微妙な10センチ。〜最終〜
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#212 [あき]
『バカだねぇ〃遊ぶんならバレないようにしなきゃっ!!うちの意味のわかんないこだわり、あきも知ってるでしょっ!!』

『…はぃ…だけど、どうして?』

西条さんとの事は、この春に寿退社したさえちゃん、そして、かつての仕事仲間であり、今やさえちゃんの愛する旦那様である、彼しか知らないはずだ。
まさか…この二人から…?

『噂が、彼女の耳に入ったんだろうねぇ。』

『だから…どうして、りょうこさんもご存知なんですかっ?』(※りょうこさん→先輩の名前)

⏰:09/08/07 04:13 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#213 [あき]
『○○地方の人だからって、あきも気抜いたねっ…』

りょうこさんの話をまとめると。
私の後、別の部署の別の人が、彼の地方に同じく中期出張に出向いた。
同じ地方なだけに、パートナーになる会社も同じだ。そこで、聞いて来た。

《先月、おたくの会社から来た美人さんと、うちの会社の男前がいい雰囲気だ》《本人が、嬉しそうに話てた。》


思わぬ所からの漏洩だった…

⏰:09/08/07 04:21 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#214 [あき]
『そんなの、出世を狙えば、いい蹴落とし材料じゃん。…にしても、まさか本人から漏れるとはねぇ。』

りょうこさんはため息をつきながら、二本目の煙草に火をつけた。
三本目を持つ指が震えているのを必死に抑える。

『…そんな、やましい関係じゃないですよ…ただ電話したり、メールしたり…』

『私は、いいと思うよ?ただね。仕事先ってのがマズいかった。あくまでも出張中に、出張先の相手だからさ。意味わかるよね?』

頷くしか出来なかった。

⏰:09/08/07 04:28 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#215 [あき]
『とりあえず、相手とよく話しな?もちろん、相手は悪気があってした訳じゃないって事も、わかってあげんだよ?そもそも、うちの会社がさぁ〜…』

りょうこさんは、その後も、会社に対する不平不満を私に投げかけた。
私は、それに頷き、時折、相槌を打ったけれど、特に頭には残らなかった。
最後に

『その彼の事好きなら、挫けちゃだめ。仕事も恋愛も、挫けたら終わり!踏ん張るんだよっ!』

そう言って、私の背中をポンと二回叩いて、彼女は、またねと部屋を出て行った。私は、はいと小さく返事して、彼女の背中を追うように、部屋を後にして、地獄の部屋の扉を開けた。

⏰:09/08/07 04:40 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#216 [あき]
定時になり、私はロッカールームの扉を開ける。
朝からの小雨は、とうとう本降りになったようだった。
私はシャツを脱ぎ、くるっと紙バックに入れた。
Tシャツをずぼりと頭からかぶり、続けて、脱いだスカートをハンガーに引っ掛ける。
デニムにずずっと足を入れて、足元をスニーカーに履き替えた。
最後にジッパーをさらりと羽織って。
バックから携帯電話を取り出し、画面を確認する。新着メール一件。

【お疲れ。終わったら、また電話します。西条】

絵文字が、にこにこと私を見ていた。
私は、黙ってそれを見つめ、携帯を閉じた。

⏰:09/08/07 04:51 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#217 [我輩は匿名である]
頑張ってください(*´ω`*)

⏰:09/08/07 08:38 📱:P904i 🆔:QFrhfb9Y


#218 [あき]
匿名さん、ありがとうですっ。
―――

雑踏の中私は、いつものように、電車に乗り、いつもの駅へ降り立つ。
バス停で時間を見てみると、さっき出たばかりだった。駅前のコンビニにフラリと立ち寄って、コーヒーとサンドイッチを買った。コンビニの冷房は、濡れた体を一層冷やしてくれた。雨は一向に止む気配はなく、降り続いている。
仕方なく、雨宿りも兼ねて、バス停に戻る。
ベンチに座り、サンドイッチを頬張った。
行き交う人々、迎えの車、ぼうっと眺めていると、私の迎えが来る。
バスに乗り込んで、いつもの道のりを戻っていく。
ザーザーと雨がうるさかった。

⏰:09/08/07 20:33 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#219 [あき]
真っ暗な部屋に戻り、誰もいないのに、ただいまなんて言ってみたりして、パチンと電気をつける。
眩しさにくらくらした。
着替えもしないで、最近買い直した、まだ新しい匂いのするソファーに座ると……


何故か、涙が溢れてきた。

自分の甘さに。
悔しくて泣けてきた―…

⏰:09/08/07 20:37 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#220 [あき]
甘くて、大好きだった蜜の味に飽きた、小さな虫は、欲が出たんだろう。
その小さな虫は、違う味を求めて、フラフラと飛び立ってしまったのだ。
そこで、綺麗な模様の花に出会う。
バカな小さな虫は、あれは旨そうだと、吸い寄せられるように、その花にとまってみた。
とまったらもう最後。
その蜜は、ネバネバしていて、もがけば、もがく程に、体にまとわりついた。

永遠に逃げる事の出来ない。
大好きだった甘い蜜にも。
大切だったあのお花畑にも。
もう帰れない。

⏰:09/08/07 20:46 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#221 [あき]
《お疲れ様!》

『うん。お疲れさまでしたっ。』

《家?》

『そうですよっ。』

またいつもの電話。
今から小一時間は、この電話が続く。聞きたい事は、沢山あるのに、言い出せない自分に、腹立たしささえ覚える。
わかってる。
彼は悪くない。
悪くないけど…
どうしよう……

彼の声も遠い空の上だ。
そんな私に、彼はしばらくして気付いた。

⏰:09/08/07 20:51 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#222 [あき]
《何かあった?元気ないけどっ。》

『そうっ?疲れてるからかな…』

《ちゃんと寝ないとダメじゃん〃》

『……寝てるしっ!!最近は特にっ!!』

《……》

『あ…ごめんなさい…』

⏰:09/08/07 20:55 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#223 [あき]
これは、完全なる八つ当たり。
西条さんは、あのホテルの夜と同じだとすぐに気づいた。

《…イライラしてんねっ…。また男?》

また?
またって何?

『違いますよっ。ちょっと仕事でねっ…〃ごめんなさいっ。』

《…隠さなくてもいいじゃん。》

『そんなんじゃないってばっ!!』

⏰:09/08/07 20:59 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#224 [あき]
《………》

無言の電話口。

嫌な空気。
この流れ。
完全にアレじゃん。

『…あははは〃本当に、そんなんじゃなくて、仕事でトラブルあって、イライラしてましたぁ〃ごめんなさいっ。そっちはぁ?雨ですかっ??』


私は、明るく切り返した。この流れを断ち切ろうとしたんだ。

⏰:09/08/07 21:02 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#225 [あき]
なのに、彼は、小さく溜め息をついた。
その溜め息が、気分を変えようとした私の気持ちを、さらに苛立たせる。

《……今日、どうして何も連絡くれなかった?待ってたのに。》

連絡…
ああ。メールの返事か。

あれ以降、私達は、仕事中、合間を見てはメールのやり取りをしていた。
今日は、そういえば、一度も返信していなかった。

『仕事で…』

《なら終わってからでも返信くれりゃいいのに。》

これ以上、苛立たせないでっ!!
そう叫びそうになった。

⏰:09/08/07 21:07 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#226 [あき]
《男と会ってたの?》

『何言ってんですかっ!?〃仕事終わって、真っ直ぐ帰ってきましたよっ。』

《じゃ、どうして返信が無かった?》

『だからそれはっ…たまたま携帯を見なかっただけでっ。』

《何で見ないのっ?》

『だからっ……』

ああ。
ダメだっ。
イライラマックスだっ…

⏰:09/08/07 21:11 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#227 [あき]
『ねぇ。西条さん…?職場で、私の事何か話た?』

《何を?》

『だからっ。私とこうやってプライベートで連絡してるって事!』

《言ったよ?》

『言ったのっ!?』

《まぁね〃仲良い奴に話てたら、そこに、上司がいてね、良かったなって!うちの会社の専属になってくれんかなぁって言ってたよっ!あははは〃》


…あははは…〃
じゃねーだろっ!!

⏰:09/08/07 21:16 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#228 [あき]
『それっ…かなり困るんですけど…』

冷静さを保ちながら、やっと出た言葉だった。

《えっ?どうしてさ?》
脳天気な彼は、聞き返してくる。

『あのね…うちの会社は、そうゆうの、かなり厳しくてね。仕事関係者と、プライベートでうんぬんは、バレたら、かなりマズいのよ。だから言わないでっ。』


《…でもさ、こっちでは話広まったとしても、そっちまでは届かないっしょっ。》


こいつ。
どこまで素っ頓狂なんだっ!!

⏰:09/08/07 21:21 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#229 [あき]
『届いてるから、止めてって言ってんでしょっ!?』

思わず、叫んでいた。
そんな私に、彼は、一瞬たじろいだように見えたけれど、さすが大人だ。
冷静に切り返してくる。

《…そっか〃早いねぇ…〃》

『…笑い事じゃないんだけどっ。』

《でも、どうして、そっちに流れたんだろ?》

『あのさ、西条さんと私がペア組んだように、その他にも、うちからそっちに行く事、あるでしょ!?
そっち側の誰かが、こっち側の誰かに話たんでしょっ…名前は出さなくても、そんなの調べりゃ、すぐわかるって。』

こいつ…
事の重大さに気づいちゃいねぇ…

⏰:09/08/07 21:30 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#230 [あき]
《そっか…恐らくあいつが喋ったんだな…。》

『とにかくっ…田中さんか山田さんか、アナタが誰に話たかは、知らないけどさ、困るんだよっ。これからは、何も言わないでねっ。』

《どうして困るの?恋愛は自由なんじゃない?会社がダメだなんて、そんな話聞いた事ないけど。》

『もちろん恋愛は自由だけど、うち的には、仕事に支障がでるから駄目だって事なんじゃないっ?』

《君も、公表すりゃいいじゃんっ〃隠すよりかは良いと思うけどっ。》

『……そうゆう問題じゃなくってさ…。』

駄目だ。
話にならない…
この人…おばかさん?

⏰:09/08/07 21:40 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#231 [あき]
『そもそも、私は嫌なの。
私は、狭く深くの付き合いをしてきた人間だからさ。仕事仲間。知人。友人。友達。親友。そうやって分けて、それなりの付き合いをして、生きてきたの。だからね、仕事関係者に、プライベートな事を詮索されるのは嫌なの。
それにね、私にも、それなりの立場とか、作り上げたキャラとかがあって…
そゆうの、壊したくないのね?
とにかく、本当に困るんだっ…仕事もしづらくなるし…』

理解を得ようと、今まで言わなかった思いの全てを話ていた。
なのに、さすがに
だから干されました。
とは言えなかった弱い私。悲しい性である。

⏰:09/08/07 21:53 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#232 [あき]
だけど、話は終わらなかった。ただ、秘密にしたい。
そう理解を求めようと、必死に伝えた私の思いは、彼の何かに触れた。
それは突然だったー…

《さっきから、黙って聞いてりゃ、困る困るって……じゃ、俺って一体なんなわけ?迷惑なわけ?…なんなんだよっ!》

突然、彼が聞いた事もないような、激しい怒りを露わにして電話口で叫んでいた。突然の事に、体が萎縮する。

《君は、俺の事を一体どう思ってんだっ!!いい加減にしろよ!!俺が、どんなに我慢してんのか、君は気付いてくれてるのかっ!?》

怒りが頂点に達していたのか…
彼は、その後。

私を
私という人間を。

否定し続けたー…

⏰:09/08/07 22:02 📱:W65T 🆔:pu1DvuhY


#233 [あき]
『…ごめんなさい。』

やっと冷静さを取り戻してくれた西条さん。
無言の電話に向かって、それしか言葉が出てこない。

《…君は俺の気持ちをわかっちゃいない。》

『…ごめんなさい。』

《…ほらな、何を聞いても、何を言っても、わかりません。ごめんなさい。そればっかりだ…》

『…ごめんなさい…』

《…いつまで敬語?》

『………』

《…少しくらい、俺を見てくれよっ…》

最後に、そう言って、電話は切れた―…

⏰:09/08/08 00:03 📱:W65T 🆔:YYIFW1UU


#234 [あき]
切れた携帯電話を、テーブルに置く。ドクンドクンとこめかみが脈打つ。また、いつもの頭痛が始まった。そのままソファーに横になる。ぐったりとした体は、まるで鉛のように重く、自分の意志では自由が利かなかった。

《それはおかしい!》
《普通は…》
《違うっ!!》

《俺を見てくれよ》

何を言っても、どう言っても、否定的な答えしか言ってはくれなかった彼に。
最後に卑怯な言葉を残し、一方的に切られた話に。


この雨に。
私の頭痛は酷くなるばかりだった…

⏰:09/08/08 00:11 📱:W65T 🆔:YYIFW1UU


#235 [あき]
《昨日はごめんね。仕事で疲れててイライラしてたんだ。》

《いえ…》

《会社では何も言わないようにするねっ。》

《うん。お願いします。》

そう言って、また元通り。彼は優しい声で、暖かいなまりで、私に笑いかけた。
だけど。
突然の彼の噴火。
そして私への執着。
これはスタートに過ぎなかった。
少しづつ、私は彼に呑み込まれて行った。
気付かないうちに、じわりじわりと。

⏰:09/08/09 22:24 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#236 [あき]
相変わらず、私は職場では浮いた存在。

極端に減らされた仕事。
極端に増やされた休日。

もう誰しもが、私を好奇の目で見ているんじゃないかと、体が萎縮するばかり。上辺では、仲の良いふりをして、陰では何を言ってるのかわからない。
そんな毎日。

体力も神経もすり減らす毎日。

そんな毎日を知らない西条さんは、相変わらず、夜になると電話を寄越してきた。
昼も夜も
何事もないように、笑って話す、そんな自分に疲れていた。

⏰:09/08/09 22:31 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#237 [あき]
なおちゃん。
自然と彼からも遠退いた。
昔の私なら、一番に彼の元へと逃げて、泣いて、そして乗り越えてきた。
だけど、今回ばかりは、そうはいかないと、無意識の中でそう知っていたのだろう。恐らく。それは
自分が、彼を裏切ってしまったんじゃないかという、後ろめたさー…
彼を頼ってしまったら
私を想ってくれる西条さんを傷つけてしまうんじゃないかという。
後ろめたさ−…
結局、答えを出せない自分は、自分自身の首を絞め続けただけ。

⏰:09/08/09 22:55 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#238 [あき]
だけど、いつまでもそんな状況は続かなかった。
それは、突然に訪れた。

私の思わぬ所で、動き出したそれを、私には止める事は出来なかった。

またいつものように、夜の電話が鳴る。
いつもの…


―ピッ
『はいっ。お疲れ様ですっ〃』

《来週、そっち行くよっ!!今度は、俺が出張っ!会えるぞっ!〃》


突然の事だった。

⏰:09/08/09 23:01 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#239 [あき]
『出張っ!?西条さんも出張するんですかっ!!』

《あるさっ。〃俺だって、昔は何度もそっち行ってるよっ。》

『いつ!?』

《来週の木曜日から、日曜日までの4日間っ!!あき、嬉しいかっ!?》

『…う…うん…』



正直
困った……

⏰:09/08/09 23:12 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#240 [あき]
『でも会えるかなんて。』

《どおして?》

『…違うから。』

西条さんが、来る地方は、私の隣県。
同じ○○圏には変わらないから、地方の彼にすれば、一緒なのかもしれないが、隣県は隣県だ。

おまけに、私が住む街。
いや、せめて、私が生きてる街まで範囲を広げたとしても、彼が来る隣県からは、車で高速道を三時間。新幹線なら、二駅向こう。空港なら、大型国際空港と、しがない国内空港。
いくら隣県とは言えども、違うのだ。
彼はそう説明する私に、そうかと呟いた。

⏰:09/08/09 23:20 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#241 [あき]
《…あきは、俺に会いたいって思ってはくれんの?》

『いや…そうゆう事じゃなくって。』

またこの流れだ。
うんざりしてきた。

先ほど、彼、が【そうか】と呟いたのは、決して私の説明に納得したからの返事ではない。
私の説明を聞いて、私の気持ちを、勝手に納得しての【そうか】なのだ。
今回ならば、恐らく、彼の思考はこうなった。
せっかくの吉報。
自分は嬉しい。
あきは、喜ばない。
会いたくないのか。
好きじゃないから。
男にまだ未練があるから…
俺はこんなにも好きなのにーっ!!
どうして、お前は俺を見ないんだーっ!!

となっただろう。間違いないっ。

⏰:09/08/09 23:32 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#242 [あき]
《何が違う?》

ほらね。きた…

『だから、西条さんが来るのは同じ○○圏だけど、隣県であってさ…。違うじゃない?そりゃ、こっちに来るって言うなら話は違うけどさっ。隣県だし、お互い仕事あるし。会えるかなって思っただけで。』

ねえ。私の主張は、間違ってますか?
誰か教えて下さい。

《…俺は、そんな事を聞いてんじゃないよ、会いたいとは思ってくれんのって事を聞いてんの。》

だから、私はそうゆう問題じゃなくってさ。
私の言ってる意味が、伝わらないなぁ…

『私は、会いたい会いたくないの前に、会えるか会えないかの話をしてるんだよね…』

もう、こうなったら
西条 祐介。
止まりませんよ。

⏰:09/08/09 23:41 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#243 [あき]
『会えるかなって思っただけで。』

ねえ。私の主張は、間違ってますか?
誰か教えて下さい。

《…俺は、そんな事を聞いてんじゃないよ、会いたいとは思ってくれんのって事を聞いてんの。》

だから、私はそうゆう問題じゃなくってさ。
私の言ってる意味が、伝わらないなぁ…

『私は、会いたい会いたくないの前に、会えるか会えないかの話をしてるんだよね…』

もう、こうなったら
西条 祐介。
止まりませんよ。

⏰:09/08/09 23:41 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#244 [あき]
《…会いたくないんだね。》

ほらほらぁっ!
出ましたよ。
ミスター、マイナス思考!!

『だから、そうじゃなくって…』

《…俺ばっかりが浮かれてるのか。》

いよっ!!
キングオブ、マイナス思考っ!!

『…だからぁ…』

《どうせ、あきは、俺の事好きじゃないからなっ…》


……あんたが大将っ!!

⏰:09/08/09 23:46 📱:W65T 🆔:OLCk8BEI


#245 [あき]
『…会いたいとは思いますよ?』

《なら、それでいいだろ?…なぁ、俺の事好き?》

『…だからそれは…』

《まだわからない…か。》

『はい…。』

《……》
『……』

負けました。完敗です。
そして今夜も頭痛と乾杯です。
ともかく、気づけば、延々と私は、彼の独断会を受講して、来週、彼とまた再会をする事になっていた。

⏰:09/08/10 00:04 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#246 [あき]
わからない。
本当に、わからないんだ。いや、正確に言うと、わからなくなったんだ。
彼は、【好き】という言葉に理由付けはないという。理由なんていらないという。それは、そう。気持ちの問題だからと。
私は、だからこそわからない。と主張する。

どう言った感情が
どう言った行動が
好き。で。
何が
愛。
なのか…

わからないから。
彼の問う問題に、私は答えられないんだ。
私は誰が好きで。
誰を愛しているのか…
わからない。

⏰:09/08/10 00:11 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#247 [あき]
もちろん、私なりに答えを出そうと必死だった。
数少ない友人達に、必死にすがりついた。
だけど
誰に聞いても、答えは一緒だった。
新しい恋をしている友人Aに聞く。
《相手の事が気になる》《会いたいと思う》《声を聞きたいと思う》

どうやら、それが彼女の答えらしい。
確かに、共に過ごした一週間は。西条さんの事は気になる存在だった。朝、迎えに来る前は、鏡を見直したりした覚えもある。離れて時間を過ごす事になれば、不安な思いで、彼の背中を見送った。彼の声に、随分と癒やされた。
離れてからは
いつもの時間になると、そろそろ掛かってくるぞ、と携帯電話を気にする。
いつもの電話が遅いと、今日は遅いななんて思ってもみたりする。

これが恋なのか?
ならば、私は、彼に恋をしている……
そうなるんだ。

⏰:09/08/10 00:29 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#248 [あき]
《相手の事が気になる》《会いたいと思う》《声を聞きたいと思う》

どうやら、それが彼女の答えらしい。
確かに、共に過ごした一週間は。西条さんの事は気になる存在だった。朝、迎えに来る前は、鏡を見直したりした覚えもある。離れて時間を過ごす事になれば、不安な思いで、彼の背中を見送った。彼の声に、随分と癒やされた。
離れてからは
いつもの時間になると、そろそろ掛かってくるぞ、と携帯電話を気にする。
いつもの電話が遅いと、今日は遅いななんて思ってもみたりする。

これが恋なのか?
ならば、私は、彼に恋をしている……
そうなるんだ。

⏰:09/08/10 00:29 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#249 [あき]
なおちゃんに関しては、そんな感情は消えていた。

彼が、何をしているかなんて、もはや、大体の予想がつく。から気にもならない。特に彼が誰と何をしようが、それは、彼がどこで、何をしていようが、彼が私を裏切る訳がない、私を傷つける訳がないと、妙な安心感があるから?なのかもしれないが、とにかく、既に私は、彼には持ち合わせていなかった。
会いたいと思うかにしてもそうだ。少なくとも昔は持っていた感情だったけれど、今の私達のスタイルは、いつでも会えるという感情にすり変わっていた。唯一あるとするならば、声を気いたら、安心する。その事だけは、昔も今も変わらない。
結果私は、友人Aの話に、混乱しただけだった。

⏰:09/08/10 00:46 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#250 [あき]
そして、次に、恋愛真っ最中の友人Bに聞く。

《何気ない瞬間に、たまらなく愛おしいと思える》《ずっと傍にいたいと思える》

それが、どうやら恋愛真っ最中の答えらしい。

西条さんに関して言うならば、何気ない瞬間に、愛おしいと思えた事は…残念ながら、まだ無かった。
ただ、傍にいたら幸せになれるんだろうなと、そう思えた人には間違い無かった。

それが、傍にいたいと思える事に繋がるのならば、そうなのである。

⏰:09/08/10 00:58 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#251 [あき]
反対に、なおちゃんに関してならば。

たまらなく愛おしいと思えた瞬間…

あの沖縄旅行の夜だ。

私の横で眠る彼を見つめ、たまらなく胸が苦しくなり、衝動的に、抱きしめたくなった。
あれが、その感情なんだろう。
彼に関しては、私自身、傍にいたいと思うよりも。彼が、傍にいてくれる。という安心感。が何より強かった。


やっぱり友人Bの話にも、私は混乱を記した。

⏰:09/08/10 01:02 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#252 [あき]
そして、これが究極の形。結婚という恋愛のゴールテープを切って、夫婦という新しいスタートを切った友人Cに聞いた。

《全てを受け入れ、許せるる人。》
《自分が生きてくうえで必要な存在。》

この一言だった。

そこに、先に聞いた好きという感情。それはあるのかという、更なる私の疑問には

《…わかんないっ〃》

と笑われた。

⏰:09/08/10 01:13 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#253 [あき]
彼女の話は、深い話だった。
全てを受け入れて、許せる人か。

考えてみても
西条さんにも、勿論、知り合い月日を数ヶ月過ごした中で、彼の言動に、時折見える私自身と合わない所がある。

それが、これから先
私は、受け入れ、許せるんだろうか。と考える。

その点、なおちゃんに関しては、簡単に答えは見つかっていた。

おいっ!!この野郎と思う言動は多々あるが…
深く気にも止めないで来たのだ。
これが許せる事になるのならば、私は彼の全てを受け入れ、許せてる事になる。

⏰:09/08/10 01:23 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#254 [あき]
自分が生きてくうえで必死な存在。
西条さんがいなくなった時、なおちゃんがいなくなった時、どちらの状況も、私はイメージする。
なんなら妄想する。

そして……

西条さんが消える時。
寂しいと思えた。胸がキュッと縮んだ。
なおちゃんが消える時。
痛いと思った。胸がズキンと鳴った。
結局私は、どちらにも反応したのだ。
結果、友人Cの話は、深かったが。私の混乱に混乱を記した頭を爆発させて、さらにパニック状況に陥らせただけだった…

⏰:09/08/10 01:33 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#255 [あき]
友人達の話を照合しても。間違いなく、私は、なおちゃんには恋をしていた。
もうこれは、認めざる終えない。
だけど、私も、そろそろ本気で【結婚】というものを考えなければいけない歳になった。
いつまでも一人でいる訳にはいかない。
母親もいい歳だ。
子供達は、皆自立した。
それなのに、いつまでも、あくせく働いている。
孫の世話をしながら余生を暮らす。なんて選択だってあるだろうに。

友人の子供達は、どんどんと成長し、友人達もすっかり母親が板についてきた。

⏰:09/08/10 01:56 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#256 [あき]
暖かい日差しの中、黄色い通園帽子をかぶっていた私達。


《あきねーっ!!大人になったらなおちゃんと結婚するっ!!》

《ぼくも、大人になったらあきちゃんと結婚するぅ!!》

保育園の帰り道。
母親達の、あらまぁと言った笑い声の中、私達は手を繋いで田んぼ道を歩いた。そんな、子供の些細な約束。

あれから数十年の月日が流れて。
私達は再会をした。

⏰:09/08/10 02:01 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#257 [あき]
何もかもを失って、廃れて、泥のような生活をしていた頃に。何もかもを失った彼が現れた。
月日を重ねて出した答え。
《なおちゃんが好き。》

《ごめんな。答えてやれない…》

《友達でいようね〃》
《そうしような〃》


笑って言った十代最後の約束。

そして、彼は、私の前から消えた。

⏰:09/08/10 02:07 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#258 [あき]
新しい恋をしようとした。幾度となく到来したチャンスを、自ら潰してきた。彼がまた現れた頃には
若干お肌の曲がり角。
お手入れ大変です。
なのに
私はやっぱり彼だけが好きだった。

《嫁…くるか?》
《まだ行けない。》
《なら、いい女になれっ!〃》

あの、涙の約束。

あの時、私は間違いなく幸せだった。

⏰:09/08/10 02:14 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#259 [あき]
それが今になって。もはや、お肌も、ぐにゃぐにゃに曲がりきって。夜の蝶として飛び回っていたのが、嘘のよう。もう取り返しのつかない年齢…。
だからこそ?
気持ちが揺れ動いた。

なおちゃんをこのまま待っていいのか。

西条さんに託して新しい人生を歩くのか。

どちらも、一歩を踏み出す力を私には与えてくれない。こっちに来いよと、引っ張ってはくれないのだ。

どちらを選ぶかの選択肢は私に委ねられているように思えた。


それが、私なりの結論だった。

⏰:09/08/10 02:30 📱:W65T 🆔:AU/RUY7o


#260 [あき]
『…もしもしっ?』

《おうっ。生きてたのかっ。》

『生きてますっ!…今、いい?』

《んんっ?》

『最近どう?』

《特に変化なしっ。》

『私ね……』

⏰:09/08/11 01:23 📱:W65T 🆔:Dy86vzVI


#261 [あき]
《んんっ?》

『…私ね…プロポーズされた……結婚を前提に付き合ってって言われてる人がいるの。……私、どうしたらいい??』



お願い。
少しでいい。
少しだけでいいから…



アナタの気持ちを見せて?

⏰:09/08/11 01:29 📱:W65T 🆔:Dy86vzVI


#262 [あき]
卑怯だと思う。
本当に卑怯だと思う。

こんな事して…
試すような事して…。



だけど。
知りたかった。
アナタの気持ちを知りたかっただけ。

⏰:09/08/11 01:32 📱:W65T 🆔:Dy86vzVI


#263 [あき]
何でもいいから。
アナタの気持ちを見せて欲しかった。

またいつものように
くだらない理由をつけて。

今すぐ来いって…

言って欲しかった。
そしたら、私は救われた。もう迷わなかったのに。

⏰:09/08/11 01:38 📱:W65T 🆔:Dy86vzVI


#264 [あき]
《……良かったじゃんっ。〃》


アナタは笑って、そう言った。


そこには
動揺も、焦りも、怒りも。

何も見せてはくれなかった−…

⏰:09/08/11 01:43 📱:W65T 🆔:Dy86vzVI


#265 [あき]
『…うん。そだねっ…』

《あきもいい歳だし、最後のチャンスだろ。》

『うんっ。…そだねっ…』

《良かったな。》

『うん…』

そうなんだ…。
良かったんだ…。
なのに
どうして胸が痛いんだろう。
どうして、涙が溢れてくるんだろう。
ねぇ。なおちゃん。
どうしてなのかな…。

⏰:09/08/11 01:50 📱:W65T 🆔:Dy86vzVI


#266 [あき]
相変わらず、出勤しても、大した仕事は割り当てられず、唯一割り当てられた初歩的仕事、雑用、雑務を淡々とこなす。こんな日々にはもう慣れた。デスクの上、カレンダーを見る。西条さんが来るのは、二日後からの四日間。
小さくつけた丸印をなぞってみる。
あの後、新事実が発覚。
実質、彼の出張期間は二日間だった。
週末の二日間は、彼は、リフレッシュ公休としてそのまま、留まる予定となっていたのだ。
彼は初めから、この出張を利用して私の住む街に来るつもりだった。
だから、あの時あんなにも怒ったんだと、ようやく理解した。

⏰:09/08/11 02:12 📱:W65T 🆔:Dy86vzVI


#267 [あき]
《仕事の都合つけれそうですからっ。迎えに行きますよ!》

《ほんと?会える?》

《はいっ。〃今度は、私が案内しますね。》

《…よしっ!〃》

こんな私に会いたいと言ってくれる。
無邪気に喜んでくれる。
全身で、ぶつかってきてくれる。
そんな西条さんの気持ちに…答えよう。

私は新しい道を歩く。

⏰:09/08/11 02:17 📱:W65T 🆔:Dy86vzVI


#268 [なすっこ]
この小説だいすき!アゲ

⏰:09/08/13 11:21 📱:SH905i 🆔:xFcgKDn2


#269 [あき]
なすっこさん、ありがとう!
―――――――

行き交う人々を眺めながら、やっとの思いで私はロータリーへと車を着けた。ここまで来るのに三時間以上かかってしまった。既にグッタリである。
もともと、極度の方向音痴なうえに、機械音痴な私には役に立つはずのない備え付けられたカーナビ。
勿論、自慢じゃないが、地図なんて読めるはずもなく。
結果、私は初めての遠出を標識看板と研ぎ澄まされた勘だけで来たのだ。
いや、無事に此処まで来れた事は奇跡に近かった。

⏰:09/08/13 21:50 📱:W65T 🆔:Jv9iWXkM


#270 [あき]
行き交う人々を眺めながら、その時を待つ。
時計を確認すると、彼が乗っているはずの電車はホームに着く頃だ。
慌ただしく人が南出口から出てくる。
おそらく、この中にいる。なんだか急にドキドキしてきた。
必死に、その影を探して。
いたー…

相変わらず、すらりと長身で、このくそ暑いのに、涼しさ漂う出で立ちで、爽やかな匂いを出しながら、その人は南出口から舞い降りてきた。

⏰:09/08/13 21:58 📱:W65T 🆔:Jv9iWXkM


#271 [あき]
南出口。出てすぐに立ち止まる。
少しキョロキョロして、私の車を見つけると、ぱっと顔がほころんだように見えた。
その姿に向かって、私は笑顔で手を振る。
私の姿を確認して、彼も軽く手を挙げると、あの優しい笑顔で、歩いてくる。

『うすっ!!お疲れ様〃』

『お疲れ様でしたっ。乗って下さい〃』

何だか、妙に照れくさい。男性らしい軽い小さなバックを、トランクに入れると、私達は、また久しぶりの。二回目の再会を果たした。

⏰:09/08/13 22:05 📱:W65T 🆔:Jv9iWXkM


#272 [あき]
『じゃっ。どこ行きましょうか?〃っても、私、こっちあまり知らないんですけどねっ。』

『…あきの住んでる街を見てみたい。だめ?』

さらりとそう言った彼に私は、ドキリとした。
私は、首を横に振ると、微笑んで冷静さを保ちつつ車を動かす。

久しぶりだとか、髪型変えたとか、そんな何気ない会話。
大通りを離れて、高速道を目指す。
道中、緊張と、慣れない道で四苦八苦しながら、車を進める私に、横で彼は若干引きつりながら笑っていた。

高速道に乗って西へ向かう事数キロで、彼のお願いを聞き入れ、途中、サービスエリアにて、運転席を変わった。(申し訳ない…)

⏰:09/08/13 23:33 📱:W65T 🆔:Jv9iWXkM


#273 [あき]
『にしても、あきが、この車とは、意外かも?』

『…そうっ…?』

ちらりと右側を見てみる。運転席に座る、西条さん。
すぐに目を逸らした。

箱型普通車。
もう何年も前に生産されて、当時の人気車も、時代の流れと共に、需要が減り今はもうない。
今、同じ車が走っているのは珍しいくらいだ。
それでも、私は大切に乗っている。

『…もう珍しいかもねっ…〃』

快調に流れる左側の景色を見た。
私の右側。この景色に、なおちゃん以外の誰かが座っている。
改めて、実感した。

⏰:09/08/13 23:44 📱:W65T 🆔:Jv9iWXkM


#274 [あき]
『昔、人気あったよね?あきもその時に?』

『私はこれは、自分の車潰しちゃって…友達から、そっくり、もらったのっ。だから、全部、友達の趣味ですよ。』

笑って、流す。
はるか昔、愛車を事故で失った。(※パート1参照)次に乗った愛車は、乗って数年で寿命で失った。(続編参照)続けて二台共に失った私には、新しい愛車を用意する資金なんて残っちゃいなかった。
困り果てた私と、愛車の維持がツラいが、手放したくはないと嘆く友人。
二人の意見が合致して。
そのまま私が譲り受けた。普段は私が愛用しているが、未だに、友人も乗り回している。
今や二人共有と言える代物だった。
ねえ。なおちゃん…

⏰:09/08/13 23:59 📱:W65T 🆔:Jv9iWXkM


#275 [あき]
微妙な空気が車内に流れる。彼自身、その友達が、なおちゃんである事に気づいている様子だ。
これ以上は聞きたくない。そう全身で言っていた。

『…お腹減りましたねっ。私、朝から何も食べてないしっ〃』

『…そだなっ〃何がうまいの?』

私は、身振り手振りで、次から次へと、名物の名前を挙げる。西条さんは、私の言葉に、笑いながら、旨そうだねと答えてくれた。

そう。私は、この人を選ぶんだ。
今、運転席に座るこの笑顔の爽やかな彼を。
私は自分の意志で、選んだんだから…

⏰:09/08/14 00:08 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#276 [あき]
車を走らせて、三時間。
私の住む街に入ってきた。ここからは、さすがに私の出番だろう。高速道を降りて、運転席を変わる。
愛車を駐車場に入れて、二人手を繋ぐ。
私が生きる街。
小さい田舎街だと思ってはいても、他県からすれば、ここは、実は観光地。国宝や世界遺産があったもする街。
私が、西条さんの生きる街に行った時のように。
私も、彼にくるりと街を紹介した。
そんな街に、西条さんは喜んでくれた。
初めて見ると言った国宝の建物にも、立ち寄る。
時間も忘れて、二人ではしゃいだ。
全てを忘れて。私は、はしゃいだ。

⏰:09/08/14 00:26 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#277 [あき]
『やっぱ、本場は違うねっ!〃美味いよ。』

『そう?私は食べ慣れてるけどっ。』

『なんだそれっ!〃』



『は〜…すごいねっ。』

『うん。…実は私も、初めて見た〃』

『おい地元人っ!!〃』

『地元人だから見ないんでしょ?〃』


繋いだ手。

これでいい。
これで、いいんだよっ。

⏰:09/08/14 00:33 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#278 [あき]
彼となら幸せになれる。
彼なら、忘れさせてくれる。彼なら…

この夜。
二度目の私達の夜。
淡い光の中で、初めて彼と向き合った。

私を見つめる目。
私に伸ばす腕。
私を包み込む胸。

全てを彼に託した。
私に触れる体が
とても優しくて、涙が溢れた。

⏰:09/08/14 00:40 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#279 [あき]
朝、目覚めると彼が気持ち良さそうに眠っていた。
起こさないように、腕を伸ばし洋服を探す。
きしむベッドで、彼が目覚めた。そのまま、フワリと腕が伸びて、私を包んだ。そのまま強く引きつけられた腕に、私は体ごと、彼に寄りかかる。その腕は、私をしっかりと抱き寄せ離さない。笑いながら、離してよと言うと、離さないと言った。

離したら、どこかに行ってしまう。

そう言った。行かないからと言うと、彼はフワリと微笑んで、また強く私を抱き寄せた。

⏰:09/08/14 00:55 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#280 [あき]
西条さん来郷二日目。
感動する私を横目に、彼は、ちょちょいとカーナビをセッティング。
暖かい日差しの中、リラックスムードで次の目的地へ移動中。私の携帯電話が鳴った。バックを弄り、着信音がはっきりと聞こえた時、私の手は止まる。携帯電話を見つめて、指が固まった。

『出ないの?』

西条さんは、そう言った。
『え…うん…いいかなって…』

わかるから。この着信音。咄嗟に都合のいい嘘すら出てこなかった。

⏰:09/08/14 01:12 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#281 [あき]
『出れば?…出れん相手?』

西条さんが冷たい空気に変わる。
ビクリと体が固まった。
怖い。
そう感じた。

『じゃ。ごめんなさい』

そう言って、受話ボタンを押した。


これが、私の始まりだった。

⏰:09/08/14 01:22 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#282 [あき]
―ピッ
『はいっ?』

《何してる?》


私が大好きだった声。

聞きたくて、聞きたくて、どうしようもなかった時、聞けなかったのに。
諦めると、こうやって聞かされる。
本当に卑怯だよ。

『出掛けてる。なにっ?』

右側。無言の西条さん。
体の左側がとても痛い。

無意識に冷たい声で返事した。

⏰:09/08/14 02:03 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#283 [あき]
《あっそ。ならいいや。》

なおちゃんは、また、相変わらず一方的に要件をまくし立てた。
私は、相槌を打って適当に返事する。

『わかったから。とにかく、また電話するよっ。』

《おぅ。帰ったら電話して。》

『わかった。』

そう言って、半ば強引に電話を切った。
細くため息をついて、反射的に顔中の筋肉を上に持ち上げる。
にっこり微笑んで、右側。西条さんを見た。

⏰:09/08/14 02:09 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#284 [あき]
『ごめんなさい〃友達が…』

時間にして、5分。
そう言って、西条さんの顔を見た瞬間に、私は、体が萎縮した。
前を見据える西条さんの顔が、怒りに満ちているのがわかり、ハンドルを握る腕に力が込められているのがわかる。

『…また男だろ?』

その声は、まるで地獄の底から響いてくるような。
とても低い声。

『…友達…です…』

体を硬直させながら、私はそう呟いた。

⏰:09/08/14 02:14 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#285 [あき]
『それは男?』

『…うん…』

『なんて?』

『…用事だよ。』

西条さんは、無言で私の言葉を受け入れる。
数秒黙って私の言葉を、噛み砕いた。

『彼氏いるならそう言えよ!!俺を騙してたのか!!』

『違うっ!!彼氏なんていないっ!!』

また彼は噴火した。
あの優しく微笑んでくれる彼はいなかった。

⏰:09/08/14 02:20 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#286 [あき]
荒々しく車は進む。
恐怖で体が固まり、言葉を失った。
それでも、その中で、必死に私は、西条さんの怒りを静めようと言葉を探した。

『友達にしたら、親密な間柄を感じれる会話だったけどねっ!!?』

『だからっ!!それは…仲良いからっ!』

『その彼だろっ?あきが好きな奴はっ!!』

『今は違うっ!ねぇ。怖いって。スピード緩めて…』

⏰:09/08/14 02:24 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#287 [あき]
高速道を、猛スピードで走り抜ける車。
怒りを露わにする西条さんを必死になだめながら、私は、怒りの右側と恐怖の前方を確かめる。

『この先っ!!カメラあるからっ…ねぇっ!!怖いってばっ!』

車は、急ハンドルで高速道、インターチェンジを抜けた。突然の事に、体を支えきれず、なんとかの原理ってやつだろう。いとも簡単に私の体は、ベンチシート横、運転席に座る西条さんにぶつかった。
とっさに起き上がろうとした私の肩を、西条さんは、力一杯に抱き寄せ、その肩に指が食い込んだ。
私は、国道を西に向かう間、力ずくのまま、その胸の中にすっぽりと収まっていた。

⏰:09/08/14 02:35 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#288 [あき]
遥か昔、痛めた腰が、無理な体制を強いられている私をズキズキと打っている。だけど、肩を掴む力が弱まる気配はなく、しばらくこのままで過ごしているしかなかった。
私の視界には肩を掴んだまま、無表情、無言で、車を走らせる西条さんしか見えない。
国道を西に進んで、しばらくすると車が、急に左に折れどこかに入って、止まった。

『降りるよ。』

『…はいっ…』

体を起こして、やっと窓の外を見渡す。
どこだかわからない。
薄暗い地下駐車場。
即座に助手席のドアが開けられ、私は彼に手を引っ張られた。

⏰:09/08/14 02:46 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#289 [あき]
引っ張られるように、車を降りて、その薄暗い場所に立って。ようやく、ここがどこだか理解できた。
理解出来たと同時に、更に西条さんに恐怖を覚える。

『ちょっと…なにっ…やめてよ…』

『いいからっ。』

握った手に強く引かれて私は、そのまま引きずられるように中へと入って行った。

⏰:09/08/14 02:52 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#290 [あき]
部屋に入り、無言のまま強く握られた手を投げ出される。投げ出された私の体は、今度は強く引き寄せられる。苦しくて、もがけばもがく程、彼の力は強くなり、離してと言えば言う程絡まりついた。

腰に回された腕は強く私を抑えつけ、顔を持たれた手は顎を抑える。

必死に顔を背けても、荒々しい彼の唇で抑えつけられた。昨夜のあの優しく包み込んでくれるような暖かさはなかった。
抵抗すればする程、力は強くなる。嫌だと叫ぶと腕をまた掴まれた。

⏰:09/08/14 03:03 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#291 [あき]
掴まれた腕は、そのまま力任せにベッドへと投げられた。自分の体が一瞬宙に舞ったような感覚。
そのままドサリと体がベッドに沈まると、西条さんの体がのしかかる。
荒々しい唇は逃げても逃げても私を捕らえる。
必死に許しをこい、両手足を、ばたつかせて抵抗しても、やはり適わなかった。そして腕を抑えつけられ、頭を抑えつけられた瞬間。

あの恐怖が蘇った。
あの夜。知らない海辺の。あの恐怖が…
蘇ってしまった。

⏰:09/08/14 03:10 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#292 [あき]
『やだ…やだっ…なおちゃん!!』

治まっていた症状。
フラッシュバック−…

パニックになって口走った私。だけど、その言葉に更なるパニックを起こしたのは紛れもなく彼自身だった。

『俺は祐介だっ!』

ドスンと私の真横で、大きな音が鳴った。
彼が怒りに合わせて、ベッドに拳を振り下ろしたのだ。その音と拳でまたビクリと体が固まった。

『…ごめんなさい。あきが悪いからっ…殴らないでっ…』

⏰:09/08/14 03:28 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#293 [あき]
フラッシュバック。
湧き出てくる記憶。

あの浜辺の地獄。
幼少期、父親に殴られ続けた日々。
目の前にいるのは、

怒りに満ちたお父さん?あの時の狂った彼奴?

怖い
怖い
怖い…

力が抜ける。
そんな私の体に、西条さんは荒々しく被さった。
昨日の夜は、優しく包み込むように暖かかく感じたその温もりを。今は、ただただ、人形のように、私は体を委ね続けた。

⏰:09/08/14 03:37 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#294 [あき]
全てが終わり人形だった私は抜け殻になった。
今、私は西条さんに抱きしめられているのか、捕らわれているのか。
それすら、わからなかった。
天井を見つめる。
優しい、なおちゃんの笑顔。暖かい雫が頬を静かに伝った。だけど、それを拭う力さえ残してはいなかった。

西条さんは、黙ったまま時折、私に口づけた。その唇は優しく柔らかいもので、私は微笑み返す。彼は、私を好きだと言って、また私の体を強く抱き締めた。

⏰:09/08/14 04:00 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#295 [あき]
世間は夕刻。
今日はこのまま、ここにいたいと言い出した彼に、私は頷く。
ベッドの上、いつまでも私を離そうとはしない西条さんに、苦笑いをしながら、どこにも行かないよと言った。
シャワーを浴びて、ルームサービスを取り、余り美味しくない夕食を取る。
テレビを付けて、たははと笑う。

『あきは、その…なおちゃんを忘れられる?』

テレビを見つめながら、そう囁く彼。

⏰:09/08/14 04:08 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#296 [あき]
『…西条さんは私の何がいいの…?』

そう、呟いた私に彼は、わからないと笑った。

『ただ…あきが居なくなると、本当に自信無くす。』

『そっか。』

私は微笑むと、彼が望むように、体を彼に傾ける。
肩に頭を乗せると、彼は優しく私を抱き寄せて、髪をポンポンと撫でた。

⏰:09/08/14 04:18 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#297 [あき]
『もう、ただの幼なじみだからっ。』

『好きだったんだろ?』

『昔はねっ…』

『過去に出来る?』

『過去だよ。』

『…本当に?』

『…私は、あなたを選んだの。もっと自信持って、私を信じて?』

『……わかった。』

⏰:09/08/14 04:23 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#298 [あき]
同じ夜、また彼に抱かれた。彼は優しく包み込むように私を抱いた。

なおちゃんを忘れたいが為に、重ねてきた体。
いつも寂しさなんて埋まらなかった。
利用しているようで、利用されている事はわかっていた。
どんなに好きだと囁かれても、肌が感じた。
今、私に回された彼の腕が、彼の背中に回した私の腕が、心地よいと感じるのは私が彼に想われて、私も彼を想う証拠。
そうに違いない。

⏰:09/08/14 04:40 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#299 [あき]
私は幸せになりたいだけなんだ。彼が私を望むのなら、こんなチャンスは二度とないかもしれない。
だったら私は彼の望む私でいればいい。
私は、この日、彼の胸に包まれながらそう誓った。

『なおちゃん以外に、俺に何か隠してる事ない…?』

『…ないよ?どうして?』

『…いやっ。いいっ…おやすみ。』

『おやすみなさい』

あの捨て去った幼少時代も。
あの忌まわしい過去も。
だから、アナタに恐怖を覚えた事も。
私は、一生言わない。
私は仮面を付けた。
未来を掴む為に―…

⏰:09/08/14 04:49 📱:W65T 🆔:0SdBI476


#300 [愛]
仮面をつけてしまったの?仮面を付ける事で、幸せになれるかな?(>_<)
これからも読んでいきます☆
あきさんには幸せになってもらいたい!

⏰:09/08/14 08:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#301 [あき]
愛さん。ありがとう。

そうですよねっ。
でも、この時の私は、そう思ったんですよ。
バカでしょ?笑

ありがとう。

⏰:09/08/15 01:46 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#302 [あき]
朝目覚めて、相変わらず伸ばされた腕が私に絡まりついている。
正直、かなり寝苦しかった。真夜中何度も試みたけれど、離れようと体を動かせば、寝ぼけながらも、彼の腕は私を強く引きつけた。強く引きつけて、絡まりつくのだ。
その絡まった腕を静かに離すと、彼は目覚める。

『…おはよぅ…』

『うん。おはよう。喉乾いたのっ。起きていい?』

『…ん…』

そう言って、彼はやっと私を離してくれる。
ベッドから降りて、冷蔵庫を開けて水を飲んだ。

⏰:09/08/15 01:54 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#303 [あき]
冷えたミネラルウォーターはとても美味しい。
一気に飲み干すと、私は剥ぎ取ったシーツをズルズルと引きずりながらソファーに座った。

パチンとテレビを付ける。朝のワイドショー、コメンテータ達が芸能人の私生活を、面白ろおかしく、はやし立てていた。

ちらりとベッドを見ると、スヤスヤと眠る彼。

シーツを失った布団が私の代わりに彼にまとわりついていた。

⏰:09/08/15 02:04 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#304 [あき]
しばらく一人の時間を過ごすと、彼がようやく目覚める。

『あき…おいで。』

横たわったまま、寝ぼけ眼で、両手を私に伸ばした。
私は微笑み、立ち上がる。
ベッドへと歩み寄り、彼の両手の中へと体を入れると空調で少し冷たい腕が、すぐに絡まり、少し冷たい唇が私の顔を覆った。
それを優しく受け入れると、彼の体がまた熱を帯び始めて、強く私を抱きしめた。

⏰:09/08/15 02:13 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#305 [あき]
『ずっとこうしていたい…』

彼は私を腕の中に入れてそう呟いた。
私は、頷く事も何もせず、ただ微笑み返す。

『…離したくないんだよ。』

まるで赤ん坊が母親の胸の中で無償の愛を欲しがるように。彼は私の胸に顔をうずめて、愛を求めた。私は、彼の髪を撫でながら、うんと囁く。

これでいい。
これでいいんだよね…
なおちゃん…

⏰:09/08/15 02:22 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#306 [あき]
ギリギリまで、そんな時間を過ごした後は、しぶる彼を急かすように、その場を後にして、また車を東に走らせる。

西条さんは、帰りが心配だからと、一番近い駅でいいよと笑って言った。
それひどい、なんて笑いながら、彼の言葉に逆らわず、私は一番違い大きな駅へと車を向かわせる。
一時間程で、車は駐車場へと入った。
彼がこの地を後にするまで残り、二時間。
また二人並んで、手を繋いで歩く。

『あっ…ちょっとここ見ない?』

西条さんが突然に、立ち止まり指を指した場所。
私は、笑顔で頷いた。

⏰:09/08/15 02:31 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#307 [あき]
そこは、女としては、煌びやかな場所で、心踊る場所。

『これ、可愛い…』

飾られた品々を見ながら若干浮かれぎみ。
手に取って、鏡にあててみたりする。

彼自身、私の話はそっちのけで、ショーケースを眺めながら、これがいいと、綺麗なお姉さんになにやら言っている。

『あき、はめてみて?』

振り返ると、西条さんの手には、キラキラと輝くー…指輪。

⏰:09/08/15 02:39 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#308 [あき]
『えっ…うんっ。』

指にはめてみると、それは尚一層輝いて見えた。シルバーのリングに小さな花がモチーフとなり、キラキラと宝石が光っている。
宝石に疎い私でも、それが、何の宝石かわかる。

『似合うじゃん〃』

西条さんが、満足げに頷く姿に、ショーケース越しのお姉さんも、微笑んで、ありきたりの褒め言葉を言った。

『そう〃?』

そう言って私は指から抜くと、お姉さんに渡す。
西条さんは、腕を組み、少し首を傾げて考え込んだ。

⏰:09/08/15 02:48 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#309 [あき]
『私、あっち見たいっ!』

咄嗟に指した方向には、これまた煌びやかなネックレス。

『あきはネックレス好き?』

『うんっ…どちらかと言うと…?〃私指輪なんて持ってないしっ〃』


逃げる様に、その場を動いた。いくら、私でも、今の流れはー…わかる。

咄嗟の言い訳。

⏰:09/08/15 02:59 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#310 [あき]
『そっかっ。〃』

二人並んで、その場所を離れ、ネックレスのケース前へと移動する。

『これなんて可愛いよね?〃』

『うーんっ。俺は、こっちかな?』

『あ…それも可愛いかもっ!』

二人で、品定め。
お姉さんは、ニコニコと私達の背中を眺めていた。

⏰:09/08/15 03:02 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#311 [あき]
《女って、こうゆうの好きだよな。俺、場違いじゃね?》
《これ可愛くないっ?》
《わかんねっ。》
《買ってっ〃》
《いやだっ。》

沖縄の地。私が気に入った、真っ青な石のペンダント。気難しい顔をして、ドカドカと店に入って、文句たらふく言ったそれは、小さな紙袋になって、あの日から私の宝物になった。

《つけとけよ》
《うん。》

街を出て行くその時、そう約束した。なのに、その約束を私は破った。西条さんと初めて会った時は、シャツの下、見えないように首につけていたその宝物は。二度目には、ポケットに忍ばせて。三度目の今は…部屋に置いてきた。
それが全て。

⏰:09/08/15 03:20 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#312 [あき]
真っ青ペンダント。
なおちゃんペンダント。


それ以来、私は数あるコレクションをつけなくなった。

私だって一応、女だし。
それなりに持ってはいるけれど。

つけられない事が寂しくて、悲しくて。
あのペンダントが大切過ぎて。

他の何も
何もつけられなくなった。
(※真っ青ペンダントの詳細は、続編にて。)

⏰:09/08/15 03:31 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#313 [あき]
『気に入ったものあれば買ってやるよっ。』

『いいよっ!そんなのっ。〃行こうっ〃』

スマートに店へと入って、綺麗なお姉さんと談笑しながら、アクセサリーを選び、勝手やると言う西条さん。

緊張しながらドカドカと入って、私が選んだペンダントを、さりげなく買ってくれた、なおちゃん。

両極端な二人に、私の心がついて来ない。
早くこの場から逃げたくなった。

⏰:09/08/15 03:45 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#314 [あき]
『…やっぱ俺が買ってやりたいからっ!よしっ。決まりっ〃』

西条さんは、私の返事を待たずに、最初に私が可愛いと微笑み、手に取った小さな石のついたネックレスを指さして、お姉さんを呼んだ。

慌てる私に、いいからと微笑むと、カードを差し出しだす。

『ちょっとっ!高いからっ!いいってばっ』

必死に止める私の頭をポンポンと撫でて…

あれよあれよと、小さな紙袋が私の手に乗ってしまった。

⏰:09/08/15 03:53 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#315 [あき]
右手には満足げな西条さん。
左手には小さな紙袋。
それを私は、何も言えずただ握るしか出来なかった。

『…ありがとう…〃』

『いいえっ。』

だけど、このお方の、破天荒振りはこれでは収まらなかった。

それは、せめてもの御礼とホームまで見送ると言った私。

…そのホームで起きた。

⏰:09/08/15 04:03 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#316 [あき]
改札を抜け、行き交う人々の中、新幹線ホームへと上がる。小さな街の新幹線ホーム。待合室に座り、二人並んで座る。残りの時間を、静かに過ごしている時に彼が言った。

『あーっ〃やっぱ我慢できないっ!それっ!開けてみて?』

指差すは、さっき買ってくれた、ネックレスが入っている小さな紙袋。
戸惑いながらも、私は、左手に握っていた紙袋を開けた。

ネックレスの箱の下には、見覚えのない箱がもうひとつ。

『なに?これっ…』

⏰:09/08/15 04:10 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#317 [あき]
その小さな四角い箱を開けると、心臓が止まるんじゃないかと思う程、私の胸はどくんと鳴った。

『これ…』

『…それも気に入ったからっ。』

『嘘だっ…』

思わず声を上げた。
そこには、小さな花をモチーフにした、煌びやかな指輪が私を見つめていたのだ。

⏰:09/08/15 04:15 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#318 [あき]
どうしてっ?
いらないって意志表示したのにっ?
いつの間にっ?

頭は混乱に混乱を招く。
彼は、そんな私に気づきもしないで、ネックレスを手に取ると、私の髪をかきあげる。
されるがまま、座っていると、彼の細く長い指が、私のうなじで細やかに動き、それは長い髪と一緒に、首元に舞い降りた。

『似合うよっ〃』

太陽の光にあたりより一層に輝き、それを見て彼はそう微笑んだ。

⏰:09/08/15 04:23 📱:W65T 🆔:MIdAGCFQ


#319 [あき]
『はいっ。次、手貸して』

私は右手を差し出した。

『…こっちなんだ。』

差し出した右手を見つめ、彼が呟いた。

『あ…ごめんなさい。入るかなぁっ〃』

ドキリとして、直ぐに左手を差し出す。そして咄嗟の言い訳で、その場を取り繕った。
二人が見つめる中、指輪は、スルスルと、呆気なく薬指に入る。

『おっ!入った〃うん。これも似合うね〃』

わかってた。
だから、出さなかったのに。
右手と左手。
薬指のサイズが同じな事をこれほど複雑な心境になった事はなかった。

⏰:09/08/17 00:10 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#320 [あき]
ショーウインドの中、ライトを浴びて光っていたそれは、太陽の光を浴びて、本来の輝きを取り戻したかのように、嬉しそうに光る。
私にはとても眩しくて見れなかった。

『…私には派手じゃないかな?〃』

『そっか?いいじゃんっ。』

『そう?…ありがとっ。』


キラキラと光るそれを私は照れ笑いと称した笑みでかえす。

『大切につけさせて頂きます〃』

『よしっ。』

そして微笑み差し出された西条さんの右手に、キラリと光る指輪がはめられた左手を差し出し微笑んだ。

⏰:09/08/17 00:21 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#321 [あき]
じっとりとした風が私達の間をすり抜けて、また厚い雲が、空を覆いだす頃、鉄の塊が駅へと入ってくる。いつの間にか増えた人が一斉に動き出したと同時に、別れを惜しむ人で、入り口付近が混雑した。スーツ姿のサラリーマンは迷惑そうな顔を向けながら、急ぎ足で次々に乗り込んでいく。私もまた、その迷惑そうな顔を向けられながら、ありきたりの言葉を交わし、いつまでも離れない手を握り、うんうんと返事しながら微笑む。
もう待てないぞと、最後の発車音がホームに鳴り響いて、私達の間に隔てられるドアがプシューと音を立て閉まった。
西条さんは、ドアの向こう側、手を挙げまたねと言って、私は大きく頷き、手を振る。
塊が動き出して、彼は遠く離れた向こう側へと帰って行った。
ある休日の昼下がり。
私達は、二度目の再会を終わらせて。
私は自分自身の何かを終わらせたー…

⏰:09/08/17 00:39 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#322 [あき]
スーツ姿のサラリーマンは迷惑そうな顔を向けながら、急ぎ足で次々に乗り込んでいく。私もまた、その迷惑そうな顔を向けられながら、ありきたりの言葉を交わし、いつまでも離れない手を握り、うんうんと返事しながら微笑む。
もう待てないぞと、最後の発車音がホームに鳴り響いて、私達の間に隔てられるドアがプシューと音を立て閉まった。
西条さんは、ドアの向こう側、手を挙げまたねと言って、私は大きく頷き、手を振る。
塊が動き出して、彼は遠く離れた向こう側へと帰って行った。
ある休日の昼下がり。
私達は、二度目の再会を終わらせて。
私は自分自身の何かを終わらせたー…

⏰:09/08/17 00:40 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#323 [あき]
愛車に乗り込み、ルームミラーで、ついさっき、つけてもらった首にかかったそれを見た。
自分が選んだ?だけあって、シンプルかつキラリと光るそれは可愛い代物。
だけど…正直気分は複雑。
(…今からの時期は苦手なんだよねっ…)
そう。私は突然の雨に降られる季節や、汗ばむ季節になると貴金属は一切しない。
雨に打たれたり、汗をかいた時に、あのアクセサリーがまとわりつく感が、とてもとてもとてもとても!!!気持ちがわるいのだ。(※かなり、しつこく声を大にして言わさせて頂きたい。)だけど、つけてもらった数分後に外すのは、やはりいくら何でも、申し訳ない。
それに…
やっぱり
なおちゃんネックレス。
小さなお土産屋に売っていた、真っ青な石のあのネックレス。
あのネックレスを外して、これをつけてしまった首には。
やっぱり多少の違和感と、言いようのない寂しさがあった。

⏰:09/08/17 01:00 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#324 [あき]
鍵をさし車が唸る。
ハンドルを握る手を見る。
また指輪がきらりと光った。

(…つけちゃった…)

指輪を持っていない。
これは嘘じゃない。
私は、思春期を迎えた頃から自分の手が大嫌いだった。
父親に似てしまったこの手は、女の子らしさのかけらもなく、指は太く短いし、指先なんて丸くて平べったい。爪なんて弱くもろい性質で伸ばせた試しがない。だから、指輪なんて手が強調されるようなものなんて恐れ多い。マニキュアすら塗った事がないのだ。
そりゃ、一応女だし?憧れたりはしたけれど。
過去にも、一度たりともねだった事はなかった。

⏰:09/08/17 01:14 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#325 [あき]
手、そして指は私の最大のコンプレックスだったのだ。
私が一生に一度だけ
唯一つけるとするならば。
それは。結婚指輪。その指輪しかしないと心に決めていた。
自分の左手薬指を見つめても、初めての指輪は、やっぱり女心をくすぐった。仲間入りをしたようで、嬉しかった。
だけど、やっぱり…

《あきが、俺を認めさせたら。よくやったって言わせたら…指輪買ってやるよっ!!》

はるか遥か、遠い昔。
酔っ払ったなおちゃんが
言ったあの言葉。(※一編参照)嬉しかった思い出。
果たせそうにない言葉。
それが胸に響いていた。

⏰:09/08/17 01:26 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#326 [あき]
この指輪は私の決意だ。

私が西条さんのものになったという証。

未来を掴むんだと決めた。
だから、なおちゃんを…諦める。あの日、そう決意した、その証なのだ。

そっと指輪に触れてみる。
そして、私は前を見据えて強くハンドルを握った。
車を静かに発進させて、ゆっくりと前へ動かす。
駐車場を出て、流れゆく景色の中、私はただ車を前へと動かせた。ただ、ただ前進させたのだ。

そう決めたんだ。
自分で決めた…

何度も、そう言い聞かせながら、愛車を前へと進めていた…

⏰:09/08/17 01:42 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#327 [あき]
―ピッ…プルル〜
《おうっ。》

相変わらずの愛想もない返事。
もっと違う言葉ないのかな。

『わたしっ。』

でも、私も私だ。
相変わらず可愛げのない言い方。いつからかな…こうなったの。

《んあ。てか、遅ぇよっ。昨日、かけ直すって言ったのはそっちだろ?俺、かなりご立腹なんだけど?》

怒られた。
なのに、これは昔から悪い気はしなかった。

『帰ったら電話するって言ったじゃんっ〃』

案の定小憎たらしい言い草。
自分でも笑っちゃう。

⏰:09/08/17 19:06 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#328 [あき]
《んだそれっ。はい言い訳っ!!〃》

ああっ。
今日は機嫌良いんだ。
…良かった。

『うっせ!〃だから、電話したのっ。』

可愛くないなぁ…私。
これが。最後なのにっ。
たぶん…最後なのに…

《はぁ?なにっ。帰ってない訳っ?ますますウゼー〃》

冗談じゃないよ?
本気だよ。
…本気なの。

『あの彼と一緒だったっ。さっき帰ったけどっ?〃』

ねぇ。どう思った?
どう感じてくれた?
なんて言う…?

⏰:09/08/17 22:28 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#329 [あき]
《…ふーん。そう。》

で…ですよねぇ〃
アナタは私に何の干渉もないものねっ。
私に幸せになって欲しいんだもんねっ。
そうだよねっ…
うん…やっぱりね…
そう言うと思った…

『………』

あれっ。
自分で言い出したのに。
解ってた答えなのに。
考えた小憎たらしい台詞。
出て来ないやっ…


《まっ、要件は昨日だったからっ、今日じゃ遅ぇしっ。と、いう事で。じゃっ!》

『うん…』

―プチッ。プー…プー…
私の返事を聞いたのか聞いてないのか。なおちゃんの電話は切れた。

⏰:09/08/17 22:51 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#330 [あき]
ハンドルを握りしめて、流れる景色の前を見据える。

これでなおちゃんは、もうかけてこない。
そう感じた。

私もかける事はない。
そう決めた。

これでいい。
そう思った。

私は西条さんを選んだ。
不器用だけど、真っ直ぐな愛を向けてくれる彼を選んだんでしょ?
未来が欲しいんでしょ?
そう言い聞かせた。

なのに涙が溢れた−…

⏰:09/08/17 23:08 📱:W65T 🆔:FF5wDsUw


#331 [あき]
ひとしきり高速道を突き進む。

遥か遠くまで続く直進道路。
流れる景色はとても早い。
そんなのお構いなしに、アクセルを踏み込んで、ハンドルを両手で握り目一杯の操作で突き進んだ。
高速道。何故こんなにも涙が出てくるのかは、わからないけれど、とにかくそのままにしておいた。
小一時間程走ると、一般道へ突入。ただ見慣れた景色が淡くぼやけて見える。
もう涙も出なかった。

そこからはただ、淡々と自宅を目指していた。

⏰:09/08/21 20:26 📱:W65T 🆔:LWywvFt.


#332 [あき]
幸せになりたい。
そう決意した、私の選択。
だからそこ、西条さんを選んだ。

だけど……

そもそも[幸せ]なんて私は知らなかった。
どんな事が[幸せ]かなんて、親も先生も教えてはくれなかった。

だから、幸せというものは、自分の理想や、描いたものでしか図れなかった。
だからこそ、その掴みかけた幸せに固執した。

(違う…)

現実の世界の幸せを知らない私が、そう知った時には、もう後戻りができないまでになっていた―…

⏰:09/08/21 20:56 📱:W65T 🆔:LWywvFt.


#333 [あき]
―――

『…うん』

《どうして、俺の気持ちがわからないんだっ!!》

『だからっ…私にも…』

《そうじゃないだろっ!!約束だろっ!?あきが悪いよなっ!》

『うん……』

彼の独占欲は日に日に増していった。出会った頃は優しかった彼は、あれ以降、よく感情を露わにする。怒鳴りつけられる事に恐怖を感じる私は、ただ頷き、謝り、彼の怒りの炎が消炎するのを待つしか出来なかった。

⏰:09/08/21 21:08 📱:W65T 🆔:LWywvFt.


#334 [あき]
露わにする彼の怒りの原因はいつも一緒だった。それは私が[約束]と言われるものを[破る]からだ。いつも、それが原因。彼は、会えないぶん、密なる連絡をして欲しいと言った。
私は、遠距離恋愛たるものそうゆうものなのかと、とまどいながらも、了承したのは事実。
だけど、いざ、やってみると自由奔放に生きてきた私には、過去の恋愛中も求めた事も、求められた事もない。彼が初めてだった。だから、ついつい忘れてしまう。
おまけに、世には携帯依存症という新たな現代病があるらしいが、私には無関係な話。
逆に、携帯電話に縛られた生活をしているのが仇となり、オフモードに入ると、ますます携帯電話というものを、意識から消し去るクセがある。
おかげで、彼からの連絡に気づかない事も多々あった。

連絡もない。
返事もない。

それが、いつも彼を苛立たせる原因だった。

⏰:09/08/21 21:32 📱:W65T 🆔:LWywvFt.


#335 [あき]
そして彼は言う。
《また男だろ!》
《また遊んでんだろ!》
《何か電話に出られない事してんだろ!》
苛立ちの二言目には、私に疑惑を押し付け、それを爆発させる。この言葉を投げつけられる度に、私は小さく溜め息をついて、またかと思うのだ。

『私、何も悪い事してないのに…少しは信用してよっ…』

そして小さく反論をしてみる。

《はぁ?そんな事わかんないだろっ?》

また同じ言葉を返されて、信用されてないんだと。痛感する。だけど、これは彼の愛情の現れなんだからと自分に言い聞かすんだ。

⏰:09/08/22 01:56 📱:W65T 🆔:ups8JnIw


#336 [あき]
これが、俗に言う[束縛]というものならば、私は仕方がないと諦めるしかなかった。

彼は、過去にとても大きな傷を追っている。
積み重なった小さな傷が、彼の心をボロボロに切り刻み。
臆病になっていた。
自分に自信を失っていた。
結果、もう何年も彼を恋愛から遠ざけていたらしい。
それが、数ヶ月前、彼の前に私が舞い降りた事で、彼は消し去った記憶を呼び覚まし、私と過ごす何気ない日々が、彼の心を目覚めさせた。
ただ、彼は、その経験から、異常なまでに何事にも過剰に反応し、不安になり…何よりも愛を確かめたがった。
その術が[束縛]につながってしまったのだ。
私の1日の行動を把握し、少しでも連絡が取れないと、苛立ち、怒りがこみ上げる。
だからこそ
また男か。
この台詞も、仕方のない事だった。

⏰:09/08/22 02:18 📱:W65T 🆔:ups8JnIw


#337 [あき]
『私は、前の彼女達とは違う…』

《あきの周りには男がうじゃうじゃいるだろっ!!違うかっ?》

彼の言い分は悲しいばかりだけれど。仕方がないのだ。
確かに私は、昔から男性に囲まれる事の方が多かった。
それは、決してモテるといった現象な訳でも、男好きだからと言った訳でもない。
自然とそうなっただけ。
昔からだ。学生の頃から
あの妙な一心同体的連帯感があるくせに、裏ではドロドロした女の世界より、バカバカしい一心同体的連帯感はあるけれど、一匹狼的なサッパリしている男の世界。こっちの世界の方が気持ちが楽だった。
あの特有の質が私には合っていたのだ。

⏰:09/08/22 03:02 📱:W65T 🆔:ups8JnIw


#338 [あき]
だから、自慢にもならないけれど?胸を張って言える。
私が心許し心底喜怒哀楽を共にした付き合いをしたのは…今までも、フタリだけ。
勿論、なおちゃん。
あとは、なおちゃんの街を離れ引っ越した先で、残りの幼少期、学生時代を過ごした第2の幼なじみになる彼女だけだ。
いや…最近は、ヒトリ増えた。
めでたく寿退社を果たした、元同期の、さえちゃん。
彼女も、私の中の友達メンバーに仲間入りだと思う。
めでたく三人になった。

友達なんて沢山いらない。
数人でいいんだ。
負け惜しみでも、ヤケクソでも、遠吠えでもない。
私は、心底そう思っている。

後は、大切な友人ではあるけれど。うん。…やっぱり友人だ。
それ以上でも、それ以外でもない。

⏰:09/08/22 03:33 📱:W65T 🆔:ups8JnIw


#339 [我輩は匿名である]
いつも見てます!
最近の展開は見てると苦しくなっちゃいます(;ω;)
あきさん幸せになってほしいです!

⏰:09/08/22 08:37 📱:P904i 🆔:gcGlCnow


#340 [あき]
匿名さん、ありがとう。
この頃の私も、私自身苦しかったですっ。苦笑
―――――――――
到底、私のそんなライフスタイルは周囲には理解し難いものなのかもしれない。
基本お一人様が全く持って平気な私。逆に集団行動は苦手かもしれない。
ただ、その場の空気を読むのが、ピカイチだっただけ。
今思えば、幼少期から泥めかしい人間関係の中で育ち、自然と身に着けた、生きる術がそうさせたのかもしれない。
求められたように、求められたあきでいるのだ。
本当の私という人間を知るのは三人だけだとしても?
その時、その場所、人種、年齢、性別。そんなもの全く関係なかった。私はその場、その場で順応してきたのだ。
お陰様で私は、幼き頃から、いつも人間には恵まれた。

⏰:09/08/23 00:16 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#341 [あき]
逆に集団行動は苦手かもしれない。
ただ、その場の空気を読むのが、ピカイチだっただけ。
今思えば、幼少期から泥めかしい人間関係の中で育ち、自然と身に着けた、生きる術がそうさせたのかもしれない。
求められたように、求められたあきでいるのだ。
本当の私という人間を知るのは三人だけだとしても?
その時、その場所、人種、年齢、性別。そんなもの全く関係なかった。私はその場、その場で順応してきたのだ。
お陰様で私は、幼き頃から、いつも人間には恵まれた。

⏰:09/08/23 00:16 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#342 [あき]
結局、そんな私のスタイルが、彼の中で[友人の多い社交的なあき]になっていた。
そんな私が、彼の不安要素なのだと言った。

私が社交的だって?
ちゃんちゃら可笑しい。

私は、そんな人間じゃない。
お家が大好きで。
一人が大好きで。
いつも、ヒトリでいるんだ。
過去も現在も…
いつでも私はヒトリなのにね。

⏰:09/08/23 00:22 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#343 [あき]
彼は、毎夜毎夜、私という人間に、怒りに満ちていた。
何度話をしても、私を認めようとも理解しようともしてはくれなかった。
ただ、私が居なくなる恐怖に怯え、その反動が怒りとなって現れるのだ。

自分という人間を否定される。
そんな毎夜にウンザリしていた。だけど、手放す事が出来なかった。ただ、このチャンスを逃したら、私はもう駄目かもしれない。幸せになりたい。幸せになるんだ。そればかりが、先に頭をよぎり、ごめんなさいと言うこの言葉で、またその夜を乗り切るのだ。彼が求める私になればいい。彼が、私を必要とするならば。
私は、なれる。今までだってそうしてきたじゃない…

彼に何度も抱かれたあれ以降、彼が、帰ったあの日以降。
そう言い聞かせる日々が続いていたー…

⏰:09/08/23 00:49 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#344 [あき]
自分という人間を否定される。
そんな毎夜にウンザリしていた。
だけど、手放す事が出来なかったのも事実。
彼が私を失う事に恐怖を覚えるように。
私もまた、彼を失う事に恐怖を覚えていた。


このチャンスを逃したら、私はもう駄目かもしれない。
幸せになりたい。
幸せになるんだ。
ごめんなさいと言うこの言葉で、この夜を乗り切れば、私は幸せを掴めるはず。
だから今、彼を失いたくない。


彼に何度も抱かれたあれ以降、彼が、帰ったあの日以降。
そんな日々が続いていたー…

⏰:09/08/23 00:52 📱:W65T 🆔:W0tlzhuo


#345 [あき]
どんより空ではあるけれど、そんなの私は気にしない。
ぴょんと飛び起きて、朝から、シャワーを浴びて、メイクもきっちり装備して、時計を確認。
待ち合わせ時間まで、あと一時間。気分が踊る。
今日は久しくぶりに、さえちゃんと会う。
彼女は、今春、長年密かに暖めた恋を実らせて、電撃結婚した。
もちろん電撃というのは表向きで、昨年秋頃より密かに準備を進めていた事を私は知っていた。ただ、今日急遽会う話になったのは、つい先日、彼女の体内に、小さな、まだまだ本当に小さな命が宿っている事がわかったのだ。さすがの私も、これは電撃だった。

⏰:09/08/25 19:46 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#346 [あき]
《ほんとーっ!!〃おめでとーっ!!〃》

《うんっ〃もうっ〃今、彼と病院帰りなんだよっ!!あきに一番に教えたくって!!》

《ほんと嬉しいってっ!!〃おめでとー!!〃》

そして、今日という日が急遽決まったのだ。
彼女達の苦労を間近に見てきた数年だった。
結婚が決まった時、そして今、
とても嬉しかった。


そしてまた、彼女は女の幸せという道を、順調に歩いている。
それが、とても羨ましかった。

⏰:09/08/25 19:52 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#347 [あき]
待ち合わせの時間より数十分早く、約束のカフェへと私は車を滑らせた。
ちらりと周囲を確認しても、まだ彼女は到着していないみたい。この時間はたまらない。
愛しい人に会える待ち時間。
ドキドキワクワクが止められない。
待つこと数分。
また、約束の時間より数十分早く彼女の愛車が駐車場へ入ってくるのが見えた。
ついついニンマリとしてしまう。彼女は私の愛車を直ぐに見つけ、幸せ一杯の笑顔で手を振りながら、すぐ傍に愛車を停めた。私は、その笑顔にニンマリしたまま手を振り、助手席に投げ置いたバックを掴み、車を降りる。

『久しぶりっ!!〃』
『久しぶり〃』

私達は、まるで恋人同士の様に少し照れ笑いをしながら、歩み寄った。

⏰:09/08/25 20:00 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#348 [あき]
カフェに入り、昔は庭に面したオープン席が私達の定位置だったけれど、今日は程よい空調の整った店内の隅に座った。
いつものランチをオーダーすると、一息。
スタッフが席を離れるやいなや、私はニヤニヤしたまま一言。

『…まずは、おめでとうっ!!〃』

『うんっ〃ありがとうっ〃』

照れ臭そうに微笑むさえちゃんは本当に綺麗だった。
妻になり、母になるさえちゃんは輝いていた。
久しぶりに彼女を綺麗だと心底思えた。

『こっちでいいのっ?』

『いいって〃』

⏰:09/08/25 20:07 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#349 [あき]
新人駆け出し時代、一緒にランチをしていた頃は、よくフタリで、いろんな店を発掘しては楽しんだ。
食の好みが似ていた私達は、よく雑誌を見てはめぼしい店をチェックしたもんだ。
だけど、唯一の問題がコレ。

《タバコ吸えないと、休憩した気分になれない〃》

私が、ことある毎に嘆いた愚痴。否喫煙者の彼女は、そんな私に笑っていた。
最終的に、私達が、数々の発掘した場所の中でも、好んでこのカフェに来るには理由があった。
勿論、雰囲気、味共にお気に召したのだけれど、ここは、いまの世間には珍しく、ランチタイムでも、庭に面したオープン席のみ喫煙が出来たのだ。

今日、こを選んだのは彼女だった。なのに、座った席がいつもと違う。
恐らく彼女はそれを言ってるんだろう。

⏰:09/08/25 20:20 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#350 [あき]
『この店、久しぶりだよねっ〃懐かしい!
なのに、なんか気使わせてごめんねっ。』

『なにそれっ。〃』

沢山いた同期の中、たった数年で私達だけが生き残った。
そのまま、数年であれよあれよと、互いに似合った部署へ移動を命じられた。
おまけに、互いに忙しくなり、社内でも顔を合わせる事も減った。
昔は、よく二人で日、時間を合わせてはこうやってランチに出かけたもんだ。

⏰:09/08/25 20:28 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#351 [あき]
『二人の子供は、私の子供同然なんだからっ!!私だって、赤ちゃん大切にしなきゃっ〃』

あははと笑う、私にさえちゃんは、ありがとう。と、また言って微笑んだ。

『おたく様の旦那は元気!!?〃最近、会わないんだけどっ〃』

『元気だよ。彼も会いたがってるよ?〃』

さえちゃんの旦那様は、うちの会社の提携会社の社員さん。
ただ、私が部署移動してしまった為に、なかなか彼とも会わなくなってしまったのだ。
昔は、夜、よく二人のデートに乱入しては、三人で朝まで飲んだくれたけれど、それすらここん所、ご無沙汰だった。

⏰:09/08/25 20:40 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#352 [あき]
お気に入りのパスタに、お気に入りのリゾット。
お気に入りのピッツア。
ちょっとしたサラダにちょっとしたスープ。
それらを久しぶりに堪能しながら、久しぶりの対面は、バカな話に盛り上がるだけ、盛り上がった。
さえちゃんの幸せ全開の話は、心底、私をニヤニヤさせた。
私の仕事の愚痴話は、彼女も一緒になって怒ってくれた。
久しぶりに彼女と食べる
チョコレートケーキは、本当に美味しかった。

私自身、本当に久しぶりに
心底楽しい時間だった―…

⏰:09/08/25 20:53 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#353 [あき]
『あきは?最近どうなのよっ?』

食後の珈琲の湯気に包まれながら、さえちゃんは言った。

『うーん…とくに?何もないっ〃』

なおちゃんの事。
西条さんとの事。
本当は沢山報告しなきゃいけないけれど、幸せ全開の彼女には、どうしても言い出せなかった。

『そう?なんか言いたげじゃんっ。なおちゃんとは、相変わらず?』

⏰:09/08/25 23:23 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#354 [あき]
『…相変わらず…ってか、最近は全くかなっ〃』

はははと視線を外し、またスプーンで、温かいカフェオレをくるりと回しす。

『んー?また喧嘩してんのっ?』

さえちゃんの天使の微笑みは、私の胸のダムを決壊させる。
だけど、この気持ちを、彼女にどう伝えればいいのか言葉が見つからないでいた。

『喧嘩…した方がラクだよっ。喧嘩すらしなくなった。』

『んっ?』

『…ううんっ〃』

出てしまった言葉を、私は、紅茶と一緒に喉に流し込んで、美味しいと微笑んだ。
さえちゃんは、少し不安げな顔で、珈琲を手に取り、そうだねと微笑んでくれた。

⏰:09/08/25 23:36 📱:W65T 🆔:1iFCvnmU


#355 [あき]
紅茶ー×
カフェオレー○
――――――――――

そんな時、バックで携帯電話が振るえた。相手は予想がつく。
この電話に出なかったら、大事になってしまう。
とっさに携帯電話を探した。
案の定、ブーンと不愉快な音を立ててる画面が記す名前に、私は、静かに小さくため息をついた。

『ごめんねっ〃ちょっとだけっ。いい?』

さえちゃんに声を掛けて、私は携帯電話を指す。
私が慌てて受話ボタンを押すと同時にさえちゃんは、気にしないでと微笑むと、御手洗を指差し席を立った。

ー西条さんー

画面にはそう記されていたのだった。

⏰:09/08/26 00:08 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#356 [あき]
『はいっ』

《何してる?》

突然に始まるこの言葉。

『今はカフェ!〃友達とランチに行くって昨日言ったじゃんっ〃』

それでも、私は彼の機嫌を損ねないように、細心の注意を払った言葉で答える。

《といいつつ男といるんだろ?あきは、ちょっと放っておくと、すぐに遊びに行くからなっ。》

もう、ウンザリ。
せっかくの楽しかった時間が、一瞬にして泣きたい気分になる。

『女の子だって。元同期で、結婚して辞めた子!〃話た事あるでしょぉ?〃』

⏰:09/08/26 00:16 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#357 [あき]
《どうして、そんな意地になる?まさか、本当に男といるのか?》

しまった…!!
彼は冗談のつもりだったのかっ!ミスった!!

『あははは〃なってないしっ〃』

不機嫌モードに入るっ!!
やばいやばいやばい…

《……ならいいけど。》

ああ。アウトだ…。
完全にスイッチオンだね。
ご不満モードだよね?
ご立腹モードになるんだよね?

でも、さすがに今はやめてよね?あとでまた、きっちり聞くから。
今だけは、私のこの楽しい時間を取り上げないでよね…

⏰:09/08/26 00:24 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#358 [あき]
《何時頃帰るんだ?》

『…わかんないっ。』

《んな訳ないだろっ?》

『だって、久しぶりに会うから。この後も、どこか行くかもっ…』

《で、朝帰りか?》

『そんな訳ないじゃんっ。』

小さく、こそこそと言い合いをしていると、さえちゃんが御手洗から戻ってきた。
私の前に座り、不思議そうな顔をした。

聞かれたくない!

とっさにそう感じた。

⏰:09/08/26 00:29 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#359 [あき]
『ともかくっ!帰ったら、また電話するからっ〃友達いるし、切るね?』

《おいっ。待て!どうして切りたがるんだよっ?何時に帰るのか聞いてないぞ?》

『だからっ…今、遊んでるからっ。また帰ったら電話するから〃』

《…そうかよ。そうやって男と遊んでろよっ!!》

『だからっ!!そんなんじゃないってばっ…』
ーピッ。プープー…

また切られた。
いつもこうなる。
いつも、いつも、いつも、いつも……イライラして、咄嗟に煙草に手を伸ばす。はたと、自分が居る場所、目の前の彼女に、気づいて、私は、またバックにそれをしまう。グビリとカフェオレを飲んで、気分を落ち着かせると、目の前の、彼女に笑いかけた。

⏰:09/08/26 00:38 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#360 [あき]
『何?どしたっ…?』

案の定、さえちゃんは、綺麗なハンカチをバックにしまうと、私の顔を覗き込む。

『何がっ?〃何でもないよっ〃』

私は、笑って答える。
だけど、自分自身、もう、指が、せわしなくトントンとテーブルを叩いている事にも、気分が煙草を吸いたくてソワソワしている事にも気づいていた。

『そろそろ、出ようかっ〃?』

さえちゃんが、そう言ってくれる。私は、何事もないように、そうだねと微笑み、席を立った。
次、どこ行こうかなんて話をしながら、さえちゃんと打ち合わせ。
その間も、ずっとバックの中で振るえ続ける携帯電話を無視し続けていた。

⏰:09/08/26 00:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#361 [あき]
互いの愛車に乗り込んで、さえちゃんの愛車が、カフェの駐車場をスルリと抜け出し、大通りに向かう。数台後ろを、私が追うように車を動した。大通りの信号、スルリとさえちゃんの車は直進して行った。私の前で、信号は赤に変わる。どんどんと前へ進む彼女の愛車を見送りながら、ハンドルを握り溜め息をついた。携帯電話をバックから取り出した。
−不在着信−
ピカピカとランプが点滅していた。見なくても相手が誰かわかる。片手で画面を操作してみて、着信履歴を確認する。今朝、掛かってきたさえちゃんからの着信履歴はすっかり消えていた。
仕方がないので、発信履歴から、さえちゃんの名前を探した。

⏰:09/08/26 14:01 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#362 [あき]
場所はわかるから、気にせず先に向かってと、さえちゃんに伝えると、すぐに電話を切った。
すると、待ってたかのようにまた携帯電話が震える。
しばらく見つめて、諦める様子のない着信に、私が諦める。
−ピッ。
『…はいっ。』

《…どうして電話出ない?》

不機嫌を露わにして彼は言った。

『…ごめんなさい。マナーモードにしてたから。気付かなかった。』

これは、ありきたりな理由で
最近、彼によく使う言い訳。
とっさについた嘘。

⏰:09/08/26 14:28 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#363 [あき]
《どうしてマナーにする必要がある?》

『…カフェだしっ。友達と会ってるから…』

《だったら、まずそう言えよ。こっちは心配するだろ?》

『…ごめんなさい…』

本当は、言いたい事は、山ほどある。だけど、自分の気持ちを押し殺した。彼が、こうなったら私は何も言わさせてもらえない。
ただ [ごめんなさい] この六文字しか受付けてはもらえないのだ。それが、わかるから、この場を終焉にする為には私は全てを飲み込むのだ。
運転中だからと電話を切った。

どんよりとした空から、ポツポツと雨が降り出した。

⏰:09/08/26 14:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#364 [あき]
目的地に着いた時には、しとしと降りしきる雨となっていて、私は、濡れないように、玄関へと走った。

『お邪魔しまーすっ。』

勝手知ったる他人の家。
二人が付き合いだした頃から、この家には、よく遊びに来た。
洋風な建物に真っ白な壁。
外観には似合わず、殺伐とした部屋は、彼女が出入りをするようになって、見る見る変わった。玄関を開けると、エプロン姿のさえちゃんが、降ってきたねぇ!と笑顔で出てきた。

『やだよねーっ。』

『食べてくでしょ?彼も、あきが来るって連絡したら喜んでたよーっ!!早く帰って来るって〃』

『うんっ。〃』

⏰:09/08/26 15:04 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#365 [あき]
エプロン姿のさえちゃんは、とても綺麗だった。
本当に幸せそうだった。
そんな彼女の横に立っていると、私まで幸せな気分になれる。
そしてまた
心底、羨ましいと思えた。

私も幸せになりたい。

より一層、強く思った。
強く強く。自分もこうなりたい。そう願った−…

今思えば、この頃から、私自身が壊れていって。
大切なものを失い始めていて。

もうどうしようもなくなった
未来(今)の私がいる。

⏰:09/08/26 15:36 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#366 [あき]
久しぶりの再会は、時間を忘れて真夜中まで盛り上がる。
時刻は日付も変わり、テーブルの上には、いくつもの缶ビールが転がり、いくつものお菓子の袋が開いて、ウーロン茶の雫がテーブルを濡らしていた。
一人はソファーで地響きを奏でながら、完全に伸びている。

『…寝ちゃたねっ〃』

『うんっ。まっ…楽しかったんでしょっ〃』

さえちゃんは、聖母のような微笑みで、淡い色の大きなブランケットを彼にフワリとかけた。彼の寝顔にクスリと笑うと、ポンポンとお腹を叩いた。

⏰:09/08/26 15:47 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#367 [あき]
二人でテーブルを片付け、静かな時間が流れる。
私は換気扇の下、カチリと火をつけた。フワリと煙が換気扇に吸い込まれていく。
ふと、リビングを見ると、さえちゃんは、彼に寄り添うように、ソファーにもたれて、テレビを見ながら温かい紅茶を飲んでいた。
『さえちゃん……』

『んー?』

彼女は、テレビから私に視線をくれる。

『……今幸せ…?』

私の全てを吸い込んでいく換気扇の下、煙草の火が、灰皿に落ちた。

⏰:09/08/26 15:56 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#368 [あき]
彼女は、照れた様に微笑んだ。

『そだね…〃』

とても静かな時間だった。
じわりと胸が熱くなった。

『そっか…〃いいな…』

そう呟いた私に、彼女は、すっくと立ち上がり、私の傍へと歩み寄る。
慌てて、煙草を消して、換気扇を強にする。
こっち来たらダメだよと笑う私に、じゃここからねと言って、キッチンの入り口に立った。
彼女の目は真剣で、私は、ドキンとした。

⏰:09/08/26 16:03 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#369 [あき]
『…あきは?幸せ?』

そう問う目を、私は直視できない。

『……ま…ね…』

ハハハと笑い、煙草をポケットにしまうと、彼女の横をすり抜けるように、キッチンを出た。
そんな私の背中に彼女は言った。

『ねぇ、その恋は、楽しい?』


どくんと胸が鳴った。
リビングに抜けようとした足が一瞬止まる。止まったけれど、後ろを振り返れなかったー…

⏰:09/08/26 16:09 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#370 [あき]
苦笑いで、彼女を振り返る。
彼女の眼差しは、とても熱かった。

『今日、お昼に電話あった人でしょ?』

『…うん』

『…なおちゃんじゃないね?』

『…うん』

さえちゃんは、そっかと呟くと、二人掛けの小さなダイニングテーブルに座った。
促されるように私も座る。
テレビの音がやけに大きく聞こえた。

⏰:09/08/26 16:21 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#371 [あき]
温かい紅茶を目の前に、私はポツリポツリと語り出しす。

なおちゃんと、いつしか、うまく行かなくなっていた事。
本当は凄く寂しかった事。
だけど素直に言えなかった事。
そんな時、出張先で、西条さんに出会った事。
とても楽しかった事。
とても救われた事。
心が傾いた事。
なおちゃんよりも、彼を選んだ事。
結果うまくいかなくなった仕事の事。
優しい彼の…強い一面。
戸惑いの日々。

言い出すと、何故かまた涙が出てきた。
彼を選んだあの日から、泣くまいと決めていた滴が、次から次へと溢れ出てきた。

⏰:09/08/26 16:33 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#372 [あき]
しばらくの静寂の中。
彼女の視線は、どこか悲しそうだった。

『…その西条さんの事好きなの?』

静かにそう聞かれる。
しばらくの沈黙。

『……好きだよ。』

私は、そう言った。
そんな私に、彼女は小さく細く溜め息をついて言った。

『…自分を抑えてまで一緒にいたい相手なんだ…』

それには答えられなかった。

⏰:09/08/26 16:54 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#373 [あき]
私はふっと笑って、席を立つ。
また換気扇の下、煙草に火をつけた。轟音の下、私の吐き出す煙がそれに吸い込まれていく。
彼女の言葉が胸をかきむしる。それを全て吸い込んで欲しかった。そんな私を彼女は、黙って見つめていた。
私達の間だけ、静かな時間が流れる。
ーブーン…ブーン…
そんな時、まさか、このタイミングでかと驚く程に、テーブルの上、置きっぱなしにしていた携帯電話が震える音が私達の間に響いた。時刻は日付も、もう数時間前に変わっていて、恐らく相手は…彼だ。あれ以降、何の連絡もしていない私への…怒りの電話だろう。煙草を消して、さえちゃんの横、置きっぱなしの携帯画面を見て彼女を見る。
彼女は、少し肩をすくめて頷いた。

⏰:09/08/26 17:12 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#374 [あき]
ーピッ
『はいっ…うん…うん…うん…ごめんなさい…うん…うんっ…わかった…うん…そんなんじゃ…ううん…うん…そだね…うん…ごめんなさい…じゃぁ。はいっ…』

電話が切れる。

私は、大きく溜め息をついて、かなりご立腹だわと苦笑いで答える。
さえちゃんは、怒る意味がわかんないと、苦笑いをしながら、肩をすくめた。

『彼は私の事心配してくれてるのっ…〃』

『それ、心配じゃなくて、信用されてないって事でしょっ?』

『…不安がりなんだよ〃』


そう答えるしか出来ない。
彼女は、小さく首を横に振って、違う。とたった一言呟いた。

⏰:09/08/26 17:22 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#375 [あき]
『さっきの電話で思えた。
あのね?好きな人からの電話って、もっと楽しいはずなのっ。嬉しいもんなの。
だからね、どうしても、表情に出ちゃうもんなのよ。
でも、あきは、お昼も、今も、ちっとも楽しそうじゃないっ。
その彼、あきの好い所、全部消してるじゃん。
電話してる、あきの顔。
怖いよ?鏡見てみ?
どう見ても、恋してる女の顔じゃない。
まだ、なおちゃんと電話してる時の方が喧嘩しながらも、楽しそうだったよ?
幸せそうだったよ?
幸せってそうゆうもんだよ?
作るもんじゃないの。
にじみ出るもんなの。
ねぇ…あき、このままじゃ、壊れちゃうよ?ねぇ?いいの?これでいいのっ?』

さえちゃんは涙ながらに、そう全身で伝えてくれた。
私は、何も言えなかったー…

⏰:09/08/26 17:48 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#376 [あき]
自宅に戻ると、時刻は真夜中。
あと数時間で夜が明ける。
部屋に入り、暗闇の中、携帯電話を握る。
さすがに寝てるだろうと思った。起こしてしまう事もわかった。だけど、今、しない事により事態は悪化する事もわかっている。一息ついて深呼吸をして、私は発信ボタンを押した。
真夜中のコール。耳から全身に緊張が駆け抜ける。
数回のコールで彼は出た。

《もしもし。》

『あ…起こした?今、帰ってきたからっ。』

《……ほら、結局、朝じゃん。お前は、本当に約束を守れない女なんだなっ。》

恐らく、起きていた。
彼は怒りで起きていたんだ。
そして、こう言った。

⏰:09/08/26 23:31 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#377 [あき]
『…ごめんなさい…。楽しくって…つい…』

《…朝帰りはしないって言ったろ?》

『…うん…でもっ…久しぶりに会った友達で…』

《待ってる俺の事考えた事ある?どんな気持ちだったのか、わかってんのかよっ!!》


泣きたくなった。
もう疲れた。
そう言いたくなった。

あなたは、私から何もかもを奪うの…?

⏰:09/08/26 23:36 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#378 [あき]
《なんも連絡してこないでっ!!何考えてんだよっ!!》


やってんじゃん…
毎日、毎日…
起きたよ。
今から仕事行くよ。
今昼休みだよ。
今休憩だよ。
今終わったよ。
今から帰るよ。
今着いたよ。

一生懸命やってんじゃんっ…。

前から言ってたじゃん。
久しぶりに会うんだって。
楽しみなんだって。
大好きなんだって。
そう言ってたじゃん…

どうして?
どうして、わかってくれないの…?

⏰:09/08/26 23:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#379 [あき]
『…もうヤだ…もういい…』

一気に涙が溢れた。
さえちゃんに言われた言葉が、胸を駆け巡る。

『もう、こんなのヤダよ…西条さん、毎日イライラしてるじゃん…』

《もういいって何だよっ!!イライラさせてんのは誰だっ!!》

彼は電話の向こうで怒鳴った。

『…大きな声出さないでよ…もうやだよ…もういい…』

嫌だ。
あんなに優しかった西条さん。そんな彼の、あの姿はもうない。私と一緒にいると、怒りに満ちる。それも悲しかった。

⏰:09/08/26 23:52 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#380 [あき]
電話口で泣き出す私に、彼は更に怒りを増した。

《もういいって何だよ!!何が言いたいっ!!はっきり言えよっ!!》

怖くて言えない。
ただ涙が溢れ出た。

『……もういいって…西条さん、怒るばっかりで私の話聞いてくれない…私を認めてはくれない…私を信じてはくれない…もう、そんなの嫌だ…』

泣きながら必死に伝えた私の意志は、彼には伝わらなかった。


《当たり前だろっ!!約束を破られて、何を信じろって言うんだよっ!!!》

⏰:09/08/26 23:59 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#381 [あき]
『……だから、西条さんと私は合わないと思う…こんなんじゃ、付き合えない…』

必死の思いでそう言った私の言葉に彼は怒りを爆発させた。
爆発と同時に思わぬ所へ矛先が向けられたのだ。
それが、毎夜毎夜傷付け合う原因だったのだ。
彼の言葉に私は初めて言葉を失った。


《結局、未練があんだろっ!!その男に!!!》

⏰:09/08/27 00:08 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#382 [あき]
『未練って…そんな事思ってたの…?』

《…あきは、俺には何も言ってくれないだろ…。俺が何を言おうが、何をしようが、何も言わない。》

『それは、あなたを信じてるからっ!!だから…』


《違うよっ。興味が無いんだよ。…だから、好きも、会いたいも…言ってくれないんだよ。一度も言ってくれてない…。そんな俺の気持ちわかるか?》


西条さんの、怒りの裏に言いようのない淋しさを感じた。
言葉が出なかった。

⏰:09/08/27 00:15 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#383 [あき]
『……』

《頭では、わかってんだよ。
その彼の事忘れられてないって事は。》

『……』

《だけど、あきが、俺を好きでいてくれてるって確信があれば、俺は何も言わない。
なのに、それすらないんだ。
不安になるだろ…
怒りたくもなるだろ…》

『……』

《いつもあきの傍にいるのは俺じゃない。その彼だ。
俺は、会いたい時にすぐには会えないんだ。こうやって声を聞くのが精一杯なんだよ。
それなのに、それすら、あきは、俺にくれない…。そんなんじゃ俺、勝てないじゃん…》

⏰:09/08/27 00:24 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#384 [あき]
『…ごめん…』

やっとの思いで出た言葉は、やっぱりこの三文字だった。

彼の怒りにばかり、不満を抱き、苦痛を覚えた日々。
彼と言い合いをする度に傷付き、怯えた。
だけど
私の数百倍も、彼は傷付き。
私の数百倍も、彼は怯えていたんだ。


『…もう会ってないし、連絡も取ってないから。』


彼には気休めの言葉に過ぎないけれど、それしか今の私には言えなかった。

⏰:09/08/27 00:32 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#385 [あき]
《…でも…今すぐには忘れられないのは仕方ないよ。

だってずっと好きだったんだよ…好きで、好きで、たまらない人だった。
だから、何年もずっと傍にいたし、彼も、いつも傍にいてくれた。
そんな関係だったから…
だから、すぐには忘れられないよ…
でも、私は、貴方を選んだの。
それだけはわかって欲しい…》

自分の想いを初めて口に出来たと思えた。彼に、伝わって欲しいと願いながら、必死に伝えた。
けれど、彼は言った。

《ほらな、俺には言ってくれない言葉を彼には言うんだ!!好きだって。俺に向かって、何度も何度もっ!!俺の気持ちなんて、これっぽっちも考えてない証拠だろっ!!そんなに好きなら、俺は身を引くよっ!!俺はそいつには勝てない!!!》

⏰:09/08/27 00:44 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#386 [あき]
『…勝とうとは思ってくれないんだ…』


悲しくなった。
私は強く引っ張って欲しいだけなのに。
その手を握って、離さないでいて欲しいだけなのに。


《…それを俺に求めるのは、間違ってるとは思わないのか?》

⏰:09/08/27 00:47 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#387 [あき]
《俺はいつでも、手を伸ばしてるよ。なのに、あきは、それに掴まってくれない。なのに、どう勝負しろって言うんだよ…。》

彼の淋しい声に私はまた涙が溢れた。

『届かないよ…。
私は一生懸命伸ばしてるのに、西条さんの手。遠いもん…
なのに、こっちに来いばっかりで…

彼が、背中を引っ張るんだから、西条さんの手に届かないんだよ…。もう少し伸ばしてよ…。
掴みたいの…。』

⏰:09/08/27 00:55 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#388 [あき]
《…俺には無理だ。
 これ以上は、伸ばせない。
 俺はあきが好きだったよ。》

この夜。
私達の付き合いに、終止符が打たれた。
あの二度目の再会から、たった数ヶ月だった。
彼の、最後の言葉だけが胸に響く。
私は、自分の意志の弱さから
なおちゃんも、西条さんも失った。
二兎追う者は一兎も得ず。
昔の人は巧いこと言うもんだ。

自分の馬鹿さ加減にほとほと吐き気がした夜だった。

⏰:09/08/27 01:03 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#389 [あき]
また、面白みのない生活が始まる。毎朝早朝に起きて、深夜まで働く。一時は干された仕事。私達の終演と共に、職場でも人の噂は七十五日。噂が消沈したのか、はたまた、やはり若手には難しかったのか、少しづつ私の手元に仕事が戻ってきた。私は、また言われるように、言われるがまま、夢中で働いた。あれ以来、彼からの連絡は無かった。私は、一時、淡い夢を見ただけだと、そう自分に言い聞かす。仕事をしていると、時々耳にする、彼がいる地方の出張話。ドキンと胸が鳴った。何食わぬ顔をして、資料を盗み見する。そこには、変わらず、提携先として彼の社名が記載されていた。けれど、そんな噂を立ててしまった私には関係のない出張話で。勿論、立候補する勇気も無かった。彼と出会う前の日常に戻っただけの話。

⏰:09/08/27 01:22 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#390 [あき]
さえちゃんには、終わったよ。とただ、それだけを告げた。
彼女は、それで良かったんだよと電話口で微笑んでくれた。

そんな日々が数週間経った。

もう、全てを忘れよう。

そう自分に言い聞かせ、日々の生活を取り戻したその日。

一本の連絡が、また私を荒波へと引きずり込んでいく−…

⏰:09/08/27 01:32 📱:W65T 🆔:4Iumt6lI


#391 [る]
失礼します

>>1-100
>>100-150
>>151-200
>>200-300
>>301-400


>>330

⏰:09/08/27 09:31 📱:911SH 🆔:GUni/6H2


#392 [あき]
色々とあって、
またまたまたまた?
機種変更をしました。
(※もう何台目だろ…(^へ^;)ゞ)
最終章完結に向けて、こつこつやります。

〜あき〜

⏰:09/09/03 18:32 📱:W64S 🆔:3fznAjFs


#393 [あき]
今朝の目覚めは最も悪いと書いて、最悪だった。気分の乗らないまま、荷物をまとめて駅に向かう。
今朝の早朝五時。
耳元で、つん裂く携帯電話の着信音で目覚めた。

《…はい》

《悪いっ!緊急っ!すぐ起きて飛ぶ準備して!》

あのインテリ眼鏡をかけた女上司のがなり声で目覚めるなんて。

《……はぁ……なんですか…》

寝ぼけた頭は、やっとの思いで言葉を発した。起きてしまったのが間違い。

⏰:09/09/03 23:45 📱:W64S 🆔:3fznAjFs


#394 [あき]
《田中が、今日からの三日間○×地方が飛べなくなった!変わり探してんのっ!あんた行けるよねっ!?》

飛ぶとは、私達の業界では出張の通称。
田中とは、私の直属、数年下の後輩。
○×地方とは、ここから新幹線で数時間の先で、過去に受け持った地方。

《……はぁ……そりゃ…なんとか……》

寝ぼけた頭は、事態を未だ把握せず、生半可な返事を繰り返す。

《起きろっ!!資料は今からファックス流すっ!いいねっ!!》

インテリ上司は切迫感溢れる声で、私を叩き起こした。そして、返事を待たずして、電話は切れた。

⏰:09/09/03 23:54 📱:W64S 🆔:3fznAjFs


#395 [あき]
そして、直ぐ様、今やファックス専用とも言うべき電話が部屋中に鳴り響き、ジージーと何枚にも及ぶ用紙が送られて来た。
無言で、起き上がり、フラフラと電話の前に立つ。
送られてきた資料を一枚一枚眺めながら、私の脳みそは動き出す。


『…はぁっ!?まじかっ…』

一通り目を通して、私は確実にそう言った。

⏰:09/09/03 23:59 📱:W64S 🆔:3fznAjFs


#396 [あき]
髪を縛り、顔面に特殊メイクを施しながら、エンドレスに流れてくる何枚にも及ぶ資料に目を通して、突然割り振られた仕事を確認する。
自惚れではないが、資料内容は容易に把握できた。
私には慣れた案件。
インテリ上司が、突然に私に割り振った意図がわかる。

ただひとつ。
引っ掛かる項目。
地方名。

(…西条さん……)

彼の会社名がその資料には記載されていた。

⏰:09/09/04 00:10 📱:W64S 🆔:tYpkgbEE


#397 [あき]
ホームに立ち、その時を待つ。

到着したそれに乗り込み、今からの数時間、私に与えられたその窓側の席に座った。

直ぐ様走り出した景色を、ぼんやりと眺めていると。
胸がざわついた。
思わず、胸を掴んで息を整える。

流れる景色を見つめ、今日もまた雨が降り出しそうな1日だなと、そう思った。

⏰:09/09/06 19:17 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#398 [あき]
数ヶ月ぶりに舞い降りた駅は、何も変わっていなくて。相変わらずの景色。あれから数ヶ月。それよりも前、この出で立ちでこの場所に立つのは半年振りの事。スーツの衿を正し、あの時と同じように重すぎる荷物を引きずりながら、私はあの場所へ向かう。
改札を抜けると、すぐに声をかけられた。

『〜〜社の方ですか?』

額の汗をふきながら、小太りの小さなおじさんが、ペコリと頭を下げる。

⏰:09/09/06 20:39 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#399 [あき]
『はい〃宜しくお願いします。この度は、急遽担当者が変わりまして、ご迷惑をおかけしました。』

私は、そのおじさんに頭を下げる。

『いえっ〃こちらこそ、宜しくお願いします。では、車まで案内しましょう。』

『ありがとうございます。』

今回のパートナーは西条さんじゃなかった。

ホッした反面……

少し寂しかった。

⏰:09/09/06 20:44 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#400 [あき]
また、ロータリーにあのボックスタイプの車が停まっていた。
トランクを日除け変わりに使い、タバコを吸っていた彼の姿を思い出す。

『この車ですっ。荷物入れましょう。』

『…はい〃ありがとうございます。』

彼と同じ。

彼と同じイントネーションと、彼と同じ方言で、新しいパートナーは言った。

⏰:09/09/06 20:52 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#401 [あき]
静かに動き出した車内で、急遽変更になった事を改めて詫びた。

詫びながら、この三日間の打ち合わせを兼ねようと、私は聞く。

勿論、こちらには、事前に今回の担当者である田中の名前は流れていたはずで、田中で、全ての段取りが組まれていたはずなのだ。
それを今朝、突然に私の名前が電話にて伝えられたはず。
突然の担当者変更は、てんやわんやになったに違いない。

『問題起きませんでした?』

『そんな事があったんですか。大変でしたね〃』

私は、疑問を隠しきれず、暑苦しいおじさんの顔を見返す。

⏰:09/09/06 21:09 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#402 [あき]
おじさんパートナーは、私の言葉を他所に、冷房のスイッチを強に合わせる。

『暑いですなぁ。もう少ししたら、冷えますから、待って下さい。』

西条さんよりも強い方言なまりは、年配独特さを感じた。

生ぬるい風を体一杯に感じたながら、私は気にしないで下さいと笑った。

『で…あの…打ち合わせは??』

冷えてきた冷房風に、私の髪がなびく。少し気持ち良かった。

『ああ、私にはいいですよ。私にされても、わからんです〃』

⏰:09/09/06 21:25 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#403 [あき]
そう言うと、おじさんは、また、前を向いて、暑い暑いと嘆いていた。おじさんは、ようやく私の顔を見て、不可解な顔をする私を理解したのか、ハハハと笑って言った。

『ああっ!私はね、今はただの運転手です〃私にはあんた達の仕事は専門外ですわ〃ちゃんと担当者がいますから、そこまでお送りしますからねえ。』

おじさんは、そう言って、笑った。
移動中も、何十年も勤め上げたこの会社を先月定年して、雑用係として会社に残った身の上だと、自分の過去を笑って話てくれた。

私は、笑ってそうでしたかと、当たり障りのない返事を繰り返す。
私が送り届けられる場所に向かう間
ざわついた胸が今にも爆発しそうだった。

⏰:09/09/06 21:55 📱:W64S 🆔:WpaU5fD.


#404 [あき]
『あそこですよ』

おじさんが指差した先に、小さな建物が見えて来た。
私は、頷きバックから資料を取り出す。
資料を、再度読み直し、頭の中で整理する。
なにせ、今朝、早朝五時に突然割り振られた仕事なのだ。
下準備、事前打ち合わせは田中がしている。
私にはこのファックス用紙だけが頼りだった。

『ここで、担当者とも合流して戴きますから。うちの若手ホープですよ!あいつなら、任せても大丈夫ですわ』

おじさんは、笑っていた。バクンとした心臓が、おじさんに聞こえまいかと、私もまた笑ってみせた。

⏰:09/09/07 02:37 📱:W64S 🆔:N97iV3Fg


#405 [あき]
車を降りて、おじさんは笑顔で走り去る。
若手ホープと呼ばれる担当者と合流すべく、私は建物前に立った。
こちらは、梅雨なんて関係ない位の眩しい日差し。時計を見ると、まだお昼前だというのに、気温は上がりきっているように思えた。
見つけた小さなベンチに腰掛けて、私は資料を読み直す。
到着して、五分。

『お待たせして申し訳ありません』

頭の上で聞こえた声に…。

外れて欲しかった胸騒ぎが的中した事を知るには、十分過ぎる程の声だった。

⏰:09/09/07 02:46 📱:W64S 🆔:N97iV3Fg


#406 [あき]
『……』
『……』

少しの沈黙。
私は立ち上がり、顔を上げる。

『…また三日間、宜しくお願いします。』

『…こちらこそ。』

久しぶりに見た西条さんは、最後に見たあの時よりも、少し日焼けしていた。
ブルーの淡いシャツに、ネクタイを締めて、少し細めの眼鏡をかけ…

あの頃と同じ香水の香りがした。

⏰:09/09/07 02:52 📱:W64S 🆔:N97iV3Fg


#407 [あき]
『じゃ、打ち合わせを…』

『いいよっ〃ここは、俺の得意先だもんで今更いらん〃よく知ってるからっ。それよりも、荷物、車に乗せようか?』

西条さんは、変わらない爽やかな笑顔で、歩き出すと私の荷物を掴み、乗ってきたんであろう小さな社用車のトランクに、また軽々と荷物を乗せた。
苦しい胸を隠しながら、二人並んで、責任者と顔合わせ、打ち合わせ、そして談笑へと進んでいく。
西条さんの得意先だけあって、また私は、彼の然り気無いアドバイス、サポートに乗っかる形で、話を進めればいいだけ。
何のトラブルもなく、丸く収める事が出来、二人で車に乗り込んだ時には、もうお昼を回っていた。

⏰:09/09/07 03:06 📱:W64S 🆔:N97iV3Fg


#408 [あき]
『…暑いねぇ〃』
『…そうですね〃』
『……』
『……』

小さな車内。沈黙が続く。途中、コンビニに寄ってランチを買った。
初めて会った時、あの時も確か、昼食はお弁当だった。緑の多い公園のベンチに二人並んで食べたんだ。あのお昼から、私達の時間は始まった。その急速な時間の流れの中、傷付き傷付け合って…
私達は、あの時と同じ位置に立つ。
何もなかったように、ただ、仕事パートナーとして。
同じ場所に立った。

⏰:09/09/07 03:15 📱:W64S 🆔:N97iV3Fg


#409 [あき]
あの公園は、何も変わってはいなかった。
時折吹く風に、緑がざわざわとなびいて、心地良い場所。
よく見ると、ここは、付近のOL達の憩いの場所なのか、他のベンチにもお弁当を広げる人が見受けられた。
日陰のベンチを探し、私達は並んで座る。
気まずさから、即座に買ったばかりの冷えた野菜ジュースを吸い込んで、サンドイッチを開ける。
失せた食欲だけど、もこもこと無言でほお張ってみた。
西条さんもまた、気まずいのか、何なのか…
即座にパンを被りつき、缶珈琲をぐびりと飲んだ。

⏰:09/09/07 03:22 📱:W64S 🆔:N97iV3Fg


#410 [あき]
『…久しぶりだね…』
空に向かって煙が高々と登っていた。
飲み干した珈琲の空き缶にとんとんと煙草を叩いて西条さんは言った。
飲み干した野菜ジュースのパックを丁寧に折りたたみながら、そうだねと答える。
煙の匂いが、風に乗って私にかかる。
その後に、甘い香水の香り。
私は、サドイッチの袋を丁寧に折りたたみ、マヨネーズがついちゃったと、自分に笑ってみせた。
今思えば、それは
手先を見つめる事で、顔をあげないでいい方法を模索していたのかもしれない。

⏰:09/09/07 03:39 📱:W64S 🆔:N97iV3Fg


#411 [あき]
『…元気だった?』

『まぁ…〃』

二本の煙草の煙が空に登る。眩しい太陽は、私達をジリジリと照りつけながら、時折、気持ちよい風がすり抜けた。

『まさかとは思ってたけどっ…〃』

『来ちゃ悪かった?』

私は、ハハハと笑ってこの場を誤魔化す。
西条さんは、ふっと笑って煙を空いた缶珈琲にポイッといれた。
差し出されたそれに、私もポイと入れる。
缶の中で、ジュッと音がして。
二本の火は呆気なく消えた。

⏰:09/09/07 11:18 📱:W64S 🆔:N97iV3Fg


#412 [あき]
『そんな事ないよ〃』

在り来たりな言葉で、私は返す。

『朝、出社したら今日から来る担当者があきの名前に変わってて、驚いた。』

『…そりゃ、今朝急に変わったんだもん〃』

西条さんは、そんなのありなのかと、笑った。

『……だから、迷ったね。』

そして、そう呟いた。

⏰:09/09/08 00:49 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#413 [あき]
『あきは、俺に会いたくないんじゃないかって。だから、こっちも担当変わろうかって、考えたね。』

そう呟きながら、彼はまた胸ポケットから煙草を取り出し火を付けた。ふわりと煙の匂いがする。
私はその声に聞こえないふりをした。
視線を下に向け、パンツスーツの裾を直す。

『…いやなら、明日から変わるよ!〃』

開き直った彼の声に私は、視線を戻して、どちらとも言えない笑顔を向ける。

⏰:09/09/08 01:01 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#414 [あき]
『仕事でしょっ。〃仕方ないよねっ。』

そしてそう言った。
馬鹿な私は、そう言うしか出来なかった。

あの夜、喧嘩別れをしたままの数ヶ月間。この地方の出張話が出る度に、自分に当たるはずがないと頭で理解しながら、心のどこかでは、望んでいた。
仕事で来れば会えるんじゃないかって少し期待した。

もう一度、会って話がしたかった。

だけど、妙なプライドが邪魔をして、それは言えなかった―…

⏰:09/09/08 01:07 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#415 [あき]
『…仕方ない…かっ〃』

西条さんは、はははと笑って、ベンチを立った。私も後を追うようにベンチを立ち、彼の背中を見る。飄々と背の高い彼の背中は、とても大きかった。

『いつまでもサボってないで、午後からの仕事しますかっ!』

『はいっ〃しますかっ!』

助手席に乗り込み、彼の運転で私達は市内を走り抜ける。仕事パートナーとして会話を繰り返し、淡々と案件をこなしていく。
ただ、それ以降、二人でいても、彼は私を《あき》とは呼ばなくなった。彼は私を私の―役職―で呼ぶ。
最後まで。ホテルに着く最後まで、それを貫き通していた。
そして…

⏰:09/09/08 01:16 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#416 [あき]
『……わかりましたっ〃宜しくお願いしますっ。』


翌朝、私を迎えに来たのは―…

彼と似ても似つかない全くの別人だった。


『西条が、急用が出来まして、私が残りの二日間担当を引き継ぎましたので。』

ロビーに立つ、そのおじさんは、そう言って私に名刺を渡してきた―…

⏰:09/09/08 01:22 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#417 [あき]
呆然としたまま、新しいパートナーと仕事をこなす。
途中、何度も携帯電話を確認したけれど。
彼からのメッセージは何も残されていなかった。

最後の夜。

ホテルの部屋に戻り、荷造りを終えた時。
言い様のない感情が溢れ出し、止められなくなった。

携帯電話を握りしめる。

ふざけんなっ!
仕事放棄すんな!
逃げんじゃねー!

そう言ってやろうと、携帯電話を握った。

⏰:09/09/08 01:28 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#418 [あき]
―ピッ…プルル…

《はい。もしもしっ》


『わたしっ!!』

《うん。どうした?》

『どうしたじゃないでしょ!!!』


込み上げて来る怒りで、私は感情をぶつける。薄い壁。
隣の知らない誰かさんに聞こえるなんて気にやしない。
とにかく、腹立たしかった。

⏰:09/09/08 01:32 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#419 [あき]
西条さんは、妙に冷静で、私の怒りを受け入れた。

《何怒ってんの?》

それが、また無性に腹が立つ。

『何変わってんのっ!!』

支離滅裂だとはわかっても、主語述語なんて今更関係ない。

《…なにが。》

それでも冷静に返してくる彼に、私の怒りは頂点に達し、そして一気に冷めていった。

『…変わるなんて聞いてないよ?』

冷めると同じに、何故か、とても悲しくなった…

⏰:09/09/08 01:36 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#420 [あき]
《あきが嫌だって言ったんだろ?だから、変わってもらった。》


『言ってない…』


《仕方ないって言っただろ?》

『それは……』


《だろ?なのに何、責められなきゃならん…?》

『だから……』



何も言えなかった。

⏰:09/09/08 01:39 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#421 [あき]
『…せっかく来たのに…明日帰るよ?』


可愛げない言葉で、私は伝える。
本当は、また会えて嬉しかった。
本当は、また一緒にしたかった。
少なからず。
私はそう思った。
なのに。
あの時、言葉はその思いとは裏腹に、彼を撥ね付けた。
だから、彼は変わった。もう会わないつもりで、変わった。
悲しかった。
私なりの精一杯の言葉で、そう伝える。

⏰:09/09/08 03:46 📱:W64S 🆔:YinlIU3I


#422 [あき]
《…俺達は終わったんだよな?》

電話口、囁くように言った西条さんの声が、頭に響く。

そうだった。
私は彼に何を求めてたんだろう。
何を期待していたんだろう。
彼の愛に耐えられず。
別れを切り出したのは私なのに。
自分勝手な奴―…

『そだねっ…〃じゃぁ!』

⏰:09/09/15 02:04 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#423 [あき]
《…じゃぁ。気をつけて帰れよ。》

『うん。バイバイ!』

見えるはずもないのに微笑み通話終了ボタンを押す。
無機質な機械音が鼓膜を震わせた。
そのまま携帯電話をテーブルに置いて、散らかしたままの資料をガサガサと集めて、鞄に入れた。
何だか、何もする気分になれなかった。
小さなバスルームでシャワーを浴びて、整えられたベッドに潜り込む。
電気を消して、暗闇の中目を閉じた。
胸がキュッと痛かった。

⏰:09/09/15 02:11 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#424 [あき]

――

翌朝、まだ目覚めぬ朝に目が冷める。
今日あの、おじさんは、とんでもない時間に私を迎えに来ると言った。

《では、7時45分に迎えに来ます。》
《…早くないですかっ?》
《念のためですよ!》

どんなに自信が無いんだよ。と突っ込みたい所をグッと我慢した。

《じゃ、9時に迎えに来ますから》
《はーいっ。》

そんな会話をふと思い出す。
仕事のパートナーである彼は、本当に頼りになった。
遅くスタートしても、必ず時間通りに事が進み必ずの結果を出してくれた。
改めて頼りっぱなしだった自分に笑える。

⏰:09/09/15 02:25 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#425 [あき]
ベッドから起き上がると、頭がガンガンと脈打っていた。
また最悪の目覚め。

いつもの偏頭痛。

カーテンを開けると青白い空にどんよりとした厚い雲がかかっていた。

(…やっぱり天気悪いんだ…)

昔々の後遺症は、私をお天気お姉さんに変えた。
ガンガンと響くこめかみと、じんじん疼く右腕。
この季節は本当につらい。

本当に辛かった。

⏰:09/09/15 02:32 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#426 [あき]
ニコリと微笑み、おじさんパートナーと挨拶を交わして、淡々と時間だけが流れる。
昼前に本降りになった雨は、いっこうに上がる気配はなかった。
相変わらずの冷房車内は雨に濡れた体を、より冷たく感じ、益々、頭痛は酷くなった。
いっこうに効かない鎮痛剤。
途中何度も何度も飲んだ。

『昼飯どうしますか?』

『ああっ。食欲ないんで…〃』

『そうですかぁ。』

『気にせず、召し上がって下さい〃』

⏰:09/09/15 02:45 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#427 [あき]
『じゃ、遠慮なく…』

『どうぞ〃』

どこかの小さな駐車場に車は入った。
狭い車内で、おじさんは愛妻弁当を広げる。
その匂いが私の胸を焼き、冷えた体がブルッと震えた。
軽く言葉を交わして、車を離れ、目に入った自動販売機の元へ走り寄る。
この季節、自動販売機にホットと記された飲み物は見当たらない。
諦めてミネラルウォーターのボタンを押して、ガタンと音を立てて落ちてきたそれを手に取った。
雨が降りしきっていた。

『外の方が暖かい…』

⏰:09/09/15 02:55 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#428 [あき]
『そりゃ、出世しないわ…〃』

ミネラルウォーターを一口飲んで、一息つく。狭苦しい車内で、愛妻弁当をがっつくおじさんを遠巻きに見つめ、思わず呟いた。

決して、現場主義者とは思えない。
あの年代なら、勤続年数数十年だろうに。

くだらない会話は弾むくせに、肝心な所では、つまづいてしまう。
…上がり性。
降りしきる雨、車の停車位置さえ考えれば、濡れずに済んだ場所はいくらでもあった。
…視野と判断が甘い。

濡れた体に、いっこうに緩まない車内冷房温度。
…配慮に欠ける。

可哀想だが、出世出来ない原因、全てが、おじさんの一連の行動で物語っていた。

⏰:09/09/15 03:16 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#429 [あき]
(とまぁ、そんな事はさて置き…〃)

煙草を数本吸い終わる頃に、おじさんの、愛妻弁当を片付け始める姿が見えた。
煙草をじゅっと灰皿に入れて、また走って車内に戻る。
助手席に座ると、爪楊枝で歯の手入れをしながら、おじさんは言った。

『飯、食わんのですか?』

『はい〃体調が悪くて〃』

『そりゃいかんなぁ。風邪か?』

『どうでしょ〃』

あんたのせいだよっ!
と突っ込みたくなった…。

⏰:09/09/15 03:25 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#430 [あき]
結局、最後の一日は雨があがる事なく、もう、完全にスーツはダメになって、ベタついた髪からは酸性雨の嫌な臭いがしていた。
早々におじさんに挨拶を済ませ、改札を目指す。
時計を確認しても、まだ一時間も余裕がある。改札を抜けるには早すぎる時間だ。

(……)

噴水が目に入った。
一瞬立ち止まる。

噴水の傍に座る私。
それを見つめ、笑う西条さん。
立ち上がる私。
その背中に、叫ぶ西条さん。

まるで昨日の事のように残像が蘇る。
私は、残像を振り払って…改札を抜けた。

私達が始まったあの場所に別れを告げたのだった。

⏰:09/09/15 03:40 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#431 [あき]
改札を抜けて、ホームに立つ。ざわつく人達の中で、一人立っていると、何だか、三日間のざわついた心が、溶け込んで少しだけ晴れた気分になった。
もうここには来ないだろう。
西条さんが生きる街は、辛すぎる。
もう会わない方がいいんだ。
そんな事をふと感じる。
周囲を確認して、一番近い待合室に入り、腰を下ろした。
出張が多くなり、移動距離が長くなりだした頃、時間潰しの為と鞄に入れた小説を久しぶりに出して頁を開く。
久しぶりに読んだ話は数頁前に戻らないと、ちっとも理解できなかった。

⏰:09/09/15 03:59 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#432 [あき]
数頁前に戻り、そうだったと、さぁこれからだと、やっと本の世界に集中しだした頃、とんだ邪魔者が入る。
私は、活字を目で追いながらポケットに手を突っ込み、震える携帯電話を取り出した。

画面を見て
バクンと胸が鳴った。
まさかと思った。


―西条さん―

画面に記された活字に、心臓が縮む。
しばらく見つめて、そっと通話ボタンを押した。

⏰:09/09/15 04:04 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#433 [あき]
『…もしもしっ。お疲れ様ですっ。』

ついつい業界用語で挨拶をした。

《お疲れ様…。今、駅?》

『…はい。そーです。○×発ですから。』

《あー。そっか…》

ついつい敬語になる。
西条さんは、そんな私の言葉に、違和感なく話を進めていた。

⏰:09/09/15 04:09 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#434 [あき]
《今、大丈夫か?》

『はい。どうかされました?』

《………んだよそれ。》

私のよそよそしい返しに、西条さんは、そう呟くと、何も言わなくなった。
また私は彼を傷付けたんだ。そう痛感する。
なのに、私は言葉を発する事も、この無言の電話を切る事も出来ずに、ただ携帯電話を耳に当て続けた。
当て続けて数分。

《あきは…俺との事どう思ってんの?》

思いもよらない言葉が私の耳を抜ける。
意識で

自分が今、あの温かいなまりのある方言で、そう言われている。

そう理解するのに数秒かかった。

⏰:09/09/15 04:20 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#435 [あき]
『どうって……?』

一瞬にして、周囲の景色が白くなった。
誰の姿も目に入らない。ここが新幹線ホームの待合室だという事が、ウソのような感覚。


《……遊びだった?》

『……何を今更言ってんの?』


遊びか本気かなんてわからない。

ただ私は、あの時
西条さんとの未来を望んだだけだった。
終わりの来ない現実よりも、新しい未来を掴もうとしただけだった。

⏰:09/09/15 04:28 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#436 [あき]
《……俺の事、好きだと思ってくれてた?》

『………』


《…遊びだったのか?》

『………』


《……何も答えてはくれないんだな。》


溜め息まじりに聞こえる彼の声に、答えられないんじゃない。
どう答えていいかわからなかった。

⏰:09/09/15 04:33 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#437 [あき]
西条さんは、いつも答えを欲しがった。
いつも、いつも、私に愛を求めた。

だけど、私はそれに答えられなかった。

馬鹿な私は、彼が求める答えを出せなかったし、彼が求める愛の形がわからなかった。

どうしたら、彼が納得するのか。
どうしたら、彼が落ち着いてくれるのか。
どうしたら、彼が私を信じてくれるのか。

いつもわからなかった。
答えれば、答える程、彼を傷付けてしまった。
これ以上彼を傷付けたくなかった。
だから、彼が求める答えがわからず、私は何も言えなくなってしまったのだ。

⏰:09/09/15 04:39 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#438 [あき]
《…どうして黙る?……わかったよ…なら、その気がないのに、その気になるような事しといて、見事に、あきにハマってく俺を見て心の中で、笑ってたって事?》


また電話の向こうで、なんだか、声が聞こえる。さすがに、とても、酷い事を言われたような気がした。

自然と涙が溢れる。

溢れた涙が視界を現実に戻した。

突然泣き出したスーツ姿の若い女に周囲の人は驚いた顔で、私を見ている。
無邪気に母親にじゃれてた子供は、ピタリと固まり、私の顔を覗き込む。

そうだ。ここは新幹線ホームの待合室。

なのに涙が止まらなかった。

⏰:09/09/15 04:49 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#439 [あき]
『……馬鹿にしないでよっ。』


私が吐き出した言葉は、彼の心には届かなかった。

《ならどうだって言うんだ!?好きも嫌いも言えないんだろ!?馬鹿にしてんのは、どっちだっ!》

隣に座るサラリーマン風のおじさんは、電話口から漏れる彼の怒りの声に、少し顔をしかめた。
静かに新聞を折りたたみ、私の顔をちらりと横目で確認する。
公共の場所での
若い男女の痴話喧嘩。

いい迷惑な話だ。

サラリーマンはそう目で訴えてきた。

⏰:09/09/15 04:56 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#440 [あき]
『…とにかく、今は話できない。』

涙声が必死に彼を説得にかかる。

《…どうしてっ!》

『ホームにいるのっ…』

《だからっ!》

『…お願いだから、落ち着いてよ…』

周囲の人々は、やれやれと言った顔で、我関せずの体制に入った。

『…また帰ったら電話するから…』

⏰:09/09/15 04:59 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#441 [あき]
《待てない。今、聞きたい。……その新幹線乗る前に、はっきり決めてくれっ。》

彼は、そう言う。

『…何を決めろって言うの?』

落ちた涙も乾き、静かに私は聞いた。
まさかの彼の言葉。
にまた時間が止まる。




《あきと、やり直したい。……あきは?》

⏰:09/09/15 05:03 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#442 [あき]
『……ごめんなさい。』

そう言う事で、彼を傷付ける事はわかっていた。だけど、答えを出せない位なら、もうここで終わらせようと、そう思った。
私の気持ちは、そう判断した。

《…終わりって事なのか?》


『…それでいい…』

そう伝えた私に、彼は言葉を失っていた。

⏰:09/09/15 05:09 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#443 [あき]
『遊びで付き合ってたつもりはなかったけど…貴方がそう思うなら、そう思ってくれていいから…もういいよ…だから西条さんが決めてくれたらいい。』

そう言った。
言ったら、また涙が溢れて来た。
この台詞も、この涙も卑怯だと思った。
だけど、本気でそう思ったし、涙は自然と溢れてくる。

この姿と言葉が
今の偽りのない
―私自身―
だった。

⏰:09/09/15 05:21 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#444 [あき]
《俺に決めろって…どうゆう意味?》


『…散々酷い言葉言われて…やり直したいなんて言われて、はいわかりましたなんて言える訳ないよ。』

《……》

『酷い事言った事わかってるの?傷付いたんだよっ。私。』

《……》

『だから、それが私の答え。』

⏰:09/09/15 05:29 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#445 [あき]
《…ごめん。悪かった…》

この言葉を切っ掛けに、壊れていた私達の時計はまた動き出した。


彼が私に向ける愛が本物なのかどうなのかは、わからないし
私が彼に向ける気持ちが、本気なのかどうなのか、まだわからない。

だけど彼は私を必要として、力付くで私を求めていたし。
私もまた、見えない未来よりも、見える未来に執着していた。


それを幸せだと、また錯覚してしまう。


だけど……

⏰:09/09/15 05:51 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#446 [あき]
もう一つ。

止まっていた時計。

いや…
私が無理矢理に止めた、あの時計。

その時計が、この数日後に、動き出してしまう。

ただ、壊れた時計の修復に気を取られていた私は、動き出した、もう一つの時計に気付きもしなかった…

それがチクタクと、大きな音を立てて、西条さん以上に力強く動き出して。
私の時計を、人生を狂わせた…

⏰:09/09/15 05:58 📱:W64S 🆔:QiLm6EsI


#447 [あき]
――――――

重い荷物を肩にかけ、フロアの扉を閉める。
薄暗い廊下を渡り、階段を降りると、淡い光の中に、既にロックの掛かった正面玄関が見える。
警備員のおじさんに、挨拶を済ませると、おじさんは、お疲れ様と労いをくれながら、ガチャリと自動ドアを開けてくれた。
外は、まだまだ蒸し暑い、湿気でどんよりとした空気の中、暗い道程を数百メートル裏手に回る。
朝から置いていた愛車に乗り込み、荷物を助手席にほおり投げるとほっと一息着いた。

⏰:09/09/16 00:58 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#448 [あき]
事務的に、携帯電話を開き、西条さんにメールを打つ。

[お疲れ様。今から帰りますっ!今日は車で出社したから、今から一時間くらいは電話に出れないよっ。]

ニコニコ絵文字も入れてみたりして、気分とは裏腹の文面を無機質に送信した。

仕事を終えた私には、この一時間と記した文面が重要な訳で
自由の身になれる自由でもあるのだ。

あれ以来、彼はより一層私を〈束縛〉した。
片時も携帯電話が離せない生活。
一時でも、彼の着信、受信に返事がないと、彼は狂ったように怒りだす。
私に課せられたのは、事細かい、密なる連絡だった。

⏰:09/09/16 01:12 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#449 [あき]
それは、入浴する時ですら、同じである。

一度、入浴中で電話を受けられなかった。
入浴中に鳴っていた数分間隔の不在着信履歴。彼には、入浴する時ですら報告を要するまでになっていた。

もう、すっかり言い返す気力すら奪われた私は、彼の言いなりでしかなかった。

だからこそ、私が編み出した技はこうして、時間を記す事により、私は自由を得ているのだ。

⏰:09/09/16 01:17 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#450 [あき]
[お疲れ。わかったよ。また帰ったら連絡して。]

西条さんからの受信を確認すると、携帯電話を鞄に入れる。
キーを挿し、セルを回すと、もう年代物の愛車は、ブルンと音を立てて動き出す。
ゆっくりと駐車場から頭を出して、大通りに滑り込ませた。
愛車で出社するのは久しぶりで、この大通りは、なかなかの手強い。しっかりと前を見据えて、車線変更のタイミングを見計らう。
上手く車線変更出来たなら、あとはこっちのもので。
お気に入りのBGMに鼻歌混じりで、ハンドルを握り、煙草に一本火をつけて、至福の時を過ごす。

⏰:09/09/16 01:24 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#451 [あき]
今日どうして、わざわざ許可を取ってまで、愛車で出社したかと言うと話は簡単。

明日からの一週間。
任せられたのは、大きな仕事だった。久しぶりに、大役を任せられたのだ。
数日前、メガネインテリ女上司に肩を叩かれた時には心が踊り、胸が弾んだ。
けれど、日時が近づくにつれ、のし掛かるプレッシャー…
そんなこんなで、結局、私はビビった。
必要以上に集めた資料は膨大な量になった。
結果、それらを持ち帰るには、愛車の出番となってしまったのだ。

⏰:09/09/16 01:46 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#452 [あき]
車を走らせて数十分。すっかり辺りは暗くなり、ライトが眩しさを覚える頃。
私は、ふと思い出す。

『…そういや…あれ、あったっけ?』

些細な日用品。
一人暮らしの身の上では、こんな事はしょっちゅうで、いつもなら、帰路に着く道中、最寄り駅付近のスーパーで購入する事が多かった。
今日もまた、切れかけている日用品をふと思い立つ。

⏰:09/09/16 01:53 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#453 [あき]
『…ま…あそこでいっか〃』

帰り道。
アパートまで、数分の場所に深夜まで開いている薬局を思い出す。
私は、この閃きと同時に、直ぐ様寄り道を決定した。
時折煙草に火をつけて、疲れた体を運転席に沈ませて、私はハンドルを握る。

堕落の底へ突き落とす悪魔が待ってるとも知らずに、私はお気に入りのBGMに合わせて、鼻歌を唄っていた。

⏰:09/09/16 02:00 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#454 [あき]
都会の街並みの渋滞をようやく抜けて、静かな田舎街まで戻って来る。帰路に着いてから四十分。思いの外、早く帰ってこられたようだった。私に残された時間は、あと二十分。
目の前の信号を右に折れると、もうそこは、小さなアパートがある。
その一部屋が、私の住処だ。

あと数分の距離。

私は、そのまま信号手前、薬局の駐車場へと車を滑らせた。

⏰:09/09/16 02:08 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#455 [あき]
なかなか大型薬局なだけあって、広々と作られた駐車場には、ぎっしりと車が停まっていた。俄然、ダルさマックスな私は、出入口付近にスペースを探してみるものの、全て埋まっている。私は仕方なく、建物横手になる、一角。見つけたスペース、やや大きめの両サイドの車に当てない様に、バックで愛車を滑らせた。停めて数秒。

(……ま…いっか…)


西条さんに連絡をしようと携帯電話を取り出してみたものの、これくらいなら大丈夫でしょうと、またバックにしまう。

⏰:09/09/16 02:18 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#456 [あき]
そして、そのバックを見つめて

(…重いし……〃)

そう思った。

私の商売道具とも言えるバックは、まるでドラ○もんのポケットばりに、何でも詰め込まれていた。
その上、今日は集めに集めまくった資料の束が入っている。
我ながら、今日の出来栄えは、腕の関節が外れるんじゃないかと思う程の重量になっていた。
勿論、この重量は、かなりの重要書類や、現金化すりゃ、大金に変わるような代物が詰め込まれている訳で、普段なら無意識に持ち歩いている。
だけど、今日は、たかが数分。
今、この状況で持ち出す程のもんでもないと思えた。

⏰:09/09/16 02:27 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#457 [あき]
私は、財布だけを、そのドラ○もんバックから抜き取り、念の為、バックを助手席の足元に置いた。
さらに、ぐぐぐいっと奥底に押し込む。

(少しだけだし…〃)

車を降りて、ロックをかける。
一応、窓から車内を確認してみると、日の暮れた駐車場で、助手席の足元奥底に押し込んだ黒いバックは、簡単に同化して、見えなくなっていた。

(完璧〃大丈夫だっ!)


私は、財布だけを握りしめて、些細な日用品を目指して、店内へと入って行った。

⏰:09/09/16 02:34 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#458 [あき]
店内に入り、目指す物は、直ぐに見つけられた。

それを手に取り、直ぐ様レジへと向かう。

そして、袋をぶさらげて、駐車場に戻って来た。
愛車の傍に寄り、ロックを外して車に乗り込んだ。



時間にすると…

約五分。

⏰:09/09/16 02:55 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#459 [あき]
鍵を挿し、セルを回して、デッキが淡く光り、BGMがまた流れ出す。

ついたデッキの光りで、車内が見える。

そして、ふと気付く。


車内に広がる
どことなく、何かが違う違和感。



私は、視線を助手席足元に移す。

⏰:09/09/16 03:00 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#460 [あき]
『……あれっ…?』


私は、体をベンチシートに横たえて、腕を伸ばしてみた。

私の手は、空を切る。


『…あれっ??』

体を潜り込ませ、助手席足元を再度覗き込んだ。そして、両手で、そこにあるべき物を探す。

やっぱり両手は空を切った…

⏰:09/09/16 03:03 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#461 [あき]
人間、思いもよらない事が起きると、現状を理解するのに数分時間がかかる。そして、バクンと鳴った心臓を抑えて必死に考える。

『あれ?助手席に置かなかったっけ…後ろだっけなぁ…?』

独り言を言いながら、私は、車を降りて、後部座席を覗き込んだ。
たかが五分前の事。
記憶に間違いはないはずだと思いながらも、もしかしたらと考える。バクバクした心臓を押さえながら、あるべきはずの物を必死に探す。

『…トランクに入れた??』

トランクまで開けてみる。

『一回、家に帰ったっけ…?』

まさかの飛んだ馬鹿発言までして自分に問うてみる。

⏰:09/09/16 03:10 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#462 [あき]
そして、隅々まで車内を探した後、やはり、あるべき物が、忽然と消えた事を理解し。

バクバクした心臓が破裂せんばかりに、早く脈打って、身体中が、ワナワナと震えだし、グルグルと思考が回転し始める。



(…やばいっ…盗られたっ!!!!)



この一件が、私の
逃げられない

―今―

の始まりだった。

⏰:09/09/16 03:15 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#463 [あき]
―――――――

『とにかく落ち着いて。珈琲飲んでみたら?』

珈琲の匂いが私の目の前で湯気立っている。
だけど、私は、震えたまま、訳の解らない言葉を繰り返し、話にならなかった。

『…会社に電話しなきゃ…番号…何番だっけ…やばい…どうしよう…』

さっきから、震える手で、お巡りさんに借りた電話を握りしめ
震える指で、番号を押してはみても、全く見ず知らずの場所へ繋がってしまう。

毎日毎日、嫌という程かけている番号がわからない。

⏰:09/09/16 03:25 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#464 [あき]
『携帯も盗られちゃったし…わかんないよ…』

いい歳こいて、半べそでお巡りさんに訴える。

携帯電話が普及した今、簡単に互いの番号を登録出来てしまう。
今は番号を覚える事をしなくなったのだ。

携帯電話。
現代は、これが全ての情報基準だった。

『会社ならタウンページは?載ってるんじゃないの?貸してあげるからっ』

『…今は時間外だから。その番号は繋がりません…』


私はせっかくのお巡りさんのアドバイスも、震える声で、否定した。

⏰:09/09/16 03:32 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#465 [あき]
だいたいの会社には、表番号と裏番号というのが存在する。

表番号というのは、タウンページに載るような、誰でも繋がる番号だ。ただし営業時間が過ぎると、たとえ、そこに人間がいようとも、だいたいが機械音に変わる。
だから、どこの会社にも、裏番号というのが存在していて、それは、勿論社員しかしらない番号であり、表番号がストップしても、直接繋がる番号なのだ。

『…わかんない…わかんないよ…どうしようっ…』

⏰:09/09/16 03:38 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#466 [あき]
パニックに陥っている私は、その裏番号の番号が、思い出せない。

私達の会社は、日中でも、社員は裏番号に掛けるよう暗黙のルールがあった。
もう何年も毎日毎日、何度も掛け続けた番号なのに、掛ける度に、目にしていた番号なのに、いざとなると、出てこないのだ。

『…とにかく…会社に知らせなきゃ…どうしよう…』

盗られたバックには明日からの仕事の全てが詰まっている。
あのバックが無ければ、私は何も出来ないのだ。そんな事になれば、明日の仕事が駄目になる。

震える指で、必死に番号を押す。
けれども、何度押しても違うどこかへと繋がった。

⏰:09/09/16 03:45 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#467 [あき]
『誰か会社関係の人とか…んー。もしくは友達とかは?わかる人いない?』

お巡りさんは、こんなパニックな人間を何百人と見て来たんだろう。優しい笑顔で、冷静にそう言った。

『会社の人なんて…全部携帯に入ってるし…友達も…番号わかんない…』

頭を抱えて、テーブルに伏せる。

とにかく、バックに入れたままの携帯電話まで盗られた事は、致命的だった。
あの小さな機械一つ無くすと、誰とも連絡を取れない事だったのかと痛感した。

⏰:09/09/16 03:51 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#468 [あき]
『名刺は?持ってないの??』

お巡りさんは言う。

『…あっ!!!名刺っ!!!あるっ!!!』

私は、お巡りさんの一言で微かなに見えた光を見つける。
がばりと起き上がり、震える指で財布を開けた。
だけど、震える指では上手く、探せない。

『もうっ!!』

財布をひっくり返し、バラバラと中身をテーブルの上に散りばめた。お巡りさんは、目をパチクリさせて、私を見ていた。

⏰:09/09/16 03:55 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#469 [あき]
『あったっ…もう一度電話貸して下さいっ…!』

もう、何年も前に貰って。古びてボロボロになって…

すごく大切だった。
私の―御守り―だった。
だけど、もう持ってる事をすっかり忘れてた。
数年前
初めての名刺を。
刷り卸したのその初めての一枚を。
照れ臭そうに渡されたその一枚を。
私は、ずっと持っていた。

…なおちゃんの名刺。

⏰:09/09/16 04:02 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#470 [あき]
たった一枚。
この一枚だけは、財布に入れていた。

西条さんの名刺ですらカードケースに入れてたのに(※盗られたバックと共に紛失)
何故か、なおちゃんの名刺だけは、財布に入れてあった。

震える指で、携帯番号を押す。
久しぶりだとか、何だとか、すっかり忘れてた。


とにかく、助けて欲しかった。

⏰:09/09/16 04:09 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#471 [あき]
―プッ…プルル〜…

《はいっ?もしもしっ》


震える体全身に響き渡る久しぶりの声。

知らない番号からの着信に、よそ行きの声で、様子を伺うように出た彼の声なのに。


すごく、すごく安心した。
そして、涙が出てきた。

『わ…わっ…わたしっ…!!』

⏰:09/09/16 04:12 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#472 [あき]
《…は?》

なおちゃんは、突然の泣いた女の私発言に、驚いた様だった。

『だからっ…わたしっ…どおしよう…ねぇっ…!!』

だけど、そんなの、私は関係ない。
安心して泣きじゃくりながら、必死に伝えようとする。

《…あきかよっ。なんだよ?どうした?》

あの声だ。
私が、大好きだった。
あの声…
安心する…
また涙が出てきた。


久しぶりの嬉し涙だった。

⏰:09/09/16 04:16 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#473 [あき]
久しぶりの電話なのに。何も聞かず、何も言わず、どうしたって聞いてくれた、なおちゃん。


『今、交番にいるのっ…
車上荒らしにあっちゃって…
仕事のカバン全部盗られちゃったのっ。
やばいよ…っ。
どおしよう…
会社の電話番号わかんないっ??
ねぇ…やばいよぉ…!』


《はぁ…?!んなの、俺が知るわけねーだろ。》

⏰:09/09/16 04:21 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#474 [あき]
『何で、知らないのよっ…!!使えねーっ…!とにかく、誰でもいいからっ、私繋がりの子の番号教えてっ!!』


泣きながら必死に訴える。
とにかく、一刻も早く何か打開策を見つけて、会社と連絡を取らなければならなかった。


《はぁ??…あ…ちょっと待ってろっ。》


そして、一件の携帯番号をメモした。

⏰:09/09/16 04:25 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#475 [あき]
メモを握りしめ、必死に冷静さを取り戻していく。

『携帯も盗られて…なおちゃんの名刺持ってたからっ…他の番号誰もわかんない…』

《俺の番号くらい、はいい加減覚えとけよっ。あほう》

優しいなおちゃんは、嫌味たっぷりに、そう言う。

『…とにかく、今は切るから。ありがとっ!』

そう言って一方的に私は電話を切った。

なおちゃんの嫌味は、やっぱり私の力の源なのかもしれない。
私は、この電話を切っ掛けに、冷静に電話を掛け続け、淡々と被害届けの手続きを進めていった。

⏰:09/09/16 04:38 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#476 [あき]
やっとの思いで繋がった、メガネインテリ女上司には、緊急事態に直ぐ様対応してくれた。上司に繋がった事で、また少しだけ冷静さを取り戻す。

この後、社内は、とんでもない大騒ぎになり、帰宅している社員には緊急招集が掛けられて、部署内がひっくり返る程の大惨事な事が簡単に想像できた。

そしてまた、この事態が終焉を迎えた時の私の行く末も見えた様な気がした。

盗られたバックには、一週間分の社の現金はもちろんの事。(※現地での必要経費の立替金)現金化すれば、いい値段で売れる代物。そして…なにより…
顧客データが数百件分の資料。
それら全てが入っていたのだ。

⏰:09/09/16 04:51 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#477 [あき]
もちろん、私の仕事担当柄、それらの事は全て上司も承知の上ではあるが。
一週間分を安易に持ち出した私の責任は大きかった。

更に、そんな莫大な物を持ち歩いている事に慣れてしまっていた私の少しの気の緩み。

たかが五分の気の緩み…

こんな事態を巻き起こしてしまったのだ。
今更ながら、会社に与える損害は計り知れない。

交番で、お巡りさんに質問されるがまま答えていく間。
淡々と被害届けの手続きが進む間。

頭の中は、後悔と絶望しか残らなかった…

⏰:09/09/16 04:56 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#478 [あき]
『で?後は?個人的な物もあるんじゃないかな?』

お巡りさんに聞かれて、はたと気付く。
そうだ。私自身の無くした物もある。

『…携帯と…化粧ポーチ…あともう一つ、薬とか入れてるポーチがあって…あとは……』

事細かく、どんなサイズだったのか、どんな色だったのか、何が入っていたのか、全て聞かれる。

あのバック一つの被害物品は、紙切れ四枚にも綴られた。

⏰:09/09/16 05:01 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#479 [あき]
薄っぺらい紙切れ四枚に、一つ一つサインをして、拇印を押す。

外の駐車場では、若いお巡りさんが二人掛かりで、まるでドラマで見たワンシーンのように、耳かきのような物で、私の壊された愛車の鍵穴と睨めっこしていた。

『バック…見つかりますか?』

『ん…どうだろうね。』

『犯人…捕まりますか?』

『…捕まえたいねっ。』

『そうですか…』


虚しい会話。

⏰:09/09/16 05:08 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#480 [あき]
結局、こんな事をしたって、盗られたバックを探してくれる訳でも、盗った犯人を捕まえてくれる訳でもない。
ただの形式で。
結局は泣き寝入りなのだ。
損害額は借金となり、どうせ、私はクビになる。
盗られたあのポーチだって。
あのポーチの中に入れてたあれだって…
私には、大切な思い出の品物ばかりだった。
私の宝物だった。
なおちゃんがくれたあの麻のストラップだって…無くなった。

『…犯人が憎い…』

ポツリと呟いて、今度は悔し涙が零れた。

⏰:09/09/16 05:13 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#481 [あき]
『…気持ちはわかるよ。酷い事をしたもんだよね。』

お巡りさんは、そう言って、私の目を見つめた。

『…見るからに、会社の物だってわかるじゃんっ!…盗られた者の人生狂わせると思わないのかなっ…』

お巡りさんに、当たっても仕方のない事だとは解ってはいても、このやり場のない怒りをどこに持って行けばいいのか、わからなかった。

『そんな良心がある奴は、こんな犯罪をそもそもしないよ…。』

お巡りさんの言葉に、私は何も言えなかった。

⏰:09/09/16 05:19 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#482 [あき]
結局、私はプロに狙われていたらしい。
あの日、私が隙間を埋める様に駐車したあの時から、私はカモだったのだ。
あのスペースは、防犯カメラの死角になっていた。横、数台と私の車だけが映らないのだ。両サイドを埋めて、カモが止まるのを口を開けて待っていたのだ。
そこに私がやって来た。
駐車し、バックを助手席にしまい込み、手ぶらで店内へと消える。
犯人達はニヤニヤとそれを見ていたんだ。
お巡りさんに、両サイドの車を覚えてはいないかと聞かれた時、あのスペースは、過去に何度も被害者が出ていた事を、後になって知らされた。
そう言われてみれば、あの時、私が、青ざめて薬局に飛び込んだ時、店長らしき人は淡々と電話機を差し出しただけだった。
店も解っていながら、何の対策も取っていなかった。
私にすれば、あの店もグルだ。

今となれば後の祭り―…

⏰:09/09/16 05:31 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#483 [あき]
両サイドを埋めて、カモが止まるのを口を開けて待っていたのだ。
そこに私がやって来た。
駐車し、バックを助手席にしまい込み、手ぶらで店内へと消える。
犯人達はニヤニヤとそれを見ていたんだ。
お巡りさんに、両サイドの車を覚えてはいないかと聞かれた時、あのスペースは、過去に何度も被害者が出ていた事を、後になって知らされた。
そう言われてみれば、あの時、私が、青ざめて薬局に飛び込んだ時、店長らしき人は淡々と電話機を差し出しただけだった。
店も解っていながら、何の対策も取っていなかった。
私にすれば、あの店もグルだ。

今となれば後の祭り―…

⏰:09/09/16 05:32 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#484 [あき]
もう二度と、車の中に荷物は置いては行かない。

あの事件がなければ、今も、私は仲間に囲まれて、笑い合いながら、大好きな仕事をしていた。

あの事件が無ければ、封印していた、なおちゃんへの想いが、溢れ出なかった。

あの事件がなければ、西条さんを、こんなに壊しはしなかった。

あの事件が無ければ。
私の、こんな―今―は無かった。

そう思う。

また一つ。
私は、人間の汚いエゴによる犯罪被害で。
一生涯消える事のない傷を追った。

⏰:09/09/16 05:41 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#485 [我輩は匿名である]
読んでてすごく悲しくなってしまいました…

これからの展開も楽しみにしてます

⏰:09/09/16 13:29 📱:P904i 🆔:GllBguhA


#486 [あき]
匿名さん、ありがとうございますI
―――――――

交番に来て、もうどれくらいの時間が経ったのかわからなかった。
冷静さを取り戻した私に与えられた形式的な手続きは、淡々と続いた。
壁にかかった時計が、時間の流れを教えてくれる。

―ガチャ

交番の出入口が開く。
お巡りさんが、突然の訪問者に視線を移す。釣られるように何気なく、私も背中を翻えし、出入口に顔を向けた。


『…ど…どうしたの?』

思いもよらない訪問者だった。

⏰:09/09/16 22:58 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#487 [あき]
『大丈夫なのか?』

『…だ…大丈夫な訳ないじゃんかっ……悲惨だよっ…』

その姿を見た瞬間
張りつめていた胸がパンと弾けた。
また涙が溢れる。

『まだ泣いてるのかよっ〃』

『……来てくれたんだっ…』

『仕方ないだろっ。』


憮然とした顔で、仁王立ちしたスエット姿の、なおちゃんが―…

そこにいた。

⏰:09/09/16 23:05 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#488 [あき]
そのまま、なおちゃんは、お巡りさんにペコリと頭を下げると、私の背中の後ろに立つ。

無意味に泣き出す私に、しっかりしろと、小さくパンチした。
その手は暖かくて、優しくて、私の全身を安堵させた。

お巡りさんの、どちら様?の質問に、私は友人ですと答えるのが、精一杯で。
お巡りさんは、ニコリと微笑み、では続きをしましょうと書類に目を移した。

なおちゃんがいる―…

私には、この耐え難い空間を、たったこれだけで。
乗り越えられた気がした。

⏰:09/09/16 23:11 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#489 [あき]
突然のなおちゃん登場から数十分で、全ての手続きが終了。

『では、また何かあれば連絡しますので。遅くまで引き留めましたね。』

『お世話になります…』

私は頭を下げて席を立った。
相変わらず、私の後ろで、仁王立ちをしていたなおちゃんに、視線を移すと、小さく息をして、外に出る。
振り返り、再度頭を下げて、私は彼の背中を追うように外へ出る。
空には、どんよりした厚い雲が覆っていて、無言で歩く私達の間を生ぬるい風がすり抜ける。
空の下月明かり。
目の前をぺたぺたと歩くなおちゃんの背中に…泣けてきた。

⏰:09/09/16 23:23 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#490 [みみ]
>>212-500

⏰:09/09/16 23:29 📱:P905i 🆔:☆☆☆


#491 [みみ]
>>430-500

⏰:09/09/16 23:51 📱:P905i 🆔:☆☆☆


#492 [あき]
『…わざわざ、ごめんね』

小さく呟いてみた。

わざわざ、数時間の道程を私の為だけに来てくれたスエット姿のその背中は、見ず知らずの誰かに無惨にも壊された痛々しい鍵穴。そしてその後、警察によって粉まみれになった。私の愛車…いや、かつての自分の愛車をじっと見つめ…どあほうと呟いた。
しばらくじいっと見つめて、何かを納得したのか、またぺたぺたと歩きだし、くるりと振り返ると、少し垂れ目の、なおちゃんの目が私を見つめる。

『ほらっ…お馬鹿ちゃん!帰るぞっ。!』

そして、そう言った。

⏰:09/09/17 03:38 📱:W64S 🆔:/KbGF3KQ


#493 [か]


…age…
この小説ダイスキです

⏰:09/09/22 20:06 📱:SH904i 🆔:☆☆☆


#494 [我輩は匿名である]
あきサン!
また読めるなんて感激です!

あなたの打つ文章に
一喜一憂し
1からファンな匿名です(笑

あきサンのペースで
頑張ってくださいね☆

⏰:09/09/23 13:03 📱:SH906iTV 🆔:VfwOywow


#495 [あき]
かxさん。
匿名さん。

いつも、ありがとう。

⏰:09/09/24 22:37 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#496 [あき]
『よくわかったね。』

月明かりの下、愛車を駐車場に入れると、壊れた鍵を見つめながら私は、力なく笑った。
アパートの前、先に着いた、なおちゃんは、私に歩み寄り、ふっと優しく笑う。

『勘??』

私は笑える力なんて残ってはいなかったけど、笑ったと思う。

『…そうっ〃』

車の前、二人並んで立ってみた。


久しぶりの、なおちゃんの横は。

心地良かった。

⏰:09/09/24 22:47 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#497 [あき]
『……せっかくだから…入る?』

私は玄関を指差し言った。

『……どちらでも。』

なおちゃんは、そう言いながら、愛車を眺めた。
本当は一人になんてなりたくない。
誰か傍にいて欲しい。
このままじゃ、またなおちゃんに甘えてしまう。
だけど…私の口からはそれが言えなかった。
たった一言のそれが。


『………』
『………』

無言のまま、生ぬるい風が私達の間をすり抜ける。
相変わらず、鍵穴を見つめ、ぶつぶつと、何かを呟いているなおちゃんの背中を見つめていると、突然へなへなと力が抜けた。
駐車場に座り込み、顔を両手で隠して。
また泣けてきた。

⏰:09/09/24 22:53 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#498 [あき]
『なんだよっ…。ったく。』

『だって……どうしよう……』

職場に与える損害額。
それに基づく、私の行く末。
余りにものショック。
胸中はかきむしられる位の不安で不安で。
私の小さな小さな肝っ玉は破裂する。
また泣けてきた。

『…うぜーっ!〃』

なおちゃんは、駐車場に座り込む私の背中をパチンと叩く。

⏰:09/09/24 22:59 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#499 [あき]
『仕方ないから、珈琲の一杯くらい付き合ってやるよ!ほら、立てっ!』

『……うんっ…』


なおちゃんは、慣れた手つきで、ポケットから合鍵を出した。
カチャンと鍵を開けると、慣れた手つきで電気をつける。
私は、呆然と、廊下を突き進みリビングの電気をつけた。
そんな私に、何も言わず、なおちゃんは、どかどかと部屋に上がると、キッチンに立った。
私はフラフラとソファーに座り込み、ただ、なおちゃんが立てる、インスタント珈琲の匂いに包まれていた。

⏰:09/09/24 23:04 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


#500 [あき]
ソファーに二人並び、無言で座る。
ポロポロ流れ出す涙を抑えられない。
そんな私に、なおちゃんは、ただ無言で、隣に座っていた。
どうしようもない悲しさと、どうしようもない不安だけなのに。
何故か暖かい時間が流れた。

『いつまで泣いてんだよっ!』

『…だってぇ…』

『泣いたって何も変わらないだろっ。』

『わかってるけどぉ…』

⏰:09/09/24 23:32 📱:W64S 🆔:RZFU4G8o


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