【SSS】超短レス短編祭り!【飛び入り参加OK!】
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#501 [◆vzApYZDoz6]
おおw
いつの間にか折り返し地点にw
とりあえず
>>491-493
>>494
>>495-497
>>498-500
皆さん乙っす!

折り返しで何かやろうかなーとか考えてたけど何も思い付きませんw

⏰:08/09/26 18:37 📱:P903i 🆔:hjI7VTjs


#502 [英]
はじめまして^^!
いきなりすみません。聞きたい事がありまして…

ルールが3レス以内との事で…やはりルールに書いてあるように、それ以上の少し長くなったものは駄目ですよね…(´`;)?こちらに書こうと思って考えたものが長くなってしまって;;;

⏰:08/09/30 03:25 📱:W53T 🆔:vKD6JVY6


#503 [◆vzApYZDoz6]
>>502
返事遅くなってすみません!

まぁ多少は大丈夫ですよー

ちなみに、最高120行(1レス40行)まで書けるので、3レスは思っているより長いですよ

⏰:08/10/04 02:03 📱:P903i 🆔:pZXk7L.U


#504 [英]
>>503
限界まで書いた事なかったのでそんな書けるとは知りませんでした(´・ω・`)

なら3レス以内ですむかもしれません^^!お返事有難う御座いました!オーバーした場合はごめんなさい;;

⏰:08/10/04 15:05 📱:W53T 🆔:VPxnXd7.


#505 [タイトル未定(1/3)英]
夏が終わり、雨が降り続いた。
雨が降る度に風は徐々に冷たいものへとなり、秋が始まったのだ。



久々に晴れた空は青く清々しかったが、私の心は空のように清々しくはなかった。

進学、就職。
そんなものまだ先の話と思って何も考えず過ごしていたら、あっという間に高校三年の二学期が始まってしまった。いや、もう三学期へと時は進んでるんだけど…そう思うと深い溜め息が出てくる。

鉛のように重たい足を引きずり、学校から家へと帰る途中にある、小さな公園へと入った。
たった一つだけのベンチに腰掛け、私は何をするわけでもなくただボーッと空を見上げていた。冷たい風と一緒に流れて小さい子達の楽しげな声。


昔はよく此処で遊んだっけ…。


学校や家とは違い、進路の事を言ってくる者も焦りや不安、苛立ちを与えてくる者も居なく、とても落ち着ける。

⏰:08/10/04 15:29 📱:W53T 🆔:VPxnXd7.


#506 [タイトル未定(2/3)英]
どの位時間が経ったのか…相変わらず空を眺めている私の元に、黒のランドセルを背負った幼い少年が歩み寄って来た。
無言のまま私の隣りに座る少年。だが、その瞳はずっと私の方へと向けられた。

じぃっと見られているのに耐えられなくなった私は相手が小学生だと言うのに不機嫌丸出しで口を開いてしまった。


「…何よ」
「別に」


あれだけ見ていたくせに返ってきたのはたった一言。
最近の小学生は生意気だな…なんて心で悪態をついていると、今度は少年が口を開いた。

「お姉さん、高校生でしょ……サボり?」

何を言うかと思えばコイツは…。まあ確かに…昼前で、しかも公園で暇そうにボケッとしている女子高生を周りが見たらサボっているように見えるのかもしれない。


「…今日は午前で学校は終わりなのよ」
「ふーん」


そこからまた無言。
私がさっきまでしていたように少年も空を見上げていた。
――変な子。
なんて思うが、邪魔だとかウザイとか、そんな言葉は全く出てこなかった。

⏰:08/10/04 15:49 📱:W53T 🆔:VPxnXd7.


#507 [タイトル未定(3/3)英]
"

「ねえ、飴食べる?」
「苺味以外なら」
「ごめん。私苺味しか買わない人間だから」


相当苺味が嫌いなのか…少年は吐く様な顔をしたので嘘だと言って色んな色の飴玉を渡した。

「君、いつも此処にくるの?」
「たまーに」
「そっか」

今日、此処に来たのは気紛れだったのだろうか。もしそうだとしたら、その気紛れが今日向いてくれて良かったと思えた。


「僕これからママとお出かけだから帰るね」
「うん、バイバイ」


ベンチから下りると少年は手を振る私を見て、右手を差し出してきた。
何だ何だと思いその小さな手を見て見ると、そこには私があげたモノとは違う飴玉が一つ。

「有難う」

受け取って御礼を言うと、少年の顔が生意気なものから可愛らしい笑みへとなり、公園から出て行った。



貰った飴玉を口に入れれば広がる、大好きな苺味。そしてそのままもう一度空を見上げれば私の頬は自然と緩んでいった。

「また会えるかな」

また、あの不思議な少年に。


一人笑みを零し、自分も帰宅しようと立ち上がると重かった足はとても軽くなっていた。

⏰:08/10/04 16:32 📱:W53T 🆔:VPxnXd7.


#508 [英]
>>505
冷たい風と一緒に流れてくる小さい子達の楽しげな声。
です。間違えました;

⏰:08/10/04 16:41 📱:W53T 🆔:VPxnXd7.


#509 [◆vzApYZDoz6]
>>505-507
乙っす!

⏰:08/10/06 17:52 📱:P903i 🆔:AgtI2yAg


#510 [紫陽花]
あげまーす!!

>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600

⏰:08/10/17 00:37 📱:F905i 🆔:T5TgBx/w


#511 [我輩は匿名である]
頑張ってください

⏰:08/10/17 11:06 📱:PC 🆔:CKUgJZX.


#512 [果樹]
参加させていただきます!

⏰:08/10/17 12:25 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#513 [甘い夢(1/3)果樹]
陽介と知り合ったのはホストクラブ。

初めて友達と行って私の席についたのが陽介だった。なんだか話が妙に合って、そのまま指名した。

それから陽介の店に何度か遊びに行ったし、メールも電話も毎日した。
私はまるで彼女気分だった。

ある夜、陽介といつものように電話していた。

「次はいつ遊びにくるの?」

「気が向いたら」

「いつだよ」

私の言葉に笑って返す陽介。

⏰:08/10/17 12:27 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#514 [甘い夢(2/3)果樹]
陽介の声が好きだった。
甘えてくるようななんともいえない声。

私より五つも年上なのにそんなの感じさせないしゃべり方や服装。

全てが愛しかった。

「俺ね。猫飼い始めたの。レオちゃんていうんだよ」
猫を呼ぶときのあの声がなんだか羨ましくて私は猫になりたいって思った。

無条件で私の好きな人の側にいられるその猫がなんだか憎らしかった。

だから思わず聞いちゃったの。

「ねぇ陽介。あたしたちってなんなのかな?」

「は?」

⏰:08/10/17 12:28 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#515 [甘い夢(2/3)果樹]
「あたしたちの関係ってなんなのかな?」

陽介は言葉に詰まっていた。

嘘でもいいからなにか言って欲しかったけど陽介は結局なにも言ってはくれなかった。

だから私は気付いてしまった。

ああ。この恋は実らないんだって。
私は甘い夢を見すぎたんだって。

あれから私は陽介に会っていない。
もちろん連絡もとってない。

ねぇ陽介。あなたは今も元気でやっていますか?
まだホストを続けているのかな?

私は本当にあなたが好きだったよ。
甘い夢をみさせてくれてありがとうね。
さようなら。

⏰:08/10/17 12:29 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#516 [果樹]
みっつめは甘い夢(3/3)です。

⏰:08/10/17 12:30 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#517 [命日(1/1)果樹]
「お前なんか死ねばいいのに!」

本当だね。

「なんで生まれてきたのかしら」

うんごめんなさい。

「お前の顔なんてみたくないのよ」

それはあたしも一緒。

大丈夫だよお母さん。
心配しないで。
もうすぐあたしの顔なんて見れなくなるよ。

だってお母さんは今日あたしに殺されるんだもん。

お母さんの悲痛に歪む顔が楽しみだなぁ。

ふふ・・・ふふふふふ。

⏰:08/10/17 12:44 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#518 [かすかな記憶微妙な関係(1/3)]
『あっ....』
持っていた小銭が落ちた。

――チャリーン
当然大きな音はなるだろう。


誰かが近づいてくる..

怖い怖い……
何かされる――――。

ギュッと目をつむったその時
誰かの大きな手が.
そっと落とした小銭をすくい上げた。

⏰:08/10/17 23:23 📱:D904i 🆔:hfZ1KwdM


#519 [かすかな記憶微妙な関係(2/3)]
『あ..ありがとうございます』
目が見られない。


この人の香り..
好きだなあ

そっと相手の顔をみる。

その顔は優しく.
可愛くて私の好み。

『あの..』
名刺が私の手に……。

なんて答えたらよいかわからず『ありが…とう』

⏰:08/10/17 23:27 📱:D904i 🆔:hfZ1KwdM


#520 [かすかな記憶微妙な関係(3/3)]
たった一言そうゆった。


その後めでたく
連絡が長続きした末.
おつきあいすることになる。



奇跡的な出会い。
それは時に幸せを意味し
稀に不幸な結果となる。

なんぶんのいちかわからないけれど.
あなたと出会えたこと.
心から誇りに思います。

ありがとうございました。

⏰:08/10/17 23:34 📱:D904i 🆔:hfZ1KwdM


#521 [安価行動の妙(1/1)◆vzApYZDoz6]
事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ。

『……ねぇ、ユウヤ君? ユウヤ君なんでしょ? 分かるよ、キミの事なら。息遣いだけでも分かる』

電話の向こうの彼女の声は少しも変わってなくて、俺は何の理由もなく泣きたくなった。

『元気にしてる? 私は…相変わらずだよ。あの頃と、何も変わってない』

俺は電話を握りしめてから、どれくらい沈黙を守り続けているだろうか。
半分以上灰になった煙草が、灰皿の上で危ういバランスを保っている。

行き場を失って虚ろう視線が、目の前にあるディスプレイの文字列を捉えた。

【先月彼女にふられた25歳無職童貞が安価でイタ電(147)】

我ながら、くだらないスレタイだ。

『ふふっ……ね、ユウヤ君。あんまり夜更かしして変な掲示板ばっかり見てたら、目、悪くなっちゃうよ。
──じゃあ、ね。体、気をつけてね』

ぶつり、という通話が切れる音が、いつもより名残惜しげに聞こえた。

惜しくなんかない。別れを惜しむいとまはない。
俺は俺で、彼女は彼女で、もう別の道を歩んでいる。
お互いに人生はまだ長いし、やることだってたくさんある。


そしてなにより、安価電話の相手は、まだ10件以上残っているのだから。

⏰:08/10/17 23:41 📱:P903i 🆔:pkfPh73.


#522 [◆vzApYZDoz6]
あげるぜ

⏰:08/11/19 22:08 📱:P903i 🆔:qQoe6RDo


#523 [プリクラさん]
       

⏰:08/11/20 01:25 📱:PC 🆔:80r74rCs


#524 [きのこ。『私の夢。1/3。』]
「私の夢。私の夢は幸せなお嫁さんになる事です。優しくて背の高い旦那様と子供は女の子二人がいいです。
お家は屋根のある大きなお家でポメラニアンを飼いたいです。
そして、いつまでも幸せに暮らしたいです。」



25年前に書いた作文が押入からぐしゃぐしゃになってでてきた。
普段手抜きな掃除をしている私がなぜか今日は無性に押入を掃除したくなり、出てきたのは私の夢。なる題名の作文だった。
妙にリアルな夢に私は申し訳ない気持ちになった。25年前にタイムスリップ出来るならあの頃の私に謝りたい。


橘美智子。35歳。主婦。
旦那は優しくもなければ背も高くない無口な人。子供は女の子の夢叶わずやんちゃな男の子二人。家は団地住まい。犬はもちろん飼えず、夜中にカラカラ回るハムスターが二匹。ごめんね、25年前の私。描いた夢にかすりもしていません。


「行ってらっしゃい。はい、お弁当と麦茶。」
「…うん。」
最近の旦那との会話はまったくキャッチボールが出来ていない。
これで学位時代野球部だったなんて聞いて呆れる。
一度冷めた夫婦関係を修復させるのはかなり難しい。
それでも、好きになって結婚した相手だから私も修復させる為の努力はした。
しかし、どれも失敗に終わりむしろますます溝を深めてしまったんじゃないかと思うくらいだった。

⏰:08/11/28 22:27 📱:D905i 🆔:yAoJO7js


#525 [きのこ。『私の夢。2/3。』]
ただ一つだけまだ続いてるものもある。近所の田中さんが教えてくれたもので、確か「ラブレター作戦」とか言っていたかな。作戦と言っても簡単なもので、毎日のお弁当にメッセージカードを添えるだけのものだ。
最初はメッセージを書いて入れとくだけだったが、旦那が見てるのか見てないのかわからなかったので最近では返事欄なるものを作り旦那からの返事を楽しみに待つという作戦に変更した。


予想通り、始めて一年が経つが届く事のないラブレターばかり増えていく。始める当初からわかりきっていたが、いつかはいつかはと期待しつつ今に至る。


「愛してる」
この言葉までは望まないが、
「ありがとう」
この一言が欲しかった。そしていつものようにお弁当にメッセージカードを添える。

⏰:08/11/28 22:28 📱:D905i 🆔:yAoJO7js


#526 [きのこ。『私の夢。3/3。』]
「おかえりなさい、今日もお仕事大変だった?」
「…うん。」
いつもと変わらない会話。
お弁当と水筒を手渡されキッチンに向かう。
「いつになったら返事くれるんだろう…。」
ため息だけが出る。
空のお弁当箱を広げ洗おうとした瞬間、一枚の紙が足下に落ちた。
「一方通行の可哀想な私のラブレター…。」
そう言い手紙を拾い上げた。


「あっ。」
そこには久しく見ていない旦那のミミズみたいな字が見えた。
(もしかして…。)
と心躍らせながら、やっと報われた私のラブレターに興奮隠せず、
「ありがとう…かな。」
「お弁当おいしかった…かな。」
もしかしたら無口な彼だからこそ手紙では大胆に
「愛してる。かも」
などとまるで恋する乙女の様に想像を膨らませながら手紙を見た。



「麦茶に砂糖を入れるな。」



25年前にタイムスリップ出来るならあの頃の私に言いたい。
「麦茶に砂糖を入れて飲むのやめよ。」
とね。



そして私は今朝も麦茶に砂糖を入れる。
手紙はもう入れていない。その代わりに離婚届でも入れようかと思う今日この頃。

⏰:08/11/28 22:30 📱:D905i 🆔:yAoJO7js


#527 [きのこ。]
久々にきました
やっぱここゎ楽しいねみなさんの作品見て勉強にしてます

⏰:08/11/28 22:32 📱:D905i 🆔:yAoJO7js


#528 [我輩は匿名である]
>>527
乙でーす

俺も久々になんか書こうかな

⏰:08/11/30 22:32 📱:P903i 🆔:2BN2KbTQ


#529 [我輩は匿名である]
僕は呼びかける

「聡子…聡子聞いてくれよ?…」

彼女は黙っている

僕のことなど完全に無視だ

当然っちゃ当然か

僕が悪いんだから

「アドレスも連絡先も…相手からの履歴も消した…もう電話もメールもしないし、外で会ったりなんか絶対にしないから」

それでも、彼女の瞳の色は少しも変わらない

許す気などない…その決意に満ちた目だ

彼女がこういう目をしている時は絶対にテコでも折れない

何日でも僕を“シカト”し続ける

「許してくれ…本当に心から反省しているんだ」

彼女の髪の毛が一房、ふわりと揺れた

あ……嗤っているのかい?


>>530(僕の彼女2/3)に続く...

⏰:08/12/02 10:07 📱:PC 🆔:☆☆☆


#530 [我輩は匿名である]
「聡子ごめんよ…許す気になったのか?」

でも彼女は何も言わず、ただ妬まし気な目で僕を睨め付けるばかり

彼女が何を考えているのか

僕にはとんと理解できない

浮気のことがばれて、今朝家を追い出されたかと思えば、急に呼び出して「話し合いたい」だなんて…

嗤っているように見えた彼女の表情は、いつもどおりのポーカーフェイスに戻っていた

ふと、僕は気付いた

目の端に映る、ひらひらと風にゆられるカーテン

12月のこの時期にカーテンを開けっ放しにするなんて、と僕は窓を閉めに窓際に歩み寄った

「…閉めるよ」

キィキィ音をたてながら、窓を閉めた

いい加減、建て付けが悪くなったな…修理屋にでも見て貰うか

ぼんやり考えながら、僕は彼女の方に向き直った

どれだけ時間がかかっても構わない

彼女を説得しなければ…


>>531(僕の彼女3/3)に続く...

⏰:08/12/02 10:18 📱:PC 🆔:☆☆☆


#531 [我輩は匿名である]
「許す気なんてないわ」

ずっと黙っていたのに、彼女が口を開いた

やはり許せないか…当然だ… 僕はすっかり彼女を説得する気が失せてしまい、その場で項垂れた…これでもう、終わりなのか、と―

「だからアナタも、もう観念して」

次の瞬間、右の前頭部に激しい衝撃 何かがあたったような…続けざまに数回の衝撃の後、僕はその場に倒れ込んだ

意識を失う直前、僕の目に飛び込んできたのは、鎌を左手に持った女の姿
それは“彼女”ではない、別の女。彼女はまだ椅子に座ったまま、変わらぬ瞳で僕を睨んでいる

「………お前……………なんで……」

僕のつぶやきをかき消すように、最期の一撃が僕の頭めがけて振り下ろされた

女はしばらくそのままボンヤリと立っていたが、ハッと気がついたようにその鎌を、座っている“彼女”に無理矢理握らせた

死後硬直が始まっている“彼女”の手は固かったが…

「…これでよかったのよね?聡子さん」

女はそれだけ言い残すと、ゆっくりと部屋を出て、それきり二度と戻らなかった。

⏰:08/12/02 10:46 📱:PC 🆔:☆☆☆


#532 [渚坂 さいめ]
あげます

⏰:09/01/03 15:06 📱:F905i 🆔:DDHmQNGU


#533 [願いを叶えるための遺言(1/2)]
「死ぬ前に一度だけ死んでみたかったわ」

そう言ってクスリと笑う彼女の唇はまるで朝露に濡れた百合の花のように艶めかしく、僕の視線を捕らえて離さなかった。


「なにを言っているのかよく分からないよ」

思ったままを口にした僕は急に自分がとても幼稚で無知な人間のように感じられた。

彼女といるとそんな風に自分を見てしまうことが度々あったのだった。

外を歩いていても、昼食をとっていても……。そして僕と一緒に深い闇のようなベッドの中でまどろんでいる時でも。

彼女は息を吐くのと同じぐらい自然にポロリと訳の分からない言の葉を零す。


「あなたにはまだ分からないわね……」

そして決まってそう言うのだった。


そしてその言の葉はコーヒーをまだ苦いと感じてしまうような、まだ大人になりきれていない自分の内側を、尖ったナイフで削り取られるような感覚を引き起こす。

僕は密かに彼女の言葉を、いや、彼女を一点の光も届かないような心の奥の方で恐れていたのかもしれない。

⏰:09/01/13 23:20 📱:F905i 🆔:cnnAJJEE


#534 [願いを叶えるための遺言(2/2)]
僕は胸に広がる恐れを押しのけるように、力任せに隣で微笑んでいる彼女を抱きしめた。

僕が恐れる言の葉を零す唇を僕の唇を使って無理矢理塞いでやると、またも自分は幼稚な人間だと虚ろな思考が僕を責める。

それは本当に惨めで、なんて滑稽な姿なんだろうか。


「死にたいなんて言うなよ……」

それが今、僕に言える最大限の彼女への抵抗だった。



そして次の日の朝、彼女は僕の前から忽然と姿を消した。

彼女は己の願いを成し遂げたのだ。

僕の目の前から消えることで、僕の中のリアルな彼女は消え去ってしまった。

もうその柔らかい胸に顔を沈めることも、優しい微笑みも、僕を突き刺す鋭い言の葉も、僕の隣にはいない。つまり死んだも同然なのだ。


けれど彼女はこの世界から消えたわけではない。

彼女はまだどこかで呼吸をしている。

シーツに染み込んだ彼女の残り香がそう言っている気がした。

---end---

作者は
元:紫陽花
現:渚坂 さいめ です^^

⏰:09/01/13 23:22 📱:F905i 🆔:cnnAJJEE


#535 [あめ(1/1)]
ざあざあざあ。
きょおわ、あめです。
ママといっしょにおでかけです。パパにカサをとどけにいくの。

ぴちぴち、じゃぶじゃぶ、らんらんらん

おうたをうたうとね、あめがおどります。
たのしいね、たのしいね
わたしも、ママもにこにこです。

ぴちぴち、じゃぶじゃぶ、らんらんらん

はやくかいしゃにつかないかな
はやく3にんでかえりたいな

ぴちぴち、じゃぶじゃぶ…

「どうしたんだ、こんな所まで!」
みあげると、パパでした。あたまにカバンを乗せたパパでした。とってもおどろいたかおをしています。

「傘…持ってきてくれたのか。」
そうだよパパ、えらいでしょ?
あなたが風邪引いたら大変だから…とママもいいました。
「こんなに濡れて…ありがとうな。早く一緒に帰ろう」
わたしとママは、えがおでうなづきました。



『ワン!』

⏰:09/02/13 17:46 📱:N904i 🆔:hcPdkTbc


#536 [[はつこい](1/3)あかり]
春が好きだ。

いや、初夏、といった方が妥当かもしれない。
桜の花が散って、若葉が出て来た頃が好きなのだ。

どういう訳か、何かが起こりそうな予感が湧いてきて、わくわくしてくる。


別の誰かはこう言った。

桜の花が散ってゆく様が好きだ、と。
散ってゆく花びらが、雪のように儚くて綺麗だから、と。

⏰:09/02/15 22:36 📱:SH904i 🆔:oDtqLGpY


#537 [[はつこい](2/3)あかり]
女だった。顔はもう思い出せない。

けれど優しい声色だったのは覚えている。

こうやって話していた様子を思い出すと、必ず胸が焦げるような感じがした。

それと同時に、酷く甘く、酷く熱く、酷く切なくと、激しく気が昂った。

⏰:09/02/15 22:38 📱:SH904i 🆔:oDtqLGpY


#538 [[はつこい](3/3)あかり]
この熱情は何だろう。

この淡い心は何だろう。

悶々と考えるが、答えは出ない。


春が好きだ。
その春がまたやって来る。

行ってみようか。

不意にそう思った。

行ってみようか、あの場所へ。あの桜並木が続く公園へ。

もしかしたら、答えが出るかもしれない。

⏰:09/02/15 22:41 📱:SH904i 🆔:oDtqLGpY


#539 [渚坂さいめ[ホワイトデー(1/3)]]
ある晴れた日、僕は突然声をかけられた。

「お、おい。お前ホワイトデーって何すればいいか分かるか?」

声をかけてきたのは宇峰央里だった。

ホワイトデー?
確かにそんな行事があった気はするけど……、そんなに目を血走らせて内容を考えるような行事だったかな?

「何って言われても……。そもそも央里は誰かからチョコ貰ったわけ……?」

「ゔ……。えーと、ハルキに貰った」


そう言えばハルキはみんなにチョコを配ってたっけ。
僕は……あれ?貰ったっけ?


「だからさ、バレンタインデーのお返しって何あげていいか分かんなくって。
傳って経験豊富そうだし、なんか知ってるだろ!?」

「いや、僕は決して経験豊富じゃない。そこは否定させてもらう。

でもまぁ、聞いた話では普通ホワイトデーにはマシュマロをあげるらしいけど……」

「ハルキ、マシュマロ嫌いって言ってた……」

「あれ?なんで嫌いって知ってんの……?」

「……っ、たまたま聞こえたんだよ!!」

⏰:09/03/27 00:27 📱:F905i 🆔:ErRKzwfM


#540 [渚坂さいめ[ホワイトデー(2/3)]]
ははーん。
リサーチ済みって事は央里も何気にハルキの事が気になってんだな。

ホワイトデーのお返しと言えばマシュマロって相場が決まってるんだけど、それが嫌いだったから焦って僕を頼ってきたわけね。

ここは僕の出番って事か。


「そーだね……。食べ物は好き嫌いが分からないからやめた方がいいかも。もっと無難に……」

「無難に?」

「無難に花束とかでいいんじゃない……?」

「花束!!それいいな!!!!早速買ってくるわ」

「あ……」

行っちゃった。
花言葉には気をつけた方がいいよー、って言いたかったのに。
僕の経験上、女の子って花言葉とか細かいところに敏感だからね。

ま、店員さんが選んでくれるから心配いらないかな。




って、もう帰ってきた。

あーあー、そんなに振り回したら花びらとれちゃうって。

バカ、ハルキはあっちだって。男子トイレに居る訳ないだろ……。

そうそうそっち。
さて、僕は隠れて様子を見守りますかね……。宇峰央里の一世一代の晴れ舞台ってやつかな。

⏰:09/03/27 00:28 📱:F905i 🆔:ErRKzwfM


#541 [渚坂さいめ[ホワイトデー(3/3)]]
「ハ、ハルキ……。これバレンタインデーのお返し……」

「……何これ?」


ぅわ……。
ハ、ハルキの目が怖い!!頑張れ央里!!もう一押しだ!!そのまま押し倒してしまえ……!!


うん。押し倒しちゃ駄目だけど、ハルキもまんざらじゃないみたいだし……。
これはひょっとしたら、ひょっとするかも。


「ゔ、ちょっと汚くなっちゃったけど花束だよ……。食べ物は何が好きか分かんなかったからモノにしてみました」

「ふーん……。この黄色いの、なんて花?」

「えっと、忘れた……」

「あっそ。……でも、ありがとう」


おっ!!
いい感じになってきた!!

じゃあ、覗き見なんて野暮なまねはこの辺にしといて、おじゃま虫な僕は退散するとしようかな。


ちなみに央里が買ってきた花の名前は「サンピタリア」で、花言葉は「愛の始まり」。


本人が花言葉を知っていたとは考えられないけど、偶然にしちゃあ今の央里にピッタリな花だと思っちゃうのは僕だけかな?

傳・央里・ハルキ [jpg/38KB]
⏰:09/03/27 00:32 📱:F905i 🆔:ErRKzwfM


#542 [渚坂さいめ]
以上、アダムの唄の番外編でした

本編→http://bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/8607/

貼っているイラストは絵師様に描いてもらったものです。今考えると、なんとなくラノベっぽいですねw

イラストの無断転載・二次発布はやめてください

⏰:09/03/27 00:34 📱:F905i 🆔:ErRKzwfM


#543 [渚坂さいめ]
貼れてなかった……orz

本編:○アダムの唄○
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/8607/

⏰:09/03/27 00:45 📱:F905i 🆔:ErRKzwfM


#544 [【いつか、また1/3】みぉり]
「さてっ……と、これで全部かな?」


最後の段ボールを玄関先に運んで、ふぅっとため息をつく

振り返った部屋はガランとしていて、何もない



二人の写真も、季節ごとに飾った花も


お揃いのコップもお箸も………



「………空っぽ…だ」



私の心に、ぽっかり空いた穴と同じ

⏰:09/03/27 04:26 📱:N905i 🆔:9cJ2rwVY


#545 [【いつか、また2/3】みぉり]
やけに声の響く部屋を見回して、ふと目についたのは柱の傷


『ー……ね?私のほうが高いでしょ?』

『んなの、俺がすぐに抜いてやらぁっ!!』


…………こんな傷つけちゃって


そこにあるのは、二人の記憶
彼と私の背比べの跡


くすっと笑って、その傷を撫でる

いくつか刻まれたその傷は、彼の背丈ばかりが伸びた証

3年前より2年前が、2年前より1年前が、ぐんと成長した証



「おいっ!!荷物まだかぁ?」


下から呼び掛ける父の声に、はっと、慌てて部屋を出る

⏰:09/03/27 04:34 📱:N905i 🆔:9cJ2rwVY


#546 [【いつか、また3/3】みぉり]
靴を履いて、もう一度くるりと部屋を見回す


私がこれから入る場所は木のぬくもりはない、鉄筋造りの建物らしい

一刻も早く、私はそこを出られるようにならなくてはいけない


彼に手を上げない、強い心を持った母親になって


胸を張って彼を迎えに行くために
彼と共に、この部屋に帰ってくるために


また、あの柱に彼の記憶を刻めるように……


深く息を吸い込み、扉を閉めながら誓う



いつかまた、必ず帰ってくるからとー………

⏰:09/03/27 04:46 📱:N905i 🆔:9cJ2rwVY


#547 [みぉり]
初めて、こちらで書かせていただきましたm(__)m

いつも皆様の作品を拝読させて頂きながら、いつかは書かせていただきたいと思っておりまして今回、書かせて頂きました。


自分の作品がかなりの亀亀更新なのに、すいません(T_T)

駄文ですが、よろしければ読んでやってくださいm(__)m

⏰:09/03/27 04:55 📱:N905i 🆔:9cJ2rwVY


#548 [我輩は匿名である]
おおw
たまたま来たらあがってるじゃないかw

>>547
乙です
またいつでもどーぞ!


俺も久々にSSS書こうかなー

⏰:09/03/27 08:21 📱:P903i 🆔:xxY6cByU


#549 [[あのとき3/1]妃羅◆x1TI9uE9ik]
「カッコいい…」

─── あたし、桃。
今あたしが恋しているのは翼って奴。

そいつは超スタイル良くて
バスケ大好き。

あたしは帰宅部だから
いつもバスケを見学して帰る。

顧問に
「やってみるか?」と聞かれるが
やる気はない。

ただ翼に恋してるだけ。

今は片思い中。
もちろん翼に…ね。

⏰:09/03/27 10:19 📱:F01A 🆔:☆☆☆


#550 [[あのとき3/1]妃羅◆x1TI9uE9ik]
翼とは運よく席はとなりどおし。
いつも笑わせてくれる。
授業中もいつも楽しい。

最近気持ちが通じ合ったのかと思うくらい
翼と仲がいい。

普段髪を結ばないあたしが
友達にいたずらで結ばれていたら
「見たい!どんなん?」って聞いてくる。

好きな人聞いたら
顔を赤らめて逃げていく。

そんなんみてあたしは
可愛いな、ってただただ思う。

カッコいい時と
可愛い時のギャップがたまんない。


そんな日が続いて
あたしは告白することにした。

⏰:09/03/27 10:36 📱:F01A 🆔:☆☆☆


#551 [きく(1/2)有]
背中が冷たかった。
何だかよく分からない、体験したことのない冷たさだ。例えるならそう、水に濡れた指が背中を這うような、そんな。
部屋も同様に寒かった。薄暗い和室の中、わたしは部屋の隅にある仏壇に目をやる。
そこには背を丸めて俯くひとりの男がいた。彼が誰であるのかなんてすぐに分かった。わたしの配偶者、つまり夫にあたる男性だ。
彼は仏壇の前で何をしているのだろうか。義父さんだって、もう何年も前に亡くなったのだ。今更そんな風に湿った空気になるのは少しだけ違和感がある。
わたしは一歩前に歩みを進めた。

⏰:09/04/19 20:17 📱:PC 🆔:aFY8ZasA


#552 [きく(2/2)有]
仏壇には菊の花が挿してあった。白い菊だ。夫は正座した膝の上に握り拳を置いて、首を項垂れて下を見ながら嗚咽を漏らしていた。
何がなんだか分からなかった。それに、背中の冷たさと眠気が消えない。わたしはそんなに寝ていなかっただろうか。あるいは――

「ねえ、何をそんなに泣いてるの?わたしで良かったら聞くよ」
わたしがそう言ってもウンともスンとも言わず、ただただ下を向いて涙をこぼすだけの彼。無視か、そうか。なんだか頼りにされていないようで心がチクリと痛んだ。
わたしは彼の隣に同じように正座し、仏壇に向けて手を合わせた。菊の匂いが鼻をかすめる。目をゆっくり開けると、隣で声がした。
「何で俺は、子供も、妻も、…亡くさなきゃならないんだよ…」

目を開けた先に見えたのは、義父さんではなく、わたしの写真。
菊の香りが舞ったとき、初めてわたしは自分が死んでいることに気づいた。

⏰:09/04/19 20:26 📱:PC 🆔:aFY8ZasA


#553 [Sense(1/2)]
レイは、勇気をふりしぼって一歩外に出てみた。

顔に、手に、身体全体にとめどなく降りかかる大きな雨粒。
レイはおもむろに手を天へと差し伸べる。
いくぶんか震えているその手は、しかし確かな強さを持って雨を感じていた。

だんだんと雨足が強まってくる。

レイの着ている赤いワンピースが水を吸って次第に重くなっていっても、レイはそこを動こうとはしなかった。

ただひたすらに、降りしきる雨の中を立っていた。

⏰:09/04/25 01:10 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#554 [Sense(2/2)]
どれくらいの時間が経っただろうか、レイはずぶ濡れのまま家の中に入った。
玄関で、白い杖をついたびしょ濡れの娘を見たジェシカは驚いた。
「まあ、レイ…何をしていたのよ、まったく。外はまだ私と一緒じゃないと危ないって言ったじゃない。」
「庭に出ていただけよ…それよりママ、私やっと『雨』がどんなものか理解できたわ。雨ってすごいのね。ずっと糸のように水が降ってくるものだと思っていたのだけれど…違うんだわ。粒よ、粒。幾つもの水の粒が、私の手のひらではじけて溶けていくの。まるで宝石を浴びてるみたいだったわよ。私の目ではそれを見ることはできないけど、手のひらで感じるの。きらきらと天から宝石が降っているんだわ…きっと。」

見ることが叶わないのなら、感じればいいのだ。
盲目こそが世界をより正直に享受できるのだと、レイはこのあと何度も強く思うようになるのであった。

⏰:09/04/25 01:26 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#555 [愛し(1/2)]
愛しい。

愛しい。

朝からずっと、こんなことばっかり考えてる。

愛しい。

仕事が手につかない。
早く家に帰りたい。

家には世界で一番愛しい妻と世界で一番かわいい娘が待っている。

俺、本当に結婚してよかった。

⏰:09/05/16 13:48 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#556 [愛し(2/2)]
結婚してから2年。
ずっと幸せだったけど、最近娘が生まれてからは本当に幸せで。
家にいて娘を見ていると、嬉しいような、なんだか泣きたくなるようなそんな気持ちになる。
古文には「愛し(かなし)」という言葉がある。語源は「愛する人を思うと、幸せと同時にもの悲しくなるから」らしい。

まさにそれ。
愛しすぎて感極まってきちゃうんだよな。


俺、これからもっといい「お父さん」になるから。頑張って二人を守るから。

だから、いつまでも笑っていて。

⏰:09/05/16 13:56 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#557 [渚坂]
定 期 あ げ !

⏰:09/05/25 19:58 📱:F905i 🆔:Kt2brzEY


#558 [1日(1/2)]
今日も彼女は、とっておきの笑顔を見せながら僕に話し掛けてくる。

「おはよう」

たったこの一言が、僕にとってどれだけ嬉しいことか。
毎朝この言葉で、僕は1日頑張ろうと心から思えるんだ。

はじめはまったく僕になついてくれなくて、本当に困った。
どんな話をしても、どんな動作をとっても反応は皆無と言っていいほど。
当時新米だった僕は、こんな仕事選ぶんじゃなかったかなって苦悩する日々が続いた。

⏰:09/05/25 20:44 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#559 [1日(2/2)]
ある日、僕が趣味のトランペットを磨いていたときのこと。
「…それ、なに」
僕はもちろんびっくりして、「こ、これかい?これはトランペットって言うんだよ」とつぶやきながら、マウスピースを取り付けて吹いてみた。

「…!」

その日から、彼女は少しずつ心を開いてくれるようになった。

動かない手足。
細い腕に突き刺さる点滴。彼女はそれでも懸命に、僕のする話に相づちを打ち、笑い、泣き、驚いた。

やがて人工呼吸機が取り付けられるようになってからも、僕は毎日変わらず彼女に様々な話をした。


あとになって僕は彼女の余命を知らされた。

不思議と気分は穏やかだった。


余命があろうとなかろうと、僕にできることはただ一つ。
1日を無駄にしないこと。1日1回、彼女に話を聴かせてあげる、ただそれだけのことがどれほど彼女を助けているのかは分からない。

けれど、自己満足かもしれないけど…
僕は彼女の笑顔が見れることしかやりたくないんだ。逆に言えば、それしか方法がないんだ。



今日も彼女はとっておきの笑顔を見せながら、僕に話し掛けてくる。

「ありがとう」

⏰:09/05/25 21:00 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#560 [[世界が開いた夏(1/3)]渚坂]
チリン―……

風鈴の音が耳に心地よい涼を運ぶ季節、私は一度目の前の縁側に腰掛け、ただ黙々と本を読む男に尋ねたことがあった。お前は私が不気味ではないのか、と。


「不気味?はは、まさか」


カラカラと渇いた笑い声とともに私の疑問は否定された。やつは左手にもっていた小説をパラパラとめくっていたかと思えば、何かを思い出したように頭を上げその漆黒の瞳が強く私を見つめた。
もちろん、彼の瞳に映る私の姿はない。私は鏡にも映らないし、水面にも映らない存在だから。


「いくら君が霊魂だとしても僕はちっとも怖くないよ。むしろ大歓迎だね」


それはお前が小説家だからだろう?ネタが欲しいだけなのだろう?と言い返せば、やつは私から視線を小説へと戻して小さく笑うだけだった。否定は、しない。


「現実は小説よりも奇なりと言ってね、僕は君のような存在が大好きなんだよ」

「……それは告白として受け取っていいのか?」

「それは困るね。幽霊に惚れるほど僕は愚かじゃない」


嗚呼、私がやつの家に来て一年が経つ。つまり都内の一角に隠れるようにして佇むこの家の主人と出会って一年が経つ。最初は私が他の人間に見えないことがすごく怖くて、自分は本当に死んだのだと痛感し涙を流すこともしばしばあった。

だが、それにももう慣れた。


「霊魂という存在にはたいそう興味があるけれど、君自身には全く興味ないから安心してよ」


真っ直ぐに私を見つめて話すやつの言葉は、もう動いていない私の心の臓に爪をかけ、深い傷をつける。

それにはまだ、慣れない。

……私が人間に恋して一年が経つ。

⏰:09/07/11 19:00 📱:F905i 🆔:tSzZ2Nw.


#561 [[世界が開いた夏(2/3)]渚坂]
チリン、チリン―――……


やつは一日を縁側に座って過ごす。左手には読みかけの小説を、足下には蚊取り線香を設置して。
少し伸びた前髪の下には銀縁の眼鏡をかけ、やつが鬱陶しそうにスラリと長い足を投げ出せば、たとえ今の格好が甚平姿だとしても誰もが見とれてしまう。


「四条センセ、こんにちは。もちろん原稿できてますよね?」


そして、たまにやってくる編集局の人間に自作の小説の原稿を渡しては、また縁側に座り読書へと耽る。これが小説家『四条幸彦』の生活パターンだった。


「先生また一人で本読んでるんですか?たまには運動したらどうです」


夏であるにも関わらず、黒いスーツ姿の編集局の人間(名は清水という)は、来る度にやつを気遣う言葉と表情を見せる。
ぱっちりと開いた瞳、ほのかに上気した桃色の頬。この女は世間一般に言う『美人』の分類に属していると私は思う。


「君みたいな目麗しい女性と一緒なら運動してもいいよ」

クスクスと笑いながらやつは立ち上がり、部屋の中へ消えていく。


「ちょっと先生、それって私のこと美人だっておっしゃってるんですかー?」

「ふふ、そうとってもらって構わないよ。はいこれ、原稿」


先生は口が達者だから、とかなんとか言うにも関わらずしっかりと熱気を持った彼女の視線は艶めかしくやつを絡め取る。その光景は女の私から見ても背中がゾクゾクするような色気を感じた。

⏰:09/07/11 19:01 📱:F905i 🆔:tSzZ2Nw.


#562 [[世界が開いた夏(3/3)]渚坂]
たっぷりと見つめ合った後、清水さんはやつから原稿を受け取った。清水さんに私は見えない。だから見せつけているわけではないのだろうけど、それでも私は心を焦がしてしまう。

“私には肉体があるのよ”そう言われてる気がして、血液の通わない私の体が熱くなる。


「んふふ、今日は仕事中なんでもう帰りますね。今度オフの日に食事にでも誘いますわ。もちろん二人っきりで…。じゃあまた、センセ」


月に一回、仕事として清水さんは家にやってくる。そして月に五回彼女は“四条幸彦”の“密接な関係を持つ女”として家にやってきては密接な夜を過ごしている。



チリン、チリン、チリン―――……

もちろん事情を営んでいる間は縁側に出て邪魔にならないようにしているが、それでもやっぱり胸が苦しい。


「人間に惚れるなんて、なんて愚かな幽霊……」

自嘲気味に笑うと少し気が楽になった。




この家に来て一年。
やつに恋い焦がれてもう一年。
この一年の間にやつは恋人を六回変えた。この一年の間に私は六回も劣等感を味わったことになる。



チリン、チリン、チリン、チリン―――……


……嗚呼、風鈴の音が忌々しい。

⏰:09/07/11 19:02 📱:F905i 🆔:tSzZ2Nw.


#563 [我輩は匿名である]
あげるぜゴルァ!

⏰:09/07/29 12:25 📱:P903i 🆔://8hkJbU


#564 [渚坂]
定期あげ!

⏰:09/08/17 00:16 📱:F905i 🆔:SlJXxl/w


#565 [遠距離前(1/3)あんみつ]
 


踏切の音がする。

もうすぐ電車が来るんだ。

もうすぐ行ってしまうんだ。

そう思うと、ずっと我慢してたものがのどの奥からこみ上げてきて、私は唇を噛み締めた。

今、目の前にいる大好きな人は、これから来る電車に乗って私の知らない街へ行く。


.

⏰:09/08/17 14:36 📱:D904i 🆔:irKb7zTg


#566 [遠距離前(2/3)あんみつ]
────────



彼女が涙をこらえているのが、痛いくらい分かった。

俺は、口から出そうになる言ってはいけない言葉を必死に呑み込む。

言ってはいけない。

彼女には彼女の生活がある。

俺は無言で彼女を抱き締めた。



────────

⏰:09/08/17 14:38 📱:D904i 🆔:irKb7zTg


#567 [遠距離前(3/3)あんみつ]
このまま時が止まれば。

彼の腕の中で本気で思った。

そんな思いもむなしく、ホームに電車が停まる。

腕の力が緩むのが分かった。

そっと体を離して彼は言う。

「……じゃあ、行くわ」

嫌だ。

「……行ってらっしゃい」

行かないで。

ドアが閉まり、電車がゆっくりと動き出す。

いとも簡単に私と彼を引き離すこの箱が、今は憎い。

電車が見えなくなって、私は彼の温もりごと自分の体を抱き締めた。

言えなかった言葉がのどにつっかえて、今も、これからもきっと、ずっと苦しい。


.

⏰:09/08/17 14:39 📱:D904i 🆔:irKb7zTg


#568 []
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450

⏰:09/09/04 23:17 📱:SH904i 🆔:nVJyS6uk


#569 []
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:09/09/04 23:19 📱:SH904i 🆔:nVJyS6uk


#570 [別れ/渚坂]
「こんな終わり方しか出来ない俺って最低だよな」

自嘲ぎみにしか笑えない俺には言い訳をする資格も無いのかもしれない。俺のせいでボロボロになった彼女を前にしても、気の利いたセリフなんて一ミリも思いつかないのだから。

「でもお前とはわりと続いた方なんだぜ。前の奴なんか一週間しかもたなかったから」


今更昔話に花を咲かせようって腹じゃあない。でもこう言うことで、彼女を捨てる自分の精神を庇護しているしているのかもしれない。ああ、きっとそうだ。そうに違いない。


こんな俺を前にしても彼女は一言もしゃべらない。きっと彼女はその小さな身体だけでなく心までも乾きだしたのだ。

以前は潤っていた部分が一秒ごとに乾いていく。身体も心も。確実に。俺のせいで。



……これ以上は両者とも限界だ。無理、なのだ。


「じゃあな、コンタクト。俺は今日からお洒落眼鏡をかけるんだ。今まで世話になったよ」


右手に乗っていた使い捨てコンタクトを素早くゴミ箱に入れ、その手で黒縁眼鏡のフレームを掴み、難なく装着。


「よっし、いってきます!」


外は本日も晴天なり。

今日から俺は今流行の眼鏡男子だ。

⏰:09/10/25 13:15 📱:F905i 🆔:RazuJFaA


#571 [我輩は匿名である]
あっがーれ!

⏰:09/11/18 04:36 📱:P08A3 🆔:EPpIYhCk


#572 [渚坂]
定期あげー

⏰:10/01/01 23:53 📱:F905i 🆔:dPq9enoQ


#573 [渚坂]
あげとく

⏰:10/03/28 01:23 📱:F905i 🆔:tOiw0VQo


#574 [避難訓練(1/3)◆vzApYZDoz6]
黒板にチョークを撫で付ける耳障りな音を、さらにでかくて耳障りな非常ベルの音が掻き消す。
しかもこれがまた長い。やかましい事この上ない。

かの有名なアインシュタインは、小さな子供に相対性理論とはどういうものか、と聞かれた時、『好きな子の事を考える時の時間の進みは早く、熱いストーブの前で堪える時の時間の進みは遅くなる』事を証明する理論、と説いたそうだが、実にいい喩えだ。
それが相対性理論とどう関わりがあるかなんて俺には理解のしようもないが、少なくとも言ってる事は的確である。

要は楽しい時は時間が早く、かったるい時は遅く感じるという事だが、果たして今の俺はストーブどころかオーブントースターでも足りないぐらいに時間の経過を緩やかに感じていた。
只でさえ長い非常ベルに続いて教頭のダミ声まで黙って聞かなきゃならない上に、非常ベルが知らせる警報とダミ声が告げる情報その両方が嘘っぱちと確定しており、なおかつその嘘っぱちに素直に従ってこのクソみたいに寒い中上履きのままグラウンドまで走り、最後に冷たい地面に座ってこれまでの無意味な行為の重要性を語る校長の無駄に長い話を聞くという一連の行為を、事もあろうかもうすぐ卒業する俺達3年の連中に強いてるんだから、そりゃ時間経過も遅くなるというものである。

『地震により、家庭科室から火災が発生しました。生徒のみなさんは―――』

前置きが長くなったが、つまり今は避難訓練の真っ最中で、上の鍵括弧が示すように、ちょうど今第一ステップである非常ベルが止まり、第二ステップである教頭のダミ声が響き始めたところだ。

⏰:10/03/28 16:08 📱:P08A3 🆔:swSqV4NM


#575 [避難訓練(1/3)◆vzApYZDoz6]
それにしても避難訓練というものは、学校におけるいらない行事ベスト3に入る、と言ったら、恐らく首を横に振る奴はほとんどいないだろう。

いるとすれば運悪く席替えのくじ引きで前から2列目の真ん中の席あたりに引っ越しが決まり、授業中に居眠りしようものなら教卓に立つ教師に即座に見つかってしまい白墨を投げられるせいで日中に睡眠時間を確保できないがために、せめて授業だけでもサボれまいかと自習やら身体測定といったイレギュラーなイベントを心待ちにしているネガティブかつ不真面目な奴ぐ

⏰:10/03/28 16:12 📱:P08A3 🆔:swSqV4NM


#576 [避難訓練(2/3)◆vzApYZDoz6]
>>575ミス

それにしても避難訓練というものは、学校におけるいらない行事ベスト3に入る、と言ったら、恐らく首を横に振る奴はほとんどいないだろう。
いるとすれば運悪く席替えのくじ引きで前から2列目の真ん中の席あたりに引っ越しが決まり、授業中に居眠りしようものなら教卓に立つ教師に即座に見つかってしまい白墨を投げられるせいで日中に睡眠時間を確保できないがために、せめて授業だけでもサボれまいかと自習やら身体測定といったイレギュラーなイベントを心待ちにしているネガティブかつ不真面目な奴ぐらいなもんだ。

同じく席替えのくじ引きで窓際の後ろから2番目という最高のポジショニングに成功した俺からすれば、避難訓練なんてミディアムレアの豚ロースに真珠を添えるぐらい没意義で意味のないイベントであり、従って第三ステップ、つまりグラウンドへの避難から如何にしてエスケープするかという思考に俺が没頭しているのは至って当然の事である。

するとどうだろうか。もう教頭の避難指示が終わりそうな雰囲気になってやがる。
エスケープの方法を考えるというのは、俺の中で楽しい事に分類されているんだろう。人間の脳みそというのは実に都合のいい構造になっているらしい。

『―――繰り返します。生徒のみなさんは先生の指示に従って速やかに避難してください』

ブチッ、というスピーカーのスイッチがオフになる音を皮切りに、周りの生徒が次々と廊下に出ていく。
俺もその例に漏れず廊下に移動し、他のクラスの連中も混じっての学級大移動の波に乗りながら、先生の視界に入らない立ち位置を確保する。

⏰:10/03/28 16:13 📱:P08A3 🆔:swSqV4NM


#577 [避難訓練(3/3)◆vzApYZDoz6]
俺が考えたエスケープ方法とは、階段を降りる時にこっそりトイレに入ってやり過ごす、というもの。

こういう時はシンプルな方が成功率が高く、実際に俺はあっさりとエスケープに成功し、トイレの個室で足音が去るのを待ってから教室へ向かって踵を返し、我がクラスの扉を開け放して教室内を見渡す頃には、グラウンドで体育座りをしているであろう全校生徒に当たり障りのない話題からトークを展開する校長の声が、拡声器を通じて教室内まで響いていた。

ああ、当然だが教室の扉に鍵はかかっていない。こういう時は避難が最優先であり、これから火が上がるという想定の校舎にわざわざ施錠するような律儀で用心深い奴はうちのクラスにはいやしない。
誰もいない教室を眺めて小さく溜め息をつき、さてこれからどうやって時間を過ごそうかと考えていた時、不意に後ろから声をかけられた。

「ダメじゃない、戻ってきちゃ。これが本番ならあなた今頃死んでるわよ」

声の方へ視線を取って返すと、俺の後ろに女が立っていた。
学校指定のプリーツとカッターシャツの上に、焦茶色のカーディガン。化粧っ気はないが大きめの瞳と小さく整った小鼻と唇に、胸元の赤いリボンがよく映えている。
見たことがある。というか俺のクラスの女で、さらに付け加えると保険委員であり、故にこいつがサボるのは俺としては感心しないところだが。

⏰:10/03/28 16:16 📱:P08A3 🆔:swSqV4NM


#578 [避難訓練(4/3)◆vzApYZDoz6]
「それはお互い様でしょ。急患を保健室へ連れていくのも保険委員の役目だもの」

お互い様はこっちの台詞だ。だいたいこの教室にはどこにも病人や怪我人なんていないぞ。
グラウンドでは校長の話が明後日の方向に向かい始めていた。座らされている生徒はさぞ辛かろうに。
急患をお望みならグラウンドに行くべきだな。この寒空の下で長時間座らされて、体調を崩している奴が一人ぐらいはいるかもしれん。

「大丈夫よ。保険委員はあたし一人じゃないんだし」

女は俺の横をすり抜けて、窓側の一番後ろの席に陣取った。つまり、ちょうど俺の指定席の後ろである。
手にしているコンビニ袋の中身を机の上にぶちまけて、悪戯そうな笑みを満面に浮かべて俺に向かって手招きした。

⏰:10/03/28 16:18 📱:P08A3 🆔:swSqV4NM


#579 [避難訓練(5/3)◆vzApYZDoz6]
「今は火災発生から7分45秒。
 …結局、不測の事態に対応できるのは普段から遊んでる奴だけだと思わない?」

言い得て妙だ。俺は女の言葉に、そんな感想を抱いていた。

女の前に腰かけて、広げてあるポテトチップスをつまみ上げつつ、これらの菓子類は先程の学級大移動中に買ってきたものだという女の話を聞きながら、さてそろそろグラウンドでの校長の話が終わって生徒が帰ってくるがどうするかという俺の次なる課題の攻略法を考えている時に、ふと己の体感時間の短さに気付いた。

つまり普段から遊んでる奴は常にこういう時間感覚の中にいるからこそ、体感時間が極端に短くなる不測の事態に直面しても焦らず落ち着いた行動の取捨選択を可能にするのであり、こんな堕落した避難訓練を百回と繰り返したところでその結果は変わらないだろうし、結局それが避難訓練の学校におけるいらない行事ベスト3の座を不動のものにしてるんじゃないだろうか。

しかしそれに気付いたのは他ならぬ避難訓練のお陰であり、またクラスでもそこそこ可愛い部類に入る女子生徒との接点も得られたので、まだまだ避難訓練も捨てたものではないと認識を新たにしながら、俺は再開される授業を如何にして早く乗り切るかをまた考え始めるのだった。

⏰:10/03/28 16:19 📱:P08A3 🆔:swSqV4NM


#580 [我輩は匿名である]
2レスもオーバーしちまった…
意外と字数足りないもんだな。

⏰:10/03/28 16:19 📱:P08A3 🆔:swSqV4NM


#581 [【反映して(1/3)】我輩は人間である]

「おい、もうへばってんのかよ。もっと飲め」
「もう無理です!無理ですって!」

満開の桜の下で交わされる言葉は周りから見れば微笑ましい光景だった。
本日5本目の缶ビールを会社の先輩である司馬から無理矢理掴まされて、その後輩である久野は苦笑いの表情で断った。

お花見の場所取りは新入社員である仕事の一つだ。
入社してまだ間もない久野は自分と同時期に入った同僚の中で自ら場所取り役を名乗り出た。
一夜の花見宴会のために朝早くここら辺では桜が綺麗に見える有名なスポットに訪れ、ちらほら他の人に場所を取られていたが充分な場所を取った。
そこから同じく場所取り役であり同期入社の岡部と交代で、今上司が気持ち良さげに寝転んで寝ているこの場所をキープし続けたのである。

「文句言うなよ。断れる身分か?あ?」
「司馬さん飲み過ぎですよ……、もう9はいってるんじゃないですか?」

そもそもこんな必死に(少し大袈裟だが)場所取りを買って出たのは本心ではない。今目の前でベロンベロンに酔って酒を押し付けてくる司馬伸彦のためでもある。

⏰:10/04/08 02:24 📱:S001 🆔:☆☆☆


#582 [【反映して(1/3)】我輩は人間である]

優しく人柄も良く顔もまぁそこそこで上司からの視線も良かった。歓迎会の時だって上手く溶け込んでいいワークライフを過ごしている。だけど打ち解けてない人が一人……それが司馬伸彦である。
話したと言えば挨拶の時しかない。

司馬はテキパキとよく働くし仕事が出来てなんでも有名大学を卒業しているようで、世間一般に言うエリート人間だ。
性格も久野と正反対。愛想なく必要な会話しか話さない、クールと言う言葉がピッタリな人だった。
だけどそれが女性からの支持を受けている。ルックスは男から見てもそりゃもうイケメンで、王子様に例えられるような人でそれも人気の一つだ。

久野はそんな自分と正反対の司馬が気になってばっかりだった。
性格はいいと評判の久野だが仕事の方はイマイチでおっちょこちょい、残業だって数えられないくらいした。
高校の頃は185センチの身長と体格を生かして柔道に没頭していたいわゆるスポーツバカで、頭を使ったりパソコンを使う仕事には不向きな方なのだ。
だから仕事を完璧にこなす司馬にもっとを目を引かれた。話してみたいと気持ちは膨らむ一方だった久野にようやくチャンスが訪れた。

⏰:10/04/08 02:53 📱:S001 🆔:☆☆☆


#583 [【反映して(2/3)】我輩は人間である]
>>581優しく人柄も良く顔もまぁそこそこで上司からの視線も良かった。歓迎会の時だって上手く溶け込んでいいワークライフを過ごしている。だけど打ち解けてない人が一人……それが司馬伸彦である。

司馬はテキパキとよく働くし仕事が出来てなんでも有名大学を卒業しているようで、世間一般に言うエリート人間だ。
性格も久野と正反対。愛想なく必要な会話しか話さない、クールと言う言葉がピッタリな人だった。だけどそれが女性からの支持を受けている。ルックスは男から見てもそりゃもうイケメンで、王子様に例えられるような人でそれも人気の一つだ。
久野はそんな自分と正反対の司馬が気になってばっかりだった。性格はいいと評判の久野だが仕事の方はイマイチでおっちょこちょい、残業だって数えられないくらいした。高校の頃は185センチの身長と体格を生かして柔道に没頭していたいわゆるスポーツバカで、頭を使ったりパソコンを使う仕事には不向きな方なのだ。
だから仕事を完璧にこなす司馬にもっとを目を引かれた。話してみたいと気持ちは膨らむ一方だった久野にようやくチャンスが訪れた。

⏰:10/04/08 02:58 📱:S001 🆔:☆☆☆


#584 [【反映して(3/3)】我輩は人間である]
それが、今日の花見宴会だ。お酒も交える今日この日こそが絶好のチャンスなのだ。でもまさか、
「お前仕事出来なさすぎるんだよ!」
「はい…すいません…」
「酒まだあんだろぉ?出せよ」
「ダメですってもう止めましょ?!一回酔い冷ましましょうって…」
こうなるなんて。こんなんじゃお酒混じりに交流どころかお酒しか混じってない。司馬がまた新しい缶ビールに手をつけようとしている所を久野は焦って言い聞かせながら思った。
「うるさいな…まだ、いけ…る…」
「だから酔いが冷めたらに…って司馬さん……?」
手を出されると困るので缶ビールを手の届かない位置に置いて振り返った時には、もう、スースーとゆっくりとした寝息を立てて木の幹に寄りかかったまま眠りに着いていた。片手にはビールの空き缶が緩く握られている。それを見て久野は溜め息を吐いた、と同時に口元が緩んだ。酒が強い体質じゃない自分にとって缶ビール5本は大分体にきていたが司馬の心地良さそうな寝顔を見ていたら自然と笑みが溢れた。みんなの知らない酔っぱらった一面を見れただけでも良しとしよう。心が桜色に染まった気がした久野のだった。

⏰:10/04/08 03:32 📱:S001 🆔:☆☆☆


#585 [我輩は人間である]
【反映して】

>>581
>>583
>>584


もっと改行したかった…。

⏰:10/04/08 03:33 📱:S001 🆔:☆☆☆


#586 [我輩は匿名である]
上げるぜ

⏰:10/12/04 11:35 📱:P08A3 🆔:wwvC.sEQ


#587 [隠謀(1/2)◆vzApYZDoz6]
目を覚まして最初に飛び込んできたのは、縦横に溝が走るタイル張りの白い天井と、ほのかに黄ばんだ蛍光灯。
耳に入るのは雑多な電子音と、機械が稼働するファンの音。
体を起こそうと上半身に少し力を込めようとして、そこで初めて自分がベッドに寝ている事に気付いた。

「お目覚めかね?」

ベッドの脇から、落ち着き払った男の声。
見ると、白衣を着た初老の男性が立っている。

「……ふん」

口角を片方吊り上げ目を半月状に細めてこちらを見る男から視線を外し、上半身を起こして辺りを見回す。
どこかの研究施設にでもあるようなコンピューターとコンソールの類の機械が、そう広くない室内の壁際にずらりと配置されている。

「第二の人生を手に入れた気分はどうかね?」

白衣の男が問い掛ける。
私は部屋を眺めながら男には目を合わせず、自嘲するように鼻で笑った。

「最悪だな。今すぐ貴様をぶち殺してやりたいくらいには」

「女性があまり汚い言葉を使うべきではないねぇ。ま、どちらにしろそんな事は不可能だけど」

⏰:12/02/19 11:05 📱:P08A3 🆔:9vitOHrA


#588 [隠謀(2/2)◆vzApYZDoz6]
そう言って白衣の男はくぐもったように笑い、側にあったテーブルのマグカップを手に取った。
薄く湯気が立ち上る中身を一口啜り、再び口を開く。

「死人に口なしと言うだろう?」

「………」

自分の手のひらに視線を落とす。
既に血の通わないそれは青白く澱んでおり、軽く握ると冷ややかな感触が返ってきた。
手のひらを自身の胸に当てる。
柔らく弾力があり、それなりの大きさもあるが、しかし心臓の鼓動は微塵も感じてはくれなかった。

「……ふん」

「ま、働きには期待しているよ。その為に君達を直したのだから」

そう言いながら、白衣の男が顎先で部屋の中央を指す。
そこにはベッドが二つ。即ち自分が今いるベッドと、その隣。
自分が着ている物と同じような、簡素な白い患者衣を着た男が、先刻までの自分と同じように眠っている。

その横顔を眺めながら、私は無意識のうちに冷たい手を伸ばした。
男の頬に指先が触れる。と同時に男の眉間に皺が寄り、頬に僅かな力が入る。
驚いて反射的に手を引いた私と、その様子を無表情に眺めていた白衣の男の見守る中、もう一人の屍が目を覚まそうとしていた。

⏰:12/02/19 11:08 📱:P08A3 🆔:9vitOHrA


#589 [我輩は匿名である]
上げついでに久々投下。
過疎よ去れーッ!

⏰:12/02/19 11:09 📱:P08A3 🆔:9vitOHrA


#590 [青の中の家(1/3)◆WHAzwTTDUw]
 家が激しく揺れ動くせいで目が覚めた。地震だ。

 部屋は真っ暗だったが、ぼんやりとしていた目がだんだんと冴えてきて、激しく揺れ動く電気のスイッチの紐を見る事ができた。震度五、あるいは六かもしれない。とにかく、強烈な揺れだった。

 揺れが収束する。妻がいなくてよかったと、私は思った。妻はひどく地震に弱い。震度三程度でもこの世の終わりかと思うほど、あたふたとする。何故そんなに地震を恐れるかというと、阪神・淡路大震災を体験しているからだ。あれが妻に強烈なトラウマを与えるきっかけとなった。

 妻は訳あって実家に帰っている。私の家は東京にあるから、もしかすると微弱な地震が届いたかもしれない。しかし、まあ震度五、六の地震を味わうよりかはいいだろう。

 私はベッドを降りて、居間に向かった。テーブルの上に置かれたリモコンを持ち、スイッチを押した。しかし、テレビは点かなかった。沈黙を保ち続けた。

 どうやら停電したらしい。まあ、結構な揺れだったので、停電になってもおかしくないと、私は思った。

 私は寝室に行き、布団にくるまった。眠るのにそう時間はかからなかった。

⏰:12/02/19 19:03 📱:biblio 🆔:.BF1/ONc


#591 [青の中の家(2/3)◆WHAzwTTDUw]
 目覚まし時計が泣き叫ぶ赤ん坊のようにけたたましく鳴り響いた。私はベッドから降りて、部屋の隅に置かれた目覚まし時計を止めた。ベッドの側に置かない理由は、手の届く場所に置いておくと、止めてからまた眠ってしまう事があるからである。

 私は顔を洗おうと洗面所に行った。洗面所の窓からは明るい日差しが差し込んでいた。蛇口を捻った。しかし、水は出てはこなかった。まさか夜中の地震で断水してしまったのだろうか?

 私は薄暗い居間に行き、電気のスイッチを押した。電気は点かなかった。まだ停電しているようだ。

 私は窓を開け、シャッターを開けた。その時、驚きの光景が目に入った。空だ。青空が広がっていた。雲も漂っている。手を伸ばせば届きそうだ。家々や電柱、道路の姿はない。夏だというのに外気は上空にいるせいでひんやりとしていた。

 私は下を覗いた。ミニチュアより遥かに小さい都市が広がっていた。

 まだ夢でも見ているのだろうか。私は一度頭を引っ込め、目を閉じて深呼吸をした。そして、目を開けた。目先には水色の空がどこまでも広がり、綿菓子のような雲が所々浮かんでいた。

⏰:12/02/19 19:03 📱:biblio 🆔:.BF1/ONc


#592 [青の中の家(3/3)◆WHAzwTTDUw]
 一体何が起きたのだろう。何故家が浮いているんだ。理解の範疇(はんちゅう)を超えてる。

 私は居間に置いていた携帯電話を取り、開いた。画面の左上には圏外の文字。無理だとわかってはいたが、妻宛に助けを求めるメールを作成し、送信を試みた。やはり送信に失敗した。

 どうしたらいいのだろう。地上の人間は気付くだろうか? 家は点にしか見えないんじゃないか? 飛行機が通れば気づいてくれるかもしれない。いや、気づかない。旅客機は遥か上を飛んでいる。窓の外は零度近くだろうから、現在の位置は富士山の山頂かちょっと上といった所だろう。それならヘリコプターの飛行範囲内だ。

 誰かが発見してくれるさ。私はポジティブに考えた。

 腹が減ったのでパンを食べ、オレンジジュースを飲んだ。小便はトイレにした。

 家は上昇を続けていた。何故なら外気が明らかに冷たくなっているからだ。私はシャッターを閉め、押し入れから毛布を取り出し、布団にくるまった。あまりの寒さに縮みあがり、ガクガクと震えていた。歯が音を立てる。

 昼頃になると酸素が薄くなり始めた。苦しい。家の上昇は止まらない。私は酸素を激しく欲求した。

 そして、遂に身体は体温を失った。

⏰:12/02/19 19:04 📱:biblio 🆔:.BF1/ONc


#593 [我輩は匿名である]
>>450までのまとめ一覧↓
>>165-170
>>229-231
>>291-293
>>349-352
>>451-454

455から現在までのまとめ↓

>>457-458 あげ!(2/2)
>>463-464 未来(2/2)
>>466-468 8月のおしまい(3/3)
>>471-473 応援(3/3)
>>476 トイレ(1/1)
>>477 愛情表現(1/1)
>>478-480 ベリー(3/3)
>>484 こころ*クラブ(1/1)
>>487-489 イツワリ(3/3)
>>491-493 星空(3/3)
>>494 瞼の憂い(3/3っぽいけど途中で投下止まってます…)
>>495-497 もう戻らない(3/3)
>>498-500 ラブレター(3/3)
>>505-508 タイトル未定(3/3)
>>513-515 甘い夢(3/3)
>>517 命日(1/1)
>>518-520 かすかな記憶微妙な関係(3/3)
>>521 安価行動の妙(1/1)
>>524-526 私の夢。(3/3)
>>529-531 僕の彼女(3/3)
>>533-534 願いを叶えるための遺言
>>535 あめ(1/1)
>>536-538 はつこい(3/3)

⏰:12/02/19 22:56 📱:P08A3 🆔:9vitOHrA


#594 [我輩は匿名である]
続き

>>539-543 ホワイトデー(3/3)
>>544-546 いつか、また(3/3)
>>549-550 あのとき(3/3っぽいけど途中で投下止まってます…)
>>551-552 きく(2/2)
>>553-554 Sense(2/2)
>>555-556 愛し(2/2)
>>558-559 1日(2/2)
>>560-562 世界が開いた夏(3/3)
>>565-567 遠距離前(3/3)
>>570 別れ(1/1)
>>574-579 避難訓練(5/5 ※レス数オーバー)
>>581-583 反映して(3/3)
>>587-588 隠謀(2/2)
>>590-592 青の中の家(3/3)


なお、タイトルのない作品は文中から抜粋orそれっぽいのを勝手につけました。

⏰:12/02/19 22:56 📱:P08A3 🆔:9vitOHrA


#595 [我輩は匿名である]
まとめ&作品数集計&お題一覧
>>593-595

現在の作品数集計
1レス短編:46
2レス短編:47
3レス短編:65
レス数オーバー短編:2
その他(投下停止等):3
総作品数:163

現在のお題
@雨
Aあの頃の思い出
B電話
C卒業
D電車
Eささやかな幸せ
F手紙
G都会
H未来
Iアルバイト
J忘れられない
K空
L窓
M指輪
N怒り
O葬式
Pテレビ
Q俺(私)とお前のヒストリー
R街角
S交差点
21ネット掲示板
22いつかまた
23飛行機雲
24奇
25応援
26保守

⏰:12/02/19 22:56 📱:P08A3 🆔:9vitOHrA


#596 [我輩は匿名である]
行数がえらいことになりそうだったので作者名は割愛。
まとめサボってたらすごい量になってたぜ…

さて、600レスが間近に迫り中盤戦もそろそろ終わりが見えてきたところですが、まだまだ参戦者募集中!
当スレは新参古参素人玄人老若男女その他諸々一切合切問いませぬ。ドカドカ書いていけーッ!

⏰:12/02/19 23:04 📱:P08A3 🆔:9vitOHrA


#597 [我輩は匿名である]
よくまとめられましたねw
お疲れさまです。

⏰:12/02/20 01:59 📱:P01A 🆔:iV.6Lu7Q


#598 [指輪(1/3)悠斗]
お前にあげたい物はまだ手に入らない

ごめんな、ずっと待っていてくれてるのに

「いまはこれで」

おもちゃの指輪をお前の薬指に填めてやる。鈍く光るダイアなんてまだ手に届かない


いつか、本物を手に入れたならもう一度伝えるよ


「俺と結婚してください」

⏰:12/03/08 23:02 📱:T003 🆔:psIccDYc


#599 [指輪(2/3)悠斗]
あなたの口から漏れる言葉は本心なの?

おもちゃの指輪だから結婚できない。それは誰が決めたの?

わたしはあなたの気持ちが籠もっているものがいいな

いつか、本当にプロポーズしてくれたならわたしは迷いなく答えます

「よろこんで」と

⏰:12/03/08 23:05 📱:T003 🆔:psIccDYc


#600 [指輪(3/3)悠斗]
俺の気持ち、この指輪に込めて指に填めるよ

わたしの気持ち、填めてもらった指輪に込めます

「あなたを」

「お前を」

「「愛しています」」





鈍く光るダイア。少し汚れてしまったけれど、思い出すのはあなたと結婚した10年以上も前のことばかり

お互い歳とったけど、お前を思う気持ちは誰にも負けない

愛の証の、指輪に誓って

⏰:12/03/08 23:09 📱:T003 🆔:psIccDYc


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