【コラボ企画】秋のラノベ祭り投下スレ【withイラスト板】
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#301 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:56 :P903i :LUmIhgZI
#302 [No.035◆vzApYZDoz6]
「イタズラとは違うのよ」
そう彼女は言って、今できあがったばかりのたこ焼きを口に運んだ。
ハフハフと口の中でたこ焼きを転がし、ちょうどいい熱さまで冷ましてから口を動かす。
「その気になればあんただってすぐに消せるわ。こんな見た目じゃ分からないでしょうけど」
それを言うなら俺だってそうだ。いやむしろ俺のが強いに決まってる。
だが、可哀想なので口には出さなかった。
かわりに俺もたこ焼きに爪楊枝を突き刺す。
以外と硬い、見た目より肉厚なようだ。
「狐っていう動物は古今東西様々な場面で出てきた。私は特に日本でね」
彼女は頬張っていたものを早々と燕下し、すぐに次のたこ焼きを口に入れる。
狐は猫舌ではないらしい。
「今回は、その連中が全員一堂に会するの」
全員ってことは多少、いや、多くの取材がいりそうだ。
彼女が3つめのたこ焼きに手をつけたので、つられて俺も2つめに口を運んだ。
残るたこ焼きはあと1つ。
「まぁ、メインは私になるんだけど、それもあなた次第ね。……そろそろ時間だ、じゃあ」
俺次第だと空気になってしまいそうな気がするが。
去っていく彼女を見送りながら、最後のたこ焼きを頬張った。
:08/11/03 20:57 :P903i :LUmIhgZI
#303 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 20:59 :P903i :LUmIhgZI
#304 [No.037(1/2)◆vzApYZDoz6]
子供の頃、何度も同じ夢を見た。
自分と同じくらいの女の子と遊ぶ夢。
知らない公園の砂場で、知らない家の庭で、知らないデパートの屋上で。
夢の中での彼女との遊びは、いつも楽しかった。
しかし、小学校に入って間もない頃を境に、ピタリと見なくなってしまった。
そしていつしかそんな夢を見ていた事も忘れ、何事もなく学生時代を送っていた。
ところが、高2になった最近に、またその夢を毎晩見るようになった。
夢の中の彼女はすっかり成長していた。
おっとりした仕草やセミロングの髪型は変わらないが、背丈も伸びてるし胸も膨らんでいる。
遊びの内容も追いかけっこやままごとなんかから、カラオケだったり買い物に行ったりと大人になっていた。
それを不思議に思いながらも少し楽しんでいたある日、父が転勤する事になった。
「さ、とうとうこの町ともお別れねー。しっかり目に焼き付けておきましょうか…」
「ああ…」
母さんと庭に立って、住み慣れた町並みに別れを告げる。
別に特別何かあるわけでもない、何の変哲もない住宅街だが、やはり自分が生まれ育った町にサヨナラするのは感慨深いものがあった。
:08/11/03 21:00 :P903i :LUmIhgZI
#305 [No.037(2/2)◆vzApYZDoz6]
こうして俺は片田舎から、都心部郊外の住宅街に引っ越した。
引っ越した住宅街は最近できたらしい。
ニュータウンとでも言うのだろうか、できたばかりの家やマンションが数多く建ち並んでいた。
新しい家は思ったよりデカイ。母さんの話では一人部屋を貰えるらしいので楽しみだ。
とりあえず必要最低限の荷物を運び込んでから、近所の挨拶回りをすることにした。
向かって左隣の家から始めて、最後の家、つまりぐるっと回って右隣の家まできた。
インターホンを押して、挨拶に来た旨を伝えると、俺のお隣さんになる人が出てきた。
「はーい、こんにちh」
「どうも、新しく越しt」
「「!!??」」
なんという事だろうか。
間違いない。
出てきたのは、夢で何度も見た彼女だった。
「マジかよ…」
「うそ…」
驚いて2人同時に呟く。
「ああああの、今日からよろしくおおおお願いします!!」
「こここちらこそ、よよよろしくね!!」
そして2人同時にカミカミのご挨拶。
互いに顔を見合わせて、また2人同時に小さく笑った。
やっべー、現物超カワイイ。
俺の人生始まったわ。
:08/11/03 21:11 :P903i :LUmIhgZI
#306 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:13 :P903i :LUmIhgZI
#307 [No.038(1/2)◆vzApYZDoz6]
夕刻の河川敷。
陽は地平線の向こうにどっぷりと浸かり、空は既に青黒くなっている。
つい先程までは橙色を反射し幻想的に光っていた川の水面は、不安感と焦燥感を掻き立てるような夜独特の深く暗い波を漂わせていた。
そんな川を傍目に、1人の少女とその後ろに隠れる少年が、異形の生物と対峙していた。
「我が言の葉を媒し言霊よ、その力を封する言弾となれ…『刺』!」
少女が手にする拳銃の銃口を下唇に当てる。
横笛を吹くかのようにふっと息を吐きかけると、銃口が鈍い光に覆われた。
すかさず銃を構え、引き鉄を引く。
撃ち出された光る銃弾は槍の先端へと姿を変えて、異形の生物の腹あたりに突き刺さった。
「ぎゃああああ!」
「まだ生きているか…言弾となれ、『斬』!」
再び息を吹きかけ、引き鉄を引く。
今度は光る刃となった銃弾が、異形の生物を両断した。
:08/11/03 21:15 :P903i :LUmIhgZI
#308 [No.038(2/2)◆vzApYZDoz6]
断末魔と共に、異形の生物は跡形もなく消えていく。
少女の脇に隠れていた少年が、少女を心配げに見上げた。
「なっちゃん…」
「大丈夫。怪我はない」
少女が小さく笑って頷き、銃を懐にしまい込む。
「まずは1匹、だな」
「本当に大丈夫なの?」
「怪我はない。見ていただろう?」
「じゃなくて…もう1匹倒しちゃったんだから、これから数えきれないくらいの悪魔を倒していかなくちゃならないんだよ?」
少女は少し目を伏せ、歩き出した。
「そうしないと、君は人間に戻れないんだろう?」
「でも…」
「大丈夫。これは私が決めた事だ。必ず、君を人間に戻す」
「なっちゃん…」
「さぁ、家に帰ろう」
少女は少年の頭を優しく撫でて、帰路を歩いた。
:08/11/03 21:15 :P903i :LUmIhgZI
#309 [◆vzApYZDoz6]
:08/11/03 21:21 :P903i :LUmIhgZI
#310 [No.040(1/3)◆vzApYZDoz6]
窓から見える桜の木を見下ろしながら、俺は何本目かも分からない煙草に火を付けた。
煙は吸わない。いや、吸う気にならない。
なら火をつけなければいいだろうと言われそうだが、長年吸ってきたせいで、煙草がないと口が落ち着かない。
「ははっ」
俺は自嘲気味に笑った。
禁煙である病室でも口にする程に依存した煙草が原因で、死を免れぬ病気になってしまうとは。
運命とは皮肉なものだ。
唯一の救いは、今年で5歳になる娘が毎日のように病室に来てくれる事。
いや、母親は事故で死に、父親も自業自得の病に冒され後を追おうとしている。
娘にとっては救いでも何でもないだろう。
本当に馬鹿で間抜けな父親だ。
口に加えた煙草が吸われることなくフィルター近くまで灰になった頃に、病室のドアが開いた。
「パパー!」
開くやいなや、娘が俺のベッドに駆け寄ってくる。
俺は灰を落とさないように注意しながら煙草を灰皿に押し付け、飛び付いてくる娘を抱き止めた。
「パパ、今日も来たよー!」
「ありがとう。お前はいい子だな」
娘をベッドに座らせ、頭を撫でてやる。
娘はへへへ、と無邪気に笑った。
:08/11/03 21:22 :P903i :LUmIhgZI
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