○アダムの唄○
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#101 [紫陽花]
父親譲りの切れ長の細い目を少しつり上げて央里は問う。

真紀は下唇を軽く噛み、いつもはクリクリと可愛らしく動いている瞳をギュッと瞑り、ゆっくりと重い口を開いた。

「央里、あなたの才は……」

真紀は今にも泣きそうな顔で央里を見つめる。

たった数秒の躊躇いが央里を何故か不安にさせた。

“なに躊躇ってんだよ!?”

そしてまたも数秒躊躇ってから真紀は意を決したように前を、央里を見据え叫んだ。

「あなたの才は……『運命を変える才』なのよ……!!」

⏰:08/08/14 23:23 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#102 [紫陽花]





「……はぁ?運命?」

⏰:08/08/15 21:32 📱:F905i 🆔:.7hhoXCo


#103 [紫陽花]
「央里、さっきアダムの予言の話したよね?あれには続きがあってさ……」

今度は傳が口を開いた。

パサリと乾いた音を立て、またも“アダムの唄”をめくり、指である一点を示す。

「アダムの唄の最後に……そう、この頁に『夏が終わる頃、地球は滅びる』って書いてあるんだ……」

「はぁ?本当にその予言あたんのかよ?外れないわけ!?」

⏰:08/08/15 21:33 📱:F905i 🆔:.7hhoXCo


#104 [紫陽花]
目を大きく見開き、半ば叫ぶように声を荒げた央里とは反対に、この部屋にいる央里以外の全ての者が静かに俯いた。

「兄ちゃん……今のところ、この本の予言は外れたことがないんだよ。だから、外れる可能性は……すごく低い」

榎久はそれだけ言うと、キュッと唇を結び、クリクリのかわいい目を伏せて静かに俯いた。

⏰:08/08/15 21:34 📱:F905i 🆔:.7hhoXCo


#105 [紫陽花]
「榎久……なぁ親父。なんとかなんねーのかよ!?このまま死ぬなんて俺、嫌だぜ!!」

叫び声と共に、バンっと両拳で机を叩いた音が響く。

央里は自分の中に収まりきらない苛立ち、不安を外へ投げだそうとしたのだろう。


いきなりに突きつけられた世界滅亡の話は彼にとって信じがたいものだった。

だが“アダムの唄”の不思議な移動能力や、記された予言を目の当たりにした央里には完全に否定することは不可能だったのだ。

⏰:08/08/15 23:46 📱:F905i 🆔:.7hhoXCo


#106 [紫陽花]
「央里……お前の才は何だったか覚えてるな?」

衛はゆっくりと央里を宥めるように穏やかに語りかけた。

「俺の才は……運、命を変え……る」

「そうだ。この揺るぎない運命を変えることが出来るのはお前だけなんだ!!!」

衛も真紀も榎久も傳も突き刺すように央里を見つめる。

⏰:08/08/15 23:47 📱:F905i 🆔:.7hhoXCo


#107 [紫陽花]
まるで何か巨大な力に祈りを捧げるように、すがりつくように視点を一点にあわせる。

「そんなこと言われたって……」

周りに聞こえるか聞こえないかギリギリの音量で央里は呟いた。

“自分にはできない”

“運命を変えるなんて……”

「央里。これは現実であり同時に真実でもあるんだ……」

小さいながらもハッキリと芯のある声で傳は、言った。

⏰:08/08/15 23:48 📱:F905i 🆔:.7hhoXCo


#108 [紫陽花]







“宇峰 央里”という人物の運命の歯車はこの日から壊れてだして、いや、動き出していたのかもしれない。

⏰:08/08/15 23:49 📱:F905i 🆔:.7hhoXCo


#109 [紫陽花]



4頁
《そして旅立ち》


⏰:08/08/18 23:58 📱:F905i 🆔:TWD9QkBw


#110 [紫陽花]
「運命ねぇ……」

時刻は6時48分。

央里はベッドの上で枕元の時計をのぞき込みながら呟いた。

今日は日曜日ということで学校は休みなのだが、毎日の習慣というものは恐ろしく、央里はいつもの起床時間に目が覚めてしまっていた。

昼間の焼き付けるような太陽の光とはうって変わって、カーテンから溢れ出す早朝の太陽は、寝起きの央里の目を優しく刺激する。

⏰:08/08/18 23:59 📱:F905i 🆔:TWD9QkBw


#111 [紫陽花]
時計をみた後で仰向けの体勢へと体を傾けた央里は、そのままの体制で左手だけを伸ばし、一気にカーテンを開けた。


カシャっとレールの擦れる金属音を残し、露わになった窓からは目もくらむような眩しい朝日が部屋に差し込む。

「ちょ、央里。眩…し……い」

その後まもなくベッドの一段下、すなわち床からうめき声が。

⏰:08/08/19 00:01 📱:F905i 🆔:h9DiIFH6


#112 [紫陽花]
その声の主は朝の光を拒絶するように左腕で両目を塞ぐ。
そして数秒もしない内にまた規則正しい寝息が始まった。

「ったく、部屋が余ってないからって何で傳と同じ部屋で寝なきゃなんねーんだよ……」

そう言うと央里は体を起こし、欠伸を一つこぼしてからまだ眠っている傳を跨いで部屋を後にしたのだった。

⏰:08/08/19 00:02 📱:F905i 🆔:h9DiIFH6


#113 [紫陽花]
部屋を出た央里は、よれよれのTシャツにダボダボの短パン姿で洗面所へと向かった。

蛇口をひねり水を出す。

蛇口から流れる水に手を添えれば、形のつかめない液体が柔らかい抵抗を手に与え、寝起きの火照った央里の体温を冷ましていく。

水をすくい、眠気眼を洗い流すと靄が取れたように央里の頭はスッキリと活動し始めた。

「運命ねぇ……」

前髪に水滴の付いた鏡に映る自分を見ながら、またも呟く央里。

⏰:08/08/19 23:35 📱:F905i 🆔:h9DiIFH6


#114 [紫陽花]
――――――………

――――………

「央里。これは現実であり同時に真実でもあるんだ……」

「分かったよ!!
現実だって事は分かった。
でもさ、俺は何をしたらいいわけ?てゆーか、何かしなくちゃいけないわけ?」

眉間にしわを寄せ全てがかんに障り、気に入らないとでも言うように、ぶっきらぼうに央里は言い返す。

⏰:08/08/19 23:37 📱:F905i 🆔:h9DiIFH6


#115 [紫陽花]
「落ち着け央里。今から、これからのことを説明してやる」

またも衛が宥めるように言った。
その姿はまるで怒り狂った牛を抑える闘牛士。

「お前は何もしなくていいんだ。お前が存在するだけで運命は常に変化し続ける」

⏰:08/08/19 23:38 📱:F905i 🆔:h9DiIFH6


#116 [紫陽花]
“運命を変える才”ってのはアダムの能力の中でも一番力のある才と言われていてな。

アダム自身も、自分の強大な力のことはよく理解できていたらしく、その力が暴走して多くの運命の歯車が狂いださないように特別な封印を施した。


その封印とは“運命を変える才”を使うには『イヴ』を理解し、共にいるという条件を満たしたときにのみ発動できるというものだ。

このことは“アダムの唄”にも記してあるから、まず間違いはない。

⏰:08/08/19 23:41 📱:F905i 🆔:h9DiIFH6


#117 [紫陽花]
「イヴって?」

眉間に寄せていた皺をより一層深くして、央里は問う。

「イヴってのは、アダムと一緒に地球に降り立った人間……と、されているんだけど詳しいことは“アダムの唄”にも明記されていない…ん……だ」


申し訳なさそうな声を出して、央里のイヴへの疑問の答えを導き出してくれたのは榎久だった。

⏰:08/08/19 23:44 📱:F905i 🆔:h9DiIFH6


#118 [紫陽花]
「なるほど。まさに未知の生物って奴ね。……なぁ、さっきから聞こうと思ってんだけど榎久は何でそんなにこの話について詳しいんだ?」

「ほぇッッッ?」

榎久はいきなり話題を降られたことでビクッと肩を揺らした。
クリクリの目をさらに驚きに丸める。

⏰:08/08/19 23:45 📱:F905i 🆔:h9DiIFH6


#119 [紫陽花]
「えっとね、“アダムの唄”のこととかは学校で習ってるんだ。小学校の時からずっと」

「あれ?でも俺習ってないよ?今初めて聞いたし」

「兄ちゃんはほら……
この話の当事者だから、先生達も兄ちゃんが分別のある年になるまで秘密にしとこうって言ってたよ」

「分別、ねぇ……普通こんな大切なこと秘密にするか?」

央里は呆れたように首を横に振る。

⏰:08/08/22 01:00 📱:F905i 🆔:5WVXDoXE


#120 [紫陽花]
「仕方ないよ。“運命を変える才”を持つのは世界で兄ちゃんだけだし、何より未来を変える救世主だからね!!」

榎久は目を輝かせ、兄である央里のことを誇らしげに言う。

「はぁ……
で、親父と榎久の話からすれば、俺はイヴってやつを探せばいいのか?そうしたら地球滅亡の運命は変わるんだろ?」

「そうだ。少なくとも、今までの研究ではそれが一番確率の高い地球滅亡の回避方法だと言われている」

⏰:08/08/22 01:02 📱:F905i 🆔:5WVXDoXE


#121 [紫陽花]
衛は間髪入れずに央里の意見を肯定する。
まるで央里がその答えにたどり着くのを待っていたかのように素早い応答。

「そこでだ!!準備が出来次第、央里は傳君と共に旅にでてもらう」

「はぁぁぁああ!?」
「すいません、お茶を注いでいただけますか?」

驚きを隠せず目を丸める央里とは対照的に、傳は真紀にお茶を要求するほど落ち着き払っていた。

⏰:08/08/22 01:04 📱:F905i 🆔:5WVXDoXE


#122 [紫陽花]
「目的地は傳君が知ってる。だから央里は、ついて行くだけでいいよ」

「兄ちゃん、旅するなんてうらやましいなぁ〜。救世主っぽいよ!!なんか色々と頑張ってね!!」

追い打ちをかけるように、榎久までも央里に無邪気な笑顔でエールを送る。

“もう、引き返せない……”

その夜、央里には落胆のため息を吐くことしかできなかった。

⏰:08/08/22 01:05 📱:F905i 🆔:5WVXDoXE


#123 [紫陽花]
――――――………

――――………

「くそっ。あのバカ親父。勝手に決めやがって……」

衛への行き場のない怒りはピークを迎え、ついには溜め息しか出てこなくなった。


時刻は7時6分。

“日曜だし、どうせだれも起きちゃいないだろうな”

と一度は思ったものの、早朝から予想以上に泣きわめく腹のムシを黙らせるために台所へと向かった。

⏰:08/08/24 23:39 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#124 [紫陽花]
「あら、おはよう。おうちゃん起きてたの?」

父の趣味である観葉植物たちが立ち並ぶリビングを通過し、台所へと足を踏み込むと真紀の姿があった。

「はよ……。目、覚めちゃってさ。それよりなんか食べるもんある?」

だが、よく見れば真紀は赤いチェックのパジャマ姿。
真紀も今起きたばかりなのだろう。

そんな母に起きてすぐ食べ物を要求するなんて……。

央里は俯き、自分の食い意地にほとほと呆れた。

⏰:08/08/24 23:40 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#125 [紫陽花]
「お腹すいたのね。何か作るわ」

「ん……。ありがと」

しばらく冷蔵庫を漁る真紀を見ていたが、

「なに見てんのよ……」

とドスの利いた声と共に睨まれた央里は、仕方なく衛の観葉植物たちに水をやることにした。

日曜の朝と言うこともあり、外から全く音がしない。

⏰:08/08/24 23:41 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#126 [紫陽花]
たまに何か聞こえたかと思っても、台所からの真紀の鼻歌ぐらいのもので、心地良い静けさが央里の耳を包んでいた。

数分後、台所からは何かを炒めるような油の音と、食欲をそそる香ばしい匂いが。

「おうちゃーん!!出来たよ〜!!」

水やりをしていた手を止め、央里はいそいそと台所へ向かう。

⏰:08/08/24 23:42 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#127 [紫陽花]
「……うまそっ!!」

央里の目に、テーブルの上に温かい湯気を出しながらも美味しそうな匂いを放っている目玉焼きと白ご飯が飛び込んできた。

「はい、ケチャップ」

央里は醤油派でもソース派でもなく、胡椒のたっぷりかかった目玉焼きにケチャップをかける派だった。

⏰:08/08/24 23:42 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#128 [紫陽花]
「ありがと。いただきまーす」
テーブルに腰掛け目玉焼きを食べる央里の真ん前にコーヒーを持った真紀も座る。

「美味しい?」

「う、まい……よっ!!」

口いっぱいに白飯と目玉焼きを頬ばって、モゴモゴとしゃべる央里はまるでハムスター。


真紀自身も気付かない内に頬がゆるみ、榎久とそっくりなクリクリの目で温かく央里を見つめていた。

⏰:08/08/24 23:43 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#129 [紫陽花]
その後も一心不乱に目玉焼きを食べていた央里だったが、しばらくして唐突に口を開いた。

「お袋さ、昨日の夜すげー悲しそうな顔してたけど……何で?」

「あら、母さんそんな顔してた〜?見間違いじゃないの〜?」

ケタケタと不自然なほど笑いながら真紀は答えた。

⏰:08/08/24 23:44 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#130 [紫陽花]
だが、央里は黙ったまま真紀を見つめる。
心の中を探るように、切れ長の目を真っ直ぐに真紀に向けて。

「……このご時世に、自慢の愛息子が旅にでちゃうのよ?それも人類の未来を背中に背負った上での危険な旅に」

真紀の手にあるコーヒーの水面が揺れる。

微かに、震えているのだ。

「あなたが生まれた時から、いつかはこうなるって分かってた。でも……!!」

マグカップを勢いよく机に置き、そのまま両手で顔を覆った。

⏰:08/08/24 23:45 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#131 [紫陽花]


「不安でたまらないのよ……」

⏰:08/08/24 23:46 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#132 [紫陽花]
今にも消え入りそうな声で胸の内を話した真紀は、
いつもの威勢のいい真紀ではなく“母”であるがゆえに背負っている辛さを耐えている一人の人間だった。


きっと央里を不安にさせないように、この今にも全てを侵食していくような不安という暗闇を、押し込めてきたのだろう。

「お袋……」

「ごめんね。こんなこと言ったら不安になるのは央里なのにね……」

真紀は顔から両手をはなし、ぎこちない笑顔で央里を見る。

⏰:08/08/24 23:48 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#133 [紫陽花]
「俺は大丈夫だから!!
それにそんなに心配しなくても俺、絶対帰ってくるし!!」

白い歯を見せてニカっと笑う央里。

「まったく、その自信家なところは誰に似たんだか……」

「お袋からの遺伝だよ!!」

⏰:08/08/24 23:48 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#134 [紫陽花]
自然と真紀の口元にも笑みが広がった。
その顔を見て、満足そうに央里は立ち上がり食器を台所へと運ぶ。

「央里」

名前を呼ばれた央里は、台所からリビングに顔だけ出して真紀を見た。

「頑張りなさい」

央里は食器を置いてそれに答えるように、右手でピースサインを表した。

⏰:08/08/24 23:50 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#135 [紫陽花]
――――――………

――――………

あれから一週間。

央里と傳はまだ出発していなかった。

衛が言うには、これから行く目的地へ送った手紙の返事が帰ってこないらしく、本当に訪れていいのか定かではないのだそうだ。

⏰:08/08/24 23:50 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#136 [紫陽花]
そして出発できない理由の一つに、傳の体調が優れないという事もあった。

この一週間の間にまたも黒スーツの男が央里の命を狙ったのだ。

「次がないんだ……」

と独り言のように何度も呟き、いつも以上にしつこく追ってきた。

それから逃れるために“アダムの唄”を連続して使ったために、傳の体が耐えきれず倒れてしまっていた。

⏰:08/08/24 23:51 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#137 [紫陽花]
「傳!!今日の体調はどうだ?」

お粥の乗ったお盆を左手にもち勢いよく部屋に入る。

この一週間、傳に自分のベッドを占領されている央里たが、自分を助けるために倒れたということを考えると何もいえなかった。

「だいぶ、ま…し……」

「そうか!!まぁ、無理すんなよ」

そういって傳にお粥を渡す。

⏰:08/08/24 23:52 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#138 [紫陽花]
“アダムの唄”を説明した時とはまるで別人のように無口になった傳。

央里は以前、なぜ喋らないのかと問うたことがあった。

「喋るのは嫌じゃないけど、口の筋肉動かすと、疲れるじゃん……」

いかにも傳らしい答え。


その時、央里も傳に

「なんで、いつも教室で一人なの……?」

と問われていた。

⏰:08/08/24 23:53 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#139 [紫陽花]
央里も学校では遠巻きに扱われ、一人疎外感を感じるときがあった。

馬鹿みたいに群れるのが嫌いなだけで、人と喋るのは嫌いじゃない。

むしろ好きな方。

ただ、人が怖いだけなのだ。

相手が心の中で自分をどんな風に思っているのか。

自分は嫌われているんじゃないのか?

そんな誰しも心に秘める他人への恐れが、央里にはとても巨大な壁のように感じられていた。

⏰:08/08/24 23:55 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#140 [紫陽花]
「俺が一人でいるのは、お前と似たよーな理由だよ」

そんな針鼠のような外側にトゲを持つ央里の心は、自分と傳は似たもの同士だと思っていた。

だからアダムの話も信じたし、傳が倒れたときは大きな責任が重くのしかかってきたのだ。

⏰:08/08/24 23:56 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#141 [紫陽花]
「はやく元気になれよ!!ちゃちゃっとイヴを探して安全になろーぜ」

央里はちょびちょびとお粥を食べている傳にピースサインを送る。

「…………」

傳はコクリと肯くだけ。

それだけで満足したかのように、央里はお盆と傳を残して部屋から出て行った。

⏰:08/08/24 23:57 📱:F905i 🆔:wNVjWFuo


#142 [紫陽花]
――――――………

――――………

夏も終わりに近づき、刺すような日差しが少しだけ柔らかくなった8月中旬。

ようやく出発の日が決まった。

⏰:08/08/26 23:49 📱:F905i 🆔:wRVlfP.Q


#143 [紫陽花]
時刻は9時13分。
央里、傳の二人は玄関で最終チェックを受けていた。

「おうちゃん!!ハンカチ、ちり紙持った!?」

「…………」

「傳君!!“アダムの唄”持ったかい?」

「…………はい」

必要以上に世話を焼く二人。

何かしてないと落ち着かない、そういったかんじだ。

⏰:08/08/26 23:50 📱:F905i 🆔:wRVlfP.Q


#144 [紫陽花]
白のTシャツにジーパンの央里の手荷物は、今はいているジーパンの中の携帯と財布のみ。


ボタンをあけた紺に白の細いボーダー柄のシャツを着た傳も同じ様に、スーツケースのような大きな荷物は持っていない。

かわりに小さな白地に緑のロゴの入ったエナメルバックを肩から下げているだけだった。

「なぁ、本当にこれだけでいいのかよ?」

⏰:08/08/26 23:52 📱:F905i 🆔:wRVlfP.Q


#145 [紫陽花]
荷物はできるだけ少ない方がいいだろうが、さすがの央里もこの少なさには焦りを隠せなかった。

「大丈夫。これ見せればみんな協力してくれる……」


傳はエナメルバックを指差す。
エナメルの中身は間違いなく“アダムの唄”。

「……はぁ?」

央里ひ信じられないとでも言うように首を傾げた。

⏰:08/08/28 23:28 📱:F905i 🆔:kt91UOxg


#146 [紫陽花]
「さぁさぁ、二人とも時間だ」
だが、そのことにそれ以上ふれることなく、衛が出発を促した。

「じゃあ、さくさくっとイヴ見つけて帰ってくるから」

央里は衛、榎久を見た後真紀をゆっくりと見てからピースサインを向ける。

真紀の瞳には今にもあふれ出しそうなほどの涙が。

⏰:08/08/28 23:29 📱:F905i 🆔:kt91UOxg


#147 [紫陽花]
だが、その滴で自分の頬を濡らさぬよう精一杯の笑顔を作り

「いってらっしゃい」

とだけ言った。


「傳兄ちゃんも気をつけてね!!」

両手でガッツポーズを作り榎久はエールを傳に送る。

「ありがと……」

照れくさそうに左手で鼻を擦りながら傳も笑顔で答えた。

⏰:08/08/28 23:30 📱:F905i 🆔:kt91UOxg


#148 [紫陽花]
「疲れたらすぐに帰っておいで。おまえたちの家は此処なんだから」

「おう!!じゃあ、いってきまーす!!!」

元気よく玄関の扉を開けると、澄み切った青空が広がっている。

空も央里たちを応援するかのように眩しく煌めく。

こうして運命を背負った二人は“イヴ”を探すという運命の歯車を回し始めた。

⏰:08/08/28 23:32 📱:F905i 🆔:kt91UOxg


#149 [紫陽花]
――――――…………

―――――……

「衛さん。親が待ってるだけなんて寂しいわね……」

「なぁに、あいつ等は運命を変えて、すぐに帰ってくるさ!!」

二人は央里たちの出て行った玄関を見つめながら、そっと寄り添った。



「ねぇ父ちゃん……」

「ん?何だ榎久?」

⏰:08/08/28 23:33 📱:F905i 🆔:kt91UOxg


#150 [紫陽花]
「兄ちゃんに“宇峰”の姓のこと話してないよ。
“14番目”のことも“ネイク”のことだって話してないけど、よかったの?」

「……あ゙あ゙ぁぁぁぁ!!言うの忘れてた!!」

衝撃を受けている衛をよそに、真紀と榎久は呆れたようにため息を吐き、冷たい視線を送った。

⏰:08/08/28 23:35 📱:F905i 🆔:kt91UOxg


#151 [紫陽花]
「だ、大丈夫!!
央里たちが向かった場所で誰かが話してくれるよ!!!!」

目を泳がせながら、衛は逃げるように一歩また一歩と後退りする。

「こんな親父で、可哀想な兄ちゃん……」






………央里と傳の前途多難な旅は、始まったばかりである。

⏰:08/08/28 23:36 📱:F905i 🆔:kt91UOxg


#152 [紫陽花]
プロローグ
>>2-3

・1頁
《始まりの時》
>>4-33

・2頁
《必然の出会い、そして……》
>>35-67

・3頁
《真実という現実》
>>68-108

・4頁
《そして旅立ち》
>>109-151

《感想板》
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3531/

⏰:08/08/28 23:41 📱:F905i 🆔:kt91UOxg


#153 [紫陽花]


5頁
《單柵村・瞬光村》


⏰:08/09/01 00:52 📱:F905i 🆔:dc1.LTJE


#154 [紫陽花]
「勢いよく家を飛び出したものの……俺らどこ行くの?」

宇峰家を出発してから央里と傳はただひたすら見慣れた大通りを歩いていた。

「もうちょっと付いてきて……」

八月と言ってもまだ夏。

数分間歩けば央里の首筋には、しっかりと汗が滲んでいた。

⏰:08/09/01 00:53 📱:F905i 🆔:dc1.LTJE


#155 [紫陽花]
「せめて目的地ぐらい教えろよー!!」

まるで赤ちゃんがだだをこねるように央里は教えろとせがむ。

「分かったから……」

僕たちが今から向かうのは『探す才』を持った人たちが自治する村、つまり單柵村(タンサクムラ)だよ。

そこで、イヴの現在地を調べてもらう。闇雲に探してたら何十年とかかるからね。

⏰:08/09/01 00:54 📱:F905i 🆔:dc1.LTJE


#156 [紫陽花]
「なるほど!!で、どうやってその村に行くんだ?」

額から流れる汗を真紀に無理矢理渡されたタオルで拭う。

もうジリジリと焦げ付くような太陽ではないが、行き交う人々も日傘をもち、サングラスをかけている人までもいる。

「移動手段はこれしかないでしょ……」

ニヤっと笑ってエナメルバックから“アダムの唄”を取り出す。

⏰:08/09/01 00:55 📱:F905i 🆔:dc1.LTJE


#157 [紫陽花]
「お前!!それ使ったら、また倒れるだろーが!!」

驚きと怒りを露わにして央里は怒鳴る。

まだ人通りの多い道だった為、多くの人が振り返って央里を見たが、気にもとめず央里は傳を睨む。

「大丈夫。あの時はちょっと使いすぎただけだから……」

⏰:08/09/03 23:49 📱:F905i 🆔:Oww9YNww


#158 [紫陽花]
何事もなかったかのようにサラリと言いのけた傳を央里は今度は歯を食いしばりながら睨む。

“あんなに青い顔してたのはどこのどいつだよ!!”

文句は次から次へと頭の中を巡るがうまく言葉にできない。
どんな風に言ったら傳を説得できるか分からない。

いろいろ考えてはみたものの巧く傳を言い負かす言葉が出てこなかった央里は、食いしばっていた唇を緩め一言だけ

「馬鹿やろう!!!!!!」

と言い放った。

⏰:08/09/03 23:50 📱:F905i 🆔:Oww9YNww


#159 [紫陽花]
―――――――…………

―――――………

どれほど歩き続けたのだろうか。

見回す限り木、木、木。

ついさっきまで舗装された平たい道を歩いていたのに、今では凸凹のある土が剥き出しになった道を歩いていた。

木々から時折差し込む弱々しい光が、この森の深さを表している。

⏰:08/09/03 23:50 📱:F905i 🆔:Oww9YNww


#160 [紫陽花]
そんな暗く影ばかりの樹海に央里たちは入り込んでいた。

「さむ……こんな所に單柵村があんのかよ」

先ほどまで背中を濡らしていた汗は冷え、冷たい滴となって体を冷やす。

肉体的に感じる寒さだけでなく、この森の暗闇がさらに央里に寒を与える。

「アダムの唄で行けば、すぐに着いたのに……」

⏰:08/09/03 23:51 📱:F905i 🆔:Oww9YNww


#161 [紫陽花]
「うるさい!!倒れられたら俺が困るんだよ!!!!」

威勢良く強がってみたものの、寒くて寒くて仕方がない。

「單柵村はまだかよ?」

「もう少しのはず……あれ?あれは……」

傳がある一点を見つめる。

「ん?」

⏰:08/09/03 23:53 📱:F905i 🆔:Oww9YNww


#162 [紫陽花]
この暗く深い森の中で、唯一そこだけライトが当たっているかのようにポツンと目に留まる赤い場所を傳は示していた。

赤と言っても少し深みのある、ワインレッドのような色。

赤という明るい色であっても、この森の中に不自然無く上手く溶け込んでいる。

「なんだあれ?」

欲目を凝らしてみると、赤いスーツを着た、腰のあたりまである黒い長髪を一つに纏めた男がこちらを睨んでいる。

⏰:08/09/05 22:35 📱:F905i 🆔:uLrgapLA


#163 [紫陽花]
「おい傳。あいの長髪こっ「央里!!逃げるぞ!!!!!」

言い終わらない内に傳は走り出していた。

「はぁ!?ちょ、まてよ!!」

訳も分からず央里も走り出したが、赤スーツの男の前では全てが遅すぎた。


50メートルほど離れた場所から赤スーツの男は、胸ポケットからパチンコ玉ぐらいの小さな礫(ツブテ)を取り出し、親指で弾き飛ばす。

⏰:08/09/05 22:36 📱:F905i 🆔:uLrgapLA


#164 [紫陽花]
その礫は前を走っていた傳のを追い越し、高くそびえ立っていた樹に命中した。

それを見て傳は叫ぶ。

「央里、絶対にこの礫に当たんなよ!!毒が塗ってあるからな!!」

そして同時に傳の表情が一層厳しいものになった。

それでも、アダムの唄を使わず走っているということは、赤いスーツの男に裏技は通用しないと知っているのだろう。

⏰:08/09/05 22:37 📱:F905i 🆔:uLrgapLA


#165 [紫陽花]
「つ…たえ!!お前、し、知り合いなのか?」

息が切れて上手くしゃべれない。

だけど、あの男と傳の関係は聞かなければならない。

二人に何があったかは知らないが、央里が命の危機に晒される理由などないのだから。

⏰:08/09/05 22:38 📱:F905i 🆔:uLrgapLA


#166 [紫陽花]
「あ、いつは……ネイクの“三鬼心”の内の一人……」

「さん、き、しん?」

前を見て走っていた傳が一瞬だけ後方にいる央里を見た。

「あと…で話す…から、とりあえず…今は、逃げろ!!アイツはヤバいんだ!!!!!」

そう言って視線を前に戻した傳は、急に目の前に現れた赤いものに驚き足を止めてしまった。

⏰:08/09/05 22:39 📱:F905i 🆔:uLrgapLA


#167 [紫陽花]
「やぁ、野胡瀬 傳君。久しぶりだね」

いつの間にか赤スーツの男は央里と傳の前方に回り込んでいた。

180はゆうに越えているであろう長身と、その身長の真ん中まである長髪。

一見、赤いスーツに身を包んだ長髪の男はホストのようにも見える。

だが、ホストのような闇のオーラではなく、この男はどこか落ち着きのある穏やかなオーラを持っていた。

⏰:08/09/05 22:41 📱:F905i 🆔:uLrgapLA


#168 [紫陽花]
「紅(クレナイ)……」

「僕の名前を覚えていてくれたんですね。光栄です」

紅と呼ばれた赤スーツの男は軽く会釈をして微笑む。

けれど、目が笑っていない。

「傳の隣にいるのが央里君でしょうか?初めまして紅といいます。あなたを殺すために参上いたしました」

一瞬耳を疑いたくなるような言葉をサラリと言ってのけた。

⏰:08/09/05 22:43 📱:F905i 🆔:uLrgapLA


#169 [紫陽花]
「……はぁ?」

この男は物腰の柔らかそうな口調で自分を殺すという。

傳はネイクの使者だと言っていたが、今までの黒スーツの奴とは明らかにオーラが違う。

黒の奴らは感情をむき出しにして真っ直ぐに央里をねらった。

だが、この男はすぐに殺そうとはせず、むしろ余裕をもって央里に接近してくる。

⏰:08/09/06 23:15 📱:F905i 🆔:gpGf0D62


#170 [紫陽花]
“お前ごとき、すぐに殺せる”
とでも言っているように。


紅が央里とにらみ合っている間、傳はどうやってこの状況を回避するかを考えていた。

ちらりと央里を見てみても、自分を殺しに来たと言われたのにも関わらず、それほど焦ってはいないようだ。

⏰:08/09/06 23:16 📱:F905i 🆔:gpGf0D62


#171 [紫陽花]
半年ほど前の、まだ肌寒さの残る春のはじまりに傳は紅と一戦交えたことがあった。

その時は真っ正面から戦いを挑んだのだが、アダムの唄を使って逃げる暇もなく何発も礫を体にくらい、傳は紅にかすり傷一つ負わすことが出来なかった。

痛みと殺されるという恐怖で傳の意識が朦朧とする中、紅はある提案を傳に持ちかけた。

⏰:08/09/06 23:17 📱:F905i 🆔:gpGf0D62


#172 [紫陽花]
「これからお前が探しに行く『宇峰 央里』と接触するな。そうすればお前は殺さない」

「…………」

無言のまま紅を睨む。
その行為は紅の提案を拒絶するということでもある。

「なるほど……。でもまぁ今回は貴方のその強気な態度に免じて見逃しましょう。けれど、次あったときは……」

そう言い残して紅はゆっくりと傳に背を向け立ち去った。

⏰:08/09/06 23:19 📱:F905i 🆔:gpGf0D62


#173 [紫陽花]
今思い出してもあの時の恐怖感が体を駆けめぐる。

傳は一種のトラウマのようなものを紅に感じていた。

「傳君。あのときの約束、覚えてますよね?今ならまだ許します。央里君を置いてここから去りなさい。忠告はここまでです」

紅は腕を組み《最後》の忠告をした。

⏰:08/09/09 00:04 📱:F905i 🆔:j46ZM4TM


#174 [紫陽花]
「……………」

だが傳は前と同じで、拒絶を表すように紅を睨むだけ。

しばらく沈黙が続いた。

「またも私は傳君からのよい返事を聞けないのですね。残念です……」

諦めたように組んでいた腕をほどき、そのまま右手を胸ポケットに滑らす。

ポケットから取り出したのは小さな10センチほどのナイフ。

⏰:08/09/09 00:05 📱:F905i 🆔:j46ZM4TM


#175 [紫陽花]
そのナイフは、この森の中のわずかな日の光を自らに集め、ギラギラと鈍い光を放つ。

そして紅はその刀身を傳の首筋にピタリと当てた。

このまま一気にナイフをスライドさせれば、傳の首は痛いだけではすまされない事態に陥るだろう。

傳の瞳が恐怖にゆがむ。

⏰:08/09/09 00:07 📱:F905i 🆔:j46ZM4TM


#176 [紫陽花]
「おっと、央里君も死にたくなかったら動かないで下さいよ」

紅は、必ずこの場から傳を助け出そうとするであろう央里も“殺す”という脅しをかけて動けないようにする。

「さようなら、傳君……」

手に持ったナイフを手前にスライドする……
と、その瞬間、急に投げ込まれた何かが紅のこめかみに命中した。

「なっ……石!?」

⏰:08/09/09 00:08 📱:F905i 🆔:j46ZM4TM


#177 [紫陽花]
瞬時に紅は央里を見る。

だが、央里は一歩も動いていないし、むしろ突然視界に入ってきた石に驚いていた。

「傳君……。仲間がもう一人居たんですね。それは予想してませんでしたよ」

眉をつり上げ、悔しそうに言い放つその言葉に、今度は傳が疑問の表情を作る。

「傳君の仲間でもないんですか……?」

そう言った直後、今度は紅の顔が怒りに変わっていく。

⏰:08/09/09 00:10 📱:F905i 🆔:j46ZM4TM


#178 [紫陽花]
「隠れてないで出てこい!!」

紅の声は光と闇の交差する森に何度となく、こだました。

「うっさいわね!!叫ばなくても聞こえてますから!!」

急に傳の右側から声がした。
あまりにも突然すぎて傳もビクッと驚いたように肩を揺らす。

「君は……?」

⏰:08/09/11 19:58 📱:F905i 🆔:DkKI2DMA


#179 [紫陽花]
傳が不思議そうに右側を見ると、そこには黒いスカートに白のポロシャツを着た女の子がたっていた。

この森の暗闇のせいで他のところはよく見えない。

「話は後!!援護するからアダムの唄を使ってあそこで突っ立ってる奴と單柵村に入りなさい!!」

そして言い終わらない内にスカートのポケットから丸いピンポン球のような何かを取り出し、地面に叩きつけた。

⏰:08/09/11 19:59 📱:F905i 🆔:DkKI2DMA


#180 [紫陽花]
次の瞬間、あたりに灰色の煙が広がる。

「なっ!!煙幕か!!!!」


紅が叫んだところで灰色の煙は濃くなっていくばかり。

おさまる気配などまったくない。

灰色の煙が薄くなってきた頃には、紅の視野からは央里と傳そして謎の女の影も形も消えてなくなっていた。

⏰:08/09/11 20:01 📱:F905i 🆔:DkKI2DMA


#181 [紫陽花]
――――――――…………

――――――………

「もう!!だから制服のままあの森に入るの嫌だったのよ!!制服がドロドロだわ……」

央里、傳を助けた女は單柵村に着くなりキーキーと、かなりき声をあげ文句をこぼした。

移動で生じたアダムの唄の泡を払いながら、央里と傳はまじまじと女を観察していた。

⏰:08/09/13 18:11 📱:F905i 🆔:1P.Qublk


#182 [紫陽花]
女の格好は高校生らしい黒のスカートに白のポロシャツ、紺のハイソックス姿。

短いスカートから伸びる足は太くなく細すぎでもなく、少女のあまり高くない身長を支えている。

そして一際目立つ灰色の長い髪を高い位置で一つに結わえていた。

⏰:08/09/13 18:12 📱:F905i 🆔:1P.Qublk


#183 [紫陽花]
「あの、助けてくれてありがとう……」

傳がお礼を言う。
央里もそれを見て感謝を言葉にした。

「まぁ、困ったときはお互い様で!!」

スカートのほこりを払う手を止め、まん丸の瞳をパチパチさせながら彼女は笑う。

⏰:08/09/13 18:13 📱:F905i 🆔:1P.Qublk


#184 [紫陽花]
「そう言えば自己紹介してなかったわね」

思い出したように言った少女は真っ直ぐに、央里、傳の前に立ち薄い唇を開いた。

「私の名前は羽梶 ハルキ(ウカジ ハルキ)。チャームポイントはこの灰色の髪。あんた達のことは衛さんからの手紙で知ってる。宇峰 央里君と野胡瀬 傳君でしょ?」

⏰:08/09/13 18:14 📱:F905i 🆔:1P.Qublk


#185 [紫陽花]
央里たちは面食らったようにうなずくしか出来なかった。

衛の手紙のおかげで、本来自己紹介すべき央里たちは何も言う必要はなかったのだ。

「付いて来て。單柵村を案内するから」

そう言ってハルキは央里達に手招きをする。


これが灰色の髪を持つ少女、ハルキと出会った瞬間だった。

⏰:08/09/13 18:16 📱:F905i 🆔:1P.Qublk


#186 [紫陽花]
―――――――…………

―――――………

「でか……」

央里は言葉を失った。

ハルキに言われるまま付いて行き、木でできた“單柵村”と書かれた看板をくぐり抜けると、大きくどっしりとした樹が村の真ん中にそびえ立っていた。

⏰:08/09/15 15:19 📱:F905i 🆔:Yui8CdQQ


#187 [紫陽花]
「この木は何百年もここを守っているの」

段々と近づけば、その木の無茶苦茶なデカさが際立っていく。

「ふぁ〜。なんてデカさだ……」

その木の根元まで来たときに傳も感嘆の声を漏らした。

幹の直径が20メートルほどありそうな巨大な木に、驚くのも無理はない。

⏰:08/09/15 15:21 📱:F905i 🆔:Yui8CdQQ


#188 [紫陽花]
ハルキの説明では、この木が單柵村の中心部にあたり、その周りを円を描くように家や学校、役場などが建っているらしい。

「この木を中心に見て、北に役場。西に学校。南に図書館。東に村への入り口があるのよ。
そして、私が案内できるのはここまで」

「なんで?」

途中までハルキの話に相づちを打っていた央里は、キョトンとした顔で聞いた。

⏰:08/09/15 15:22 📱:F905i 🆔:Yui8CdQQ


#189 [紫陽花]
央里は、これからどうしたらいいのかハルキが知っていると思っていたので、ここで別れるなんて考えてもいなかったのだ。

「一旦、荷物を置きに家に帰るだけよ。まぁ話が聞きたいなら役場かどっかに村長がいるから探してみれば」

初対面だというのにサバサバとした口調で話すハルキは、どこか頼れるリーダーのような男らしい雰囲気を持っている。

少なくとも央里はそう感じるのだった。

⏰:08/09/15 15:23 📱:F905i 🆔:Yui8CdQQ


#190 [紫陽花]
それに、ここまで案内してもらっただけでも感謝しなければならない。

これ以上ハルキに迷惑をかけてはいけないと、央里は納得するしかなかった。

「じゃね」

そう言ったハルキは央里たちに背を向け、右手をヒラヒラと振りながら軽快な足取りで走り去っていった。

⏰:08/09/15 15:25 📱:F905i 🆔:Yui8CdQQ


#191 [紫陽花]
二人の目の前にそびえ立つ巨大な樹木。

さらにこの村はこの木を中心に構成されているとハルキは言っていた。

「とりあえず、あのハルキって子が言ったように村長さんを捜そうぜ。常識的に考えたら、挨拶もしなきゃだろ?」

体の前で手を組み、そのままゆっくりと腕を上げ、おもいっきり伸びをしながら央里が言った。

⏰:08/09/16 19:43 📱:F905i 🆔:eD2ujIn2


#192 [紫陽花]
「そうだね。じゃあ、北へレッツゴー……」

無理矢理テンションをあげたようなやる気のない返事をしながらも、いつもどうりの口調で傳は賛成する。

そして二人はあの大きな木に背を向けて北へと一歩踏み出した。

⏰:08/09/16 19:44 📱:F905i 🆔:eD2ujIn2


#193 [紫陽花]
―――――――…………

―――――…………

光のない、暗闇の支配するあの森とはうって変わって、單柵村の上空は雲一つない空の中にぽつんと浮かぶ太陽によって燦々と輝いていた。

コンクリートで舗装されていない道。

木造の家。

柔らかな風に揺れるピンクの花。

⏰:08/09/16 19:45 📱:F905i 🆔:eD2ujIn2


#194 [紫陽花]
「こんな綺麗な場所があるなんて知らなかった」

人によって踏みならされた、少し広い道を歩きながら央里は感嘆の声を漏らす。


自分たちの住んでいた町とそんなに遠くないこの場所に、こんな村があったなんて央里は知らなかったのだ。

⏰:08/09/16 19:46 📱:F905i 🆔:eD2ujIn2


#195 [紫陽花]
「そりゃそうだよ。
特にこの單柵村の人々は表の世界から隠れるように生活しているからね……」

風になびく前髪を人差し指で整えながら傳が話す。

「なんで?」

⏰:08/09/16 19:47 📱:F905i 🆔:eD2ujIn2


#196 [紫陽花]
「單柵村のほとんどの人は“探す才”をもってる……」

その才を発揮できる役職といったらスパイとか探偵とか、いわゆる、影の中での情報がパートナーの仕事が向いてるわけ。

常に情報を味方としてるから、世界の裏事情をよく知っいるのも当然。

それ故に、命を狙われるし、才を悪用しようと企む者から拉致される可能性だってある。

⏰:08/09/19 23:48 📱:F905i 🆔:W2ZbM5co


#197 [紫陽花]
まぁ、それほど確実に依頼したことを探してくれるってことなんだけどね。

「なるほど……」

央里はウンウンと首を縦に振り、傳の丁寧な説明に相槌をうった。

「じゃあさ、もう一つ質問!!」

先ほどまで相槌をうっていた央里がいきなり空に向かって手を挙げ、まるで生徒が先生に質問するときのような格好をとる。

⏰:08/09/19 23:50 📱:F905i 🆔:W2ZbM5co


#198 [紫陽花]
「はい。宇峰君」

そんな央里のふざけたジョークに、生徒を指名する先生の真似をして合わせる傳。

「“ネイク”ってなんなんですかー?」

“ネイク”
それは何度となく央里、傳の両者を狙った謎の組織の名前。

だが、央里にその組織についての知識は全くと言っていいほどなかったのだ。

⏰:08/09/19 23:51 📱:F905i 🆔:W2ZbM5co


#199 [紫陽花]
「役場までまだ時間がかかるみたいだし、説明しとこうか……。ちょっと長くなるけど……」

手っ取り早く話すと“ネイク”は敵。
理由は僕達の最終目的である「地球滅亡回避」を邪魔しようとするから。

あちらさんは“運命を変える才”を持っている人物を消せば、「地球滅亡」を回避できなくなると考えたわけ。

だから僕、とゆーか央里は何度も殺されそうになったんだけど……。

⏰:08/09/19 23:53 📱:F905i 🆔:W2ZbM5co


#200 [紫陽花]
「ここまで大丈夫……?」

央里はゆっくりと縦に頭を動かす。
いつもの無口な傳の、饒舌な説明に、ただただ耳を傾けるしか出来なかった。

「じゃあ、話を続けるよ……」

ネイクは“三鬼心”と呼ばれるトップ三人と、下っ端の人間で構成されてる。
あっ、下っ端っていうのは最初に央里を狙った黒スーツの男のこと。

アイツら、黒スーツの男らは数え切れないほど存在する。
そしてトップとは今日出会った紅を含めて三人いるんだ。

⏰:08/09/19 23:56 📱:F905i 🆔:W2ZbM5co


#201 [紫陽花]
三鬼心のメンバーは『紅』とまだほかに『浅葱』、そしてネイクを設立させたと言われる『朽葉』と言う人物がいる。

僕はまだ紅にしか会ったことがないんだけど、あとの二人もそーとーな切れ者らしい……。


それはもう、目的達成のためならどんな犠牲も払わない鬼のような連中だと聞いてる。

⏰:08/09/20 23:47 📱:F905i 🆔:q0JD9SlA


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