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#601 [○○&◆.x/9qDRof2]
生前は無視を決め込んでいたような孝に何故今頃?そもそも何に悩んでいるのかすら明確でない。何故か孝中心に物事を考え、ようやく忘れたと思ったらすぐに孝が頭に浮かぶ。この繰り返しだ。原因不明のもどかしさは私の苛々を募らせるばかりだった。どうにも気が治まらない私は、外に出た。
:22/10/25 17:48
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#602 [○○&◆.x/9qDRof2]
孝に直接会うためだ。会って原因を確かめる。聞くことは叶わなくても、糸口くらいはわかるかもしれないと考えたのだ。しかし、何故孝は電話をしてきたのだろうか。私の携帯電話に掛けても誰も出ないのはわかっているだろうに。
:22/10/25 17:48
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#603 [○○&◆.x/9qDRof2]
間違い電話?いや…間違いだったらあんなに長くコールしていないだろうし、さすがに間違いに気付くだろう。では何故?何の目的で?
「……駄目だ」
いくら考えても答えは出て来なかった。久しぶりの孝の家に緊張しているのだろうか。割と近所にあるため、家の位置は忘れていない。不思議な感覚だ。九年ぶりの孝の家。あの頃はよく遊びに行ったものだ。今では曖昧な古い記憶でしかない。
:22/10/25 17:48
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#604 [○○&◆.x/9qDRof2]
「わ、懐かしい…」
私は思わず立ち止まってしまう。白い壁に茶色の屋根。二階建ての西山家は孝と弟、そして両親の四人家族だ。緊張感が沸いて来るのがわかる。玄関をくぐれば記憶にある廊下や家具が迎えていた。お邪魔します、と土足のまま室内へ上がる。全然変わっていない。
:22/10/25 17:48
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#605 [○○&◆.x/9qDRof2]
九年ぶりの孝の家はあまり覚えておらず、玄関から二階の孝の部屋までだけが特に鮮明だった。二階に上がって見覚えのある部屋の前に立つ。懐かしさからか、家にお邪魔してから終始私の頬は緩んでいた。ノックも出来ない私は、するりと部屋に入った。
「…いないじゃん」
:22/10/25 17:49
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#606 [○○&◆.x/9qDRof2]
誰もいない小綺麗な部屋を見渡して溜め息を吐いた。テレビが置かれたせいか、記憶にある部屋より狭く見える。
「暇だし…捜そうかな」
背伸びをしながら呟くと、私は部屋を後にした。とは言ったものの、手掛かり無しでこの広い街から孝を見付けるのは至難の技だ。携帯電話も使えなければ、人に尋ねることも出来ない。孝を避けて九年間も過ごしていたため、習慣も知らないし、居そうな場所など見当も付かない。
:22/10/25 17:49
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#607 [○○&◆.x/9qDRof2]
更に今日は日曜日だから学校は休み。さながら探偵気分の私は現状を悟れば悟るほど、気分は落ち込んでいく。まさに手掛かりゼロだ。とりあえず当てもなく路上を歩きながら、しらみ潰しに捜すことにした。そして、日が暮れたら孝の家で待ち伏せという作戦だ。
:22/10/25 17:49
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#608 [○○&◆.x/9qDRof2]
こんな真面目に策を練ってまで孝を捜してる自分の姿に自嘲気味に笑う。しかし、この探偵ごっこは早くも終わってしまった。孝を捜し始めて十五分。孝の家の近くの公園で目標を発見。私はすたすたと孝に近付いた。
「やっと見付けた」
無反応の孝は悩ましげな固い表情でベンチに座っている。とりあえず私も隣に腰を降ろした。しばしの沈黙。
:22/10/25 17:49
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#609 [○○&◆.x/9qDRof2]
「…暇だなぁ。何か喋ってよ」
もう五分はこの調子だ。
会話すら出来ないんだから、せめて何か行動してくれないと来た意味がない。
「…はぁ」
「…どうしたの?溜め息なんか付いちゃって」
「……」
「ま〜ただんまり?」
「もう、何か喋りなよ。私なんか死んでから独り言ばかりだよ?猫しか遊び相手いないし、つまんない」
:22/10/25 17:50
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#610 [○○&◆.x/9qDRof2]
愚痴を言いながらも、私はわずかに微笑んでいた。孝の隣は居心地が良い。悪ふざけをしない孝は悪いもんじゃないなと、あの屋上でのひと時以来しばしば感じていた。沈黙すら楽しんでいる。
「…二時三十分か」
私が公園の時計を見て呟くと、孝の声とぴったり重なった。驚いて隣に視線を向ければ、孝も携帯電話の時計を見ていた。カチカチと、無造作にボタンを押す孝。
:22/10/25 17:50
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#611 [○○&◆.x/9qDRof2]
私は先程の電話の件もあってつい画面を覗き込んだ。
「孝。…何考えてるの?」
画面には私の名前と電話番号が映っていた。しばらく停止した後、孝は通話ボタンを押した。ゆっくりと耳に近付けると、呼び出し音が響く。三回…、四回…。
:22/10/25 17:50
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#612 [○○&◆.x/9qDRof2]
私は出るはずがない、と確信しながら、孝の行動の意味を考えていた。結論、理解不能。八回目を過ぎると、孝は電話を切った。溜め息を吐く孝を横目に、私は少し気まずさを覚えた。
孝が、教室で黙祷の時に見せた、私の机を見つめていた時のあの目をしていたのだ。何を考えているのか…私にはわからない。そう、思っていた。孝の漏らした言葉を聞くまでは。
:22/10/25 17:50
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#613 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 17:51
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#614 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 17:52
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#615 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 17:53
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#616 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 17:53
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#617 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 17:53
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#618 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 17:58
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#619 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......千恵。おまえはもう帰ってこないんだな、本当に、」
不意打ちだった。
有り得ないと思っていたことが現実に起きた瞬間、わたしは顔に熱が昇るのを感じた。かぁっ、と頬が熱くなる。孝は、わたひを想ってくれていたのだろうか。張り合い相手がいなくなったのを、寂しがってくれていたのだろうか。
:22/10/25 17:59
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#620 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは初めて見た、孝のそんな姿を。九年前に反発しだした関係が、九年ぶりに修復に向かった気がした。よくわからないが、わたしは気恥ずかしさでいっぱいだった。この感覚は知っていた。昔、体験したことがある。
:22/10/25 17:59
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#621 [○○&◆.x/9qDRof2]
ランドセルを落としたあの放課後の時と同じだった。自らの熱と、場の空気と、何より恥ずかしさに耐え切れなくなったわたしは、逃げるようにその場を離れた。
わたしは走った。顔の熱は冷める兆しはなく、わたしのスピードを上げた。息切れはしないし、全力疾走なのに思うように速くない。
:22/10/25 17:59
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#622 [○○&◆.x/9qDRof2]
夢の中の全力疾走のような感じだ。それでも。わたしは走った。息切れはないが疲労感が込み上げてくる。身体が脱力しきって走るのを止めた時、空を見上げれば茜色の夕空が夜を待っているところだった。嗚呼、不思議だ。
:22/10/25 17:59
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#623 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは死んだ。なのに。生きていたときより、こころが躍っているような気がする。わたしは怖かった。道標がない未来に怯えていた。突然、影のように闇に紛れて消えてしまうんじゃないかと。突然、煙のように空気に混ざって溶けてしまうんじゃないかと。
:22/10/25 18:00
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#624 [○○&◆.x/9qDRof2]
だけど、いまは違う。わたしは怖くない。身体が熱い。実際の所、死んでから体温や気温などを感じる機能は遮断されていた。だから熱い、というよりは熱い気がするの方が正しいと思う。どちらにせよ、わたしはいま、赤面しているだろう。わたしの身体を取り巻く熱が引くまでに、かなり時間が掛かった。とっぷりと暮れた夜空の下、わたしは公園のベンチにいた。
:22/10/25 18:00
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#625 [○○&◆.x/9qDRof2]
さっきの公園とは違う公園。いまにも切れそうな街灯に視線を送りながら、頭を抱える。変わっていない。九年前と。あの頃は子供だった、なんて、笑ってしまう.......わたしいまも子供だ。変わっていない。九年前と。わたしは九年前に、気持ちを置いてきてしまったのかもしれない。
:22/10/25 18:00
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#626 [○○&◆.x/9qDRof2]
だけど、気付いてしまった。九年もの間、全く気付かなかったことに、わたしは、気付いてしまった。じわりじわりと熱が蘇ってくる。
わたしは、
孝が、
満天の星空の下、わたしはこころの奥底に秘めた気持ちを隠した。暗い暗いこころの奥に。二度と上がってこないように。気付いてしまった以上は、仕方がない。
:22/10/25 18:00
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#627 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは死んだのだ。わたしにはもう、道は残されていない。希望はないのだ。失望することがわかっている以上、封印してしまおう。それが良い.......そうしよう。その日、わたしはベンチで夜を明かした。
:22/10/25 18:01
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#628 [○○&◆.x/9qDRof2]
月曜日の朝になった。退屈とは拷問に近い。孝がいるから学校に行く気もしないし、家に帰る気もしない。わたしはいつか消えるのだろうか。その時は昨日の気持ちも消えていくのだろう。その先には天国か地獄があるのかな。その時は昨日の気持ちも一緒に持って行くのだろう。
:22/10/25 18:01
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#629 [○○&◆.x/9qDRof2]
私は初めて自分が女々しいことに気付いた。こうした考えを巡らすのは、隠したはずの気持ちが漏れだしている証拠ではないか。振り出しに戻った気がした。心が空っぽになった気がした。
膝をぱんっ、と叩いて立ち上がる。
「私、これからどうしようかな」
気が重いがとりあえず家に帰ろうか。
ふらふらと家の方角に歩き出した。
:22/10/25 18:01
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#630 [○○&◆.x/9qDRof2]
家の前に着いた。
玄関先には父と母の姿があった。
「じゃあ、行ってくる」
スーツ姿の父が鞄を下げて手を上げる。
「行ってらっしゃい」
「今日は早めに帰るよ」
父がそう言うと母は笑った。
「早く帰りたい、でしょ?」
「まぁ、そうだな。じゃ、そろそろ行ってくる」
「はいはい。私もこのまま出ますよ」
「…良枝。これから、頑張ろうな」
:22/10/25 18:02
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#631 [○○&◆.x/9qDRof2]
微笑む父に母はまた笑った。私は何故か違和感を覚えたが、父に「いってらっしゃい。頑張ってね」と声を掛けると玄関に向かった。
リビングに上がると違和感が一気に増した。違う。何かが違う。仏壇に私の写真がない?母の笑顔が頭にちらつく。父の言葉が頭を過ぎる。
:22/10/25 18:02
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#632 [○○&◆.x/9qDRof2]
「頑張ろうな」
頑張ろうな?
昨日から何かが変だ。
前向きだが、何かが違う。
私は母が家に入って来ないことに気付いた。
:22/10/25 18:02
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#633 [○○&◆.x/9qDRof2]
母の声が再生される。
「私もこのまま出ます」
出る?何処へ?
何故一昨日帰ってこなかった?
何故一昨日普段着だった?
私は弾かれたように家を出た。
:22/10/25 18:02
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#634 [○○&◆.x/9qDRof2]
キョロキョロと辺りを見渡せば、彼方に母の後ろ姿が見えた。私は走って後を追った。おかしい。人間の頭で考えるのも変だが、どうもおかしい。私は死んだ。消滅するのはいつだ?三途の川はどこだ?お花畑や血の池地獄にはいつ行くのだ?
:22/10/25 18:03
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#635 [○○&◆.x/9qDRof2]
それに、まだ見ていない。私という死者が存在しているのに、私以外の死者の姿を。私は何だ?一つの希望が頭に浮かんだ。希望を断たれた時に傷付くのは嫌だが、往生際が悪いのは私の性格だ。だが、私はそれに賭けてみたかった。
:22/10/25 18:03
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#636 [○○&◆.x/9qDRof2]
私は死んでしまった。だけど、夢くらいは見ても罰は当たらないだろう。
希望くらいは持っても、神様は許してくれるだろう。母の隣を歩いて、やがてある建物に着いた。ここは、
「病院?」
白に統一された建物を見て、私の気持ちは高鳴った。落ち着け、私。まだ早い。答えは母について行けばわかるだろう。施設に入ると、内部を一瞥してから母は受付を済ました。
:22/10/25 18:04
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#637 [○○&◆.x/9qDRof2]
エレベーターで三階に上がると、廊下を通り抜けてある病室の前で立ち止まる。母がドアを開ければ、中は個室になっていた。室内を見た私は、目を丸くした。
「なんで?」
そこには、病室のベッドに身を埋めて眠る私の姿があった。口元には呼吸を助けるためなのか、規則正しい音を出す機械が伸びている。呆然とする私の前で、母はせっせと世話をし始めた。花瓶の水を変えている母を眺めていたら、ふと我に返る。即座に病室の前の名札を見に行けば、桜井千恵と書かれていた。
:22/10/25 18:04
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#638 [○○&◆.x/9qDRof2]
間違いない、私だ。もう一度目を向けると、ベッドの上の私は眠るように胸を上下させていた。予想は当たっていた?私は死んでなかった?夢を見ているのではないか。喜びと同時に疑問も溢れた。母や父が元気になった理由は頷ける。
:22/10/25 18:04
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#639 [○○&◆.x/9qDRof2]
しかし、私の葬式は確かにあった。ならば、いつ私は生き返ったのだろうか。いやそれより、何故私は肉体に戻れないのだろうか。これは意識不明の昏睡状態というものか。それとも植物状態というものか。それより問題は身体に戻れないこと。私が何度試しても、映画のように魂が肉体に戻ることはなかった。
:22/10/25 18:04
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#640 [○○&◆.x/9qDRof2]
これじゃ…生き返ったなんて言えない。肉体は生き返っても、私の心はこうして死んだままだ。でも、悲しくはない。ようやく希望が見えた。生きているとわかったその時から、私の心の中心はある感情に支配されていた。あの時、奥深くに封印したはずの想いが、いつの間にか溢れ出していた。
.......孝。
:22/10/25 18:05
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#641 [○○&◆.x/9qDRof2]
この数日、孝は悲しんでいただけかも知れないけど、私は変わったと思う。孝には悪いけど、私はもう止まれない。例え希望が断たれても、私は突き進むと決めた。私には、まだやり残したことがある。孝の気持ちを聞いていない。盗み聞きはよくないと思うが、今じゃなきゃ出来ないのも事実だ。私はまた走っていた。
:22/10/25 18:05
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#642 [○○&◆.x/9qDRof2]
学校に行ってみたが今日は孝はいなかった。ならばと家まで押しかけたが生憎の不在。次に所に向かっていた。脱力感は最高潮に達する。もしあそこにいなかったら、私はしばらく動けなくなるに違いない。一歩進む度に孝に近付いているのだろうか。私は鎖が巻き付いたような重い足を踏み出しながら、歩を進める。
:22/10/25 18:05
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#643 [○○&◆.x/9qDRof2]
やがて足は動かなくなり、そして完全に停止した。
「も…動けない」
膝に手をつきながら顔を上げる。
「けど…間に合った…!」
正面にはあの公園。そしてベンチには大嫌いだった男。私は微笑みながら足を引きずって隣に座った。
「あんたさぁ…いい加減にしてよね。死んでからも私をいじめる気?」
:22/10/25 18:05
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#644 [○○&◆.x/9qDRof2]
笑ってみせるが、やけに清々しい。孝は静かに正面を見据えつつ、足を組んでいる。馬鹿馬鹿しい。私がこんなに一生懸命なるなんて、生きてた時は思ってもいなかった。だが、悪い気分ではない。
「今日はいつもみたいに退かないからね。答えを聞くまで、粘るよ」
ベンチに身を委ねて空を仰げば、隣から声が響く。
「…不思議な気分だ」
「…え?」
「千恵がいなくなってから、たまに千恵を近くに感じる時がある…」
:22/10/25 18:05
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#645 [○○&◆.x/9qDRof2]
屋上や公園でのことだろうか。
「…今も」
「…うん」
しばらく沈黙が続く。
小さく息を吐いて次の言葉を待った。
「なぁ…」
私は孝を横目でみる。孝は相変わらず同じ姿勢を保っている。今日はやけに独り言が多いなぁ。いつもより饒舌ではないか。少し黙った孝に私は視線を送り続けた。
:22/10/25 18:06
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#646 [○○&◆.x/9qDRof2]
「俺はおまえが嫌いだったよ」
うん…。
それはわかっていた。世界は灰色に変わる。悲しみも衝撃もない。でも大丈夫。私は、気付いてしまったから。
「……で?」
気付いたから、違うんだと今は信じれる。
「嫌いだって、思ってた。いや、思い込んでた」
:22/10/25 18:06
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#647 [○○&◆.x/9qDRof2]
ほらね、信じることが出来る。
「あの日の延長線.......」
孝は一つ一つ言葉を落としていく。きっと私の高鳴りは最高潮に違いない。
「格好悪いって躊躇っていたら、後戻りが出来なくなっていた」
.......まただ。またあれが来た。気恥ずかしさが心を埋めていく。一刻も早くここから去りたい衝動に駆られる。少しずつ体が熱を帯びる。
:22/10/25 18:06
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#648 [○○&◆.x/9qDRof2]
「でも、今になって俺は…」
でもね、もう大丈夫。逃げ出したりはしない。何より大切なものを見付けたから。
「好きなんだって、気付けたんだ」
そう言い終えた孝は切なそうな視線を空に映した。
「孝…」
私もね、気付いたんだ。孝が、好きみたいだって。だけど、ここまでだよ。私は初めから知っていたのかも知れない、こうなることを。
:22/10/25 18:07
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#649 [○○&◆.x/9qDRof2]
間に合って良かった。最後に、答えを聞けて良かった。
それは。
突然やってきた。身体に暖かさを感じる。死んでから一度も感じなかった温もりだ。身体が小さく細かい光の粒に変わっていく。目に映る景色も白くなり始め、視界の端から崩壊していった。それらの感覚はじわりじわりと私の身体を侵食していく。
:22/10/25 18:07
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#650 [○○&◆.x/9qDRof2]
少しずつ、少しずつ。もう、時間か。どうやら、ようやくお迎えがきたようだ。九年前に止まった時計は、九年の時を経て再び刻み始めた。
十八年間。短いようで長い人生だった。今から行くのは天国だろうか、地獄だろうか。
:22/10/25 18:07
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#651 [○○&◆.x/9qDRof2]
色々あったが、ようやく私の臨死体験は終わりを告げるようだ。
死んでから気付いた大切な人。
もし生き返ることが出来たなら、きっと私は告白することが出来るだろう。でも後悔するのは嫌だから、今言えるだけ言っておこう。
:22/10/25 18:07
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#652 [○○&◆.x/9qDRof2]
今までありがとう。貴方が大好きでした。そして最後に、
さようなら。
薄れゆく意識の中で、私はゆっくりと微笑んだ。
死んでから気付く大切な人
[完]
:22/10/25 18:07
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#653 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:08
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#654 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:08
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#655 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:08
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#656 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:09
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#657 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#658 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#659 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:09
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#660 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:10
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#661 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:10
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#662 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:11
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#663 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:11
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#664 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:11
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#665 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:11
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#666 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:12
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#667 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:12
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#668 [○○&◆.x/9qDRof2]
『ねぇ、わたしを殺してみて』
その日。
ぼくは、彼女を殺した。
------------------------
『すき』
彼女のくちびるから零れ落ちる言葉は、いつだってぼくだけの鼓膜を揺らす。
『あなたが、すき。例えあなたの気持ちがわたしになくても』
:22/10/25 18:14
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#669 [○○&◆.x/9qDRof2]
『目も、耳も、鼻も指も、ひとつ残らず愛おしい、』
『だけど、一番愛おしいのは、その、くちびる。わたしのそれと触れたとき、わたしはきっと死んでしまうでしょうね』
何故だい?薄く微笑み、彼女に問うた。
『幸福死。信じられないけれど、本当にあるみたいよ。夢のような、現実では有り得ないような、けれど、こころのどこかでそれを待ち望んでいる.......』
:22/10/25 18:14
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#670 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼女の瞳が、熱を持ち始める。
『そして。それが現実に起こったとき、わたしは死ぬの。そう例えば、あなたのくちびるの熱を、わたしのここで感じることができる、とかね』
そう言って彼女は微笑み、人差し指で自分のくちびるに触れた。
『ねぇ、わたしを殺してみて?』
:22/10/25 18:14
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:zH8LnywQ
#671 [○○&◆.x/9qDRof2]
五秒後、ぼくはきみを殺した。
まだ息をしているきみのくちびるが、柔らかく、柔らかく微笑んだ。
fin
:22/10/25 18:15
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#672 [○○&◆.x/9qDRof2]
愛しているんだ、
例え誰が死んだって。
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何日もかけて選んだ婚約指輪。君は気にいってくれるかな?君が琥珀色を好きだというのは知っていたけど、なかなかいい物が見つからなかった。だけどこの水色も綺麗だろう?君がよくしてる、ネックレスに似ている。
どんな顔をするだろう。
:22/10/25 18:15
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:zH8LnywQ
#673 [○○&◆.x/9qDRof2]
笑って、笑って、笑うだろう。キスをして、抱きしめて。それからやっぱり、琥珀色が良かったわ、なんて言うのかな。想像の中の君は少しふてくされて、だけどとても満ち足りた笑顔で。そして僕は言うんだ。
『結婚指輪は、琥珀色にしよう。』
女性はロマンチックが好きだろう?夜景なんかどうだろう?今日のために洗車もしてきた。そんなことは、言わないけどね。
:22/10/25 18:16
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:zH8LnywQ
#674 [○○&◆.x/9qDRof2]
さぁ乗って、未来の話をしよう。
予想通り君は少しふてくされて、だけど幸せそうだった。
幸せにするからね。
そういう僕の言葉に重なるように、白い光と車のブレーキ音が僕たちを包んだ。明るすぎるその光に、助手席に座る彼女の顔が白くなる。明るすぎるよ、彼女の顔が見えないじゃないか。
--- 気がつくと目の前には、見慣れた人の顔。白くはなかった、赤かった。彼女の目は閉じられていた。嘘だろう。この、赤は、なんだ。嘘だろう。ねぇ起きて。
:22/10/25 18:16
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:zH8LnywQ
#675 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼女の体を揺さぶろうにも、僕の体も動かない。いくら大声で名前を叫んでも、彼女はぴくりとも動かない。それはまるで、僕の声なんかこの世界に響いていないような、そんな気がして。
動かない、意識だけ。
動けよ僕の躯、動け。
救急車を呼ぶんだ、彼女を助けて。
:22/10/25 18:16
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#676 [○○&◆.x/9qDRof2]
まだ生きてるかもしれない。呼吸の音が聞こえない?僕の耳がおかしいんだ。名前を呼んでも届かない?僕の声が、枯れてるんだ。どうして僕が生きてるんだ。生きるべきは、彼女だろう。お願い神様、僕はどうなってもかまわないから。
ほら左手の薬指。僕が買った指輪はそんな色じゃない
:22/10/25 18:16
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#677 [○○&◆.x/9qDRof2]
抱きしめて、キスしたい。
指輪に関する話を聞いてほしい。結婚指輪は、きっと琥珀色にするから。
彼女の目が、開いた。
生きて、いる。
ありがとう神様、ありがとう。本当にありがとう。これから何があっても僕が彼女を幸せにする。さぁ、元気になって、未来の話をしよう。
:22/10/25 18:17
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#678 [○○&◆.x/9qDRof2]
僕たちこれから、幸せになるんだ。彼女の目が完全に開く。ただ僕だけを映してくれる瞳は、あの日からずっと、変わらないね。良かった、もう大丈夫。体は動くかい?悪いけど、救急車を呼んでもらえる?
:22/10/25 18:17
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#679 [○○&◆.x/9qDRof2]
僕はさっきから、何故だか体が動かない。彼女の目に涙がたまる。嗚呼、心配しないで。意識ははっきりしてるから。君のことずっと、考えられるくらいには。彼女は何か叫びながら、僕の体を揺さぶった。揺れる視界に、君の泣き顔だけが映る。
:22/10/25 18:17
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#680 [○○&◆.x/9qDRof2]
綺麗な瞳だ、泣かないで。覗きこんだその瞳に映るは、僕。真っ赤な色をした、僕。
ああ、死んだのは僕か。
どうりでさっきから、呼吸をしていないと思った。良かった。死んだのが僕で良かった。さぁ降りて、僕という船から。未来の話をしよう。君が幸せになるための話だ。指輪は捨ててくれ。君はやっぱり、琥珀色が似合うと思う。
:22/10/25 18:17
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#681 [○○&◆.x/9qDRof2]
いつか誰かに貰ってくれ。僕以外の、誰かに。神様、神様、ありがとう。
嗚呼、死んだのは僕か。
- end -
:22/10/25 18:17
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#682 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:18
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#683 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:18
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#684 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 18:19
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#685 [○○&◆.x/9qDRof2]
Bluebird
わたしは。なぜ本を買いに行ったのか?
わたしの通う樫ノ宮(かしのみや)中学校では毎朝、読書時間というものが十五分間設けられている。その時に読む本を買いに行ったのだ。なぜ、この本を選んだのか?これといって欲しい本があったわけではない。
:22/10/25 18:27
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#686 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは漫画は読んでも、小説のように文字だけで紡がれた物語を読むのは苦手だった。文字の列だけが数百頁にもわたり延々と続いてるだけだなんて考えただけでも瞼が重くなってくる。.......正直、本ならなんでも良かった。
:22/10/25 18:27
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#687 [○○&◆.x/9qDRof2]
そしてこの本に出会ったのは単なる偶然である。店に入るとすぐ、レジの横に新作の本が何種類か並べられていて、なかでも、一際目を引く一冊があった。綺麗なコバルトブルーのカバーには金色の文字で【bluebird】と書かれており、真ん中には翼を広げて今にも飛び立ちそうな鳥の絵が描かれていた。
:22/10/25 18:27
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#688 [○○&◆.x/9qDRof2]
いわば、一目惚れだった。本当は適当に安い文庫本なんかを買って、お釣りで漫画本を買おうなどと考えていたのだがそんなことはもう頭になかった。母は小学校の教師をしている。わたしが買ってきた本をみせると「梨菜が漫画以外の本を買うなんて!」と、びっくりしていた。
:22/10/25 18:27
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#689 [○○&◆.x/9qDRof2]
「に、さん、ページよんで飽きたなんてことにならないといいけどね」と、母は笑ったけれど、そんなことにはならなかった。読みはじめると、止まらなかった。続きが気になって仕方がなかったのだ。朝の読書時間だけにとどまらず、休み時間にも読み、授業中にも読み、放課後も残って読んだ。
:22/10/25 18:28
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#690 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしはどの部活動にも属しておらず、いつもなら真っ直ぐ家に帰っている時間だったが、その日は誰もいない教室で一人静かに読書に耽(ふけ)った。グラウンドで活動するサッカー部と野球部、陸上部の声が教室にまで届いている。同じ階にある音楽室からは吹奏楽部による演奏がきこえてきた。
:22/10/25 18:28
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#691 [○○&◆.x/9qDRof2]
しかしひとたび本に集中すると、まわりの雑音は全て消えさり、無音の空間になるだ。そのせいだろう。話し掛けられていることに全く気付かなかった。
「.......大高!」
ハッとして顔をあげると目の前に同じクラスの奥村くんが立っていた。奥村くんはクラスでもかなり目立つほうで、明るく茶目っ気があり、みんなに好かれていた。
:22/10/25 18:28
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#692 [○○&◆.x/9qDRof2]
当然友人も多く、誰とでもすぐにうちとける。わたしみたいに異性と話すときに緊張して口ごもってしまうということがない。彼みたいな人を世渡り上手、というのだろうなと思った。
「あ、やっと気付いた。さっきから何回も呼んでたんだけどさ、シカトされてるのかと思ったよ」
:22/10/25 18:28
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#693 [○○&◆.x/9qDRof2]
突然話し掛けられ口ごもっているわたしを無視して、奥村くんは近くにあった椅子に腰掛けた。
「その本、今日ずっと読んでるね」
「あ、これ、面白いんです」
「だよね、俺も読んだことあるんだ」
「え?」
意外だ、と思った。
「俺、その著者好きなんだよね。知ってる?その人、この樫ノ宮町出身なんだぜ」
:22/10/25 18:29
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#694 [○○&◆.x/9qDRof2]
読み途中のページに指をはさみ、本を閉じて表紙をみた。金色の文字で【永原 愛(ながはらあい)】と印刷されている。奥村くんは【永原愛】について色々な話を聞かせてくれた。
「すごく詳しいんだね。ストーカーみたい」
決してほめたわけではないのだけれど、奥村くんは得意げにふふん、と鼻を鳴らした。
:22/10/25 18:29
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#695 [○○&◆.x/9qDRof2]
家に帰ると、母が調度夕飯の支度を終えたところだった。テーブルの上には父と母とわたしの三人分のサバの味噌煮が並べられていた。サバの味噌煮は父の大好物である。
「あ、梨菜お帰り。ご飯できたからお父さん呼んできて」
「.......わたし、あんまりサバってすきじゃないんだよね」
「いいから早く呼んできなさい!」
:22/10/25 18:29
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#696 [○○&◆.x/9qDRof2]
渋々階段を上がり、父の部屋のドアをドンドン、と叩いた。
「お父さん、ご飯だよ!」
返事はない。今度はドアを開けて呼んだ。なにやら机に向かって読書でもしていたらしい。父は読書家で、部屋には専用に大きな本棚があるのだが、中に入りらない沢山の本が床に積みあげられていた。
:22/10/25 18:29
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#697 [○○&◆.x/9qDRof2]
父が読んでいた本は見覚えのあるコバルトブルーの表紙だった。父もわたしと同じように、読書に夢中になるとまわりが聞こえなくなるのだろう。その時、改めてわたしはこの人の子供なのだと思った。
「お父さん、ご飯出来たってば!」
父はびっくりしたように振り返り、立ち上がった。
:22/10/25 18:29
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#698 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......いま、いくよ」
読みかけのページにボロボロのしおりを挟み本を閉じた。そのしおりはアサガオの押し花で作られていて、わたしがちいさい頃から父はいつもそのしおりを大事そうに使っていた。
「手紙を出してみようと思うんだけど」
:22/10/25 18:30
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#699 [○○&◆.x/9qDRof2]
あの日の放課後以来、わたしと奥村くんは急激に仲良くなっていた。奥村くんと向かい合って座り、 彼はなにやらわたしの机に落書きをしている。
「永原愛に?」
うん、と頷いた。
「俺も何回か出したことあるよ」
「返事は?」
「くるわけないだろ」
:22/10/25 18:30
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#700 [○○&◆.x/9qDRof2]
チャイムがなり、先生が教室に入ってくると奥村くんは気だるそうに自分の席に戻っていった。机には先程の落書きが残されていた。
“ころされる”
特に気にもとめず、消しゴムで文字を消した。
永原愛から返事がきたのはその一ヶ月後のことだった。
:22/10/25 18:30
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#701 [○○&◆.x/9qDRof2]
梨菜さんへ
心のこもったお手紙ありがとうございます。永原愛です。私は昔樫ノ宮町に住んでいたことがあります。父の日になにか手作りのものをプレゼントをしたいだなんて、仲が良いのですね。私は小学生の頃、庭で育てていた朝顔を押し花にしてしおりを作り父にプレゼントしました。
:22/10/25 18:30
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