クソガキジジイと少年」
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#851 [ザセツポンジュ]
『母さんは忙しそうか?』

『忙しそうだよ。帰って来るのも遅いしね。父さんはどうなの?』

父さんは、苦笑いして、こう答えたのだ。

『酒の量もだいぶ減ったな。ひとりきりだしな。会ってくれるのはお前だけだしな。』

オレは少し腹が立った。
何を聞いても腹は立つんだろうけど。
ちょっとした発言でもイラっとするんだろうけど。

父さんだけが、寂しいんじゃない。
自業自得なんだろ。

お前が家を出て行ったんだ。
酒を飲んで暴れて。
自分勝手に怒鳴って。
母さんを殴って。
じーちゃんを突き飛ばして。
ジョウジロウの話も聞かずに。
だけど、オレは。。。

⏰:08/06/18 13:26 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#852 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウはさ、毎日夜になると泣いてたよ。まだ小学校も低学年だったし。小さかったのに父さんと母さんの間割って入ってさ。ジョウジロウは強いと思うよ。オレは母さんにくっついていればいいと思ってたから。どっちかについている方が楽なのに、ジョウジロウはそれをしなかった。なのに父さんはジョウジロウの話を聞かなかった。オレもオレだけど。父さんも父さんだよ。』

いや、オレは今日
誰が一番悪かったと、
決めたかったわけじゃないのに。

父さんを責めに来たんじゃなかったのに。
掘り返して、父さんを悪者にしようと思っていたんじゃなかったのに。

今日は、
今日は、、、。
こんな空気にするつもりじゃなかったのに。

⏰:08/06/18 13:27 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#853 [ザセツポンジュ]
『悪かったな。母さんにも、ジョウジロウにも、、、、お前にもな。父さんな、ホントに悪かったと思ってるよ。』

違うんだ、父さん。
父さん、オレはね、
父さんが出て行って、ジョウジロウが泣く姿を見て
自分が情けなくなったよ。

オレの方がおにいさんなのに、
オレは何にもしなかった。

部屋に隠れて、耳を塞いでいるだけで。
オレには、二人の間に入る勇気なんてなかったし。

⏰:08/06/18 13:28 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#854 [ザセツポンジュ]
ジョウジロウはね、何も知らないんだ。
どっちについていればいいとか、分からないんだ。多分。
戦国時代のお話をいつも聞かせてくれたりしていた大好きな父さんと、
お弁当のおにぎりに、タコさんウインナーを入れてくれていた大好きな母さんが

いがみ合っているのを見ているのが
ただ、嫌だっただけなんだよ。

どっちがどうとか
そんなの思いつきもしてなかったんだよ。

泣きながら、何度も何度も
父さんと母さんの間に割り込んで
止めようとしていたんだ。

真ん中。
二人の真ん中に立って。

⏰:08/06/18 13:29 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#855 [ザセツポンジュ]
オレには、そんな気持ち、きっとなかったから。

いなくなって気付いたんだ。
父さんがいなくなって、オレは気付いたんだ。

父さん、父さんも
ひとりになって分かった事が
いっぱいあるんだろうね。

ひとりにならないと思い知れない事もあるんだろうけど
それに気付いて反省した時に、
もう戻せなくなってしまったものもあると言うこと。


クリスマスの夜に。

⏰:08/06/18 13:29 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#856 [ザセツポンジュ]
---------------------

学校一の可愛い女子を
見事自分の彼女として
獲得し、至福の時を過ごした
木田トミオ14歳。

クリスマスとエノモトさん15歳の
誕生日を存分に過ごした。
辺りはもう薄暗い。

『あたしもう帰らなくちゃ。』

『え〜もう帰るの〜。もう俺んち住んじゃえよ。風呂沸かそうぜ。』

と、無理な冗談こそ平気で言ってみるが、
トミーはエノモトさんの手を取った。

『おうちまで送ります。』

『うん!』

二人は手を繋いで、玄関を出た。

⏰:08/06/18 14:22 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#857 [ザセツポンジュ]
《ボケタレ!ワシの目玉焼きの方がよっぽど目玉らしいわ!》

《すーさんの目玉焼きは目玉じゃないわい!下手クソ!》

《も〜。。。じーちゃんもきーさんも無駄使いしないでよ、たまご!目玉焼き選手権なんてやめようよ、クリスマスに!》

《キャハハハ。》

何やら隣のオウチはにぎやかなご様子。

『隣の家うるさいね〜、エノモトさん。』

ガラガラガラ。

『空気が悪いわ!、、、あ!トミオ!どこへ行く!』

ぷ〜んと漂う卵の匂い。

『あの人知ってる?エノモトさん。』
『、、、。トミーのおじいちゃんでしょ。無視していいの?』

エノモトさんは、繋いだ手を気にしながら歩いた。
無視していいわけがあるまい。

⏰:08/06/18 14:23 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#858 [ザセツポンジュ]
ガチャ。

鈴木家の玄関から顔を出した老人二人のお出ましだ。

『おい!あっ!お前ら!セックスしていいと思ってんのか!』

すーさんは、繋いだ手を見るなり、近所迷惑スイッチをONにした。

『すーさんやめてよ。俺の可愛い可愛い彼女が困惑するだろ。セックスはしなかったよ。とても残念だよ。』

きーさんは、これ以上喋らせまいと、すーさんの口を塞いだ。

⏰:08/06/18 14:24 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#859 [ザセツポンジュ]
『トミオ!どこ方面に送るんじゃ!?』
『あっち。北公民館の方面。』
『そうか!その近くに喫茶店があっただろう!そこにケーキも売ってるから、ケーキを買って来い!モンブランと〜、、、あと適当に!必ずだぞ!ほれ、エノモトさんにもあったかいカフェオレ買ってあげなさい。』

トミーにも1万円を渡したきーさん。
かっこつけたいがために気前の良くなるクリスマス。

『ラッキ〜。』
『じゃあな、我が孫トミオよ。』

ガチャン。
すーさんを窒息死させる寸前で
老人達は家へ引っ込んだ。

『なんであたしの事知ってるの?』
『、、、あれ?ホントだ。なんでだろう?』

⏰:08/06/18 14:25 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#860 [ザセツポンジュ]
きーさんは、すーさんをリビングに放り投げ、
玄関の電話の前に立った。

きーさん。携帯電話を購入したのにも
関わらず、家に置き忘れ、人んちの家の電話を使用する。
老人とはそんなものだ。

『090の、、、え〜と、、、』

リビングからホフク前進でしかえしを試みているすーさん。

『おい、木田シゲル。モンブランモンブランって、糖尿病になって死んでしまえ。。。おや?どこに電話しとるんじゃ?』

『トミオの本命の彼女。』

『あぁそう。』

すーさんはそう言って素直に退散し、コタツに戻った。

『、、、もしもし?ワシじゃ。今すーさんちからかけておる。今どこにおるんじゃ?』

⏰:08/06/18 14:26 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#861 [ザセツポンジュ]
-----------------
エノモトさんちは少し遠かった。
二人はたわいもない話をしながら
ゆっくり歩いた。

『トミーはいつも音楽何聴いてるの?』
『え〜っとね〜、怪獣のバラード。』
『、、、。それって合唱曲でしょ。CD出てるの?』
『うん、出てる出てる。エノモトさんは?』
『あたし、ジュディマリ。』
『俺もジュディマリ好き〜。ジョウの兄ちゃんにCD借りた事あるんだ。小さな頃からとかね、KISSの温度とかいいよね。』
『ホント!?あたしは、おねーちゃんから教えてもらったの。あ、怪獣のバラードあたしも好きだよ。』

⏰:08/06/18 14:39 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#862 [ザセツポンジュ]
CDはおそらく持っていないだろうが、
木田トミオと言う生意気な少年。
怪獣のバラードと言う歌を
こよなく愛していた。

『でもさ〜怪獣のバラードを歌ったクラスが絶対優勝するじゃん。あれどうにかして欲しいよね〜、、、。あ、自販機。エノモトさん、おいで。』

あったかいカフェオレを飲みながら二人は進んで行った。
吐く息はとても白かった。

『もうすぐウチなの。あの、そこの犬がいるオウチの、、、。隣、、、、。』

エノモトさんの足が止まった。
トミーはエノモトさんの顔を覗き込んで
視線を辿った先、街灯の下に女の人が立っているのが見える。

『おねーちゃん!』

そう叫んでエノモトさんは、走って行く。
振り返ったエノモトさんに、トミーは笑って手を振った。

(会いたい人に会えてよかったね、エノモトさん。)

⏰:08/06/18 14:40 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#863 [ザセツポンジュ]
---------------------

ジョウは時計を見てハっとした。
ジジイ二人のドンチャン騒ぎに
付き合っている場合ではないのだ。

こともあろうかエノシタさんは
楽しそうにケタケタ笑っていた。

ジョウはこのままでは
エノシタさんが危ないと思い、
肩を叩いて現実世界へ引き戻した。

『エノシタさん!もう8時が来るよ!』

エノシタさんはやっとこさ
我に返り、帰り支度をした。

『エノシタさん、また目玉焼き選手権しようね〜』

酔っ払ったすーさんはとてもご機嫌。

『また遊びにおいで、エノシタさん。』

きーさんは、ここを自分ちだとでも思っているのだろうか。

ジョウとエノシタさんは、クリスマスと言う冬の道を歩き出した。

⏰:08/06/18 16:48 📱:PC 🆔:1u1mw9wo


#864 [ザセツポンジュ]
>>836-840
>>841
>>843-846
>>848-863
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/06/18 18:21 📱:PC 🆔:1u1mw9wo


#865 [ザセツポンジュ]
------------------
街灯の下で手を振る女の子。
街灯まで走る女の子。
二人は姉妹。

『おねーちゃん。。。』
『お誕生日おめでとう。はい、これプレゼント。私からがこっちで、この料理はバイト先の人から。』

二つのプレゼントを
妹に渡した姉は、
時計を見た。

『ありがとう。。。おねーちゃん。どこでバイトしてるの?』

『ん?料理のおいしいところでバイトしてるのよ。』

姉は、再び時計を見た。
予定は何もないのに。

⏰:08/06/30 01:11 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#866 [ザセツポンジュ]
『おねーちゃん、おうち入らないの?』

すぐさま帰ろうとしている姉の様子に気付き、
なんとか引きとめようとしている妹。

『今日はもう帰るよ。おめでとうって、言いに来ただけだったから。』

『一緒にケーキ食べようよ。。。帰って来てよおねーちゃん。』

姉は、困ったように笑い、首を横に振る。

ガチャ。

『遅いわねぇあの子。誕生日だって言うのに。』

エプロン姿のまんま、薄着で外に出て来た母親。
隣の家の犬が吠え出した。

『お母さん!おねーちゃん、おねーちゃんとケーキ食べたいんだけど!』

⏰:08/06/30 01:11 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#867 [ザセツポンジュ]
姉は、母親の姿を見た途端、
背を向けて口を閉ざした。

『あれ?お前いたのか。』

続いて玄関先まで出て来た父親は、
様子に気づき、妻の方へ近づいて行った。

そうして、もう一人の我が娘が
自分達に背を向けている事が分かったのだった。

家族は4人。
食卓を4人で囲むのが当たり前で、
普通の家庭だと、誰もが思っていた。

両親は、7つ、年の離れた妹を
とても可愛がっていた。
天真爛漫で、容姿も端麗だった妹を。

⏰:08/06/30 01:12 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#868 [ザセツポンジュ]
姉は次第に嫉妬して行った。
クリスマスに生まれた妹を
妬んでもいた。

置いてきぼをくらっているような生活が
何年も続いたが、
姉は、疑問をどこに、誰に、
ぶつけたらいいのかさえも分からなかった。

普通の家庭だと誰もが思っていた家庭に
口を閉ざした姉だけが、ポツリと食卓を囲む。

物静かな性格だったためか、
ちょっとした姉の変化に気づく者は、
いなかった。

⏰:08/06/30 01:12 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#869 [ザセツポンジュ]
お姉ちゃんはしっかりしてるから。
お姉ちゃんは心配いらないから。

妹は甘えん坊で可愛いから。
妹は手のかかる子だから。

(私はおねえちゃんだから。私はおねえちゃんだけど。だから何だって言うのよ。。。)


『お姉ちゃん。お母さんね、みんなの好きなケーキ買ってきてるの。』

『おねーちゃん。おうち、入ろうよ。。。』

母の言葉も、妹の言葉も
背中では受け止めているが、
まだ振り返る気には、なれないでいる姉。

何も語らないでいる姿を見かねて、
父親は、ゆっくり姉に近づいて行った。

そして、姉の肩に、手を
置いた。

⏰:08/06/30 01:12 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#870 [ザセツポンジュ]
『さみしい思いをさせていて、ごめんな。。。お姉ちゃん。帰っておいでよ。ね。今日は、クリスマスだから。』

お姉ちゃんは、
ちゃんと分かっていたのだ。

自分が、大きな大きな
意地を張って生きていると言うことを。

抵抗として、
沈黙と言う手段を選んでいたが、

相手に真意を
気づいてもらえにくいと言う事だって
分かっていた。

だけど、それでいて時は経ってしまい、
口に出す事が、日に日に困難になって行った。


溜め込んだものを吐き出すために
手にあざを作り、のどをかき回していた自分。

⏰:08/06/30 01:13 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#871 [ザセツポンジュ]
“私は何も語らないけど、そんな私の気持ちを察して、あなた達が考えて行動してください。”

は、とても無理な話なのだ。

相手の思惑は探る事が出来たとしても、
真意を掴む事なんて出来ない。

超能力者でもなんでもないんだから。

伝えるべき事は、
口に出して伝える。

それを苦手としている人もいるのだろうけど。

“もっと早く言えば良かった。
もっと私にもかまってと
甘えてみれば良かった。

⏰:08/06/30 01:13 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#872 [ザセツポンジュ]
寒い中、薄着で立っている
お母さんが
とても恋しくなったのだ。

必死で引き止めようとしてくれている
妹の姿が
とても愛おしく思えたのだ。

姉の目から
次第に涙がこぼれ落ちた。

自分の涙が、温かい事に
気づいた姉は、背を向けるのをやめた。

ずっと前から言いたい事は
たくさんあった。
だけど、今、一番言いたい事を、、、。

隣の犬も、おとなしくしている。

お父さんもお母さんも
妹も、

おねえちゃんの帰りを待ってる、、、。

⏰:08/06/30 01:14 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#873 [ザセツポンジュ]
『、、、、ただいま。』

妹は姉に飛びついて行った。

『おかえりなさい。』


お父さんの手
お母さんの顔
妹の声。


帰りたい場所があると言うこと。

クリスマスの夜に。

⏰:08/06/30 01:15 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#874 [ザセツポンジュ]
辺りの空気は冷たく、
吐く息はとても白かった。

最初に口を開いたのは、エノシタさん。

『今日はありがとう。あんな賑やかなオウチで、ジョウくんが羨ましいわ。楽しかったな〜。』
『え?それホントなの?こっちこそありがとう。そしてごめんなさい。相手するのも後始末も大変だけど良かったらいつでも遊びに来てね、エノシタさん、、、。』

⏰:08/06/30 01:15 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#875 [ザセツポンジュ]
『フフフ。ジョウくんのお兄さん、呼びに行ったのに今日いなかったんでしょ?忙しい人なの?』
『ううん。にいちゃんホントどこ行ったんだろうな。普段は屋根裏部屋にこもって、いろんなものを創作してるんだ。そんでその作ったものを売ってる。』
『へぇ〜すごいね。器用なんだね。例えば何作ってるの?』
『服も縫っちゃうし、絵も描くし、パソコンで何か難しい事してるし、ギターもピアノもやるし、エヴァンゲリヲンマニアだし。何でも出来るオタクだよ。』
『多趣味なのね。ジョウくんは何か趣味あるの?』

⏰:08/06/30 01:16 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#876 [ザセツポンジュ]
『ボクはね、、、、。』
(、、、。ないんだけど。得に。何でボクとにいちゃんはあんなに違うんだろうか。。。)

『音楽、、、は、よく聴くかな。』
『なに聴くの?』
『笠置シヅコさんとか〜、、、。』

(え?ボク何言ってんの?バカ?中3の女子相手に昭和のブギの女王の話して、どうするんだよ。)

⏰:08/06/30 01:17 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#877 [ザセツポンジュ]
『知ってる!東京ブギウギとか買物ブギーの人でしょ!ちびまる子ちゃんの映画で見た事あるんだ〜。』
『えぇぇぇぇええぇ!!エノシタさん知ってるの!?うそ、いやぁぁホンッッッット、嬉しいんだけど!!』

尋常じゃないジョウの喜びように
エノシタさんは若干引いていた。

(こんなジョウくん見た事ないわ。。。)

⏰:08/06/30 01:17 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#878 [ザセツポンジュ]
『あ、あとは、、、何聴いてるの?』
『あとはね〜ハイスタでしょ、ブルーハーツでしょ、倉橋ヨエコでしょ、ジュディマリでしょ、え〜とね〜、、、』

『ジョウくんごめん。全部知らない、、、。』

笠置シヅコさんの一件で、並々ならぬ
テンションアップをしてしまっていた
鈴木家の次男だったが、エノシタさんの一言で
自分の体調を通常値に急いで戻した。

『ハ、、ハハ。今度良かったら貸すよ。全部にいちゃんの私物なんだけどもね。』
『そっか。私、流行の歌とかに、うとくてさ。実は。』

⏰:08/06/30 01:17 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#879 [ザセツポンジュ]
エノシタさんの、正直な答えを
ジョウは嬉しく思った。

『ボクもね、知らないんだよ。さっき言った人達も少し古いんだよ。いい歌は時代をピョンと飛び越えて来てくれるって、きーさんが言ってたんだ。あ!じゃあさ、エノシタさん学校の歌で好きな歌は何?』

エノシタさんは上を向いて考えた。

『あ。ある。ジョウくんはあるの?』
『あるよ、一番大好きなやつ。』
『じゃあさ、せーので言おうよ。』

⏰:08/06/30 01:24 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#880 [ザセツポンジュ]
星がとてもキレイなクリスマス。
街灯の明かりはとても小さいけど、二人の真上に広がる夜空は
とてもとても明るかった。

“せーの”

『怪獣のバラード!』
『怪獣のバラード!』

二人は顔を見合わせて笑った。
















星がとてもキレイなクリスマス。
街灯の明かりはとても小さいけど、二人の真上に広がる夜空は
とてもとても明るかった。

“せーの”

『怪獣のバラード!』
『怪獣のバラード!』

二人は顔を見合わせて笑った。

⏰:08/06/30 01:26 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#881 [ザセツポンジュ]
>>865-880
ミスッタ...880
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/06/30 01:29 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#882 [ザセツポンジュ]
---------------
エノモトさんを送り終えたトミーは
人が隣にいなくなると
急に寒さを感じるものなんだと
痛感し、ポケットに手を突っ込んで
少し走った。

クシャ。

『あ。じーちゃんに1万円もらってたんだった。』

ケーキを買わなければいけない事に
気づいたトミーは
めんどくささを振り切り
ケーキの置いてある喫茶店まで
急いだ。

(さみぃさみぃ。)

⏰:08/07/03 15:33 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#883 [ザセツポンジュ]
カランカラン。

『えーと、モンブランと、あとは適当に。5つほど、オススメで。』

トミーはガラスケースのケーキも見ずに
店員の顔を見てオーダーした。

店員はニッコリ笑った。

『かしこまりました。お客様、お待ちの方が、あちらのお席に。どうぞ。』

『は?』

トミーは店員の手の指す方向をゆっくりと辿った。
辿るうちに、大好きだった懐かしい匂いが
漂っている事に気づいた。

『え、、、、。』

⏰:08/07/03 15:34 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#884 [ザセツポンジュ]
目をやった先には
自分が近年、葛藤し続けて来た
原因そのものが
椅子に座っている。

それはとても美しく
本来なら、飛びついてしまいたいほどの
事だったが、
トミーはそれを許してはいなかった。
顔を見る事もできず、
とりあえず席に座った。

『、、、、。』

何も話す事のできない自分。
喫茶店の暖房がよく効いている事だけは
分かった。


『トミオ。ケーキ食べる?』

トミーは相手の手だけを見つめ
首を横にふった。

⏰:08/07/03 15:34 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#885 [ザセツポンジュ]
『元気、、、だった?』

『、、、。うん。分かるだろ見たら。』

『そうね、、、。あの、、、。怒ってる?』

『、、、。その質問、間違ってると思わないの?』

いつになく緊張して
顔をこわばらせているトミーは
列記とした14歳の少年なのだ。

『トミオは、何にも聞きたくないかもしれないけど、』

『聞きたくないよ、ホントに。何も。ってか何でいるの?どうせじーちゃんに頼まれたんだろ。』

⏰:08/07/03 15:35 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#886 [ザセツポンジュ]
複雑な気持ちだけが
トミーに絡みついていた。
怒るにも怒れない。
笑うにも笑えない。
見るにも見れない。

そんな初めての気持ちと
緊張が、トミーを襲っていた。

『、、、。トミオ。』

その言葉にビクっとしたトミーは
顔をあげた。

そこには大好きな人が
困った笑顔を浮かべ
まっすぐにトミーを見つめていた。

『、、、。ごめんね。ママのこと、許してだなんて言わないわ。だけど、、、ごめんね。トミオ。』

トミーはテーブルにひじをついて
両手を頬にあてた。
ふくれっつらで
言葉もでないまま。

⏰:08/07/03 15:36 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#887 [ザセツポンジュ]
<何も言わずに置いて行くなんて卑怯だ。

うそつき。

女なんてクズだ。

弱虫。

俺はへこたれない。

お前みたいに
無責任な事はしない人になる。

最低女。

どこかで
そう思って過ごしていなければ
寂しさで埋もれてしまうような
気がしてたまらなかった。

⏰:08/07/03 15:36 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#888 [ザセツポンジュ]
ママが急にいなくなった。
じーちゃんは変な嘘をついて
ごまかしていた。

寝て起きて、寝て起きて
待っても待っても
ママがいない。

でもね、練習したんだ。
キレイに字をかけるように
目玉焼きも焼けるように
服もキチンとたためるように、、、。

じーちゃんと一緒に
練習したんだ。

ママが、帰って来たら
いや、帰って来るから

その時、書いた字を見せるんだ。
ママに褒めてもらうんだ。

ママがおなか減ったら
俺が目玉焼きを焼いてあげる。

ママの代わりに
俺が洗濯物もやってやるから

何にも心配しなくていいよ、ママ。

いつでも帰って来て大丈夫だよ
ママ、、、。>

⏰:08/07/03 15:37 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#889 [ザセツポンジュ]
トミーは
頬にあてていた手で
顔を覆った。


『、、、。、、、うぅ。。。』


恨んでいた気持ちは
負けた。

14歳にもなって
涙でノックアウトだなんて
恥ずかしくてたまらない。

学校にも行けない。

誰かに見られたら困るし、、、。

それでもトミーは
ずっとためていた想いを
止める事ができなかったのだった。

⏰:08/07/03 15:38 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#890 [ザセツポンジュ]
そして
きーさんが今も
きっと大事に持っているであろう
よい子ちゃんシールの事を
トミーは思い出しながら
こらえてもこらえきれない
涙を流し、声を押し殺した。

ママがいなくて淋しい時の、我慢した涙の分。
冷凍食品が多くて、ママの作ったご飯が食べたいなーと、泣きたくなった時の分。
みんながママとの出来事を楽しそうに話している時の、悲しい気持ちの分。
              
その分をひとつずつ
シールに代えていた
小学生の頃の自分。

⏰:08/07/03 15:38 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#891 [ザセツポンジュ]
“男の子は泣かないのよ。”

と言っていたママの声が
頭を駆け巡った。

ママは、いい匂いのする手で
トミーの頭を撫でた。
自分の息子が
この年にして
いかに純粋かを目の当たりにし、
心を締め付けられると同時に
ホっとしていた。

トミーはいろんな想いを
外に出して、涙をふいた。

“むかつくけど、会いたかったんだ
ママに。”




『。。。ケーキ。。。食べるよ。』

『うん。。。。!』




ママはにっこり笑った。
トミーは鼻水をすすりながら、照れて
まだママの顔を見れないでいた。

⏰:08/07/03 15:39 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#892 [ザセツポンジュ]
大好きな人に
裏切られたんじゃないかと
疑うこと。
それを受け入れなければ
いけないのかと
疑問を持つこと。

何かを信じて

“待つ”と言うこと。



クリスマスの夜に。

⏰:08/07/03 15:39 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#893 [ザセツポンジュ]
>>882-892
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/07/03 15:40 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#894 [我輩は匿名である]
あげ。

⏰:08/07/05 19:23 📱:F906i 🆔:r0G5r4Ls


#895 [ザセツポンジュ]
きーさんとすーさんは
鈴木家の床暖房にこたつに

日本酒くらって
いい気分。

『おい、きーさん。トミオちゃんは大丈夫かね。』

『大丈夫じゃ。ワシには分かる。シンイチロっちゃんこそ大丈夫かね。』

『ワシは関わっておらん。今日まで知らんかったんじゃ。おそらく六さんとこで飯でも食ったんじゃろ。あいつが自分で決めた事。大丈夫に決まっておる。』

⏰:08/07/06 01:39 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#896 [ザセツポンジュ]
きーさんはついにうとうとしだして
こう言った。

『ありがとうと、、、ごめんなさい。』

すーさんはきーさんを2度見、3度見した。

『いえいえ、どういたしまして。』

目をパチっと開けた
木田家の老人。62歳。

『お前な、ありがとうと言われるような事もしてなけりゃあ、謝られるような事態にも巻き込まれてないだろ、バカか。何がいえいえどういたしましてじゃ、全く。』

⏰:08/07/06 01:39 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#897 [ザセツポンジュ]
『いや、あるぞ。ワシはな、きーさんの企みにはシブシブ付き合っているし、時間も裂いておる。』

この町の
近所迷惑代表と言う事を
忘れて誇らしげな
鈴木家の老人。62歳。

『人はな、ごめんねと言われると許してしまう事もある。その言葉を一言聞きたかっただけなんじゃ。』

『きーさん、すまんな。』

『。。。。許そうと思った事もないわ。』

共に62歳の仕掛け職人は
2人して
コタツで眠りについた。

⏰:08/07/06 01:40 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#898 [ザセツポンジュ]
友達が
いると言う事。

ひとりでもいい。
友達が、ここに
いると言う事。

クリスマスの夜に。

⏰:08/07/06 01:41 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#899 [ザセツポンジュ]
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『真っ赤な〜太陽〜』

『沈む〜さぁばく〜に』

『おおき〜な怪獣が』

『の〜んびり暮らしてたっ。フフフ。』

怪獣のバラードを
変わりばんこに
口ずさみながら
夜道を歩く二人の少年少女。

ジョウは続けた。

『ある朝目〜覚めたら』

『遠〜くで〜キャラバンの』

『鈴の音聞〜こえたよ、お〜もわず叫んだよっ。』

『海が見〜たぁ〜い〜』

『人を〜。』



“人を愛したい、怪獣にも心はあるのさ。”

⏰:08/07/06 01:41 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#900 [ザセツポンジュ]
エノシタさんは止まった。
ジョウが次のフレーズを
歌う番だ。


(ひ〜と〜を〜あ〜いしたい、、、、。ボクにも心はあるんだよ。)


『あ、、、。』

ジョウは、足を止めた。
エノシタさんは、笑ってる。

『なんか恥ずかしいね。』

そう言ってエノシタさんは
歩き出した。

『エ、エノシタさん、あのね!』

ジョウの声に
驚いて振り向いた少女は
一瞬にして空気が変わるのが
分かった。

⏰:08/07/06 01:43 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


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