クソガキジジイと少年」
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#801 [ザセツポンジュ]
『そんなことより、トミオもジョウジロウちゃんも最近帰りが遅いじゃないか。部活か?』
きーさんの問いかけに
2人とも首を横に振った。
『女か?』
再び首を横に振った。
ゲンコツのダメージから、なんとか起き上がったすーさんは
きーさんにもたれかかった。
『ジョウジロウが女なワケないじゃろ。どうせ古本屋でエロ本の立ち読みでもしとるんじゃよ?このいかれぽんち!変態!』
弱ったすーさんを
平気な顔で再びどつき
きーさんは2人の顔を見た。
『おや?隠しごとかい?』
少年2人は顔を見合わせて笑って首を横に振った。
:08/06/03 20:39
:W51CA
:zIUGw8LY
#802 [ザセツポンジュ]
『会議だよ。今度学校の参観日に集会があるんだ。それの話し合い。』
そう言ってトミーは
テレビを付けて
ゲームをセットした。
『ほお!ジョウジロウちゃんもその話し合いか!変態ではないんだな!』
ジョウはうなずき
トミーの横に座って
ツーコンを握った。
『きーさん、見に行こう!まだギリギリきれいなお母さんも何人かはいるだろう!』
『それはどうでもいいが、孫の晴れ舞台に家でワイドショーを見ているわけにはいかんからな!』
トミーとジョウは
いったんゲームを止め
くるっと振り返り
お互い、我が祖父を見つめ、声を揃えて言った。
『絶対に来ないでね。』
:08/06/03 20:47
:W51CA
:zIUGw8LY
#803 [ザセツポンジュ]
------------------
(あぁ、とんでもないことをボクはしているんじゃないだろうか…今さら逃げられない…)
『。。。。』
校長は黙ったまま
次第に少し焦りだしていた。
トミーは
校長の焦りを見逃さなかった。
『では、これを見てくれたら校長も何か分かると思います。ジョウジロウちゃん!!アレ持って来て!』
(き…来た…。)
トミーの少し大きな声に生徒達も2階の父兄達にも緊張感が漂った。
:08/06/03 20:52
:W51CA
:zIUGw8LY
#804 [ザセツポンジュ]
ジョウは
丸まった紙を抱えて
立ち上がった。
そして
近くにいる
エノシタさんを見た。
心臓もバクバク鳴る中
暗いステージ裏で
エノシタさんは
ジョウの肩にふれた。
『いってらっしゃい。』
こくん。と頷いた
14歳の少年。
ジョウの
心臓の高鳴りを
エノシタさんと
半分こできたなら。
(ボクはエノシタさんのことが好きなんだよ。とても好きなんだよ。)
:08/06/03 21:01
:W51CA
:zIUGw8LY
#805 [ザセツポンジュ]
ジョウは
エノシタさんの目を
しっかり見つめたあと
歩き出した。
体育館中の視線が
ジョウに向けられている。
ラストボス。
校長とトミーの
目の前に立ち、
生徒達に背を向けた。
(ジョウジロウちゃん、お疲れ様。)
トミーはジョウを
見守った。
そしてゆっくりゆっくり丸めていた紙、大きなポスターを
広げて行った。
:08/06/03 21:09
:W51CA
:zIUGw8LY
#806 [ザセツポンジュ]
『え?何?』
『何が書いてあるの?』
『な〜に〜??』
覗こうとしても
見られないポスターに
生徒達はもどかしさを
あらわにした。
皆がザワつくなか
ポスターで顔の隠れた校長。
目をひんむいて
口をガクガクさせていた。
トミーとジョウは
しっかりと見たのだ。
ラスボスを倒す瞬間を。
:08/06/03 21:13
:W51CA
:zIUGw8LY
#807 [ザセツポンジュ]
『これを、いじめととらえますか!アートととらえますか!』
ジョウの声が
最後のとどめをさした。
:08/06/03 21:15
:W51CA
:zIUGw8LY
#808 [ザセツポンジュ]
-------------------
オレが作ったこの
ポスターは
エノシタさんが
100人いる。
ジョウジロウが、オレの屋根裏部屋を尋ねて来たんだ。
たった1人の弟だ。
いつもと様子が違うのは察しがついた。
その時俺は
アンディーウォーホルの作品集を見て浸っているところだった。
:08/06/03 21:20
:W51CA
:zIUGw8LY
#809 [ザセツポンジュ]
『…にーちゃん…ちょっと頼みがあるんだ。』
オレの弟は
優しい奴なんだ。
だけど少し内気で
不器用なだけなんだな。
14歳の少年は
ビニール袋に集めた紙くずを、ひっくり返してきた。
オレはその紙くずを
ひとつひとつ手にとって
見てみたんだ。
クーポン雑誌で
美容室の広告塔になったエノシタさん。
卑猥な言葉を書き殴られたエノシタさんもいれば、ビリビリに破られているエノシタさんもいて、落書きされているエノシタさんもいた。
:08/06/03 21:29
:W51CA
:zIUGw8LY
#810 [ザセツポンジュ]
『ボクね、自分でやりたかったんだけど、うまい使い方を思いつかなくって。』
ショボンと肩を落とすジョウジロウだったが
ちょうど見ていた
アンディーウォーホルの作品集のこともあり
必ず素敵な
1枚のポスターにすることをオレは約束した。
『充分だよ。こんだけ回収したんだもの。よくやったよお前。』
毎日毎日
気づかれないように
ゴミ箱を一個一個
見回ったのだろうか。
そして初めて好きな子ができたことも思春期の少年には打ち明けにくかったのではないだろうか。
:08/06/03 21:35
:W51CA
:zIUGw8LY
#811 [ザセツポンジュ]
少年は少年なりにいろいろ考えていくにつれ、時間がなくなってしまったのだろうか。
あれこれ憶測を巡らせていくうちに
自分の弟だが
だんだんかわいく思えてきたオレだった。
アンディーウォーホルの
代表的な作品に
同じような
コカ・コーラのビンを
ひたすら描いているものがある。
だけど、よく見れば違う。
その意味を考えさせられるポスターに仕上げようと思ったんだ。
案はモロパクリだけれども。
:08/06/03 21:42
:W51CA
:zIUGw8LY
#812 [ザセツポンジュ]
同じ顔のはずの
クーポン雑誌のエノシタさんが
誰かの手が加わって
違う顔に変わっている。
いじめたみんなが
いけないアートをほどこした
エノシタさんが100人。
それをかき集めた
ジョウジロウがいて
それを受け取ったオレがいる。
一枚の厚紙に
エノシタペーパーが100枚並んで問いかける。
『これを、いじめととらえますか?アートととらえますか?』
:08/06/03 21:48
:W51CA
:zIUGw8LY
#813 [ザセツポンジュ]
:08/06/03 21:50
:W51CA
:zIUGw8LY
#814 [ザセツポンジュ]
=============
年月を重ね、見開いた目で
世界を飲み込む。
知識と言う種ばかりを
埋め込んだ
脳みその使い道は
いかほどなものだろうか。
都合の悪い物事は
焼却炉へと飛び込ませ
蓋を閉めたその先
灰色の煙を見送る
ハゲ散らかした頭よ。
少年の思春期爆弾を
いざ受け止めよ。
:08/06/06 12:05
:PC
:GiYNkI5c
#815 [ザセツポンジュ]
唇を震わせ、
体中全ての神経を
困惑させ
自分の愚かさを知るため
今宵、育毛剤と言う名のシャワーよ
奴に魔法をかけて。
目は何の為に
余計な物を見ない為に
鼻は何の為に
近道をかぎわけるために
口は何の為に
嘘をこぼし、自分を弁護する為に、、、。
戻り先はふりだし。
:08/06/06 12:05
:PC
:GiYNkI5c
#816 [ザセツポンジュ]
好きな子が泣いていたら。
大切な人が応援してくれていたなら。
たったひとりでも味方でいてくれたなら。
もしかして
救われただろうか。
救えたのだろうか。
向き合うことを忘れた
大きな子供達。
背中ばかりを追いかけて叫んだ
小さな子供達。
思春期爆弾が
手元に届いた時
使い道は、自分次第。
自分の為に
誰かの為に。
決められるのは
自分だけ。
:08/06/06 12:06
:PC
:GiYNkI5c
#817 [ザセツポンジュ(仕事中のためPC)]
============
最終章 クリスマスの夜に。
============
:08/06/06 12:08
:PC
:GiYNkI5c
#818 [ザセツポンジュ]
鈴木家の床暖房は
とても温かい。
『きーさん寒いよう。わしゃ寂しいよう。』
すーさんはきーさんにまとわりつき
寒さを忍んでいた。
『ええい!老いぼれがベタベタ触るんじゃないよ!酔っ払い!』
昼間からする事もなく
酒を飲んだくれている老人二人。
我が孫に、家から追い出されたと言う
かわいそうなこの老人
木田シゲル62歳。
:08/06/06 12:45
:PC
:GiYNkI5c
#819 [ザセツポンジュ]
『きーさん、ワシはな、きーさんの事が、、、、す、、、す、、、、』
ボコン!ゴツン!
お決まりのゲンコツを食らわしたが
何度殴られても、こたえないこの老人
鈴木ひとし62歳。
『その先が何語であってもそれ以上口に出すなよ!通報するぞ!』
すーさん。
娘が設計した
老人にとって心臓やぶりの
階段を、チョボチョボ上がり
ジョウの部屋を開けた。
:08/06/06 12:45
:PC
:GiYNkI5c
#820 [ザセツポンジュ]
ボコン!
『い、痛い!なんだよ!ノックしてよ!』
意味不明に殴られた事よりも
ノックをしなかった我が祖父に
腹を立てていた。
『今な!きーさんが来てる。』
『分かるよ。そのたんこぶ見れば。で、何?』
『トミオちゃんが女を連れ込むからと行って追い出されたそうだ。で、もっと遠くへ行って死ねばいいのに、すぐ隣のウチへ来たんじゃよ。その辺どう思うかね?ジョウジロウ。』
すーさんは、思い出したかのように
頭をさすりだした。
『ふーん。女を連れ込む時は追い出されるのか、きーさんは。』
上を向いて思い浮かぶのは
エノシタさんのことばかり。
:08/06/06 12:46
:PC
:GiYNkI5c
#821 [ザセツポンジュ]
『お前な、トミオちゃんは立派なのは充分承知の上で言うが、ヤラハタ決定だぞ。お前よ、そこのお前!鈴木さんちのジョウジロウちゃん!ワシは近所の人に言われるようになるんじゃ。あ〜れ〜ヤラずにハタチを迎えたお孫さんをお持ちの鈴木さ〜ん、ごきげんよいかが〜?そう言えばこないだ、、、』
『どうでもいいけど用事は何なの?』
ホロ酔い気分のジジイにかまっていられる気分じゃないのだ。
バコン!
『ただちに、去年のお年玉を崩して、クリスマスケーキを買いに行け!ついでに壁にもたれかかった娼婦に抱かれて来い!分かったな!』
『はいはい。』
ジョウは頭をさすりながら財布を持ち
ジャケットをはおり、マフラーをまいた。
タッタッタッタッタッタ、、、。
『あいつ、、、。階段をタッタタッタおりよって。年寄りの苦労も知らずに。』
:08/06/06 12:46
:PC
:GiYNkI5c
#822 [ザセツポンジュ]
すーさんはまた、一段一段チョボチョボと階段を
降りるのであった。
『ジョウジロウちゃん、メリークリスマス!』
きーさんは、さも我が家かのように
堂々とリビングでくつろいでいた。
『やあ!きーさん!メリークリスマス!』
挨拶を済ませたジョウはそそくさと玄関へと向かった。
『ちょちょちょ〜ちょ〜っと待て。どこに行くんじゃ?』
ジョウはスニーカーのつま先を
トントンと2回。
『スペシャルゲストのきーさんとパーティーでもしようかと思ってちょっとケーキ屋までね。』
:08/06/06 19:31
:PC
:GiYNkI5c
#823 [ザセツポンジュ]
『そうか。ジョウジロウちゃん、クリスマスじゃ、おこづかいをあげよう。』
きーさんはポケットから出したお札を
ジョウに渡した。
『えええええ!1万円も!ウチのじーちゃんとは大違い!ありがとうきーさん!ケーキ何がいい?』
『モンブランとカルピスな。』
『りょ、了解なまこん!』
冷たい風が吹き、マフラーに顔をうずめた少年。
行って帰る頃には夕日も沈み出すだろう。
肌を刺す寒さもよそに、
うっすらと浮かんだケーキ屋さん。
道は定かではないが
エノシタさんの顔が思い浮かぶ。
ジョウはケーキ屋まで
小走りで向かった。
:08/06/06 19:31
:PC
:GiYNkI5c
#824 [ザセツポンジュ]
(エノシタさんなにしてるかな、今日。エノシタさんちサンタさん来たかな。。。なんつって。)
カランカラーン。
『ぎゃっ!うわ!!!!!!』
ケーキ屋の扉を開き、
マフラーから顔を出したジョウは
ベタにも自分のほっぺたを叩いてしまっていた。
『、、、。そんなにびっくりしないでよ。ジョウくんこんにちわ。』
かわいい手袋をした
エノシタさんが、目の前にいる。
『な、な、なななな、なにしてんの?』
『ケーキを、、、買いに来て、、、』
『そっそうだよね、ケーキ屋だもんね。バカだよねボク。頭おかしいよね。ハハ』
ジョウは並べられたケーキをガラスケース越しに覗き込んだ。
エノシタさんもすぐ隣でジョウと同じようにケーキを見ていた。
:08/06/06 19:32
:PC
:GiYNkI5c
#825 [ザセツポンジュ]
(近いし!近いし、エノシタさん近いし!頭とかぶつかったらどうすんのさ!)
『あたし何にしよっかな〜。ホールで買ってもな〜。ジョウくん何買うの?』
クルっとジョウの方に顔を向けたエノシタさん。
ジョウは尋常じゃない速さで目が泳いだ。
『え?え、ボクんち今トミーのじーちゃんが来てるから、とりあえずモンブランと、、、』
『トミーのおじいちゃんが来てるの?何で?』
『いや、、、そんの〜、、、居心地がいいからだと思うよ、うん。』
ジョウはさもケーキを探すふりをしたが、
緊張と興奮から、分かっているのに
お目当てのケーキを見つけられない。
『ハッハ〜ン。エノモトさんが来てるからトミーに追い出されたのね、おじいちゃ、、、』
ジョウはビシっと顔を上げて頭をフル回転させ、
オマケにものすごい早口で店員に告げた。
『モンブランひとつと、ストロベリーなんとか。あ、それです。それでチョコレートケーキと、にいちゃん、ウチのにいちゃんは何がいいだろうか?知らない。そうですか。ボクも知らないし、この店のオススメ適当に!はい、以上で。』
:08/06/06 19:34
:PC
:GiYNkI5c
#826 [ザセツポンジュ]
ごまかせたとでも思っているのだろうか。
ホっとした表情を浮かべたが
ふくれっ面で横に立っているエノシタさんを
ジョウは2度見してしまった。
(ふくれてる。エノシタさんたら。かわいいな。)
『あたしもストロベリーなんとかひとつください!』
かわいい手袋をはずして、
エノシタさんは、財布を取り出した。
『あれ、エノシタさん家族の分は?』
『ん?いいの、いいの。』
ちょっと寂しそうな顔をしたような気がした。
:08/06/06 19:34
:PC
:GiYNkI5c
#827 [ザセツポンジュ]
カランカランー
少しだけ、
また寒さを増した
オレンジ色の空の下を
かたや片思い中の少年と
かたや失恋したばかりの少女は歩き出していた。
『ねぇ、ジョウくん。前にさ、協力してくれてありがとう。』
ジョウは頷いた。
『うん。。。え?なにを?』
全校集会の件は
3年生には漏れていないはず。
と、ジョウは思っているのだろうが、かつてきーさんとすーさんが勝手に実行したエノシタ改造計画をこの少年は知るよしもない。
『でも、もういいの。トミーのことはあきらめたの。』
(分かってはいたけど、やっぱり好きだったんだな。)
ジョウは心にチクっと刺さる少し苦しいこの気持ちが恋をしている証拠なんだなと改めて実感した。
:08/06/06 20:44
:W51CA
:H2Pa6if.
#828 [ザセツポンジュ]
『まぁ、またいいことがあるよ、そのうち。いっぱい期待しちゃいけないけど。』
エノシタさんは首を縦に降ってニコっと笑った。
『あれ?エノシタさんちどこだっけ?』
エノシタさんは
立ち止まって
反対方向を指さした。
『え!逆じゃん!お、お…送ろうか!』
トミーだったらサっと出る一言でも、ジョウにとっては心臓破りの5文字だった。
『いいよいいよ!おじいちゃん達がケーキ待ってるでしょ?』
エノシタさんは
いつも笑顔を絶やさない女の子だ。
ジョウはエノシタさんが手に持つ、ひとつだけ買った小さいケーキの箱に目をやった。
『な、なにするの?帰ってから。』
『…え〜と、ケーキ!ケーキ食べるよ!ジョウくんと同じイチゴの!ヘヘ。』
エノシタさんはケーキの箱を高く持ち上げて見せた。
:08/06/06 20:54
:W51CA
:H2Pa6if.
#829 [ザセツポンジュ]
『ひとりで?』
『うん。ウチね、パパはパイロットでママはキャビンアテンダントなの。遅い夜には帰って来ると思うんだけどさ。』
“心配しないで”と笑うエノシタさんをほってはいられないジョウジロウちゃん。
(サンタさん…ボクに勇気をくださいぃ…)
ジョウは目をつむって
バクバク鳴る心臓を
確認した。
『あ!あのさ!ウチのじーちゃんもトミーのじーちゃんも変だけどおもしろい人でさ!1人でケーキ食べるんだったら、よかったらウチでみんなで食べようよ!』
恥ずかしさを隠すため、マフラーに顔をうずめた。
『ホ、ホント!!いいの??』
『い、いいよ!みんな大歓迎だよ!』
エノシタさんは
また笑った。
嬉しそうに嬉しそうに笑っていた。
:08/06/06 21:03
:W51CA
:H2Pa6if.
#830 [ザセツポンジュ]
『あ!きーさんにカルピス頼まれてたんだった!エノシタさん何飲む?』
夕日が暮れる前に
早くおうちへ帰ろう。
楽しい時間はすぐ過ぎてしまう。
--------------
パパン!パパパパン!パン!
『ハッピバ〜スデイ俺のかわいい彼女のエノモトさ〜んハッピバースデイトゥ〜ユ〜!フ〜〜〜!』
トミーはたった今
このバースデイソングで
無理やり彼女にした
エノモトさんと
クラッカーの音と共に
パーティーを開催していた。
今日はエノモトさんの誕生日でもあるのだ。
『ありがとうトミー!キャ〜かわいい!嬉しい!』
トミーはジョウの兄に作らせた世界でひとつのネックレスを
エノモトさんの首にかけてあげた。
:08/06/06 21:11
:W51CA
:H2Pa6if.
#831 [ザセツポンジュ]
『ねぇ、ねぇなんでケーキはいらないの?エノモトさんデブじゃないのに。』
ケーキを買いに行くつもりがかたくなに拒否されてしまった木田トミオ14歳。
『ケーキは一緒に食べたい人がいるの。』
エノモトさんはトミーからもらったネックレスを嬉しそうに手に取って見ていた。
『は!早くも浮気!?だ、誰!!!』
『おねーちゃん。』
トミーはネックレスをずっと眺めているエノモトさんをずっと見ていた。
『かわい〜。かわい〜ね。へへ〜。ってかお前ねぇちゃんいたの?』
彼女になって2分もすればお前呼ばわりする態度のデカさだが、悪い気はしないエノモトさん。
:08/06/06 21:17
:W51CA
:H2Pa6if.
#832 [ザセツポンジュ]
『そう、7つ上におねぇちゃんがいるの。めったに帰って来ないけど。』
エノモトさんは
遠い目をした。
『めったに帰って来ないけど、俺にチュウして。』
トミーはエノモトさんのとてつもなく近い距離まで移動した。
チュ。
『うわ!めったに帰って来ないけど、お前!軽々しくチュウとかすんなよ!ヤリマンか!』
そう怒鳴って
トミーはエノモトさんに甘えて抱きついた。
エノモトさんは
照れてそのまま顔を赤らめていた。
:08/06/06 21:57
:W51CA
:H2Pa6if.
#833 [ザセツポンジュ]
『めったに帰って来ないけど今日おねーちゃん帰ってくるよきっと。ねー。めったに帰って来ないけどあとでエッチしようねー。』
『やだ。』
『そうだよ!そう!一回は断って欲しいもん俺!』
なにがしたくてなにを理想としているのかは分からない少年だが、15歳になったエノモトさんは自分が思ったよりも速いスピードでトミーに惹かれて行くのであった。
----------------
こないだ
携帯に非通知で
着信があったんだ。
でもどうしようもないから
画面を見つめていたら
また非通知で電話が
鳴り出した。
『はい。』
『…シンイチロウ。元気か?』
『あぁ。なんだ。なんで非通知なの?』
『それが使い方がよく分からなくって。』
:08/06/06 22:05
:W51CA
:H2Pa6if.
#834 [ザセツポンジュ]
こういうところ、ジョウジロウとそっくりだなと思った。
『どうしたの?』
『お前さ…クリスマスは何かするのか?』
『特になにもないけど…』
『飯でも食いに行こう。オゴってやるから。』
オレはクリスマスに
会う約束をした。
夕方頃、待ち合わせの
予定。
何を話すのが
いちばんいいだろうか。
あれも言ってやりたい。
これも言ってやりたいけど…
オレ、何かを
作るのは好きだけど
生身の人間と
直接言いたいことを
言い合うのは苦手だな。
だけど今日は
クリスマスだから
今まで言いたかったこと全部、言ってみようか。
もう時間が迫ってる。
:08/06/06 22:16
:W51CA
:H2Pa6if.
#835 [ザセツポンジュ]
:08/06/06 22:23
:W51CA
:H2Pa6if.
#836 [ザセツポンジュ]
---------------
バイトへ向かう前に
少し早く家を出て
雑貨屋巡りをする女の子。
(なにがいいのかなぁ…もう中学生だもんなぁ)
リンゴ、イチゴ、バナナの小物…
人にプレゼントすることが苦手な人種。
自分が中学生の頃、何を欲しがっていたのかも、思い出せなかった。
(…これにしよう。)
『プレゼント用にしてください。』
可愛らしい写真入れを選んで、リボンのついた小袋を手に持ち、バイト先へ向かった。
懐石料理“廣六”
:08/06/17 22:19
:W51CA
:Rv5ry/LU
#837 [ザセツポンジュ]
『悪いねぇ、きららちゃん。クリスマスなのに。昨日から珍しく予約が入って忙しくってな。夕方にはあがっていいからね。』
『いえいえ。かまいませんよ。』
『おや?彼氏と約束があるのかい?』
六さんは、きららちゃんが手に持った小さな紙袋に目をやって微笑んだ。
『違いますよ。今日、妹が誕生日なんです。』
『そうか!きららちゃん妹がいたんだったな!じゃあ今日きららちゃんが帰るまでに、用意しておくから、帰ったらワシの料理をみんなで食べなさい!ね!』
そう言って六さんは嬉しそうに笑った。
(みんなで…食べる…か。)
きららちゃんは
六さんの嬉しそうな笑顔を踏みにじることはできないだろう。
:08/06/17 22:25
:W51CA
:Rv5ry/LU
#838 [ザセツポンジュ]
----------------
『ただいまぁ』
『おじゃましまぁす』
きーさんとすーさんは
リビングに入って来た
少年少女を二度見した後
顔を合わせ、目をかっぴらいたまんま
慌てふためいた。
『ど、ど、ど、どどど、どうもどうも!エノ…エノキ…エノキダケ!エノキダケ、ドコモダケ買って来たか!』
すーさんの目は
今だかつてない速さで
泳いでいた。
『え?エノキ岳?』
好きな子を勇気を出して家に呼んだのにも関わらず、オープニングから様子のおかしい老人2人。
鈴木ジョウジロウ14歳、クリスマスの落胆。
:08/06/18 00:01
:W51CA
:vSgbzwek
#839 [ザセツポンジュ]
『はじめまして、エノシタと言います。』
エノシタさんがおじぎをしたのも束の間、
きーさんは、ジョウもまだ握った事のないエノシタさんの手を握り
コタツへ案内した。
『はじめまして、エノシタさん。ワシの名前はシゲルです。62歳です。どうぞ、この辺に座って。』
すーさんは慌てて
エノシタさんのために
梅昆布茶を入れてあげようと、不思議な歩き方で台所へ移動。
おもむろに手に取るグラス。
『ちょ、ちょっと!きーさん!目が怖いよ!手も震えてるし!わっ!じーちゃん!じーちゃん、何やってんの!それ洗剤!食器洗うものでしょ!飲めないし!なんで挙動不審なんだよ!なんなの!!?2人してさ!』
:08/06/18 00:13
:W51CA
:vSgbzwek
#840 [ザセツポンジュ]
ジョウは粉を入れて
ポットの湯を入れれば
すぐさま完成する梅昆布茶を、少し水でぬるめて
すーさんに飲ませた。
『ジョウジロウちゃん、いや、落ち着け。まぁ、そうアセるな。サンタさんが来なかったからって非行に走るなよ!エ!エ…エノシタさん!ケーキ食べようね〜、ね〜エノシタさん、ね〜。』
理不尽な理屈を並べているのはシゲル。木田シゲル62歳。
孫から注がれた
梅昆布茶と言う活動源で、少しだけ落ち着きを取り戻した、鈴木ヒトシ62歳。
この2人の老人、
『なに?殺人でも犯したの?ついに。』
と、少年に侮辱されてもなんらおかしくない行動をとっている。
:08/06/18 00:22
:W51CA
:vSgbzwek
#841 [ザセツポンジュ]
こんな奇妙な家の中にいるのに、エノシタさんは、なんだか楽しそうに笑っていた。
きーさんは
自分の理不尽さは
棚に上げ、キッチンからジョウを追い払った。
首をかしげながら
コタツに入ったジョウは
何気なく座っている自分にハッとした。
エノシタさんの隣。
(あ…足とかあたったら…どうしよう…)
『エ…エノシタさん、なんかオープニングからこんな感じでごめんね。じーちゃん達いつもあんな調子でさ。』
申し訳なさそうな顔のジョウとは打って変わって、建て前ナシの笑顔で首を横に振るエノシタさん。
『いいなぁ。にぎやかで。面白いのね、おじいちゃん達。』
キッチンでなにやら
男の作戦会議を開始している老人2人を、エノシタさんは微笑ましく眺めていた。
:08/06/18 00:31
:W51CA
:vSgbzwek
#842 [ザセツポンジュ]
:08/06/18 00:33
:W51CA
:vSgbzwek
#843 [ザセツポンジュ]
(エノシタさん、いつもひとりなのかな…)
ジョウは、エノシタさんを見つめながら、少し寂しい気持ちになった。
『すーさん、すーさん、大丈夫。大丈夫。バレてない、バレてないよ。かえってこんな態度の方が怪しいじゃろ!平然とするんじゃ。何事も無かったかの様に!』
『そ、そうじゃな。もう、随分前の話よ。』
完全に殺人を犯してしまった2人組の会話である。
『はいは〜い。みなさ〜ん。今宵クリスマス、未成年飲酒でもしてね、今日は盛り上がりましょうね〜』
きーさんは不自然なほどの笑顔で、しきり直そうとコタツへ潜入してきた。
:08/06/18 00:44
:W51CA
:vSgbzwek
#844 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウ!お前、ポケっとしてないで、ワシに、もう一回梅昆布茶を入れて来い!きーさんにはカウパーカルピス!エノシタさんは?何飲むんじゃ?』
きーさんに続いて、コタツに腰を下ろしたすーさん。
『カウパーカルピスって新しいの?』
エノシタさんの質問に、すーさんは、気を良くした。
『最新のカルピスだが、絶対に外部には漏らさないこと。』
きーさんのフォローにもジョウは呆れ返って、みんなの分のジュースを用意しに、キッチンへ移動した。
:08/06/18 00:52
:W51CA
:vSgbzwek
#845 [ザセツポンジュ]
(台っっっっ無しだよ。エノシタさん、もう遊んでくれないよ…)
『はい、梅昆布茶!きーさんの最新のカルピス!エノシタさんの100%オレンジジュース!』
(そしてボクも…エノシタさんと同じオレンジジュース…うぅ…)
すーさんは梅昆布茶を
ふぅふぅと冷ましていたが突然ある事に気づいた。
『あっ!おい!ジョウジロウ!シンイチロウも呼んで来い!いいか!?今日はあの屋根裏から何が何でも引きずり出せ!』
ジョウはオレンジジュースをゴクリと飲み、ため息をついた。
『も〜。コキばっかり使わないでよね!』
:08/06/18 01:02
:W51CA
:vSgbzwek
#846 [ザセツポンジュ]
ジョウは膨れっ面で階段を上がり、2階の上のそのまた上の、屋根裏部屋のドアを叩いた。
コンコンコン。
『に〜ちゃん!……に、にぃいちゃん!』
ジョウは少し待って、
耳を澄まし、ドアノブに手をかけた。
ガチャー。
相変わらずゴチャゴチャしている部屋。
画材に雑誌に、本にソフト。付けっぱなしのパソコンに…
『…あれ?にーちゃん、いないや。』
:08/06/18 01:09
:W51CA
:vSgbzwek
#847 [ザセツポンジュ]
:08/06/18 01:13
:W51CA
:vSgbzwek
#848 [ザセツポンジュ]
------------------
『おつかれさまで〜す。』
オレが店の戸を開けたと同時に
バイトの人とおぼしき若い女が店を出て行った。
『六さんの店、久しぶりだな。』
席に案内され、座敷に座るなり
目の前にいる中年男は
おしぼりで顔を拭きだした。
『そうだね。父さんと会うのもだいぶ久しぶりだけども。』
そう。そのだいぶ前に
出て行った父さんの顔を拭く姿を見て
老けたな〜と感じ、メニューを開いた。
『隣のおじいちゃんは元気か?あの説教くさいおじいちゃん。』
父さんはおしぼりを置いた。
『ん?元気に決まってるだろ。トミーも元気だよ。。。あと、ジョウジロウも元気。』
:08/06/18 13:24
:PC
:Qvr/oogU
#849 [ザセツポンジュ]
家族の事よりも先に
きーさんの事を聞いて来るあたり、
よほどに目の敵にしているに違いない。
『元気か。ジョウジロウ、中2か。荒れてないか?』
寂しそうな顔でメニューを覗き込む父さん。
“松コース”を指差した。
『いいの?無理してない?』
『無理してるに決まってるだろ。いいから頼みなさい。』
えらそうにメニューを閉じた父さんだが、
無理してるとはっきり言われると、返ってスッキリするもんだ。
『すいませ〜ん。』
:08/06/18 13:25
:PC
:Qvr/oogU
#850 [ザセツポンジュ]
ヒョイっと顔を出した六さんは、
オレ達の顔を見て、ニッコリ微笑み
テーブルに手をかけた。
六さんの、なんとも言えない優しい顔に
オレはホっとした。
『シンイチロっちゃん。お父さんと、珍しいな。アンタ、元気だったかい?』
ポンと、父さんの肩を叩いた六さん。
父さんは、笑った。
『あぁ。それなりにな。』
一番高い“松コース”を頼んだ後
料理を来るまでの間、黙っていることは
できなかった。
『ジョウジロウ、荒れたりしてないよ。年頃の割りにはいい子だと思うよ。鈴木の姓にも、もういい加減慣れたみたいだしさ。』
父さんは何度も頷いていた。
“それならよかった”と。
:08/06/18 13:26
:PC
:Qvr/oogU
#851 [ザセツポンジュ]
『母さんは忙しそうか?』
『忙しそうだよ。帰って来るのも遅いしね。父さんはどうなの?』
父さんは、苦笑いして、こう答えたのだ。
『酒の量もだいぶ減ったな。ひとりきりだしな。会ってくれるのはお前だけだしな。』
オレは少し腹が立った。
何を聞いても腹は立つんだろうけど。
ちょっとした発言でもイラっとするんだろうけど。
父さんだけが、寂しいんじゃない。
自業自得なんだろ。
お前が家を出て行ったんだ。
酒を飲んで暴れて。
自分勝手に怒鳴って。
母さんを殴って。
じーちゃんを突き飛ばして。
ジョウジロウの話も聞かずに。
だけど、オレは。。。
:08/06/18 13:26
:PC
:Qvr/oogU
#852 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウはさ、毎日夜になると泣いてたよ。まだ小学校も低学年だったし。小さかったのに父さんと母さんの間割って入ってさ。ジョウジロウは強いと思うよ。オレは母さんにくっついていればいいと思ってたから。どっちかについている方が楽なのに、ジョウジロウはそれをしなかった。なのに父さんはジョウジロウの話を聞かなかった。オレもオレだけど。父さんも父さんだよ。』
いや、オレは今日
誰が一番悪かったと、
決めたかったわけじゃないのに。
父さんを責めに来たんじゃなかったのに。
掘り返して、父さんを悪者にしようと思っていたんじゃなかったのに。
今日は、
今日は、、、。
こんな空気にするつもりじゃなかったのに。
:08/06/18 13:27
:PC
:Qvr/oogU
#853 [ザセツポンジュ]
『悪かったな。母さんにも、ジョウジロウにも、、、、お前にもな。父さんな、ホントに悪かったと思ってるよ。』
違うんだ、父さん。
父さん、オレはね、
父さんが出て行って、ジョウジロウが泣く姿を見て
自分が情けなくなったよ。
オレの方がおにいさんなのに、
オレは何にもしなかった。
部屋に隠れて、耳を塞いでいるだけで。
オレには、二人の間に入る勇気なんてなかったし。
:08/06/18 13:28
:PC
:Qvr/oogU
#854 [ザセツポンジュ]
ジョウジロウはね、何も知らないんだ。
どっちについていればいいとか、分からないんだ。多分。
戦国時代のお話をいつも聞かせてくれたりしていた大好きな父さんと、
お弁当のおにぎりに、タコさんウインナーを入れてくれていた大好きな母さんが
いがみ合っているのを見ているのが
ただ、嫌だっただけなんだよ。
どっちがどうとか
そんなの思いつきもしてなかったんだよ。
泣きながら、何度も何度も
父さんと母さんの間に割り込んで
止めようとしていたんだ。
真ん中。
二人の真ん中に立って。
:08/06/18 13:29
:PC
:Qvr/oogU
#855 [ザセツポンジュ]
オレには、そんな気持ち、きっとなかったから。
いなくなって気付いたんだ。
父さんがいなくなって、オレは気付いたんだ。
父さん、父さんも
ひとりになって分かった事が
いっぱいあるんだろうね。
ひとりにならないと思い知れない事もあるんだろうけど
それに気付いて反省した時に、
もう戻せなくなってしまったものもあると言うこと。
クリスマスの夜に。
:08/06/18 13:29
:PC
:Qvr/oogU
#856 [ザセツポンジュ]
---------------------
学校一の可愛い女子を
見事自分の彼女として
獲得し、至福の時を過ごした
木田トミオ14歳。
クリスマスとエノモトさん15歳の
誕生日を存分に過ごした。
辺りはもう薄暗い。
『あたしもう帰らなくちゃ。』
『え〜もう帰るの〜。もう俺んち住んじゃえよ。風呂沸かそうぜ。』
と、無理な冗談こそ平気で言ってみるが、
トミーはエノモトさんの手を取った。
『おうちまで送ります。』
『うん!』
二人は手を繋いで、玄関を出た。
:08/06/18 14:22
:PC
:Qvr/oogU
#857 [ザセツポンジュ]
《ボケタレ!ワシの目玉焼きの方がよっぽど目玉らしいわ!》
《すーさんの目玉焼きは目玉じゃないわい!下手クソ!》
《も〜。。。じーちゃんもきーさんも無駄使いしないでよ、たまご!目玉焼き選手権なんてやめようよ、クリスマスに!》
《キャハハハ。》
何やら隣のオウチはにぎやかなご様子。
『隣の家うるさいね〜、エノモトさん。』
ガラガラガラ。
『空気が悪いわ!、、、あ!トミオ!どこへ行く!』
ぷ〜んと漂う卵の匂い。
『あの人知ってる?エノモトさん。』
『、、、。トミーのおじいちゃんでしょ。無視していいの?』
エノモトさんは、繋いだ手を気にしながら歩いた。
無視していいわけがあるまい。
:08/06/18 14:23
:PC
:Qvr/oogU
#858 [ザセツポンジュ]
ガチャ。
鈴木家の玄関から顔を出した老人二人のお出ましだ。
『おい!あっ!お前ら!セックスしていいと思ってんのか!』
すーさんは、繋いだ手を見るなり、近所迷惑スイッチをONにした。
『すーさんやめてよ。俺の可愛い可愛い彼女が困惑するだろ。セックスはしなかったよ。とても残念だよ。』
きーさんは、これ以上喋らせまいと、すーさんの口を塞いだ。
:08/06/18 14:24
:PC
:Qvr/oogU
#859 [ザセツポンジュ]
『トミオ!どこ方面に送るんじゃ!?』
『あっち。北公民館の方面。』
『そうか!その近くに喫茶店があっただろう!そこにケーキも売ってるから、ケーキを買って来い!モンブランと〜、、、あと適当に!必ずだぞ!ほれ、エノモトさんにもあったかいカフェオレ買ってあげなさい。』
トミーにも1万円を渡したきーさん。
かっこつけたいがために気前の良くなるクリスマス。
『ラッキ〜。』
『じゃあな、我が孫トミオよ。』
ガチャン。
すーさんを窒息死させる寸前で
老人達は家へ引っ込んだ。
『なんであたしの事知ってるの?』
『、、、あれ?ホントだ。なんでだろう?』
:08/06/18 14:25
:PC
:Qvr/oogU
#860 [ザセツポンジュ]
きーさんは、すーさんをリビングに放り投げ、
玄関の電話の前に立った。
きーさん。携帯電話を購入したのにも
関わらず、家に置き忘れ、人んちの家の電話を使用する。
老人とはそんなものだ。
『090の、、、え〜と、、、』
リビングからホフク前進でしかえしを試みているすーさん。
『おい、木田シゲル。モンブランモンブランって、糖尿病になって死んでしまえ。。。おや?どこに電話しとるんじゃ?』
『トミオの本命の彼女。』
『あぁそう。』
すーさんはそう言って素直に退散し、コタツに戻った。
『、、、もしもし?ワシじゃ。今すーさんちからかけておる。今どこにおるんじゃ?』
:08/06/18 14:26
:PC
:Qvr/oogU
#861 [ザセツポンジュ]
-----------------
エノモトさんちは少し遠かった。
二人はたわいもない話をしながら
ゆっくり歩いた。
『トミーはいつも音楽何聴いてるの?』
『え〜っとね〜、怪獣のバラード。』
『、、、。それって合唱曲でしょ。CD出てるの?』
『うん、出てる出てる。エノモトさんは?』
『あたし、ジュディマリ。』
『俺もジュディマリ好き〜。ジョウの兄ちゃんにCD借りた事あるんだ。小さな頃からとかね、KISSの温度とかいいよね。』
『ホント!?あたしは、おねーちゃんから教えてもらったの。あ、怪獣のバラードあたしも好きだよ。』
:08/06/18 14:39
:PC
:Qvr/oogU
#862 [ザセツポンジュ]
CDはおそらく持っていないだろうが、
木田トミオと言う生意気な少年。
怪獣のバラードと言う歌を
こよなく愛していた。
『でもさ〜怪獣のバラードを歌ったクラスが絶対優勝するじゃん。あれどうにかして欲しいよね〜、、、。あ、自販機。エノモトさん、おいで。』
あったかいカフェオレを飲みながら二人は進んで行った。
吐く息はとても白かった。
『もうすぐウチなの。あの、そこの犬がいるオウチの、、、。隣、、、、。』
エノモトさんの足が止まった。
トミーはエノモトさんの顔を覗き込んで
視線を辿った先、街灯の下に女の人が立っているのが見える。
『おねーちゃん!』
そう叫んでエノモトさんは、走って行く。
振り返ったエノモトさんに、トミーは笑って手を振った。
(会いたい人に会えてよかったね、エノモトさん。)
:08/06/18 14:40
:PC
:Qvr/oogU
#863 [ザセツポンジュ]
---------------------
ジョウは時計を見てハっとした。
ジジイ二人のドンチャン騒ぎに
付き合っている場合ではないのだ。
こともあろうかエノシタさんは
楽しそうにケタケタ笑っていた。
ジョウはこのままでは
エノシタさんが危ないと思い、
肩を叩いて現実世界へ引き戻した。
『エノシタさん!もう8時が来るよ!』
エノシタさんはやっとこさ
我に返り、帰り支度をした。
『エノシタさん、また目玉焼き選手権しようね〜』
酔っ払ったすーさんはとてもご機嫌。
『また遊びにおいで、エノシタさん。』
きーさんは、ここを自分ちだとでも思っているのだろうか。
ジョウとエノシタさんは、クリスマスと言う冬の道を歩き出した。
:08/06/18 16:48
:PC
:1u1mw9wo
#864 [ザセツポンジュ]
:08/06/18 18:21
:PC
:1u1mw9wo
#865 [ザセツポンジュ]
------------------
街灯の下で手を振る女の子。
街灯まで走る女の子。
二人は姉妹。
『おねーちゃん。。。』
『お誕生日おめでとう。はい、これプレゼント。私からがこっちで、この料理はバイト先の人から。』
二つのプレゼントを
妹に渡した姉は、
時計を見た。
『ありがとう。。。おねーちゃん。どこでバイトしてるの?』
『ん?料理のおいしいところでバイトしてるのよ。』
姉は、再び時計を見た。
予定は何もないのに。
:08/06/30 01:11
:PC
:3PmgDCPQ
#866 [ザセツポンジュ]
『おねーちゃん、おうち入らないの?』
すぐさま帰ろうとしている姉の様子に気付き、
なんとか引きとめようとしている妹。
『今日はもう帰るよ。おめでとうって、言いに来ただけだったから。』
『一緒にケーキ食べようよ。。。帰って来てよおねーちゃん。』
姉は、困ったように笑い、首を横に振る。
ガチャ。
『遅いわねぇあの子。誕生日だって言うのに。』
エプロン姿のまんま、薄着で外に出て来た母親。
隣の家の犬が吠え出した。
『お母さん!おねーちゃん、おねーちゃんとケーキ食べたいんだけど!』
:08/06/30 01:11
:PC
:3PmgDCPQ
#867 [ザセツポンジュ]
姉は、母親の姿を見た途端、
背を向けて口を閉ざした。
『あれ?お前いたのか。』
続いて玄関先まで出て来た父親は、
様子に気づき、妻の方へ近づいて行った。
そうして、もう一人の我が娘が
自分達に背を向けている事が分かったのだった。
家族は4人。
食卓を4人で囲むのが当たり前で、
普通の家庭だと、誰もが思っていた。
両親は、7つ、年の離れた妹を
とても可愛がっていた。
天真爛漫で、容姿も端麗だった妹を。
:08/06/30 01:12
:PC
:3PmgDCPQ
#868 [ザセツポンジュ]
姉は次第に嫉妬して行った。
クリスマスに生まれた妹を
妬んでもいた。
置いてきぼをくらっているような生活が
何年も続いたが、
姉は、疑問をどこに、誰に、
ぶつけたらいいのかさえも分からなかった。
普通の家庭だと誰もが思っていた家庭に
口を閉ざした姉だけが、ポツリと食卓を囲む。
物静かな性格だったためか、
ちょっとした姉の変化に気づく者は、
いなかった。
:08/06/30 01:12
:PC
:3PmgDCPQ
#869 [ザセツポンジュ]
お姉ちゃんはしっかりしてるから。
お姉ちゃんは心配いらないから。
妹は甘えん坊で可愛いから。
妹は手のかかる子だから。
(私はおねえちゃんだから。私はおねえちゃんだけど。だから何だって言うのよ。。。)
『お姉ちゃん。お母さんね、みんなの好きなケーキ買ってきてるの。』
『おねーちゃん。おうち、入ろうよ。。。』
母の言葉も、妹の言葉も
背中では受け止めているが、
まだ振り返る気には、なれないでいる姉。
何も語らないでいる姿を見かねて、
父親は、ゆっくり姉に近づいて行った。
そして、姉の肩に、手を
置いた。
:08/06/30 01:12
:PC
:3PmgDCPQ
#870 [ザセツポンジュ]
『さみしい思いをさせていて、ごめんな。。。お姉ちゃん。帰っておいでよ。ね。今日は、クリスマスだから。』
お姉ちゃんは、
ちゃんと分かっていたのだ。
自分が、大きな大きな
意地を張って生きていると言うことを。
抵抗として、
沈黙と言う手段を選んでいたが、
相手に真意を
気づいてもらえにくいと言う事だって
分かっていた。
だけど、それでいて時は経ってしまい、
口に出す事が、日に日に困難になって行った。
溜め込んだものを吐き出すために
手にあざを作り、のどをかき回していた自分。
:08/06/30 01:13
:PC
:3PmgDCPQ
#871 [ザセツポンジュ]
“私は何も語らないけど、そんな私の気持ちを察して、あなた達が考えて行動してください。”
は、とても無理な話なのだ。
相手の思惑は探る事が出来たとしても、
真意を掴む事なんて出来ない。
超能力者でもなんでもないんだから。
伝えるべき事は、
口に出して伝える。
それを苦手としている人もいるのだろうけど。
“もっと早く言えば良かった。
もっと私にもかまってと
甘えてみれば良かった。
:08/06/30 01:13
:PC
:3PmgDCPQ
#872 [ザセツポンジュ]
寒い中、薄着で立っている
お母さんが
とても恋しくなったのだ。
必死で引き止めようとしてくれている
妹の姿が
とても愛おしく思えたのだ。
姉の目から
次第に涙がこぼれ落ちた。
自分の涙が、温かい事に
気づいた姉は、背を向けるのをやめた。
ずっと前から言いたい事は
たくさんあった。
だけど、今、一番言いたい事を、、、。
隣の犬も、おとなしくしている。
お父さんもお母さんも
妹も、
おねえちゃんの帰りを待ってる、、、。
:08/06/30 01:14
:PC
:3PmgDCPQ
#873 [ザセツポンジュ]
『、、、、ただいま。』
妹は姉に飛びついて行った。
『おかえりなさい。』
お父さんの手
お母さんの顔
妹の声。
帰りたい場所があると言うこと。
クリスマスの夜に。
:08/06/30 01:15
:PC
:3PmgDCPQ
#874 [ザセツポンジュ]
辺りの空気は冷たく、
吐く息はとても白かった。
最初に口を開いたのは、エノシタさん。
『今日はありがとう。あんな賑やかなオウチで、ジョウくんが羨ましいわ。楽しかったな〜。』
『え?それホントなの?こっちこそありがとう。そしてごめんなさい。相手するのも後始末も大変だけど良かったらいつでも遊びに来てね、エノシタさん、、、。』
:08/06/30 01:15
:PC
:3PmgDCPQ
#875 [ザセツポンジュ]
『フフフ。ジョウくんのお兄さん、呼びに行ったのに今日いなかったんでしょ?忙しい人なの?』
『ううん。にいちゃんホントどこ行ったんだろうな。普段は屋根裏部屋にこもって、いろんなものを創作してるんだ。そんでその作ったものを売ってる。』
『へぇ〜すごいね。器用なんだね。例えば何作ってるの?』
『服も縫っちゃうし、絵も描くし、パソコンで何か難しい事してるし、ギターもピアノもやるし、エヴァンゲリヲンマニアだし。何でも出来るオタクだよ。』
『多趣味なのね。ジョウくんは何か趣味あるの?』
:08/06/30 01:16
:PC
:3PmgDCPQ
#876 [ザセツポンジュ]
『ボクはね、、、、。』
(、、、。ないんだけど。得に。何でボクとにいちゃんはあんなに違うんだろうか。。。)
『音楽、、、は、よく聴くかな。』
『なに聴くの?』
『笠置シヅコさんとか〜、、、。』
(え?ボク何言ってんの?バカ?中3の女子相手に昭和のブギの女王の話して、どうするんだよ。)
:08/06/30 01:17
:PC
:3PmgDCPQ
#877 [ザセツポンジュ]
『知ってる!東京ブギウギとか買物ブギーの人でしょ!ちびまる子ちゃんの映画で見た事あるんだ〜。』
『えぇぇぇぇええぇ!!エノシタさん知ってるの!?うそ、いやぁぁホンッッッット、嬉しいんだけど!!』
尋常じゃないジョウの喜びように
エノシタさんは若干引いていた。
(こんなジョウくん見た事ないわ。。。)
:08/06/30 01:17
:PC
:3PmgDCPQ
#878 [ザセツポンジュ]
『あ、あとは、、、何聴いてるの?』
『あとはね〜ハイスタでしょ、ブルーハーツでしょ、倉橋ヨエコでしょ、ジュディマリでしょ、え〜とね〜、、、』
『ジョウくんごめん。全部知らない、、、。』
笠置シヅコさんの一件で、並々ならぬ
テンションアップをしてしまっていた
鈴木家の次男だったが、エノシタさんの一言で
自分の体調を通常値に急いで戻した。
『ハ、、ハハ。今度良かったら貸すよ。全部にいちゃんの私物なんだけどもね。』
『そっか。私、流行の歌とかに、うとくてさ。実は。』
:08/06/30 01:17
:PC
:3PmgDCPQ
#879 [ザセツポンジュ]
エノシタさんの、正直な答えを
ジョウは嬉しく思った。
『ボクもね、知らないんだよ。さっき言った人達も少し古いんだよ。いい歌は時代をピョンと飛び越えて来てくれるって、きーさんが言ってたんだ。あ!じゃあさ、エノシタさん学校の歌で好きな歌は何?』
エノシタさんは上を向いて考えた。
『あ。ある。ジョウくんはあるの?』
『あるよ、一番大好きなやつ。』
『じゃあさ、せーので言おうよ。』
:08/06/30 01:24
:PC
:3PmgDCPQ
#880 [ザセツポンジュ]
星がとてもキレイなクリスマス。
街灯の明かりはとても小さいけど、二人の真上に広がる夜空は
とてもとても明るかった。
“せーの”
『怪獣のバラード!』
『怪獣のバラード!』
二人は顔を見合わせて笑った。
星がとてもキレイなクリスマス。
街灯の明かりはとても小さいけど、二人の真上に広がる夜空は
とてもとても明るかった。
“せーの”
『怪獣のバラード!』
『怪獣のバラード!』
二人は顔を見合わせて笑った。
:08/06/30 01:26
:PC
:3PmgDCPQ
#881 [ザセツポンジュ]
:08/06/30 01:29
:PC
:3PmgDCPQ
#882 [ザセツポンジュ]
---------------
エノモトさんを送り終えたトミーは
人が隣にいなくなると
急に寒さを感じるものなんだと
痛感し、ポケットに手を突っ込んで
少し走った。
クシャ。
『あ。じーちゃんに1万円もらってたんだった。』
ケーキを買わなければいけない事に
気づいたトミーは
めんどくささを振り切り
ケーキの置いてある喫茶店まで
急いだ。
(さみぃさみぃ。)
:08/07/03 15:33
:PC
:l1y/MU3Q
#883 [ザセツポンジュ]
カランカラン。
『えーと、モンブランと、あとは適当に。5つほど、オススメで。』
トミーはガラスケースのケーキも見ずに
店員の顔を見てオーダーした。
店員はニッコリ笑った。
『かしこまりました。お客様、お待ちの方が、あちらのお席に。どうぞ。』
『は?』
トミーは店員の手の指す方向をゆっくりと辿った。
辿るうちに、大好きだった懐かしい匂いが
漂っている事に気づいた。
『え、、、、。』
:08/07/03 15:34
:PC
:l1y/MU3Q
#884 [ザセツポンジュ]
目をやった先には
自分が近年、葛藤し続けて来た
原因そのものが
椅子に座っている。
それはとても美しく
本来なら、飛びついてしまいたいほどの
事だったが、
トミーはそれを許してはいなかった。
顔を見る事もできず、
とりあえず席に座った。
『、、、、。』
何も話す事のできない自分。
喫茶店の暖房がよく効いている事だけは
分かった。
『トミオ。ケーキ食べる?』
トミーは相手の手だけを見つめ
首を横にふった。
:08/07/03 15:34
:PC
:l1y/MU3Q
#885 [ザセツポンジュ]
『元気、、、だった?』
『、、、。うん。分かるだろ見たら。』
『そうね、、、。あの、、、。怒ってる?』
『、、、。その質問、間違ってると思わないの?』
いつになく緊張して
顔をこわばらせているトミーは
列記とした14歳の少年なのだ。
『トミオは、何にも聞きたくないかもしれないけど、』
『聞きたくないよ、ホントに。何も。ってか何でいるの?どうせじーちゃんに頼まれたんだろ。』
:08/07/03 15:35
:PC
:l1y/MU3Q
#886 [ザセツポンジュ]
複雑な気持ちだけが
トミーに絡みついていた。
怒るにも怒れない。
笑うにも笑えない。
見るにも見れない。
そんな初めての気持ちと
緊張が、トミーを襲っていた。
『、、、。トミオ。』
その言葉にビクっとしたトミーは
顔をあげた。
そこには大好きな人が
困った笑顔を浮かべ
まっすぐにトミーを見つめていた。
『、、、。ごめんね。ママのこと、許してだなんて言わないわ。だけど、、、ごめんね。トミオ。』
トミーはテーブルにひじをついて
両手を頬にあてた。
ふくれっつらで
言葉もでないまま。
:08/07/03 15:36
:PC
:l1y/MU3Q
#887 [ザセツポンジュ]
<何も言わずに置いて行くなんて卑怯だ。
うそつき。
女なんてクズだ。
弱虫。
俺はへこたれない。
お前みたいに
無責任な事はしない人になる。
最低女。
どこかで
そう思って過ごしていなければ
寂しさで埋もれてしまうような
気がしてたまらなかった。
:08/07/03 15:36
:PC
:l1y/MU3Q
#888 [ザセツポンジュ]
ママが急にいなくなった。
じーちゃんは変な嘘をついて
ごまかしていた。
寝て起きて、寝て起きて
待っても待っても
ママがいない。
でもね、練習したんだ。
キレイに字をかけるように
目玉焼きも焼けるように
服もキチンとたためるように、、、。
じーちゃんと一緒に
練習したんだ。
ママが、帰って来たら
いや、帰って来るから
その時、書いた字を見せるんだ。
ママに褒めてもらうんだ。
ママがおなか減ったら
俺が目玉焼きを焼いてあげる。
ママの代わりに
俺が洗濯物もやってやるから
何にも心配しなくていいよ、ママ。
いつでも帰って来て大丈夫だよ
ママ、、、。>
:08/07/03 15:37
:PC
:l1y/MU3Q
#889 [ザセツポンジュ]
トミーは
頬にあてていた手で
顔を覆った。
『、、、。、、、うぅ。。。』
恨んでいた気持ちは
負けた。
14歳にもなって
涙でノックアウトだなんて
恥ずかしくてたまらない。
学校にも行けない。
誰かに見られたら困るし、、、。
それでもトミーは
ずっとためていた想いを
止める事ができなかったのだった。
:08/07/03 15:38
:PC
:l1y/MU3Q
#890 [ザセツポンジュ]
そして
きーさんが今も
きっと大事に持っているであろう
よい子ちゃんシールの事を
トミーは思い出しながら
こらえてもこらえきれない
涙を流し、声を押し殺した。
ママがいなくて淋しい時の、我慢した涙の分。
冷凍食品が多くて、ママの作ったご飯が食べたいなーと、泣きたくなった時の分。
みんながママとの出来事を楽しそうに話している時の、悲しい気持ちの分。
その分をひとつずつ
シールに代えていた
小学生の頃の自分。
:08/07/03 15:38
:PC
:l1y/MU3Q
#891 [ザセツポンジュ]
“男の子は泣かないのよ。”
と言っていたママの声が
頭を駆け巡った。
ママは、いい匂いのする手で
トミーの頭を撫でた。
自分の息子が
この年にして
いかに純粋かを目の当たりにし、
心を締め付けられると同時に
ホっとしていた。
トミーはいろんな想いを
外に出して、涙をふいた。
“むかつくけど、会いたかったんだ
ママに。”
『。。。ケーキ。。。食べるよ。』
『うん。。。。!』
ママはにっこり笑った。
トミーは鼻水をすすりながら、照れて
まだママの顔を見れないでいた。
:08/07/03 15:39
:PC
:l1y/MU3Q
#892 [ザセツポンジュ]
大好きな人に
裏切られたんじゃないかと
疑うこと。
それを受け入れなければ
いけないのかと
疑問を持つこと。
何かを信じて
“待つ”と言うこと。
クリスマスの夜に。
:08/07/03 15:39
:PC
:l1y/MU3Q
#893 [ザセツポンジュ]
:08/07/03 15:40
:PC
:l1y/MU3Q
#894 [我輩は匿名である]
あげ。
:08/07/05 19:23
:F906i
:r0G5r4Ls
#895 [ザセツポンジュ]
きーさんとすーさんは
鈴木家の床暖房にこたつに
日本酒くらって
いい気分。
『おい、きーさん。トミオちゃんは大丈夫かね。』
『大丈夫じゃ。ワシには分かる。シンイチロっちゃんこそ大丈夫かね。』
『ワシは関わっておらん。今日まで知らんかったんじゃ。おそらく六さんとこで飯でも食ったんじゃろ。あいつが自分で決めた事。大丈夫に決まっておる。』
:08/07/06 01:39
:PC
:JyF5mtcA
#896 [ザセツポンジュ]
きーさんはついにうとうとしだして
こう言った。
『ありがとうと、、、ごめんなさい。』
すーさんはきーさんを2度見、3度見した。
『いえいえ、どういたしまして。』
目をパチっと開けた
木田家の老人。62歳。
『お前な、ありがとうと言われるような事もしてなけりゃあ、謝られるような事態にも巻き込まれてないだろ、バカか。何がいえいえどういたしましてじゃ、全く。』
:08/07/06 01:39
:PC
:JyF5mtcA
#897 [ザセツポンジュ]
『いや、あるぞ。ワシはな、きーさんの企みにはシブシブ付き合っているし、時間も裂いておる。』
この町の
近所迷惑代表と言う事を
忘れて誇らしげな
鈴木家の老人。62歳。
『人はな、ごめんねと言われると許してしまう事もある。その言葉を一言聞きたかっただけなんじゃ。』
『きーさん、すまんな。』
『。。。。許そうと思った事もないわ。』
共に62歳の仕掛け職人は
2人して
コタツで眠りについた。
:08/07/06 01:40
:PC
:JyF5mtcA
#898 [ザセツポンジュ]
友達が
いると言う事。
ひとりでもいい。
友達が、ここに
いると言う事。
クリスマスの夜に。
:08/07/06 01:41
:PC
:JyF5mtcA
#899 [ザセツポンジュ]
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『真っ赤な〜太陽〜』
『沈む〜さぁばく〜に』
『おおき〜な怪獣が』
『の〜んびり暮らしてたっ。フフフ。』
怪獣のバラードを
変わりばんこに
口ずさみながら
夜道を歩く二人の少年少女。
ジョウは続けた。
『ある朝目〜覚めたら』
『遠〜くで〜キャラバンの』
『鈴の音聞〜こえたよ、お〜もわず叫んだよっ。』
『海が見〜たぁ〜い〜』
『人を〜。』
“人を愛したい、怪獣にも心はあるのさ。”
:08/07/06 01:41
:PC
:JyF5mtcA
#900 [ザセツポンジュ]
エノシタさんは止まった。
ジョウが次のフレーズを
歌う番だ。
(ひ〜と〜を〜あ〜いしたい、、、、。ボクにも心はあるんだよ。)
『あ、、、。』
ジョウは、足を止めた。
エノシタさんは、笑ってる。
『なんか恥ずかしいね。』
そう言ってエノシタさんは
歩き出した。
『エ、エノシタさん、あのね!』
ジョウの声に
驚いて振り向いた少女は
一瞬にして空気が変わるのが
分かった。
:08/07/06 01:43
:PC
:JyF5mtcA
#901 [ザセツポンジュ]
『あの!ボクね!、、、え〜と、、、。』
切り出したのはいいものの
緊張から
困惑するジョウジロウちゃん。
人のいいところを
見つけると言うこと。
人を好きになると
言うこと。
想いを
伝えると言うこと。
『エノシタさんのことね、結構前から好きでした、、、。』
クリスマスの夜に。
:08/07/06 01:44
:PC
:JyF5mtcA
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