こいごころ
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#801 [向日葵]
「お母さんも一緒にいたでしょ?だから、お母さんへの当てつけ。あの時はすでに、お父さんは浮気をやめてしばらく経ってたし、あなたはお父さんの話をききそうもなかったから」

茉里はうっと唸る。

「だって……」

「気にしなくてもあの時は仕方なかったのよ。人間誰だって、信じてみようって心の底から思わなきゃ、いくら真実を言っても嘘にきこえるものだから」

母の器はやはり大きい。
この小さな体に、どのくらいの愛情がつまっているのだろう。

「お母さんは……、どうしてそんなに早くにお父さんを信じれたの?」

⏰:11/06/25 16:37 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#802 [向日葵]
馨はきょとんとする。
裕之のほうを見ると、同時に裕之も馨のほうを見る。
まるで示し合わしたかのように、二人はふっと笑みをこぼして、茉里を見る。

「愛しているからって理由が、一番大きいかしらね」

単純な理由が、とても大きな理由だと思えた。
だから茉里も、今日初めて、二人に向けて、満面の笑みを見せた。

今、この瞬間、忘れてしまっていた家族の時間を取り戻せたのだった。

⏰:11/06/25 16:38 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#803 [向日葵]
ーーーーーーーー…………

次の日の朝。
茉里はふと目を覚ました。

今……何時……?

近くに置いてあった携帯を見る。
起きる時間より一時間も早い。
もう一度寝ようと目を閉じるが、どうしてか寝れそうにない。

仕方ないとカーテンを開けるも、冬の太陽はまだ夢の中にいるらしい。
とりあえず顔でも洗うかと、下に行くことにした。

リビングには明かりがついている。
それもそのはず。
馨が裕之と茉里の分の弁当を毎朝作ってくれているのだから。

⏰:11/06/25 16:38 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#804 [向日葵]
なにか手伝うことがあるかもしれない。

そう思った茉里はリビングに入ろうとした、が。

「裕之さん、ご飯の準備ができないからあちらで座っててください」

「今日はとても目覚めがいいんだ。だから君を手伝うよ」

「そう言って、さっきから私に抱き着いてるだけじゃないですか」

「ああ、そういえば、朝のキスがまだだったね」

「ちょっ……、裕之さ……っ!」

⏰:11/06/25 16:39 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#805 [向日葵]
茉里は遠い目をしながら、足音をたてないように洗面所へと向かった。

二人がラブラブであることは知っていても、ああいうやりとりは出来ればききたくはないものだ。
こっちが恥ずかしくなってくる。

洗面所について蛇口をひねれば、つい手を引っ込めてしまうぐらい水が冷たい。
けれどそれぐらいが、まだ起きてない体には丁度いいのかもしれない。

手で器をつくり水をため、顔に勢いよく数回かける。
さっぱりして鏡を見るのと、洗面所に裕之が来たのとが一緒になった。

⏰:11/06/25 16:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#806 [向日葵]
「あれ、茉里。起きるのにはまだ早いんじゃないのかい?」

「でも目が覚めちゃったし……」

タオルで顔を拭きながらちらりと裕之を見れば、さっきのあんなやりとりの後のせいか、顔がツヤツヤとしているように見えた。

なんかそれって……欲求不満だったみたいでやだな……。
父親がエロいってどうなの。
いや、エロそうだけど……。

「ん?どうかした?」

「いやなんでも」

タオルを元の位置に戻して、立ち去ろうとするが、裕之がにこやかにじっとみつめてくるから、茉里は足を止める。

「……なに?」

⏰:11/06/25 16:40 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#807 [向日葵]
「おはよう」

「……?おはよう」

「おはよう茉里」

「うん、おはよう……。……?なに、一度言えばわかるけど?」

裕之は更ににこにこと笑うと、茉里の頭のてっぺんにキスを落とした。

急なことに驚くより、キョトンとしてしまった茉里は、変な顔をして裕之を見る。

「だ……だから……、なに……?」

裕之はなにも言わず、洗面台の前に立って、歯磨きをしだした。
その周りには音符やら花やらがいくつも飛んでる風に思えた。

ああ、なるほどね。
「おはよう」って言えることが、嬉しいってことね。

⏰:11/06/25 16:41 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#808 [向日葵]
せまい洗面所では自分は邪魔になると思い、茉里はリビングへ向かう。

頭に指先を触れて、口を変に歪ませる。
ニヤけるのを我慢しているのだ。

もう……、そんなことで、いちいち喜ばないでよ……。
私まで、音符が飛びそうだわ……。

深呼吸して、リビングに入ると、頬を赤らめた馨が、ぼんやりしながら朝食を並べていた。

まだ冬のはずなのに、お熱いことで。

茉里は内心手で顔をあおいだのだった。

⏰:11/06/25 16:42 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#809 [向日葵]
ーーーーーーーー…………

「解決お祝い。はい、チョコレート」

と、キャンディのようにくるんだチョコレートを、ミュシャは茉里の口へ放り込んだ。

「あひがほー」

甘いチョコレートの味に、茉里は満面の笑みになる。
ちなみに「ありがとー」と言ったらしい。

「ミューにはいっぱい迷惑かけたもんねー。お礼になにか奢るよ!なにがいい?」

「駅前のデパートの中に最近出来た『トロピカルカフェ』の『トロピカルスペシャルパフェ』」

⏰:11/06/25 16:42 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#810 [向日葵]
「え、あの!?これくらいのやつでしょ!?」

驚いた茉里は両手でその高さを表す。
手と手の幅は40センチくらいだ。

「高級マンゴーと桃を使ってるのにお値段1580円っていう、あのパフェ!?」

「テレビショッピングみたいになってるわよ。冗談よ。奢れなんて言わないわ。割り勘。あんなの一人で食べれるわけないじゃない」

でしょうね。

ディスプレイでしかみたことはないが、あんなもりもりとフルーツが盛られたパフェを、こんなにスレンダーなミュシャが入るわけない。
入っても体を壊しそうだ。

⏰:11/07/02 21:25 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#811 [向日葵]
「そういえば、もうすぐバレンタイン、アンド学年考査だけど、どう?その二大行事の進み具合は」

「あ…………」

「忘れてたのね、二大とも。笹部が泣くわよ」

「宗助はチョコレートもらわなくても気にしなさそうだなー……」

と言いながらも、やっぱり気にするかもと思う。

昨日だって、草食だと思ったら……ということがあった。
宗助のことをわかってない部分は、もしかしたらたくさんあるんじゃないかと思ったものだ。

⏰:11/07/02 21:26 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#812 [向日葵]
泣きはしなくても拗ねそう。
それかなにも言わなくて、最後の最後で渡したら、心底ホッとして「くれないかと思った」とか言いそう。

その顔みたいなと思うあたり、茉里はサディストだ。

でもその後、実はそういう顔が見たくてなんてことを話したら、宗助の肉食スイッチが入ってしまいそうで弱る。

宗助の肉食スイッチはよくわからないから。
そして茉里は宗助が肉食になるとひたすら弱い。

⏰:11/07/02 21:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#813 [向日葵]
一人であれやこれや考えていると、額に激痛。

「いったーい!ミューのデコピン痛いんだから手加減してよ!」

「だって百面相が気持ち悪かったんだもの」

にっこりと笑って茉里をいじめるのが楽しいという顔をするミュシャは、茉里よりもサディストだと思った。

「チョコレート、なんなら一緒に作る?」

⏰:11/07/02 21:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#814 [向日葵]
「……。え!?ミュー好きな人出来たの!?」

「お馬鹿。バレンタインは何も好きな人だけじゃないでしょ?アンタによ、ア・ン・タ」

「あ、友チョコね」

「むしろ茉里は笹部のを作ることしか考えてなかったわねー。親友のことはそっちのけかー」

よよよ、と泣きマネをするミュシャに慌てる茉里。

確かに最近、ミュシャに迷惑かけっぱなしなわりにはなにもしなかったから、罪悪感でいっぱいになった。

「ごめんごめんごめん!!ミューのももちろん作るつもりだったよ!ただ毎年のことだったから話題にださなかっただけで!」

「冗談よ」

⏰:11/07/02 21:27 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#815 [向日葵]
目を覆っていた手をぱっと開いて意地悪く笑う。
茉里はぷくりと頬を膨らました。

「どこのバカップルだ」

呆れたような声がきこえたので、二人して振り向くと、宗助が立っていた。

「おはよう宗助」

「バカップルって、アンタに言われたくないわよ、この色ボケ」

「色ボケって……」

宗助は鞄を置いて、2人の会話に入ることにした。

⏰:11/07/02 21:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#816 [向日葵]
「そういえば、久瀬、最近呼び出し多くないか?」

「バレンタインが近いからだよね。ミューはモテるから」

ミュシャは嫌そうな顔をしながらため息をつく。

先程茉里が言ったように、バレンタインが近いので、なんとか自分にくれないかと、ミュシャに告白する人があとをたたない。

一人が終わったらまた一人。
休み時間の度にそうなるので、ミュシャはここのところ休み時間になると知らない間に消えることが多くなった。

⏰:11/07/02 21:28 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#817 [向日葵]
*アンカー*

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:11/07/03 00:34 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#818 [向日葵]
「どうせ、見た目でしょ。性格がこんなだって知ったら別れようなんて輩、これまでに多々いたわ」

「密かにナルシスト発言が入ってるぞ久瀬」

「ってか見る目ないよね。ミュシャは十分可愛くてしっかりした人なのに」

そう言う茉里の手を、ミュシャはギュッと握って、意味深に見つめる。

「私は、そういうアンタがいるだけで十分だわ」

⏰:11/07/09 03:37 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#819 [向日葵]
どこからか百合の香りがしてきた気がして、宗助は辺りに百合があったか探すようにわざとらしくキョロキョロする。

茉里はそんなミュシャの悪ふざけにのるように、「ミュー……」と呟いて、その手を握りかえす。

「ハイハイ。もうわかったから」

百合の香りをかき消すべく、宗助は二人の間に呆れたようにはいる。
ミュシャと茉里はくすくすと笑った。

「女でも茉里をとられるのは嫌ってわけか……。案外嫉妬深いのねアンタ」

「そういうわけじゃない」

⏰:11/07/09 03:37 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#820 [向日葵]
「え!?じゃあ宗助は私なんかどうでもいいってわけー!?」

先程のミュシャのように、茉里は悲しくなさそうに「うわーん」と言って泣き真似をする。
そんな茉里に、ミュシャが「ひっどーい」と言う。

ああ、姦しい……。

宗助は女の子のノリについていけず、ツッコむことさえ出来ずに呆れた。

「えーと……。あ、いたいた!茉里ちゃん!笹部くん!」

⏰:11/07/09 03:37 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#821 [向日葵]
呼ばれたので、二人は声のする方を向くと、教室の入口に同じ部活の綾香がいた。

何の用かわからない二人は、ミュシャにひとこと言って綾香の元へ行く。

「どうかした?」

「色紙のお金もらおうと思って」

「色紙?」

二人そろって首を傾げるものだから、綾香は眉を寄せる。

「忘れたの?先輩を送る会するのにみんなで書かなきゃいけないでしよ?」

⏰:11/07/09 03:38 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#822 [向日葵]
そこで二人はやっと気づいた。

二大行事どころじゃない。
三年生が卒業するということを忘れていた。

そういえば、自由登校になっていた三年生がいないことに今更気づく。

そして、千早先輩の顔を思い出す。

何故かずっといるものだと思っていた。
卒業するのはわかっていても、それは先の、ずっとずっと先のことで、先輩は、あの変わらない笑顔で自分たちのそばにいると思っていた。

⏰:11/07/09 03:38 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#823 [向日葵]
その先輩がいなくなる。

それは、先輩が引退して、もう一緒に部活が出来なくなるという寂しさではなく、さっきまで隣にいた人が急にいなくなってしまうような、冷たい寂しさだった。

⏰:11/07/09 03:38 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#824 [向日葵]
>>817

アンカーあります

⏰:11/07/09 03:39 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#825 [向日葵]
[最終話]君とこいごころ

休みの日、茉里はいつも部活をやっている道場前を訪れた。

先輩の卒業の日が近づいてくるにつれ、茉里はなんだか落ち着かない気分でいた。

寂しさはある。
卒業を祝う気持ちもある。

じゃあどうしてそわそわするのだろう。

道場に来たら落ち着く気がして、父の出かけようという誘いをけってまで来たのだが、自分の気持ちは闇の中のまま姿を現してはくれなかった。

⏰:11/07/23 19:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#826 [向日葵]
うーん、冬だから感傷的になっているのかしら。

そう思えば、そう思わなくもない気がしてきた。
なので回れ右をしようとした時、道場の中から竹刀の音がきこえた。

「え?」と思った茉里は、すぐに道場へと向かう。

道場前の下駄箱を確認すれば、見慣れた靴がそこにあった。
閉まっている戸を開ければ、戸のすぐ近くにある練習用の人形に、宗助が打ち込んでいた。

⏰:11/07/23 19:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#827 [向日葵]
急に戸が開いて驚いた宗助は、手を振りかぶったままとめて、茉里の方をみる。

宗助は制服のままだ。

「ああ、アンタか……。びっくりした……」

「宗助なにしてんの?」

「アンタこそ」

「質問に質問で返さないで。今は私がきいてるの」

宗助は振りかぶっていた手を下ろして、沢山の竹刀がささってあるところまで行き、竹刀をなおした。

⏰:11/07/23 19:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#828 [向日葵]
「落ち着かなくて、竹刀でも振ったら、雑念が吹き飛ぶかもって。でも、全然駄目だった」

宗助の背中を見ながら、きっと宗助は自分と同じような気持ちになっているんだと思った。

それがわかるから、会話が続かず、外で練習している他の部活の声が、ただでさえ響く道場で響いていた。

「私も、そんな感じ。もう帰ろうとしたら、竹刀の音がきこえたからよったの」

「本当は自主練でもしたかったけど、俺の勝手な都合に誰かを付き合わせることは出来なかったから、一人で来た」

⏰:11/07/23 19:10 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#829 [向日葵]
「私がマネージャーじゃなかったら良かったわね」

「女の子相手に、本気は出せないよ。力も体格も違うからな」

「私が宗助より強かったらどうするの?」

「力技は使わないだろ、やっぱり。体当たりしたらいくら強くても踏ん張れはしないだろ」

となると、綾香もそういう風に扱われているということになる。
綾香は女子主将なだけあって強い。

なんとなく、茉里はむっとなった。

⏰:11/07/23 19:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#830 [向日葵]
人形の横に置かれていた竹刀を取って、このもやもやとした気分を晴らそうとしたが、竹刀がささくれていたのでやめた。

「さ、帰るか。どっか寄るか?」

「珍しい。宗助が寄り道しようだなんて」

「まだ昼前だし、このまま帰るのもったいない気がして」

「んーっ」と考えてから、茉里はポンと手を叩く。

⏰:11/07/23 19:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#831 [向日葵]
「そういえば昨日、華名ちゃんからまた遊びに来てねってメールがあった!だから宗助の家がいい!」

「ダメ。今日は家族勢揃いしてる」

即答され、今度はしょんぼりと落ち込んだ。

家族に紹介してはくれないのか……。

茉里は成り行きでとはいえ、家族に宗助を紹介した。
それは宗助がすごく素敵な人で、家族に早く教えたいと思ったからだ。

そうしてくれないのは、茉里がまだそのレベルに達していないからということだろうか。

⏰:11/07/23 19:11 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#832 [向日葵]
ふと、これがもし先輩なら……と考え、急いで頭をふった。

今更そんなこと思っても仕方がないからだ。

ただ、不安じゃないわけではない。

二人して気づいた、先輩卒業の現実。
宗助にとって忘れられない人。
そんな人がいなくなるとわかったら、もしかしてそちらに行ってしまうんじゃないかと……。

それこそ今更だと、頬を軽くつねって自分を戒めた。

⏰:11/07/23 19:12 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#833 [向日葵]
「今日は帰るよ。お父さんが出かけたがってたから、相手してくる」

「そっか。じゃあ一緒に帰ろう」

こくりと頷き、茉里と宗助は道場をあとにした。

――――――――…………

時は少し進んで、バレンタインの前日。

茉里はミュシャの家へとやって来て、チョコ作りをしていた。
チョコ作りと言っても、茉里はチョコチップが入ったクッキーを焼いている。
ミュシャは茉里が大好きな生チョコを作ってくれた。

⏰:11/07/23 19:15 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#834 [向日葵]
*アンカー*

>>817

⏰:11/07/23 19:20 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#835 [向日葵]
茉里はその生チョコをつまみ食いし、頬が落ちるほど美味しいとでもいうように、頬に手をそえ、幸せそうに笑んだ。

「んー……っ!ミュシャってお菓子作るのやっぱり上手だよねーっ!甘さも柔らかさも丁度いい!」

「そりゃアンタ好みにしてるもの。笹部なんかよりあたしの方がずっと茉里の好みを熟知してると思ってるけど?」

「もっちろん!」

と、いいタイミングでオーブンのタイマーが鳴った。

どうやら焼けたようだ。

⏰:11/07/30 15:45 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#836 [向日葵]
オーブンを開け、天板にのせたクッキーを見てみると、いい具合に焼けていた。
ただ見た目と違い、中が焼けてないということもある、というのを理由に、茉里はクッキーもつまみ食いした。

サクリといい音がしたということで、どうやら茉里のクッキーもうまく焼けたらしい。

「ラッピングどうすんの?」

ミュシャが尋ねる。

「透明の小さめの袋に3つぐらいいれて、その上からまた奇麗な袋にいれるの」

「なるほどね。あとは持っていく時にクッキーが割れないように気をつけるのみね」

⏰:11/07/30 15:46 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#837 [向日葵]
本当はピンク色の可愛らしい袋や箱で飾り付けたかったが、宗助はそういうのを好まないだろうと、色はグリーンで上品かつシンプルな柄の袋を買った。

もちろん、宗助はピンク色だとか、箱や袋に花がついてそうなものでも喜んで受けとってくれると思う。
でも出来るだけ完璧なものを渡したいから、今回はシンプルめにした。

にこりとはしなくても、雰囲気で嬉しいと思ってくれているのが分かればいいなと思う。

宗助はあまり口にはしないから。

⏰:11/07/30 15:46 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#838 [向日葵]
「そういえば……」

ミュシャが茉里のクッキーをつまみながら言う。

「笹部って意外にモテるのね。何回か女子の会話がきこえた時、笹部に渡すって言ってた子が何人かいたわ」

「えっ!?なにその聞き捨てならない話!!」

思わずラッピング途中のクッキーを握り潰しそうになった。

宗助はミュシャとは違い、物語で言えば生徒A扱いでもされそうなほど目立つ容姿はしていない。

⏰:11/07/30 15:47 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#839 [向日葵]
無愛想、無難、地味、パッとしないなどの表現が似合いそうなのだ。

しかし、茉里と付き合うことにより、笑ったり話したりしている姿に好感を抱き、接しやすくなったと評判になっていた。

そんなことを茉里は知らない。

「ど、どどどどうしよう……っ!突然現れた可愛い子に宗助をとられたら……っ!!」

「アンタ彼女なんだから堂々としてなさいよ。ってか彼女のくせに、いつまで自分に自信がないのよ」

「不安が拭いきれないのは恋する乙女の決まった問題ですから……」

「あんまりうっとおしいと、今年の生チョコはあげないわよ」

⏰:11/07/30 15:47 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#840 [向日葵]
「そんな血も涙もない……っ!!」

「そんなしょうもないことをウジウジウジウジいつまでも考えるからよ。これがまだ片思いでどうのこうの言ってるんだったらまだ良心のかけらで慰めてあげるけど」
「片思いでも良心のかけらぐらいしかくれないのね……」

逆に泣きたい。

やっぱりいつもの調子が出ないなーと難しい顔をしていると、携帯が鳴った。
このバイブは電話だと思い、誰からだと確認せずにとってしまう。

⏰:11/07/30 15:47 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#841 [向日葵]
「はい、もしもし」

「もしもし、俺だ」

「あら宗助。どうしたの?私が恋しくなったとか?」

「いや違うけど」

「即答するな!悲しくなるわ!」

ミュシャはやれやれといった風に首を振ると、台所へと向かっていった。

「私が恋しくないなら何の用でございますか?愛しの笹部宗助くん」

「なんかトゲがあるんだが……」

「気のせいじゃなくって?」

⏰:11/07/30 15:48 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#842 [向日葵]
こっちは宗助の喜ぶ顔がみたくて、クッキーを作ってたっていうのに!!
クッキーに色づけとでも称して唐辛子のパウダーでもかけてやろうかしらっ。

怒りで半目になりながら、その声に耳を傾ける。

「華名が会いたがってるんだ。今どこだ?」

「ミューの家だけど」

「ああ先約があったのか。じゃあ無理だな」

⏰:11/08/06 00:55 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#843 [向日葵]
先約は先約だけど……!
そうじゃなくて……っ。

「夕方くらいなら空いてるから、宗助の降りる駅で待っててって伝えてくれる?私がそっちに行くから」

「いや、俺がそっちに華名を連れて……」

「明日まで宗助と会いたくない!!」

そのまま電源ボタンを押す。

衝動的に押したものの、後悔が後から後から押し寄せてきた。

⏰:11/08/06 00:55 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#844 [向日葵]
ああもうっ!
なにやってるの私!

色んな不安を、宗助に八つ当たりしたって、なにも始まりはしないのに。

テーブルの上にある、綺麗にラッピングされた袋をちらりと見る。

明日こんな気分で、にこやかに、愛情たっぷりに、「どうぞ」と言って渡せるのだろうか。

なにも今日喧嘩しなくてもよいではないか。

携帯を握りしめたまま、茉里はうなだれる。

⏰:11/08/06 00:56 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#845 [向日葵]
「ハイハイ、萎れない萎れない」

ポンと、ミュシャが茉里の頭に手をのせる。

「あたしも余計なこと言った。それは謝る。でもアンタがいつまでもそんなんじゃ、笹部も信じれるものが信じれなくなるわよ。アンタがまず、笹部を信じなさい」

ミュシャの言葉が、胸にしみる。

信じてないわけじゃない。
ただ悲しい。

好きだと思っていても、宗助が思っている好きと茉里の好きには違いがありすぎる気がする。

⏰:11/08/06 00:56 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#846 [向日葵]
宗助は好きだと言ってくれた。
してほしいことは言ってくれと言ってくれた。
それだけで、宗助の愛情は十分だし、茉里は宗助がそういう方面が苦手なのもわかっている。

けれど、求めるばかりじゃなくて、求められたいとか、甘えられたいとか思ってしまうのは、贅沢なことなのだろうか。

このクッキーを渡して、本当に喜んでくれるだろうか……。

―――――――…………

「あ、茉里ちゃーん」

⏰:11/08/06 00:56 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#847 [向日葵]
夕方、電車に乗った茉里は、華名と待ち合わせをしている駅へとやって来た。

改札口のすぐそばに、あったかそうで可愛らしいなポンチョを着た華名が立っていた。
こちらにいると、背伸びして、めいっぱい手を振っている。

茉里は駆け寄って、そのまま華名を抱きしめた。
華名も抱きしめ返し、茉里に甘えるように頭をすり寄せる。

「ごめんね、お待たせっ」

「ううんー。華名も、今来たとこだからぁ大丈夫だよぉ」

⏰:11/08/06 00:57 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#848 [向日葵]
相変わらずのゆったりのんびりな口調に、茉里は顔をほころばせた。

メールのやりとりはしていたものの、会うのは正月以来だ。
茉里も華名に会いたかった。

「えっと、私の家まで来る?そしたらゆっくり喋れるよ」

すると華名は顔を動かさずにちらりと目だけで後ろを見て、茉里の耳に口を近づけた。

「実はねー、そこの物陰に、宗兄がいるの」

は?

⏰:11/08/06 00:57 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#849 [向日葵]
「気づかれないように、そろっと見てみて」

物陰と言っても、物陰はたくさんある。
探しているのを気づかれないよう、ゆっくりと目だけを動かす。

「あ」

いた。

切符販売機の近くの太い柱に、宗助がいる。
遠くにいるので表情はわからないが、あちらもこっちに気づかれないように、こそっと見ていた。

⏰:11/08/06 00:58 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


#850 [向日葵]
その様があまりに馬鹿らしく見えて、茉里はぽかんとした顔のまま華名に顔を向ける

「なにしてんのあの人」

「きっと茉里ちゃんがこわいのよぉ」

「なにそれ?」

「茉里ちゃん、宗兄と喧嘩したんでしょぉ?華名、あの時近くにいてねぇ。茉里ちゃんの怒ってる声が聞こえちゃってぇ」

恥ずかしい……。

⏰:11/08/06 00:58 📱:SH05A3 🆔:☆☆☆


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