黒猫の棲むところ
最新 最初 全
#1 [イリア]
:09/03/22 12:11 :W61P :☆☆☆
#2 [イリア]
:09/03/22 12:12 :W61P :☆☆☆
#3 [イリア]
『―…雨よ、猫』
あの人の声が、響く。
『雨は好きよ
雨の音は嫌いだけど』
懐かしい、これは…夢?
『貴方に声をあげる
生きていくための、声を』
:09/03/22 12:14 :W61P :☆☆☆
#4 [イリア]
:09/03/22 12:14 :W61P :☆☆☆
#5 [イリア]
――…………?
目を開けた。
知らない景色。
空が見える
雨でも降りそうな曇天…
:09/03/22 12:15 :W61P :☆☆☆
#6 [イリア]
「…ん?」
何で空が…
―…ガバッッ!!
体を起こすと、
あちこちに痛みが走った。
:09/03/22 12:16 :W61P :☆☆☆
#7 [イリア]
「痛ったぁ…
てか、どこよここ…
って、キャッッ?!!」
ふと体を見ると、
私の体は血まみれ。
:09/03/22 12:17 :W61P :☆☆☆
#8 [イリア]
「え?え?何?
何でこんなに血が…」
でも、
「体は痛いけど…
それにしちゃ血ですぎ…
これ私の血じゃなくない?」
:09/03/22 12:18 :W61P :☆☆☆
#9 [イリア]
あ、そっかー
これ違う人の血だ!
良かった良かった…なんて
「思えるはずないし!
誰の血だよー気持ち悪っ」
そう言いながら、試しに
左腕の血を拭う。
傷はなかった。
:09/03/22 12:18 :W61P :☆☆☆
#10 [イリア]
「何なの本当…
てか、ここどこだよー」
見渡す限りの木、木、木。
林か森か、そのあたりだろう。
林と森の違いなんて
分かんないけど。
:09/03/22 12:18 :W61P :☆☆☆
#11 [イリア]
空を仰ぐ。
さっきは気づかなかったけど
上のほうに崖が見えた。
「あそこから落ちたのかなぁ?
…まさかね、なら死んでるか」
周りには誰もいないので、
もちろん独り言。
:09/03/22 12:19 :W61P :☆☆☆
#12 [イリア]
:09/03/22 12:19 :W61P :☆☆☆
#13 [イリア]
あ、ものすごく紹介遅れました。
私の名前は七衣(ナナイ)。
漢数字の七に、衣(コロモ)。
:09/03/22 12:20 :W61P :☆☆☆
#14 [イリア]
「ふ…ん――ッ!!」
立ち上がり体を伸ばす。
うん、痛いし血は生臭いけど
まぁ歩けるくらいには健康。
:09/03/22 12:21 :W61P :☆☆☆
#15 [イリア]
「てか臭いんだけど…
誰の血か知んないけどさ…」
そう言いながら川を探す。
こんだけ深そうな森(林?)なら
川の一本や二本
流れてそうなところ。
早く、洗い流したい。
:09/03/22 12:22 :W61P :☆☆☆
#16 [イリア]
少し歩くと川があった。
曇天で光のない場所でも、
その水が透明だと分かる。
「ラッキー!
綺麗な水はっけーん!」
私は水に近づくと、
ボロボロの衣服を捲(メク)りながら
体から血を洗い流す。
:09/03/22 12:22 :W61P :☆☆☆
#17 [イリア]
流石に全裸は嫌なので
胸などは洗えなかったが、
見えるところは大分綺麗になった。
:09/03/22 12:23 :W61P :☆☆☆
#18 [イリア]
「もうそろそろいいかな…
ほんじゃ行くかぁ」
誰かに言った訳じゃないけど、
まぁ気持ちを高めるために声を出す。
私は川を逆流するように歩き始めた。
:09/03/22 12:23 :W61P :☆☆☆
#19 [イリア]
何分か歩くと、川から流れる水の色に
少し赤が混じっていた。
血かなー
今日は何か、血にご縁が…
:09/03/22 12:24 :W61P :☆☆☆
#20 [イリア]
「―…て、何で冷静なの私!」
一人突っ込みを入れると走り出した。
体は痛かったが、川の赤色からして
川上に傷を持った人がいるのだろう。
:09/03/22 12:24 :W61P :☆☆☆
#21 [イリア]
「ハァッ…ハァッ…誰かいますかー?」
―…
返事はない。
:09/03/22 12:24 :W61P :☆☆☆
#22 [イリア]
「んー?確かに血だと
思ったんだけど…」
霧がかってきたのか、
少し見えずらい前を
必死に見据える。
:09/03/22 12:26 :W61P :☆☆☆
#23 [イリア]
すると、赤黒いものが
川と地面ギリギリのところ見えた。
「―…?何あれ…」
ゆっくり近づこうとすると、
それが川に流されかける。
:09/03/22 12:27 :W61P :☆☆☆
#24 [イリア]
「あ!待って!」
私はそれに走って近づき、
両手で抱き上げた。
:09/03/22 12:28 :W61P :☆☆☆
#25 [イリア]
「猫……?」
最初は人形かなんかだと思ったが、
抱き上げてみるとそれは
確かに熱をもった…生きた猫だった。
:09/03/22 12:28 :W61P :☆☆☆
#26 [イリア]
「すっごいぐったりしてる…
傷だらけだし…この子の血が
流れてきてたのか…」
私は猫の体を水で少しずつ洗う。
意識はないようだが
水が傷に染みて痛いのか、
たまに体をビクッと跳ねさせた。
:09/03/22 12:29 :W61P :☆☆☆
#27 [イリア]
「ごめんね?痛い?
でもばい菌入っちゃ大変だから…」
その前にこの川、本当に綺麗だろうな?
でも、見る限りは透明だし…うん。
:09/03/22 12:30 :W61P :☆☆☆
#28 [イリア]
猫の体は、私と違って傷だらけだった。
だけど血は既に止まっているらしく
洗い流すと美しい黒毛が見えた。
:09/03/22 12:30 :W61P :☆☆☆
#29 [イリア]
「…うわ…綺麗な毛並み…
金持ちの猫だね、これは」
クシュン!
―…くしゃみ?
:09/03/22 12:31 :W61P :☆☆☆
#30 [イリア]
「猫ってくしゃみするんだ…
てか、寒いよね。
どこか暖まれるとこ…」
私は猫を腕で抱きかかえながら
歩き出した。
:09/03/22 12:31 :W61P :☆☆☆
#31 [イリア]
するとさっきまで曇天だった空から
ポツポツと雨が降ってきた。
「雨ー?!もう最悪じゃん!!」
:09/03/22 12:33 :W61P :☆☆☆
#32 [イリア]
走ってどこか雨を
凌(シノ)げる場所を探す。
少しすると、洞穴が見えた。
すぐにそこに走り込む。
:09/03/22 12:33 :W61P :☆☆☆
#33 [イリア]
「ふー良かった…
とりあえずこれで濡れずにすむね。
猫さんごめんね、大丈夫?」
猫はまだ意識が戻ってないらしく
ぐったりとしていた。
:09/03/22 12:34 :W61P :☆☆☆
#34 [イリア]
>>23×川と地面ギリギリのところ見えた
○川と地面ギリギリのところに見えた
すいません(゚д゚)
:09/03/22 12:41 :W61P :☆☆☆
#35 [イリア]
「…大丈夫かな、猫さん…」
少しでも寒くないように
猫を覆(オオ)うよう抱きしめる。
「…早く元気になってね」
:09/03/22 15:16 :W61P :☆☆☆
#36 [イリア]
ザ―…
本格的に降り出した雨が
私の心を軽やかにした。
:09/03/22 15:17 :W61P :☆☆☆
#37 [イリア]
:09/03/22 15:18 :W61P :☆☆☆
#38 [イリア]
その揺りかごが風に揺れて
私は大きくなった
私は風にさらわれて
もうあなたは見えない―…
:09/03/22 15:18 :W61P :☆☆☆
#39 [イリア]
「懐かしいなあー…イタッ!」
―……?
一瞬、頭に痛みが走る。
何か、何か…
私は―……?
:09/03/22 15:19 :W61P :☆☆☆
#40 [イリア]
ビクッ
猫が腕の中で跳ねた。
ハッとする。
「…あ…起きた…?
こんにちはー…こんばんは?」
:09/03/22 15:20 :W61P :☆☆☆
#41 [イリア]
さっきの変な感じに
少し焦りながらも
私は目覚めた猫に話しかける。
タッ
「…あ」
猫は私の腕から飛び出し、
洞穴の向こう側で私を見据えた。
:09/03/22 15:20 :W61P :☆☆☆
#42 [イリア]
「…何よー
そんなに威嚇(イカク)しなくても…
私は一応、
あんたを助けたのにさーって
まぁ猫に言っても仕方ないか…」
独り言。
そろそろ誰かと
会話がしたい頃だけど
生憎(アイニク)そんな相手はいない。
あ、でも猫に言ってるから
ふたりごと?
:09/03/22 15:21 :W61P :☆☆☆
#43 [イリア]
ザ―…
「雨だねー…」
一応、少し遠くで私を威嚇する
黒猫さんに話しかけてみる。
:09/03/22 15:23 :W61P :☆☆☆
#44 [イリア]
:09/03/22 15:23 :W61P :☆☆☆
#45 [イリア]
ピクッ
猫の私を見る瞳(メ)が変わる。
何も映さなかった漆黒の瞳に、
私が映った。
:09/03/22 15:24 :W61P :☆☆☆
#46 [イリア]
少し私を見つめたあと、
ゆっくりと一歩
猫は私のほうに足を進めた。
「どうしたの…?」
その時
:09/03/22 15:24 :W61P :☆☆☆
#47 [イリア]
ピカッ
「キャッ!」
雷が光った。
すぐに大きな音がする。
「…びっくりしたぁ…
落ちたよね、近そうだな…」
:09/03/22 15:25 :W61P :☆☆☆
#48 [イリア]
すると猫は私からまた体を遠ざけ、
タッ と洞穴の外に駆け出す。
「…え?ちょっ!危ないよ!
雨降ってるから!雷も落ちたし!
戻りなよーッ!!」
すぐに猫の姿は視界から消え、
私の声だけ虚(ムナ)しく響いた。
:09/03/22 15:26 :W61P :☆☆☆
#49 [イリア]
:09/03/22 15:26 :W61P :☆☆☆
#50 [イリア]
数時間経っただろうか。
雨は上がり、
空は元の曇天に戻った。
「…そろそろ私も行くかぁ」
:09/03/22 15:31 :W61P :☆☆☆
#51 [イリア]
それにしても…
「さっきの黒猫、大丈夫かなぁ?
血は止まってたけど
傷だらけだったし…」
まぁ今更心配しても仕方ない。
それに猫は死ぬとき
誰にも見られない場所に
行くというし…
:09/03/22 15:32 :W61P :☆☆☆
#52 [イリア]
「…なに物騒なこと
考えてんの私…
とにかく」
あの猫が、生きてますように。
私は足を止め、空を仰ぎ、
いるかも分からない神に祈った。
:09/03/22 15:33 :W61P :☆☆☆
#53 [イリア]
さっき私と黒猫の体を清めてくれた、
あの川まで戻る。
「…帰ろう」
ガザッ
木の揺れる音がして
後ろを振り返る。
:09/03/22 15:33 :W61P :☆☆☆
#54 [イリア]
:09/03/22 15:34 :W61P :☆☆☆
#55 [イリア]
:09/03/22 15:34 :W61P :☆☆☆
#56 [イリア]
「…誰か…ッ…いるの…?!
誰か…キャッ!!」
私の声は、誰か、によって遮られた。
後ろから手のひらで
口を塞(フサ)がれているような
感触はあるが、姿は見えない。
:09/03/22 15:34 :W61P :☆☆☆
#57 [イリア]
「…フッ…ン―ッ!!」
必死に声を出し、
手を退かせようと抵抗するが、
まったく力ではかなわない。
:09/03/22 15:35 :W61P :☆☆☆
#58 [イリア]
「――……やっと見つけた…
麗しの君…いや…元、君主…
…雨原(アマハラ)の血―…!!」
「??!!」
後ろから声がした。
低く、暗く、響く声。
:09/03/22 15:36 :W61P :☆☆☆
#59 [イリア]
声を出すと同時に
一瞬緩められた手を
思いっきり口からずらし
声を張り上げる。
「…プハッ!離して!離してよ!
何あんた…何で見えないの…
誰がいるの…
私の目がおかしいの…?」
:09/03/22 15:37 :W61P :☆☆☆
#60 [イリア]
泣きそうになる。
ただ、怖かった。
前にもいつか、
こんなことを体験した気がして。
そしてその後、
闇に落ちた、気がして。
:09/03/22 15:38 :W61P :☆☆☆
#61 [イリア]
「ははは…そうだ、
お前の目がおかしい…
人の目は常に、
大事なものから目をそらす。
そう特に、お前ら雨原一族はな。」
すぐ後ろから声がする。
:09/03/22 15:40 :W61P :☆☆☆
#62 [イリア]
「…アマハラ…?
何訳分かんないこと言って…
痛いのよ!…さっさと離して!!
私は帰らなきゃいけないんだから!」
「どこへ?」
どこへ?
:09/03/22 15:41 :W61P :☆☆☆
#63 [イリア]
さっきも思った。
帰らないと。
みんな待ってる。
帰ろう
帰ろう
帰ろう
:09/03/22 15:42 :W61P :☆☆☆
#64 [イリア]
:09/03/22 15:42 :W61P :☆☆☆
#65 [イリア]
―……!!
さっき黒猫と一緒にいたとき
思ったこと。
私は―…
私は………
誰?
:09/03/22 15:43 :W61P :☆☆☆
#66 [イリア]
「お前に帰る場所は、もうない。
お前たちは裏切った。
俺たちを…妖(アヤカシ)を…」
「―…?!」
:09/03/22 15:44 :W61P :☆☆☆
#67 [イリア]
「あぁ君主、我らの新しい君主よ。
今、過去の憎しみの一欠片(ヒトカケラ)
壊してみせましょうぞ……!!」
ゾクッ..
後ろにいる誰かの声に
恐怖を覚える。
:09/03/22 15:45 :W61P :☆☆☆
#68 [イリア]
刃が見えた。
鋭く尖った、銀色の。
ただ真っ直ぐに
私に向かってくる。
「―……イヤッッ!!!!」
目を、閉じた。
:09/03/22 15:45 :W61P :☆☆☆
#69 [イリア]
キーン―…
――……?
痛くない…
金属と金属がぶつかる音。
恐る恐る目を開くと、
私のすぐ前に誰かの背中が見えた。
:09/03/22 18:28 :W61P :☆☆☆
#70 [イリア]
私に向けられていた刃は
その人の持つ刃と交差(コウサ)し
動けないようだ。
「キャッ!」
目の前にいる人が、
私の腕を引っ張る。
:09/03/22 18:28 :W61P :☆☆☆
#71 [イリア]
少年?
青年?
「―…誰?」
「――…ッッ!!お前は!!
アスタリスクの――ッッ!!」
私の傍(ソバ)で、
さっきの低い声がする。
:09/03/22 18:29 :W61P :☆☆☆
#72 [イリア]
「…へぇ、俺を知ってるの?
劇団の常連さんかな…」
その人はクスッと笑い、言葉を続ける。
「でも、お客様。
マナーがなっていませんね、
俺と会話がしたいときは」
:09/03/22 18:29 :W61P :☆☆☆
#73 [イリア]
ザッ
刃の矛先を変える。
私のすぐ横に。
「あっ危なッ!!
何するんです―…」
「ギャアアアア!!!!!」
「…え?」
:09/03/22 18:29 :W61P :☆☆☆
#74 [イリア]
「…姿を見せてくれないと。
アンフェアは嫌いなんだ。
特に、俺が不利になることなんて。」
:09/03/22 18:30 :W61P :☆☆☆
#75 [イリア]
横を見ると、
刃に貫かれ左腕から血を流す……
「…え…鬼ッ…?」
そこにいたのは、
人間ではなかった。
鬼のような…
そういえばさっきこいつ、
妖がどうのこうのって……
:09/03/22 18:30 :W61P :☆☆☆
#76 [イリア]
「ウウウ…アスタリスクの…
まさかこんなところに…」
「鬼か…人間を襲う妖なんて
俺たちの舞台の客に相応しくない」
:09/03/22 18:31 :W61P :☆☆☆
#77 [イリア]
舞台?客?何の話…?
「…クッ…アスタリスクッッ!!!!!」
目の前の鬼が叫ぶ。
:09/03/22 18:33 :W61P :☆☆☆
#78 [イリア]
「何故…何故、貴様等は
人間を庇う!
半妖とて、妖は妖!!
ずっとこちら側で生きてきた…
何故いまお前らは、
人間の側に立つ!!」
:09/03/22 18:33 :W61P :☆☆☆
#79 [イリア]
「クスッ、どうだろう?
俺としては、人間の側に
立ってるつもりはないし…」
少年は妖艶に微笑むと、
また刃を振り下ろす。
:09/03/22 18:34 :W61P :☆☆☆
#80 [イリア]
「…てめぇら(妖)の側に
立ってたつもりもない」
刃は無惨にも鬼を貫き、
鬼は砂のように落ちる。
:09/03/22 18:34 :W61P :☆☆☆
#81 [イリア]
「…ソノ、女……アマ…ハラ」
「…クシュン!!」
少年がくしゃみをしたとき、
鬼は形をなくし、砂になり
空に舞った。
:09/03/22 18:34 :W61P :☆☆☆
#82 [イリア]
:09/03/22 18:35 :W61P :☆☆☆
#83 [イリア]
「…あ、あの…」
私は声をだし、
目の前の少年に話しかける。
聞きたいことだらけで、
あー何か…現実だよね?ここ…
:09/03/22 18:35 :W61P :☆☆☆
#84 [イリア]
「あーまじ風邪気味。」
少年は鼻を少しぐずつかせると
私のほうを見た。
うわ………
:09/03/22 18:36 :W61P :☆☆☆
#85 [イリア]
細身の体に
筋のいい鼻
綺麗な肌に
漆黒の瞳と、髪。
その全てがよく映える
滑らかな黒コートに
身を包んでいる。
:09/03/22 18:36 :W61P :☆☆☆
#86 [イリア]
俺、という一人称と
さっきの声から
男だとは思うが、
見た目は妖艶な女性といっても
間違いではないくらい
「―…綺麗…」
「は?」
目の前の人が不思議そうな顔で
私を覗きこんできた。
:09/03/22 18:38 :W61P :☆☆☆
#87 [イリア]
「ふぇっ?!いえ別に!
何でもありません!
あ、助けてくれて
有難う御座います!!」
一気にこれだけいうと、
私は顔を下に向けた。
少年の顔は私から近く、
なんていうか…
:09/03/22 18:39 :W61P :☆☆☆
#88 [イリア]
「恥ずかしい…」
「…だから、何」
「え?あ、すいません!
本当に何でもないです!」
:09/03/22 18:39 :W61P :☆☆☆
#89 [イリア]
あまりに貴方が綺麗すぎて
見とれてしまいました、なんて
初対面の相手に
言えるはずないでしょ!
:09/03/22 18:39 :W61P :☆☆☆
#90 [イリア]
「…まぁ何でもいいけど。
あんたさ、名前は?」
「あ…七衣です。」
「ふぅん…」
「あの…貴方は…?」
:09/03/22 18:40 :W61P :☆☆☆
#91 [イリア]
「俺?俺は名前なんていらないし」
「えー…でも、呼びづらいですよ…」
「…呼び名くらいはある
団員や客からは…」
:09/03/22 18:40 :W61P :☆☆☆
#92 [イリア]
そう言うと彼は、
少しずつ顔をあげてきた私の目を見て
こう言った。
「黒猫、って呼ばれてる」
:09/03/22 18:41 :W61P :☆☆☆
#93 [イリア]
「……黒猫?」
黒猫って…
さっきの傷だらけの
猫を思い出す。
感じは似てる気もするが、
でも…
まさか、ね。
:09/03/22 18:41 :W61P :☆☆☆
#94 [イリア]
「正確には、それをもじって
クロ、とかネコ、とかだけど。
まぁあんたも好きに呼べばいい」
「…あ、はい…
それでさっきから言ってる
劇団とか団員…て…?」
:09/03/22 18:43 :W61P :☆☆☆
#95 [イリア]
?「それは僕が説明しよう!」
ガザッ という音と同時に、
男性が一人、勢いよく
林の陰から飛び出してきた。
七「えッ??!!」
猫「…うぜー…」
:09/03/22 19:29 :W61P :☆☆☆
#96 [イリア]
?「やぁ、初めまして
可愛らしいお嬢さん♪
時にネコくん、
今うぜーって言った?
団長の僕に対して、
今うぜーって
言ったあああぁぁあ!!!!!!」
:09/03/22 19:29 :W61P :☆☆☆
#97 [イリア]
猫「うっせーんだよ狐(キツネ)!!
いい大人がそんくらいで
半べそかいてんじゃねえ!!」
狐「ふん、君も狼(ロウ)くんも
いい大人、いい大人って…
僕はまだ25ですぅー
ピチピチなんですぅー
結婚なんてまだまだまだ…」
:09/03/22 19:30 :W61P :☆☆☆
#98 [イリア]
猫「誰もてめぇの結婚論なんて
聞いちゃいねーんだよ、カス」
狐「うわ、今度はカスって
言ったあああぁぁあ!!!!!
ふんだ、もういいもんね。
次の舞台の主役は君じゃなく
狼くんに任せるもんね」
猫「好きにしろ」
:09/03/22 19:31 :W61P :☆☆☆
#99 [イリア]
狐「ふん、強がっちゃって…
時にお嬢さん」
七「…え?あ、はい!」
狐「僕と結婚しない?」
ボコツ!
黒猫さんが、
狐と呼ばれた人を殴った。
:09/03/22 19:31 :W61P :☆☆☆
#100 [イリア]
狐「今度は殴ったあああぁぁあ!!!」
猫「てめぇ本当、いい加減にしろよ。
何のためについてきたんだ、あ?」
:09/03/22 19:32 :W61P :☆☆☆
#101 [イリア]
「ふんだ、ふんだ…
よくもまぁこんな綺麗な顔して
カスだのてめぇだの
言えたもんだよ…
お客さんが君の本性知ったら
僕らの劇団終わりだね」
「…てめー」
:09/03/22 19:34 :W61P :☆☆☆
#102 [イリア]
「あーはい!ごめんなさい★
えーではさっそく、お嬢さん!」
「あ、はい!」
二人のやり取りを
口をポカンと開けて見ていた私は、
ハッと意識を戻す。
:09/03/22 19:34 :W61P :☆☆☆
#103 [イリア]
狐「いやぁさっきは怖かったね!
あれは悪い妖だから気をつけてね!
あ、そうそう、僕の名前は狐。
アスタリスクっていう劇団の
団長をやらせてもらってる。」
七「…アスタリスク…?」
さっきの鬼も、そんなこと…
:09/03/22 19:35 :W61P :☆☆☆
#104 [イリア]
狐「そう、アスタリスク。
聞いたことあるかな?
僕が言うのもアレだけど、
結構有名なんだよねー!!」
七「…あ…すいません…
私なんか…自分の名前くらいしか
覚えてなくて…ってことに、
今さっき気がついて…」
:09/03/22 19:36 :W61P :☆☆☆
#105 [イリア]
狐「………へぇ…?」
そう言うと狐は
さっきまでのちゃらけた感じとは
真逆の笑みで七衣を見た。
:09/03/22 19:36 :W61P :☆☆☆
#106 [イリア]
七「…狐さん…?」
狐「…ん?いや何でもないよ!
ごめんごめん!
いや、なに、アレさ!
僕らの劇団を知らないって
いうもんだから、
ちーとばかりショックをね…」
:09/03/22 19:37 :W61P :☆☆☆
#107 [イリア]
七「…ごめんなさい…」
狐「いや何!
記憶喪失というなら
いた仕方ない!!」
七「…はぁ」
:09/03/22 19:37 :W61P :☆☆☆
#108 [イリア]
狐「そんな七衣ちゃんに
軽ぅ〜く説明するとだね、
アスタリスク劇団というのは
巷じゃ人気、まぁ色んな意味でね!
人間に言わせると
イケメン揃いの移動劇団、
妖に言わせると
裏切り者の殺戮奇術(サツリクキジュツ)、
アスタリスク劇団!」
:09/03/22 19:38 :W61P :☆☆☆
#109 [イリア]
七「裏切り者…?」
狐「うん、
さっきの鬼も言ってたけど
僕らは半妖。
普段は人間の姿でいるけど、
こうやって…」
そう言うと狐は、
左手で自分の頬に触れた。
:09/03/22 19:39 :W61P :☆☆☆
#110 [イリア]
ボンッ!
「キャッ?!
――……え?」
私の目の前にいたのは
:09/03/22 19:41 :W61P :☆☆☆
#111 [イリア]
七「…き、きつね…?」
狐はコクン、コクンと頷くと、
右手を自分の頬にあて、
またボンッ と人間の姿に戻った。
:09/03/22 19:41 :W61P :☆☆☆
#112 [イリア]
狐「まぁ、こんな感じ。
気持ちをこめて頬に触れると
僕らは元の姿に戻れる。」
七「…信じられない…でも…
…ってことは」
私は狐さんの横で
腕組みをしている少年に話しかけた。
:09/03/22 19:42 :W61P :☆☆☆
#113 [イリア]
「…あのときの…黒猫さん…?」
「………ふん」
黒猫が、鼻を小さく鳴らした。
:09/03/22 19:43 :W61P :☆☆☆
#114 [イリア]
狐「あ!そうそう!
ネコくんのこと、
助けてくれたんだってね!
いやぁ有難う!」
七「助けたなんて…
私別に何も…」
:09/03/22 19:43 :W61P :☆☆☆
#115 [イリア]
狐「いやいやいや!
川の水で血を清めて、
雨からも守ってくれたんだろ?
凄いよ君、
見ず知らずの半妖をさ!
ネコくんに話を聞いたときは
感動しすぎて鼻水が出たよ!
あ、もちろんその前に
涙も出てるよ?
さぁ、君の無垢(ムク)で
美しい心に乾杯!
流石ネコくんがスカウトしたいと
いうくらいだよ!!
マリア様と呼ばせてもらっても
いいかい?」
:09/03/22 19:45 :W61P :☆☆☆
#116 [イリア]
七「マリア様はちょっと…
っていうか、
川…雨…スカウト…?」
猫「あの川、俺たち妖にとって
怪我に何よりも効く薬なんだ。
あと妖は雨が苦手。
雨が降ってると
力があまり出せない。」
:09/03/22 19:46 :W61P :☆☆☆
#117 [イリア]
黒猫さんが答えてくれた。
いや、でもあなた
私が止めるのも聞かず、
雨の中飛び出して
いきましたよね…?
まぁ、それは言わないでおこ。
:09/03/22 19:47 :W61P :☆☆☆
#118 [イリア]
七「もう、怪我はいいんですか?」
猫「…あんたのお陰で、何とか。
もともと血は止まってたしな」
良かった…口には出さなかったが、
代わりに私は口元を緩めた。
:09/03/22 19:48 :W61P :☆☆☆
#119 [イリア]
狐「ちょっと、僕を置いて
ラブラブしないでくれる?」
猫「いつラブラブしたよ、あ?」
狐「またそんな
えげつない声出すぅー
もぉーネコくんったら
顔と声と性格が合ってないぃー
僕の劇団の花形俳優ってとこ、
もう少し自覚して
欲しいとこだよね、まったく」
:09/03/22 19:50 :W61P :☆☆☆
#120 [イリア]
>>115続きになってしまった(゚д゚)
読んで下さってる方
もしいましたら
感想・アドバイスなど
頂けると嬉しいです(;_;)
:09/03/22 19:52 :W61P :☆☆☆
#121 [イリア]
猫「…狐…」
狐「コホン!
えー話が大分ズレましたが!
僕らアスタリスク劇団の主な仕事は
昼間は人間、たまに妖の
心のオアシスともなりえる
大人気!移動劇団!!」
:09/03/22 19:59 :W61P :☆☆☆
#122 [イリア]
七「…はぁ」
狐「しかし!もう一つの姿は
最近、罪なき人間を
襲うようになった
怖ぁ〜い妖を退治する
ハンター集団!
…さっきの、
ネコくんみたいにね♪」
:09/03/22 19:59 :W61P :☆☆☆
#123 [イリア]
七「…ハンター…」
狐「そう♪かっこいいでしょ★
って言っても、
悪い妖ばっかじゃないんだよ?
ちゃんと人間と共存しようと
努力してる妖もいる。」
:09/03/23 13:51 :W61P :☆☆☆
#124 [イリア]
七「…あの…それで…
さっきの鬼が言ってた、
アマハラ…?って、
何のことですか…?」
ピクッ
空気が変わる
狐さんからは
おちゃらけた笑みが消え、
黒猫さんは私から目をそらす。
:09/03/23 13:52 :W61P :☆☆☆
#125 [イリア]
七「…あの…?汗」
何か…聞いちゃいけない
ことだったかな?
でもでもでも!
鬼は間違いなく
私のことアマハラ一族だって…
:09/03/23 13:52 :W61P :☆☆☆
#126 [イリア]
七「あ、あの!
言いづらいことだったら
ごめんなさい!
でも私…さっきも言ったけど
自分のこと…何も覚えてなくて…」
猫「―……何も…?」
どもりながらも必死に言うと、
黒猫さんが、私に話しかけてきた。
:09/03/23 13:52 :W61P :☆☆☆
#127 [イリア]
七「何も!本当に何も!!
あ、名前と…あと、
日本語は一応喋れますけど!
なんていうか…どこに」
:09/03/23 13:53 :W61P :☆☆☆
#128 [イリア]
どこに
誰が
マ ッ テ ル ?
七「…どこに…行けばいいか…」
:09/03/23 13:53 :W61P :☆☆☆
#129 [イリア]
狐「―…ふぅ…ネコくん、
どう思う?本当にこの子、
雨原の子かい?」
猫「フフン、頭だけじゃなく、
ついに嗅覚まで
イカれちまったか、狐。
お前は匂わないのか?
この血は…」
:09/03/23 13:53 :W61P :☆☆☆
#130 [イリア]
黒猫さんは私の腕を掴み
自分のほうに寄せた。
七「キャッ!」
猫「――……間違いなく、
雨原の血だ」
:09/03/23 13:55 :W61P :☆☆☆
#131 [イリア]
そう言うと黒猫さんは
掴んでいた私の腕を舐め、
血を拭った。
:09/03/23 13:55 :W61P :☆☆☆
#132 [イリア]
七「――ッッ!!!!!!キ!!キャアアー!!!!///」
キ――ン……
あたり一面に
私の叫び声が轟(トドロ)く。
:09/03/23 13:56 :W61P :☆☆☆
#133 [イリア]
狐「―…120dB(デシベル)…笑」
猫「…煩(ウルサ)いな、何だよ?」
七「な、何だよじゃないですよ!
いま…いま…私の腕、
舐めたでしょっ?!」
:09/03/23 13:56 :W61P :☆☆☆
#134 [イリア]
猫「フフン、何あんた、
こんくらいで照れるわけ?
顔真っ赤だよ?」
七「な、な、な、
慣れて…ないもんで…」
猫「って、ことは」
:09/03/23 13:57 :W61P :☆☆☆
#135 [イリア]
グイッ
顎(アゴ)をもたれ、無理矢理顔を
近づけさせられる。
猫「―…誰かと唇を重ねたことは?」
:09/03/23 13:57 :W61P :☆☆☆
#136 [イリア]
七「なっ…////」
綺麗な顔がすぐ目の前にある。
何この人!慣れすぎでしょ!//
七「はなはなはな、離して下さい!」
猫「クス、いいよ」
:09/03/23 13:58 :W61P :☆☆☆
#137 [イリア]
:09/03/23 13:58 :W61P :☆☆☆
#138 [イリア]
狐「ちょっとちょっとネコくん。
本当にキスするかと思ったよー
駄目だよ?七衣ちゃんって
何もかも処女みたいだしさ?
優しくしなきゃ〜」
七「何もかもって…
てか、処女っ…?!//」
:09/03/23 13:59 :W61P :☆☆☆
#139 [イリア]
猫「何あんた?記憶がないくせに
処女とか、そういう言葉は
覚えてるんだ、ふーん。」
ニッコリ笑って
こっちを見る黒猫さん。
さ、さっきまでは
私から目を
そらしてたくせに…!!///
:09/03/23 14:01 :W61P :☆☆☆
#140 [イリア]
狐「はいはい、お二方、
そろそろ話を
元に戻しましょうかね、
うん、確かに七衣ちゃんからは
雨原一族の血の匂いがする。」
七「…アマハラ…」
:09/03/23 14:01 :W61P :☆☆☆
#141 [イリア]
狐「雨に、原っぱの原で、雨原。
一人一人が雨に関する
何かしらの力を持ってて…
さっきも話した通り、僕ら妖は
雨が大の苦手。
だからその力で雨雲なんか
呼ばれた日にゃ、
僕らなんかまったく
太刀打ちできないって訳。」
:09/03/23 14:02 :W61P :☆☆☆
#142 [イリア]
七「なんか…おとぎ話みたい」
猫「現実だけどね」
狐「そう、まさしく現実。
僕らが生きてる世界だ。
―…だから僕らは今まで」
雲が出る。
もう一雨きそうな曇天。
:09/03/23 14:02 :W61P :☆☆☆
#143 [イリア]
狐「――……雨原一族を、
見つけしだい…殺してきた」
え…
いま何て…
:09/03/23 14:03 :W61P :☆☆☆
#144 [イリア]
狐「大丈夫、まだ続きがあるんだ。
もう何百年も昔から、
妖と人間は、戦い続けてきた。
共存なんて無理だ。
妖を人間を喰らうし、
人間は妖を恐れ殺す。
…僕ら半妖は一応、
妖側として戦争に参加していた。」
:09/03/23 14:03 :W61P :☆☆☆
#145 [イリア]
七「………」
狐「ずっと…ずっと、ね?
そこで少しずつ、
頭角(トウカク)を表してきたのが
雨原一族。君の一族だ。」
:09/03/23 14:04 :W61P :☆☆☆
#146 [イリア]
七「私の…?」
狐「妖にとっての最大の弱点。
雨を呼ばれ、妖は一時期
本当に滅亡しかけた。だけど」
七「…だけど?」
:09/03/23 14:05 :W61P :☆☆☆
#147 [イリア]
狐「…あるとき急に、
雨原一族が妖側に言ったんだ。
【そちらで丁重に扱って頂けるなら
私達、雨原一族は妖側に立ちます】
…って、ね。」
:09/03/23 14:05 :W61P :☆☆☆
#148 [イリア]
ポツポツ…
少しずつ、雨が降り出す。
黒猫さん、狐さん
大丈夫なのかな?
:09/03/23 14:06 :W61P :☆☆☆
#149 [イリア]
狐「そうして、雨原一族は
僕らの君主になった。
……雨だ、場所を変えよう」
猫「…いや…」
七、狐「?」
:09/03/23 14:06 :W61P :☆☆☆
#150 [イリア]
猫「ここで、話してしまおう。
どちらにしろ早く話さないと
そろそろ麗(レイ)が気づく」
狐「麗ちゃん嗅覚いいもんねー
もうバレてるかも…で、
どこまで話したかな?
あ、そうそう。それで数十年は
うまくいってた。」
:09/03/23 14:06 :W61P :☆☆☆
#151 [イリア]
七「…どうして雨原一族は
人間を裏切ったんですか?」
狐「―…さぁ…それは僕らにも
分かんないな。」
そう言った狐さんの横顔は
何故か少し寂しそうだった。
:09/03/23 14:07 :W61P :☆☆☆
#152 [イリア]
狐「うん、でもまたある時
雨原一族は僕ら妖を裏切った。」
七「―――……え?」
:09/03/23 14:07 :W61P :☆☆☆
#153 [ちー]
ここ好きー(゚∀゚)
続きまってるー
:09/03/23 14:25 :SH902iS :☆☆☆
#154 [イリア]
>>153ちー様
あわわ(゚д゚)
もったいないお言葉
有難うございます(;_;)
初コメにものすごく
感動してます(´;ω;`)←
駄文だし更新もまちまちですが、
最後まで頑張るので
また見て頂ければ
嬉しいです\(^O^)/
コメントありがとう
ございました★
:09/03/23 23:52 :W61P :☆☆☆
#155 [イリア]
:09/03/23 23:53 :W61P :☆☆☆
#156 [イリア]
狐「驚いたよ、あれだけ仲良く…
って言っても、
主従関係だけどね。
何故?って思った。
雨原一族と妖で」
雨が本格的に降り出す。
川の表面にあたる雨は
広がり、波音を残し
…また、消える。
:09/03/23 23:54 :W61P :☆☆☆
#157 [イリア]
狐「…愛し合ってた人も、
いたのにさ。」
狐さんの声はもう、
雨音に混じりかき消され
聞き取りずらい。
猫「…関係なかったんだろ、
結局…雨原も人間だったってことだ
血には逆らえない。」
:09/03/23 23:55 :W61P :☆☆☆
#158 [イリア]
狐「妖は雨原一族を憎んでる。
新しい君主のもと、雨原の血を
途絶えさせるべく
全国に散らばってる。
だけど雨原だって
黙っては殺(ヤ)られない。
雨を呼び、妖を殺す。
そして、行き場のない
妖たちの憎しみは、
関係のない人間を殺す…
…悪循環だ」
:09/03/23 23:57 :W61P :☆☆☆
#159 [イリア]
七「―…私も殺すんですか?」
狐「え?」
七「なら、さっき
助けてくれないで良かったのに。
あのまま鬼に殺されておけば、
少しはあの鬼の憎しみも
取れたかもしれない。」
:09/03/23 23:57 :W61P :☆☆☆
#160 [イリア]
狐「…七衣ちゃん…」
七「だって、話だけ聞くと、
雨原一族って何なんですか。
あっち行きこっち行き…
そんなの妖に憎まれたって
文句言えないですよ、ね?」
:09/03/23 23:58 :W61P :☆☆☆
#161 [イリア]
猫「…まったく、正論だ」
狐「うん、記憶がないとはいえ
雨原の匂いがする人間に
こんなこと言われると…
不思議な気持ちだねぇ」
:09/03/23 23:58 :W61P :☆☆☆
#162 [イリア]
七「…あはは
殺すなら、殺してくれて
かまいませんよ。
…どうせさっきみたいな
鬼がきたら、
逃げられないんだし」
:09/03/24 00:00 :W61P :☆☆☆
#163 [イリア]
どうせ死ぬなら
今、死にたい。
私は貴方達には
殺されない。
…もう、
貴方達の思い通りには
ならないのよ。
:09/03/24 00:02 :W61P :☆☆☆
#164 [イリア]
頭の中で、美しい声が響いた。
いつか、どこかで、
誰かに言われた。
美しい人。
美しい唄。
:09/03/24 00:04 :W61P :☆☆☆
#165 [イリア]
ずっと前だった気もするし
つい最近のような気もする。
…誰だったかな?
:09/03/24 00:04 :W61P :☆☆☆
#166 [イリア]
猫「あんたを殺して、
それでおしまい。
そうしたい。簡単だ。
…ところが、
そうはいかない。」
七「え?」
:09/03/24 00:05 :W61P :☆☆☆
#167 [イリア]
黒猫さんは一瞬
私の目を見たあと、
空を仰ぎながら、喉を鳴らす。
:09/03/24 00:06 :W61P :☆☆☆
#168 [イリア]
その揺りかごが風に揺れて
私は大きくなった
私は風にさらわれて
もうあなたは見えない―…
雨の音 風の声 聴いて
揺りかごを揺らして
早く私を迎えにきて――……
:09/03/24 00:07 :W61P :☆☆☆
#169 [イリア]
美しい声
この声を聞きながら死ねたら
どれほど幸福なんだろう。
どれほどの痛みで
魂と躯(カラダ)は
別れを告げあうのだろう。
それにこの唄…
さっき私が歌った…?
:09/03/24 00:10 :W61P :☆☆☆
#170 [イリア]
パチパチパチ
狐さんが拍手をした。
狐「いやあ!流石花形俳優!
美声だね〜思わず聞き惚れた!」
:09/03/24 00:10 :W61P :☆☆☆
#171 [イリア]
猫「フフン、当たり前。
あんたさ、さっきこの唄
歌ってなかった?
ほら、怪我した俺を洞穴に
連れてってくれたとき。」
:09/03/24 00:11 :W61P :☆☆☆
#172 [エ]
今めっちゃ読んでました
いいですね★
これからも読みます
:09/03/24 01:03 :W51CA :☆☆☆
#173 [イリア]
>>172e様
(´д`⊂。)
コメントありがとうございます!
もう本当に本当に嬉しいです(;_;)
e様のコメ見て、眠気が
一気に吹っ飛びました。笑
これからも読んで頂けるとか
最高に嬉しい言葉です(;_;)★
今からがっつり(?)更新するので
読みづらいようでしたら
>>2の安価を使って下さい(^ω^)
コメありがとう
ございました(´;ω;`)☆
:09/03/24 01:44 :W61P :☆☆☆
#174 [イリア]
:09/03/24 01:45 :W61P :☆☆☆
#175 [イリア]
七「…歌って…ましたよね…
何となく覚えてたんです。
でも正確な歌詞までは…
この唄、何なんですか?」
猫「この唄が何かなんて
そんなの俺たちが聞きたい。
何でも…雨原一族の血に
受け継がれる
唄らしいけど…」
:09/03/24 01:46 :W61P :☆☆☆
#176 [イリア]
七「…黒猫さんは
何でこの唄を?」
猫「…俺は…」
雨
あぁ私が目覚めてからの天候は
雨ばかりだな。
:09/03/24 01:47 :W61P :☆☆☆
#177 [イリア]
猫「―…教えてもらった、昔。
声をくれた人…
…もう何年も前の話だ」
そう言うと黒猫さんは
また、空を仰ぐ。
雨に濡れ、雫が伝う漆黒の髪は
どうしてか、私の鼓動を早める。
:09/03/24 01:47 :W61P :☆☆☆
#178 [イリア]
狐「君は雨原だ」
狐さんの声が響く。
七「―…私は…雨原…」
狐「ここまでは、いいかい?」
七「…はい」
:09/03/24 01:48 :W61P :☆☆☆
#179 [イリア]
狐「妖は雨原一族を憎んでる、
危険だよ…
例え、君に記憶がなくても。
君の体に流れる
その血は、その匂いは…
僕らに雨原の居場所を
教えてくれる」
:09/03/24 01:48 :W61P :☆☆☆
#180 [イリア]
危険
そうだろう
あんな鬼が次に私を襲い、
さっきみたいに
黒猫さんが守ってくれなかったら
私なんか、一瞬であの世行きだ。
:09/03/24 01:49 :W61P :☆☆☆
#181 [イリア]
死ぬなら
もし死ぬなら、私は
黒猫さんの唄を聞きながら
死にたいな。
痛みも苦しみもないだろう。
美しい声は
全てを消し去ってくれる。
何故か、そう感じた。
:09/03/24 01:50 :W61P :☆☆☆
#182 [イリア]
:09/03/24 01:50 :W61P :☆☆☆
#183 [イリア]
さっきから…
頭の中で、声がする
誰?私の中に誰かいる?
教えて、雨原のこと。
私は何?
何故、一人ぽっちなの?
:09/03/24 01:51 :W61P :☆☆☆
#184 [イリア]
猫「―…ィ……………オイ!!」
七「…え?あ、はいッ!!」
:09/03/24 01:51 :W61P :☆☆☆
#185 [イリア]
猫「はい?じゃねえよ、
あんたさ、何ぼけっとしてんの。
狐の話聞いてる?
こいつにしては結構まともに
話してるんだぜ、これでも」
狐「おーい」
:09/03/24 01:52 :W61P :☆☆☆
#186 [イリア]
七「あ、すいません!
なんか…考えること、
いっぱいで…」
猫「―…アスタリスクに、入らない?」
:09/03/24 01:52 :W61P :☆☆☆
#187 [イリア]
七「…え?」
猫「だから、俺たちの劇団に
入らないかって聞いてるの。
劇団についての説明は
さっき一通り聞いただろ?」
:09/03/24 01:53 :W61P :☆☆☆
#188 [イリア]
狐「ネコくん自ら
スカウトするなんてねー
珍しいこともあるもんだ。
僕は歓迎だよ?
七衣ちゃん、可愛いし…
…ちょっと冗談だよネコくん、
いや七衣ちゃんは可愛いけど…
そんなに睨まないでくれる?
…軽口叩いてごめんなさい!」
:09/03/24 01:53 :W61P :☆☆☆
#189 [イリア]
七「…でも…あたし…」
猫「―…何?」
七「貴方達のこと、
何も知らない。」
:09/03/24 01:56 :W61P :☆☆☆
#190 [イリア]
猫「知ってるよ
俺は黒猫。クロやらネコやら
好きに呼んで。」
七「名前じゃなくて…」
猫「俺は今生きて、
あんたの目の前で呼吸をしてる」
七「………あ」
:09/03/24 01:56 :W61P :☆☆☆
#191 [イリア]
猫「…そんだけ知ってれば
充分だと思うけど?
仮にあんたがもっと俺のこと
知りたいと望むなら…」
黒猫さんが、私の目を見つめる。
:09/03/24 01:57 :W61P :☆☆☆
#192 [イリア]
:09/03/24 01:57 :W61P :☆☆☆
#193 [イリア]
カァァァ
顔が赤くなる
そんな自分を隠すように
私は声を張り上げる。
七「―…で、でもでもでも!!」
狐「なになに?」
:09/03/24 01:57 :W61P :☆☆☆
#194 [イリア]
七「…私…
雨原一族なんですよね…?
私は覚えてないけど…
一緒にいて…」
猫「フフン、あんたなんか
一人でほっつき歩いてたら
二秒で鬼の腹の中だよ」
:09/03/24 01:58 :W61P :☆☆☆
#195 [イリア]
:09/03/24 01:58 :W61P :☆☆☆
#196 [イリア]
え―……?
私が言葉を終える前に
黒猫さんが言葉を重ねる。
:09/03/24 01:59 :W61P :☆☆☆
#197 [イリア]
:09/03/24 01:59 :W61P :☆☆☆
#198 [イリア]
ボッ
そのキザだが、
美しい外見に似合う
台詞(セリフ)を言われたとき
私は顔は真っ赤だったらしい。
まぁ後から狐さんに
聞いた話だけど。
:09/03/24 01:59 :W61P :☆☆☆
#199 [イリア]
:09/03/24 02:01 :W61P :☆☆☆
#200 [イリア]
狐「駄目だね、落ちたね
いやさ、ネコくんいいよー
今の台詞じゃないもんね?
素のネコくんだもんね?
うんうん、かっこいい!
やっぱアレだ。
次の舞台主役も
君にしてもらおっと♪
狼くんには悪いけど」
:09/03/24 02:01 :W61P :☆☆☆
#201 [イリア]
七「ロウくん?」
狐「あーごめんごめん!
狼くんはね、ネコくんと並んで
アスタリスク劇団の二大トップスター!
それからさっき言ってた
嗅覚のいい麗ちゃんは
アスタリスク劇団きっての演技派女優。
まぁ口は悪いけど根はいい子だし
すぐに仲良くなれるよ」
:09/03/24 02:02 :W61P :☆☆☆
#202 [イリア]
猫「どうでもいいけど、
俺とあいつ(狼)を
ひとまとめにするの
辞めてくれる?」
七「あ、あ、あ、あの!」
猫「何?まだ何かあんの?」
:09/03/24 02:03 :W61P :☆☆☆
#203 [イリア]
七「さっき!
スカウトって言ったけど……
私、演技とか…出来ないと思う…」
:09/03/24 02:04 :W61P :☆☆☆
#204 [イリア]
ポカーン
前を見ると、
二人が私の方を見て
呆然としているのが見えた。
:09/03/24 02:04 :W61P :☆☆☆
#205 [イリア]
七「…え…?な、何ですか…?」
黒猫さんが私の何を見込んで
スカウトしてくれたかは
知らないけど、
私は演技なんか出来ないぞ…///
:09/03/24 02:05 :W61P :☆☆☆
#206 [イリア]
七「な、何なんですか!
言いたいことがあるなら
スパッと―…」
私がそこまで言った、その瞬間
:09/03/24 02:05 :W61P :☆☆☆
#207 [イリア]
プッ…アハハハハ
黒猫さんと狐さんが
二人同時に笑い出す。
:09/03/24 02:06 :W61P :☆☆☆
#208 [イリア]
七「……え、え、え?」
猫「あんた、女優として
スカウトされたと思ったの?
あははは…何でそうなるかな」
狐「こらこら、
そんなに笑っちゃ
失礼だよ、ネコくん…
ぷあははは!!あ、失礼。」
:09/03/24 02:07 :W61P :☆☆☆
#209 [イリア]
七「じゃっ…じゃあ!
どんなことで私は
スカウトされたんですかね??!!///」
恥ずかしさのあまり
語尾を強めにし、私が問う。
:09/03/24 02:07 :W61P :☆☆☆
#210 [イリア]
猫「…ププ…うん、そうだな。
大道具、もしくはお茶くみ」
狐「僕のアシスタントってのも
アリだね♪」
七「お、大道具のスカウト…
流石大きな劇団は違いますね!!///」
:09/03/24 02:08 :W61P :☆☆☆
#211 [イリア]
猫「そんなに大きな
劇団でもないけど。
まぁ怒るなよ」
狐「あー可笑しかった!
ごめんね七衣ちゃん、
僕らの説明不足だ、ははは!
まぁ演技がやりたいようなら、
僕が手取り足取り
教えてあげるけど?」
:09/03/24 02:08 :W61P :☆☆☆
#212 [イリア]
七「したくありませんから!!//」
狐「はは…まぁ気が変わったら
いつでも言ってね♪
さて、そろそろ限界だ。
ネコくん体調大丈夫?
これ以上雨がひどくなる前に
テントに戻ろう」
:09/03/24 02:09 :W61P :☆☆☆
#213 [イリア]
そう言うと狐さんは
私たちに背を向けて歩きだした。
猫「んじゃ、俺たちも行くか」
黒猫さんは、
私に手を差し出す。
:09/03/24 02:11 :W61P :☆☆☆
#214 [イリア]
:09/03/24 02:11 :W61P :☆☆☆
#215 [イリア]
グイッ
七「キャッ!」
手を引っ張られ、
前に倒れそうになる。
:09/03/24 02:12 :W61P :☆☆☆
#216 [イリア]
:09/03/24 02:12 :W61P :☆☆☆
#217 [イリア]
猫「――…あんたはもしかしたら
俺たちが求め続けた
【雨原】なのかもしれない」
:09/03/24 02:13 :W61P :☆☆☆
#218 [イリア]
聞き取れるか、
聞き取れないかというほどの
小さく、細く、甘く…
少しだけ、泣きそうな声。
:09/03/24 02:14 :W61P :☆☆☆
#219 [イリア]
:09/03/24 02:14 :W61P :☆☆☆
#220 [イリア]
黒猫さん、
いまなんて言ったんだろう。
雨音がうるさくて
あまり聞き取れなかった。
あ、そういえば
初めて名前を呼んでくれたな。
:09/03/24 02:14 :W61P :☆☆☆
#221 [イリア]
私は黒猫さんに手をひかれ
小雨の中を歩く。
――……遠くで狐さんの
早くー、という声が聞こえた。
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#222 [イリア]
:09/03/24 02:16 :W61P :☆☆☆
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