浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#801 [笹]
「そうです、ねぇ」
「早く教えてくださいよぉ!!」
「香夜さんは‥どんな?」
正座をして急かすあたしに
余裕たっぷりにそう言った
話をそらすのが本当に上手い
:10/03/08 17:37 :D905i :6zJg1U3A
#802 [笹]
「‥言えません」
昨晩みた夢は壱助さんに‥
そんなこと
死んでも言いたくない!!
「私に逆らう、と?」
卑怯だ‥壱助さん
:10/03/08 17:38 :D905i :6zJg1U3A
#803 [笹]
「絶対絶対絶対!!
絶対言いませんっ!!」
勢いでそう吐き捨てて
畳を押し返し立ち上がった
くるりと背を向ければ
‥ガシッ
急に冷たい感覚が
手首を纏って
:10/03/08 17:38 :D905i :6zJg1U3A
#804 [笹]
‥グイッ
下にかかる力に負けて
情けなくも
ふらりと呆気なく崩れてしまった
「んわっ‥」
すとんと腰を落としたとこは
壱助さんの胡座の中
:10/03/08 17:39 :D905i :6zJg1U3A
#805 [笹]
これ‥もしかして
「これは、これは」
ぎゅうっと後ろから首を抱かれ
耳元に迫る低い声
これって‥
高鳴る胸を抑えようと
そっと呼吸をした
:10/03/08 17:39 :D905i :6zJg1U3A
#806 [笹]
「正夢です‥ね」
そう囁いた声が
電気になって頭に流れて
昨晩の夢と溶け合った‥
_
:10/03/08 17:40 :D905i :6zJg1U3A
#807 [笹]
:10/03/08 17:44 :D905i :6zJg1U3A
#808 [笹]
:10/03/08 17:47 :D905i :6zJg1U3A
#809 [笹]
:10/03/08 17:48 :D905i :6zJg1U3A
#810 [笹]
:
:
「壱助さんって‥」
手にした紙に
ずらりと並ぶ品名と値段
それを指でたどって
あっちこっちに彷徨わせ
「お蕎麦とうどん‥
どっちが好きですか?」
"うーん"と唸りをあげ
眉間に皺を寄せて問った
:10/03/09 14:37 :D905i :7npRrRVQ
#811 [笹]
目の前に座る
問いかけた貴方様は
聞く耳も持たず
「おや、おや
此処にこんなお美しい娘さんが
いたとは‥ねぇ」
色めいた声で
娘さんにご挨拶
:10/03/09 14:38 :D905i :7npRrRVQ
#812 [笹]
これは口説いてるんじゃない
ただの挨拶だそうです
色男、曰わく
「‥ったくぅ」
むかむかする下腹部
いらいらを人差し指に込めて
カツカツと机を叩く
:10/03/09 14:38 :D905i :7npRrRVQ
#813 [笹]
「やだぁもうっ
壱助さんったらぁ〜」
「事実を‥述べたまで、ですよ」
‥いらいらいら
頬を赤く染めた娘さん
‥別に
娘さんを恨むわけじゃないけど
:10/03/09 14:39 :D905i :7npRrRVQ
#814 [笹]
って言うか誰でも
こんな色男に言われたら
顔赤くするだろうけど‥
んぅー‥やきもち?まさか
「壱助さん、今日は
何になさいますの?」
「そう‥ですねぇ」
:10/03/09 14:39 :D905i :7npRrRVQ
#815 [笹]
何なの?
壁があるの?ここには
全くこちらに目も向けず
いや‥わざとらしいかも
「今ならお蕎麦が‥
打ち立てですのよ?」
にこり笑った娘さん
薄い朱色の着物が躍る
:10/03/09 14:40 :D905i :7npRrRVQ
#816 [笹]
「では‥其れで」
「あたしも!!お蕎麦にします!!」
重ねるようにそう言えば
"いたんです、か"と
嫌みったらしく
惚けた顔で呟かれ‥
‥いらいらいら
:10/03/09 14:41 :D905i :7npRrRVQ
#817 [笹]
「あのぉう‥壱助さん?」
恥じらうようにもじもじして
娘さんが声をかけた
「この後って‥」
‥あたしが居るのに
よくそんなこと言える
遠慮して小声にしたのか
何なのかわからないけど
聞 こ え て ま す か ら !!
:10/03/09 14:41 :D905i :7npRrRVQ
#818 [笹]
「えぇ‥構いません、よ」
あたしの存在はなんなのか
消されてるのか
女に見えてないのか‥
ここまでくると切ない
楽しそうに話す二人が
遠くにぼやけて見えた
:10/03/09 14:41 :D905i :7npRrRVQ
#819 [笹]
:
:
‥カツカツ
「先ほどから‥」
‥ズズズズッ
「ご機嫌が、随分と斜め‥」
‥ゴクッゴクッ
「です、ねぇ」
:10/03/09 14:42 :D905i :7npRrRVQ
#820 [笹]
「ぷはぁあぁっ!!
水!水くださーい!!」
湯飲みを机に打ちつけて
がむしゃらに声を張った
「別に!!いつも通りですぅ」
あたしは
すぐ態度に出てしまう
本当に子供‥
これじゃあいつになっても
相手にされないや
:10/03/09 14:43 :D905i :7npRrRVQ
#821 [笹]
「‥あぁああ!!
なんでわさび入れるんですか?!」
ちょっとよそ見をすれば
お猪口に入った鮮やかな緑色
何事もなかったかのような
壱助さん‥
:10/03/09 14:43 :D905i :7npRrRVQ
#822 [笹]
「好き嫌いは‥良くないです、ぜ」
まるで‥親です
「わさび‥わさびぃ‥」
考えるだけで
鼻の奥がつんとする
独特の刺激が苦手
:10/03/09 14:44 :D905i :7npRrRVQ
#823 [笹]
顔をしわくちゃにして
濁った汁を箸でかき回す
まだお蕎麦残ってるのにぃ‥
「欲しがりです、ね」
「いやぁああぁあっ!!」
壱助さんは
それはもうご丁寧に
自分の余りの天敵を
惜しげもなく沈ませた
遂にいらいらは頂点に達した
:10/03/09 14:44 :D905i :7npRrRVQ
#824 [笹]
:
:
鼻の奥をひりひりさせて
蕎麦屋を後にした
熱い涙が止まらない
わさびなんて大嫌い
潤んだ目で見上げれば
貴方の隣に娘さん
「香夜さん‥、
ちょいと出掛けて来やすんで」
:10/03/09 14:45 :D905i :7npRrRVQ
#825 [笹]
「あた‥あたしも!
約束が‥あ、あるんです!!」
とんでもない嘘を吐く
意地っ張りは直らない
「ほぉう‥誰、と」
試すような視線
艶容な口元がつり上がる
しなやかな手を袖に入れ
腕組みをした壱助さん
:10/03/09 14:45 :D905i :7npRrRVQ
#826 [笹]
その場しのぎのはずだった
大した理由もなく‥
後から説明すれば済むと思った
とっさに通りすがりの
男性の腕をつかみ
「こ‥この人と!!」
:10/03/09 14:46 :D905i :7npRrRVQ
#827 [笹]
そう言ってしまったことが
‥災難の始まりだった。
噛み合ったはずの歯車の
歯がひとつ、欠け落ちた
:10/03/09 14:47 :D905i :7npRrRVQ
#828 [笹]
:10/03/09 14:53 :D905i :7npRrRVQ
#829 [笹]
:10/03/09 14:56 :D905i :7npRrRVQ
#830 [笹]
:10/03/09 14:57 :D905i :7npRrRVQ
#831 [笹]
:
:
だんだんと遠くなる
あたしたちの距離
「え‥?あの‥」
見上げれば戸惑う男性
こんな痴話喧嘩に
巻き込まれてしまっては
当然の反応
:10/03/11 13:34 :D905i :dGcWPyzM
#832 [笹]
その男性は
年齢で言えば30才前半くらい
優しい雰囲気の‥
「ほぉう‥」
ぴくりと眉を上げ
品定めするように視線を送り
最後の一突きと言わんばかりに
:10/03/11 13:35 :D905i :dGcWPyzM
#833 [笹]
「その小娘は‥
人並み以下ですが、ね
実に自虐行為を好みます故
‥痛いのがお好きです、ぜ
見かけによらず破廉恥ですから
たっぷりと遊んで‥くだせぇ」
にこっと怪しく微笑み
あたしの隣の男性に告げた
:10/03/11 13:35 :D905i :dGcWPyzM
#834 [笹]
「な‥そんなことないっ!!」
顔を真っ赤にして
否定した先には二つの背中
寄り添う娘さん
壱助さんの下駄の音が
遠く遠く‥消えてった
上手く行かない‥
今日は厄日なのかもしれない
:10/03/11 13:36 :D905i :dGcWPyzM
#835 [笹]
:
:
ちょいと、
意地が悪すぎた‥か
ぼうっと空を見上げれば
灰色に染まり光が遮られ
隣に座る娘
慣れないような化粧に
顔を白々とさせ
不釣り合いな紅が一層‥
:10/03/11 13:36 :D905i :dGcWPyzM
#836 [笹]
「壱助さん?」
貴女以外の娘に
名前を呼ばれるのは
あまり慣れていないもんで
‥居心地が悪い、
「何、か」
目配せすれば
いつの間にか縮まった距離
:10/03/11 13:37 :D905i :dGcWPyzM
#837 [笹]
欲しいものなど‥
ないんですが、ね
「"あの子"のこと‥
慕っていらっしゃるの?」
さぁ‥
今まで出逢った方々と
違いますからね、香夜さんは
:10/03/11 13:37 :D905i :dGcWPyzM
#838 [笹]
「さぁ、ね」
「それなら‥」
随分と積極的だ‥
華奢な手が此方の手を捕らえ
自らの胸元に添えた
「おや、おや」
「私を‥見て頂けます?」
:10/03/11 13:38 :D905i :dGcWPyzM
#839 [笹]
そのようにされても
何も‥
私の心は何処へやら
つまらぬ話です、よ
「そうです、ね
今夜は‥そうしましょう、か」
_
:10/03/11 13:38 :D905i :dGcWPyzM
#840 [笹]
空になった体が
娘の小さな体に覆い被さる
嬉しそうにそして恥じらい
睫を伏せて身を任せ
素直に倒れた朱色の着物
「ずっと‥夢でしたの」
この笑みは
私に向けられたものなのか
:10/03/11 13:39 :D905i :dGcWPyzM
#841 [笹]
はたまた‥
香夜さん、
貴女に勝ったという
嫌らしいもの‥なのか
何だか‥わかりゃしない
仕込んできたかと言うくらい
緩く結ばれた帯を
するりと解く
手慣れた自らの指に
この上ない嫌悪感を抱いた
:10/03/11 13:40 :D905i :dGcWPyzM
#842 [笹]
欲しいものなど
‥ないんですが、ね
触れた肌、濡れた吐息
何を頼りにすれば‥良いのか
強請る声、汚れた水音
貴女の透明感が身に沁みる
:10/03/11 13:40 :D905i :dGcWPyzM
#843 [笹]
:
:
今宵は満月
隣で寝息を立てる娘に
伸ばした腕をするりと抜き
そのまま布団を抜け出した
雑に浴衣を羽織り
力強く帯を締める
体に染み着いたような香りを
かき消すかのように
背中を夜風に当てた
:10/03/11 13:41 :D905i :dGcWPyzM
#844 [笹]
「―‥、」
久々に煙管に手を伸ばし
全てを洗い流そうと
煙を体に取り込んで
‥帰ってこない、と来りゃぁ
"やられっちまった"‥か
得体の知れない感情を
煙に混ぜて満月を隠した
:10/03/11 13:42 :D905i :dGcWPyzM
#845 [笹]
一番に恨んでいるのは
‥己の身、ですがね
空中分解したそれを
未だ直視できないでいる
「貴女を‥
濁らせたく、ない故に」
どうにもこうにも
‥気付いてはならぬ思いが先回り
:10/03/11 13:44 :D905i :dGcWPyzM
#846 [笹]
:10/03/11 13:49 :D905i :dGcWPyzM
#847 [笹]
:
:
「あの‥
ご迷惑をお掛けしてしまい
本当に申し訳ありませんでした」
額を畳にこすりつけ
深々とお詫びをした
しかし此処は
男性の住まいらしき所
‥やっぱりそんな
一筋縄ではいかないかな?
:10/03/11 13:50 :D905i :dGcWPyzM
#848 [笹]
壱助さんが
あんな破廉恥なこと言わなければ
はぁ‥。
頭に浮かぶ貴方の隣に
あの娘さんが寄り添って
少し‥不愉快なのです
:10/03/11 13:51 :D905i :dGcWPyzM
#849 [笹]
「頭を御上げください
そんな、お気になさらず‥」
見た目通り優しい方で
暖かくて柔らかい
目尻に出来た笑い皺が
人の良さを引き立てた
「本当に‥
あたしのこの性格のせいで」
:10/03/11 13:52 :D905i :dGcWPyzM
#850 [笹]
お詫びしようにも
壱助さんがそばにいないあたしは
無能で一銭も持ってない
ただ頭を下げるしかできないのだ
「これも何かの縁ですから‥」
初めて会った気がしない
其れほどの安心感
:10/03/11 13:52 :D905i :dGcWPyzM
#851 [笹]
「あたし‥香夜と申します!!
お金もないし、色気もないけど
お裁縫は得意なので‥
お着物の解れなど有りましたら
‥な、何なりと!!」
案の定
男性からはクスッと笑い声
本当にあたしって役立たず
俯き指で畳の網目をなぞった
:10/03/11 13:53 :D905i :dGcWPyzM
#852 [笹]
「自分は"幸太郎"と申します
年は‥香夜さんより
一回りくらい上です、たぶん
不器用なもんで‥
裁縫は苦手ですね」
柔らかい笑顔を浮かべた
一回りくらい上なら
お父さんと同じくらいかな‥
生きてたら‥、
幸太郎さんと同じくらい
:10/03/11 13:53 :D905i :dGcWPyzM
#853 [笹]
催眠術にかかったように
頭の中がぽーっとした
もう与えられることのない
父からの愛情を‥
今目の前に見てしまう
「今は、一人暮らしですが‥
自分には妻と娘が居ました。」
何故かその時胸が泣いた
:10/03/11 13:54 :D905i :dGcWPyzM
#854 [笹]
幸太郎の姿が
亡き父と重なってしまった
隠れていた寂しさが
奥の方から湧き上がる
「もう、十年も前ですか‥
三人で暮らしていた住まいが
‥火事に遭いまして
全焼でした、
真っ黒な炭になった木材が
ぼろぼろと崩れていく光景は
本当に‥見てられませんでした」
:10/03/11 13:54 :D905i :dGcWPyzM
#855 [笹]
遠くの過去が
最早思い出となってるのか
ほんのり浮かんだ悲しげな笑みが
胸を突き刺した
「自分は丁度出掛けてまして‥
帰ってきたら‥"それ"だけ。
逃げ切れなかった妻と娘は‥」
:10/03/11 13:55 :D905i :dGcWPyzM
#856 [笹]
その現場に
居合わせたわけじゃないのに
鮮明に目の前に広がる
悲惨な光景
目を、耳を塞ぎたくなるような‥
「‥何故、自分だけ
助かってしまったのか、
そう‥何度も思いました。」
:10/03/11 13:56 :D905i :dGcWPyzM
#857 [笹]
「家族が目の前から
急に‥いなくなるのは
つらいですよね、本当に」
悲しみが極限を超えて
無になった時
この上ない恐怖が襲う
:10/03/11 13:56 :D905i :dGcWPyzM
#858 [笹]
「娘は‥生きてたら
貴女と同じくらいでした。
とても天真爛漫でね、
優しくて、気配り上手で‥」
『香夜は優しいなぁ!!』
『香夜は気配り上手だ!!
いい嫁さんになれるぞっ』
『香夜‥』
:10/03/11 13:57 :D905i :dGcWPyzM
#859 [笹]
「おと‥さん」
正気を失った
自分でもわかってる
だけど気持ちが飛んでいく
あたしが求めてたのは
単なる愛情じゃない
‥お父さんからの愛情なんだ
:10/03/11 13:57 :D905i :dGcWPyzM
#860 [笹]
「香夜さん‥?」
幸太郎さんの声が
やんわりと耳をすり抜け
穏やかな思い出と溶け合った
お父さんは
子供みたいな人だった
あたしと一緒に騒いで
‥泣いて笑って
:10/03/11 13:58 :D905i :dGcWPyzM
#861 [笹]
だけど
包み込むような安心感
叱られても
その後ぎゅうっと抱きしめて‥
『「‥よしよし」』
そう言って‥くれた
:10/03/11 13:58 :D905i :dGcWPyzM
#862 [笹]
完全に溶け合った
寂しさに漬け込んだ甘い錯覚
優しく幸太郎さんに抱き締められ
大きな手で頭を撫でられた
忘れかけてた感覚が
ふいに蘇る
お父さんが‥生き返ったみたい
:10/03/11 13:59 :D905i :dGcWPyzM
#863 [笹]
「‥ッ‥う、さん」
流れ行く大人ぶった幼かった心
‥溢れて、求めて
:10/03/11 13:59 :D905i :dGcWPyzM
#864 [笹]
:10/03/11 14:03 :D905i :dGcWPyzM
#865 [笹]
:10/03/11 14:05 :D905i :dGcWPyzM
#866 [笹]
:10/03/11 14:06 :D905i :dGcWPyzM
#867 [笹]
:
:
夜が明けた
幸太郎さんに抱かれたまま
いつの間にか寝ちゃった‥
「あ‥、」
「おはようございます
朝ですよ」
:10/03/14 20:05 :D905i :ZQnjeNcY
#868 [笹]
顔面が痛くない朝が
もう物足りなくなってる
壱助さん‥
「あの‥」
「あの方の元へ
帰ってしまいますか?」
少し寂しそうな幸太郎さんの表情
下がった眉に胸が痛む
:10/03/14 20:05 :D905i :ZQnjeNcY
#869 [笹]
『「‥香夜」』
絡まった腕が
ぎゅっと締め付けて
なぜか目の奥が熱くなった
幸太郎さんの声が
耳の奥を抜けて
記憶の隅のお父さんの声と重なる
:10/03/14 20:06 :D905i :ZQnjeNcY
#870 [笹]
‥どうしよう
やっぱりあたし、おかしい
混じり合った灰色が
あたしの中を蝕んで‥
「自分の元で‥暮らしませんか?」
例えばそれが
甘い嘘だとして‥
:10/03/14 20:06 :D905i :ZQnjeNcY
#871 [笹]
:
:
「はぁ‥」
なぜか妙に汗をかく
じわじわと熱を帯びる体を
ばしんと叩いて引き締めた
‥娘さんの下駄はない
もう帰ったのかな
「‥ただいまぁ」
:10/03/14 20:07 :D905i :ZQnjeNcY
#872 [笹]
ゆっくりと襖を開ければ
いつも通りの光景
胡座をかいた膝の上に
華奢な細い手で頬杖て
ただぼうっと外を眺める
少しだけ
心配しててほしくて
貴方の忙しない姿が見たかった
もう‥今日で、
:10/03/14 20:07 :D905i :ZQnjeNcY
#873 [笹]
「どう‥されたんで?」
立ちすくむあたしに
いつもの口調で問った
壱助さんが考えてること
‥今でもわからない
一緒にいた時間は
長いはずだったのになぁ
空っぽの時間、虚空
:10/03/14 20:08 :D905i :ZQnjeNcY
#874 [笹]
「‥壱助さん」
「ちょいと‥
腰くらい、下ろしやせんか?」
目の奥の一番柔らかいとこを
一突きするような
鋭い視線に肩をびくつかせた
あの娘さんとは
寝てしまったんだろうか
:10/03/14 20:08 :D905i :ZQnjeNcY
#875 [笹]
恋仲でもないのに
妬いてしまってる‥
だけどあたしが求めてたのは
‥お父さんの、
幸太郎さんの温もり
:10/03/14 20:09 :D905i :ZQnjeNcY
#876 [笹]
:
:
目を魚のように泳がせて
落ち着きを無くし‥
元から落ち着きがないと言えば
否めませんが、ね
あの男に抱かれちまったか
翻弄された‥と
:10/03/14 20:09 :D905i :ZQnjeNcY
#877 [笹]
「あの娘さんは‥?」
「もう、帰りましたぜ」
「そうじゃなくて‥」
言いたい事など
最初からわかっている
「"抱いた"」
そう呟けば聞く耳も持たず
体をびくつかせ着物を握りしめた
:10/03/14 20:10 :D905i :ZQnjeNcY
#878 [笹]
「‥と言えば、
どう‥されるんで?」
結局信じたら負けで
無意識のうちに貴女に‥
身を委ねてたのかもしれない
「‥あたし、えっと」
その戸惑いが唇の微妙な動きに
こんなにも‥
惑わされてしまう、とは
:10/03/14 20:10 :D905i :ZQnjeNcY
#879 [笹]
私は何時からこれほど
弱っちまったのか‥ねぇ
「抱いちゃ‥居ませんが、ね」
指に絡みついた粘液
耳にへばりついた水音
どんなに強請られても
どうにもならなかった
最早‥末期、ですかね
:10/03/14 20:11 :D905i :ZQnjeNcY
#880 [笹]
「え‥」
ただ貴女を困らせたかった
素直になれやしないもんで
こう意地悪くすることが
私にとっては貴女を引き止める
最高の手段、でしたから
ばつが悪そうに眉を下げた
:10/03/14 20:11 :D905i :ZQnjeNcY
#881 [笹]
離れると言うなら
‥止める気はない
しかし、どうも其れでは‥
「壱助さん‥ごめんなさい」
潤んだ目を無理やり拭い
急に立ち去ろうとした
:10/03/14 20:12 :D905i :ZQnjeNcY
#882 [笹]
「逃げるな‥!!」
何時もより張り上げた自らの声が
部屋中を駆け回り
貴女の背中を仕留めて‥
小さな背中が打ち抜かれた
:10/03/14 20:12 :D905i :ZQnjeNcY
#883 [笹]
向き合ってほしいんです、よ
どうせ離れてしまうなら‥
惨めなままに、してしまうな
:10/03/14 20:13 :D905i :ZQnjeNcY
#884 [笹]
:10/03/14 20:18 :D905i :ZQnjeNcY
#885 [笹]
:10/03/14 20:20 :D905i :ZQnjeNcY
#886 [笹]
:10/03/14 20:20 :D905i :ZQnjeNcY
#887 [笹]
あげ忘れた(´・ω・`)
:10/03/14 20:21 :D905i :ZQnjeNcY
#888 [笹]
:
:
「‥」
耐えきれなくなって
自分がわからなくなって
もうどうしようもない
本当にそばにいたい人
本当にそばにいてほしい人
誰?
:10/03/18 15:42 :D905i :WpH3kYYs
#889 [笹]
「何が‥あった、」
少しの沈黙に躊躇なく
一呼吸置いて問いかけた低い声
‥知ってる
壱助さんは優しいこと
本当は‥すごく
:10/03/18 15:43 :D905i :WpH3kYYs
#890 [笹]
答えに詰まるのはどうして?
そのまま答えればいいだけ
あたしは居場所を見つけた
求めて求められて
互いが必要としていける
そんな‥場所
:10/03/18 15:44 :D905i :WpH3kYYs
#891 [笹]
「あの人‥幸太郎さんって言って
家族がいたんだけど‥」
喉が乾く
指先から水分が滲み出て
鼻の奥がつんとした
うまく声が出せない
:10/03/18 15:44 :D905i :WpH3kYYs
#892 [笹]
黙って聞く壱助さんは
いつもみたいに睫を伏せて
だけど少しだけ唇が弧を描いて
笑ってる‥?
「目の前で家族を‥」
「失った‥か」
あたしの言葉に付け足すように
そうぽつり呟いた
:10/03/18 15:45 :D905i :WpH3kYYs
#893 [笹]
貴方の目が見れない
震えだした唇を
無理やり噛み締めて堪えた
だって壱助さん、貴方といると
とても辛いんだもの‥
:10/03/18 15:45 :D905i :WpH3kYYs
#894 [笹]
「同じ境遇‥故に
心惹かれたと、言うんで?」
そうだとしたら
この感情は同情なのか
寂しさを苦しさを
共有したがる弱さなのか
あたしは弱い
そんなのはわかってる
:10/03/18 15:46 :D905i :WpH3kYYs
#895 [笹]
ぐるぐると渦を巻く
灰色の何かが
だんだんと暗くなる
強くなったつもりだよ
強くなったはずだった
どうしてこうも上手くいかない
結局誰かにすがりつかなきゃ
生きていけない
:10/03/18 15:46 :D905i :WpH3kYYs
#896 [笹]
「‥あたし、」
左手首の落ち着いた傷たちが
疼き始めて痛い
壱助さんに出会ってから
傷は増えることがなかった
あたしを心配して
止めろと言ってくれた
:10/03/18 15:47 :D905i :WpH3kYYs
#897 [笹]
「香夜さん」
頭がぼうっとする
昨日からずっと
体と心が全く別物
宙に浮かんで掴めない
畳の網目をなぞってた右手が
左手首に爪を立てた
:10/03/18 15:47 :D905i :WpH3kYYs
#898 [笹]
「‥香夜さん」
少し引っ掻いただけで
血が滲みはじめて
久しぶりの感覚にぞっとした
真っ赤な液体が
爪の間をすり抜けて滲みた
:10/03/18 15:48 :D905i :WpH3kYYs
#899 [笹]
「あたし‥どうかしてる
どうかしてる‥よ、
もう‥消えちゃいた‥」
『「‥香夜っ!!」』
はっとした
また父親と重なった声
:10/03/18 15:48 :D905i :WpH3kYYs
#900 [笹]
壱助さんが声をあげた
思わず顔を見上げれば
どこかそれは悲しそうな顔で
しわの寄った眉間
鋭いのに優しい目
「契りを交わしたはず、ですよ
そのお命‥無駄にはしない、と」
:10/03/18 15:49 :D905i :WpH3kYYs
#901 [笹]
今あたしを叱ってくれるのは
貴方だけで‥
真剣に向き合ってくれる
その瞳で包んで
「本当に‥世話が焼ける」
「い‥ち助さん」
流れるような細い指で
手首を包み込まれれば
どくどくと生命が鳴いてる
:10/03/18 15:49 :D905i :WpH3kYYs
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