【携帯小説指南】全ての作家達へ【[投稿]を押す前に】
最新 最初 🆕
#101 [我輩は匿名である]
太郎は町を歩いていた。
しばらくして女の子とすれ違った。茶髪でふわふわのパーマをかけた、美しい人だ。

太郎はその人に一目惚れした。彼女の気持ちが気になった。

太郎が彼女のほうへ向き直ると、ちょうど彼女もこちらを見ている。
一瞬目が合ったが、すぐにそっぽを向かれた。
太郎はショックを受けた。


「これなら、太郎…ひいては読者には彼女の気持ちがわからない」

「このあとの展開にワクワクしてきたぜ」

「そのワクワク感を持たせるのが重要なのさ」

⏰:08/11/20 00:34 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#102 [我輩は匿名である]
 
5−2 一人称

「さて、この視点だが、一・二・三と人称によって変化するぞ」

「ほう?」

「まずは一人称。『僕』や『私』が主体となって進んでいく。
心理描写が容易なため感情移入がしやすい反面、客観的な描写がしにくい欠点がある」

「口で言われてもよーわからん」

「例文を用意した」

⏰:08/11/20 00:35 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#103 [我輩は匿名である]
かくして俺はこの栄光を手に入れたわけだが、それを乱用するつもりはない。
俺が世界のヒーローなんて馬鹿げている。
それについて俺はどうとも思わないけどな。


「とまぁ、こんな感じだ。
一番の長所は、やはり『使いやすい』こと。作者がその人物になりきって書けばいいわけだからね」

「なるほど」

「ただし注意点がいくつか。
まず、この人称を使った場合は、語り手が知り得ない情報を描写してはいけない」

「…? よーわからん」

⏰:08/11/20 00:35 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#104 [我輩は匿名である]
「上の例文で言えば、語り手は『俺』だ。この場合、『俺』が知ることができない情報は描写できない。

例えば『俺』以外の人物の気持ちだとか、『俺』がいない場所で起きている出来事とかね」

「なるほど、『俺』が知らないことは書けないってわけか」

「その通り。この人称を使った場合は、基本的に視点が動かない。
だから、恋愛ものや日常ものなど、心理描写が重要で視点の変動が少ない小説に向いている」

「最初から最後まで主人公を中心にして回る物語で使いやすい、ってことだな」

⏰:08/11/20 00:36 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#105 [我輩は匿名である]
「そう。だからバトルもののファンタジーや連続殺人が起きるミステリーなんかでは使いづらい。主人公がいない場所での描写ができないからね」

「なるほど」

「でも使いやすい。だから、初心者におすすめの人称だ。
夏目漱石の『吾輩は猫である』も一人称だから、読んでみるといい」

「把握だぜ」

⏰:08/11/20 00:37 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#106 [我輩は匿名である]
 
5−3 二人称

「続いて二人称。これは『あなた』とか『お前』とかだ。
注意してほしいのが、主語が『あなた』なだけあってで、語り手は『あなた』ではない、ということ」

「またよーわからん事を…」

「つまりね、手紙や会話なんかにしか使えないってことだ。
ここに、『太郎』と『ナナシ』がいたとする。主人公は太郎だ」

「うん」

⏰:08/11/20 00:37 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#107 [我輩は匿名である]
「ナナシ(第二者)の視点で太郎(第一者)を語ることが二人称と思われがちなんだけど、それは逆だ。
太郎の視点でナナシを語ったり、ナナシに問いかけたりするのが二人称だ。以下、例文」


ナナシさん、あなたは素晴らしい人だ。
あなたがいなければ、世界が救われることはなかった。

     とか

「あなたはなぜレクチャーをしているんですか?」


「みたいなね」

⏰:08/11/20 00:38 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#108 [我輩は匿名である]
「問いかける感じか」

「そう。だから二人称だけでは物語は作れない。
でも、二人称を効果的に使うことで読者を引き込むことができる」

「使いこなせれば強いってやつか」

「そうだね。慣れないうちはあまり意識する必要はないさ」

⏰:08/11/20 00:38 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#109 [我輩は匿名である]
 
5−4 三人称

「最後に三人称。これが最もポピュラーかな。
一人称と違って語り手のアクが出ない分、使い勝手はいい」

「でもその分扱いが難しいよな」

「そうだね。感情移入しづらい欠点もあるし。
でも一人称と比べて繊細で客観的な情景描写ができるから、ミステリーやオカルトなんかで威力を発揮できる。
以下、例文」

⏰:08/11/20 00:39 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#110 [我輩は匿名である]
太郎は町を歩いていた。
しばらくして女の子とすれ違った。茶髪でふわふわのパーマをかけた、美しい人だ。

太郎はその人に一目惚れした。彼女の気持ちが気になった。

太郎が彼女のほうへ向き直ると、ちょうど彼女もこちらを見ている。
一瞬目が合ったが、すぐにそっぽを向かれた。
太郎はショックを受けた。


「あれ? これってさっきのじゃん」

「うん、こういうのが三人称だ。正確には三人称は2種類あるんだけど…まぁ三人称のほとんどはこんな感じの、いわゆる『神視点』と呼ばれるものだ」

⏰:08/11/20 00:40 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#111 [我輩は匿名である]
「登場人物でも誰でもない、カメラが語っているようなものか」

「そうだね。語り手が登場人物じゃない分、視点の切替に制限がないし、主観が入らないから正確で繊細な描写がしやすい。
その反面、登場人物の心情を直接語るのが難しいので感情移入がしづらい」

「なるほど」

「使いこなせればどんなジャンルにも対応できるのが一番の魅力かな。
ただし、下手くそな人がこれを使うと本当に駄目になるから要注意だ」

「どうすりゃ上手くなるんだ?」

「練習あるのみさ」

⏰:08/11/20 00:41 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#112 [我輩は匿名である]
 
5−5 視点の切替・人称の使い分けはアリかナシか?

「ものにもよるが、視点も人称も、コロコロ変えすぎるのはあまりよくない」

「分かりづらいからか?」

「まぁそれもあるんだけど。最初に言ったように、視点や人称が変わる事で心情描写も増えてしまい、一定キャラへの感情移入がしづらい。
また視点が変わった場合は、それを明確に示しておかないと読者が混乱してしまうんだ」

「どういうことだ?」

⏰:08/11/20 00:42 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#113 [我輩は匿名である]
「つまり、さっきまで主人公の視点で話が進んでいたのに、いきなり違うキャラの視点に切り替わったらわけが分からないだろう?」

「ああ、なるほど」

「サスペンスやミステリーなど、視点の切替によって物語が進む場合もあるんだけどね。
その場合でも、やはり最初に『誰の視点か』を明確にしなくてはいけない」

「どうすりゃいいんだ?」

⏰:08/11/20 00:43 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#114 [我輩は匿名である]
「『5W1H』、覚えてるかい?
Who(誰が)、When(いつ)、Where(どこで)の3つを最初に示しておけばいい」

「人物、時間、場所ってことか」

「そうそう。これは人称が切り替わる場合も同じだ、必ずその3つを最初に明確にすること」

「分かったぜ」

「じゃあ、おさらいに入ろう」

⏰:08/11/20 00:43 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#115 [我輩は匿名である]
 
 〜5章のおさらい!〜

「小説では『誰の視点で物語が進んでいるか』が非常に重要。
視点となっている人物が分からないようなことは極力描写しないこと」

「人称は一・二・三と複数ある。それぞれに長所と短所があるので、プロットと照らし合わせて選ぼう」

「視点や人称の変えすぎはあまりよくない。
切り替える場合は、必ず視点を明確にすること。読者が混乱してしまうぞ!」

⏰:08/11/20 00:44 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#116 [我輩は匿名である]
「じゃあ、次からは実際に描写してみよう」

「よっしゃ」


>>96-115
第5章 〜小説を書こう! 描写の基本編〜 終


次回は

第6章 〜小説を書こう! 情景描写編〜

⏰:08/11/20 00:46 📱:P903i 🆔:TDftdaZo


#117 [我輩は匿名である]
あげ!

⏰:08/11/23 09:17 📱:PC 🆔:☆☆☆


#118 [我輩は匿名である]
なんか面白い

⏰:08/11/23 19:03 📱:824SH 🆔:☆☆☆


#119 [我輩は匿名である]
 
第6章 〜小説を書こう! 情景描写編〜

「さて、今回は小説の基本であり奥義でもある『情景描写』を教える」

「よしこーい」

「情景描写は、小説において地の文の大多数を占める描写だ。
読者にその場の情況や世界観、登場人物の動きなどの情報を与える役割を持つ。これなくして小説は成り立たない」

「でもネットだと会話だけの小説もあるぞ」

「ギャグや日常系なんかなら別に会話だけでもいいんだけどね。
でも君が書きたいのはファンタジー、これは情景描写が必須とも言えるジャンルだ」

⏰:08/11/23 21:09 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#120 [我輩は匿名である]
「そりゃまたなんで?」

「最初の方で言ったが、ファンタジーは背景の世界観を作り込む必要がある。また戦闘モノのファンタジーでは、戦闘シーンの描写が無ければ面白くない」

「つうことは俺にとっては重要だな」

「誰にとっても重要だ。さて、描写の勉強だが、これは1から教えるより、好きに書いてそれに対して添削してもらう方が良い」

⏰:08/11/23 21:09 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#121 [我輩は匿名である]
6−1 描写の妙

「それはなんで?」

「描写には個性があるんだ。それは上手い下手ではなくて、人それぞれの書き方・表現・言葉選びなどによって決まる。
『小説』を辞書で引いてごらん」

「えーっと…
『作者の奔放な構想力によって、登場する人物の言動や彼らを取り巻く環境・風土の描写を通じ、非日常的な世界に読者を誘い込むことを目的とする散文学。

読者は描出された人物像などから各自それぞれの印象を抱きつつ、読み進み、独自の創造世界を構築する(新明解国語辞典より)』」

⏰:08/11/23 21:10 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#122 [我輩は匿名である]
「何が言いたいかわかる?」

「全然わからん…」

「つまり小説というのは、作者の感性を描出した描写によって、読者に物語のイメージを想像…いや、創造させることに意義があるんだ」

「えーっと…」

「例えば、大まかに作った2つの同じプロットを、考え方も書き方も得意ジャンルも違う、ある2人の作家に渡したとする」

「ほう」

⏰:08/11/23 21:10 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#123 [我輩は匿名である]
「作家はそこから自分でプロットを詰めていき、そして文章に起こす」

「うん」

「ではその場合、その2つの作品は全く同じものになるか?」

「いやならねーだろ、常識的に考えて」

「そう、恐らくはかなり方向性の違う作品になるはずだ。
小説は、同じテーマであっても、作者の感性によってガラリと印象が変わる。その大きな要因が『描写』なんだ」

⏰:08/11/23 21:11 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#124 [我輩は匿名である]
「確かに、似たような設定でも作家によって全然展開が違ったりするな」

「そう。例えば僕なら、分かりやすい・伝わりやすい描写をするように心掛けている。一応、娯楽派作家だしね。
でも、文章に韻を盛り込む作家や二人称を頻繁に使う作家、比喩を多用する作家など、描写のしかたは作家によって千差万別だ。
作家達の用いる描写によって、作品の中に一貫した個性が生まれる。『その人らしい作品』ができあがるんだ」

⏰:08/11/23 21:12 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#125 [我輩は匿名である]
「みんながみんな似たような文章だと面白くないもんな」

「そう。だから、描写に関しては最初は自由に書いてほしい。僕が1から教えてしまうと、その人らしい作品ではなくなってしまう」

「ナナシさんの真似になってしまうってことか」

「うん。それだと面白くないからね。
だから今から教えるのは、情景描写に関する最低限のことだけだ。後は自分で書いて読んでもらうなり、他の作品を読むなりして修行してほしい」

「ああ、わかった」

「よし。じゃあ、また前置きが長くなっちゃったけどレクチャーを始める。とりあえず何か書いてごらん」

「よっしゃ」

⏰:08/11/23 21:13 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#126 [我輩は匿名である]
6−2 作者の持つイメージを突き詰める

「できたぜ」

「はやっ! 見るのが恐ろしい早さだな…どれどれ」

王国暦30年。この世界はある危機に瀕していました。
魔王が復活したのです。

ここはとある山にある町、歌箱。
そこに住む少年の太郎はどこにでもいる平凡n

「はいもう結構」

「ちょwwwまだ続きがwww」

「この文には風景描写が少なすぎる。読む気すら起きない」

「ひでぇw」

⏰:08/11/23 21:15 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#127 [我輩は匿名である]
「王国暦とかはまぁ置いといてさ。歌箱の町ってどんなとこよ?」

「え? 小さな山奥にある町だよ」

「他には?」

「それだけ」

「………あっ、そう」

「??」

「例えばさ、物語が始まった季節はいつ?」

「えっ? じゃあ夏でいいよ」

「時間は? 朝? 昼? それとも夜?」

「昼だよ」

「じゃあ歌箱の町について、もっと描写が増やせるだろう」

「え……?」

「それを意識して、もう1回書いてごらん」

⏰:08/11/23 21:17 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#128 [我輩は匿名である]
季節は夏の半ば。照りつける日差しが眩しい。
蝉の鳴き声が山々から聞こえる。

そんな山の中にある小さな町、歌箱。

「どうだ?」

「そんな山ってどんな山?」

「蝉の鳴き声が聞こえる山だよ」

「それだけ?」

「それだけ」

⏰:08/11/23 21:18 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#129 [我輩は匿名である]
「もっと考えてみなよ。山って一口に言ってもいろいろあるでしょ。
標高が高いとか、どんな植物や動物があるのかとか。だいたい歌箱の町は山のどこにあってどんな町なのさ?」

「草木が生い茂る小さな山の中腹にあって、人々は農業の自給自足で暮らしてる」

「それじゃあ町じゃなくて村でしょうが」

「違いがわからん…」

「些細なことかもしれないけどさ。分からないなら辞書で調べてみるのも手だ。
4章で言ったよね、『よく聞く言葉こそ調べろ』って」

「はぁ……」

「もう1回書いてみな」

⏰:08/11/23 21:19 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#130 [我輩は匿名である]
季節は夏。すでに半ばを迎えていて、照りつける日差しはいっそう強さを増していた。
山の中からは絶え間なく夏虫の声が聞こえ、耳にこだまする。
夏ということもあって若草が山いっぱいに広がり、澄み渡る風はどこか気持ちいい。

そんな小さな山の中腹にある歌箱の村では、今日も人々は自給自足で生活していた。

そんn「ハイ結構!」

「ぐ…」

「君さぁ、僕の話聞いてたの?」

「え?」

「『小説』で辞書引け」

「いやそれならさっk」

「 引 け 」

「ハイ、スミマセン」

⏰:08/11/23 21:20 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#131 [我輩は匿名である]
作者の奔放な構想力によって、登場する人物の言動や彼らを取り巻く環境・風土の描写を通じ、非日常的な世界に読者を誘い込むことを目的とする散文学。

読者は描出された人物像などから各自それぞれの印象を抱きつつ、読み進み、独自の創造世界を構築する(新明解国語辞典より)

「『小説とは、作者の感性を描出した描写によって、読者に物語のイメージを創造させることに意義がある』って言ったよね?」

「いやその…」

「 言 っ た よ ね ? 」

「ハイ、そうおっしゃられました」

⏰:08/11/23 21:21 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#132 [我輩は匿名である]
「それとも何? こんなんでお前が持つイメージを読者が創造できると思ってんの?」

「あの、口調が…」

「何? 死にたいの?」

「いやその…」

「小説作者になりたいんならテメエが持つ世界観ぐらいキッチリ作れよ、それが嫌なら読者になれ。
それなのに何お前? それだけそれだけって山の情報がそれだけなわけねえだろ。それともアレか、『そこは読者にお任せします』みたいなこと言って逃げるつもりか?」

「いやその…」

「テメエのその顔むかつくからやめろ」

「…………」

⏰:08/11/23 21:21 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#133 [我輩は匿名である]
「まぁいい。下の文章を見てみな」

皿の上には林檎が1つあった。

「どう思う?」

「どうって…林檎が皿の上にあるだけでは…?」

⏰:08/11/23 21:22 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#134 [我輩は匿名である]
「どんな林檎? 赤いの? 青いの? それともゴールデンデリシャス?」

「さぁ……」

「林檎の状態は? 普通? 皮が剥かれてるの? 切られてるの? 食べられてるの? それともウサギ切り?」

「いや…そんなの知るわけないよ」

「それに皿ってどんな皿? 丸いの? 四角いの? 皿の深さは? 色は?」

「……俺の中では、丸くて白い皿の上に、切られたり食べられたりしていない赤い林檎が乗ってる」

「そんな描写、どこにもされてないじゃん」

「……!!」

⏰:08/11/23 21:23 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#135 [我輩は匿名である]
「君のさっきの文章はこういう事だ。
読者に自分のイメージを伝えるには、繊細な情景描写が求められる。
例えば僕は、銀の丸い皿の上に1口かじられた青い林檎が乗っているとイメージしてたんだけどね」

「これだけじゃ、そこまで読み取れるわけがねーよ……」

「君はその『読み取れるわけがない』文章を、さっき僕に見せまくっていたじゃないか」

「いやその…」

「だからむかつくからやめろ」

「…………」

⏰:08/11/23 21:24 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#136 [我輩は匿名である]
「まぁいい。さっきの林檎のやつだが」

鉛色をした丸く小さな皿の上に、まだ熟していない若々しい青色の林檎が1つ乗っていた。
誰かが間違えて食べようとしたのか、その林檎には1口かじられた形跡がある。

「これなら分かるだろう」

「そのまんまの光景が想像できるな」

「追及すればするほど情景描写は書けるけどね。
句読点なんかと同じで書きすぎはよくない」

「…難しいな…」

「では、さっきの君の文章に戻るぞ」

⏰:08/11/23 21:24 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#137 [我輩は匿名である]
季節は夏。すでに半ばを迎えていて、照りつける日差しはいっそう強さを増していた。
山の中からは絶え間なく夏虫の声が聞こえ、耳にこだまする。
夏ということもあって若草が山いっぱいに広がり、澄み渡る風はどこか気持ちいい。

そんな小さな山の中腹にある歌箱の村では、今日も人々は自給自足で生活していた。

「いきなり山の中からとか言われても困る」

「……確かに、どんな山か分からないな」

「4行目で小さな山と書かずに、山についての描写はそこでするべきだろうね」

「はぁ…」

⏰:08/11/23 21:26 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#138 [我輩は匿名である]
「だいたい澄み渡る風が心地いいって何?」

「え?」

「虫の声が耳にこだまするとか風が心地いいとか、誰が感じてるの? これは三人称なんでしょ?」

「えーっと……」

「5章で『必ず最初に『誰の視点か』を明確にすること』って言ったよね?
なのに語り手が誰なのか全然分からないじゃん。僕の話聞いてたの?」

「いやその…」

「むかつくからやめろつってんだろ」

「…………」

⏰:08/11/23 21:27 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#139 [我輩は匿名である]
「まぁいい。少し手直ししてやった」


春がすぎ、じめじめとした梅雨が明けて間もない頃。
気温もどんどんと漸増していく中、変わらない太陽がさんさんと輝いていた。

その太陽に照らされた小さな山。
そこの中腹あたりにある広大な草原は、色とりどりの花々に埋め尽くされ、空を飛ぶ夏鳥や虫達の声まで聞こえるようになっている。

そんな草原の近くにある歌箱の村では、今日も男たちがせっせと畑で働いていた。
歌箱は辺境にある小さな村なので人口が少なく、そのため村民たちは自給自足で生活しているのだ。

⏰:08/11/23 21:28 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#140 [我輩は匿名である]
「これでもまだ描写が少ないという人もいるし、十分という人もいるだろう。
実際のところ、僕だってプロじゃないからね。みんなが満足できるような文章を書けるわけじゃないさ」

「でも、さっきの俺の文章よりは情景が想像できる」

「そうだな。ファンタジーなんかでは特にそうだが、情景描写にしても何にしても、こだわった方がいい」

「こだわり?」

「さっきのやつにしたってそう。夏といっても一概にそれを言えるわけじゃない。
自分が夏だと思うものを挙げていって、そこから自分が思い描いているイメージに見合ったものを描写していくといい」

「参考になります」

⏰:08/11/23 21:28 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#141 [我輩は匿名である]
「では、ここにドアが1つあるとしよう」

「うん」

「どんなドア?」

「そうだな……マホガニーでつやつやの大きなドアだ」

「ドアノブは?」

「金色で、回して引くタイプだな」

「覗き穴や鍵穴は?」

「鍵穴はあるけど覗き穴はない」

「……と、こうやってドア1つでもいろいろ考えられる事があるだろう?
大事なのは、作者と読者の持つイメージを極力近づけることだ。
でなければ、話が進むにつれ違和感を感じたり、盛り上がる場面でイメージが違うために驚きが薄くなったりしてしまうからね」

「そうだな」

⏰:08/11/23 21:29 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#142 [我輩は匿名である]
「情景描写は、読者に場面を想像させる上で最も重要なんだ。事細かくとは言わないけど、自分が持つイメージが伝わるくらいは書けるようにしておくこと」

「どうすればいいんだ?」

「作品を書いて、誰かに見てもらうとか。
小説総合にもそれができそうなスレがあるし、何なら練習系のスレを立ててもいい。僕がスレ主やってるSSSスレ↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/7545/なら練習も批評も受け付けてるさ。とにかく練習あるのみだ」

「練習あるのみ、か…」

「最初からうまい人なんていないよ」

⏰:08/11/23 21:30 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#143 [我輩は匿名である]
 
6−3 小説的な文章を心がける

「男の身長は165センチです」

「え?」

「どれぐらいの大きさかな?」

「いや、わかんねーよ165センチとか言われても」

「そう。新しいキャラを登場させた時に、そのキャラについていろいろ描写するよね。
そこで身長165センチとか具体的に言われても分からないよね?」

「わからんな」

⏰:08/11/23 21:31 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#144 [我輩は匿名である]
「じゃあ、『天井に頭がつきそうなほどの男』だったら?」

「かなりの大男だな」

「では反対に『そばにある石碑ほどしかない男』だったら?」

「ものすごいチビだな」

「うん。あまり具体的すぎると、かえって分からなくなったりするからね」

「難しいな…」

「それから、説明的な文章もだめだ」

「説明的?」

「ちょっと例文を用意してみたから見てくれ」

⏰:08/11/23 21:32 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#145 [我輩は匿名である]
時は2008年11月。
とある古いアパートに、いわゆるニートと呼ばれる職業である、太郎という男ががいた。

彼は17歳の頃に高校を中退し、以後引きこもりながらネトゲ三昧という生活を送っていた。

初めは親も将来について考えるように忠告してはいたが、どうやらすでに諦めたらしく、最近では太郎に金を渡して放置している状態だ。

それにつけこんで、太郎は好き勝手なニート生活を満喫していた。

「あーあ、暇だなぁ」

⏰:08/11/23 21:33 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#146 [我輩は匿名である]
「……と、この小説を見たらどう思う?」

「いや、別に…ちゃんと主人公の説明ができてるんじゃないの?」

「そうか。僕なら3行目で読むのをやめるね」

「それはなぜ?」

「これも初心者によくあるミスなんだけどね、文章が説明的すぎるんだ。『描写ができてない』と言い替えてもいい」

「どういうことだ?」

⏰:08/11/23 21:33 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#147 [我輩は匿名である]
「小説とは、読者にイメージを創造させることに意義がある、って言ったよね。
読者は創造力を刺激されることを望んでおり、描写からシーンを創造することが小説の醍醐味だ。
だから、上の例文みたいに説明されたんじゃ読む気をなくしてしまう」

「なるほど…」

「では、どうすれば『描写』がなされている小説らしい文章を書けるのか。
コツとしては、イメージを連想させるんだ」

「連想?」

⏰:08/11/23 21:35 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#148 [我輩は匿名である]
「例えば、さっき君が書いた歌箱の村の描写から引用すると」

春がすぎ、じめじめとした梅雨が明けて間もない頃。
気温もどんどんと漸増していく中、変わらない太陽がさんさんと輝いていた。

「この一文。直接『夏』とは書いていないけど、季節が夏だということは分かるだろう?」

「たしかに」

「これは『夏』という場面を連想させる描写をしているからなんだ」

「ほうほう」

⏰:08/11/23 21:36 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#149 [我輩は匿名である]
「分かりやすいのが冒頭の一文。春がすぎ、梅雨が明けたら季節はいつ?」

「夏だな」

「気温が上がっていき、『太陽がさんさんと輝いている』イメージがあるのは?」

「まがうことなく夏だ」

「そう。『梅雨明け』『気温の上昇』『さんさんと輝く太陽』、これらはすべて『夏』を連想させるもの。
他には『入道雲』なんかがあってもいいかもね。
小説を書くときは、こういった『場面を連想させるもの』を文章に取り入れていけばいいのさ」

「なるほど」

⏰:08/11/23 21:37 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#150 [我輩は匿名である]
「では、さっきの例文。季節が秋、主人公がヒキオタニートであることを連想させるならば…」

⏰:08/11/23 21:38 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#151 [我輩は匿名である]
雀の鳴き声が響き、カーテンから朝陽が射し込む。
吹きすさぶ冷たい木枯しが、古アパートの立て付けが悪くなった窓をカタカタと鳴らした。

窓の外では、葉が落ちて枝が露出した街路樹の下を、これから出勤するサラリーマン達がコートを着込んで歩いている。

その最中、部屋の住人である太郎はまだ布団の中にいた。

緩慢な動作でテーブルの上に置かれたエアコンのリモコンに手を伸ばす。
暖房をつけ、リモコンをテーブルに放り投げたとき、壁に掛けられた月カレンダーが目に入った。

⏰:08/11/23 21:38 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#152 [我輩は匿名である]
もうすぐ残り一枚になるそのカレンダーに、予定が書き込まれたことはない。
事務的な用事以外で人と話すこともない。

家族ですら、ご飯ができたことを伝えにくる母親に、唸るような返事をするだけだった。

太郎はカレンダーから視線を外し、ベッドから這い出るように起き上がる。
伸びをして、脂肪で重くなった体を支える足を動かし、ドスドスと床を踏み抜くような音を立てながらパソコン机に向かった。

高校を中退して以来、パソコンとベッドの往復すら億劫になってきている。

いつものようにパソコンの電源を点け、ディスプレイにうつる起動中の画面を眺めながら呟いた。

「あーあ、暇だなぁ」

⏰:08/11/23 21:38 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#153 [我輩は匿名である]
「…と、こんな感じかな。
描かれているのは同じ情報だけど、イメージがより明確になってくる」

「こっちのが小説っぽいな」

「直接的に説明するんじゃなく、人物の動きやその場の状況から連想させていくんだ。そうすれば小説らしい文が書けるよ。
あとは、比喩表現なんかも有効だ」

「『まるで○○のようだ』みたいなやつか」

⏰:08/11/23 21:39 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#154 [我輩は匿名である]
「そうそう。ちなみに僕は比喩が下手くそだ。
でも、比喩が上手い人の小説は独特の世界観が醸し出されている。上手くなりたいならそういった作品を読んでみるといい」

「わかった」

「では、おさらいに入ろう」

⏰:08/11/23 21:40 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#155 [我輩は匿名である]
 〜6章のおさらい!〜

「情景描写は読者に情報を与える大切な描写。
みっちり書けとは言わないが、自分の持つイメージを伝えられるくらいは書くこと」

「書く前に、情景描写させるものについて深く考えてみよう。
同じものでも、人によって捉え方がまったく違うぞ!」

「『そこは読者の想像にお任せします』は駄目だ。
作者として居座るなら、自分の世界を作ること。それが嫌なら読者になれ」

「視点をはっきりさせること。
『風が心地いい』とか誰が感じてるのかしっかり書こう」

「説明文にならないように気をつけること。『読まれている』ことを常に意識して書こう。比喩も有効だぞ」

⏰:08/11/23 21:41 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#156 [我輩は匿名である]
「だいぶ本格的になってきたね」

「難しいなー…」

「がんばれ。次は心理描写だ」


>>119-156
第6章 〜小説を書こう! 情景描写編〜 終


次回は

第7章 〜小説を書こう! 心理描写編〜

⏰:08/11/23 21:44 📱:P903i 🆔:epQG/68k


#157 [我輩は匿名である]
なにこの永久保存版


だが3章の

確か、あれは5年前――
    と
確か、あれは5年前──

上の二つはPCだと同じ記号だぜ

⏰:08/11/24 16:31 📱:PC 🆔:☆☆☆


#158 [我輩は匿名である]
>>157
mjsk
たぶん携帯で見れば違いがわかるはず…

⏰:08/11/24 23:18 📱:P903i 🆔:NVwutBNI


#159 [ふむ◆s8/1o/v/Vc]
あげまーす
基本をしっかりと押さえたなかなか良い内容ですよ

⏰:08/11/29 22:26 📱:SH905i 🆔:NCLmiRs.


#160 [我輩は匿名である]
 
第7章 〜小説を書こう! 心理描写編〜

「さて、実践レクチャーはこの章で最後だ。そのあとは諸々、細かいことだけさ」

「とうとうきたか…」

「だがしかし、ここが一番の難関だ」

「今夜が山田だな」

「『心理描写』、叙述描写とも言われるけど。これは情景描写と同じく、読者を引き込ませる上で非常に重要だ」

「うむ」

「緊迫したシーン、和やかなシーン、感動するシーン……
そんなシーンで各々のキャラの味をどう活かせるかは、心理描写で決まってくる」

「難しそうだが…大事なのは間違いないな」

⏰:08/11/30 22:01 📱:P903i 🆔:Qok512as


#161 [我輩は匿名である]
「心理描写って、よく『自分がその状況に置かれた時の心理を書けばいい』って言うけど…
たとえば、君が踏みきりで長い時間待たされてたらどう思う?」

「イライラするな」

「だろうね。でも僕は踏みきりで待っている時間は心地いい」

「え?」

「僕は待つのが好きだからね」

「でも、そんな奴ばっかりじゃいい作品なんて書けっこないじゃん」

「それは、何も考えずに描写した場合の話さ」

⏰:08/11/30 22:02 📱:P903i 🆔:Qok512as


#162 [我輩は匿名である]
 
7−1 キャラ設定と心理描写の繋がり

「たとえば、根暗なキャラがいたとしよう」

「うん」

「何もかも面倒くさい、外に出るのも嫌。
そんなキャラが、家族と旅行に行くことになったらどうすると思う?」

「面倒くさがりで外に出るのも嫌な奴が、自ら進んで旅行に行くはずがない。嫌に決まってるな」

「正解。では太郎くん、君が旅行に誘われたら?」

「もちろん行くぜ」

⏰:08/11/30 22:04 📱:P903i 🆔:Qok512as


#163 [我輩は匿名である]
「うん。気づいたかな?
心理描写では、実際に自分がそのキャラになりきるのが大事なんだ。
同じ性格のキャラクターばかりだと嫌だろう?」

「嫌っつーか気持ち悪いなそりゃ」

「同じような奴ばかりだとストーリーに魅力が無くなるしね。その為のキャラ設定さ」

「心理描写ではキャラ設定が大事なわけだな」

「そう。キャラクターの性格・個性から心理を見出し、書く。これが心理描写の極意だ」

「うむ」

⏰:08/11/30 22:04 📱:P903i 🆔:Qok512as


#164 [我輩は匿名である]
「では、ここに連続殺人犯の太郎がいたとする」

「おっかねぇな」

「この太郎という男、殺人をしたくてしているわけではない。では、彼は何を思っている?」

「うーん、明確な理由がないからなんとも…でも殺人をしたくないんだから、後ろめたい気持ちがあるんじゃないの?」

「それだよ」

「へ?」

⏰:08/11/30 22:05 📱:P903i 🆔:Qok512as


#165 [我輩は匿名である]
「『したくてしているわけではない』、こう言われると大体の人は『したくない』と解釈しちゃうよね?

でも、殺人が中毒になってきていたらどうだい? 中毒とはつまりタバコを吸うように人を殺すわけだから、『殺したい』と思っているわけじゃない。
しかし『殺したくない』か、と言われるとそうでもない」

「6章の林檎のアレみたいな事になるわけか」

「そう、読者と作者でのイメージの相違だ。
しかもこれが人物に起こるわけだから、読者の同意はまず得られない」

⏰:08/11/30 22:05 📱:P903i 🆔:Qok512as


#166 [我輩は匿名である]
「どうすればいいんだ?」

「やはりそこは前もって描写していくしかないね。
キャラの細かな動きや口調、考え方なんかを書くことで、キャラの個性を起承転結の『起』と『承』の間に描写していくんだ」

「なんか大変そうだな…」

「そんなに難しいことはないさ。要は設定に合わせてキャラを動かしていけばいいだけだからね。
ただそれだけに、プロット段階でキャラ設定をおろそかにしていると、大事な所でイメージの相違が出てきたりする。
心理描写は小説の一番大事な描写。そしてそれを書くには、キャラ設定がきちんと詰められていないといけない」

⏰:08/11/30 22:06 📱:P903i 🆔:Qok512as


#167 [我輩は匿名である]
「キャラ設定は心理描写と深く結びついてる、ってわけか」

「その通り。キャラなくして心理描写は成り立たない」

「そして詰め込んだ設定をもとに、自分がそのキャラになりきって描写すればいいわけだな」

「正解だ。では、実際に心理描写をしてみようか」

⏰:08/11/30 22:06 📱:P903i 🆔:Qok512as


#168 [我輩は匿名である]
 
7−3 一人称における心理描写

「心理描写には大きく別けて2種類ある。
直接的な心理描写が1つ。間接的な心理描写がもう1つだ」

「どう違うんだ?」

「読んで字のごとく、そのままだよ。
直接的な心理描写とは、人物の心情をそのまま語らせる描写。
間接的な心理描写とは、人物の動きや表情などの描写から、心情を読者に想像させる描写だ」

「でも、それだと直接的な方が簡単なんじゃ?」

「うん。でも、三人称では直接的な描写はできないからね。
直接的な方は一人称で、間接的な方は三人称で使うもの、と解釈してくれればいい」

「なるほど」

「では、まずは直接的な心理描写から教えていくよ」

⏰:08/11/30 22:07 📱:P903i 🆔:Qok512as


#169 [我輩は匿名である]
「と言っても、直接的描写に関しては教えることはあまりない」

「なんでさ?」

「さっきも言ったが、人物の心情をそのまま語れば、それで直接的描写になるんだ。以下、例文」
 

⏰:08/11/30 22:09 📱:P903i 🆔:Qok512as


#170 [我輩は匿名である]
目の前に壁が見えたとき、俺は絶望した。

後ろには、口角をつり上げながら銃口をこちらに向けるギャングがいる。
もはや恐怖も感じられない。
脳みそは絶望感に浸され、体を動かそうともしなかった。
いや、疲れて動けないだけだろう。

ギャングが引き金に指をかける。
俺の人生はもうすぐ終わる。遺書を残してないのに死ぬのが残念だ。

もう体は動かないし、一思いにやってくれ。
そう思いながら、俺はゆっくりと瞼を閉じた。



「とまぁ、こんな感じかな。
注意点としては、あまりセリフ臭い文章にならないようにすること。
あくまでも『描写』だからね」

⏰:08/11/30 22:09 📱:P903i 🆔:Qok512as


#171 [我輩は匿名である]
「セリフ臭いってのは?」

「こんなやつだ」



どうしよう…彼を怒らせちゃった…
きっと私のことなんて嫌いになったよね…私のバカ!



「ふぅ…書くのすら気持ち悪い文章だな。
一般的に『携帯小説』と呼ばれる小説の、特に恋愛ものに非常に多い。
これをやっちゃうとかなり幼稚な文章に見えてしまうからね。ああ気持ち悪い」

「気持ち悪いって…でもこういうの多いな、確かに」

「やっちゃいけないわけじゃないけどね。やるなら括弧“()”を使ってやるべきだ」

⏰:08/11/30 22:10 📱:P903i 🆔:Qok512as


#172 [我輩は匿名である]
「心の声だな!」

(何コイツ急にテンション上げてるんだよキメエ)

(ナナシさん顔怖い…)

「と、こんな感じだな。地の文は普通は語り口調だから、セリフ臭い文章は入れない方がいい。
まぁ()も一般小説では使われない技法だけどね」

(そうなのか?)

「把握した?」

(把握したぜ!)

「なんとか言えや、ぶち殺すぞ」

「…………」

⏰:08/11/30 22:11 📱:P903i 🆔:Qok512as


#173 [我輩は匿名である]
 
7−3 三人称における心理描写

「続いては間接的な心理描写だ。さっきも言ったように、三人称で心理描写する場合はこれになる」

「ほう」

「では太郎、君はギャングのナナシに追われている」

「さっきのか」

「しかし、逃げ込んだ先は行き止まりだった。太郎は絶望する。
その場面を三人称で書いてみるぞ」

⏰:08/11/30 22:11 📱:P903i 🆔:Qok512as


#174 [我輩は匿名である]
太郎はギャングのナナシから逃げていた。
人気のない裏路地に入る。
だが、目の前には壁があった。行き止まりだ。
太郎の人生は終わった。



「情景描写はかなり省かせてもらった。
さて、この文に心理描写を入れていくぞ。追われているとき、太郎はどんな気分かな?」

「怖くて汗がダラダラだな」

「なら2行目くらいにその描写がいるね」

「太郎は荒い息で、汗を流しながら走った」

「そんな感じだ。それで太郎の焦りが伝わる
そして次に、目の前に壁があったとき」

「太郎は落胆し、膝からがっくりと崩れ落ちた」

⏰:08/11/30 22:12 📱:P903i 🆔:Qok512as


#175 [我輩は匿名である]
「そんな感じだね。
間接的描写は情景描写と同じく、動作や表情から心理を連想させればいい。
まず、そのキャラクターならどんな気分になるかを考える。
そして、その気分になったキャラクターはどんな行動を取るか、それを描写すればいい」

「なるほど」

「心理描写も、書けば書くほど書ける。書きすぎはよくないけどね」

「把握したぜ」

⏰:08/11/30 22:13 📱:P903i 🆔:Qok512as


#176 [我輩は匿名である]
太郎はギャングのナナシから逃げていた。
長い時間走り続けているので息は荒く、流れ出る汗が顎をつたい滴り落ちていく。

やがて太郎は、人気のない路地裏に入った。
だがしかし、目の前には巨大な壁が立ち塞がっていた。行き止まりだ。

その瞬間、太郎は落胆し、膝からがっくりと崩れ落ちた。
太郎の人生は終わったのだ。



「と、これくらいなら許せるレベルだろう」

「難しいな」

「それから、誇張表現も有効な手段だ」

「誇張表現?」

⏰:08/11/30 22:13 📱:P903i 🆔:Qok512as


#177 [我輩は匿名である]
「心情をより強くイメージ付けるために、動作や物の大きさなんかを誇張して描写するんだ。
また逆に、より小さくするために過小描写するのもありだ。
さっきの文を例にすると、『目の前には巨大な壁が立ち塞がっていた』は誇張表現だね」

「なるほど」

「ではおさらいだ」

⏰:08/11/30 22:14 📱:P903i 🆔:Qok512as


#178 [我輩は匿名である]
 
 〜7章のおさらい!〜

「心理描写は大事!
キャラ設定に合わせて、『このキャラは何を思うのか』を考えながら書いていこう」

「キャラの印象付けなしに心理描写したって意味がない。
あらかじめキャラの個性を出していかないと、読者の同意が得られないぞ」

「視点と人称によって、心理描写できるキャラと表現のしかたが限られてくる。
描写する前に、誰視点の何人称かを見直すこと」

「一人称ではキャラクターの心情をそのまま書ける。だが、あくまでも語り口調で書くこと。
心の声をそのまま書くと幼稚に見えるぞ。それをやるなら()を使え!」

「三人称ではキャラの動きや表情から心理を連想させていく。
まずそのキャラの心理を考え、『その心理になったキャラがどう動くか』を想像して描写しよう。
誇張表現や過小描写も有効だぞ」

⏰:08/11/30 22:14 📱:P903i 🆔:Qok512as


#179 [我輩は匿名である]
「良い悪いは別にして、これでもう小説は書けるかな」

「次は何をやるんだ?」

「まぁ色々とね」



>>160-178
第7章 〜小説を書こう! 心理描写編〜 終


次回は

第8章 〜禁じ手〜

⏰:08/11/30 22:17 📱:P903i 🆔:Qok512as


#180 [我輩はプリクラさんである]
良スレはけーん

書く前にこれ読んどけばよかた…
全然理解できてねーけどw


とりあえず、このスレを本にしてくれ

⏰:08/12/02 23:58 📱:N706i2 🆔:w5zvx4VA


#181 [我輩は匿名である]
>>180
理解できてない…マジすか
初心者にも分かるように教えるのって難しいな…

今後のレクチャーの展開を見直してみるか

⏰:08/12/03 03:28 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#182 [我輩は匿名である]
あと今更だけど、このスレは定期ageでお願いします

⏰:08/12/03 03:29 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#183 [我輩は匿名である]
 
第8章 〜禁じ手〜

「どうも太郎です。今日はナナシ先生に内緒で戦闘シーンを書いてきたぜ」



「やるのか太郎!」

「ふはは、殺してやるぜナナシ!」

ガキン! ギィン!

バァン!

「け、剣が!」

「ふはは、覚悟しろナナシ!」



「この手に汗握る展開…我ながら素晴らしいな」

「これはひどい、ひどすぎる!! 貴様それでも俺の弟子カァアァァァ!!」

「うおっまぶし」

⏰:08/12/03 21:58 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#184 [我輩は匿名である]
「一体何だこれは?」

「ナナシ先生、いたのか…」

「まあね。ところでさっきの文だが。
この戦闘は一体何をしてるの?」

「ナナシの剣と太郎の槍のぶつかり合いだ」

「え? 太郎は槍持ってたの?」

「当たり前じゃん」

(こいつ…! 情景描写で何をしていたんだ!!)

⏰:08/12/03 21:59 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#185 [我輩は匿名である]
「それでナナシの剣が折れて、ナナシは追い詰められてる」

「僕はナナシの剣が吹っ飛んだと解釈したが」

「え?」

「このバカモンが、何を習ってたんだ。ぶち殺すぞ」

「うっ」

「まぁそこは割愛しても、擬音を使いすぎだな……」

⏰:08/12/03 21:59 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#186 [我輩は匿名である]
 
8−1 擬音

「初心者の小説でよく見かけるけどね。
擬音を使った描写は、特に厨房が陥りやすい。だが、それでは何をしているのかさっぱり分からん!」

「俺は分かるぞ」

「お前だけ分かっても読者が分からなかったら意味ねーだろボケが!」

「うっ」

「ちょっと書き直してやる」

⏰:08/12/03 22:00 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#187 [我輩は匿名である]
「やるのか太郎!」

「ふはは、殺してやるぜナナシ!」

太郎は薄い笑いを浮かべたまま、その手に持った白銀の槍を構えなおした。
それに呼応するように、ナナシも鉄の剣を鞘から抜き放ち、低く構える。

だが、その瞬間だった。

剣を持つ手が、突然軽くなったような妙な違和感。
刹那、ナナシの剣はバンと鈍い音を立てて、刀身の半ばから折れ飛んだ。

「け、剣が!」

「ふはは、覚悟しろナナシ!」



「擬音は別に使っちゃいけない訳じゃないが、極力使わない方がいい。
上では申し訳程度にナナシの剣が折れる擬音を入れてみたが、擬音を使わず描写した方がいいね」

⏰:08/12/03 22:00 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#188 [我輩は匿名である]
「それに、基本的に擬音はカタカナだ。
カタカナが多い文章は読みづらい上に、稚拙に見えて仕方がない」

「言われてみれば確かに……」

「はっきり言って擬音は手抜きだ。
そんな事をするよりは、細かな描写をして読者の想像を膨らませてあげよう」

「把握したぜ」

⏰:08/12/03 22:01 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#189 [我輩は匿名である]
 
8−2 単調な文章

「他にも鸚鵡返しやどうでもいい事をダラダラ書いたりなど、やっちゃいけない事はたくさんある」

「おうむがえし?」

「今、君がやったのが鸚鵡返しだ」

「相手の言った事をそのまま返すことか…」

「まぁこれも使っちゃいけない訳じゃないけどね、強調させたい場合にはよく使われるし。
ただ、これも使っていると癖になりやすいんだ。どうでもいい事でいちいち鸚鵡返ししちゃったりね」

⏰:08/12/03 22:01 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#190 [我輩は匿名である]
「そうなのか?」

「気づかないうちに絶対になる。だから日頃から極力使わない努力をした方がいい」

「分かった。じゃあ『どうでもいい事をダラダラ』ってのは?」

「例えばこんな会話」




「やあ太郎」

「こんにちはナナシさん」

「今日はいい天気だな」

「そうですね」

⏰:08/12/03 22:02 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#191 [我輩は匿名である]
「ほのぼの系では別だが、こんな感じで単調な会話を続けていると、読者は飽きる。
この程度なら挨拶をしたという言葉だけで済ませられるだろう」

「なるほど」

「シリアスやミステリーなんかでは、こういった無駄な会話が間を殺してしまう。
無駄な会話や文章は極力省いた方がいい」

「把握したぜ」

⏰:08/12/03 22:03 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#192 [我輩は匿名である]
 
8−3 社会的なタブー

「知的障害者」

「ん?」

「市町村の合併問題、治療不可能の難病、伝染病などなど。これらを題材に使う場合は注意が必要だ」

「どういうことだ?」

「フィクションもので、実在する場所・人物なんかを使う場合もそう。
いわば、モラルの観点から見た禁じ手さ」

「嫌がる人もいるってことか」

「まぁそうなるかな。少なくとも誰かが傷つくような書き方はしちゃいけない。
でも大事なのは、それら『タブー』となっているテーマをいかにして書くかだ」

⏰:08/12/03 22:04 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#193 [我輩は匿名である]
「どうするんだ?」

「最低限のルールとして、それらについてきちんと調べること。嘘は絶対にダメだ。
そして、フィクションであっても客観的に書くこと」

「偏りなく公平に、ってことか」

「そうだね。でもこれがなかなか難しいし、少し間違えれば多大な批難を浴びたりする。
だからそういう題材を扱う場合は、名前だけ架空のものとして出したりする。作中で病名を存在しないものに変えたりとかね」

⏰:08/12/03 22:04 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#194 [我輩は匿名である]
「下手に扱わない方がいいのか?」

「初心者はそうした方がいいかもね。
最近は恋人が植物人間になったりだとか、それらのテーマが安易に使われやすいけど、あまりよくない。
そして、やるなら最後まで責任を持って書ききること。それがルールでもある」

「把握したぜ」

⏰:08/12/03 22:05 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#195 [我輩は匿名である]
 
8−4 推理小説などでの禁じ手

「推理小説やオカルトなど、謎解きがメインとなる小説では細かい縛りが多々ある」

「ほう」

「犯人やトリックに関するものが特に多いかな。
読者が推理できない、又は与えられた情報からは推理できないようなトリックなどを使ってはいけない。面白くないからね」

「たとえばどんな?」

「犯人に関しては、『自分(語り手)が犯人でした』はダメ。
ただし、犯人が語り手であると前提を置いた上で話を進めるのはアリだ。
また、推理段階で名前すら出てきていない人物を犯人にするのもダメ」

「ふむふむ」

⏰:08/12/03 22:05 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#196 [我輩は匿名である]
「双子を使ったトリックは、たとえ双子である事を明言していてもダメ。
密室モノで、『実は秘密の通路がありました』もダメ」

「確かに推理のしようがないな」

「推理段階で本文中に書いてなかった事を、種明かしの段階で『実は○○だったんだよ』みたいに登場人物に語らせるのもよくない。
言わなくても分かるだろうが、推理小説では読者があれこれ推理するのが一番の面白さだ。
なので、考えれば必ず犯人が分かるように、作者が情報を出していかないといけない」

「確かにそうだな」

⏰:08/12/03 22:06 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#197 [我輩は匿名である]
「だから、語り手が嘘をついちゃいけない。
たとえば、『妻が死んでいるのを発見した亭主』が語り手だとしよう」

「うん」

「家に帰ると妻が死んでいる。そして語り手としての心理描写が書かれる。
そこに『ビックリした』なんて書かれていたら、その人はもう犯人ではあり得ない」

「犯人ならビックリしないな」

「そうだね。ところが、話を進めていくとその亭主が犯人だった、としてしまうと、これはもうルール違反だ」

「そりゃ分からないもんな」

⏰:08/12/03 22:06 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#198 [我輩は匿名である]
「ただ、会話ならセーフだ。
警官に『殺害したのはお前か』と聞かれて『私ではありません』と答えるのは当然だからね。
それが地の文で書かれた心理描写になるとアウトだ」

「ふむふむ」

「推理小説に限らず、視点が固定された小説では重要なんだけどね。
ファッションに疎い子が語り手だとして、前からお洒落な人が来たとしよう。
この場合、語り手には服の種類が分からないから、『ひらひらした可愛い服』くらいの描写しかできないんだ。ファッションに疎いわけだからね」

「なるほど」

⏰:08/12/03 22:07 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#199 [我輩は匿名である]
「特に初心者の小説ではこういった事が目立つね。
小説というのは描写から場面や人物像を想像させなきゃいけない。
こういう描写の違和感は気にされないけど、作者と読者のイメージの相違に繋がるから注意が必要だ」

「把握したぜ」

「他にも『夢オチ』もあまりよろしくないな」

「今までの出来事は全部夢だった、ってヤツか」

「そう。夢オチは展開に詰まった作者が無理やり打ち切る場合なんかによく見られる。
夢オチは、はっきり言って逃亡と同義だ。必ず話をきちんと締めること」

「把握したぜ」

「では、おさらいだ」

⏰:08/12/03 22:07 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#200 [我輩は匿名である]
 〜8章のおさらい!〜

「擬音を乱用しないこと。読者には何をやってるのかさっぱり分からないぞ!」

「どうでもいいことは綺麗に省く。鸚鵡返しもよくない」

「社会問題など、人権が関わってくるテーマを扱う場合は注意が必要。
嘘は書かない、主観論は書かない、実例又は実在する事柄は書かない。この3つを守ろう」

「推理小説などでは縛りが多いぞ。
自分が考えたトリックがルール的にアリなのか、書く前に調べておこう」

「描写を怠るな! 推理小説などでは特に描写が重要だ。トリックに必要な事は必ず描写すること!
また、その話を語り手がしておかしくないか、必ず確認すること」

「夢オチはつまんないからやめろ」

⏰:08/12/03 22:08 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


#201 [我輩は匿名である]
「そろそろ教えることも少ない」

「次は何をやるんだ?」

「小説によくある技法を教えよう」

>>183-201
第8章 〜禁じ手〜 完

次回は
第9章 〜知っておきたい技法たち〜

⏰:08/12/03 22:09 📱:P903i 🆔:WSbGktfI


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194