クソガキジジイと少年」
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#701 [ザセツポンジュ]
ジョウは、トミーの
極度の勘違いにあきれながらも
希望で満ち溢れていた。

(じゃあ、じゃあ、ボクはエノシタさんと、エノシタさんとクリスマスを過ごせるチャンスかもしれないじゃん!いけいけごーごーすーずーき!)

ジョウは、自分にエールを送り
気持ちを入れ替え
歴史の授業を受けた。

⏰:08/04/04 15:00 📱:PC 🆔:1Bn.IsqU


#702 [ザセツポンジュ]
「ねえ、トミー。エノモトさんと、エノモトサンとうまく行けばいいね!」

「、、、。お前何でさっきからエノモトサンのとこだけカタコトになるんだ?」

おおっと危ない。
恋に集会に冬休みにクリスマス。
これから忙しくなる少年2人だった。

⏰:08/04/04 15:40 📱:PC 🆔:1Bn.IsqU


#703 [スかなス]
あげ

⏰:08/04/06 13:57 📱:W51CA 🆔:atC9RIq6


#704 [我輩は匿名である]
あげ〜

⏰:08/04/12 20:21 📱:F705i 🆔:gVWd4Us.


#705 [べあ-]
定期あげ-

⏰:08/04/28 23:15 📱:W51CA 🆔:8wFrJpcE


#706 [ケイネス]
書籍化しないんですかー?

⏰:08/05/03 17:10 📱:W53H 🆔:JFmXJx66


#707 [ザセツポンジュ]
【談】

ザセツポンジュ。
持続性がないのであります。
もうきーさんだのすーさんだのをちまちま書きはじめて
あしかけ
2年ほどになりました。2008年7月7日に完結させます〜
(と、言わないとやらないので言ったからには個人的にやろうと思います。)

“あげ〜”してくれた方々。

たんまに開くと
嬉しくて鼻血が出そうです。

最後の最後には
しょうもないサプライズとともに
完結させますので

7月7日まで
ダラダラとよろしくです。

ありがとうです。

⏰:08/05/03 17:41 📱:W51CA 🆔:NqM0mZf2


#708 [みずき]
主サン大好きです(ω)ノ
期待してます

⏰:08/05/03 22:17 📱:W44K 🆔:z8giIPI2


#709 [ゆちよん]
全部読みました
頑張ってくださいね~

⏰:08/05/05 21:59 📱:W51S 🆔:gldcouak


#710 [ケイネス]
書籍化してくれる人いないかな
でたら買うよ。主のクオリティとセンス良すぎですって!

⏰:08/05/08 23:44 📱:W53H 🆔:GEKeQMHQ


#711 [ザセツポンジュ]
『ブフォ!格別に熱い!まるでみーちゃんのワシに対する想いがココに表れているみたいでならん!』


早朝の#7791カフェで、猫舌なのにも関わらず熱い梅昆布茶を嬉しそうにすするすーさん。


きーさんは
小夜子ストロベリーをほうばりながら
すーさんを軽蔑した。

⏰:08/05/13 23:13 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#712 [ザセツポンジュ]
『すーさん。そこまで熱い梅昆布茶を出してこられたみーちゃんは、心底自分の事が嫌いなのではないかと疑うのが一般論だ。すなわちすーさんの脳内は腐っている。近くの病院に行きなさい。』


『フーァッ。フー、フーァッ。』


否定的な意見は聞き入れない主義。
鈴木ひとし、老人。

⏰:08/05/13 23:16 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#713 [ザセツポンジュ]
『きーさん。吐きダコのきららちゃんはどうなったんじゃ。もうずっとキャバクラにも行ってないし、なにより空ちゃんがワシを呼んでおる。』


『営業と言う漢字2文字の意味がお分かりかね。まぁいい。きららちゃんの様子見がてら、まず六さんのところへ行ってみよう。すーさん。また夕方に。』

小夜子と甘い一時を過ごしたきーさんは
伝票をすーさんの顔に貼り付けカフェを出た。

『ワシのオゴリ系かよ〜。うぜぇ系?伝票も貼り付ける系?代金払え系?きーさん。ゴールデンエッグスて知ってるか系?あ、あれ?きーさん!みーちゃん!きーさんは!!?』

⏰:08/05/13 23:25 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#714 [ザセツポンジュ]
日が暮れだした
茜色の寒空の下

老人2人は
懐石料理“廣六”へと
向かった。


ガラガラガラー。


『いらっしゃいま…』

出迎えた
着物を来た可愛らしい女性は
びっくりした様子で2人を見たまま口に手をやった。

⏰:08/05/13 23:30 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#715 [ザセツポンジュ]
『きららちゃん…アンタまさか六さんと性行為に及んだのでは…きーさん、この女危ないぞ、気を付けろ…』


すーさんは難しい表情を浮かべきーさんの後ろに下がった。


きーさんは
きららちゃんを
上から下までじっくりと眺めこう言った。



『きららちゃん。少し、痩せたな。』


『うん!』


きららちゃんは
とても嬉しそうにニッコリ笑った。

⏰:08/05/13 23:33 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#716 [ザセツポンジュ]
六さんの店に通ううちに
バランスの良い食事を
こころよくとらせてもらっていることに
気が引けて

週に2、3回程度
中居として働かせてもらうことになったと言うきららちゃん。


ちなみに
六さんと言う老人と
セックスをしてしまうほどアバズレではない。

うそつき空ちゃんと
働くキャバクラには
出勤を減らし
こちらも週3程度で働いている。


精神的なバランスも
徐々にとれだしていた。

『きーさん。私ホントに感謝してます。ありがとう。』

⏰:08/05/13 23:38 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#717 [ザセツポンジュ]
きーさんの手を握った
きららちゃんの手の甲から見える
吐きダコの跡が
少し薄くなっていることに、きーさんは安心した。


『きららちゃん。空ちゃんはワシのこと寂しそうに待っているんじゃろ。ワシも会いたいよ。なのにきーさんときたら、何遍誘っても首を縦に振ってくれないんじゃ。きーさんはインポなんじゃ。』


『すーさん。いい加減、死のうとは思わないのかね。この町内のためにも。ちょっと黙っててくれ。』


くすくすと笑うきららちゃんは何かを少しとっぱらったような可愛い笑顔だった。

⏰:08/05/13 23:43 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#718 [ザセツポンジュ]
『もう今日は暇だし、アンタもきーさん達とご飯食べなさい。仕事はもういいから。ね。』

六さんの登場に
すーさんはブーイングした。

『六さん!アンタ、きららちゃんをアンタ呼ばわりして何様のつもりかね!変態!ワシですら空ちゃんとチュウもしたことないのに若い娘をなめまわしやがって!』


ゴツン!

『…っつ…。』


きーさんのゲンコツは痛いのだ。

六さんの料理フルコースを食べあさるうちに

日本酒に酔っ払った
すーさんは
ウトウトしだし、大人しくなった。

⏰:08/05/13 23:50 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#719 [ザセツポンジュ]
きーさんはタバコに火を付け
一息ついたところで
ゆっくり話だした。


『きららちゃん。本名は何と言うか知らないがそれはどーでもいい。だが…あの…その…手の…事だけども、…体が痩せてキレイになったからと言って解決する問題と言うワケではないのは分かるかい?』

きららちゃんは
手の甲の自分をいじめた赤色の痕跡にそっと手でおおいかぶせ
話し出した。

⏰:08/05/13 23:55 📱:W51CA 🆔:aYBz2q7U


#720 [ザセツポンジュ]
『はい。私ちょっと、勘違いと言うか、過剰に思いすぎていたところがあった…。何かうまく行かない事があると、太っているせいだとか、容姿端麗ならこんな風にはならなかったはずだとか、胃の中に入れたら太ってしまう…出してしまわないと自分は醜いだとか…』

きーさんは
静かな空気の中
フゥっと煙を吐き出した。



『だけど、それよりももっともっと奥の方に、きららちゃんがそうなってしまった原因があるだろう?』


きーさんの
とても柔らかい口調に
きららちゃんは
ほだされていった。

⏰:08/05/14 00:04 📱:W51CA 🆔:FHLTeiMw


#721 [ザセツポンジュ]
『そうね…。それがどうなれば解決とされるのかは分からないけれど、まずは自分を安定させて、それから少しずつ向き合って行けたらなと思うの。』



せめてきららちゃんは
このまま
今、描いているイメージ通りに
進んでいけることを
きーさんは切に願った。


『ピーピーピー。ピピッピピー。空ちゃ〜ん。ワシの空ちゃ〜ん。』


すーさんは顰蹙係。
酔っ払った時は
いつだってこうだ。

⏰:08/05/14 00:08 📱:W51CA 🆔:FHLTeiMw


#722 [ザセツポンジュ]
口の中の
歯ぐきが
ガクガク踊り出して

次は
のどに

次は
心臓に

次は
胃に

次は
心臓に

次は
のどに。

顔を憎み
腕を憎み
胸を憎み
腹を憎み
足を憎み

怖くなって
怖くなって


眠る。

⏰:08/05/14 00:14 📱:W51CA 🆔:FHLTeiMw


#723 [ザセツポンジュ]
チョコレートもポテチも牛丼も

お母さんもお父さんも近所の人も

サンドイッチもハンバーガーもラーメンも

学校も友達も先生も。

アイスもケーキもワッフルも。

妹も妹も妹も…


私の中から出て行って
いらないわ、何もかも
邪魔だわどれもこれも


ずっと比べていればいいわ。

⏰:08/05/14 00:17 📱:W51CA 🆔:FHLTeiMw


#724 [ザセツポンジュ]
どうだっていいもの。
私にはどうだっていいもの。



無くなればいい。
死ねばいい。
私は醜い。
消えてしまえばいい。


どうだっていい。
どうだっていいもの。


全部
どうだっていいもの。

⏰:08/05/14 00:19 📱:W51CA 🆔:FHLTeiMw


#725 [ザセツポンジュ]
ーーーーーーーーー



『おはようございます。木田です。生徒会長です。皆様、ご機嫌はいかが?』


恒例の、全校集会が幕を開けた。


《キャーーーー!!!!トミーーーーー!!!》


何を土地狂ったのか
片田舎の女子中学生の
黄色い声援と言うものは

トミーをつけあがらせる
最大の覚せい剤だ。

⏰:08/05/14 00:23 📱:W51CA 🆔:FHLTeiMw


#726 [我輩は匿名である]
>>230ー300
>>300-400

⏰:08/05/14 07:04 📱:N902i 🆔:BcjqSwbk


#727 [我輩は匿名である]
>>200-300

⏰:08/05/14 07:05 📱:N902i 🆔:BcjqSwbk


#728 [空の色]
こんな小説あったんだ…ほんと読めてよかったbb

温かい気持ちになるよ、これからも楽しみに読ませてもらいやす

⏰:08/05/16 21:36 📱:W43H 🆔:mHnGFj8s


#729 [ザセツポンジュ]
『今から全校集会を始めます。きりつ、気をつけ、れい。』

ステージには
新生徒会役員、トミーやジョウを含めた6名。
裏方に、旧生徒会役員、トキムネ氏、エノシタさんを含めた6名。

体育館2階には
父兄にPTAが勢揃い。

そして、1階の窓際に一列、教師達が並ぶ。


ステージに一番近いところに我が校代表する校長が座った。

⏰:08/05/19 01:22 📱:W51CA 🆔:UWzOEldU


#730 [ザセツポンジュ]
女子達の黄色い悲鳴は止まない。

調子に乗りたい気持ちを抑え

トミーはマイクを持ちステージのそでに立った。


『女子達。キャーキャーピーピーうるさいんですけど。シーよ。シー。俺は、今日来ている君達のママやパパにひとりずつ挨拶してまわらないといけない。そしたらどうなる。全員のパパにボコスコにされてしまうよ。…それで余計かっこよくなれるかもしれないけど。』

腹の立つ勘違い発言だが片田舎のため許された。
いつものことだ。

2階からドっとわかせたところでトミーは口に人差し指を立て、会場をしずめた。

⏰:08/05/19 01:33 📱:W51CA 🆔:UWzOEldU


#731 [ザセツポンジュ]
『皆様今日はお集まり頂き有難うございます。今年も、例年通りの議題で行うように校長から言われました。が、しかし、そんなのなんにもおもしろくないので校長の命令は完全無視する。』


小さな話し声が広がりざわつきはじめた。
校長はキョロキョロしてなにやら教頭に耳打ちした。

『議題を発表します。』

トミーは裏方の前生徒会長、トキムネ氏に指示を出した。

『そこのファイルにある1枚目をスクリーンに映し出せ。』

トミーの鋭い目に圧倒され、言われるがままに従った。


何も聞かされることのなかった旧生徒会役員。
トミー率いる新生徒会役員との確執は深かった。

⏰:08/05/19 01:45 📱:W51CA 🆔:UWzOEldU


#732 [ザセツポンジュ(仕事中のためPC)]
《い  じ  め》

スクリーンいっぱいに
映し出された、たった3文字の言葉。

みんなが議題を飲み込んだのを
確認したトミーは、進行をジョウと交代した。

『はい。ここに出ている文字を見てハッとした人もいると思いますが、この学校にいじめは存在しました。今日来ているお父さんお母さんは、ショックかもしれませんが、娘さん、息子さんが誰かをいじめているかもしれません。』

⏰:08/05/19 16:55 📱:PC 🆔:inGAe7KI


#733 [ザセツポンジュ]
ザワつきのボリュームは
次第にあがって行き、
校長は教頭をステージの上に送り出した。
教頭は校長に言われた通りの
マニュアル的台本を、ジョウの耳元で告げた。

普段は物静かなジョウジロウちゃんも
好きな子を守る
盛大なパーティーの最中、
忠告を聞き入れるわけにはいかない。

ジョウは、教頭の背中を押し
ステージの真ん中へ立たせた。

『今ボクに言った内容を、目の前にいるみんなにも発表してください。』

⏰:08/05/19 17:01 📱:PC 🆔:inGAe7KI


#734 [ザセツポンジュ]
教頭に、マイクを渡した。

『、、、いや、、、あの。』

マイクを持って
突っ立ったまんまの教頭に
生徒からヤジが飛ぶ。

『何言ったんだよ!言えよ!』
『なにやってんだよ、お前コケシか!』

混乱する体育館内と
それ以上に困り果てた、教頭、校長、、、。

教頭はマイクをジョウに渡し、肩に手を置いた。

『やりたいようにやれ。知らないぞ。』

そう言い残し、あまりの恥ずかしさからか
ステージの裏に逃げてしまった。

⏰:08/05/19 17:06 📱:PC 🆔:inGAe7KI


#735 [ザセツポンジュ]
校長がギラリと睨んだ先、
教頭は見えないステージの裏側で
今までにない屈辱を味わい
身震いせざるを得なくなってしまった。

裏方にかまえていた
旧生徒会役員も
この時ばかりは、かける言葉すら無かった。

『教頭が逃げたところで本題に入ります。スクリーンに映し出す資料をみんなで見て行きましょう。あとでみんなにも意見を発表してもらいます。』

⏰:08/05/19 17:16 📱:PC 🆔:inGAe7KI


#736 [ザセツポンジュ]
ジョウはエノシタさんに
資料を渡し、順番に映しすようにお願いした。

エノシタさんは、普段は見せないような
不安な顔でジョウを見つめていた。

何を話せるわけでもなく
ジョウはステージに戻った。

⏰:08/05/23 12:13 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#737 [ザセツポンジュ]
年間、少年少女の自殺が
600件にも達していること、
それを大人達は隠してしまっていること。

いじめをすることによって、
優越感を得る同年代の子達の心理

ネットでの書き込み、中傷が
増え続けている事。

黙って見ている人の立場。


ジョウが説明していくたびに
忠実に資料を映し出して行ったエノシタさん。

ステージの裏でのエノシタさんの様子が
気になって仕方のなかったジョウ、、、。

『暇なんですけど〜。』

ステージで説明するジョウを押しのけ
暇を持て余していた、生徒会長木田トミオが現れた。

トミーの再びの登場に
いちいちザワつく田舎女子。
ジョウはトミーと進行を交代した。

『鈴木くんの資料を見て、だいたい分かったと思いますが、ここで突撃インタビューを開始します。何か意見のある人は手を挙げましょう、、、。もちろん挙がりませんね。では、適当に出席番号を言うので各学年、呼ばれた出席番号の人は立ちましょう。』

新生徒会役員、トミーとジョウをステージに置き
残りの4人がマイクを持ち、体育館に散らばった。

⏰:08/05/23 12:29 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#738 [ザセツポンジュ]
『それでは、出席番号を発表します。男子5番、20番。女子2番18番。今呼ばれた出席番号の人、さっさと起立。』

トミーは、立たされた顔ぶれを眺めた。

そして、質問を開始した。

『1年生、1組の男子5番の子。名前をどうぞ。』


いたって健康そうで、1年生ならではの
ズボンの丈が少し短い男の子だった。

『片岡洋平です。』

名前もいたって当たりさわりなく普通だ。

⏰:08/05/23 14:33 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#739 [ザセツポンジュ]
『片岡君、さっきの資料で、年間600件の自殺が報告されていると言うことだったけども、600件全部がいじめが理由なワケではないと思う。でも死ぬほど嫌になるくらいのことを、片岡君は経験したことがありますか?』

トミーの唐突な質問に
いたって健康そうな片岡君は戸惑っていた。

『、、、ありません。』

『では、塾でもなんでもいい。しんどいな、苦しいなと思ったことはありますか?』

『、、、それは、あります。』

『そこで、そのしんどさをどうまぎらわす事ができましたか?』

『、、、。』

ズボンの丈が少し短い片岡君は
緊張のせいもあり、ガチガチで上のほうを見て考えた。

『僕は、、、。数学が苦手で、よく怒られていて、、、。それが嫌だったけど、友達に打ち明けたら、数学教えてくれるようになって、、、。まだ苦手だけどちょっとは楽になりました。』

⏰:08/05/23 14:59 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#740 [ザセツポンジュ]
『ありがとうございます。座ってください。』

片岡くんはズボンの丈を気にする事もなく
ホっとした表情で着席した。

『同じく1年1組の男子20番。名前から。』

『福井祐樹です。』

ドラえもんで言うスネオポジションとおぼしき
男の子。

『いじめと言うのは、どこからがいじめと呼ぶのかは難しいかもしれませんが、誰かがいじめをしているのを見た事がありますか?』

『まだありません。』

『では、仲の良い友達に、簡単に言うといじめを誘われたらどうしますか?』

『、、、断ると思います。』

『断ると、思います?』

『、、、断ります。』

『今みんなの前で言ったその言葉を忘れないでください。座ってください。』

⏰:08/05/23 15:13 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#741 [ザセツポンジュ]
ジャイアンポジションに
のび太ポジションをいじめようと誘われたら
きっとジャイアン側についてしまうだろう。
そんな自分の性格をなんとなく把握していた福井は
なかば強制的に宣言した言葉を重く受け止めた。

『では1組の2番女子。』

『安達さきです。』

安達さん、トミー軍団の一味である。
ニヤニヤしながらマイクを自らぶんどっていた。

『さきちゃん。無視したり、はみごにしたりと言う経験はありますか?』

『あ、ありません。でもしている人なら見た事があります。』

堂々とした発言に体育館がどよめいた。

⏰:08/05/23 15:26 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#742 [ザセツポンジュ]
『どういう風な形で始まりますか?』

『目立つか暗いかでターゲットが決まるケースが多いです。』

1年1組女子から安達さんにブーイングが起きている。

『1組女子静かにして。まだ質問が残っている。』

1組女子達はふてくされながら口を閉じた。

『さきちゃんは、それに加わった事はないと言いましたが、ではそのされている人や、している人に、何か注意とかはできましたか?』

1組女子は全員安達さんを睨みつけた。

『注意はしたけど、、、聞いてくれませんでした。』

⏰:08/05/23 15:32 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#743 [ザセツポンジュ]
1組女子はこの発言を聞いた途端
言いたいことをガヤガヤと言い始めた。

『トミー先輩の前だからっていい顔すんなし。』
『注意とか言う前にお前もやってんじゃん。』
『お前がむしろ先陣きってはじめてるし。』

安達さんは自分が掘った墓穴を恥じて
泣き出した。
マイクを持ったまま席に座りこんだ。
生徒会役員はマイクだけはと
奪い返した。

⏰:08/05/23 15:38 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#744 [ザセツポンジュ]
『静かに。静かに!1年1組の女子、貴重な意見をどうもありがとう。でも別に褒めているわけではない。これで、先生達も、体育館2階の皆様も、なんとなく今回この議題にした意味が分かったと思います。ただ、1組女子も他のクラスも他の学年も、考えを改めてください。している人だけが悪いのではなく、黙って見ている人も関係しています。そしてこの俺も、えらそうに言える立場ではありません。』

⏰:08/05/23 15:43 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#745 [ザセツポンジュ]
トミーは空気の変わりつつある
体育館の温度を感じ取り、
各学年、各クラスに質問を投げかけていった。

最後、3年3組ー。

『3組女子、2番。』

『石崎、、、みさです。』

石崎さんは、エノモトさんと人気を二分するくらいの
可愛さの目立つ女の子であるが、
どこかトゲトゲしい雰囲気を持っていた。

『石崎さん。クラス内で悪質ないじめが発覚した場合、石崎さんならどうしますか?』

『どう?って言われても、、、。』

『ほっときたいですか?』

『ほっときたいワケじゃないけど、この先もいじめは続いて行くと思います。』

『いじめている人が死ねば、そこでひとつのいじめは終わりますね。それでもまだ続きますか?』

『続きますね。全国全ての学校でのいじめをいちいち終わらすことは不可能だと思います。』

『全国区の話はしていません。身近なあなたのクラスでの話しをしているんです。』

石崎さんの尖った態度に
トミーも強気に出ていた。
この最終地点までやっとこぎつけたのに
今さらひるむワケにはいかなかったのだ。

⏰:08/05/23 15:58 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#746 [ザセツポンジュ]
『石崎さんのクラスで、いじめがあったとします。でも、3年生はあと1学期過ごせば卒業して学校もバラバラですよね。そしたらそのいじめはなかったことになると思いますか?』

『わからないんじゃないんですか?』

『石崎さんは、いじめに対してとても安易な考えと言うことでよろしいでしょうか?』

『そう思いたいならかまいません。逆に、木田くんはどうにかできるんですか?』

⏰:08/05/23 16:03 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#747 [ザセツポンジュ]
この白熱した言葉の交換に
目をいったりきたりさせる
生徒達の心臓は高鳴っていた。
そして石崎さんの投げかけた質問の答えを
トミーにたくし、ステージを真剣に見つめた。


『俺は、人をいじめると言う趣味はない。それは誓う。それにクラスにも恵まれています。俺のクラスには多分いじめはない。でもそれは多分としか言えません。この学校は田舎で、生徒も割りと少ないほうで、いじめなんかなさそうに見えるが、この学校であるまじき行動を目撃したヤツがいる。俺はそれを聞くまで、いじめには無頓着だったから、俺も悪い。』

⏰:08/05/23 16:15 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#748 [ザセツポンジュ]
『だけど、いじめがあるんだったら、見逃すワケにはいかないだろう。俺は、全国のいじめをなくしたいとか、そんな偽善ぶったことは言えないし、できない。自信はない。でも俺はこないだの演説で約束したんだよ。みんなは覚えてないかもしれないけど、俺は自分が言った言葉に責任を持ちたい。この学校の中だけでも、どうにかしたいと思ったから、今日この集会を開いている。』

⏰:08/05/23 16:23 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#749 [ザセツポンジュ]
『石崎さんは、どうにかできるんですか?と質問してきたけど、もちろん俺だけでどうにかすることはできない。それが答えです。他に言いたいことはありますか?石崎さん。』

いつもなら、ダルいだけの集会で
いつもなら、人の話もロクに聞いてなくて
いつもなら、話している人の顔すら見ない生徒達だったが

全員が、右後方にマイクを向けられて立ったままの
石崎さんの顔を、石崎さんの目を見ていた。

石崎さんは自分の目では入りきれないほどの数の
全校生徒の目を見たまま答えた。

『あ、、、、ありません。』

⏰:08/05/23 16:30 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#750 [ザセツポンジュ]
石崎さんは、自分が今までしてきたことを
全て思い出し、そして全校生徒の目を自分が自分に突き刺さったように感じて、席に座った。

『それでは最後です。3組女子、18番』

『、、、。』

『、、、。名前、どうぞ。』

『、、、。』

トミーもジョウジロウも分かっていたのだ。
あまりの衝撃に言葉も出なくなった
この女子の名前を。

『山田さん。山田さんには、最後の質問に答えてもらいたいんですが、答えられますか?』

山田さんは、ただただ首を横に振って
座ってしまった。

山田さんは、石崎さんと毎日毎日
一緒にいる。

二人は仲良し。
どちらかがどちらかに
支配されている。
二人は仲良し。

どちらかが命令して
どちらかが従っている。
二人は仲良し。

⏰:08/05/23 16:44 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#751 [ザセツポンジュ]
トミーが質問をしている最中、
ジョウは体育館のマイクを持って2階に移動していた。

そして、人を探していた。

ポン、ポン。

『ジョウジロウちゃん。』

『ワッ。、、、。きーさん。何やってんの?服、オシャレだね。この日のために用意した、、、え!にいちゃん!来たの!にいちゃんこんな昼間に外に出て大丈夫なわけ?』

『俺をひきこもりみたいに言うなよ、インドア派なだけだ。』

『そ、そう。って言うかまさかウチのじいちゃんまで来てるの?』

『ジョウジロウちゃん。あそこを見てみろ、ほれ。あの遺伝子がジョウジロウちゃんに影響してないかがワシはただ心配じゃよ。』

きーさんが指をさした先の
我が祖父を視界に入れたジョウは愕然とした。

立ち見の若くてキレイな誰かのお母様のケツの下に
地味に座り込んでいる。
気分が悪そうな小芝居まで地味に披露。

ジョウはきーさんの肩で一瞬涙を見せたが
探していたのは
自分ちのじーさん達ではなかったのだ。

⏰:08/05/23 17:00 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#752 [ザセツポンジュ]
くたびれてくたびれて
だけどそれも隠そうとしていて
隠して隠して
化粧をしている。

そんな派手目なお母様をジョウは見つけた。

顔は美人で、若い時は娘と同じくらい
人気だったのかなとジョウか思った。
とても悲しそうな顔をしているお母様。

⏰:08/05/23 17:06 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#753 [ザセツポンジュ]
もう1人は、気の強そうなお母様。

自分の育て方は決して間違ってはいないと
無理に暗示をかかえているような
難しい表情で呆然としている。
こちらは夫婦で娘の行事に参加している様子。

ジョウはこの二人の母親のいる場所を把握して
トミーからのパスを待ちながら
石崎、山田。両者の姿をしっかりと見ていた。

⏰:08/05/23 17:12 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#754 [ザセツポンジュ]
『では、次のコーナーに参ります。生徒のみなさんは、後ろを向いてください。お父様、お母様方の意見を聞いてみましょう。鈴木くが2階にいると思うんですけど。鈴木くん、どこですか?』

『はいは〜い。トミオちゃ〜ん。人気者のトミオちゃ〜んこちら鈴木で〜、、、』

ゴツン。
ゴツン。

『もうやめてよ、じーちゃん!』

孫と隣の家に住む老人からの
ゲンコツをくらったすーさん。

確かに鈴木くんに間違いはないが、
中学生の鈴木くんは、恥ずかしくて倒れそうだった。

⏰:08/05/23 17:21 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#755 [ザセツポンジュ]
体育館中から笑いが起こり
空気が和らいだ。
これもすーさんのおかげと言えよう。

『みなさん、今のは鈴木君のおじいさんなんですが、別に危険人物と言うわけでもないので、この集会が終わった後、袋叩きとかにはしてあげないでください。もう62歳ですしね。中学2年生のほうの鈴木くん。準備はいいですか?』

ジョウはマイクを取り返し
恥ずかしさを隠せないでいた。

『お見苦しいところをお見せしましたが、僕は将来こうなるつもりは1ミクロもありませんのでご理解頂きたい。準備オーケーです。』

クスクスと言う温かめの
笑い声。


『はい、は〜い。静かにしてくださ〜い。ジョウジロウちゃんのじいちゃんの話はまた3学期に学校通信でお伝えします。1,2年生はご期待くださ〜い。』

『もうトミーいいよ、その話。こっちの身にもなってください。一刻も早く進めてください。』

トミーとジョウの
ステージと2階からのやりとりを見て
仲の良さがみんなに充分に伝わったところで
後半戦を開始した。

⏰:08/05/23 17:39 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#756 [ザセツポンジュ]
>>729-755
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/05/23 17:50 📱:PC 🆔:2EGMUVP.


#757 [ザセツポンジュ]
『大人の意見も突撃で聞いてみましょう。鈴木くん適当に2階にいるお父様お母様を選んでください。』

ジョウは、まず適当に少し小太りなお母様を選んだ。

『お名前をお願いします。』

マイクを向けられた小太りのお母様は
戸惑ってマイクに口を近づけた。

『小橋です。』

2年3組の方でのザワつきが目立つ。
そしてその中の少し小太りな女子生徒を見て
完全なる親子だなと言う事を、みな把握した。

⏰:08/05/28 13:22 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#758 [ザセツポンジュ]
『それでは質問します。小橋さんが学生の頃に、いじめはあったのでしょうか?』

小太り小橋さんは、
右上を眺め学生時代を思い出していた。
学生時代はもう少しスマートだったのだろうか。
、、、娘を見れば分かることだが。

『はい、私自身フフフこの通り見事な体型は昔から変っていませんので、からかわれたりは、まあ、ありましたね。でもみんな意気揚々としたクラスメイトだったので、陰湿ないじめと言った点での経験はありません。』

2年3組の小橋さんは下を向いてしまった。

⏰:08/05/28 13:40 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#759 [ザセツポンジュ]
トミーは質問を続ける。

『陰湿ないじめが同じクラス内で起こっていたら、小橋さんが今、学生だと想定して、どういう対応をされると思いますか?』

『、、、私事態もう大人ですので、無責任なことはできないと言う意識が当然ながらあります。なので、いじめがあったら全力で止めたいと思うのですが、キレイ事に聞こえるのかもしれませんね。だけど、今日のこの集会で、改めてそうしなければいけないと子供にも教えないと、と考えさせられました。』

小太り小橋さんの発言に2階からステージに向けて拍手が送られた。
2年3組の小橋さんも顔を上げてくれた。

⏰:08/05/28 13:42 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#760 [ザセツポンジュ]
『ありがとうございました。座ってください。ラテンダンスのDVDでもプレゼントしようかと思いましたが、その必要は無いようですね。』

トミーが冗談を言う間、ジョウはキョロキョロと次の相手を探していた。適当が一番困る。

『ジョウジロウ、ワシのところへはくるなよ!行くならきーさんとこにな!』

すーさんは照れたような気持ち悪い顔でジョウをうながした。

『、、、、。』

言われなくともそうするよ。と言う冷めた目つきで
我が祖父を睨んだあと、ターゲットを決めた。

『木田くん、次の質問いいですか?こちらのお父様です。お名前をどうぞ。』

人前では自分の主張を控えてきたと思われる
気の弱そうな風貌のお父様。

⏰:08/05/28 14:16 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#761 [ザセツポンジュ]
『田中です。よろしくお願いします。』

案の定、声の小さい男だった。
田中と言う名字はどの学年、どのクラスにも
だいたい存在するためか、ざわつきは見られない。

それよりも、必死に声を聞き取ろうと
体育館中のみんなが口を閉じ、耳を済ませた。


『田中さんに質問です。もしも自分のお子さんが、いじめられる立場にいて、相談を受けたとします。どんな事を言ってあげますか?』

体育館はシンとして空気の音が聞こえるほどだ。

⏰:08/05/28 14:23 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#762 [さちこ]
失礼します

>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800

⏰:08/05/28 14:23 📱:D705i 🆔:UtbZ04VI


#763 [ザセツポンジュ]
『、、、。内容によりけりえすけど、、、。理不尽な理由でいじめられているんだったら学校に行かなくてもいいと提案してしまうかもしれません。父親が、こんだけ気弱ですから、打ち明けて来た時は精一杯我慢した後のことだと思うんです。ウチの子の場合は。やめてともやめようよとも言えない人間もいると思います。それじゃあダメなんですけどね、、、。そりゃ、、、。活発で、意見もハキハキ言える子に育てたいですけどね。』

内気な生徒達はツバを飲み込んだだろう。
それくらい正直な意見を田中さんは述べた。

⏰:08/05/28 14:29 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#764 [ザセツポンジュ]
ステージにいる
トミーは少し間を置いてから
話始めた。

『俺は、自分でも、内気でも気弱でもないタイプの人間だと思っています。なので、俺みたいな性格側が、気弱な人の気持ちまで察せれるようになれば、いい方向に持っていけるのかなと。田中さん貴重なご意見ありがとうございました。今後考えたいと思います。座ってください。』

⏰:08/05/28 14:33 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#765 [ザセツポンジュ]
トミーはいろんな事を考えながら
大人たちに次々と質問をぶつけていった。

そしてトミーはジョウに事前に決めていた手のサインで合図を送った。

ジョウはまず
顔は美人だけど、
とても悲しそうな顔をしているお母様の元へ向かった。

『よろしくお願いします。お名前をどうぞ。』

ついに来たかと言う
ため息まじりの笑みで席を立った。

『どうも、恐縮です、石崎と申します。』

トミーは石崎さんの母を
ステージからしっかりと見つめていた。

⏰:08/05/28 14:42 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#766 [ザセツポンジュ]
『はい、質問します。石崎さんはいじめを受けている生徒の事をどう思われますか?』


石崎さんは顔を下に向けて息を吸った。

『いじめられる側にも問題があるという意見もあると思いますが、そのいじめられる理由がくだらないことであれば、いじめられる子達って言うのは悪くないんだと思います。ただ運が悪かったんだと。』

『では、いじめをしている側についてはどうお考えですか?』

石崎さんは、前を向いた。

『最低ですね。、、、。人をいじめてまでも優位に立ちたいというまでの気持ちを止められなくした親の教育にも問題があります。、、、。子育ては難しいものです。私にも原因があり、そうすることによって、外で誰かが傷ついているんだと思うととても責任を感じます。』

自分の娘の変化、親なら気づく事だろう。
石崎さんは娘を思い、自分を責めた。

そしてとても悲しい表情で立っていた。

⏰:08/05/28 14:54 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#767 [ザセツポンジュ]
トミーは
何も、あなたの娘さんが
人をいじめているんですよ、とは
言っていないのに、

苦しそうに意見を述べる石崎さんの悲しい顔を見て
心が痛んだ。
そして、かける言葉がなかった。

『、、、ありがとうございました。』

『はい、どうもありがとうございました。』

石崎さんからのありがとうと言う言葉が
なぜかトミーの頭の中をぐるぐると回る。

一方ジョウも
自分の好きな子をいじめている
リーダー格の母親の
困り果てて弱り果てている姿を隣で見て
胸が締め付けられるのだった。


3年3組の石崎さんはこみ上げる涙をぬぐうこともなく
自分の母親を直視することもなく
表情変えず、ただただ、どこかを見つめていた。

⏰:08/05/28 15:05 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#768 [ザセツポンジュ]
トミーは気を取り直し、
ジョウのいる場所を目で追った。


『では最後の質問です。鈴木くん、いいですか?』

『はい、最後はご夫婦二人共の意見を伺いたいと思います。お名前よろしいですか?』

先ほど目をつけておいた夫婦のそばへ行き
お母様のほうにマイクをかたむけた。

夫婦は二人でゆっくり席を立ち

生徒会役員のマイク係が
気をきかせて飛んで来た。

そして夫婦のお父様側に立ってマイクを近づけた。

『あ、山、、、』

「山田で、、」

『山田です。』

「す、、、。」

両側からマイクを向けたのも悪いが
この夫婦、確実に緊張していて、息も合っていない。
お見合いだったのだろうか。

⏰:08/05/28 15:17 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#769 [ザセツポンジュ]
『とても仲良し夫婦のようですね。声もそろって素敵です。それでは最後の質問をします。』

さっきの重い空気を振り払うかのように
生徒達は無理に小さく笑った。

『家で、いじめをテーマにしたような話を子供達とされていますか?』

ジョウはお母様にマイクを。

『そうですね、どことなくはしていますね、フフフ。』

お父様はマイクを向けられるも
苦笑いの奥様が心配の様子。

「いや、普段、勉強の事ばかりを言いすぎていたかと、、、。」

お母様はジョウからマイクを奪い取った。

『いいえ、勉強もそこそこに家族の団欒も欠かしてはおりません。』

「でも塾に通っていて、夜が結構遅いし、、」

『朝ご飯も一緒に食べて話したりしています。』

「朝は僕の方が早く家を出てるから、、、」

『わ、わたくしは。学校の事など、いつも話していますよ、お勉強のことももちろん言いますけどね。』


ありきたりだが、奥様は隣のご主人のおしりをつねって
余計な事言わなくていいから!と小さい声で忠告している。
夫婦での会話が始まり
ご主人のほうにも直接マイクを渡した。

⏰:08/05/28 15:29 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#770 [ザセツポンジュ]
『ちょっと、ちょっといいですか〜。質問します。それではお父様の方に質問します。』

トミーは奥様にさまたげられてしまうお父様の意見に重点を置いた。

『家族のだんらんは、やはり夕ご飯の時間なんですか?』

「いや、それが塾でいないんですよね。勉強ばっかりしていて最近は正直話してませんね、イテテ。」

またおしりをつねられた様子。

『お父様は本当はどうすれば一番いいとお考えですか?』

「時期も時期ですし、年頃なので、あんまり僕の方が近づくと嫌がっちゃって、、、。でも時期を越えれば、また仲良く食卓を囲みたいです。」

お母様は、つねろうとした手をゆっくりおろした。

「いろんな話もしたいけど、時間が合わない日が続くと、話しかけるタイミングまで分からなくなる。同じ家なのに、遠い島で離れて暮らしているみたいな。落ち着けば、また話したりできればなと。黙っていた僕も悪いですね、今回のことは。」

お父様はお母様の顔を見て
申し訳なさそうに笑った。

⏰:08/05/28 15:40 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#771 [ザセツポンジュ]
トミーはステージから拍手を送った。

トミーにつれて今度は1階の生徒達が
2階に向けて拍手を送った。

その時校長はおもしろくない表情で
手をたたいていた。

『次は、ハゲ散らかしたお前の番だ。』

トミーはマイクを一瞬オフにして
拍手の音の中
校長にメッセージを送った。

そしてスイッチをオンにする。

『素敵な家族。みんなの前でこれだけ言えるなら安心できますね、多分。多分ですけど。はい、それではこのコーナーは終わりです。今一度拍手を。』

嫌味を言いつつも
フィナーレの準備を始めた。

ジョウはステージに戻り
トミーに近寄った。

⏰:08/05/28 15:47 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#772 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウちゃん、俺オシッコ行きたいんだけど。』

『行ってきなよ。・・・まさか緊張してるのトミー。』

『バカかお前。お前んちのじーさんから梅昆布茶を2リットルもらったんだよ。昨日な。』

『全部飲んだの?』

『バカか、お前。朝一で全部飲んだよ。』

『飲んだんだ。。。軽蔑するよ。』

『名誉なことだな。頼んだよ。』

トミーはジョウと交代した。
そして、堂々と真ん中を歩き
人々の期待を裏切り
トイレに入り用を足した。

そして何食わぬ顔で同じルートを歩き
ステージのすぐしたで待機した。

フィナーレはラスボスの出番だ。
気合を入れろよ、木田、鈴木。

⏰:08/05/28 15:56 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#773 [ザセツポンジュ]
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/
>>757-772

⏰:08/05/28 17:00 📱:PC 🆔:R.qPL9/.


#774 [ザセツポンジュ]
『それでは、最後のコーナーに参りたいと思います。』

ステージに立ったのはジョウだった。

トミーはステージを降りたすぐそばで
マイクを持って待機している。

⏰:08/06/02 15:14 📱:PC 🆔:OOkjqJBY


#775 [ザセツポンジュ]
『まずはじめにお話しておきたい事があります。みなさんニュースでいじめによる自殺報道があった時、その学校の校長先生が大体何と答えているか、分かりますか?僕が思うに、ウチの学校ではいじめなどありませんとか、報告は受けておりませんとか、そういう答えが返ってくるパターン多いなと感じるのです。』

生徒達はみな校長の方をチラチラ見ていたが
校長の近くに立っていたトミーは
勘違いしてかっこつけていた。

⏰:08/06/02 15:20 📱:PC 🆔:OOkjqJBY


#776 [ザセツポンジュ]
『今回、本当は例年通りの議題で行う予定でした。それはなぜかと言いますと、この集会を開く前に校長先生の許可がいるんです。そこで生徒会長である木田くんが校長先生にいじめについてのレポートを提出しにいった時の事。校長先生は企画書のレポート見るなり“却下”とだけ答えたと言います。木田くんはそこで、そう言うなら例年通り行いますと頭を下げたけれども、納得がいかなかったため今に至る。と、こういうわけです。』

⏰:08/06/02 15:27 📱:PC 🆔:OOkjqJBY


#777 [ザセツポンジュ]
体育館中の目が、校長に集中的に集まり、
軽蔑の空気を漂わせていた。

トミーはその時ようやく
自分の勘違いに気づいた。

777

⏰:08/06/02 15:29 📱:PC 🆔:OOkjqJBY


#778 [ザセツポンジュ]
『いい機会ですので、我が校代表する校長先生にインタビューしたいと思います。マイク木田くんお願いします。』

トミーは手をあげた。
懲りない田舎女子から歓声が沸き起こった。

『マイク木田です。マイク木田です。』

トミーは機械的な声を発した後
普通に歩いて校長のそばに立った。

『校長先生。わたくし生徒会長の木田と申します。ご起立願えますか?』

トミーは紳士のように手を差し伸べたが
校長先生は無視してゆっくりと立ち上がった。

⏰:08/06/02 15:35 📱:PC 🆔:OOkjqJBY


#779 [ザセツポンジュ]
トミーはステージのジョウに手を上げて合図した。

《用意して待ってろ》

の合図。
ジョウはステージ裏にまわり、
一番大切な“資料”を手に取った。

『それでは質問します。校長先生。父兄さん達が見ておられますので、正直にいさぎよく答えてください。いいですね?』

『木田、ふざけるのもいい加減にしろ。』

校長はマイクには入らない小さい声でトミーに忠告して睨んだ。

『はい、今校長先生は、小さい声で、木田、ふざけるのもいい加減にしろと言われましたが、予定を変更せず、質問したいと思います。あなたは、俺が校長室へ行った時、却下とだけ答えましたね?』

⏰:08/06/02 15:44 📱:PC 🆔:OOkjqJBY


#780 [ザセツポンジュ]
静まり返る体育館。
オロオロとした空気が全体を包んだ。

『ああ。』

校長は短く答えた。

『なぜ却下にしたんですか?』

『資料がうすっぺらだったからだ。』

『いいわけはいいんですよ。なぜ却下にしたのでしょうか?さあお答えください。』

トミーは自分の否を思い切り高い棚に上げ、
ふざけているのかそうでないのか
きわどい感じで
校長にクイズ風で投げかけた。

今ふざけている場合ではないのだ。

⏰:08/06/02 15:51 📱:PC 🆔:OOkjqJBY


#781 [ザセツポンジュ]
『。。。。』

校長はギロっと
トミーを睨んだ。


トミーは、マイクを
校長の鼻の下に持って行った。


『もう一度だけ質問します。なぜ、却下にしたんですか?』


そう言ったトミーは
またもや校長の鼻の下に
マイクを持って行った。
笑いをこらえる生徒もいたが
空気を読んで下を向いて我慢していた。

この男、空気の読まなさも学校1である。

⏰:08/06/02 21:15 📱:W51CA 🆔:qzJ1Dt5o


#782 [ザセツポンジュ]
それでも何も答えない様がこの学校を代表する校長の姿であって、果たして良いのだろうか。

トミーは
見かねてしゃべりだした。

『校長先生は、校長室で何をしているんですか?学校全体を見守っているんですか?そもそも校長先生の仕事は何なんですか?いじめなんてありえないとでも思っているんですか?何のための校長先生なんですか?責任のがれするために何か大きい力を使うつもりなんですか?』

⏰:08/06/02 21:21 📱:W51CA 🆔:qzJ1Dt5o


#783 [ザセツポンジュ]
ジョウは裏で
丸めた大きな1枚のポスターを抱えて
耳をとぎすませていた。

(ボクがトミーの背中を押したんだ。ボクがトミーの話に乗ったんだ。エノシタさんにかっこつけれると思って乗ったんだ。ボクは浅はかだ…浅はかだけれども絶対最後まで成功させなければ。)

⏰:08/06/02 21:25 📱:W51CA 🆔:qzJ1Dt5o


#784 [ザセツポンジュ]
-----------------

トミーの率いる
2年生新生徒会役員と
3年生旧生徒会役員との
確執は深かった。

『おい西田トキムネ。今日こそは口出しするなよ。』

嫌でも生徒会室に集まらなければならなかった新旧生徒会役員。

トミーは
先生達の顔色しか伺わない、旧生徒会会長の
西田トキムネ氏を、
毛嫌いしていた。
それはジョウも
同じだった。

西田はえらそうな態度で
腕を組み、トミーを睨んだ。

『木田。お前いい加減にしろよ。好き勝手やっていると報告するぞ。』


トミーは立ち上がった。
『新生徒会役員、移動します。場所は3階の資料室。西田達はここに残ってグチグチブツブツ勝手にやってろ。先生にでも警察にでもお母さんにでもいいつけていればいい。』

⏰:08/06/02 21:35 📱:W51CA 🆔:qzJ1Dt5o


#785 [ザセツポンジュ]
ジョウはエノシタさんの困った顔を見ていられないほど
複雑な心境だった。


だけど、その時
ジョウは黙って
資料室に向かう事が
エノシタさんのためにできる最善の策だと思い


トミーに従ったのだ。

それから
新生徒会役員計6名の
会議する場所は
生徒会室から3階資料室に変わった。

⏰:08/06/02 22:26 📱:W51CA 🆔:qzJ1Dt5o


#786 [ザセツポンジュ]
『生まれ変わっても西田トキムネと言う名前にだけは生まれたくないな。ニもシもダも嫌だ。くそぅ絶対俺の方が西田よりストU強いのに!た〜つまきせんぷうきゃく!た〜つまきせんぷうきゃく!た〜つ…』



『トミー、もう!いい年して何やってんの。早くやろうよ。みんな集まってくれてるのに。』


トミーは
ふざけて
竜巻せんぷうきゃくを
ジョウにおみまいしているが


狭い資料室の方が
会議しやすかっただろう。
気も楽だっただろう。

⏰:08/06/03 00:48 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#787 [ザセツポンジュ]
『まず、西田達に渡すダミーの企画書を作る人と、ぶっつけ本番の議題での進行を考える人と、1・5でふたてに別れよう。』


『トミー!もう、おべんちゃらはいいってば。3・3でいいんでしょ。じゃあボクは新企画の方にまわる。』


『じゃあお〜れも!生徒会長だからな!当然よ!あとひとり、入りたい人は勝手に入ってきてみほ。』


こうして

木田、鈴木、
生徒会役員の
公文式に通っている頭の良い佐野くんは

新企画班。

残る3人は

ダミー企画班に回った。

『ダミー企画班。もう、西田達が去年やったやつモロパクりでさっさとすませて、こっちに入って来て一緒に作戦ねろう。』

⏰:08/06/03 00:56 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#788 [ザセツポンジュ]
日がたつごとに
テキパキと事を
済ませ、

ダミー企画班が
新企画班にまざった時

ジョウとトミーは
作戦をみんなに伝えた。
そして
エノシタさんの
クーポン雑誌いじめ問題を打ち明けた。

絶対に
外に漏らさないように

ワイロとして
生徒会役員の男子には
人気AV女優の新作を
トミーが贈呈し

生徒会役員の女子には
今までひそかにお世話になっていたエロ本を
ジョウが贈呈した。


『え!鈴木くん、ガラじゃないんだけど!私、遠慮する!』


ウケ狙いの為に
持って来たのに
受け取るどころか
どん引きされてしまい、
ジョウは
この割とブサイクな女子達の冗談の通じなさに
不安を覚えた。

⏰:08/06/03 01:41 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#789 [ザセツポンジュ]
>>774-778
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/06/03 01:45 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#790 [ザセツポンジュ]
会議の3分の2は
ストリートファイターネタでふざけ続けた
トミーだったが

残りの3分の1は
ジョウと同じくらい
真剣に取り組み
的確な作戦を公言した。

こういうところは
なぜか隣のじーさん
鈴木ひとしに似ている。

放課後、会議のために
集まる資料室に
最後まで残るのは
変なじーさんを持つ
少年2人で

家に持ち帰ってまでも
どちらかの家で
話し合いをした。

時に7791カフェに
立ち寄ることもあった。

⏰:08/06/03 18:20 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#791 [ザセツポンジュ]
『ボクは小夜子ストロベリー。』

ジョウはいつも通り。
トミーもいつも通り。

『俺はちーちゃんとの男女交際。』


『梅昆布茶ね。かしこまりました。』

ちーちゃんは
ガキには目もくれず
いつも通りニコっと笑い
準備をした。


2人はいつも通り
“七夕の席”に座った。

『ちょっと待って。ちーちゃんて何で俺のこと見ないわけ?頭おかしいよね多分。俺?俺の頭は正常だよね。』


『誰としゃべってるの、トミー。あきらめなよ。エノモトさんがいるじゃない。』


『まぁな。エノモトさんヤリマンかもしれないけども可愛いしさ。仕方ないよね、ジョウジロウちゃん。』


『うん。』

⏰:08/06/03 18:28 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#792 [ザセツポンジュ]
ジョウは
ただただ
小夜子ストロベリーが
来るのを待っていた。

『でさ、ジョウジロウちゃんはエノシタさんが好きだもんね。』


『うん、うん。…うん。』


トミーは
ジョウに顔を近づけてまで
わざとらしく驚いていた。


『えぇえ!!!お前、お前“うん”て3回言うほどエノシタさんが好きなの?』


『お待たせしま…』


『え!え!ちーちゃん!ちーちゃん!うちの隣のジョウジロウちゃんがさ!恋をしちゃったんだって!』


『はい、梅昆布茶。トミーも毎日ジョウくんといるんだから、分かっていたんでしょ。からかうのはやめてよね。』


ちーちゃんは
そんじょそこらの
田舎女子中学生とは
違うのだ。

⏰:08/06/03 18:35 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#793 [ザセツポンジュ]
『はぁい。もうしませーん。ちーちゃん怒らないで。で、でさ!そんな恋をしちゃった鈴木くんさ!今回の集会、親達も来る参観日だしさ、絶対的にミスは許されないわけよ。』


トミーは熱そうに
梅昆布茶に口をつけた。

『そうだよね。石崎さんのお母さんも山田さんのお母さんもいるだろうしさ。』


ジョウは小夜子ストロベリーをパクっと食べた。


『なぁ…。そうだよなぁ。どんな感じの親なんだろう。あちち…。嫌な感じな親なのかな。』


『う〜ん。嫌な感じなのかなぁ。』


『ツンケンしててさ、ウチの子に限ってそんなことはしてません的な感じだったらコテンパンにやってやろうぜ。例えばサイコクラッシャーとかでな。』

⏰:08/06/03 18:45 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#794 [ザセツポンジュ]
『トミー、最近ストファイネタにもっぱらハマってるね。やりたくなるね。』

『おい、お前。早く食え。ほうばれ。今からウチでストリートファイターごっこだ!』

トミーは猫舌にも
関わらず
無理して急いで飲んだ。

『ごっこ?ごっこなの?せめてスーファミにしてよ。』

ジョウもつられて
パクパクと口に入れた。

せっかく甘いのに
もったいないな。と
思ってはいるのだが。

『ごちそうさま!ばいばいちーちゃん!お釣りはちーちゃんにあげる!』

『フグっ。ファイファイヒーヒャン…』


『2人で500円です。トミー、お釣りありがとう。フフ。』

ちーちゃんはトミーが置いたピッタリ500円玉をレジの中にしまった。


こうして2人は木田家へと急いだのだった。

⏰:08/06/03 18:57 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#795 [ザセツポンジュ]
『腹立つなぁ、きーさん。ズルいぞそんなちまちましやがって。』


こちらは木田家。
きーさんの部屋で
老人2人は
将棋のコマで
“コマ崩し大会”を
開催していた。


『すーさん。ほれ、早く。コマをうそつき空ちゃんだと思って。』


『ウヒャヒャ。空ちゃんは可愛い子よの〜。デヘヘ、むぅ…どこにするかのう。う〜ん……ん?』


ガシャグシャ。


すーさんは突然
コマの山をぐしゃぐしゃに崩した。


『おい!お前今うそつき空ちゃんと言ったな!言った!絶対に言ったんじゃ!ワシは昨日確実に耳クソを取った!だから聞こえたことは間違いじゃない!クゥオンノ〜!!!』

すーさんは地道に
ひとつずつコマを
投げて
きーさんに当てつけた。

⏰:08/06/03 19:08 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#796 [ザセツポンジュ]
『…飛車…ん?…歩兵…歩兵…これはと…歩兵…角行…桂馬…すーさん、すーさん。こんなんじゃ効かんぞ。もっと強い奴を投げつけて来い。』

すーさんは憎しみを込めて
最後にひとコマ投げつけた。

パシン!


『ん?…金…。フハハ。“金”?金たま鈴木。』



すーさんは怒り狂ってきーさんを殴ったが、年のせいか
なぜ、一体なぜ怒り狂っているのかは忘れてしまっていた。



バタバタバタバタ


ガチャ。


『じーちゃんただいま!』

『きーさん、おじゃまします!』

⏰:08/06/03 19:30 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#797 [ザセツポンジュ]
少年達2人のご帰宅だ。
『おや!ジョウジロウちゃん!よく来たねぇいらっしゃい。』

バタン。

2人はストリートファイターのために
挨拶もそこそこ
トミーの部屋へと急いだ。
そこですーさんの怒りは
さらにヒートアップした。

『おい、見たか!きーさん!ワシに挨拶もナシじゃ!ジョウジロウのやつめ!ワシにおじゃましますくらい言え!』


『すーさん、ここはワシの家だ。それにジョウジロウちゃんはあんたの孫だよ。』


『いや!もうそんなこたぁどうでもいい!トミオちゃんですらワシに声もかけん!いかん!いかんです!』

『町内みなすーさんと話せば性病になると思っとるんじゃよ。』

きーさんは
将棋のコマを一個一個拾った。

⏰:08/06/03 19:35 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#798 [ザセツポンジュ]
『はぁ!!!?なんたる不謹慎!きーさん!トミオちゃんの部屋へ突入じゃ!』


バタン。
すーさんは足の裏に
将棋のコマを
2つ3つ踏んづけたまま
トミーの部屋へ移動した。

きーさんは
片付けもそこそこに
好き勝手やられちゃ
困ると、あとを追いかけた。

⏰:08/06/03 19:39 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#799 [ザセツポンジュ]
『ヤァ!ヤァヤァヤァヤァヤァ!ヤヤヤヤヤ!』


『もうトミーったら、チュンリー使ったらひゃくれつキックしかやらないんだもんな!うぅ…』


『ヤヤヤヤヤ!ヤァヤァ』


『いちいち声に出さなくてもいいよ、トミー』


『ヤァヤァヤァヤァヤァ!』


ガチャ!


『ヤァ……ヤァヤァヤァヤァヤァ!!』

トミーは
部屋に入って来たすーさんを2度見して、プレイを続けた。

ジョウは見向きもしなかった。

『ヤァ!じゃないわ、クソガキどもめ!』

すーさんは足の裏に
貼りついた将棋のコマを
2人に思いくそ投げつけてテレビを消した。

『いて!』

『いてて!じーちゃん何してんの?付けてよテレビ!』

⏰:08/06/03 19:46 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#800 [ザセツポンジュ]
すーさんは少年達から
コントローラーを取り上げた。


『まずは、ジョウジロウ。きさま、ワシに挨拶もなしにインベーダーゲームか!』

ジョウジロウの胸ぐらをつかみ鼻息を荒くさせた老人。

『違うよ、ストリートファイターだよ。ボクはエドモンド本田。トミーはチュンリー…』


『パキスタン塩田でもトミーフェブラリーでもどっちゃでもいいわい!』


ゴツン。


『うぅ…。やりやがったな木田シゲル…』


理不尽なすーさんは
きーさんからゲンコツをくらった。

きーさんのゲンコツは
痛いのだ。

⏰:08/06/03 20:33 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#801 [ザセツポンジュ]
『そんなことより、トミオもジョウジロウちゃんも最近帰りが遅いじゃないか。部活か?』

きーさんの問いかけに
2人とも首を横に振った。

『女か?』

再び首を横に振った。


ゲンコツのダメージから、なんとか起き上がったすーさんは
きーさんにもたれかかった。

『ジョウジロウが女なワケないじゃろ。どうせ古本屋でエロ本の立ち読みでもしとるんじゃよ?このいかれぽんち!変態!』

弱ったすーさんを
平気な顔で再びどつき

きーさんは2人の顔を見た。


『おや?隠しごとかい?』

少年2人は顔を見合わせて笑って首を横に振った。

⏰:08/06/03 20:39 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#802 [ザセツポンジュ]
『会議だよ。今度学校の参観日に集会があるんだ。それの話し合い。』

そう言ってトミーは
テレビを付けて
ゲームをセットした。

『ほお!ジョウジロウちゃんもその話し合いか!変態ではないんだな!』

ジョウはうなずき
トミーの横に座って
ツーコンを握った。


『きーさん、見に行こう!まだギリギリきれいなお母さんも何人かはいるだろう!』

『それはどうでもいいが、孫の晴れ舞台に家でワイドショーを見ているわけにはいかんからな!』


トミーとジョウは
いったんゲームを止め

くるっと振り返り
お互い、我が祖父を見つめ、声を揃えて言った。


『絶対に来ないでね。』

⏰:08/06/03 20:47 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#803 [ザセツポンジュ]
------------------


(あぁ、とんでもないことをボクはしているんじゃないだろうか…今さら逃げられない…)



『。。。。』


校長は黙ったまま
次第に少し焦りだしていた。

トミーは
校長の焦りを見逃さなかった。


『では、これを見てくれたら校長も何か分かると思います。ジョウジロウちゃん!!アレ持って来て!』


(き…来た…。)



トミーの少し大きな声に生徒達も2階の父兄達にも緊張感が漂った。

⏰:08/06/03 20:52 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#804 [ザセツポンジュ]
ジョウは
丸まった紙を抱えて
立ち上がった。


そして
近くにいる
エノシタさんを見た。

心臓もバクバク鳴る中
暗いステージ裏で
エノシタさんは
ジョウの肩にふれた。


『いってらっしゃい。』

こくん。と頷いた
14歳の少年。


ジョウの
心臓の高鳴りを
エノシタさんと
半分こできたなら。



(ボクはエノシタさんのことが好きなんだよ。とても好きなんだよ。)

⏰:08/06/03 21:01 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#805 [ザセツポンジュ]
ジョウは

エノシタさんの目を
しっかり見つめたあと



歩き出した。


体育館中の視線が
ジョウに向けられている。


ラストボス。

校長とトミーの
目の前に立ち、
生徒達に背を向けた。

(ジョウジロウちゃん、お疲れ様。)

トミーはジョウを
見守った。


そしてゆっくりゆっくり丸めていた紙、大きなポスターを


広げて行った。

⏰:08/06/03 21:09 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#806 [ザセツポンジュ]
『え?何?』
『何が書いてあるの?』
『な〜に〜??』


覗こうとしても
見られないポスターに
生徒達はもどかしさを
あらわにした。

皆がザワつくなか
ポスターで顔の隠れた校長。
目をひんむいて
口をガクガクさせていた。


トミーとジョウは
しっかりと見たのだ。

ラスボスを倒す瞬間を。

⏰:08/06/03 21:13 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#807 [ザセツポンジュ]
『これを、いじめととらえますか!アートととらえますか!』








ジョウの声が
最後のとどめをさした。

⏰:08/06/03 21:15 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#808 [ザセツポンジュ]
-------------------

オレが作ったこの
ポスターは

エノシタさんが
100人いる。

ジョウジロウが、オレの屋根裏部屋を尋ねて来たんだ。

たった1人の弟だ。

いつもと様子が違うのは察しがついた。

その時俺は
アンディーウォーホルの作品集を見て浸っているところだった。

⏰:08/06/03 21:20 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#809 [ザセツポンジュ]
『…にーちゃん…ちょっと頼みがあるんだ。』


オレの弟は
優しい奴なんだ。

だけど少し内気で
不器用なだけなんだな。

14歳の少年は
ビニール袋に集めた紙くずを、ひっくり返してきた。

オレはその紙くずを
ひとつひとつ手にとって
見てみたんだ。

クーポン雑誌で
美容室の広告塔になったエノシタさん。
卑猥な言葉を書き殴られたエノシタさんもいれば、ビリビリに破られているエノシタさんもいて、落書きされているエノシタさんもいた。

⏰:08/06/03 21:29 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#810 [ザセツポンジュ]
『ボクね、自分でやりたかったんだけど、うまい使い方を思いつかなくって。』

ショボンと肩を落とすジョウジロウだったが


ちょうど見ていた
アンディーウォーホルの作品集のこともあり

必ず素敵な
1枚のポスターにすることをオレは約束した。


『充分だよ。こんだけ回収したんだもの。よくやったよお前。』


毎日毎日
気づかれないように

ゴミ箱を一個一個
見回ったのだろうか。


そして初めて好きな子ができたことも思春期の少年には打ち明けにくかったのではないだろうか。

⏰:08/06/03 21:35 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#811 [ザセツポンジュ]
少年は少年なりにいろいろ考えていくにつれ、時間がなくなってしまったのだろうか。

あれこれ憶測を巡らせていくうちに
自分の弟だが
だんだんかわいく思えてきたオレだった。

アンディーウォーホルの
代表的な作品に
同じような
コカ・コーラのビンを
ひたすら描いているものがある。

だけど、よく見れば違う。

その意味を考えさせられるポスターに仕上げようと思ったんだ。
案はモロパクリだけれども。

⏰:08/06/03 21:42 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#812 [ザセツポンジュ]
同じ顔のはずの
クーポン雑誌のエノシタさんが

誰かの手が加わって
違う顔に変わっている。

いじめたみんなが
いけないアートをほどこした

エノシタさんが100人。
それをかき集めた
ジョウジロウがいて
それを受け取ったオレがいる。

一枚の厚紙に
エノシタペーパーが100枚並んで問いかける。


『これを、いじめととらえますか?アートととらえますか?』

⏰:08/06/03 21:48 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#813 [ザセツポンジュ]
>>790-812
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/06/03 21:50 📱:W51CA 🆔:zIUGw8LY


#814 [ザセツポンジュ]
=============
年月を重ね、見開いた目で
世界を飲み込む。
知識と言う種ばかりを
埋め込んだ
脳みその使い道は
いかほどなものだろうか。

都合の悪い物事は
焼却炉へと飛び込ませ
蓋を閉めたその先
灰色の煙を見送る
ハゲ散らかした頭よ。


少年の思春期爆弾を
いざ受け止めよ。

⏰:08/06/06 12:05 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#815 [ザセツポンジュ]
唇を震わせ、
体中全ての神経を
困惑させ
自分の愚かさを知るため
今宵、育毛剤と言う名のシャワーよ

奴に魔法をかけて。

目は何の為に
余計な物を見ない為に
鼻は何の為に
近道をかぎわけるために

口は何の為に
嘘をこぼし、自分を弁護する為に、、、。

戻り先はふりだし。

⏰:08/06/06 12:05 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#816 [ザセツポンジュ]
好きな子が泣いていたら。
大切な人が応援してくれていたなら。
たったひとりでも味方でいてくれたなら。

もしかして
救われただろうか。
救えたのだろうか。

向き合うことを忘れた
大きな子供達。

背中ばかりを追いかけて叫んだ
小さな子供達。

思春期爆弾が
手元に届いた時

使い道は、自分次第。
自分の為に
誰かの為に。

決められるのは
自分だけ。

⏰:08/06/06 12:06 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#817 [ザセツポンジュ(仕事中のためPC)]
============
最終章 クリスマスの夜に。
============

⏰:08/06/06 12:08 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#818 [ザセツポンジュ]
鈴木家の床暖房は

とても温かい。


『きーさん寒いよう。わしゃ寂しいよう。』


すーさんはきーさんにまとわりつき
寒さを忍んでいた。

『ええい!老いぼれがベタベタ触るんじゃないよ!酔っ払い!』


昼間からする事もなく
酒を飲んだくれている老人二人。
我が孫に、家から追い出されたと言う
かわいそうなこの老人
木田シゲル62歳。

⏰:08/06/06 12:45 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#819 [ザセツポンジュ]
『きーさん、ワシはな、きーさんの事が、、、、す、、、す、、、、』


ボコン!ゴツン!

お決まりのゲンコツを食らわしたが
何度殴られても、こたえないこの老人
鈴木ひとし62歳。

『その先が何語であってもそれ以上口に出すなよ!通報するぞ!』


すーさん。
娘が設計した
老人にとって心臓やぶりの
階段を、チョボチョボ上がり
ジョウの部屋を開けた。

⏰:08/06/06 12:45 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#820 [ザセツポンジュ]
ボコン!

『い、痛い!なんだよ!ノックしてよ!』

意味不明に殴られた事よりも
ノックをしなかった我が祖父に
腹を立てていた。

『今な!きーさんが来てる。』

『分かるよ。そのたんこぶ見れば。で、何?』

『トミオちゃんが女を連れ込むからと行って追い出されたそうだ。で、もっと遠くへ行って死ねばいいのに、すぐ隣のウチへ来たんじゃよ。その辺どう思うかね?ジョウジロウ。』

すーさんは、思い出したかのように
頭をさすりだした。

『ふーん。女を連れ込む時は追い出されるのか、きーさんは。』

上を向いて思い浮かぶのは
エノシタさんのことばかり。

⏰:08/06/06 12:46 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#821 [ザセツポンジュ]
『お前な、トミオちゃんは立派なのは充分承知の上で言うが、ヤラハタ決定だぞ。お前よ、そこのお前!鈴木さんちのジョウジロウちゃん!ワシは近所の人に言われるようになるんじゃ。あ〜れ〜ヤラずにハタチを迎えたお孫さんをお持ちの鈴木さ〜ん、ごきげんよいかが〜?そう言えばこないだ、、、』

『どうでもいいけど用事は何なの?』

ホロ酔い気分のジジイにかまっていられる気分じゃないのだ。

バコン!

『ただちに、去年のお年玉を崩して、クリスマスケーキを買いに行け!ついでに壁にもたれかかった娼婦に抱かれて来い!分かったな!』

『はいはい。』

ジョウは頭をさすりながら財布を持ち
ジャケットをはおり、マフラーをまいた。

タッタッタッタッタッタ、、、。

『あいつ、、、。階段をタッタタッタおりよって。年寄りの苦労も知らずに。』

⏰:08/06/06 12:46 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#822 [ザセツポンジュ]
すーさんはまた、一段一段チョボチョボと階段を
降りるのであった。


『ジョウジロウちゃん、メリークリスマス!』

きーさんは、さも我が家かのように
堂々とリビングでくつろいでいた。

『やあ!きーさん!メリークリスマス!』

挨拶を済ませたジョウはそそくさと玄関へと向かった。

『ちょちょちょ〜ちょ〜っと待て。どこに行くんじゃ?』

ジョウはスニーカーのつま先を
トントンと2回。

『スペシャルゲストのきーさんとパーティーでもしようかと思ってちょっとケーキ屋までね。』

⏰:08/06/06 19:31 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#823 [ザセツポンジュ]
『そうか。ジョウジロウちゃん、クリスマスじゃ、おこづかいをあげよう。』

きーさんはポケットから出したお札を
ジョウに渡した。

『えええええ!1万円も!ウチのじーちゃんとは大違い!ありがとうきーさん!ケーキ何がいい?』

『モンブランとカルピスな。』

『りょ、了解なまこん!』


冷たい風が吹き、マフラーに顔をうずめた少年。
行って帰る頃には夕日も沈み出すだろう。
肌を刺す寒さもよそに、
うっすらと浮かんだケーキ屋さん。
道は定かではないが
エノシタさんの顔が思い浮かぶ。

ジョウはケーキ屋まで
小走りで向かった。

⏰:08/06/06 19:31 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#824 [ザセツポンジュ]
(エノシタさんなにしてるかな、今日。エノシタさんちサンタさん来たかな。。。なんつって。)



カランカラーン。


『ぎゃっ!うわ!!!!!!』

ケーキ屋の扉を開き、
マフラーから顔を出したジョウは
ベタにも自分のほっぺたを叩いてしまっていた。

『、、、。そんなにびっくりしないでよ。ジョウくんこんにちわ。』

かわいい手袋をした
エノシタさんが、目の前にいる。

『な、な、なななな、なにしてんの?』

『ケーキを、、、買いに来て、、、』

『そっそうだよね、ケーキ屋だもんね。バカだよねボク。頭おかしいよね。ハハ』

ジョウは並べられたケーキをガラスケース越しに覗き込んだ。
エノシタさんもすぐ隣でジョウと同じようにケーキを見ていた。

⏰:08/06/06 19:32 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#825 [ザセツポンジュ]
(近いし!近いし、エノシタさん近いし!頭とかぶつかったらどうすんのさ!)

『あたし何にしよっかな〜。ホールで買ってもな〜。ジョウくん何買うの?』

クルっとジョウの方に顔を向けたエノシタさん。
ジョウは尋常じゃない速さで目が泳いだ。

『え?え、ボクんち今トミーのじーちゃんが来てるから、とりあえずモンブランと、、、』

『トミーのおじいちゃんが来てるの?何で?』

『いや、、、そんの〜、、、居心地がいいからだと思うよ、うん。』

ジョウはさもケーキを探すふりをしたが、
緊張と興奮から、分かっているのに
お目当てのケーキを見つけられない。

『ハッハ〜ン。エノモトさんが来てるからトミーに追い出されたのね、おじいちゃ、、、』

ジョウはビシっと顔を上げて頭をフル回転させ、
オマケにものすごい早口で店員に告げた。

『モンブランひとつと、ストロベリーなんとか。あ、それです。それでチョコレートケーキと、にいちゃん、ウチのにいちゃんは何がいいだろうか?知らない。そうですか。ボクも知らないし、この店のオススメ適当に!はい、以上で。』

⏰:08/06/06 19:34 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#826 [ザセツポンジュ]
ごまかせたとでも思っているのだろうか。
ホっとした表情を浮かべたが
ふくれっ面で横に立っているエノシタさんを
ジョウは2度見してしまった。

(ふくれてる。エノシタさんたら。かわいいな。)

『あたしもストロベリーなんとかひとつください!』

かわいい手袋をはずして、
エノシタさんは、財布を取り出した。

『あれ、エノシタさん家族の分は?』

『ん?いいの、いいの。』

ちょっと寂しそうな顔をしたような気がした。

⏰:08/06/06 19:34 📱:PC 🆔:GiYNkI5c


#827 [ザセツポンジュ]
カランカランー

少しだけ、
また寒さを増した
オレンジ色の空の下を
かたや片思い中の少年と
かたや失恋したばかりの少女は歩き出していた。

『ねぇ、ジョウくん。前にさ、協力してくれてありがとう。』


ジョウは頷いた。


『うん。。。え?なにを?』

全校集会の件は
3年生には漏れていないはず。

と、ジョウは思っているのだろうが、かつてきーさんとすーさんが勝手に実行したエノシタ改造計画をこの少年は知るよしもない。


『でも、もういいの。トミーのことはあきらめたの。』

(分かってはいたけど、やっぱり好きだったんだな。)

ジョウは心にチクっと刺さる少し苦しいこの気持ちが恋をしている証拠なんだなと改めて実感した。

⏰:08/06/06 20:44 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#828 [ザセツポンジュ]
『まぁ、またいいことがあるよ、そのうち。いっぱい期待しちゃいけないけど。』

エノシタさんは首を縦に降ってニコっと笑った。
『あれ?エノシタさんちどこだっけ?』

エノシタさんは
立ち止まって
反対方向を指さした。


『え!逆じゃん!お、お…送ろうか!』

トミーだったらサっと出る一言でも、ジョウにとっては心臓破りの5文字だった。

『いいよいいよ!おじいちゃん達がケーキ待ってるでしょ?』

エノシタさんは
いつも笑顔を絶やさない女の子だ。

ジョウはエノシタさんが手に持つ、ひとつだけ買った小さいケーキの箱に目をやった。


『な、なにするの?帰ってから。』

『…え〜と、ケーキ!ケーキ食べるよ!ジョウくんと同じイチゴの!ヘヘ。』

エノシタさんはケーキの箱を高く持ち上げて見せた。

⏰:08/06/06 20:54 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#829 [ザセツポンジュ]
『ひとりで?』

『うん。ウチね、パパはパイロットでママはキャビンアテンダントなの。遅い夜には帰って来ると思うんだけどさ。』

“心配しないで”と笑うエノシタさんをほってはいられないジョウジロウちゃん。

(サンタさん…ボクに勇気をくださいぃ…)


ジョウは目をつむって
バクバク鳴る心臓を
確認した。

『あ!あのさ!ウチのじーちゃんもトミーのじーちゃんも変だけどおもしろい人でさ!1人でケーキ食べるんだったら、よかったらウチでみんなで食べようよ!』

恥ずかしさを隠すため、マフラーに顔をうずめた。


『ホ、ホント!!いいの??』

『い、いいよ!みんな大歓迎だよ!』

エノシタさんは
また笑った。
嬉しそうに嬉しそうに笑っていた。

⏰:08/06/06 21:03 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#830 [ザセツポンジュ]
『あ!きーさんにカルピス頼まれてたんだった!エノシタさん何飲む?』

夕日が暮れる前に
早くおうちへ帰ろう。
楽しい時間はすぐ過ぎてしまう。


--------------


パパン!パパパパン!パン!

『ハッピバ〜スデイ俺のかわいい彼女のエノモトさ〜んハッピバースデイトゥ〜ユ〜!フ〜〜〜!』
トミーはたった今
このバースデイソングで
無理やり彼女にした
エノモトさんと
クラッカーの音と共に
パーティーを開催していた。

今日はエノモトさんの誕生日でもあるのだ。

『ありがとうトミー!キャ〜かわいい!嬉しい!』
トミーはジョウの兄に作らせた世界でひとつのネックレスを
エノモトさんの首にかけてあげた。

⏰:08/06/06 21:11 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#831 [ザセツポンジュ]
『ねぇ、ねぇなんでケーキはいらないの?エノモトさんデブじゃないのに。』

ケーキを買いに行くつもりがかたくなに拒否されてしまった木田トミオ14歳。


『ケーキは一緒に食べたい人がいるの。』

エノモトさんはトミーからもらったネックレスを嬉しそうに手に取って見ていた。

『は!早くも浮気!?だ、誰!!!』


『おねーちゃん。』


トミーはネックレスをずっと眺めているエノモトさんをずっと見ていた。

『かわい〜。かわい〜ね。へへ〜。ってかお前ねぇちゃんいたの?』

彼女になって2分もすればお前呼ばわりする態度のデカさだが、悪い気はしないエノモトさん。

⏰:08/06/06 21:17 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#832 [ザセツポンジュ]
『そう、7つ上におねぇちゃんがいるの。めったに帰って来ないけど。』
エノモトさんは
遠い目をした。

『めったに帰って来ないけど、俺にチュウして。』

トミーはエノモトさんのとてつもなく近い距離まで移動した。

チュ。

『うわ!めったに帰って来ないけど、お前!軽々しくチュウとかすんなよ!ヤリマンか!』

そう怒鳴って
トミーはエノモトさんに甘えて抱きついた。

エノモトさんは
照れてそのまま顔を赤らめていた。

⏰:08/06/06 21:57 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#833 [ザセツポンジュ]
『めったに帰って来ないけど今日おねーちゃん帰ってくるよきっと。ねー。めったに帰って来ないけどあとでエッチしようねー。』

『やだ。』

『そうだよ!そう!一回は断って欲しいもん俺!』


なにがしたくてなにを理想としているのかは分からない少年だが、15歳になったエノモトさんは自分が思ったよりも速いスピードでトミーに惹かれて行くのであった。



----------------

こないだ
携帯に非通知で
着信があったんだ。

でもどうしようもないから
画面を見つめていたら
また非通知で電話が
鳴り出した。

『はい。』

『…シンイチロウ。元気か?』

『あぁ。なんだ。なんで非通知なの?』

『それが使い方がよく分からなくって。』

⏰:08/06/06 22:05 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#834 [ザセツポンジュ]
こういうところ、ジョウジロウとそっくりだなと思った。

『どうしたの?』

『お前さ…クリスマスは何かするのか?』

『特になにもないけど…』

『飯でも食いに行こう。オゴってやるから。』

オレはクリスマスに
会う約束をした。

夕方頃、待ち合わせの
予定。

何を話すのが
いちばんいいだろうか。
あれも言ってやりたい。
これも言ってやりたいけど…

オレ、何かを
作るのは好きだけど

生身の人間と
直接言いたいことを
言い合うのは苦手だな。
だけど今日は
クリスマスだから
今まで言いたかったこと全部、言ってみようか。

もう時間が迫ってる。

⏰:08/06/06 22:16 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#835 [ザセツポンジュ]
>>814-834
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/06/06 22:23 📱:W51CA 🆔:H2Pa6if.


#836 [ザセツポンジュ]
---------------

バイトへ向かう前に
少し早く家を出て
雑貨屋巡りをする女の子。


(なにがいいのかなぁ…もう中学生だもんなぁ)

リンゴ、イチゴ、バナナの小物…

人にプレゼントすることが苦手な人種。

自分が中学生の頃、何を欲しがっていたのかも、思い出せなかった。

(…これにしよう。)

『プレゼント用にしてください。』

可愛らしい写真入れを選んで、リボンのついた小袋を手に持ち、バイト先へ向かった。

懐石料理“廣六”

⏰:08/06/17 22:19 📱:W51CA 🆔:Rv5ry/LU


#837 [ザセツポンジュ]
『悪いねぇ、きららちゃん。クリスマスなのに。昨日から珍しく予約が入って忙しくってな。夕方にはあがっていいからね。』

『いえいえ。かまいませんよ。』

『おや?彼氏と約束があるのかい?』

六さんは、きららちゃんが手に持った小さな紙袋に目をやって微笑んだ。

『違いますよ。今日、妹が誕生日なんです。』

『そうか!きららちゃん妹がいたんだったな!じゃあ今日きららちゃんが帰るまでに、用意しておくから、帰ったらワシの料理をみんなで食べなさい!ね!』

そう言って六さんは嬉しそうに笑った。


(みんなで…食べる…か。)

きららちゃんは
六さんの嬉しそうな笑顔を踏みにじることはできないだろう。

⏰:08/06/17 22:25 📱:W51CA 🆔:Rv5ry/LU


#838 [ザセツポンジュ]
----------------
『ただいまぁ』

『おじゃましまぁす』

きーさんとすーさんは
リビングに入って来た
少年少女を二度見した後
顔を合わせ、目をかっぴらいたまんま
慌てふためいた。

『ど、ど、ど、どどど、どうもどうも!エノ…エノキ…エノキダケ!エノキダケ、ドコモダケ買って来たか!』

すーさんの目は
今だかつてない速さで
泳いでいた。

『え?エノキ岳?』

好きな子を勇気を出して家に呼んだのにも関わらず、オープニングから様子のおかしい老人2人。
鈴木ジョウジロウ14歳、クリスマスの落胆。

⏰:08/06/18 00:01 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#839 [ザセツポンジュ]
『はじめまして、エノシタと言います。』

エノシタさんがおじぎをしたのも束の間、
きーさんは、ジョウもまだ握った事のないエノシタさんの手を握り
コタツへ案内した。

『はじめまして、エノシタさん。ワシの名前はシゲルです。62歳です。どうぞ、この辺に座って。』

すーさんは慌てて
エノシタさんのために
梅昆布茶を入れてあげようと、不思議な歩き方で台所へ移動。
おもむろに手に取るグラス。

『ちょ、ちょっと!きーさん!目が怖いよ!手も震えてるし!わっ!じーちゃん!じーちゃん、何やってんの!それ洗剤!食器洗うものでしょ!飲めないし!なんで挙動不審なんだよ!なんなの!!?2人してさ!』

⏰:08/06/18 00:13 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#840 [ザセツポンジュ]
ジョウは粉を入れて
ポットの湯を入れれば
すぐさま完成する梅昆布茶を、少し水でぬるめて
すーさんに飲ませた。

『ジョウジロウちゃん、いや、落ち着け。まぁ、そうアセるな。サンタさんが来なかったからって非行に走るなよ!エ!エ…エノシタさん!ケーキ食べようね〜、ね〜エノシタさん、ね〜。』

理不尽な理屈を並べているのはシゲル。木田シゲル62歳。


孫から注がれた
梅昆布茶と言う活動源で、少しだけ落ち着きを取り戻した、鈴木ヒトシ62歳。

この2人の老人、

『なに?殺人でも犯したの?ついに。』


と、少年に侮辱されてもなんらおかしくない行動をとっている。

⏰:08/06/18 00:22 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#841 [ザセツポンジュ]
こんな奇妙な家の中にいるのに、エノシタさんは、なんだか楽しそうに笑っていた。

きーさんは
自分の理不尽さは
棚に上げ、キッチンからジョウを追い払った。

首をかしげながら
コタツに入ったジョウは
何気なく座っている自分にハッとした。

エノシタさんの隣。

(あ…足とかあたったら…どうしよう…)

『エ…エノシタさん、なんかオープニングからこんな感じでごめんね。じーちゃん達いつもあんな調子でさ。』


申し訳なさそうな顔のジョウとは打って変わって、建て前ナシの笑顔で首を横に振るエノシタさん。

『いいなぁ。にぎやかで。面白いのね、おじいちゃん達。』


キッチンでなにやら
男の作戦会議を開始している老人2人を、エノシタさんは微笑ましく眺めていた。

⏰:08/06/18 00:31 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#842 [ザセツポンジュ]
>>841

⏰:08/06/18 00:33 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#843 [ザセツポンジュ]
(エノシタさん、いつもひとりなのかな…)

ジョウは、エノシタさんを見つめながら、少し寂しい気持ちになった。


『すーさん、すーさん、大丈夫。大丈夫。バレてない、バレてないよ。かえってこんな態度の方が怪しいじゃろ!平然とするんじゃ。何事も無かったかの様に!』

『そ、そうじゃな。もう、随分前の話よ。』

完全に殺人を犯してしまった2人組の会話である。

『はいは〜い。みなさ〜ん。今宵クリスマス、未成年飲酒でもしてね、今日は盛り上がりましょうね〜』


きーさんは不自然なほどの笑顔で、しきり直そうとコタツへ潜入してきた。

⏰:08/06/18 00:44 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#844 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウ!お前、ポケっとしてないで、ワシに、もう一回梅昆布茶を入れて来い!きーさんにはカウパーカルピス!エノシタさんは?何飲むんじゃ?』


きーさんに続いて、コタツに腰を下ろしたすーさん。

『カウパーカルピスって新しいの?』

エノシタさんの質問に、すーさんは、気を良くした。

『最新のカルピスだが、絶対に外部には漏らさないこと。』


きーさんのフォローにもジョウは呆れ返って、みんなの分のジュースを用意しに、キッチンへ移動した。

⏰:08/06/18 00:52 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#845 [ザセツポンジュ]
(台っっっっ無しだよ。エノシタさん、もう遊んでくれないよ…)

『はい、梅昆布茶!きーさんの最新のカルピス!エノシタさんの100%オレンジジュース!』

(そしてボクも…エノシタさんと同じオレンジジュース…うぅ…)

すーさんは梅昆布茶を
ふぅふぅと冷ましていたが突然ある事に気づいた。


『あっ!おい!ジョウジロウ!シンイチロウも呼んで来い!いいか!?今日はあの屋根裏から何が何でも引きずり出せ!』


ジョウはオレンジジュースをゴクリと飲み、ため息をついた。


『も〜。コキばっかり使わないでよね!』

⏰:08/06/18 01:02 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#846 [ザセツポンジュ]
ジョウは膨れっ面で階段を上がり、2階の上のそのまた上の、屋根裏部屋のドアを叩いた。

コンコンコン。

『に〜ちゃん!……に、にぃいちゃん!』

ジョウは少し待って、
耳を澄まし、ドアノブに手をかけた。

ガチャー。

相変わらずゴチャゴチャしている部屋。

画材に雑誌に、本にソフト。付けっぱなしのパソコンに…


『…あれ?にーちゃん、いないや。』

⏰:08/06/18 01:09 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#847 [ザセツポンジュ]
>>836-840
>>841
>>843-846
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/06/18 01:13 📱:W51CA 🆔:vSgbzwek


#848 [ザセツポンジュ]
------------------


『おつかれさまで〜す。』

オレが店の戸を開けたと同時に
バイトの人とおぼしき若い女が店を出て行った。

『六さんの店、久しぶりだな。』

席に案内され、座敷に座るなり
目の前にいる中年男は
おしぼりで顔を拭きだした。

『そうだね。父さんと会うのもだいぶ久しぶりだけども。』

そう。そのだいぶ前に
出て行った父さんの顔を拭く姿を見て

老けたな〜と感じ、メニューを開いた。

『隣のおじいちゃんは元気か?あの説教くさいおじいちゃん。』

父さんはおしぼりを置いた。

『ん?元気に決まってるだろ。トミーも元気だよ。。。あと、ジョウジロウも元気。』

⏰:08/06/18 13:24 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#849 [ザセツポンジュ]
家族の事よりも先に
きーさんの事を聞いて来るあたり、
よほどに目の敵にしているに違いない。

『元気か。ジョウジロウ、中2か。荒れてないか?』

寂しそうな顔でメニューを覗き込む父さん。
“松コース”を指差した。

『いいの?無理してない?』

『無理してるに決まってるだろ。いいから頼みなさい。』

えらそうにメニューを閉じた父さんだが、
無理してるとはっきり言われると、返ってスッキリするもんだ。

『すいませ〜ん。』

⏰:08/06/18 13:25 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#850 [ザセツポンジュ]
ヒョイっと顔を出した六さんは、
オレ達の顔を見て、ニッコリ微笑み
テーブルに手をかけた。
六さんの、なんとも言えない優しい顔に
オレはホっとした。

『シンイチロっちゃん。お父さんと、珍しいな。アンタ、元気だったかい?』

ポンと、父さんの肩を叩いた六さん。
父さんは、笑った。

『あぁ。それなりにな。』

一番高い“松コース”を頼んだ後
料理を来るまでの間、黙っていることは
できなかった。

『ジョウジロウ、荒れたりしてないよ。年頃の割りにはいい子だと思うよ。鈴木の姓にも、もういい加減慣れたみたいだしさ。』

父さんは何度も頷いていた。
“それならよかった”と。

⏰:08/06/18 13:26 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#851 [ザセツポンジュ]
『母さんは忙しそうか?』

『忙しそうだよ。帰って来るのも遅いしね。父さんはどうなの?』

父さんは、苦笑いして、こう答えたのだ。

『酒の量もだいぶ減ったな。ひとりきりだしな。会ってくれるのはお前だけだしな。』

オレは少し腹が立った。
何を聞いても腹は立つんだろうけど。
ちょっとした発言でもイラっとするんだろうけど。

父さんだけが、寂しいんじゃない。
自業自得なんだろ。

お前が家を出て行ったんだ。
酒を飲んで暴れて。
自分勝手に怒鳴って。
母さんを殴って。
じーちゃんを突き飛ばして。
ジョウジロウの話も聞かずに。
だけど、オレは。。。

⏰:08/06/18 13:26 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#852 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウはさ、毎日夜になると泣いてたよ。まだ小学校も低学年だったし。小さかったのに父さんと母さんの間割って入ってさ。ジョウジロウは強いと思うよ。オレは母さんにくっついていればいいと思ってたから。どっちかについている方が楽なのに、ジョウジロウはそれをしなかった。なのに父さんはジョウジロウの話を聞かなかった。オレもオレだけど。父さんも父さんだよ。』

いや、オレは今日
誰が一番悪かったと、
決めたかったわけじゃないのに。

父さんを責めに来たんじゃなかったのに。
掘り返して、父さんを悪者にしようと思っていたんじゃなかったのに。

今日は、
今日は、、、。
こんな空気にするつもりじゃなかったのに。

⏰:08/06/18 13:27 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#853 [ザセツポンジュ]
『悪かったな。母さんにも、ジョウジロウにも、、、、お前にもな。父さんな、ホントに悪かったと思ってるよ。』

違うんだ、父さん。
父さん、オレはね、
父さんが出て行って、ジョウジロウが泣く姿を見て
自分が情けなくなったよ。

オレの方がおにいさんなのに、
オレは何にもしなかった。

部屋に隠れて、耳を塞いでいるだけで。
オレには、二人の間に入る勇気なんてなかったし。

⏰:08/06/18 13:28 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#854 [ザセツポンジュ]
ジョウジロウはね、何も知らないんだ。
どっちについていればいいとか、分からないんだ。多分。
戦国時代のお話をいつも聞かせてくれたりしていた大好きな父さんと、
お弁当のおにぎりに、タコさんウインナーを入れてくれていた大好きな母さんが

いがみ合っているのを見ているのが
ただ、嫌だっただけなんだよ。

どっちがどうとか
そんなの思いつきもしてなかったんだよ。

泣きながら、何度も何度も
父さんと母さんの間に割り込んで
止めようとしていたんだ。

真ん中。
二人の真ん中に立って。

⏰:08/06/18 13:29 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#855 [ザセツポンジュ]
オレには、そんな気持ち、きっとなかったから。

いなくなって気付いたんだ。
父さんがいなくなって、オレは気付いたんだ。

父さん、父さんも
ひとりになって分かった事が
いっぱいあるんだろうね。

ひとりにならないと思い知れない事もあるんだろうけど
それに気付いて反省した時に、
もう戻せなくなってしまったものもあると言うこと。


クリスマスの夜に。

⏰:08/06/18 13:29 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#856 [ザセツポンジュ]
---------------------

学校一の可愛い女子を
見事自分の彼女として
獲得し、至福の時を過ごした
木田トミオ14歳。

クリスマスとエノモトさん15歳の
誕生日を存分に過ごした。
辺りはもう薄暗い。

『あたしもう帰らなくちゃ。』

『え〜もう帰るの〜。もう俺んち住んじゃえよ。風呂沸かそうぜ。』

と、無理な冗談こそ平気で言ってみるが、
トミーはエノモトさんの手を取った。

『おうちまで送ります。』

『うん!』

二人は手を繋いで、玄関を出た。

⏰:08/06/18 14:22 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#857 [ザセツポンジュ]
《ボケタレ!ワシの目玉焼きの方がよっぽど目玉らしいわ!》

《すーさんの目玉焼きは目玉じゃないわい!下手クソ!》

《も〜。。。じーちゃんもきーさんも無駄使いしないでよ、たまご!目玉焼き選手権なんてやめようよ、クリスマスに!》

《キャハハハ。》

何やら隣のオウチはにぎやかなご様子。

『隣の家うるさいね〜、エノモトさん。』

ガラガラガラ。

『空気が悪いわ!、、、あ!トミオ!どこへ行く!』

ぷ〜んと漂う卵の匂い。

『あの人知ってる?エノモトさん。』
『、、、。トミーのおじいちゃんでしょ。無視していいの?』

エノモトさんは、繋いだ手を気にしながら歩いた。
無視していいわけがあるまい。

⏰:08/06/18 14:23 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#858 [ザセツポンジュ]
ガチャ。

鈴木家の玄関から顔を出した老人二人のお出ましだ。

『おい!あっ!お前ら!セックスしていいと思ってんのか!』

すーさんは、繋いだ手を見るなり、近所迷惑スイッチをONにした。

『すーさんやめてよ。俺の可愛い可愛い彼女が困惑するだろ。セックスはしなかったよ。とても残念だよ。』

きーさんは、これ以上喋らせまいと、すーさんの口を塞いだ。

⏰:08/06/18 14:24 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#859 [ザセツポンジュ]
『トミオ!どこ方面に送るんじゃ!?』
『あっち。北公民館の方面。』
『そうか!その近くに喫茶店があっただろう!そこにケーキも売ってるから、ケーキを買って来い!モンブランと〜、、、あと適当に!必ずだぞ!ほれ、エノモトさんにもあったかいカフェオレ買ってあげなさい。』

トミーにも1万円を渡したきーさん。
かっこつけたいがために気前の良くなるクリスマス。

『ラッキ〜。』
『じゃあな、我が孫トミオよ。』

ガチャン。
すーさんを窒息死させる寸前で
老人達は家へ引っ込んだ。

『なんであたしの事知ってるの?』
『、、、あれ?ホントだ。なんでだろう?』

⏰:08/06/18 14:25 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#860 [ザセツポンジュ]
きーさんは、すーさんをリビングに放り投げ、
玄関の電話の前に立った。

きーさん。携帯電話を購入したのにも
関わらず、家に置き忘れ、人んちの家の電話を使用する。
老人とはそんなものだ。

『090の、、、え〜と、、、』

リビングからホフク前進でしかえしを試みているすーさん。

『おい、木田シゲル。モンブランモンブランって、糖尿病になって死んでしまえ。。。おや?どこに電話しとるんじゃ?』

『トミオの本命の彼女。』

『あぁそう。』

すーさんはそう言って素直に退散し、コタツに戻った。

『、、、もしもし?ワシじゃ。今すーさんちからかけておる。今どこにおるんじゃ?』

⏰:08/06/18 14:26 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#861 [ザセツポンジュ]
-----------------
エノモトさんちは少し遠かった。
二人はたわいもない話をしながら
ゆっくり歩いた。

『トミーはいつも音楽何聴いてるの?』
『え〜っとね〜、怪獣のバラード。』
『、、、。それって合唱曲でしょ。CD出てるの?』
『うん、出てる出てる。エノモトさんは?』
『あたし、ジュディマリ。』
『俺もジュディマリ好き〜。ジョウの兄ちゃんにCD借りた事あるんだ。小さな頃からとかね、KISSの温度とかいいよね。』
『ホント!?あたしは、おねーちゃんから教えてもらったの。あ、怪獣のバラードあたしも好きだよ。』

⏰:08/06/18 14:39 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#862 [ザセツポンジュ]
CDはおそらく持っていないだろうが、
木田トミオと言う生意気な少年。
怪獣のバラードと言う歌を
こよなく愛していた。

『でもさ〜怪獣のバラードを歌ったクラスが絶対優勝するじゃん。あれどうにかして欲しいよね〜、、、。あ、自販機。エノモトさん、おいで。』

あったかいカフェオレを飲みながら二人は進んで行った。
吐く息はとても白かった。

『もうすぐウチなの。あの、そこの犬がいるオウチの、、、。隣、、、、。』

エノモトさんの足が止まった。
トミーはエノモトさんの顔を覗き込んで
視線を辿った先、街灯の下に女の人が立っているのが見える。

『おねーちゃん!』

そう叫んでエノモトさんは、走って行く。
振り返ったエノモトさんに、トミーは笑って手を振った。

(会いたい人に会えてよかったね、エノモトさん。)

⏰:08/06/18 14:40 📱:PC 🆔:Qvr/oogU


#863 [ザセツポンジュ]
---------------------

ジョウは時計を見てハっとした。
ジジイ二人のドンチャン騒ぎに
付き合っている場合ではないのだ。

こともあろうかエノシタさんは
楽しそうにケタケタ笑っていた。

ジョウはこのままでは
エノシタさんが危ないと思い、
肩を叩いて現実世界へ引き戻した。

『エノシタさん!もう8時が来るよ!』

エノシタさんはやっとこさ
我に返り、帰り支度をした。

『エノシタさん、また目玉焼き選手権しようね〜』

酔っ払ったすーさんはとてもご機嫌。

『また遊びにおいで、エノシタさん。』

きーさんは、ここを自分ちだとでも思っているのだろうか。

ジョウとエノシタさんは、クリスマスと言う冬の道を歩き出した。

⏰:08/06/18 16:48 📱:PC 🆔:1u1mw9wo


#864 [ザセツポンジュ]
>>836-840
>>841
>>843-846
>>848-863
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/06/18 18:21 📱:PC 🆔:1u1mw9wo


#865 [ザセツポンジュ]
------------------
街灯の下で手を振る女の子。
街灯まで走る女の子。
二人は姉妹。

『おねーちゃん。。。』
『お誕生日おめでとう。はい、これプレゼント。私からがこっちで、この料理はバイト先の人から。』

二つのプレゼントを
妹に渡した姉は、
時計を見た。

『ありがとう。。。おねーちゃん。どこでバイトしてるの?』

『ん?料理のおいしいところでバイトしてるのよ。』

姉は、再び時計を見た。
予定は何もないのに。

⏰:08/06/30 01:11 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#866 [ザセツポンジュ]
『おねーちゃん、おうち入らないの?』

すぐさま帰ろうとしている姉の様子に気付き、
なんとか引きとめようとしている妹。

『今日はもう帰るよ。おめでとうって、言いに来ただけだったから。』

『一緒にケーキ食べようよ。。。帰って来てよおねーちゃん。』

姉は、困ったように笑い、首を横に振る。

ガチャ。

『遅いわねぇあの子。誕生日だって言うのに。』

エプロン姿のまんま、薄着で外に出て来た母親。
隣の家の犬が吠え出した。

『お母さん!おねーちゃん、おねーちゃんとケーキ食べたいんだけど!』

⏰:08/06/30 01:11 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#867 [ザセツポンジュ]
姉は、母親の姿を見た途端、
背を向けて口を閉ざした。

『あれ?お前いたのか。』

続いて玄関先まで出て来た父親は、
様子に気づき、妻の方へ近づいて行った。

そうして、もう一人の我が娘が
自分達に背を向けている事が分かったのだった。

家族は4人。
食卓を4人で囲むのが当たり前で、
普通の家庭だと、誰もが思っていた。

両親は、7つ、年の離れた妹を
とても可愛がっていた。
天真爛漫で、容姿も端麗だった妹を。

⏰:08/06/30 01:12 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#868 [ザセツポンジュ]
姉は次第に嫉妬して行った。
クリスマスに生まれた妹を
妬んでもいた。

置いてきぼをくらっているような生活が
何年も続いたが、
姉は、疑問をどこに、誰に、
ぶつけたらいいのかさえも分からなかった。

普通の家庭だと誰もが思っていた家庭に
口を閉ざした姉だけが、ポツリと食卓を囲む。

物静かな性格だったためか、
ちょっとした姉の変化に気づく者は、
いなかった。

⏰:08/06/30 01:12 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#869 [ザセツポンジュ]
お姉ちゃんはしっかりしてるから。
お姉ちゃんは心配いらないから。

妹は甘えん坊で可愛いから。
妹は手のかかる子だから。

(私はおねえちゃんだから。私はおねえちゃんだけど。だから何だって言うのよ。。。)


『お姉ちゃん。お母さんね、みんなの好きなケーキ買ってきてるの。』

『おねーちゃん。おうち、入ろうよ。。。』

母の言葉も、妹の言葉も
背中では受け止めているが、
まだ振り返る気には、なれないでいる姉。

何も語らないでいる姿を見かねて、
父親は、ゆっくり姉に近づいて行った。

そして、姉の肩に、手を
置いた。

⏰:08/06/30 01:12 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#870 [ザセツポンジュ]
『さみしい思いをさせていて、ごめんな。。。お姉ちゃん。帰っておいでよ。ね。今日は、クリスマスだから。』

お姉ちゃんは、
ちゃんと分かっていたのだ。

自分が、大きな大きな
意地を張って生きていると言うことを。

抵抗として、
沈黙と言う手段を選んでいたが、

相手に真意を
気づいてもらえにくいと言う事だって
分かっていた。

だけど、それでいて時は経ってしまい、
口に出す事が、日に日に困難になって行った。


溜め込んだものを吐き出すために
手にあざを作り、のどをかき回していた自分。

⏰:08/06/30 01:13 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#871 [ザセツポンジュ]
“私は何も語らないけど、そんな私の気持ちを察して、あなた達が考えて行動してください。”

は、とても無理な話なのだ。

相手の思惑は探る事が出来たとしても、
真意を掴む事なんて出来ない。

超能力者でもなんでもないんだから。

伝えるべき事は、
口に出して伝える。

それを苦手としている人もいるのだろうけど。

“もっと早く言えば良かった。
もっと私にもかまってと
甘えてみれば良かった。

⏰:08/06/30 01:13 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#872 [ザセツポンジュ]
寒い中、薄着で立っている
お母さんが
とても恋しくなったのだ。

必死で引き止めようとしてくれている
妹の姿が
とても愛おしく思えたのだ。

姉の目から
次第に涙がこぼれ落ちた。

自分の涙が、温かい事に
気づいた姉は、背を向けるのをやめた。

ずっと前から言いたい事は
たくさんあった。
だけど、今、一番言いたい事を、、、。

隣の犬も、おとなしくしている。

お父さんもお母さんも
妹も、

おねえちゃんの帰りを待ってる、、、。

⏰:08/06/30 01:14 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#873 [ザセツポンジュ]
『、、、、ただいま。』

妹は姉に飛びついて行った。

『おかえりなさい。』


お父さんの手
お母さんの顔
妹の声。


帰りたい場所があると言うこと。

クリスマスの夜に。

⏰:08/06/30 01:15 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#874 [ザセツポンジュ]
辺りの空気は冷たく、
吐く息はとても白かった。

最初に口を開いたのは、エノシタさん。

『今日はありがとう。あんな賑やかなオウチで、ジョウくんが羨ましいわ。楽しかったな〜。』
『え?それホントなの?こっちこそありがとう。そしてごめんなさい。相手するのも後始末も大変だけど良かったらいつでも遊びに来てね、エノシタさん、、、。』

⏰:08/06/30 01:15 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#875 [ザセツポンジュ]
『フフフ。ジョウくんのお兄さん、呼びに行ったのに今日いなかったんでしょ?忙しい人なの?』
『ううん。にいちゃんホントどこ行ったんだろうな。普段は屋根裏部屋にこもって、いろんなものを創作してるんだ。そんでその作ったものを売ってる。』
『へぇ〜すごいね。器用なんだね。例えば何作ってるの?』
『服も縫っちゃうし、絵も描くし、パソコンで何か難しい事してるし、ギターもピアノもやるし、エヴァンゲリヲンマニアだし。何でも出来るオタクだよ。』
『多趣味なのね。ジョウくんは何か趣味あるの?』

⏰:08/06/30 01:16 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#876 [ザセツポンジュ]
『ボクはね、、、、。』
(、、、。ないんだけど。得に。何でボクとにいちゃんはあんなに違うんだろうか。。。)

『音楽、、、は、よく聴くかな。』
『なに聴くの?』
『笠置シヅコさんとか〜、、、。』

(え?ボク何言ってんの?バカ?中3の女子相手に昭和のブギの女王の話して、どうするんだよ。)

⏰:08/06/30 01:17 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#877 [ザセツポンジュ]
『知ってる!東京ブギウギとか買物ブギーの人でしょ!ちびまる子ちゃんの映画で見た事あるんだ〜。』
『えぇぇぇぇええぇ!!エノシタさん知ってるの!?うそ、いやぁぁホンッッッット、嬉しいんだけど!!』

尋常じゃないジョウの喜びように
エノシタさんは若干引いていた。

(こんなジョウくん見た事ないわ。。。)

⏰:08/06/30 01:17 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#878 [ザセツポンジュ]
『あ、あとは、、、何聴いてるの?』
『あとはね〜ハイスタでしょ、ブルーハーツでしょ、倉橋ヨエコでしょ、ジュディマリでしょ、え〜とね〜、、、』

『ジョウくんごめん。全部知らない、、、。』

笠置シヅコさんの一件で、並々ならぬ
テンションアップをしてしまっていた
鈴木家の次男だったが、エノシタさんの一言で
自分の体調を通常値に急いで戻した。

『ハ、、ハハ。今度良かったら貸すよ。全部にいちゃんの私物なんだけどもね。』
『そっか。私、流行の歌とかに、うとくてさ。実は。』

⏰:08/06/30 01:17 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#879 [ザセツポンジュ]
エノシタさんの、正直な答えを
ジョウは嬉しく思った。

『ボクもね、知らないんだよ。さっき言った人達も少し古いんだよ。いい歌は時代をピョンと飛び越えて来てくれるって、きーさんが言ってたんだ。あ!じゃあさ、エノシタさん学校の歌で好きな歌は何?』

エノシタさんは上を向いて考えた。

『あ。ある。ジョウくんはあるの?』
『あるよ、一番大好きなやつ。』
『じゃあさ、せーので言おうよ。』

⏰:08/06/30 01:24 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#880 [ザセツポンジュ]
星がとてもキレイなクリスマス。
街灯の明かりはとても小さいけど、二人の真上に広がる夜空は
とてもとても明るかった。

“せーの”

『怪獣のバラード!』
『怪獣のバラード!』

二人は顔を見合わせて笑った。
















星がとてもキレイなクリスマス。
街灯の明かりはとても小さいけど、二人の真上に広がる夜空は
とてもとても明るかった。

“せーの”

『怪獣のバラード!』
『怪獣のバラード!』

二人は顔を見合わせて笑った。

⏰:08/06/30 01:26 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#881 [ザセツポンジュ]
>>865-880
ミスッタ...880
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/06/30 01:29 📱:PC 🆔:3PmgDCPQ


#882 [ザセツポンジュ]
---------------
エノモトさんを送り終えたトミーは
人が隣にいなくなると
急に寒さを感じるものなんだと
痛感し、ポケットに手を突っ込んで
少し走った。

クシャ。

『あ。じーちゃんに1万円もらってたんだった。』

ケーキを買わなければいけない事に
気づいたトミーは
めんどくささを振り切り
ケーキの置いてある喫茶店まで
急いだ。

(さみぃさみぃ。)

⏰:08/07/03 15:33 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#883 [ザセツポンジュ]
カランカラン。

『えーと、モンブランと、あとは適当に。5つほど、オススメで。』

トミーはガラスケースのケーキも見ずに
店員の顔を見てオーダーした。

店員はニッコリ笑った。

『かしこまりました。お客様、お待ちの方が、あちらのお席に。どうぞ。』

『は?』

トミーは店員の手の指す方向をゆっくりと辿った。
辿るうちに、大好きだった懐かしい匂いが
漂っている事に気づいた。

『え、、、、。』

⏰:08/07/03 15:34 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#884 [ザセツポンジュ]
目をやった先には
自分が近年、葛藤し続けて来た
原因そのものが
椅子に座っている。

それはとても美しく
本来なら、飛びついてしまいたいほどの
事だったが、
トミーはそれを許してはいなかった。
顔を見る事もできず、
とりあえず席に座った。

『、、、、。』

何も話す事のできない自分。
喫茶店の暖房がよく効いている事だけは
分かった。


『トミオ。ケーキ食べる?』

トミーは相手の手だけを見つめ
首を横にふった。

⏰:08/07/03 15:34 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#885 [ザセツポンジュ]
『元気、、、だった?』

『、、、。うん。分かるだろ見たら。』

『そうね、、、。あの、、、。怒ってる?』

『、、、。その質問、間違ってると思わないの?』

いつになく緊張して
顔をこわばらせているトミーは
列記とした14歳の少年なのだ。

『トミオは、何にも聞きたくないかもしれないけど、』

『聞きたくないよ、ホントに。何も。ってか何でいるの?どうせじーちゃんに頼まれたんだろ。』

⏰:08/07/03 15:35 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#886 [ザセツポンジュ]
複雑な気持ちだけが
トミーに絡みついていた。
怒るにも怒れない。
笑うにも笑えない。
見るにも見れない。

そんな初めての気持ちと
緊張が、トミーを襲っていた。

『、、、。トミオ。』

その言葉にビクっとしたトミーは
顔をあげた。

そこには大好きな人が
困った笑顔を浮かべ
まっすぐにトミーを見つめていた。

『、、、。ごめんね。ママのこと、許してだなんて言わないわ。だけど、、、ごめんね。トミオ。』

トミーはテーブルにひじをついて
両手を頬にあてた。
ふくれっつらで
言葉もでないまま。

⏰:08/07/03 15:36 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#887 [ザセツポンジュ]
<何も言わずに置いて行くなんて卑怯だ。

うそつき。

女なんてクズだ。

弱虫。

俺はへこたれない。

お前みたいに
無責任な事はしない人になる。

最低女。

どこかで
そう思って過ごしていなければ
寂しさで埋もれてしまうような
気がしてたまらなかった。

⏰:08/07/03 15:36 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#888 [ザセツポンジュ]
ママが急にいなくなった。
じーちゃんは変な嘘をついて
ごまかしていた。

寝て起きて、寝て起きて
待っても待っても
ママがいない。

でもね、練習したんだ。
キレイに字をかけるように
目玉焼きも焼けるように
服もキチンとたためるように、、、。

じーちゃんと一緒に
練習したんだ。

ママが、帰って来たら
いや、帰って来るから

その時、書いた字を見せるんだ。
ママに褒めてもらうんだ。

ママがおなか減ったら
俺が目玉焼きを焼いてあげる。

ママの代わりに
俺が洗濯物もやってやるから

何にも心配しなくていいよ、ママ。

いつでも帰って来て大丈夫だよ
ママ、、、。>

⏰:08/07/03 15:37 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#889 [ザセツポンジュ]
トミーは
頬にあてていた手で
顔を覆った。


『、、、。、、、うぅ。。。』


恨んでいた気持ちは
負けた。

14歳にもなって
涙でノックアウトだなんて
恥ずかしくてたまらない。

学校にも行けない。

誰かに見られたら困るし、、、。

それでもトミーは
ずっとためていた想いを
止める事ができなかったのだった。

⏰:08/07/03 15:38 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#890 [ザセツポンジュ]
そして
きーさんが今も
きっと大事に持っているであろう
よい子ちゃんシールの事を
トミーは思い出しながら
こらえてもこらえきれない
涙を流し、声を押し殺した。

ママがいなくて淋しい時の、我慢した涙の分。
冷凍食品が多くて、ママの作ったご飯が食べたいなーと、泣きたくなった時の分。
みんながママとの出来事を楽しそうに話している時の、悲しい気持ちの分。
              
その分をひとつずつ
シールに代えていた
小学生の頃の自分。

⏰:08/07/03 15:38 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#891 [ザセツポンジュ]
“男の子は泣かないのよ。”

と言っていたママの声が
頭を駆け巡った。

ママは、いい匂いのする手で
トミーの頭を撫でた。
自分の息子が
この年にして
いかに純粋かを目の当たりにし、
心を締め付けられると同時に
ホっとしていた。

トミーはいろんな想いを
外に出して、涙をふいた。

“むかつくけど、会いたかったんだ
ママに。”




『。。。ケーキ。。。食べるよ。』

『うん。。。。!』




ママはにっこり笑った。
トミーは鼻水をすすりながら、照れて
まだママの顔を見れないでいた。

⏰:08/07/03 15:39 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#892 [ザセツポンジュ]
大好きな人に
裏切られたんじゃないかと
疑うこと。
それを受け入れなければ
いけないのかと
疑問を持つこと。

何かを信じて

“待つ”と言うこと。



クリスマスの夜に。

⏰:08/07/03 15:39 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#893 [ザセツポンジュ]
>>882-892
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/357/

⏰:08/07/03 15:40 📱:PC 🆔:l1y/MU3Q


#894 [我輩は匿名である]
あげ。

⏰:08/07/05 19:23 📱:F906i 🆔:r0G5r4Ls


#895 [ザセツポンジュ]
きーさんとすーさんは
鈴木家の床暖房にこたつに

日本酒くらって
いい気分。

『おい、きーさん。トミオちゃんは大丈夫かね。』

『大丈夫じゃ。ワシには分かる。シンイチロっちゃんこそ大丈夫かね。』

『ワシは関わっておらん。今日まで知らんかったんじゃ。おそらく六さんとこで飯でも食ったんじゃろ。あいつが自分で決めた事。大丈夫に決まっておる。』

⏰:08/07/06 01:39 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#896 [ザセツポンジュ]
きーさんはついにうとうとしだして
こう言った。

『ありがとうと、、、ごめんなさい。』

すーさんはきーさんを2度見、3度見した。

『いえいえ、どういたしまして。』

目をパチっと開けた
木田家の老人。62歳。

『お前な、ありがとうと言われるような事もしてなけりゃあ、謝られるような事態にも巻き込まれてないだろ、バカか。何がいえいえどういたしましてじゃ、全く。』

⏰:08/07/06 01:39 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#897 [ザセツポンジュ]
『いや、あるぞ。ワシはな、きーさんの企みにはシブシブ付き合っているし、時間も裂いておる。』

この町の
近所迷惑代表と言う事を
忘れて誇らしげな
鈴木家の老人。62歳。

『人はな、ごめんねと言われると許してしまう事もある。その言葉を一言聞きたかっただけなんじゃ。』

『きーさん、すまんな。』

『。。。。許そうと思った事もないわ。』

共に62歳の仕掛け職人は
2人して
コタツで眠りについた。

⏰:08/07/06 01:40 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#898 [ザセツポンジュ]
友達が
いると言う事。

ひとりでもいい。
友達が、ここに
いると言う事。

クリスマスの夜に。

⏰:08/07/06 01:41 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#899 [ザセツポンジュ]
-----------------------

『真っ赤な〜太陽〜』

『沈む〜さぁばく〜に』

『おおき〜な怪獣が』

『の〜んびり暮らしてたっ。フフフ。』

怪獣のバラードを
変わりばんこに
口ずさみながら
夜道を歩く二人の少年少女。

ジョウは続けた。

『ある朝目〜覚めたら』

『遠〜くで〜キャラバンの』

『鈴の音聞〜こえたよ、お〜もわず叫んだよっ。』

『海が見〜たぁ〜い〜』

『人を〜。』



“人を愛したい、怪獣にも心はあるのさ。”

⏰:08/07/06 01:41 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


#900 [ザセツポンジュ]
エノシタさんは止まった。
ジョウが次のフレーズを
歌う番だ。


(ひ〜と〜を〜あ〜いしたい、、、、。ボクにも心はあるんだよ。)


『あ、、、。』

ジョウは、足を止めた。
エノシタさんは、笑ってる。

『なんか恥ずかしいね。』

そう言ってエノシタさんは
歩き出した。

『エ、エノシタさん、あのね!』

ジョウの声に
驚いて振り向いた少女は
一瞬にして空気が変わるのが
分かった。

⏰:08/07/06 01:43 📱:PC 🆔:JyF5mtcA


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