まさか♪」
「つーか、お前誰?」
薫の代わりに直人が尋ねる。
横には呆れている飛鳥と、ちょっと楽しんでいる奏子。
響子は薫の後ろに身を隠している。
:10/04/20 21:30
:N08A3
:DuuM/8z6
#33 [我輩は匿名である]
「僕かい?僕は桐生良介。響子ちゃんのフィ」
「響子の婚約者は俺だ」
良介が言い切る前に、薫が言い張る。
「なぁ、お前何か、勘違いしてねぇか?」
「そんな事はないよ!愛する幼なじみの顔を、僕が忘れるはずがない!」
「幼なじみって、5歳までじゃない!」
薫の後ろから、響子が顔を出して言い返す。
「えっ?やっぱり幼なじみなの?」
奏子がぽかんとして尋ねる。
:10/04/20 21:31
:N08A3
:DuuM/8z6
#34 [我輩は匿名である]
「お、幼なじみだったのは覚えてるよ!?
でも、私は結婚の約束なんかしてないし、私の婚約者はこの月城薫ただ1人よ!」
響子が言うと、良介は「オーマイガッ!」と頭を抱えた。
「(効いた…)」
直人、奏子、飛鳥は呆然とそれを見つめる。
「(…何なんだ、こいつのテンション…)」
薫は「はぁ…」とため息をつく。
しかしその直後、薫の鼻先に、良介の人差し指が伸びてきた。
:10/04/20 21:31
:N08A3
:DuuM/8z6
#35 [我輩は匿名である]
「まぁいいよ!今のうちに好きなだけKissでもSexでもやればいい!
しかし!すぐにこの僕が響子ちゃんを取り戻すからなっ!
覚悟してろよ!つ、…つ…つ……?」
「月城薫だよ…」
怒鳴る元気も無くなって、薫は呆れながら言う。
良介はフン!と鼻息荒く、走って帰っていった。
「…お前みたいなわけわかんねぇ奴に言われなくても、キスでも何でもやってるよ…」
薫は頭を抱える。
:10/04/20 21:32
:N08A3
:DuuM/8z6
#36 [我輩は匿名である]
「…薫…」
少し横を向けば、響子が不安そうに薫を見上げている。
「…大丈夫だよ、そんな顔しなくても、あの変人の言う事は信じてないから」
薫は少し笑って、響子の頭を撫でる。
そして、5人は学校を出ようと歩きだす。
「…何か、英語の発音は良かったな」
「うん」
直人達も呆れたように話し合う。
:10/04/21 17:37
:N08A3
:S8dNuXTM
#37 [我輩は匿名である]
「あの子、帰国子女なのよ。アメリカから帰ってきたんだ…」
「帰国子女!?」
薫以外の3人は声を上げて驚く。
「なんか、お父さんの転勤で5歳の時にアメリカに……」
言いながら、響子は足を止める。
『りょーすけくん、いっちゃうの?』
『うん。あめりかだって』
響子はうっすら思い出してきた。
:10/04/21 17:38
:N08A3
:S8dNuXTM
#38 [我輩は匿名である]
『あめりか?がいこくだね!』
幼稚園児の響子は、良介がアメリカに発つ日に、家の前で見送っていた。
『げんきでねっ♪』
『うん!もしまたあえたら、ぼくと…』
良介が何か言ったが、ちょうど近所の犬が大声で吠えたため、響子は聞き取れなかった。
『ねっ!?』
良介が笑って言った。
それに、響子は適当に『うん!』と返事をしたのだたった。
:10/04/21 17:38
:N08A3
:S8dNuXTM
#39 [我輩は匿名である]
「…ああぁぁぁぁぁ〜………」
響子は頭を抱えて、その場に崩れ落ちる。
急に座り込んだ響子に、直人達は驚いて「うわぁ!?」と声を上げる。
「ど、どうした!?」
薫もびっくりして、響子の前にしゃがみこむ。
「…どうしよう…」
響子は頭を抱えたまま小声で言う。
「え?」
:10/04/21 17:39
:N08A3
:S8dNuXTM
#40 [我輩は匿名である]
「あの時、あの子『結婚しようね』って言ったのかなぁ…?
だったら…だったらどうしよう…」
響子は思い詰めて涙目になる。
「響子…?」
「薫…どうしよう…?私…あの時適当に『うん』って言っちゃった…。
何て言ったのか聞こえなかったけど、適当に返事しちゃったの…。
どうしよう…?私…嫌だよぉ……」
響子はしゃがんだまま、今にも泣きだしそうな顔をしている。
:10/04/21 17:40
:N08A3
:S8dNuXTM
#41 [我輩は匿名である]
「響子」
薫が呆れたように笑う。
「そんな小さい時の事なんか、覚えてなくて当たり前だ。
それに、適当に返事したんならなおさら、そんな物約束だとは言えない。
そんな泣かなくても、俺は何とも思ってないよ」
「…本当…?」
響子は顔を上げる。
「……何とも思ってないわけないだろ…」
薫は低い声で言った。
:10/04/21 17:40
:N08A3
:S8dNuXTM
#42 [我輩は匿名である]
「へ?」
「あんなわけのわからないアメリカかぶれに…響子を渡してたまるか…。
『僕がフィアンセだ』ぁ?ふざけんじゃねぇぞ…」
思い出したら機嫌が悪くなってきたのか、薫の周りを黒いオーラが漂い始める。
「ヤべぇ…キレかけてる…」
直人が「どうしよう」と、奏子と飛鳥を交互に見る。
:10/04/21 17:40
:N08A3
:S8dNuXTM
#43 [我輩は匿名である]
しかし、直人の心配をよそに、響子がそっと、薫にキスをした。
奏子が「きゃあーっ♪」と声を上げる。
「……響子…」
薫は少し頬を赤らめる。
「…私が好きなのは、薫だけだから。絶対薫以外変わらないからね」
響子は困った表情をしていたが、それだけははっきりと、迷う事無く言った。
:10/04/21 17:41
:N08A3
:S8dNuXTM
#44 [我輩は匿名である]
「…うん」
薫も安心したようにまた笑い、響子を強く抱き締める。
「………ついていけねぇ……薫、先帰るぞ」
直人はそう言って、早足で歩きだした。
つられて、飛鳥と奏子も直人と一緒に歩き始めた。
:10/04/21 17:41
:N08A3
:S8dNuXTM
#45 [我輩は匿名である]
「いやぁー、純愛ですなぁー」
しばらく歩いて、奏子は腕を組みながら言った。
「どこのおっさんだよ、お前」
「だってさぁ、憧れるじゃない?ね?飛鳥」
奏子は飛鳥にも話を振る。
「…そうだね」
飛鳥も小さく笑って同意した。
その顔が、石川晶が喜んだ時の顔にそっくりで、直人は少しドキッとする。
:10/04/21 22:05
:N08A3
:S8dNuXTM
#46 [我輩は匿名である]
夏休みの前に言われた、響子の『やっぱりあの子が好きなの?』と言う言葉が甦る。
「(…って言われても…)」
直人は横目で、楽しそうに話している飛鳥を見つめる。
「そんな事聞かれてもなぁ…」
「ん、何か言った?」
直人の独り言が聞こえたのか、奏子がこっちを向く。
「へっ!?い、いや、別に…」
「怪しいな」
「怪しくねぇよ!」
怪しむ飛鳥に、直人は声を荒げて否定する。
:10/04/21 22:05
:N08A3
:S8dNuXTM
#47 [我輩は匿名である]
「…お前らにも、好きな奴とかいんの?」
直人は何気なく2人に聞いてみる。
「私は…まだそれどころじゃないしなぁ…」
飛鳥はふうっと一息つく。
「まだ親とも話してないし…4ヶ月経ってもバイトにはまだまだ慣れないし。
生きるのに精一杯って感じ…かな…」
そう言いつつ、飛鳥の表情は、どこか晴れ晴れとしている。
:10/04/21 22:06
:N08A3
:S8dNuXTM
#48 [我輩は匿名である]
直人はそれを見て、少し笑う。
それを、奏子は黙って見つめる。
「お前は?」
直人は奏子に聞き直す。
「えっ!?」
「お前イケメン好きとか言ってたから、あのアメリカかぶれとか、いんじゃねぇの?」
「はぁ!?何で私があんな奴と!」
奏子は全力で否定する。
「いいじゃん、お似合いじゃねーか」
直人は「うんうん」と自分で納得する。
:10/04/21 22:06
:N08A3
:S8dNuXTM
#49 [我輩は匿名である]
横では飛鳥が笑っている。
奏子はしばらくムスッとしていたが、何となく直人を見上げる。
「(…こいつは…好きな人いるのかなぁ…?)」
「あ、そういえば、バイト楽しいか?」
「うん、店長が相変わらず怖いけど、やっと一通り出来るようになったかな」
「へぇ。じゃあそろそろ行ってみねーとな!」
「来なくていいから!」
「何でだよ!いいじゃん別に!」
「来たら紅茶ぶっかけるから!」
「それ損するのお前だろ」
:10/04/21 22:07
:N08A3
:S8dNuXTM
#50 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥が仲良く言い合いをしている。
「(…やっぱり、飛鳥が好きなのかなぁ…?)」
そう思うと、何だか虚しくなってきて、奏子は首を振って考えないようにした。
:10/04/21 22:07
:N08A3
:S8dNuXTM
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