浮 き 世 の 諸 事 情 。
最新 最初 🆕
#801 []
 
「そうです、ねぇ」

「早く教えてくださいよぉ!!」

「香夜さんは‥どんな?」


正座をして急かすあたしに
余裕たっぷりにそう言った

話をそらすのが本当に上手い

⏰:10/03/08 17:37 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#802 []
 
「‥言えません」

昨晩みた夢は壱助さんに‥
そんなこと
死んでも言いたくない!!


「私に逆らう、と?」

卑怯だ‥壱助さん

⏰:10/03/08 17:38 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#803 []
 
「絶対絶対絶対!!
絶対言いませんっ!!」

勢いでそう吐き捨てて
畳を押し返し立ち上がった


くるりと背を向ければ

‥ガシッ


急に冷たい感覚が
手首を纏って

⏰:10/03/08 17:38 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#804 []
 
‥グイッ


下にかかる力に負けて
情けなくも
ふらりと呆気なく崩れてしまった


「んわっ‥」

すとんと腰を落としたとこは
壱助さんの胡座の中

⏰:10/03/08 17:39 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#805 []
 
これ‥もしかして


「これは、これは」

ぎゅうっと後ろから首を抱かれ
耳元に迫る低い声


これって‥

高鳴る胸を抑えようと
そっと呼吸をした

⏰:10/03/08 17:39 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#806 []
 

「正夢です‥ね」



そう囁いた声が
電気になって頭に流れて


昨晩の夢と溶け合った‥

_

⏰:10/03/08 17:40 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#807 []
番外編 【夢、重なって】
>>787-806
*。*。*。*。*。*
久しぶりの更新が
まさかこんなぐだぐだになるとは
思ってもなかった(゚-゚)アァ
しかも番外編w

お互い見た夢が同じで
壱助さんが無理やり←
正夢にしちゃったってゆう‥
壱助さんは香夜ちゃんが
可愛くて可愛くて仕方ないw
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/03/08 17:44 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#808 []
【本編アンカー/1〜20】
>>699-700

【21〜】
>>631-651
>>654-674
>>676-697
>>703-725
>>728-744
>>763-783

⏰:10/03/08 17:47 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#809 [笹]
【番外編アンカー】
>>297-316
>>366-393
>>450-470
>>537-557
>>746-759
>>787-806

⏰:10/03/08 17:48 📱:D905i 🆔:6zJg1U3A


#810 []



「壱助さんって‥」

手にした紙に
ずらりと並ぶ品名と値段

それを指でたどって
あっちこっちに彷徨わせ

「お蕎麦とうどん‥
どっちが好きですか?」

"うーん"と唸りをあげ
眉間に皺を寄せて問った

⏰:10/03/09 14:37 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#811 []
 
目の前に座る
問いかけた貴方様は
聞く耳も持たず


「おや、おや
此処にこんなお美しい娘さんが
いたとは‥ねぇ」


色めいた声で
娘さんにご挨拶

⏰:10/03/09 14:38 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#812 []
 
これは口説いてるんじゃない
ただの挨拶だそうです
色男、曰わく


「‥ったくぅ」

むかむかする下腹部

いらいらを人差し指に込めて
カツカツと机を叩く

⏰:10/03/09 14:38 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#813 []
 
「やだぁもうっ
壱助さんったらぁ〜」

「事実を‥述べたまで、ですよ」


‥いらいらいら

頬を赤く染めた娘さん
‥別に
娘さんを恨むわけじゃないけど

⏰:10/03/09 14:39 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#814 []
 
って言うか誰でも
こんな色男に言われたら
顔赤くするだろうけど‥


んぅー‥やきもち?まさか


「壱助さん、今日は
何になさいますの?」

「そう‥ですねぇ」

⏰:10/03/09 14:39 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#815 []
 
何なの?
壁があるの?ここには

全くこちらに目も向けず
いや‥わざとらしいかも


「今ならお蕎麦が‥
打ち立てですのよ?」

にこり笑った娘さん
薄い朱色の着物が躍る

⏰:10/03/09 14:40 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#816 []
 
「では‥其れで」

「あたしも!!お蕎麦にします!!」

重ねるようにそう言えば
"いたんです、か"と
嫌みったらしく
惚けた顔で呟かれ‥


‥いらいらいら

⏰:10/03/09 14:41 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#817 []
 
「あのぉう‥壱助さん?」

恥じらうようにもじもじして
娘さんが声をかけた

「この後って‥」


‥あたしが居るのに
よくそんなこと言える

遠慮して小声にしたのか
何なのかわからないけど
聞 こ え て ま す か ら !!

⏰:10/03/09 14:41 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#818 []
 
「えぇ‥構いません、よ」

あたしの存在はなんなのか
消されてるのか
女に見えてないのか‥


ここまでくると切ない

楽しそうに話す二人が
遠くにぼやけて見えた

⏰:10/03/09 14:41 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#819 []



‥カツカツ

「先ほどから‥」

‥ズズズズッ

「ご機嫌が、随分と斜め‥」

‥ゴクッゴクッ

「です、ねぇ」

⏰:10/03/09 14:42 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#820 []
 
「ぷはぁあぁっ!!
水!水くださーい!!」

湯飲みを机に打ちつけて
がむしゃらに声を張った


「別に!!いつも通りですぅ」

あたしは
すぐ態度に出てしまう
本当に子供‥

これじゃあいつになっても
相手にされないや

⏰:10/03/09 14:43 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#821 []
 
「‥あぁああ!!
なんでわさび入れるんですか?!」

ちょっとよそ見をすれば
お猪口に入った鮮やかな緑色


何事もなかったかのような
壱助さん‥

⏰:10/03/09 14:43 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#822 []
 
「好き嫌いは‥良くないです、ぜ」

まるで‥親です


「わさび‥わさびぃ‥」

考えるだけで
鼻の奥がつんとする

独特の刺激が苦手

⏰:10/03/09 14:44 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#823 []
 
顔をしわくちゃにして
濁った汁を箸でかき回す

まだお蕎麦残ってるのにぃ‥


「欲しがりです、ね」

「いやぁああぁあっ!!」

壱助さんは
それはもうご丁寧に
自分の余りの天敵を
惜しげもなく沈ませた

遂にいらいらは頂点に達した

⏰:10/03/09 14:44 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#824 []


鼻の奥をひりひりさせて
蕎麦屋を後にした

熱い涙が止まらない
わさびなんて大嫌い


潤んだ目で見上げれば
貴方の隣に娘さん

「香夜さん‥、
ちょいと出掛けて来やすんで」

⏰:10/03/09 14:45 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#825 []
 
「あた‥あたしも!
約束が‥あ、あるんです!!」

とんでもない嘘を吐く
意地っ張りは直らない


「ほぉう‥誰、と」

試すような視線
艶容な口元がつり上がる

しなやかな手を袖に入れ
腕組みをした壱助さん

⏰:10/03/09 14:45 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#826 []
 
その場しのぎのはずだった
大した理由もなく‥
後から説明すれば済むと思った


とっさに通りすがりの
男性の腕をつかみ


「こ‥この人と!!」

⏰:10/03/09 14:46 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#827 []
 
そう言ってしまったことが



‥災難の始まりだった。



噛み合ったはずの歯車の
歯がひとつ、欠け落ちた

⏰:10/03/09 14:47 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#828 []
第二七章 【破片、散って】
>>810-827
*。*。*。*。*。*
やっとこ本編です
夢で見たことをヒントに
何とか展開していけそう‥←

意地っ張りな香夜ちゃん
大人気ない色男壱助さん

素直になれば
簡単に寄り添えるのに´・ω・`)
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/03/09 14:53 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#829 []
【本編アンカー/1〜20】
>>699-700

【21〜】
>>631-651
>>654-674
>>676-697
>>703-725
>>728-744
>>763-783
>>810-827
最終更新*3月9日(27章)

⏰:10/03/09 14:56 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#830 [笹]
【番外編アンカー】
>>809
最終更新*3月8日

⏰:10/03/09 14:57 📱:D905i 🆔:7npRrRVQ


#831 []



だんだんと遠くなる
あたしたちの距離


「え‥?あの‥」

見上げれば戸惑う男性

こんな痴話喧嘩に
巻き込まれてしまっては
当然の反応

⏰:10/03/11 13:34 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#832 []
 
その男性は
年齢で言えば30才前半くらい
優しい雰囲気の‥


「ほぉう‥」


ぴくりと眉を上げ
品定めするように視線を送り
最後の一突きと言わんばかりに

⏰:10/03/11 13:35 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#833 []
 
「その小娘は‥
人並み以下ですが、ね
実に自虐行為を好みます故
‥痛いのがお好きです、ぜ

見かけによらず破廉恥ですから
たっぷりと遊んで‥くだせぇ」


にこっと怪しく微笑み
あたしの隣の男性に告げた

⏰:10/03/11 13:35 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#834 []
 
「な‥そんなことないっ!!」


顔を真っ赤にして
否定した先には二つの背中

寄り添う娘さん
壱助さんの下駄の音が
遠く遠く‥消えてった


上手く行かない‥
今日は厄日なのかもしれない

⏰:10/03/11 13:36 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#835 []




ちょいと、
意地が悪すぎた‥か


ぼうっと空を見上げれば
灰色に染まり光が遮られ

隣に座る娘
慣れないような化粧に
顔を白々とさせ
不釣り合いな紅が一層‥

⏰:10/03/11 13:36 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#836 []
 
「壱助さん?」

貴女以外の娘に
名前を呼ばれるのは
あまり慣れていないもんで

‥居心地が悪い、


「何、か」

目配せすれば
いつの間にか縮まった距離

⏰:10/03/11 13:37 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#837 []
 
欲しいものなど‥
ないんですが、ね


「"あの子"のこと‥
慕っていらっしゃるの?」

さぁ‥
今まで出逢った方々と

違いますからね、香夜さんは

⏰:10/03/11 13:37 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#838 []
 
「さぁ、ね」

「それなら‥」


随分と積極的だ‥

華奢な手が此方の手を捕らえ
自らの胸元に添えた

「おや、おや」

「私を‥見て頂けます?」

⏰:10/03/11 13:38 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#839 []
 
そのようにされても
何も‥

私の心は何処へやら
つまらぬ話です、よ


「そうです、ね
今夜は‥そうしましょう、か」

_

⏰:10/03/11 13:38 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#840 []
 
空になった体が
娘の小さな体に覆い被さる

嬉しそうにそして恥じらい
睫を伏せて身を任せ
素直に倒れた朱色の着物


「ずっと‥夢でしたの」

この笑みは
私に向けられたものなのか

⏰:10/03/11 13:39 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#841 []
 
はたまた‥
香夜さん、
貴女に勝ったという
嫌らしいもの‥なのか

何だか‥わかりゃしない

仕込んできたかと言うくらい
緩く結ばれた帯を
するりと解く
手慣れた自らの指に

この上ない嫌悪感を抱いた

⏰:10/03/11 13:40 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#842 []
 

欲しいものなど
‥ないんですが、ね


触れた肌、濡れた吐息

何を頼りにすれば‥良いのか


強請る声、汚れた水音

貴女の透明感が身に沁みる

⏰:10/03/11 13:40 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#843 []


今宵は満月

隣で寝息を立てる娘に
伸ばした腕をするりと抜き

そのまま布団を抜け出した


雑に浴衣を羽織り
力強く帯を締める

体に染み着いたような香りを
かき消すかのように
背中を夜風に当てた

⏰:10/03/11 13:41 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#844 []
 
「―‥、」

久々に煙管に手を伸ばし
全てを洗い流そうと
煙を体に取り込んで


‥帰ってこない、と来りゃぁ

"やられっちまった"‥か


得体の知れない感情を
煙に混ぜて満月を隠した

⏰:10/03/11 13:42 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#845 []
 
一番に恨んでいるのは
‥己の身、ですがね

空中分解したそれを
未だ直視できないでいる


「貴女を‥
濁らせたく、ない故に」


どうにもこうにも

‥気付いてはならぬ思いが先回り

⏰:10/03/11 13:44 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#846 []
第二八章 【煙に、染めて】
>>831-845
*。*。*。*。*
壱助さんが自分を見失ってます
どこまでも冷静だけど
感情的になるべきとこでも
冷静なのがもどかしい(゚-゚)

好いてる方には
簡単に手を出さない主義です、よ
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/03/11 13:49 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#847 []


「あの‥
ご迷惑をお掛けしてしまい
本当に申し訳ありませんでした」

額を畳にこすりつけ
深々とお詫びをした


しかし此処は
男性の住まいらしき所

‥やっぱりそんな
一筋縄ではいかないかな?

⏰:10/03/11 13:50 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#848 []
 
壱助さんが
あんな破廉恥なこと言わなければ


はぁ‥。

頭に浮かぶ貴方の隣に
あの娘さんが寄り添って
少し‥不愉快なのです

⏰:10/03/11 13:51 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#849 []
 
「頭を御上げください
そんな、お気になさらず‥」

見た目通り優しい方で
暖かくて柔らかい

目尻に出来た笑い皺が
人の良さを引き立てた


「本当に‥
あたしのこの性格のせいで」

⏰:10/03/11 13:52 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#850 []
 
お詫びしようにも
壱助さんがそばにいないあたしは
無能で一銭も持ってない

ただ頭を下げるしかできないのだ


「これも何かの縁ですから‥」

初めて会った気がしない
其れほどの安心感

⏰:10/03/11 13:52 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#851 []
 
「あたし‥香夜と申します!!
お金もないし、色気もないけど
お裁縫は得意なので‥
お着物の解れなど有りましたら
‥な、何なりと!!」

案の定
男性からはクスッと笑い声


本当にあたしって役立たず
俯き指で畳の網目をなぞった

⏰:10/03/11 13:53 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#852 []
 
「自分は"幸太郎"と申します
年は‥香夜さんより
一回りくらい上です、たぶん
不器用なもんで‥
裁縫は苦手ですね」

柔らかい笑顔を浮かべた

一回りくらい上なら
お父さんと同じくらいかな‥
生きてたら‥、
幸太郎さんと同じくらい

⏰:10/03/11 13:53 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#853 []
 
催眠術にかかったように
頭の中がぽーっとした

もう与えられることのない
父からの愛情を‥
今目の前に見てしまう


「今は、一人暮らしですが‥
自分には妻と娘が居ました。」

何故かその時胸が泣いた

⏰:10/03/11 13:54 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#854 []
 
幸太郎の姿が
亡き父と重なってしまった


隠れていた寂しさが
奥の方から湧き上がる

「もう、十年も前ですか‥
三人で暮らしていた住まいが
‥火事に遭いまして
全焼でした、
真っ黒な炭になった木材が
ぼろぼろと崩れていく光景は
本当に‥見てられませんでした」

⏰:10/03/11 13:54 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#855 []
 
遠くの過去が
最早思い出となってるのか
ほんのり浮かんだ悲しげな笑みが
胸を突き刺した


「自分は丁度出掛けてまして‥
帰ってきたら‥"それ"だけ。
逃げ切れなかった妻と娘は‥」

⏰:10/03/11 13:55 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#856 []
 
その現場に
居合わせたわけじゃないのに
鮮明に目の前に広がる
悲惨な光景

目を、耳を塞ぎたくなるような‥


「‥何故、自分だけ
助かってしまったのか、
そう‥何度も思いました。」

⏰:10/03/11 13:56 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#857 []
 
「家族が目の前から
急に‥いなくなるのは
つらいですよね、本当に」


悲しみが極限を超えて
無になった時

この上ない恐怖が襲う

⏰:10/03/11 13:56 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#858 []
 
「娘は‥生きてたら
貴女と同じくらいでした。
とても天真爛漫でね、
優しくて、気配り上手で‥」


『香夜は優しいなぁ!!』

『香夜は気配り上手だ!!
いい嫁さんになれるぞっ』

『香夜‥』

⏰:10/03/11 13:57 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#859 []
 

「おと‥さん」


正気を失った
自分でもわかってる

だけど気持ちが飛んでいく


あたしが求めてたのは
単なる愛情じゃない

‥お父さんからの愛情なんだ

⏰:10/03/11 13:57 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#860 []
 
「香夜さん‥?」

幸太郎さんの声が
やんわりと耳をすり抜け
穏やかな思い出と溶け合った


お父さんは
子供みたいな人だった

あたしと一緒に騒いで
‥泣いて笑って

⏰:10/03/11 13:58 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#861 []
 
だけど
包み込むような安心感

叱られても
その後ぎゅうっと抱きしめて‥

『「‥よしよし」』


そう言って‥くれた

⏰:10/03/11 13:58 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#862 []
 
完全に溶け合った
寂しさに漬け込んだ甘い錯覚


優しく幸太郎さんに抱き締められ
大きな手で頭を撫でられた


忘れかけてた感覚が
ふいに蘇る

お父さんが‥生き返ったみたい

⏰:10/03/11 13:59 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#863 []
 

「‥ッ‥う、さん」


流れ行く大人ぶった幼かった心


‥溢れて、求めて

⏰:10/03/11 13:59 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#864 []
第二九章 【甘い、錯覚】
>>847-863
*。*。*。*。*
幸太郎さんと亡き父の姿が
重なってしまった香夜ちゃん
催眠術にかかったように
不思議と吸い込まれていく


あたしの居場所は‥此処?
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/03/11 14:03 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#865 []
【本編アンカー/1〜20】
>>699-700

【21〜】
>>631-651
>>654-674
>>676-697
>>703-725
>>728-744
>>763-783
>>810-827
>>831-845
>>847-863
最終更新*3月11日(28、9章)

⏰:10/03/11 14:05 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#866 [笹]
 
【番外編アンカー】
>>809
最終更新*3月8日

⏰:10/03/11 14:06 📱:D905i 🆔:dGcWPyzM


#867 []



夜が明けた

幸太郎さんに抱かれたまま
いつの間にか寝ちゃった‥

「あ‥、」

「おはようございます
朝ですよ」

⏰:10/03/14 20:05 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#868 []
 
顔面が痛くない朝が
もう物足りなくなってる

壱助さん‥


「あの‥」

「あの方の元へ
帰ってしまいますか?」

少し寂しそうな幸太郎さんの表情
下がった眉に胸が痛む

⏰:10/03/14 20:05 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#869 []
 
『「‥香夜」』


絡まった腕が
ぎゅっと締め付けて
なぜか目の奥が熱くなった

幸太郎さんの声が
耳の奥を抜けて

記憶の隅のお父さんの声と重なる

⏰:10/03/14 20:06 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#870 []
 
‥どうしよう
やっぱりあたし、おかしい


混じり合った灰色が
あたしの中を蝕んで‥


「自分の元で‥暮らしませんか?」

例えばそれが
甘い嘘だとして‥

⏰:10/03/14 20:06 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#871 []



「はぁ‥」

なぜか妙に汗をかく
じわじわと熱を帯びる体を
ばしんと叩いて引き締めた


‥娘さんの下駄はない
もう帰ったのかな


「‥ただいまぁ」

⏰:10/03/14 20:07 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#872 []
 
ゆっくりと襖を開ければ
いつも通りの光景

胡座をかいた膝の上に
華奢な細い手で頬杖て
ただぼうっと外を眺める


少しだけ
心配しててほしくて
貴方の忙しない姿が見たかった


もう‥今日で、

⏰:10/03/14 20:07 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#873 []
 
「どう‥されたんで?」

立ちすくむあたしに
いつもの口調で問った

壱助さんが考えてること
‥今でもわからない


一緒にいた時間は
長いはずだったのになぁ

空っぽの時間、虚空

⏰:10/03/14 20:08 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#874 []
 
「‥壱助さん」

「ちょいと‥
腰くらい、下ろしやせんか?」

目の奥の一番柔らかいとこを
一突きするような
鋭い視線に肩をびくつかせた


あの娘さんとは
寝てしまったんだろうか

⏰:10/03/14 20:08 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#875 []
 
恋仲でもないのに
妬いてしまってる‥


だけどあたしが求めてたのは

‥お父さんの、
幸太郎さんの温もり

⏰:10/03/14 20:09 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#876 []



目を魚のように泳がせて
落ち着きを無くし‥

元から落ち着きがないと言えば
否めませんが、ね


あの男に抱かれちまったか
翻弄された‥と

⏰:10/03/14 20:09 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#877 []
 
「あの娘さんは‥?」

「もう、帰りましたぜ」

「そうじゃなくて‥」

言いたい事など
最初からわかっている

「"抱いた"」

そう呟けば聞く耳も持たず
体をびくつかせ着物を握りしめた

⏰:10/03/14 20:10 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#878 []
 
「‥と言えば、
どう‥されるんで?」

結局信じたら負けで
無意識のうちに貴女に‥
身を委ねてたのかもしれない


「‥あたし、えっと」

その戸惑いが唇の微妙な動きに
こんなにも‥
惑わされてしまう、とは

⏰:10/03/14 20:10 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#879 []
 
私は何時からこれほど
弱っちまったのか‥ねぇ


「抱いちゃ‥居ませんが、ね」

指に絡みついた粘液
耳にへばりついた水音

どんなに強請られても
どうにもならなかった

最早‥末期、ですかね

⏰:10/03/14 20:11 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#880 []
 
「え‥」

ただ貴女を困らせたかった
素直になれやしないもんで

こう意地悪くすることが
私にとっては貴女を引き止める
最高の手段、でしたから


ばつが悪そうに眉を下げた

⏰:10/03/14 20:11 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#881 []
 
離れると言うなら
‥止める気はない

しかし、どうも其れでは‥


「壱助さん‥ごめんなさい」


潤んだ目を無理やり拭い
急に立ち去ろうとした

⏰:10/03/14 20:12 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#882 []
 

「逃げるな‥!!」


何時もより張り上げた自らの声が
部屋中を駆け回り
貴女の背中を仕留めて‥

小さな背中が打ち抜かれた

⏰:10/03/14 20:12 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#883 []
 

向き合ってほしいんです、よ


どうせ離れてしまうなら‥

惨めなままに、してしまうな

⏰:10/03/14 20:13 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#884 []
第三十章 【歪んで、淡く】
>>867-883
*。*。*。*。*。*
文才なさすぎて‥伝わらないw

2人の関係
さぁどうなる(´・ω・`)
去るもは追わない主義な壱助さん
今回ばかりはそうはいかない?
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/

⏰:10/03/14 20:18 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#885 []
【本編アンカー/1〜20】
>>699-700
【21〜30】
>>631-651
>>654-674
>>676-697
>>703-725
>>728-744
>>763-783
>>810-827
>>831-845
>>847-863
>>867-883
最終更新*3月14日(30章)

⏰:10/03/14 20:20 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#886 []
【番外編アンカー】
>>809
最終更新*3月8日

⏰:10/03/14 20:20 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#887 [笹]
あげ忘れた(´・ω・`)

⏰:10/03/14 20:21 📱:D905i 🆔:ZQnjeNcY


#888 []



「‥」

耐えきれなくなって
自分がわからなくなって
もうどうしようもない

本当にそばにいたい人
本当にそばにいてほしい人


誰?

⏰:10/03/18 15:42 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#889 []
 
「何が‥あった、」

少しの沈黙に躊躇なく
一呼吸置いて問いかけた低い声


‥知ってる
壱助さんは優しいこと

本当は‥すごく

⏰:10/03/18 15:43 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#890 []
 
答えに詰まるのはどうして?
そのまま答えればいいだけ


あたしは居場所を見つけた

求めて求められて
互いが必要としていける

そんな‥場所

⏰:10/03/18 15:44 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#891 []
 
「あの人‥幸太郎さんって言って
家族がいたんだけど‥」


喉が乾く
指先から水分が滲み出て
鼻の奥がつんとした

うまく声が出せない

⏰:10/03/18 15:44 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#892 []
 
黙って聞く壱助さんは
いつもみたいに睫を伏せて
だけど少しだけ唇が弧を描いて

笑ってる‥?


「目の前で家族を‥」

「失った‥か」

あたしの言葉に付け足すように
そうぽつり呟いた

⏰:10/03/18 15:45 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#893 []
 
貴方の目が見れない

震えだした唇を
無理やり噛み締めて堪えた



だって壱助さん、貴方といると
とても辛いんだもの‥

⏰:10/03/18 15:45 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#894 []
 
「同じ境遇‥故に
心惹かれたと、言うんで?」

そうだとしたら
この感情は同情なのか

寂しさを苦しさを
共有したがる弱さなのか


あたしは弱い
そんなのはわかってる

⏰:10/03/18 15:46 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#895 []
 
ぐるぐると渦を巻く
灰色の何かが
だんだんと暗くなる


強くなったつもりだよ
強くなったはずだった

どうしてこうも上手くいかない
結局誰かにすがりつかなきゃ
生きていけない

⏰:10/03/18 15:46 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#896 []
 
「‥あたし、」


左手首の落ち着いた傷たちが
疼き始めて痛い

壱助さんに出会ってから
傷は増えることがなかった

あたしを心配して
止めろと言ってくれた

⏰:10/03/18 15:47 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#897 []
 
「香夜さん」


頭がぼうっとする
昨日からずっと

体と心が全く別物
宙に浮かんで掴めない


畳の網目をなぞってた右手が
左手首に爪を立てた

⏰:10/03/18 15:47 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#898 []
 
「‥香夜さん」


少し引っ掻いただけで
血が滲みはじめて
久しぶりの感覚にぞっとした



真っ赤な液体が
爪の間をすり抜けて滲みた

⏰:10/03/18 15:48 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#899 []
 
「あたし‥どうかしてる
どうかしてる‥よ、
もう‥消えちゃいた‥」


『「‥香夜っ!!」』


はっとした
また父親と重なった声

⏰:10/03/18 15:48 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#900 []
 
壱助さんが声をあげた
思わず顔を見上げれば
どこかそれは悲しそうな顔で

しわの寄った眉間
鋭いのに優しい目


「契りを交わしたはず、ですよ
そのお命‥無駄にはしない、と」

⏰:10/03/18 15:49 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#901 []
 
今あたしを叱ってくれるのは
貴方だけで‥

真剣に向き合ってくれる
その瞳で包んで

「本当に‥世話が焼ける」

「い‥ち助さん」

流れるような細い指で
手首を包み込まれれば
どくどくと生命が鳴いてる

⏰:10/03/18 15:49 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


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