よすが
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#650 [○○&◆.x/9qDRof2]
少しずつ、少しずつ。もう、時間か。どうやら、ようやくお迎えがきたようだ。九年前に止まった時計は、九年の時を経て再び刻み始めた。



 十八年間。短いようで長い人生だった。今から行くのは天国だろうか、地獄だろうか。

⏰:22/10/25 18:07 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#651 [○○&◆.x/9qDRof2]
色々あったが、ようやく私の臨死体験は終わりを告げるようだ。




死んでから気付いた大切な人。


もし生き返ることが出来たなら、きっと私は告白することが出来るだろう。でも後悔するのは嫌だから、今言えるだけ言っておこう。

⏰:22/10/25 18:07 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#652 [○○&◆.x/9qDRof2]
今までありがとう。貴方が大好きでした。そして最後に、



 さようなら。


 薄れゆく意識の中で、私はゆっくりと微笑んだ。



死んでから気付く大切な人

[完]

⏰:22/10/25 18:07 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#653 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>620-630

⏰:22/10/25 18:08 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#654 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>620-650

⏰:22/10/25 18:08 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#655 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>620-660

⏰:22/10/25 18:08 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#656 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>650-680

⏰:22/10/25 18:09 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#657 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>680-710

⏰:22/10/25 18:09 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#658 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>710-740

⏰:22/10/25 18:09 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#659 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>740-770

⏰:22/10/25 18:09 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#660 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>770-800

⏰:22/10/25 18:10 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#661 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-200
>>200-400
>>400-510

⏰:22/10/25 18:10 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#662 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>510-600
>>600-700

⏰:22/10/25 18:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#663 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>700-800
>>800-900

⏰:22/10/25 18:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#664 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>900-930

⏰:22/10/25 18:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#665 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>930-960

⏰:22/10/25 18:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#666 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>960-990

⏰:22/10/25 18:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#667 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>970-999

⏰:22/10/25 18:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#668 [○○&◆.x/9qDRof2]
『ねぇ、わたしを殺してみて』


 その日。
 ぼくは、彼女を殺した。

------------------------

『すき』

 彼女のくちびるから零れ落ちる言葉は、いつだってぼくだけの鼓膜を揺らす。

『あなたが、すき。例えあなたの気持ちがわたしになくても』

⏰:22/10/25 18:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#669 [○○&◆.x/9qDRof2]
『目も、耳も、鼻も指も、ひとつ残らず愛おしい、』

『だけど、一番愛おしいのは、その、くちびる。わたしのそれと触れたとき、わたしはきっと死んでしまうでしょうね』

 何故だい?薄く微笑み、彼女に問うた。

『幸福死。信じられないけれど、本当にあるみたいよ。夢のような、現実では有り得ないような、けれど、こころのどこかでそれを待ち望んでいる.......』

⏰:22/10/25 18:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#670 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼女の瞳が、熱を持ち始める。

『そして。それが現実に起こったとき、わたしは死ぬの。そう例えば、あなたのくちびるの熱を、わたしのここで感じることができる、とかね』

 そう言って彼女は微笑み、人差し指で自分のくちびるに触れた。

『ねぇ、わたしを殺してみて?』

⏰:22/10/25 18:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#671 [○○&◆.x/9qDRof2]
五秒後、ぼくはきみを殺した。




 まだ息をしているきみのくちびるが、柔らかく、柔らかく微笑んだ。

fin

⏰:22/10/25 18:15 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#672 [○○&◆.x/9qDRof2]
愛しているんだ、
 例え誰が死んだって。

 -------------------------

 何日もかけて選んだ婚約指輪。君は気にいってくれるかな?君が琥珀色を好きだというのは知っていたけど、なかなかいい物が見つからなかった。だけどこの水色も綺麗だろう?君がよくしてる、ネックレスに似ている。

どんな顔をするだろう。

⏰:22/10/25 18:15 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#673 [○○&◆.x/9qDRof2]
笑って、笑って、笑うだろう。キスをして、抱きしめて。それからやっぱり、琥珀色が良かったわ、なんて言うのかな。想像の中の君は少しふてくされて、だけどとても満ち足りた笑顔で。そして僕は言うんだ。


『結婚指輪は、琥珀色にしよう。』

女性はロマンチックが好きだろう?夜景なんかどうだろう?今日のために洗車もしてきた。そんなことは、言わないけどね。

⏰:22/10/25 18:16 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#674 [○○&◆.x/9qDRof2]
さぁ乗って、未来の話をしよう。

予想通り君は少しふてくされて、だけど幸せそうだった。

幸せにするからね。

そういう僕の言葉に重なるように、白い光と車のブレーキ音が僕たちを包んだ。明るすぎるその光に、助手席に座る彼女の顔が白くなる。明るすぎるよ、彼女の顔が見えないじゃないか。


--- 気がつくと目の前には、見慣れた人の顔。白くはなかった、赤かった。彼女の目は閉じられていた。嘘だろう。この、赤は、なんだ。嘘だろう。ねぇ起きて。

⏰:22/10/25 18:16 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#675 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼女の体を揺さぶろうにも、僕の体も動かない。いくら大声で名前を叫んでも、彼女はぴくりとも動かない。それはまるで、僕の声なんかこの世界に響いていないような、そんな気がして。


動かない、意識だけ。
動けよ僕の躯、動け。

救急車を呼ぶんだ、彼女を助けて。

⏰:22/10/25 18:16 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#676 [○○&◆.x/9qDRof2]
まだ生きてるかもしれない。呼吸の音が聞こえない?僕の耳がおかしいんだ。名前を呼んでも届かない?僕の声が、枯れてるんだ。どうして僕が生きてるんだ。生きるべきは、彼女だろう。お願い神様、僕はどうなってもかまわないから。

ほら左手の薬指。僕が買った指輪はそんな色じゃない

⏰:22/10/25 18:16 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#677 [○○&◆.x/9qDRof2]
抱きしめて、キスしたい。
指輪に関する話を聞いてほしい。結婚指輪は、きっと琥珀色にするから。


彼女の目が、開いた。
生きて、いる。


ありがとう神様、ありがとう。本当にありがとう。これから何があっても僕が彼女を幸せにする。さぁ、元気になって、未来の話をしよう。

⏰:22/10/25 18:17 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#678 [○○&◆.x/9qDRof2]
僕たちこれから、幸せになるんだ。彼女の目が完全に開く。ただ僕だけを映してくれる瞳は、あの日からずっと、変わらないね。良かった、もう大丈夫。体は動くかい?悪いけど、救急車を呼んでもらえる?

⏰:22/10/25 18:17 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#679 [○○&◆.x/9qDRof2]
僕はさっきから、何故だか体が動かない。彼女の目に涙がたまる。嗚呼、心配しないで。意識ははっきりしてるから。君のことずっと、考えられるくらいには。彼女は何か叫びながら、僕の体を揺さぶった。揺れる視界に、君の泣き顔だけが映る。

⏰:22/10/25 18:17 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#680 [○○&◆.x/9qDRof2]
綺麗な瞳だ、泣かないで。覗きこんだその瞳に映るは、僕。真っ赤な色をした、僕。


ああ、死んだのは僕か。

どうりでさっきから、呼吸をしていないと思った。良かった。死んだのが僕で良かった。さぁ降りて、僕という船から。未来の話をしよう。君が幸せになるための話だ。指輪は捨ててくれ。君はやっぱり、琥珀色が似合うと思う。

⏰:22/10/25 18:17 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#681 [○○&◆.x/9qDRof2]
いつか誰かに貰ってくれ。僕以外の、誰かに。神様、神様、ありがとう。


嗚呼、死んだのは僕か。


- end -

⏰:22/10/25 18:17 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#682 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>640-680

⏰:22/10/25 18:18 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#683 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>650-690

⏰:22/10/25 18:18 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#684 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>680-710

⏰:22/10/25 18:19 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#685 [○○&◆.x/9qDRof2]
Bluebird

 わたしは。なぜ本を買いに行ったのか?

 わたしの通う樫ノ宮(かしのみや)中学校では毎朝、読書時間というものが十五分間設けられている。その時に読む本を買いに行ったのだ。なぜ、この本を選んだのか?これといって欲しい本があったわけではない。

⏰:22/10/25 18:27 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#686 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは漫画は読んでも、小説のように文字だけで紡がれた物語を読むのは苦手だった。文字の列だけが数百頁にもわたり延々と続いてるだけだなんて考えただけでも瞼が重くなってくる。.......正直、本ならなんでも良かった。

⏰:22/10/25 18:27 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#687 [○○&◆.x/9qDRof2]
そしてこの本に出会ったのは単なる偶然である。店に入るとすぐ、レジの横に新作の本が何種類か並べられていて、なかでも、一際目を引く一冊があった。綺麗なコバルトブルーのカバーには金色の文字で【bluebird】と書かれており、真ん中には翼を広げて今にも飛び立ちそうな鳥の絵が描かれていた。

⏰:22/10/25 18:27 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#688 [○○&◆.x/9qDRof2]
いわば、一目惚れだった。本当は適当に安い文庫本なんかを買って、お釣りで漫画本を買おうなどと考えていたのだがそんなことはもう頭になかった。母は小学校の教師をしている。わたしが買ってきた本をみせると「梨菜が漫画以外の本を買うなんて!」と、びっくりしていた。

⏰:22/10/25 18:27 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#689 [○○&◆.x/9qDRof2]
「に、さん、ページよんで飽きたなんてことにならないといいけどね」と、母は笑ったけれど、そんなことにはならなかった。読みはじめると、止まらなかった。続きが気になって仕方がなかったのだ。朝の読書時間だけにとどまらず、休み時間にも読み、授業中にも読み、放課後も残って読んだ。

⏰:22/10/25 18:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#690 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしはどの部活動にも属しておらず、いつもなら真っ直ぐ家に帰っている時間だったが、その日は誰もいない教室で一人静かに読書に耽(ふけ)った。グラウンドで活動するサッカー部と野球部、陸上部の声が教室にまで届いている。同じ階にある音楽室からは吹奏楽部による演奏がきこえてきた。

⏰:22/10/25 18:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#691 [○○&◆.x/9qDRof2]
しかしひとたび本に集中すると、まわりの雑音は全て消えさり、無音の空間になるだ。そのせいだろう。話し掛けられていることに全く気付かなかった。

「.......大高!」

 ハッとして顔をあげると目の前に同じクラスの奥村くんが立っていた。奥村くんはクラスでもかなり目立つほうで、明るく茶目っ気があり、みんなに好かれていた。

⏰:22/10/25 18:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#692 [○○&◆.x/9qDRof2]
当然友人も多く、誰とでもすぐにうちとける。わたしみたいに異性と話すときに緊張して口ごもってしまうということがない。彼みたいな人を世渡り上手、というのだろうなと思った。

「あ、やっと気付いた。さっきから何回も呼んでたんだけどさ、シカトされてるのかと思ったよ」

⏰:22/10/25 18:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#693 [○○&◆.x/9qDRof2]
突然話し掛けられ口ごもっているわたしを無視して、奥村くんは近くにあった椅子に腰掛けた。

「その本、今日ずっと読んでるね」
「あ、これ、面白いんです」
「だよね、俺も読んだことあるんだ」
「え?」

意外だ、と思った。

「俺、その著者好きなんだよね。知ってる?その人、この樫ノ宮町出身なんだぜ」

⏰:22/10/25 18:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#694 [○○&◆.x/9qDRof2]
読み途中のページに指をはさみ、本を閉じて表紙をみた。金色の文字で【永原 愛(ながはらあい)】と印刷されている。奥村くんは【永原愛】について色々な話を聞かせてくれた。

「すごく詳しいんだね。ストーカーみたい」

決してほめたわけではないのだけれど、奥村くんは得意げにふふん、と鼻を鳴らした。

⏰:22/10/25 18:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#695 [○○&◆.x/9qDRof2]
家に帰ると、母が調度夕飯の支度を終えたところだった。テーブルの上には父と母とわたしの三人分のサバの味噌煮が並べられていた。サバの味噌煮は父の大好物である。

「あ、梨菜お帰り。ご飯できたからお父さん呼んできて」
「.......わたし、あんまりサバってすきじゃないんだよね」
「いいから早く呼んできなさい!」

⏰:22/10/25 18:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#696 [○○&◆.x/9qDRof2]
渋々階段を上がり、父の部屋のドアをドンドン、と叩いた。

「お父さん、ご飯だよ!」

返事はない。今度はドアを開けて呼んだ。なにやら机に向かって読書でもしていたらしい。父は読書家で、部屋には専用に大きな本棚があるのだが、中に入りらない沢山の本が床に積みあげられていた。

⏰:22/10/25 18:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#697 [○○&◆.x/9qDRof2]
父が読んでいた本は見覚えのあるコバルトブルーの表紙だった。父もわたしと同じように、読書に夢中になるとまわりが聞こえなくなるのだろう。その時、改めてわたしはこの人の子供なのだと思った。

「お父さん、ご飯出来たってば!」

父はびっくりしたように振り返り、立ち上がった。

⏰:22/10/25 18:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#698 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......いま、いくよ」

読みかけのページにボロボロのしおりを挟み本を閉じた。そのしおりはアサガオの押し花で作られていて、わたしがちいさい頃から父はいつもそのしおりを大事そうに使っていた。



「手紙を出してみようと思うんだけど」

⏰:22/10/25 18:30 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#699 [○○&◆.x/9qDRof2]
 あの日の放課後以来、わたしと奥村くんは急激に仲良くなっていた。奥村くんと向かい合って座り、 彼はなにやらわたしの机に落書きをしている。

「永原愛に?」

うん、と頷いた。

「俺も何回か出したことあるよ」
「返事は?」
「くるわけないだろ」

⏰:22/10/25 18:30 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#700 [○○&◆.x/9qDRof2]
チャイムがなり、先生が教室に入ってくると奥村くんは気だるそうに自分の席に戻っていった。机には先程の落書きが残されていた。


“ころされる”


特に気にもとめず、消しゴムで文字を消した。



 永原愛から返事がきたのはその一ヶ月後のことだった。

⏰:22/10/25 18:30 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#701 [○○&◆.x/9qDRof2]
 梨菜さんへ

 心のこもったお手紙ありがとうございます。永原愛です。私は昔樫ノ宮町に住んでいたことがあります。父の日になにか手作りのものをプレゼントをしたいだなんて、仲が良いのですね。私は小学生の頃、庭で育てていた朝顔を押し花にしてしおりを作り父にプレゼントしました。

⏰:22/10/25 18:30 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#702 [○○&◆.x/9qDRof2]
とても喜んでくれたのを覚えています。梨菜さんの気持ちがこもっていれば、お父さんは何を貰っても喜んでくれると思いますよ。

永原愛


 その後、何通かやりとりは続き、奥村くんにはそのことを話さないまま樫ノ宮中学校では夏休みに突入した。

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#703 [○○&◆.x/9qDRof2]
その日は夜遅くまで漫画を読んでいたせいか、目が覚めたころには十三時を回っていた。階段を下ると父がリビングのソファーに腰掛け読書をしている。わたしに気がつくと、父は読書を中断し、立ち上がった。

「今日は随分遅いな。お腹空いたろ。ご飯どうする?」
「適当に食べるよ、それよりお父さん今日は仕事休みなの?」

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#704 [○○&◆.x/9qDRof2]
「あぁ、急に休みになったんだ」

きれいに掃除されたテーブルの上には、コバルトブルーの本とボロボロのしおりだけが置かれている。

「ねぇお父さん、私がまだ小学校にあがるまえ勝手にお父さんの部屋にはいった事があったよね。本を積み上げて遊んでいたらその朝顔のしおりを折っちゃって酷く叱られた。普段怒らないお父さんが、あの時はすごく怖かったんだ」

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#705 [○○&◆.x/9qDRof2]
「そんなこともあったかな。覚えていないよ」

窓から生ぬるい風が入ってきて、風鈴が、チリンと涼しげな音をたてた。

「ねえお父さん.......その朝顔のしおり、どうしたの?」

蝉のなきこえがやけに煩く感じた。.......永原愛から手紙が届いた。

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#706 [○○&◆.x/9qDRof2]
しかし永原愛というのは単なるペンネームであり、本名は別にある。はじめてその名前を聞いたのは、本を買った翌日の放課後だった。奥村くんが永原愛は男性なのだと教えてくれた。女性の名前で本を出す男性作家は少なくないらしい。

⏰:22/10/25 18:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#707 [○○&◆.x/9qDRof2]
手紙には、自分は男なのだということと、八月二十日に仕事の取材でこの樫ノ宮町に三日ほど滞在するので、もしよければ会いませんか、とのことだった。

.......断る理由などなかった。当日、駅の改札で彼が出てくるのを待った。彼がのっている新幹線が到着し、たくさんの人が改札口を出てわたしの横を通り過ぎていく。

⏰:22/10/25 18:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#708 [○○&◆.x/9qDRof2]
そんな中、ひとりの男性と目が合う。身長は、百八十近くありそうだ。細身で若干眠そうではあるが整った顔立ちをしている。左手には黒いアタッシュケース、右手にはココアの缶を握っていた。わたしはまっすぐ彼のもとへ歩み寄り、彼もまたわたしに歩み寄ってきた。


「夏生さんですよね」

⏰:22/10/25 18:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#709 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼は一瞬眠そうな目を大きく見開きびっくりしたような表情をした。

「.......はは、まいったな」

俯き加減に頭をポリポリとかくと、ココアの缶を捨てアタッシュケースを指差した。

「一旦、荷物をホテルに起きにいきたいんだが、どこか喫茶店で待っててくれないか」
「付いていきます。ビジネスホテルだろうが、ラブホテルだろうがどこへでも」

⏰:22/10/25 18:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#710 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......やめてくれよ、シャレにならない」

 彼は和やかな風を装っているが、どこか謎めいた雰囲気を持っていて、わたしには彼がそれを懸命に隠そうとしているように思えた。そうしてわたしたちは駅を出て、タクシー乗り場に出た。

「本当にくるの?」
「勿論行きますよ」

⏰:22/10/25 18:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#711 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼は困った様子だった。それでもわたしは、どうしても彼と二人きりになりたかった。

「.......まぁいいか」

タクシーで彼の宿泊するホテルへ向かう。カウンターで受け付けを済ませ、自販機でココアを買ってくれた。あったかい。部屋につき、直ぐにわたしたちは並んでソファーに座った。

⏰:22/10/25 18:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#712 [○○&◆.x/9qDRof2]
「いい部屋ですね。小説家というのは儲かるんでしょうか」
「君も小説家になるか?」
「無理ですよ。わたしにはそんな才能ないです」
「そうかな?同じ父親の血をひいてるんだ。君にも少なからず小説家の才能があるかもしれないぜ」

⏰:22/10/25 18:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#713 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼はココアをずずっと音を立ててすすった。蝉の鳴き声さえ届かないこの部屋に静寂がたちこめる。


「あなたは、最初から知っていたんですね。私が、あなたの父親である大高秋人と再婚相手との間に出来た子供だって」
「.......知っていたよ。だから君からファンレターが届いたときは心底びっくりした」

⏰:22/10/25 18:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#714 [○○&◆.x/9qDRof2]
「父を、大高秋人を恨んでいますか?」
「勿論恨んでいるよ。あの人のせいで母は自殺未遂までした。結局離婚したけど、母はまだあの人を愛していたんだ。そして僕が君と同じ中学二年生のとき、ついに母は自殺した」

⏰:22/10/25 18:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#715 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......父から聞きました。母は、わたしの母は今でも教師として働いています。わたしに会おうと言ってきたのは、わたしの両親への復讐のためなのですか」


「そうだ、と言ったら?」
「煮るなり焼くなり好きにしてください。わたし、殺されてもいい覚悟で今日ここへ来たんです」

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#716 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......ひとつ聞かせてくれよ。君はいつから俺の正体に気付いてた?」
「つい最近です。父は、いまでもあなたから貰った押し花のしおりを大事に使っているんです」


「.......本当は。今日君に僕の正体を明かし、殺してやるつもりだった。俺が、血の繋がるたった一人の母親をなくしたように、あいつらに大事な一人娘を失う悲しみと苦痛を与えてやりたかった」

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#717 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼は泣いていた。わたしは両親を恨んだ。もしもわたしが、大高秋人と早川あゆみの子供じゃなかったら、少しでも彼のこころを癒してあげられたかもしれない。もしもわたしが血を分けた妹じゃなかったら、彼に対して抱いてしまったこの感情も報われることがあったかもしれない。

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#718 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼の細い肩にそっと触れる。その瞬間、揺さぶられるような衝撃を受け、後ろに倒れた。手首を強く握られ、押し倒されていた。


「あの人がまだしおりを持っていたのは予想外だった。復讐なんかしたところでどうにもならないことなんてわかってる。それでも、俺は幸せそうに、のうのうと生きてるあいつらに復讐しないと気がすまないんだ」

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#719 [○○&◆.x/9qDRof2]
 これは彼なりの復讐なのだろう。


 その日、二人は罪に堕ちた。

 彼の熱が、わたしの中で溶けていくのを感じた。



 わたしは三日間彼と行動を共にした。次の作品ではこの樫ノ宮町をモデルとした舞台で小説を書くのだそうだ。

⏰:22/10/25 18:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#720 [○○&◆.x/9qDRof2]
「父に会っていかなくていいんですか」

 わたしたちは、彼が昔、猫を埋めたという場所にいた。途中で買った花を添え、二人で手を合わせる。

「君の貞操を奪ったって言ったらあの人はどんな顔をするんだろうね」
「.......父は、あなたが小説家になったことを知っていると思います。父の部屋には永原愛の小説が全て揃えてありました」

⏰:22/10/25 18:35 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#721 [○○&◆.x/9qDRof2]
「はは、まぁ偶然だろ。俺は、あの人たちに会うつもりはないよ」

 三日という時間はあまりにも短く感じた。駅のホームで、帰りの新幹線がくるのを待ちながら、二人でココアを飲む。駅のなかは蒸し暑く、汗で肌はじっとりとぬれている。.......彼はもう二度とわたしには会ってくれないだろう。

⏰:22/10/25 18:35 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#722 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼にとって、わたしなど憎むべき存在でしかないのだ。やがて新幹線が到着したことを知らせるアナウンスが流れた。



「梨菜、さよなら」



 そう言い残し彼の背中は人混みの中へ消えていった。目頭が熱くなり、涙が溢れてとまらなかった。

⏰:22/10/25 18:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#723 [○○&◆.x/9qDRof2]
「お兄ちゃん!」


 悲痛なわたしの叫び声は駅中に響いても彼のこころにとどくことはなかった。




 お兄ちゃん。
 どうか、幸せになって。

⏰:22/10/25 18:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#724 [○○&◆.x/9qDRof2]
 いつか素敵な女性と結婚し、あなたが子供の頃夢見た理想の家庭を築いてください。家族というのは悪いもんじゃないんだってことをどうかあなたにだけは知ってほしいのです。



BLUE BIRD[完]

⏰:22/10/25 18:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#725 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>690-720

⏰:22/10/25 18:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#726 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>680-730

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#727 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>680-710

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#728 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>710-730

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#729 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>730-760

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#730 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>760-790

⏰:22/10/25 18:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#731 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>790-820

⏰:22/10/25 18:38 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#732 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>650-850

⏰:22/10/25 18:38 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#733 [○○&◆.x/9qDRof2]
 Dear my dear.
 and
 I love you.

 -------------------------

⏰:22/10/25 18:46 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#734 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>730-999

⏰:22/10/25 18:47 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#735 [○○&◆.x/9qDRof2]
腐女子「あれ?ここドコ?」


「.......なぜ、私はお花畑にいるのでしょうか」

 今日は新しいBL本が届くから、ワクワクテカテカしながら、学校から帰っていたはず。.......それがなぜ?
まさか、誘拐?いや、それはないか。高校生なんてデカイ対象をわざわざ狙わないだろう。だとしたら、帰り道に事故で?これって、死亡フラグどこらか.......死亡?わたしご臨終?


「嫌ああああぁぁぁ!どうしよう!まだBL本とか卑猥なCDとか腐的要素たっぷりのモノを処分してないよおおおぉぉお!」

⏰:22/10/25 19:23 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#736 [○○&◆.x/9qDRof2]
 あれらを見つけた両親の顔を想像しただけで。サーッと顔から血の気が消え失せた。ちなみに新しく購入した本は、眼鏡をかけた軍服青年の手に、これまた軍服を着た爽やか青年が口づけているという表紙のファンタジー系である。タイトルは『聖なる君主に祝杯を』だったはず。

⏰:22/10/25 19:23 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#737 [○○&◆.x/9qDRof2]
ファンタジーというだけあり、背景はヨーロッパのような豪華な部屋で、これから何かをやらかすといった雰囲気が見てとれた。それに期待したのが購入理由である。

「そんな説明してる場合じゃなかった!」

 とりあえず冷静になろう。花畑の他に何か見えないかと目を凝らした。だが、どうしてだか遠くの方がぼやけてしまって見えにくい。眼鏡が壊れてしまったのだろうか。

⏰:22/10/25 19:24 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#738 [○○&◆.x/9qDRof2]
慌てて眼鏡に手を掛けようとしたが、何の感触も掴めぬまま空をきった。眼鏡がない!何かの拍子で落ちたのかもしれない。眼鏡眼鏡と連呼しながら色とりどりの花を掻き分ける。だが、一向に眼鏡を見つけることは出来なかった。焦りと不安だけが積み重なってきて、潰れてしまいそうだ。


「眼鏡ってこれですか?」

⏰:22/10/25 19:24 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#739 [○○&◆.x/9qDRof2]
「あっ!それです!それなんです!ありがとうございます!もうなくしてたらどうしようかと思いました!」

 手渡された眼鏡を受け取り所定の位置にかけ直す。どうやら壊れてはいないみたいだ。あー良かった。これで一安心.......

 一安心?

 まさか人がいたなんて思いもしなかった!

「ごめんなさい、ごめんなさい!怪しい者じゃないんです!私は良い腐女子だよ!バイエルンに親戚はいないけど撃たないでー!」

⏰:22/10/25 19:24 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#740 [○○&◆.x/9qDRof2]
とっさにイタリア人の常套句を使ったが、それが面白かったのか相手は柔らかに笑った。

「いえ、俺の方こそ驚かせてしまったみたいで…すみません。撃ちもしませんし、捕まえもしませんから安心してくださいお嬢さん」

お 嬢 さ ん だ と !
なんて甘美な響きなんだ!

⏰:22/10/25 19:24 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#741 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼氏いない歴=年齢の私を一瞬でメロメロにした男性は、背が高くレモンが似合いそうなフレッシュな人だった。そういえば異国の服を着ている。コスプレ?

「あのっ!つかぬことをお聞きしますが、一体それは、何のコスプレなんですか?できればキャラクターの名前も!」

白いシャツにワイン色のネクタイ。上は深い緑色で金のボタン。ウエストあたりを黒革のベルトで締めている。ズボンも同じ色で、脛をゲートルで巻いている。見たことのない衣装だ。何かのゲームキャラだろうか。

⏰:22/10/25 19:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#742 [○○&◆.x/9qDRof2]
「コス…?この服はアルディナ国のミスリル城に仕えてる者に支給される服ですよ。階級が高い人はまた違ってきますが。あ、申し遅れましたね。俺の名前はキース・ウィルダム。キースと呼んでください、お嬢さん」


 それなんてRPG?

アルディナ国…。

⏰:22/10/25 19:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#743 [○○&◆.x/9qDRof2]
そんな地名があるゲームがあっただろうか。ニンテドーにもナコにも、ましてやSEGにだってないかもしれない。だとするとスクアニックスか…?いやもしかして漫画か…?私もまだまだ修行が足りないようだ…。日本の萌え産業は日々進化している。私が知らないことなど、きっとたくさんあるのだ。私はふっと自嘲するように笑った。


「あの、お嬢さん?お嬢さんのお名前は何て言うんですか?」
「名前?」

⏰:22/10/25 19:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#744 [○○&◆.x/9qDRof2]
萌えの前にただただ無力な私は自暴自棄になっていた。

「フッ、わたしは男性同士の恋愛を食い物にする、ただの腐女子さ」
「腐女子さんっていうんですか?変わったお名前ですね!まぁ、立ち話もなんですし、城の中へご案内いたします。どうぞこちらへ」

⏰:22/10/25 19:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#745 [○○&◆.x/9qDRof2]
腐女子というのは名前ではなく、職業みたいなものなのだか.......うん?城、だと?.......眼鏡をかけ正常な視力を取り戻した私は息を飲んだ。途切れた花畑の先には城がそびえ立っていた。あの有名なネズミの国にある城よりも大きい。中世ヨーロッパにでも迷いこんでしまったかのようだ。


「いやー、近々視察の方がいらっしゃるとは聞いていましたが、まさか女性だったなんて思いませんでした」

⏰:22/10/25 19:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#746 [○○&◆.x/9qDRof2]
あまりの事に私は言葉を失った。何がどうなっている!頭は混乱しているが、本能的に分かることが一つだけあった。


 ココ日本ジャナイヨー。私があまりの事に白目をむいているのに、キースさんは「紅茶がいいですか?それともハーブティー?」などと暢気に聞いてくる。はっと我に返り、私は思い出したように口を開いた。日本じゃないってことは、外国なのか?

⏰:22/10/25 19:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#747 [○○&◆.x/9qDRof2]
でもアルディナ国なんて聞いたことがない。そもそも学校と家の往復距離の間にアルディナ国なんてなかったし、登校するときも「ちょっと通りますよ」といってこの城の前を通ることもなかった。だとしたら!私の中で確信が二つうまれた。


 1つ目は、下校中に空間が歪み異世界に飛ばされた。

⏰:22/10/25 19:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#748 [○○&◆.x/9qDRof2]
そしてもう1つは…、夢オチ。どちらにしてもこの状況、非日常だ。誰しもが憧れる二次元的イベントではないか。ここは流されるまま流されていこう!そうしよう!

「それじゃあ、紅茶をいただこうかしら」

こうなったら楽しんだもん勝ちである。

「分かりました!紅茶ですね!」

弾んだ声でキースさんは城の中を先導して行く。私もそれに続いた。


「それにしても、壊れてなくて良かったですね!眼鏡!」

⏰:22/10/25 19:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#749 [○○&◆.x/9qDRof2]
本当に良かった。

「だって眼鏡というのはとても高価で、貴族の、それも魔法高等試験に合格しないと得られない物ですもんね」


…あれ?私の知ってる眼鏡と違う。

「俺の友人にもかけてるやつがいるんですが、そいつとなら魔法の話で盛り上がるかもしれません!今度紹介しますよ!」

魔法の話で盛り上がる。あいにく私は試験に合格してないし、魔法だって使えない。ただの腐女子である。盛り上がるならBLの話で盛り上がりたい。
男が二人.......そう。そこからが試合開始な訳である。

「あっ!、キースじゃねーか!」

ちょうど螺旋階段を登り終え、部屋が点在する廊下に出た時声が聞こえた。後ろを振り返ると男の人が立っていた。私の中で試合開始のホイッスルが鳴った。キースさんと同じ深緑色の軍隊の制服なのだが、ネクタイを緩く結び胸元がはだけ、いくらか着崩した格好だった。

⏰:22/10/25 19:27 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#750 [○○&◆.x/9qDRof2]
そういえば、衝撃的なことが多すぎて観察する余裕がなかったが、この二人.......どちらもイケメンである。キースさんは明るい茶色の、無造作だが邪魔にならない長さの髪型だ。柔らかに笑むその姿はまさに優しいお兄さん!


さっき声をかけてきた人は褐色の肌で、白銀の少し長めの髪を後ろに流している。右の目に眼帯をしていた。

⏰:22/10/25 19:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#751 [○○&◆.x/9qDRof2]
710-750

⏰:22/10/25 19:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#752 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>710-750

⏰:22/10/25 19:28 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#753 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>720-750

⏰:22/10/25 19:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#754 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>730-760

⏰:22/10/25 19:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#755 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>760-790

⏰:22/10/25 19:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#756 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>790-820

⏰:22/10/25 19:29 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#757 [○&◆oe/DCsIuaw]
↑(*゚∀゚*)↑

⏰:22/10/25 19:31 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#758 [○&◆oe/DCsIuaw]
【CARTAIN CALL】

 僕は劇場に居た。

 ステージを前に、誰もいない客席に腰をおろしている。突然、パイプオルガンのような音が響き渡り、ステージの幕があがっていく。演奏の始まりだ。僕はステージを見た途端、恐怖に襲われた。鳥肌がたつのを感じる。てっきり、ステージにはオーケストラがあらわれるのかと思っていたのだ。

⏰:22/10/25 19:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#759 [○&◆oe/DCsIuaw]
horror
◤◢◤◢⚠︎◤◢◤◢

⏰:22/10/25 19:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#760 [○&◆oe/DCsIuaw]
しかし、僕の予想は間違いだった。ステージにあらわれたのは、一人の髪の長い女の人だった。しかも首を吊っているのだ。ステージの天井から蜘蛛の糸のようにロープが垂れ下がり、女の人の首に絡み付いている。僕は女の人から目を話すことができなかった。そして、死んだと思っていた女の人は生きていた。僕と目が合った。

⏰:22/10/25 19:32 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#761 [○&◆oe/DCsIuaw]
目からは涙が、鼻からは鼻水が、口から嘔吐物が滴れ流れている。僕は恐ろしくて、身動きができずにいると、女の人はにやりと笑い、歌を歌い出した。首を吊っているせいか、ひどいしゃがれ声だ。堂々と響くパイプオルガン。女の人の調子のはずれた陽気な歌声。

⏰:22/10/25 19:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#762 [○&◆oe/DCsIuaw]
なにもかもが不気味に感じる。いや、感じるのではなく、実際に不気味だった。


 美しい村

 喜びと希望に満ち溢れる

 輝かしい村

 しかし、男があらわれた

 ひどく醜い男

 見た目も中身も腐ってる

 男は殺した

 村で一番の優しい女を

 村人は怒り狂い殺したのさ

⏰:22/10/25 19:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#763 [○&◆oe/DCsIuaw]
 醜い醜い男をね

 醜い男が行き着くところは

 ただ一つ

 地獄の果てさ



 女はそう歌った。


 女が歌い終わると、客席から拍手喝采が起こった。

⏰:22/10/25 19:33 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#764 [○&◆oe/DCsIuaw]
僕しかいなかったはずの客席には、いつのまにか人々で溢れかえっていた。僕はどうしていいかわからず、茫然と椅子に座り続ける。女の人は、再び動かなくなり、ステージの幕がゆっくり下りていった。拍手はしばらくの間やむことはなかった。


ーー僕は物凄い衝撃を受けた。慌てて目を開け、ようやくどのような状況にいたのか理解できた。ベッドから落ちたのだ。

「……いてて」

⏰:22/10/25 19:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#765 [○&◆oe/DCsIuaw]
僕はのんびりと立ち上がる。ってことは、さっきの首吊り女は夢だったのか。なんとなく納得がいかない。今まで、こんなはっきりと夢を覚えていたことはなかった。歌の内容だって、すべて覚えているっていうのに。


「ハンス!ハンス、起きているの?」

 母さんが叫んでいるのが聞こえた。

「……起きてるよ!」

僕はそう叫ぶと、居間に向かった。

……やっぱり納得いかないよ。
僕は夢について考えながらも、朝食を食べ、学校へ行く準備をした。

「いってきまーす」

⏰:22/10/25 19:34 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#766 [○&◆oe/DCsIuaw]
呟くようにそう言うと、学校への道を歩きだした。路地裏のような狭いところを歩いているときだった。

「ジェラルド……」

僕は思わず声に出して彼の名を呼んでしまった。最悪だ。ジェラルドは一瞬こちらを見たが、すぐにそっぽを向いてしまった。彼は僕と同い年の14歳で、同じ学校に通っている。しかし、こんなに早い時間に彼を見たのは初めてだ。たいていはお昼を過ぎてから姿をあらわすのに。

⏰:22/10/25 19:35 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#767 [○&◆oe/DCsIuaw]
ジェラルドは天使のような少年だ。落ち着いた感じの金色の髪に、深い青の瞳。非常に整った顔をしていて、気品が漂っている。ただ、ジェラルドには一つ問題がある。大きな問題だ。彼はひどい乱暴者なのだ。僕はジェラルドと面識はなかったが、彼の噂はなんどとなく聞いた。

その中にいい噂は一つもなかった。

誰を病院送りにしたとか、二度と人に見せられない顔にされた子がいるとか、万引きをしたとか……。

⏰:22/10/25 19:35 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#768 [○&◆oe/DCsIuaw]
噂のほとんどは真実だ。そんなやつが目の前にいる。しかもジェラルドは、狭い路地に座り込んでいるため、道の半分が塞がれてしまっている。僕はその横を通り抜けなければならない。困った……。もしジェラルドに絡まれたら?うっかり転んでしまって、彼を踏ん付けてしまったら?僕は悩みながらもジェラルドに近づいていった。相変わらず、ジェラルドはボーッとしているようで、僕になんの反応もしめさない。.......これなら大丈夫かも。

⏰:22/10/25 19:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#769 [○&◆oe/DCsIuaw]
足音をたてずに、慎重にジェラルドの横を進もうとした。しかし、こんなに注意していたにもかかわらず、僕の努力は水の泡となった。空想に耽っている様子だったジェラルドが、いきなり足を引っ掛けてきたのだ。

「うわっ!」

僕は倒れこみ、地面に顎を打ち付けた。ジェラルドが倒れた僕の背中を思いっきり踏んだ。思わずむせてしまう。横目でジェラルドを見た。彼は意地悪くほくそ笑んでいる。天使なんてとんでもない。あの笑顔は悪魔にしか見えない。

⏰:22/10/25 19:36 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#770 [○&◆oe/DCsIuaw]
「よぉ、うすのろま」

「ぼ、僕はハンスだ……」

僕はうめきながらそう言った。ジェラルドはおもしろくなさそうに、フンと鼻をならした。僕はすかさず立ち上がる。ジェラルドは僕と背丈はあまりかわらない。なのに、力の差は歴然だ。

「俺は機嫌が悪い……」

ジェラルドが続きを言う前に、僕は全速力で走り出した。逃げなきゃ……。それしか頭になかった。僕は逃げ足には自信があったため、ジェラルドからも簡単に逃げられると思っていた。しかし、それは間違いだった。

⏰:22/10/25 19:37 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#771 [○&◆oe/DCsIuaw]
ジェラルドは僕を追って走ってくる追い付かれることはないものの、引き離すこともできない。ジェラルドが何か叫んでいたが、聞いている余裕はない。僕はパニックになっていて、どこに行くかも考えず、やみくもに走り続けた。気付いた時には、僕は森のなかを走っていた。僕が住んでいる町は、まわりを森に囲まれた小さなもので、少しあるけば、森へと出てしまうのだった。僕のあとから規則正しい足音が聞こえる。ジェラルドは今だに追い掛けてきているのだ。僕の足はそろそろ限界を迎えようとしていた。

⏰:22/10/25 19:38 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#772 [○&◆oe/DCsIuaw]
だが、走り続けなければジェラルドに捕まり、とんでもないことになる。絶望的だ……。僕は、いつ走るのをやめるべきかを考え始めたときだった。目の前に小さな家が見えたのは。

「あれは……」

息も絶え絶えに僕はつぶやいた。あれは……魔女の家だ。実際に魔女が住んでいるかは知らなかった。町の間でそういう噂になっているだけだった。ジェラルドと同様に悪い噂ばかりだったが、もしかしたら全部嘘かもしれない。

⏰:22/10/25 19:38 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#773 [○&◆oe/DCsIuaw]
実は誰も住んでなかったり、気の優しいおばあさんが住んでいるかも。僕は決めた。あの家に逃げ込もう。一か八かの賭けだ。僕は最後の力を振り絞り、家まで走りついた。ドンドンと必死で家のドアを叩く。ドアは僕の背丈ほどしかない。早くしないと……。ジェラルドに追い付かれてしまう!僕は無駄だと思いながらもドアの取っ手を掴み、まわした。

⏰:22/10/25 19:39 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#774 [○&◆oe/DCsIuaw]
ギィー……

なんとドアは鈍い音をたてながらゆっくりと開いた。僕は戸惑いながらも家に飛び込み、ドアを閉めて鍵をかけた。ドアを閉めるとき、ジェラルドが悔しそうな顔をしているのが一瞬だけ見えた。助かった……。そう思ったのも束の間だった。


「おやおや。人の家に勝手に入ってくるなんて、なんて子なんでしょうねぇ……」

僕は慌てて声のする方を向く。そこには小さなおばあさんがいた。すでに200年以上は生きてるんじゃないかというほど、腰はまがり、体のあらゆるところにしわが刻み込まれている。

⏰:22/10/25 19:40 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#775 [○&◆oe/DCsIuaw]
真っ黒なワンピースを着ていて、とんがり帽子をかぶれば魔女にしか見えないだろう。おばあさんは、不吉な笑みを浮かべていた。小さな黄色い歯がこれでもかというくらい、びっちりとはえている。僕は思わず、ぞっとしてしまった。

「あ、えっと、勝手に入ってしまってごめんなさい。人に追われてて.......それに、ドアを叩いても誰も出てこなかったから、てっきり空き家なんだと思ったんです」

僕はもごもごとそう言った。魔女のようなおばあさんは、怪しげに大きな目で僕をじろじろと眺める。僕は目から変な光線がでないかとビクビクした。

「……まぁ、いいだろう」

おばあさんは、独り言のようにそう呟いた。何がいいのか僕にはさっぱりわからない。怒っていないのだろうか?
おばあさんの表情から感情は読み取れなかった。

⏰:22/10/25 19:41 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#776 [○&◆oe/DCsIuaw]
おばあさんは窓の外を見つめた。この家には小さな窓が一つだけしかないらしく、昼間だというのに部屋のなかは薄暗い。僕はさらに不安になってしまった。

「ところで.......お前を追ってきたというやつは?」

おばあさんの口調は今までとは違い、楽しんでいるようだった。

「えーと、ジェラルドっていう乱暴な子です。でも、音もしないし、もうあきらめて帰ったんじゃないかと……」

僕が言いおわらないうちに、おばあさんはつかつかとドアの方に歩いていき、凄い速さでドアの鍵を抜き、ドアを開けた。すると、帰っていたと思ったジェラルドが、部屋のなかに転がり込んだ。

⏰:22/10/25 19:41 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#777 [○&◆oe/DCsIuaw]
「ジェラルド!」

僕は恐怖の叫び声をあげた。ジェラルドは予想以上に早く僕を痛め付けることができそうなので、喜んでいるようだった。

「ハッ!間抜けなばあさんがドアを開けてくれたから助かったぜ!俺はお前が出てくるまで待ってるつもりだった」

なんていうやつだろう。僕はやられる前から失神しそうだった。せっかく助かったと思ったのに。ジェラルドはおばあさんを思いっきり突き飛ばし、僕に飛び掛かろうとした。もうだめだ……!

「おやめっ!」

⏰:22/10/25 19:42 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#778 [○&◆oe/DCsIuaw]
狭い部屋中におばあさんの声が響き渡った。僕もジェラルドも呆気にとられ、おばあさんを見つめた。おばあさんは腰に手をあて、僕らを睨み付けている。

気のせいか、さっきりより腰が真っすぐになっている。

⏰:22/10/25 19:42 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#779 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>750-780

⏰:22/10/25 19:42 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#780 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>780-810

⏰:22/10/25 19:43 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#781 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>810-840

⏰:22/10/25 19:43 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#782 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>840-870

⏰:22/10/25 19:43 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#783 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>870-900

⏰:22/10/25 19:43 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#784 [○&◆oe/DCsIuaw]
 雨が降っていた。
 もうすぐ秋の気配を感じながら帰宅したわたしは、まるで捨て犬みたいに縮こまって、悲しそうにうつ向いてる彼と出会ったのです。


しばにっき

⏰:22/10/25 20:06 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#785 [○&◆oe/DCsIuaw]
「お母さああん!人拾ったあ!」
「え.......ちょ、あんた、そんな犬拾ったみたいなテンションで!」

 優雅に紅茶をすすっていたお母さんは、わたしの叫びにびっくりした。そんなわたしはずぶ濡れの彼を家にいれて、タオルを貸してやった。

「ハイ。拭いて。風邪ひいちゃうから」

⏰:22/10/25 20:07 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#786 [○&◆oe/DCsIuaw]
わたしの言葉なんか聞いてないのか、綺麗な茶色い髪から滴る雫もそのままに、彼はぼんやりしていた。お母さんが風呂を沸かしてあげると言って、風呂場へ向かった後、あたしは彼を拭いてあげる。そこで、ハッとする。伸びている髪の毛の隙間から覗いた瞳は、グレーだった。外人さん?もしかして、日本語通じないとかかな。

⏰:22/10/25 20:07 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#787 [○&◆oe/DCsIuaw]
「わ、ワットユアネーム?」

カタコトな英語で話かければ少し反応したのか、こちらを見た。

「分かるから、日本語」

ぽつりとだけど、確かにそう言った。

「良かった!あ、あたしは神野絵子(かんの えこ)。この家の長女。あなたは?」

さっきまで私に向けていた魅力的な瞳を僅かにそらして、またポツリと呟いた。

⏰:22/10/25 20:07 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#788 [○&◆oe/DCsIuaw]
「勝手に.......呼べばいい」

何でだろう。でも何故か分かる事は、彼はとても傷ついてるように見えると言う事。何故、そんな悲しい目をしているんだろう。

「どうして……うちの前にいたの?」
「.......疲れた。どこにも行く場所なくて、さまよって、休んでただけ」

⏰:22/10/25 20:07 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#789 [○&◆oe/DCsIuaw]
行く場所がない?つまり家出って事なのかな。そう思いながら、今日初めてあった人をあれこれ詮索するのはよくないと思い、私は何も聞かなかった。

「じゃあ……とりあえず貴方は柴(しば)ね。犬みたいにうちの前にいたから!」

特に反応する訳でなく、柴は黙ったまま私に拭かれた。



「行くとこないっていうなら、まぁいてもいいよ」

⏰:22/10/25 20:08 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#790 [○&◆oe/DCsIuaw]
お母さんは寛大すぎる程寛大で、お母さんだけど男気溢れる人だ。柴がお風呂に入ってる間、さっき彼から聞いた事をお母さんに言ったところ、さっきのような返事が帰ってきた。

「今更家族が1人増えようが5人増えようがどうでもいいよ」

⏰:22/10/25 20:08 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#791 [○&◆oe/DCsIuaw]
「5人て……。そうなったら大家族だよお母さん」
「あぁ!おねーちゃん!」

後ろから声がするので振り向いてみれば、三女で4歳のいちごと、長男で10歳のそらがそこにいた。苺はトテトテと走ってきて私の足に抱きついた。

「おかえりなさぁい!あのね、いちご今日おうたおぼえたんだよー!」
「そうなんだぁ。またお姉ちゃんに聞かせてね。」

⏰:22/10/25 20:09 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#792 [○&◆oe/DCsIuaw]
苺は「うん!」と元気よく言って、お母さんの膝によじ上った。

「えこ姉!俺今日野球でホームラン打ったよ!」
「空はさすがだねー!この調子で頑張りなよ!」

空はニカッと笑う。それにつられて私も笑うと、玄関の方から叫び声が聞こえた。

「うわぁぁ!!」
「あ、さくらおねえちゃんだ!」

⏰:22/10/25 20:09 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#793 [○&◆oe/DCsIuaw]
さくらとは、次女で14歳。おそらく部活から帰って来たのだろう。それはいい。多分.......柴がいたな。玄関へつけば、風呂上がりで、さっきと変わらず頭びちょびちょの柴と、見知らぬ柴に驚いた桜がいた。

「え!?ちょ、お姉ちゃんこの人誰?」
「柴。ちょっと柴。ちゃんと頭拭かなきゃダメでしょうが」

⏰:22/10/25 20:09 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#794 [○&◆oe/DCsIuaw]
すると、柴は頭にタオルを乗っけて、私に頭を差し出してきた。拭けと言ってるらしい。桜の叫びにかけつけた苺と空も、驚いていた。

「わ!誰?」
「いちごのおにいちゃん?」

.......いっぺんに説明しなくちゃならないようだった。


 小さな苺もいると言う事で、分かりやすく丁寧に話した所、最初こそ驚いたものの、皆次第に納得していった。

⏰:22/10/25 20:09 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#795 [○&◆oe/DCsIuaw]
「分かったよお姉ちゃん」
「俺も」
「いちごもー!」

皆が了解したと言う事で、私は柴が使う部屋へと案内した。丁度1つ余っているので、そこにする事にする。階段を上がって、空いてる部屋へと案内。柴は黙々とついてくる。ドアを開けると、何もない空間が広がっている。

⏰:22/10/25 20:10 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#796 [○&◆oe/DCsIuaw]
「じゃあここね。布団はまた持ってくるから」
「.......てない」

「え?」

柴は入口に止まったまま、窓を見つめて何か呟いた。柴よりも先に部屋に入ってた私は、柴に寄っていってもう1回何を言ったか尋ねた。

「何?」
「似てない.......誰ひとりとして、兄弟も、親子も」

⏰:22/10/25 20:10 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#797 [○&◆oe/DCsIuaw]
「.......そっか」

私はにこっとして、質問に答える。

「皆、施設からこの家に来たから。似てなくて当然なんだよ」

私は皆、桜も空も苺も……皆施設から今のお母さんの所へ引き取られた。お母さんは、子供が欲しいけど出来なくて、ずっと悲しんでいた。そんな時、私達を見つけてくれた。

⏰:22/10/25 20:10 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#798 [○&◆oe/DCsIuaw]
血の繋がりなんてないけど、愛情一杯に育ててくれた。私は5歳の時、両親から捨てられた。それでも今のお母さんが大事に育ててくれたおかげで、今は何も寂しくもないし、怖くもない。

「本当の兄弟じゃなくても、皆大切よ」

柴は静かに私を見つめ返す。灰色の瞳でじっと見つめられるば、少しドキドキした。

⏰:22/10/25 20:10 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#799 [○&◆oe/DCsIuaw]
「いいな」
「え?」

.......と、突然、柴が被さってきた。急なので、バランスを崩した私の体は、柴と共に倒れる。ドスンと派手な音を立てると、私はムクリと起き上がった。

「あいったたたた。ちょっと柴!何すん」
「スー……スー……」

え、寝ちゃった?

⏰:22/10/25 20:10 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#800 [○&◆oe/DCsIuaw]
確認するまでもなく、ピクリとも動かず柴は寝息を立てる。何か……謎めいた人だなぁ。歳は20ちょっとくらい。長身、どちらかといえば美形。そして灰色の瞳。一体どこの人なんだろうか。結果として膝枕をしなくちゃならない羽目になった私は、柴の寝顔を見ながらぼんやりと色々考えた。

⏰:22/10/25 20:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#801 [○&◆oe/DCsIuaw]
眠りがもとから浅いのか、1時間経つと柴は目を覚ました。覚えてないのか、半目で辺りを見渡す。そんな仕草に、あたしは笑ってしまった。

「本当犬みたい!柴って名前あってたみたいね」

柴は少し首を傾げてから、座って頭をポリポリかいた。私のビジョンからは、子犬が後ろ足で頭をかいてるように見える。

⏰:22/10/25 20:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#802 [○&◆oe/DCsIuaw]
「お腹空いてない?喉は渇いてない?」

柴は頭をかくのを止めて、またあたしをじっと見つめる。見つめながら、眉間のしわを深くした。何か、私悪い事言ったっけ?

「馬鹿らしい」

は?

「赤の他人家にあげるなんてどういう神経してんだか。第一そんなに親切にして何なの?媚売ってんの?」

⏰:22/10/25 20:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#803 [○&◆oe/DCsIuaw]
最後の言葉を言い終わると同時に、私は柴の両方の頬をつねってやった。そして間近で怒った顔をする。

「二度と、あたしの家族の悪口言わないで」

媚なんて売った事はない。困っているなら助けてあげたい。そんな、ただ優しい心をそんな風に言うなんて許さない。

⏰:22/10/25 20:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#804 [○&◆oe/DCsIuaw]
「少なくとも、私はこの家族を誇りに思ってる。本当の家族であろうがなかろうが関係ない。本当の皆の心を見ずに、悪く言うのは止めて」

そうして、私は頬から手を離す。依然、まだ顔も気持ちも怒ったままだ。柴はつねられた頬をさすりながら、ぼんやりと足元を見ていた。少し、言いすぎた?

⏰:22/10/25 20:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#805 [○&◆oe/DCsIuaw]
でも柴が悪いのよ。私の家族を、あんな風に.......。

「うらやましい.......」

柴がまたポツリと言う。私は眉を寄せて柴を見る。柴はまたさっきのように悲しい目をしていた。灰色の瞳に憂いの色が混ざる。

「悪く言ってごめん」

⏰:22/10/25 20:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#806 [○&◆oe/DCsIuaw]
あれ、意外と素直。

「でもお人好し」

でもやっぱり毒舌。

「いいの。誰かにとってはお人好しでも、誰かにとっては救いになってるかもしれないでしょ?」

柴は珍しい物のように私をじっと見つめる。そんなにおかしい事言ったかな。すると、カタと音がしたので振り向くと、そこに苺が覗いていた。苺は恐る恐る部屋に入って来て、柴の近くで止まった。

⏰:22/10/25 20:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#807 [○&◆oe/DCsIuaw]
最初は上から下まで何度も観察して、その内ににこぉっ笑った。

「しばおにいちゃん。いちごおにいちゃんとあそびたいな」

柴は軽く目を見張ると、少し表情を柔らかくしたのが分かった。目元も笑みを含んでいる。苺も柴を気に入ったのか、生意気に膝の上に乗ってる。

「兄弟いたの?」
「弟がね、」

⏰:22/10/25 20:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#808 [○&◆oe/DCsIuaw]
柴は苺の頭を撫でながら言う。苺のおかげで柴の警戒していた空気が緩和されてる。だから私もなんなく喋る事が出来た。

「何歳くらい?」
「この子と同じくらい。」
「“このこ”じゃないよ。いちごだよ!」

苺の主張に、思わず笑ってしまう。

「苺ー!ちょっとおいでー!」

⏰:22/10/25 20:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#809 [○&◆oe/DCsIuaw]
桜の呼ぶ声に、元気よく「はーい!」と答えて苺は言ってしまった。まるで空気を和らげに来ただけみたいな苺に、私は胸が温かくなった。

「あの子はいつからこの家の子?」

柴から喋り出したので、私は少し驚いた。

「苺は赤ちゃんの時から。でも本当の家族じゃない事はもう知ってるよ」

⏰:22/10/25 20:13 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#810 [○&◆oe/DCsIuaw]
柴は苺が行ってしまったドアを見つめる。あんな小さな子に、そんな酷な事をとでも思ってるんだろうか。

「俺もこの家に拾われたかった、」
「柴?」

さっきもそうだった。「いいな」とか「羨ましい」とか、どうして他の家庭を羨んでばかりいるんだろう。そしてそういう時、いつも寂しくて悲しい顔をするのだろう。

⏰:22/10/25 20:13 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#811 [○&◆oe/DCsIuaw]
「いいんだよ?ここにいても」

柴の手に触れると、柴は少しピクリと震える。柴の手は、さっきお風呂に入った筈なのにもう冷たくなっていた。

「いたい.......ずっと.......」

柴は、膝を抱えてうつ向く。一体この人には何があったんだろう。心に、どれだけの傷をおっているんだろう。言葉の端々に、彼の心の叫びが聞こえる気がした。

「オイえこ姉!イチャついてる場合じゃねぇぞ!」

⏰:22/10/25 20:13 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#812 [○&◆oe/DCsIuaw]
今度は空がやって来た。何でみんないっぺんに来ないかな。

「馬鹿。そんな訳ないでしょ」
「早くしないと母さんが焼きそばの上に目玉焼き乗っけてやんないって言ってたぞー」

私は空を軽くあしらって先へ行かせた。先に立ち上がって柴の腕を引っ張って立たせてやると、柴が何かボソリと言った。別に何言っても構わないからもう少しハキハキ喋って欲しいと思う。

⏰:22/10/25 20:13 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#813 [○&◆oe/DCsIuaw]
「何?」
「焼きそば?」
「ウン、そうだけど」
「何それ.......」

ハイ……?ま、まさか焼きそば知らない?うっそだぁぁ!と思いながらリビングへ連れて行き、即席で作った柴の席に座らせた。いい香りを漂わせながら目の前に置かれた焼きそばを、柴はしげしげと眺める。

⏰:22/10/25 20:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#814 [○&◆oe/DCsIuaw]
「いっただっきまーす!」

皆で行儀良く挨拶してから、ご飯を食べ始める.......と思われたが、皆初焼きそば(らしい)柴がそれを食べるかをじっと見つめていた。一方、マイペースを貫いてる柴は、焼きそばをよく観察した後、お箸を取って一口口に入れた。一瞬止まってから、柴はまた一口、もう一口と、次々に食べだした。どうやら美味しかったらしい。それにホッとした私達も同じように食べ始めた。

⏰:22/10/25 20:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#815 [○&◆oe/DCsIuaw]
「そーそー。アンタ細っちぃんだから、しっかり食べなよ」

お母さんはにひっと笑って、柴の頭をぐりぐり撫でまわした。別に気にした風もなく、柴は黙々と食べてくれたので、私も落ち着いて食べる事が出来た。柴は笑いに包まれる中、ぼんやりと昨日までの自分を振り返っていた。

⏰:22/10/25 20:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#816 [○&◆oe/DCsIuaw]
安々と手に入った家族の温もり。ただその温もりはいつか幻や夢のようにあっという間に消えてはしないだろうか。


 華世(かよ)の時みたいに。


[出ていけ!お前などもういらない!]

 激怒した父親の叫び。


 離れたくなんて、なかったのに。

 ずっと、一緒にいたかった。

⏰:22/10/25 20:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#817 [○&◆oe/DCsIuaw]
お箸が床に落ちる音がした。その方を向けば、柴が箸を落とした状態のまま固まっていた。そして彼からは滴が流れ落ちていた。

「柴……!?」
「しばちゃん?」

苺が不思議そうに柴に問いかける。このままだと皆に気をつかわせてしまう。私は静かに柴を引っ張って行き、廊下に出る。柴は灰色の瞳を潤ませながら細め、その目から涙を流し続ける。それからは望みを失っているかのようにも感じとれた。

⏰:22/10/25 20:15 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#818 [○&◆oe/DCsIuaw]
「柴……?」

静かに私がつけた彼の名を呼ぶ。彼は濡れた目で軽く応じた。

「俺は.......家を追い出されたんだ」

私は目を見開く。握ったままの彼の手を、少し強く握った。

「俺は物心ついた頃から、愛情とか、そんなもの受けた事は無かった……」

冷たい空洞の中にいるように、空っぽだった。そう柴は呟いた。彼は、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。自分の素性をあまり話しはしなかったけれど、とにかく彼は“1人ぼっち”だったのだ。そんな中、両親は離婚。

⏰:22/10/25 20:15 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#819 [○&◆oe/DCsIuaw]
しかし、彼は悲しいなんて感情は何も感じなかったと言う。だって自分は、そんな感情を感じるほど何も与えてはもらわなかったから。

⏰:22/10/25 20:15 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#820 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>780-810

⏰:22/10/25 20:15 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#821 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>810-840

⏰:22/10/25 20:16 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#822 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>840-870

⏰:22/10/25 20:16 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#823 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>870-900

⏰:22/10/25 20:16 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#824 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>700-850

⏰:22/10/25 20:17 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#825 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>720-820

⏰:22/10/25 20:17 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#826 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>820-900

⏰:22/10/25 20:18 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#827 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>900-999

⏰:22/10/25 20:18 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#828 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>830-860

⏰:22/10/25 20:18 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#829 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>1-30

⏰:22/10/25 21:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#830 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>30-60

⏰:22/10/25 21:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#831 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>60-90

⏰:22/10/25 21:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#832 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>90-120

⏰:22/10/25 21:11 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#833 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>120-150
>>150-180

⏰:22/10/25 21:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#834 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>180-210
>>210-240

⏰:22/10/25 21:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#835 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>240-270
>>270-300

⏰:22/10/25 21:12 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#836 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>300-330
>>330-360

⏰:22/10/25 21:13 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#837 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>360-390
>>390-420

⏰:22/10/25 21:13 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#838 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>420-450
>>450-480

⏰:22/10/25 21:13 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#839 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>480-510

⏰:22/10/25 21:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#840 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>450-490

⏰:22/10/25 21:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#841 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>840-870

⏰:22/10/25 21:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#842 [○&◆oe/DCsIuaw]
>>870-900

⏰:22/10/25 21:14 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#843 [○&◆oe/DCsIuaw]
 Dear my dear.
 and
 I love you.

 -------------------------

 夜景の綺麗なホテル。最上階とまでは行かないが、そこそこ高い位置の部屋のベランダに、男と女が一人ずつ。

「夜景、綺麗」
「そう言ってもらえたら、嬉しいな」

⏰:22/10/25 21:24 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#844 [○&◆oe/DCsIuaw]
「色々誤解しててごめんなさい、最高の誕生日プレゼント有難う」
「ふふ、誤解してたのはお互い様だよ。それより今日は、三日月だね」

「あ、本当だ。クス、真ん中で割れたように、綺麗な三日月」


「.......見て。ほら、これ」

そう言って男は、ポケットから指輪を一つ取り出した。指輪には三日月形の宝石。

⏰:22/10/25 21:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#845 [○&◆oe/DCsIuaw]
「取ってきちゃった、月のカケラ」
「あら、ロマンチック」

男が自分の指につける。


「どう、似合う?」
「.......似合わない、」
「え、なんで?」


「似合う、似合わないの前に、ありえない。だってみんなの月なのに、貴方がそれを付けてしまったら、ずっとずっと月は三日月のままじゃない。満月を楽しみにしてる人はたくさんいるのに」

⏰:22/10/25 21:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#846 [○&◆oe/DCsIuaw]
「なに拗ねてんの?」
「拗ねてなんかないわ」

「あれ、もしかしてこの指輪、自分が貰えると思った?」
「思ってない!!」
「ふふっ、でも、俺自己中だから。本当はあの月全部、俺のもの」

 風が吹く。男がポケットから小さな箱を取り出した。吹きやまない風は雲を流し、月が完全に闇に消える。


「.......残りの半分も、取ってきちゃった」

 箱の中には、男のそれより少し小さめな指輪。もちろん、三日月形の宝石付きの。風がまた雲を流し、月明かりに照らされた女の顔が火照る。

⏰:22/10/25 21:25 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#847 [○&◆oe/DCsIuaw]
『誕生日おめでとう、いつか本物の指輪あげるから。それまでずっと傍にいろよ、ハニー?』

- end -

⏰:22/10/25 21:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#848 [○&◆oe/DCsIuaw]
『ねぇ、わたしを殺してみて』


 その日。
 ぼくは、彼女を殺した。

------------------------

『すき』

 彼女のくちびるから零れ落ちる言葉は、いつだってぼくだけの鼓膜を揺らす。

『あなたが、すき。例えあなたの気持ちがわたしになくても』

『目も、耳も、鼻も指も、ひとつ残らず愛おしい、』

⏰:22/10/25 21:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#849 [○&◆oe/DCsIuaw]
『だけど、一番愛おしいのは、その、くちびる。わたしのそれと触れたとき、わたしはきっと死んでしまうでしょうね』

 何故だい?薄く微笑み、彼女に問うた。

『幸福死。信じられないけれど、本当にあるみたいよ。夢のような、現実では有り得ないような、けれど、こころのどこかでそれを待ち望んでいる.......』

 彼女の瞳が、熱を持ち始める。

⏰:22/10/25 21:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#850 [○&◆oe/DCsIuaw]
『そして。それが現実に起こったとき、わたしは死ぬの。そう例えば、あなたのくちびるの熱を、わたしのここで感じることができる、とかね』

 そう言って彼女は微笑み、人差し指で自分のくちびるに触れた。

『ねぇ、わたしを殺してみて?』


 五秒後、ぼくはきみを殺した。

⏰:22/10/25 21:26 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


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