よすが
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#400 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは出来るだけ重くならないようにサラっと聞いたつもりだったけど、少し声が震えてしまったかもしれない。
「うーん……」
サトルは何か考えているように視線を漂わせると、急に立ち上がってこう宣言した。
「自分の目で見た方がいい!」
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:08/05/26 01:49
:SH903i
:190zu.A6
#401 [蜜月◆oycAM.aIfI]
自信満々に言い切るサトルを、あたしは布団の上からぽかんと見上げていた。
「体は? まだ辛い?」
体を屈めたサトルの手の平が再びあたしの額を覆う。やっぱり冷たくて気持ちいい。
「もう大丈夫だけど……見るって何を?」
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:08/05/26 01:50
:SH903i
:190zu.A6
#402 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「見ればわかるから、ほら、手貸して?」
あたしの額から剥がした手でそのままあたしの腕を掴み、立たせようと体を支えてくれるサトル。
あたしは言われるがままに毛布から這い出してサトルの手に体重をかけた。
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:08/05/26 01:51
:SH903i
:190zu.A6
#403 [蜜月◆oycAM.aIfI]
しかしまだ熱は下がり切っていなかったらしく、立ち上がった瞬間めまいに襲われた。
視界が真っ白になり立っていられなくなったあたしの体を、すんでのところでサトルの腕が支えてくれた。
「ユキ! 無理なら無理って言ってよ! フラフラじゃないか!」
「本当に大丈夫だから、急に立ち上がったからくらくらしただけだよ」
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:08/05/26 01:52
:SH903i
:190zu.A6
#404 [蜜月◆oycAM.aIfI]
それでもサトルは心配なのか少し怒りながらあたしを寝かせようとしたけれど、なんとかなだめすかして外に出ることになった。
あたしは自分がどのくらい寝ていたのか全くわかっていなかったので今の時間がどのくらいなのか見当もついていなかった。
あたしが布団の横に置かれていた自分のバッグを肩にかけると、サトルもレモンキャンディの入ったリュックを背負ってドアに手を伸ばす。
そこであたしは自分の異変に気がついた。
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:08/05/26 01:52
:SH903i
:190zu.A6
#405 [蜜月◆oycAM.aIfI]
服が違う。
家を出た時も、もちろん山を登っている時も、あたしは普段から着慣れたフリースパーカーとジーンズを身につけていた。
パーカーの下にはTシャツとトレーナーを着込んでいたはずだ。
しかし今着ているのは、どう見てもジャージである。いや、良くは見えていないけれど、この感触からすると間違いない。
上半身はジャージの下にTシャツらしきものを着せられているようだ。
――なんで……まさか?
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:08/05/26 01:53
:SH903i
:190zu.A6
#406 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルがあたしにこれを着せたのだろうか?
恋愛感情を持たないからといってもそうなると別問題で、あたしは一瞬にして顔に血が昇ったように感じた。
「ちょ、ねぇ、サトル、この服……あたしの服、脱がせた?」
目の前にあったサトルの背を軽く叩いてこちらを向かせた。
しかしサトルの顔を見ることが出来なくてあたしは俯く。
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:08/05/26 01:54
:SH903i
:190zu.A6
#407 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そんな気持ちに気付いているのかいないのか、サトルは気の抜けた声で答えた。
「へ? ……あぁ、ジャージ? 貸してもらったんだよ。着替えまでしてもらっちゃって、ちゃんとお礼言わないとね」
「借りた……って誰に?」
「だから、会えばわかるから!」
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:08/05/26 01:55
:SH903i
:190zu.A6
#408 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そう言って、さっきまでしてくれていたあたしの体の心配はどこへやら、腕を掴まれて外へと連れ出された。
鉄製の錆びたドアがサトルの手で開かれると、外は一面闇だった。
腕を引かれて外に足を踏み出すと、そこは確かにあの場所だった。
今日の夕方サトルと見ていたコンクリートの箱、そして十年前ユキと共に監禁されていたその場所に違いなかった。
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:08/05/26 01:55
:SH903i
:190zu.A6
#409 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは掴まれていない方の手でサトルの服の裾をギュッと掴んだ。
それに気付いたサトルがその手を優しく握ってくれる。
「安心して、僕を信じて?」
サトルが俯き気味のあたしの顔を覗き込みながらそう囁いた。
あたしの瞳に差し込まれたサトルの視線には、不安など一切無く、むしろ喜びとか楽しさとかそういったものが込められていた。
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:08/05/26 01:56
:SH903i
:190zu.A6
#410 [蜜月◆oycAM.aIfI]
もちろんあたしはサトルを信じている。信じない理由がない。
だからあたしはサトルに引かれるまま足を進めた。
サトルはコンクリートの箱を取り囲む木々の間に開いたわずかな隙間に体をねじこんでゆく。
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:08/05/26 01:57
:SH903i
:190zu.A6
#411 [蜜月◆oycAM.aIfI]
夕方の薄暗さとは比べ物にならないくらい真っ黒な闇が辺りを満たしていた。弱々しい月の光がかろうじて数歩先までの景色を瞳に映す。
電灯のひとつもなく、あたしは赤い上着を着たサトルの背中を見失わないようにとそれだけに集中して木々の間を縫い歩んでゆく。
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:08/05/26 01:57
:SH903i
:190zu.A6
#412 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしとサトルとを唯一繋いでいる手の平に温かさを感じる。
真冬の山の中、しかも夜。
寒くない訳がないのに、あたしはその手に感じる温度と興奮からくる熱で寒さを忘れていた。
口から漏れる白い息ごしに赤い背中を見つめながら一歩一歩地面を踏み締める。
その行為だけを繰り返していた。
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:08/05/26 01:58
:SH903i
:190zu.A6
#413 [蜜月◆oycAM.aIfI]
視線を集中していた赤い背中の前進が急に止まった。
それに倣いあたしも立ち止まると、サトルが顔だけをこちらに向けて小さく囁いた。
「やっと会えるね」
その表情は――暗さのせいで喜んでいるのか悲しんでいるのか判別出来ない。
あたしが戸惑い答えられずにいると、サトルは大きく一歩左に動いた。
繋いでいた手が解かれ、その手は前に進めと促すように先を指差す。
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:08/05/26 01:59
:SH903i
:190zu.A6
#414 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしはサトルの側から離れるのが恐ろしくて、彼の顔を見つめたままその場に立ち尽くしてしまった。
「大丈夫だよ、さぁ」
背中を優しく押され、その力であたしはつんのめりながら二歩、三歩と進んで再び立ち尽くす。
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:08/05/26 01:59
:SH903i
:190zu.A6
#415 [蜜月◆oycAM.aIfI]
真っ暗な闇の向こうを探るように目を這わせた。
何も見えない。そう思った瞬間、何かが落ち葉を踏み締めた音がした。
急に心臓の鼓動が激しくなる。息遣いも荒くなる。
サトルの方を振り返りたいという思いに駆られたけれど、あたしの目は闇の中の一点に引き付けられていた。
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:08/05/26 02:00
:SH903i
:190zu.A6
#416 [蜜月◆oycAM.aIfI]
何か白いもの。
闇の中に白い何かが浮かび上がり、こちらに近づいてくるのが見える。
あたしはすぐ後ろにサトルがいることも忘れて、前方にいる何かから目が放せなくなってしまった。
ガサッ、ガサッ、と音を立てながらだんだんとはっきり見えて来る。
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:08/05/26 02:01
:SH903i
:190zu.A6
#417 [蜜月◆oycAM.aIfI]
自分の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
近づいてきたそれは、
……人間だった。
しかも、あたしにはとても見慣れた姿が……そこにあった。
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:08/05/26 02:02
:SH903i
:190zu.A6
#418 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/05/26 02:06
:SH903i
:190zu.A6
#419 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/05/26 02:07
:SH903i
:190zu.A6
#420 [蜜月◆oycAM.aIfI]
―[―
暖かい陽射しが差し込む放課後の教室。
自分達以外に誰もいなくなったその教室で、あたしとサトルは窓際に並べられた席に座って数カ月前のことを思い出していた。
「あの日さぁ、帰ったら父さんと母さんにすっっごく怒られたんだよぅ。まだ覚えてるよ、あの時の父さんの怒った顔」
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:08/06/07 23:55
:SH903i
:febosBlc
#421 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルが膝の上に置いた通学バッグをドスドスと叩きながら不服そうにため息をついた。
もうすでに三度は聞いた話だ。
「いつまで言ってるの?」
あたしはクスクスと笑いながらサトルの頭をこずく。
「だってさぁ、ホント怖くて……まぁいーや、でもよかったね!」
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:08/06/07 23:55
:SH903i
:febosBlc
#422 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしがまだ笑い続けているのを見てサトルは話題を変えた。
「うん。……ありがとね、サトル。本当にありがとう」
なんだか照れてしまうけれど、改めて感謝の気持ちを真っすぐに伝えた。
それを聞いたサトルは嬉しそうに笑っている。
あたしは照れ隠しに首から下げたチェーンに通されたシルバーの指輪を指先で弄んでみた。
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:08/06/07 23:56
:SH903i
:febosBlc
#423 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「そろそろ行こっか!」
前の席の机に腰掛けていたサトルがストンと床に降りて教室のドアに向かって歩き出した。
「そうだね」
あたしも椅子から立ち上がって、サトルの後に続く。
ドアのすぐ横にある電灯のスイッチを切りドアを閉めると、あたしたちはある場所に向かった。
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:08/06/07 23:56
:SH903i
:febosBlc
#424 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あの冬の日、あたしの目に映ったものは白いセーターを着た人間だった。
髪はほつれロングスカートは泥々。
だけどその顔はあたしのよく知る顔……いや、あたしそのものだった。
信じられなかった。目の前にあたしがいる。
現実に起こり得ないことだというのは解っている。
けれど、あたしはまさか生きているなんて微塵も思っていなかった。
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:08/06/07 23:57
:SH903i
:febosBlc
#425 [蜜月◆oycAM.aIfI]
……そう、あたしと同じ顔をした、ハナが。目の前にいたのだ。
信じられなかったけれどそれしか有り得ない。
思考がその答えにたどり着いた時には、地面に膝を落としたあたしの体をハナの腕が包み込んでいた。
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:08/06/07 23:57
:SH903i
:febosBlc
#426 [蜜月◆oycAM.aIfI]
僅かに月の光が辺りを照らす。
木々が立ち並ぶ中であたしとハナは再会を果たした。
あたしは申し訳無さと嬉しさと喜びと感謝と後悔とその他いろいろな感情が複雑に絡まりあって涙を抑え切れず声を上げて泣いた。
ハナはただ黙ってあたしの体を抱きしめている。
後ろからサトルが近づいてくる音が聞こえた。
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:08/06/07 23:58
:SH903i
:febosBlc
#427 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ユキ?」
あたしの名前を呼んだサトルの声は優しく、包みこむような穏やかさを感じる。
その温かさに少しずつ気持ちが落ち着いてゆく。
鳴咽が止み、ハナの肩に埋めていた顔を上げるとすぐ側にハナの顔があった。
小さな切り傷がたくさんついた真っ白な肌が痛々しくて、あたしの目にさらに涙が溢れる。
「ハナ……」
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:08/06/07 23:58
:SH903i
:febosBlc
#428 [蜜月◆oycAM.aIfI]
同じように膝をついたハナの腕があたしの背中から肩に移り、真正面から見つめ合った。
ハナの茶色の瞳は透き通っていて、その純粋な眼差しに全てを見透かされているような気分になる。
堪らなくなってあたしは下を向いて口を開いた。
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:08/06/07 23:59
:SH903i
:febosBlc
#429 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ハナ……ごめんね、あたしハナを犠牲にして今まで……ごめんなさい、本当にっ……忘れてたのに……あたしだけ……」
ハナに謝りたくて、でもどう伝えれば良いのかわからなくて、あたしは支離滅裂に言葉を吐き出す。
「ユキ、」
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:08/06/07 23:59
:SH903i
:febosBlc
#430 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナの声。
昔より大人びた、でもほとんど変わらない落ち着いた声にあたしは顔を上げた。
「ユキ、いいんだよ」
もう一度あたしの名を呼び、ハナは話し始める。
「ユキは何も悪くない。ユキが負い目を感じる必要なんてないの。
あの時ここに残ることを選んだのは、あたしだから。ユキに忘れさせたのも、あたし。
それにユキは、あたしとの約束守ってくれたじゃない」
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:08/06/08 00:00
:SH903i
:aqXUJcpA
#431 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「約束……」
「思い出したら迎えに来てね、って。思い出してくれた。こうして今ここに来てくれた。
こんなにフラフラになってまであたしを見つけ出してくれたんだもん」
ハナがあたしの額から頬を優しく撫でる。
目の前の顔は静かに微笑んでいて、暗闇の中でそこだけ輝いているみたいだった。
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:08/06/08 00:00
:SH903i
:aqXUJcpA
#432 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「……幸せだった?」
ハナの問いかけに胸が詰まる。
ハナが全てを投げ出して忘れ去られていた時、あたしが何不自由ない温かい時間を過ごしていたのは事実なのだ。
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:08/06/08 00:01
:SH903i
:aqXUJcpA
#433 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「あたしは怖くなかったよ。来てくれると思ってたから。何もかも投げ出したけど、何ひとつ諦めなかった。
ユキがあたしの分まで生きてくれてるって信じてたから、あたしはあの日から今まで、死んでるのと変わりないようなこの長い時間を耐えられた。
楽しかった? 普通の幸せを手に入れた? あたしの分まで全力で生きた?」
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:08/06/08 00:01
:SH903i
:aqXUJcpA
#434 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの目を見ながら一つ一つゆっくりと尋ねるハナの言葉に恨みや妬みは感じられなかった。ただ純粋に、離れていた時間を取り戻したいという気持ちだけがあたしに突き刺さる。
「……幸せだったよ。ハナの分まで、みんなから愛してもらったよ」
あたしの答えを聞いてハナは顔いっぱいに笑みを浮かべた。
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:08/06/08 00:02
:SH903i
:aqXUJcpA
#435 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「もっと教えて、ユキの十年。何が楽しかったか、どんなことがあったか。全部知りたい」
そうだ。
別々に過ごした十年はあたしたちにとって分かち合うべき時間であって、あたしはハナの十年を、ハナはあたしの十年を知らなくちゃならない。
十年の全てを語り尽くすには長い時間がかかるけれど、それはこれから先にたっぷりある。
あたしたちが離れることはもう二度とないのだから。
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:08/06/08 00:03
:SH903i
:aqXUJcpA
#436 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「うん、全部分け合おう。あたしの十年は、ハナの十年でもあるんだもん」
あたしは腕を広げてハナの体を思いっきり抱きしめた。
「ハナ、ユキー!」
叫びながらガバッと抱き着いてきたのはサトルだ。すっかり忘れていた。
ハナとあたしが抱き合っているところにさらに覆いかぶさってきたサトルは号泣している。
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:08/06/08 00:03
:SH903i
:aqXUJcpA
#437 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「よかったー! あぁ〜もうホントによかったー! うあぁぁぁん」
さっきまで静かだったのは我慢していたからのようで、それがはち切れて大変なことになっている。
サトルを自分達からはがして、あたしとハナは顔を見合わせて吹き出した。
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:08/06/08 00:05
:SH903i
:aqXUJcpA
#438 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「もう、サトルはホントに変わらないねぇ」
そんなことを言いながら楽しそうにしているハナを見てあたしは、これは夢じゃないんだと実感していた。
そして。
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:08/06/08 00:06
:SH903i
:aqXUJcpA
#439 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「わぁー!」
「きゃあ!」
急に辺りが光に包まれ、大きな爆発音が響いた。
一瞬にして闇に戻ったかと思うと、再び空から眩しいくらいの光が降り注ぎ地面を揺らすような低い音が届いた。
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:08/06/08 00:06
:SH903i
:aqXUJcpA
#440 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「花火だ!」
立ち上がって叫んだかと思うと、サトルはもと来た方向へと走り出す。
あたしたちが呆気にとられてその姿を見ていると、くるっと振り返ってパタパタと手招いた。
「二人とも何してるの、早く!」
サトルの焦った声にあたしとハナも慌てて立ち上がり、サトルの後に続いて走り出した。
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:08/06/08 00:07
:SH903i
:aqXUJcpA
#441 [蜜月◆oycAM.aIfI]
再びコンクリートの箱がある場所へと戻ったあたしたちは、空を見上げて息を飲んだ。
どこから打ち上げられているのかわからない花火は、あたしの視界いっぱいに光の粒をばらまいた。
ぽっかりと木々を失った空間は、まるでその為に用意された特等席であるかのように空を切り取っている。
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:08/06/08 00:07
:SH903i
:aqXUJcpA
#442 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは言葉を忘れたように、ぽかんと口を開けて明るくなったり暗くなったりする空を眺めていた。
しばらくそうして立ち尽くしていたら、ハナが口を開いた。
「あの時も、花火があがってたね」
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:08/06/08 00:08
:SH903i
:aqXUJcpA
#443 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そういえば……十年前あたしがここを去った時、意識が途絶える直前に花火が打ち上げられていたんだった。
空に広がった光がハナの顔を照らしていたのをよく覚えている。
「うん」
今、あたしの隣にいるハナは、空の一点をじっと見つめている。
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:08/06/08 00:17
:SH903i
:aqXUJcpA
#444 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「毎年この時期に花火があがるの。近くで花火大会があるんだと思うけど……。
ユキがいなくなって、何にもなくなったあたしの唯一の楽しみだったんだ、冬の花火」
「ハナ……」
見上げていた顔を隣にいたハナに向ける。
ハナは相変わらず空を眺めている。その表情は生き生きとして、希望に満ちていた。
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:08/06/08 00:18
:SH903i
:aqXUJcpA
#445 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ハナ、あたし……」
「ストップ! ……今謝ろうとした? さっきも言ったけど、ユキが負い目を感じる必要はないんだよ? あたしがこうなることを望んで選んだんだから」
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:08/06/08 00:20
:SH903i
:aqXUJcpA
#446 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの顔を見てそう囁くと、笑顔のハナはまた明るく彩られた空を見上げる。
ハナはあたしが罪悪感を感じることを望んでいない。
それならあたしは謝らないでいよう。
そのかわり、これから先あたしはハナに感謝し続けよう。
ハナがこの十年間をあたしに捧げてくれたように、この先の全てをハナに捧げよう。
それがあたしの返し方だ。
「ハナ、ありがとう」
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:08/06/08 00:21
:SH903i
:aqXUJcpA
#447 [蜜月◆oycAM.aIfI]
その第一歩、あたしは感謝を言葉にしてハナに捧げた。
空で弾ける花火に照らされたハナの横顔は、穏やかで喜びに満ちていて美しい。
自分の顔と同じはずのそれは、全く別のものだった。
離れていた十年がそうさせたのだろう。
あたしとハナは見た目こそ同じだけれど、内側には絶対に重ね合わせることの出来ない違いがある。
どうやったって今のハナの気持ちをあたしが理解することは出来ない。
しかし、これから時間をかければ、もしかしたら。
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:08/06/08 00:21
:SH903i
:aqXUJcpA
#448 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルがあたしとハナの周りを跳び回りながら花火に向かって叫んでいる。
あたしはハナの横顔から上空に視線を移し、この先の幸せな未来を明るく瞬く空に思い描いた。
火花が煌めく夜空の向こうに、温かくて希望に満ちた未来がはっきりと見えた気がした。
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:08/06/08 00:22
:SH903i
:aqXUJcpA
#449 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/06/08 00:25
:SH903i
:aqXUJcpA
#450 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/06/08 00:27
:SH903i
:aqXUJcpA
#451 [蜜月◆oycAM.aIfI]
―\―
歩道の端に植えられた桜は蕾を膨らませ、その下を歩く全ての人に春めいた空気を味わわせる。
あたしとサトルはバスに乗って街の端にあるマンションに向かっていた。
バス亭からマンションへと続く歩道には間隔を開けて桜の木が植えてあり、枝の間をくぐりぬけて落ちてくる太陽の光が時折あたしの目を眩ませる。
マンションまでは歩いて約二十分。ちょうど半分くらいまで来たところで、あたしは歩きながらセーラー服の上に着ていた黒いカーディガンを脱いだ。
もう、冬は終わったようだ。
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:08/06/12 05:10
:SH903i
:80/PBkxE
#452 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そしてそれと同時に、ハナを苦しめていた悲劇も終わりを迎えた。
「やっぱりまだ家には戻らないって?」
ふいにサトルがそう尋ねる。
ヒラヒラと桜の花びらがあたしの目の前を横切った。それを目で追いながらあたしは答える。
「うん、まだ……。でも体は良くなってるし、食事の間ぐらいなら一緒に過ごせるようになったし、もうすぐだよ」
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:08/06/12 05:11
:SH903i
:80/PBkxE
#453 [蜜月◆oycAM.aIfI]
風を受けながら地面に落ちてゆく花びらから視線を外し、サトルに笑顔を見せる。
「そっか。なら良かった!」
嬉しそうに表情を崩したサトルは軽い足取りで桜を見上げながら歩いてゆく。
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:08/06/12 05:11
:SH903i
:80/PBkxE
#454 [蜜月◆oycAM.aIfI]
悲劇は終わった。
けれど、なにもかもが元通り、という訳にはいかない。
ハナの心に深く刻まれた精神的な苦しみは今も彼女を攻め続けている。
あたしはその傷を塞ごうと、ハナの元に通い詰めた。
ハナの中に残った傷はこの数ヶ月で随分癒えたけれど、時折傷口を広げては血を流し、ハナを苦しませる。
あの犯人の男が、今もなおハナを苦しませているのだ。
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:08/06/12 05:12
:SH903i
:80/PBkxE
#455 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしとサトルが十年振りにハナと再会を果たしたあの時、犯人の男はいなかった。
あの場所にいなかったのでは無く、既にこの世にいなかった。
ハナの言うところによると、男は自分の過ちを悔い、自ら命を絶ったようだ。
しかも、ハナの目の前で。
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:08/06/12 05:13
:SH903i
:80/PBkxE
#456 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そのことを話した時のハナの様子は、まるで愛した相手がこの世から去ってしまったかというほどに落胆し、絶望し、哀しんでいた。
あたしが両親の元に帰ってから四年ほど後のことらしい。
その四年間で、ハナとあの男の間には他人が踏み入ることの出来ない繋がりが生まれていたのだろう。
四年も一緒に暮らせば誰だってそうなるのかもしれない。
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:08/06/12 05:14
:SH903i
:80/PBkxE
#457 [蜜月◆oycAM.aIfI]
けれどあたしはやっぱりあの男を許せなかった。
いくらハナがあの男を慕っていたとしても、ハナをここまで苦しませている原因なのだから。
それに、苦しいのはハナだけではない。
父も、ハナと同じか、それ以上に苦しみ悲しんでいるのだ。
ハナは父という人間にあの男の影を見る。
共通するのは、大人で、男で、父親だということ。ただそれだけ。
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:08/06/12 05:14
:SH903i
:80/PBkxE
#458 [蜜月◆oycAM.aIfI]
けれど、ハナは父を前にすると苦痛を感じてしまうのだ。
彼女は、犯人の男を憎んでいるつもりも恨んでいるつもりも、ましてや恐怖を感じているつもりもない。
そして彼女自身は自分の父とともに過ごしたいと望んでいるのに、心に残された傷痕が悲鳴をあげて暴れ出す。
長い間共に生活し、そのせいで心の表面は犯人の男を受け入れた。
しかし奥深く、心の深層では男に恐怖を感じているのだ。
そしてその恐怖の対象に、父も入れられてしまった。
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:08/06/12 05:15
:SH903i
:80/PBkxE
#459 [蜜月◆oycAM.aIfI]
父の悲しみは深く、あたしや母にもそれを埋めることは出来なかった。
そしてまたハナ自身も、会いたいのに会えない、自分の感情と苦しみの板挟みに哀しんでいた。
しかしここ数日の間に、ハナは父と会話し、お茶を飲み、食事をともにするところまで回復していた。
あたしは今希望を掴んでいる。また家族四人揃って一緒に暮らせる希望を。
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:08/06/12 05:16
:SH903i
:80/PBkxE
#460 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルがドアの横のチャイムを鳴らすと、パタパタとスリッパの音が聞こえ、ドアが開かれた。
「お帰り」
「ただいま!」
ハナの出迎えにまずサトルが答えてドアをくぐる。
あたしもそれに続き、今ハナが一人で暮らしている部屋に入る。
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:08/06/12 05:16
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#461 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ただいま。これ、スーパーで買って来たよ。足りないものある?」
一人で暮らしていると言っても、今のハナは一人で外出もままならない。
生活費は両親に出してもらっていて、必要なものがあるとあたしが学校帰りに買って届ける。
初めは母が届けていたけれど、いつの間にか毎日来ているあたしが届けるようになっていた。
「ありがと。……シャンプーと、歯磨粉と……洗剤。うん、大丈夫、完璧だよ」
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:08/06/12 05:17
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#462 [蜜月◆oycAM.aIfI]
今日もハナの笑顔が見られた。
十年間見ることが出来なかった笑顔を、これから先少しでも多く見ていたい。
あたしはそう思っている。
マンションは五階建てで、ハナは最上階の部屋を使っていた。
ワンルームキッチン付きのあまり広くはない部屋だけれど、荷物が少ないせいか狭くも感じない。
ベッドと、小さなテーブルと小さな引き出し式の棚。その上に電話機があり、洋服なんかはクローゼットにしまってある。
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:08/06/12 05:17
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#463 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「今日は僕が話したげる! ……ユキの失敗話、聞きたい?」
サトルはベッドにもたれながら、隣に座るハナに顔を向けた。
あたしたちはあの時の約束通り十年間を分かち合うべく、この部屋に来ては自分たちの今までに起きたいろいろな話を教え合った。
サトルが来た時はいつも、彼があたしの笑い話や失敗話を披露してくれるのだけれど、あたしは毎回必ず恥ずかしい思いをさせられる。
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:08/06/12 05:18
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#464 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「もういいよ〜あたしの変な話は……あ、サトルの話にしない?」
あたしは仕返しにサトルの恥ずかしい話をしてやろうとハナにニヤリと笑いかけた。
選択を迫られたハナは、あたしとサトルの顔を見比べながら悩んでいる。
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:08/06/12 05:19
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#465 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「うーん……どっちも聞きたい!」
まるでサトルのようなハナの答えに、あたしたちは小さなテーブルを囲んで笑いあう。
「じゃあ僕からね! あのねーユキが高校に入学した時に……」
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:08/06/12 05:19
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#466 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしとサトルがお互いの暴露話を次々と繰り出しあたしたちは小さな部屋の中笑い転げていた。
そんな状態に一区切りついた時、ハナがおずおずと切り出す。
「あのね、昨日思い出したことがあるんだ……あの人が死んだ時のこと考えてたら」
さっきまで笑いが溢れていた空気が急にピン、と張り詰めた。
ハナは特に辛そうにするでもなく、必死に記憶を手繰り寄せているようだ。
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:08/06/12 05:20
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#467 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ハナ、無理しないで」
失った記憶を取り戻すのがどれほど難しいか。あたしはよく知っている。
けれどあたしの心配をよそに、ハナは俯き気味に語り始めた。
「いつだったかはっきり覚えてないけど……多分あの人が死んですぐだと思う。あたし、一度家に帰ったの」
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:08/06/12 05:20
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#468 [蜜月◆oycAM.aIfI]
手に持つマグカップに落としていた視線を瞬時にハナへ向ける。
あたしの記憶にそんな出来事は無い。
あたしが驚きに固まっている中、ハナは言葉を続ける。
「でも……そこにいたのは知らない人だった。門にかかった表札も、あたしの知らない名前だった。それで初めて引っ越したんだって知ったの」
――そっか。……前に住んでた家に行ったんだ。
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:08/06/12 05:21
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#469 [蜜月◆oycAM.aIfI]
家族との再会を夢見て山を下り、懐かしい我が家へたどり着いたのに、それが叶わなかったハナを思うと胸が苦しくなった。
自分の顔が歪むのを止められなかった。
あたしが見つめるハナの顔は、歪んではいないけれど少し哀しさを含んでいた。
「それから電話帳でお父さんの名前を調べて、電話したの」
「え……」
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:08/06/12 05:21
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#470 [蜜月◆oycAM.aIfI]
電話? 家に?
じゃあハナはその後、父と母と連絡を取っていたのだろうか?
しかしあたしは全く知らない。
ハナがここに戻ってからも、そんな話は聞いていなかった。
驚きの目をサトルに投げかけると、サトルも「聞いていない」という風に首を振る。
「夜だった……お父さんが出たの。
引っ越したって何か事情があったのかと思ったから、自分だって言わないで、T小学校の同級生だって……」
「ハナ……っ」
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:08/06/12 05:22
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#471 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナがどんなに家族想いか、あたしは信じられない思いだった。
耐え切れず涙が浮かぶ。
どうしてこんなに優しいハナがあんな目に?
あたしは改めて神様を恨んだ。
膝の上で強くにぎりしめた拳に、ポタリと涙が落ちる。
唇を噛み締め、声を押し殺した。
――あたしが泣いてどうするの? ハナの方が辛いはずなのに……っ!
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:08/06/12 05:23
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#472 [蜜月◆oycAM.aIfI]
涙を堪えようと下を向いて強く目をつむる。
と、ふわりという感触があたしのまぶたを撫でた。
力を抜いて目を開けると、ハナがティッシュペーパーを一枚手にして微笑んでいた。
あたしの涙を拭ってくれたようだ。
「泣かないで、ユキ。ユキが笑っててくれないとあたしもサトルも悲しいよ」
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:08/06/12 05:23
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#473 [蜜月◆oycAM.aIfI]
その言葉にサトルが頭をブンブンと振って頷く。
それがおかしくて、あたしは泣きながら笑ってしまった。
「んっ……大丈夫、ありがとう二人とも……。ハナ、続けて?」
あたしの目から未だ零れる涙をもう一度ティッシュで拭うと、ハナは続きを話し出した。
「えーと……そう、同級生だって電話して、お父さんが出て……それで、よくわからないままユキちゃんは元気ですかって言ったの。そしたら……記憶はまだ戻らないけど元気だよ、って……。それで、ユキがホントに約束守ってくれたんだってわかったの」
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:08/06/12 05:24
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#474 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナはそこで一度言葉を切り、テーブルに置いていた紅茶に口をつける。
あたしやサトルに返事を求める様子もないので、あたしたちは無言でハナを見守った。
「お父さんの声が懐かしくて……会いたくなって……。でもユキがあたしのことを忘れているなら会いには行けないと思った。それでいろいろ考えてたら……『ユキをよろしくね、お父さん』って言っちゃったの。すぐに電話を切ったけど……それからは寂しくて、何回も電話したくなっては我慢して……」
ハナの口調は最初から最後まで淡々としている。けれどやはり表情は悲しげで、切ない微笑みが浮かんでいた。
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:08/06/12 05:26
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#475 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そんなハナの表情に気を取られる一方で、あたしはハナの話を聞いて何か頭に引っ掛かるものがあった。
「ハナ……それって、あたしが帰ってからどのくらい? 覚えてないかな?」
俯くハナの背中に手を当て、出来るだけ優しく尋ねる。
あたしの考えが当たっていれば、ハナの答えは、四年と半年――。
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:08/06/12 05:27
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#476 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「四年と……半年くらいかな。……あの人が死んだのがそれくらいで、すぐに電話をかけたから」
――やっぱり。
「ハナ」
そう呟いて、あたしはハナの首に両腕を回して抱き寄せた。
ハナの手があたしの髪を撫でる。
「その日、……きっとハナが電話した日だよ。お父さん酔っ払って……すごくイライラしてた……いつものお父さんじゃなくて、何かずっと考えてて……それであたしに昔のことを少しだけ話したの」
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:08/06/12 05:28
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#477 [蜜月◆oycAM.aIfI]
父は、きっと葛藤していたのだ。
ハナが生きている。
それを知ってしまった。
けれどあたしは事件とハナのことをすっぽりと忘れ去っている。
ハナを探し出しても共に暮らせるかどうか……けれどハナを放ってはおけない。
そうして、苦悩していたに違いない。
そしてあたしに引っ越したという話をしてしまったのだろう。
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:08/06/12 05:28
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#478 [蜜月◆oycAM.aIfI]
その結果父がどう行動したのか、母には話したのか、それらは全くわからないけれどきっと父もそれから約五年半の間、苦しんで苦しんで苦しみ抜いて来たのだと思う。
「あたしが電話で『お父さん』なんて言わなかったら……お父さんの苦しみを増やすこと無かったのに……」
ハナが苦しそうに小さく漏らした。
「そうじゃない、ハナは悪くない! 自分を責めないで、ハナのせいじゃないから。お父さんもきっとそう思ってるよ」
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:08/06/12 05:29
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#479 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは抱きしめたハナの体をさらに強く抱きながら、ハナに語りかけた。
ハナが何をしたと言うのか。
ここまで自分を犠牲にしてきたのに、まだ自分を責めさせるの?
神様は残酷だ。
あたしはハナの体を抱いている手で撫で、目を閉じた。
神なんて……様付けで崇められているけれど、人間を弄んで喜ぶ変態だ。
あたしは神からもその他全ての悪からも、ハナを守る。
もう、二度と失いたくないから。
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:08/06/12 05:30
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#480 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナがあたしの腕を抜けたのを感じた後に、チャリ、と言う音がした。
「これ……ちゃんと着けてくれてるんだね」
あたしは目を閉じたまま頷く。
ハナが手に取ったであろう物体は、あたしの首から提げられたリングだ。
チェーンを通して肌身離さず着けている。
「ずっと着けててね……あたしとユキはあの人を忘れないでいてあげないと……ダメだから……」
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:08/06/12 05:31
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#481 [蜜月◆oycAM.aIfI]
トン、と胸に重さを感じて瞼を上げると、ハナの体がもたれかかっていた。
顔を覗き込むと、目を閉じて穏やかな顔をしている。
眠ってしまったようだ。
「寝ちゃったね」
サトルが小声で囁きクスリと笑う。
あたしの顔にも自然と笑みが零れた。
静かに寝息を立てるハナを起こさないようにベッドに寝かせながら、あたしは自分の胸が温かくなるのを感じていた。
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:08/06/12 05:31
:SH903i
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#482 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナとこうして普通の、ありふれた楽しい時間を過ごせることがあたしには奇跡みたいに思えていた。
毎日この部屋に来ては尽きることのない思い出を語り合う。
それだけなのに、あたしはそれまで感じたことのない幸福感に包まれていた。
記憶に穴があったせいか、無意識にハナを求めていたせいかはわからない。
けれど今になって思えば、あたしには何かが足りない、何か欠けているという喪失感があったような気がする。
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:08/06/12 05:32
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#483 [蜜月◆oycAM.aIfI]
けして不幸せだったとは思わない、むしろ両親やサトルに温かく守られてあたしはぬくぬくと生きてきた。
それでも、あたしは心のどこかでこれを――今のこの満ち足りた状態を、欲していたのだと思う。
ハナがいなかった世界と、今ハナが近くにいる世界とは、同じに見えて同じじゃない。
ただハナがこの街に帰ってきたというだけなのにその違いは、あたしの内部に大きな変化をもたらした。
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:08/06/12 05:33
:SH903i
:80/PBkxE
#484 [蜜月◆oycAM.aIfI]
これが、この状態こそがあたしにとって、そしてハナにとってあるべき状態だと。そう感じている。
心には余裕が溢れ、些細なことにも心を動かされるようになった。目に映る全てのものに感謝の気持ちを持てるようになった。
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:08/06/12 05:33
:SH903i
:80/PBkxE
#485 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナが側にいてくれることで、あたしは生きる意味を見出だせたような気がする。
あの時の誓い――この先の全てをハナに捧げるという誓いを、あたしは胸に刻んで過ぎ行く一瞬一瞬を消費してゆくのだ。
それが、あたしの生きるよすがだ。
―了―
:08/06/12 05:34
:SH903i
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#486 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/06/12 05:39
:SH903i
:80/PBkxE
#487 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/06/12 05:40
:SH903i
:80/PBkxE
#488 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/06/12 05:59
:SH903i
:80/PBkxE
#489 [ぁぃチャン]
:08/06/12 23:48
:D902i
:6dAmU67k
#490 [蜜月◆oycAM.aIfI]
>>489 ぁぃチャンさん
コメントありがとうございます!(´;ω;`)
以前から読んでいて下さったようで…すごく嬉しいです!
そこまで褒めていただくと何だか照れ臭いですがw
でも本当に嬉しいですっ。
私にはもったいないほどのお言葉と、最後までお付き合いくださったことに感謝します。
次はまだいつになるかわかりませんが、また読んでいただければ光栄です(´∀`)
:08/06/13 03:49
:SH903i
:cTmdYFDc
#491 [りり]
:09/11/16 20:33
:SH904i
:6aLktzZI
#492 [
]
あげます


:10/02/07 21:33
:SH01B
:axv19xeU
#493 [我輩は匿名である]
最高だ
:11/03/06 01:25
:SH02C
:SNAb5Tjg
#494 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑
:22/10/07 11:58
:Android
:GR1soPvw
#495 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/07 12:13
:Android
:GR1soPvw
#496 [○○&◆.x/9qDRof2]
yosuga
:22/10/07 12:32
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#497 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/07 12:36
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#498 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/07 12:36
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#499 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#500 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#501 [○○&◆.x/9qDRof2]
↑(*゚∀゚*)↑
:22/10/17 14:58
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:We5gljpk
#502 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/23 17:22
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:Oa43ZxSI
#503 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 15:44
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:zH8LnywQ
#504 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 15:45
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#505 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/25 15:45
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#506 [○○&◆.x/9qDRof2]
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:zH8LnywQ
#507 [○○&◆.x/9qDRof2]
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しんでからきづく、大切なひと
僅かな音すらない静けさの中、ゆっくりと意識が戻ってくる。ふわふわと宙に浮いているような奇妙な感覚に包まれて、私は目を覚ました。たった今、生まれ落ちたばかりのように頭がうまく働かず、無心でぼーっと天井を見つめる。
:22/10/25 15:48
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:zH8LnywQ
#508 [○○&◆.x/9qDRof2]
天井とはこんなに低かっただろうか。ちょっと手を伸ばせば触れてしまいそうなほどに近く感じる。いや、実際近いのではないか?と考えが頭を過ぎったりもしたが、正直どうでもよく感じ、あっさりと思考を停止させた。そんなことを考えながら天井を見つめていると、次第に世界に音が戻ってきた。
:22/10/25 15:48
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:zH8LnywQ
#509 [○○&◆.x/9qDRof2]
何の音だろう。聞き覚えのある一定のリズムが耳に届く。ぽくぽくぽく。嗚呼、これは確か。木魚(もくぎょ)の音か。そういえば、さっきからお経のような声も聞こえるし、これは夢だろうか。そうでないとするなら、私は葬式中に寝ていることになる。
:22/10/25 15:49
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:zH8LnywQ
#510 [○○&◆.x/9qDRof2]
頭が少しずつ機能してきた時、聞き覚えのある母の啜り泣く声が聞こえてきた。.......お母さん?
「うっ、うぅっ.......」
「良枝、」
母の泣き声に次いで、父のなだめるような声が母の名前を呼んだ。お母さん?どうして泣いてるの?お父さん?何があったの?
:22/10/25 15:49
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:zH8LnywQ
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