記憶を売る本屋 2
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#501 [我輩は匿名である]
答えを聞いて、直人はさらにきょとんとする。

「………えっ!?え!?お前っ、…はぁ!?」

いきなり順位を上げた飛鳥に、直人は混乱する。

しかし、落ち着いて考えて、直人はやっと理解した。

「最近さっさと家に帰ってたのって、勉強する為か?

薫と喋ってたのは、勉強教えてもらってたのか!?」

「………うん」

顔を背けて、飛鳥は頷く。

⏰:10/10/31 08:45 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#502 [我輩は匿名である]
「…何かに力入れてみろって言ったじゃん?

だから、ちょうどいいかな、と思って…」

「偉いっ!!」

直人は満面の笑みで飛鳥の肩を叩く。

「やったじゃん!今日は胸張って弟に嫌みかましてやれよな!」

「………うん」

飛鳥は嬉しそうに小さく笑って頷いた。

まるで自分の事のように喜びながら、直人は教室に向かって歩きだす。

「(………やっぱり)」

彼の姿を見ながら、飛鳥は心の中で呟く。

⏰:10/10/31 08:46 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#503 [我輩は匿名である]
「(あたし、あいつの事好きだな…)」

今まで曖昧に思っていた事。

それが今、改めてはっきりとわかった。

「神崎?どうかしたか?」

直人がこっちを向く。

「…ううん、何にも」

飛鳥は答えて、一緒に教室に向かった。

⏰:10/10/31 08:46 📱:N08A3 🆔:eAY8INGU


#504 [我輩は匿名である]
放課後。

家の前で、飛鳥は少し緊張していた。

隣に響子はもういない。

自分が頑張って7位をとった事を言うと、彼らは何と言うだろう。

もしも、「そうですか」で終わらされたら…。

そう思うと、なかなか踏み出せずにいるのだ。

「邪魔だよ、そこ」

ドアの前でボーッとしていると、背後から巧の声がした。

⏰:10/11/05 15:44 📱:N08A3 🆔:IxG8QTDI


#505 [我輩は匿名である]
振り向くと、偉そうに腕を組んで、巧がこっちを睨んでいる。

「何してたの?家に入るの嫌になった?

だよねー。出来損ないは相手にされないもんね」

巧はバカにするような顔で笑う。

飛鳥はムッとして巧に言い返す。

「あんた、バカにするのもいい加減にしなさいよ」

「はっ、何?なんか自慢出来るような事でも出来た?

良かったねー。僕なんか今日テストで1位とったけどね」

巧は含み笑いのまま言った。

⏰:10/11/05 15:45 📱:N08A3 🆔:IxG8QTDI


#506 [我輩は匿名である]
『1位』という言葉を聞いて、飛鳥は茫然とする。

「はははっ、何?もしかして、成績で僕に勝ったとか思った?

無理に決まってんじゃん、僕に勝とうだなんて。

わかったらさっさとそこどいてくれる?」

巧はため息を吐いて、無理矢理飛鳥をどかせて家に入っていった。

飛鳥は黙ってそこに立ち尽くす。

⏰:10/11/05 15:45 📱:N08A3 🆔:IxG8QTDI


#507 [我輩は匿名である]
やっと、認めてもらえると思っていた。

この家は学力しか見ていない。

母親も、父親も、弟も。

なら良い成績を取らなきゃいけない。その一心でここまできたのに。

あれだけ頑張って、あの成績を取ったのに、また弟に劣るのか。

飛鳥は拳を握りしめ、しばらく下を向いていた。

⏰:10/11/05 15:49 📱:N08A3 🆔:IxG8QTDI


#508 [ゆず]
一気に読んでめっちゃはまりました
気になる
毎回チェックします
がんばっちくりん

⏰:10/11/06 23:23 📱:P03A 🆔:DOyPQ5PU


#509 [☆]
失礼します

>>1-200
>>201-400
>>401-600

頑張ってください

⏰:10/11/07 15:14 📱:SH05B 🆔:☆☆☆


#510 [我輩は匿名である]
>>ゆずサン
>>☆サン
はじめまして
感想ありがとうございます
嬉しいのですが、感想が入ると見辛いというご意見がありましたため、よろしけば小説総合板にある感想板にお願いします
アンカーして下さるのは助かります

⏰:10/11/09 21:55 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#511 [我輩は匿名である]
次の日。

直人はじーっと、何かを考え込む薫をじっと見つめる。

「……何考えてんだ?」

「来週クリスマスだろ?響子に何やろうかと思って」

薫は腕を組んだまま答える。

そういえばあったな、そんなイベント。

直人もそう思いながら「あー」と声を漏らす。

⏰:10/11/09 21:56 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#512 [我輩は匿名である]
「………俺も何かやろうかな」

「……神崎にか?」

「んー。テスト頑張ってたしな。何がいいかなー?」

直人も一緒に考え始める。

「(なぁ、お前何かいい考えない?)」

「俺?…うーん…あの子が何好きなのか知らないしなぁ…」

要も困ったように返事する。

「…お前は?香月に何やんの?」

直人は参考程度に、薫にも話を聞いてみる。

⏰:10/11/09 21:56 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#513 [我輩は匿名である]
「……そうだなぁ…」

薫も直人と同じように、ボーッとしながら考える。

そしてしばらく黙り込んだ後、ふと「あ」と顔を上げた。

「マフラーかな」

「マフラー?何で?」

「この間欲しいって言ってたから」

「あぁ…そりゃ確実に喜ぶだろうな」

直人ははぁっとため息をつく。

⏰:10/11/09 21:56 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#514 [我輩は匿名である]
「(神崎も欲しいもの言ってくれればいいのにな)」

「お前が何かくれるなんて思ってないと思うよ」

うなだれる直人に、要が冷静に答える。

直人は「そうだよなー」と言いつつ、飛鳥に目をやる。

「何か知らねぇけど、元気無いな、あいつ」

薫もちらっと飛鳥を見る。

「やっぱりそうだよな?昨日はテストの順位見て照れてたのに」

飛鳥は机の上に、だるそうに突っ伏している。

⏰:10/11/09 21:57 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#515 [我輩は匿名である]
直人は小さく息をついて立ち上がり、飛鳥に歩み寄る。

「神崎」

直人に話し掛けられ、飛鳥は少しだけ顔を上げる。

昨日とは違い、疲れ果てたような、生気がなくなったような、そんな表情。

「…どうしたんだよ」

彼女のその表情に少し驚きながら、直人はまた問いかける。

飛鳥はしばらく、目を逸らして黙る。

「………もうだめだ、あたし」

やっと口を開いたかと思ったら、呆れたような顔でそう呟いた。

⏰:10/11/09 21:57 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#516 [我輩は匿名である]
「何だよ?昨日はあんなに…」

「1位とったんだよ、あいつが」

「…え…」

直人は言葉を失った。

1位なんて取られると、それ以上上はない。

こちらも1位を取ろうとすると、良介や薫を抜かなければならない。

⏰:10/11/09 21:58 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#517 [我輩は匿名である]
そんな事、飛鳥の学力では到底無理だ。

「…ごめん、応援してくれてたのに…」

飛鳥は再び俯きながら直人に言った。

「別に…謝る事じゃないだろ」

そう励ましたが、飛鳥はもう顔を上げる事はなかった。

⏰:10/11/09 21:58 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#518 [我輩は匿名である]
「もうちょっとでクリスマスだねー」

放課後、響子は薫と2人、階段に腰を下ろして話していた。

「そうだな」

「ところで!」

響子は鞄の中から1冊の雑誌を取り出す。

その表紙にはデカデカと『北海道』と書いてある。

「何?それ」

「ほら、来月スキー実習でしょ?どこ行こうかなぁって」

⏰:10/11/09 22:20 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#519 [我輩は匿名である]
「あぁ、もうそんな時期か」

いろいろあって、スキー実習の事などすっかり忘れていた。

「それでね」

響子は楽しそうに笑いながら、付箋が張ってあるページを開く。

そこには、ガラスで作られた飾り物やアクセサリーがたくさん載せられていた。

「私、ここ行きたいんだ」

「…あぁ、好きそうだな。1日目が観光だったっけ」

「そう♪で、2日目と3日目がスキー!」

今からでも心待ちにしている響子を見て、薫も自然と顔がほころぶ。

⏰:10/11/09 22:20 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#520 [我輩は匿名である]
「…飛鳥ちゃんも奏子ちゃんも、楽しめるかな?せっかくの旅行なのに…」

ふと飛鳥たちのことを思い出して、響子の表情が曇る。

今日も昼休みに一緒に昼食を摂ったものの、終始暗かった飛鳥。

奏子も相変わらず、まだ仲直りはしていない。

「……まぁそうだけど、クラス違うだろ」

「違っても心配なの!」

世話焼きな響子は、勢い良く本を閉じる。

「…まぁ、今全員問題持ちだもんなぁ…」

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#521 [我輩は匿名である]
薫と響子は良介、飛鳥と奏子は互いの喧嘩、直人はその他いろいろ…。

このままでは、せっかくのスキー実習が楽しめずに終わってしまう。

響子はそれが心配で仕方がないらしい。

「どうにかなるだろ。今までもどうにかなってきたんだし」

薫は小さく笑い、ポンと響子の頭をたたいた。

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#522 [我輩は匿名である]
「はぁ…」

一足先に学校を出た直人は、ぼちぼち歩きながら家に向かう。

「…なぁ、どうすればいいと思う?」

誰もいないのを良いことに、直人は口に出して尋ねる。

「神崎の事?」

直人の問いに、要が聞き返してくる。

「あぁ。他にどうやって見返してやれば良いんだよ…」

弟の巧が学年トップを取った今、追い抜くことが出来なくなった。

同じトップを取ろうとも、上には薫たちがいる。

⏰:10/11/09 22:21 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#523 [我輩は匿名である]
要も考えているのか、返事が返ってこない。

「…………そんなに成績が大事なのかな?」

しばらくして、要が言った。

「今更そこかよ」

直人も呆れたように言い返す。

「あいつの家族が成績しか見てないんだから、大事なんだろうよ」

「まぁそれはそうだけど…。

でも、成績意外にも見返す方法はないのかなってさ」

まぁ確かに。直人も頷く。

⏰:10/11/09 22:22 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#524 [我輩は匿名である]
しかし、成績しか見ない彼らを、どうやって見返せるのだろうか。

「………ま、ぼちぼち考えていくかな」

「面倒見るのはほどほどにするんじゃなかったの?」

「……まぁそうだけどさぁ…、今のあいつ見てると…」

「下手すると、俺達みたいになっちゃうよ?」

その言葉に、直人は足を止める。

「でも…」

「ほっとけないんだろ?俺もそうだったよ。だからああなった」

声だけではわからないが、要はきっと、後悔しているのだろう。

⏰:10/11/09 22:22 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#525 [我輩は匿名である]
直人にはわかった。

「…………考えるだけなら構わねぇだろ」

ちょっと間黙り込んだあと、直人は口を開いた。

「そりゃあ、考えるのは自由だからね」

要は少し笑っているようだ。

考えるだけで終われるなら苦労しないんだけど、と。

⏰:10/11/09 22:23 📱:N08A3 🆔:elepWMVo


#526 [(o^〜^o)]
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:10/11/11 11:18 📱:F01A 🆔:yy6g86Pg


#527 [我輩は匿名である]
結局、クリスマスに何かをプレゼントできる雰囲気じゃないまま、冬休みに入ってしまった。

「結局、何もプレゼントできなかったね」

寒いから布団にくるまっている直人に、要が言う。

「しゃーねぇだろ…。思い浮かばなかったし、そんな空気でもねぇし」

「まぁね…」

「直人ー!」

階段付近から、直人の母親の声がする。

「んあ〜?」

直人はめんどくさそうに、顔だけ出して返事する。

⏰:10/11/20 21:51 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#528 [我輩は匿名である]
「トイレットペーパー買ってくるの忘れたから、買ってきてー!」

「はぁー!?」

「寒がってないで、たまには外出なさーい、男でしょー!?」

「関係ねぇだろ…」

ブツブツ言いながらも、直人は布団から出てくる。

そして、ふとある事を思い出した。

「…俺前にもこんな事………あぁ!思い出した!

俺が初めてタイムスリップした時も、トイレットペーパーだった!」

「タイムスリップ?あぁ、本の中身?」

⏰:10/11/20 21:52 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#529 [我輩は匿名である]
「そうそう!」

出て行ける格好をして、直人は部屋を出る。

「あっ、行ってくれんのね。はい、お金」

母親はにこやかに、500円玉を直人に手渡した。

「おぅ、ちょっくら行って来るわ」

「薬局が今日安いらしいから、そっちで買ってきてね」

「はいはい」

直人は背中で返事をして、靴を履いて家を出た。

⏰:10/11/20 21:52 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#530 [我輩は匿名である]
ダウンを着てはいるが、顔に冬の寒さが突き刺さる。

「さみー!この寒さヤバくね?」

「俺寒さとか感じないから大丈夫♪」

要は明るい声で言った。

「え、そうなのか?」

「だって俺、幽霊みたいなものだから」

「……そっか…」

そう言われると改めて、自分の置かれている状況が異色すぎることに気付かされる。

直人はしばらく、黙ったまま歩を進める。

⏰:10/11/20 21:52 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#531 [我輩は匿名である]
「直人は俺がトイレットペーパー買いに行かされた時から知ってたんだな」

「まぁそういう事だな……ん?」

直人は返事をしながら、前方に女性が歩いているのに気付いた。

見慣れた茶髪に、見覚えのあるプーマのジャージ。

「神崎!」

直人は白い息を吐き出して、女性に声をかける。

すると、ジャージの女性は振り返った。

「水無月」

「何してんだ?お前」

飛鳥に駆け寄り、尋ねてみる。

⏰:10/11/20 21:53 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#532 [我輩は匿名である]
「暇だから、散歩」

「散歩!?こんな寒いのによく外に出ようと思ったなぁ…」

「家にいるよりマシだし」

そりゃそうか。直人は頷く。

「あんたは?」

「トイレットペーパー買って来いって言われてさ。一緒に来る?」

「…うん、行く」

飛鳥は小さく笑って返事した。

2人は並んで、薬局に向かった。

⏰:10/11/20 21:53 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#533 [我輩は匿名である]
「お前、冬休み暇で仕方ねぇんじゃねーの?」

「そりゃ暇だよ。バイトない日は特にな」

「そういえば、安斎との喧嘩はどうなったんだ?仲直りしたか?」

「してない」

「だろうな…」

直人はめんどくさそうにため息を吐く。

「まぁ…そのうちね」

飛鳥も、そろそろ話し合わないといけない事はわかっているようだ。

だったらいいか、と、直人は小さく笑う。

⏰:10/11/20 21:54 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#534 [我輩は匿名である]
「お前暇なんだったら、一緒に初詣でも行くか?」

「は?何、急に」

「いやぁ、いつもは薫と行くんだけどさ、

あいつ多分香月連れてくるだろうから、お前も来るかなぁと思って」

直人の提案に、飛鳥は少し意外そうな顔をしながらも「行く!」と即答した。

「…あー、お前ケータイ持ってねぇんだったな。

んじゃあ、1月1日10時に学校で待ち合わせな」

「…うん!」

飛鳥は久しぶりに、嬉しそうな笑顔を見せた。

⏰:10/11/20 21:54 📱:N08A3 🆔:XcM6i1lA


#535 [我輩は匿名である]
1月1日。

飛鳥はジャージではなく私服を来て、玄関で靴を履いていた。

「どこ行くの?」

またいびりに来たのか、巧が後ろに立っている。

「こんな元旦から出歩くなんて、暇人はいいよねぇ。

僕は勉強で大忙しだっていうのに。

どうせつまんない奴らとつるんでるんでしょ」

飛鳥はそれを聞き流しながら、スニーカーの紐を結んでいる。

そういえば、巧がどこかに出かけていくのを見たことが無い。

⏰:10/11/21 13:57 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#536 [我輩は匿名である]
「まぁ、誰かとつるむの自体時間の無駄だけどね」

その一言で、飛鳥は立ち上がり、巧に向き合った。

「あんた、友達いないんだ」

巧の口元が、微妙に引きつる。

「…はぁ?」

「だってそうだろ?誰かと遊びに行くとこも見た事ないし、

友達いる奴が『つるむのは時間の無駄』なんか言わないし」

「だから?友達がいたから何なの?そんな事、将来に何の関係がある?」

巧はどこか、意地になったように問い詰めてくる。

⏰:10/11/21 13:57 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#537 [我輩は匿名である]
「僕はお前とは違って、将来を期待されてるんだ。

他の奴らと馴れ合ってる暇なんかないんだよ」

「勉強熱心で毎回試験で1位とってる奴でも、友達はたくさんいるよ。

1位の奴だけじゃない。バカだろうが秀才だろうが、みんな誰かと一緒に生きてる。

……あんたみたいな考え方の奴が、将来まともに生きていけるはず無い」

「何?僕に勝てないからって、とうとう負け惜しみ!?みっとも…」

「何とでも言いなよ。でも私は間違った事を言ってるとは思ってない。

あんたは他人をバカにしすぎてる。

“自分は誰よりも賢い”なんかバカな思い込み、捨てたら?」

⏰:10/11/21 13:58 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#538 [我輩は匿名である]
「うるさいな!」

巧はついに、ムキになって声を荒げた。

「今そんな事に時間費やしてる暇ないんだよ!

僕は将来、父さんみたいな優秀な弁護士になるって決めてるんだ!

お前みたいな出来損ないに見下される筋合いないね!」

巧はそう言い切って、飛鳥を睨む。

“昔の自分”に似てる。飛鳥はなぜか、そう感じた。

「…そう。じゃあその“出来損ない”は、将来は捨てて今日1日楽しんで来るわ。

将来を考えるより、今を大事にする方がいいし」

「ははっ、じゃあ一生父さんにも母さんにも認められないよ!?」

⏰:10/11/21 13:58 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#539 [我輩は匿名である]
「学力しか見ない親なんか、こっちから願い下げだよ」

飛鳥はそう吐き捨てて、家を出る。

そして、何歩か歩いて立ち止まった。

全身が震えている。

「(……よくあんだけ言い返せたな、あたし。弟相手に震えるとか、みっともない…)」

それでも、今回は負けた気がしない。

よくやった、と、心の中で自分を褒めた。

⏰:10/11/21 13:59 📱:N08A3 🆔:qrb3T8Wo


#540 [我輩は匿名である]
「飛鳥ちゃん来ないねー」

校門の前で、直人・薫・響子は飛鳥を待っていた。

10時を回ったが、飛鳥はまだ来ない。

「本当に来るのか?」

「来るって言ってたぞ」

薫はあまり信じていないようだ。

「…あっ、来た来た」

響子は言いながら、こちらに向かって走ってくる飛鳥に手を振る。

「遅い」

薫は腕を組んで飛鳥を睨む。

⏰:10/11/25 20:31 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#541 [我輩は匿名である]
「ごめん……ちょっと…あろいろありまして……」

「また例の弟か?」

「うん…。でも…今日はちゃんと言い負かして来たよ」

飛鳥は息を切らしながらも、吹っ切れたような笑みを見せた。

直人達はきょとんとする。

「マジで!?やるじゃんお前!」

直人はまるで自分の手柄のように喜び、飛鳥の肩を叩く。

2人の様子を、薫と響子も笑って見ている。

どんな言い合いだったのか、直人は飛鳥の話を聞きながら神社に向かって歩きだした。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#542 [我輩は匿名である]
神社に着いた時、1から10まで喋らされた飛鳥はクタクタになっていた。

「……はぁ…疲れた…」

「そりゃあんだけ喋れば疲れるわよねぇ。

ちょっと休んでたら?私トイレ行きたくなっちゃった」

「あ、俺も!」

直人も手を挙げる。

「じゃあ行って来いよ、俺達ここで待ってるから」

薫の言葉に、ドキッとしたように飛鳥が彼の顔を見上げる。

が、鈍感な直人がそれに気付くはずもなく、響子とトイレに歩いていってしまった。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#543 [我輩は匿名である]
「あそこに座って待っとくか」

薫は傍に木で出来た長椅子を見付け、そこに腰を下ろす。

立っていても仕方がないので、飛鳥もしぶしぶ、少し間を空けてそこに座った。

⏰:10/11/25 20:32 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#544 [我輩は匿名である]
「人が多いと思ったら、日本には初詣というものがあったんだなぁ、ポチ」

同じ頃、良介は犬の散歩で近くを歩いていた。

大事に育てているらしく、他の犬や人を見ても全く吠えない。

代わりに口笛を吹きながら歩いていると、

薫と飛鳥が並んで椅子に座っているのを見付け、驚いて足を止めた。

「(……な、なな何だあの組み合わせは!?

響子ちゃんは!?まさかあいつ、浮気か!?)」

良介は勝手に勘違いし、2人の声が聞こえる場所に、見えないようにしゃがみこむ。

⏰:10/11/25 20:33 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#545 [我輩は匿名である]
2人はしばらく黙っていた。

しかし、飛鳥には以前から、薫に聞きたい事があった。

いい機会と言えばいい機会なのだが、なかなか言いだせない。

「…何か言いたそうだな」

飛鳥の様子を見て察したのか、薫が先に話し掛けてきた。

「え!?あ、いや、あるっちゃ…ある…けど…」

「…何だよ、言えよ」

焦っている飛鳥を見て、薫も何だか落ち着かない。

こういう空気になってしまったら、言うしかない。

⏰:10/11/25 20:33 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#546 [我輩は匿名である]
飛鳥は心を決めて口を開く。

「……あたしの事、殺したかったんでしょ?」

単刀直入すぎて、薫も、見ていた良介も目を丸くする。

が、薫はすぐにいつもの涼しげな表情で答えた。

「…あぁ、殺したかったよ」

やっぱり。わかってはいたが、やはりショックは隠せない。

⏰:10/11/25 20:34 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#547 [我輩は匿名である]
「…何やってんの?あんた」

盗み聞きしていた良介に、誰かが話し掛けてきた。

慌てて振り向いてみると、そこには奏子が立っていた。

「……な、何だ…君か…」

「…相変わらず変だねぇ…ん?」

奏子も飛鳥と薫を見つけ、一緒にしゃがみこんだ。

「何してるの?あの2人」

「それが…」

⏰:10/11/25 20:34 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#548 [我輩は匿名である]
「それぐらいあたしの事恨んでたのに、何で許せるようになったんだろうって。

なんか前にちょっと聞いたけど、やっぱ気になっちゃってさ」

飛鳥に正直に問い掛けられて、薫も真面目な顔で答えはじめた。

「…確かに、前世の事を思い出して、お前が石川晶だと知ってから、ずっと恨んでた。

お前さえいなければ、今日子は死なずにすんだんだからな」

見られているとは知らず、薫は飛鳥に言う。


「響子が死んだ?何の話?」
『キョウコ』という名前を香月響子しか知らない2人は、顔を見合わせる。

⏰:10/11/25 20:35 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#549 [我輩は匿名である]
「でも…変な言い方だけど、お前が今日子を巻き添えにしてくれて良かったのかも知れないと思ったんだ」

どういう事なのか。飛鳥は小さく首をひねる。

「今日子が死んでも死ななくても、俺が癌に侵される事は変わらない。

今のように医療が進歩していたら変わったかもしれないが、

少なくともあの時代では、癌は不治の病と言われていた。

だからもし今日子が生きていたら、いつか遺されるのは今日子になる」

「……あぁ…そっか…」

「あの時、俺達はまだ20代だった。俺もただのサラリーマンだったから、貯金も生命保険も少ししかなかった。

精神的に辛い上に、産まれたばかりの子どもを抱えて、今日子は生きていかなければならなくなる。

…そうなるなら、遺されたのが俺で良かったんだと思った」

⏰:10/11/25 20:36 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


#550 [我輩は匿名である]
そう言って、薫は小さく笑った。

「それにお前を殺しても、あの日に戻れるわけでもないし、

俺が霜月優也に戻るわけでも、響子が長谷部今日子に戻るわけでも、

直人が長月要に戻るわけでもない。だったら何のメリットもないだろ。

…まぁ、だからといってお前が自殺したのが正しかったとは思わないけどな」

「あぁ…それは…そうだと思う…」

薫にそう付け足されて、飛鳥は少し肩をすぼめる。

⏰:10/11/25 20:36 📱:N08A3 🆔:7I8QaZgA


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