WHITE★CANDY
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#241 [Gibson]
「えっ…。」

私は焦った。
カラオケには全く行ったことがないし、人前で歌った経験もない。

「おっ、いいね!やってみる?」

「曲何にする?有名所が無難よね?」

「雨宮ちゃん、スパイラルの『カタツムリ』分かる?」

私の気持ちとは反対に、どんどんと話が進められていく。
さっき、東吾兄が少しでもかっこよく見えたこと、直ちに撤回。

⏰:09/01/29 22:33 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#242 [Gibson]
「2番が少し曖昧…。」

皆の勢いに釣られて、正直に答える私。
全然分からないと、嘘をつけば良かったと思った所で遅かった。

「はい、これ見ながら歌ってみて!」

佐々木さんが、私に歌詞カードのコピーを渡す。

その次に、彼の代わりにスタンドマイクの前に立たされ、彼が室内にある脚立イスに座った。

もう歌うしかないのか…―

トホホと嘆く気持ちと、一曲約5分、300秒を取りあえず耐えればいいだけかと、軽い気持ちで取り組むことにした。

⏰:09/01/29 22:43 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#243 [Gibson]
東吾兄の激しく叩くドラムの音と共に、演奏が始まった。

『与えられた仕事は、大小問わずに真剣に取り掛かる』のが、父の教訓。

投げやりな態度は見せずに、出来る限り一生懸命やってみよう。

今の私は、遊びであろうとも、バンドのボーカルを担当している。

感情を込めて歌うとか、歌い方強弱をつけるとか、専門的なことは全く分からない。

とにかく、無我夢中で歌った。

⏰:09/01/29 22:54 📱:SH705i 🆔:ejtZkG3Y


#244 [Gibson]
「…雨宮ちゃん、なかなか上手だね!」

「うん、声がしっかりしてる感じが良かった!」

一曲歌い終えてみると、メンバーからは誉め言葉を貰った。

父は歌には自信があると言っていた。
その遺伝を少しは、娘の私も受け継いでいたようだ。

⏰:09/01/30 01:55 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#245 [Gibson]
「…そうだ!今度のライブ、特別ゲストでマキロンに一曲ボーカルをやらせてみないか!?」

「えぇ!!?」

次から次に思いついたことを口に出す東吾兄。

この発言には流石に、人前で感情をあまり表に出さない私も驚いた。

彼にはもう少し、考えてから物事を言うという思考がないのだろうか。

「それはいいかもね。聴く側も可愛い女の子がいる方が喜ぶだろうし。」

ギターの坂田さんが、東吾兄の提案に被せるように言う。

⏰:09/01/30 02:04 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#246 [Gibson]
「うちの大学には音楽サークルが3種類あるんだけど、多分うちの部がその中で毎年入って来る人数が少ないだろうね。

原因は宣伝活動を特にしていないのと、野郎だらけのもさ苦しさが、女子の入部を遠ざけてるからかな。」

続けて説明をする坂田さん。

「でも私、部員じゃないのに参加とか、悪いですよ…。」

「大丈夫大丈夫!
部長には、『部の活性化目指しての為です』って言っとく!」

相変わらず適当で無鉄砲な東吾兄。

⏰:09/01/30 12:59 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#247 [Gibson]
「雨宮ちゃんも来年受験生でしょ?
これもいい思い出作りだと思って、やってみたらどうかな?」

積極的に参加を勧める坂田さん。

「うーん…。」

迷う。悩む。渋る。

でも、先程一曲をとにかく歌ってみたら、意外と気持ちが良かった。
歌うのは嫌いではないし、寧ろ好きだということに気がついた。

⏰:09/01/30 20:27 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#248 [Gibson]
「…分かりました。
私でよければ、よろしくお願いします。」

考え抜いた後、4人に向かって頭を下げた。
ライブに出るという結論を出した。

「やっりぃ〜!
今日から猛練習だな!」

「こちらこそよろしくね。」

本番は二週間後らしい。
佐々木さんが数曲歌い終わった後、私が一曲歌って締めを飾る形にするという。

⏰:09/01/30 20:43 📱:SH705i 🆔:K6vCV/uk


#249 [Gibson]
練習日は、毎週二日となっている。

翌週、水曜日の放課後は急ぎ足で大学に向かってバスを乗り継ぎ、日曜日は東吾兄と一緒に自転車で向かう。

そんな生活を一週間続けた日、昼休み、優平と一緒に屋上へ上る機会があった。

「真希、今度大学のライブに出るんだって!?」

多分、エリから聞いたのだろう。
彼が興味津々な感じで、目を見開いてこちらを伺っている。

⏰:09/01/31 14:26 📱:SH705i 🆔:34jzxaw6


#250 [Gibson]
「うん、一応…。」

「へぇ、凄いな!
俺、本番は見に行くから!
楽しみにしてる!」

「えっ…。」

真っすぐな瞳で私を見つける優平。
本番当日、これでますます下手なものは見せられなくなった。

⏰:09/01/31 14:32 📱:SH705i 🆔:34jzxaw6


#251 [Gibson]
その時、前気になっていた化粧の好みを尋ねようと思った。
しかし、唐突に聞くのは不自然だし、彼に気持ちを悟られるかも知れない。

「…優平は、薄口醤油と濃口醤油、どちらが好き?」
考えた末の、苦肉の策だった。

「へ!?あまり考えたこともないけど…さっぱりした薄口かなぁ…。」

薄い方が好きか。
それじゃあ、化粧もそんなに派手にやらなくていいか―

⏰:09/01/31 14:43 📱:SH705i 🆔:34jzxaw6


#252 [Gibson]
家に帰ってからも、CDを繰り返し聴き、歌詞を覚えながら歌の練習をする。

「『ハニー 君に伝えたい』かぁ…。
私も優平に、もっと素直な気持ちを言えたらなぁ…。」

歌詞カードを握りしめ、ため息をついた。
不器用な自分の性格に悩むことは、しょっちゅうである。

ライブ本番は、その優平も自分の歌を聴きにくる。
まずは、間接的に自分の思いを伝えることに励もう。

⏰:09/02/01 03:35 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#253 [Gibson]
そして一週間後、ライブ当日の日となった。
大学近くの、小さなライブハウスを借りて行われる。

スタート時間は、夕方の4時から。
私を含む東吾兄たちの出番は、4時半頃の予定である。

今日の服装は、シャツの上にパーカーを羽織り、ジーンズという格好だ。
ステージ衣装といっても、普段着とあまり変わらない。

⏰:09/02/01 03:49 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#254 [Gibson]
「よし!皆全力を出し切ろうな!」

私たちの前の組が終わった時、控え室で藤野さんの一声と共に、皆で円陣になって手を揃えた。

そして、音を立てずに歩きながらステージ上へと向かう。

やるだけのことはやった。
後は、その成果を発揮するだけだ―

⏰:09/02/01 13:45 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#255 [Gibson]
私以外の4人が暗がりの中ステージ上に立ち、それぞれ軽く音の調整を確認し終えた後、パッと明るく照明が点いた。

「皆さんこんにちは!」

佐々木さんが、客席側に挨拶をする。

4人の勇姿を、ステージの隅で見守る私。
成功を祈るように、両手を握った。

⏰:09/02/01 14:02 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#256 [Gibson]
一曲目の演奏が始まった。
練習やCDで、何度も聴いた歌。


ギターボーカルの佐々木さんは、誰からも好かれるタイプの人間だと思う。
笑顔が似合っていて、包容力のあるオーラをしている。

太くてどっしりした声は、歌詞の良さに一層重みがかかる。

その上、歌いながらギターもしっかり弾ける。
中学一年の頃から練習をし始めたらしい。

⏰:09/02/01 14:11 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#257 [Gibson]
同じくギターの坂田さんは、後ろに束ねられるほど髪が伸びきっていて、どこか脱力感のある人。

でも、練習となると一転して真面目な雰囲気に変わる。
空いてる時間は、ほとんど個人練習に当てていたとか。

ベースの藤野さんは、メンバーのリーダー的存在で、皆にまとまりがあるのは、彼の存在が大きいからだと他のメンバーは言う。

知的さは外見上だけでなく、学部もトップで入学したらしい。

大学に入って始めたベースも、すぐにコツを掴んだらしく、何をやっても出来るタイプの人間。

⏰:09/02/01 14:26 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#258 [Gibson]
最後に、ドラムの東吾兄。
突発的に物事の判断を決めることが多いので、危なっかしくてハラハラさせる。

初めて会った時から、友達の元基と似ていると思った。

深く考えることを知らないで、いつもヘラヘラ笑っていて、真面目な印象がない。

でも、自分が一度でも仲間だと感じた人には、全力で大切にする。
そうやって私も、彼にたくさんの素直な所に引き連れてもらった。

肝心のドラムの腕は…そこそこかな。

⏰:09/02/01 14:39 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#259 [Gibson]
3曲目が終了した時、佐々木さんが舞台袖の私を見た。

次の曲で最後となる。
いよいよ私の出番だ。

「…これから、特別ゲストを紹介します!」

佐々木さんが私に、「OK」のアイコンタクトをする。

ステージ上へとゆっくり歩き出す私。
ここまでは、予め5人で決めた手順通りだ。

⏰:09/02/01 14:50 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#260 [Gibson]
「彼女は、ドラムの古沢くんの知り合いの高校生。
今回、一曲だけボーカルを務めてくれることになりました。」

ステージの中央まで行った所で、佐々木さんが私のことを説明をする。

"高校生"の部分で、少し客席側がざわついた。

「皆さん初めまして、雨宮真希って言います…。
下手ですが一生懸命歌います…。」

想像していたよりお客さんの人数が多くて、心の中で驚く。
そのことで、喋る声が小さくなってしまった。

⏰:09/02/01 15:02 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#261 [Gibson]
「真希ー!がんばれー!」

薄暗い客席の中、私に声援を送ったのはエリだった。
その隣には元基、そして優平。

その近くにはますちゃん含むクラスメート数人に、竹下さんたちもいる。

優平が眩しい笑顔で、ずっとこちらを見ている。
彼の頭上にだけ、明かりが灯されているように感じた。

⏰:09/02/01 15:11 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#262 [Gibson]
練習と同じように、イントロで東吾兄がドラムを激しく叩き上げる。

それから、坂田さんのギター、藤野さんのベースが溶け込むように絡み合う。

速くなる胸の鼓動は、彼らの奏でるロックな音が掻き消してくれた。

スタンドマイクを強く握りしめ、真正面の壁だけを一点に目の焦点を合わせる私。

⏰:09/02/01 15:21 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#263 [Gibson]
歌を歌う時は、案外無心で挑む方が、最善を尽くしきれると聞いた。

何も考えずに、Aメロ、Bメロと腹の底から声を出し続ける。

そして、サビに入る。

『ハニー 君に伝えたい』
私がこの曲の歌詞で、一番好きな部分である。

元々男性バンドの歌ではあるが、女性が歌うのもまたいい味が出ると、坂田さんが言ってくれた。

⏰:09/02/01 15:30 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#264 [Gibson]
「…ありがとうございました。」

歌い終わると、その場で深く礼をする。

演奏が終わった。
特に大きな失敗もなく、練習以上の成果を出し切ったので、満足のいくものとなった。

客席が大きく拍手をしてくれた。
鳴り止まない歓声。
拍手の音には、癒しの効果があると思う。

こうして、私のライブ体験は何なりと終了した。
後悔はない。充実した気持ちでいっぱいだ。

⏰:09/02/01 19:52 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#265 [Gibson]
「真希ー!かっこよかったよー!」

次の組の出番になって客席側に向かうと、エリが大きく抱きついてきた。

「CD化希望!」

歯を出して笑う元基。

「本当、上手かったよ!また聴きたいな。」

優しく微笑む優平。

ますちゃんや竹下さんたちも、それぞれ一声掛けてきてくれた。

⏰:09/02/01 20:03 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#266 [Gibson]
夜7時。
全てのライブが出番を終えた。

皆で手際よく片付けをし、ライブハウスのスタッフさんに礼を告げた。

この後は、近くの居酒屋で打ち上げが行われるらしい。

一人でたくさんの大学生に囲まれる勇気がない為、優平を連れて行くことにした。

⏰:09/02/01 20:13 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#267 [Gibson]
皆で歩いて居酒屋まで向かい、予約しておいた和室でそれぞれ適当に腰を下ろす。

「では皆さん、今日はライブお疲れ様でしたー!」

全員分の飲み物が運び終えた所で、サークルの部長がその場を立ち上がって、代表して乾杯の言葉を述べる。

サークルには、約60名が在席しているとか。
室内はぎゅうぎゅう詰めといった様子であった。

大学には成人した人も裕にいるわけで、ジョッキを片手に、ぐびぐびと飲む人もいる。
私と優平は、コーラと烏龍茶を頼んだ。

⏰:09/02/01 20:30 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#268 [Gibson]
「真希ちゃんだっけ!?
歌上手かったよー。うちの大学に進学した時は、是非このサークルに入部してね。」

コーラを一口飲んだ所で、隣に座っていた男の人に声をかけられた。

「ねーねー。隣の男の子は彼氏?」

続いて、斜め前にいる金髪の女の人が、質問をしてくる。

私と優平が、付き合っているように見えたようだ。

⏰:09/02/01 20:38 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#269 [Gibson]
「え、えっと…。」

"違います、ただの友達です"
そう否定しようとした。

周りに妙な誤解をされてしまったら、優平に申し訳ない。
彼をここに連れて来たのは、やはり間違いであったか。

詳しく説明せねば、と思ったその時だった。
テーブルの下で、優平が私の手を軽く握ってきた。

⏰:09/02/01 20:43 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#270 [Gibson]
「…!」

咄嗟に彼の方に目を向ける。
彼は私の方を見ていない。

「あー!否定しないってことは、そうなんだねー!」

女の人が、声高らかに言う。

「残念!後でアドレス聞こうと思ってたのに。」

隣にいる男の人が、冗談でくやしがるポーズをした。

⏰:09/02/01 20:49 📱:SH705i 🆔:sK5ROudg


#271 [Gibson]
周りが別の話になった所で、彼が手を離す。

優平…?―

結局、周りからは私たちは交際しているということになった。

これで良かったのだろうか?
彼は嫌に思わないのだろうか?

その後、そのことを気に止めながらも、料理に手をつけた。
美味と無味が混ざったものとなった。

⏰:09/02/02 14:18 📱:SH705i 🆔:n9zyNbiU


#272 [Gibson]
数日後、私は再び東吾兄と買い物をする為、スーパーへと出かけた。

「…苺が100円!
食べたかったら買うよ。」

「よっしゃ!いる!」

喜んで苺のパックを手に取り、素早くカゴの中に入れる東吾兄。
それを見て、クスクスと笑う私。

⏰:09/02/02 14:29 📱:SH705i 🆔:n9zyNbiU


#273 [Gibson]
買い物を済ませて、この間と同じ道を歩きながら、家まで戻る。

「マキロン、見てみて!
空の色が二色がある!」

「…本当だ。」

彼の言うとおり空を見上げてみると、水色と橙色が半分ずつ、空で仲良く分け合っていた。

昼から夕方へと変化する時に見える、不思議で綺麗な現象。

⏰:09/02/02 14:37 📱:SH705i 🆔:n9zyNbiU


#274 [Gibson]
「…東吾兄は私に、たくさんの新しい発見を与えてくれるね。」

「へ!?そうなの!?自覚ないけど…。
うっとうしい奴でごめんな!」
私は彼の目を見て、静かに首を横に振った。

この空も、一日限りのライブの参加も、そして東吾兄と暮らす毎日の生活も、
生きる為に必要な、喜びと幸せで溢れているよ―

⏰:09/02/02 14:44 📱:SH705i 🆔:n9zyNbiU


#275 [Gibson]
彼の言うように、私たちは前世でも深い関わりがあったのかも知れない。

ねぇ、お母さん。
今度また生まれてくる時も、私はお母さんの子供がいいと思っているよ。

その時もし、私と東吾兄を本当の兄妹として生んでくれたら…心が歓迎するかも知れない。

こんなこと、恥ずかしくて、隣の彼には言えないや。

相対する二色が織り交ざる空に、願いを込める。

二人で帰るべき場所へと、ゆっくりと歩き続けた。

Chapter03 END.―

⏰:09/02/02 14:56 📱:SH705i 🆔:n9zyNbiU


#276 [Gibson]
 
*本当はまだまだ話が続くのですが、ここで一旦ストップとさせて頂きますm(__)m

続きは必ずまた書きます!(^_^)

お付き合いして下さった全ての方、本当に有り難うございました(T_T)

⏰:09/02/02 15:00 📱:SH705i 🆔:n9zyNbiU


#277 [ぎぶそん]
Chapter04
「近づきたい」

⏰:09/02/15 01:28 📱:SH705i 🆔:Rs2aN72w


#278 [ぎぶそん]
東吾兄が我が家に居候するようになってから約一ヶ月後、いよいよ学校は夏休みに突入した。

毎日の授業が一旦終了してからも、私は二日に一日は図書室を利用していた。

理由は、単純に本を読むのが好きだから。
毎日が休日になってから、一冊を読破するペースも速くなっていた。

外から聞こえる、せわしい蝉の鳴き声を心で遮断し、新刊コーナーをじっくりと物色する。

⏰:09/02/15 01:43 📱:SH705i 🆔:Rs2aN72w


#279 [ぎぶそん]
本を読むことに魅力を感じるようになったのは、小学二年生の頃から。

「おさかなの冒険」という、海に住む魚たちの壮大な旅を描いた子供向きの本に、夢中で子供心をくすぐられたのが発端だ。

それから、学校の図書室にちょくちょく通っては、何か面白い本はないかと漁るのが習慣になった。

同世代の子たちは、活字ばかりの本よりイラストと吹き出し付きの漫画の方が熟読しているという。

⏰:09/02/15 04:39 📱:SH705i 🆔:Rs2aN72w


#280 [ぎぶそん]
真っ白い表紙の、「クローバーな彼」という題名の本を手に取る。

後ろの説明文に目を通してみる。
主人公の女性が、とある男性と出会ってからの人生を綴った内容だと書いてある。

恋愛小説か…。
正直一番苦手な分野で、これまでこの手のジャンル物は避けてきた。
というか、読んでみてもさっぱり理解できなかった。

でも、今となっては少し、共感し得る部分があるかも知れない。
唯一異性だと意識する、優平の顔が浮かんできた。

⏰:09/02/15 07:24 📱:SH705i 🆔:Rs2aN72w


#281 [ぎぶそん]
貸出カードに書籍の名を書き込み、図書室を出ようとした時だった。

「真ー希っ!やっぱりここにいた。」

開いたドアの前で、エリがひょっこりと顔を出してきた。

「エリ!?どうしたの、エリが休みに学校来るなんて珍しい。」

「んー、そろそろ進路について真面目に考えようかと思って。」

規定のサイズよりスカートの長さがぐんと短い彼女は、こう見えて堅実に生きるタイプである。

⏰:09/02/15 09:36 📱:SH705i 🆔:Rs2aN72w


#282 [ぎぶそん]
「トリマー?」

「そう。犬や猫の毛を、チョキチョキと切ってあげるの。」

学校近くのファーストフード店に二人で入ると、エリが希望の進路を話してくれた。

彼女の自宅は、犬や猫を数百飼っている。
そして彼女自身にも、動物が好きだという印象がある。

今の所は、動物の身なりに関する専門学校に進学したいという。

⏰:09/02/16 02:03 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#283 [ぎぶそん]
「それで、真希は進路どうすんの?」

「うーん…、高校を出てすぐ就職するより、とりあえずまたどこかに進学しようかなーって、少し思った。」

東吾兄と出会い、大学というものに少し触れてみて、進学に魅力を感じた部分はある。

「それがいいよ。
真希は私や元基とは違って、そこそこ成績いいんだし。
それに…。」

「それに?」

エリがソーダを口に含む。

⏰:09/02/16 02:12 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#284 [ぎぶそん]
「頑張って優平と同じ大学に受かれば、また四年間一緒になれるよ。」

エリの顔の表情がニヤつく。

「へ、変なこと言わないでよ…。」

「ま、桜井家のお坊ちゃんが目指してんのは、目下T大なんだろうねー。
仲良い友達でも、彼は次元が違いすぎるわぁ。」

エリが窓の外の景色を見ながら言う。

「うん。」

掠れるような声で返事をし、アイスコーヒーを飲んだ。

⏰:09/02/16 02:20 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#285 [ぎぶそん]
「あ、そうそう。
例の旅行の件なんだけど、この夏優平のおじ様が仕事で別荘に滞在しててさ、中止になりそうって。」

旅行とは一学期に四人で計画し、この夏休みに実行するはずだったもの。

「え?そうなんだ…。」

せっかく過保護の父に了承を得たのに、仕方ないとはいえ気持ちは浮かなかった。

「大丈夫。残念がることはないって。そのかわり、優平が自分の家を招待してくれるってよ!」

⏰:09/02/16 02:29 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#286 [ぎぶそん]
「来週の月曜日、美原駅に着いたら迎えに来てくれるって。」

そこは優平の住む街だ。

「分かった。」

「フフ、彼ん家はきっと、別荘以上に豪勢だと思うよ。」

自分の家を見せることに抵抗していた優平が、初めて私たちを招いてくれた時だった。

⏰:09/02/16 16:31 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#287 [ぎぶそん]
その日の夜、夕飯を済ませた後、一人部屋で宿泊に備えて、かばんに荷物を詰める。
まだ一週間も先だというのに、張り切り過ぎかな。

父にはそのまま、皆で別荘に泊まりに行くということにしておいた。
また一々訂正して、うるさく言われるのが目に見えていた。

旅行じゃないなら、わざわざ男子高校生の自宅に泊まりがけする理由はない、ってね。

⏰:09/02/16 21:30 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#288 [ぎぶそん]
「マキロン、旅行なんだって?また楽しそうだな〜!」

東吾兄が、アイスキャンディー片手に私の部屋を訪ねて来た。

「東吾兄だって、大学で生き生きしてたじゃん。」

「俺さー、高校ん時はその魅力に気づかなかったけど、やっぱ制服の特権ってスゲーよなー。
それ纏ってるだけで、青春さが増すの。
うん、光陰矢の如し。」

東吾兄が、オレンジ色のアイスキャンディーをかじる。
彼の発言は、時々意味深なようで意味不明だ。

⏰:09/02/16 21:42 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#289 [ぎぶそん]
「桜田くんだっけ?
こないだ打ち上げに付き添ってくれた子も一緒なんだろ?」

「桜井だよ。」

「ああ、そうそう。
彼かっこいいよなぁ!俺にはない爽やかだわ。」

彼の話に耳を傾けながら、畳んだ衣服をかばんに詰め込む。

「なあ、マキロンさぁ…。」

東吾兄が、私の近くにしゃがみ込む。

⏰:09/02/16 21:59 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#290 [ぎぶそん]
「何?」

「もしかして、彼のこと好き?」

「えっ…。」

彼のその一言で動揺し、そこでせっかく畳んだ洋服を崩してしまった。

「やっぱり!俺の目は節穴じゃなかったか!
うんうん、彼、素敵だもんなぁ。」

子供をなだめるように、私の頭を撫でる東吾兄。

⏰:09/02/16 22:05 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#291 [ぎぶそん]
「夏は季節で一番、男女間の気持ちが高揚しちゃうから、マキロン注意しろよな〜!」

「東吾兄ってば…!」

一発叩こうとした所、東吾兄が部屋の中を暴れ回る。

二人で家中を駆けずり回り追いかけっこを続けていると、途中父に注意を受けた。

東吾兄の奴。
優平はそんな対象じゃないよ―

⏰:09/02/16 22:38 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#292 [ぎぶそん]
そして、月曜日。
エリから回ってきたメールによると、昼の13時に駅に集合となっている。

今日の服装は、お気に入りの白いシャツに、下はピンク色のプリーツスカートを履いたといった所だ。

これから数日間、意中の男性の家に上がり込むとになる。

先日雑貨屋さんで購入した、ハート形のネックレスも身につけた。

⏰:09/02/16 23:55 📱:SH705i 🆔:FVyvlF8s


#293 [ぎぶそん]
昼食を取ってから家を出て、午後12時半、電車で優平の住む街の駅まで向かう。

優平はいつも、電車通学で学校に通っている。
資産家の彼の家なら使用人が車を出してくれそうだが、彼はそれを断ったらしい。

走る電車の中、彼はいつもどんな気持ちで自宅と学校を行き来しているのだろう。
優しさに溢れる笑顔の中、時々哀しい目をする理由を知りたい。

⏰:09/02/17 00:07 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#294 [ぎぶそん]
「エリと元基、まだかな…。」

駅の正門の前で、何度も腕時計で時間を確認する。
集合時間から5分経っても、二人は一向に現れなかった。

「真希!」

それからまた5分経った頃、優平が手を振りながらやって来た。

水色のシャツに少しダボついた灰色のズボン。
夏休みに入ってから初めて見る、彼の姿。

⏰:09/02/17 00:14 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#295 [ぎぶそん]
「二人がまだみたい…。」

「本当に!?あっ、メールが着たみたい。」

優平がポケットから携帯を取り出す。

「えぇ!ハメられた…。」

そこに書いてある内容に目を通すと、彼が大声を出す。
そして、その携帯の画面を私に向ける。

⏰:09/02/17 00:24 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#296 [ぎぶそん]
『私と元基は別の所で一泊してきま〜す!
後はお二人さんで仲良くやってね! エリより』

「何、コレ!?」

自分の携帯も確認してみると、同じ内容のメールがついさっき届いていた。

"エリより"の後に、ハートマークが可愛く3つ並んでいた。

エリと元基は、最初からこうするつもりでいたのか。
じゃあ、今日優平ん家に泊まるのは、私一人ってこと…!?―

⏰:09/02/17 00:31 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#297 [ぎぶそん]
「しょうがないなー、あの二人は。真希、どうする?」

「そうだなぁ、優平ん家行くの楽しみにしてたけど、私一人ってのも…。」

帰らざるを得ないかな、と言いかけた時、

「全然迷惑じゃないって!せっかくここまで来てくれたんだし、俺の家なんかで良かったら上がってってよ!」

優平がこの後のことを提案してくれた。

「うん。お言葉に甘えます。」

⏰:09/02/17 00:39 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#298 [ぎぶそん]
そこから、二人で近くの駐車場まで歩く。
優平が、赤いスポーツカーの前で足を止める。

「あっ、こちら使用人の清水祥華(しょうか)さん。
今日ここまで車を出してくれたんだ。」

彼の差し出した手の前に、スタイル抜群のグラマーな女性が、腕組みをして立っていた。

「初めまして。
優くんのかわいい恋人(スウィート・ハニー)さん。」

彼女が掛けていたサングラスを外し、私に握手を求めてきた。

「えっ…。」

その素顔の美しさと誤解を生む発言から、私の顔はやんわりと紅潮していった。

⏰:09/02/17 01:14 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#299 [ぎぶそん]
「祥華さんはね、長い間アメリカに住んでから英語がペラペラなんだ。」

走る車の中で、優平が祥華さんについて詳しい所載を教えてくれた。
言われてみれば、彼女には日本人離れしている部分が所々見受けられる。

独特のフェロモン、というか、放つ色気が外国人っぽい。

そして、彼女はまだ若いが、優平が中学の頃から使用人を務めていて、その付き合いも4年近くになるという。

⏰:09/02/17 01:30 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#300 [ぎぶそん]
「今日の夕飯、何が食べたい?」

「えっ?何でもいいよ。」

「そうだ、何処かドライブ行きたい所ある?
旅行中止になっちゃったし、祥華さんは色んな観光地知ってるよ。」

「優平ん家行けるだけで、充分だよ。」

二人で後部席でやり取りしていると、運転中の祥華さんが、その会話の途中で笑った。

「ウフフ。何でも出来る優くんも、こっち(恋愛)方面じゃウブのようねぇ。
まだまだ女の子の喜ばせ方を知らないみたいね。」

⏰:09/02/17 01:46 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#301 [ぎぶそん]
「…。」

彼女の一言で、二人の会話が一気に静まり返った。

妙な空気の流れの恥ずかしさから、お互いの顔を見れずにいる。

私たち、端から見たら恋人同士に見えるのかな…―

その状況について、隣に座る優平が困惑していないことを祈った。

⏰:09/02/17 01:51 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#302 [ぎぶそん]
「お二人さん、着いたわよ。」

祥華さんに言われて、顔を上げる。
車が走ってる間は、ずっと俯き加減のままでいた。

彼女がエンジンを止めた後、三人で車を降りる。

「…。」

ただっ広い車庫には、高級外車がずらりと並んでいた。
その中に、テレビや写真でしか見たことのないベンツの姿もあった。

⏰:09/02/17 05:38 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#303 [ぎぶそん]
祥華さんを先頭にして、校庭以上に広い庭を歩く。

歩く地面は、レンガが敷き詰められている。

庭はガーデニングの装飾が隅々まで行き届いていて、見事に美しい。
まるで中世のヨーロッパ時代にタイムスリップしたみたいだ。

歩く途中、丸い形をした噴水の横を通った。
大理石で造られたそれは、西洋風の庭にふさわしく洒落たものであった。

⏰:09/02/17 05:50 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#304 [ぎぶそん]
噴水のせせらぎに気を取られていると、紳士服を着た初老の男性が、前方からせわしなくやって来た。

そして休む間もなく、優平に向かって深くお辞儀をした。

「優平坊ちゃま、お帰りなさいませ。」

「ジィ。紹介するよ、友達の雨宮真希さん。」

「初めまして。」

会話の流れで、初老の男性に一礼をした。

⏰:09/02/17 06:00 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#305 [ぎぶそん]
「おぉ!貴女様が雨宮様でございますか。
坊ちゃまから、話はいつも聞いております。
想像以上にお美しい方で、誠に光栄でございまする。」

「ジィ!余計なこと言わなくていいから!」

優平に喋った内容を指摘され、焦る初老の男性。

その会話を聞いた祥華さんが、フフフッと口に手を当てながら笑う。

「あ、彼は使用人の沼木豊彦。
俺が小さい頃からここにいて、俺はずっとジィって呼んでるんだ。」

沼木さんが、もう一度私に頭を下げる。

大きく言えば、沼木さんも祥華さんと同じ役割の人間か。
桜井家に仕えてる使用人は、沢山いそうだ。

⏰:09/02/17 06:15 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#306 [ぎぶそん]
「ささっ。お二人共、早く家に上がって、ゆっくりとくつろいで下さい。」

沼木さんが私の荷物を代わりに持つと、先導するように私たちの前を歩く。

「ごめんね。こんな格好で。
もう少しいい格好してくれば良かった。」

今日の服装は自分でも頑張った方だが、優雅な桜井家の前では、からっきしシンプル過ぎる。

東吾兄の大学を初めて訪れた時に着た、花柄のワンピースが浮かんだ。
あいにく、あれは今回我が家に置いてきた。

「そんなことないよ!
充分、か、可愛いよ。」

優平が、首元をポリポリと掻く。

⏰:09/02/17 06:29 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#307 [ぎぶそん]
私たちは、本館と呼ばれる建物に入った。
ここは主に優平や、彼の家族が生活空間を営む場所らしい。

本館以外には使用人が寝泊まりする別館、優平のお父さんが趣味の絵画を描く為のアトリエなどが設けられているとか。

本館は庭以上にまた、その広さと豪勢さに呆気に取られることとなった。

2階優平の祖父が描かれた大きな肖像画が飾っており、その階へと螺旋階段が続いていた。

「お帰りなさいませ、優平坊ちゃま。」

「ただいま。」

優平が、数人と使用人と挨拶を交わす。

⏰:09/02/17 06:57 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#308 [ぎぶそん]
「あ、田辺さん。
シェフの宮島さんに、今日の夕飯はうんとご馳走を振る舞うように言っておいて。」

「分かりました。」

田辺さんと言う人が、そそくさとその場を離れる。

使用人、本館、別館、シェフ。

昔で言う所の貴族な生活を、同級生の優平はずっと送っていたのだ。

『優平は私たちと次元が違う』
一週間前の、エリの言葉を思い出した。

⏰:09/02/17 07:03 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#309 [ぎぶそん]
「今日はこの部屋で寝ていいから。」

優平に、3階の"空き部屋"と呼ばれる所に案内された。
そうは言っても、私の部屋より広くて、立派な造りをしていた。

「あら。優くんの部屋で、一緒におねんねすればいいじゃない。」

「…祥華さん!!」

学校ではクールな優平が、今日は珍しく何度も取り乱す。

祥華さんの言う冗談にもだんだんと慣れてきた私は、二人のやり取りを笑いながら見ていた。

⏰:09/02/17 07:18 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#310 [ぎぶそん]
「あっ、部屋に荷物置いたら、とりあえず噴水近くの庭で待ってて。」

それだけ言い残すと、優平は同じ階の自分の部屋へと駆けて行った。

「…真希ちゃん、だっけ?」

「はい。」

二人きりになった所で、祥華さんが私に話し掛けてきた。

⏰:09/02/17 07:25 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#311 [ぎぶそん]
「優くんのこと、頼んだわ。」

「え?」

「彼ね、中学時代は外での出来事なんか一言も話してくれなかったのに、
高校であなたたちと出会ってから、とても生き生きしてるの。
今日もあんな風に張り切っちゃって。」

「…はい。」

初めて知った、物静かな優平の気持ち。
それはきっと、私たち3人と同じ気持ちだ。

⏰:09/02/17 16:39 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#312 [ぎぶそん]
優平に言われたとおり、部屋に荷物を置いてから、庭の噴水近くに出向いた。

そのそばにテーブルとイスがあるのに気がついて、イスに腰掛けた。

「雨宮様、紅茶をどうぞ。」

使用人の男性が、気を利かせて飲み物を持って来てくれた。
白いティーカップに、熱い紅茶が注がれる。

「ありがとうございます。」

入れたばかりの紅茶は、高級感の漂う香りがした。

⏰:09/02/17 22:12 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#313 [ぎぶそん]
「お待たせ。」

紅茶を一口飲んでみた所で、優平が現れた。
何やら黒いケースを抱えている。

「練習し始めたのは中学の時からだけど、同級生に披露するのは初めてかな。」

腰を下ろした彼がケースから取り出したのは、バイオリンだった。

⏰:09/02/17 22:24 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#314 [ぎぶそん]
その場を立ち上がると、少し呼吸を整え、バイオリンを弾き始める優平。

彼が演奏した曲は、モーツァルトの「フィガロの結婚」だった。

巧みに弓を動かしながら、繊細なメロディーを奏でる。

学校では決して見せてはくれない、御曹司としての姿。
私はただ、彼の悠然な姿に見とれていた。

⏰:09/02/17 22:37 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#315 [ぎぶそん]
5分くらい経った後、演奏が終わった。

「…最後ちょっと間違えちゃった。」

彼が照れ隠しのような笑みを浮かべる。

私はイスに座ったまま、大きな拍手をした。

「かっこよかったよ。」

彼が陰で"王子"と呼ばれる理由が、今は理解できるかも知れない。

⏰:09/02/17 22:44 📱:SH705i 🆔:cEdrtdZ6


#316 [ぎぶそん]
「優平はいつも、家で何をして時間を過ごしてるの?」

「えっ?課題済ませて、予習して、テレビ観て、風呂入って…普通だよ、普通。」

「そう。今日は家での優平の様子が知りたいな。」

「えぇっ!?何かそう言われると、無駄に緊張するなー。」

イスから垂らした両足をプラプラさせながら、彼のはにかんだ笑顔を眺めていた。

⏰:09/02/18 00:37 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#317 [ぎぶそん]
また本館に戻ると、2階の洋室に案内された。

優平がリモコンで操作すると、ソファーの前に映画館で見るようなスクリーンが降りてきた。

「好きなの選んでいいよ!
ごめん、俺ん家、恋愛物はないんだ。」

優平が、棚からDVDボックスを取り出してきた。
色んなジャンルのDVDが入ってる。

「これがいい。」

その中から、1枚を抜き取った。

「『バトル・シアター』?また過激なのにしたな!」

⏰:09/02/18 00:51 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#318 [ぎぶそん]
「坊ちゃま、雨宮様、お菓子をここに置いておきます。」

またもや使用人の男性が、ハーブティーと焼きたてのクッキーを持って来てくれた。
ソファーの前のテーブルに、2人分にして並べる。

そして退室する前に、部屋の電気を暗くしてくれた。

「これ、コーラとポップコーンの代わりだね。」

「アハハ。面白いこと言うなぁ。」

無料の映画鑑賞は、いたせりつくせりであった。

⏰:09/02/18 01:04 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#319 [ぎぶそん]
「…。」

目を開けた時、エンドロールが流れていた。

確か、主人公が生き残りの戦士として目覚めて…。
その後はすっかり、眠りに就いてしまったようだ。

部屋が暗かったことと、桜井家に着いてからやっと緊張感から少し解放されたことから、安心しきって一眠りしてしまった。

⏰:09/02/18 09:13 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#320 [ぎぶそん]
「あ、起きた?」

隣に座る優平が、顔をこちら側に向けた。

「ごめん。途中ですっかり寝ちゃったみたい。」

「アハハ。気持ち良さそうに寝てたから、無理に起こさなかった。
続きが気になるんだったら、またいつでも同じDVD観ていいから。」

⏰:09/02/18 09:19 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#321 [ぎぶそん]
夕方―

「優平坊ちゃま、食事のご用意が出来ました。」

「お、もうそんな時間?」

新人の使用人の男性を交えてTVゲームをしていると、沼木さんが報告しに来た。

「よーし、続きはまた今度。」

熱中していたゲームを中断する。

⏰:09/02/18 09:26 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#322 [ぎぶそん]
それまでいた洋室を出て、1階の食堂に足を運んだ。

白いテーブルクロスが掛けられた長机に、豪勢な食事が無数に並んでいる。

「遠慮せず好きなの食べていいよ。」

二十人は同席できる食事の席に着いてるのは、私と優平だけであった。

高級レストランに出向いたようなパスタ、伊勢海老の姿焼き、ローストチキン。

何から手をつけていいのだろうと、頭を悩ます私。

⏰:09/02/18 09:42 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#323 [ぎぶそん]
「雨宮様、お口に合わなかったら何なりと申して下さい。」

料理を作ったシェフの宮島さんという人が、私に一言話し掛けてきた。

「全然そんなことないです。どれも美味し過ぎるほど美味しいです。」

一先ず、普段食べられそうにないものから積極的に食べた。
一気に舌が肥えそうだ。

隣では、慣れた手つきでナイフとフォークを扱う優平。
テーブルマナーは、自然に完璧にこなしている。

⏰:09/02/18 09:50 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#324 [ぎぶそん]
「…優平って、カップ麺とか食べたことある?」

ご馳走に囲まれた食卓の中で、こんな質問をしてみた。

「元基ん家に泊まった次の日に出されたから、その時初めて食べたよ。」

「あはは。あいつももっと、気の利いたものを出せばいいのに。」

まあ、らしいと言えばそうであるかな。

「ううん。なかなか美味しかった。また食べたいと思ってる。」

⏰:09/02/18 09:56 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#325 [ぎぶそん]
「だったら今度、うちの近所にある『保ラーメン』に連れて行ってあげるよ。
美味しいって凄く評判なんだ。」

「本当に?楽しみ。」

「うん。今日招待してくれたお礼。」

"真希ちゃん、遂にボーイフレンドが出来たのかい?"と屈託のない保おじさんの笑顔が浮かぶ。

⏰:09/02/18 10:03 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#326 [ぎぶそん]
最後に口直しにデザートの特製杏仁豆腐を食べ、片付けられた席の前で、二人でゆっくりと雑談を始めた。

「今日はこんな豪華なフルコースを振る舞ってくれて有り難うね。
お父さんや東吾兄にも食べさせたら、喜んだだろうな。」

今日来るはずだったエリと元基も、今頃一緒にいればきっと舌が唸っていただろうな。

「宮島さんが心を込めてくれて作ってるから、その分美味しいんだろうね。」

「うん、そうだね。
…優平は、お母さんの手料理は食べたことないの?」

⏰:09/02/18 10:15 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#327 [ぎぶそん]
「うーん、数え切れるほどしかないかなぁ。
運動会の時に、お昼に弁当を作ってくれたのが最後かな?」

「…そうなんだ。」

「なかなか忙しいみたいだから。親父の右腕としてさ。」

「…。」

そう晴れやかに笑う優平の姿を、直視できなかった。

⏰:09/02/18 10:22 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#328 [ぎぶそん]
夜、敷地内に設置された露天風呂を、祥華さんと一緒に入ることになった。

祥華さんが全身を包み隠さずさらけ出すので、その抜群プロポーションに、同性ながら少しドキドキする。

「どうかしら?初めて訪れた桜井家は。」

「お陰さまで、楽しいです。」

「優くんのような人と一緒にいたら、毎日がお姫様気分ね。」

⏰:09/02/18 10:47 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#329 [ぎぶそん]
「…優平がどう思ってるかは分からないけど、私は少なくとも彼を一人の男性として見ています。」

「それで?」

祥華さんがにこやかに、理解しているような目つきを私に送る。

「でも、今日ここに来て、正直少し距離を感じてしまいました…。
住んでる世界があまりにも違いすぎて…。」

今日の私は優平のファンの子たちから見れば、この上ない幸せの中にいるのだろうか。

⏰:09/02/18 10:57 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#330 [ぎぶそん]
「ウフフ。それでいいと思うわよ。心から優平のことを見ているからこそ、そうやって悩むと思うわ。」

「え?」

「でも、これからも見る目を変えてあげないでいてね。
彼、こんな必要以上の贅沢に囲まれた環境の中、あんなに健気に真っすぐと育ったのよ。」

「はい。」

優平は大切な友達であり、一人の大切な人に変わりはない。

祥華さんに打ち明けてみて、改めて気づかされた大事なこと。

「ありがとうございます、祥華さん。」

⏰:09/02/18 11:07 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#331 [ぎぶそん]
風呂上がり、優平の部屋を訪ねてみた。

30畳の広々した洋室に、堂々と置いてあるピアノ。

ダブルベッドより大きなベッドは、どんなに寝返っても落ちたりしなさそうだ。

ワックスで綺麗にコーティングされた、ピカピカの白い床を歩く。

⏰:09/02/18 17:31 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#332 [ぎぶそん]
二人でベランダに出て、少し欠けた月を眺める。
夏の夜風が、風呂上がりのポカポカとした体に気持ちよく当たる。

「…真希はさ、どういう時自分の幸せを感じる?」

「え?うーん…。
色々あるよ。推理小説のトリックが何となく解った時。東吾兄にTVゲームで勝った時。数学の難しい問題が解けた時。」

「あはは。真希らしいな。」

⏰:09/02/18 17:41 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#333 [ぎぶそん]
「俺ね、正直毎日の生活の中で、何かに困ったり不自由したことはない。」

「うん。」

そうだろうな、と思う。

「でも、いつも何かがしっくり来ないんだ。
俺って、相当な我が儘だよな。
皆こんなに良くしてくれるのに。」

「…。」

⏰:09/02/18 17:49 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#334 [ぎぶそん]
「俺、幼稚園から中学まで、私立のエスカレーター式の学校に行ってたんだ。

でも、どこか周りと馴染めなくてさ、高校は親父に無理言って、公立の学校に通わせてもらうことにしてもらった。」

「少しだけエリから聞いたことある。」

「元基と初めて話した時のこと、今でも覚えてる。

高校入りたての時、部活見学で隣にあいつがいてさ。
"美味しい棒の味を知らないなんて、お前人生損してるぞ!"って豪語されて、俺そんな時代遅れの中にいたのかー、って。」

「元基ってば、そんなこと言ったの?本当ウケるね。」

⏰:09/02/18 18:04 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#335 [ぎぶそん]
「それでその後、コンビニに行って、2人で美味しい棒を買ったんだ。
1本10円なんて思えないほどうまかった。」

「"美味しい棒"、だしね。」

「それから、元基といると楽しいなって思うようになって、あいつの後に着いていくようになったかな。

あいつは俺が知らない沢山の面白いことを、まるで手品の種を明かすかのようにもったいぶらず教えてくれるんだ。」

「ちっちゃい頃はがき大将だったみたいだしね。」

⏰:09/02/18 18:11 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#336 [ぎぶそん]
「それである日、あいつ数人の女子に、"桜井くんはお金持ちのお坊ちゃんなんだから、下品なこと吹き込んだらダメよ"って言われたことがあって。

そしたらあいつ、"家柄とか関係なく付き合うのが男同士の付き合いだー"って言い返してさ。
ああ、友達ってこういうもんなんだ、ってその時思った。」

「うん、うん。」

"少し馬鹿な所があるけど、絶対にいい奴です"

元基のことを誰かに説明するならば、私はきっとこう言うだろう。

⏰:09/02/18 18:20 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#337 [ぎぶそん]
「次第にあいつがエリと付き合うようになって、"また自分に似た、活発な子を好きになったなぁ"って、あの時は思ったなぁ。」

「本当、あの二人は似た者同士だ。」

今頃、仲良くやってるのかな。

「それで、エリが真希を連れてきて…、正直、初めて接した時の第一印象は"何かすげーバリアはってそう"だった気がする。」

「よく言われるから平気。」

自分では、あまり意識はないのだけど。

⏰:09/02/18 18:30 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#338 [ぎぶそん]
「…真希さ、確か従姉妹の幼稚園生がいるよな?」

「うん。お母さんの妹さんの子供のこと?」

「俺、いつかの夕方、真希がその子と手を繋いで歩いてるのをたまたま見たんだ。」

「そうだね、叔母さんが急用になった時なんかは、代わりに幼稚園まで迎えに行ってたりしたことがあるよ。」

⏰:09/02/18 18:46 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#339 [ぎぶそん]
「歩く道の途中で、真希がその子にアイスを買ってやっててさ。
その時ちらっと見えた横顔が…どう表現していいのかは分からないけど、凄く綺麗だった。」

「えぇっ!?錯覚かなんかじゃないの?」

彼があんまり真面目な顔でそんなことをいうので、私は笑ってみせた。

「…その数日後、今度は放課後事務員さんと花壇の手入れしてるのを目撃したんだ。
"何だ、普通にいい子じゃん"って。
さすが元基が好きになった子の友達ではあるなって。」

「…。」

そんな所まで見られてたんだ。

⏰:09/02/18 19:08 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#340 [ぎぶそん]
「真希のお母さんが、真希が物心つく前に亡くなったって聞いた時、俺が何かその分の心の溝を埋められたら…って思った。」

「優平…。」

「何だろう。元基やエリの笑った顔も大好きだけど、その中で真希が笑ってくれた時が、俺にとって何よりも嬉しい瞬間なんだ。」

「…ありがとう。」

少しばかり、涙ぐみそうになった。

⏰:09/02/18 19:18 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#341 [ぎぶそん]
「…私ね、この間初めて恋愛小説を借りたの。」

今度は、私から話を持ち掛けた。

「その中にね、主人公の女の人が、好きになった男性と初めて出会った時のことを、まるで四つ葉のクローバーを見つけた時と同じような気持ちだ、って表現してた部分があった。」

「うん。」

⏰:09/02/18 19:23 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#342 [ぎぶそん]
「私にとって、優平がそう。最近じゃ、ただこうして一緒に過ごしてるだけで、私にとって幸福な時間が流れてる。

お父さんや東吾兄、エリや元基たちといる時とはまた違う温かい感情を、優平は私に与えてくれるんだ。」

ねぇ、お母さん…。
お母さんは私を目の前のこの人と出会わせる為に、私を産んでくれたの?―

少なくとも今は、そう思うよ。

⏰:09/02/18 19:39 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#343 [ぎぶそん]
数日後、私は桜井家から帰って来た。

祥華さんや沼木さんを始めとした使用人の方たちに、何度も感謝の気持ちを述べた。

夢のような時間をありがとうと、優平をここまで立派に世話してくれてありがとうと。

数日の間、普段の日常では到底成し得ないような、セレブリティな生活を送った。
でも、優平とただ二人で佇んでた時が、一番心が満たされていた。

⏰:09/02/18 19:47 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#344 [ぎぶそん]
日曜日の昼下がり、エリとファミリーレストランで一緒に食事を取ることになった。

「どうだったー、初めての桜井家は?二人きりの方がいいと思って、私たち敢えて行かないことににしたの。
まあ、結果騙す形になっちゃったのは謝るね。」

エリが、"申し訳ない"のポーズを取る。

「ううん。そのお陰で、何か優平に近づけた感じ。」

二人の優しさを、私は汲み取った。

⏰:09/02/18 19:56 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#345 [ぎぶそん]
「ねぇ、エリはさ、どういう時自分の幸せを感じる?」

優平に尋ねられたことを、今度はエリに聞いてみた。

「えぇー?
そうねぇ、元基が珍しく何か奢ってくれた時とか、頭髪検査を上手くくぐり抜けられた時とか、新しく買ったマスカラが、思った以上にボリュームがあった時とか。」

「あはは。エリらしいね。」

⏰:09/02/18 20:03 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#346 [ぎぶそん]
「じゃあ、真希は?」

「…私はね、幸せを感じる瞬間って生きてる内で数え切れないほどあるけど、最近特に一番それを感じたのは…。」

そう。
自分が好きである人に、自分の気持ちが届いた時。

その上、相手も自分と全く同じ気持ちであった時。

私と優平はあの晩、あれから手を繋いだままずっと、一晩中語り明かしてたんだ。

エリも元基と付き合うようになった時、こんな気持ちだったのかな?

あの日、私たちの心の距離は、限りなくゼロに近づいていた。

Chapter04 END.―

⏰:09/02/18 20:12 📱:SH705i 🆔:fL1Gvzv6


#347 [ぎぶそん]
Chapter05
「生きるということ」

⏰:09/02/25 22:37 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#348 [ぎぶそん]
蝉たちの鳴き声が消えかかる頃、夏休みも終了し、二学期が始まった。

久しぶりに対面するクラスの皆。
少し日焼けした肌の色以外は、皆の様子はあまり変わっていない。

「それ本当?松田。」

「ああ間違いない!てっしーが見たこともない生徒と一緒に居たんだ。きっと転校生だよ!」

夏休みボケも覚めてきた数週間後、朝教室に入るや否や、何やらエリたちが集まって騒いでいるのが見えた。

⏰:09/02/25 22:46 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#349 [ぎぶそん]
「どうしたの?何かあった?」

自分の席にカバンを置くより先に、まずエリたちに声を掛けてみた。

「ああ、真希。
もしかしたら今日、うちのクラスに転校生がやって来るかも知れないって。」

「え?」

エリの話によると、担任の手島先生が、うちのクラスにいない子と職員室から出て来るのを、クラスメートの男子が目撃したらしい。
その子は女子生徒だったという。

⏰:09/02/25 22:53 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#350 [ぎぶそん]
「おい松田、その子どんな感じだった?」

「さあ、俺が見たのは後ろ姿だったから、よく分かんなかった…。」

「俺、どうせだったら可愛い子がいいなぁ。」

「やめとけやめとけ。昔から転校生ってもんは、期待ハズレが関目の山さ。」

「ま、それもそうだよなぁ。」

色々と言葉を交わす男子たち。

⏰:09/02/25 22:59 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#351 [ぎぶそん]
チャイムが鳴り、朝自習の時間が始まっても、転校生かも知れないという子のことを考えていた。

一学期も終わり、クラス内では既に各々のグループが固定化されている。

男子も女子も分け隔てなく仲が良いのがうちのクラスの特色だけど、新しくどこかのグループに入るというのは、そうすぐにはいかないだろう。

本当に転校生が現れた時は、積極的に声を掛けてみよう。
誰だって、独りは寂しい。

⏰:09/02/25 23:07 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#352 [ぎぶそん]
朝自習が済んでから十分後、手島先生がドアを開け、教室へとやって来た。

同時に、クラス内のざわつきがピタリとなくなる。

先生が教壇へと歩く度、小さくパタパタと鳴るスリッパの音。

「あー、今日は朝のホームルームを始める前に、皆に是非とも紹介したい人がいる。
君、入って来てくれたまえ。」

先生の指示と共に、ドアの付近に立っていた女子生徒が教室に入って来た。

⏰:09/02/25 23:17 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#353 [ぎぶそん]
「今日から皆と同じクラスになった、村上弥生さんだ。
皆、仲良くするんだぞ。」

「初めまして、村上といいます。皆さんよろしくお願いします。」

女の子らしい高い声で挨拶をしてから、頭を下げる転校生。

彼女の登場によって、教室内が小さくどよめく。

身長や体格はエリに似ていて小柄ではあるが、どこか落ち着いている。

見た目は愛嬌もなく無愛想でもない、クールな感じであった。

⏰:09/02/25 23:27 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#354 [ぎぶそん]
「山崎、ブスがやって来たどころか、普通に美少女じゃん!」

「ハハハ、ごめんごめん。」

「転校する前はどこに住んでたのー?」

「ねぇ、村上さん。お昼は私たちと一緒に食べましょう?」

休み時間になった途端、村上さんの周りを皆が取り囲む。
クラス内が、いつも以上に賑やかになる。

⏰:09/02/25 23:32 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#355 [ぎぶそん]
「あーあ。男子ってば、可愛い子が来たからってデレデレしちゃってー。」

「自分のクラスに転校生がやって来るっていうのは、生まれて初めてかな。」

皆の転校生が訪れた喜びようを、窓側でエリと二人で傍観する。

それにしても転校生の村上さん、どこか陰があるように思えるのは、気のせいかな…―

⏰:09/02/25 23:38 📱:SH705i 🆔:r/GN9WtE


#356 [ぎぶそん]
放課後、エリと職員室を利用し、教室に戻ってみると、村上さんが教科書をカバンに詰めていた。

「村上さん、一人?
良かったら、私たちと一緒に帰らない?」

彼女の元に行き、積極的に話し掛けるエリ。

「えっと…。」

「私は長谷部エリ。エリでいいよ!
こっちは雨宮真希。同じクラスだし、何かあった時は言ってね。」

そこで初めて自己紹介をした。

⏰:09/03/23 22:09 📱:SH705i 🆔:akN.NqpQ


#357 [ぎぶそん]
「ねえねえ、コンビニでアイス買わない?」

雑談をしながら、三人で教室を後にする。
主にエリが話題を出す。

「…あ!」

階段を下りようとした所で、部活へと向かおうとする優平と遭遇した。
彼のショルダーバッグに着けてあるキーホルダーが、小さく揺れる。

「今帰り?」

「うん。」

彼と視線を合わせるだけで、不用意に胸の心拍数が上がる。

⏰:09/03/23 22:18 📱:SH705i 🆔:akN.NqpQ


#358 [ぎぶそん]
「えっと…。」

優平が、初見の村上さんを不思議そうに見つめる。

「あ!彼女は今日うちの学校に転校してきた、村上弥生さん!」

彼の態度を察知すると、エリが説明をする。

「へえ、そうなんだ。初めまして。」

「優平、真希から村上さんに乗り換えたら承知しないんだからねっ!」

「えっ!!」

エリの台詞に、私と優平は二人して照れた。
私たちの関係って、一体どんなものなのかな…―

⏰:09/03/23 22:25 📱:SH705i 🆔:akN.NqpQ


#359 [さや]
待ってました

⏰:09/03/26 15:07 📱:F905i 🆔:GreNRE2o


#360 [ぎぶそん]
>さやさん

返事遅くなりました。
コメント有り難うございます!

最後まで書き上げるので、良ろしければお付き合いよろしくお願いします(^-^)

⏰:09/04/02 08:44 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#361 [ぎぶそん]
三人で学校近くのコンビニでアイスを買い、店の前にあるベンチに座ってさっそく食べた。

「あっ、いっけなーい、おつかい頼まれてるんだった。」

エリがクレープのアイスを食べ終えてすぐ、たった今用事を思い出したように慌てた声を出した。

「じゃあ二人とも、また明日ね。」

ケラケラとした表情で私と村上さんにさよならを告げ、自宅の方向へと駆けて行く。

エリはいつもこうだ。
こちらが飽きることがない位、コロコロと行動パターンが変わる。
まあ、彼女のそんな所が好きなのだけど。

青いベンチに、一人分だけスペースが空く。
私と村上さんの、二人きりになった。

⏰:09/04/02 09:03 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#362 [ぎぶそん]
エリが去った後は、その場が一気に沈黙となった。
お互い、話題を積極的に出す性格ではなさそうだし。

こんな時、どうしたらいいのだろう。
こんな時は、エリや元基の性格が羨ましくなる。

「…さっき廊下で会った人、真希ちゃんのボーイフレンド?」

場のやり方について戸惑っていると、村上さんが口を開いた。

⏰:09/04/02 12:34 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#363 [ぎぶそん]
「えっ…違うよ。」

彼女の思わぬ質問に、とっさに否定をした。
それと同時に、さっそく"真希ちゃん"と呼んでくれたことが、くすぐったかった。

「そうなんだ。アタシにはお似合いに見えたのにな。」

「…正直言うと、私は彼のことが好きだよ。
でも、向こうはどうだか。」

私と優平の関係って、いうなれば友達以上恋人未満って奴かな?

手持ち無沙汰かのように、ぶら下がってる両足をパタパタさせた。

⏰:09/04/02 13:03 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#364 [ぎぶそん]
「…アタシ、この歳でまだ誰かに恋したことがないんだぁ。」

彼女がボソッと呟く。
俯いて両手でアイスの袋をいじっている。

「私も、人を好きになったのは優平が初めてだよ。
それも、つい最近。」

「…でもね、今まで結構な男の人と寝てきたの。
ふふふ、変な話でしょう?」

「えっ…。」

話を始めてまだ数分、彼女が唐突に"そういう話"を持ち掛けた。
口元は緩んでいたが、目は笑っていなかった。

清楚な見た目とは裏腹に、中身は大胆な子なのかも知れない。

⏰:09/04/02 13:30 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#365 [ぎぶそん]
「アタシ、望まれて生まれて来た訳じゃないらしいの。
ううん、どちらかと言うと、生まれて来て欲しくなかったみたい。

両親はすぐに離婚。
今はパパ一人でアタシを養ってる。

そんなアタシを男たちが求めてくるのが、滑稽に見えて仕方がないんだぁ。」

「…。」

突然の彼女の話に、言葉が出なかった。
余計なことを言って、傷つけるのも避けたかった。

「あ、こういう話、もしかして苦手だったかな?
大人しいフリしてんのが窮屈でさ、つい話しちゃった。」

先程の帰り際のエリのように、ケラケラと笑う彼女。
でもそれは明らかに、ダークな雰囲気に包まれていた。

⏰:09/04/02 13:56 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#366 [ぎぶそん]
「真希ちゃんには幸せになって欲しいなー。
真希ちゃんみたいに落ち着いてる子、アタシ好きなの。」

そう言い終えると、彼女はサッと足を組んだ。
その仕草だけで、不思議と一気に大人びた感じになった。

「そんな、私たち同い年じゃない。村…弥生ちゃんもまだまだこれからだよ。」

「アタシ、もう汚れてるし。」

ハァとため息をつきながら、頬杖をつく彼女。
その切なそうな表情を、夕焼けがオレンジに染める。

⏰:09/04/02 18:11 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#367 [ぎぶそん]
「…私のお母さん、小さい頃に死んじゃってさ、それからずっと父親と二人暮らししてた。

そんな環境を不幸とは思わないけど、生前のお母さんに会いたいと思うことは何度もあるよ。

うん、やっぱり寂しいよ。お母さんがいないのは。」
普段、誰にも告げない思い。
自然と拳に力が入る。

「ふふふ。別にいいよ、アタシのこと慰めなくても。」

「弥生ちゃんのお母さん、きっとどこかで毎日弥生ちゃんのこと想ってるよ。

どんな母親だって、腹を痛めて産んだ子はかけがえのない存在だよ。

私のお母さんも、空から毎日私のことを想ってくれている。」

お母さんの居る、空を仰いだ。

⏰:09/04/02 18:23 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#368 [ぎぶそん]
「それと今はね、大学生の居候がいるんだ。
賑やかでせわしない人だけど、本当のお兄ちゃんのように思ってる。」

東吾兄のくしゃっとした笑顔が浮かんだ。
今頃、家でTVゲームに熱中してるかな。
帰ったらまた、付き合わされるんだろうな。

『生きてると、楽しいことが沢山あるよ。』

現実に対して、少し悲観的な彼女に伝えたいこと。

でも、喉の辺りまで出てきた所で、飲み込んでしまった。
同級生に対してこんな台詞を言うのは、偉そうだと判断したから。

⏰:09/04/02 18:36 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#369 [ぎぶそん]
「マキロン、おかえり!
あっ、丁度良かった。レベル上げ付き合って〜。」

家に帰ると、想定内の光景が広がり、想定内の台詞を告げられた。
ソファーに寝転がりながら、TVゲームを堪能している東吾兄。

「もー、ちょっとは夕飯の準備手伝ってよ。
居候の分際で遠慮なさ過ぎ、くつろぎ過ぎ。」

スーパーの袋を、テーブルの上に音を立てて置く。

「アハハ。だって俺、不器用だし役不足だし。」

⏰:09/04/02 18:49 📱:SH705i 🆔:K79dghiA


#370 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350

⏰:09/04/02 22:57 📱:W61SA 🆔:5zPWjPPg


#371 [ぎぶそん]
>匿名さん

アンカー有り難うございます!(^^)

⏰:09/04/03 13:09 📱:SH705i 🆔:ByU6c7HI


#372 [ぎぶそん]
今日の夕飯は、カルボナーラを作ることにした。
東吾兄にも、パスタを茹でるという作業をしてもらった。

今日の夕飯は2人分だけ。
放課後父から、会社の人と飲んでくるという連絡があったから。

「今日うちのクラスに、転校生がやって来た。」

「へえー。そりゃ、大学にはない楽しみだなぁ。」

出来上がってすぐ、2人で夕飯の席を囲んだ。
湯気の立つパスタをフォークに巻き付ける。

⏰:09/04/03 13:19 📱:SH705i 🆔:ByU6c7HI


#373 [ぎぶそん]
「何か、陰のある子だった。悩みを抱えてるみたい。」

弥生の、切なさそうな横顔を思い出す。

「そりゃ人間誰だって、生きていれば困難にぶつかるだろうな。
今がその時期なんだろ。」

パスタを流すように、オレンジジュースをがぶがぶ飲む。
東吾兄は、水やお茶が苦手らしい。

「…ねぇ、東吾兄は両親が海外に住むって決めた時、寂しくなかったの?」

前から気になっていたことを聞いてみた。

⏰:09/04/03 13:29 📱:SH705i 🆔:ByU6c7HI


#374 [ぎぶそん]
「俺、もう大学生だしなぁ。最初はびっくりしたけど、今は寂しさを感じることはあまりないね!
大学もこの家で暮らすのもおもしれーからさ。」

「そっか。」

「親父もおふくろも、俺が大きくなって、やっとやりたいことがやれると思ったんだろ。
俺はそれを反対はしないよ。養ってもらった分、親の幸福を願うのが子供の務めさ。」


即答の中にも、しっかりとした自分の考えがあった。
東吾兄、もっとこういう面を出せば女の子にモテるだろうに。
そう言ったら、怒られるかな。

⏰:09/04/03 13:43 📱:SH705i 🆔:ByU6c7HI


#375 [ぎぶそん]
次の日の朝、下駄箱の所でエリと鉢合わせた。

「昨日はごめーん。
昨日は村上さんとどうだった!?」

両手を合わせ、詫びるエリ。

「うん、普通にいい子だったよ。」

脱いだ靴をしまいながら、昨日の弥生の言動を思い出す。

エリには彼女から訳ありな話をされたことは、告げないことにした。

多分、私だからこそ言えるものがあったのだろう。
自惚れかも知れないけれど、そんな気がする。

たった数時間の会話だけで、彼女の心の深い奥の底が見えた気がする。

⏰:09/04/04 22:37 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#376 [我輩は匿名である]
>>273-400

⏰:09/04/04 23:14 📱:D705i 🆔:2MY1v5ZY


#377 [ぎぶそん]
朝自習が済んだ後、ますちゃんと英語係の役割をする。

本日クラスから収集したのはぺらぺらのプリント用紙だったが、ますちゃんと話すのが楽しいので、手ぶらで職員質まで付き添う。
こんなパターンは少なくない。

「…雨宮さん、最近桜井くんとはどう?」

階段を下りる途中、ますちゃんがさりげなく問い掛けてくる。

「うーん、今までどおりの友達のような、そうでないような…。」

ますちゃんには以前、優平のことが好きだということを話しておいた。

⏰:09/04/04 23:18 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#378 [ぎぶそん]
「そろそろ告白しちゃえばいいのに。
あんまりのんびりし過ぎて、桜井くんが誰かに取られても知らないよー!?」

責め立てるように、ますちゃんが私の方に寄ってくる。
小さい身体ながら、彼は物事をきっぱりと言う所がある。

それも私を思ってのことだから、悪い気はしない。
クラスで人気者なのも、誰にでも思いやりを持って接しているから。

「う…。優平がいいって思う人であれば、その時は祝福するよ…。

それに私、決めたんだ。
本当に相手の存在が大切に思えた時、気持ちを伝えようって。」

そう、お父さんとお母さんが大恋愛をしたみたいに、私もこの恋を温めていきたいんだ―

⏰:09/04/04 23:31 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#379 [ぎぶそん]
休み時間の間にトイレに向かうと、弥生が鏡の前で身なりを整えていた。

「おはよう。」

同じクラスだけど、今日初めて顔を合わせる。

正直、昨日の件もあり、自分からどう接すればいいのか分からなかった。
でも、不自然のないようにそこで挨拶をする。

「…真希ちゃん、昨日アタシが話したこと、エリちゃんには言わなかったんだね。」

「え?」

顔は鏡に向けたまま、話を持ち出す弥生。

⏰:09/04/04 23:40 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#380 [ぎぶそん]
「…弥生ちゃんこそ、どうして私なんかに話してくれたの?」

ドクドクと鳴る心臓の音。
たった一言の台詞にも、彼女を傷つける要素がありそうで怖い。

「アタシね、トイレも一人で行けないような子、嫌いなの。
真希ちゃんって、自分をしっかり持ってそうで好感が持てるわ。」

そう一人でトイレに来た私に言うと、すれ違い様に"じゃあね"と囁き、彼女は立ち去った。

私はきっと、彼女にとって悪い印象は持たれていないようだ―

⏰:09/04/04 23:52 📱:SH705i 🆔:zDcHJT92


#381 [ぎぶそん]
次の授業の時、弥生が先生に当てられる場面があった。

難しい問題に対して、迷うことなくスラスラと答える彼女。
見事に正解すると、クラス内が少しざわめいた。

『大人しいフリしてんのが窮屈でさ』

思い出す、昨日の彼女の台詞。

彼女の周りの席の子たちが、"すごいねー"などと話し掛けている。
"そんなことないよ"と、謙虚に小さく照れる弥生。

今の姿は彼女にとって、仮の姿だと言うのだろうか?

私からして見れば、彼女は一人の小柄で愛らしい女子高生だ。

⏰:09/04/05 00:04 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#382 [ぎぶそん]
その晩、風呂上がりに和室を通り過ぎると、父が母の仏壇を磨き上げていた。

「…お父さんってさ、お母さんが悪い過去を持ってたとしても、お母さんのことを好きになってた?」

タオルで濡れた髪を乾かしながら、父の横に座り込む。

「ああ、もちろん!」

「どうして?マイナスに思ったりしない?」

にこやかに答える父に聞き返した。

⏰:09/04/05 12:23 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#383 [ぎぶそん]
「父さんは、今この瞬間の母さんを好きになったんだから。
おしとやかで、可憐で、あったかくて。

昔のことを聞いた位じゃ、その心は揺るがないさ。」

隅々まで行き渡るように、父はひたすら雑巾を持つ手を動かし続ける。

「お母さんって、それほどお父さんにとって素敵な人だったんだね。」

遺影に映る母の顔を見る。

まるでこの世にある全ての悪行を許すかのように、こちらに優しく微笑んでいた。

⏰:09/04/05 12:26 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#384 [ぎぶそん]
その後部屋にこもり、早めに読書を終えると、ランプを消す。

暗い部屋で、布団に潜り目をつむったまま考え込む。

自分の周りには、エリや元基のように、あっけらかんとしたタイプの人間が多かった。

その分弥生のようなタイプの人間が、気にかかってしまう。
彼女は自分から、少女としてのあどけなさややんわりとした雰囲気を、廃除しているように思える。

『生まれて来て欲しくなかった』とは、どういう意味なのだろうか?

そんな親、本当にいるのだろうか。
少なくとも、今の私には分からない。

⏰:09/04/05 12:37 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#385 [ぎぶそん]
弥生が私たちの学校に転校して来て、二週間が経った。
彼女もだいぶクラスに溶け込んできて、クラスの皆が彼女を特別視する回数も減ってきた。

「あれ、弥生ちゃんとD組の町田じゃない?」

昼休み、エリと外にある自販機に向かう途中、校庭で弥生と他のクラスの男子が話し込んでる姿が見えた。

町田は先生に盾突いたり、放課後はケンカ三昧の日々で、素行があまり良くないことで有名だ。

ガラの悪い男子と物静かな女子の組み合わせ。
その違和感から、遠くにいても目立つ。

⏰:09/04/05 12:44 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#386 [ぎぶそん]
「町田ったら、今度は弥生ちゃんに手出そうとしてんのかねー。
あいつが前付き合ってた子、清楚な感じだったし。」

「何か嫌な予感がする…。」

「そう?弥生ちゃんみたいな優等生は、あんな奴に引っ掛かったりしないでしょ。」

二人の姿を見続けていると、町田が一方的に言い寄ってる様子ではなさそうだ。

弥生の方も、相手の話に対して静かに頷いている。

この時心が覚えた小さな胸騒ぎを、私は逃さなかった。

⏰:09/04/05 12:52 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#387 [ぎぶそん]
放課後、元基から優平が図書室にいると聞き、さっそく行ってみることにした。

今日一日彼の姿を見ていない。
特別用事がある訳ではないが、無償に会わずにはいられなかった。

「優平…?」

図書室に入ると、勉強道具が散らばる机に、顔を伏せたまま優平が眠っていた。

彼の黒くて艶のある髪を、夕日が窓越しに照らす。

⏰:09/04/05 17:59 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#388 [ぎぶそん]
彼の近くの椅子に、腰を下ろしてみる。

死んだように眠る、優平の寝相にぴったりの表現だ。
その寝顔を、じっくりと観察する。
長い睫毛や筋の通った鼻に、思わず見入ってしまう。

疲れてるのかな?
きっと毎日、たくさん勉強してるんだろうな。

彼が起きないように、そっと頭を撫でてみた。

⏰:09/04/05 18:01 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#389 [ぎぶそん]
トクン、トクンと心臓の音が体内でこだまする。

その髪を繰り返し触ってみる。
彼に近付けば近付くほど、今度はその体に触れたいという気持ちになる。

今、どんな夢を見ているのだろう。
その中に、私は映っているのかな!?

優平がどんな過去を持っていたとしても、今この瞬間のときめきは色褪せないだろう。

⏰:09/04/05 18:11 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#390 [ぎぶそん]
「ん…。わ、真希っ!」

一時間後、眠りの王子が目を覚ました。
私の存在に気づくと、その場であわてふためく。

「あ、起きた?」

彼が寝ている間、読んでいた本を閉じる。

「ずっと居たの?起こしてくれて良かったのに。」

「気持ち良さそうに寝てたから。」

今日初めての、彼との会話。

彼と些細なやり取りが出来るだけで、今日一日があでやかなものになるよ。
それは、雨上がりの虹のように。

⏰:09/04/05 18:15 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#391 [ぎぶそん]
「今日、部活休みだったの?」

放課後、優平が学校に残ってることが珍しい。

「ああ、俺足痛めちゃったみたいでさ、明日も病院通い。」

情けないよな、と歯を見せて笑う。

「え…、それは心配。」

「大丈夫だって。たいしたことないから。」

⏰:09/04/05 21:00 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#392 [ぎぶそん]
「何か私に出来ることがあったら言ってね。」

「そうだなあ、じゃあ今日一緒に帰ろう。」

彼は立ち上がり、勉強道具をカバンにまとめ始めた。

「うん。」

彼からの意外な要求。
すぐに頷いたのは、嬉しさからくるものがあったから。

久しぶりの一緒の下校。
それだけなのに、胸がドキドキするよ。

⏰:09/04/05 21:08 📱:SH705i 🆔:vgyn5LVM


#393 [ぎぶそん]
私も教室に戻って、荷物をまとめる。
電車通学の彼に合わせて、帰り道のコースは駅まで一緒ということになった。

優平って、結構背が高いんだ。
真横に並ぶ彼を見て、改めて感じた。
異性だと意識し始めてから、様々な視点が変わる。

二人とも、歩幅が自然とゆっくりになる。
いつもの景色が、もっと好きになる。

⏰:09/04/06 17:43 📱:SH705i 🆔:bVwBHG7I


#394 [ぎぶそん]
「今度、サッカーの試合観に行きたいな。」

街中でこんな台詞を、さりげなく呟いてみた。

「マジ!?じゃあ、練習頑張らないといけないなぁ!」

「足、早く治るといいね。」

写真を撮られたかのように、最大限の笑顔をしてみる。
彼の制服の袖を、小さくつまむ。

こんな仕草や表情、きっとお父さんにも見せたことないだろう。
ううん、恥ずかしくて見せられないや。

⏰:09/04/06 17:46 📱:SH705i 🆔:bVwBHG7I


#395 [ぎぶそん]
次の週末が明けた月曜日、朝普段どうりに教室に入ってみると、またもやエリや男子たちが一つに集まっていた。

「真希…。」

エリが深刻そうにこちらを見てくる。

「どうしたの?」

いつもと違う雰囲気に、一目散に駆け寄る。

「転校生の村上が、D組の町田とホテルに行く所を、目撃した奴がいるんだよ。」

「えっ…。」

エリの代わりに、一人の男子が説明してくれた。

⏰:09/04/06 17:53 📱:SH705i 🆔:bVwBHG7I


#396 [ぎぶそん]
「まあ、悪いとは言わないけどさ、村上さんってああいうのがタイプなんだなーって。」

一人の男子が、投げやりな感じで話す。

「まだ転校して間もないのに。意外と遊んでるんだ。」

「俺、いいかもって思ってたのになー。清純そうに見えたのに。」

クラスの皆の弥生に対する印象が、一気に違うものとなった。

⏰:09/04/06 18:02 📱:SH705i 🆔:bVwBHG7I


#397 [ぎぶそん]
昼休み、一人屋上へと上がる。
ドアを開けてみると、弥生が一人で屋上からの景色を見下ろしていた。

こちらの気配に気がつき、瞬時に振り向く。

「噂、もう広まってるみたいね。」

クラスメートの私だと解った瞬間、やんわりと微笑む。
彼女の赤みがかかった髪と制服のスカートが、秋風になびく。

「町田くんね、評判は悪いみたいだけど、あれでも優しいトコあるのよ。」

現在周りが自分の交友関係のことで話題になっていることを、だいたい把握しているようである。

⏰:09/04/09 23:46 📱:SH705i 🆔:zwtBDWqQ


#398 [ぎぶそん]
「私は弥生ちゃんが好きになった人なら否定したりはしないよ。
でも、悪いことには巻き込まれないで欲しい。」

町田は日常茶飯事に人に暴力を振るう。
それによって彼女の身に何か降りかかることが、何よりの心配。

彼女は余裕の表情で「そう。」と言うと、それ以上は何も言わずその場を立ち去った。

⏰:09/04/09 23:48 📱:SH705i 🆔:zwtBDWqQ


#399 [ぎぶそん]
その日の晩、夕飯の席で父が珍しく深刻そうに口を開いた。

「今朝南区の商店街で、自殺があったらしい。
父さんの会社の同僚の人が第一発見者だったみたいでな、警察の人から色々事情聴取を受けて出勤時刻に遅れたそうだ。」

「あそこ、自殺の名所ですもんねぇ。」

東吾兄が理解できるような面持ちでいる。

「日本は年間で約3万人の自殺者がいるらしいぞ。」
持っている箸で、私たちを指す父。

「そんなに…?!」

あまりのその数の多さに、私は驚愕した。

⏰:09/04/10 13:09 📱:SH705i 🆔:j.4ME3cQ


#400 [ぎぶそん]
「人間はな、どんなに苦しいことがあっても、たった一つの希望さえあれば、生き続けたいと願うもんなんだ。

でも、自ら命を絶とうという人には、全くそれがない状況ということになる。

生きるというそのものが100パーセント絶望にしか感じられなくなった時、人は死ぬんだろうなぁ。」

父は今日あった出来事を通して、何か感じるものがあったようだ。

今日の食卓の空気は、いつものおふざけモードとは一変した。
社会に通じる問題も、こうして家族間でも日々話し合っていきたい。

⏰:09/04/10 13:21 📱:SH705i 🆔:j.4ME3cQ


#401 [ぎぶそん]
風呂上がりに、パジャマ姿のままでリビングのベランダに出てみた。
見上げて見るお月様は、満月に近い形をしていた。

瞬く満天の星に、人はそれぞれどんなことを思うのだろう。

私は明日も明後日も夜を迎える度、こうして星たちを眺めていたいよ。

辛い時も、楽しい時も。
何事もなく終えた日でも。

自分の命が瞬き続ける限り、目の前にあるものを受け止めていく。

私はそう、生き続けたいんだ。

⏰:09/04/10 13:34 📱:SH705i 🆔:j.4ME3cQ


#402 [ぎぶそん]
弥生と町田の噂はたちまち他のクラスにも広まり、それ以降彼女に親しく声を掛ける者は少なくなっていった。

以前、町田と付き合っていた子に言い寄ってしまった男子が、その後町田に一発殴られたという。

その一件もあって、下手に彼女を近づいたり傷つけたりして、町田に因縁をつけられることを、皆は恐れているのだ。

そんな中、エリは変わらず転校してきた頃のように、積極的に彼女に話し掛けたりしていた。

町田との交際が噂された当初は驚いていたようだったが、少し経つとそのことにも気にも止めなくなったみたいだ。

移動教室の時は彼女も誘ったり、休み時間に勉強を教えてもらったりするエリは、楽しそうだった。

⏰:09/04/12 17:23 📱:SH705i 🆔:UwxDzFUk


#403 [ぎぶそん]
数日後の昼休み、私は優平と屋上に来ていた。

弥生が何か訳がありそうな雰囲気あり、それを私に伝えようとしていることを、優平に話してみることにした。

「きっと、村上さんは誰かに自分のことを理解して欲しいんじゃないかな。」

「理解?」

「うん。ずっと、寂しかったんだと思うよ。」

ああ、そうか。
彼女を初めて見た時、その瞳は孤独で淋しそうに見えたんだ。

⏰:09/04/12 17:31 📱:SH705i 🆔:UwxDzFUk


#404 [ぎぶそん]
放課後、トイレを済ませ教室に戻ろうとした時だった。

「真ー希ちゃんっ。」

弥生に後ろから肩を軽く叩かれた。

「F組の桜井くんだっけ?彼、奥手そうだね。
そういう男と付き合うと、後々じれったくて面倒になるわよ。
他の男に乗り換えたら?」

腕組みをしながら、私の隣を歩く。
身長はクラス内で低い方だが、どこか威圧感がある。

私と二人きりになると、彼女は少々毒舌になるようだ。
彼女自身が言う、『本性』といった所か。

⏰:09/04/12 17:46 📱:SH705i 🆔:UwxDzFUk


#405 [ぎぶそん]
「…弥生ちゃんは、町田くんのどんな所が良かったの!?」

「え?」

「私、知りたいな。弥生ちゃんのこと、色々と。」

嘘じゃない、全くの本心。

彼女が意表をつかれたという顔をしていると、教室から出て来たエリが「真希ー、遅い!帰るよー!」といいながらこっちに来たので、会話は中断した。

⏰:09/04/12 17:53 📱:SH705i 🆔:UwxDzFUk


#406 [ぎぶそん]
その後、いつものようにエリと一緒に帰る。

「ねえ真希、弥生ちゃんってどう思う?」

西洋を意識した通りに差し掛かった所で、エリが口を開いた。

「んー、正直、どこか陰のある子だなって。」

「私も思った!だからその分、色々と気になっちゃうんだよね。」

その後、無言で下を向くエリ。

⏰:09/04/12 18:04 📱:SH705i 🆔:UwxDzFUk


#407 [ぎぶそん]
「…真希たちには言ってなかったけどね、私中学の時にハブられてた時期があってね。
ほら私、気がついたらついついうるさくなるでしょ?
それで一部の子たちから、『調子乗ってる』って言われだして。」

突然、エリが辛かった過去を告げてきた。
私が黙ったままでいると、彼女は話を続ける。

「やっぱり、その時は全然楽しくなかったよ。学校に行きたくないって思った時もなかったし。
だから、一人ぼっちにしてる子とか、気になっちゃうんだよね。
『独りは寂しいでしょ?』って。」

⏰:09/04/12 18:14 📱:SH705i 🆔:UwxDzFUk


#408 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:09/04/15 07:49 📱:SH903i 🆔:geEztBOA


#409 [ぎぶそん]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

>匿名さん

アンカーありがとうございます!(*^-^*)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

⏰:09/04/16 08:15 📱:SH705i 🆔:KQHVNB.U


#410 [ぎぶそん]
「エリには言ってなかったけどね、前元基が言ってたの。
"エリは優しくて可愛い子だ"って。
私もそう思う。エリの気持ちは、皆に届いてるよ。」

私はずっと、人付き合いとやらが苦手だった。

父親以外の人と接するのが億劫で、こんなことが一生続くのかと思ってた。

だからずっと、友達と呼べる人がいなかったんだ。

⏰:09/04/16 08:21 📱:SH705i 🆔:KQHVNB.U


#411 [ぎぶそん]
中2の時の担任の先生が、クラス初めてホームルームで、こんな言葉を贈ってくれたっけ。

『親と先生は裏切っても、友達は絶対に裏切るなよ。
孤独で寂しい人生になるから。』

正直、その時はイマイチ意味が分からなかったんだ。
トモダチという価値を見いだせなかった。

どんなに仲が良い者同士でも、女子は平気で相手の陰口を叩くし。

"友情は一生物"だなんて話を耳にすると、迷信を聞いた時の感覚に陥ってた。

⏰:09/04/16 08:32 📱:SH705i 🆔:KQHVNB.U


#412 [ぎぶそん]
でも、エリと出会って、自分の中で何かが変わったんだ。

私には分かる。
彼女はどんな時も、決して友達を見放したりはしないだろう。

彼女から話し掛けてくれた時、本当は嬉しかったんだ。
心の中ではずっと、孤独を感じていたのかも知れない。
"一人の方が好き"なんて、無意識に意地を張っていたんだ。

もし自分が将来学校の教員になり、教壇に立ったその時は、あの時の先生の言葉をそっくりそのまま引用させてもらうだろう。

⏰:09/04/16 08:41 📱:SH705i 🆔:KQHVNB.U


#413 [ぎぶそん]
そして、エリと出会っていなければ、私は優平のことをその存在も知らぬまま、高校生活が終わっていただろう。

そんなことをふと考えると、ぞっとしてしまう自分がいるんだ。

エリも、元基も、優平も、自分にとって、父親と同じ位なくてはならない存在。

そう、友達がいるだけで、友達を大切に思うだけで、こんなにも日常は幸せで溢れているんだ。

⏰:09/04/16 08:48 📱:SH705i 🆔:KQHVNB.U


#414 [ぎぶそん]
数日後の日曜日、父の提案で我が家で焼肉パーティーが開かれることになった。

転校生も是非連れて来なさいと言うことで、エリたちに加え、弥生も予め誘った。

彼女は嫌がる様子もなく、すんなりと承諾してくれた。

夕方の4時頃、エリたち参加メンバーが我が家にやって来た。

東吾兄もこの日はどこにも出掛けず、転校生見たさにパーティーの手伝いを積極的にやっていた。

⏰:09/04/20 12:31 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#415 [ぎぶそん]
子供たちで、リビングのテーブルに囲む。
父が台所で準備をしている間、皆で団欒をしていた。

「へぇ、エリちゃんと元基くんは付き合ってるんだ!
となると残りは…。」

東吾兄が私と優平の顔を、ニヤニヤとした表情で交互に見回す。

「真希ー、いつもの特製のタレも出来たぞー。」

反論をしようとしたら、大皿などを持った父が、ニヤニヤとした表情でこちらにやって来た。

⏰:09/04/20 12:46 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#416 [ぎぶそん]
「おじ様、特製のタレって?」

エリが興味津々に尋ねる。

「真希は辛口7:甘口3の配合で作るタレが好きなんだ。
でも自分で作ろうとすると失敗するから、おじさんがいつも作ってやってるんだ。」

「アハハ。雨宮さんもまだまだ子供だね。」

キャップを被ったままのますちゃんが笑う。

「うー、ますちゃんには言われたくない。」

私はそのキャップを取ってやった。

⏰:09/04/20 13:06 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#417 [ぎぶそん]
ホットプレートの上で焼かれる肉が、じゅうじゅうと香ばしい音を出す。

「さあ皆、遠慮せずどんどん焼いて食べて!
桜井くんもしっかり食べて栄養をつけて!」

父が優平の皿に、ピーマンばかりを次々放り込む。
優平は緑一色になった皿を見て、少し困っていた。

「ちょっとお父さん、こんなにピーマンばっかり食べられないでしょ?」

私は優平に変わって注意した。

「ああすまん、桜井くんが『緑マントのピーマンマン』に似てたもんで、つい。」

「意味不明!」

⏰:09/04/20 13:18 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#418 [ぎぶそん]
「城さん、桜田くんを『要注意人物』として見ているらしい。」

隣に座ってた東吾兄が、小声で話し掛けてきた。

「何それ?因みに桜井だから。早く覚えて。」

「マキロンに近づく男どもは、一刀両断だって。」

「何それ、呆れた…。」

それでこんな嫌がらせを?
『幸せになれ』って言ったのは、一体何処のどいつよ…―

⏰:09/04/20 13:24 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#419 [ぎぶそん]
「お父さん、お父さんにタレ作ってあげたよ。」

顔に笑みを浮かばせながら、父に新しく皿を渡す。

「おお!ありがたやありがたや。
真希が作ってくれたのなら、ご飯が何杯でも食えそうだ。」

父は早速焼いた肉を取り、そのタレに浸けて食べた。

「って、辛〜っ!!」

そのリアクションに、私は笑った。
父に渡したのは、辛口のタレに唐辛子を沢山投入したものだった。

優平のこといじめたら許さないんだから。

⏰:09/04/20 13:33 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#420 [ぎぶそん]
「弥生さん、新しい学校にはもう慣れたかな?」

コップの水を飲み干した後で、父が隣の弥生に質問をしてきた。
今日集まったのは、彼女との親睦をより深める為でもある。

「はい、おかげさまで。」
弥生が気品漂う感じで返事をする。

「そうかぁ、そりゃ良かった。何かあったら、皆を頼っていいからね。」

「はい。ありがとうございます。」

弥生がニッコリと微笑む。
彼女は食事にほとんど口をつけていなかった。

⏰:09/04/20 13:41 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#421 [ぎぶそん]
肉や野菜がほとんどなくなった頃、私はトイレへと向かった。

洗面所で手を洗い、リビングに戻ろうと振り返った所、弥生が腕組みをして立っていた。

「真希ちゃんは幸せ者だね。
かっこよくて優しくて、何よりも真希ちゃん思いのパパがいて。

今日アタシを誘ったのって、嫌味のつもりなのかしら?」

先程リビングで皆に見せていた時とは、似ても似つかないような顔をしていた。

⏰:09/04/20 13:51 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#422 [麗]
>>01-240
>>241-500

⏰:09/04/20 18:42 📱:SO905i 🆔:mUTX4e12


#423 [ぎぶそん]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

>麗さん

アンカーありがとうございます!(o^-^o)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

⏰:09/04/20 19:39 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#424 [ぎぶそん]
「そんなつもりはないよ。
それに、弥生ちゃんにもお父さんがいるじゃない?」

「…アタシが少6の時だったわ。
つい魔が差してね、ある日本屋で万引きをしちゃったの。
でも、あっけなく店の人に補導されてね。

保護者として迎えに来た父は、必死こいて店員に謝ってた。

でも、帰り際に私に放った言葉は『何てことをしてくれたんだ。これが会社の人にバレたら大事だ』だったわ。
娘のことより、世間体の方が気になるみたいよ。」

⏰:09/04/20 19:50 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#425 [ぎぶそん]
「…若気の至りで、避妊もせずに快楽に走るから、私なんかが産まれたんでしょ!」

誰に言う訳でもなく怒鳴ると、弥生は再びリビングへと戻った。

初めて見た、彼女のヒステリックな表情。
彼女は実の父親を憎んでいるようだ。

私と弥生は家族構成は似ているが、家族環境はどうやら正反対のようだ。

幼い頃にぞんざいに扱われた経験が、彼女の心にひたすら闇と空虚さを生んだのかも知れない。

⏰:09/04/20 20:00 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#426 [ぎぶそん]
その日の夜、これまでの弥生とのやり取りを父に相談してみることにした。

「…今日彼女を呼んだのって、かえって逆効果だったのかなあ。」

クッションを抱き抱え、ソファーに座った。

「そんなに落ち込むことはないぞ。
逆に、皆に見せない顔を見せるってことは、それほど真希に心を開いてるってことじゃないか?」

父は私の前にしゃがみ込み、ポンッと軽く私の頭を叩いた。

⏰:09/04/20 20:47 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#427 [ぎぶそん]
「ありがとうお父さん。
私、弥生ちゃんの心に潜む影を取り除いてあげたい。」

「それでこそ我が娘だ。」
そう、この時はまだ、私は彼女の心の暗雲を知る由もなかったんだ。

私自身、生きるということが希望に満ち溢れていたから。

それと全く正反対の人がいるということを、理解していたようで出来ていなかったんだ。

この時から彼女は、生きるという希望を失っていたのかも知れない。

Chapter05 END.―

⏰:09/04/20 21:00 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#428 [ぎぶそん]
Chapter06
「真希のアタックNo.1」

⏰:09/04/20 21:06 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#429 [ぎぶそん]
私の通う学校では、年に一度、体育祭とはまた違う大きなスポーツイベントがある。

『クラス対抗スポーツ大会』
それぞれのクラスが一丸となり、様々なスポーツを用いて勝敗を競い合う。

優勝したクラスには、学校から長野のスキー旅行がプレゼントされる。
したがって、この業者を煙たがったりサボろうと思う者はほとんどいない。

そして、その季節が今年もやって来た。

⏰:09/04/20 21:16 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#430 [ぎぶそん]
スポーツ大会の日にちが決まった放課後、級長を中心に話し合いが行われた。

級長が、黒板に数種類の球技名を書く。

そして、これから友達と話し合う時間を設けるから、10分後のチーム決めの際、一番やりたいものに挙手をするようにと指示した。

「真希ー!一緒にバレーやろー!」

級長の話が終わると、エリが私の席に近づいてきた。

⏰:09/04/20 21:27 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#431 [ぎぶそん]
「エリって、卓球やバドミントンが好きじゃなかった?」

「最近全日本バレーで賑わってるじゃん。その影響。」

エリはバレーのトスの振り付けをしながら、ウキウキとしていた。

彼女は流行やその時の話題に敏感な子だった。
好きな芸能人も今注目を浴びている人だし、ケータイの着信音も今話題の曲だ。

彼女の胸ポケットからはみ出していたケータイのストラップも、今人気のキャラクターの物だった。

⏰:09/04/20 21:37 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#432 [ぎぶそん]
バレーか。体育の授業でしかやったことないけど、たまにはいいかも。
中学の時、バレー部に入ろうかと考えたこともあったしね。

「それに…D組の鈴川姉妹覚えてる?」

「去年、うちらがバドミントンの決勝で対戦した双子の姉妹?」

「そう!奴らは今年、再び姉妹揃って今度はバレーをやるって噂よ!」

⏰:09/04/20 21:45 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#433 [ぎぶそん]
「奴らのお陰で、去年はバドミントン女子一位を逃したのよ〜!
このまま黙って寝過ごすエリ様じゃないわ!真希、リベンジするよ!」

「え?私は何とも思ってないよ。
彼女たち強かった…」

「とにかーく!今年は真希と私の黄金コンビで、クラスを優勝に導くわよー!」

私が言い終わる前に、闘志に満ちたエリが私の肩を抱く。
半ば強制的に、私はエリの私情に飲み込まれた。

私には、彼女の額に"闘魂"の二文字が浮かび上がったように見えた。

⏰:09/04/20 21:57 📱:SH705i 🆔:L/GbGVZM


#434 [ぎぶそん]
「元基も優平もバスケにしたの?
へぇ、じゃあもしかしたら2人の対戦が見れるってことね。」

翌日の昼休み、いつもの4人でベランダに集まった。
話はスポーツ大会のことで盛り上がる。

「俺、サッカー以外のスポーツには自信がないよ。
公平さを求める為とかで、所属してる部活の種目には参加できないのが、この大会の決まりだからなぁ。」

優平が困ったように、髪の毛をワシャワシャと掻く。

⏰:09/04/21 13:12 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#435 [ぎぶそん]
「またまたそんなこと言ってー、去年ハンドボールで大活躍して、女子から黄色い声援を貰ってたくせに〜!」

「そうそう。元基のアホの失点を、上手くカバーしてくれたのよね〜。」

「ムッ…。そういうエリこそ、今年は真希の足手まといになるなよ!
去年の決勝、後半のミスが目立ったぞ。」

「ハァ…、そうなのよ。
でも、2人には悪いけど、今年は私と真希率いるB組が優勝なんだからね〜!」

エリが左手を腰に当て、右手でガッツポーズをする。
多分、彼女がクラスで一番張り切っているに違いない。

⏰:09/04/21 13:14 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#436 [ぎぶそん]
その週の日曜日、私とエリはとある小学校の体育館へと足を運んだ。

それは、ほんの数日前のことだった。

『元基のお母さんが、最近ママさんバレーにハマッてるんだって。
私たちも参加させてもらってさ、クラスマッチに向けて猛特訓しようよ!』

教室に入ると、朝一番にエリがこんなことを伝えに来た。

そして今、体育館シューズや体操着を持って、ママさんバレーとやらが行われている場所に向かっていった訳である。

⏰:09/04/21 13:22 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#437 [ぎぶそん]
体育館に入ると、沢山のお母さんたちで賑わっていた。

数人で座って談笑していたり、ウォーミングアップを始めていたり、試合前の自由な時間を過ごしていた。

『ママさんバレー』というネーミングだけれど、中年男性もちらほらいるのが見えた。

「私たちも、あっちでジャージに着替えよっかー。」

玄関先で体育館シューズに履き換えると、エリがステージ近くにある着替え室を指を差す。

⏰:09/04/21 13:30 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#438 [ぎぶそん]
体育館の左隅を一直線に、着替え室まで歩く。

「きゃあっ!」

その途中で、履いていたスカートをめくられる感触があった。

「こら栄基、ダメでしょう!」

エリが、走り回る小学生位の男の子の腕を掴んでいた。
どうやらこの子の仕業らしい。

「エリ、この子と知り合い?」

男の子を掴んで離さないエリに尋ねてみた。

⏰:09/04/21 13:40 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#439 [ぎぶそん]
「羽田栄基。元基の弟よ。」

「えっ、そうなの!?」

元基は3人兄弟の長男だったけ。
そう言われてみればこの子、元基に目元が似ている気がする。

「エリのブ〜ス。ペチャパイ。」

「何ですってー!!」

エリの腕を払いのけ、栄基は子供たちに人気の『ブレイブマン』の立ち去るポーズをしながら、私たちの元を走り去っていった。

⏰:09/04/21 13:47 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#440 [ぎぶそん]
「もー!相変わらず生意気なガキなんだから!」

「お母さんについて来たのかな!?」

「そっちでやってる、ちびっこバレーってのに参加してんのよ。
マセたガキのくせに、あれでもなかなか上手いらしいわよ。」

丁度私たちのいる真横では、子供たちがソフトバレーを楽しんでいた。
ネットの高さは大人たちの半分以下だった。

体育館を横半分に区切り、ステージ側のコートは子供たちの、後ろの玄関側のコートはお母さんたちのスペースとなっているそうな。

⏰:09/04/21 19:38 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#441 [ぎぶそん]
着替え室で、エリは水色のTシャツに紺色の短パン、私はピンク色のTシャツに黒色の長ズボンジャージに着替えた。

そして着替え室を出てから、お母さんたちの元へ駆け寄る。

「あなたが羽田さんの知り合いの娘さん?
うーん!やっぱ若い子がいると活気が溢れるわね〜!」

「いえいえ、おば様も十分若いですってー!」

「まー、お世辞が上手な子ねー!」

愛嬌のあるエリは、すぐにお母さんたちと打ち解けていた。

⏰:09/04/21 19:46 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#442 [ぎぶそん]
午前10時、ようやく最初の試合が始められることとなった。

チーム分けのじゃんけんの結果、私とエリは偶然にも同じチームになった。

試合は本格的なスタイルにこだわらず、前衛に3人、後衛に3人の形でローテーションをする。

最初の礼を済ませ、私は前衛のレフトに移動した。
エリはその隣のセンターに位置している。

試合開始は、私たちのチームからのサービスとなった。
試合の人が、笛を鳴らす。

⏰:09/04/21 19:56 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#443 [ぎぶそん]
「真希ー、いくよっ!」

「はいっ!真希っ!」

エリは試合中、回ってきたボールを必ず私の方に渡す。
どうやら彼女は、私にアタックを決めさせたいらしい(全日本バレーの影響をされすぎだ)。

身長はそこそこ高いが、バレーについては素人なので高度なプレーは無理だ。

それでも相手チームの穴となっている所にひょいと投げ込んで、次々と点数を入れていった。

⏰:09/04/21 20:03 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#444 [ぎぶそん]
「お嬢ちゃんたち、若いだけあってなかなかやるねぇ!」

相手チームに5点差をつけた所で、私の同じチームの中年男性が、私たち2人に声を掛けてきた。

「そうなんです!特にこの雨宮真希は、クラスの女子一足が速いんですよ!」

エリが私を名指し、自分のことのように得意げな顔をして話し始める。
それは関係あるのかと思いながら、私はバレーボールの楽しさを味わっていった。

⏰:09/04/21 20:11 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#445 [ぎぶそん]
審判の人が、ピーッ!と笛を長く吹いた。
24対16で、私のエリのママさんバレー初試合は、勝利を収めた。

10分後に他のチームたちが試合を始めたので、自販機でジュースを買って休もうとした。

そう思った時、エリがバレーボールを片手に、私の行く手を封鎖する。

「さあ真希、試合がない間は、2人でパスの練習をしましょう!」

「…。」

彼女に抜かりはなかった。

⏰:09/04/21 20:23 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#446 [ぎぶそん]
その後も試合を重ね、3勝1敗と、まずまずの試合成績を残した。
午後2時、ママさんバレーは終了した。

皆でコートの片付けを済ませ、お母さんたちに来週もまた来ることを約束した。
それから、再び着替え室へと向かっていった時だった。

「おい。そこのペチャパイ星人と白パンツ星人。」

元基の弟・栄基が私たちを指差してきた。
私は勝手に"白パンツ星人"とやらに命名されていた。

⏰:09/04/21 20:40 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#447 [ぎぶそん]
「何よ、何か用?このハナタレ小僧。」

バストアップの為、毎朝牛乳を飲んでいるエリは、胸のことを言われ、明らかに勘に触っているようだった。

「お前ら、俺たちと勝負しろ!俺たちに負けたら、皆にジュースを奢ること。」
栄基の周りを、5人の子供たちが囲っていた。

彼らも栄基に続くように、"勝負しろー!""勝負しろー!"と金切り声で叫ぶ。

⏰:09/04/21 20:47 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#448 [ぎぶそん]
「ハハーン。クソガキの分際で、このエリ様に盾突く訳ェ!?
いいわよ、その代わりあんたらが負けたら、すんなりとエリ様の配下になること!分かったわね!?」

エリが栄基たちの要求を飲み込む。
エリは半分キレ切み、半分ノリノリだった。

「ちょっとエリ、大丈夫なの?負けたら奢りだよ?」

「なーに弱気になってんのよ。私と真希の黄金コンビなら、こんなクソガキ共コテンパンにやっつけられるわよ。」

こうして、あっさりと子供たちと2対6の試合をすることとなった。

⏰:09/04/21 20:55 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#449 [ぎぶそん]
「ブレイブアタッーク!」

「うわっ!」

エリの放ったアタックを、栄基は受け止めることが出来ずに、ボールは次々遠くに飛んでいく。

「あらあら、最初の意気込みはどうしたのかしら、羽田栄基くん。」

「…くそっ…。」

本気と化したエリは、強くたくましくなっていた。
小学生相手と言えども、容赦しなかった。

⏰:09/04/21 21:03 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#450 [ぎぶそん]
「白パンツ星人、今度はお前だっ!」

「真希、ボール来たよっ!」

栄基はエリばかり狙うと油断していた時、栄基がボールをこちらに飛ばしてきた。

咄嗟に、エリにパスを出さず力強くアタックしてみた。
ソフトボールなので、通常のボールより威力を増す。

⏰:09/04/21 21:12 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#451 [ぎぶそん]
相手側のコートにボールが入ると、ボンッ!と激しい音がした。
栄基を狙ったつもりはなかったが、結果ボールは彼の顔面に直撃していた。

ぶつかった衝撃で、栄基は後ろへと倒れ込んでしまった。

「大丈夫!?」

硬いボールじゃなくて幸いだと思いつつ、私は倒れた栄基の元へと駆け寄った。

⏰:09/04/21 21:18 📱:SH705i 🆔:aLafzO6E


#452 [ぎぶそん]
「栄基、大丈夫かぁ!?」

栄基と同じチームの子供たちも、心配して近くまで寄る。

「痛ぇ〜…。」

栄基は表情を歪ませながら、頬に手を当てていた。

「ごめんね。立てる?」

私は彼の両手を掴み、上体を起こそうとした。

⏰:09/04/22 20:07 📱:SH705i 🆔:xn.vq7J.


#453 [ぎぶそん]
栄基は身体を立たすと、私にこんなことを問いただしてきた。

「…お前、強いな!もしかしてオーランド組織の者か!?」

「え!?」

「なーに訳のわかんないこと言ってんのよ。
真希は普通の高校に通う、普通の女子高生です〜!」
向こう側のコートにいるエリが、栄基の話に指摘を入れる。

⏰:09/04/22 20:11 📱:SH705i 🆔:xn.vq7J.


#454 [ぎぶそん]
「マキ…!?やっぱりお前…いや、貴方様はブレイブマンがこの世で最も尊敬する、マキロン隊長だな!?」

何を思ったのか、栄基が更に私を見る目を輝かせた。

偶然にもそれは、東吾兄が普段私を呼ぶ時の愛称と同じだった。
(もしかしたら、そこからあやかったのか?)

栄基の話に便乗して、子供たちが次々に"隊長""隊長"と、私の周りに集まってきた。

私は子供たちに、心身共に押し潰されそうになった。

⏰:09/04/22 20:15 📱:SH705i 🆔:xn.vq7J.


#455 [ぎぶそん]
「皆、この試合は中止だ!マキロン隊長、部下どものご無礼をお許し下さいませ〜!」

「申し訳ございませんでしたー!」

子供たち全員が、私に向かって敬礼する。
彼らは皆、アニメと現実の世界が交互に入り交じっているようだ。

私もこれくらいの頃は、机の引き出しから未来型ロボットがやって来るのを待ちわびていたものだ。

⏰:09/04/22 20:45 📱:SH705i 🆔:xn.vq7J.


#456 [ぎぶそん]
「因みに私は、ブレイブマンの恋人エリリン姫よ〜。」

「そんな人物登場しないぞ。」

栄基が怪訝そうな顔で、エリを見つめる。

「うるさーい!クソガキ共そこにひざまつけ。」

エリは半分キレ切み、半分ノリノリだった。

子供たちの注目は一気に私へと向けられ、試合は途中までて中止となった。

それでも私とエリの圧勝だった。

⏰:09/04/22 20:56 📱:SH705i 🆔:xn.vq7J.


#457 [ぎぶそん]
皆様お久しぶりです。
暫く入院して続きを書けずにいました。
読んでくれてる人はいないと思いますが、最後まで責任を持って書き上げていこうと思います。。

⏰:09/08/14 23:27 📱:SH705i 🆔:IFuzHb0U


#458 [ぎぶそん]
次の日、ベランダでいつもの4人で集まった。

「昨日、ママさんバレーに行ったら栄基にさんざんな目に遭わされたよ。
真希はスカートめくられるし。」

「な、何だってー!!」

優平がスカートの下りで過剰反応を示した。

「おーワリィワリィ。家できつく言っておくよ。」

アハハとへらついた表情で、あっけらかんとしている元基。
この兄にしてあの弟アリ…か。

⏰:09/08/14 23:31 📱:SH705i 🆔:IFuzHb0U


#459 [ぎぶそん]
「ん…。」

数日後、夢の中にいると誰かからのメールで起こされた。
時刻は朝の5時。

メールの相手はエリだった。

『体力作りの為、今日から早朝ジョギングするわよーん。』

もはや口にする言葉もなかった。

⏰:09/08/14 23:35 📱:SH705i 🆔:IFuzHb0U


#460 [ぎぶそん]
私たちはエリの家の近所にある小さな神社で鉢合った。
軽くストレッチをしてから、同じペースでジョグをすることにした。

コースは住宅地を大まかに一周するようにと決めた。

「…真希って、中学の時も帰宅部だったんだっけ!?」
「うん。家のことが気になるから。」

走り込みながら話をする。

⏰:09/08/14 23:44 📱:SH705i 🆔:IFuzHb0U


#461 [ぎぶそん]
「私もソフトテニス部だったけど、一年で辞めちゃった。」

私たちの走る音だけが、早朝の静けさ漂う街の中で響いている。

「私と真希ってさ、一緒の部活に入ってたとしても、きっといいコンビだったと思うなー!
インターハイも夢じゃなかったかもね!」

エリが夏に輝く太陽のように笑う。
何となく、元基が彼女を離さない気持ちが分かる気がした。

⏰:09/08/14 23:49 📱:SH705i 🆔:IFuzHb0U


#462 [ぎぶそん]
「ところでさ、エリってどうしてこの大会に毎年熱入れてるの?
体育の授業での試合なんかは、別に勝ち負けにこだわったりしてないじゃん。」
少々疑問に思っていたことを、彼女に伝えた。

「去年真希・元基・優平と同じクラスになって、絶対優勝してさ、皆でスキー旅行の思い出を作りたいと思ったの。
でも、叶わなかったでしょ?
だから今年こそは優勝して、真希と女だけの旅行に行ってやるんだって、固く決めてるの!」

⏰:09/08/14 23:56 📱:SH705i 🆔:IFuzHb0U


#463 [ぎぶそん]
初めて知ったエリの小さな想いに、胸に込み上げるものがあった。
私たちのグループの中で、私たちのことを一番考えてくれるのは間違いなく彼女。

「ほら、ペース上げるよ!
ちんたら走ってても体力はつかないよ!」

私は走る歩幅を上げ、彼女より少し前をリードしてみせた。

私も、この大会に賭けてみようと思った。
小さなことかも知れないけど、何か一つでも熱くなれるものがあるのって素敵なことだから。

そして何より、エリの気持ちに応えたい。

⏰:09/08/15 00:04 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#464 [ぎぶそん]
「ブレイブアターック!」

「痛っ。いきなり何?」

その晩、家にあったソフトボールを、
夢中になってTV番組を観ている東吾兄の頭部目掛けて打った。

「ひどくない?
あだ名の由来がアニメの登場人物だなんて。」

AB型の私は妙な所で根に持ったりするタイプだ。

⏰:09/08/15 20:50 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#465 [ぎぶそん]
「あ、気付いた?
でもマキロン隊長は神様みたいな存在なんだぞー。」
「はいはい。」

私はTVの近くに落ちたソフトボールを拾った。

「おっ真希、今度の大会のバレーに向けて練習かい?」

父が人数分のオレンジジュースを持ってやって来た。

⏰:09/08/15 20:55 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#466 [ぎぶそん]
「…お父さんって高校の時何か部活やってたっけ?」

「3年間ずっとバスケをやってて、3年の時にはキャプテンを勤めてたぞ!
エッヘン!」

得意げそうに、大きく胸を張る父。

父のその姿に目も暮れずに、東吾兄がジュースをごくごく飲む。

⏰:09/08/15 20:59 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#467 [ぎぶそん]
「元基と優平も、今度の大会でバスケするらしいよ。」

「んー、あの2人じゃ父さんの持つボールすら奪えないだろうな。
ハハハハハハ。」

「ブレイブアターック!」

「痛っ。」

私は父の顔面を的にソフトボールを撃った。
調子に乗るその口を塞いだ。

⏰:09/08/15 21:05 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#468 [ぎぶそん]
次の日の昼休み、大会のバレーのチーム全員で話し合いが行われることとなった。

事の発端は今朝のジョギング中、エリがふと口にしたことがきっかけだった。

『私たち2人が腕を上げてもさ、他の人が弱かったりチームワークが悪かったりしたらなーんにもならないじゃない。』

一理あるその発言に私たちは他のメンバーに呼びかけをし、こうして今使われていない空き教室に集まったのである。

⏰:09/08/15 21:17 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#469 [ぎぶそん]
「これから毎日、昼休みの時間を利用してバレーの練習をします。
帰宅部の人は、放課後出来るだけ屋上でやる練習に来て下さい。

日曜日は、私と真希が通っているママさんバレーに、皆も参加してもらいます。
何か意見のある人はいますか?」

皆の代表となってエリが話を進める。
その問い掛けに、「ないです」「ありません」の声が飛び交うと少しホッとした。

聞く所によると、大会の日程が決まってから、大半の人がやる気に満ち溢れ毎日の運動量を上げていたらしい。

このクラス、というかこの学校、勝負事になると本気で燃えるみたいだ。

⏰:09/08/15 21:27 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#470 [ぎぶそん]
放課後、さっそく屋上で練習が行われた。
集まったのは私とエリを含む4人。
他は部活生らしい。

私たちは2人組のペアを作り、パス練習をひたすら続けた。

「夕日をバックにバレー練習に打ち込む私…。
全ては勝利の為…。
うーん!これぞ正に青春って感じ〜!」

2人でパスを続けながら、何やら自分に酔いしれるエリ。

私たちの腕はみるみると破れた毛細血管によって、赤い斑点模様が浮かんでくる。
固いボールで打ち付けられることによる腕の痛みも、回数をこなす毎に慣れていたった。

⏰:09/08/15 21:39 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#471 [ぎぶそん]
同じ週の日曜日、バレーチームの皆でママさんバレーが行われている体育館へと向かった。

予めママさんバレーの代表の人にこれからこのチームで参加することを伝えると、快く歓迎してくれた。

毎週必ず都合が悪い人が出て来て、集まるメンバーが不揃いらしかったからだ。

そして若い子たちの活気で溢れる方が、試合をする意欲がもっと湧くと言ってくれた。

⏰:09/08/15 21:54 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#472 [ぎぶそん]
体育館に入ると、いつもと違う光景が視界に入った。

「真希、遅かったじゃないか!
父さん待ちくたびれてかれこれ30分はパス練習をしてたぞ!」

「お、お父さん!?それに東吾兄まで!」

私の視線の先に、見慣れた2人がパスをしていた。
その後ろにはいつかの東吾兄のバンドメンバーの人達もいるではないか。

朝2人共出掛けてると思ったら、先回りしてここに来てたという訳か。

⏰:09/08/15 22:02 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#473 [ぎぶそん]
「マキロン、今日は俺たちが試合相手になってあげるからな!」

私の知らない所で、2人は着々と今日の準備をしていたらしい。
わざわざバンドメンバーの皆さんまで巻き込んで。

「昨日、バレーサークルに乱入した甲斐があるかな〜。」

バンドメンバーのリーダーの、藤野さんがぽつりと言った。
意外と皆はママさんバレーの参加を楽しみにしていた。

⏰:09/08/15 22:07 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#474 [ぎぶそん]
「ふふふ。強い相手との勝負の方が燃えるってことよ。
じゃーん!昨日コレ買っちゃったー。」

男性陣との試合予定に、気持ちが高揚するエリ。
彼女の指差す両膝には、サポーターが当てられていた。

「ほら私、この中で一番身長が低いでしょ?
だから、率先してレシーバーに回ろうかと思って。
一番おいしいトコ(アタック)は真希の役目ね!」

⏰:09/08/15 22:14 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#475 [ぎぶそん]
10分後、私たちのチームと父と東吾兄率いるチームで試合が行われることとなった。

「俺たちは人数が1人少ないけど、男だらけというハンデってことでいいよ。」

最初に東吾が私たちにこんな説明をしてくれた。

そして、私と東吾兄でサービス権を決めるじゃんけんをした。
私が勝った。

⏰:09/08/15 22:20 📱:SH705i 🆔:BIENbVyI


#476 [ぎぶそん]
バシッ。バシッ。
ボールの叩きつけられる音が何度も床に鳴り響く。
敵チームのアタックが次々と決まる。

11対2。
試合が開始して間もないというのに、たちまち点を入れられ大きく差をつけられてしまった。

「ハハハ。父さんは可愛い愛娘にでも容赦しないぞ!」

向こうのコートで父が高らかに笑う。

⏰:09/08/17 23:09 📱:SH705i 🆔:Mg/GY9K.


#477 [ぎぶそん]
「皆、相手のペースにのまれちゃ駄目だよ!
声を出そう、声を!」

チーム内にどんよりとしたムードが差し迫った時、エリがチーム全体に大声で呼びかけた。
その前向きな指示に「うん!」と皆が意思表示をする。

自分達の未熟さと、体育館の蒸し暑さに気負いそうになる。
でも、一度やり始めたことを途中で投げ出したりしたくない。
私は額から落ちる汗を拳で拭った。

⏰:09/08/17 23:15 📱:SH705i 🆔:Mg/GY9K.


#478 [ぎぶそん]
24対11。

いよいよ相手チームのマッチポイントとなった。

佐々木さんの緩やかなサービスがこちらのコートに入る。
それを後衛のライトにいた林さんがレシーブをした。

次に、エリがそのボールの下に回って高くジャンプトスをする。

初日の頃はトスをすることすらままならなかったのに、見違えるほどにそれは上達していた。

⏰:09/08/17 23:21 📱:SH705i 🆔:Mg/GY9K.


#479 [ぎぶそん]
「真希!!」

私の名を呼ぶと同時に、後ろに数歩下がるエリ。
私が"打ち"やすいようにと、スペースを作ってくれたのだろう。

私は1歩、2歩と前衛の中央に上げられたボールに近づく。

そして3歩目と同時に勢いよくジャンプした。

―エリ、私にアタックを打たせる為に沢山練習したんだね。
この1球は外させない。

空中で右腕を後ろにやり、標的のボールに向かって回す。
手首を返す感じに振り、手の平にボールを当てた。

⏰:09/08/17 23:31 📱:SH705i 🆔:Mg/GY9K.


#480 [ぎぶそん]
―バシッ。
気持ちのよい音が私の頭上で生まれた。

両足が床に着くと、上手くバランスを取れず後ろに倒れ込む。
相手コートに向かったボールがどうなったのかは見えなかった。

その数秒後、ピッというホイッスルの甲高い音が鼓膜を一瞬刺激した。

「アウトっ!試合終了!」
次に、審判係のおじさんの太い声が聞こえる。

私が初めてやってみせたスパイクは、大きくラインを越えてしまっていたようだ。
試合が終了した。

⏰:09/08/17 23:45 📱:SH705i 🆔:Mg/GY9K.


#481 [ぎぶそん]
「皆、ごめんね。私のせいで負けちゃった。」

試合終了後の挨拶が終わってすぐ、私は皆に詫びを告げた。

「何言ってんのよ真希!
この試合は大きな収穫よ!

スパイクにおけるフォームは完成しつつあるみたい。
本番では正確なアタックが打てるようになるって!」

エリが興奮ぎみに、私の肩を叩きながら話す。

他の皆も「惜しかったね」とか「形が綺麗だったよ」などといった言葉を掛けてくれた。

⏰:09/08/17 23:52 📱:SH705i 🆔:Mg/GY9K.


#482 [我輩は匿名である]
>>200-300
>>301-400
>>401-500

⏰:09/08/18 00:24 📱:F01A 🆔:☆☆☆


#483 [ぎぶそん]
昼の12時を過ぎた所で、元基と優平がバスケの練習がてらに体育館にやって来た。

優平は黒のノースリーブに白いジャージズボン、灰色のヘアバンドを身につけていた。
腕についた程よい筋肉が、スポーツマンを感じさせた。

元基は白のノースリーブに白の短パンと、頭に白いタオルを巻いて、全身白で統一していた。

⏰:09/08/18 22:54 📱:SH705i 🆔:OGl/Xc/o


#484 [ぎぶそん]
「ねえ2人共、今から1対1で勝負してみなさいよ!
先に相手ゴールにボールを入れた方が勝ちね。
私は優平が勝つに1票〜。」

エリが思いつきで2人にゲームを進める。

「ちょっと、俺の強さを見くびってるなぁ?
確かに優平はサッカー部のエースだけど。」

元基が持っていたバスケットボールを回し、人差し指だけで支える。

エリの一言で、ちょっとしたミニゲームが行われることとなった。

⏰:09/08/18 23:00 📱:SH705i 🆔:OGl/Xc/o


#485 [ぎぶそん]
エリが審判係となり、ボールを高く上げる。
最初にボールを取ったのは優平だった。

その後、奪い奪われの接戦が続く。
元基がシュートを決めようとすると優平が上手く阻止し、優平がドリブルをしている途中で元基が素早くボールを取る。

日頃部活で身体を鍛えている2人だ。
少しやってみせただけで、バスケのコツを掴んだのだろう。
2人の動きの機敏さに、時々目が追い付かなかった。

私は男同士のバトルにくぎづけとなった。

⏰:09/08/18 23:10 📱:SH705i 🆔:OGl/Xc/o


#486 [ぎぶそん]
優平がゴール目掛けてシュートを入れようとした時、

「ブレイブマン参上〜!!」

元基の弟・栄基率いる子供たちが優平のプレーの邪魔をしにやって来た。
優平は「うわっ。」と小さく叫ぶと、子供たちの波にのまれる。
ボールがコロコロと転がる。

その隙に元基がボールを取りに行き、急いで優平側のゴールにボールを入れた。

―パシュ。
ボールと網が擦れる音がした。

「イエーイ。俺の勝ち〜!」

⏰:09/08/18 23:19 📱:SH705i 🆔:OGl/Xc/o


#487 [ぎぶそん]
「ちょっとぉ、今のは反則じゃない?
コラ栄基!お兄ちゃんたちのゲームの邪魔しない!」
栄基にげんこつをするエリ。
怒られた彼は膨れっ面をしている。

「いや、俺の負けでいいよ。
ハァ、疲れた。もう動けない。」

優平が床に倒れ込む。
息が荒く、全身汗だくだ。
元基も優平に続くように、息を切らしたままその場に座り込んだ。

私は自分たちの試合と同じくらい、男子バスケの本番がどうなるか楽しみになって来た。

⏰:09/08/18 23:26 📱:SH705i 🆔:OGl/Xc/o


#488 [ぎぶそん]
月日は重なり、いよいよ大会前夜となったその日。
私は大会の日程が決まってからの、これまでの出来事を振り返ってみた。

全日本バレーの試合は欠かさずチェックした。

「アタック革命」というコミックも全巻読み上げた。

バレーの歴史についてもインターネットで調べてみた。

部活並の練習量も、ほぼ毎日こなしてきた。

とにかく毎日バレーのことばかりを考えた。

⏰:09/08/18 23:32 📱:SH705i 🆔:OGl/Xc/o


#489 [ぎぶそん]
この日々を通して、私も部活をやっていたらまた違う人生だったのかなと思った。

夏の全国高校野球を毎年TVで観る度、勝利をひたすら追いかけ、
一試合一試合にチーム一丸となって真剣勝負を挑むことの素晴らしさを感じる。

青春で流す汗は一生ものだ。
少なくとも今だけは、帰宅部の私も彼らと同じ気持ちになれているかも知れない。

明日の勝敗は明日になってみないと分からないけど、きっと後悔はないだろう。
それほど毎日を駆け抜けたのだから。

⏰:09/08/18 23:41 📱:SH705i 🆔:OGl/Xc/o


#490 [ぎぶそん]
次の日。
天候に恵まれ、涼しい秋風に包まれながら大会は開催された。

最初に体育館で開会式が開かれ、準備体操や校長先生の挨拶などが淡々と順番どおりに行われた。

そして式の終わりに、体育の細野先生がステージ場に立つ。

ラグビー部の監督も務めている人で、真っ黒に焼かれた肌とプロテインでムキムキに鍛え上げた全身の筋肉が特徴的だ。
冬でもノースリーブ1枚で過ごす為、よく生徒からボディビルダーの真似をしてくれとせがまれる。

先生はステージの中央に立つと、スタンドマイクの高さを合わせる。

⏰:09/08/19 00:00 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#491 [ぎぶそん]
「皆、優勝したいかぁ〜!」

「オーッ!」

「長野のスキー旅行に行きたいかぁ〜!」

「オーッ!」


毎年お馴染みの、宗教じみた掛け合いが体育館の熱気を上げる。
私も抑揚のない表情で、周りと同じタイミングで拳を挙げる。

このやり取りをする度、昔こんなクイズ番組があったことを思い出す。

⏰:09/08/19 00:02 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#492 [ぎぶそん]
私たち女子バレーは、生徒会の説明により第2体育館で試合が設けられることとなった。

まず、A・B・E・F組が第1ブロックでそれぞれ他の3クラスと対戦をし、
C・D・G・H組が第2ブロックで同じように試合をする。

そして、各ブロックからそれぞれ白星の多かった2組が準決勝進出となる。

⏰:09/08/19 00:09 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#493 [ぎぶそん]
私たちB組の第1試合の対戦相手は、隣のA組であった。

相手チームは小柄な子が多く、おどおどと動く球を怖がる子ばかりだった。

多分、運動に自信のある子は他の種目に回って、余った子たちがバレーに寄せ集めといった感じになったのだろう。

勝敗が決まるのにそんなに時間は掛からず、私たちは25対10という圧倒的な形で最初の勝利を収めた。

⏰:09/08/19 00:15 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#494 [ぎぶそん]
続いて、優平のクラスのF組との試合。

最初の号令で1列になった時、相手のチームに竹下さんの姿があることが分かった。
私と目が合うと、彼女が"負けないわよ"と口を動かした。

そして、相手チームのサービスから試合が始まる。

4対6。
押しつ押されつつの試合が、初めは繰り広げられた。

⏰:09/08/19 00:24 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#495 [ぎぶそん]
22対25。
約30分後、試合が終わった。

ラストを決めたのは、F組のチームで1番背が高い子の後衛のライトに向かったレシーブだった。

F組の子たちは後ろのコートのラインぎりぎりにボールを落とすのが上手かった。
私たちがボールカットに間に合わないことで、敵チームに点を入れる結果に繋がってしまった。

私たちに最初の黒星がついた。
第2試合とまだまだ試合は始まったばかりだ。
皆の顔に不安が過ぎった。

⏰:09/08/19 00:34 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#496 [ぎぶそん]
「皆、暗い顔しない!
次の試合で勝てば準決勝に進めるんだし。

過ぎた試合のことなんか忘れましょ!」

試合終了後、エリが明るく皆に声を掛ける。

周りにじめじめとした空気が漂うと、彼女は率先してその空気を取り払う役に回る。

本心なのか頑張ってそうしているのかは分からないが、彼女はどんな時も落ち込んだりはしなかった。

彼女のあっけらかんとした性格が、これまで何度もチームの危機を救ってきた。

⏰:09/08/19 00:48 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#497 [ぎぶそん]
その後1試合空いて行われた、E組との第3試合。

25対13で私たちは第1ブロックで2勝1敗という成績を残した。

E組はA組同様、運動に自信のなさそうな子が多かったので、
相手チームのグタグタなプレーがそのまま彼女らの自滅を呼んだ。

A組が0勝3敗、E組は1勝2敗、F組は3勝0敗。

準決勝進出は、私たちB組と全勝したF組に決まった。

⏰:09/08/19 00:53 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#498 [ぎぶそん]
「皆、とりあえず準決勝進出おめでとう〜!」

昼休み、私たちのチームは教室の机を固め、皆で輪になって昼食を取ることにした。

「長谷部さんと雨宮さんの仲良し2人が息ピッタリで、こっちまでびっくりしちゃった!」

「正にあ・うんの呼吸だね!」

皆がこれまでの試合の内容を振り返りながら、弁当に手をつける。

⏰:09/08/19 01:01 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#499 [ぎぶそん]
「本当、雨宮さんって凄く頼りになる!
部活動やってないのに運動神経抜群だし。

午後からの試合でも活躍を期待してます。」

私の隣に座る高山さんが、私に向かって小さく微笑んだ。

彼女も同じ帰宅部で、放課後下駄箱で一緒になった時は、笑顔で挨拶してくれる印象がある。

ママさんバレーでの試合の時も、「雨宮さん凄いね!」などといった台詞を何度も言ってくれていた。

他人の良いと思う部分があれば、正直にそれを口にするタイプの人間なのだろう。

⏰:09/08/19 01:08 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


#500 [ぎぶそん]
「準決勝までまだ時間があるわね。
真希、男子バスケの方観に行ってみようよ!」

昼休みが終わり、チーム皆で少し談笑した後、
私とエリは男子バスケの試合が行われている第1体育館へと足を運んだ。

ちょうど体育館はB組対C組の試合がやっていた。

私たちが2階の見やすい席に移動したと同時に、
ますちゃんが元基にボールを奪われ、そのままゴールを決められてしまっていた。

⏰:09/08/19 01:15 📱:SH705i 🆔:pzdb7g66


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