悪魔と天使の暇潰し
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#201 [匿名]
ターゲットの様子を見ていた俺を、スーツ男達が十人程囲んでいた。

「よそ見してていいのか?」

「こうなったら殺すしかない!」

などと口々に話している。やっぱり殺すつもりは元々なかったみたいだ。


ナイフを持っている者がたったの三人で、他は鉄パイプやバットを持っている。

先にその危ない三人を殺そう。ちょうどナイフを持った三人は俺の目の前に並んでいた。これは一気に殺すのに最適だ。

今ターゲットが一人目を殺したやり方をマネしてみた。

⏰:11/07/22 22:33 📱:F06B 🆔:f4Qhwrxk


#202 [匿名]
地面を蹴り、真ん中の男に突っ込む。ターゲットよりもスピードは早い自信があった。

その結果、男は抵抗する事も出来ない内に、俺に首を切られ倒れた。

血が少し顔にかかった。
最悪。

「この野郎!」

右の男が俺の腹を刺そうとナイフを下の方に構えた。左の男も同じ様にナイフを下の方で構え、俺にぶつかろうとしている。

そんな二人の間にいる俺は、右の男を殺そうと向きを変えていたので、前後を挟まれている形となった。

⏰:11/07/22 22:38 📱:F06B 🆔:f4Qhwrxk


#203 [匿名]
このままだと腹と背中を同時に刺されてしまう。

だが、タイミングを逃さなければ、楽に二人は死んでくれる。

前後にあるナイフが皮膚に当たるか当たらないかの際どい瞬間を、俺は狙っていた。

着ている洋服にナイフが触れた瞬間、俺は体を横にずらした。ギリギリだったため、転んだように手を地面についたが、その瞬間苦しそうな声が二つ聞こえた。

俺を刺そうとした男二人は、俺がいきなりいなくなるもんだから、勢いを抑えきれずお互いを刺してしまった。

⏰:11/07/22 22:47 📱:F06B 🆔:f4Qhwrxk


#204 [匿名]
「うっ…」

苦しそうに倒れる二人はまだ息をしている。

「ごめんなー。苦しい思いさせて。すぐ楽にしてやるから」

これは俺の本心だ。

膝をつき、ブスッと一発心臓を刺してやった。

また血が飛び散る。こんな経験は初めてだ。

立ち上がりながら、右の頬についた血を左手の甲で拭う。血が拭えるどころか、伸びているのが見なくても分かった。

⏰:11/07/22 22:52 📱:F06B 🆔:f4Qhwrxk


#205 [匿名]
俺が立ち上がるとすぐに、ナイフ男三人の穴はまた新たな円陣を組む事によって埋められた。

七人の輪の中に俺がいる。


「もう許さねーぞ!」

誰も許してなんて言ってない。

「本気出してやる!」

出した所で状況は変わらないのに。

「お前らは本気で俺達を怒らせたみたいだな!」

俺は自分の身を守っただけだ。

「なめられたもんだぜ!」

それはお前らが馬鹿すぎるのが悪い。

⏰:11/07/25 19:36 📱:F06B 🆔:MpkiitL6


#206 [匿名]
一通り心な中で受け答えをしてから、ターゲットの様子を見た。

無我夢中でスーツ男達を切りつけている姿があり、倒れて動いていないスーツ男が明らかに増えていた。

心配はないだろう。


「お友達の心配してる暇があんなら、自分の心配しろよな!」


叫び声が背後から聞こえ、振り返るとすぐ側にスーツ男が一人立っていた。

両手で持ったバットが高らかに上げられ、今まさに降り下ろした瞬間だった。

⏰:11/07/25 19:40 📱:F06B 🆔:MpkiitL6


#207 [匿名]
きっと普通の人間だったら、避けきれずに殴られ死ぬだろう。

だが、何度でも言うが、俺は悪魔だ。その降り下ろす速度も、遅くて遅くて待ちきれないくらいだ。

教えてやりたい。
俺は人間ではない。悪魔なんだよ、と。
だからそんなに頑張って殺そうとしても、無駄だ、と。


避けようかどうしようか悩み、避けるのはつまらないと結論が出た。

⏰:11/07/25 19:43 📱:F06B 🆔:MpkiitL6


#208 [匿名]
見上げると、バットが俺の頭を真っ直ぐに狙っている。
あと20センチでぶつかる。俺は右手を頭の上で構えて、バットが手に当たるのを待った。


音は鳴らなかった。
俺の掌にバットが当たり、それを握る。

「こんなんで俺が殺せるとでも思ったのか?」

俺がそう言うと、スーツ男の顔が青ざめていった。

笑みすら浮かんでいた表情が、パッと強張った。

「なめられたもんだぜ」

このセリフは俺にこそ相応しい。スーツ男達が言ったところで、ただの勘違いだ。

⏰:11/07/25 19:46 📱:F06B 🆔:MpkiitL6


#209 [匿名]
バットをスーツ男から奪った。驚くほど簡単に、バットを手放すものだから拍子抜けしてしまう。

武器が二つになった。
右手で奪ったバットを左手に持ち替え、ナイフを右手に持つ。

「どっからでもかかってこいよ!」

勇者にでもなった気分だ。


血の気の引いたスーツ男達が束になって攻撃をしてきた。

一人では勇気が出なくても、大勢になれば気が大きくなる人間そのもの。ださくてこっちが恥ずかしくなる。

⏰:11/07/25 20:00 📱:F06B 🆔:MpkiitL6


#210 [葵]
あげ(・∀・)

⏰:11/07/29 01:06 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#211 [匿名]
>>210葵さん
どうもありがとうございます!

⏰:11/07/29 21:39 📱:F06B 🆔:VoEUyrqo


#212 [匿名]
全員無我夢中で俺を殴ろうとしてくる。不恰好で隙がありすぎる。

正面から頭を狙ってきた奴を軽くかわし、後ろに回り込む。そして後頭部をバットで殴った。

次に俺の後ろにいた男。振り返らずにナイフを後ろに向けて振った。俺の肩より上にナイフを振ったが、後ろにいたのは背の高い男で、ちょうど心臓に刺さった。

ナイフを抜くと血がドバッと出た。最悪。


そのままその男の右にいた男の首を切った。

血が飛び散る。

最悪。

⏰:11/07/29 23:00 📱:F06B 🆔:VoEUyrqo


#213 [匿名]
それからも隙だらけのスーツ男達を、呆れながらも刺していった。

刺す、抜くと血が出る。
切る、首から血が出る。
刺す、抜くと血が出る。
切る、抜くと血が出る。
の繰り返し。

そして何人も殺していくと徐々に血にも慣れた。
慣れたというよりは、もう諦めた。血を避け続けては誰も殺せない。


そして、驚くほど早く俺は全員を倒しきった。

⏰:11/07/29 23:09 📱:F06B 🆔:VoEUyrqo


#214 [匿名]
俺の周りは息をしていないスーツ男達が沢山倒れている。
そこらじゅうに血が流れて、壁にも飛び散っていた。



自分に言い聞かせる。
これは俺達のターゲットを守る為で、決して悪い事ではないと。

守っているのだから、天使のあいつも、俺を責めたりはしないだろう。

しないよな?
しないでくれ。

⏰:11/07/29 23:15 📱:F06B 🆔:VoEUyrqo


#215 [匿名]
俺はあいつの冷めた目が苦手だ。

優しい顔をしていて、人間の前ではいつも笑顔のくせに、上へ戻ると冷たい顔になる。

「あんなに人間を殺していいと思っているのか?」

と冷静にあいつが言うのが想像でき、憂鬱な気持ちになる。

ターゲットのため!と言い訳を何度も唱えてみた。

⏰:11/07/29 23:17 📱:F06B 🆔:VoEUyrqo


#216 [匿名]
ターゲットを見てみると、その周りには、あと三人敵が立っていた。

見事に三人ともナイフを持っていて、ターゲットを囲み、構えている。

ターゲットは三人を順番に睨みながら、肩で息をしていた。


「情けねーな!まだ終わらねーのかよ!」

首の骨を鳴らし、わざとらしく欠伸をしながらターゲットに声をかけた。


「うるせぇな!すぐ終わる」

ターゲットが怒鳴る。

⏰:11/08/02 12:56 📱:F06B 🆔:G6A90LOs


#217 [匿名]
よく見ると、ターゲットの顔や腕、脚などに傷がいくつもついていた。

いくら腕のいい殺し屋でも、一度に大勢と殺り合うのは簡単な事ではないみたいだ。

「手伝ってやろうか?」

「いらねぇよ!」

「3対2だったら楽勝だろ」

「いらねぇって!」

「強がりやがって」

「てめぇ黙ってろ!殺すぞ」

「おー怖い怖い」

⏰:11/08/02 12:57 📱:F06B 🆔:G6A90LOs


#218 [匿名]
殺し屋に殺すと言われると、リアルで鳥肌がたちそうだ。
まぁ俺は殺されても死なないんだけど。

ターゲットは舌打ちをし、俺から視線を外した。そしてもう一度スーツ男達を睨んだ。

「一気に行くぞ!」

スーツ男達がターゲットに駆け寄った。一気に攻撃すれば、避けられないと思ったのだろう。

俺も少し近寄った。

⏰:11/08/02 13:23 📱:F06B 🆔:G6A90LOs


#219 [匿名]
スーツ男達が、頭、胸、首をそれぞれ狙っている。
どこも急所なので、うっかり刺されましたーなんて許されない。


だがターゲットはそんな俺の心配はお構い無しで、綺麗にナイフを避けた。
そして順番にスーツ男達の首を切りつける。

まるで立ち回りが決められたドラマを見ている様だ。

「ほら、すぐ終わっただろう」

ナイフを放り投げ、ターゲットが俺を睨んだ。

「ふらふらじゃねーか」

「うるせぇ」

⏰:11/08/02 13:49 📱:F06B 🆔:G6A90LOs


#220 [匿名]
「そんな事より早くここから出た方がいいんじゃねーのか?」

誰かがここに来る気配はないが、死体の山の中にずっといるのは、居心地が悪い。

「でもやべーな。俺ら血だらけだぞ?」

「ああ。それならさっき見つけた」

そうさっき、辺りを見回していると紙袋が二つ置いてあるのを見つけた。

中身は作業着と、帽子、靴、タオル。以前働いていた人の忘れ物かもしれない。

「これに着替えようぜ」

⏰:11/08/02 14:05 📱:F06B 🆔:G6A90LOs


#221 [匿名]
「運がいいなー俺ら。何もねー古いビルにこんな新しい忘れ物があるなんて」

ターゲットは血を拭き、着替えだした。俺も急いで服を着替えた。


そして何もなかったように、俺達はビルを出た。
想像通り人は一人も居なく、辺りは静かな風の吹く音だけ聞こえてくる。


そういえば、時間を全く気にしていなかった。腕時計を見るとターゲットに会ってから一時間半が経っている。

車での移動距離などを抜くと、このビルでの殺し合いは約三十分ほどだった。

短いのか長いのか、判断がつかない。

⏰:11/08/02 14:07 📱:F06B 🆔:G6A90LOs


#222 [匿名]
残り三十分。

「つーかあんな虐殺現場をそのまんまにして帰っていいのか?いつかばれるだろうし、ばれたらお前の指紋や血液を調べられて捕まっちまうんじゃねーか?」

あれが一生ばれないなんて奇跡が起こるわけがない。

「大丈夫だ。警察じゃ、俺に辿り着けねーよ。それに…」

「ん?」

ターゲットが空を見上げた。

「その頃には、俺はもう星になってるかもしれねーしな」

「…全然かっこよくねーぞ?」

「かっこつけてねーから!」

⏰:11/08/02 14:44 📱:F06B 🆔:G6A90LOs


#223 [匿名]
ターゲットは誰かに殺されると思っているのか?それとも、俺の依頼を受ける気か?

「じゃあ、俺帰るからよ。お前は殺されねぇように帰れよ」

手をひらひらと振り、ターゲットの行く方向とは逆に歩き始めた。角を曲がってターゲットから俺が見えなくなったら上へ帰る。


俺は気が付かなかった。
ターゲットが俺の後ろ姿を見る、覚悟を決めた目に。

⏰:11/08/02 14:46 📱:F06B 🆔:G6A90LOs


#224 [匿名]
上へ上がるとすぐにあいつに会った。

「お、おう!ターゲットについて調べたか?」

何も言われていないのに、あいつの顔を見て居心地が悪くなり、目を反らした。

「何を焦っているんだ?」

あいつの冷たい口調が聞こえた。

「は?な、なにがだよ!」

「何故僕の顔を見ない?やましい事でもあったのか?」

「ね、ねーよ!んなもん!」

「そうか」

「おう」

危ない。ばれるところだった。

「てっきり人間を沢山殺しちゃった事が、後ろめたいと思っているのかと思ったよ」

「…てめぇ」

くそ、ばれてたのか。

⏰:11/08/03 08:49 📱:F06B 🆔:tsVl/s/o


#225 [匿名]
「まあ、君が殺していなかったら、ターゲットは殺されていたかもしれないから、今回は責めたりしないよ」

淡々と話すものだから、それが本心なのかすら分からない。

「ああ、そりゃどうも」

「その服も君に似合うよ」

あいつは俺の作業着を指差した。

「これか?たまたまあったんだよ。血まみれだったから助かったぜ」

「たまたま?それは僕が用意しておいたんだ。普通に考えてみて、あの場所にその服だけが置いてあるわけないだろ?」

腹立たしい。
そう言われればそうじゃないか。ターゲットも薄々、何かに感ずいていたのかもしれない。

⏰:11/08/03 08:50 📱:F06B 🆔:tsVl/s/o


#226 [匿名]
「別にこれがなくても俺は逃げられたけどな!」

ムキになり舌打ちをした。

「ああ、そうだね」

また馬鹿にされた。

「それより、ターゲットの事いろいろ調べたよ」

「おう。何が分かった?」

「殺し屋になった理由だよ。まぁまだ憶測にすぎないんだけど、確実ではあると思う。ターゲットは――」

あいつが調べた情報を聞いて、ターゲットの純粋な心が見えた気がした。
少年のような真っ直ぐな正義は、どうして歪んでしまったのだろう。

⏰:11/08/03 08:52 📱:F06B 🆔:tsVl/s/o


#227 [匿名]
四日目



あいつが、調べた事が正しいかターゲットに確認しに行くと言うから、俺も一緒に行く事にした。

俺がいない間にターゲットの犯罪を正当化されたら困るからな。


ターゲットの部屋に女が訪れたのは21時だった。

「依頼に来たわ」


部屋のドアの前で携帯電話を取りだし、女がそう電話をしだした。

すると少し経って、中からターゲットが出てきた。

「またあんたかよ」

眉間に皺を寄せ、明らかに機嫌の悪い顔をしながらも、ターゲットは女を中に入れた。

⏰:11/08/09 15:21 📱:F06B 🆔:GMHiLOkQ


#228 [匿名]
その様子を見て、すぐに下へ向かった俺に、あいつは呆れた顔でついて来た。

ターゲットの部屋のインターホンを鳴らす。すぐにターゲットは出てきた。さっき女に見せた顔よりも、明らかに嫌な顔をしている。


近くで顔を見ると昨日の生々しい傷が所々にあった。だが思ったより傷はひどくなく、あまりスーツ男達にやられていなかったんだなと思えた。


「入れろよ」

「嫌だね」

「美人がいるからか?」

「…見てたのか?」

「ああ。お前が女を連れ込む様子をな」

⏰:11/08/09 15:24 📱:F06B 🆔:GMHiLOkQ


#229 [匿名]
女はサングラスをかけ、つばの広い帽子を被っていたので顔は見えなかったが、ぴっちりとした黒いジャケットに、ぴっちりとした黒いミニスカート姿、高いヒールに真っ赤な口紅。

スーツのようだったが胸元がばっくり開いていた。こんな大胆な格好は自分に自信が無くては出来ないだろう。

と、さっきあいつが言っていた。


こんな暗い夜にサングラスをかけているのは、顔を見られたくないから。きっとターゲットと同じ、非合法的な仕事でもしているのだろう。

と、これもまたあいつが言っていた。

⏰:11/08/09 15:26 📱:F06B 🆔:GMHiLOkQ


#230 [匿名]
「…そう。一発ヤっちゃおうと思ってんだよ。同じ男なら分かんだろ?邪魔しねーで帰ってくれ」

ターゲットはシッシッと猫を追い払う様な仕草をした。

「嘘つけ」

ドアが閉まる前に、あいつが言った。

「その眉間の皺、僕達を見てからついたものではなくて、あの女性を見た時にはもうついていたものだ。今から楽しみのある人間が、眉間に皺なんて作らないよ」

お前は探偵か!

だがその探偵のような言葉にターゲットは促されたのか何なのか、何も言わずに中へ入って行った。鍵をかけずに。

⏰:11/08/09 15:37 📱:F06B 🆔:GMHiLOkQ


#231 [匿名]
部屋に入ると女はソファーに座っていた。

帽子を被り、サングラスもかけたままで姿勢良く座り、入って来た俺達を探るように見てくる。

「あら、可愛い子達ね。あなたのお仲間かしら?」

女は無駄に色っぽい。

「俺の客だ。仲間でも何でもねーよ」

「そうそう、こいつに依頼してんだ」

ターゲットが正直に答えるので、俺も嘘を付かずにターゲットに合わせた。

⏰:11/08/13 20:38 📱:F06B 🆔:Td4DB/mo


#232 [匿名]
「あら、彼らの依頼は受けて私の依頼は受けてくれないなんて、酷いじゃない」

女はわざとらしく腕を組む。


「いや、まだ受けてくれるか分からねぇんだ。明日にならねぇとなー」

腕を組みターゲットを見た。俺の視線に気が付き、ターゲットも俺を睨む。


「だから!面倒くせぇ仕事はしたくねぇんだよ!」

俺とあいつ、そして女を見ながらターゲットは怒鳴った。

それを見て、隣にいたあいつは笑っている。

⏰:11/08/13 20:43 📱:F06B 🆔:Td4DB/mo


#233 [匿名]
「君もあなたも、もう諦めた方がいい」

あいつが俺と女に向けて言った。

「彼には最初から二人の依頼を受けるつもりはないんだよ?他にも殺し屋は沢山いる。彼に執着する意味はないんじゃないかな?」

それは遠回しに、暇潰しのゲームで自分が勝つと俺に言っているのか?


「残念だわ。確実で腕の良い殺し屋だと聞いたから、熱心にお願いしたのだけど、思い過ごしだったのかしら」

女が立ち上がる。

「人を殺す事に躊躇してるなら、もうこの仕事は辞めた方がいいんじゃない?まぁ辞めても、平穏な人生は送れないだろうけど」

嫌な女。

⏰:11/08/13 20:47 📱:F06B 🆔:Td4DB/mo


#234 [匿名]
「俺の生き方に、あんたがつべこべ口出すな!」

「あら、怖いわ」

女はわざとらしく体を震わせ、玄関へと向かった。意外と簡単に諦めたらしい。

「もし、私の会社が潰れたら依頼を受けなかったあなたのせいって事になるから、その時は逃げないでくださる?一緒に遊びましょう?」

そう言い残し女は出て行った。
きっとその遊びで楽しめるのはターゲットではなく女側だけだろう。

全く、怖いのはどっちだよ。

⏰:11/08/13 20:53 📱:F06B 🆔:Td4DB/mo


#235 [匿名]
「何で依頼受けねぇんだ?」

三人きりになった部屋で、俺はさっそく話題を切り出した。

「…別に」

ターゲットは素っ気なく応え、先程まで女が座っていたソファーに座った。

「単刀直入に言うけど、昨日一日中君の事を調べさせてもらったよ」

あいつが語りだした。昨日聞いた内容をもう一度黙って聞いた。

⏰:11/08/13 20:56 📱:F06B 🆔:Td4DB/mo


#236 [匿名]
ターゲットに依頼をして来た人数は104人。
依頼を遂行した数は54件。

半数は断っている。まず最初にあいつが疑問に思った事、なぜ断るのか?

この断った半数の依頼人に、共通点は何もなかった。


そして殺す方法もまちまち。刺す、押す、締める、自殺に見せかける、毒、溺死。ターゲットは何でも器用にこなしてしまう。

誰かにばれた事は一度もなく、警察の調査の対象になった事もない。

殺す相手を冷静に観察し、最高のタイミングを見計らう。勢いや感情に任せて行動する事はまず無い。

⏰:11/08/14 17:55 📱:F06B 🆔:slI3DMwQ


#237 [匿名]
そして、ターゲットが依頼を受ける人と受けない人の区別をする物が何なのか。

この間、ターゲットは悪い事をした奴を殺すと言っていたが、あれは多分嘘だ。

お金の為というのも嘘。
殺しを成功させたら一千万という大仕事を、ターゲットは蹴っていた。

でもその理由は、依頼を受けた人を調べる事で、すぐに分かった。

それは依頼人の殺して欲しい理由にあるからだ。

⏰:11/08/14 18:05 📱:F06B 🆔:slI3DMwQ


#238 [匿名]
依頼を受けた人に共通している事は、恨みがある事。

ただの恨みではない。動物、子供が傷付けられた事による恨み限定だ。

会社を倒産させられた。恋人を奪われた。母親を殺された。騙された。大金を奪われた。情報を盗まれた。

そういう理由の場合は、どんなに金回りが良くても断っている。

普通の殺し屋なら断るはずがないのに。

⏰:11/08/14 18:11 📱:F06B 🆔:slI3DMwQ


#239 [匿名]
しかし、ペットや子供、動物などが傷つけられたり、殺されたりした場合は依頼を受けている。

今思い返すと、あのチンピラ野郎を殺した理由も、動物関連だった。

その時のターゲットの態度を考えると、殺された動物の為に!という思いが強かったんだなと理解出来る。

まるで弱い者を守るヒーローの様だ。



「僕の勝手な解釈だけど、合っているよね?」

全てを話した後、天使のあいつはそう問い掛けた。

⏰:11/08/14 18:18 📱:F06B 🆔:slI3DMwQ


#240 [匿名]
あいつが話している間、ずっと黙って聞いていたターゲットは、最後の自分に対する問いを聞いて、自傷ぎみに笑った。

「殺った本人すら覚えていない依頼人数も調べられたなんて、あんた何者?」

「え?うん、まあね」

あいつが言葉を濁す。
なんだかわざとらしい。

「確信を得る為に、全ての依頼人を調べたから時間がかかったけどね。でも君が根っからの悪者ではないと知れたから」

あいつの見透かすような笑顔を、ターゲットは苦々しい顔で見た。

⏰:11/08/15 15:52 📱:F06B 🆔:HH5XgpYM


#241 [匿名]
「…俺は」

ターゲットは下を向いた。

「…ただ」

下を向きながらターゲットは呟いている。

「ヒーローにでもなりたかったのか?」

ターゲットが俺を見上げるので気が付いた。いつの間にか俺は、ターゲットの目の前に立ち、見下ろしながらそう言っていた。

その後も勢い。

「この世にな、人殺して金稼いでるヒーローなんかいねーんだよ!それはな、どんな理由があろうとただの犯罪者だ!」

⏰:11/08/15 15:56 📱:F06B 🆔:HH5XgpYM


#242 [匿名]
ターゲットは何も応えない。ただ下から真っ直ぐ俺を睨んでいる。

「お前じゃ誰も救えない。何も変えられねーよ!間違ってんだよ。お前が今までやってきた事は全部!何を夢見てんだか知らねーが、正当化はされねぇぞ!」


勢いのまま怒鳴った。俺はこんな事を考えていたのかと、言葉に出して初めて知った。

「そんなんじゃねぇ」

ターゲットが言う。

「そんなガキみたいに、ヒーローになりたいなんて、思ってねーよ!」

ターゲットも怒鳴った。

立ち上がり、奥の部屋に行ってしまった。

行動が幼稚で、言葉とのギャップのせいで妙な気持ちになる。

⏰:11/08/15 16:00 📱:F06B 🆔:HH5XgpYM


#243 [匿名]
バタン!と大きな音をたてて閉まったドアの向こう側には歯を食い縛るターゲットがいた。

必死に涙を我慢しているのだろう。

俺に全てを否定されたターゲットは、母親に裏切られた子供同然。

あの態度を見ると、俺の言った事を真に受けている。誰かの言葉に左右され、嘘だ!と思いたいが思えない子供だ。

全てが悪い方へと向かっていく様な不安にかられて、死にたくなる。はず。

⏰:11/08/15 16:02 📱:F06B 🆔:HH5XgpYM


#244 [匿名]
この状況に俺は満足して、上の世界に帰る事にした。


あいつはまだ残り、ターゲットに優しい言葉をかけるみたいだ。

もやもやと雲がかかった様な自分の心を、わざと見ない様にした。雲がかかっちゃ見えねーから諦めよう!そう思い込んだ。

だけど本当は雲なんて薄くしかかかっていなくて、自分の動揺している心が丸見えだった。


「お前は悪くない!」
悪魔の俺には似合わない言葉が、頭から離れない。

⏰:11/08/15 16:04 📱:F06B 🆔:HH5XgpYM


#245 [匿名]
五日目



19時半を過ぎ、辺りが暗くなった。ターゲットに動きはない。

待ちきれない。何かが起こってから行動するのは性に合わない。

そんな事を言うと、あいつに馬鹿にされるから俺は一人で下の世界に行こうとした。

行こうとしたのだが、気が付いたら隣にはあいつがいた。

「昨日の状況で、君に一人で行かせるわけないだろう?」

まただ。何でもお見通しだって顔で俺を見ている。

⏰:11/08/17 16:44 📱:F06B 🆔:vUQ050R2


#246 [匿名]
「うっぜぇなー」

「君だって僕が一人でターゲットへ助言しに行ったら怒るだろう?」

「そりゃそうだろ!」

「なら僕も一緒だ」

くそ!
返す言葉が見付からず、さらに苛立ちが増す。
こいつと一緒に居たら俺はストレスで早死にするんじゃないかと不安になる。

死なないけど。

⏰:11/08/17 16:46 📱:F06B 🆔:vUQ050R2


#247 [匿名]
そんなどうでもいい事を考えていると、ターゲットの家のドアが開いた。

「うるせぇんだよ!」

中から、スーツを着たターゲットが出てきたかと思うと、またすぐに中へと入ってしまった。

声なんて聞こえるはずないのに。

「今日は仕事なのか?」

ターゲットが黒いスーツを着ているので、疑問に思ったのだろう。中に入りながらあいつが聞いた

⏰:11/08/17 16:52 📱:F06B 🆔:vUQ050R2


#248 [匿名]
「あぁ」

あぁ、だと?

「俺の依頼はどうなったんだよ?今日はその為に来たんだ」

ソファーに座る。

「今日は俺の最後の仕事だ」

なんだと?

「俺の依頼は受けねぇで辞める気かよ!」

これからは真面目に生きていきます。とでも言うつもりか?

ターゲットは応えない。黙ってどっかを見つめている。

⏰:11/08/17 16:58 📱:F06B 🆔:vUQ050R2


#249 [匿名]
「死ぬ気なの?」

俺の言葉に反応しないターゲットを見て、あいつがため息混じりに問い掛けた。

死ぬ気?

「俺もいろいろ考えた」

ターゲットの表情は相変わらず無表情で、何を考えたのか、それは辛かったのか楽だったのか、何も伝わって来ない。

ただ真っ直ぐに何かを決心し、貫こうとしているのは分かる。

⏰:11/08/17 17:04 📱:F06B 🆔:vUQ050R2


#250 [匿名]
「考えたんだよ。今まで俺がしてきた事を、最初から最後まで」

最後?

「話、詳しく聞きたいんだけど」

あいつが言う。

ターゲットが自害しようとしていると、あいつは多分そう思っている。

「お前が調べた内容、図星すぎてびっくりしたよ」

ターゲットがあいつに言った。

⏰:11/08/17 17:09 📱:F06B 🆔:vUQ050R2


#251 [匿名]
「俺は、自分の力じゃ何も出来ない奴の代わりに、やっつけたかったんだ。自分勝手に弱者を傷付ける糞野郎共を!」

ターゲットの顔は無表情から怒りに満ちた顔に変わった。

「許せなかったんだよ!動物は喋れねぇし、子供は力が無い。それなのに自分勝手に傷付けたり、殺したり!…黙ってらんなかった」

ターゲットは悔しそうに拳を握る。


「そう思った事が、この仕事を始める切っ掛けになったのか?」

あいつが聞いた。

「そうだ」

ターゲットが頷く。

⏰:11/08/18 17:58 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#252 [匿名]
ターゲットの怒りに満ちた顔が、涙目に変わる。

「俺が殺すと、依頼人は泣いて喜ぶんだよ。仇をうってくれてありがとう、って泣くんだよ…」


俺とあいつは、ターゲットの言葉にただ耳を傾ける事にした。


「それが嬉しくてさ。誰かに、ありがとう、って言われる事がこんなに嬉しい事なんだって、人を殺して初めて知った」

ターゲットの目から涙が流れた。

「それで決めたんだ。俺は心に傷を負った人を助けようって。癒してあげようって。それが、殺す事に繋がった」

⏰:11/08/18 18:00 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#253 [匿名]
ターゲットは本当にヒーローになりたかったんだ。大切なものを亡くし、傷付いた人を放っては置けなかったんだ。

不器用なターゲットは、こういう形で人を救う事しか出来なかった。


「人を殺せば、救われる人が居る。俺に出来る事は、それしかなかった。それで良いと思った!…いや、思い込もうとしてただけなのかもしれない」

右手で両目を隠し、涙が見えない様にしている。だけど歯を食いしばって震えているからすぐに分かる。

⏰:11/08/18 18:02 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#254 [匿名]
「だけど俺は間違ってたんだよな?人を殺すヒーローなんていない。…本当その通りだ」

涙を拭い真っ赤になった目と、目が合う。さっきよりもさらに真っ直ぐで純粋な目だった。

「今まで気が付かなかった自分が恥ずかしいよ。もっと早くお前らみたいな奴に出会ってたら、まともな人生歩めてたかな?」

ターゲットが窓のある方へと歩いた。咄嗟に俺は立ち上がり、あいつは一歩ターゲットに近付いた。

ガラッと窓が開かれた。
冷たい風が一気に部屋へと入り、俺達に触れながら通り抜ける。

⏰:11/08/18 18:04 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#255 [匿名]
「俺は、ただ…」

ターゲットの上半身が窓の外に出る。

「…ヒーローに、なりたかった」

汚れの無い笑顔を見せ、ターゲットの重心は、完全に外へと向かった。

頭が見えなくなる。
肩が、背中が、ゆっくりと外の世界へと消えて行く。


俺に何も言わせないで、俺の目の前で死ぬ気か?

⏰:11/08/18 18:06 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#256 [匿名]
「糞野郎!」

俺は悪魔で、あいつは天使で、今飛び降りたのは人間。

ターゲットの足が宙に浮いた瞬間、俺とあいつはターゲットに駆け寄った。

死なせてたまるか!と心の中で叫んで。

二人でターゲットを掴む。脚とか腰とかを、二人共無茶苦茶な格好で掴み、無茶苦茶な力で引き上げた。

「悪りぃ。俺の依頼受けてくれんのは嬉しいんだけどよ、払う金がねぇんだわ!だから、キャンセルで!」

顔の前で手を合わせ、謝るように頭だけ下げた。

⏰:11/08/18 18:09 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#257 [匿名]
部屋の床に投げ付けられ、倒れたままのターゲットはポカーンとした顔で俺達を見ている。

「え?」

動揺するのも無理はない。死を覚悟し、自ら体を外へ放り投げ、後は体が地面に叩きつけられるのを待つだけだったはず。

それなのに叩きつけられたのは、自分の部屋。

ターゲットは今自分に起きた摩訶不思議な現象を必死に把握しようとしている。

「本当に君は素直じゃないね」

あいつが俺に言う。

⏰:11/08/18 18:10 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#258 [匿名]
「うるせぇ!」

あいつに言い返す。

だけどあいつはニヤッと笑っただけで、俺との言い合いを終わらせ、ターゲットに声をかけた。
むかつく。

「君は、死ぬ必要なんてない。正しい事に気付けたんだ。これからどれだけでも挽回出来るよ」

「俺は、生きてていいのか?」

その問いにあいつが深く頷いた。

ターゲットは顔をくしゃくしゃにして泣いた。歯を食い縛る事も、涙を手で隠す事もしない。隠さず泣いている。今まで溜まっていたものが、全て流れ出ている。

⏰:11/08/18 18:13 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#259 [匿名]
「泣いてんじゃねーよ!俺が助けたんだぞ!死んだら殺すからな!」

また訳の分からない言葉が出てきた。本当は、お前は悪くない、と言ってやりたかったが、やっぱりそんな事言えない。


暇潰しで、自分から負けを選ぶという悪魔失格な事をしておいて、変な所で意地を張ってしまう。

俺は馬鹿だ。
あいつが馬鹿にするのも無理はない。悔しいが。

⏰:11/08/18 18:16 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#260 [匿名]
「僕の勝ちだね。また君が悪魔である事を、放棄してくれたお陰だけど」

あいつが玄関へと向かいながら、俺に言った。

俺の負け。
だけど負けに対しては悔しくない。

「次は勝つ!」

「ああ。頑張ってくれ」

むかつく。

舌打ちをし、あいつが俺とターゲットから離れるのを見届けてからターゲットを見下ろした。

⏰:11/08/18 18:17 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#261 [匿名]
「お前は生きなきゃ駄目だ!自分の気持ちに正直に生きれば、それは絶対正しい」

そう、ターゲットにだけ聞こえる様に言った。あいつにはばれていない。だろう。


「何様だよ」


ターゲットが、泣きながら笑う。

⏰:11/08/18 18:20 📱:F06B 🆔:OoxCdEe2


#262 [匿名]
...四年前




あれは冬の寒い夜だった。

高校二年生の彼は、居酒屋のアルバイトを終え、家に帰る途中。

雪こそ降っていなかったが、吐いた息が白い。マフラーを口まで隠し、凍えそうな手は制服のズボンのポケットに突っ込んだ。

誰も居ない公園を、足早に通り抜ける。近道だ。

だがその日、誰も居ないはずの公園に一つの人影が見えた。

⏰:11/08/20 21:45 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#263 [匿名]
その人影は右手に何かを掴み、それを思いっきり地面に叩き付けた。

それと同時に、ギャッともギュッともとれる変な音がした。

怪しい雰囲気に吸い込まれ、彼はそれを覗き込んでしまった。そしてその音が、動物の発する呻き声だと分かった。

猫が倒れている。

ピクピクとまだ動く猫を、その怪しい人影は、ヒッヒッと不気味に笑いながら見下ろしている。

⏰:11/08/20 21:48 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#264 [匿名]
この人間から、早く離れなくてはならない。彼はそう思った。


「てめぇ何やってんだ!」

だが、自分の意志とは裏腹に、彼はそう怒鳴り、怪しい人間に体当たりをした。


猫を助けなければならない。
自分の中に居る誰かがそう言っている様な不思議な感覚を、彼は感じた。

⏰:11/08/20 21:50 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#265 [匿名]
猫を助けろ!
この人間を懲らしめろ!

何度も誰かがそう言っている。自分の中に居る誰かが。彼はその声の通り、その人物を何度も殴った。

そして我に返ると、目の前に居た不気味な人間が死んでいた。


自分の拳に痛みが走る。
ああ、俺は人を殴り殺してしまったんだ。

彼は気が付いた。

⏰:11/08/20 21:53 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#266 [匿名]
だけど罪悪感はない。猫を助ける事が出来たからだ。


次の日、あれはまだ朝の6時頃、彼の部屋に老婆が訪れた。

玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けると小柄な老婆がぽつんと立ち、彼に言った。

「全て見ておりました」


ドキリと胸が苦しくなった。老婆の言う「全て」が、昨日の殴り殺した一件だと、彼はすぐに理解したからだ。

⏰:11/08/20 21:58 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#267 [匿名]
殺すしかない。彼はそう思った。

だが、次に聞こえた言葉に、彼は言葉を失った。

「ありがとうございます」

震える様な声だった。

彼が老婆を改めて見ると、目には涙を浮かべ、それでも笑顔で自分を見ていた。


「私の大切なミケを助けてくれて、本当に本当にありがとうございます」

ミケとは昨日助けた猫の名だろう。

⏰:11/08/20 22:03 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#268 [匿名]
何度も頭を下げ、何度もありがとうと言う老婆を、彼はただ黙って見ていた。

どうしたらいいのか分からなかったのだ。

目の前で、人が喜んでいる。ありがとう、と言われている。

彼は産まれて初めて感じる感情に、胸が高鳴った。


嬉しい。
ただ、嬉しかった。

誰かに感謝される事で、こんなにも自分自身が暖まっていくとは思わなかった。

⏰:11/08/20 22:05 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#269 [匿名]
真っ暗で、何処に向かって歩いているのかすら分からなかったのに、今、たった今、光の射し込む場所が見えた。

やっと見つけた。
自分の歩むべき道がようやく見えた。

彼は迷う事なく、ただ一点の光目掛けて歩き出した。


ありがとうと言われたい。綺麗な涙を見ていたい。
笑った顔を増やしたい。

誰かの為に生きていたい。傷付いた人を救いたい。

自分だけが出来る事で、人の心を救うんだ。

⏰:11/08/20 22:08 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#270 [匿名]
彼は強く思った。


弱い者を救うべく、ヒーローになろうと。

ヒーローにならなくてはいけないと。




そして、この日から四年後、彼は二人の青年と出会う。
その出会いの経て、正しいヒーローへの道を、彼はやっと見つける。

⏰:11/08/20 22:11 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#271 [匿名]
二つ目の暇潰し、終わり

⏰:11/08/20 22:12 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#272 [葵]
おもしろかったです(^ω^)

⏰:11/08/21 02:12 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#273 [匿名]
>>272葵さん
ありがとうございます!いつも読んでくださって、凄く嬉しいです(*´д`*)

⏰:11/08/21 09:46 📱:F06B 🆔:iZMoJc/w


#274 [葵]
また書いてくださいね。楽しみにしてます

⏰:11/08/21 10:04 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#275 [隆平]
かいてください!!

⏰:11/08/23 12:38 📱:F09C 🆔:RqlSIqKc


#276 [匿名]
葵さん、隆平さん
ありがとうございます!
次の暇潰しを、試しに視点を変えて書いてみたいと思います。

⏰:11/08/23 19:50 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#277 [匿名]

一日目



今日も目覚ましの音で目が覚める。少し開いたカーテンの隙間から光が漏れている。眩しい。

隣に寝ている守を起こさなくちゃ。私が朝起きてから、まずする事。


「朝だよ。おは…―」
隣を見て、気が付く。

そうだ、守はいないんだ。

一体いつになったら慣れるのだろうか。

⏰:11/08/23 20:52 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#278 [匿名]
悲しい気持ちが消えないまま、顔を洗いに行く。

ついこの間まで、隣には守がいた。顔を洗うのと歯を磨くタイミングは毎日一緒で、いつも蛇口の取り合いになる。

待たされる事がほとんどだったのに、二人で並んで歯を磨くあの時間が私は好きだった。

鏡越しに目が合うと、何だか嬉しくて、目が合うまでずっと守を見ていた事もあった。


楽しかったな。そう感じると同時に、言い様のない孤独感に包み込まれた。

⏰:11/08/23 20:54 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#279 [匿名]
もう戻らない過去を振り返っても、何にもならない。そう言い聞かせながら、簡単な朝食を作り、一人で食べた。

「旨いじゃん!」

手の込んでいない料理でも守は旨いって言ってくれた。

守の声が聞こえた気がして、ふと正面を見上げてしまう。

何日同じ事を繰り返せば、私は学習するのだろう。

⏰:11/08/23 20:56 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#280 [匿名]
洗い物をし、化粧と着替えを急いでする。

「忘れ物ないかー?」

家を出る五分前に、いつも守は私にそう言ってくれる。

だから今まで忘れ物なんてした事なかった。もう守は言ってくれないけど、今でも忘れ物はしない。守がいつも言ってくれた言葉や行動は、忘れた事などないから。

⏰:11/08/23 20:58 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#281 [匿名]
家を出て、駅に向かう。
いつも二人で歩いた道程。

駅で別々の方向に向かう電車に乗る。いつも私が乗る方の電車が早くつくから、電車に乗りながらホームに立つ守に手をふる。そうすると守は、いつも照れ臭そうに手を少しだけ上げて私に合図をしてくれる。

その姿を遠目で見ると、なんだか旦那だとは思えなくて、恋人同士だった時に戻った気持ちになった。

なんでだろう?

今でも電車に乗り、ドアが閉まると守の姿を探してしまう。もうここに守はいないのに。

守がいない事を確認すると泣きそうになる。

今日もまだ心が晴れない。
守、どこに行ってしまったの?

⏰:11/08/23 21:01 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#282 [匿名]
三十分程電車に乗ると、会社の最寄り駅につく。

ここからは、守の事をほんの少しだけ忘れられる。

二十八歳になった私はこの会社で働いて、もう五年になる。やりがいのある仕事だから、働いている時は他に何も考えられない。だからほんの少し、守を忘れられる。

別に、忘れたい訳じゃないけど、考えてしまうと辛くなるから、今は出来るだけ忘れたい。

溜め息が出る。

⏰:11/08/23 21:06 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#283 [匿名]
「溜め息なんかついちゃって、何か嫌な事でもあったのか?」

下を向いていて、そう声をかけられるまで前に誰かがいる事に気が付かなかった。

顔を上げると若い男が立っていた。私を見て、微笑んでいる。

微笑んでいると言っても、その笑みに優しい雰囲気は一切感じない。黒い陰のような居心地の悪い雰囲気をまとっている。

それなのに私はその男に見とれてしまった。

⏰:11/08/24 17:10 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#284 [匿名]
二十代前半に見える男は、スラッとした長身で黒いスーツを着ていた。
どこにでもいる若い男性だと思ったが、全然違う。

作られた物みたいに綺麗な顔立ちで、どこにも隙がない。
そう、人間じゃない、生きてはいないものみたい。

「なんだよ!俺の顔そんなに変か?」

見とれている私にその男は近付いてきた。不覚にも、胸が高鳴る。

「い、いえ!」

近ければ近い程、その男は綺麗だった。灰色の瞳が、真っ黒な髪の毛の間から覗いている。

⏰:11/08/24 17:16 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#285 [匿名]
彼と目が合うと、なんだか闇に吸い込まれて行く様な気がして、咄嗟にそらしてしまった。

「まぁいいや。あんたさ、何か悩んでんだろ?」

「えっ」

いきなり赤の他人にそんな質問をぶつける人に初めて会った。

悩みと言えば悩みに分類されるのかもしれない。でも悩みという甘いものじゃない。

「…死にたいだろ?」

目の前の彼の表情が悪魔に見えた。本当に私を殺してくれそうな、そんな圧迫感がある。

⏰:11/08/24 17:21 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#286 [匿名]
「もし死にたいなら、協力してやってもいいけど?」

死にたいか?
そんなの、死にたいに決まってる。

守は死んだ。
突然過ぎる事故で死んだ。

何の前触れも無く、突然私の前から居なくなり、もう二度と会えないと宣告された。

守の側に居たいんだから、死にたいに決まってる。

⏰:11/08/24 17:22 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#287 [匿名]
「泣くなよ」

「え?」

私、泣いていたんだ。

目の前の男が不気味に笑うのを見て、余計に辛くなる。
どうして私は生きているのだろう。守が居なくては、生きて生けないはずなのに。もしかして私は、守が死んだあの日から、死んだも同然なのかもしれない。


「無意識に泣ける程追い込まれてんなら、死んだ方が楽だぜ?」

この人は何者?

「あなた誰?」

⏰:11/08/24 17:24 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#288 [匿名]
「俺?うーん、なんつったら分かりやすいかな?」

目の前の男が首を捻りながら考えている。

「簡単に言ったら、悪魔かな」

そう言った男の瞳が真っ黒に変わった。私は吸い込まれそうになり光を求めて空を見た。

光の加減で変わる瞳の色ですら、不気味に感じる。

「悪魔…」

悪魔みたいな最低な人物。そう言いたいのかな?

でも何故か、そういう意味ではないような気がした。本物の悪魔が私の前に現れた。
私は、本当に死にたくて、無意識に呼んでしまったのだろうか。

⏰:11/08/24 17:30 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#289 [匿名]
二日目



電話が鳴る。
ジャガイモを切る手を止めて、電話に向かった。

「はい、富永です」

私は普段より少し高い声で電話に出た。

「富永幸子さんですね?」

受話器から出る聞き覚えのない声に、私は警戒をした。
そうですが、と答えつつ、この緊張感のある声の主が誰なのか必死に記憶を辿るも、すぐにその必要は無くなる。

「富永守さんが――」

⏰:11/08/25 18:06 📱:F06B 🆔:4gXk0VdA


#290 [匿名]
警察だと名乗る男の話は信じがたく、一瞬にして耳が遠くなり、目の前が真っ暗になった。

富永守さんが車に跳ねられて亡くなられました。


「…オレオレ詐欺ですか?」

やっと絞り出した声がこんな陳腐な言葉になり、自分自身の緊張を少しだけ和らげてくれた。

「いえ、すぐに病院へ来ていただいてよろしいですか?」

それから警察だと名乗る男の話す内容を聞いて、これは詐欺なんかじゃないと思い知らされた。

脚に力が入らない。
空気を上手く吸えない。
目の前がぐるぐる回る。

⏰:11/08/25 18:08 📱:F06B 🆔:4gXk0VdA


#291 [匿名]
ピリリリリピリリリリ

ハッとした。

今日も目覚ましの音で目が覚める。

嫌な夢を見てしまった。あの日、仕事を定時で終わらせ急いで家に帰り、夕食の肉じゃがを作ろうとした時の夢だ。

守が死んだ。
私は警察の電話で初めて知ったのだ。今でも鮮明に覚えている。

私の人生が終わった日。

⏰:11/08/25 18:09 📱:F06B 🆔:4gXk0VdA


#292 [匿名]
上の空で支度をし、家を出た。駅までの道を一人で歩く。隣を見ても守はいない。

慣れる訳がないんだ。守が居て私が居た。今の毎日は、過ごす意味のない日々。


「あの、ハンカチ落としましたよ」

肩をポンと叩かれ、条件反射で肩がビクッと上がる。

振り返ると、二十代前半の若い男が私のハンカチを持ち、差し出してくれていた。

⏰:11/08/25 19:45 📱:F06B 🆔:4gXk0VdA


#293 [匿名]
また私は見とれていた。
柔らかそうな茶色の髪の毛に茶色い瞳。大きな目が印象的な可愛らしい男。

昨日会った悪魔さんの様に、整いすぎた顔のせいで、本物の人間には見えなかった。

だけど悪魔さんとは全く違う柔らかい雰囲気。

「あ、ありがとうございます」

もう少しで、お礼を言うのを忘れる所だった。

でも変だな。ハンカチはバッグの中にあるポーチに入れたと思ったんだけど、何で落ちたんだろう。

⏰:11/08/25 19:50 📱:F06B 🆔:4gXk0VdA


#294 [匿名]
「落ちてすぐだったので、そんなに汚れてないと思いますよ」

またその男は優しい笑顔で微笑んでくれた。何もかも包み込んで癒してくれる、天使みたいな人だと思った。

「すみません。助かりました」

お礼を言い頭を下げて、立ち去ろうとした時、私は彼にまた呼び止められた。

「あの、こんな事いきなり言うのは自分でもどうかと思うんですが…」

深刻そうな顔になるので、私は一気に不安になる。

⏰:11/08/25 19:51 📱:F06B 🆔:4gXk0VdA


#295 [匿名]
「…大切な何かを、なくされた様ですね」

天使さんは少し黙ったあと、私の目を真っ直ぐ見てそう言った。

何故分かったんですか?
そう思ったのに、言葉が出ない。

「まもる、さん?」

何で、何で名前まで知っているの?

「泣かないでください」

「えっ」

また私泣いていたんだ。

⏰:11/08/25 19:54 📱:F06B 🆔:4gXk0VdA


#296 [匿名]
「僕にはそういう能力があって。あなたの辛さも、苦しみも分かります。…死にたいって思っている事も」

何だろう、この感情。
涙が止まらない。

「大丈夫です。あなたは大丈夫だから」

大丈夫という言葉が、とても力強く感じた。

「あなたは?」

「僕?えっと、人を救う仕事をしているんです」

私の勘は鋭かった。やっぱり彼は天使みたいに心の綺麗な人だ。

⏰:11/08/25 19:57 📱:F06B 🆔:4gXk0VdA


#297 [匿名]
そして私の涙が止まる頃、天使のような彼と別れ、私は会社に向かった。そしていつもと同じように仕事をする。


今日はいつも以上に忙しく、気が付くと夜の19時を過ぎていた。

もう帰ろう。
そう考えると、帰りたくない気持ちが出てくる。

このまま何も考えず、ただ目の前に山積みにされた仕事を、手際よくこなしているだけの日々だったら、楽なのに。

どうして現実は、こうも複雑なんだろう。

⏰:11/08/26 18:45 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#298 [匿名]
もっと単純で、人生がゲームと同じだったら、私は間違いなくリセットボタンを押す。

そうしたら、やり直せる。守が死なない様に調節出来る。
簡単に想像出来るのに、どうして戻れないんだろう。



暗闇の様な気持ちで歩いた帰り道、私は悪魔さんに会った。

「よぉ!」

馴れ馴れしい。
昨日ほんの少し話しただけなのに、旧友に会った様な態度に、私は臆する。

⏰:11/08/26 18:49 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#299 [匿名]
「やっぱお前元気ねぇな」

「…出ませんよ」

「何で?」

「何でもです」

言葉に出したら、私はきっと崩れ落ちる。立つ事が出来なくなって、目の前も見えなくなる。

「死んだんだろ?だーい好きだった男が」

言葉を失う。
どうして知っているの?朝の天使さんもそうだった。

この人達は何者なの?

⏰:11/08/26 18:51 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#300 [匿名]
「何で知ってるの?やめてよ!死んだって簡単に言葉にしないで!…って顔してんな?」

悪魔さんはふざけた態度で、私の心をえぐった。

私ってこんなに涙脆かったんだ。ポタポタと涙が垂れて、私の服を濡らす。


そういえば、今まで感動する映画やテレビを見て泣きそうになる時、いつも隣で私より先に守が泣いていたんだっけ。

その様子を見て、私は可笑しくなって笑っちゃうんだ。

⏰:11/08/26 18:52 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#301 [匿名]
だって鼻は真っ赤で鼻水も出てるし、そんな人が隣にいたら、感動なんてどっかに飛んで行っちゃう。

「泣きすぎ!」
って私が笑いながら言うと

「うるせぇ!」
って守は泣きながら言う。


涙脆い守が私は好きだった。こんなにも優しい心を持つ人が側にいると思うと、私は世界で一番幸せだって感じれたから。


守がいつも私より先に泣くから、私は自分が涙脆い事に今まで気が付かなかった。

⏰:11/08/26 18:55 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#302 [匿名]
「今日会ったんだよ。富永守っつう男に。お前の事心配してたぞー!早くその男に会いに行こうぜ?」

「何を言ってるんですか?」

ふざけているとしか思えなかった。守に会った?守は死んだの。会えるわけがない。

「嘘だと思うか?」

「当たり前じゃないですか!」

「じゃあ何で名前、知ってると思う?」

「…そ、そんなの調べればすぐに分かります!」

「ハハッ…断固として俺の言う事を信じねーんだな」

⏰:11/08/26 18:58 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#303 [匿名]
守は死んだ。
あの日から私は守に会えなくなった。声が聞きたくても、触れたくても、一切出来なくなった。

それなのにこの悪魔のような人間は、守に会ったなんて酷い事を言う。

「本当なら会わせて」

守に会いたい。

「だーかーらー!死んだら会えるっつーの!まだ神様への行列に並んだばっかだからな!」

「神様?行列?」

何言っているの悪魔さん。

「おう!だから死ななきゃ守っつう男には会えねぇ」

「…嘘ですよね?」

「はあ?」

⏰:11/08/26 18:59 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#304 [匿名]
「私が死んだら、あなたが何か得をするんですか?」

「得っつぅか、なんつーか…」

「守を使って、私を騙さないで下さい!」

守はもう何も言えない。それをいい事に、守を使うなんて酷い。

「ったく面倒くせぇ女だな!何でも信じやすいんじゃなかったのかよ!」


悪魔さんは目を細め、空を睨む様に見ながら言った。

「人を信じるのは素晴らしい事だけど、相手の素性を見極めろ!」

悪魔さんは私を指差し、怒った。それが守にそっくりで、私は何も言えなくなる。

⏰:11/08/26 19:01 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#305 [匿名]
「お前過去、悪徳業者に騙されて五十万取られそうだったんだろ?守って奴が言ってたぞ?幸子にそう伝えて下さい!って。まぁ頼まれたのは俺じゃねぇんだけど、言っちゃった」

守しか知らない事。悪魔さんは、それを守から聞いてきたように喋る。

もしかしたら、嘘なんか一つも付いていないのかもしれない。


「守って奴の忠告無しでも、ちゃんと疑う心を持ち始めたんだな!…正しいよ。俺は聖者じゃないから」

そう言った悪魔さんの顔が、一瞬切なく見えた。悪魔にならなくてはならない!と必死に演じる天使のようで、私は悪魔さんの言葉を信じてみたくなる。

⏰:11/08/26 19:05 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#306 [匿名]
「俺がお前に協力してあげれんのは、あと三日間しかねーんだ。だからよーく考えろ」

悪魔さんは鋭い目付きで私を見た。

「もし、もし本当なら守は私にどうして欲しいと思っているんですかね?」

「そんなの、死んで同じ世界でまた一緒に居たいって、思ってるだろ?」


そう言い、悪魔さんは風の様に去って行った。

守も、私とまた一緒に居たいと思ってくれているのかな?

守は私に会いに来れないから、私が行くしかない。

⏰:11/08/26 19:06 📱:F06B 🆔:yzyXQKjY


#307 [匿名]
三日目




私は守の会社から一番近くにある大学病院の前に居た。

ここまでどうやって来たのか何も覚えていない。
病院を前にして一気に脚が重くなり、一歩も前に出なくなった。

「さっちゃん!」

後ろから勢いよく声をかけられた。
振り向くと私の母が険しさと戸惑いの入り交じった表情で立っていた。

「お母さん…」

母の顔を見たとたん、どんどん視界がぼやけていった。

⏰:11/08/29 16:36 📱:F06B 🆔:Tm.8msg6


#308 [匿名]
私の目に涙が溜まっていくのを見て、母は何も気にせず私を抱き締めた。

懐かしい母の温もりを感じ、私の緊張の糸は簡単に切れてしまった。

「大丈夫?」


その母の問いにも答えられないくらい、私は泣いた。

声を上げて泣いた。

母はそんな私の背中を何度も何度も撫でてくれて、私が泣き止むまでずっとその場で、抱き締めてくれた。


守が車に跳ねられ、運ばれた病院の前。

⏰:11/08/29 16:37 📱:F06B 🆔:Tm.8msg6


#309 [匿名]
ハッとし、目が覚めた。
目覚まし時計が鳴っている。

昨日の夢の続きを見た。
守が運ばれた病院の前で、私は中に入れずにいた。母が居なかったら、私はずっと守に会いに行けなかったと思う。

警察からの電話があってから、私はすぐに母に電話をしたらしい。全く覚えていないけど、無意識に母を頼ってしまったみたいだ。


時計の針が八時を指していて一瞬寝坊かと焦ったが、すぐに今日は休みだと気付いた。

あんなに待ち遠しかった休みの日なのに、守の死があってから、大嫌いになった。

⏰:11/08/29 16:38 📱:F06B 🆔:Tm.8msg6


#310 [匿名]
守の事しか考えられなくなるから。


実家に行こうか、掃除をしながら悩み、終わる頃に行く事を決意した。

明日も会社は休みで予定は何も無いから泊まっちゃおう。私は二日間の予定をたてた。

実家は私の家から電車で一時間の距離。
戻ってくれば?という母の優しさに上手く甘えられず、週末になると実家に帰るという日々を送っている。

こんな私でも、これ以上心配はかけられないと思っていた。

⏰:11/08/29 16:40 📱:F06B 🆔:Tm.8msg6


#311 [匿名]
そんな事を思い出しながら、少ない荷物を持って家を出た。

「気を付けろよ!何かあったらすぐ連絡しろよ!」

また守の声が聞こえた気がした。

私が一人で出掛ける時は、守は必要以上に心配する。

身支度をしている時に一回言い、家を出る時にもう一回言う。心配しすぎな守を見て、面倒臭いなー、と何度思った事か。

それでもやっぱり、心配性な守を見ると嬉しかった。愛されているなって、実感出来たからだ。

⏰:11/08/29 16:42 📱:F06B 🆔:Tm.8msg6


#312 [匿名]
電車に乗り、一時間かけて地元についた。

先週も来たから懐かしさは感じない。でもやっぱり安心感がある。駅を出てすぐ正面にある商店街は、小さな頃から何も変わらない。

その商店街を抜けて信号を右に曲がると実家が見えてくる。どこにでもある一軒家。

「あれ?」

ただ真っ直ぐ実家を目指していた私の隣には、昨日会った天使さんが並んで歩いていた。

「やっぱりあなたでしたか」

そう言われて天使さんの存在に気付く。

⏰:11/08/30 23:17 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#313 [匿名]
「あ!昨日の方。どうしてここに?」

偶然の再会に、私は素直に驚いた。

「今日は仕事の関係で、初めてここに来まして」

「あ、そうなんですか」

「あなたはどうしてここに?」

「ここ私の地元で、今日は実家に帰って来たんです」

「そうなんですか!偶然ですね」

天使さんは爽やかに笑う。

⏰:11/08/30 23:18 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#314 [匿名]
私は天使さんにつられて、無意識に微笑み頭だけ下げた。

「そんな事より、大丈夫ですか?昨日泣かれてたから、ずっと心配していたんです」


優しい言葉と口調に、私の心が穏やかになっていく。大丈夫です。という意味を込めて頭を下げた。


「…あ、そういえば、私に死ぬ事を進めてくる男性がいて…」

何故か私は、天使さんに悪魔さんの事を話さなければいけないと思った。

⏰:11/08/30 23:20 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#315 [匿名]
「ああ、それなら気にしない方がいいですよ」

天使さんの笑顔は崩れない。
人に死を進める人なんて、遠回しだが殺人者と変わらない。それなのに、驚いたり不気味だと感じたりしていないみたいだ。

「その人、死んだ旦那の事を知っていて」

「どこかで聞いたんでしょう、きっと」

「旦那しか知らない事も知っていて」

「情報っていうのは流れますから」

⏰:11/08/30 23:22 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#316 [匿名]
「その人の事、もしかして知っているんですか?」

私にはそう感じた。相手にしなければ何の問題も無いと分かっている様な。

「え…知らない、ですよ?今あなたに初めて聞いて知りました」

「そうですか」

とだけ返事をしたが、もやもやした物が心に残った。この天使さんがあの悪魔さんとぐるだったら、私は人を信じられなくなりそう。


「でも本当に、気にしない方がいいですよ。くだらない悪戯だと思いますから」

天使さんが微笑む。

⏰:11/08/30 23:23 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#317 [匿名]
「ありがとうございます」

私はお礼をした。すると天使さんは少し堅い表情になった。

「…やっぱり、死にたいと思いますか?」

「死にたいか?」

「はい」


天使さんの問いに私は答えられなかった。たとえ死にたいと言っても、天使さんはそれを許してはくれないだろう。

きっと優しい言葉で、私の暗い気持ちをうやむやにしてくれる。
だけど、いつか私は気が付く。どうしてあの時死ななかったんだろう、と。

⏰:11/08/30 23:25 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#318 [匿名]
そんな事を考えてしまうなんて、本気で私は、死にたいと思っているのかもしれない。


今は何の為に生きているのか分からない。

守が居た頃は、雨が止むだけで嬉しかった。朝食の目玉焼きが綺麗に焼けるだけで、今日一日絶対良い事が起こる!そう思えた。

守が側で笑っているだけで無敵だって思えたし、優しく、そして強くなる事が出来た。

⏰:11/08/30 23:30 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#319 [匿名]
それなのに今は――


「守さんの声、僕が変わりに聞いてきます!」

黙って下を向いてしまった私に、天使さんは力強く言った。

「聞く?」

「はい!それからでも遅くないと思いますから、だから、その…死ぬなんて今は考えないでください!…明後日!明後日に伝えに来ますから!」

「はい」

天使さんの必死さに圧倒されてしまった。

⏰:11/08/30 23:32 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#320 [匿名]
「またすぐ意味わかんねぇ話信じて!ちょっと考えれば怪しいって思うだろうが、普通!」
そう怒鳴る守が頭に浮かぶ。

そう言われる度にシュンとして、そうだよね。と落ち込むのが私だったけれど、何故か今回は、でも!と反論出来る気がする。

私は信じる準備をしていた。
守の言葉を、私はすぐに守だと確信出来る。
守じゃない他の誰かの言葉なら、すぐに見抜く自信がある。

私は、守をただ信じて生きてきた。

⏰:11/08/30 23:34 📱:F06B 🆔:2sQh1hF.


#321 [匿名]
気が付くと、天使さんは居なくなっていた。きっと仕事に向かったのだろう。

そして天使さんの変わりに、悪魔さんが居た。

「あいつに騙されんなー」

そう言ってきた。

「やっぱ、知り合いなんですか?」

「…いや、知らねぇけど」

「そうですか」

「おう。ただ俺はあいつが嫌いだな!」

「何でですか?」

⏰:11/09/01 21:31 📱:F06B 🆔:.omrXM3k


#322 [匿名]
「なんか、なんかむかつく!」

悪魔さんの顔が、サッカーボールを取り上げられて、ふてくされた子供みたいになるので、私は思わず笑ってしまった。

「てめぇ何笑ってんだよ!」

「いえ、すみません」

私が謝ると、悪魔さんは見下す様に私を見た。

「とにかく、あいつの言葉に騙されんな!あいつは天使の仮面を被った冷血な天使みたいなもんだからな!」

「結局天使じゃないですか」

「…………」

⏰:11/09/01 21:33 📱:F06B 🆔:.omrXM3k


#323 [匿名]
ハッとした悪魔さんの反応がまたしても可笑しくて、私は笑うのを堪えきれなかった。

「てめぇ覚えとけよ!」

そう言って悪魔さんは去って行った。

どうやら天使さんと悪魔さんは、ぐるで何かを企んでいるわけではなさそうだ。


何だか最近、この不思議な二人に会ってから、自分の中の何かが少しずつ変化していっている気がする。

それが何なのか、本当に変化しているのか、自分でもよく分からないけれど。

⏰:11/09/01 21:34 📱:F06B 🆔:.omrXM3k


#324 [匿名]
でも確実に言える事は、私が今日笑えたという事。

天使さんの柔らかい笑顔を見た時と、悪魔さんの子供のような顔を見た時。


どうしてだろう?と悩みながら実家に向かったが、着く頃にも答えは全く出なかった。


「ただいまー」

鍵の閉まっていないドアを開け、誰の了承も無く玄関へと侵入した。実家の懐かしい香りを思いっきり吸い込み、いろいろと考える事を止めにしようと思った。

⏰:11/09/01 21:38 📱:F06B 🆔:.omrXM3k


#325 [隆平]
まってます!

⏰:11/09/07 10:41 📱:F09C 🆔:☆☆☆


#326 [匿名]
>>325隆平さん
どうもありがとうございます!遅くなってすみません。

⏰:11/09/09 10:21 📱:F06B 🆔:xAuKkfjA


#327 [匿名]
四日目




傷だらけで真っ白な守が目をつぶり寝ていた。いや、寝ていたのではない。寝ている様に死んでいたのだ。

守が死んだ。
理解は出来た。横になっている守は、もう二度と目を開けない。おはよう、と欠伸をする事もない。
笑う事も会話をする事も、もう出来ない。

だけど、受け止める事は出来なかった。心の何処かでこの事実を拒否している。

⏰:11/09/09 11:35 📱:F06B 🆔:xAuKkfjA


#328 [匿名]
「病院に運ばれて来た頃にはもう……」

医者が精一杯苦しみの表情を浮かべそう言った。

「…そうですか」

消える様な声で返事をしたのは母だ。医者との会話は全て母が対応してくれた。私はただ立ち尽くしていただけ。

「即死です」

医者の言葉が耳に響く。だけど頭に入って来ない。

私は無表情で守を見ている。涙は流れていないが、この病院前で母の胸を借り泣いた跡はしっかり残っている。

⏰:11/09/09 11:36 📱:F06B 🆔:xAuKkfjA


#329 [匿名]
これは夢だとすぐに解釈出来た。今の私は、この部屋の上の方からあの頃の私を見ているからだろう。

私と母の二人が、死んだ守を見下ろしている。側には医者が一人だけいて、二人にいろいろと説明をしていた。

考えたくもない過去が、夢によって鮮明に思い出される。

私は夢の中で目を瞑り、必死に覚めろと唱えた。

次に目を開けると、そこは現実の世界で、私の目の前には実家の天井が広がっている。そう思い込みながら目を開けた。

⏰:11/09/09 11:39 📱:F06B 🆔:xAuKkfjA


#330 [匿名]
だけど私の期待は虚しく打ち砕かれた。

目を開けると、そこには守がいた。辺りは白い空間で守の他には何も存在していない。

「幸子、結婚しよう!」

目の前の守が満面の笑みでそう言った。この状況に覚えがある。

「幸子って名前はさ、幸せな子になりますようにって両親がつけてくれたんだろう?」

守がそう続けた。私はコクリと頷く。

「俺はさ、大切な人を守れる、強くて優しい男になるようにって親父が守ってつけてくれたんだ。俺、初めて幸子に会った時こいつを一生守る為に産まれてきたんだって本気で思ったよ」

守の口調は照れ臭そうで、私まで顔が赤くなったのを覚えている。

⏰:11/09/09 11:41 📱:F06B 🆔:xAuKkfjA


#331 [匿名]
「お前が幸せに生きていく為には、俺が守っていかなきゃ成り立たない!俺が幸せに生きていく為にもお前がいなきゃ駄目だ!」

守が深呼吸をする。

「……結婚しよう。俺がどうなろうと一生守ってやるから!お前から俺が見えなくなっても、ずーっと側にいてやるから!」

何度聞いても涙は溢れる。私は夢の中で何度も何度も頷いた。

守がいる。私の目の前にずっと会いたいと願った守がいる。

泣きながら私はありがとうと言った。あの日もそう言ったからだ。そうすると守が頭を撫でてくれる事を私は知っている。

⏰:11/09/09 11:45 📱:F06B 🆔:xAuKkfjA


#332 [匿名]
ふと気が付くと朝だった。目の前には実家の天井が広がっている。

今日もまた守の夢を見た。昨日までの辛い夢だけではなく、キラキラと輝いたままの思い出が夢に出てきた。

懐かしく、微笑ましいプロポーズの思い出だ。あの日と一つも変わらない言葉で、守はもう一度プロポーズをしてくれた。

あんなに大切な一日だったのに、守がいなくなってから一度も思い出す事がなかったんだと、夢を見て気付き、悲しくなった。

⏰:11/09/12 21:25 📱:F06B 🆔:EvVP.lUg


#333 [匿名]
私から守が見えなくなっても、守っていてくれる。

守がプロポーズをしてくれた日、私はその言葉に救われた。私に何が起ころうとも守がいてくれる、そう思うだけで怖いものはなくなった。

「守、見てる?」

カーテンを開け空を見上げてみるけど、返事は返って来ない。

ぼやける視界をどうにかしたくて目をこすった。そして涙が出ていた事に気が付く。

「見守っていてくれてる?私守がいなきゃ……生きてけないんだよ?」

改めて思いを言葉にした途端、涙がポロポロと流れた。

⏰:11/09/12 21:29 📱:F06B 🆔:EvVP.lUg


#334 [匿名]
言葉にするとそれはもう誤魔化しが効かなくなり、私は崩れ落ちる様に膝を着き泣いた。

生きていけない。それと、生きている意味が無い。

「守に会いに行っていいかな?」

もう一度空を見上げる。あの雲の先に守がいるなら、こんな私に何て言うかな?

もういいよ、おいで。って手を差し出してくれるかな?

これ以上生きていても、心の底から笑える日なんて来るのかな?生きていて良かったなんて、もう二度と思えないよ。

守がいなきゃ、何も感じない。

⏰:11/09/12 21:36 📱:F06B 🆔:EvVP.lUg


#335 [匿名]
「さっちゃーん起きてる?」

一階にある台所から二階の私の部屋まで届く大きな声で、母が私を呼んだ。朝御飯が出来たのだろう。

私は咄嗟にベッドに入り込み寝たふりをした。母が二階に上がって来る様子は無い。

ごめんなさい。何の期待にも答えられなくて、ただ心配ばかりをかけて。もう私の事で悩まなくてもいいようになるから。

目を瞑り布団を頭まで被ると、自然と睡魔が襲って来た。

⏰:11/09/12 21:38 📱:F06B 🆔:EvVP.lUg


#336 [ぴろみ(・ω・)]
はい〜
終了〜(・ω・。)

19/♀/Eカップ/彼氏無

⏰:11/09/13 00:15 📱:SH904i 🆔:mzwm3c5E


#337 [匿名]
―――


気が付くと目覚まし時計は十二時を示していた。あのまま私は寝てしまったんだ。一度起きてから三時間が過ぎている。

夢は見なかった。いや、見たのかもしれないが何も覚えていない。

起きて鏡を見る。
目の腫れた私がそこには写っていた。寝過ぎたと言えば、何も疑われないかもしれない。

重い脚と気持ちを必死に動かし、一階へと降り顔を洗いに行く。

⏰:11/09/13 21:59 📱:F06B 🆔:IrBsaxh.


#338 [匿名]
冷たい水のお陰で目が覚めた。腫れた目がほんの少し元に戻った気がする。

居間へと向かうと、父と母が真面目な顔で何かを話していた。小さな声だったため、何を話しているのかは分からなかったが、溜め息混じりなのは分かる。

もしかしたら今話題の熟年離婚か?と不安になる。

もしそうだとしたら何とかして止めたい。私は二人が不器用な事を知っている。それが原因なら私が間に入れば、止められる気がした。


「どうしたの?」

二人は私が居間に入ろうとしていた事に気が付いていなかったらしく、声をかけると酷く驚いた。

⏰:11/09/13 22:02 📱:F06B 🆔:IrBsaxh.


#339 [匿名]
「あ!さっちゃん、やっと起きたの?」

母が無理矢理笑顔を作ってそう言った。目は笑っていないし、口元はひきつっている。

「何か食べる?お味噌汁とか残ってるけど」

母は私を見ずに台所へと向かって行った。

「うん」

私は母の背中に向かって返事をした。聞こえているのかいないのか、母は何も答えず冷蔵庫から卵を取りだし、何かを作ろうとしている。

⏰:11/09/13 22:05 📱:F06B 🆔:IrBsaxh.


#340 [匿名]
居間のソファーに座っている父は下を向いたまま、おはよう、と私に言った。

「おはよう。二人共喧嘩でもした?お母さん頑固だから、いつも通りお父さんから誤りなよ?」

私は笑顔を作り、父にだけ聞こえる様に言った。

「そんなんじゃないよ」

お父さんの口調は優しく、私の勘違いを否定する為に言った事実だと、すぐに分かった。

そして疑問が沸く。

どうして二人はこんなによそよそしいのだろう。

昨日の母はいつもの母だった。私が帰るなり父の愚痴が永遠に語られたほどだ。

⏰:11/09/13 22:09 📱:F06B 🆔:IrBsaxh.


#341 [匿名]
だけど最終的には、のろけとも取れる父との話題になり、私は呆れた。

父も昨日は普通だった。普通にゴルフを終えて夜に帰って来たし、普通に自慢話が始まったし、普通にご飯を食べお風呂に入り、普通に寝た。はずだった。


私が寝ている間に何かが起きたのかもしれない。そう考えるのが妥当だ。


二人が深刻に悩む事を私は考えてみる事にした。

生活費が足りない。
いや、その可能性は低い。昨日は平気で今日いきなりお金が足りなくなるなんてまず起きない。

父の会社が倒産。
それもないだろう。小さな会社ではないし、それなりに世間に貢献している会社だ。

⏰:11/09/16 00:29 📱:F06B 🆔:6HbZaJDc


#342 [匿名]
親戚が危篤。
ありえる。だけどもしそうだとしたら、すぐに私に言うだろう。確かに言いにくい事だが、こんなにぎすぎすはしないはず。
他にも私はいろいろと最悪の状況を考えてみた。
事故を起こした。
詐欺に合った。
投資に失敗。

原因が思い付いても、どれもこれだ!と思える理由がなかった。


でもただ一つだけ、私にどう話し出したら良いのか二人が悩むだろう事がある。

それは、守の事。そして同時に、私の事。

⏰:11/09/16 00:33 📱:F06B 🆔:6HbZaJDc


#343 [匿名]
そう考えていると、台所から玉子焼きの匂いと、お味噌汁の匂いがしてきた。

「さっちゃん、出来たからとりあえず食べなさい!」

とりあえず、という言葉に不安が込み上げる。とりあえず食べて、その後に大切な事がある様な言い方だ。


「…うん」

私は父から離れ台所にあるテーブルに座り、母が作ってくれた朝食を食べる事にした。

「いただきます」

「どうぞー」

母が私の前に座る。

⏰:11/09/17 00:23 📱:F06B 🆔:gmmz71IM


#344 [匿名]
味噌汁の味も玉子焼きの味も、いつも通りの母の味だ。

「美味しい?」

母が頬杖をつきながら言う。

「うん、美味しい」

「そう!……良かった」

母はいつもの笑顔に戻っていた。暖かい、優しさの溢れる笑顔で、私を包んでくれる。

私のさっきまでの不安が一気に無くなった。

⏰:11/09/17 00:30 📱:F06B 🆔:gmmz71IM


#345 [匿名]
「今日はどっか行くの?」

母が訪ねてくる。そういえば何も決めていなかった。

「うん、ちょっと出掛けようかな」

「そう?気を付けて行くのよ?車とか、いろいろね」

「もう子供じゃないんだから」

親にとって、子供はいくつになっても子供だと言うが、母は子供扱いしすぎる。


「あ、そうだ!ちょっと買ってきて貰いたいものがあるんだけどいい?」

「うん」

「あのねぇ…あの、今便利な奴!」

お母さん、それじゃ何も分からないよ。と心の中で言いながら私は真顔を作った。

⏰:11/09/17 00:32 📱:F06B 🆔:gmmz71IM


#346 [匿名]
「分かるでしょ!」

「あれ?私超能力者じゃないよ?」

「あの、あれよ!ほら!便利な…」

「伝える気ある?」

「…まあいいわ。何かお土産買って来て」

何故そうなる。

「…あ!あれあれ!駅前に出来たケーキ屋のロールケーキが美味しいのよ!」

初耳だった。

「十六時に焼き上がるから、お土産はそれでいいわ!」

⏰:11/09/17 00:38 📱:F06B 🆔:gmmz71IM


#347 [匿名]
それでいいと言う割には、母は嬉しそうに笑っていた。食べたかったのよねーと一人言を言っている。


さっきは私の顔を見てあんなに気まずい顔をしたのに、もうニコニコしている母を見て、頼もしく感じた。

母は何事も引きずらない。

悩みがあっても一晩寝れば忘れる人がいるが、母は一時間もあればケロッとしている。

そんな母の長所、私には受け継がれなかったみたいだ。

⏰:11/09/17 00:41 📱:F06B 🆔:gmmz71IM


#348 [匿名]
朝食を食べ終え、私は自分の部屋に戻った。時間は十三時になっていた。

朝食だという気持ちで食べていたが、世間一般からすれば昼食だ。とどうでもいい事を考えながら、着替えを始めた。

三十分程で支度を終わらせ、私は家を出た。

行く場所は何となくしか決めていない。帰る前に駅前のロールケーキを買えば、それでいい。

空は晴天。
朝はくっきりと空に浮かんでいた雲が、いつの間にかうっすらとした雲に変わっていた。

守があそこにいたら落ちちゃうな、とくだらない事を考えながらゆっくりと歩いた。

⏰:11/09/19 18:08 📱:F06B 🆔:ErJ50EgY


#349 [匿名]
何故か私の心は今までに無いくらい落ち着いていた。

母の言った、とりあえず、の意味も実際分からないままだったが、どうせ家に帰ったら分かる事だろうと、思考を一旦停止した。


ゆっくりと商店街を歩いていく。

駅で電車に乗り、二駅先で降りた。たったの二駅で時間も五分ちょっとしかかからないが、電車を降りるとガラリと雰囲気の違う町がある。

⏰:11/09/19 18:09 📱:F06B 🆔:ErJ50EgY


#350 [隆平]
いつも楽しみにずっとまってます!

⏰:11/09/20 17:35 📱:F09C 🆔:☆☆☆


#351 [匿名]
>>350隆平さん
いつもありがとうございます!

⏰:11/09/20 23:03 📱:F06B 🆔:PRaZYkic


#352 [匿名]
私はその駅の近くにあるカフェが好きで、実家に帰るとよく行く。

近くにある本屋で適当に短めの小説を買い、カフェに入った。

入って一番奥の右端に通され、アイスコーヒーとフルーツが沢山乗ったタルトを頼んでから、本を開いた。


<君はきっと後悔しながら死んでいくんだ>


冒頭からショッキングな言葉を投げ掛けられ、胸が痛くなった。自然と眉間に皺が寄り、少しして目に疲労を感じた。

⏰:11/09/20 23:05 📱:F06B 🆔:PRaZYkic


#353 [匿名]
その一行をずっと見ていたからだろう。

そしてすぐにアイスコーヒーとタルトが運び込まれた。

一口飲んで、一口食べて、を三回繰り返してから、もう一度本に視線を戻した。
続きを読み始める。


主人公は男子高校生で、虐めを苦に自殺を図ろうとした。校舎の屋上に上がり柵をよじ登る。後は身体を投げ出すだけという時に、担任の先生が現れる。

⏰:11/09/20 23:08 📱:F06B 🆔:PRaZYkic


#354 [匿名]
その担任の先生は若くて熱くて一生懸命な、教師の鏡。
自殺を止めた先生と、心に傷を負った生徒。その二人の物語だった。


半分近くまで読んでも、私は何一つ共感出来る事がなかった。

最終的には生徒が立派に卒業し、先生に感謝をするんだろう。
二人で涙を流し、抱き合うかもしれない。そんな感動のラストが容易に想像できる内容だった。

⏰:11/09/20 23:10 📱:F06B 🆔:PRaZYkic


#355 [匿名]
あまり深く考えずにただ文字を読んでいく。

ふと入り口の窓を見ると、ぼんやりとした私が写っていた。時計を見ると五時を少し過ぎていて、外は薄暗くなっていた。

通りで私が写るわけだ。

小説はあと十ページ程で終わる。アイスコーヒーを飲み、ケーキを食べきってから残りを全て読んだ。

私の想像通り、最後は涙涙涙の卒業式。

この小説に出会うのが遅すぎた。学生の頃なら、今よりは大分多くの感動をしたかもしれない。

今は何も感じなかった。
涙脆いはずの私の目からは一粒の涙さえ出なかった。

⏰:11/09/20 23:14 📱:F06B 🆔:PRaZYkic


#356 [匿名]
本を鞄にしまい、氷が溶けきり、コーヒー風味の水になってしまった飲み物を頑張って飲み干した。

お金を払い外に出ると風が冷たくなっていた。
後は地元に戻りロールケーキを買って帰るだけだ。私はもう何もする事が無い。

空に雲は一つも無かった。守を近くに感じる事が出来る。

「あれ?幸子?」

空を眺める私の後ろから、誰かが声をかけてきた。

⏰:11/09/20 23:16 📱:F06B 🆔:PRaZYkic


#357 [匿名]
振り返ると、そこには小柄で華奢な、ショートカットの女性が晴れ晴れとした顔で私を見ていた。

「ねぇ、幸子だよね!久しぶりー!こんな所で会えるなんてー!何年ぶりだろっ?」

その女性は身体を上下に動かし、忙しなく喜んでいる。……誰?

キャーキャー言っていた女性が急に静かになった。きっと私の顔が、ポカーンとなっていたからだろう。

「あれ?忘れちゃった?里美だよー」

「…里美?えっ?もしかして渡辺里美?」

渡辺里美は高校が一緒で三年間同じクラスで過ごし、とても仲が良かった。卒業してからも頻繁に会ってはいたが、お互い社会人になってからは、なかなか会えなくなってしまった。

⏰:11/09/23 00:56 📱:F06B 🆔:BZYWBPP6


#358 [匿名]
だけど、私の知っている里美はロングヘアーで、ぽっちゃりとした体型だったはず。

「そうそう!里美!」

「うそー久しぶり!…髪の毛、切っちゃったの?」

「だいぶ前にねぇ。もう何年ぶりだろ?幸子変わらないね!」

思い出して来た。くしゃっと笑う笑顔や、頬にあるホクロは里美そのものだった。

「そうかな?里美は痩せたね!」

「うん、仕事忙しくてさ、気が付いたらどんどん痩せてったよ。ラッキーだよね!」

⏰:11/09/23 00:57 📱:F06B 🆔:BZYWBPP6


#359 [匿名]
おどける里美が懐かしかった。

「そっか。もう二年くらい会ってなかったのかな?」

「多分そのくらいだよね。……ねぇ、飲みいかない?」

そういえば里美の誘いはいつも突然だった。

「うん!」

私が頷くと、里美は嬉しそうに笑った。

そしてすぐに近くにある居酒屋に入った。いつもはガヤガヤと騒がしいチェーン店だが、まだ時間が早いらしく、客は二組しかいなかった。

⏰:11/09/23 00:58 📱:F06B 🆔:BZYWBPP6


#360 [匿名]
ビールとお通しの枝豆が来て、私達は乾杯をした。

「里美はまだあのレストランで働いてるの?」

里美は大学を卒業してから、都内にある有名なレストランに就職した。

「やってるやってる。辞める理由も無いし、何だかんだ好きだからね!」

「あれ?でも今日日曜日なのに休みなの?」

私は普通のOLだから土日が休みなのだが、里美は土日は絶対に仕事だった。

そのせいで私達は自然と会える回数が減り、そして無くなってしまった。

⏰:11/09/24 11:36 📱:F06B 🆔:FDlPqY22


#361 [匿名]
「今有給休暇中で、一週間休みだったの!まあ、今日で休みは終わりなんだけどね」

残念さが里美から滲み出ている。

「そっか。じゃあ本当今日会えたのって偶然なんだね」

「そうだよね。なんか、嬉しいね!」

「うん!」

それから私達は、お互いが知らない約二年間の出来事について話し出した。

⏰:11/09/24 11:39 📱:F06B 🆔:FDlPqY22


#362 [匿名]
里美はまだ結婚していないが、サラリーマンの彼氏がいるらしい。付き合って一年ちょっとだが、お互い忙しくてなかなか会えないみたいだ。

「でも二週に一回ペースが楽でいいかも。毎回、会うのが久しぶり!ってなると、会える嬉しさ倍増するんだよねー。燃えるよ!燃える」

高校生の時の里美は、毎日の様に彼氏と過ごしていた。同じ学校に彼氏がいたからかもしれないが、飽きる事なくベタベタしていた。

そんな事を思い出し、里美に教えてあげると、

「いやーあの頃は若かった!彼氏がいればそれでいいと思ってたからねぇ」

としみじみし出した。

その会話の流れで、話題は高校時代の思い出話へと移り、私達の気持ちはあの頃に簡単に戻れた。

⏰:11/09/24 11:43 📱:F06B 🆔:FDlPqY22


#363 [匿名]
ホッとした。

里美は私と守の事を良く知っている。守が交通事故に遭った事も知っている。

どうしても抜けられない仕事の都合で、里美は守の葬式には来られなかったが、心配をして、メールをくれたりもした。


もし今この場で、守の話になったら、私は笑えなくなってしまう。大切な友人である里美に心配をかけてしまう。

話題が高校生の頃の馬鹿な話になって良かった。

もしかしたら里美は気を使ってくれたのかもしれない。そう思うと、感謝の気持ちと同時に、いたたまれない気持ちになった。

⏰:11/09/24 11:47 📱:F06B 🆔:FDlPqY22


#364 [匿名]
笑って、驚いて、苦しくなって、恥ずかしくなって、怒りが込み上げて来て、微笑ましくなった。

私の高校三年間は、今思い出すと、こんな感じだ。
そのどの感情を思い出しても、近くに里美がいた。


ふと腕時計を見ると、二十三時を過ぎていた。

「もうこんなに時間経ってる!」

私がそう言うと、確認する様に里美も腕時計を見た。

「早い!私達ずっと語ってたんだ」

二人して笑いが込み上げて来た。今の私は自然に笑えたのかな?

⏰:11/09/24 11:49 📱:F06B 🆔:FDlPqY22


#365 [匿名]
「明日仕事でしょ?そろそろ行こうか」

「あぁ、そうだ、仕事だ。明日早いんだ…ごめんね、行こうか」

「私も仕事だし!お互い頑張ろう!」

私は何も考えずにそう言った。

この場所でこの時間まで飲み、今から実家に帰るつもりのくせに。
明日仕事へ行く気など、全く無いくせに。

⏰:11/09/24 11:50 📱:F06B 🆔:FDlPqY22


#366 [匿名]
「じゃあ私自転車があるから!また、近い内に絶対に会おうね!」

そう言って里美は駅の前で、改札を抜けようとする私に言った。

「……うん」

出来るだけ精一杯の笑顔で笑った。

さっきまでは自然に笑えたのに、色々と考えてしまうと、どうもひきつる。

「幸子!」

里美が言う。

「幸子は一人じゃないよ!幸子は皆に愛されてるよ!少なくとも私は、大好きだよ!何かあったらすぐ助けに行くからさ!…守君みたいにはいかないけど、親友として、支えるから!…だから幸子も助けてよ!私にピンチが降りかかっても、飛んできてよね!」

⏰:11/09/25 12:45 📱:F06B 🆔:geZHgiX2


#367 [匿名]
里美がニカーッと笑い、満足そうに胸を張った。

そして私の返事も何も聞かずに、走って行ってしまった。

こんな状況で一人にしないでよ、里美。
涙が止められなくて、恥ずかしいよ。

お酒を飲んだせいかな?
里美の不思議な力のせいかな?

私の気持ちはぐるぐる回り始めた。

とにかく今日は帰ろう。
涙を必死に隠しながら、人気の少ない車両に乗り、実家に向かった。

⏰:11/09/25 12:48 📱:F06B 🆔:geZHgiX2


#368 [匿名]
五日目




「ただいま」

小さな声で呟き、実家の玄関へと入った。

里美と別れてから、電車を待ち、コンビニに寄って帰ったら意外と時間がかかった。玄関にある時計は長針も短針も<12>を指していた。

もう父も母も寝ていると思い、足音を立てない様に階段を登ろうとした時、居間の電気が点いているのが見えた。

そして気が付いた。
ロールケーキを買い忘れた事を。

⏰:11/09/26 18:03 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#369 [匿名]
謝らないと。きっと母は起きて、私の帰りを待っていたのだろう。いや、待っていたのは私ではなくロールケーキだ。きっとそうだ。

複雑な気持ちで居間に入ると、朝と同じ様な光景があった。

父と母が深刻そうな表情で俯いている。

「ただいま。ごめん、ロールケーキ売り切れてた」

嘘をついた。

「ああ、さっちゃん…お、おかえり」

母が私の目を見ない。
ロールケーキの事を怒らない。

⏰:11/09/26 18:05 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#370 [匿名]
重たい空気に、私は何も言えなくなってしまった。三人の間に沈黙が走る。

今までに経験した事が無い沈黙だった。重すぎて、苦しくて、空気が薄くなっている気がした。

どれだけの間黙っていたのか分からないが、私には一時間、いや二時間くらいに感じた。


「幸子、座ってくれ」

一番最初に口を開いたのは父だった。私は素直に従った。父と母が座っているソファーに対面して、床に正座をした。

時計を見たら十分しか過ぎていない。

⏰:11/09/26 18:10 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#371 [匿名]
「今日な、朝早く変な男から電話がきたんだ」

父が話し出した。母はずっと下を向いたままだ。

「名前は名乗らなかったんだが、幸子が死にたがっていると言った。幸子の為にも死なせてやってくれって。…最初は信じなかった。ただの悪戯だと無視をした」

何の話をしているのか分からなかった。ただ、私の気持ちに心当たりがある。

母が心配そうに私を見た。

⏰:11/09/26 18:13 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#372 [匿名]
朝、二人の様子がおかしかったのは、その電話のせいだと分かった。

「母さんが心配してな。朝は変な感じになっちゃったけど、お前が出掛けてから二人で話して、気にしないでいようと決めたんだ。どう考えても、ただの悪戯だと」

「ごめんね、ロールケーキなんてどうでも良かったのよ。ただあなたの事を父さんと一緒に話したくてねぇ」

母が眉を下げながら、泣きそうな顔で言う。

私を家から出す口実だったみたいだ。

⏰:11/09/26 18:14 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#373 [匿名]
「ただな、夕方にその男が家に来たんだ。覚えはあるか?」

「どんな人?」

情報が少なくて、誰もが怪しく感じてしまう。

「二十代の若い男だ。芸能人みたいな顔でな、背が高くて、スラッとした体型だった」

それが誰なのか、私は二人に絞る事が出来た。

「髪の毛黒かった?」

「ああ、真っ黒だった」

そうか、悪魔さんか。
そうだよね、天使さんが両親に、私を死なせてあげてくれ、なんて言う訳ない。

明日、いやもう今日だ。今日約束もしている。

⏰:11/09/26 18:16 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#374 [匿名]
「…覚えがあるか」

私の反応を見て、父は確信したように頷いた。

本当は私に、知らない、と言って欲しかったんだろう。そうしたら、全てが考えすぎだった、と簡単に片付けられたはずだ。

父が続ける。

「その男が来て、お前の近況を話していった。…守君の事で悩んでいる事とか、毎日の様に泣いている事とか」

こういう時、どんな言葉を言うのが正解なんだろう。笑い飛ばせば良かったのかな。泣けば良かったかな。

私はただ下を向き、黙ってしまった。

⏰:11/09/28 17:53 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#375 [匿名]
黙るという事は、肯定している事と同じだ。

演技など出来なかった。顔を上げる事すら出来ない。

「……もう、生きているの、嫌か?」

かすれた声で、途切れ途切れに父が言う。

母の泣く声が静かに聞こえた。

まさかこんな事を父の口から聞くとは思わなくて、思っている言葉が一つも出ない。


もう死ぬ覚悟は出来ています。今日には死ぬつもりで今回実家に戻りました。家では死にません。二人のいない場所で一人で死にます。先に逝く親不孝な娘を許して下さい。

そんなような事を、今日寝る前に遺書に書こうと考えていたのに。

⏰:11/09/28 17:56 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#376 [匿名]
「……ごめん」

そう言うのが精一杯だった。謝る気持ちしか私には無い。

ただ、その言葉が二人に聞こえたのかは分からない。頭に浮かんだ謝る言葉が、同じ意味で発音出たのか、自信が無かった。

「それは、死ぬなんて馬鹿な事を考えてごめん。って意味か?それとも……もう死ぬけど、許してくれって意味か?」

父の顔は見上げられないが、泣いているのは分かった。声が震えている。

母はさっきよりも分かりやすく泣き出した。

私はちゃんと発音出来ていたみたいだ。

⏰:11/09/28 17:58 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#377 [匿名]
「さっちゃが死んだら、私達は、どうしたらいいの?」

母が言う。苦しくなった。母がとても辛そうに言うから。

「幸子、辛かったなぁ。父さん達も辛かった。守君が亡くなって、幸子が心配で仕方がなかった…」

母の肩を支えながら父が言った。

「…………」

「守君の存在は、幸子にとってあまりにも大きすぎたなぁ。……そして、早すぎた。これからだったのになぁ」

守の笑顔が浮かんで、涙が出そうになった。

⏰:11/09/28 18:01 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#378 [匿名]
「でもなぁ、幸子」

父の震える声が、しっかりとした声に変わった。その声につられ、顔を上げて父を見た。

真剣な顔で私を見ている。

「お前には、守君しかいなかったのか?お前にとって大切な人間は、守君だけだったのか?」

唇が震えた。
目の前がぼやけだした。

「守君は幸子を愛してくれたなぁ。でもな、幸子を愛してるのは、守君だけじゃないぞ。…父さんと母さんは、守君と同様、幸子を愛してきた」

⏰:11/09/28 18:03 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#379 [匿名]
涙がとうとう溢れた。

「…いや、守君が幸子を愛する前から、ずっと、ずっと前から幸子を愛してきた。…幸子が母さんのお腹に居ると分かったその日から、一時も幸子を愛さなかった時間は無い!…分かるか?」


何も言えない。言う資格がない。ただただ何度も頷いた。

どうして気が付かなかったんだろう。こんなに近くに、こんなに大きな愛がある事に。

「さっちゃん、ずっと味方だからね。ずっと、ずっと愛しているから」

母が抱き締めてくれた。
温かくて、安心感がある、私の大好きなぬくもり。

母の肩が、私の涙と鼻水で濡れていく。

⏰:11/09/28 18:04 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#380 [匿名]
―――



泣き疲れた私は、あれから子供の様に眠りについた。

気が付くと朝日がカーテンの隙間から射し込んでいて、朝になった事を知らせてくれている。

まず会社に電話をし、体調不良のため休む事を伝えた。勿論、体調だけは絶好調なので、嘘だ。演技もした。

それから一階に降りて洗顔などを済ませてから、父と母がいる居間へと向かった。

寝る前の記憶が鮮明に蘇り、私は二人と、どんな顔をして会えばいいのか分からなくなってしまった。

⏰:11/10/04 00:20 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#381 [匿名]
ゆっくりと一歩一歩二人に近付くにつれ、言い様の無い緊張感が襲って来た。

だけれどそれは一瞬で、無駄な緊張感だったと思い知らせれる。

「さっちゃんおはよ!ご飯出来てるわよー」

母が私を見付けるとすぐにそう言った。普通すぎて、私はポカーンとしてしまったんだろう。

「変な顔してー」

母が笑う。
ホッとして、気が付くと私も笑っていた。

⏰:11/10/04 00:21 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#382 [匿名]
父はソファーに座り新聞を読んでいた。

「おう、おはよう。何か手紙が届いてたぞ」

「おはよう。手紙?」

私は父の言葉を聞きながらテーブルに座り、母の作ってくれた朝食を食べようとしていた。

母と同様、父もいつもと変わらない態度で接してくれた。
きっと二人は私が寝ている間にいろいろと話したんだろう。

「ほら」

父が私の所まで手紙を持ってきてくれた。

⏰:11/10/04 00:23 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#383 [匿名]
それは<幸子へ>とだけ書かれた真っ白な封筒だった。その他には何も書いていなく、差出人は不明。

「ありがとう」

私はその手紙を受け取り、朝食に取りかかった。甘い卵焼きとワカメの味噌汁。納豆にはネギが入っていた。

「今日は何時に帰るの?」

「朝食食べて支度したら帰る」

「そう。気をつけて帰るのよ?着いたら連絡してね」

「うん、分かってるよ」

⏰:11/10/04 00:24 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#384 [匿名]
二人につられて、私はすぐにいつもの私になれた。笑えたし、冗談も言えた。

もうこれ以上、二人に心配をかけたくない。二人の悲しい涙なんて二度と見たくない。

そう考えながらふと手紙を見た。よく見れば見るほどその<幸子へ>という文字に、見覚えがある。

ただ、癖を隠そうと出来るだけ丁寧に書いた様な気配がして、実際のその人の文字が分からない。

どこで見たのだろう?

誰だか分からない人からの手紙を両親に見られるのは気が引けたので、部屋に戻ってから見る事にした。

⏰:11/10/04 00:25 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#385 [匿名]
<幸子へ
久しぶりだな。元気か?>

封筒を開け、中に入っている手紙を読んだ。書き始めを見た途端、すぐに記憶が甦った。

丸いようなかくばっている独特な文字は、昔良く見た文字だった。懐かしく、一気に暖かい気持ちにさせてくれる。

目が熱くなっていく。歯に力が入って、息が上手く吸えなくなった。

その途端、涙が大雨の様に溢れた。

⏰:11/10/04 22:31 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#386 [匿名]
その手紙は、私の事をよく理解していないと書けない内容だった。

いつも注意されていた事が、文章となっていた。泣きながら笑えたりもした。


涙が視界をぼやけさせ、何度も何度も涙を拭いながら、ゆっくりと丁寧に読んでいく。

読み終わり、私はカーテンを開け空を見上げた。

今なら笑える。
毎日笑ってみせる。

笑っていれば幸せになれるなら、あなたがそう言うなら、私はずっと笑っていようと思う。

⏰:11/10/04 22:33 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#387 [匿名]
それから私はすぐに支度を済ませて家を出た。

父と母は笑顔で送り出してくれた。だけどその笑顔の中に、不安の色が見えた。

「また来週来るから。夕飯、ハンバーグがいいな」

おどける私を見た二人は、さっきとは違う穏やかな笑顔になった。

素直じゃない私は、これ以上の言葉は言えなかった。でもきっと十分だったと思う。

そして私は天使さんと悪魔さんを探す事にした。二人に会って話さなければならない事がある。

⏰:11/10/04 22:37 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#388 [匿名]
二人が何処にいるのか分からないくせに、焦りは無かった。何故か、絶対に会える自信があった。

いつか会えるという曖昧な考えではなく、今日絶対会うという、確実な考えだ。

何の根拠も無いのに。

そしてすぐに私は、その二人に会う事が出来た。

偶然会えたのに、驚きすら無かった。後から考えてみると、不思議な感覚だ。

私が通る公園に天使さんと悪魔さんはいた。

⏰:11/10/05 15:42 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#389 [匿名]
「お手紙読んでいただけました?」

天使さんが言う。

「はい、ありがとうございました」

「手紙?なんだそれ。お前が書いたのか?」

「僕じゃなくて、守さん」

「いつ書かせたんだよ!てめぇ卑怯だなー」

「卑怯の使い方間違ってるよ。僕は真剣に、二人の為を思ってやった事だ」

二人は知り合いじゃないはずなのに、仲良く喧嘩をしている。もう、そんな事はどうでもいいんだけど。

⏰:11/10/05 15:45 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#390 [匿名]
「んな事はどーでもいいんだ!お前どうすんだ?今日までだぞ」

悪魔さんが私に言う。

「はい。お二人に伝えたい事があって。……私は守が大好きです。これからもずっと守を愛し続けます」

二人は無言で私の話を聞いてくれている。

「……守に会いたいです。守とずっと一緒にいたいです」

これが私の答えだった。


悪魔さんが笑う。

「じゃあ俺の手伝いを受けんだな?」

「………」

天使さんは真剣な顔で私を見ている。

⏰:11/10/05 15:47 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#391 [匿名]
「はい。そう思っていました。…昨日の夕方までは」

私が答えると悪魔さんの顔がひきつる。

「…決めました。私は生きて、毎日守の為に笑って、守が見守っているという言葉を信じて、ちゃんと日々を過ごします」

私が言い終わると、天使さんは笑ってくれた。

「……んだよ、それ」

悪魔さんがまた子供のようにふてくされた顔をしている。私はまた可笑しくなって笑ってしまった。

「てめぇ!この間笑うなっつったよなー!なんも面白くねぇっつんだよ」

ムキになる悪魔さんは可愛い。

⏰:11/10/05 15:48 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#392 [匿名]
「お二人に会ってからの数日間は、なんだか不思議な気分でした。お二人が裏でいろいろとしてくれたお陰で、大切な物が沢山見えました」

悪魔さんが両親に話してくれたり、天使さんが手紙を届けてくれたから、今私は生きようと思えた。

笑おうと誓った。

「本当にありがとうございました」

「僕らのお陰なんかじゃないですよ。きっと僕らがいなくても幸子さんは気付けたはずだ。あんなに素敵な友人だっている」

「…え?…里美の事も?」

⏰:11/10/05 15:50 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#393 [匿名]
天使さんが優しく微笑む。

「はい。彼女に幸子さんの事を話したら凄く心配していて、力になりたい!と言ってくれたんですよ」

そうだったんだ。だから里美は最後にあんな事を言ったんだ。

「そっか」

嬉しくて、死ななくて良かったと思った。

生きていればいろんな物が見えて来る。今まで私は見ないようにしていたのかもしれない。


「次死にてぇと思っても、絶対手伝ってやんねぇからな!」

「もう、思いませんよ!」

⏰:11/10/05 15:52 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#394 [匿名]
手紙...



「幸子へ

久しぶりだな。元気か?
こんな風に手紙を書くのは初めてかもしれない。
何だか恥ずかしいけど、幸子に伝えたい事が山ほどあるんだ。もう直接言う事は出来ないから、手紙にします。あの天使に感謝しよう。

まず幸子に謝りたい。おじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒に居ようって約束、守れなくてごめん。

突然居なくなってごめん。悔しいし、やりきれないし、幸子の事が心配で仕方がない。

幸子が俺の事を考えて、悩んで泣いて苦しんでいる事を聞いて、俺まで辛くなった。抱き締めてやりたくなった。

⏰:11/10/05 15:55 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#395 [匿名]
でも出来なくて、こんなに幸子を思っているのに、何も伝わらなくなってしまった。

本当にごめんな。

幸子は俺の事が見えないし、俺も幸子の側にいてやる事は出来ないけど、だけど、それでもずっと俺は幸子を見守ってるから。

支えてやるから、不安がらないで欲しい。俺はずっと幸子と一緒にいる。そう思っていて欲しい。

⏰:11/10/05 15:58 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#396 [匿名]
それから、幸子。お前は生きてくれ。死ぬなんて考えないでくれ。

俺に会いたいと思ってくれているのは凄く嬉しい。俺も幸子に会いたい。

だけど、それじゃ駄目なんだ。お前のおばあちゃんになった姿が見たい。

だから俺のためにも元気に健康に生きていて欲しい。

好きな奴が出来たら結婚だってすればいい。…嫌だけど、嫌じゃない。

幸子が幸せならそれでいい!子供も見たいし、孫も見たい!

だけど、俺の事は忘れるなよ!怒るからな!

⏰:11/10/05 16:00 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#397 [匿名]
あと、騙されやすいんだから、人の事、少しは疑えよ!

あと、俺の親にもたまには会ってやってくれ。親父もお袋も幸子の事好きだったみたいだから。

あと、ぶくぶく太らない様に注意しろよ!お前は気を抜くとすぐに太るから。

風邪にも注意して、事故にも注意しろよ。


毎日笑って過ごせ!辛くても笑ってれば必ず幸せになれるから。

⏰:11/10/05 16:02 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#398 [匿名]
最後に、俺は幸子の笑顔が好きだったよ。幸子が笑うから俺は幸せだった。

一人占めしたいくらいだ。

本当に今までありがとな。幸子と出会えて、付き合えて結婚出来て、俺は本当に幸せだった。

幸子でよかった。
これからもずっと愛している。




⏰:11/10/05 16:03 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#399 [匿名]
3つ目の暇潰し、終わり

⏰:11/10/05 16:06 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#400 [我輩は匿名である]
一気に読みました。

4つめの暇潰しも楽しみにしてます。

⏰:11/10/05 16:09 📱:W62P 🆔:9zvw3U2I


#401 [匿名]
これで一旦終わりにします。
また書きたい内容が浮かんだら、更新したいと思います(*^^*)

天使の方も悪魔の方も、いろいろと考えてみたいと思います!

ありがとうございました!

⏰:11/10/05 16:11 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#402 [匿名]
>>400
どうもありがとうございます!嬉しいです!

4つ目も考えてみます(^^*)

⏰:11/10/05 16:13 📱:F06B 🆔:4riuNcnw


#403 [葵]
お疲れ様でした!せつないストーリーだったけど凄くよかったです。また楽しみにしてます

⏰:11/10/13 00:45 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#404 [我輩は匿名である]
素敵なお話をありがとうございます。大抵、感想などは書かないのですが、あまりに感動して号泣してしまいました。本当にありがとうございました。

⏰:11/10/15 23:21 📱:P08A3 🆔:☆☆☆


#405 [匿名]
>>403
>>404
嬉しいお言葉ありがとうございます!
次がいつになるかちょっと分からないですが、頑張ります(笑)

⏰:11/10/16 20:44 📱:F06B 🆔:RusdEQcQ


#406 [みぃ]
一気に読ませていただきました

小説本にして欲しい位好きになりました


これからも応援&読ませて貰います
無理せず頑張ってください

⏰:11/10/18 00:03 📱:N01B 🆔:6GWub6vg


#407 [隆平]
泣きました…感動です…

⏰:11/11/10 23:21 📱:F09C 🆔:☆☆☆


#408 [我輩は匿名である]
一気に読ませていただきました!
号泣です
続き楽しみにしてます!!!

⏰:11/11/11 22:30 📱:S005 🆔:.I6nEvrI


#409 [匿名]
>>200-300
>>301-400

⏰:11/11/12 13:41 📱:SH706iw 🆔:OZgDGxeA


#410 [我輩は匿名である]
久しぶりにまた読みました。泣けます。

⏰:12/05/11 02:04 📱:S005 🆔:vpfW39Ks


#411 [我輩は匿名である]
>>1-200
>>201-500

⏰:12/05/11 08:35 📱:SH02A 🆔:0JwIRp62


#412 [匿名]
今日もこの人間の世界から見る夜空は、黒い。
折角の暗闇を一粒の星が邪魔をしている。

「綺麗だ」

隣にいる天使は、その一粒の星を見てそう言った。

「邪魔だ」

「何で?」

「折角の暗闇が台無しだ」

「暗闇なんて悲しいだけだ」

俺はこいつと一生分かり合えないだろう。

「僕達は、こんなに冷たい存在なのかな?」

心なしかこいつの声が沈んでいた。冷たい存在で何が悪い。

「冷たいのは俺だけだ。てめぇは天使だろうが。一緒にすんじゃねぇよ!」

怒鳴る俺を見て、天使が鼻で笑う。天使なんだから、笑う時はいつでも満面の笑みにして欲しい。

⏰:12/05/26 22:44 📱:F06B 🆔:/ogf0d1A


#413 [我輩は匿名である]
あげあげ

⏰:18/04/10 19:25 📱:iPhone 🆔:FOMomahs


#414 [(*^。^*)]
保守(・▽・)

⏰:22/05/13 20:51 📱:Android 🆔:RFpvLZzA


#415 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑a

⏰:22/10/01 21:59 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#416 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/04 23:29 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


#417 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/04 23:30 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


#418 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>370-400

⏰:22/10/05 00:49 📱:Android 🆔:dfJ9pWTw


#419 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑

⏰:22/12/26 23:37 📱:Android 🆔:K0o6YEWM


#420 [わをん◇◇]
>>1-30

⏰:22/12/26 23:41 📱:Android 🆔:K0o6YEWM


#421 [わをん◇◇]
>>1-100

⏰:22/12/26 23:41 📱:Android 🆔:K0o6YEWM


#422 [わをん◇◇]
>>370-400

⏰:22/12/26 23:41 📱:Android 🆔:K0o6YEWM


#423 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑(∩゚∀゚)∩age

⏰:23/01/21 20:15 📱:Android 🆔:IhSnmgVI


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