WHITE★CANDY
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#301 [ぎぶそん]
「…。」

彼女の一言で、二人の会話が一気に静まり返った。

妙な空気の流れの恥ずかしさから、お互いの顔を見れずにいる。

私たち、端から見たら恋人同士に見えるのかな…―

その状況について、隣に座る優平が困惑していないことを祈った。

⏰:09/02/17 01:51 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#302 [ぎぶそん]
「お二人さん、着いたわよ。」

祥華さんに言われて、顔を上げる。
車が走ってる間は、ずっと俯き加減のままでいた。

彼女がエンジンを止めた後、三人で車を降りる。

「…。」

ただっ広い車庫には、高級外車がずらりと並んでいた。
その中に、テレビや写真でしか見たことのないベンツの姿もあった。

⏰:09/02/17 05:38 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#303 [ぎぶそん]
祥華さんを先頭にして、校庭以上に広い庭を歩く。

歩く地面は、レンガが敷き詰められている。

庭はガーデニングの装飾が隅々まで行き届いていて、見事に美しい。
まるで中世のヨーロッパ時代にタイムスリップしたみたいだ。

歩く途中、丸い形をした噴水の横を通った。
大理石で造られたそれは、西洋風の庭にふさわしく洒落たものであった。

⏰:09/02/17 05:50 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#304 [ぎぶそん]
噴水のせせらぎに気を取られていると、紳士服を着た初老の男性が、前方からせわしなくやって来た。

そして休む間もなく、優平に向かって深くお辞儀をした。

「優平坊ちゃま、お帰りなさいませ。」

「ジィ。紹介するよ、友達の雨宮真希さん。」

「初めまして。」

会話の流れで、初老の男性に一礼をした。

⏰:09/02/17 06:00 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#305 [ぎぶそん]
「おぉ!貴女様が雨宮様でございますか。
坊ちゃまから、話はいつも聞いております。
想像以上にお美しい方で、誠に光栄でございまする。」

「ジィ!余計なこと言わなくていいから!」

優平に喋った内容を指摘され、焦る初老の男性。

その会話を聞いた祥華さんが、フフフッと口に手を当てながら笑う。

「あ、彼は使用人の沼木豊彦。
俺が小さい頃からここにいて、俺はずっとジィって呼んでるんだ。」

沼木さんが、もう一度私に頭を下げる。

大きく言えば、沼木さんも祥華さんと同じ役割の人間か。
桜井家に仕えてる使用人は、沢山いそうだ。

⏰:09/02/17 06:15 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#306 [ぎぶそん]
「ささっ。お二人共、早く家に上がって、ゆっくりとくつろいで下さい。」

沼木さんが私の荷物を代わりに持つと、先導するように私たちの前を歩く。

「ごめんね。こんな格好で。
もう少しいい格好してくれば良かった。」

今日の服装は自分でも頑張った方だが、優雅な桜井家の前では、からっきしシンプル過ぎる。

東吾兄の大学を初めて訪れた時に着た、花柄のワンピースが浮かんだ。
あいにく、あれは今回我が家に置いてきた。

「そんなことないよ!
充分、か、可愛いよ。」

優平が、首元をポリポリと掻く。

⏰:09/02/17 06:29 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#307 [ぎぶそん]
私たちは、本館と呼ばれる建物に入った。
ここは主に優平や、彼の家族が生活空間を営む場所らしい。

本館以外には使用人が寝泊まりする別館、優平のお父さんが趣味の絵画を描く為のアトリエなどが設けられているとか。

本館は庭以上にまた、その広さと豪勢さに呆気に取られることとなった。

2階優平の祖父が描かれた大きな肖像画が飾っており、その階へと螺旋階段が続いていた。

「お帰りなさいませ、優平坊ちゃま。」

「ただいま。」

優平が、数人と使用人と挨拶を交わす。

⏰:09/02/17 06:57 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#308 [ぎぶそん]
「あ、田辺さん。
シェフの宮島さんに、今日の夕飯はうんとご馳走を振る舞うように言っておいて。」

「分かりました。」

田辺さんと言う人が、そそくさとその場を離れる。

使用人、本館、別館、シェフ。

昔で言う所の貴族な生活を、同級生の優平はずっと送っていたのだ。

『優平は私たちと次元が違う』
一週間前の、エリの言葉を思い出した。

⏰:09/02/17 07:03 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#309 [ぎぶそん]
「今日はこの部屋で寝ていいから。」

優平に、3階の"空き部屋"と呼ばれる所に案内された。
そうは言っても、私の部屋より広くて、立派な造りをしていた。

「あら。優くんの部屋で、一緒におねんねすればいいじゃない。」

「…祥華さん!!」

学校ではクールな優平が、今日は珍しく何度も取り乱す。

祥華さんの言う冗談にもだんだんと慣れてきた私は、二人のやり取りを笑いながら見ていた。

⏰:09/02/17 07:18 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#310 [ぎぶそん]
「あっ、部屋に荷物置いたら、とりあえず噴水近くの庭で待ってて。」

それだけ言い残すと、優平は同じ階の自分の部屋へと駆けて行った。

「…真希ちゃん、だっけ?」

「はい。」

二人きりになった所で、祥華さんが私に話し掛けてきた。

⏰:09/02/17 07:25 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#311 [ぎぶそん]
「優くんのこと、頼んだわ。」

「え?」

「彼ね、中学時代は外での出来事なんか一言も話してくれなかったのに、
高校であなたたちと出会ってから、とても生き生きしてるの。
今日もあんな風に張り切っちゃって。」

「…はい。」

初めて知った、物静かな優平の気持ち。
それはきっと、私たち3人と同じ気持ちだ。

⏰:09/02/17 16:39 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#312 [ぎぶそん]
優平に言われたとおり、部屋に荷物を置いてから、庭の噴水近くに出向いた。

そのそばにテーブルとイスがあるのに気がついて、イスに腰掛けた。

「雨宮様、紅茶をどうぞ。」

使用人の男性が、気を利かせて飲み物を持って来てくれた。
白いティーカップに、熱い紅茶が注がれる。

「ありがとうございます。」

入れたばかりの紅茶は、高級感の漂う香りがした。

⏰:09/02/17 22:12 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#313 [ぎぶそん]
「お待たせ。」

紅茶を一口飲んでみた所で、優平が現れた。
何やら黒いケースを抱えている。

「練習し始めたのは中学の時からだけど、同級生に披露するのは初めてかな。」

腰を下ろした彼がケースから取り出したのは、バイオリンだった。

⏰:09/02/17 22:24 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#314 [ぎぶそん]
その場を立ち上がると、少し呼吸を整え、バイオリンを弾き始める優平。

彼が演奏した曲は、モーツァルトの「フィガロの結婚」だった。

巧みに弓を動かしながら、繊細なメロディーを奏でる。

学校では決して見せてはくれない、御曹司としての姿。
私はただ、彼の悠然な姿に見とれていた。

⏰:09/02/17 22:37 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#315 [ぎぶそん]
5分くらい経った後、演奏が終わった。

「…最後ちょっと間違えちゃった。」

彼が照れ隠しのような笑みを浮かべる。

私はイスに座ったまま、大きな拍手をした。

「かっこよかったよ。」

彼が陰で"王子"と呼ばれる理由が、今は理解できるかも知れない。

⏰:09/02/17 22:44 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#316 [ぎぶそん]
「優平はいつも、家で何をして時間を過ごしてるの?」

「えっ?課題済ませて、予習して、テレビ観て、風呂入って…普通だよ、普通。」

「そう。今日は家での優平の様子が知りたいな。」

「えぇっ!?何かそう言われると、無駄に緊張するなー。」

イスから垂らした両足をプラプラさせながら、彼のはにかんだ笑顔を眺めていた。

⏰:09/02/18 00:37 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#317 [ぎぶそん]
また本館に戻ると、2階の洋室に案内された。

優平がリモコンで操作すると、ソファーの前に映画館で見るようなスクリーンが降りてきた。

「好きなの選んでいいよ!
ごめん、俺ん家、恋愛物はないんだ。」

優平が、棚からDVDボックスを取り出してきた。
色んなジャンルのDVDが入ってる。

「これがいい。」

その中から、1枚を抜き取った。

「『バトル・シアター』?また過激なのにしたな!」

⏰:09/02/18 00:51 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#318 [ぎぶそん]
「坊ちゃま、雨宮様、お菓子をここに置いておきます。」

またもや使用人の男性が、ハーブティーと焼きたてのクッキーを持って来てくれた。
ソファーの前のテーブルに、2人分にして並べる。

そして退室する前に、部屋の電気を暗くしてくれた。

「これ、コーラとポップコーンの代わりだね。」

「アハハ。面白いこと言うなぁ。」

無料の映画鑑賞は、いたせりつくせりであった。

⏰:09/02/18 01:04 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#319 [ぎぶそん]
「…。」

目を開けた時、エンドロールが流れていた。

確か、主人公が生き残りの戦士として目覚めて…。
その後はすっかり、眠りに就いてしまったようだ。

部屋が暗かったことと、桜井家に着いてからやっと緊張感から少し解放されたことから、安心しきって一眠りしてしまった。

⏰:09/02/18 09:13 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#320 [ぎぶそん]
「あ、起きた?」

隣に座る優平が、顔をこちら側に向けた。

「ごめん。途中ですっかり寝ちゃったみたい。」

「アハハ。気持ち良さそうに寝てたから、無理に起こさなかった。
続きが気になるんだったら、またいつでも同じDVD観ていいから。」

⏰:09/02/18 09:19 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#321 [ぎぶそん]
夕方―

「優平坊ちゃま、食事のご用意が出来ました。」

「お、もうそんな時間?」

新人の使用人の男性を交えてTVゲームをしていると、沼木さんが報告しに来た。

「よーし、続きはまた今度。」

熱中していたゲームを中断する。

⏰:09/02/18 09:26 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#322 [ぎぶそん]
それまでいた洋室を出て、1階の食堂に足を運んだ。

白いテーブルクロスが掛けられた長机に、豪勢な食事が無数に並んでいる。

「遠慮せず好きなの食べていいよ。」

二十人は同席できる食事の席に着いてるのは、私と優平だけであった。

高級レストランに出向いたようなパスタ、伊勢海老の姿焼き、ローストチキン。

何から手をつけていいのだろうと、頭を悩ます私。

⏰:09/02/18 09:42 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#323 [ぎぶそん]
「雨宮様、お口に合わなかったら何なりと申して下さい。」

料理を作ったシェフの宮島さんという人が、私に一言話し掛けてきた。

「全然そんなことないです。どれも美味し過ぎるほど美味しいです。」

一先ず、普段食べられそうにないものから積極的に食べた。
一気に舌が肥えそうだ。

隣では、慣れた手つきでナイフとフォークを扱う優平。
テーブルマナーは、自然に完璧にこなしている。

⏰:09/02/18 09:50 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#324 [ぎぶそん]
「…優平って、カップ麺とか食べたことある?」

ご馳走に囲まれた食卓の中で、こんな質問をしてみた。

「元基ん家に泊まった次の日に出されたから、その時初めて食べたよ。」

「あはは。あいつももっと、気の利いたものを出せばいいのに。」

まあ、らしいと言えばそうであるかな。

「ううん。なかなか美味しかった。また食べたいと思ってる。」

⏰:09/02/18 09:56 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#325 [ぎぶそん]
「だったら今度、うちの近所にある『保ラーメン』に連れて行ってあげるよ。
美味しいって凄く評判なんだ。」

「本当に?楽しみ。」

「うん。今日招待してくれたお礼。」

"真希ちゃん、遂にボーイフレンドが出来たのかい?"と屈託のない保おじさんの笑顔が浮かぶ。

⏰:09/02/18 10:03 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#326 [ぎぶそん]
最後に口直しにデザートの特製杏仁豆腐を食べ、片付けられた席の前で、二人でゆっくりと雑談を始めた。

「今日はこんな豪華なフルコースを振る舞ってくれて有り難うね。
お父さんや東吾兄にも食べさせたら、喜んだだろうな。」

今日来るはずだったエリと元基も、今頃一緒にいればきっと舌が唸っていただろうな。

「宮島さんが心を込めてくれて作ってるから、その分美味しいんだろうね。」

「うん、そうだね。
…優平は、お母さんの手料理は食べたことないの?」

⏰:09/02/18 10:15 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#327 [ぎぶそん]
「うーん、数え切れるほどしかないかなぁ。
運動会の時に、お昼に弁当を作ってくれたのが最後かな?」

「…そうなんだ。」

「なかなか忙しいみたいだから。親父の右腕としてさ。」

「…。」

そう晴れやかに笑う優平の姿を、直視できなかった。

⏰:09/02/18 10:22 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#328 [ぎぶそん]
夜、敷地内に設置された露天風呂を、祥華さんと一緒に入ることになった。

祥華さんが全身を包み隠さずさらけ出すので、その抜群プロポーションに、同性ながら少しドキドキする。

「どうかしら?初めて訪れた桜井家は。」

「お陰さまで、楽しいです。」

「優くんのような人と一緒にいたら、毎日がお姫様気分ね。」

⏰:09/02/18 10:47 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#329 [ぎぶそん]
「…優平がどう思ってるかは分からないけど、私は少なくとも彼を一人の男性として見ています。」

「それで?」

祥華さんがにこやかに、理解しているような目つきを私に送る。

「でも、今日ここに来て、正直少し距離を感じてしまいました…。
住んでる世界があまりにも違いすぎて…。」

今日の私は優平のファンの子たちから見れば、この上ない幸せの中にいるのだろうか。

⏰:09/02/18 10:57 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#330 [ぎぶそん]
「ウフフ。それでいいと思うわよ。心から優平のことを見ているからこそ、そうやって悩むと思うわ。」

「え?」

「でも、これからも見る目を変えてあげないでいてね。
彼、こんな必要以上の贅沢に囲まれた環境の中、あんなに健気に真っすぐと育ったのよ。」

「はい。」

優平は大切な友達であり、一人の大切な人に変わりはない。

祥華さんに打ち明けてみて、改めて気づかされた大事なこと。

「ありがとうございます、祥華さん。」

⏰:09/02/18 11:07 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#331 [ぎぶそん]
風呂上がり、優平の部屋を訪ねてみた。

30畳の広々した洋室に、堂々と置いてあるピアノ。

ダブルベッドより大きなベッドは、どんなに寝返っても落ちたりしなさそうだ。

ワックスで綺麗にコーティングされた、ピカピカの白い床を歩く。

⏰:09/02/18 17:31 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#332 [ぎぶそん]
二人でベランダに出て、少し欠けた月を眺める。
夏の夜風が、風呂上がりのポカポカとした体に気持ちよく当たる。

「…真希はさ、どういう時自分の幸せを感じる?」

「え?うーん…。
色々あるよ。推理小説のトリックが何となく解った時。東吾兄にTVゲームで勝った時。数学の難しい問題が解けた時。」

「あはは。真希らしいな。」

⏰:09/02/18 17:41 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#333 [ぎぶそん]
「俺ね、正直毎日の生活の中で、何かに困ったり不自由したことはない。」

「うん。」

そうだろうな、と思う。

「でも、いつも何かがしっくり来ないんだ。
俺って、相当な我が儘だよな。
皆こんなに良くしてくれるのに。」

「…。」

⏰:09/02/18 17:49 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#334 [ぎぶそん]
「俺、幼稚園から中学まで、私立のエスカレーター式の学校に行ってたんだ。

でも、どこか周りと馴染めなくてさ、高校は親父に無理言って、公立の学校に通わせてもらうことにしてもらった。」

「少しだけエリから聞いたことある。」

「元基と初めて話した時のこと、今でも覚えてる。

高校入りたての時、部活見学で隣にあいつがいてさ。
"美味しい棒の味を知らないなんて、お前人生損してるぞ!"って豪語されて、俺そんな時代遅れの中にいたのかー、って。」

「元基ってば、そんなこと言ったの?本当ウケるね。」

⏰:09/02/18 18:04 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#335 [ぎぶそん]
「それでその後、コンビニに行って、2人で美味しい棒を買ったんだ。
1本10円なんて思えないほどうまかった。」

「"美味しい棒"、だしね。」

「それから、元基といると楽しいなって思うようになって、あいつの後に着いていくようになったかな。

あいつは俺が知らない沢山の面白いことを、まるで手品の種を明かすかのようにもったいぶらず教えてくれるんだ。」

「ちっちゃい頃はがき大将だったみたいだしね。」

⏰:09/02/18 18:11 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#336 [ぎぶそん]
「それである日、あいつ数人の女子に、"桜井くんはお金持ちのお坊ちゃんなんだから、下品なこと吹き込んだらダメよ"って言われたことがあって。

そしたらあいつ、"家柄とか関係なく付き合うのが男同士の付き合いだー"って言い返してさ。
ああ、友達ってこういうもんなんだ、ってその時思った。」

「うん、うん。」

"少し馬鹿な所があるけど、絶対にいい奴です"

元基のことを誰かに説明するならば、私はきっとこう言うだろう。

⏰:09/02/18 18:20 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#337 [ぎぶそん]
「次第にあいつがエリと付き合うようになって、"また自分に似た、活発な子を好きになったなぁ"って、あの時は思ったなぁ。」

「本当、あの二人は似た者同士だ。」

今頃、仲良くやってるのかな。

「それで、エリが真希を連れてきて…、正直、初めて接した時の第一印象は"何かすげーバリアはってそう"だった気がする。」

「よく言われるから平気。」

自分では、あまり意識はないのだけど。

⏰:09/02/18 18:30 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#338 [ぎぶそん]
「…真希さ、確か従姉妹の幼稚園生がいるよな?」

「うん。お母さんの妹さんの子供のこと?」

「俺、いつかの夕方、真希がその子と手を繋いで歩いてるのをたまたま見たんだ。」

「そうだね、叔母さんが急用になった時なんかは、代わりに幼稚園まで迎えに行ってたりしたことがあるよ。」

⏰:09/02/18 18:46 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#339 [ぎぶそん]
「歩く道の途中で、真希がその子にアイスを買ってやっててさ。
その時ちらっと見えた横顔が…どう表現していいのかは分からないけど、凄く綺麗だった。」

「えぇっ!?錯覚かなんかじゃないの?」

彼があんまり真面目な顔でそんなことをいうので、私は笑ってみせた。

「…その数日後、今度は放課後事務員さんと花壇の手入れしてるのを目撃したんだ。
"何だ、普通にいい子じゃん"って。
さすが元基が好きになった子の友達ではあるなって。」

「…。」

そんな所まで見られてたんだ。

⏰:09/02/18 19:08 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#340 [ぎぶそん]
「真希のお母さんが、真希が物心つく前に亡くなったって聞いた時、俺が何かその分の心の溝を埋められたら…って思った。」

「優平…。」

「何だろう。元基やエリの笑った顔も大好きだけど、その中で真希が笑ってくれた時が、俺にとって何よりも嬉しい瞬間なんだ。」

「…ありがとう。」

少しばかり、涙ぐみそうになった。

⏰:09/02/18 19:18 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#341 [ぎぶそん]
「…私ね、この間初めて恋愛小説を借りたの。」

今度は、私から話を持ち掛けた。

「その中にね、主人公の女の人が、好きになった男性と初めて出会った時のことを、まるで四つ葉のクローバーを見つけた時と同じような気持ちだ、って表現してた部分があった。」

「うん。」

⏰:09/02/18 19:23 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#342 [ぎぶそん]
「私にとって、優平がそう。最近じゃ、ただこうして一緒に過ごしてるだけで、私にとって幸福な時間が流れてる。

お父さんや東吾兄、エリや元基たちといる時とはまた違う温かい感情を、優平は私に与えてくれるんだ。」

ねぇ、お母さん…。
お母さんは私を目の前のこの人と出会わせる為に、私を産んでくれたの?―

少なくとも今は、そう思うよ。

⏰:09/02/18 19:39 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#343 [ぎぶそん]
数日後、私は桜井家から帰って来た。

祥華さんや沼木さんを始めとした使用人の方たちに、何度も感謝の気持ちを述べた。

夢のような時間をありがとうと、優平をここまで立派に世話してくれてありがとうと。

数日の間、普段の日常では到底成し得ないような、セレブリティな生活を送った。
でも、優平とただ二人で佇んでた時が、一番心が満たされていた。

⏰:09/02/18 19:47 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#344 [ぎぶそん]
日曜日の昼下がり、エリとファミリーレストランで一緒に食事を取ることになった。

「どうだったー、初めての桜井家は?二人きりの方がいいと思って、私たち敢えて行かないことににしたの。
まあ、結果騙す形になっちゃったのは謝るね。」

エリが、"申し訳ない"のポーズを取る。

「ううん。そのお陰で、何か優平に近づけた感じ。」

二人の優しさを、私は汲み取った。

⏰:09/02/18 19:56 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#345 [ぎぶそん]
「ねぇ、エリはさ、どういう時自分の幸せを感じる?」

優平に尋ねられたことを、今度はエリに聞いてみた。

「えぇー?
そうねぇ、元基が珍しく何か奢ってくれた時とか、頭髪検査を上手くくぐり抜けられた時とか、新しく買ったマスカラが、思った以上にボリュームがあった時とか。」

「あはは。エリらしいね。」

⏰:09/02/18 20:03 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#346 [ぎぶそん]
「じゃあ、真希は?」

「…私はね、幸せを感じる瞬間って生きてる内で数え切れないほどあるけど、最近特に一番それを感じたのは…。」

そう。
自分が好きである人に、自分の気持ちが届いた時。

その上、相手も自分と全く同じ気持ちであった時。

私と優平はあの晩、あれから手を繋いだままずっと、一晩中語り明かしてたんだ。

エリも元基と付き合うようになった時、こんな気持ちだったのかな?

あの日、私たちの心の距離は、限りなくゼロに近づいていた。

Chapter04 END.―

⏰:09/02/18 20:12 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#347 [ぎぶそん]
Chapter05
「生きるということ」

⏰:09/02/25 22:37 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#348 [ぎぶそん]
蝉たちの鳴き声が消えかかる頃、夏休みも終了し、二学期が始まった。

久しぶりに対面するクラスの皆。
少し日焼けした肌の色以外は、皆の様子はあまり変わっていない。

「それ本当?松田。」

「ああ間違いない!てっしーが見たこともない生徒と一緒に居たんだ。きっと転校生だよ!」

夏休みボケも覚めてきた数週間後、朝教室に入るや否や、何やらエリたちが集まって騒いでいるのが見えた。

⏰:09/02/25 22:46 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#349 [ぎぶそん]
「どうしたの?何かあった?」

自分の席にカバンを置くより先に、まずエリたちに声を掛けてみた。

「ああ、真希。
もしかしたら今日、うちのクラスに転校生がやって来るかも知れないって。」

「え?」

エリの話によると、担任の手島先生が、うちのクラスにいない子と職員室から出て来るのを、クラスメートの男子が目撃したらしい。
その子は女子生徒だったという。

⏰:09/02/25 22:53 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#350 [ぎぶそん]
「おい松田、その子どんな感じだった?」

「さあ、俺が見たのは後ろ姿だったから、よく分かんなかった…。」

「俺、どうせだったら可愛い子がいいなぁ。」

「やめとけやめとけ。昔から転校生ってもんは、期待ハズレが関目の山さ。」

「ま、それもそうだよなぁ。」

色々と言葉を交わす男子たち。

⏰:09/02/25 22:59 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#351 [ぎぶそん]
チャイムが鳴り、朝自習の時間が始まっても、転校生かも知れないという子のことを考えていた。

一学期も終わり、クラス内では既に各々のグループが固定化されている。

男子も女子も分け隔てなく仲が良いのがうちのクラスの特色だけど、新しくどこかのグループに入るというのは、そうすぐにはいかないだろう。

本当に転校生が現れた時は、積極的に声を掛けてみよう。
誰だって、独りは寂しい。

⏰:09/02/25 23:07 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#352 [ぎぶそん]
朝自習が済んでから十分後、手島先生がドアを開け、教室へとやって来た。

同時に、クラス内のざわつきがピタリとなくなる。

先生が教壇へと歩く度、小さくパタパタと鳴るスリッパの音。

「あー、今日は朝のホームルームを始める前に、皆に是非とも紹介したい人がいる。
君、入って来てくれたまえ。」

先生の指示と共に、ドアの付近に立っていた女子生徒が教室に入って来た。

⏰:09/02/25 23:17 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#353 [ぎぶそん]
「今日から皆と同じクラスになった、村上弥生さんだ。
皆、仲良くするんだぞ。」

「初めまして、村上といいます。皆さんよろしくお願いします。」

女の子らしい高い声で挨拶をしてから、頭を下げる転校生。

彼女の登場によって、教室内が小さくどよめく。

身長や体格はエリに似ていて小柄ではあるが、どこか落ち着いている。

見た目は愛嬌もなく無愛想でもない、クールな感じであった。

⏰:09/02/25 23:27 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#354 [ぎぶそん]
「山崎、ブスがやって来たどころか、普通に美少女じゃん!」

「ハハハ、ごめんごめん。」

「転校する前はどこに住んでたのー?」

「ねぇ、村上さん。お昼は私たちと一緒に食べましょう?」

休み時間になった途端、村上さんの周りを皆が取り囲む。
クラス内が、いつも以上に賑やかになる。

⏰:09/02/25 23:32 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#355 [ぎぶそん]
「あーあ。男子ってば、可愛い子が来たからってデレデレしちゃってー。」

「自分のクラスに転校生がやって来るっていうのは、生まれて初めてかな。」

皆の転校生が訪れた喜びようを、窓側でエリと二人で傍観する。

それにしても転校生の村上さん、どこか陰があるように思えるのは、気のせいかな…―

⏰:09/02/25 23:38 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#356 [ぎぶそん]
放課後、エリと職員室を利用し、教室に戻ってみると、村上さんが教科書をカバンに詰めていた。

「村上さん、一人?
良かったら、私たちと一緒に帰らない?」

彼女の元に行き、積極的に話し掛けるエリ。

「えっと…。」

「私は長谷部エリ。エリでいいよ!
こっちは雨宮真希。同じクラスだし、何かあった時は言ってね。」

そこで初めて自己紹介をした。

⏰:09/03/23 22:09 📱:SH705i 🆔:akN.NqpQ


#357 [ぎぶそん]
「ねえねえ、コンビニでアイス買わない?」

雑談をしながら、三人で教室を後にする。
主にエリが話題を出す。

「…あ!」

階段を下りようとした所で、部活へと向かおうとする優平と遭遇した。
彼のショルダーバッグに着けてあるキーホルダーが、小さく揺れる。

「今帰り?」

「うん。」

彼と視線を合わせるだけで、不用意に胸の心拍数が上がる。

⏰:09/03/23 22:18 📱:SH705i 🆔:akN.NqpQ


#358 [ぎぶそん]
「えっと…。」

優平が、初見の村上さんを不思議そうに見つめる。

「あ!彼女は今日うちの学校に転校してきた、村上弥生さん!」

彼の態度を察知すると、エリが説明をする。

「へえ、そうなんだ。初めまして。」

「優平、真希から村上さんに乗り換えたら承知しないんだからねっ!」

「えっ!!」

エリの台詞に、私と優平は二人して照れた。
私たちの関係って、一体どんなものなのかな…―

⏰:09/03/23 22:25 📱:SH705i 🆔:akN.NqpQ


#359 [さや]
待ってました

⏰:09/03/26 15:07 📱:F905i 🆔:GreNRE2o


#360 [ぎぶそん]
>さやさん

返事遅くなりました。
コメント有り難うございます!

最後まで書き上げるので、良ろしければお付き合いよろしくお願いします(^-^)

⏰:09/04/02 08:44 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#361 [ぎぶそん]
三人で学校近くのコンビニでアイスを買い、店の前にあるベンチに座ってさっそく食べた。

「あっ、いっけなーい、おつかい頼まれてるんだった。」

エリがクレープのアイスを食べ終えてすぐ、たった今用事を思い出したように慌てた声を出した。

「じゃあ二人とも、また明日ね。」

ケラケラとした表情で私と村上さんにさよならを告げ、自宅の方向へと駆けて行く。

エリはいつもこうだ。
こちらが飽きることがない位、コロコロと行動パターンが変わる。
まあ、彼女のそんな所が好きなのだけど。

青いベンチに、一人分だけスペースが空く。
私と村上さんの、二人きりになった。

⏰:09/04/02 09:03 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#362 [ぎぶそん]
エリが去った後は、その場が一気に沈黙となった。
お互い、話題を積極的に出す性格ではなさそうだし。

こんな時、どうしたらいいのだろう。
こんな時は、エリや元基の性格が羨ましくなる。

「…さっき廊下で会った人、真希ちゃんのボーイフレンド?」

場のやり方について戸惑っていると、村上さんが口を開いた。

⏰:09/04/02 12:34 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#363 [ぎぶそん]
「えっ…違うよ。」

彼女の思わぬ質問に、とっさに否定をした。
それと同時に、さっそく"真希ちゃん"と呼んでくれたことが、くすぐったかった。

「そうなんだ。アタシにはお似合いに見えたのにな。」

「…正直言うと、私は彼のことが好きだよ。
でも、向こうはどうだか。」

私と優平の関係って、いうなれば友達以上恋人未満って奴かな?

手持ち無沙汰かのように、ぶら下がってる両足をパタパタさせた。

⏰:09/04/02 13:03 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#364 [ぎぶそん]
「…アタシ、この歳でまだ誰かに恋したことがないんだぁ。」

彼女がボソッと呟く。
俯いて両手でアイスの袋をいじっている。

「私も、人を好きになったのは優平が初めてだよ。
それも、つい最近。」

「…でもね、今まで結構な男の人と寝てきたの。
ふふふ、変な話でしょう?」

「えっ…。」

話を始めてまだ数分、彼女が唐突に"そういう話"を持ち掛けた。
口元は緩んでいたが、目は笑っていなかった。

清楚な見た目とは裏腹に、中身は大胆な子なのかも知れない。

⏰:09/04/02 13:30 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#365 [ぎぶそん]
「アタシ、望まれて生まれて来た訳じゃないらしいの。
ううん、どちらかと言うと、生まれて来て欲しくなかったみたい。

両親はすぐに離婚。
今はパパ一人でアタシを養ってる。

そんなアタシを男たちが求めてくるのが、滑稽に見えて仕方がないんだぁ。」

「…。」

突然の彼女の話に、言葉が出なかった。
余計なことを言って、傷つけるのも避けたかった。

「あ、こういう話、もしかして苦手だったかな?
大人しいフリしてんのが窮屈でさ、つい話しちゃった。」

先程の帰り際のエリのように、ケラケラと笑う彼女。
でもそれは明らかに、ダークな雰囲気に包まれていた。

⏰:09/04/02 13:56 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#366 [ぎぶそん]
「真希ちゃんには幸せになって欲しいなー。
真希ちゃんみたいに落ち着いてる子、アタシ好きなの。」

そう言い終えると、彼女はサッと足を組んだ。
その仕草だけで、不思議と一気に大人びた感じになった。

「そんな、私たち同い年じゃない。村…弥生ちゃんもまだまだこれからだよ。」

「アタシ、もう汚れてるし。」

ハァとため息をつきながら、頬杖をつく彼女。
その切なそうな表情を、夕焼けがオレンジに染める。

⏰:09/04/02 18:11 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#367 [ぎぶそん]
「…私のお母さん、小さい頃に死んじゃってさ、それからずっと父親と二人暮らししてた。

そんな環境を不幸とは思わないけど、生前のお母さんに会いたいと思うことは何度もあるよ。

うん、やっぱり寂しいよ。お母さんがいないのは。」
普段、誰にも告げない思い。
自然と拳に力が入る。

「ふふふ。別にいいよ、アタシのこと慰めなくても。」

「弥生ちゃんのお母さん、きっとどこかで毎日弥生ちゃんのこと想ってるよ。

どんな母親だって、腹を痛めて産んだ子はかけがえのない存在だよ。

私のお母さんも、空から毎日私のことを想ってくれている。」

お母さんの居る、空を仰いだ。

⏰:09/04/02 18:23 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#368 [ぎぶそん]
「それと今はね、大学生の居候がいるんだ。
賑やかでせわしない人だけど、本当のお兄ちゃんのように思ってる。」

東吾兄のくしゃっとした笑顔が浮かんだ。
今頃、家でTVゲームに熱中してるかな。
帰ったらまた、付き合わされるんだろうな。

『生きてると、楽しいことが沢山あるよ。』

現実に対して、少し悲観的な彼女に伝えたいこと。

でも、喉の辺りまで出てきた所で、飲み込んでしまった。
同級生に対してこんな台詞を言うのは、偉そうだと判断したから。

⏰:09/04/02 18:36 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#369 [ぎぶそん]
「マキロン、おかえり!
あっ、丁度良かった。レベル上げ付き合って〜。」

家に帰ると、想定内の光景が広がり、想定内の台詞を告げられた。
ソファーに寝転がりながら、TVゲームを堪能している東吾兄。

「もー、ちょっとは夕飯の準備手伝ってよ。
居候の分際で遠慮なさ過ぎ、くつろぎ過ぎ。」

スーパーの袋を、テーブルの上に音を立てて置く。

「アハハ。だって俺、不器用だし役不足だし。」

⏰:09/04/02 18:49 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#370 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350

⏰:09/04/02 22:57 📱:W61SA 🆔:5zPWjPPg


#371 [ぎぶそん]
>匿名さん

アンカー有り難うございます!(^^)

⏰:09/04/03 13:09 📱:SH705i 🆔:ByU6c7HI


#372 [ぎぶそん]
今日の夕飯は、カルボナーラを作ることにした。
東吾兄にも、パスタを茹でるという作業をしてもらった。

今日の夕飯は2人分だけ。
放課後父から、会社の人と飲んでくるという連絡があったから。

「今日うちのクラスに、転校生がやって来た。」

「へえー。そりゃ、大学にはない楽しみだなぁ。」

出来上がってすぐ、2人で夕飯の席を囲んだ。
湯気の立つパスタをフォークに巻き付ける。

⏰:09/04/03 13:19 📱:SH705i 🆔:ByU6c7HI


#373 [ぎぶそん]
「何か、陰のある子だった。悩みを抱えてるみたい。」

弥生の、切なさそうな横顔を思い出す。

「そりゃ人間誰だって、生きていれば困難にぶつかるだろうな。
今がその時期なんだろ。」

パスタを流すように、オレンジジュースをがぶがぶ飲む。
東吾兄は、水やお茶が苦手らしい。

「…ねぇ、東吾兄は両親が海外に住むって決めた時、寂しくなかったの?」

前から気になっていたことを聞いてみた。

⏰:09/04/03 13:29 📱:SH705i 🆔:ByU6c7HI


#374 [ぎぶそん]
「俺、もう大学生だしなぁ。最初はびっくりしたけど、今は寂しさを感じることはあまりないね!
大学もこの家で暮らすのもおもしれーからさ。」

「そっか。」

「親父もおふくろも、俺が大きくなって、やっとやりたいことがやれると思ったんだろ。
俺はそれを反対はしないよ。養ってもらった分、親の幸福を願うのが子供の務めさ。」


即答の中にも、しっかりとした自分の考えがあった。
東吾兄、もっとこういう面を出せば女の子にモテるだろうに。
そう言ったら、怒られるかな。

⏰:09/04/03 13:43 📱:SH705i 🆔:ByU6c7HI


#375 [ぎぶそん]
次の日の朝、下駄箱の所でエリと鉢合わせた。

「昨日はごめーん。
昨日は村上さんとどうだった!?」

両手を合わせ、詫びるエリ。

「うん、普通にいい子だったよ。」

脱いだ靴をしまいながら、昨日の弥生の言動を思い出す。

エリには彼女から訳ありな話をされたことは、告げないことにした。

多分、私だからこそ言えるものがあったのだろう。
自惚れかも知れないけれど、そんな気がする。

たった数時間の会話だけで、彼女の心の深い奥の底が見えた気がする。

⏰:09/04/04 22:37 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#376 [我輩は匿名である]
>>273-400

⏰:09/04/04 23:14 📱:D705i 🆔:2MY1v5ZY


#377 [ぎぶそん]
朝自習が済んだ後、ますちゃんと英語係の役割をする。

本日クラスから収集したのはぺらぺらのプリント用紙だったが、ますちゃんと話すのが楽しいので、手ぶらで職員質まで付き添う。
こんなパターンは少なくない。

「…雨宮さん、最近桜井くんとはどう?」

階段を下りる途中、ますちゃんがさりげなく問い掛けてくる。

「うーん、今までどおりの友達のような、そうでないような…。」

ますちゃんには以前、優平のことが好きだということを話しておいた。

⏰:09/04/04 23:18 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#378 [ぎぶそん]
「そろそろ告白しちゃえばいいのに。
あんまりのんびりし過ぎて、桜井くんが誰かに取られても知らないよー!?」

責め立てるように、ますちゃんが私の方に寄ってくる。
小さい身体ながら、彼は物事をきっぱりと言う所がある。

それも私を思ってのことだから、悪い気はしない。
クラスで人気者なのも、誰にでも思いやりを持って接しているから。

「う…。優平がいいって思う人であれば、その時は祝福するよ…。

それに私、決めたんだ。
本当に相手の存在が大切に思えた時、気持ちを伝えようって。」

そう、お父さんとお母さんが大恋愛をしたみたいに、私もこの恋を温めていきたいんだ―

⏰:09/04/04 23:31 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#379 [ぎぶそん]
休み時間の間にトイレに向かうと、弥生が鏡の前で身なりを整えていた。

「おはよう。」

同じクラスだけど、今日初めて顔を合わせる。

正直、昨日の件もあり、自分からどう接すればいいのか分からなかった。
でも、不自然のないようにそこで挨拶をする。

「…真希ちゃん、昨日アタシが話したこと、エリちゃんには言わなかったんだね。」

「え?」

顔は鏡に向けたまま、話を持ち出す弥生。

⏰:09/04/04 23:40 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#380 [ぎぶそん]
「…弥生ちゃんこそ、どうして私なんかに話してくれたの?」

ドクドクと鳴る心臓の音。
たった一言の台詞にも、彼女を傷つける要素がありそうで怖い。

「アタシね、トイレも一人で行けないような子、嫌いなの。
真希ちゃんって、自分をしっかり持ってそうで好感が持てるわ。」

そう一人でトイレに来た私に言うと、すれ違い様に"じゃあね"と囁き、彼女は立ち去った。

私はきっと、彼女にとって悪い印象は持たれていないようだ―

⏰:09/04/04 23:52 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#381 [ぎぶそん]
次の授業の時、弥生が先生に当てられる場面があった。

難しい問題に対して、迷うことなくスラスラと答える彼女。
見事に正解すると、クラス内が少しざわめいた。

『大人しいフリしてんのが窮屈でさ』

思い出す、昨日の彼女の台詞。

彼女の周りの席の子たちが、"すごいねー"などと話し掛けている。
"そんなことないよ"と、謙虚に小さく照れる弥生。

今の姿は彼女にとって、仮の姿だと言うのだろうか?

私からして見れば、彼女は一人の小柄で愛らしい女子高生だ。

⏰:09/04/05 00:04 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#382 [ぎぶそん]
その晩、風呂上がりに和室を通り過ぎると、父が母の仏壇を磨き上げていた。

「…お父さんってさ、お母さんが悪い過去を持ってたとしても、お母さんのことを好きになってた?」

タオルで濡れた髪を乾かしながら、父の横に座り込む。

「ああ、もちろん!」

「どうして?マイナスに思ったりしない?」

にこやかに答える父に聞き返した。

⏰:09/04/05 12:23 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#383 [ぎぶそん]
「父さんは、今この瞬間の母さんを好きになったんだから。
おしとやかで、可憐で、あったかくて。

昔のことを聞いた位じゃ、その心は揺るがないさ。」

隅々まで行き渡るように、父はひたすら雑巾を持つ手を動かし続ける。

「お母さんって、それほどお父さんにとって素敵な人だったんだね。」

遺影に映る母の顔を見る。

まるでこの世にある全ての悪行を許すかのように、こちらに優しく微笑んでいた。

⏰:09/04/05 12:26 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#384 [ぎぶそん]
その後部屋にこもり、早めに読書を終えると、ランプを消す。

暗い部屋で、布団に潜り目をつむったまま考え込む。

自分の周りには、エリや元基のように、あっけらかんとしたタイプの人間が多かった。

その分弥生のようなタイプの人間が、気にかかってしまう。
彼女は自分から、少女としてのあどけなさややんわりとした雰囲気を、廃除しているように思える。

『生まれて来て欲しくなかった』とは、どういう意味なのだろうか?

そんな親、本当にいるのだろうか。
少なくとも、今の私には分からない。

⏰:09/04/05 12:37 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#385 [ぎぶそん]
弥生が私たちの学校に転校して来て、二週間が経った。
彼女もだいぶクラスに溶け込んできて、クラスの皆が彼女を特別視する回数も減ってきた。

「あれ、弥生ちゃんとD組の町田じゃない?」

昼休み、エリと外にある自販機に向かう途中、校庭で弥生と他のクラスの男子が話し込んでる姿が見えた。

町田は先生に盾突いたり、放課後はケンカ三昧の日々で、素行があまり良くないことで有名だ。

ガラの悪い男子と物静かな女子の組み合わせ。
その違和感から、遠くにいても目立つ。

⏰:09/04/05 12:44 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#386 [ぎぶそん]
「町田ったら、今度は弥生ちゃんに手出そうとしてんのかねー。
あいつが前付き合ってた子、清楚な感じだったし。」

「何か嫌な予感がする…。」

「そう?弥生ちゃんみたいな優等生は、あんな奴に引っ掛かったりしないでしょ。」

二人の姿を見続けていると、町田が一方的に言い寄ってる様子ではなさそうだ。

弥生の方も、相手の話に対して静かに頷いている。

この時心が覚えた小さな胸騒ぎを、私は逃さなかった。

⏰:09/04/05 12:52 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#387 [ぎぶそん]
放課後、元基から優平が図書室にいると聞き、さっそく行ってみることにした。

今日一日彼の姿を見ていない。
特別用事がある訳ではないが、無償に会わずにはいられなかった。

「優平…?」

図書室に入ると、勉強道具が散らばる机に、顔を伏せたまま優平が眠っていた。

彼の黒くて艶のある髪を、夕日が窓越しに照らす。

⏰:09/04/05 17:59 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#388 [ぎぶそん]
彼の近くの椅子に、腰を下ろしてみる。

死んだように眠る、優平の寝相にぴったりの表現だ。
その寝顔を、じっくりと観察する。
長い睫毛や筋の通った鼻に、思わず見入ってしまう。

疲れてるのかな?
きっと毎日、たくさん勉強してるんだろうな。

彼が起きないように、そっと頭を撫でてみた。

⏰:09/04/05 18:01 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#389 [ぎぶそん]
トクン、トクンと心臓の音が体内でこだまする。

その髪を繰り返し触ってみる。
彼に近付けば近付くほど、今度はその体に触れたいという気持ちになる。

今、どんな夢を見ているのだろう。
その中に、私は映っているのかな!?

優平がどんな過去を持っていたとしても、今この瞬間のときめきは色褪せないだろう。

⏰:09/04/05 18:11 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#390 [ぎぶそん]
「ん…。わ、真希っ!」

一時間後、眠りの王子が目を覚ました。
私の存在に気づくと、その場であわてふためく。

「あ、起きた?」

彼が寝ている間、読んでいた本を閉じる。

「ずっと居たの?起こしてくれて良かったのに。」

「気持ち良さそうに寝てたから。」

今日初めての、彼との会話。

彼と些細なやり取りが出来るだけで、今日一日があでやかなものになるよ。
それは、雨上がりの虹のように。

⏰:09/04/05 18:15 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#391 [ぎぶそん]
「今日、部活休みだったの?」

放課後、優平が学校に残ってることが珍しい。

「ああ、俺足痛めちゃったみたいでさ、明日も病院通い。」

情けないよな、と歯を見せて笑う。

「え…、それは心配。」

「大丈夫だって。たいしたことないから。」

⏰:09/04/05 21:00 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#392 [ぎぶそん]
「何か私に出来ることがあったら言ってね。」

「そうだなあ、じゃあ今日一緒に帰ろう。」

彼は立ち上がり、勉強道具をカバンにまとめ始めた。

「うん。」

彼からの意外な要求。
すぐに頷いたのは、嬉しさからくるものがあったから。

久しぶりの一緒の下校。
それだけなのに、胸がドキドキするよ。

⏰:09/04/05 21:08 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#393 [ぎぶそん]
私も教室に戻って、荷物をまとめる。
電車通学の彼に合わせて、帰り道のコースは駅まで一緒ということになった。

優平って、結構背が高いんだ。
真横に並ぶ彼を見て、改めて感じた。
異性だと意識し始めてから、様々な視点が変わる。

二人とも、歩幅が自然とゆっくりになる。
いつもの景色が、もっと好きになる。

⏰:09/04/06 17:43 📱:SH705i 🆔:bVwBHG7I


#394 [ぎぶそん]
「今度、サッカーの試合観に行きたいな。」

街中でこんな台詞を、さりげなく呟いてみた。

「マジ!?じゃあ、練習頑張らないといけないなぁ!」

「足、早く治るといいね。」

写真を撮られたかのように、最大限の笑顔をしてみる。
彼の制服の袖を、小さくつまむ。

こんな仕草や表情、きっとお父さんにも見せたことないだろう。
ううん、恥ずかしくて見せられないや。

⏰:09/04/06 17:46 📱:SH705i 🆔:bVwBHG7I


#395 [ぎぶそん]
次の週末が明けた月曜日、朝普段どうりに教室に入ってみると、またもやエリや男子たちが一つに集まっていた。

「真希…。」

エリが深刻そうにこちらを見てくる。

「どうしたの?」

いつもと違う雰囲気に、一目散に駆け寄る。

「転校生の村上が、D組の町田とホテルに行く所を、目撃した奴がいるんだよ。」

「えっ…。」

エリの代わりに、一人の男子が説明してくれた。

⏰:09/04/06 17:53 📱:SH705i 🆔:bVwBHG7I


#396 [ぎぶそん]
「まあ、悪いとは言わないけどさ、村上さんってああいうのがタイプなんだなーって。」

一人の男子が、投げやりな感じで話す。

「まだ転校して間もないのに。意外と遊んでるんだ。」

「俺、いいかもって思ってたのになー。清純そうに見えたのに。」

クラスの皆の弥生に対する印象が、一気に違うものとなった。

⏰:09/04/06 18:02 📱:SH705i 🆔:bVwBHG7I


#397 [ぎぶそん]
昼休み、一人屋上へと上がる。
ドアを開けてみると、弥生が一人で屋上からの景色を見下ろしていた。

こちらの気配に気がつき、瞬時に振り向く。

「噂、もう広まってるみたいね。」

クラスメートの私だと解った瞬間、やんわりと微笑む。
彼女の赤みがかかった髪と制服のスカートが、秋風になびく。

「町田くんね、評判は悪いみたいだけど、あれでも優しいトコあるのよ。」

現在周りが自分の交友関係のことで話題になっていることを、だいたい把握しているようである。

⏰:09/04/09 23:46 📱:SH705i 🆔:zwtBDWqQ


#398 [ぎぶそん]
「私は弥生ちゃんが好きになった人なら否定したりはしないよ。
でも、悪いことには巻き込まれないで欲しい。」

町田は日常茶飯事に人に暴力を振るう。
それによって彼女の身に何か降りかかることが、何よりの心配。

彼女は余裕の表情で「そう。」と言うと、それ以上は何も言わずその場を立ち去った。

⏰:09/04/09 23:48 📱:SH705i 🆔:zwtBDWqQ


#399 [ぎぶそん]
その日の晩、夕飯の席で父が珍しく深刻そうに口を開いた。

「今朝南区の商店街で、自殺があったらしい。
父さんの会社の同僚の人が第一発見者だったみたいでな、警察の人から色々事情聴取を受けて出勤時刻に遅れたそうだ。」

「あそこ、自殺の名所ですもんねぇ。」

東吾兄が理解できるような面持ちでいる。

「日本は年間で約3万人の自殺者がいるらしいぞ。」
持っている箸で、私たちを指す父。

「そんなに…?!」

あまりのその数の多さに、私は驚愕した。

⏰:09/04/10 13:09 📱:SH705i 🆔:j.4ME3cQ


#400 [ぎぶそん]
「人間はな、どんなに苦しいことがあっても、たった一つの希望さえあれば、生き続けたいと願うもんなんだ。

でも、自ら命を絶とうという人には、全くそれがない状況ということになる。

生きるというそのものが100パーセント絶望にしか感じられなくなった時、人は死ぬんだろうなぁ。」

父は今日あった出来事を通して、何か感じるものがあったようだ。

今日の食卓の空気は、いつものおふざけモードとは一変した。
社会に通じる問題も、こうして家族間でも日々話し合っていきたい。

⏰:09/04/10 13:21 📱:SH705i 🆔:j.4ME3cQ


#401 [ぎぶそん]
風呂上がりに、パジャマ姿のままでリビングのベランダに出てみた。
見上げて見るお月様は、満月に近い形をしていた。

瞬く満天の星に、人はそれぞれどんなことを思うのだろう。

私は明日も明後日も夜を迎える度、こうして星たちを眺めていたいよ。

辛い時も、楽しい時も。
何事もなく終えた日でも。

自分の命が瞬き続ける限り、目の前にあるものを受け止めていく。

私はそう、生き続けたいんだ。

⏰:09/04/10 13:34 📱:SH705i 🆔:j.4ME3cQ


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