WHITE★CANDY
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#601 [ぎぶそん]
「…武器がないのは流石に不安だ。
一旦この『マシュー銃器店』で補充しよう。
次のマンションからはかなり遠ざかることになるけどな。」

優平が地図上で指す銃器店は地図の北、フージーマウンテンのふもとにあった。
ここから約5キロは離れている。

優平の意見に、私と元基は迷うことなく賛同した。
ここに来て、初めての賭けかも知れない。

吉と出るか凶と出るかは分からないが…―

⏰:09/09/03 15:56 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#602 [ぎぶそん]
「なあ、ゲーム開始に比べて、明らかに奴らうようよいねーか?」

再び乗り込んだトラックの中で、元基が思ったことを口にする。

彼のいうように、窓に目を向ければ嫌でも彼らが視界に入って来る。

「きっと紫外線に弱くて、夜になるほど活動的になるのよ。」

「ヒュー。
何かコレ、まさしく真希の為に作られたゲームって感じだな。」

⏰:09/09/03 16:10 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#603 [ぎぶそん]
「いや、あながちその考えは間違っちゃいないぜ。」
私たちの会話に、優平が割り込む。

「どういうことだ!?」

「親父がゲーム会社と協定を組むって聞いた時、
真希がアクションゲーム好きなの知ってたから、それの最新型とか出来たら喜ぶだろうなって…。

そしたら俺の意見がそのまま通った訳。
まさかここまでリアリティなものになるとは思わなかったけど。

代償とか報酬とかさ、コレ作った奴頭イカれてるよな、ははは。」

⏰:09/09/03 16:21 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#604 [ぎぶそん]
「おかげさまで、私は充分この世界を楽しんでるよ。」

優平がハンドルを持つ手に自分の手をやる。
素直に嬉しかった。

今いる世界は実に残酷なものだけれど、優平の私に対する思いを感じられる。

それだけに何としてもこのゲームを制覇したい。
結末がどのようなものか知りたい。

このゲームを通して、一つの成長を遂げたらいいなと思う。

⏰:09/09/03 17:21 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#605 [ぎぶそん]
トラックを発車させて数十分、山のふもとまで来ることが出来た。

トラックから降りると、こじんまりとした店が一軒佇んでいる。
看板には「マシュー ガンズ ショップ」と書かれていた。

街の外れからか、アンデッドのいる気配はなかった。

「こりゃひでぇ…。」

店の付近には、女性と少女の全身血まみれの死体が無残にも転がっていた。

ここに来て深く、空想の世界とは、他人事とは思えない悲しさを感じた。

⏰:09/09/03 18:10 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#606 [ぎぶそん]
「スゲー!ここは武器の宝庫だなぁ!
よーし、皆ありったけ持って行こうぜー!」

銃器店の中には銃だけでなく、ボーガンやナイフ、弓矢もあった。

弾や拳銃、必要なものは持てるだけ持って行く。

「…驚いた。この世界でまさかこの銃と出会えるなんて。」

私はその中から見つけたとある拳銃を、ズボンの後ろに挟んだ。

⏰:09/09/03 18:20 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#607 [ぎぶそん]
私たちが武器をかき集めていると、店の隅にある部屋の方から、ガタガタッと木片か何かの落ちる音がした。

アンデッドかも知れないと、素早く銃を構える私たち。

「お前たち、ここで何をしている…。」

そこから出て来たのは生身の人間だった。
あまり食事にありつけていないのか、ひどく痩せている。

どうやら彼はこの家の主、マシュー氏のようだ。

⏰:09/09/03 18:26 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#608 [ぎぶそん]
「あ…俺たち、政府に雇われ、アンデッドと戦うことを命じられた者です。
途中で武器が必要になったので、ここならあるだろうと思いやって来ました。

誰もいないと想像していたので…。
しかしながら勝手にここを荒らしたこと、無礼をお詫びします。」

優平が両手を上げる。
私と元基も銃を構えた手を下ろす。

「…そうか。
いや、構わないよ。
ここにあるものは好きなだけ持って行くといい。」

私たちの言い分を聞くと、マシューさんはレジがある机に寄り掛かる。

「可能性はなくはないとは思ってたけど、この街に生存者っていたんだな。」

元基が喋る。

⏰:09/09/03 18:36 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#609 [ぎぶそん]
「噂によると生きてる者は束になって、安息の地を求めて東へ向かったらしい。」

「あなたは一緒に行かなかったんですか?」

私はマシューに質問した。

「店の前に死体があっただろう?
あれは私の妻とその娘だ。
2人はここへ帰る途中であいつらに噛まれたらしく、感染していることが分かった。

そして、私はこの手で自ら愛する者を葬り去った。
それからは2人を埋葬する余裕がないくらい、ここで閉じ込もっていた。

私には、この街を去った所で、この戦争が終わった所で、生きる希望なんて全くない。ないんだよ…。」

⏰:09/09/03 18:50 📱:SH705i 🆔:XaOOTU7E


#610 [ぎぶそん]
私はマシューの元へと足を踏んだ。

「いいえマシューさん。
それでもあなたは生き続けなきゃいけない。

私みたいな小娘に言われるのは腹立たしいと思いますが…。
二人は最期にあなたの生きてる姿を見たかったから、ここまで歩いて来た。
そしてあなたは生きたかったから二人を殺した。そうじゃありませんか?」


「…君、名前は?」

長い沈黙の後、マシューが口を開いた。

「真希って言います。」

「マキか…。その名前、死ぬまで覚えておくよ。
マキ…君はこの街で見た中で、一番綺麗な瞳をしている。」

⏰:09/09/08 01:27 📱:SH705i 🆔:0WCPcnl.


#611 [ぎぶそん]
「さあ、マシューさん、あなたも早くここから出ましょう!
奴らがここを責めてくる前に…!」

元基と優平が、両脇を支えるようにしてマシューの身体を担ぐ。

そして私が先導するように、ドアの前に立つ。
しかし扉を開けると、目の前にさっきまでいなかったアンデッドが立っていた…。

驚きと恐怖で、その場から動けない。

「マキ、危ないっ!」

⏰:09/09/08 13:19 📱:SH705i 🆔:0WCPcnl.


#612 [ぎぶそん]
「あああああっ!」

私を庇うようにして間に入ったマシューが、アンデッドに右肩を噛まれる。

「…クソッ!」

元基が怒り狂うように、その怪物に弾丸を三発撃ち込む。
最後に当てた弾で、奴の頭部が腐ったトマトのように潰れた。

「ああっ…。マシューさん…。ごめんなさい、私のせいで…。」

私は彼の身体を抱く。

「いや、いいんだ。
最期に君を助けることが出来たんだから。
もう私は動けない…。
さあ君たち、私を追いて早く行くんだ。」

⏰:09/09/08 13:38 📱:SH705i 🆔:0WCPcnl.


#613 [ぎぶそん]
マシューを残し外に少し出てみると、大量のアンデッドがわらわらと銃器店の方に迫って来ていた。

「クソッ!もうこんなにいやがる…。撃っても撃ってもキリがない数だぜこりゃ。」

「私たちの臭いを嗅ぎ付けて来たんだわ…!」

「いくら何でも早過ぎだろ!」

「どうする?このままじゃ皆ゲームオーバーよ。」

「…俺が囮になる。」

そう口にしたのは、元基だった。

⏰:09/09/08 13:45 📱:SH705i 🆔:0WCPcnl.


#614 [ぎぶそん]
「このゲームのルールは、たった一人でもクリアすればいいんだろ?
だったらここで俺一人が犠牲になっても構わんってことだ。

それに、いつまでもエリを一人にしてられねーしな。
お前ら、二人っきりになったからって、イチャついたりするんじゃねーぞ!」

元基らしく、危機感もなくへらへらと笑う。

「何か策はあるの?」

「ああ。といっても、映画の受け売りだけどな。」

それだけ言うと、元基はもう一度銃器店に入った。

⏰:09/09/08 13:51 📱:SH705i 🆔:0WCPcnl.


#615 [ぎぶそん]
数秒して、再び元基が重たそうに段ボールを抱えてやって来た。

「…さっきこれを見つけたんだ。」

見ると、箱一杯に手榴弾が中に入っていた。

「すまん。ちょいとこのトラックは借りるぜ。
新しい車は、きっとあの車庫の中にあるだろ。」

手榴弾入りの段ボール箱と共に、元基が一人でトラックに乗り込む。

「元基、あなたまさか…!?」

「おっ、真希。気づいたか。お察しの通りだぜ。
これから死のドライブの始まりだ。」

⏰:09/09/08 14:00 📱:SH705i 🆔:0WCPcnl.


#616 [幸]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>600-650

⏰:09/09/10 21:00 📱:W53T 🆔:6DYa4H6I


#617 [ぎぶそん]
そして、元基はそのままアンデッドの束に向かって進み出した。

元基の作戦はこうだ。
トラックごと突っ込んで奴らを十分引き付けた後、手榴弾を使ってそのままトラックごと爆発を起こす。
大量の手榴弾とガソリンという組み合わせなら、彼の思惑通り上手くいくかも知れない。

数分後、遠くの林の方で大規模の炎上が起こった。

『2時間6分39秒。
ミスター・モトキ・ハネダ。
爆死によりゲームオーバーです。』

そしてそれから間もなく、元基の成功を知らせるアナウンスが聞こえる。

⏰:09/09/10 22:55 📱:SH705i 🆔:5CU6JsAA


#618 [ぎぶそん]
私と優平は元基の死(ゲームオーバー)を嘆くことなく、すぐさま車庫の中から見つけた大型バイクに乗り込んだ。

優平が運転し、私が後ろ向きになって座り、奴らが近寄ればショットガンで狙撃する。
元基が道連れしてくれたお陰で、二・三人しかいなかった。
林の中は、まだ火の粉がそこらじゅうにぽつぽつと残っていた。

20分後、目的地のストロベリーマンションに到着した。
20階立てで縦に長く、薄桃色の外壁をしている。

⏰:09/09/10 23:12 📱:SH705i 🆔:5CU6JsAA


#619 [ぎぶそん]
私たちは上から下にかけて虱潰しに一つ一つの部屋を調べていく。

途方に暮れそうな作業の中、14階の1405号室のクローゼットの中にいたクリスを見つけた。

少し伸びた金髪のサラサラヘアに、綺麗な青い瞳をしている。

3人でエレベーターで下まで降りていく。
初対面の私に抱き抱えられても、彼は顔色一つ変えない。

記憶と感情を失った少年か…。
こんな幼い子供がこのゲームとどう関係していくんだろう。

⏰:09/09/25 19:09 📱:SH705i 🆔:t8prEB2s


#620 [ぎぶそん]
『さあ。これで全てのアイテムが手に揃いましたね。
さあ、そのまま急いでクレア博士の所に行って下さい。
あまり時間を掛けていると、大変なことになりますよ。ふふふ…。』

マンションから出ると、不吉な声色でアイリーンが意味深な言葉を発した。

私と優平は、クレア博士のいるというオレンジハウスに向かってオートバイを走らせる。
地図によると現在地から東に5キロ、駅の近くにある大学の付近にある。

いつの間に時間が経っていたのか、外はすっかり暗くなっていた。
アンデッドの量も明らかに増している。

⏰:09/09/25 19:22 📱:SH705i 🆔:t8prEB2s


#621 [ぎぶそん]
大学が目前としてきた所で、学生がアンデッド化したのか、他の場所より目に見えて彼らがうようよしていた。

目的地のオレンジハウスの敷地内にも、何かの集まりかのように密集していた。

「…どうする?」

「…やるしかないわね。」
ここを通り抜けなければ、先へは行けない。
私は銃器店から入手していた、2本のアーミーナイフをそれぞれの手に持った。

⏰:09/09/26 00:19 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#622 [ぎぶそん]
「俺はこれでいくぜ。」

優平が敷地内に落ちてあったたスコップを手に取った。
とある映画でも、少年がゾンビ化した隣人をこれで何度も叩いて殺していた。
武器としては十分使える代物だ。

「…行くわよっ!」

左右にそれぞれ散らばり、目にした奴らを片っ端から頭部、胴体を主にして切り裂いていく。

優平もスコップで頭部を激しく叩いて一撃していた。
奴らの血飛沫が顔や衣服にかかる。
しかし何も考えずに、何も思わずに、ただただ彼らを機械のように狩っていった。

⏰:09/09/26 00:30 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#623 [ぎぶそん]
今の私は無双というゲームの中にいる気分だ。

攻撃性が強く、足の速いタイプのアンデッドであれば勝ち目はなかったと思う。
動きが鈍いので、数が多くてもそんなに闘うのに苦労はしなかった。

しかし動き回るにつれ体力はどんどん奪われていき、私のあらゆる感覚も次第にリズムを崩す。

敷地内にいた7割近くを攻撃し終えた頃、私は息を整えるべく一旦膝を抱えた。

「…真希、危ないっ!」

⏰:09/09/26 00:40 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#624 [ぎぶそん]
声のする方に反応して見た時、優平が自分の身を投げて私を抱き、芝生の上にそのまま2人の体が転がった。

どうやら私は、死角となっていた奴らの気配に気がつかなかったらしい。
それに気づいた彼が助けてくれたのだ。

「…ありがとう、優平。」

「後もう少しだ。頑張ろう。」

彼も見るからに大分体力を消耗していた。ぼんやりとはしていられない。

⏰:09/09/26 00:48 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#625 [ぎぶそん]
私は玄関前にいた大柄のアンデッドに、額にナイフを渾身の力を込めて突き刺した。
これで最後。敷地内にいた奴らは一応全員仕留めたことになる。

敷地内一面に転がる奴らの無残な姿を見ると、残酷な世界で生き延びることの残酷さを痛感した。

「…やったわ。
さあ、中に入りましょう!」

息を切らし、拳で汗を拭いながら優平の方を見る。

「…俺は行けない。」

彼は私にとって予想外の言葉を口にし、微笑んだ。

⏰:09/09/26 00:57 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#626 [ぎぶそん]
彼が私に左腕を見せる。
捲った袖のちょっと下に、小さな切り傷があった。

「さっき真希を庇った時に…さりげなく奴らにつけられたみたいだ。」

私を一切責めずに、カッコ悪いよな、と彼は自分自身を嘲笑する。

『4時間36分52秒。
ミスター・ユウヘイ・サクライ。
ゲームオーバーです。』

3度目の死を知らせるアナウンスが流れる。
どんどん薄れていく優平の体。

そんな…。ほんの少しのかすり傷なのに…。

⏰:09/09/26 01:07 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#627 [ぎぶそん]
「ああ…優平…。」

ごめんなさい、ごめんなさい、と泣き崩れるように何度も彼に言う。

「大丈夫、真希なら生き残れるさ。
これは俺からのおまじないだ。」

優平の体が完全に消えてなくなる寸前、彼が私の額にキスをしてくれた。
支えるように顔を持たれても全く感触がなかったのに、そのキスだけはしっかりと感触が残っていた。

⏰:09/09/26 01:15 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#628 [ぎぶそん]
うっ、ううっ…。
玄関前の白い大理石の床に、私の涙が何粒も落ちる。

優平が一緒にいたからここまで頑張れたのに、ここに来て一人なんて嫌だよ。

私が泣き崩れたままでいると、感情を持ち合わせていない筈のクリスが座り込む私の頭を小さな手で撫でる。

「…一緒に博士の元に行きましょう。」

私は彼の手を握り、玄関へと歩き始めた。

⏰:09/09/26 01:25 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#629 [ぎぶそん]
ドアの目の前に立った所で、シュー、シューと小さく機械の操作の音がした。

『確認ノ為、指紋認証ヲ行イマス。
右ニアル画面ニ、人差シ指ヲカザシテ下サイ。』

機械が声に出して指示をする。
私は言われた通りの動作をやってみた。
念のため、クリスの人差し指も私の次にかざす。
機械は順調に我々の確認をしていく。

『認証ガ終ワリマシタ。
マキ・アマミヤ、クリス・クインテット、ドウゾ中ヘオ入リ下サイ。』

機械が言い終わったと同時に、扉が開いた。
この作業だけで、クリスがこの建物の中の関係者の一員であることが読み取れた。

⏰:09/09/26 01:43 📱:SH705i 🆔:IB.t.aT.


#630 [ぎぶそん]
建物内は照明がついておらず、一面真っ白な壁も暗闇の中に包まれている。

銃を持ち、クリスを自分の後ろに歩かせ、辺りを警戒しながら慎重に歩く。

後は博士にアイテムを渡すことが私の任務。
でも何故かこの建物の中は不吉な予感がする。

奥へと進む中で、「C−19」と書かれた部屋に人のいる気配がした。
呼吸を整え、顔を覗かせてみる。

⏰:09/09/27 15:01 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#631 [ぎぶそん]
誰かがこちらに背を向けている。
暗がりで良く見えない。

この人がクレア博士なのか?
私は彼の名を呼んでみた。

「待ってたぜ、マキ・アマミヤ…!」
その人が振り返り、こちらに近づく。
その人の赤い瞳と目が合った瞬間、私の体は凍りついてしまった。

不気味な笑みに、異様な外見。
これまで見たアンデッドとは全然違う、ある種の怪物。
頭部には角のようなものがあり、全員黒色の身体に鞭のようにひょろひょろっとした手。
もはや人間の原型を留めていなかった。

⏰:09/09/27 15:15 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#632 [ぎぶそん]
「ヒャーアーハッハッー!」

怪物の鞭のような手が、勢いよくこちらに向かって伸びる。
一歩手前の所で私は交わした。
私の後ろにあった壁が、あっという間に粉々に破壊された。

「逃げて…っ!」
私はクリスをその場から追いやった。

一体何なのよこれは…。

『このゲームもいよいよ大詰めです。
しかし、夜の8時以内にこのハウスに来れなかったので、今は正にタイプBのストーリーが進行しています。』

アイリーンが状況を説明するように放送を流す。
だからあの時、急げって言ってたんだ…。

⏰:09/09/27 15:30 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#633 [ぎぶそん]
『その男の人間の時の名はドット。
連続殺人の容疑で死刑執行を待つ身分であったのですが、裏の取り引きで人体実験の為にこの場所に引き渡された人物です。

しかし、実験の途中何らかのミスがあり、彼は人間に牙を向ける怪物へと化しました。
そして彼はクレア博士や他の研究者を殺し、この世の支配を企むようになったのです。』

更に詳しく説明するアイリーン。

⏰:09/09/27 15:47 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#634 [ぎぶそん]
「バイオ何とかって雇われ身の分際で、よくぞここまで来たな。
街の至る所に設置してある監視カメラで、お前の勇姿は拝見させてもらっていたよ。

お前がお偉い博士の為にせっせと集めたアイテムはぁ、残念ながら俺の人間支配の為に使われるんだよぉ!
さあ、とっととアイテムをよこすんだ!」

ギャハハハと不気味に笑うドット。

「そんなことはさせない…っ!」
私は銃を構えた。

⏰:09/09/27 15:55 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#635 [ぎぶそん]
一発、ニ発と奴の胴体に撃ち込む。
しかし、相手はピクリとも反応しないまま、私に近づいてくる。

「『そんなことはさせない!』じゃねーんだよなぁ。
そんなチンケな小道具で俺を殺せるとでも思ったのか?ナメてもらっちゃあ困るぜ。」

そして、私の首に巻き付けるように手をかける。
ゆっくりと持ち上がる私の身体。
苦しさのあまり、必死にもがく私。

「一度だけチャンスをやる。正直、お前みたいな美人を殺すのは惜しいんだよ。
どうだ?俺の仲間になってこの世の頂点に立ってみるってのは?」

腐敗しきった歯をむきだしにして笑うドット。

⏰:09/09/27 16:09 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#636 [ぎぶそん]
「誰があんたみたいな奴なんかとっ…!」

右手を上げ、中指を立てる私。

「このクソアマがぁ、自分の状況が分かっていってんのかぁ!?
善人ぶったそのムカつく面、死への恐怖に歪める苦痛の表情へと変えてやるぜ…っ!」

怒り狂うドット。
私の首にかけていた彼の力が更に強くなる。

「ギャアアアア〜!!」

建物内に響き渡る悲鳴。

⏰:09/09/27 16:17 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#637 [ぎぶそん]
それは、私がポケットに入れてあったバタフライナイフで、奴の腕をぶった切ったことによる激痛の叫びであった。
腕の部分はツルのように柔らかかったので、少しの力で切れた。

解放された後、瞬時にその場から逃げるように立ち去る。
私があの男に殺されてしまえば、この世界もろともゲームオーバーになってしまう。

何か策を考えなければ…。
しかし、体力・スピードどれをとっても圧倒的にこちらが不利である。
普通に闘っていては勝てない。

⏰:09/09/27 16:29 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#638 [ぎぶそん]
直感で見つかりにくそうだと判断した室内に入り、隠れるようにテーブルの下に座る。
ハァ、ハァッと乱れた呼吸がすぐには直らない。

こんな時、優平が側に居てくれたら…。
一人は怖いよ…。
私の目から自然と涙が生まれる。

そういえば、クリスを探さなきゃ。
想像上の人物に過ぎないかも知れないけど、あの子の冷めた瞳を見ると子供の頃の自分を見ているようで放ってはおけなくなる。

孤独で、寂しくて、他人を必要としなかった昔の私みたいに。

⏰:09/09/27 16:39 📱:SH705i 🆔:feRkJGIk


#639 [るーちゃん]
>>500
>>600

⏰:09/09/30 07:13 📱:SH904i 🆔:1YBKLq2s


#640 [ぎぶそん]
「…クリスッ!クリスッ!」
再び建物の中を走り回り、少年の行方を追う。

東南の角の通路を曲がろうとした所で、のうのうと歩いているクリスと出くわした。

私は無言のまま、彼を我が子のように抱きしめた。

「マーキー。どこだー?」
ちょっとした再会を喜んでいるのも束の間。遠くからドットの不協和音な声が聞こえてくる。

⏰:09/10/10 16:28 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#641 [ぎぶそん]
「クリス…何でもいいから、とりあえず火の着くものを探して来て。分かる?」

クリスの肩を抱き、その青色の瞳を一点に見続けながら、彼に指示をする。
全く意思表示をしない彼に、独自のジェスチャーでライターやマッチ等の小道具を連想させるよう努めてみた。

「見ーつけたぞー」
私たちの姿を発見したドットが、ゆっくりとこちらにやって来る。

「行って」
私はクリスの背中を押した。
彼の行動がこれからの運命を大きく左右する。
今はただ、信じて待つしかない。

⏰:09/10/10 16:35 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#642 [ぎぶそん]
「なぁマキ。お前は俺のことを随分外道で残忍な奴だと思ってるが、
ここの研究者の奴らもなかなかの非道だぜ?

俺が凶悪犯の身分だからって、死刑の身分だからって、毎日毎日苦痛に耐え難い電流を浴びさせ、妙な薬を大量に打ち付け、同じ人間を実験台動物のモルモットのように扱ったんだ。

おかげさまで、俺はこーんなナイスガイな姿へと変わっちまったんだからよぅ!」

一歩、二歩と私の方へ歩み寄るドット。

⏰:09/10/10 16:46 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#643 [ぎぶそん]
「…確かに、ここの研究者らのしたことは人として間違ってる。
でも、だからと言ってその同じ人間を殺したり、人間支配を企むという理屈はお門違いなんじゃない?

あなたはあなたとして、あなたと同じように悩み苦しむべき人間に優しく手を差し延べてあげるべきなんじゃないの、ドット?」

私は後退りしながら、ポケットに手を入れる。

「しゃらくせぇ、蛆虫がぁぁぁ!」
ドットが、鞭のような手を挙げた。

⏰:09/10/10 16:51 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#644 [ぎぶそん]
「ぎぃやぁぁああ〜!」
私は彼が自分に攻撃をしかけてくる前に、ポケットから出したバタフライナイフを彼の足に突き刺した。

ドットが叫び声を上げ、その顔を歪ませている隙に、退散する。

真っ直ぐに伸びた廊下を、反対方向からクリスが小走りでやって来た。

彼の小さな手には、ジッポーライターが握られていた。
でかしたぞ、クリス。
心の中でそう呟いた。

⏰:09/10/10 17:49 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#645 [ぎぶそん]
「クソアマめぇ〜この俺をコケにしやがってえ!出て来やがれ!」

薄暗く物音一つない静かな建物内で、ドットの怒り狂う声だけが響く。

私はクリスを背負ったまま天井に設置してあった鉄棒を掴み、宙に浮いていた。

「どこだ!マキ!」

ドットが自分たちの真下へとやって来た。
今だ、と思い、天井の中央にある白く円形状の部分に、ジッポーライターの火を近づける。

⏰:09/10/10 17:59 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#646 [ぎぶそん]
一時その火を近づけたままでいると、人工的なスコールが振り始めた。
スプリンクラーが正常に作動したのだ。

「ヒャアッハー!そんな小雨程度のシャワーで、俺がヒビるとでも思ったかぁ!」

ドットが絶え間無く降り続ける水を浴びながら顔を上げ、天井に張り付いていた私たちに気づき声をかける。

私は、今までずっと後ろズボンに挟んでままでいた、あるものを取り出した。

⏰:09/10/10 18:04 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#647 [ぎぶそん]
コルト・ガバメント。
私がこの世で最も愛する拳銃。
マシュー銃器店から拝借したのを、最後の切り札にと今まで隠したままでいた。

一発目、ドットの脇腹をかすめ、壁に着けてあった配電装置のカバーに当たる。
二発目、カバーの外れたその装置へと撃ち込む。

「どこ撃ってんだよ、下手くそ!」
余裕の笑みを見せるドット。

⏰:09/10/10 18:13 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#648 [ぎぶそん]
無数の剥き出しになった電気コードが、ドットの身体に接触する。
十分に滴っている彼の身体に、大量の電気が流れ、彼の身体を蝕む。

「ぎぃやあああー!マキ…貴様ぁっ…」
多大な電流地獄に逃れることが出来ず、その場で踊り狂うようにもがき苦しむドット。

一分ほどして、彼は完全に倒れ果てた。

⏰:09/10/10 18:18 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#649 [ぎぶそん]
騒ぎが静まり返った後、放電に気を使いながら下へと下りる。

終わった…。
…本当に?

終了を知らせるアイリーンの声が聞こえない。
何も起きない。
何もない。

――まだ、終わってない。
エンディングの手掛かりとなるものを探さなきゃ。

⏰:09/10/10 18:23 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#650 [ぎぶそん]
おそらく、この場所に持ってくるようにと命じられた三つのアイテムを使用しなければならないのではないかと推測する。

私はクリスを連れて歩きながら、「クレア研究室」という小さな部屋に入ってみる。
机の上に置いてあった、一冊の黒い日記帳のようなものを見つけた。
それをパラパラとめくってみる。

『5月21日。
隣人が、友人が、仲間が、次々と醜い姿へと化す。
この地球全体が、暗黒なバイオハザードの世界へと化した瞬間であった。
私ら科学者は、早急にこの混乱の謎の解明に迫らなければならなくなった』

⏰:09/10/10 18:32 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#651 [ぎぶそん]
『8月16日。
奴らアンデッドの研究は一向として難航し続けている。
しかし、神は我を見放してはいなかった。
我が孫・クリスは交通事故による脳外科手術の後、IQ200の超天才児として生まれ変わったのだ。
大至急、クリスも私のいる研究チームに参加することとなった。
彼は言う。自分ならこの未知なるゾンビ病の蔓延に歯止めを刺すことが出来ると』

クリスって、今私の目の前にいるこの少年のこと?
クレア博士と血縁関係に当たってたんだ…―

⏰:09/10/10 18:38 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#652 [ぎぶそん]
『8月22日。
なんということだ。
目の前で母親を失ったショックからクリスは記憶を失い、言葉を失い、感情を全く表さず、まるで覇気のない人形へと変貌を遂げた。
クリスよ、どうか自分の考えた研究内容を思い出してくれ…。
忘れた記憶を、取り戻してくれ…』

クリスが今の状態になった原因が、克明に記されていた。
クレア博士は、クリス自身に記憶を取り戻して欲しかったんだ。

⏰:09/10/10 18:55 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#653 [ぎぶそん]
記憶…思い出す…感情…思い出…。
もしかして…。

私は、二番目に手に入れたアイテム・『古びたアルバム』をクリスの目の前に広げた。

お願い。これで合っていて…―

広げたアルバムが、クリスを前にして眩しく光り始める。

⏰:09/10/10 19:02 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#654 [ぎぶそん]
「…マキ、僕を命懸けでここまで連れてきてくれてこと、今一度感謝するよ」

先程まで口を聞いてくれなかった少年が、幼子と思えないくらいほどはきはき喋る。
クリスが失っていた記憶や感情を取り戻し、本来の姿に戻ったようだ。

「僕の名前はクリス・クインテット。この研究施設の第一責任者クレア・クインテットは僕の祖父に当たる。
僕はゾンビ病を防ぐワクチン開発研究チームの一任者として任されていた」

⏰:09/10/10 19:07 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#655 [ぎぶそん]
「そのゾンビ病を防ぐことは出来そう?」
私は自分より遥かに賢そうな彼に尋ねてみた。

彼が、ズボンのポケットから何かを取り出す。
小石のように見える。

「…これは、この街に落下した隕石の破片。これからDNA細胞を採取してワクチンを作る。僕はこれを拾っていた矢先に車に轢かれたんだ」

淡々と科学的な説明をする少年に、思わず怖じけづきそうになる。

「私が現実世界に戻るにはどうすればいいの?」
今一番気になってることを今度は尋ねた。

⏰:09/10/10 19:24 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#656 [ぎぶそん]
僕について来て、と彼が言いながら足を進めた。

二人で階段を上り続け、建物の屋上へとやって来た。
街にはすっかり、朝日の光が射し込んでいた。
朝ぼらけに、辺り一面の景色が見える。

「外に出たけど、一体ここに何かあるの?」

「マキ。君たちバイオハンターの使命は、アンデッドたちを安らかに冥土へと送ってあげること。
奴らは光に弱い。
意味は分かるだろ?」

「…あっ!!」

⏰:09/10/10 19:37 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#657 [ぎぶそん]
私は東の空に映る太陽に向かって一つ目のアイテム、「聖なる反射鏡」をかざした。
その瞬間、四方八方、ありとあらゆる方角にすさまじい勢いで太陽光が反射する。

町中からアンデッドたちのうごめくような唸り声が聞こえる。
皆、安らかに眠って…―

そして、エンディングテーマと思われる曲が、この街全体に流れ始めた。
隣にいたクリスが「お疲れ様、マキ」といいながら穏やかに微笑む。

⏰:09/10/10 19:45 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#658 [ぎぶそん]
「僕はこれから、この世界の未来を切り開いていく為に自分の力を最大限に活用し、世界の修復の為に自分の力を全力で注ぐ。

君にも、自分の生きている世界で自分の道を切り開いていって欲しい。
どんなに非情な世を渡ることになろうとも、くじけず闘い続けて欲しい。
そして、君ならそれが出来る、マキ」

「分かった。約束するわ…」

私たちは力強く握手をした。

「マキ、本当に有難う。君のことは、ずっと忘れない」

そこから、私の意識が遠退いていく。

⏰:09/10/10 19:52 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#659 [ぎぶそん]
「ん…」
目を開け、仰向けになっていた身体を起こす。
辺り一面、音も光もない真っ暗闇な世界。
その中で、ただ一人だけいる私。

『ミス・マキ。
ゲームクリア、おめでとうございます。
あなたはこの世界を救った、たった一人の戦士です。
さあ、あなたの願いを聞かせて下さい。
仰せのままに致しましょう』

目の前の特大モニターに映る、アイリーンの姿。
どうやら、私はゲーム当初にいた場所に戻って来たようだ。

⏰:09/10/10 20:03 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#660 [ぎぶそん]
「…遠慮するわ」

「…と、申しますと?」

「お母さんとの思い出も、思い出したくなったらその時思い出す。欲しいと思う才能や能力も、自分の力で努力して手に入れる」

これは建前なんかじゃなく、れっきとした自分の本音である。
クリスと約束したんだ。
自分の道は、自分で切り開くって。

「アハハ。そうくると思いましたよ」
アイリーンがおどけた様子で笑う。

⏰:09/10/10 20:10 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#661 [ぎぶそん]
どういう意味?、と彼女の笑みに私は聞き返す。

「あなたに関する情報やデータは、私の電子頭脳の中で全てインプットされているんですよ。
ですから、あなたがこの質問にどう切り返してくるのかも、既に予想出来ていたのです」

私は彼女の思いのままに動いた自分を想像して笑ってしまった。

「因みに、全員がゲームオーバーになった時の個々の優れた能力を奪うっていうのは、あなた方のやる気を損ねないようにと作られた真っ赤な嘘です。
結果、あなた方を試すような形になってしまいました。申し訳ありません」

⏰:09/10/10 20:20 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#662 [ぎぶそん]
アイリーンが指を鳴らす。
すると、右方向からドア状の形をしたまばゆい光が射し込んできた。

「さあ、ミス・マキ。
あちらに見えるゲートを潜ると、現実世界へと続く道が続いています。
最後に、このゲームは如何でしたか?楽しめました?」

「そうね…現実世界があの世界だったら嫌だけれど、人生と同じようにリセットが許されないから、凄くやり甲斐があったわ。
有意義な時間をありがとう」

「…。」
そこから、アイリーンは何も言わずただこっちを見ていた。

⏰:09/10/10 20:29 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#663 [ぎぶそん]
光に向かって、ゆっくりと歩き出す。
様々な思い巡らせながら、一歩、二歩と吸い込まれるようにして光の中に入っていく。

この扉を越えれば、エリ、元基、優平が私の一報を待っている。

現実世界に戻れば、自宅で父や東吾兄が私の帰りを待っている。

ねぇ、人生という名の世界一危険なゲーム。
皆となら、生きていける気がするよ。

Chapter07 END.―

⏰:09/10/10 20:37 📱:SH705i 🆔:ZzNcONIA


#664 [ぎぶそん]
Chapter08 「文化祭とアイドル」

⏰:10/10/31 03:56 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#665 [ぎぶそん]
秋の肌寒い風が冬が目前だということを知らせる頃。
私は商店街にある本屋に入り、しばらく立ち読みをしていた。

「あの…すみません」

店から出て間もなく、見知らぬ小太りの中年男性に声を掛けられる。
ワイシャツにジャージズボンといった、一風変わった風貌だ。

「もしかして、『戦場ガールズ』の梅原春佳さんじゃないですか?」

男性が首からぶら下げてある一眼レフカメラをちらつかせる。

⏰:10/10/31 04:03 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#666 [ぎぶそん]
―またこの質問か。

「いえ、違います」

私が顔色一つ変えずに否定すると、男性は早々と立ち去った。

中高生を筆頭に、絶大な人気を誇る女性アイドルグループ「戦場ガールズ」。
テレビで彼女らを観ない日はないといっても過言ではない。

音楽業界にも不況が漂う中、先月彼女たちのリリース曲がミリオンを達成した。
今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

⏰:10/10/31 04:10 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#667 [ぎぶそん]
その影響からか、私自身も梅原春佳という一人のメンバーに見間違わられることが多くなった。

さっきのような出来事は、今月に入ってからも3回目である。
学校でも噂を嗅ぎ付けた他のクラスの男子が、わざわざ私を見に来たこともあった。

エリ曰く、長身でロングヘアな外見と、年の割に妙に落ち着いた雰囲気が酷似しているらしい。

因みに、梅原春佳はグループ内ではナンバー3の人気とか。
バラエティー番組でも大人しくて静かに笑う所が、男性からの支持を集めているらしい(エリ談)。

⏰:10/10/31 04:22 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#668 [ぎぶそん]
かく言う私も、「戦場ガールズ」のことは好きで応援している部分がある。

アイドルと言えばかわいらしい衣装を纏い、かわいらしい歌を歌うのがデフォルメだが、この「戦場ガールズ」は少し違う。

軍服をモチーフにした衣装に、クールな歌とダンス。
今までのアイドルのイメージを真っ向から変えたのが、逆に受けた。

長い下積み時代を乗り越え、ようやく花が咲いた彼女たち。
目には見えぬ努力もあってか、今の彼女たちはとても輝いている。

⏰:10/10/31 04:34 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#669 [ぎぶそん]
「先週のミュージックサブウェイ観たぁ?
戦ガー超かっこよかったねぇ!」

週の初めの昼休みに、いつもの4人でベランダに集まる。

ファンの間では、戦場ガールズは「戦ガー」の愛称で親しまれている。

「真希に似た春佳ちゃんもいいけど、エリはのセンターの優奈ちゃんが一番好きかな!」

「えー俺は、15歳の麻由子ちゃんかなぁ。
エリと違っておしとやかそうだし」

「なんですってぇー!」と憤慨したエリが、元基を何度も叩く。

⏰:10/10/31 04:47 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#670 [ぎぶそん]
「優平は?メンバーの中で誰がいい?」
今度は優平に話を向けるエリ。

―…ドキ。

一瞬凍り付く、私の身体。
意中の彼の好みが聞きたいような、聞きたくないような…。

「ごめん、俺普段テレビあんまり観ないから分からないわ」
優平が詫びるようにして言う。

「ああでも、真希に似てる梅原っていう子は、可愛いと…思う…よ」
と、彼は鼻を掻きながら話を付け加えた。

⏰:10/10/31 04:56 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#671 [ぎぶそん]
―…ドキドキ。

自分が可愛いって言われた訳じゃないのに嬉しいと思うなんて、変だ私。

「あーはいはい。しれっと惚気ですかぁ。おー熱いこと」
エリが茶化すから、一気に照れ臭い空気が漂ってきた。

「でもさぁ、俺も一度でいいから見てみてぇなぁ。
クールな真希がアイドルになって歌ってるとこ。
男はそういうギャップに萌えるんだぜー」

元基がケラケラと笑う。
この発言が元で、エリが終始何か考えるそぶりを見せていたのは気のせいだろうか。

⏰:10/10/31 05:07 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#672 [ぎぶそん]
放課後の時間を使って、この秋に行われる文化祭の出し物についての話し合いが始まった。

うちの学校では、毎年2年生がステージ発表をするということが決まっている。

「えー、出し物について何かいい案はありませんか?」
教壇に立っている委員長の篠崎君が、クラスの皆に問い掛ける。

一年生だった去年は、エリと一緒に露店の手伝いをしたのを私は思い出していた。
はっぴを着て、フランクフルトを売っていた気がする。

「はいっ!」

ふとぼんやりとしていると、女子生徒の勢いある声が聞こえた。

⏰:10/10/31 05:18 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#673 [ぎぶそん]
エリだった。

「えっと、女子は今話題の『戦場ガールズ』をモチーフにした歌とダンスをやればいいと思います!」

エリの真面目な意見に、ハハハと小さな笑いが起きる。

「皆さんご存知の通り、うちのクラスの雨宮真希さんは、戦ガーの一人のメンバーに非常に似ています。
そこを上手く利用すれば、下級生や上級生も盛り上がる、最高のパフォーマンスが仕上がるんじゃないかと思うんです!」

今度はおー、と感心の声が上がる。

って、昼休みに元基が言ってたこと、そのまま鵜呑みにしちゃってるし…。

⏰:10/10/31 05:27 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#674 [ぎぶそん]
「…と、長谷部さんの意見が出ましたが、皆さんはどう思われますか。
特に、雨宮さん」

篠崎君が掛けている眼鏡の位置を整える。

「えっと…」
私は戸惑っていた。
全国生徒の前で自分が何ちゃってアイドルとして振る舞うことには、少なからず抵抗がある。

『男はそういうギャップに萌えるんだぜー』

ふと、昼休みの元基の台詞が頭を過ぎった。
もしかしたらこれは、優平にいつもと違う自分をアピール出来るいいチャンスかも知れない。

「…私もエリ…長谷部さんの意見に賛成です」

私の言葉に、クラス中が騒然となる。

⏰:10/10/31 05:38 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#675 [ぎぶそん]
「何ぃぃぃぃ!?
マキロンが『戦場ガールズ』の曲を演るってぇ!?」

その日の夕飯の席で、放課後の話し合いのことを話した。
東吾兄が、慌てて飲んでいたオレンジジュースをこぼしそうになる。

「そ。男子が前半ダンスユニットの『ターミナル』の曲を踊って、女子が後半彼女たちの真似をするの」

彼に渇いたふきんを渡す。

あの後の話し合いでエリの意見はすんなり通り、男子と女子で別れて半々に時間を使うことになった。

⏰:10/10/31 05:56 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#676 [ぎぶそん]
「真希がアイドル…もうそりゃあさぞかし可愛いに違いない!
うーん。でも、見たいけど思春期真っ盛りの男共には見せたくないなぁ…」

自分の頭をわしゃわしゃとかきあげる父。

「そういえばマキロンって、どことなく梅原って子に似てるよなぁ」

「うん。だから私が梅原春佳のパートを担当なんだって」

エリはセンターの島田優奈のパートがしたいと懇願していたが、皆の後押しで7・8番目に人気の佐田さつきという子のパートで決まった。

佐田という子とエリ、小さい身体で負けん気なキャラという所が似ているかな。

⏰:10/10/31 06:06 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#677 [ぎぶそん]
部屋に上がって、早速机のパソコンでインターネットを開いてみた。
そして、「梅原春佳」で検索をかけた。

現在20歳の彼女。
「戦場ガールズ」に入ったきっかけは、彼女の姉が無断で事務所に履歴書を送りつけたから。

握手会の時は一人ひとりに丁寧で長く、ファンを大事にすることで有名。

色んな花を育てるのが趣味と可憐な部分があるが、
「寝る時は学生時代の体操服」「カップ麺が大好物で、頻繁に食べる」との部分を受け入れられない男性ファンもいるという。

⏰:10/10/31 06:22 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#678 [ぎぶそん]
―私に似てるのかなぁ…。

画像サイトで彼女の外見を確認する。
ピンク色のチークが、ほんのりと彼女の頬を染めている。

夢に現れた芸能人や自分が似てると言われた芸能人は、少なからず気になってしまう。
きっと誰にでもそういう気持ちはあるはず。

ま、トップアイドルのメンバーに似てると言われて悪い気はしないかな。

―そういえば…。

私はあることを思い出した。

⏰:10/10/31 06:33 📱:SH705i 🆔:mIn5D1WA


#679 [ぎぶそん]
―先週のMサブに出演していたバンドのボーカルが、優平に似てたなぁ…。

私は「フェアオブフェアリー」で画像を検索して、四人いる内の右から二番目の人に注目してみた。

少し長めの黒髪に、きめ細やかな色白の肌。
清涼感漂う雰囲気が何よりも私の大好きな人に似ている。

好きな人が似ている芸能人は、少なからず気になってしまう。
きっと誰にでもそういう気持ちはあるはず。

⏰:11/05/18 16:05 📱:SH705i 🆔:nnGcJuEI


#680 [ぎぶそん]
翌日からエリを中心に、文化祭のステージ発表に向けての練習が本格的に行われた。

戦ガーのライブDVDを全員で観ながら、一つ一つのダンスの振り付けを覚えていく。

15分の中で、三曲演ることになっている。

梅原春佳役の私には「恋はライフル」という曲の二番のAメロで、実際に彼女と同じ様にソロパートをこなすという役割が与えられた。

センターまで移動して、左手で髪をまくし立てながら歌う。終始流し目だが、最後に甘く切ない感じで正面に視線を送る。
女性としての色気を全面に出している。

⏰:11/05/18 16:17 📱:SH705i 🆔:nnGcJuEI


#681 [ぎぶそん]
練習を開始してから三日目。
放課後、ダンス練習を行う前に最初に話し合いが行われた。
内容は本番の衣装とその予算という、現実的な問題についてだった。

「衣装や小道具の件ですが、正規の値段で全部買い揃えようとするなら、高校生のお小遣じゃとても買えません。
かといって体操服姿だとせっかくの舞台も地味な感じになると思います…。
何かいいアイデアはありませんか?」

女子しかいない教室内で、教壇の上に立つエリが皆に問い掛ける。

⏰:11/05/18 16:31 📱:SH705i 🆔:nnGcJuEI


#682 [ぎぶそん]
「あの…」

高田さんという、普段は物静かな子が手を挙げた。

「上は黒のノースリーブシャツだけなら、皆何とかなるんじゃないかな?
下は体操服の長ズボンで。
ほら、戦ガーがそんな衣装してたじゃない?」

「高田さん、ナイスアイデア!」

エリが思わず目を見開く。
皆で彼女に歓声の拍手を送る。

こうして、ネット通販に詳しい古文の先生からの協力を元に、ノースリーブシャツを人数分だけ業者に発注してもらうことになった。一人ひとりの予算を千円以内に抑えられた。

⏰:11/05/18 16:47 📱:SH705i 🆔:nnGcJuEI


#683 [ぎぶそん]
「はあ…」

お風呂上がりに、部屋にある三面鏡の前でため息をつく。
額に吹き出物が幾つか出来ていた。
それらを人差し指で小さくなぞる。

高校に入学してから、おでこのニキビは出来たり治ったりを繰り返していた。

―思春期だし、これくらい仕方ないよね。

全く気にならない訳ではないが、自然に出来るものだし気にしてもしょうがない。
自分で自分を納得させ、三面鏡の扉を閉める。

⏰:11/05/18 16:55 📱:SH705i 🆔:nnGcJuEI


#684 [ぎぶそん]
麦茶を飲もうと一階まで下りた。

「あ、ドラマに梅原春佳が出てるぞ!」
リビングのソファーに腰掛けていた東吾兄が、私に注意を促すように伝える。

彼の言うとおり、彼女がドラマの中で女子高生役として出演していた。
髪型も制服もシワ一つない。高画質のテレビで観ても吹き出物一つない美しく白い肌。

これがアイドル。プロの世界なんだ。
私はおでこに出来たニキビたちを改めて触った。不快な感触だった。

―明日、薬局で薬用クリームを買おう…。

⏰:11/05/18 17:05 📱:SH705i 🆔:nnGcJuEI


#685 [ぎぶそん]
翌朝。

「おはよう!練習はどうだ?」

誰かが後ろから優しく肩を叩く。優平だった。
珍しく彼と玄関先で一緒になった。

「まあ、ぼちぼちかな。
優平たちのクラスの出し物は決まったの?」

「俺らは漫画『星くずロック』の劇やることになったよ。
知ってる?留年した高校生が一念発起にクラスメートとバンド始めるみたいな内容なんだけど。
それで俺が主人公、つまりギターボーカルやることになって…
今頑張って歌とギターの練習やってるんだ」

そう説明する彼の肩にはエレキギターが掛けられていた。

⏰:11/05/18 17:16 📱:SH705i 🆔:nnGcJuEI


#686 [ぎぶそん]
「へぇ、凄いじゃん!」

溢れ返る人だかりの中で思わずはしゃいだ。
しかし私は咄嗟に額全体を手の平で隠した。

―おでこのニキビ、優平に見られたかな!?

「どうした?熱でもあるのか?」
彼の手がこちらに伸びてくる。

「何でもない!じゃあ私、先行くね!」
私はその手から逃げるようにして立ち去った。

―もっと話したかったのに…。
でも優平のギターボーカル楽しみだなあ。
それこそ正に「フェアオブフェアリー」じゃん。
ううん、優平の方がきっとかっこいい。
ファンの人には言えないけど。

⏰:11/05/18 17:28 📱:SH705i 🆔:nnGcJuEI


#687 [匿名ちゃん]
>>001-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000

⏰:12/03/13 18:15 📱:SH02A 🆔:v9x.paY2


#688 [ぎぶそん]
 
>匿名ちゃんさん
アンカー有難うございます!

携帯が変わりました。
更新がぼちぼちになると思いますが、続きを書いていこうと思います。

⏰:12/04/08 20:44 📱:Android 🆔:TuwR5MCY


#689 [ぎぶそん]
それから三日後。ニキビ用クリームの効き目もさほど実感出来ない中、文化祭に向けての準備は着々と進んでいた。

夜、部屋に入ると新品のノースリーブを机の上にそっと置く。
副委員長の寺川さんがネット通販で人数分を注文してくれた奴だ。

それから戦ガーのライヴDVDをひたすら鑑賞し続ける。
梅田春佳の存在を自然と目で追いかける。
汗で少し湿った身体が色っぽい。

彼女には今、恋人や好きな人はいるのかな。
普段はどんな生活をしているんだろう。
芸能界に入って、辛かったことはあるのかな。

彼女のことを考えるうちに、私は気がつけば彼女の人生を想っていた。

⏰:12/04/08 20:45 📱:Android 🆔:TuwR5MCY


#690 [ぎぶそん]
文化祭まで後三日と迫った頃。
校門を入ってすぐにある大きな看板、校舎内にあちこち貼られてあるポスター、
練習や準備で校舎内を駆け回る生徒たち、学校全体にお祭りムードが漂っていた。

私自身も、ダンスの振り付けは何も見ないで踊れるくらいにはなった。
放課後の練習も皆手慣れた感じでこなす。

「真希、手を出して」
休憩中、エリが駆け寄ってきた。

「え?」
「いいから」

半ば強引に彼女は私の手首に何かを身につけてきた。

⏰:12/04/08 21:02 📱:Android 🆔:TuwR5MCY


#691 [ぎぶそん]
それはミサンガだった。
赤と白と黒の三色が、互いを尊重するように艶(あで)やかなコントラストをなす。

「私が寺川さんに提案してみたの。
皆で同じもの着けてた方が、団結力が増すって」
エリがVサインをする。

皆の手首にも、私と同じようにミサンガが着けられていた。
彼女たちの顔は、自然と笑顔がほころんでいた。

ミサンガという古典的な装飾品は、地味な存在だけどどこか温かみがある。
紐が切れると願いが叶うというジンクスがあるが、長い間切れないで欲しいと願った。

⏰:12/04/08 21:22 📱:Android 🆔:TuwR5MCY


#692 [ぎぶそん]
―そして、文化祭本番。
一日目は主に一年生が行う出店や展示品を楽しむ日である。

昨夜、エリからこんなメールが送られてきていた。
「明日のことだけど、いつものように四人で行動するのも悪くないんだけど、せっかくの文化祭だしここはそれぞれ男女一組ずつにしない?
真希もいい加減優平との距離縮めなさいよ!
それじゃあ、明日二人がうまくいくよう元基と祈ってるから♪」

つまり、私は優平と一日行動を共にすることになったのだ。
嬉しい反面、周りの視線が怖い…。
F組の教師の前で、彼を待つ。

⏰:12/04/08 21:44 📱:Android 🆔:TuwR5MCY


#693 [ぎぶそん]
「お待たせ」
心臓の動悸もなりやまぬうちに、彼が現れた。
数日会わない間に、彼は少し髪にパーマを掛けたみたいだった。

二人で廊下に立っているだけで、女子からの視線をいくつも感じる。
皆、私たちが付き合っていると思うのだろうか?
もう前みたいに、女子からの非難に遭うのはごめんだ。
かといって、ただの友達ですよ、と言いふらす訳にもいかないし…。

「あれ?桜井君、一緒に行く人いないの?」
「だったら私たちと一緒にいかない?」

私の存在には目もくれず、F組の女子たちが彼を囲うように集まってきた。
彼女たちの身につけてる香水が、ツンと鼻を刺激する。

⏰:12/04/08 22:00 📱:Android 🆔:TuwR5MCY


#694 [ぎぶそん]
「いや、俺この子と回るから…」
彼が私の肩を強い力で引き寄せた。

「あぁ、確かB組の…」
「えー、つまんない」
不服そうな顔で彼に不満を述べる彼女たち。
一瞬私を見る目が嫌悪感そのものだった。

「ちょっと皆、桜井君の相手はこの子って決まってるんだから、二人に迷惑掛けないでよね」
教室から出て私たちの存在に気がついた竹下さんが、間に割って入ってくれた。

「いいから、早く行って」というような彼女にアイコンタクトを送られたので、私と彼は逃げるようにしてその場を去った。

⏰:12/04/11 22:02 📱:Android 🆔:mYqUAtI6


#695 [ぎぶそん]
「さっきは嫌な思いさせてごめんな。あの人たち、普段はそんな悪い人じゃないんだけど…」
息も落ち着いた頃、階段を下りながら彼が申し訳なさそうにいう。

「ううん全然。そういえば、パーマ掛けたんだね」
彼の髪の毛を指差す。

「ああ、『星くずロック』の主人公がパーマヘアでさ。でもパーマは校則違反だから、毎日先生たちにおっかない眼で睨まれてる気がするよ…ハハハ。
文化祭終わったら即効で落とさなきゃなー」
彼が髪を弄りながらため息をつく。

こんな髪型の彼はかなり新鮮だ。
普段のさらさらヘアーの方が好きだけど、こんな彼も悪くはないかな。

⏰:12/04/11 22:14 📱:Android 🆔:mYqUAtI6


#696 [ぎぶそん]
二人で玄関を出て校庭に行くと大勢の生徒でごった返しになっていて、たくさんの出店でどこもかしこも賑わっていた。

「いらっしゃいませー、いかがでしょうかー」
「今フライドポテトが大変お安くなっておりまーす」
はっぴを着た出店の店員の活気のいい声が、絶え間なく聞こえてくる。
それだけでこちらも陽気な気分になる。

焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、フランクフルト、かき氷など。
いかにも『屋台』という感じのメニューの匂いが、こちらの食欲をそそる。

「何か食べたいものあったら言って。俺、奢るから」
彼がポケットから財布を手に取る。
「そんな、悪いよ。私もお金持ってるし」
私も鞄から財布を取り出した。
「いいからいいから。」
「う…それじゃあ、お好み焼き」
左斜め前の店を指差した。
「がっつり行くねー(笑)」
二人でその店の列に並ぶ。

⏰:12/04/11 22:36 📱:Android 🆔:mYqUAtI6


#697 [ぎぶそん]
「んー、美味しいー」
外の至るところに設置されてある休憩所に二人で腰掛け、購入したお好み焼きを食べる。
濃い目のソース味が食欲を増させ、どんどん箸が進む。

「はい、お茶。食べ物ばっかじゃ喉が渇くだろ?」
彼が自販機で買ったペットボトルのお茶を私に渡してくれた。
「有難う」
早速蓋を開け、イッキ飲みする私。

「優平はお好み焼き食べたことあるの?」
彼に質問をしてみた。お坊ちゃん育ちの彼があの豪華な家でお好み焼きを食べる姿が想像出来ない。

「あるよ。中学の修学旅行の時大阪で食べたし、たまにサッカーの練習試合の帰りに皆でお好み焼き屋に寄ることもあるから」
へえ、そうなんだ、と私は相槌をした。

⏰:12/04/14 22:43 📱:Android 🆔:SZG3Mcoo


#698 [ぎぶそん]
「よかったら、今度二人でそのお好み焼き屋に行かない?安くて美味いって評判いいしさ」
「うん」
お好み焼きを食べながら、私たちはお好み焼きを食べる約束をした。
以前ならエリと元基合わせて四人で行くだろうけど、段々二人だけで行動することが増えてきた。

「あ、でもやっぱり四人で行くか。
ほら真希、この前サッカーの試合観たいって言ってただろ?
ちょうど一ヶ月後にあるからさ。エリも元基の試合姿見たいだろうし、その帰りに四人で行こう」
「う、うん…」
と思ったが、やっぱりまたいつもの四人で行動することになった。
彼は天然か鈍感か、あるいはどちらともなのか…。
まあ、皆で和気あいあいと食べる方が美味しいか。

⏰:12/04/14 22:58 📱:Android 🆔:SZG3Mcoo


#699 [ぎぶそん]
この日、私たちは時間を忘れて学校の隅々まで回った。

射的屋ではハワイの実弾射撃訓練の成果が出たのか、次々と色んな商品をゲット出来た。

おばけ屋敷は私は終始怖がりもせず、彼の方がおどおどしていて私に抱きつく始末だった。

メイド喫茶では店員さんと同じ仕草や掛け声をやらされて、耳たぶが真っ赤になるほど二人で緊張した。

美術部や書道部の展示作品に、心を魅了された。

気がつけば夕方となり、ホームルームの時間となった。

「それじゃあまた」
彼が私のクラスまで送ってくれた。
「うん、今日は有難う」
特に今日一日進展した出来事もなく、私たちは解散した。

⏰:12/04/14 23:16 📱:Android 🆔:SZG3Mcoo


#700 [ぎぶそん]
いつもの形式的なホームルームが終わると、エリが私の席に一目散に駆け寄ってきた。
椅子に座る私の前に、私を威圧的に見下ろすエリの小柄な上半身が、大きく視界に映る。

「で、どうだった!?優平と今日一日回って。変わったことはあった?」
「へ!?特に何もなかったけど…」
彼女の話に注意を傾けながら、鞄に教科書を坦々と詰める。

「もー!せっかくのチャンスを無駄にしちゃったの!?」
興奮状態の彼女に両方の肩を掴まれた。
「別に楽しかったからいいよ」
その手を払わぬまま、鞄に教科書を詰め続ける私。

「あ、一ヶ月後にサッカーの練習試合があるから観に来ないかって。その後、美味しいお好み焼き屋さんに食べに行こうって」
「本当!?行く行くー!」
彼女がやっと手を離してくれた。

⏰:12/04/14 23:31 📱:Android 🆔:SZG3Mcoo


#701 [ぎぶそん]
「とにかく、もう明日に賭けるしかないわね。
明日のステージで梅原春佳を見事に演じきって、彼の心をズキュンと射止めるのよ!」

エリが手のひらで私の机を思い切り叩く。
その大きな物音に反応して、ますちゃん含むクラスの皆の視線が私たちに向く。

「スポーツ大会は優勝逃しちゃったから、明日こそ優勝旗を持って帰りたいわねー」
彼女が腕を組んで溜め息をつく。
「私は思い出作りが出来ればそれでいいかな」
荷物を入れ終えた鞄のファスナーを閉める。
「もうっ!真希はもっと向上心を持ちなさいよー!ほらっ、最後の練習に行くよ」
彼女に腕を引っ張られるまま、教室を飛び出した。

⏰:12/04/14 23:47 📱:Android 🆔:SZG3Mcoo


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