記憶を売る本屋 2
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#1 [我輩は匿名である]
:10/04/18 12:12
:N08A3
:v3aiuClI
#2 [我輩は匿名である]
:10/04/18 12:17
:N08A3
:v3aiuClI
#3 [我輩は匿名である]
2学期になった。
「はぁ〜…」
ボサボサな頭で欠伸をしながら、直人は学校に向かって歩いていた。
昨日徹夜をしたが、夏休みの宿題は全く終わっていない。
「おはよ」
誰かがポンと、直人の背中を叩く。
横を見ると、飛鳥がいた。
「あぁ…久しぶり」
直人は弱々しく挨拶する。
:10/04/18 20:18
:N08A3
:v3aiuClI
#4 [我輩は匿名である]
「何?珍しく元気ないじゃん。…宿題終わらなかったんでしょ」
飛鳥は見透かすように笑って直人に言った。
「終わるわけないだろ、あんなもん。お前終わったのかよ?」
「当たり前じゃん。答え見ながらやれば楽勝」
「最悪な奴だな、お前」
誇らしげに笑っている飛鳥に、直人は顔をしかめる。
:10/04/18 20:49
:N08A3
:v3aiuClI
#5 [我輩は匿名である]
「…あ」
正面を見ていた飛鳥が声を上げる。
「何だよ」
「あの2人、相変わらずラブラブだね」
飛鳥が指差す先には、薫と響子の姿。
:10/04/18 20:50
:N08A3
:v3aiuClI
#6 [我輩は匿名である]
「眠たいねー…」
響子は大きく欠伸をする。
「夏休みだらけてたからな…」
薫もいつもよりボーッとしている。
「んー…あっ、猫!」
響子は明るく言って、1人電柱に近づいていく。
それにつられて、薫も響子の後ろで立ち止まる。
:10/04/18 20:50
:N08A3
:v3aiuClI
#7 [我輩は匿名である]
「…響子、犬好きじゃなかったか?」
「それは“昔”の話。今は猫のほうが好きなの」
響子は笑って言いながら、携帯電話のカメラで猫を撮る。
首輪を付けているので、どこかで飼われているのだろう。
勝手に撫でたり顎を触っている響子を見て、薫は穏やかな笑みを浮かべる。
「何朝からニヤけてんだよ、気持ち悪い」
薫に不機嫌そうに言いながら、直人は薫に寄り掛かる。
:10/04/18 20:51
:N08A3
:v3aiuClI
#8 [我輩は匿名である]
「ニヤけてねぇよ」
「思いっきりニヤけてただろ」
朝から軽く言い合いを始める直人達の隣で、響子と飛鳥が「おはよう」と笑い合う。
「騒がしい」とでも思ったのか、猫は響子の手を離れ、どこかへ行ってしまった。
「あーあ、行っちゃった」
響子は残念そうにため息をついて、飛鳥と一緒に歩きだす。
:10/04/18 20:51
:N08A3
:v3aiuClI
#9 [我輩は匿名である]
「どーせエロい事でも考えてたんだろ?そんな顔してたぞ」
「してない」
「そうよ!薫は頭の中では考えてても、顔には絶対出さないんだから!」
「それ、結局考えてるって事じゃ…」
4人は騒ぎながら登校する。
:10/04/18 20:52
:N08A3
:v3aiuClI
#10 [我輩は匿名である]
あれから、あの老人は現れなくなった。「見た」という話も聞かない。
薫はやっと鎖骨骨折の治療が終わり、相変わらず響子と、すでに夫婦のような雰囲気を醸し出している。
飛鳥は奏子に誘われたカフェでアルバイトを始め、もう4ヶ月になる。
奏子と響子を中心に、やっとクラスの女子達とも話せるようになってきた。
奏子も響子も飛鳥を受け入れ、いつも一緒に行動している。
直人も相変わらず、毎日ボーッとして過ごしている。
:10/04/19 10:10
:N08A3
:6hENWB/Y
#11 [我輩は匿名である]
「言っとくけどなぁ、男はみんなそういう事考えてしまう生き物なんだよ!」
「はぁ!?お前だけだろバーカ!」
「でも水無月の方がエロ本とか持ってそうなイメージあるよね」
「読まねぇよエロ本なんか!」
直人は顔を赤くして否定する。
必死になる直人に、3人は大笑いする。
「つーか、さっきのこいつの発言はスルーかよ!?」
:10/04/19 10:10
:N08A3
:6hENWB/Y
#12 [我輩は匿名である]
「いいの。ちょっとやらしい方が男らしいでしょ?」
「え、月城って…」
飛鳥は意外そうに薫を見る。
「…なんか入院してる時にも安斎にそんな目で見られたな…」
薫は鬱陶しそうにため息をつく。
「そうだ、あん時照れて俺たちの事追い出したのに、何で今はそんな余裕なんだよ」
「もうどう思われようが、どうでも良くなってきた。
それに、響子の話だと俺は男らしいって事になるしな」
「何だよそれ…」
直人は呆れながら薫を見る。
:10/04/19 10:11
:N08A3
:6hENWB/Y
#13 [我輩は匿名である]
学校に到着し、4人はそれぞれ靴を履き換える。
「あっ!みんなおはよー!」
今度は明るい奏子の声が聞こえてきた。
「おう、久しぶり!」
直人も同じようなテンションで返事する。
「さっき聞いたんだけどね、響子のクラスの転入生来るらしいよー」
「は?転入生?」
直人達はきょとんとする。
:10/04/19 10:11
:N08A3
:6hENWB/Y
#14 [我輩は匿名である]
「へぇー、男かなぁ?私女がいいなぁ」
響子は期待しながら下履きを靴箱に入れる。
それに対し、奏子は「えー私イケメンがいい!」と反論している。
いつもの5人が揃った所で、直人達は教室に向かって階段を上る。
「ねぇねぇ、みんな宿題終わった?」
奏子が後ろを向きながら話し掛ける。
「終わった」
「え!?飛鳥はやっ!」
:10/04/19 10:12
:N08A3
:6hENWB/Y
#15 [我輩は匿名である]
そう言った瞬間、奏子が階段を踏み外した。
「うわっ……」
「えっ、ちょ…」
奏子のすぐ下にいた直人は、左手でとっさに手摺りを掴み、右手でバランスを崩した奏子の体を受け止めた。
薫も響子も飛鳥も、息を呑んでその状況を見つめる。
「お前…喋るか歩くかどっちかにしろよ…」
直人は「世話が焼ける」と、ホッと息を吐く。
:10/04/19 10:12
:N08A3
:6hENWB/Y
#16 [我輩は匿名である]
「ごっ…ごめん…」
奏子は体勢を立て直して直人から離れる。
「ありがと…」
「ん。気を付けないと、誰かさんみたいに鎖骨折るぞ」
「あー誰の事だろうな」
直人に見られ、薫はさっさと階段を上る。
:10/04/19 10:12
:N08A3
:6hENWB/Y
#17 [我輩は匿名である]
安心して、みんなも足を動かし始める。
しかし、奏子はなかなか足が動かなかった。
少し頬が熱くなっている。
奏子は一歩引いて、直人の背中を見ながら階段を上がった。
:10/04/19 10:13
:N08A3
:6hENWB/Y
#18 [我輩は匿名である]
全校集会で校長の話を聞いて来て、生徒達はぞろぞろ帰ってきて自分の席に座る。
響子もおとなしく、自分の席でボーッとする。
「はーいおはようございまーす」
チャイムが鳴り終わると同時に、響子達の担任が入ってきた。
学級委員の掛け声で、クラスメイト立ちが立ち上がり、礼をして着席する。
:10/04/19 18:30
:N08A3
:6hENWB/Y
#19 [我輩は匿名である]
「そうそう、今日からねぇ、このクラスに転入生が来ます。男の子ですー」
まだ30歳くらいの担任は、いつもの可愛らしい笑顔で言った。
教室内が一斉にざわめく。
「…奏子ちゃんが言ってたの、本当だったんだ…」
机に肘をついて、響子は呟く。
信じていなかったわけではなかったのだが、改めて驚く。
「(女の子が良かったのになぁー…)」
響子が考えていると、担任の「入ってー」の合図で、前のドアが開いた。
:10/04/19 18:31
:N08A3
:6hENWB/Y
#20 [我輩は匿名である]
入ってきたのは、少しロン毛がかった茶髪に細身で長身の、優しそうな顔の男子。
女子が再度ザワザワと声を上げる。
「(…ん…?あの子どっかで…)」
彼を見て、響子は1人首を傾げる。
桐生 良介。
担任が黒板に名前を書いた。
「…キリュウ…リョウスケ…」
名前にも聞き覚えがあるが、響子はどうしても思い出せない。
「桐生良介くんです。じゃあ簡単に自己紹介を」
「はい」
:10/04/19 18:32
:N08A3
:6hENWB/Y
#21 [我輩は匿名である]
転入生は笑顔で返事をして、生徒の方を向く。
「桐生良介です。5歳まで隣町に住んでたんですけど、父の転勤でアメリカにいました」
要するに、帰国子女ってやつだ。
響子の前の女子達が、嬉しそうにはしゃぐ。
「この辺もだいぶ変わってて何にもわからないんですけど、
楽しくやっていきたいと思うので、仲良くして下さい。よろしくお願いします」
桐生良介はそう言って一礼する。
クラスメイトが歓迎の拍手を送る。
:10/04/19 18:32
:N08A3
:6hENWB/Y
#22 [我輩は匿名である]
「(……隣町……アメリカ……)」
響子は手を叩きながら考える。
そして、ふと思い出した。
「(……もしかして…隣の隣に住んでた、あの“良介くん”…?)」
響子が幼稚園の時に、近所の同い年の男の子が引っ越していった気がする。
幼なじみだったのだが、すっかり忘れていた。
:10/04/19 18:32
:N08A3
:6hENWB/Y
#23 [我輩は匿名である]
休み時間になり、良介の周りは女子でいっぱいだ。
響子は暇なので8組にでも行こうと、席を立つ。
それを良介がたまたま見ていた。
「ねぇ、あの子は?」
ちょうど出ていく所だった響子を指差す。
「あぁ、あの子は香月響子ちゃん」
「えっ!?香月響子!?」
良介が驚いて立ち上がる。
そして、響子を追い掛けるようにして教室を出た。
:10/04/20 10:09
:N08A3
:DuuM/8z6
#24 [我輩は匿名である]
「あぁ、響子」
8組では、黒板の前であの4人が喋っていた。
薫に呼ばれて、響子も輪の中に入る。
「どうだった?転入生」
「それが…」
「響子ちゃぁぁぁん!」
廊下で誰かが叫ぶ声がした。
5人がぎょっとして見ていると、良介が走ってやって来た。
:10/04/20 10:10
:N08A3
:DuuM/8z6
#25 [我輩は匿名である]
「…誰?」
鬱陶しそうに奏子が尋ねる。
「てんにゅ…」
「君だね!?君が響子ちゃんだね!?」
良介はそう言って、目を輝かせながら飛鳥の手を握る。
「はぁ?何だよ、あんた」
「えっ?僕の事覚えてないの!?」
「…香月響子は私です…」
響子がしぶしぶ手を挙げる。
:10/04/20 10:10
:N08A3
:DuuM/8z6
#26 [我輩は匿名である]
良介は「へ?」と響子を見る。
「………えっ?君が響子ちゃん?」
「うん…」
「……さっきから『響子ちゃん、響子ちゃん』と馴れ馴れしい…」
歓声を上げる良介に、薫が顔をしかめる。
「ねっ!僕の事覚えてる!?君の隣の隣に住んでた良介だよ!
あーっ、やっと会えた!元気だった!?身長縮んだね!?」
良介は今度は響子の両手を握りなおす。
:10/04/20 10:11
:N08A3
:DuuM/8z6
#27 [我輩は匿名である]
「(…なんだこのテンション…うぜぇ…)」
「(…縮んだって…)」
「(イケメン…♪)」
3人がそれぞれ思っていると、薫が不機嫌そうに良介の手を振り払った。
「いきなり入ってきて何なんだ?馴れ馴れしく手なんか握りやがって…」
「…何って、僕響子ちゃんのフィアンセだよ?」
良介は当然のように言い放つ。
その一言に、直人達だけでなく、教室中が静まり返った。
:10/04/20 10:12
:N08A3
:DuuM/8z6
#28 [我輩は匿名である]
「…お前…ふざけてるのか…?」
薫は哀れみを込めた目で良介を見る。
「ふざけてないよ。約束したもん、響子ちゃんと」
「は!?」
響子がすぐさま「違う違う」と手を振る。
薫と響子が付き合っている事を知っているクラスメイト達が、良介を見て笑っている。
「違わないよ!幼稚園の時に『大人になったら結婚しようね』って言ったら、
響子ちゃんも『うん♪』って言ってくれたじゃないか!」
「お前…これ以上いい加減な事言ったらぶっ飛ばすぞ…!」
薫の怒りが頂点に達しかけている。
:10/04/20 10:12
:N08A3
:DuuM/8z6
#29 [我輩は匿名である]
が、良介は動じずに首を傾げる。
「っていうか、君誰?」
「俺は!香月響子の彼氏だ!!」
薫は思わず声を荒げる。
クラスメイト達が喜んで声を上げ、薫に拍手を送る。
が、薫は今それどころじゃない。
良介の胸倉を掴み、睨み付ける。
「これ以上響子に手ぇ出したら…殺す…!」
本気で殴り殺しそうな薫に、直人達もおろおろする。
:10/04/20 10:13
:N08A3
:DuuM/8z6
#30 [我輩は匿名である]
…が。
「ワーォ!ジャパニーズボーイこわーい☆」
良介はへらっと笑って言った。
薫の顔が引きつる。
「…地獄に落ちろぉぉぉぉーーー!!!!」
「わあぁぁぁっ!薫!!落ち着けー!!」
良介に殴りかかる薫を、直人や周りにいた男子が慌てて止める。
その間に、響子は奏子と飛鳥の後ろに避難する。
薫が押さえられているのを良い事に、良介は笑いながら、「響子ちゃん!また後でねー」と出ていった。
:10/04/20 10:13
:N08A3
:DuuM/8z6
#31 [我輩は匿名である]
「…何だったんだ…?」
飛鳥と奏子は呆れ返る。
「…許さん……絶対後で殺す…!」
薫は息を荒くしてドアの方を睨む。
直人は、「また何かややこしい事になりそうだ」とため息をついた。
:10/04/20 10:14
:N08A3
:DuuM/8z6
#32 [我輩は匿名である]
帰り道。
薫はまたもや顔を引きつらせる。
目の前には、満面の笑みを浮かべた良介の姿。
「……お前…ケンカ売りに来たのか…?」
「まさか♪」
「つーか、お前誰?」
薫の代わりに直人が尋ねる。
横には呆れている飛鳥と、ちょっと楽しんでいる奏子。
響子は薫の後ろに身を隠している。
:10/04/20 21:30
:N08A3
:DuuM/8z6
#33 [我輩は匿名である]
「僕かい?僕は桐生良介。響子ちゃんのフィ」
「響子の婚約者は俺だ」
良介が言い切る前に、薫が言い張る。
「なぁ、お前何か、勘違いしてねぇか?」
「そんな事はないよ!愛する幼なじみの顔を、僕が忘れるはずがない!」
「幼なじみって、5歳までじゃない!」
薫の後ろから、響子が顔を出して言い返す。
「えっ?やっぱり幼なじみなの?」
奏子がぽかんとして尋ねる。
:10/04/20 21:31
:N08A3
:DuuM/8z6
#34 [我輩は匿名である]
「お、幼なじみだったのは覚えてるよ!?
でも、私は結婚の約束なんかしてないし、私の婚約者はこの月城薫ただ1人よ!」
響子が言うと、良介は「オーマイガッ!」と頭を抱えた。
「(効いた…)」
直人、奏子、飛鳥は呆然とそれを見つめる。
「(…何なんだ、こいつのテンション…)」
薫は「はぁ…」とため息をつく。
しかしその直後、薫の鼻先に、良介の人差し指が伸びてきた。
:10/04/20 21:31
:N08A3
:DuuM/8z6
#35 [我輩は匿名である]
「まぁいいよ!今のうちに好きなだけKissでもSexでもやればいい!
しかし!すぐにこの僕が響子ちゃんを取り戻すからなっ!
覚悟してろよ!つ、…つ…つ……?」
「月城薫だよ…」
怒鳴る元気も無くなって、薫は呆れながら言う。
良介はフン!と鼻息荒く、走って帰っていった。
「…お前みたいなわけわかんねぇ奴に言われなくても、キスでも何でもやってるよ…」
薫は頭を抱える。
:10/04/20 21:32
:N08A3
:DuuM/8z6
#36 [我輩は匿名である]
「…薫…」
少し横を向けば、響子が不安そうに薫を見上げている。
「…大丈夫だよ、そんな顔しなくても、あの変人の言う事は信じてないから」
薫は少し笑って、響子の頭を撫でる。
そして、5人は学校を出ようと歩きだす。
「…何か、英語の発音は良かったな」
「うん」
直人達も呆れたように話し合う。
:10/04/21 17:37
:N08A3
:S8dNuXTM
#37 [我輩は匿名である]
「あの子、帰国子女なのよ。アメリカから帰ってきたんだ…」
「帰国子女!?」
薫以外の3人は声を上げて驚く。
「なんか、お父さんの転勤で5歳の時にアメリカに……」
言いながら、響子は足を止める。
『りょーすけくん、いっちゃうの?』
『うん。あめりかだって』
響子はうっすら思い出してきた。
:10/04/21 17:38
:N08A3
:S8dNuXTM
#38 [我輩は匿名である]
『あめりか?がいこくだね!』
幼稚園児の響子は、良介がアメリカに発つ日に、家の前で見送っていた。
『げんきでねっ♪』
『うん!もしまたあえたら、ぼくと…』
良介が何か言ったが、ちょうど近所の犬が大声で吠えたため、響子は聞き取れなかった。
『ねっ!?』
良介が笑って言った。
それに、響子は適当に『うん!』と返事をしたのだたった。
:10/04/21 17:38
:N08A3
:S8dNuXTM
#39 [我輩は匿名である]
「…ああぁぁぁぁぁ〜………」
響子は頭を抱えて、その場に崩れ落ちる。
急に座り込んだ響子に、直人達は驚いて「うわぁ!?」と声を上げる。
「ど、どうした!?」
薫もびっくりして、響子の前にしゃがみこむ。
「…どうしよう…」
響子は頭を抱えたまま小声で言う。
「え?」
:10/04/21 17:39
:N08A3
:S8dNuXTM
#40 [我輩は匿名である]
「あの時、あの子『結婚しようね』って言ったのかなぁ…?
だったら…だったらどうしよう…」
響子は思い詰めて涙目になる。
「響子…?」
「薫…どうしよう…?私…あの時適当に『うん』って言っちゃった…。
何て言ったのか聞こえなかったけど、適当に返事しちゃったの…。
どうしよう…?私…嫌だよぉ……」
響子はしゃがんだまま、今にも泣きだしそうな顔をしている。
:10/04/21 17:40
:N08A3
:S8dNuXTM
#41 [我輩は匿名である]
「響子」
薫が呆れたように笑う。
「そんな小さい時の事なんか、覚えてなくて当たり前だ。
それに、適当に返事したんならなおさら、そんな物約束だとは言えない。
そんな泣かなくても、俺は何とも思ってないよ」
「…本当…?」
響子は顔を上げる。
「……何とも思ってないわけないだろ…」
薫は低い声で言った。
:10/04/21 17:40
:N08A3
:S8dNuXTM
#42 [我輩は匿名である]
「へ?」
「あんなわけのわからないアメリカかぶれに…響子を渡してたまるか…。
『僕がフィアンセだ』ぁ?ふざけんじゃねぇぞ…」
思い出したら機嫌が悪くなってきたのか、薫の周りを黒いオーラが漂い始める。
「ヤべぇ…キレかけてる…」
直人が「どうしよう」と、奏子と飛鳥を交互に見る。
:10/04/21 17:40
:N08A3
:S8dNuXTM
#43 [我輩は匿名である]
しかし、直人の心配をよそに、響子がそっと、薫にキスをした。
奏子が「きゃあーっ♪」と声を上げる。
「……響子…」
薫は少し頬を赤らめる。
「…私が好きなのは、薫だけだから。絶対薫以外変わらないからね」
響子は困った表情をしていたが、それだけははっきりと、迷う事無く言った。
:10/04/21 17:41
:N08A3
:S8dNuXTM
#44 [我輩は匿名である]
「…うん」
薫も安心したようにまた笑い、響子を強く抱き締める。
「………ついていけねぇ……薫、先帰るぞ」
直人はそう言って、早足で歩きだした。
つられて、飛鳥と奏子も直人と一緒に歩き始めた。
:10/04/21 17:41
:N08A3
:S8dNuXTM
#45 [我輩は匿名である]
「いやぁー、純愛ですなぁー」
しばらく歩いて、奏子は腕を組みながら言った。
「どこのおっさんだよ、お前」
「だってさぁ、憧れるじゃない?ね?飛鳥」
奏子は飛鳥にも話を振る。
「…そうだね」
飛鳥も小さく笑って同意した。
その顔が、石川晶が喜んだ時の顔にそっくりで、直人は少しドキッとする。
:10/04/21 22:05
:N08A3
:S8dNuXTM
#46 [我輩は匿名である]
夏休みの前に言われた、響子の『やっぱりあの子が好きなの?』と言う言葉が甦る。
「(…って言われても…)」
直人は横目で、楽しそうに話している飛鳥を見つめる。
「そんな事聞かれてもなぁ…」
「ん、何か言った?」
直人の独り言が聞こえたのか、奏子がこっちを向く。
「へっ!?い、いや、別に…」
「怪しいな」
「怪しくねぇよ!」
怪しむ飛鳥に、直人は声を荒げて否定する。
:10/04/21 22:05
:N08A3
:S8dNuXTM
#47 [我輩は匿名である]
「…お前らにも、好きな奴とかいんの?」
直人は何気なく2人に聞いてみる。
「私は…まだそれどころじゃないしなぁ…」
飛鳥はふうっと一息つく。
「まだ親とも話してないし…4ヶ月経ってもバイトにはまだまだ慣れないし。
生きるのに精一杯って感じ…かな…」
そう言いつつ、飛鳥の表情は、どこか晴れ晴れとしている。
:10/04/21 22:06
:N08A3
:S8dNuXTM
#48 [我輩は匿名である]
直人はそれを見て、少し笑う。
それを、奏子は黙って見つめる。
「お前は?」
直人は奏子に聞き直す。
「えっ!?」
「お前イケメン好きとか言ってたから、あのアメリカかぶれとか、いんじゃねぇの?」
「はぁ!?何で私があんな奴と!」
奏子は全力で否定する。
「いいじゃん、お似合いじゃねーか」
直人は「うんうん」と自分で納得する。
:10/04/21 22:06
:N08A3
:S8dNuXTM
#49 [我輩は匿名である]
横では飛鳥が笑っている。
奏子はしばらくムスッとしていたが、何となく直人を見上げる。
「(…こいつは…好きな人いるのかなぁ…?)」
「あ、そういえば、バイト楽しいか?」
「うん、店長が相変わらず怖いけど、やっと一通り出来るようになったかな」
「へぇ。じゃあそろそろ行ってみねーとな!」
「来なくていいから!」
「何でだよ!いいじゃん別に!」
「来たら紅茶ぶっかけるから!」
「それ損するのお前だろ」
:10/04/21 22:07
:N08A3
:S8dNuXTM
#50 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥が仲良く言い合いをしている。
「(…やっぱり、飛鳥が好きなのかなぁ…?)」
そう思うと、何だか虚しくなってきて、奏子は首を振って考えないようにした。
:10/04/21 22:07
:N08A3
:S8dNuXTM
#51 [我輩は匿名である]
次の日は課題テストだった。
すっかり忘れていた直人は、魂が抜けたように呆然とする。
しかし、もっと大変なのは薫だった。
「おい月島!」
「月城、だ」
今日も懲りずにやってきた良介に、うんざりしたように訂正する。
:10/04/21 22:08
:N08A3
:S8dNuXTM
#52 [我輩は匿名である]
「今日課題試験なんだろう?だったら僕とBattleしろ!」
「面倒だから断る」
「逃げるのか!?」
早くも勝ち誇った顔をする良介に、薫は眉をピクつかせる。
「なんでお前とバトルしないといけないんだ?」
「勝ったら響子ちゃんを返してもらうんだ!」
「やだ」
「何なんだお前は!?月島!お前にはPrideというものはないのか!?」
「だから月城だ。それにプライドどうこういう話じゃないだろ。
響子が聞いたら俺に泣き付いてくるだろうなぁ」
:10/04/21 22:09
:N08A3
:S8dNuXTM
#53 [我輩は匿名である]
「抱きつくだと!?そんな事させないぞ!」
「(あぁ…もう言い間違いも聞き間違いもどうでも良くなってきた…)」
やけに気負っている良介に、薫は早くも呆れムードになってきた。
「(…でもまぁ、響子の事は抜きで、ちょっと見返してやっても良いな)」
薫はニヤッと小さく笑う。
「なぁ、桐生。今回は響子の話は抜きにして、点数バトルだけやってみないか?」
「何だと!?」
「今回は課題テストだ。宿題やってればそこそこ点数が取れる。
どうせなら期末とかの実力テストで競う方がやりがいあるだろ」
:10/04/21 22:09
:N08A3
:S8dNuXTM
#54 [我輩は匿名である]
「…ふむ」
良介は腕を組んで考え込む。
そして、少し経って「いいだろう!」と答えを出した。
「月島!絶対に手を抜くなよ!」
「はいはいわかりましたよ」
適当に返事をすると、良介は気合いを入れて8組を出て行った。
:10/04/21 22:09
:N08A3
:S8dNuXTM
#55 [我輩は匿名である]
「月城、あいつ見返してやれよな!」
クラスの男子たちが、薫に声援を送る。
「あぁ」
「あいつ、入ってきてそうそう、女子にちやほやされやがってさぁ…」
「あぁ…」
「でも、月城くんこの間学年1位だったから、楽勝なんじゃない?」
「いや、どうかわかんないけど…まぁ頑張るよ」
薫は笑ってみせる。
「(学年1位…あぁ…そう言えばあいつ1位だったな…。
俺110位っていう超微妙な順位だったのに…)」
:10/04/21 22:10
:N08A3
:S8dNuXTM
#56 [我輩は匿名である]
この学年は生徒が320人いるため、直人の順位もそこまで悪くないのだが、
親友が1位という事を考えるだけで、何となく欝になってくる。
「やっぱ頭良いんだね、月城」
斜め後ろの席にいる飛鳥が、直人の傍にやって来た。
「よく1位とか取れるよな、脳みそどうなってんだか」
「ははっ、あんた何位だっけ?」
「110位」
「…警察呼べそうな順位だね」
:10/04/21 22:10
:N08A3
:S8dNuXTM
#57 [我輩は匿名である]
「何ちょっと上手いこと言ってんだよ。そういうお前は?」
「あたしは101位」
「俺が警察ならお前は犬じゃねぇかよ」
2人は何だか面白くなって笑いだす。
すると、学校中にチャイムが鳴り響いた。
「ま、お互い月城に近付けるように頑張ろ」
「おうよ」
飛鳥は笑って、自分の席に戻った。
:10/04/21 22:11
:N08A3
:S8dNuXTM
#58 [我輩は匿名である]
「え?あのアメリカンと月城くんが点数バトル?」
バイトに行く途中、飛鳥は今日の薫達の話を奏子に聞かせた。
「まぁ、月城くんなら1学期の期末1位だったから、楽勝だろうけどね」
「そうだよね」
奏子と飛鳥はそろって頷く。
「今回は順位2桁だったらいいなぁ…」
飛鳥は「はぁ…」とため息をつく。
「何で2桁取りたいの?」
「2桁っていうか、出来れば1桁取りたいんだけどね」
:10/04/21 22:12
:N08A3
:S8dNuXTM
#59 [我輩は匿名である]
「えっ!?何で!?」
奏子に聞かれ、飛鳥は少し躊躇いながら答える。
「…私、…親を見返してやりたいの」
「…親?」
「うん。私の親、弟しか見てないから…いい成績とって見せてやりたいんだ」
「へぇ…」
飛鳥の話に、奏子はきょとんとする。
「最初は親なんかどうでも良かったんだけどさ。
でも…水無月に元気付けられてから、自分にも何か出来そうな気がしてきて…」
:10/04/21 22:13
:N08A3
:S8dNuXTM
#60 [我輩は匿名である]
飛鳥は柔らかな笑顔を見せる。
奏子は黙って、その横顔を見つめる。
「…飛鳥はやっぱり、水無月の事好きなの?」
「へ?」
思いもしない質問をされて、飛鳥は素早く奏子を見る。
「ま、まさかー!」
飛鳥は手を振りながら否定する。
「そ…そうだよねー。ごめん、何か変な事聞いた!」
奏子は「へへへ」と笑う。
:10/04/21 22:13
:N08A3
:S8dNuXTM
#61 [我輩は匿名である]
「(…好き…じゃない、よな…」
飛鳥は答えてから、自分の心臓の鼓動が高鳴っているのに気付いた。
「(……そりゃ…晶と要はそうだったけど……、私は…)」
考えれば考えるほど、何だか胸が熱くなる。
「(……水無月は……私の事、どう思ってるんだろ…?)」
「飛鳥!」
:10/04/21 22:14
:N08A3
:S8dNuXTM
#62 [我輩は匿名である]
奏子が飛鳥の腕を掴む。
「へっ?」
振り向くと、アルバイト先のカフェを通りすぎかけていた。
「あれっ?ごめんごめん」
飛鳥は笑いながら店の中に入る。
奏子も何だか少しモヤモヤした気持ちで入っていった。
:10/04/21 22:14
:N08A3
:S8dNuXTM
#63 [我輩は匿名である]
4日後。
廊下に張り出された課題テストの順位を見て、一年生のほぼ全生徒が愕然とした。
直人は100位、飛鳥は98位、響子は121位、奏子は165位だった。
しかし、4人とも自分の順位など、もはやどうでも良かった。
「薫が…」
「2位…?」
「ええーっ!?」
直人、飛鳥、奏子が茫然とする横で、響子と薫が凍り付いている。
:10/04/22 18:36
:N08A3
:07aOrgP2
#64 [我輩は匿名である]
『2位:月城 薫(8組) 498点』
の上に1行、
『1位:桐生 良介(4組) 499点』
と書いてあった。
「月城ー!」
クラスの男子たちが薫に詰め寄る。
「何であと2点頑張れなかったんだぁー!?」
「…これでも自己ベストなのに…」
肩を持って揺さ振られながら、薫はブツブツ呟く。
:10/04/22 18:36
:N08A3
:07aOrgP2
#65 [我輩は匿名である]
「おい月島!」
その声に、クラスメイトの手が止まる。
見ると、自信有りげな顔をした良介が立っていた。
「(来たーーーっ!!)」
薫以外の4人が縮こまる。
「お前、名前すらないじゃないか」
「お前のすぐ下にあるだろ」
「What's?」
良介は成績表とにらめっこする。
「ん?お前、月島じゃなくて月城(つきじょう)だったのか」
:10/04/22 18:36
:N08A3
:07aOrgP2
#66 [我輩は匿名である]
「惜しいな、月城(つきしろ)だ」
何故か反対に、薫が良介を見下した言い方をして威張る。
「おっ、惜しいのはお前の方だろ!
まさかお前、負けるのがわかってたから響子ちゃんを渡さないように…!?」
「さぁな?でも…」
薫はフッと笑う。
「次は負けねぇからな…」
良介の目の前で、薫は宣言する。
:10/04/22 18:37
:N08A3
:07aOrgP2
#67 [我輩は匿名である]
「のぞくところだ!」
「あぁー惜しいな、のぞ“む”だな」
「だっ、黙れ!覚えてろよ!次こそは響子ちゃんを返してもらうからな!」
良介はキッと睨み返して、自分の教室に戻っていった。
「…何でテストの順位で響子の婚約者を決めなきゃいけないんだ…」
さっきまで威勢が良かったのに、薫は急に暗くなって壁にもたれかかる。
「…薫…」
:10/04/22 18:37
:N08A3
:07aOrgP2
#68 [我輩は匿名である]
「…いや、やっぱりおかしいだろ」
薫はもたれるのを止め、しゃきっと立つ。
そして、響子の方を向いた。
「やっぱ、断ってくる」
「へ?」
「だって、おかしいだろ?お前だって、他人の点数で彼氏決められるなんて…」
そう言われて、響子も「…うーん…」と頭を悩ませる。
「ちょっと、あいつに言って来る。響子はここにいろ」
そう言って、薫は良介の後を追った。
:10/04/22 18:37
:N08A3
:07aOrgP2
#69 [我輩は匿名である]
「おい、桐生」
薫に呼び止められ、良介は足を止めて振り向く。
「…俺、やっぱり勝負降りる」
薫はきっぱりと言い張った。
その言葉に、良介はフッと、余裕の笑みをこぼす。
「僕に勝てないから?」
薫は心底イラッとしたが、冷静に「そうじゃない」と言い返す。
:10/04/22 18:38
:N08A3
:07aOrgP2
#70 [我輩は匿名である]
「同じ事じゃないか。僕に負けて、響子ちゃんを取られるのが怖いんだろう?
そうだよねぇ。あんだけ自信満々で話に乗ったのに、負けたんだからね」
「…お前…!」
「知ってる?響子ちゃんの好きな男のタイプ。
格好よくて、優しくて、頭が良い男だって。
君、そんな事知らないだろ?」
良介はまるで、薫を見下すような言い方で笑う。
「…そんなもん、ガキの時の話だろ」
薫は良介を睨みながら言い返す。
:10/04/22 18:38
:N08A3
:07aOrgP2
#71 [我輩は匿名である]
しかし、良介の表情は変わらない。
「残念だけど、今君に何言われても、負け犬の遠吠えにしか聞こえないよ?
悪いけど、君に勝ち目は無いと思うけどな。まぁ、頑張ってみれば?」
良介は笑って、教室に入っていった。
廊下に残った薫は1人、黙ってうつむいて、両手を握り締めていた。
:10/04/22 18:39
:N08A3
:07aOrgP2
#72 [我輩は匿名である]
「そう言えば神崎、お前2桁だったじゃん」
教室に入って、直人は飛鳥に言った。
「ん?あぁ、見てたんだ」
「俺も2点足らずでお前に負けたんだ…。薫の気持ちがよくわかる…」
席についてすぐ、直人は頭を抱えてため息をつく。
「何よ、そっちか…」
「…おっと、そういう話じゃねぇな」
単純な直人は、飛鳥の方を向いて笑いかける。
:10/04/23 18:58
:N08A3
:KdcsC5Iw
#73 [我輩は匿名である]
「やるじゃん!そろそろ親もちょっとはお前の事見直すんじゃね?」
「…まだまだ」
飛鳥は苦笑する。
「弟の1番良かった順位は、9位らしい。だから、私は8位以上を目指すって決めてんだ」
「マジで?でもこれから、1位2位はあのアメリカンと薫が占めるだろうから…
3位〜8位…6人しか枠がないぞ?」
「…まぁ、何とかなるっしょ。ダメそうなら月城に勉強でも教えてもらうわ」
「あぁ、それがいいな」
2人は話ながら笑い合う。
:10/04/23 18:58
:N08A3
:KdcsC5Iw
#74 [我輩は匿名である]
「……水無月さぁ」
飛鳥は何気なく話を変える。
「あん?」
「…もし私が…」
そこまで言って、飛鳥はハッと言うのをやめた。
「…えっ?何だよ?」
「…ごめん、やっぱ何にもない。忘れて」
「はっ??」
ぽかんとしている直人を見ずに、飛鳥は自分の席に戻った。
:10/04/23 18:58
:N08A3
:KdcsC5Iw
#75 [我輩は匿名である]
その夜、直人はベッドに寝転んでボーッと考えていた。
今日、飛鳥は自分に何を言おうとしていたのか。
あの時の飛鳥の顔は、いつものような表情ではなかった。
直人はそれが気になっていたのだ。
「(…別に怒ってるような顔でもなかったし…何だったんだろ?)」
ふと、響子の『鈍感ね』という言葉が頭に浮かぶ。
あの言葉は、こういう事を指しているのだろうか。
「……って事は…やっぱ俺、気に障るような事したのか…?」
直人はしばし、黙って考える。
しかし、答えが出ないまま眠りに落ちてしまった。
:10/04/23 18:59
:N08A3
:KdcsC5Iw
#76 [我輩は匿名である]
ある日。
掃除当番だった直人は、同じく当番だった飛鳥と奏子と一緒に帰っていた。
薫と響子は、すでに先に学校を出ている。
「…ん?」
道端で、直人はふと足を止める。
視線の先には、スーパーの重そうな袋を両手に下げて立ち止まっているおばあさんの姿。
「どうかしたの?」
奏子が直人に尋ねる。
「…ちょっとな」
:10/04/23 18:59
:N08A3
:KdcsC5Iw
#77 [我輩は匿名である]
直人はそれだけ言って、おばあさんに近づく。
飛鳥と奏子は、その場で様子をうかがう。
「ばあさん、大丈夫か?」
直人はおばあさんに声をかける。
「はぁい?」
おばあさんが顔を上げて、直人を見る。
そして、「あぁ、あんたは…!」と驚きの声を上げた。
「…へ?」
「あんた、あの時の子で……」
おばあさんはそこまで言い掛けて、「ん?」と考え直す。
:10/04/23 19:00
:N08A3
:KdcsC5Iw
#78 [我輩は匿名である]
「…あぁ、私ったらすごい勘違いしたわ。もうあれから40年くらい経ってるのに」
おばあさんはそう言って、上品な笑い声を上げる。
直人は「ん?」と首をかしげる。
「…まぁそれより、それ重くないか?俺運んでってやろうか?」
「あら、本当?…でも、悪いし…」
「いいよ、荷物運ぶぐらい。歩きって事は、家もそんな遠くないんだろ?」
「…行ってみよっか」
2人のやり取りが気になって、飛鳥も直人達の所まで歩く。
:10/04/24 12:46
:N08A3
:23VVxZiA
#79 [我輩は匿名である]
奏子はおばあさんを見て、「もしかして…」と声を漏らす。
「じゃあ…運んでもらえる?」
「おう、いいぜ」
直人は快く言って、おばあさんから荷物を受け取る。
「…私も何か持とうか?」
飛鳥はどういう話なのかすぐに理解して、直人に声をかける。
「え?いいよ、別に」
「でも、重そうだし…」
そう言われて、直人は「まぁ確かに…」と心の中で思う。
:10/04/24 12:47
:N08A3
:23VVxZiA
#80 [我輩は匿名である]
「あ、じゃあ1個持って」
「あぁ、いいよ」
飛鳥は頷いて、代わりに直人の鞄を持った。
「なんか、悪いわねぇ…」
「いいですよ、私も暇だから」
「私“も”って何だよ?俺が暇みたいだろ」
「だって暇じゃん」
2人が言い合っている間に、奏子も駆け寄ってきて、おばあさんの顔を見る。
:10/04/24 12:47
:N08A3
:23VVxZiA
#81 [我輩は匿名である]
「あ、やっぱりおばあちゃんじゃん!」
「あらぁ、奏子のお友達だったの」
「………え?」
2人の会話に、直人と飛鳥はきょとんとする。
「この人、うちのおばあちゃんだよ♪」
「マジで!?」
「こ、こんにちは…」
「あらあら、こんにちは」
直人と飛鳥がびっくりしている横で、奏子のおばあさんが笑う。
:10/04/24 12:47
:N08A3
:23VVxZiA
#82 [我輩は匿名である]
「あ、うちの家こっちだから、ついてきて」
奏子はそう言って歩きだす。
2人もぽかんとしたままついていく。
「あらぁ、しかしまぁ、あなた、私が昔会った男の子にそっくりだわ」
おばあさんが懐かしそうに直人に言った。
「そんなにそっくりなのか?」
「…敬語使いなよ」
「あ?あぁ、そうか」
「あーいいわよ、そんな気を遣わなくても」
おばあさんはまた笑う。
:10/04/24 12:48
:N08A3
:23VVxZiA
#83 [我輩は匿名である]
「そうねぇ。私がむかーし、姫崎公園に行きたかったのに、迷っちゃってねぇ」
「…え?」
直人は思わずおばあさんの顔を見る。
「その時に、道案内してくれた男の子がいたのよ。
あなたが、その子にあんまりそっくりだったから、つい…」
「道案内…って…」
飛鳥もハッと、直人を見る。
「あの子、元気かしらねぇ…?」
おばあさんは微笑みながら呟いた。
:10/04/24 12:48
:N08A3
:23VVxZiA
#84 [我輩は匿名である]
直人は少し考える。
「あ、そう言えばあの子、お友達の事気にしてたわねぇ。
なんかねぇ、その道案内してくれた子のお友達が、元気がないか何かでね。
その子、私と同じように養護施設で育ったらしいんだけど。
その子は元気になったのかしら…?」
懐かしくて仕方ないのか、おばあさんは話を進めていく。
『その子』とは、多分晶のことだろう。
直人は何と言えば良いのか、少し困った顔で考える。
:10/04/24 12:49
:N08A3
:23VVxZiA
#85 [我輩は匿名である]
「(…あの後何日かして2人とも死んだとか…言えねぇしなぁ…)」
無言で、眉間にしわを寄せる。
「…2人とも、今も仲良くやってると思いますよ」
そう言ったのは、飛鳥だった。
直人と奏子が、同時に飛鳥を見る。
飛鳥は小さく笑みを浮かべている。
「…そうだな」
彼女を見て、直人もニッと笑う。
:10/04/24 12:49
:N08A3
:23VVxZiA
#86 [我輩は匿名である]
「俺も、2人とも元気にやってると思うぜ」
「…そうねぇ、あの男の子なら、元気にやってそうね」
おばあさんは、安心したようににっこり笑う。
「(…水無月…何か一瞬変だった…?)」
奏子は直人を見ながら首を傾げる。
「あなたたちにも言っとくわ。あの男の子にも言ったんだけどね」
おばあさんは3人に言う。
:10/04/24 12:49
:N08A3
:23VVxZiA
#87 [我輩は匿名である]
「人との間に、壁を作っちゃダメなのよ。
仲良くなりたければ、一歩踏み出さなきゃ。
わかった?」
「あぁ…」
「はい」
「前も聞いたけどな」と思いながら、直人は相づちをうつ。
飛鳥もそれを聞くのは2度目だったが、素直に返事をした。
「…あ、着いたよ。あたしん家」
奏子は目の前の一軒家を指差す。
:10/04/24 12:50
:N08A3
:23VVxZiA
#88 [我輩は匿名である]
「おぅ。意外と近かったな」
「ありがとうねぇ、2人とも」
おばあさんは直人と飛鳥に笑いかける。
「どういたしまして」
2人はそろって返事をする。
「ありがとう。ここまで来たらもう大丈夫」
家のドアの前まで来て、奏子も2人に言った。
「いいのか?」
「うん」
奏子に言われ、直人と飛鳥は、ドアのそばに買い物袋を置く。
:10/04/24 12:50
:N08A3
:23VVxZiA
#89 [我輩は匿名である]
「お茶でも飲んでいったら?」
「いえ、私たちはこのまますぐに帰りますから」
おばあさんの申し出を、飛鳥が丁寧断る。
「あら、そう?じゃあまた遊びに来てね」
おばあさんはニッコリ笑った。
「んじゃ、俺たちはこれで」
「さよならー」
2人はおばあさんと奏子に手を振って、並んでその場を後にした。
:10/04/24 12:51
:N08A3
:23VVxZiA
#90 [我輩は匿名である]
「いい子達だねぇ」
おばあさんは笑って奏子に言う。
奏子は「うん」と返事をしつつ、帰っていく2人の背中を、複雑な気持ちで見つめていた。
:10/04/24 12:52
:N08A3
:23VVxZiA
#91 [我輩は匿名である]
「優しそうなおばあちゃんだったね」
帰り道、飛鳥が何気なく言った。
「そうだな。元気そうで嬉しかったなぁ」
直人も満足そうに笑う。
「まぁ言われてみれば、面影がないこともないな」
「1日しか会ったことないのに、面影とか覚えてんの?」
「ま、まぁ何となく…」
直人は目を泳がせる。
:10/04/27 08:33
:N08A3
:n39Qyhsk
#92 [我輩は匿名である]
それを呆れて見た後、飛鳥はふと、こんな事を言った。
「…うちにも、あんなおばあちゃんがいたら良いのに」
直人は「へ?」と、飛鳥を見る。
「……お前、相変わらず親とは口きいてないんだっけ?」
「きいてない。バイトしてるのも知らないし」
飛鳥は苦笑して答える。
「そうか…」
「まぁ、ちょっと平気になってきたけどね」
「うーん…」
直人は「何かいい方法はないかな」と首をひねる。
:10/04/27 08:33
:N08A3
:n39Qyhsk
#93 [我輩は匿名である]
「いいよ、そんなに頑張って考えてくれなくても」
飛鳥は小さく息をつく。
「そのうちどうにか出来れば良いかなってぐらいだし」
「そうか?…まぁ、今は香月とか安斎とか、友達いるもんな、お前」
「うん」
飛鳥は笑って頷く。
「…あんたのおかげ、かな」
:10/04/27 08:34
:N08A3
:n39Qyhsk
#94 [我輩は匿名である]
「…は?」
飛鳥に言われて、直人はびっくりして彼女を見る。
飛鳥は少しだけ頬を赤らめて顔を背ける。
「(…あれ、なんか、変な感じする)」
直人は恥ずかしいような照れるような、なんだかわからない感覚に襲われた。
2人はそれぞれ同じような事を考えながら帰っていった。
:10/04/27 08:34
:N08A3
:n39Qyhsk
#95 [我輩は匿名である]
「そりゃお前、あいつに気があるんだろ」
飛鳥と帰った時の事を話すと、薫はあっさり言い切った。
「えぇっ!?」
直人はぎょっとしすぎて、持っていた箸を落としそうになる。
「お、俺が!?あいつを!?」
落とさないように箸を握って、少し声を荒げる。
「まぁ、その逆もありえると思うけど」
薫は言いながらサンドイッチを口に入れる。
:10/04/29 13:13
:N08A3
:VvK4rUGI
#96 [我輩は匿名である]
そういう事に関して全く疎い直人は、話についていけず呆然とする。
「え…えぇ…?」
「本当鈍感だよな、お前。どうすればそこまで鈍感になれるか知りてぇよ」
薫は呆れ返ってため息をつく。
直人は「そんな事言われても…」と頬を膨らませる。
「まぁ、そういう所がいいんじゃないのか?」
「…なんか嬉しくない」
直人は不機嫌そうに言い返す。
「…全く自覚してないのか?」
:10/04/29 13:13
:N08A3
:VvK4rUGI
#97 [我輩は匿名である]
「…うーん…何か、よくわかんねぇんだよなぁ…」
直人は箸を咥えて腕を組む。
「好きとかじゃない気がして…。なんかこう…“見守っててやりたい”…っていうか…。
何か、本気で応援してやりたくなるっていうか…」
「(…似たような事だろ)」
直人の話を聞きながら、薫は思った。
「…いいな、お前は平和そうで」
不意に、薫はそう言ってため息を吐いた。
:10/04/29 13:14
:N08A3
:VvK4rUGI
#98 [我輩は匿名である]
「何だいきなり」と、直人は首をひねる。
「…響子は…あいつの事、どう思ってるんだろ…」
薫は遠い目をして、机に肘をつく。
「あいつ?あのアメリカンの事か?てか、結局どうなったんだよ」
「“負け犬の遠吠え”、“君に勝ち目はない”、…そう言われた」
「はぁ!?何なんだあいつ!!」
短気な直人は、思わず声を荒げる。
:10/04/29 13:14
:N08A3
:VvK4rUGI
#99 [我輩は匿名である]
「…でも、あいつは響子の事を何も知らない。
あんな押し付けがましいやり方で、響子が納得するはずがない」
「当たり前だろ!今までお前らがどんだけしんどい思いしてきたか、あいつ何も知らないんだぞ!?
あんな奴に香月取られてたまるかよ!」
まるで自分の事のように、直人は腹を立てて騒ぐ。
「…でも、あいつは俺の言う事には全く耳を貸さない。
何を言っても、きっとまた“負け犬の遠吠え”って嘲笑うだけだろ。
…だから多分、俺が成績1位を取り戻す以外、あいつは納得しないだろうな」
:10/04/29 13:15
:N08A3
:VvK4rUGI
#100 [我輩は匿名である]
「あいつが納得するとかしないとか、どうでもいいだろ!」
「前みたいな目には遭いたくないんだよ」
薫は少しきつく言い返した。
そう言われて、直人はやっと、少し黙り込む。
確かに、怜奈のような行動に出られてはいろいろと面倒だ。
薫は1人で、そこまで考えていたのだろう。
そう思うと、直人はそれ以上何も言えなかった。
:10/04/29 13:15
:N08A3
:VvK4rUGI
#101 [我輩は匿名である]
「ねぇ、飛鳥」
バイトに行く途中、奏子は飛鳥に尋ねる。
「水無月が、前に変なおっさんから、前世の本もらったって話、知ってる?」
「…知ってるよ」
飛鳥は少しきょとんとした顔で答える。
「…飛鳥って、その、水無月の前世の話に関係あったりする?」
奏子は続けて聞く。
「…なんで?」
今度は飛鳥が聞き返す。
:10/04/30 20:32
:N08A3
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