記憶を売る本屋 2
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#1 [我輩は匿名である]
こちらは、「記憶を売る本屋さん」の続編です

元の話をお読みになってからの方が、話こんがらがらなくて良いと思います

よろしくお願いします

元の話↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/11448/

感想はこちらへ↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4747/

⏰:10/04/18 12:12 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#2 [我輩は匿名である]
アンカーです
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⏰:10/04/18 12:17 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#3 [我輩は匿名である]
2学期になった。

「はぁ〜…」

ボサボサな頭で欠伸をしながら、直人は学校に向かって歩いていた。

昨日徹夜をしたが、夏休みの宿題は全く終わっていない。

「おはよ」

誰かがポンと、直人の背中を叩く。

横を見ると、飛鳥がいた。

「あぁ…久しぶり」

直人は弱々しく挨拶する。

⏰:10/04/18 20:18 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#4 [我輩は匿名である]
「何?珍しく元気ないじゃん。…宿題終わらなかったんでしょ」

飛鳥は見透かすように笑って直人に言った。

「終わるわけないだろ、あんなもん。お前終わったのかよ?」

「当たり前じゃん。答え見ながらやれば楽勝」

「最悪な奴だな、お前」

誇らしげに笑っている飛鳥に、直人は顔をしかめる。

⏰:10/04/18 20:49 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#5 [我輩は匿名である]
「…あ」

正面を見ていた飛鳥が声を上げる。

「何だよ」

「あの2人、相変わらずラブラブだね」

飛鳥が指差す先には、薫と響子の姿。

⏰:10/04/18 20:50 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#6 [我輩は匿名である]
「眠たいねー…」

響子は大きく欠伸をする。

「夏休みだらけてたからな…」

薫もいつもよりボーッとしている。

「んー…あっ、猫!」

響子は明るく言って、1人電柱に近づいていく。

それにつられて、薫も響子の後ろで立ち止まる。

⏰:10/04/18 20:50 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#7 [我輩は匿名である]
「…響子、犬好きじゃなかったか?」

「それは“昔”の話。今は猫のほうが好きなの」

響子は笑って言いながら、携帯電話のカメラで猫を撮る。

首輪を付けているので、どこかで飼われているのだろう。

勝手に撫でたり顎を触っている響子を見て、薫は穏やかな笑みを浮かべる。

「何朝からニヤけてんだよ、気持ち悪い」

薫に不機嫌そうに言いながら、直人は薫に寄り掛かる。

⏰:10/04/18 20:51 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#8 [我輩は匿名である]
「ニヤけてねぇよ」

「思いっきりニヤけてただろ」

朝から軽く言い合いを始める直人達の隣で、響子と飛鳥が「おはよう」と笑い合う。

「騒がしい」とでも思ったのか、猫は響子の手を離れ、どこかへ行ってしまった。

「あーあ、行っちゃった」

響子は残念そうにため息をついて、飛鳥と一緒に歩きだす。

⏰:10/04/18 20:51 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#9 [我輩は匿名である]
「どーせエロい事でも考えてたんだろ?そんな顔してたぞ」

「してない」

「そうよ!薫は頭の中では考えてても、顔には絶対出さないんだから!」

「それ、結局考えてるって事じゃ…」

4人は騒ぎながら登校する。

⏰:10/04/18 20:52 📱:N08A3 🆔:v3aiuClI


#10 [我輩は匿名である]
あれから、あの老人は現れなくなった。「見た」という話も聞かない。

薫はやっと鎖骨骨折の治療が終わり、相変わらず響子と、すでに夫婦のような雰囲気を醸し出している。

飛鳥は奏子に誘われたカフェでアルバイトを始め、もう4ヶ月になる。

奏子と響子を中心に、やっとクラスの女子達とも話せるようになってきた。

奏子も響子も飛鳥を受け入れ、いつも一緒に行動している。

直人も相変わらず、毎日ボーッとして過ごしている。

⏰:10/04/19 10:10 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#11 [我輩は匿名である]
「言っとくけどなぁ、男はみんなそういう事考えてしまう生き物なんだよ!」

「はぁ!?お前だけだろバーカ!」

「でも水無月の方がエロ本とか持ってそうなイメージあるよね」

「読まねぇよエロ本なんか!」

直人は顔を赤くして否定する。

必死になる直人に、3人は大笑いする。

「つーか、さっきのこいつの発言はスルーかよ!?」

⏰:10/04/19 10:10 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#12 [我輩は匿名である]
「いいの。ちょっとやらしい方が男らしいでしょ?」

「え、月城って…」

飛鳥は意外そうに薫を見る。

「…なんか入院してる時にも安斎にそんな目で見られたな…」

薫は鬱陶しそうにため息をつく。

「そうだ、あん時照れて俺たちの事追い出したのに、何で今はそんな余裕なんだよ」

「もうどう思われようが、どうでも良くなってきた。

それに、響子の話だと俺は男らしいって事になるしな」

「何だよそれ…」

直人は呆れながら薫を見る。

⏰:10/04/19 10:11 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#13 [我輩は匿名である]
学校に到着し、4人はそれぞれ靴を履き換える。

「あっ!みんなおはよー!」

今度は明るい奏子の声が聞こえてきた。

「おう、久しぶり!」

直人も同じようなテンションで返事する。

「さっき聞いたんだけどね、響子のクラスの転入生来るらしいよー」

「は?転入生?」

直人達はきょとんとする。

⏰:10/04/19 10:11 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#14 [我輩は匿名である]
「へぇー、男かなぁ?私女がいいなぁ」

響子は期待しながら下履きを靴箱に入れる。

それに対し、奏子は「えー私イケメンがいい!」と反論している。

いつもの5人が揃った所で、直人達は教室に向かって階段を上る。

「ねぇねぇ、みんな宿題終わった?」

奏子が後ろを向きながら話し掛ける。

「終わった」

「え!?飛鳥はやっ!」

⏰:10/04/19 10:12 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#15 [我輩は匿名である]
そう言った瞬間、奏子が階段を踏み外した。

「うわっ……」

「えっ、ちょ…」

奏子のすぐ下にいた直人は、左手でとっさに手摺りを掴み、右手でバランスを崩した奏子の体を受け止めた。

薫も響子も飛鳥も、息を呑んでその状況を見つめる。

「お前…喋るか歩くかどっちかにしろよ…」

直人は「世話が焼ける」と、ホッと息を吐く。

⏰:10/04/19 10:12 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#16 [我輩は匿名である]
「ごっ…ごめん…」

奏子は体勢を立て直して直人から離れる。

「ありがと…」

「ん。気を付けないと、誰かさんみたいに鎖骨折るぞ」

「あー誰の事だろうな」

直人に見られ、薫はさっさと階段を上る。

⏰:10/04/19 10:12 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#17 [我輩は匿名である]
安心して、みんなも足を動かし始める。

しかし、奏子はなかなか足が動かなかった。

少し頬が熱くなっている。

奏子は一歩引いて、直人の背中を見ながら階段を上がった。

⏰:10/04/19 10:13 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#18 [我輩は匿名である]
全校集会で校長の話を聞いて来て、生徒達はぞろぞろ帰ってきて自分の席に座る。

響子もおとなしく、自分の席でボーッとする。

「はーいおはようございまーす」

チャイムが鳴り終わると同時に、響子達の担任が入ってきた。

学級委員の掛け声で、クラスメイト立ちが立ち上がり、礼をして着席する。

⏰:10/04/19 18:30 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#19 [我輩は匿名である]
「そうそう、今日からねぇ、このクラスに転入生が来ます。男の子ですー」

まだ30歳くらいの担任は、いつもの可愛らしい笑顔で言った。

教室内が一斉にざわめく。

「…奏子ちゃんが言ってたの、本当だったんだ…」

机に肘をついて、響子は呟く。

信じていなかったわけではなかったのだが、改めて驚く。

「(女の子が良かったのになぁー…)」

響子が考えていると、担任の「入ってー」の合図で、前のドアが開いた。

⏰:10/04/19 18:31 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#20 [我輩は匿名である]
入ってきたのは、少しロン毛がかった茶髪に細身で長身の、優しそうな顔の男子。

女子が再度ザワザワと声を上げる。

「(…ん…?あの子どっかで…)」

彼を見て、響子は1人首を傾げる。

桐生 良介。

担任が黒板に名前を書いた。

「…キリュウ…リョウスケ…」

名前にも聞き覚えがあるが、響子はどうしても思い出せない。

「桐生良介くんです。じゃあ簡単に自己紹介を」

「はい」

⏰:10/04/19 18:32 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#21 [我輩は匿名である]
転入生は笑顔で返事をして、生徒の方を向く。

「桐生良介です。5歳まで隣町に住んでたんですけど、父の転勤でアメリカにいました」

要するに、帰国子女ってやつだ。

響子の前の女子達が、嬉しそうにはしゃぐ。

「この辺もだいぶ変わってて何にもわからないんですけど、

楽しくやっていきたいと思うので、仲良くして下さい。よろしくお願いします」

桐生良介はそう言って一礼する。

クラスメイトが歓迎の拍手を送る。

⏰:10/04/19 18:32 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#22 [我輩は匿名である]
「(……隣町……アメリカ……)」

響子は手を叩きながら考える。

そして、ふと思い出した。

「(……もしかして…隣の隣に住んでた、あの“良介くん”…?)」

響子が幼稚園の時に、近所の同い年の男の子が引っ越していった気がする。

幼なじみだったのだが、すっかり忘れていた。

⏰:10/04/19 18:32 📱:N08A3 🆔:6hENWB/Y


#23 [我輩は匿名である]
休み時間になり、良介の周りは女子でいっぱいだ。

響子は暇なので8組にでも行こうと、席を立つ。

それを良介がたまたま見ていた。

「ねぇ、あの子は?」

ちょうど出ていく所だった響子を指差す。

「あぁ、あの子は香月響子ちゃん」

「えっ!?香月響子!?」

良介が驚いて立ち上がる。

そして、響子を追い掛けるようにして教室を出た。

⏰:10/04/20 10:09 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#24 [我輩は匿名である]
「あぁ、響子」

8組では、黒板の前であの4人が喋っていた。

薫に呼ばれて、響子も輪の中に入る。

「どうだった?転入生」

「それが…」

「響子ちゃぁぁぁん!」

廊下で誰かが叫ぶ声がした。

5人がぎょっとして見ていると、良介が走ってやって来た。

⏰:10/04/20 10:10 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#25 [我輩は匿名である]
「…誰?」

鬱陶しそうに奏子が尋ねる。

「てんにゅ…」

「君だね!?君が響子ちゃんだね!?」

良介はそう言って、目を輝かせながら飛鳥の手を握る。

「はぁ?何だよ、あんた」

「えっ?僕の事覚えてないの!?」

「…香月響子は私です…」

響子がしぶしぶ手を挙げる。

⏰:10/04/20 10:10 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#26 [我輩は匿名である]
良介は「へ?」と響子を見る。

「………えっ?君が響子ちゃん?」

「うん…」

「……さっきから『響子ちゃん、響子ちゃん』と馴れ馴れしい…」

歓声を上げる良介に、薫が顔をしかめる。

「ねっ!僕の事覚えてる!?君の隣の隣に住んでた良介だよ!

あーっ、やっと会えた!元気だった!?身長縮んだね!?」

良介は今度は響子の両手を握りなおす。

⏰:10/04/20 10:11 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#27 [我輩は匿名である]
「(…なんだこのテンション…うぜぇ…)」

「(…縮んだって…)」

「(イケメン…♪)」

3人がそれぞれ思っていると、薫が不機嫌そうに良介の手を振り払った。

「いきなり入ってきて何なんだ?馴れ馴れしく手なんか握りやがって…」

「…何って、僕響子ちゃんのフィアンセだよ?」

良介は当然のように言い放つ。

その一言に、直人達だけでなく、教室中が静まり返った。

⏰:10/04/20 10:12 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#28 [我輩は匿名である]
「…お前…ふざけてるのか…?」

薫は哀れみを込めた目で良介を見る。

「ふざけてないよ。約束したもん、響子ちゃんと」

「は!?」

響子がすぐさま「違う違う」と手を振る。

薫と響子が付き合っている事を知っているクラスメイト達が、良介を見て笑っている。

「違わないよ!幼稚園の時に『大人になったら結婚しようね』って言ったら、

響子ちゃんも『うん♪』って言ってくれたじゃないか!」

「お前…これ以上いい加減な事言ったらぶっ飛ばすぞ…!」

薫の怒りが頂点に達しかけている。

⏰:10/04/20 10:12 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#29 [我輩は匿名である]
が、良介は動じずに首を傾げる。

「っていうか、君誰?」

「俺は!香月響子の彼氏だ!!」

薫は思わず声を荒げる。

クラスメイト達が喜んで声を上げ、薫に拍手を送る。

が、薫は今それどころじゃない。

良介の胸倉を掴み、睨み付ける。

「これ以上響子に手ぇ出したら…殺す…!」

本気で殴り殺しそうな薫に、直人達もおろおろする。

⏰:10/04/20 10:13 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#30 [我輩は匿名である]
…が。

「ワーォ!ジャパニーズボーイこわーい☆」

良介はへらっと笑って言った。

薫の顔が引きつる。

「…地獄に落ちろぉぉぉぉーーー!!!!」

「わあぁぁぁっ!薫!!落ち着けー!!」

良介に殴りかかる薫を、直人や周りにいた男子が慌てて止める。

その間に、響子は奏子と飛鳥の後ろに避難する。

薫が押さえられているのを良い事に、良介は笑いながら、「響子ちゃん!また後でねー」と出ていった。

⏰:10/04/20 10:13 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#31 [我輩は匿名である]
「…何だったんだ…?」

飛鳥と奏子は呆れ返る。

「…許さん……絶対後で殺す…!」

薫は息を荒くしてドアの方を睨む。

直人は、「また何かややこしい事になりそうだ」とため息をついた。

⏰:10/04/20 10:14 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#32 [我輩は匿名である]
帰り道。

薫はまたもや顔を引きつらせる。

目の前には、満面の笑みを浮かべた良介の姿。

「……お前…ケンカ売りに来たのか…?」

「まさか♪」

「つーか、お前誰?」

薫の代わりに直人が尋ねる。

横には呆れている飛鳥と、ちょっと楽しんでいる奏子。

響子は薫の後ろに身を隠している。

⏰:10/04/20 21:30 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#33 [我輩は匿名である]
「僕かい?僕は桐生良介。響子ちゃんのフィ」

「響子の婚約者は俺だ」

良介が言い切る前に、薫が言い張る。

「なぁ、お前何か、勘違いしてねぇか?」

「そんな事はないよ!愛する幼なじみの顔を、僕が忘れるはずがない!」

「幼なじみって、5歳までじゃない!」

薫の後ろから、響子が顔を出して言い返す。

「えっ?やっぱり幼なじみなの?」

奏子がぽかんとして尋ねる。

⏰:10/04/20 21:31 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#34 [我輩は匿名である]
「お、幼なじみだったのは覚えてるよ!?

でも、私は結婚の約束なんかしてないし、私の婚約者はこの月城薫ただ1人よ!」

響子が言うと、良介は「オーマイガッ!」と頭を抱えた。

「(効いた…)」

直人、奏子、飛鳥は呆然とそれを見つめる。

「(…何なんだ、こいつのテンション…)」

薫は「はぁ…」とため息をつく。

しかしその直後、薫の鼻先に、良介の人差し指が伸びてきた。

⏰:10/04/20 21:31 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#35 [我輩は匿名である]
「まぁいいよ!今のうちに好きなだけKissでもSexでもやればいい!

しかし!すぐにこの僕が響子ちゃんを取り戻すからなっ!

覚悟してろよ!つ、…つ…つ……?」

「月城薫だよ…」

怒鳴る元気も無くなって、薫は呆れながら言う。

良介はフン!と鼻息荒く、走って帰っていった。

「…お前みたいなわけわかんねぇ奴に言われなくても、キスでも何でもやってるよ…」

薫は頭を抱える。

⏰:10/04/20 21:32 📱:N08A3 🆔:DuuM/8z6


#36 [我輩は匿名である]
「…薫…」

少し横を向けば、響子が不安そうに薫を見上げている。

「…大丈夫だよ、そんな顔しなくても、あの変人の言う事は信じてないから」

薫は少し笑って、響子の頭を撫でる。

そして、5人は学校を出ようと歩きだす。

「…何か、英語の発音は良かったな」

「うん」

直人達も呆れたように話し合う。

⏰:10/04/21 17:37 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#37 [我輩は匿名である]
「あの子、帰国子女なのよ。アメリカから帰ってきたんだ…」

「帰国子女!?」

薫以外の3人は声を上げて驚く。

「なんか、お父さんの転勤で5歳の時にアメリカに……」

言いながら、響子は足を止める。

『りょーすけくん、いっちゃうの?』

『うん。あめりかだって』

響子はうっすら思い出してきた。

⏰:10/04/21 17:38 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#38 [我輩は匿名である]
『あめりか?がいこくだね!』

幼稚園児の響子は、良介がアメリカに発つ日に、家の前で見送っていた。

『げんきでねっ♪』

『うん!もしまたあえたら、ぼくと…』

良介が何か言ったが、ちょうど近所の犬が大声で吠えたため、響子は聞き取れなかった。

『ねっ!?』

良介が笑って言った。

それに、響子は適当に『うん!』と返事をしたのだたった。

⏰:10/04/21 17:38 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#39 [我輩は匿名である]
「…ああぁぁぁぁぁ〜………」

響子は頭を抱えて、その場に崩れ落ちる。

急に座り込んだ響子に、直人達は驚いて「うわぁ!?」と声を上げる。

「ど、どうした!?」

薫もびっくりして、響子の前にしゃがみこむ。

「…どうしよう…」

響子は頭を抱えたまま小声で言う。

「え?」

⏰:10/04/21 17:39 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#40 [我輩は匿名である]
「あの時、あの子『結婚しようね』って言ったのかなぁ…?

だったら…だったらどうしよう…」

響子は思い詰めて涙目になる。

「響子…?」

「薫…どうしよう…?私…あの時適当に『うん』って言っちゃった…。

何て言ったのか聞こえなかったけど、適当に返事しちゃったの…。

どうしよう…?私…嫌だよぉ……」

響子はしゃがんだまま、今にも泣きだしそうな顔をしている。

⏰:10/04/21 17:40 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#41 [我輩は匿名である]
「響子」

薫が呆れたように笑う。

「そんな小さい時の事なんか、覚えてなくて当たり前だ。

それに、適当に返事したんならなおさら、そんな物約束だとは言えない。

そんな泣かなくても、俺は何とも思ってないよ」

「…本当…?」

響子は顔を上げる。

「……何とも思ってないわけないだろ…」

薫は低い声で言った。

⏰:10/04/21 17:40 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#42 [我輩は匿名である]
「へ?」

「あんなわけのわからないアメリカかぶれに…響子を渡してたまるか…。

『僕がフィアンセだ』ぁ?ふざけんじゃねぇぞ…」

思い出したら機嫌が悪くなってきたのか、薫の周りを黒いオーラが漂い始める。

「ヤべぇ…キレかけてる…」

直人が「どうしよう」と、奏子と飛鳥を交互に見る。

⏰:10/04/21 17:40 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#43 [我輩は匿名である]
しかし、直人の心配をよそに、響子がそっと、薫にキスをした。

奏子が「きゃあーっ♪」と声を上げる。

「……響子…」

薫は少し頬を赤らめる。

「…私が好きなのは、薫だけだから。絶対薫以外変わらないからね」

響子は困った表情をしていたが、それだけははっきりと、迷う事無く言った。

⏰:10/04/21 17:41 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#44 [我輩は匿名である]
「…うん」

薫も安心したようにまた笑い、響子を強く抱き締める。

「………ついていけねぇ……薫、先帰るぞ」

直人はそう言って、早足で歩きだした。

つられて、飛鳥と奏子も直人と一緒に歩き始めた。

⏰:10/04/21 17:41 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#45 [我輩は匿名である]
「いやぁー、純愛ですなぁー」

しばらく歩いて、奏子は腕を組みながら言った。

「どこのおっさんだよ、お前」

「だってさぁ、憧れるじゃない?ね?飛鳥」

奏子は飛鳥にも話を振る。

「…そうだね」

飛鳥も小さく笑って同意した。

その顔が、石川晶が喜んだ時の顔にそっくりで、直人は少しドキッとする。

⏰:10/04/21 22:05 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#46 [我輩は匿名である]
夏休みの前に言われた、響子の『やっぱりあの子が好きなの?』と言う言葉が甦る。

「(…って言われても…)」

直人は横目で、楽しそうに話している飛鳥を見つめる。

「そんな事聞かれてもなぁ…」

「ん、何か言った?」

直人の独り言が聞こえたのか、奏子がこっちを向く。

「へっ!?い、いや、別に…」

「怪しいな」

「怪しくねぇよ!」

怪しむ飛鳥に、直人は声を荒げて否定する。

⏰:10/04/21 22:05 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#47 [我輩は匿名である]
「…お前らにも、好きな奴とかいんの?」

直人は何気なく2人に聞いてみる。

「私は…まだそれどころじゃないしなぁ…」

飛鳥はふうっと一息つく。

「まだ親とも話してないし…4ヶ月経ってもバイトにはまだまだ慣れないし。

生きるのに精一杯って感じ…かな…」

そう言いつつ、飛鳥の表情は、どこか晴れ晴れとしている。

⏰:10/04/21 22:06 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#48 [我輩は匿名である]
直人はそれを見て、少し笑う。

それを、奏子は黙って見つめる。

「お前は?」

直人は奏子に聞き直す。

「えっ!?」

「お前イケメン好きとか言ってたから、あのアメリカかぶれとか、いんじゃねぇの?」

「はぁ!?何で私があんな奴と!」

奏子は全力で否定する。

「いいじゃん、お似合いじゃねーか」

直人は「うんうん」と自分で納得する。

⏰:10/04/21 22:06 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#49 [我輩は匿名である]
横では飛鳥が笑っている。

奏子はしばらくムスッとしていたが、何となく直人を見上げる。

「(…こいつは…好きな人いるのかなぁ…?)」

「あ、そういえば、バイト楽しいか?」

「うん、店長が相変わらず怖いけど、やっと一通り出来るようになったかな」

「へぇ。じゃあそろそろ行ってみねーとな!」

「来なくていいから!」

「何でだよ!いいじゃん別に!」

「来たら紅茶ぶっかけるから!」

「それ損するのお前だろ」

⏰:10/04/21 22:07 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#50 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥が仲良く言い合いをしている。

「(…やっぱり、飛鳥が好きなのかなぁ…?)」

そう思うと、何だか虚しくなってきて、奏子は首を振って考えないようにした。

⏰:10/04/21 22:07 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#51 [我輩は匿名である]
次の日は課題テストだった。

すっかり忘れていた直人は、魂が抜けたように呆然とする。

しかし、もっと大変なのは薫だった。

「おい月島!」

「月城、だ」

今日も懲りずにやってきた良介に、うんざりしたように訂正する。

⏰:10/04/21 22:08 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#52 [我輩は匿名である]
「今日課題試験なんだろう?だったら僕とBattleしろ!」

「面倒だから断る」

「逃げるのか!?」

早くも勝ち誇った顔をする良介に、薫は眉をピクつかせる。

「なんでお前とバトルしないといけないんだ?」

「勝ったら響子ちゃんを返してもらうんだ!」

「やだ」

「何なんだお前は!?月島!お前にはPrideというものはないのか!?」

「だから月城だ。それにプライドどうこういう話じゃないだろ。

響子が聞いたら俺に泣き付いてくるだろうなぁ」

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#53 [我輩は匿名である]
「抱きつくだと!?そんな事させないぞ!」

「(あぁ…もう言い間違いも聞き間違いもどうでも良くなってきた…)」

やけに気負っている良介に、薫は早くも呆れムードになってきた。

「(…でもまぁ、響子の事は抜きで、ちょっと見返してやっても良いな)」

薫はニヤッと小さく笑う。

「なぁ、桐生。今回は響子の話は抜きにして、点数バトルだけやってみないか?」

「何だと!?」

「今回は課題テストだ。宿題やってればそこそこ点数が取れる。

どうせなら期末とかの実力テストで競う方がやりがいあるだろ」

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#54 [我輩は匿名である]
「…ふむ」

良介は腕を組んで考え込む。

そして、少し経って「いいだろう!」と答えを出した。

「月島!絶対に手を抜くなよ!」

「はいはいわかりましたよ」

適当に返事をすると、良介は気合いを入れて8組を出て行った。

⏰:10/04/21 22:09 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#55 [我輩は匿名である]
「月城、あいつ見返してやれよな!」

クラスの男子たちが、薫に声援を送る。

「あぁ」

「あいつ、入ってきてそうそう、女子にちやほやされやがってさぁ…」

「あぁ…」

「でも、月城くんこの間学年1位だったから、楽勝なんじゃない?」

「いや、どうかわかんないけど…まぁ頑張るよ」

薫は笑ってみせる。

「(学年1位…あぁ…そう言えばあいつ1位だったな…。

俺110位っていう超微妙な順位だったのに…)」

⏰:10/04/21 22:10 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#56 [我輩は匿名である]
この学年は生徒が320人いるため、直人の順位もそこまで悪くないのだが、

親友が1位という事を考えるだけで、何となく欝になってくる。

「やっぱ頭良いんだね、月城」

斜め後ろの席にいる飛鳥が、直人の傍にやって来た。

「よく1位とか取れるよな、脳みそどうなってんだか」

「ははっ、あんた何位だっけ?」

「110位」

「…警察呼べそうな順位だね」

⏰:10/04/21 22:10 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#57 [我輩は匿名である]
「何ちょっと上手いこと言ってんだよ。そういうお前は?」

「あたしは101位」

「俺が警察ならお前は犬じゃねぇかよ」

2人は何だか面白くなって笑いだす。

すると、学校中にチャイムが鳴り響いた。

「ま、お互い月城に近付けるように頑張ろ」

「おうよ」

飛鳥は笑って、自分の席に戻った。

⏰:10/04/21 22:11 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#58 [我輩は匿名である]
「え?あのアメリカンと月城くんが点数バトル?」

バイトに行く途中、飛鳥は今日の薫達の話を奏子に聞かせた。

「まぁ、月城くんなら1学期の期末1位だったから、楽勝だろうけどね」

「そうだよね」

奏子と飛鳥はそろって頷く。

「今回は順位2桁だったらいいなぁ…」

飛鳥は「はぁ…」とため息をつく。

「何で2桁取りたいの?」

「2桁っていうか、出来れば1桁取りたいんだけどね」

⏰:10/04/21 22:12 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#59 [我輩は匿名である]
「えっ!?何で!?」

奏子に聞かれ、飛鳥は少し躊躇いながら答える。

「…私、…親を見返してやりたいの」

「…親?」

「うん。私の親、弟しか見てないから…いい成績とって見せてやりたいんだ」

「へぇ…」

飛鳥の話に、奏子はきょとんとする。

「最初は親なんかどうでも良かったんだけどさ。

でも…水無月に元気付けられてから、自分にも何か出来そうな気がしてきて…」

⏰:10/04/21 22:13 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#60 [我輩は匿名である]
飛鳥は柔らかな笑顔を見せる。

奏子は黙って、その横顔を見つめる。

「…飛鳥はやっぱり、水無月の事好きなの?」

「へ?」

思いもしない質問をされて、飛鳥は素早く奏子を見る。

「ま、まさかー!」

飛鳥は手を振りながら否定する。

「そ…そうだよねー。ごめん、何か変な事聞いた!」

奏子は「へへへ」と笑う。

⏰:10/04/21 22:13 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#61 [我輩は匿名である]
「(…好き…じゃない、よな…」

飛鳥は答えてから、自分の心臓の鼓動が高鳴っているのに気付いた。

「(……そりゃ…晶と要はそうだったけど……、私は…)」

考えれば考えるほど、何だか胸が熱くなる。

「(……水無月は……私の事、どう思ってるんだろ…?)」

「飛鳥!」

⏰:10/04/21 22:14 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#62 [我輩は匿名である]
奏子が飛鳥の腕を掴む。

「へっ?」

振り向くと、アルバイト先のカフェを通りすぎかけていた。

「あれっ?ごめんごめん」

飛鳥は笑いながら店の中に入る。

奏子も何だか少しモヤモヤした気持ちで入っていった。

⏰:10/04/21 22:14 📱:N08A3 🆔:S8dNuXTM


#63 [我輩は匿名である]
4日後。

廊下に張り出された課題テストの順位を見て、一年生のほぼ全生徒が愕然とした。

直人は100位、飛鳥は98位、響子は121位、奏子は165位だった。

しかし、4人とも自分の順位など、もはやどうでも良かった。

「薫が…」

「2位…?」

「ええーっ!?」

直人、飛鳥、奏子が茫然とする横で、響子と薫が凍り付いている。

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#64 [我輩は匿名である]
『2位:月城 薫(8組) 498点』

の上に1行、

『1位:桐生 良介(4組) 499点』

と書いてあった。

「月城ー!」

クラスの男子たちが薫に詰め寄る。

「何であと2点頑張れなかったんだぁー!?」

「…これでも自己ベストなのに…」

肩を持って揺さ振られながら、薫はブツブツ呟く。

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#65 [我輩は匿名である]
「おい月島!」

その声に、クラスメイトの手が止まる。

見ると、自信有りげな顔をした良介が立っていた。

「(来たーーーっ!!)」

薫以外の4人が縮こまる。

「お前、名前すらないじゃないか」

「お前のすぐ下にあるだろ」

「What's?」

良介は成績表とにらめっこする。

「ん?お前、月島じゃなくて月城(つきじょう)だったのか」

⏰:10/04/22 18:36 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#66 [我輩は匿名である]
「惜しいな、月城(つきしろ)だ」

何故か反対に、薫が良介を見下した言い方をして威張る。

「おっ、惜しいのはお前の方だろ!

まさかお前、負けるのがわかってたから響子ちゃんを渡さないように…!?」

「さぁな?でも…」

薫はフッと笑う。

「次は負けねぇからな…」

良介の目の前で、薫は宣言する。

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#67 [我輩は匿名である]
「のぞくところだ!」

「あぁー惜しいな、のぞ“む”だな」

「だっ、黙れ!覚えてろよ!次こそは響子ちゃんを返してもらうからな!」

良介はキッと睨み返して、自分の教室に戻っていった。

「…何でテストの順位で響子の婚約者を決めなきゃいけないんだ…」

さっきまで威勢が良かったのに、薫は急に暗くなって壁にもたれかかる。

「…薫…」

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#68 [我輩は匿名である]
「…いや、やっぱりおかしいだろ」

薫はもたれるのを止め、しゃきっと立つ。

そして、響子の方を向いた。

「やっぱ、断ってくる」

「へ?」

「だって、おかしいだろ?お前だって、他人の点数で彼氏決められるなんて…」

そう言われて、響子も「…うーん…」と頭を悩ませる。

「ちょっと、あいつに言って来る。響子はここにいろ」

そう言って、薫は良介の後を追った。

⏰:10/04/22 18:37 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#69 [我輩は匿名である]
「おい、桐生」

薫に呼び止められ、良介は足を止めて振り向く。

「…俺、やっぱり勝負降りる」

薫はきっぱりと言い張った。

その言葉に、良介はフッと、余裕の笑みをこぼす。

「僕に勝てないから?」

薫は心底イラッとしたが、冷静に「そうじゃない」と言い返す。

⏰:10/04/22 18:38 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#70 [我輩は匿名である]
「同じ事じゃないか。僕に負けて、響子ちゃんを取られるのが怖いんだろう?

そうだよねぇ。あんだけ自信満々で話に乗ったのに、負けたんだからね」

「…お前…!」

「知ってる?響子ちゃんの好きな男のタイプ。

格好よくて、優しくて、頭が良い男だって。

君、そんな事知らないだろ?」

良介はまるで、薫を見下すような言い方で笑う。

「…そんなもん、ガキの時の話だろ」

薫は良介を睨みながら言い返す。

⏰:10/04/22 18:38 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#71 [我輩は匿名である]
しかし、良介の表情は変わらない。

「残念だけど、今君に何言われても、負け犬の遠吠えにしか聞こえないよ?

悪いけど、君に勝ち目は無いと思うけどな。まぁ、頑張ってみれば?」

良介は笑って、教室に入っていった。

廊下に残った薫は1人、黙ってうつむいて、両手を握り締めていた。

⏰:10/04/22 18:39 📱:N08A3 🆔:07aOrgP2


#72 [我輩は匿名である]
「そう言えば神崎、お前2桁だったじゃん」

教室に入って、直人は飛鳥に言った。

「ん?あぁ、見てたんだ」

「俺も2点足らずでお前に負けたんだ…。薫の気持ちがよくわかる…」

席についてすぐ、直人は頭を抱えてため息をつく。

「何よ、そっちか…」

「…おっと、そういう話じゃねぇな」

単純な直人は、飛鳥の方を向いて笑いかける。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#73 [我輩は匿名である]
「やるじゃん!そろそろ親もちょっとはお前の事見直すんじゃね?」

「…まだまだ」

飛鳥は苦笑する。

「弟の1番良かった順位は、9位らしい。だから、私は8位以上を目指すって決めてんだ」

「マジで?でもこれから、1位2位はあのアメリカンと薫が占めるだろうから…

3位〜8位…6人しか枠がないぞ?」

「…まぁ、何とかなるっしょ。ダメそうなら月城に勉強でも教えてもらうわ」

「あぁ、それがいいな」

2人は話ながら笑い合う。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#74 [我輩は匿名である]
「……水無月さぁ」

飛鳥は何気なく話を変える。

「あん?」

「…もし私が…」

そこまで言って、飛鳥はハッと言うのをやめた。

「…えっ?何だよ?」

「…ごめん、やっぱ何にもない。忘れて」

「はっ??」

ぽかんとしている直人を見ずに、飛鳥は自分の席に戻った。

⏰:10/04/23 18:58 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#75 [我輩は匿名である]
その夜、直人はベッドに寝転んでボーッと考えていた。

今日、飛鳥は自分に何を言おうとしていたのか。

あの時の飛鳥の顔は、いつものような表情ではなかった。

直人はそれが気になっていたのだ。

「(…別に怒ってるような顔でもなかったし…何だったんだろ?)」

ふと、響子の『鈍感ね』という言葉が頭に浮かぶ。

あの言葉は、こういう事を指しているのだろうか。

「……って事は…やっぱ俺、気に障るような事したのか…?」

直人はしばし、黙って考える。

しかし、答えが出ないまま眠りに落ちてしまった。

⏰:10/04/23 18:59 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#76 [我輩は匿名である]
ある日。

掃除当番だった直人は、同じく当番だった飛鳥と奏子と一緒に帰っていた。

薫と響子は、すでに先に学校を出ている。

「…ん?」

道端で、直人はふと足を止める。

視線の先には、スーパーの重そうな袋を両手に下げて立ち止まっているおばあさんの姿。

「どうかしたの?」

奏子が直人に尋ねる。

「…ちょっとな」

⏰:10/04/23 18:59 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#77 [我輩は匿名である]
直人はそれだけ言って、おばあさんに近づく。

飛鳥と奏子は、その場で様子をうかがう。

「ばあさん、大丈夫か?」

直人はおばあさんに声をかける。

「はぁい?」

おばあさんが顔を上げて、直人を見る。

そして、「あぁ、あんたは…!」と驚きの声を上げた。

「…へ?」

「あんた、あの時の子で……」

おばあさんはそこまで言い掛けて、「ん?」と考え直す。

⏰:10/04/23 19:00 📱:N08A3 🆔:KdcsC5Iw


#78 [我輩は匿名である]
「…あぁ、私ったらすごい勘違いしたわ。もうあれから40年くらい経ってるのに」

おばあさんはそう言って、上品な笑い声を上げる。

直人は「ん?」と首をかしげる。

「…まぁそれより、それ重くないか?俺運んでってやろうか?」

「あら、本当?…でも、悪いし…」

「いいよ、荷物運ぶぐらい。歩きって事は、家もそんな遠くないんだろ?」

「…行ってみよっか」

2人のやり取りが気になって、飛鳥も直人達の所まで歩く。

⏰:10/04/24 12:46 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#79 [我輩は匿名である]
奏子はおばあさんを見て、「もしかして…」と声を漏らす。

「じゃあ…運んでもらえる?」

「おう、いいぜ」

直人は快く言って、おばあさんから荷物を受け取る。

「…私も何か持とうか?」

飛鳥はどういう話なのかすぐに理解して、直人に声をかける。

「え?いいよ、別に」

「でも、重そうだし…」

そう言われて、直人は「まぁ確かに…」と心の中で思う。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#80 [我輩は匿名である]
「あ、じゃあ1個持って」

「あぁ、いいよ」

飛鳥は頷いて、代わりに直人の鞄を持った。

「なんか、悪いわねぇ…」

「いいですよ、私も暇だから」

「私“も”って何だよ?俺が暇みたいだろ」

「だって暇じゃん」

2人が言い合っている間に、奏子も駆け寄ってきて、おばあさんの顔を見る。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#81 [我輩は匿名である]
「あ、やっぱりおばあちゃんじゃん!」

「あらぁ、奏子のお友達だったの」

「………え?」

2人の会話に、直人と飛鳥はきょとんとする。

「この人、うちのおばあちゃんだよ♪」

「マジで!?」

「こ、こんにちは…」

「あらあら、こんにちは」

直人と飛鳥がびっくりしている横で、奏子のおばあさんが笑う。

⏰:10/04/24 12:47 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#82 [我輩は匿名である]
「あ、うちの家こっちだから、ついてきて」

奏子はそう言って歩きだす。

2人もぽかんとしたままついていく。

「あらぁ、しかしまぁ、あなた、私が昔会った男の子にそっくりだわ」

おばあさんが懐かしそうに直人に言った。

「そんなにそっくりなのか?」

「…敬語使いなよ」

「あ?あぁ、そうか」

「あーいいわよ、そんな気を遣わなくても」

おばあさんはまた笑う。

⏰:10/04/24 12:48 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#83 [我輩は匿名である]
「そうねぇ。私がむかーし、姫崎公園に行きたかったのに、迷っちゃってねぇ」

「…え?」

直人は思わずおばあさんの顔を見る。

「その時に、道案内してくれた男の子がいたのよ。

あなたが、その子にあんまりそっくりだったから、つい…」

「道案内…って…」

飛鳥もハッと、直人を見る。

「あの子、元気かしらねぇ…?」

おばあさんは微笑みながら呟いた。

⏰:10/04/24 12:48 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#84 [我輩は匿名である]
直人は少し考える。

「あ、そう言えばあの子、お友達の事気にしてたわねぇ。

なんかねぇ、その道案内してくれた子のお友達が、元気がないか何かでね。

その子、私と同じように養護施設で育ったらしいんだけど。

その子は元気になったのかしら…?」

懐かしくて仕方ないのか、おばあさんは話を進めていく。

『その子』とは、多分晶のことだろう。

直人は何と言えば良いのか、少し困った顔で考える。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#85 [我輩は匿名である]
「(…あの後何日かして2人とも死んだとか…言えねぇしなぁ…)」

無言で、眉間にしわを寄せる。

「…2人とも、今も仲良くやってると思いますよ」

そう言ったのは、飛鳥だった。

直人と奏子が、同時に飛鳥を見る。

飛鳥は小さく笑みを浮かべている。

「…そうだな」

彼女を見て、直人もニッと笑う。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#86 [我輩は匿名である]
「俺も、2人とも元気にやってると思うぜ」

「…そうねぇ、あの男の子なら、元気にやってそうね」

おばあさんは、安心したようににっこり笑う。

「(…水無月…何か一瞬変だった…?)」

奏子は直人を見ながら首を傾げる。

「あなたたちにも言っとくわ。あの男の子にも言ったんだけどね」

おばあさんは3人に言う。

⏰:10/04/24 12:49 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#87 [我輩は匿名である]
「人との間に、壁を作っちゃダメなのよ。

仲良くなりたければ、一歩踏み出さなきゃ。

わかった?」

「あぁ…」

「はい」

「前も聞いたけどな」と思いながら、直人は相づちをうつ。

飛鳥もそれを聞くのは2度目だったが、素直に返事をした。

「…あ、着いたよ。あたしん家」

奏子は目の前の一軒家を指差す。

⏰:10/04/24 12:50 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#88 [我輩は匿名である]
「おぅ。意外と近かったな」

「ありがとうねぇ、2人とも」

おばあさんは直人と飛鳥に笑いかける。

「どういたしまして」

2人はそろって返事をする。

「ありがとう。ここまで来たらもう大丈夫」

家のドアの前まで来て、奏子も2人に言った。

「いいのか?」

「うん」

奏子に言われ、直人と飛鳥は、ドアのそばに買い物袋を置く。

⏰:10/04/24 12:50 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#89 [我輩は匿名である]
「お茶でも飲んでいったら?」

「いえ、私たちはこのまますぐに帰りますから」

おばあさんの申し出を、飛鳥が丁寧断る。

「あら、そう?じゃあまた遊びに来てね」

おばあさんはニッコリ笑った。

「んじゃ、俺たちはこれで」

「さよならー」

2人はおばあさんと奏子に手を振って、並んでその場を後にした。

⏰:10/04/24 12:51 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#90 [我輩は匿名である]
「いい子達だねぇ」

おばあさんは笑って奏子に言う。

奏子は「うん」と返事をしつつ、帰っていく2人の背中を、複雑な気持ちで見つめていた。

⏰:10/04/24 12:52 📱:N08A3 🆔:23VVxZiA


#91 [我輩は匿名である]
「優しそうなおばあちゃんだったね」

帰り道、飛鳥が何気なく言った。

「そうだな。元気そうで嬉しかったなぁ」

直人も満足そうに笑う。

「まぁ言われてみれば、面影がないこともないな」

「1日しか会ったことないのに、面影とか覚えてんの?」

「ま、まぁ何となく…」

直人は目を泳がせる。

⏰:10/04/27 08:33 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#92 [我輩は匿名である]
それを呆れて見た後、飛鳥はふと、こんな事を言った。

「…うちにも、あんなおばあちゃんがいたら良いのに」

直人は「へ?」と、飛鳥を見る。

「……お前、相変わらず親とは口きいてないんだっけ?」

「きいてない。バイトしてるのも知らないし」

飛鳥は苦笑して答える。

「そうか…」

「まぁ、ちょっと平気になってきたけどね」

「うーん…」

直人は「何かいい方法はないかな」と首をひねる。

⏰:10/04/27 08:33 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#93 [我輩は匿名である]
「いいよ、そんなに頑張って考えてくれなくても」

飛鳥は小さく息をつく。

「そのうちどうにか出来れば良いかなってぐらいだし」

「そうか?…まぁ、今は香月とか安斎とか、友達いるもんな、お前」

「うん」

飛鳥は笑って頷く。

「…あんたのおかげ、かな」

⏰:10/04/27 08:34 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#94 [我輩は匿名である]
「…は?」

飛鳥に言われて、直人はびっくりして彼女を見る。

飛鳥は少しだけ頬を赤らめて顔を背ける。

「(…あれ、なんか、変な感じする)」

直人は恥ずかしいような照れるような、なんだかわからない感覚に襲われた。

2人はそれぞれ同じような事を考えながら帰っていった。

⏰:10/04/27 08:34 📱:N08A3 🆔:n39Qyhsk


#95 [我輩は匿名である]
「そりゃお前、あいつに気があるんだろ」

飛鳥と帰った時の事を話すと、薫はあっさり言い切った。

「えぇっ!?」

直人はぎょっとしすぎて、持っていた箸を落としそうになる。

「お、俺が!?あいつを!?」

落とさないように箸を握って、少し声を荒げる。

「まぁ、その逆もありえると思うけど」

薫は言いながらサンドイッチを口に入れる。

⏰:10/04/29 13:13 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#96 [我輩は匿名である]
そういう事に関して全く疎い直人は、話についていけず呆然とする。

「え…えぇ…?」

「本当鈍感だよな、お前。どうすればそこまで鈍感になれるか知りてぇよ」

薫は呆れ返ってため息をつく。

直人は「そんな事言われても…」と頬を膨らませる。

「まぁ、そういう所がいいんじゃないのか?」

「…なんか嬉しくない」

直人は不機嫌そうに言い返す。

「…全く自覚してないのか?」

⏰:10/04/29 13:13 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#97 [我輩は匿名である]
「…うーん…何か、よくわかんねぇんだよなぁ…」

直人は箸を咥えて腕を組む。

「好きとかじゃない気がして…。なんかこう…“見守っててやりたい”…っていうか…。

何か、本気で応援してやりたくなるっていうか…」

「(…似たような事だろ)」

直人の話を聞きながら、薫は思った。

「…いいな、お前は平和そうで」

不意に、薫はそう言ってため息を吐いた。

⏰:10/04/29 13:14 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#98 [我輩は匿名である]
「何だいきなり」と、直人は首をひねる。

「…響子は…あいつの事、どう思ってるんだろ…」

薫は遠い目をして、机に肘をつく。

「あいつ?あのアメリカンの事か?てか、結局どうなったんだよ」

「“負け犬の遠吠え”、“君に勝ち目はない”、…そう言われた」

「はぁ!?何なんだあいつ!!」

短気な直人は、思わず声を荒げる。

⏰:10/04/29 13:14 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#99 [我輩は匿名である]
「…でも、あいつは響子の事を何も知らない。

あんな押し付けがましいやり方で、響子が納得するはずがない」

「当たり前だろ!今までお前らがどんだけしんどい思いしてきたか、あいつ何も知らないんだぞ!?

あんな奴に香月取られてたまるかよ!」

まるで自分の事のように、直人は腹を立てて騒ぐ。

「…でも、あいつは俺の言う事には全く耳を貸さない。

何を言っても、きっとまた“負け犬の遠吠え”って嘲笑うだけだろ。

…だから多分、俺が成績1位を取り戻す以外、あいつは納得しないだろうな」

⏰:10/04/29 13:15 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#100 [我輩は匿名である]
「あいつが納得するとかしないとか、どうでもいいだろ!」

「前みたいな目には遭いたくないんだよ」

薫は少しきつく言い返した。

そう言われて、直人はやっと、少し黙り込む。

確かに、怜奈のような行動に出られてはいろいろと面倒だ。

薫は1人で、そこまで考えていたのだろう。

そう思うと、直人はそれ以上何も言えなかった。

⏰:10/04/29 13:15 📱:N08A3 🆔:VvK4rUGI


#101 [我輩は匿名である]
「ねぇ、飛鳥」

バイトに行く途中、奏子は飛鳥に尋ねる。

「水無月が、前に変なおっさんから、前世の本もらったって話、知ってる?」

「…知ってるよ」

飛鳥は少しきょとんとした顔で答える。

「…飛鳥って、その、水無月の前世の話に関係あったりする?」

奏子は続けて聞く。

「…なんで?」

今度は飛鳥が聞き返す。

⏰:10/04/30 20:32 📱:N08A3 🆔:ue2rV2uc


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