こいごころ
最新 最初 🆕
#901 [向日葵]
「えと、前川っていうんだけど……。あの、3年の、卒業する」

「はい、前川先輩ですね。私たちのクラスになにかご用でも?」

前川と名乗る卒業生は、照れるように頭をかきながら、教室に入り、茉里に近づいていく。

「実は、前から可愛いなって気になってたんだ。良ければ、付き合ってくれないかな」

茉里は瞬きを素早く何回か繰り返す。

宗助と付き合う前は、何回かこういうことがあったが、久しぶりにばったり遭遇すると、対応の仕方を忘れてしまった。

声も発せられずに、今度は茉里がぽかんとしていたら、前川はもうそこにいた。

「えと、私に彼氏がいることはご存知ですか?なので私は先輩と付き合うことは出来ないんです」

⏰:11/09/10 01:26 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#902 [向日葵]
「有名なやつ?」

「さ、さあ……。人っていつの間にか有名なってたりならなかったりしてるんで」

「誰?名前は?」

引き下がらない。
この人面倒くさいタイプだ。
名前を言ったところで、信じる人ではないだろう。

「有名な人だと、納得いきます?」

「いくかいかないかって言うならいかないけど」

うう……。

「同じクラスの笹部くんって人ですけど」

⏰:11/09/10 01:27 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#903 [向日葵]
「知らないなあ。本当にいる人なの?適当に名前言ってない?」

適当で「笹部」って名字が出てくるって、どんだけ発想力というか想像力豊かだよ私。

ツッコミを入れつつ、縮められた距離を密かにひろげ、茉里はこの場からどうにか逃げようとした。

「とりあえず、私は先輩とはお付き合い出来ません。ごめんなさい」

鞄を持つと同時に、その手がつかまれた。
思わず「ひっ……」と声が出る。

「人が真剣に告白してるのに、逃げようなんてしないでくれる?」

⏰:11/09/10 01:27 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#904 [向日葵]
前川が言ってることは確かにもっともな意見だが、彼の告白はだんだんと意地が入ってきているようで、これは最早告白ではなく、欲しいものが手に入らないと気に入らないという駄々っ子のようなものだ。

そんなオモチャのような扱いをうけて、真剣もなにもないと思うが、多分正論を言っても通じやしないだろう。

だから余計にややこしい。

茉里は内心頭を抱えた。

「お返事はしました。そちらが納得いってもらわなくても、私はあなたと付き合うつもりはないんです。手を、離してください。叫びますよ」

きっと、まだ他の教室に残ってる人はいるはず。
声や物音をきいたから。

⏰:11/09/10 01:28 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#905 [向日葵]
「叫んでもいいけど、一体何人が君が助けを呼んでるって思うかな」

今日は卒業式。
卒業生がふざけてるのではと考えるか、在校生がふざけてると考えるか。
誰が本気で助けを呼んでるなんて気づくのだろう。

たちが悪いのに捕まったものだと悔やむが、悔やむより今は恐怖のほうがはるかに大きい。

「な、なにをする気……?」

訊いても仕方ないことを訊く。
いや、むしろ訊かなければよかったと後悔するか。

前川が意味深に、そして怪しく笑うから、茉里は怯えそうになるのをこらえて毅然と前川をにらむ。
それでも、もう膝は小刻みに震えている。

宗助。
助けて、助けて、助けて。
お願い、助けて……っ。

⏰:11/09/10 01:28 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#906 [向日葵]
足を後ろに移動させても、机の足にガタリとあたる。

茉里はつかまれていないほうの手で鞄を持ち直すと、素早くそれで前川を殴った。
弱い攻撃だったとはいえ、怯んだ隙に茉里は教室を出る。

「テメェ……っ!!」

ドアから出て、全速力で走ろうとした時、なにかにぶつかる。
よく知る匂いと共に。

「茉里!?どうした!」

「宗助!!」

茉里は安心して腰が抜ける。
それを宗助が支える。
ふと前を見ると、宗助たちの数メートル先に、息を切らせた前川がいた。

「……あなたは?」

⏰:11/09/10 01:29 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#907 [向日葵]
「おれは……」

「彼女になにをした?」

いつもより更に低い声で宗助が問う。
支えてる茉里の体が震えているとわかれば、声は凄みを増した。

「訊いてるんだ。なにをした。答えろよ」

それでも、前川は答えなかった。
眉間にしわを寄せ、悔しそうに押し黙っている。

宗助は茉里をやさしく離す。
茉里は壁に背を預け、ずるずると廊下に座り込んだ。

宗助はつかつかと前川のそばまでいくと、胸ぐらをつかみ、肘をつかって前川を壁に思い切り押しつけた。

⏰:11/09/10 01:29 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#908 [向日葵]
*アンカー*
>>817

⏰:11/09/10 01:44 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#909 [向日葵]
前川は胸と背中の衝撃に、少しむせた。

「彼女があれだけ怯えるようなことをしたのか?アンタ卒業生だよな。このこと先生に報告して、今すぐアンタの進路先に影響するようにしてやろうか」

「お前たち二人だけで出来るか」

それが唯一の抵抗だった。
宗助はより一層表情を冷たくして、「確かにそうかもしれないな」とあっさり認める。
それと同時につかんでいた胸ぐらから手を離したかと思ったら、瞬時に前川の左頬を殴り飛ばす。

前川は勢いよく横に飛んだ。

「じゃあ、しばらく動けない体にしてやろうか」

茉里は驚いて口をあんぐりと開けていた。
あの宗助が、キレている。
普段温厚な人ほど怒れば恐いとよく言うが、それを目の当たりにした時、嬉しいやら安心したやらより、ただただ驚きが優先された。

更に宗助が、前川を殴ろうと足を動かしたので、茉里は慌てて止める。

「そ、宗助やめて!もう、いいから……っ」

⏰:11/09/24 20:54 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#910 [向日葵]
茉里の声に反応した宗助は、ぴたりと動きを止める。
その隙に前川はよろよろと、しかし急いでその場を離れ、逃げていった。

遠ざかる足音をききながら、茉里は宗助の後ろ姿を見つめる。

「……ごめん」

もういつもの宗助の声だ。

「宗助」

「もっと早くくればよかった。こんなことに、まさかなってるだなんて、思わなかったから」

宗助はゆっくりと茉里のほうへとやって来て、しゃがみ、茉里と目線を合わす。

「立てる?」

「まだ……。ごめん」

「アンタは謝る必要ないだろ」

宗助はひょいと茉里を、いわゆるお姫さま抱っこをし、さっきまでいた教室に運ぶ。
このまま道場行っても、ひやかされるだけだ。
落ち着くまではここにいることにした。

⏰:11/09/24 20:55 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#911 [向日葵]
行儀は悪いが、茉里を机に座らせた。

「なにされた?」

「迫られそうになったの。ちょっと乱暴気味に。でも、攻撃したら、怯んだから」

それでも、圧迫されそうな空気を思い出せば、手が少し震える。

宗助は傷ついたように顔を歪ませ、茉里をゆっくりきつく抱きしめた。
その力強さが心地よくて、茉里は宗助の肩に顔をうずめる。

「恐い思いさせた。ごめん」

「大丈夫だよ宗助。探しにきてくれて、ありがとう」

お礼を言えば、宗助はまたきつく茉里を抱きしめる。

⏰:11/09/24 20:55 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#912 [向日葵]
カチャとなにかきこえたと思ったら、宗助が体を離す。
茉里が宗助を見れば、宗助が眼鏡を外していた。

どうして、と訊く前に、柔らかく唇が押しつけられた。
驚いたけれど、茉里はすぐに身を委ねた。

唇を重ねながら、またきつく抱きしめられれば、口づけが深くなる。

宗助が怒っている。
前川に。
自分に。

そして主張している。

茉里は自分のものだと。
誰にも渡さないと。

唇から、言葉を発しなくてもわかる。
だから茉里も答える。

何度も離れては重ねを繰り返し、次第に息もあがってくる。
それでも宗助は止めなかった。

⏰:11/09/24 20:56 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#913 [向日葵]
舌が絡みあえば、茉里はさっきまで恐い思いをしただなんてことは遥か忘却の彼方にやってしまっていた。

「宗……す……け……」

離された時に紡いだ宗助を呼ぶ声がひどく甘くきこえて、茉里は恥ずかしくなる。

その声をきいた宗助は、なにかに気づいたように、触れるだけのキスをして終えた。

全力疾走したあとのように胸がうるさい。

「嫌だった?」

息切れしているけれど、宗助の言葉ははきはきしていた。
そしてその声は、さっき茉里が発した声と同じくらい甘く感じた。

「ち、違うけど……あの、歯止めがきかなくなりそうで、このままだと……」

⏰:11/09/24 20:57 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#914 [向日葵]
「うん」

「状況が状況だし、ましてや今から道場に行くわけだし」

「うん」

「えーっと、あのー、宗助くんきいてます?」

「きいてるけど?」

きょとんとした顔で首を傾げる。

「続きをしたいけどあんな後にするのはあまり望まない。出来れば違う機会がいい。更に言えば先輩たちが待ってるのに更に待たすようなことをするのは気が引ける。そう言いたいんだろ?」

「そんな事細かに説明しないで!こっちが恥ずかしいじゃない!」

ときどき宗助は大胆になるから困る。
多分引き金は良くも悪くも茉里だ。

もう茉里はおかしくなって、くすくす笑いだす。
宗助はそんな茉里を見て、ホッとしたように笑う。

⏰:11/09/24 20:57 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#915 [向日葵]
「立てる?」

「うん!行こっか」

ぴょんと机から降りた茉里は、宗助の手をとり、指を絡める。
宗助は恥ずかしいからと嫌がらず、指を絡め返す。

顔を見合わせて、また二人で微笑みあったあと、茉里は外を眺めた。

青い空が広がってる。
自分たちが卒業する頃も、こんな空だったら嬉しいな……。

そんな光景を思い浮かべれば、いとおしいような、せつないような気持ちになった。

「あ、ところで宗助、どうしてもどってきたの?」

「…………内緒」

⏰:11/09/24 20:58 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#916 [向日葵]
千早先輩や綾香はただ芝居をしていただけだったし、宗助もその芝居に気づいてはいない。
まさか本当にそうなっていたとは思わなかった。

でも、もどってきてよかった。

そう思った宗助は、ちらりと茉里を見る。
茉里は「ちぇっ」とすねているが、どこか楽しそうだった。

そんな彼女を、また抱きしめたいようなくすぐったい気持ちになり、宗助は静かに微笑んだ。

この気持ちをなんと呼ぶか、二人はちゃんとわかっている。

これは―――――…………。



――――――――
――――――――――…………

暑さでやる気がなくなる。
そんな季節に、また一つの別れの時がやってきた。

会場は人で溢れかえっている。

冷房がかかってても意味がないくらいの熱気だ。

今日は、3年生最後の試合だ。

茉里は宗助について、選手や先生、審判しかいない会場にいた。

「竹刀、全部検査引っかからずにいけたみたい」

「よかった。使いなれたやつもあったから、それが使えなかったら新しいの使わなきゃならないとこだった」

「面紐とか大丈夫ね?あと最初の試合たすき赤だっけ?白だっけ?」

⏰:11/09/24 20:58 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#917 [向日葵]
あれやこれやと動く茉里を見て、宗助は笑う。

「少しは落ち着けよ。大体、なんでアンタがわたわたしてるんだよ。普通逆だろ」

しかしそれを見て少し緊張がほぐれているのも事実だ。

「そりゃ私だって緊張するにきまってるじゃない!言わば今日の為に三年間頑張ってきたんだから!」

「心配しなくてもちゃんと勝ってくるよ」

にやりと笑う宗助に、どきりと胸が高鳴る。
茉里はふと気づいたように、自分の左手首をそっと握る。

「私だって信じてるけど……。油断は大敵なんだからね!同じトーナメントには、沢口くんだっているし……」

「俺より沢口のほうが強いって思ってんの?」

「そうじゃなくて!気は抜いちゃ駄目って言いたいの!」

⏰:11/09/24 20:59 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#918 [向日葵]
それに。

「私がいるんだから、負けたりしないでしょ?」

そう言うと、宗助はなんとも言えない顔になった。
驚いたような、困ったような……。

しまった、と茉里は思った。

宗助は試合前などはこういうカップルらしいことを好まない。
実際、付き合う前、気が散るからやめてくれと言われた。

ああ、自分の馬鹿……。
なにもこんな時にこんな雰囲気になるこてないじゃない……。

宗助ははっと試合場を見ると、隅に片付けておいた面と竹刀を出し、つけ始めた。
もうすぐ試合だとわかれば、茉里は冊子を見て、袋から赤のたすきを出し、背中で交差してる部分の胴紐につけた。

⏰:11/09/24 21:00 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#919 [向日葵]
アンカー
・100区切り・
>>817

・50区切り・

>>2-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751-800
>>801-850
>>851-900
>>901-950
>>951-1000

⏰:11/10/01 19:21 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#920 [向日葵]
あのままの会話で終わるとか、すごく気まずいんですけど……。

心の中で、茉里は肩を落とす。

面をつけ終えた宗助は、ウォーミングアップをかねて、小さく数回ジャンプする。

「宗助!」

面をつけている宗助にききやすいよう、ほぼ叫ぶように宗助に話しかける。

宗助は気づいて、茉里のほうに首を動かせた。
なにも言わず、茉里の言葉を待つ。

「さっきのこと忘れて!ごめん、くだらないこと言って!」

「なんで?忘れないよ、おれは」

え?

「茉里がいるから力が出るのは、当たり前だろ?」

「だって宗助、前……っ!」

⏰:11/10/08 12:45 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#921 [向日葵]
言いかけると、小手をはめた手で、宗助は茉里の額を軽く小突く。

「今と前じゃ、関係が違うだろ」

前は仮彼女だった茉里。
今は、本当の……。

意味を理解して赤くなる前に、言った張本人の宗助が赤くなっていた。

「ごめ……、さすがになんか、クサかったと言うか……」

「宗助さ、私に恥ずかしがる基準がわからないとか言ってたけど、宗助も大概だからね」

「うるさい……」

宗助がなにかに気づいたように、試合場を見る。
そしてさっきよりも表情を硬くして、茉里のほうを向いた。

「じゃあ行ってくる」

⏰:11/10/08 12:45 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#922 [向日葵]
「うん!力一杯応援する。そしたら宗助、勝ってくれるんでしょ?」

「ああそうだな。それが―――」

宗助が茉里の頭をポンポンと撫でて、眩しいくらいの笑顔を向ける。

「恋心ってやつだろ」

宗助はそれだけ言って行ってしまった。
茉里はさっきの宗助の笑顔や言葉で、目を見開いて顔が赤くなったまま固まった。
が、そんなことしてる場合じゃないと、すぐにスコアと、宗助の竹刀袋を持って、空いている場所に応援として座りに行く。

ああもう、まったく。
こんな大事な時まで厄介だ。

心はいつも自分の意に反して行動する。
思い通りになんかなったことがない。

⏰:11/10/08 12:46 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#923 [向日葵]
特に―――――――
―――――恋心というやつは。

⏰:11/10/08 12:46 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#924 [向日葵]
宗助の試合が始まる。

始まる時に、応援の意味をこめ、数回拍手をする茉里の左手には、いつかの面紐がミサンガのようにつけられていた。

宗助、がんばれ!!

茉里と宗助の物語はまだ始まったばかり。

二人がこれからどんな風に心に振り回されるかは…………

……それはまたのお楽しみ。









こいごころ
―fin―

⏰:11/10/08 12:47 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#925 [向日葵]
○あとがき○

これにて、こいごころ終わらせて頂きます!
最後まで読んで下さった皆様、誤字脱字が多々あったりと読みにくい部分があったかと思いますが、最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

よければ感想板に感想を書いて頂くと嬉しいです(●´∀`●)

では、向日葵でした!

ありがとうございました!!

⏰:11/10/08 12:47 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#926 [向日葵]
*アンカー*

・50区切り・

>>2-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751-800
>>801-850
>>851-900
>>901-950
>>951-1000

⏰:11/10/08 12:48 📱:P04C 🆔:☆☆☆


#927 [向日葵]
・100区切り・

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:11/10/08 12:48 📱:P04C 🆔:☆☆☆


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194