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#444 [[夏の教室(2/3)]紫陽花]
「……えぇ、帰るわよ。授業、終わったもの」

彼女は手元の教科書から目を離さず数メートル先に立ち尽くす男に素っ気なく答える。

生徒もおらず、窓も閉め切ってある放課後のこの部屋には彼女の声だけが静かにそして微かに響く。


その言葉を聞いた瞬間、男は意を決したように両手の拳を握りしめ勢いよく頭を上げた。先ほどとは違い、彼の表情に怯えはない。
この男の決意が空気を伝い彼女にも届いたのだろうか、帰り支度をやめ彼女も顔を上げた。

そして二人の視線がぶつかる。

「あのさ、葛城。……俺一緒に帰っていい?」

彼女の瞳が一瞬動く。窓から差し込んでいる光は机と机、向かい合っている二人の間を静かに照らす。男の視線は真っ直ぐに彼女をとらえ、彼女も彼の視線に答えるように瞳を合わせる。

⏰:08/07/09 00:41 📱:F905i 🆔:☆☆☆


#445 [[夏の教室(3/3)]紫陽花]
少しの沈黙。校庭で力の限り声を張り上げる野球部の声が聞こえるほど静寂は続いた。

「……別に、いいけど」

静寂を破ったのは彼女の方だった。

「本当に!?」

男の瞳は驚きと歓喜の輝きを放ち、きつく握られていた拳はいつの間にか解かれていた。

「私、教室の鍵を返してくるから先に昇降口で待ってて」

彼女はまたも視線を鞄に戻し帰り支度を始めた。

「分かった!!待ってるから」

そう言って男は顔を赤らめながら鞄を背負い、照れくさそうに彼女を見つめながら教室を後にした。

男がいなくなった直後、彼女は帰り支度をする手を止めた。そして、その手はゆっくりと上に伸び彼女の顔を覆った。

「……緊張した」

顔を覆った細く今にも折れてしまいそうな指の間から見える彼女の顔は照りつける太陽よりも熱を帯び、紅く紅く火照っていた。

彼女一人残された教室には既に電源の切られたクーラーからの残された冷気が漂っていたが、それほどの少量の冷気では彼女の火照った心を鎮めることは出来なかった。

---end---

⏰:08/07/09 00:41 📱:F905i 🆔:☆☆☆


#446 [紫陽花]
あげ(・⌒・)

⏰:08/07/11 23:55 📱:F905i 🆔:☆☆☆


#447 [[夏恋(1/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
夏休みに入ってもうすぐ一ヶ月。暑さはちっともましにならない。
ユウスケは今日も朝から遊びに出掛けて行った。学校の宿題なんてそっちのけだ。
多分、八月後半になってから家族を巻き込んで焦るんだろう。毎年のことだ。

十歳の夏休みを、ユウスケは心の底から楽しんでいる。
幼なじみのコウタやタモツと集まるのももちろん楽しいが、今年はいつもの夏と少し違っていた。
転校生の女子、ナツメさんも一緒なのだ。ナツメさんにはいつも世話係のようにおてんば娘のレイコがくっついているけど、お盆の間レイコは田舎に帰省している。ユウスケは邪魔者がいないのが嬉しかった。

「ナツメさん、今日はどこ行く?」

「オレ駄菓子屋でジュース!」

「タモツには聞いてないよ!」

「わたし、駄菓子屋さん行ってみたいな」

「えっナツメさん行ったことないの!?」

「うん、前に住んでたとこには無かったの」

⏰:08/07/12 00:47 📱:SH903i 🆔:ImRIP7KU


#448 [[夏恋(2/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
四人は近所の古ぼけた駄菓子屋にやってきた。何歳なのか想像出来ないくらいしわしわのおばあちゃんが店番の駄菓子屋だ。

「おいコウタ、これ買ってくれよ! オレお金足りないや」

「やだよ〜自分で買ってよ〜」

タモツとコウタはチョコレート菓子を手にして言い合いをしている。
ユウスケはナツメさんに駄菓子屋のルールを教えてあげていた。

「これはあんまりおいしくないし高いからやめた方がいいよ、あ、コレ! このジュースはね、ここを歯でちぎって飲むんだ、それからこれは……」

ナツメさんは頷きながら興味津々といった様子で聞き入っていたが、急に見ていた駄菓子を手に取った。

「ユウスケくん、わたしこれにする」

「え、これ……?」

「うん。一緒に食べよう?」

ナツメさんが選んだのは、きれいな色の四角いグミがたくさん入った駄菓子だった。ユウスケの顔がみるみる笑顔になっていく。

「うん!」

⏰:08/07/12 00:48 📱:SH903i 🆔:ImRIP7KU


#449 [[夏恋(3/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
駄菓子屋の外のベンチに座って、買ったばかりの駄菓子を開ける四人。タモツとコウタはすぐに食べ始めた。

「きれいね、このお菓子」

ナツメさんは爪楊枝に刺したグミを見つめるばかりでなかなか口に入れない。ユウスケもつられてグミを見つめた。

「ナツメさん、駄菓子屋楽しかった?」

「うん! あんなにお菓子があるなんてビックリしちゃった。スーパーより多いのね」

ユウスケの目に映るナツメさんの横顔は、夏の太陽に照らされてキラキラ輝いていた。

「ねぇ、食べよう! これ、まあまあおいしいからさ!」

ユウスケがそう言うと、ナツメさんは素直に頷いてグミを口に含む。
ゆっくりと味わって小さな一粒を飲み込むと、ユウスケに笑顔を見せた。

「ふふ、おいしい」

「でしょ!」

「ユウスケくんも食べて、ほら!」

たくさんのグミを、二人は笑顔で分け合った。残ったグミは、あと二つ。

「わたし……これ持って帰ろうかな」

「食べないの?」

「だって……食べたらなくなっちゃうもん」

ナツメさんは淋しそうに呟く。それを見て、ユウスケも少し淋しい気持ちになった。

「じゃあ僕も一個持って帰る! いい?」

これで二人とも淋しくない、ユウスケはそう思ったのだ。ナツメさんはびっくりしたように目を丸くした後で、「うん!」と満面の笑みを見せた。

暑い暑い夏の日、小さな恋の始まりです。

⏰:08/07/12 00:49 📱:SH903i 🆔:ImRIP7KU


#450 [◆vzApYZDoz6]
保守 

⏰:08/07/27 19:38 📱:P903i 🆔:Dsn9imQ6


#451 [◆vzApYZDoz6]
1-164までのまとめ
>>165-170
171-228までのまとめ
>>229-231
232-290までのまとめ
>>291-293
294-348までのまとめ
>>349-352

353から現在までのまとめ↓
有さんの作品
死神さんとおんなのこ(現在2/2、再投下予定あり?)
>>356-357

RIEさんの作品
窓際の私(4/4)
>>361-364

朝海さんの作品
スキ(3/3)
>>371-373
指輪(3/3)
>>378-380
月(3/3)
>>406-408

紫陽花さんの作品
とある無人島での話(3/3)
>>374-376
とある歪んだ恋の話(2/2)
>>382-383
求めるもの(1/1)
>>433
夏の教室(3/3)
>>443-445

⏰:08/07/27 23:44 📱:P903i 🆔:Dsn9imQ6


#452 [◆vzApYZDoz6]
林檎さんの作品
わたしの家(3/3)
>>385-387
殺し屋(2/2)
>>401-402

キノコ。さんの作品
デーブ。(3/3)
>>389-391
定年。(2/2)
>>394
>>396
嗚呼、思春期。(3/3だったけど長すぎて断念)
>>409
マルコ。(3/3)
>>411-413

SH905iの匿名さんの作品
保守ネタ(2/2)
>>403-404

D905iの匿名さんの作品
GAM(1/1)
>>416-417

蜜月◆oycAM.aIfIさんの作品
居場所(3/3)
>>418-420
闇夜の雨、月(1/1)
>>439
夏恋(3/3)
>>447-449

あにさんの作品
時に残酷な。(3/3)
>>423-425

⏰:08/07/27 23:45 📱:P903i 🆔:Dsn9imQ6


#453 [◆vzApYZDoz6]
◆vzApYZDoz6の作品
帰路(3/3)
>>428-430

桃色さんの作品
愛しいあなた(1/1)
>>435
名も無き花(1/1)
>>436
記憶のカケラ(2/2)
>>441-442

なお、タイトルのない作品は文中から抜粋してタイトルをつけました。

⏰:08/07/27 23:46 📱:P903i 🆔:Dsn9imQ6


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