よすが
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#900 [ん◇◇]
「あ、梨菜お帰り。ご飯できたからお父さん呼んできて」
「.......わたし、あんまりサバってすきじゃないんだよね」
「いいから早く呼んできなさい!」
渋々階段を上がり、父の部屋のドアをドンドン、と叩いた。
「お父さん、ご飯だよ!」
:22/10/25 21:45
:Android
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#901 [ん◇◇]
:22/10/25 21:45
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#902 [ん◇◇]
:22/10/25 21:46
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#903 [ん◇◇]
:22/10/25 21:46
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#904 [ん◇◇]
:22/10/25 21:46
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#905 [ん◇◇]
:22/10/25 21:46
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#906 [ん◇◇]
:22/10/25 21:46
:Android
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#907 [ん◇◇]
:22/10/25 21:46
:Android
:zH8LnywQ
#908 [ん◇◇]
:22/10/25 21:47
:Android
:zH8LnywQ
#909 [ん◇◇]
「父に会っていかなくていいんですか」
わたしたちは、彼が昔、猫を埋めたという場所にいた。途中で買った花を添え、二人で手を合わせる。
「君の貞操を奪ったって言ったらあの人はどんな顔をするんだろうね」
「.......父は、あなたが小説家になったことを知っていると思います。父の部屋には永原愛の小説が全て揃えてありました」
:22/10/26 05:29
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:AtV/.tU6
#910 [ん◇◇]
「はは、まぁ偶然だろ。俺は、あの人たちに会うつもりはないよ」
三日という時間はあまりにも短く感じた。駅のホームで、帰りの新幹線がくるのを待ちながら、二人でココアを飲む。駅のなかは蒸し暑く、汗で肌はじっとりとぬれている。.......彼はもう二度とわたしには会ってくれないだろう。
:22/10/26 05:30
:Android
:AtV/.tU6
#911 [ん◇◇]
彼にとって、わたしなど憎むべき存在でしかないのだ。やがて新幹線が到着したことを知らせるアナウンスが流れた。
「梨菜、さよなら」
そう言い残し彼の背中は人混みの中へ消えていった。目頭が熱くなり、涙が溢れてとまらなかった。
:22/10/26 05:30
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:AtV/.tU6
#912 [ん◇◇]
「お兄ちゃん!」
悲痛なわたしの叫び声は駅中に響いても彼のこころにとどくことはなかった。
お兄ちゃん。
どうか、幸せになって。
:22/10/26 05:30
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#913 [ん◇◇]
いつか素敵な女性と結婚し、あなたが子供の頃夢見た理想の家庭を築いてください。家族というのは悪いもんじゃないんだってことをどうかあなたにだけは知ってほしいのです。
BLUE BIRD
Fin
:22/10/26 05:30
:Android
:AtV/.tU6
#914 [ん◇◇]
:22/10/26 05:31
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:AtV/.tU6
#915 [ん◇◇]
:22/10/26 05:31
:Android
:AtV/.tU6
#916 [ん◇◇]
:22/10/26 05:31
:Android
:AtV/.tU6
#917 [ん◇◇]
>>>960-999
:22/10/26 05:32
:Android
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#918 [ん◇◇]
:22/10/26 05:32
:Android
:AtV/.tU6
#919 [ん◇◇]
ギンリョウソウ
「お嬢様、次の連休はどこにお出かけしますか?」
「やはり花の都、パリなどはいかがですか?」
「もうすぐ涼しくなりますし、ここはひとつ暑い所はどうでしょう」
「じゃあ、ハワイなんて素敵じゃありません?」
勝手に騒ぎだすメイド達。そんな彼女達に静かに微笑みかけ、着替えを手伝おうとする手を制するは、この館の主の娘だ。
:22/10/26 10:11
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:AtV/.tU6
#920 [ん◇◇]
「いいえ。わたしはどこにも行きませんわ.......」
彼女の名は、野々宮 椿(ののみや つばき)。十七歳になる高校生だ。ファッションデザイナーとして世界的に有名な椿の父は、男手ひとつで椿を育てた。父は常に椿の意見を尊重し、椿もそんな父が喜んでくれるなら、と、父の為に最善の道を選ぶ。そんな野々宮家にも、決まりがあった。
:22/10/26 10:11
:Android
:AtV/.tU6
#921 [ん◇◇]
“十七歳になれば、婚約者を見つけること”
「.......椿、そんな相手いるの?」
幼なじみで親友の美希が、学校へ行く車の中で聞いてきた。椿は微笑みながらも少し困ったのかうつ向いた。
「いると.......言いますか、立候補して下さった方がいて.......」
:22/10/26 10:12
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#922 [ん◇◇]
と、言いながらその人物を思い出す。初めてあったのは椿の誕生日パーティーだった。元々、からだが弱い彼女は、パーティーに疲れ、隅の方の椅子に座っていたのだった。父は心配しながらも、来てくれた客に挨拶をしなければと、椿をおいて人混みに紛れていった。それを見送り、うつ向いてからため息をそっと吐く。
:22/10/26 10:12
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#923 [ん◇◇]
『きみが、椿お嬢さん?』
爽やかな、甘い声だった。ゆっくりと顔をあげれば、同い年か、ひとつ上くらいの男性がにこりと笑って椿を見下ろしている。青っぽい黒髪が印象的で、椿はぼんやりとしながらも立ち上がり、ひとつ礼をした。
:22/10/26 10:12
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#924 [ん◇◇]
『初めまして。ぼくは蒼野 要(あおの かなめ)って言います』
『野々宮椿です。本日は足を運んで頂きありがとうございます.......』
青野要と名乗る男性は、にこにこしながら椿に握手を求める。差し出された手を遠慮しがちに出せば、しっかりと手を掴まれる。父以外の男性に手を握られるのに慣れていない椿は、困りながら顔を赤らめた。
:22/10/26 10:12
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#925 [ん◇◇]
『良ければお話でもどうでしょう。きみとは一度ゆっくりと話してみたいと思ったんだ』
そこで。彼はどこで聞いたのか、自分が婚約者になりたいと名乗りでたのだ。父も彼を気に入っている様子で、椿も、ならばと彼を婚約者としようと考えていたのだ。「でも.......」と椿は思う。
:22/10/26 10:12
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#926 [ん◇◇]
「美希ちゃん、ギンリョウソウって.......ご存知ですか?」
椿の話の続きを待っていた美希は眉を寄せた。
「ギンリョウソウ?初めて聞いたよ」
それは。パーティーの後の事だった。たまたま青野要が携帯で話している所に居あわせた椿は、話を聞いてはいけないと、踵(きびす)をかえそうとした。
:22/10/26 10:13
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#927 [ん◇◇]
『まるでギンリョウソウのような女の子だったよ』
青野要は確かにそう言った。耳慣れないその単語に、椿は思わず足を止めた。
ギンリョウソウ?
その単語を調べたくて、辞書を開いた。意味は<山奥の陰にしか咲かない半透明の白い花>.......などの意味が書かれていた。あまり良くない意味だというのは分かった。
:22/10/26 10:13
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#928 [ん◇◇]
しかし、分からない。そんな少女を、何故彼は婚約者として名乗りをあげたのだろうか。それとも、何か別の意味が.......?
ギンリョウソウ
第一話
椿が通う学校はお嬢様が行くような学校ではない。
:22/10/26 10:13
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#929 [ん◇◇]
美嘉と一緒の一般の学校だ。これは椿の希望で、父も快く許してくれた。むしろ美嘉がいてくれた方がありがたいと喜んでくれたのだった。
「あ、美嘉、椿。おはよう」
教室に入って、にっこり笑いながら挨拶したのは友人の神野 絵子(かんだえつ)だ。優しくいつも前向きな女の子だ。
「おはようございます.......」
:22/10/26 10:14
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#930 [ん◇◇]
椿も微笑みかえす。
しかし椿の頭の中は、青野要の事でいっぱいだった。
青野 要。
彼はデザイナー界の期待の新人なのだ。椿と同い年にも関わらず既に社長業を勤め、彼のデザインした服はパリコレなんかにも出される有名ブランドとなっている。その名もAKAと言うらしい。自分の名前がアオノ、だから逆のアカでブランド名をつけたらしい。
:22/10/26 10:14
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#931 [ん◇◇]
容姿も爽やかで、人なつっこい笑顔が人を寄せ付ける。そんな女性にも困らなさそうな彼が、「ギンリョウソウ」と称している自分を好んだのか、椿はやっぱり分からないでいた。しかし、椿には薄々気づいている事もあったのだ。
:22/10/26 10:15
:Android
:AtV/.tU6
#932 [ん◇◇]
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
迎えてくれるメイドや執事達に会釈して、椿は自室へと向かった。ベッドに腰掛け、深呼吸をする。なんだか熱っぽい気がする……。体のだるさを感じていると、ドアを誰かがノックした。返事をすると、ノックした人物が入ってきた。
:22/10/26 10:15
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#933 [ん◇◇]
「あ、父様.......イタリアから帰ってらしたんですか。お帰りなさいませ」
「ただいま、椿。すまないがまた出かけなければならないのだ。その前に顔を見ておきたくてな」
柔らかく笑いながら、父は椿の髪を撫でる。椿はいつも自分を大事にしてくれる父が大好きだった。
:22/10/26 10:15
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#934 [ん◇◇]
「それと、もうじき要君がくるらしいから、仲良くするんだよ」
そう言われて、椿は静かに微笑んで頷いた。そんな椿に、父は少し困った顔をした。
「椿、本当に要君が婚約者でいいのか?椿は私が彼を気に入ってるからそれでも良いと思ってるんじゃないのか?いいか、椿。一生一緒にいる人は、自分の心で決めなきゃならないよ?」
:22/10/26 10:15
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#935 [ん◇◇]
真剣な顔で心配して言ってくれる父に、やはり椿は微笑んだ。
「大丈夫ですよ、父様.......」
「失礼します」
凛とした声が椿の部屋に響いた。入口を見れば、スーツ姿の要がいた。要はにこっと笑うと部屋の扉を閉め、こちらに歩いてくる。父はそんな要に向き直り笑いかける。
:22/10/26 10:16
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#936 [ん◇◇]
「やあ要君。久しぶりだね。フランスはどうだった?」
「行く度に勉強させられますよ。僕はまだまだ未熟ですね」
「そうかい。向上心があって実にいい。では、邪魔者は退散しようかな」
そう言って、要を信じきっているのか、父は2人を残して出て行ってしまった。父が出て行く際に一礼して見送った要は椿に向き直る。笑いかけられた椿はベッドから立ち上がり要に頭を下げた。
:22/10/26 10:16
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#937 [ん◇◇]
「お仕事ご苦労さまです、青野さま」
「青野さまだなんてよそよそしい。要と呼んでくれて構わないんだよ」
挨拶とでも言うように、要は椿の頬に軽くキスをした。戸惑いながらも微笑む椿。
「まだ、旦那さまではないので.......」
「でもなるのは決まってるんだ。別にいいじゃないか」
:22/10/26 10:17
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#938 [ん◇◇]
そう言われても、なかなか呼べない椿だ。やはり微笑むしか出来ない椿の額に、要は手を当てる。
「君、熱がある?」
「.......さあ。分かりません。平熱は高い方なので」
「でも休んだ方がいいね。メイドさんを呼んでこよう」
スタスタと歩き、彼は部屋を出ていった。その姿を見ながら椿はふと思った。恋人が体調を崩したなら、まず自分自身がそばにいるものじゃないのだろうかと。
:22/10/26 10:17
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#939 [ん◇◇]
しかし、すぐに、いいや、と首をふる。心配なら尚更誰かに言って医者を呼ぶのが先か.......と思い直す。残念ながら、椿は付き合った事がない。なので当然ながら、彼女は恋人同士はどのように接するものかなんて言うのは分からないのだ。仕方なく、寝巻きに着替える。するとまた扉をノックされた。入ってきたのはメイドと要だ。
:22/10/26 10:18
:Android
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#940 [ん◇◇]
「椿さま、担当医を呼びましょうか?」
「いえ、寝れば治ります。なので佐々木さんも青野さまも、うつらない内にお帰りなさいませ」
ちなみに佐々木とはメイドの名前である。
「君がそう言うなら言う事を聞こう。明日また来させてもらうよ。ではね」
:22/10/26 10:18
:Android
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#941 [ん◇◇]
爽やかな笑みを浮かべ、あっさりと要は帰ってしまった。そんな要にメイドである佐々木は戸惑い、椿を見るが、何も気にしてないように優しく佐々木に言った。
「佐々木さんも、ね」
「では、またお時間になりましたら、夕食とお薬を運ばせて頂きます」
メイドは頭を下げてから、出ていく際に部屋の明かりを消した。ベッドに身を沈め、天井を見つめながら椿は1人考える。こんな、お荷物の自分を婚約者扱いしてくれるのは嬉しい。優しくだってしてくれるし、こうやって顔も見に来てくれる。
:22/10/26 10:18
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#942 [ん◇◇]
でも彼は心配してるような言葉を椿に向けながらも、その言葉に込もっている気持ちは空っぽのような気がしてならない。
彼の目的は?
椿は思い当たっている事がある。だがそれが本当なのかどうか、彼女にはまだ分からないのだった。
「椿、今日椿ん家寄っていい?」
学校で掃除をしている時、美嘉が言った。椿は箒で床を掃く手を止めて、頷く。
:22/10/26 10:19
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#943 [ん◇◇]
「ハイ。ちょうど今、綺麗な薔薇が咲いているので、是非美嘉ちゃんに見てもらいたいです.......」
「本当?椿ん家はいつも綺麗にしてるからなー。椿ん家の庭すっごい好き!」
無邪気に笑う美嘉を見て、どこかホッとする椿。こんな風に、美嘉はいつも椿に優しさと元気をくれる。椿は、自分にはもったいないとさえ感じる。だから美嘉が何かで悲しんだりしたら、自分が元気を与える事が出来ればいいなと考える。
「あ、絵子」
美嘉が絵子を呼び止める。
:22/10/26 10:19
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#944 [ん◇◇]
「今日椿ん家行くんだけど行かない?」
絵子は一瞬パッと表情を明るくさせるが、しばらく考えてから「あ!」と声をあげた。
「ごめん!今日はお米の特売あるから帰る!」
と言うなりカバンを掴んで、猛スピードで教室から出て行ってしまった。その姿を見てから、椿と美嘉は顔を合わせる。
「絵子ちゃんも大変ですね.......」
「ある意味あの子が母親代わりみたいなとこあるからね」
:22/10/26 10:20
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#945 [ん◇◇]
最近彼女の家に変化があったのか、忙しく動き回るもか楽しそうに毎日を過ごしている。そんな越に、椿は拍手したい気分だった。自分は恵まれていると思えば尚更に。
「じゃそろそろ行こっか」
いつも通り、まっすぐ自宅へ帰る。
扉を開ければやはり大勢のメイド達が椿だけでなく美嘉にも挨拶をする。それも昔から知ってるので、美嘉はカラカラ笑って「たっだいまー」と気軽に返事をする。
:22/10/26 10:20
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#946 [ん◇◇]
「お嬢様」
1人のメイドが椿を呼ぶ。
「要さまが来てらっしゃいます。お仕事を持ち込んでらっしゃいますので、お嬢様の挨拶はそれを済んでからの方がいいかと思われたんですが、ご本人はいつでも.......とおっしゃってました」
:22/10/26 10:20
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#947 [ん◇◇]
今日も来たのかと椿はぼんやり思った。しかし、仕事をしているなら別に早く挨拶に行かなくてもいいだろう。こちらだって、美嘉がいるのだし。
「わかりました.......ありがとうございます」
しばらくの間は庭にいようと思い、自室に美嘉とカバンを置きに行ってからまた外へと出た。きちんと切り揃えられている植え込みや、青々とした芝生はいつみても美嘉に「すごい」と言わせるのであった。
:22/10/26 10:21
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#948 [ん◇◇]
「こちらです」
薔薇が咲いている場所に美嘉を案内する。たどり着いた場所には、様々な形、色をした薔薇が無数に咲いていた。その周りを、2人は歩く。
「婚約者、本当にいたんだ。なんか信じられないや。いい人?」
「ええ、もちろんです。だって私なんかの婚約者になって下さるんですもの」
:22/10/26 10:21
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#949 [ん◇◇]
心底そう思ってるらしく、椿は笑顔で美嘉にそう告げる。しかし美嘉は、椿をじっと見つめると、蔦が絡まったアーチの下で足を止めた。
「椿、美嘉は椿みたいな令嬢のしきたりとかは分からないけど、椿が嫌なら嫌って言っていいと思うよ」
椿は首を傾げてから、小さく頷きほのかに微笑む。嫌だなんて思ってない。美嘉や父のように心配してくれる人がいるのは、どれだけ有難い事かと彼女は思う。要も悪い人ではない。もしかしたら今日来たのだって昨日熱を出したから心配してくれたのかもしれないのだ。
:22/10/26 10:22
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#950 [ん◇◇]
そう感じれば、嫌だなんて失礼な事を言う筈がないのだ。美嘉はまだ気にしたように椿を見るが、彼女は微笑み続けているのでそれ以上は何も言わなかった。ただ、そんな彼女だからこそ、ひそかにしらない所で、その小さな胸を痛めているのではないかと思えば、美嘉は悲しくなったのだった。
:22/10/26 10:22
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#951 [ん◇◇]
庭を歩き回り、疲れただろうと美嘉に言い、椿は休憩を取るため部屋へと戻ってきた。メイドがお茶を運ぶと言ったが、自分ですると言い、今から取りにいく。出来る事はなるべくしておきたいのだ。椿1人では重たいティーセットを持てないと思い、美嘉もついてくる。
:22/10/26 10:22
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#952 [ん◇◇]
「あ、セイロンだ。美嘉これ好きなんだー」
「そうだと思って用意してもらったんです」
ほのぼのと会話しながら部屋へ戻る途中、ある部屋の扉が少しだけ開いていたのに気づく。
:22/10/26 10:22
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#953 [ん◇◇]
:22/10/26 10:23
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#954 [ん◇◇]
:22/10/26 10:23
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#955 [ん◇◇]
:22/10/26 10:23
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#956 [ん◇◇]
:22/10/26 10:24
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#957 [ん◇◇]
:22/10/26 10:24
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:AtV/.tU6
#958 [ん◇◇]
:22/10/26 10:24
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#959 [ん◇◇]
「もう、何か喋りなよ。わたしなんか死んでから独り言ばかりだよ?猫しか遊び相手いないし、つまんない」
愚痴を言いながらも、わたしはわずかに微笑んでいた。孝の隣は居心地が良い。悪ふざけをしない孝は悪いもんじゃないなと、あの屋上でのひと時以来しばしば感じていた。沈黙すら楽しんでいる。
:22/10/26 10:27
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#960 [ん◇◇]
「二時三十分か」
公園の時計を見て呟くと、孝の声とぴったり重なった。驚いて隣に視線を向ければ、孝も携帯電話の時計を見ていた。カチカチと、無造作にボタンを押す孝。先程の電話の件もあってつい画面を覗き込んだ。
「孝、何考えてるの?」
:22/10/26 10:28
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#961 [ん◇◇]
画面にはわたしの名前と電話番号が映っていた。しばらく停止した後、孝は通話ボタンを押した。ゆっくりと耳に近付けると、呼び出し音が響く。三回.......四回.......。
出るはずがない、と確信しながら、孝の行動の意味を考えていた。結論、理解不能。八回目を過ぎると、孝は電話を切った。溜め息を吐く孝を横目に、少し気まずさを覚えた。
:22/10/26 10:28
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#962 [ん◇◇]
孝が、教室で黙祷の時に見せた、わたしの机を見つめていた時のあの目をしていたのだ。何を考えているのか.......わたしにはわからない。そう、思っていた。孝の漏らした言葉を聞くまでは。
「.......千恵。おまえはもう帰ってこないんだな、本当に、」
:22/10/26 10:28
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#963 [ん◇◇]
不意打ちだった。
有り得ないと思っていたことが現実に起きた瞬間、わたしは顔に熱が昇るのを感じた。かぁっ、と頬が熱くなる。孝は、わたひを想ってくれていたのだろうか。張り合い相手がいなくなったのを、寂しがってくれていたのだろうか。わたしは初めて見た、孝のそんな姿を。
:22/10/26 10:28
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#964 [ん◇◇]
九年前に反発しだした関係が、九年ぶりに修復に向かった気がした。よくわからないが、わたしは気恥ずかしさでいっぱいだった。この感覚は知っていた。昔、体験したことがある。ランドセルを落としたあの放課後の時と同じだった。
:22/10/26 10:29
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#965 [ん◇◇]
自らの熱と、場の空気と、何より恥ずかしさに耐え切れなくなったわたしは、逃げるようにその場を離れた。
わたしは走った。顔の熱は冷める兆しはなく、わたしのスピードを上げた。息切れはしないし、全力疾走なのに思うように速くない。夢の中の全力疾走のような感じだ。それでも。わたしは走った。息切れはないが疲労感が込み上げてくる。
:22/10/26 10:29
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#966 [ん◇◇]
身体が脱力しきって走るのを止めた時、空を見上げれば茜色の夕空が夜を待っているところだった。嗚呼、不思議だ。わたしは死んだ。なのに。生きていたときより、こころが躍っているような気がする。わたしは怖かった。道標がない未来に怯えていた。突然、影のように闇に紛れて消えてしまうんじゃないかと。突然、煙のように空気に混ざって溶けてしまうんじゃないかと。
:22/10/26 10:29
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#967 [ん◇◇]
だけど、いまは違う。わたしは怖くない。身体が熱い。実際の所、死んでから体温や気温などを感じる機能は遮断されていた。だから熱い、というよりは熱い気がするの方が正しいと思う。どちらにせよ、わたしはいま、赤面しているだろう。わたしの身体を取り巻く熱が引くまでに、かなり時間が掛かった。とっぷりと暮れた夜空の下、わたしは公園のベンチにいた。
:22/10/26 10:29
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#968 [ん◇◇]
さっきの公園とは違う公園。いまにも切れそうな街灯に視線を送りながら、頭を抱える。変わっていない。九年前と。あの頃は子供だった、なんて、笑ってしまう.......わたしいまも子供だ。変わっていない。九年前と。わたしは九年前に、気持ちを置いてきてしまったのかもしれない。だけど、気付いてしまった。九年もの間、全く気付かなかったことに、わたしは、気付いてしまった。じわりじわりと熱が蘇ってくる。
:22/10/26 10:29
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#969 [ん◇◇]
わたしは、
孝が、
満天の星空の下、わたしはこころの奥底に秘めた気持ちを隠した。暗い暗いこころの奥に。二度と上がってこないように。気付いてしまった以上は、仕方がない。わたしは死んだのだ。
:22/10/26 10:30
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#970 [ん◇◇]
わたしにはもう、道は残されていない。希望はないのだ。失望することがわかっている以上、封印してしまおう。それが良い.......そうしよう。その日、わたしはベンチで夜を明かした。
月曜日の朝になった。退屈とは拷問に近い。孝がいるから学校に行く気もしないし、家に帰る気もしない。
:22/10/26 10:30
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#971 [ん◇◇]
わたしはいつか消えるのだろうか。その時は昨日の気持ちも消えていくのだろう。その先には天国か地獄があるのかな。その時は昨日の気持ちも一緒に持って行くのだろう。私は初めて自分が女々しいことに気付いた。こうした考えを巡らすのは、隠したはずの気持ちが漏れだしている証拠ではないか。
振り出しに戻った気がした。
:22/10/26 10:30
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#972 [ん◇◇]
心が空っぽになった気がした。膝をぱんっ、と叩いて立ち上がる。
「わたし、これからどうしようかな」
気が重いがとりあえず家に帰ろうか。
ふらふらと家の方角に歩き出した。家の前に着いた。玄関先には父と母の姿があった。
「じゃあ、行ってくる」
:22/10/26 10:31
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#973 [ん◇◇]
スーツ姿の父が鞄を下げて手を上げる。
「行ってらっしゃい」
「今日は早めに帰るよ」
父がそう言うと母は笑った。
「早く帰りたい、でしょ?」
「まぁ、そうだな。じゃ、そろそろ行ってくる」
「はいはい。私もこのまま出ますよ」
:22/10/26 10:31
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#974 [ん◇◇]
「.......良枝。これから、頑張ろうな」
微笑む父に母はまた笑った。私は何故か違和感を覚えたが、父に「いってらっしゃい。頑張ってね」と声を掛けると玄関に向かった。リビングに上がると違和感が一気に増した。違う。何かが違う。仏壇に私の写真がない?母の笑顔が頭にちらつく。父の言葉が頭を過ぎる。
:22/10/26 10:31
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#975 [ん◇◇]
「頑張ろうな」
頑張ろうな?昨日から何かが変だ。
前向きだが、何かが違う。私は母が家に入って来ないことに気付いた。母の声が再生される。
:22/10/26 10:32
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#976 [ん◇◇]
「私もこのまま出ます」
出る?何処へ?何故一昨日帰ってこなかった?何故一昨日普段着だった?私は弾かれたように家を出た。キョロキョロと辺りを見渡せば、彼方に母の後ろ姿が見えた。私は走って後を追った。
:22/10/26 10:32
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#977 [ん◇◇]
おかしい。人間の頭で考えるのも変だが、どうもおかしい。私は死んだ。消滅するのはいつだ?三途の川はどこだ?お花畑や血の池地獄にはいつ行くのだ?それに、まだ見ていない。私という死者が存在しているのに、私以外の死者の姿を。
:22/10/26 10:33
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#978 [ん◇◇]
私は何だ?一つの希望が頭に浮かんだ。希望を断たれた時に傷付くのは嫌だが、往生際が悪いのは私の性格だ。
だが、私はそれに賭けてみたかった。
私は死んでしまった。だけど、夢くらいは見ても罰は当たらないだろう。
希望くらいは持っても、神様は許してくれるだろう。母の隣を歩いて、やがてある建物に着いた。ここは.......
:22/10/26 10:33
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#979 [ん◇◇]
「病院?」
白に統一された建物を見て、私の気持ちは高鳴った。落ち着け、私。まだ早い。答えは母について行けばわかるだろう。施設に入ると、内部を一瞥してから母は受付を済ました。エレベーターで三階に上がると、廊下を通り抜けてある病室の前で立ち止まる。
:22/10/26 10:33
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#980 [ん◇◇]
母がドアを開ければ、中は個室になっていた。室内を見た私は、目を丸くした。
「なんで?」
そこには、病室のベッドに身を埋めて眠る私の姿があった。口元には呼吸を助けるためなのか、規則正しい音を出す機械が伸びている。呆然とする私の前で、母はせっせと世話をし始めた。花瓶の水を変えている母を眺めていたら、ふと我に返る。
:22/10/26 10:33
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#981 [ん◇◇]
即座に病室の前の名札を見に行けば、桜井千恵と書かれていた。間違いない、私だ。もう一度目を向けると、ベッドの上の私は眠るように胸を上下させていた。予想は当たっていた?私は死んでなかった?夢を見ているのではないか。喜びと同時に疑問も溢れた。母や父が元気になった理由は頷ける。
:22/10/26 10:34
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#982 [ん◇◇]
しかし、私の葬式は確かにあった。ならば、いつ私は生き返ったのだろうか。いやそれより、何故私は肉体に戻れないのだろうか。これは意識不明の昏睡状態というものか。それとも植物状態というものか。それより問題は身体に戻れないこと。私が何度試しても、映画のように魂が肉体に戻ることはなかった。これじゃ.......生き返ったなんて言えない。
:22/10/26 10:34
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#983 [ん◇◇]
肉体は生き返っても、私の心はこうして死んだままだ。でも、悲しくはない。ようやく希望が見えた。生きているとわかったその時から、私の心の中心はある感情に支配されていた。あの時、奥深くに封印したはずの想いが、いつの間にか溢れ出していた。
.......孝。
この数日、孝は悲しんでいただけかも知れないけど、私は変わったと思う。
:22/10/26 10:34
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#984 [ん◇◇]
孝には悪いけど、私はもう止まれない。例え希望が断たれても、私は突き進むと決めた。私には、まだやり残したことがある。孝の気持ちを聞いていない。盗み聞きはよくないと思うが、今じゃなきゃ出来ないのも事実だ。私はまた走っていた。学校に行ってみたが今日は孝はいなかった。ならばと家まで押しかけたが生憎の不在。次に所に向かっていた。
:22/10/26 10:34
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#985 [ん◇◇]
脱力感は最高潮に達する。もしあそこにいなかったら、私はしばらく動けなくなるに違いない。一歩進む度に孝に近付いているのだろうか。私は鎖が巻き付いたような重い足を踏み出しながら、歩を進める。やがて足は動かなくなり、そして完全に停止した。
「も、動けない」
膝に手をつきながら顔を上げる。
「けど.......間に合ったっ!」
:22/10/26 10:35
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#986 [ん◇◇]
正面にはあの公園。そしてベンチには大嫌いだった男。私は微笑みながら足を引きずって隣に座った。
「あんたさぁ.......いい加減にしてよね。死んでからもわたしをいじめる気?」
笑ってみせるが、やけに清々しい。孝は静かに正面を見据えつつ、足を組んでいる。馬鹿馬鹿しい。私がこんなに一生懸命なるなんて、生きてた時は思ってもいなかった。だが、悪い気分ではない。
:22/10/26 10:35
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#987 [ん◇◇]
「今日はいつもみたいに退かないからね。答えを聞くまで、粘るよ」
ベンチに身を委ねて空を仰げば、隣から声が響く。
「不思議な気分だ」
「え?」
「千恵がいなくなってから、たまに千恵を近くに感じる時がある」
屋上や公園でのことだろうか。
:22/10/26 10:35
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#988 [ん◇◇]
「今も」
「うん」
しばらく沈黙が続く。小さく息を吐いて次の言葉を待った。
「なぁ、」
私は孝を横目でみる。孝は相変わらず同じ姿勢を保っている。今日はやけに独り言が多いなぁ。いつもより饒舌ではないか。少し黙った孝に私は視線を送り続けた。
:22/10/26 10:36
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#989 [ん◇◇]
「俺はおまえが嫌いだったよ」
.......うん。それはわかっていた。世界は灰色に変わる。悲しみも衝撃もない。でも大丈夫。私は、気付いてしまったから。
「.......で?」
気付いたから、違うんだと今は信じれる。
「嫌いだって、思ってた。いや、思い込んでた」
:22/10/26 10:36
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#990 [ん◇◇]
ほらね、信じることが出来る。
「あの日の延長線.......」
孝は一つ一つ言葉を落としていく。きっと私の高鳴りは最高潮に違いない。
「格好悪いって躊躇っていたら、後戻りが出来なくなっていた」
.......まただ。またあれが来た。気恥ずかしさが心を埋めていく。一刻も早くここから去りたい衝動に駆られる。少しずつ体が熱を帯びる。
:22/10/26 10:36
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#991 [ん◇◇]
「でも、今になって俺は、」
でもね、もう大丈夫。逃げ出したりはしない。何より大切なものを見付けたから。
「好きなんだって、気付けたんだ」
そう言い終えた孝は切なそうな視線を空に映した。
「孝.......」
私もね、気付いたんだ。孝が、好きみたいだって。だけど、ここまでだよ。私は初めから知っていたのかも知れない、こうなることを。
:22/10/26 10:37
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#992 [ん◇◇]
間に合って良かった。最後に、答えを聞けて良かった。
それは。突然やってきた。身体に暖かさを感じる。死んでから一度も感じなかった温もりだ。身体が小さく細かい光の粒に変わっていく。目に映る景色も白くなり始め、視界の端から崩壊していった。それらの感覚はじわりじわりと私の身体を侵食していく。少しずつ、少しずつ。
:22/10/26 10:37
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#993 [ん◇◇]
もう、時間か。どうやら、ようやくお迎えがきたようだ。九年前に止まった時計は、九年の時を経て再び刻み始めた。
十八年間。短いようで長い人生だった。今から行くのは天国だろうか、地獄だろうか。色々あったが、ようやく私の臨死体験は終わりを告げるようだ。
:22/10/26 10:37
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#994 [ん◇◇]
死んでから気付いた大切な人。
もし生き返ることが出来たなら、きっと私は告白することが出来るだろう。でも後悔するのは嫌だから、今言えるだけ言っておこう。今までありがとう。貴方が大好きでした。そして最後に、
さようなら。
:22/10/26 10:37
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#995 [ん◇◇]
薄れゆく意識の中で、わたしはゆっくりと微笑んだ。
死んでから気付く大切な人
[完]
:22/10/26 10:38
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#996 [ん◇◇]
:22/10/26 10:38
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#997 [ん◇◇]
:22/10/26 10:39
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#998 [ん◇◇]
:22/10/26 10:40
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#999 [ん◇◇]
:22/10/26 10:40
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